(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065561
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】気動車の動力伝達用噛み合いクラッチ
(51)【国際特許分類】
F16D 25/06 20060101AFI20240508BHJP
F16D 11/14 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
F16D25/06
F16D11/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174487
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】303025663
【氏名又は名称】株式会社日立ニコトランスミッション
(74)【代理人】
【識別番号】100091306
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 友一
(74)【代理人】
【識別番号】100174609
【弁理士】
【氏名又は名称】関 博
(72)【発明者】
【氏名】荒井 拓也
(72)【発明者】
【氏名】柄沢 亮
【テーマコード(参考)】
3J056
3J057
【Fターム(参考)】
3J056AA03
3J056AA62
3J056BA04
3J056BB21
3J056BD04
3J056BD15
3J056BD34
3J056CA02
3J056CA12
3J056GA02
3J057BB01
3J057CA03
3J057DA09
3J057DA20
3J057DC05
3J057EE09
3J057GA11
3J057GE05
3J057HH01
3J057JJ01
(57)【要約】
【課題】装置全体として小型化を図る事のできる気動車の動力伝達用噛み合いクラッチを提供する。
【解決手段】気動車における動力伝達軸12上に設けられる噛み合いクラッチ10であって、動力伝達軸12に沿って移動可能な可動爪14と、可動爪14の嵌合によって動力の伝達を図る固定爪16と、動力伝達軸12の外周に配置された油圧室18と、可動爪14に付帯され、油圧室18への作動油の供給により可動爪14を嵌合方向へ移動させるピストン20と、油圧室18への作動油の供給停止時に可動爪14を脱位置へ押し戻す付勢手段22と、を備え、可動爪14の先端と固定爪16の先端のうちの少なくとも一方には、回転方向に沿った傾斜面が設けられていることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気動車における動力伝達軸上に設けられる噛み合いクラッチであって、
前記動力伝達軸に沿って移動可能な可動爪と、
前記可動爪の嵌合によって動力の伝達を図る固定爪と、
前記動力伝達軸の外周に配置された油圧室と、
前記可動爪に付帯され、前記油圧室への作動油の供給により前記可動爪を嵌合方向へ移動させるピストンと、
前記油圧室への作動油の供給停止時に前記可動爪を脱位置へ押し戻す付勢手段と、を備え、
前記可動爪の先端と前記固定爪の先端のうちの少なくとも一方には、回転方向に沿った傾斜面が設けられていることを特徴とする気動車の動力伝達用噛み合いクラッチ。
【請求項2】
前記傾斜面は、爪を側面視した際に山形となるように設けられていることを特徴とする請求項1に記載の気動車の動力伝達用噛み合いクラッチ。
【請求項3】
前記可動爪の嵌脱位置を非接で検出する検出手段を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の気動車の動力伝達用噛み合いクラッチ。
【請求項4】
前記検出手段は、非可動部に設けられた近接センサと、前記可動爪に設けられたフランジとによって構成されていることを特徴とする請求項3に記載の気動車の動力伝達用噛み合いクラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噛み合いクラッチに係り、特に気動車における動力伝達軸上に設けられる噛み合いクラッチを小型・軽量化するのに好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
気動車の駆動システムに用いられる変速機には特許文献1に開示されているように、湿式多板クラッチと、噛み合いクラッチとが併用されていることが多い。ここで、湿式多板クラッチは、クラッチ板間の滑りにより回転数の違いを吸収しながら動力の伝達を実行することができる。このため、速度域の切り替えを行うための変速ギヤの切り替えに適用されることが多い。一方、噛み合いクラッチは、回転状態からの嵌脱が困難である反面、脱時においては摩擦による動力のロスが生じないため、停止状態からの前進と後進の切り替え用に用いられることが多い。
【0003】
ここで、噛み合いクラッチの嵌合は、対向する爪同士の凹凸を嵌合させる必要がある。しかし、嵌合時のタイミングによってはクラッチの爪(凸部)の先端がぶつかり合う場合も生じ得る。こうした場合には、衝突時の衝撃を和らげると共に、爪同士を滑らせることで凹凸嵌合を成立させる必要がある。このため、従来の変速機では
図6、
図7に示すように、圧縮性流体である空気を動力としたシフタジクと呼ばれるアクチュエータ1と、このアクチュエータ1の動作を伝達するリンク2を介して可動爪3を作動させて固定爪4との嵌脱を制御する構成としていた。よって、従来の変速機では、クラッチを構成する可動爪3と固定爪4の他に専用のアクチュエータ1が必要とされると共に、油圧配管の他にアクチュエータ1を作動させるためのエア配管も必要となり、装置全体として小型化を図る事が難しいという実状があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明では、変速機における作動流体の系統を1つとし、かつクラッチを作動させるための専用アクチュエータを廃することで、装置全体として小型化を図る事のできる気動車の動力伝達用噛み合いクラッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明に係る気動車の動力伝達用噛み合いクラッチは、気動車における動力伝達軸上に設けられる噛み合いクラッチであって、前記動力伝達軸に沿って移動可能な可動爪と、前記可動爪の嵌合によって動力の伝達を図る固定爪と、前記動力伝達軸の外周に配置された油圧室と、前記可動爪に付帯され、前記油圧室への作動油の供給により前記可動爪を嵌合方向へ移動させるピストンと、前記油圧室への作動油の供給停止時に前記可動爪を脱位置へ押し戻す付勢手段と、を備え、前記可動爪の先端と前記固定爪の先端のうちの少なくとも一方には、回転方向に沿った傾斜面が設けられていることを特徴とする。
【0007】
また、上記のような特徴を有する気動車の動力伝達用噛み合いクラッチにおける前記傾斜面は、爪を側面視した際に山形となるように設けられていると良い。このような特徴を有する事により、爪の側面に十分な高さを確保する事ができ、極端な応力集中を避ける事ができるようになる。
【0008】
また、上記のような特徴を有する気動車の動力伝達用噛み合いクラッチでは、前記可動爪の嵌脱位置を非接で検出する検出手段を備えるようにすると良い。
【0009】
さらに、上記のような特徴を有する気動車の動力伝達用噛み合いクラッチにおける前記検出手段は、非可動部に設けられた近接センサと、前記可動爪に設けられたフランジとによって構成することができる。このような特徴を有する事によれば、簡易な構成で確実に可動爪の位置を検出する事ができるようになる。
【発明の効果】
【0010】
上記のような特徴を有する気動車の動力伝達用噛み合いクラッチによれば、作動流体の系統を1つとし、かつクラッチを作動させるための専用アクチュエータを廃することで、装置全体として小型化を図る事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る気動車の動力伝達用噛み合いクラッチの構成(脱状態)を示す断面図である。
【
図2】実施形態に係る気動車の動力伝達用噛み合いクラッチの構成(嵌状態)を示す断面図である。
【
図3】実施形態に係る気動車の動力伝達用噛み合いクラッチに適用する爪の形状と働きを示す図である。
【
図4】実施形態に係る気動車の動力伝達用噛み合いクラッチに適用される検出手段の構成(非検出状態)を示す断面図である。
【
図5】実施形態に係る気動車の動力伝達用噛み合いクラッチに適用される検出手段の構成(検出状態)を示す断面図である。
【
図6】従来の気動車の動力伝達用噛み合いクラッチの構成(脱状態)を示す断面図である。
【
図7】従来の気動車の動力伝達用噛み合いクラッチの構成(嵌状態)を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の気動車の動力伝達用噛み合いクラッチに係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。まず、
図1から
図5を参照して、本実施形態に係る気動車の動力伝達用噛み合いクラッチの構成について説明する。図面において、
図1は、実施形態に係る気動車の動力伝達用噛み合いクラッチの構成(脱状態)を示す断面図であり、
図2は、同嵌状態を示す断面図である。また、
図3は、実施形態に係る気動車の動力伝達用噛み合いクラッチに適用する爪の形状と働きを示す図である。さらに、
図4は、実施形態に係る気動車の動力伝達用噛み合いクラッチに適用される検出手段の構成(非検出状態)を示す断面図であり、
図5は、同検出状態を示す断面図である。なお、以下に示す実施の形態は、本発明を実施するにあたっての好適な形態の一部である。よって、その効果を奏する限りにおいて構成の一部に変更を加えたとしても、本発明の一部とみなすことができる。
【0013】
[構成]
本実施形態に係る気動車の動力伝達用噛み合いクラッチ(以下、単にクラッチ10と称す)は、動力伝達軸12に付帯される要素であり、可動爪14と固定爪16、油圧室18、ピストン20、及び付勢手段22を基本として構成されている。
【0014】
可動爪14は、動力伝達軸12からの動力を詳細を後述する固定爪16へ伝達するための役割を担う要素である。本実施形態に係る可動爪14は、動力伝達軸12の外周に設けられたスプライン12aに沿って、軸方向に摺動することを可能な構成とされている。スプライン12aに係合させることにより、軸方向の移動を可能としつつ周方向の回転力が伝達されることとなる。動力伝達軸12には、種々のギヤを備える事ができるが、
図1、
図2に示す形態では、動力伝達軸12に動力伝達ギヤ24が固定され、この動力伝達ギヤ24と動力伝達軸12との間に油圧室18が形成されている。本実施形態に係る油圧室18は、動力伝達ギヤ24の基部に設けられた円環状の段差部と動力伝達軸12の外周面によって構成される円環状の凹部である。
【0015】
また、可動爪14にはピストン20が設けられ、このピストン20が油圧室18に挿入されている。ピストン20は、可動爪14を基点として油圧室側に配置された凸部であり、本実施形態の場合、円筒状を成すように構成されている。このような構成とすることで、油圧室18に作動油が供給された場合には、ピストン20が油圧室から押し出される方向に動き、可動爪14を固定爪16側(図中左側)へ移動させる。
【0016】
また、動力伝達軸12における可動爪14と固定爪16の間に位置する部位には、ベースプレート26が設けられている。ベースプレート26は、動力伝達軸12に沿って移動可能とする可動爪14が固定爪16と噛み合う位置の位置決めを成すための要素である。
図1の状態において、油圧室18へ作動油が供給される事により、固定爪16側へ押し出された可動爪14は、
図2に示すようにベースプレート26に当接することで停止し、この停止位置において固定爪16との噛み合いが成され、クラッチとしての嵌状態が成立する。ベースプレート26には、可動爪14を油圧室18側へ押し戻す役割を担う付勢手段22が備えられている。付勢手段22の詳細な形状等は限定するものでは無いが、例えばコイルスプリングなどであれば良い。このような構成が付帯された可動爪14は、油圧室18への作動油の供給が停止され、油圧室18内の圧力が付勢手段22による付勢力を下回ることにより、固定爪16から離間する方向へ押し戻され、固定爪16との噛み合いが解除されて脱状態に回帰する。
【0017】
固定爪16は、動力伝達軸12に配置されるギヤの1つが付帯され、可動爪14が噛み合う事により伝達される動力を外部要素へ伝達するための要素を担う。本実施形態に係る固定爪16は、動力伝達軸12の外周に配置されたラジアルベアリング28の外周に配置されている。このため、クラッチ10が脱状態である場合には、動力伝達軸12の回転(動力)が固定爪16に伝達されることが無い。一方、油圧室18への作動油の供給により可動爪14が作動し、可動爪14との噛み合いによりクラッチ10として嵌状態となった場合には、動力伝達軸12の動力が固定爪16に伝達されることとなる。
【0018】
上記のような構成の可動爪14と固定爪16では、その爪の先端形状を
図3に示すように、いわゆる山形の形状としている。これは可動爪を作動させるための動力を油圧したことに起因する。なお、
図3においては、説明の便宜上、固定爪16を実線で示し、可動爪14を破線で示している。
【0019】
従来のように、作動力を空気としてシフタ軸を用いて作動させていた爪は、爪の凸部同士が接触した場合であっても、その押し付け力を空気の圧縮により吸収し、接触面に滑りを生じさせて凹凸嵌合させることができていた。これに対して可動爪14の動力を非圧縮性流体の作動油とした本実施形態に係るクラッチでは、押し付け力を吸収することができない。このため、爪が平坦面同士で接触した場合には、固定爪16と可動爪14の間に滑りが生じ難く、両者を噛み合わせる事ができなくなってしまう恐れがある。一方
図3に示すように、固定爪16の先端と可動爪14の先端を互いに山形とし、先端の接触面に傾斜を設けるようにすることで、作動流体による押し付け力の緩和が無い場合でも、固定爪16と可動爪14との間に滑りを生じさせ、両者を噛み合わせることが可能となるのである。ここで、固定爪16と可動爪14の先端に設ける傾斜を片側傾斜とした場合でも、両者の間に滑りを生じさせることはできる。しかし、噛み合いクラッチの動力伝達は、爪の側面の接触に起因する。爪の先端に設ける傾斜面を片側傾斜とした場合、爪の一方の側面は面積が小さくなり、過度な応力集中が生じやすくなる可能性がある。このため、固定爪16と可動爪14の先端に設ける傾斜面は、互いに山形となるようにしている。ここで、可動爪14に対する固定爪16の連れ回り方向と、実際に固定爪16が回転する方向が一致する場合には、接触する傾斜面の角度を緩くする事ができる。一方、可動爪14に対する固定爪16の連れ回り方向と、実際に固定爪16が回転する方向が不一致となる場合には、連れ回りによって生じる力と可動爪14の押し付け力とが向き合うかたちとなる。このため、押し付け力が連れ回り分の力よりも大きくなるように、傾斜面の角度を大きくし、爪同士の間に滑りを生じさせる必要がある。そして上述したように、爪の側面の面積は、極端に小さくならないようにすることが望ましい事から、本実施形態では
図3に示すように、山形の頂点を爪の幅方向の中心位置からずらすようにしている。
【0020】
固定爪16と可動爪14との接触、及び滑りについては、
図3を参照して説明する。すなわち
図3(A)に示すように固定爪16と可動爪14が脱状態とされているところから、可動爪14が作動すると、
図3(B)に示すように固定爪16と可動爪14の先端同士が接触する場合がある。このような状態でも、固定爪16と可動爪14との接触は、傾斜面同士となる。このため、接触状態からさらに可動爪14が押圧された場合には、
図3(C)に示すように、固定爪16と可動爪14の接触面(傾斜面)に滑りが生じ、
図3(D)に示すように爪同士の噛み合いに至ることとなる。
【0021】
また、本実施形態では、検出手段の一部として近接センサ30を用いて可動爪14の位置(嵌脱状態)を検出可能な構成としている。検出手段を具体的に説明すると
図4、
図5に示すように、可動爪14の外周近傍に設けられた非可動部に近接センサ30と、可動爪14の外周に設けられたフランジ14aとによって構成されている。
【0022】
このような構成とした場合、可動爪14が嵌状態となった際、フランジ14aが近接センサ30の検出範囲に入り(
図5に示す状態)、脱状態となった際、フランジ14が近接センサ30の検出範囲外となるように構成している(
図4に示す状態)。
【0023】
[効果]
このような構成のクラッチ10によれば、作動系統を油圧経路のみとすることで、シフタジク(専用アクチュエータ)を介在させる事無く可動爪14を作動させる事ができるようになった。このため、装置全体としての小型化を図る事が可能となった。また、シフタジクを作動させるためのエア配管を廃することで、エアを供給するためのコンプレッサも小型化でき、装置全体としての小型化を図る事ができるようになる。
【符号の説明】
【0024】
10………クラッチ、12………動力伝達軸、12a………スプライン、14………可動爪、14a………フランジ、16………固定爪、18………油圧室、20………ピストン、22………付勢手段、24………動力伝達ギヤ、26………ベースプレート、28………ラジアルベアリング、30………近接センサ。