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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065574
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】注射針
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/32 20060101AFI20240508BHJP
【FI】
A61M5/32 540
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174505
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】591065402
【氏名又は名称】株式会社タスク
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 健
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 透
(72)【発明者】
【氏名】日向野 聡
(72)【発明者】
【氏名】小林 泰次
(72)【発明者】
【氏名】柴田 亮
【テーマコード(参考)】
4C066
【Fターム(参考)】
4C066AA10
4C066BB01
4C066CC01
4C066KK04
(57)【要約】
【課題】 側面に開口を有する場合であっても、確実に刺通抵抗を低減可能な注射針を提供する。
【解決手段】 中空円筒状の本体部12と、本体部12の先端を塞ぐように接合された、湾曲した外形を有する先端部14と、本体部12の側面に開けられた側面開口部20と、を備え、側面開口部20が上に配置された状態の軸方向Gに沿った側面視で、側面開口部20を囲む領域が略円弧状の凹形状を有し、凹形状の先端側のエッジとなる位置においてなだらかな曲面を有する先端側面取部30を有し、凹形状の後端側のエッジとなる位置において、なだらかな曲面を有する後端側面取部40を有する注射針10を提供する。
【選択図】図4B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空円筒状の本体部と、
前記本体部の先端を塞ぐように接合された、湾曲した外形を有する先端部と、
前記本体部の側面に開けられた側面開口部と、
を備え、
前記側面開口部が上に配置された状態の軸方向に沿った側面視で、前記側面開口部を囲む領域が略円弧状の凹形状を有し、
前記凹形状の先端側のエッジとなる位置においてなだらかな曲面を有する先端側面取部を有し、
前記凹形状の後端側のエッジとなる位置において、なだらかな曲面を有する後端側面取部を有することを特徴とする注射針。
【請求項2】
前記本体部の外径が22G以上30G以下の範囲にあり、
前記側面開口部が上に配置された状態の軸方向に沿った側面視で、
前記先端側面取部の最も高い位置と前記本体部の上側の外形線との間の高さ方向の距離が0.04mm以上0.10mm以下の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の注射針。
【請求項3】
前記本体部の外径が22G以上30G以下の範囲にあり、
前記先端側のエッジ部を有すると仮定した場合の前記エッジ部を含む軸方向に垂直な断面の外形面積をAとし、軸方向の同じ位置での前記先端側面取部を有する場合の軸方向に垂直な断面の外形面積をBとすると、
(A-B)/Aの値が3.0%より大きく4.8%より小さい範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の注射針。
【請求項4】
前記本体部の外径が22G以上30G以下の範囲にあり、
前記後端側のエッジ部を有すると仮定した場合の前記エッジ部を含む軸方向に垂直な断面の外形面積をCとし、軸方向の同じ位置での前記後端側面取部を有する場合の軸方向に垂直な断面の外形面積をDとすると、
(C-D)/Cの値が0.1%より大きい範囲にあることを特徴とする請求項3に記載の注射針。
【請求項5】
前記側面開口部が上に配置された状態の軸方向に沿った側面視で、
前記先端側面取部及び前記後端側面取部が円弧状の凸形状を有することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の注射針。
【請求項6】
前記側面開口部が上に配置された状態の平面視で、
前記側面開口部が軸方向に延びた楕円または長円の形状を有することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の注射針。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注射針、特に側面に開口部を有する注射針に関する。
【背景技術】
【0002】
刺通抵抗を低減することが注射針の重要な課題であるが、この課題に対処するため、超弾性金属で形成された肉厚が0.3mm以下の注射針が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-225940号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の注射針は、先端に開口を有する一般的な注射針であるが、注射針の側面に開口部を有する所謂サイドホール注射針も、美容外科をはじめとする様々な分野で用いられている。このようなサイドホール注射針では、皮内に薬液を広く行き渡らせるため、注射針を皮内で前後方向に移動させるまたは回転させる場合がある。このため、刺通抵抗が増大して、皮内での内出血や血管損傷が起きる虞がある。よって、サイドホール注射針では、刺通抵抗を低減することがより重要となる。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記の課題を解決するものであり、側面に開口を有する場合であっても、確実に刺通抵抗を低減可能な注射針を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの実施態様に係る注射針では、
中空円筒状の本体部と、
前記本体部の先端を塞ぐように接合された、湾曲した外形を有する先端部と、
前記本体部の側面に開けられた側面開口部と、
を備え、
前記側面開口部が上に配置された状態の軸方向に沿った側面視で、前記側面開口部を囲む領域が略円弧状の凹形状を有し、
前記凹形状の先端側のエッジとなる位置においてなだらかな曲面を有する先端側面取部を有し、
前記凹形状の後端側のエッジとなる位置において、なだらかな曲面を有する後端側面取部を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、側面開口を有する場合であっても、確実に刺通抵抗を低減可能な注射針を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の1つの実施形態に係る注射針を模式的に示す斜視図である。
図2】従来の側面開口を有する注射針を模式的に示す斜視図である。
図3】側面開口を有する注射針の一般的な製造方法を示す図である。
図4A】本発明の1つの実施形態に係る注射針を模式的に示す平面図である。
図4B図4Aの断面A-Aを示す側面断面図である。
図5A】従来の側面開口を有する注射針を模式的に示す平面図である。
図5B図5Aの断面B-Bを示す側面断面図である。
図6A】注射針を前後に移動させた場合の往路における刺通抵抗値の変化を示すグラフである。
図6B】注射針を前後に移動させた場合の復路における刺通抵抗値の変化を示すグラフである。
図7A】本発明に係る22Gの注射針において、外形面積を算出する軸方向に垂直な断面の位置を示す斜視図である。
図7B】先端からの軸方向の長さを横軸とし、図6Aに示す軸方向に垂直な断面の外形面積を縦軸とする断面積変化を示す折線グラフである。
図8A】本発明に係る30Gの注射針において、外形面積を算出する軸方向に垂直な断面の位置を示す斜視図である。
図8B】先端からの軸方向の長さを横軸とし、図67に示す軸方向に垂直な断面の外形面積を縦軸とする断面積変化を示す折線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図において、同一の機能を有する対応する部材には、同じ参照番号を付している。
【0010】
(本発明の1つの実施形態に係る注射針)
はじめに、図1から図3を参照しながら、本発明の1つの実施形態に係る注射針について、従来の側面開口を有する注射針と比較しながら説明を行う。図1は、本発明の1つの実施形態に係る注射針を模式的に示す斜視図である。図2は、従来の側面開口を有する注射針を模式的に示す斜視図である。図3は、側面開口を有する注射針の一般的な製造方法を示す図である。
【0011】
<従来の注射針>
例えば、ヒアルロン酸等の薬液を皮内に投与する美容術では、図2に示すような、側面開口部70を有する所謂サイドホール注射針60が使用される。このような注射針60は、中空の円筒状の本体部62と、本体部62の先端を塞ぐように接合された、湾曲した外形を有する先端部64とを備える。そして、注射針60の先端部64の近傍の側面に側面開口部70が形成されている。注射針60の先端部64は球状になっており、先端部64の近傍に形成された側面開口部70から薬液を投与されるようになっている。
【0012】
ヒアルロン酸等の薬液を投与する場合には、予め投与する領域の近傍の皮膚に一般的な注射針で穿刺して穴を開けた後、その穴にサイドホール注射針60を挿入し皮内にヒアルロン酸を投与する。ヒアルロン酸の投与は、注射針60を移動させて皮内の広範囲に投与する。これにより、皮内から皮膚表面を膨らませてシワを伸ばすことができる。
【0013】
このとき、ヒアルロン酸を広範囲に投与するため、サイドホール注射針60を皮内で前後方向に移動させるまたは回転させることにより、必要な場所に投与する。皮内で注射針60を広範囲に動かすため、皮内での内出血や血管損傷が起きる虞がある。特に、側面開口部70の先端側及び後端側にエッジ部Ef、Erが存在し(図2図5B参照)、このエッジ部Ef、Erが抵抗となって刺通抵抗が増大する虞がある。
【0014】
<側面開口を有する注射針の製造方法>
次に、図3を参照しながら、このような側面開口を有する注射針60の製造方法を説明する。はじめに、(a)に示すように、注射針の本体部62となる金属製の円管を準備する。金属製の円管の材質としては、SUS304、316のようなステンレス鋼を例示できる。円管の規格寸法としては、22G:外径0.7075mm、厚み0.105mm~30G:外径0.3105mm、厚み0.059mmを例示できるが、これに限られるものではない。金属製の円管の長さは、製造する注射針の長さに応じて定められる。長さの範囲として、38mm~70mmを例示できるが、これに限られるものではない。
【0015】
次に、(b)に示すように、金属製の円管の一方の端部に金属塊を溶接する。金属塊は湾曲した外形を有し、金属塊の先端を塞ぐように接合される。この金属製の円管の一方の端部に接合された金属塊が、注射針60の先端部64となる。そして、(c)に示すように、注射針60の本体部62と先端部64とが滑らかに繋がるように研磨を行う。
【0016】
次に、ワイヤ放電加工により、注射針60の側面に楕円または長円状の側面開口部70を形成する。更に詳細に述べれば、(d)に示すように、側面開口部70が上に配置された状態の軸方向Gに沿った側面視で、側面開口部70を囲む領域が略円弧状の凹形状となるようにワイヤ放電加工を行う。これにより、側面開口部70が上に配置された状態の平面視で、側面開口部70が軸方向Gに延びた楕円または長円の形状を有する。
【0017】
側面開口部70は、先端に近い位置に形成するのが好ましいが、先端部64が存在する領域までかかると開口が形成できないので、内部に先端部64の塊が存在しない領域において、なるべく先端側に側面開口部70を形成するのが好ましい。
【0018】
このとき、側面開口部70が上に配置された状態の軸方向Gに沿った側面視で、本体部62または先端部64の上側の外形線と、ワイヤ放電加工で切り欠いて形成された略円弧状の凹形状の前側の線分との交点Fが突起したエッジ状となり、エッジ部Efが形成される。同様に、本体部62の上側の外形線と、ワイヤ放電加工で切り欠いて形成された略円弧状の凹形状の後側の線分との交点Rが突起したエッジ状となり、エッジ部Erが形成される。
【0019】
注射針60を皮内で前後方向に移動させるまたは回転させるとき、このエッジ部Ef、Erが抵抗となって、刺通抵抗が増大する虞がある。
【0020】
(本発明の1つの実施形態に係る注射針)
これに対処するため、本実施形態に係る注射針10では、凹形状の先端側のエッジとなる位置においてなだらかな曲面を有する先端側面取部30が形成され、凹形状の後端側のエッジとなる位置において、なだらかな曲面を有する後端側面取部40が形成されている。
【0021】
本実施形態に係る注射針10も、図3の(a)~(d)に示す製造工程を行う。(a)に示すように、注射針10の本体部12となる金属製の円管を準備し、(b)に示すように、金属製の円管の一方の端部に金属塊を溶接する。これにより、金属製の円管が注射針10の本体部12となり、溶接された金属塊が注射針10の先端部14となる。そして、(c)に示すように、注射針10の本体部12と先端部14とが滑らかに繋がるように研磨を行う。
【0022】
次に、(d)に示すように、側面開口部20が上に配置された状態の軸方向Gに沿った側面視で、側面開口部20を囲む領域が略円弧状の凹形状となるようにワイヤ放電加工を行う。これにより、側面開口部20が上に配置された状態の平面視で、側面開口部70が軸方向Gに延びた楕円または長円の形状を有する。この場合、内部に先端部14の塊が存在しない領域において、なるべく先端側に側面開口部20を形成するのが好ましい。
【0023】
この状態では、側面開口部20が上に配置された状態の軸方向Gに沿った側面視で、本体部12または先端部14の上側の外形線と、ワイヤ放電加工で切り欠いて形成された略円弧状の凹形状の前側の線分との交点Fが突起したエッジ状となり、本体部12の上側の外形線と、ワイヤ放電加工で切り欠いて形成された略円弧状の凹形状の後側の線分との交点Fが突起したエッジ状となっている。
【0024】
本実施形態では、(d)で示すようにワイヤ放電加工で側面開口部20を形成した後、ワイヤ放電加工でこのエッジを除去して、なだらかな曲面を有する面取部を形成する。凹形状の先端側のエッジとなる位置Fにおいてなだらかな曲面を有する先端側面取部30を形成し、凹形状の後端側のエッジとなる位置Rにおいて、なだらかな曲面を有する後端側面取部40を形成する。
【0025】
更に詳細に述べれば、本実施形態では、側面開口部20が上に配置された状態の軸方向Gに沿った側面視で、先端側面取部30及び後端側面取部40が円弧状の凸形状を有するように、ワイヤ放電加工を行う。ただし、なめらかな凸形状を有するのであれば、円弧に限られるものではない。
【0026】
以上のように、本実施形態に係る注射針10では、中空円筒状の本体部12と、本体部12の先端を塞ぐように接合された、湾曲した外形を有する先端部14と、本体部12の側面に開けられた側面開口部20と、を備え、側面開口部20が上に配置された状態の軸方向Gに沿った側面視で、側面開口部20を囲む領域が略円弧状の凹形状を有し、凹形状の先端側のエッジとなる位置Fにおいてなだらかな曲面を有する先端側面取部30を有し、凹形状の後端側のエッジとなる位置Rにおいて、なだらかな曲面を有する後端側面取部40を有する。
【0027】
本実施形態に係る注射針10は、先端側のエッジとなる位置Fにおいてなだらかな曲面を有する先端側面取部30が形成され、後端側のエッジとなる位置Rにおいて、なだらかな曲面を有する後端側面取部40が形成されているので、注射針10を皮内で移動させるときに生じる刺通抵抗を低減することができる。穿刺抵抗を低減することで、皮内での内出血や血管損傷の可能性を低減できる。これにより、側面開口部20を有する場合であっても、確実に刺通抵抗を低減可能な注射針10を提供することができる。
【0028】
特に、側面開口部20が上に配置された状態の軸方向Gに沿った側面視で、先端側面取部30及び後端側面取部40が円弧状の凸形状を有する場合には、ワイヤ放電加工等により、容易に確実になだらか曲面を有する面取部を形成することができる。
【0029】
また、側面開口部20が上に配置された状態の平面視で、側面開口部20が軸方向Gに延びた楕円または長円の形状を有する場合には、ヒアルロン酸をはじめとする薬液を確実に皮内の広範囲な範囲に投与することができる。
【0030】
(本発明の1つの実施形態に係る注射針の詳細形状)
次に、図4Aから図5Bを参照しながら、本実施形態に係る注射針の形状の更に詳細な説明を従来の注射針と比較しながら行う。図4Aは、本発明の1つの実施形態に係る注射針を模式的に示す平面図である。図4Bは、図4Aの断面A-Aを示す側面断面図である。図5Aは、従来の側面開口を有する注射針を模式的に示す平面図である。図5Bは、図5Aの断面B-Bを示す側面断面図である。
【0031】
図5Bに示すように、従来の注射針では、側面開口部70の先端側にエッジ部Efが存在し、側面開口部70の後端側に側のエッジ部Erが存在する。一方、本実施形態に係る注射針10では、先端側のエッジとなる位置Fにおいてなだらかな曲面を有する先端側面取部30が形成され、後端側のエッジとなる位置Rにおいて、なだらかな曲面を有する後端側面取部40が形成されている。図4Aには、ワイヤ放電加工で削除された先端側のエッジ部Ef及び後端側に側のエッジ部Erの外形が点線で示されている。
【0032】
側面開口部20が上に配置された状態の軸方向Gに沿った側面視で、従来の注射針60では、先端側のエッジ部Efは、本体部12の上側の外形線とほぼ同一の高さ位置にある。一方、本実施形態に係る注射針10では、先端側面取部30が形成されたことにより、側面開口部20が上に配置された状態の軸方向Gに沿った側面視で、先端側面取部30の最も高い位置と本体部12の上側の外形線との間に、所定の高さ方向の距離Dが存在する。従来の先端側のエッジ部Efが存在する場合には、原則として距離D=0となる。
【0033】
この距離Dの値が大きい方が、注射針10を皮内で移動させるときに生じる刺通抵抗を低減することが期待できる。特に、注射針10を前後に移動させる場合、往路における刺通抵抗の低減が期待できる。また、後端側面取部40では、本体部12の上側の外形線と滑らかに繋がって凹形状を形成するので、注射針10を前後に移動させる場合の復路における刺通抵抗の低減が期待できる。
【0034】
次に、異なる距離Dを有する注射針10のサンプルを試作して、刺通抵抗値を測定する試験を行い、距離Dの値と刺通抵抗値との間の関係を検討した。この測定試験では、先端側面取部30を有さないエッジ部Efを有する従来の注射針60(距離D=0)と、距離D=0.04mm、0.07mm、0.10mmの注射針10とを試作して刺通抵抗値を測定した。注射針10の外径は、実用的な範囲を考慮して22G以上30G以下の範囲とした。
【0035】
距離Dの範囲を0.04mm以上0.10mm以下の範囲にした理由は、下記のように説明できる。
先端側面取部30を形成するときの製造公差や、繰り返し試験においても安定して一定の傾向が示されることを考慮して、距離Dの最小値を0.04mmとした。一方、距離Dの値が大きい方が、刺通抵抗の低減効果が期待できるが、実際に使う注射針10の外径である22G~30Gを考慮すると、一番肉厚が薄い30Gの場合、厚みが0.059mmとなる。よって、実用的な強度を考慮して、距離Dの最大値を0.10mmとした。
【0036】
なお、図4Aに示すように、側面開口部20が上に配置された状態の軸方向Gに沿った側面視で、側面開口部20を囲む領域が略円弧状の凹形状を有しているが、図4Bに示すように、この円弧の半径Rhの値として、R0.98mm~R1.0mmを例示することができる。また、先端側面取部30や後端側面取部40の凸形状が円弧状になる場合、この円弧の半径Rf、半径RrとしてはR0.75mm~R1.5mmを例示することができる。
【0037】
(刺通抵抗値の測定試験)
異なる距離Dを有する注射針10のサンプルとして、22G以上30G以下の範囲の両端の22G及び30Gの注射針について、距離D=0mm、0.04mm、0.07mm、0.10mmのサンプルを試作し、各々、5回の測定試験を行って平均値を求めた。
【0038】
刺通抵抗値の測定試験に用いる穿刺対象膜はシリコーンゴムとし、できる限り硬度が低く厚みが薄いものを使用した。具体的には、シリコーンゴムシート(硬度5(デュロメータA)、厚み:3mm、共和工業株式会社)を用いた。
また、穿刺箇所が、測定治具の直径8mmの穴の中心位置となるように、穿刺対象膜を測定治具上に固定した。そして、穿刺対象膜に対して往復2回の繰り返し穿刺を行った。試験速度は、20mm/minとした。1回目の穿刺では、開口により影響が見られることから2回目のデータを採用した。
【0039】
[測定条件]
試験装置: 日本計測システム社製自動負荷試験機(MAX-1KN-P-1)
ロードセル: JCL-M10N(容量:10N)
測定治具: MKT-45
穿刺対象膜: シリコーンゴムシート(硬度5(デュロメータA)、厚み:3mm、共和製作所製)
試験速度: 20mm/min
試験範囲: 注射針先端が穿刺対象膜に接触する直前より10mm程度
【0040】
[測定結果]
測定結果を図6A及び図6Bに示す。図6Aは、注射針を前後に移動させた場合の往路における刺通抵抗値の変化を示すグラフである。図6Bは、注射針を前後に移動させた場合の復路における刺通抵抗値の変化を示すグラフである。グラフの横軸は注射針の先端の変位量を示す。注射針先端が穿刺対象膜に接触する直前の位置をゼロとする。グラフの縦軸が、計測した刺通抵抗値(N)を示す。なお、測定した刺通抵抗値は、圧縮方向を正として示す。
【0041】
試作した22G及び30Gの距離D=0mm、0.04mm、0.07mm、0.10mmの注射針の何れにおいても、図6A及び図6Bに示すような同様な傾向を示した。
【0042】
<往路>
図6Aに示す往路においては、注射針をゼロの位置から突き刺す方向に移動させていくにつれて、刺通抵抗値が上昇し、ピークP1に達した後、下降及び上昇を繰り返して、ピークP2、ピークP3及びピークP4が生じた。ここで、ピークP1は、注射針の刺入時の穿刺対象膜の張力由来の軸のずれによるものと考えられる。よって、ピークP2の刺通抵抗値が、往路における刺通抵抗に大きく影響すると考えられる。測定を行ったピークP2~P4における刺通抵抗値の平均値及び”D=0との比”を下表に示す。なお、下表の”D=0との比”は、D=0の刺通抵抗値をXとし、D=0.04mm、0.07mm、0.10mmの刺通抵抗値をYとすると、Y/Xを百分率で表したものである。
【0043】
(表1)
刺通抵抗値(往路)
【0044】
試作した22G及び30Gの距離D=0.04mm、0.07mm、0.10mmの注射針では、距離D=0の注射針に比べて、往路におけるピークP1の値が約10%低減できることを知見した。
【0045】
<復路>
図6Bに示す復路においては、往路で突き刺した位置から注射針を戻す方向に移動させていくにつれて、往路ほどの大きさではないが、下降及び上昇を繰り返して、ピークQ1、ピークQ2、ピークQ3及びピークQ4が生じた。この中で、ピークQ3の刺通抵抗値が、往路における刺通抵抗に大きく影響すると考えられる。測定を行ったピークQ1~Q4における通抵抗値の平均値平均値及び”D=0との比”を下表に示す。
【0046】
(表2)
刺通抵抗値(復路)
【0047】
試作した30G及び22Gの距離D=0.04mm、0.07mm、0.10mmの注射針では、距離D=0の注射針に比べて、復路におけるピークQ3の値が10%以上低減できることを知見した。
【0048】
以上のように、本体部12の外径が22G以上30G以下の範囲にあり、側面開口部20が上に配置された状態の軸方向Gに沿った側面視で、先端側面取部30の最も高い位置と本体部12の上側の外形線との間の高さ方向の距離Dが0.04mm以上0.10mm以下の範囲にある場合には、往路における第2ピークP2における刺通抵抗値を、距離D=0の場合に比べて約10%低減でき、復路におけるピークQ3における刺通抵抗値を、距離D=0の場合に比べて10%以上低減できることを知見した。
【0049】
よって、距離Dが0.04mm以上0.10mm以下の範囲にある注射針10では、皮内で注射針10を移動させるときに生じる刺通抵抗を確実に低減することができることが実証された。
【0050】
(軸方向に垂直な断面の外形面積)
上記においては、先端側面取部30を有する本実施形態に係る注射針10の形状を、先端側面取部30の最も高い位置と本体部12の上側の外形線との間の高さ方向の距離Dで規定したが、これに限られるものではない。例えば、軸方向Gに垂直な断面の外形面積で規定することも考えられる。次に、図7Aから図8Bを参照しながら、軸方向Gに垂直な断面の外形面積の算出について述べる。
【0051】
図7Aは、本発明に係る22Gの注射針において、外形面積を算出する軸方向に垂直な断面の位置を示す斜視図である。図7Bは、先端からの軸方向の長さを横軸とし、図6Aに示す軸方向に垂直な断面の外形面積を縦軸とする断面積変化を示す折線グラフである。図8Aは、本発明に係る30Gの注射針において、外形面積を算出する軸方向に垂直な断面の位置を示す斜視図である。図8Bは、先端からの軸方向の長さを横軸とし、図8Aに示す軸方向に垂直な断面の外形面積を縦軸とする断面積変化を示す折線グラフである。
【0052】
図7Aには、22Gの注射針10における軸方向に垂直な11の断面を形成する平面1~平面11を示す。図7Bの横軸は、注射針10の先端からの軸方向Gの距離(単位:mm)を示し、縦軸は、軸方向Gに垂直な断面の外形面積(単位:mm)を示す。ここでいう外形面積は、中空になっている部分の面積を差し引かない、中実としてみなした面積である。図7Bでは、図7Aに示す平面1~平面11における外形面積をプロットし、プロットした点を直線で繋いで示した折れ線グラフを示す。先端側面取部30を有さずエッジ部Efを有する距離D=0の場合を実線で示し、先端側面取部30を有する場合の距離D=0.04mmを短い点線で示し、距離D=0.07mmを一点鎖線で示し、距離D=0.10mmを長い点線で示す。
【0053】
図7Bに示す外形面積について、エッジ部Efを有する場合の外形面積に対する先端側面取部30を有する場合の外形面積の減少比率を下式で表すことができる。
先端側のエッジ部Efを有すると仮定した場合のエッジ部Efを含む軸方向Gに垂直な断面の外形面積をAとし、軸方向Gの同じ位置での先端側面取部30を有する場合の軸方向Gに垂直な断面の外形面積をBとすると、(A-B)/Aとして表すことができる。先端側のエッジ部Efの位置における(A-B)/Aの値は、下表の平面3における値で表すことができる。平面3では、(A-B)/Aの値は、3.0%より大きく7.4%より小さい範囲となる。
【0054】
図7Bに示す外形面積について、エッジ部Erを有する場合の外形面積に対する後端側面取部40を有する場合の外形面積の減少比率を下式で表すことができる。
先端側のエッジ部Erを有すると仮定した場合のエッジ部Erを含む軸方向Gに垂直な断面の外形面積をCとし、軸方向Gの同じ位置での後端側面取部40を有する場合の軸方向Gに垂直な断面の外形面積をDとすると、(C-D)/Cとして表すことができる。後端側のエッジ部Erの位置における(C-D)/Cの値は、下表の平面10における値で表すことができる。平面10では、(C-D)/Cの値は、約1.8%となる。
【0055】
(表3)
外形面積の減少比率(%)
【0056】
30Gの注射針10においても同様であり、図8Bは、図8Aに示す平面1~平面11における外形面積をプロットし、プロットした点を直線で繋いで示した折れ線グラフである。
【0057】
図8Bに示す外形面積について、エッジ部Efを有する場合の外形面積に対する先端側面取部30を有する場合の外形面積の減少比率である(A-B)/Aの値は、下表の平面2における値で表すことができる。平面2では、(A-B)/Aの値は、2.4%より大きく4.8%より小さい範囲となる。
【0058】
図8Bに示す外形面積について、エッジ部Erを有する場合の外形面積に対する後端側面取部40を有する場合の外形面積の減少比率である(C-D)/Dの値は、下表の平面11における値で表すことができる。平面11では、(C-D)/Cの値は、0.1%より大きく0.6%より小さい範囲となる。
【0059】
(表4)
外形面積の減少比率(%)
【0060】
(A-B)/Aの値は、22Gでは、3.0%より大きく7.4%より地裁範囲となり、G30Gでは、2.4%より大きく4.8%より小さい範囲となる。よって、両者の重なる範囲を取れば、(A-B)/Aの値は、3.0%より大きく4.8%より小さい範囲となる。
【0061】
よって、本体部12の外径が22G以上30G以下の範囲にあり、先端側のエッジ部Efを有すると仮定した場合のエッジ部Efを含む軸方向Gに垂直な断面の外形面積をAとし、軸方向Gの同じ位置での先端側面取部30を有する場合の軸方向Gに垂直な断面の外形面積をBとすると、(A-B)/Aの値は、が3.0%より大きく4.8%より小さい範囲にある場合、皮内で注射針10を移動させるときに生じる、特に往路における刺通抵抗を確実に低減することができる。
【0062】
また、(C-D)/Dの値は、22Gでは、約1.8%となり、30Gでは、0.1%より大きく0.6%より小さい範囲となる。よって、(C-D)/Dの値が、少なくとも0.1%より大きければ、皮内で注射針10を移動させるときに生じる、特に復路における刺通抵抗を低減することが期待できる。
【0063】
よって、本体部の外径が22G以上30G以下の範囲にあり、後端側のエッジ部Erを有すると仮定した場合のエッジ部Erを含む軸方向Gに垂直な断面の外形面積をCとし、軸方向Gの同じ位置での後端側面取部40を有する場合の軸方向Gに垂直な断面の外形面積をDとすると、(C-D)/Cの値が0.1%より大きい範囲にある場合、皮内で注射針10を移動させるときに生じる、特に復路における刺通抵抗を確実に低減することができる。
【0064】
以上のように、
本発明の第1の態様は、
中空円筒状の本体部と、
前記本体部の先端を塞ぐように接合された、湾曲した外形を有する先端部と、
前記本体部の側面に開けられた側面開口部と、
を備え、
前記側面開口部が上に配置された状態の軸方向に沿った側面視で、前記側面開口部を囲む領域が略円弧状の凹形状を有し、
前記凹形状の先端側のエッジとなる位置においてなだらかな曲面を有する先端側面取部を有し、
前記凹形状の後端側のエッジとなる位置において、なだらかな曲面を有する後端側面取部を有する注射針である。
【0065】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、
前記本体部の外径が22G以上30G以下の範囲にあり、
前記側面開口部が上に配置された状態の軸方向に沿った側面視で、
前記先端側面取部の最も高い位置と前記本体部の上側の外形線との間の高さ方向の距離が0.04mm以上0.10mm以下の範囲にある。
【0066】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様において、
前記本体部の外径が22G以上30G以下の範囲にあり、
前記先端側のエッジ部を有すると仮定した場合の前記エッジ部を含む軸方向に垂直な断面の外形面積をAとし、軸方向の同じ位置での前記先端側面取部を有する場合の軸方向に垂直な断面の外形面積をBとすると、
(A-B)/Aの値が3.0%より大きく4.8%より小さい範囲にある。
【0067】
本発明の第4の態様は、第1~第3の何れかの態様において、
前記本体部の外径が22G以上30G以下の範囲にあり、
前記後端側のエッジ部を有すると仮定した場合の前記エッジ部を含む軸方向に垂直な断面の外形面積をCとし、軸方向の同じ位置での前記後端側面取部を有する場合の軸方向に垂直な断面の外形面積をDとすると、
(C-D)/Cの値が0.1%より大きい範囲にある。
【0068】
本発明の第5の態様は、第1~第4の何れかの態様において、
前記側面開口部が上に配置された状態の軸方向に沿った側面視で、
前記先端側面取部及び前記後端側面取部が円弧状の凸形状を有する。
【0069】
本発明の第6の態様は、第1~第5の何れかの態様において、
前記側面開口部が上に配置された状態の平面視で、
前記側面開口部が軸方向に延びた楕円または長円の形状を有する。
【0070】
本発明の実施の形態、実施の態様を説明したが、開示内容は構成の細部において変化してもよく、実施の形態、実施の態様における要素の組合せや順序の変化等は請求された本発明の範囲および思想を逸脱することなく実現し得るものである。
【符号の説明】
【0071】
10 注射針
12 本体部
14 先端部
20 側面開口部
30 先端側面取部
40 後端側面取部
60 注射針
62 本体部
64 先端部
70 側面開口部
Ef、Er エッジ部
軸方向 G
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B