(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065575
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】溶接トーチ
(51)【国際特許分類】
B23K 9/29 20060101AFI20240508BHJP
【FI】
B23K9/29 L
B23K9/29 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174508
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(72)【発明者】
【氏名】高田 主税
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001LB02
4E001LD05
4E001LH04
4E001LH08
4E001MA02
4E001NA01
4E001NA05
(57)【要約】
【課題】小型化および構造の簡素化を図るのに適した溶接トーチを提供する。
【解決手段】溶接トーチA1は、軸線方向zに延びる電極25と、電極25の軸線方向一方側z1の端部の外側に配置された内側ノズル30と、内側ノズル30の外側に配置された外側ノズル31と、内側ノズル30の軸線方向他方側z2に配置されたトーチボディ2と、を備え、電極25と内側ノズル30との間には第1ガス流路G1が形成され、内側ノズル30と外側ノズル31との間には第2ガス流路G2が形成される。トーチボディ2は、第1ガス流路G1に通じる第1ガス流入口211と、第2ガス流路G2に通じる第2ガス流入口212とを有する。第1ガス流入口211は、第2ガス流入口212の軸線方向他方側z2に位置する。第1ガス流入口211は、軸線方向zと直交する第1方向xにおいて電極25に近づくにつれて軸線方向一方側z1に位置するように傾斜している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる非消耗電極と、
前記非消耗電極の前記軸線方向の一方側の端部において径方向の外側に配置された内側ノズルと、
前記内側ノズルに対して径方向の外側に配置された外側ノズルと、
前記内側ノズルに対して前記軸線方向の他方側に配置されたトーチボディと、を備え、
前記非消耗電極と前記内側ノズルとの間には、第1ガス流路が形成され、
前記内側ノズルと前記外側ノズルとの間には、第2ガス流路が形成されており、
前記トーチボディは、前記第1ガス流路に通じる第1ガス流入口と、前記第2ガス流路に通じる第2ガス流入口と、を有し、
前記第1ガス流入口は、前記第2ガス流入口に対して前記軸線方向の他方側に位置し、
前記第1ガス流入口は、前記軸線方向と直交する第1方向において前記非消耗電極に近づくにつれて前記軸線方向の一方側に位置するように傾斜している、溶接トーチ。
【請求項2】
前記第2ガス流入口は、前記第1方向において前記非消耗電極に近づくにつれて前記軸線方向の一方側に位置するように傾斜している、請求項1に記載の溶接トーチ。
【請求項3】
前記トーチボディは、前記第1ガス流入口に対して前記軸線方向の他方側に隣接する雌ねじ部を有し、
前記雌ねじ部に螺合するねじ部材をさらに備える、請求項1に記載の溶接トーチ。
【請求項4】
前記トーチボディは、前記軸線方向において前記第1ガス流入口および前記第2ガス流入口の間に位置し、且つ前記非消耗電極の周方向に沿って形成された冷却水流路を有する、請求項1ないし3のいずれかに記載の溶接トーチ。
【請求項5】
前記トーチボディは、前記軸線方向に沿って延びる第1筒状部と、前記第1筒状部につながり、且つ前記軸線方向に対して交差する方向に延びる第2筒状部と、を含み、
前記第1筒状部は、前記軸線方向において前記第1ガス流入口および前記第2ガス流入口を跨いで配置されており、
各々が前記第2筒状部の内部を挿通し、前記第1ガス流入口に通じる第1ガス配管と、前記第2ガス流入口に通じる第2ガス配管と、をさらに備える、請求項1ないし3のいずれかに記載の溶接トーチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接トーチに関する。
【背景技術】
【0002】
非消耗電極を備えた溶接トーチを用いて行う溶接(TIG溶接法やプラズマ溶接法)では、通常、タングステンで形成された電極(非消耗電極)と被溶接物との間にアークを発生させ、そのアークの熱で被溶接物を溶融する。TIG溶接法では、ガスノズルと電極の間にシールドガスが流される。プラズマ溶接法では、シールドガスに加えて、電極の周囲に配置されたインサートチップの内部にプラズマガスを流すとことで、アーク(プラズマアーク)が拘束される。その結果、集中性の良い高温プラズマ流が発生され、その保有エネルギを利用して溶接を行う。
【0003】
亜鉛めっき鋼板などの比較的融点が低い金属(低溶融金属)を溶接する場合、溶接熱によって亜鉛蒸気やヒュームが生じる。ヒューム等の金属が電極に付着すると、溶接時に発生するアークが不安定となる。TIG溶接法においては、通常、電極の先端がノズル先端から突出しており、当該電極の先端がヒューム等の金属で覆われてしまうと、溶接開始時に着火不良が生ずるおそれがある。プラズマ溶接法においては、通常、電極を囲むインサートチップの先端よりも電極の先端が退避している。また、インサートチップの内部(電極の周囲)にプラズマガスが流される。このため、亜鉛めっき鋼板などの低溶融金属を溶接する場合、プラズマ溶接法では、TIG溶接法と比べてヒューム等の金属は電極に付着しにくい。その一方、プラズマ溶接法では、上記ヒューム等の金属がインサートチップの先端に付着する場合があり、そうするとインサートチップ先端と合金化する。このインサートチップ先端の合金化によって、アーク不良や溶接不良を招くおそれがある。
【0004】
特許文献1においては、インサートチップの先端のプラズマガス噴出孔の周囲に、小径孔からなる複数のサイドプラズマガス噴出孔を設けた構成が開示されている。これら複数のサイドプラズマガス噴出孔を追加的に設けることで、溶接時において、インサートチップの先端へのヒューム等の付着の低減が図られている。しかしながら、特許文献1に記載された構造では、インサートチップの構造が複雑になるとともに、インサートチップ(溶接トーチ)の先端の大型化を招いてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、小型化および構造の簡素化を図るのに適した溶接トーチを提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を採用した。
【0008】
本発明によって提供される溶接トーチは、軸線方向に延びる非消耗電極と、前記非消耗電極の前記軸線方向の一方側の端部において径方向の外側に配置された内側ノズルと、前記内側ノズルに対して径方向の外側に配置された外側ノズルと、前記内側ノズルに対して前記軸線方向の他方側に配置されたトーチボディと、を備え、前記非消耗電極と前記内側ノズルとの間には、第1ガス流路が形成され、前記内側ノズルと前記外側ノズルとの間には、第2ガス流路が形成されており、前記トーチボディは、前記第1ガス流路に通じる第1ガス流入口と、前記第2ガス流路に通じる第2ガス流入口と、を有し、前記第1ガス流入口は、前記第2ガス流入口に対して前記軸線方向の他方側に位置し、前記第1ガス流入口は、前記軸線方向と直交する第1方向において前記非消耗電極に近づくにつれて前記軸線方向の一方側に位置するように傾斜している。
【0009】
好ましい実施の形態においては、前記第2ガス流入口は、前記第1方向において前記非消耗電極に近づくにつれて前記軸線方向の一方側に位置するように傾斜している。
【0010】
好ましい実施の形態においては、前記トーチボディは、前記第1ガス流入口に対して前記軸線方向の他方側に隣接する雌ねじ部を有し、前記雌ねじ部に螺合するねじ部材をさらに備える。
【0011】
好ましい実施の形態においては、前記トーチボディは、前記軸線方向において前記第1ガス流入口および前記第2ガス流入口の間に位置し、且つ前記非消耗電極の周方向に沿って形成された冷却水流路を有する。
【0012】
好ましい実施の形態においては、前記トーチボディは、前記軸線方向に沿って延びる第1筒状部と、前記第1筒状部につながり、且つ前記軸線方向に対して交差する方向に延びる第2筒状部と、を含み、前記第1筒状部は、前記軸線方向において前記第1ガス流入口および前記第2ガス流入口を跨いで配置されており、各々が前記第2筒状部の内部を挿通し、前記第1ガス流入口に通じる第1ガス配管と、前記第2ガス流入口に通じる第2ガス配管と、をさらに備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る溶接トーチによれば、トーチボディに設けられた第1ガス流入口の開口端を、軸線方向において内側ノズル側(軸線方向の一方側)に近づけることが可能である。これにより、トーチボディの軸線方向の寸法を小さくすることができ、溶接トーチの小型化を図ることができる。
【0014】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る溶接トーチの一例を示す正面図である。
【
図3】
図2のIII-III線に沿う断面図である。
【
図6】
図3のVI-VI線に沿う拡大断面図である。
【
図7】
図3のVII-VII線に沿う拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態につき、図面を参照しつつ具体的に説明する。以下の説明における「第1」、「第2」等の用語は、単にラベルとして用いたものであり、必ずしもそれらの対象物に順列を付することを意図していない。
【0017】
図1~
図8は、本発明に係る溶接トーチの一例を示す。本実施形態の溶接トーチA1は、ハンドル1、トーチボディ2、絶縁リング23,24、非消耗電極25、コレットボディ26、コレット27、コレット押え部材28、キャップ29、内側ノズル30、外側ノズル31、ノズルホルダ32、係止部材33、電極芯出し部材34、第1ガス配管41、第2ガス配管42、第1冷却水配管43および第2冷却水配管44を備えている。本実施形態の溶接トーチA1は、作業者が手で把持して溶接作業を行うように構成されている。また、詳細は後述するが、溶接トーチA1においては、所定の溶接用ガスを流すための2つのガス流路(第1ガス流路G1および第2ガス流路G2)が形成されている。
【0018】
なお、溶接トーチA1の説明において、
図1、
図3における図中上下方向は、本発明の「軸線方向」の一例であり、「軸線方向z」と呼ぶ。
図3、
図8において軸線方向zに対して直交する方向(図中左右方向)は、本発明の「第1方向」の一例であり、「第1方向x」と呼ぶ。また、
図1、
図3において図中下側は本発明の「軸線方向の一方側」の一例であり、「軸線方向一方側z1」と呼び、図中上側は本発明の「軸線方向の他方側」の一例であり、「軸線方向他方側z2」と呼ぶ。
【0019】
ハンドル1は、作業者が手で把持するための部位である。
図3に示すように、ハンドル1は、絶縁性材料からなる筒状部材である。
【0020】
トーチボディ2は、筒状であり、端部がハンドル1に保持されている。トーチボディ2は、ボディ本体20、筒状部材21および筒状部材22を含む。ボディ本体20は、溶接トーチA1の構成要素を適宜内部に収容している。ボディ本体20は、絶縁性材料からなる。ボディ本体20は、第1筒状部20Aおよび第2筒状部20Bを有する。
【0021】
第1筒状部20Aは、軸線方向zに沿って延びている。第2筒状部20Bは、第1筒状部20Aに対して分岐状につながっている。第2筒状部20Bは、軸線方向zに対して交差する方向(
図3においては図中右上方向)に延びている。図示した例では、第1筒状部20Aが延びる方向(軸線方向z)と第2筒状部20Bが延びる方向とのなす角度は、約65°である。なお、第1筒状部20Aが延びる方向(軸線方向z)と第2筒状部20Bが延びる方向とのなす角度は特に限定されず、たとえば直角(90°)であってもよい。第2筒状部20Bの端部(
図3の右上側の端部)は、ハンドル1の端部に保持されている。図示した例では、第2筒状部20Bの端部とハンドル1の端部とが、互いにねじ接続により固定されている。
【0022】
筒状部材21は、第1筒状部20Aの径方向内側に配置されている。筒状部材21は、図示しない電源部からの電力供給を受ける部材であり、導電性材料よりなる。筒状部材21を構成する導電性材料としては、たとえば銅が挙げられる。
図8に示すように、筒状部材21は、第1ガス流入口211、第2ガス流入口212、凹溝213、テーパー面214および雌ねじ部215を有する。筒状部材22は、筒状部材21の径方向外側に配置されている。筒状部材21および筒状部材22の詳細については後述する。
【0023】
絶縁リング23,24は、それぞれ、絶縁性材料からなる筒状部材である。絶縁リング23は、第1筒状部20Aに対して軸線方向他方側z2に隣接して配置される。絶縁リング24は、第2筒状部20Bに対して軸線方向一方側z1に隣接して配置される。
【0024】
非消耗電極25は、軸線方向z(軸線CLが延びる方向)に沿って延びる棒状の導体である。非消耗電極25は、たとえばタングステンからなる。非消耗電極25は、たとえばコンジットケーブル(図示略)を介して図示しない電源部に接続されており、被溶接物との間にアーク電圧を印加した際には被溶接物との間にアークを発生させる。
【0025】
非消耗電極25は、電極主部251および電極テーパー部252を有する。電極主部251は、外径寸法が一定とされた部位であり、非消耗電極25の先端を除いた大部分を占める。なお、電極主部251は、設計上において外径寸法が一定となるように略円柱状に形成された部位であり、製造上における多少の誤差を含み得る。電極主部251の外径寸法は特に限定されず、本実施形態においては、たとえば約1.0~4.0mmである。電極テーパー部252は、電極主部251に対して非消耗電極25の先端側(軸線方向一方側z1)につながっている。電極テーパー部252は、非消耗電極25の先端側(軸線方向一方側z1)に向かうにつれて径寸法が小とされており、略円錐形状である。
【0026】
コレットボディ26、コレット27およびコレット押え部材28は、これらが互いに協働することにより非消耗電極25を保持するものである。コレットボディ26、コレット27およびコレット押え部材28は、導電性材料よりなる。コレットボディ26、コレット27およびコレット押え部材28を構成する導電性材料としては、たとえば銅が挙げられる。
【0027】
コレット27は、非消耗電極25を囲んでいる。コレットボディ26は、コレット27の径方向外側に配置されている。また、コレットボディ26は、筒状部材21の径方向内側に配置されている。詳細な図示説明は省略するが、コレットボディ26は、筒状部材21に対して、たとえばねじ接続などにより固定されている。
【0028】
コレット押え部材28は、コレット27に対して軸線方向他方側z2に配置されている。詳細な図示説明は省略するが、コレット押え部材28は、筒状部材21に対してねじ部が螺合している。
図8に示すように、筒状部材21の上端部(軸線方向他方側z2の端部)には雌ねじ部215が形成されており、コレット押え部材28の上記ねじ部は、雌ねじ部215に螺合している。コレット押え部材28の軸線方向他方側z2にはキャップ29が設けられている。このキャップ29を回すことによって、コレット押え部材28は、コレットボディ26に対する軸線方向zの位置の調整が可能である。コレット押え部材28の軸線方向一方側z1の端部は、コレット27の軸線方向他方側z2の端部に当接している。コレット押え部材28を軸線方向一方側z1に移動させると、コレット27は軸線方向一方側z1に押し付けられる。
【0029】
コレット27は、先端側(軸線方向一方側z1)において軸線方向zに延びる複数のスリットが形成されており、隣接する相互のスリットの間に位置する複数ずつの可動片271を有する。上述のように、コレット押え部材28を軸線方向一方側z1に移動させると、コレット27は軸線方向一方側z1に押し付けられる。そして、コレット27先端の複数の可動片271がコレットボディ26の先端部に押し付けられて縮径し、コレット27が非消耗電極25を挟んで保持する。このように、コレットボディ26、コレット27およびコレット押え部材28が互いに協働することによって、非消耗電極25が保持される。
【0030】
図3に示すように、内側ノズル30は、非消耗電極25の先端部(軸線方向一方側z1の端部)の周囲に配置されている。内側ノズル30は、コレットボディ26に対して軸線方向一方側z1に配置されている。内側ノズル30は、略円筒状とされており、非消耗電極25(電極主部251)の径方向外側に配置されている。本実施形態では、内側ノズル30と非消耗電極25との間には、電極芯出し部材34が介在している。
【0031】
係止部材33は、コレットボディ26および内側ノズル30の双方に跨って外嵌されている。より具体的には、係止部材33は、コレットボディ26の軸線方向一方側z1の端部と、内側ノズル30の軸線方向他方側z2の端部とに跨って外嵌されている。図示した例において、係止部材33は、袋ナット構造とされている。
【0032】
本実施形態においては、
図3に示すように、係止部材33とコレットボディ26の軸線方向一方側z1の端部とは、ねじ接続されている。たとえばコレットボディ26の軸線方向一方側z1の端部の外周には雄ねじ部261が形成されており、係止部材33に形成された雌ねじ部331がコレットボディ26の雄ねじ部261に螺合している。一方、係止部材33の軸線方向一方側z1の部位は、内側ノズル30に外嵌されるとともに、内側ノズル30の軸線方向他方側z2の外周の大径部によって係止部材33が係止されている。これにより、内側ノズル30および係止部材33の軸線方向zへの相対移動が制限されている。
【0033】
電極芯出し部材34は、概略円筒状とされており、非消耗電極25の径方向外側で、且つ内側ノズル30の径方向内側に配置されている。内側ノズル30における軸線方向他方側z2の内周にはテーパー凹部が形成されており、このテーパー凹部に電極芯出し部材34のテーパー凸部が嵌まっている。電極芯出し部材34の内径寸法は非消耗電極25(電極主部251)の外径寸法よりも僅かに大きい。これにより、電極芯出し部材34は、非消耗電極25に対して同心円状に外嵌されている。また、内側ノズル30の上記テーパー凹部に電極芯出し部材34の上記テーパー凸部が嵌まっている。これにより、内側ノズル30は、電極芯出し部材34に対して同心円状に外嵌されている。したがって、内側ノズル30は、電極芯出し部材34を介して、非消耗電極25に対して同心円状に配置されている。
図7に示すように、電極芯出し部材34の内周部には、複数の凹溝341が形成されている。これら凹溝341は、電極芯出し部材34の周方向に一定間隔で設けられている。凹溝341が形成された部位は、非消耗電極25との間に隙間が形成されており、当該隙間が後述の第1ガス流路G1を構成している。
【0034】
本実施形態において、非消耗電極25の先端は、軸線方向zにおいて内側ノズル30の先端と一致する、あるいは内側ノズル30の先端から軸線方向一方側z1に少し突出している。非消耗電極25の先端が内側ノズル30の先端から軸線方向一方側z1に突出する突出長さは、たとえば0~2mmの範囲である。
【0035】
ノズルホルダ32は、筒状とされている。ノズルホルダ32は、コレットボディ26の軸線方向zの中間部の外周に、たとえばろう付け等の手段によって一体に連結されている。
【0036】
図3に示すように、外側ノズル31は、内側ノズル30の径方向外側に配置されている。外側ノズル31は、第1筒状部20Aに対して軸線方向一方側z1に配置されており、外側ノズル31と第1筒状部20Aとの間に絶縁リング24が介在している。図示した例では、外側ノズル31は、概略円筒状とされており、先端側(軸線方向一方側z1)が他の部位と比べて小径とされている。本実施形態において、外側ノズル31は、非消耗電極25および内側ノズル30に対して同心円状に配置されている。外側ノズル31は、たとえばノズルホルダ32の外周にねじ接続により取り付けられている。
【0037】
図3に示すように、本実施形態において、内側ノズル30の先端は、外側ノズル31の先端から軸線方向一方側z1に突出している。内側ノズル30の先端が外側ノズル31の先端から軸線方向一方側z1に突出する突出長さは、たとえば0~5mmの範囲である。
【0038】
図3~
図8に示すように、本実施形態において、溶接トーチA1には、第1ガス流路G1、第2ガス流路G2および冷却水流路Wが形成されている。
【0039】
本実施形態において、溶接トーチA1に供給される溶接用ガスは、ガス種や流量などのガス供給態様が異なる2種類の不活性ガスを含む。当該2種類の不活性ガスは、説明の便宜上、適宜「第1不活性ガス」および「第2不活性ガス」と区別する。
【0040】
第1ガス流路G1は、第1不活性ガスを流すための流路である。
図3において、第1不活性ガスの流れを二点鎖線の矢印で示す。第1ガス流路G1は、コレット27とコレットボディ26との間、非消耗電極25(電極主部251)とコレット27との間、非消耗電極25(電極主部251)とコレットボディ26との間、非消耗電極25(電極主部251)と電極芯出し部材34との間、および非消耗電極25(電極主部251)と内側ノズル30との間、にそれぞれ形成されている。
【0041】
本実施形態では、
図3、
図8に示すように、トーチボディ2(筒状部材21)には、第1不活性ガスを導入する第1ガス流入口211が設けられている。第1ガス流入口211は第1ガス流路G1に通じている。第1ガス流入口211から第1不活性ガスが導入されると、当該第1不活性ガスは、第1ガス流路G1において軸線方向他方側z2から軸線方向一方側z1に流れ、非消耗電極25(電極主部251)と内側ノズル30との間を通過した後に内側ノズル30の先端の開口から噴出する。
【0042】
第2ガス流路G2は、第2不活性ガスを流すための流路である。
図3において、第2不活性ガスの流れを点線の矢印で示す。第2ガス流路G2は、コレットボディ26と筒状部材21との間、コレットボディ26と絶縁リング24との間、ノズルホルダ32、係止部材33と外側ノズル31との間、および内側ノズル30と外側ノズル31との間、にそれぞれ形成されている。
【0043】
本実施形態では、
図3、
図8に示すように、トーチボディ2(筒状部材21)には、第2不活性ガスを導入する第2ガス流入口212が設けられている。第2ガス流入口212は第2ガス流路G2に通じている。第2ガス流入口212から第2不活性ガスが導入されると、当該第2不活性ガスは、第2ガス流路G2において軸線方向他方側z2から軸線方向一方側z1に流れ、内側ノズル30と外側ノズル31との間を通過した後に外側ノズル31の先端の開口から噴出する。
【0044】
冷却水流路Wは、冷却水を流すための流路である。
図4に示すように、冷却水流路Wは、非消耗電極25の周方向に沿って形成されている。冷却水流路Wは、主に筒状部材21と筒状部材22との間に形成されている。
【0045】
図8等を参照して、筒状部材21の第1ガス流入口211、第2ガス流入口212、凹溝213、テーパー面214および雌ねじ部215について説明する。
図8に示すように、第1ガス流入口211は、第2ガス流入口212に対して軸線方向他方側z2に位置する。第1ガス流入口211は、第1方向xに対して傾斜している。第1ガス流入口211は、第1方向xにおいて非消耗電極25に近づくにつれて軸線方向一方側z1に位置するように傾斜している。
【0046】
第2ガス流入口212は、第1方向xに対して傾斜している。第2ガス流入口212は、第1方向xにおいて非消耗電極25に近づくにつれて軸線方向一方側z1に位置するように傾斜している。筒状部材21の径方向外側にある第1筒状部20Aは、軸線方向zにおいて第1ガス流入口211および第2ガス流入口212を跨いで配置されている。
【0047】
テーパー面214には、第2ガス流入口212の開口端が位置する。テーパー面214は、非消耗電極25に近づくにつれて軸線方向他方側z2に位置するように傾斜している。
図8に示した断面において、テーパー面214と第2ガス流入口212とのなす角度は、略直角である。
【0048】
凹溝213は、筒状部材21の外周面の一部が径方向内側に凹んだ部位である。筒状部材22は、概略円筒状であり、筒状部材21の径方向外側に配置されている。筒状部材22は、凹溝213を径方向外側から塞いでいる。
図4、
図8に示すように、本実施形態においては、凹溝213とこれを塞ぐ筒状部材22との間の空間により、冷却水流路Wが構成される。また、本実施形態では、
図8に示すように、冷却水流路Wは、軸線方向zにおいて第1ガス流入口211と筒状部材22との間に位置する。
【0049】
図8に示すように、雌ねじ部215は、第1ガス流入口211に対して軸線方向他方側z2に隣接している。この雌ねじ部215には、上述のようにコレット押え部材28のねじ部が螺合している。当該ねじ部を有するコレット押え部材28は、本発明の「ねじ部材」の一例に相当する。
【0050】
図3、
図8に示すように、第1ガス配管41および第2ガス配管42は、第2筒状部20Bの内部を挿通する。第1ガス配管41は、第1ガス流路G1を流す配管であり、筒状部材21の第1ガス流入口211に通じている。第2ガス配管42は、第2ガス流路G2を流す配管であり、筒状部材21の第2ガス流入口212に通じている。第2筒状部20Bは、第1筒状部20A寄りの部位がハンドル1寄りの部位よも小径とされた括れ形状である。図示した例では、この第2筒状部20Bの括れ形状に対応して、第1ガス配管41および第2ガス配管42は適宜屈曲している。第1ガス配管41において第1ガス流入口211に通じる側の端部は、第1方向xに沿って延びる。
【0051】
図4に示すように、第1冷却水配管43および第2冷却水配管44は、第2筒状部20Bの内部を挿通する。図示した例では、第1冷却水配管43は、上述の冷却水流路Wに向けて冷却水を送るための配管である。第2冷却水配管44は、冷却水流路Wを流れた冷却水を外部に送り出すための配管である。第1冷却水配管43の第1筒状部20A側の端部は、冷却水流路Wの一方の端部に通じている。第2冷却水配管44の第1筒状部20Aの端部は、冷却水流路Wの他方の端部に通じている。これにより、
図4に示すように、冷却水は、第1冷却水配管43、冷却水流路W、第2冷却水配管44の順に流れる。
図4において、冷却水の流れを実線の矢印で表す。
【0052】
溶接トーチA1に供給される第1不活性ガスおよび第2不活性ガスの各々のガス種は特に限定されず、たとえばアルゴン(Ar)ガスおよびヘリウム(He)ガスより選択される少なくとも1種を含むガスである。溶接トーチA1に供給される第1不活性ガスのおよび第2不活性ガスの流量は、溶接条件等により適宜個別に調整される。
【0053】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0054】
本実施形態の溶接トーチA1は、軸線方向zに延びる非消耗電極25と、内側ノズル30と、外側ノズル31と、を備えている。内側ノズル30は、非消耗電極25の径方向外側に同心円状に配置されており、非消耗電極25と内側ノズル30との間には、第1ガス流路G1が形成されている。外側ノズル31は、内側ノズル30の径方向外側に配置されており、内側ノズル30と外側ノズル31との間には、第2ガス流路G2が形成されている。このような構成によれば、溶接作業時には、第1ガス流路G1を流れて内側ノズル30の先端から噴出する第1不活性ガスがプラズマガスとして機能し、かつ第2ガス流路G2を流れて外側ノズル31の先端から噴出する第2不活性ガスがシールドガスとして機能する。これにより、被溶接物と非消耗電極25先端との間に発生するアークが絞られ、エネルギ密度の高いアーク(プラズマアーク)を利用して、溶接を効率よく行うことができる。
【0055】
トーチボディ2は、内側ノズル30に対して軸線方向他方側z2に配置されている。トーチボディ2(筒状部材21)は、第1ガス流路G1に通じる第1ガス流入口211と、第2ガス流路G2に通じる第2ガス流入口212と、を有する。第1ガス流入口211は、第2ガス流入口212に対して軸線方向他方側z2に位置する。第1ガス流入口211は、軸線方向zと直交する第1方向xにおいて非消耗電極25に近づくにつれて軸線方向一方側z1に位置するように傾斜している。このような構成によれば、トーチボディ2(筒状部材21)に設けられた第1ガス流入口211の開口端を、軸線方向zにおいて内側ノズル30側(軸線方向一方側z1)に近づけることが可能である。これにより、トーチボディ2(第1筒状部20A)の軸線方向zの寸法を小さくすることができ、溶接トーチA1の小型化を図ることができる。本実施形態の溶接トーチA1は、作業者が手で把持して溶接作業を行うハンド仕様である。溶接トーチA1の小型化は作業者の負担軽減に寄与し、溶接作業の向上が期待できる。
【0056】
本実施形態において、第2ガス流入口212は、第1方向xにおいて非消耗電極25に近づくにつれて軸線方向一方側z1に位置するように傾斜している。このような構成によれば、第2ガス流入口212の開口端が位置する部位をたとえばテーパー面214とすることで、筒状部材21(トーチボディ2)における第2ガス流入口212の周辺部の小型化を図ることができる。
【0057】
筒状部材21(トーチボディ2)は、雌ねじ部215を有する。雌ねじ部215は、第1ガス流入口211に対して軸線方向他方側z2に隣接している。溶接トーチA1は、雌ねじ部215に螺合するコレット押え部材28(ねじ部材)を備える。このような構成によれば、雌ねじ部215の軸線方向zの長さを確保しつつコレット押え部材28の取り付け位置を軸線方向他方側z2にシフトさせることができる。そして、雌ねじ部215に螺合するコレット押え部材28によって第2ガス流入口212が塞がれるのを回避することができる。このような構造は、溶接トーチA1の小型化を図る上でより好ましい。
【0058】
トーチボディ2は、冷却水流路Wを有する。冷却水流路Wは、軸線方向zにおいて第1ガス流入口211と筒状部材22との間に位置しており、非消耗電極25の周方向に沿って形成されている。このような構成によれば、溶接トーチA1の小型化を図りつつ、溶接トーチA1において冷却機能を持たせることができる。
【0059】
トーチボディ2は、第1筒状部20A、およびこの第1筒状部20Aにつながる第2筒状部20Bを含む。第1筒状部20Aは、軸線方向zに沿って延びており、第2筒状部20Bは軸線方向zに対して交差する方向に延びている。第1筒状部20Aは、軸線方向zにおいて第1ガス流入口211および第2ガス流入口212を跨いで配置されている。また、第2筒状部20Bの内部を挿通する第1ガス配管41および第2ガス配管42が設けられている。第1ガス配管41は第1ガス流入口211に通じており、第2ガス配管42は第2ガス流入口212に通じている。このような構成によれば、第1ガス配管41および第2ガス配管42を介して、第1ガス流路G1および第2ガス流路G2に異なるガス(たとえば上記の第1不活性ガスおよび第2不活性ガス)を適切に供給することができる。
【0060】
本実施形態において、溶接トーチA1は、電極芯出し部材34および係止部材33を備える。電極芯出し部材34は、非消耗電極25に対して同心円状に外嵌されている。また、内側ノズル30は、電極芯出し部材34に対して同心円状に外嵌されている。これにより、内側ノズル30は、電極芯出し部材34を介して、非消耗電極25に対して同心円状に配置されている。係止部材33は、コレットボディ26の軸線方向一方側z1の端部と、内側ノズル30の軸線方向他方側z2の端部とに跨って外嵌されており、コレットボディ26および内側ノズル30の双方に係止する。このような構成によれば、係止部材33とコレットボディ26あるいは内側ノズル30との間には径方向に多少の融通を持たせることができる。したがって、たとえば非消耗電極25が製造誤差等に起因して多少曲がっていても、内側ノズル30を非消耗電極25に対して同心円状に配置することができる。
【0061】
また、内側ノズル30が非消耗電極25の径方向外側に同心円状に配置されているため、非消耗電極25と内側ノズル30との間の第1ガス流路G1を流れるガス(第1不活性ガス)については、非消耗電極25の周囲において略均一で比較的に高速な気流となって、内側ノズル30先端の開口から噴出する。これにより、亜鉛めっき鋼板などの低溶融金属よりなる被溶接物を溶接する場合においても、非消耗電極25の周囲を流れた高速気流の第1不活性ガスによって、溶接時に生じたヒューム等が吹き飛ばされる。したがって、非消耗電極25先端や内側ノズル30先端へのヒューム等の付着を防止することができる。
【0062】
さらに、非消耗電極25の先端は軸線方向zにおいて内側ノズル30の先端と一致する、あるいは内側ノズル30の先端から軸線方向一方側z1に少し突出している。非消耗電極25の先端が内側ノズル30の先端から軸線方向一方側z1に突出する突出長さは、0~2mmの範囲である。このような非消耗電極25の先端位置によれば、非消耗電極25と内側ノズル30との隙間については内側ノズル30の軸線方向zの中間から先端近傍に至る範囲において略一定に狭く保たれる。したがって、非消耗電極25の周囲を流れる高速気流の第1不活性ガスは、内側ノズル30先端の開口から、流速が殆ど低下せずに噴出する。このことは、非消耗電極25先端や内側ノズル30先端へのヒューム等の付着を防止する上で好ましい。また、上述の作用効果は内側ノズル30の形状や配置の工夫により実現され、溶接トーチA1の構造を比較的簡素にし、かつ溶接トーチA1の先端部の小型化を図ることが可能である。
【0063】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の範囲は上記した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した事項の範囲内でのあらゆる変更は、すべて本発明の範囲に包摂される。
【0064】
上記実施形態の溶接トーチA1において、外側ノズル31が内側ノズル30に対して同心円状に配置される場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。外側ノズル31が内側ノズル30に対して径方向にオフセットして配置されていてもよい。また、上記実施形態の溶接トーチA1は、作業者が手で把持して溶接作業を行うハンド仕様として構成される場合の一例であったが、本発明はこれに限定されない。本発明に係る溶接トーチは、たとえば溶接ロボット(多関節ロボットなど)に装備されるロボット仕様として構成してもよい。
【符号の説明】
【0065】
A1:溶接トーチ、2:トーチボディ、20A:第1筒状部、20B:第2筒状部、211:第1ガス流入口、212:第2ガス流入口、215:雌ねじ部、25:非消耗電極、28:コレット押え部材(ねじ部材)、30:内側ノズル、31:外側ノズル、41:第1ガス配管、42:第2ガス配管、G1:第1ガス流路、G2:第2ガス流路、W:冷却水流路、z:軸線方向、z1:軸線方向一方側、z2:軸線方向他方側、x:第1方向