IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NECマグナスコミュニケーションズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ロボット用フィンガー装置 図1
  • 特開-ロボット用フィンガー装置 図2
  • 特開-ロボット用フィンガー装置 図3
  • 特開-ロボット用フィンガー装置 図4
  • 特開-ロボット用フィンガー装置 図5
  • 特開-ロボット用フィンガー装置 図6
  • 特開-ロボット用フィンガー装置 図7
  • 特開-ロボット用フィンガー装置 図8
  • 特開-ロボット用フィンガー装置 図9
  • 特開-ロボット用フィンガー装置 図10
  • 特開-ロボット用フィンガー装置 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065578
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】ロボット用フィンガー装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/08 20060101AFI20240508BHJP
【FI】
B25J15/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174518
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】390010386
【氏名又は名称】NECマグナスコミュニケーションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085660
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 均
(72)【発明者】
【氏名】加藤 諒太
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS01
3C707DS01
3C707ES03
3C707ET02
3C707ET04
3C707EU02
3C707EU14
3C707GU00
(57)【要約】
【課題】部品点数の少ない簡素、且つ省スペースな構造であり、アクチュエータを用いることなくワークの把持、及びリリース動作を実現できるロボット用フィンガー装置を提供する。
【解決手段】鋏状に連結された2つのフィンガー片60、80と、各フィンガー片を閉止方向へ弾性付勢する弾性部材110と、を備え、把持部間に物体Wが圧入されたときに弾性部材による付勢に抗して各把持部を開放させて物体を把持した状態を維持する開閉フィンガーユニット50と、開放方向へ操作された時に各フィンガー片を弾性部材に抗して開放させる強制開放力伝達機構150と、強制開放力伝達機構を開放方向へ作動させるリリース手段200と、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部に把持部を備え、且つ他部に被作動部を夫々備えた2つのフィンガー片と、前記2つのフィンガー片を夫々の中間部で略X字状に交差させた状態で鋏状に開閉自在に連結する回動支点と、前記各把持部同士を圧接させる閉止方向に前記各フィンガー片を弾性付勢する弾性部材と、を備え、閉止状態にある前記各把持部間に物体が圧入されたときに前記弾性部材による付勢に抗して前記各把持部が押し広げられて前記物体を把持する開閉フィンガーユニットと、
前記各フィンガー片の被作動部に連結されると共に、開放方向へ操作された時に前記各フィンガー片を前記弾性部材による付勢に抗して強制的に開放方向へ回動させ、前記開放方向への操作が解除された時に前記弾性部材による付勢力により前記各フィンガー片を閉止方向に回動させる強制開放力伝達機構と、
前記強制開放力伝達機構を開放方向へ作動させて前記各把持部が把持した前記物体をリリースするリリース手段と、
を備えていることを特徴とするロボット用フィンガー装置。
【請求項2】
前記強制開放力伝達機構は、前記各フィンガー片の被作動部に夫々連結されたギヤ機構と、該ギヤ機構に連結されると共に前記リリース手段により操作される被リリース部材と、を備えていることを特徴とする請求項1に記載のロボット用フィンガー装置。
【請求項3】
前記被リリース部材は、ベース部材に設けた回動軸を中心として回動するリリースレバーを備え、
前記ギヤ機構は、前記リリースレバーの回動軸に固定されて一体回転する第1のギヤと、
一方の前記フィンガー片の被作動部により一部を回動自在に軸支され、且つ他部に該第1のギヤのギヤ部と噛合するギヤ部を備えた第1のラックギヤと、
前記第1のギヤと隣接した前記ベース部材上に設けた軸により回動自在に軸支されて該第1のギヤと噛合する第2のギヤと、他方の前記フィンガー片の被作動部により一部を回動自在に軸支され、且つ他部に該第2のギヤのギヤ部と噛合するギヤ部を備えた第2のラックギヤと、を備えていることを特徴とする請求項2に記載のロボット用フィンガー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボット用フィンガー装置、特に産業ロボットや協働ロボットに適したフィンガー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製造ライン、物流ライン等においては、自動化のために各種ワークをピックアップしたり、把持したワークをラインに投入する等の種々の目的のために各種の産業ロボット(ハンドリングロボット)が導入されている。産業ロボットはロボットアームを備え、その先端にはワークを着脱するロボットフィンガー装置が設けられている。
【0003】
特許文献1の「産業用ロボットのハンド装置」には、ボールねじと、ボールねじの回転により軸方向へ進退するナットと、ナットと共に軸方向移動するブロックにより回転自在に支持されたカムフォロアと、ハンド装置のフレームに設けた水平軸により基端部を揺動自在に軸支された複数のフィンガーと、を備え、各フィンガーの基端部に設けた突部をカムフォロアに連動させることで各フィンガーを開閉動作させる構成が開示されている。
しかし、このハンド装置におけるフィンガーの開閉機構は部品点数が多く、しかも構造が複雑化するという問題がある。
【0004】
次に、特許文献2「電子部品取付け用グリッパー装置」は、ワークの中心に向かって水平移動する支持部と、支持部と共に移動し、ワークを把持する左右一対のフィンガーと、フィンガー同士を水平方向へ接近させる弾性手段と、各フィンガー間に配置されて上下動作してフィンガーを開閉させるカムと、を備えている。カムが上昇することで、フィンガーの把持力を開放する。ワークを把持する際には、カムが作用しない位置に退避する。
しかし、このグリッパー装置は、フィンガーを水平移動させるための構造が複雑、大型化し、またフィンガーによる把持はバネ力のみに依存しているため、把持力の微調整ができないという問題点を有する。更に、把持力の開放にアクチュエータが必要となり、その分だけ重量が増加し、配線が必要となり、動作環境への配慮が必要となるという問題点も有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-073823公報
【特許文献2】特開2010-142941公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、部品点数の少ない簡素、且つ省スペースな構造であり、アクチュエータを用いることなくワークの把持動作、及びリリース動作を実現できるロボット用フィンガー装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明のロボット用フィンガー装置は、一部に把持部を備え、且つ他部に被作動部を夫々備えた2つのフィンガー片と、前記2つのフィンガー片を夫々の中間部で略X字状に交差させた状態で鋏状に開閉自在に連結する回動支点と、前記各把持部同士を圧接させる閉止方向に前記各フィンガー片を弾性付勢する弾性部材と、を備え、閉止状態にある前記各把持部間に物体が圧入されたときに前記弾性部材による付勢に抗して前記各把持部が押し広げられて前記物体を把持する開閉フィンガーユニットと、前記各フィンガー片の被作動部に連結されると共に、開放方向へ操作された時に前記各フィンガー片を前記弾性部材による付勢に抗して強制的に開放方向へ回動させ、前記開放方向への操作が解除された時に前記弾性部材による付勢力により前記各フィンガー片を閉止方向に回動させる強制開放力伝達機構と、前記強制開放力伝達機構を開放方向へ作動させて前記各把持部が把持した前記物体をリリースするリリース手段と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アクチュエータを用いることなくワークの把持動作、及びリリース動作を実現できるロボット用フィンガー装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(a)(b)及び(c)は本発明の一実施形態に係るロボット用フィンガー装置におけるフィンガー片の閉止状態を示す正面側斜視図、正面側ベース部材を除去した正面側斜視図、及び要部拡大図である。
図2】フィンガー片がワークを把持した状態を示す正面側斜視図である。
図3】(a-1)(b-1)はギヤ機構、及びフィンガー片の開閉動作を示す正面図(正面側ベース部材を省略)であり、(a-2)(b-2)はギヤ機構、及びフィンガー片の開閉動作を示す背面図(背面側ベース部材有り)である。
図4】(a)(b)及び(c)はリリース手段が把持を強制解除する際のギヤ機構、及びフィンガー片の開閉動作手順を示した背面側斜視図である。
図5】(a-1)(b-1)及び(c-1)は把持を強制解除する際のギヤ機構、及びフィンガー片の開閉動作を示す背面図(背面側ベース部材あり)であり、図5(a-2)(b-2)及び(c-2)は把持を強制解除する際のギヤ機構、及びフィンガー片の開閉動作を示す背面図(背面側ベース部材を省略)である。
図6】(a)(b)及び(c)はワークWを把持し、把持を強制解除するまでのギヤ機構、及びフィンガー片のみの動作状態を示した背面図である。
図7】フィンガー片により把持したワークWをリリースする状態を示す説明図である。
図8】フィンガー装置の正面側分解斜視図である。
図9】フィンガー装置の背面側分解斜視図である。
図10】(a)乃至(d)はフィンガー片により把持したワークをピッキングしてからリリースするまでの工程を示す説明図である。
図11】変形実施形態に係るフィンガー装置の構成、及びこれを製造ラインに適用した場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0011】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1(a)(b)及び(c)は本発明の一実施形態に係るロボット用フィンガー装置におけるフィンガー片の閉止状態を示す正面側斜視図、正面側ベース部材を除去した正面側斜視図、及び要部拡大図であり、図2はフィンガー片がワークを把持した状態を示す正面側斜視図である。図3(a-1)(b-1)はギヤ機構、及びフィンガー片の開閉動作を示す正面図(正面側ベース部材を省略)であり、同(a-2)(b-2)はギヤ機構、及びフィンガー片の開閉動作を示す背面図(背面側ベース部材有り)である。図4(a)(b)及び(c)はリリース手段が把持を強制解除する際のギヤ機構、及びフィンガー片の開閉動作手順を示した背面側斜視図である。図5(a-1)(b-1)及び(c-1)は把持を強制解除する際のギヤ機構、及びフィンガー片の開閉動作を示す背面図(背面側ベース部材あり)であり、図5(a-2)(b-2)及び(c-2)は把持を強制解除する際のギヤ機構、及びフィンガー片の開閉動作を示す背面図(背面側ベース部材を省略)である。図6(a)(b)及び(c)はワークWを把持してから把持を強制解除するまでのギヤ機構、及びフィンガー片のみの動作状態を示した背面図であり、図7はフィンガー片により把持したワークWをリリースする状態を示す説明図である。図8はロボット用フィンガー装置の正面側分解斜視図であり、図9は同フィンガー装置の背面側分解斜視図である。
【0012】
[基本構成]
ロボット用フィンガー装置(以下、フィンガー装置、という)1は、ロボットアームの先端に取付けられる取付けベース部10と、取付けベース部10の取付け部11、12に夫々ビスにより固定された正面側ベース板(ベース部材)20、及び背面側ベース板(ベース部材)30と、各ベース板20、30間に配置された開閉フィンガーユニット50と、開閉フィンガーユニット50を構成する各フィンガー片60、80を強制的に開放させる力を各フィンガー片に伝達する強制開放力伝達機構150と、強制開放力伝達機構を開放方向(把持解除方向)へ作動させたり、閉止方向へ作動させる(各フィンガー片の開放状態を解除する)リリース手段(リリース機構)200と、を概略備えている。
【0013】
開閉フィンガーユニット50は、先端(一部、一端部)に把持部62、82を夫々備え、且つ基端部(他部、他端部)に被作動部64、84を夫々備えた2つのフィンガー片(第1のフィンガー片、及び第2のフィンガー片)60、80と、2つのフィンガー片60、80を夫々の中間部でX字状に交差させた状態で鋏状に開閉自在に連結する回動支点100と、各把持部62、82同士を圧接(接近)させる閉止方向に各フィンガー片を弾性付勢する圧接用(把持用)の弾性部材110と、を備える。開閉フィンガーユニット50は、閉止(圧接)状態にある把持部62、82間に物体(ワーク)Wが圧入されたときに弾性部材110による付勢に抗して各把持部が押し広げられて必要最小限だけ開放して物体を把持し、その把持状態を維持する手段である。
【0014】
回動支点100は、両ベース板20、30間に固定された軸部100aと、各フィンガー片の中間部に貫通形成された穴100bと、から構成され、軸部100aを各穴100bに挿通することにより、各フィンガー片は鋏状に開閉する。
【0015】
各フィンガー片の先端に設けられた把持部62、82は、図1(c)に示すように閉止した状態において各把持部の突き合わせ部に三角形状(V字溝状)の切欠き部(凹部)Cが形成されるように構成する。この切欠き部Cは、図1に示した各フィンガー片の閉止状態においてワークを切欠き部内に圧入した時にワーク外面と切欠き部の傾斜した内壁との間に発生する開放方向への力により各フィンガー片を押し広げる(離間させる)ように構成する。
弾性部材110は、把持部62、82間に端部を固定されて各把持部間を接近させる方向へ付勢する引張りコイルバネである。
【0016】
強制開放力伝達機構150は、各フィンガー片60、80の被作動部64、84に夫々連結されると共に、リリース手段200が開放方向(各フィンガー片を開放させる方向)へ操作された時にリリース手段からの開放操作力を各フィンガー片に伝達し、弾性部材110による閉止方向(各フィンガー片を閉止させる方向)への付勢力に抗して各フィンガー片を強制的に開放方向へ回動させる一方で、リリース手段に対する開放方向への操作が解除された時には弾性部材110による付勢力により各フィンガー片を閉止方向(閉止位置)へ復帰させる手段である。
強制開放力伝達機構150は、各フィンガー片の被作動部に夫々連結されたギヤ機構152と、ギヤ機構に連結されると共にリリース手段200により操作されるリリースレバー(被リリース部材)185と、を備えている。
【0017】
ギヤ機構152は、リリースレバー185の回動軸(被リリース部材)180に軸芯を一体化された第1のギヤ160と、第1のフィンガー片60の被作動部64に設けた軸部64aにより一部(下部)を回動自在に軸支され、且つ他部(上部)に第1のギヤのギヤ部160aと噛合するギヤ部165aを有した第1のラックギヤ165と、ベース板20、30上の第1のギヤ160と隣接した位置に設けた軸25により回動自在に軸支されて第1のギヤのギヤ部160aと噛合するギヤ部170aを有した第2のギヤ170と、第2のフィンガー片80の被作動部84に設けた軸部84aにより一部を回動自在に軸支され、且つ他部に第2のギヤのギヤ部170aと噛合するギヤ部175aを備えた第2のラックギヤ175と、を概略備えている。
【0018】
第1のラックギヤ165の下面は、ベース板30から突設された軸部26により中心孔を軸支されたガイドローラ166の外周面に接しており、第1のラックギヤはガイドローラ166の外周面に沿って所定の軌道に沿って揺動する(図5図6)。同様に、第2のラックギヤ175の下面は、ベース板20から突設された軸部27により中心孔を軸支されたガイドローラ176の外周面に接しており、第2のラックギヤはガイドローラ176の外周面に沿って揺動する。
【0019】
リリース手段(リリース機構)200は、ベース板20、30に設けた軸穴21、31により回動自在に支持された回動軸180の端部にL字状に一体化されたリリースレバー185を押圧したり、押圧を解除することによりリリースレバーを図4(b)、図5(b-1)(b-2)等に示した第1の位置(把持位置)と、図4(c)図5(c-1)(c-2)に示した第2の位置(把持解除位置、開放位置)との間で回動させる解除部材(解除バー)202を備える。更に、リリース手段は、常時(フィンガー片の閉止時)においては伸長した状態にあって解除部材202を非押圧位置(下降位置)に退避させておく一方で、解除部材が押上げられた時に自らが圧縮しながら解除部材を上方へ移動させる(フィンガー片の開放方向へ移動させる)ことを許容する解除用弾性部材(圧縮コイルバネ)204を備える。
【0020】
解除部材202は、背面側のベース板30に設けた上下のガイドリング33a、33bの挿通穴内に挿通されて直線的に上下動する。解除部材202は、下部適所にフランジ202aが固定配置されており、解除用弾性部材204はフランジ202aと上側のガイドリング33aとの間に配置されていて拡開する方向へ付勢しているため、常時においては解除部材が図5(a-1)(a-2)に示した非押圧位置(下降位置)にある。解除部材202の下端部に対して外部からこれを押し上げる力が作用した時には解除用弾性部材204の拡開力に抗して解除部材は上昇して図5(b-1)(b-2)に示した中間位置を経てリリースレバーを押し上げる(図5(c-1)(c-2))。
【0021】
[把持動作、及びリリース動作]
以上の構成を備えたフィンガー装置1によりワークWをピッキング(把持)したり、ピッキングしたワークをリリースする動作について説明する。
図10はロボットアーム350に取り付けたフィンガー装置1を、工場等のラインにおいてワークWのピッキング、及びリリース作業に適用する場合の構成例を示している。この例では、ベルトコンベアー360上を搬送されるワークWの移動経路の上方にフィンガー装置1を配置すると共に、移動経路の側方にリリース場所300としてのボックスを配置する。
以下、図10を併せて参照しながらピッキング、及びリリース動作について説明する。
【0022】
図1(a)、図3(a-1)(a-2)、図10(a)等に示したようにワークを把持していない状態においては弾性部材110の付勢力により各フィンガー片60、80は図示したような閉止状態を維持している。この閉止状態においてロボットアームによりフィンガー装置1をワークW上に下降させて各フィンガー片先端の切欠き部C内にワークWを圧入させると、図2図3(b-1)(b-2)等に示すように、弾性部材110の付勢に抗して把持部62、82が押し広げられることにより各フィンガー片が回動支点100を中心として回動する。これだけの動作によりワークを把持部間で把持し、落下しないようにすることができる。把持動作が行われている期間、ギヤ機構152を構成する各ギヤ160、165、170、175は、各フィンガー片の把持部が押し広げられることに伴って若干回動する。この把持動作が行われている期間、リリースレバー185は図3(b-2)に示したように若干上向きに回動する。そのため解除用弾性部材204により下向きに付勢されている解除部材202の上端とリリースレバー185との間には若干の隙間が生じることになる。
【0023】
次に、フィンガー片により把持したワークWをリリースする場合には、図7図10に示すようにロボットアーム350によりフィンガー装置1をリリース場所300に移動し、リリース場所の直近に設けられた突き当て部302の直上に解除部材202の下端部を位置させる。続いて、フィンガー装置1を所定距離下降させると、解除部材202は解除用弾性部材204を押し潰しながら押し上げられて図4(b)、図5(b-1)(b-2)に示すように第1の位置(把持位置)にあるリリースレバー185に当接する。フィンガー装置1をさらに所定距離下降させると、解除部材202は押し上げられてリリースレバー185を図4(c)、図5(c-1)(c-2)に示した第2の位置(把持解除位置、開放位置)に回動させる。
【0024】
リリースレバー185が第1の位置から第2の位置に回動すると、図6(b)(c)に示すようにギヤ機構を構成する各ギヤ160、165、170、175、及び各フィンガー片60、80は矢印で示した開放方向へ回動するため、各把持部62、82が更に大きく開放され、それまで把持していたワークを落下させる。
【0025】
把持していたワークが落下を完了したタイミングでフィンガー装置1を上昇させて突き当て部302から解除部材202の下端部に対する押圧力を解消させると、解除用弾性部材204が拡開して解除部材を各ガイドリング33a、33bに沿って下降させる(図4(c)→(b)→(a)、図5(c-1)→(b-1)→(a-1)、同図(c-2)→(b-2)→(a-2))。この過程で上向きに傾斜した作動位置にあったリリースレバー185は、ギヤ機構を介して伝達される弾性部材110の復帰力により下向きに傾斜した非作動位置に復帰する。すると、リリースレバー185と一体の回動軸180に固定された第1のギヤ160が図6(c)に矢印で示した開放方向とは逆の閉止方向へ回動し、第1のギヤと噛合する第1のラックギヤ165が同図中に矢印で示した開放方向とは逆の閉止方向へ回動し、第1のフィンガー片60を閉止方向へ回動させる。また、閉止方向へ回転する第1のギヤは常時噛合している第2のギヤ170を閉止方向へ回転させるため、第2のラックギヤ175が閉止方向へ回動し、第2のフィンガー片80を閉止方向へ回動させる。
第1と第2のフィンガー片の閉止動作は同時に行われる。
【0026】
このピッキング、及びリリース動作を図10の構成例により更に説明すれば、図10(b)に示すように、ベルトコンベアー360上のワークW上にフィンガー装置1を下降させてピッキングしてから上昇させてリリース場所300の方向へ移動させる(図10(c))。この際、解除部材202の下端部が突き当て部302の直上となるようにフィンガー装置を移動させ、その後下降させることにより解除部材を押し上げてリリースレバー185を第2の位置に回動させる(図10(d))。この操作によりフィンガー片により把持されていたワークはスムーズにリリース場所300に落下して収納される。
【0027】
[変形実施形態]
図11は変形実施形態に係るロボット用フィンガー装置の説明図であり、工場等のラインにおいて一つのロボットアームに複数のフィンガー装置を取り付けた例を示している。
この構成例によれば、一つのロボットアーム350に3個のフィンガー装置1を取り付けることにより、同時に3個のワークをピッキングしてからリリース場所300に移動し、一括してリリースすることが可能になる。
仮に、フィンガー片の開閉動作をモータ等のアクチュエータを用いて実施する構成とした場合、一つのロボットアームに複数個のフィンガー装置を搭載するとすれば、次のような問題点が発生する。
【0028】
まず、ロボットアームの大型化、強度、及び出力の増大に限界がある場合には、モータを搭載したことにより大型化したフィンガー装置を搭載する個数に制限が生じる。
また、個々のフィンガー装置を制御するための制御ポートが搭載しようとするフィンガー装置の個数分だけ必要となるため配線が複雑化する。従って、仮に、ロボットアームの強度、出力に余裕があったとしても、ポート配線などの制限から搭載個数に制限が生じ得る。
これに対して本発明のフィンガー装置1によれば、モータ等を搭載しないために軽量化でき、ポート配線の複雑化を回避できるので、ロボットアームを大型化したり強度をアップさせることなく、複数個のフィンガー装置を容易に搭載できる。その際、フィンガー装置を単純にロボットアームに搭載すれば良く、多数のフィンガー装置を搭載したとしても、コンベア上を並行して搬送されてきたワークを一気にピックアップしたり、落下させることができる。このため、処理速度を大幅に向上できる。
【0029】
[実施形態の作用、効果]
本実施形態では、フィンガー片はその先端をワークに対して押し付ける時に開放させられる構成であり、把持する時にフィンガー片を開放させるための駆動源や機構は存在しない。ワークを把持した後はそのまま把持し続けることができ、解除部材202を開放方向へ移動させることにより初めて把持状態を解除してワークをリリースすることができる。
このようにフィンガー片の把持部を閉じた状態でワークに押し付けてチャックし、そのまま持ち上げて投入箇所に移動し、そこでフィンガー片を開放してワークを落とす動作が格別のアクチュエータを用いずに実現可能になる。
【0030】
鋏状に開閉自在に軸支された2つのフィンガー片とリリース手段200とをギヤ機構152により連結し、リリース手段によるリリース力をギヤ機構を介してフィンガー片に伝達するように構成したため、両フィンガー片を同期して均等に開くことができ、ワークのリリースタイミングを正確に行い、正確な位置に落下させることができる。
【0031】
フィンガー装置1においてフィンガー片が把持する力を変更するには、弾性部材110の弾発力を変更したり、フィンガー片の長さを変えれば良い。モータによりフィンガーを開閉させるとすれば、モータの出力の計算が必要となり煩雑であるが、本実施形態ではそのような煩雑さを回避できる。
部品点数が少なく、シンプルな構造であるため、使用環境、条件に応じた設計変更が容易であり、把持力やサイズ等のカスタマイズを安価に実施できる。
アクチュエータを使用しない構造であるため、従来同様の機能を持ったフィンガー装置と比較して安価、且つ軽量である。軽量であることにより、ロボットアーム等のペイロード増加に寄与する。即ち、フィンガー装置を保持するロボットアームの強度、重量を低下させることができる。
アクチュエータを使用していないため作動油が不要となり、機械油を排除したい箇所で活用することができる。そのため、対環境的な配慮が不要となり、真空、高圧、水中、高温、高湿、低温環境下で確実に動作する安価な機構を提供することができる。
【0032】
軽量であり、かつ制御が不要である為、ロボットアーム側で追加のポートを用意する必要がなく、単純に多数のフィンガー装置をロボットアームに並列に配置するだけで、多数のワークを同時にピッキングする構造を容易に構築できる。
単純な構成で、かつ比較的硬質なワークのピッキング作業にも充分に対応することが可能である。
フィンガー装置を製品化するためには、耐久性を含めた各種性能の評価を行う必要がある。特に、モータ等の電磁部品についてはその評価に多大な手数を要している。本実施形態では電磁部品としてのモータを使用しないため、耐久性等の評価が非常に楽になる。
【0033】
〔本発明の構成、作用、効果のまとめ〕
第1の本発明に係るロボット用フィンガー装置1は、一部に把持部62、82を備え、且つ他部に被作動部64、84を夫々備えた2つのフィンガー片60、80と、2つのフィンガー片を夫々の中間部で略X字状に交差させた状態で鋏状に開閉自在に連結する回動支点100と、各把持部同士を圧接させる閉止方向に各フィンガー片を弾性付勢する弾性部材110と、を備え、閉止状態にある各把持部間に物体Wが圧入されたときに弾性部材による付勢に抗して各把持部が押し広げられて物体を把持する開閉フィンガーユニット50と、各フィンガー片の被作動部に連結されると共に、開放方向へ操作された時に各フィンガー片を弾性部材による付勢に抗して強制的に開放方向へ回動させ、開放方向への操作が解除された時に弾性部材による付勢力により各フィンガー片を閉止方向に回動させる強制開放力伝達機構150と、強制開放力伝達機構を開放方向へ作動させて前記各把持部が把持した前記物体をリリースするリリース手段200と、を備えていることを特徴とする。
各フィンガー片の把持部の中央部(境界部)をワークに押し当てることでフィンガー片が押し広げられ、弾性部材のばね力によってワークを保持する簡単な構造としている。ワークをリリースする時には、別に設けたリリース手段を外側から操作する。アクチュエータを用いることなくワークの把持・リリースを実現できる。把持のテンションは弾性部材110に依存する。
リリース手段は、把持したワークをリリースするためにフィンガー片を開放する操作に関与している。一旦強制開放力伝達機構の開放方向への作動が行われれば、あとは弾性部材の付勢力だけでフィンガー片が迅速、且つ効率的に閉止する。
【0034】
第2の本発明に係るロボット用フィンガー装置1では、強制開放力伝達機構150は、各フィンガー片の被作動部に夫々連結されたギヤ機構152と、該ギヤ機構に連結されると共にリリース手段により操作される被リリース部材185と、を備えていることを特徴とする。
リリース手段200が操作されると被リリース部材、ギヤ機構152が連動してフィンガー片を開放させる方向へ回転する。リリース手段200は、リリースポイント近くに配置した壁などに押し当てることで操作を行う。
【0035】
第3の本発明に係るロボット用フィンガー装置1では、被リリース部材は、ベース部材20、30に設けた回動軸180を中心として回動するリリースレバー185を備え、ギヤ機構152は、リリースレバーの回動軸に固定されて一体回転する第1のギヤ160と、一方のフィンガー片の被作動部により一部を回動自在に軸支され、且つ他部に該第1のギヤのギヤ部と噛合するギヤ部を備えた第1のラックギヤ165と、第1のギヤと隣接したベース部材上に設けた軸により回動自在に軸支されて該第1のギヤと噛合する第2のギヤ170と、他方のフィンガー片の被作動部により一部を回動自在に軸支され、且つ他部に該第2のギヤのギヤ部と噛合するギヤ部を備えた第2のラックギヤ175と、を備えていることを特徴とする。
フィンガー片を強制開放するためにリリース手段200を操作するとリリースレバーが開放方向に回動し、第1のギヤ→第1のラックギヤ→第1のフィンガー片60、第2のギヤ→第2のラックギヤ→第2のフィンガー片80の順で回転力を伝達する。
【符号の説明】
【0036】
1…フィンガー装置、10…取付けベース部、20、30…ベース板(ベース部材)、21、31…軸穴、25…軸、26…軸部、27…軸部、33a、33b…ガイドリング、50…開閉フィンガーユニット60、80…フィンガー片、62、82…各把持部、64、84…被作動部、64a、84a…軸部、100…回動支点、100a…軸部、100b…穴、110…弾性部材、150…強制開放力伝達機構、152…ギヤ機構、160…第1のギヤ、160a…ギヤ部、165…第1のラックギヤ、165a…ギヤ部、166…ガイドローラ、170…第2のギヤ、170a…ギヤ部、175…第2のラックギヤ、175a…ギヤ部、176…ガイドローラ、180…回動軸(被リリース部材)、185…リリースレバー(被リリース部材)、200…リリース手段(リリース機構)、202…解除部材、202a…フランジ、204…解除用弾性部材、300…リリース場所、302…突き当て部、350…ロボットアーム、360…ベルトコンベアー。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11