(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006565
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】逐次成形方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/18 20060101AFI20240110BHJP
B21D 24/00 20060101ALI20240110BHJP
B21D 22/06 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B21D22/18
B21D24/00 H
B21D22/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107592
(22)【出願日】2022-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 孝邦
(72)【発明者】
【氏名】三輪 紘敬
(72)【発明者】
【氏名】宮本 健二
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA07
4E137AA10
4E137AA17
4E137BA05
4E137BB01
4E137CA05
4E137DA13
4E137EA16
4E137FA08
4E137FA22
4E137GA01
4E137HA08
(57)【要約】
【課題】従来の逐次成形方法では、成形品の形状精度を高めることが難しいという問題点があった。
【解決手段】周囲を保持した金属板Wの一方の主面に棒状工具Tの先端を押し付けて移動させることにより、金属板Wを三次元形状に成形する逐次成形方法において、金属板Wの他方の主面側に配置した受台2を用い、受台2が、棒状工具Tの先端面に相対向する平面2Sを有すると共に、少なくとも金属板Wに対して進退可能であり、棒状工具Tと受台1とで金属板Wを挟んだ状態にして棒状工具Tの移動に受台2を追従させて、金属板Wを成形することにより、設備費や製造コストを抑制しつつ、棒状工具Tの接触部分における金属板wの表裏の歪み差を小さくして、成形品の形状精度や品質を向上させた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲を保持した金属板の一方の主面に棒状工具の先端を押し付けて移動させることにより、前記金属板を三次元形状に成形する逐次成形方法において、
前記金属板の他方の主面側に配置した受台を用い、
前記受台が、前記棒状工具の先端面に相対向する平面を有すると共に、少なくとも前記金属板に対して進退可能であり、
前記棒状工具と前記受台とで前記金属板を挟んだ状態にして前記棒状工具の移動に前記受台を追従させることにより前記金属板を成形することを特徴とする逐次成形方法。
【請求項2】
前記金属板の成形前の主面と成形した傾斜面との成す角度を成形角度θとし、
前記成形角度θの大きさに応じて、前記棒状工具と前記受台との間隔dを前記金属板の板厚以下の範囲で制御することを特徴とする請求項1に記載の逐次成形方法。
【請求項3】
前記金属板の降伏応力若しくは0.2%耐力をYs(N/mm2)、ヤング率をE(N/mm2)、及び板厚をt0(mm)としたとき、
前記成形角度θが、θ<arctan(40×Ys/(E×t0
3))となる範囲を成形する際に、前記棒状工具と前記受台との間隔dが、前記金属板の板厚t0以下となるように制御することを特徴とする請求項2に記載の逐次成形方法。
【請求項4】
前記棒状工具と前記受台との間隔dを、0.9t0≦d≦0.95t0の範囲で制御することを特徴とする請求項3に記載の逐次成形方法。
【請求項5】
前記受台が、前記金属板に対して進退する方向をZ軸方向として、互いに直交するX,Y,Zの3軸方向に移動可能であることを特徴とする請求項1に記載の逐次成形方法。
【請求項6】
前記受台が、前記棒状工具の軸線方向の投影面積と同等の大きさの平面を有すると共に、前記平面の周囲に面取り部を有することを特徴とする請求項5に記載の逐次成形方法。
【請求項7】
前記受台が、前記金属板の被成形範囲と同等の大きさの平面を有することを特徴とする請求項1に記載の逐次成形方法。
【請求項8】
請求項1に記載の逐次成形方法に用いる装置であって、
前記金属板の周囲を保持するクランプ装置と、
前記金属板の一方の主面側に配置した前記棒状工具と、
前記金属板の他方の主面側に配置した前記受台と、
予め設定した前記棒状工具の移動経路データに基づいて、前記受台の位置を制御する制御装置とを備えたことを特徴とする逐次成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板に棒状工具を押し付けて移動させることにより金属板を三次元形状に成形する逐次成形方法及び逐次成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の逐次成形方法としては、例えば、特許文献1に記載されているものがある。特許文献1に記載の逐次成形方法は、板状の被成形材の一方の面側に配置した第1工具と、被成形材の他方の面側に配置した第2工具とを用いる。第1工具は、被成形材に向けて半球状に突出した第1曲面を有する。第2工具は、環状を成すと共に、その開口部に沿って第1曲面と線接触する凸状の第2曲面を有する。そして、上記の逐次成形方法は、第1曲面と第2曲面を被成形材の成形面に接触させつつ、第1工具と第2工具を相対的に移動させることにより、被成形材を成形することにより、板厚の減少を抑制し得る成形装置及び成形方法を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したような従来の逐次成形方法では、球面状の第1曲面を有する棒状の第1工具と、環状の第2曲面を第2曲面を有する第2工具とを用いていたため、成形品の形状精度を高めることが難しいと共に、工具痕が残り易いという問題点があった。なお、工具痕が残りにくい逐次成形方法としては、金属板の片面のみに棒状工具を接触させて成形を行う方法や、棒状工具の反対側に下型を配置し、棒状工具の押し付け及び移動により金属板を下型に沿って成形する方法がある。ところが、前者の場合には、棒状工具の接触部分における表裏の歪み差が大きくなって、成形品の形状精度を高めることが難しく、後者の場合は、成形品に応じた下型を用意する必要があるので、設備費や製造コストが嵩むという問題点がある。
【0005】
本発明は、上記従来の状況に鑑みて成されたものであって、設備費や製造コストを抑制しつつ、棒状工具の接触部分における金属板の表裏の歪み差を小さくして、成形品の形状精度や品質を高めることができる逐次成形方法及び逐次成形装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係わる逐次成形方法は、周囲を保持した金属板の一方の主面に棒状工具の先端を押し付けて移動させることにより、金属板を三次元形状に成形する。この逐次成形方法では、金属板の他方の主面側に配置した受台を用いる。この受台は、棒状工具の先端面に相対向する平面を有すると共に、少なくとも金属板に対して進退可能である。そして、逐次成形方法は、棒状工具と受台とで金属板を挟んだ状態にして棒状工具の移動に受台を追従させることにより金属板を成形することを特徴としている。
【0007】
本発明に係わる逐次成形装置は、上記の逐次成形方法に用いる逐次成形装置であって、金属板の周囲を保持するクランプ装置と、金属板の一方の主面側に配置した棒状工具と、金属板の他方の主面側に配置した受台と、予め設定した棒状工具の移動経路データに基づいて、受台の位置を制御する制御装置とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係わる逐次成形方法及び逐次成形装置は、上記構成を採用したことにより、成形品の様々な形状に対応可能な受台を用いることで、設備費や製造コストの抑制を実現しつつ、棒状工具の接触部分における金属板の表裏の歪み差を小さくして、成形品の形状精度や品質を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係わる逐次成形方法の第1実施形態において、同方法が適用可能な逐次成形装置を示す側面図である。
【
図2】
図1に示す受台の駆動機構を説明する平面図である。
【
図3】棒状工具と受台との関係を示す側面図(A)、及び平面図(B)である。
【
図4】
図1に続いて金属板の成形過程を示す側面図である。
【
図5】
図4に続いて金属板の成形過程を示す側面図である。
【
図6】棒状工具と金属板の成形角度との関係を示す要部の側面図である。
【
図7】棒状工具の各形状と受台との関係を示す各々側面図(A)~(C)である。
【
図8】成形角度が大きい場合における棒状工具と金属板との関係を示す要部の断面説明図(A)、成形時の金属板の変化を示す断面説明図(B)、及び成形後の金属板の変化を示す断面説明図(C)である。
【
図9】成形角度が小さい場合における棒状工具と金属板との関係を示す要部の断面説明図(A)、成形時の金属板の変化を示す断面説明図(B)、及び成形後の金属板の変化を示す断面説明図(C)である。
【
図10】本発明に係わる逐次成形方法の第2実施形態において、同方法が適用可能な逐次成形装置を示す側面図である。
【
図11】
図11に続いて金属板の成形過程を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第1実施形態>
図1は、本発明に係わる逐次成形方法が適用可能な逐次成形装置を示す図である。図示の逐次成形装置は、基本構成として、金属板Wの周囲を保持するクランプ装置1と、金属板Wの一方の主面側(
図1中で上側)に配置した棒状工具Tと、金属板Wの他方の主面側(下側)に配置した受台2と、予め設定した棒状工具Tの移動経路データに基づいて受台2の位置を制御する制御装置3とを備えている。
【0011】
金属板Wは、成形品の素材である平板であり、この実施形態では、水平状態にしてクランプ1で周囲を保持する。なお、本発明に係わる逐次成形方法は、成形型を使用しないダイレスフォーミングである。この逐次成形方法では、金属板Wを垂直状態や傾斜状態に保持することも可能であり、金属板Wの姿勢に応じて、棒状工具Tや受台2を配置する。クランプ装置1は、固定した下枠部1Aと、この下枠部1Aに対して昇降可能な上枠部1Bとを備え、下枠部1Aと上枠部1Bとの間で金属板Wの周囲を強固に挟持する。
【0012】
棒状工具Tは、図示例では軸線を上下方向にした姿勢で保持してあり、下側の先端部が球面状等の適宜形状を有する周知のものであり、工具駆動装置4により直交する3軸方向に駆動される。
【0013】
工具駆動装置4には、多軸制御型の作業ロボットやNC工作機械などを用いることができる。図示例の工具駆動装置4は、装着した棒状工具Tを水平方向であるX及びY方向、並びに垂直方向であるZ方向に移動させる。なお、棒状工具Tは、各軸回りに回転させることも可能である。
【0014】
受台2は、棒状工具Tの先端面に相対向する平面2Sを有すると共に、少なくとも金属板Wに対して進退可能であって、この実施形態では、金属板Wに対して進退する方向をZ軸方向として、互いに直交するX,Y,Zの3軸方向に移動可能である。つまり、受台2は、成形品の様々な形状に関係なく、平面2Sを有していれば良いのであって、
図1及び
図2に示す受台駆動装置5により互いに直交する3軸方向に駆動される。
【0015】
また、この実施形態の受台2は、
図3(A)及び(B)に示すように、平面視で概略正方形状を成し、棒状工具Tの軸線方向の投影面積と同等又は若干広い大きさの平面2Sを有すると共に、平面2Sの周囲である肩部分に面取り部Rを有している。
【0016】
受台駆動装置5は、正方形の枠状を成すフレーム5Aと、フレーム5Aを水平状態にして昇降駆動するリフタ5Bと、フレーム5Aの一方の対向辺(
図2中で上下の対向辺)間に架設したビーム5Cと、ビーム5C上に配置したスライド5Dを備えている。ビーム5Cは、図示しない駆動機構により対向辺の長手方向(
図2中で左右方向)に往復動可能である。また、スライド5Dは、図示しない駆動機構により、ビーム5Cの長手方向(
図2中で上下方向)に往復動可能であり、その上部に受台2が固定してある。
【0017】
これにより、受台2は、
図2において、ビーム5CによりX軸方向に移動可能であると共に、スライド5DによりY軸方向に移動可能であり、さらに、
図1において、リフタ5BによりZ軸方向に移動可能である。
【0018】
制御装置3は、コンピュータであって、金属板Wを成形品に成形するための棒状工具Tを駆動するためのデータとして、成形開始点から成形終了点に至る全ての移動経路、移動速度、及び金属板Wに対する押圧量等々が予め入力してある。この制御装置3は、予め設定した棒状工具Tの移動経路データに基づいて、棒状工具Tの移動に追従するように受台2の位置を制御する機能を有する。
【0019】
より正確には、制御装置3は、棒状工具Tが設定した移動経路に沿って移動するように工具駆動装置4を制御すると共に、受台2が棒状工具Tの移動に追従するように受台駆動装置5を制御する。
【0020】
次に、上記の逐次成形装置の動作とともに逐次成形方法を説明する。周知の逐次成形方法では、
図1に示すように、周囲をクランプ1で保持した金属板Wに対して、棒状工具Tの先端部を押し付けて移動させる。具体的には、棒状工具Tを周回経路に沿って移動させた後、棒状工具Tを内側及び下方向に所定分だけ変位させるピッチ送りを行い、次の周回経路に沿った移動とピッチ送りの動作を繰り返す。これにより、逐次成形方法は、等高線状に棒状工具Tを移動させて、
図4及び
図5に示すように、底部を徐々に押し下げるように金属板Wを成形し、最終的に三次元形状の成形品を得る。
【0021】
ここで、逐次成形方法では、金属板Wにおいて、棒状工具Tが接する面が延ばされるので、棒状工具Tが接する面の残留応力とその反対面の残留応力との差、すなわち表裏の歪み差が大きくなり、捻れなどの寸法悪化の現象が生じ易くなる。
【0022】
これに対して、本発明に係わる逐次成形方法では、上記の如く逐次成形を行うに際し、棒状工具Tと受台2とで金属板Wを挟んだ状態にして棒状工具Tの移動に受台2を追従させる。図示例では、
図4に示すように、棒状工具Tの周回移動及びピッチ送りに追従するように受台2をX,Y,Z軸方向に移動させて、金属板Wに外側の傾斜面K1を成形する。その後、
図5に示すように、棒状工具Tと受台2との協働により内側の傾斜面K2を形成し、段階的な凹部形状を有する成形品を得る。
【0023】
つまり、上記の逐次成形方法では、棒状工具Tとその反対側に配置した受台2とで金属板Wを挟み、金属板Wを表裏からしごくように成形することで、金属板Wの表裏の歪み差を小さくし、歪み差により生じる捩れ等の成形不良を抑制する。
【0024】
また、逐次成形方法では、より好ましい実施形態として、金属板Wの成形前の主面と成形した傾斜面(K1.K2)との成す角度を成形角度θとし、成形角度θの大きさに応じて、棒状工具Tと受台2との間隔dを金属板Wの板厚t0以下の範囲で制御する。
【0025】
棒状工具Tは、
図7(A)に示すように先端部が球面状を成すもの、
図7(B)に示すように先端部が平坦でその周囲に面取り部を有するもの、
図7(C)に示すように先端部と面取り部の曲率が異なるものなどがある。上記の逐次成形方法では、様々な先端部を有する棒状工具Tを採用することができ、いずれの場合も棒状工具Tと受台2との間隔dを金属板Wの板厚t
0以下の範囲で制御する。
【0026】
さらに、逐次成形方法では、上記の間隔dを制御するに際し、より好ましい実施形態として、金属板Wの降伏応力若しくは0.2%耐力をYs(N/mm2)、ヤング率をE(N/mm2)、及び板厚をt0(mm)としたとき、成形角度θが、θ<arctan(40×Ys/(E×t0
3))となる範囲を成形する際に、棒状工具Tと受台2との間隔dが、金属板Wの板厚t0以下となるように制御する。
【0027】
これは、先述したように、棒状工具Tの周回経路に沿った移動とピッチ送りの動作を繰り返して金属板Wを次第に成形していくと、金属板Wの材質や成形角度θにより、棒状工具Tから付与される変形のうちの弾性変形が占める割合が増加するからである。
【0028】
図8(A)は、成形角度θが10度である場合の金属板Wの変形量を示す図である。棒状工具Tは、実線で示す位置で周回経路を移動をした後、送り量L
10でピッチ送りされ、点線で示す位置で次の周回経路を移動する。この際、金属板Wは、
図8(B)に示すように、棒状工具TのZ方向の押し込み量に相当する変位Pzが与えられる。つまり、金属板Wは、白色の部分から灰色の部分に変位する。その後、金属板Wには、
図8(C)に示すようにスプリングバックが生じるが、成形角度θが10度の場合では、スプリングバックの量が少ないので、最終変形量(塑性変形量)Pz’が大きくなり、棒状工具Tの押し込み量(Pz)と最終変形量(塑性変形量)Pz’との差が小さくなる。
【0029】
図9(A)は、成形角度θが5度である場合の金属板Wの変形量を示す図である。棒状工具Tは、
図8と同様に、実線で示す位置で周回経路を移動をした後、送り量L
5でピッチ送りされ、点線で示す位置で次の周回経路を移動する。この際、金属板Wは、
図9(B)に示すように、棒状工具Tの押し込み量に相当する変位Pzが与えられるが、成形角度θが5度の場合には、
図9(C)に示すようにスプリングバックの量が多いので、最終変形量(塑性変形量)Pz’が小さくなり、棒状工具Tの押し込み量(Pz)と最終変形量Pz’との差が大きくなる。
【0030】
逐次成形方法において、金属板Wに設定通りの最終変形量(塑性変形量)Pz’を与えられるか否かは、金属板Wのヤング率E、降伏応力又は0.2%耐力Ys、板厚t0によって変わる。つまり、ヤング率Eが小さい場合、降伏応力又は0.2%耐力Ysや板厚t0が大きい場合は、同じ変位を与えても塑性変形し難くなる。これらの関係を実験的に求めた結果、成形角度θが、θ<arctan(40×Ys/(E×t0
3))の条件になると、金属板Wに充分な最終変形量(塑性変形量)Pz’を与えられないことが判明した。
【0031】
そこで、上記の逐次成形方法では、先述したように、成形角度θが、θ<arctan(40×Ys/(E×t0
3))となる範囲を成形する際に、棒状工具Tと受台2との間隔dが、金属板Wの板厚t0以下となるように制御することで、金属板Wに充分な最終変形量(塑性変形量)Pz’を与えることを実現した。なお、棒状工具Tと受台2との間隔dの制御は、棒状工具T及び受台2の少なくとも一方のZ軸方向の変位量を調整すれば良い。
【0032】
さらに、逐次成形方法では、成形角度θが上記範囲である場合、より好ましい実施形態として、棒状工具Tと受台2との間隔dを、0.9t0≦d≦0.95t0の範囲で制御する。これは、上記間隔dを変えて試験的に逐次成形を行ったところ、金属板Wの板厚t0が0.9t0~0.95t0の範囲において成形精度が良好であることが判明したからである。また、間隔dを0.9t0未満にすると、金属板Wが横方向に移動する現象が生じ、しわ状の模様が発生するため、間隔dを0.9t0よりも圧縮方向に狭めるのは望ましくないことも判明した。
【0033】
このように、上記実施形態で説明した逐次成形方法及び逐次成形装置によれば、成形品の様々な形状に対応可能な受台2を用いることで、設備費や製造コストの抑制を実現しつつ、棒状工具Tの接触部分における金属板Wの表裏の歪み差を小さくして、成形品の形状精度を高めると共に、工具痕の無い高品質の成形品を得ることができる。
【0034】
また、上記の逐次成形方法は、成形角度θの大きさに応じて、棒状工具Tと受台2との間隔dを金属板Wの板厚t0以下の範囲で制御し、望ましくは、成形角度θが、θ<arctan(40×Ys/(E×t0
3))となる範囲を成形する際に、棒状工具Tと受台2との間隔dが、金属板Wの板厚t0以下となるように制御し、より望ましくは、棒状工具Tと受台2との間隔dを、0.9t0≦d≦0.95t0の範囲で制御する。
【0035】
これにより、上記の逐次成形方法は、成形品の表面品質を良好に保ちながら、形状精度の高い成形品を得ることができ、例えば、金属板Wがアルミニウム等の低ヤング率の材料であっても、高品質の成形品を製造することができる。
【0036】
さらに、上記の逐次成形方法は、X,Y,Zの3軸方向に移動可能な受台2を採用することで、受台2を必要最小限の大きさにすることができ、駆動装置の省力化などを図ることができる。
【0037】
さらに、上記の逐次成形方法は、棒状工具Tの軸線方向の投影面積と同等の大きさの平面2Sと、その周囲の面取り部Rとを有する受台2を用いることで、受台2の小型化や駆動装置の省力化の実現に加えて、受台2のX及びY方向への移動を円滑にし、金属板Wの損傷を防止する。
【0038】
<第2実施形態>
図10は、本発明に係わる逐次成形方法の第2実施形態として、同方法に適用可能な逐次成形装置を示す図である。なお、第2実施形態では、第1実施形態と同等の構成部位に同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0039】
図示例の逐次成形装置は、受台12が、金属板Wの被成形範囲と同等の大きさの平面12Sを有しており、受台駆動装置15により駆動される。この場合、受台駆動装置15は、リフタ15Bを備え、金属板Wに対して受台12を進退するZ方向のみに駆動する。この受台12は、先の実施形態と同様に、成形品の様々な形状に関係なく、平面12Sを有するものであれば良い。
【0040】
上記の受台12を用いた逐次成形方法にあっても、棒状工具Tと受台12とで金属板Wを挟んだ状態にして棒状工具Tの移動に受台12を追従させることにより、金属板Wを成形する。すなわち、上記の逐次成形方法では、棒状工具Tを水平方向であるX及びY方向に移動させている間は、金属板Wの被成形範囲の全域に受台12が接触しているので、受台12を駆動する必要はない。
【0041】
そして、上記の逐次成形方法では、
図11に示すように、棒状工具TがZ方向に下降するのに伴って、棒状工具Tとの間で金属板Wを挟みつつ受台12を下降させる。また、この実施形態の逐次成形方法においても、第1実施形態と同様に、成形角度θに応じて棒状工具Tと受台12との間隔dを制御する。
【0042】
上記実施形態の逐次成形方法及び逐次成形装置は、第1実施形態と同様に、成形品の様々な形状に対応可能な受台12を用いることで、設備費や製造コストの抑制を実現しつつ、棒状工具Tの接触部分における金属板Wの表裏の歪み差を小さくして、成形品の形状精度や品質を高めることができる。そして、上記の逐次成形方法及び逐次成形装置は、とくに、金属板Wの被成形範囲と同等の大きさの平面12Sを有する受台12を採用したことにより、受台12を金属板Wに対する進退方向(Z方向)のみに駆動すれば良いので、受台12の受台駆動装置15の構造の簡略化や、同装置15の制御プログラムの簡素化などを図ることができる。
【0043】
本発明に係わる逐次成形方法及び逐次成形装置は、その構造が上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 クランプ装置
2,12 受台
2S,12S 平面(受台の平面)
3 制御装置
4 工具駆動装置
5,15 受台駆動装置
R 面取り部
T 棒状工具
W 金属板