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特開2024-65663高周波コイル装置及びそれを用いた磁気共鳴イメージング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065663
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】高周波コイル装置及びそれを用いた磁気共鳴イメージング装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20240508BHJP
【FI】
A61B5/055 355
A61B5/055 350
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174650
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大竹 陽介
(72)【発明者】
【氏名】新井 浩一
(72)【発明者】
【氏名】池田 明日香
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AB34
4C096AC01
4C096AD10
4C096AD23
4C096CC06
4C096CC08
4C096CC12
(57)【要約】
【課題】可動なコイルユニットを含むRFコイルにおいて、どの装着位置においてもコイル間の距離を維持することができ、均一な感度分布と高い感度を達成できる高周波コイル装置を提供する。
【解決手段】略円形の軌道上を移動可能な第1のコイルユニットと、当該略円形軌道内に固定された第2のコイルユニットと、を備え、第1のコイルユニットと第2のコイルユニットは、略点対称の位置に配置されており、第1のコイルユニットの可動範囲において、両コイルユニットに含まれる導体ループの磁気結合がほぼ一定に保たれる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの導体ループを有する第1のコイルユニットと、少なくとも一つの導体ループを有する第2のコイルユニットと、を備えた磁気共鳴撮影用の高周波コイル装置であって、
前記第1のコイルユニット及び前記第2のコイルユニットは、相対的な位置が可変であり、且つ可動範囲の少なくとも一部の範囲において、前記第1のコイルユニットの導体ループと、隣接する前記第2のコイルユニットの導体ループとが電磁気的な結合を維持して可動することを特徴とする高周波コイル装置。
【請求項2】
請求項1に記載の高周波コイル装置であって、
前記第1のコイルユニット及び前記第2のコイルユニットの一部の導体ループは、前記第1のコイルユニットと前記第2のコイルユニットとの間の一点を中心に略点対称の位置にそれぞれ配置されていることを特徴とする高周波コイル装置。
【請求項3】
請求項1に記載の高周波コイル装置であって、
前記第1のコイルユニットを固定する固定部と、前記第2のコイルユニットの前記第1のコイルユニットに対する位置を変化させる可動部と、をさらに備え、
前記可動部は、前記第2のコイルユニットを電磁気的な結合を維持する軌道に沿って移動させることを特徴とする高周波コイル装置。
【請求項4】
請求項3に記載の高周波コイル装置であって、
前記可動部は、前記軌道は、円形軌道、楕円形軌道及び多角形軌道のいずれかである高周波コイル装置。
【請求項5】
請求項3に記載の高周波コイル装置であって、
前記第1のコイルユニット及び前記第2のコイルユニットの一部の導体ループの重なり面積が一定となり可動することを特徴とする高周波コイル装置。
【請求項6】
請求項1に記載の高周波コイル装置であって、
頭部検査用コイルであることを特徴とする高周波コイル装置。
【請求項7】
円形軌道上を移動可能な第1のコイルユニットと、
前記円形軌道内に固定された第2のコイルユニットと、を備え、
前記第1のコイルユニットと前記第2のコイルユニットは、略点対称の位置に配置されていることを特徴とする高周波コイル装置。
【請求項8】
請求項7に記載の高周波コイル装置であって、
前記円形軌道を移動する前記第1のコイルユニットの可動範囲は10度以上90度以下である高周波コイル装置。
【請求項9】
請求項7に記載の高周波コイル装置であって、
前記第1のコイルユニットは、前記第2のコイルユニットに最も近い位置に位置する導体ループの内側に、前記円軌道の中心が位置するように配置されていることを特徴とする高周波コイル装置。
【請求項10】
被検体に高周波磁場を印加するRF送信コイル及び前記被検体からの核磁気共鳴信号を検出するRF受信コイルを備え、前記RF送信コイル及び前記RF受信コイルの少なくとも一方が請求項1または7に記載の高周波コイル装置であることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項11】
請求項10に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記RF送信コイル及びRF受信コイルを兼ねた兼用RFコイルを備え、前記兼用RFコイルが請求項1に記載の高周波コイル装置であることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項12】
請求項10に記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記RF受信コイルが頭部検査用の受信コイルであって、請求項1又は7に記載の高周波コイル装置であることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング(MRI)装置のRFコイルとして用いられる高周波コイル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置では、静磁場空間に配置された被検体に高周波磁場を印加し、それによって被検体から発生する核磁気共鳴信号を収集し被検体の画像を生成する。この高周波磁場の印加及び核磁気共鳴信号の受信に使用される高周波コイル(RFコイル)は、良好な画像を得るために、感度が高く且つ均一であることが要求される。特に受信用のRFコイルは、被検体に密着して装着することで受信感度を向上することができる。
【0003】
MRI装置では、被検体への密着性や高い感度を達成するために、複数の小型コイルを組み合わせて一つのコイル装置としたマルチアレイコイルが広く用いられている。このようなマルチアレイコイルでは、高い感度を得るために、コイル同士の電磁気干渉を抑えるため個々のコイルを構成するエレメント(導体ループ)の一部が重なるように規則正しく設計される(例えば特許文献1)。
【0004】
しかし、コイルが装着される被検体のサイズや形状は、被検体によって異なるため、被検体に密着させるようとすると、規則正しい配置を保つことが困難になる。電磁気干渉を抑える回路構造も開発されているが、干渉がなくなるわけではないので、高い感度を確保するためには依然としてエレメント(導体ループ)の一部が重なるように規則正しい配置を維持することが重要である。
【0005】
一方、頭部用のコイルなど被検体への密着が難しいRFコイルでは、エレメントが規則正しく配置されたコイルユニットを複数組み合わせて、それらコイルユニットを可動に構成し、被検体に装着するようにしたコイル装置も提案されている(特許文献2、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2018/098255
【特許文献2】特許6195731号明細書
【特許文献3】特開2021-137388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
可動なコイルユニットを備えたコイル装置では、個々のコイルユニットについてはエレメントの規則正しい配置を保つことができるが、コイルユニット同士は、いずれかが可動であることにより、お互いの位置関係が変化し、装着位置において、1つのコイルユニットを構成するループと別のコイルユニットを構成するループ間の位置関係は、装着される被検体のサイズや装着の仕方によって変化し、電磁気干渉を抑えるようにエレメントを配置しているにもかかわらず、電磁気干渉を引き起こし、感度の低下を招く場合がある。
【0008】
例えば、特許文献3に開示された頭部用RFコイルは、患者の頭頂部から顔面の一部を覆うお面型のコイルユニットを可動にし、被写体のサイズに応じて、お面型コイルユニットが顔面に密着できる構成としているが、頭部サイズが大きい場合と小さい場合とでは、後頭部に配置された固定コイルとの位置関係が異なり、電磁気干渉を抑制する位置関係を保つことが難しい。
【0009】
本発明は、上述したような可動なコイルユニットを含むRFコイルにおいて、どの装着位置においてもコイル間の距離を維持することができ、均一な感度分布と高い感度を達成できる高周波コイル装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、互いの相対的な位置が可変である複数のコイルユニットを有する高周波コイル装置において、可動のコイルの軌道を工夫することで、コイル間の位置関係を保ちながら、被検体への装着を可能にする。
【0011】
即ち、本発明の高周波コイル装置の一態様は、少なくとも一つの導体ループを有する第1のコイルユニットと、少なくとも一つの導体ループを有する第2のコイルユニットと、を備えた磁気共鳴撮影用の高周波コイル装置であって、第1のコイルユニット及び第2のコイルユニットは、相対的な位置が可変であり、且つ可動範囲の少なくとも一部の範囲において、第1のコイルユニットの導体ループと、それと隣接する前記第2のコイルユニットの導体ループとが電磁気的な結合を維持して可動する。
【0012】
また本発明の高周波コイル装置の別の態様は、円形軌道上を移動可能な第1のコイルユニットと、円形軌道内に固定された第2のコイルユニットと、を備え、第1のコイルユニットと前記第2のコイルユニットは、略点対称の位置に配置されていることを特徴とする。
【0013】
さらに本発明のMRI装置は、RF受信コイル及びRF送信コイルの少なくとも一方の高周波コイルとして、上記各態様の高周波コイルを備えたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、可動のRFコイルが、固定したRFコイルに対し所定の軌道で移動し、その際に両者の関係、コイル間の磁気結合を維持するコイル間距離或いは重なり面積が保たれるので、電磁気干渉の変動を抑制し、均一な感度分布を達成できる。また少なくとも一方のコイルユニットが可動であることにより、被検体との密着性を向上することができ、高い感度を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の高周波コイル装置の一実施形態を示す図。
図2】可動コイルユニットの可動範囲の各位置における2つの導体ループの位置関係を示す図。
図3】導体ループの形状の実施形態を示す図。
図4】可動コイルユニットが移動する軌道の例を示す図。
図5】変形した矩形の導体ループを用いた場合の、可動範囲各位置における導体ループの位置関係を示す図。
図6】本発明の高周波コイル装置の可動部を含む実施形態を示す図。
図7】可動部の実施形態1を示す図。
図8図6の実施形態の高周波コイルの動きを説明する図。
図9】可動部の実施形態2を示す図。
図10】本発明が適用されるMRI装置の概要を示す図。
図11図10のMRI装置のRFコイル(高周波コイル装置)の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の高周波コイル装置の実施形態を説明する。以下の説明では、一例として、高周波コイル装置がMRI装置の受信コイルとして機能する場合を説明する。
【0017】
本実施形態の高周波コイル装置1は、図1に示すように、基本的な構造として、一つのRFコイルユニット10と、RFコイル10に対する位置が変化するRFコイルユニット20と、RFコイルユニット20をRFコイルユニット10に対し移動させるための機構部30とを備える。なおRFコイルユニット10に対するRFコイルユニット20の移動は、一方を固定した場合に他方が可動するという相対的なものであり、例えば両方が可動の場合も含む。ここでは説明を簡単にするために、RFコイルユニット10を固定、RFコイルユニット20を可動、とする。
【0018】
本実施形態の高周波コイル装置1は、このように複数のコイルユニット同士の相対的な位置を変化させる構造を有することにより、検査対象(人体の各部位)に対する装着作業を容易にし、且つ装着時の密着性を保つ構成である。
【0019】
RFコイルユニット10と可動RFコイルユニット20は、それぞれ、少なくとも一つの導体ループ11、12を備える。それぞれの導体ループ11、12はMRI装置の核磁気共鳴信号を受信するように調整されている。調整は、導体ループ自体(コンダクタ)と導体ループに付加されるキャパシタ等により行われる。RFコイルユニット10及び可動RFユニット20は、複数の導体ループを所定の配置で連結したマルチアレイコイルでもよく、その場合、複数の導体ループはそれぞれ核磁気共鳴信号を受信するように調整されるとともに、各導体間の重なりが電磁気干渉を最小化するように配置されている。
【0020】
機構部30は、例えば、RFコイルユニット10を固定した固定部31と、固定部31に固定され、RFコイルユニット20を所定の軌道に沿って移動させる可動部33とを含む。本実施形態の高周波コイル装置1を、被検体の頭部などの検査部位40に装着する場合、例えば固定部31に固定されたRFコイルユニット10に検査部位を載せた状態で、RFコイルユニット20を所定の軌道に沿って移動させて、RFコイルユニット10とRFコイルユニット20とで、検査部位40を覆うように装着する。
【0021】
ここで、例えば被検体の頭部の両側面から或いは上面から可動コイルを当接させて装着する従来の可動式の高周波コイルでは、後頭部側に配置された可動コイルとの位置は遠近方向に変化し、可動コイルを頭部に密着させた状態において、両者間の距離は被検体のサイズに依存して変化する。つまり頭部が大きい被検体では固定コイルと可動コイルとは比較的離れた位置関係となり、頭部が小さい被検体では固定コイルと可動コイルとは近づき、それぞれの位置で電磁気結合が変化する。即ち、コイル毎に電磁気結合を抑制するように調整が行われていたとしても、高周波コイル装置としたときにすべての導体ループの電磁気結合の調整のバランスが崩れる。
【0022】
本実施形態の高周波コイル装置1は、RFコイルユニット20を構成する導体ループのうち、RFコイルユニット10の導体ループ(第1導体ループ)11に隣接することとなる導体ループ(第2導体ループ)21の移動軌跡が、第1導体ループ11とほぼ同じ重なり面積を維持する軌跡となるように、可動RFコイルユニット20をRFコイルユニット10に対し移動させる可動部33を設けることで、両コイルユニット10、20の電磁気結合を調整された範囲に保つ。
【0023】
具体的には、図2に示すように、可動RFコイルユニット20の軌道330は、概ね円形軌道であり、その中心CがRFコイルユニット20の第2導体ループ21と、RFコイルユニット10の第1導体ループ11とが重なる領域内にある。これにより図2の(a)から(c)までRFコイルユニット20が移動したときに、第2導体ループ21と第1導体ループ11との位置関係、具体的には第2導体ループの中心と第1導体ループ11の中心との距離はほぼ一定に保たれ、電磁気結合に影響を与える両導体ループの重なり面積がほぼ一定に保たれる。
【0024】
図2に示す例では、可動RFコイルユニット20が(a)の位置を0度とするとき、(c)に示す90度の位置まで、両導体ループの重なり面積を一定に保っているが、重なり面積を一定に保つ範囲は可動RFコイルユニットの可動範囲の全部である必要はなく、検査対象に近接した位置であればよく、例えば、サイズの大きい患者とサイズの小さい患者との調整を行うことができる範囲、或いは閉所恐怖症用患者の固定位置と通常患者用の固定位置との間などで15度~20度ぐらいの範囲で円形軌道が保たれればよい。すなわち、可動範囲の一部の軌道は可動RFコイルユニットを水平方向、垂直方向、斜め方向など直線状に移動させる直線状軌道が含まれていてもよい。
【0025】
導体ループ11、21の形状は、図3(a)~(d)に示すように、種々の形状を採ることができ、任意の形状とすることで任意の感度が形成できる。また図3(c)に示すように、矩形の一部を弧状にすることで、図5に示すように、2つの導体ループ11、21が重なる部分の面積のコントロールが容易となり、RFコイルユニット20の移動に伴う重なり面積の変化を最小に保つことができる。
【0026】
図3(d)は、導体ループがクロスする部分を含む8の字型ループの例で、このような導体ループを採用することで深度感度が得られやすくなる。また8の字型ループについても重なり部分の形状を弧状とすることで、(c)のコイル形状と同様の効果を得ることができる。
【0027】
また上述した第2導体ループ21と第1導体ループ11との位置関係を保つ可動RFコイルユニットの軌道は、導体ループの重なり面積の変化を最小にするものであれば、円形の軌道に限定されるものではなく、導体ループの形状に合わせて適宜、変更することが可能である。図4に導体ループの一方が矩形である場合の楕円形及び多角形状の軌道330’、330”の例を示す。楕円形軌道の場合には、2つの軌道中心が存在するので、その一方の中心が2つの導体ループが重なる領域に存在するように第2導体ループ21の軌道を決定する。なお図4の例では、固定したRFコイルユニット10の導体ループ11が矩形である場合を示しているが、逆に可動RFコイルユニット20の導体ループ21が矩形の場合もあり得る。
【0028】
本実施形態によれば、可動RFコイルユニット20が、固定されているRFコイルユニット10に沿って移動するように可動部33を構成することにより、サイズが様々な被検体に対して、また装着位置が異なる被検体に対しても、常に操作性良く且つ密着状態で装着することができ、且つ感度の均一性を保つことができる。
【0029】
<実施形態1>
以上、本実施形態の高周波コイル装置の基本的な構造とその動きを説明したが、以下では具体的な高周波コイル装置の構造の実施形態を説明する。この実施形態では、特許文献3に開示された頭部用コイルの構造を基本として、本発明の特徴である可動RFコイルの軌道を実現するための具体的な機構を説明する。
【0030】
まず上述した頭部用コイルの構造を、図6を参照して説明する。この頭部用コイル1Aは、板状の固定部31と、固定部31に固定されたRFコイルユニット10と、固定RFコイル10に対し可動なRFコイルユニット20と、一端が固定部31に固定され他端に可動コイル20が取り付けられた可動部33と、を含む。RFコイルユニット10及びRFコイルユニット20は、それぞれ、複数の導体ループが所定の配置で配置されたマルチアレイコイルであり、各導体ループは核磁気共鳴信号を受信するようにキャパシタ(不図示)等で調整され、且つ導体ループ間の重なりが調整されている。またこれらコイルユニットを構成する導体ループ及び調整要素であるキャパシタ等は、所定の形状に成型された絶縁性樹脂等の可撓性部材に導体ループが所定の配置で固定されている。以下、導体及びそれを固定する部材全体を含めて、RFコイルユニット10を固定コイル、RFコイルユニットを可動コイルという。
【0031】
図6では、可動コイル20の導体ループを実線で、固定コイル10の導体ループを点線で示し、これら導体ループのうち互いに隣接する可動コイル20の導体ループと固定コイル10の導体ループとは太線で示している。また図6では、可動コイル20及び固定コイル10として、それぞれ、2つの導体ループを示しているが、例えば頭部を覆うように3以上の導体ループが互いに適切な磁気結合を保つように配置されていてもよい。
【0032】
固定コイル10は頭部を載せることで後頭部に密着する。可動コイル20は、お面型の形状に成型された絶縁性樹脂等の可撓性部材に導体ループが所定の配置で固定されており、人体の頭頂部から顔面の少なくとも一部を覆うように装着される。
【0033】
可動部33は、所定の軌道を提供するレール331と、可動コイル20を固定し、レール331に沿って移動するスライダ332と、レール331を固定部31に固定する支持部333とを含む。
【0034】
レール331は、図示する実施形態では、全体として弧状の形状を有し、スライダ332が弧状のレール331に沿って移動することで可動コイル20がレールの形状で決まる軌道を移動可能にしている。
【0035】
なお図示を省略するが、レール331とスライダ332との間には、スライダを任意の位置でレール331に固定するロック手段を設けてもよい。例えばロック手段として、スライダ332とレール331との間を段発的に接続するバネ部材などを採用できる。ラッチやラチェットなどでも良い。
【0036】
このような構成により、図7に示すように、可動コイル20をレール331に沿って移動させて、可動コイル20が固定コイル10の上面から退いた位置(退避位置)から上面に重なる位置((b)装着位置)に移動させることができる。可動コイル20が装着位置から、RFコイルユニット10の後方に傾くまでの間(0度~20度)までの導体ループ21,11の位置関係の変化を図8に示す。なお図8では最も近い位置にある導体ループ21、11を太線で示し、それ以外の導体ループは細線で示している。図8からわかるように、0度から20度の間で二つの導体ループ21、11の重なり部分は、ほぼ変化せずに位置されている。
【0037】
本実施形態の高周波コイル装置1Aによれば、可動コイル20が、円形軌道を提供するレール331に沿って移動する構成としたことにより、可動コイル20を構成する導体ループ21と、それに最も近い固定コイル10の導体ループ11との重なり面積をほぼ一定に保つことができる。これにより重なり面積が保たれる範囲であれば、可動コイル20がどの装着位置で固定されても、電磁気干渉を最小限するように初期設定された導体ループの関係を維持することができ、高く且つ均一な感度を達成することができる。
【0038】
なお図6では可動部33としてレール331とスライダ332との組み合わせを示したが、可動コイルの軌道を提供する手段としては、レールとスライダとの組み合わせのみならず、溝付きレールと溝に係合するフックなど、可動コイル20の所定の軌道に沿った移動をガイドする部材であれば採用することができる。
【0039】
なお本実施形態では、第2導体ループ21と第1導体ループ11との位置関係、具体的には第2導体ループの中心と第1導体ループ11の中心との距離はほぼ一定に保たれ、電磁気結合に影響を与える両導体ループの重なり面積がほぼ一定に保たれた場合を示したが、これに限定されない。例えば両導体ループは重ならなくても良い。両導体ループ間の距離がほぼ一定となり磁気結合の値が維持されれば、高周波コイル装置として感度を維持できる。
【0040】
<実施形態2>
図9に可動部33の構造が異なる実施形態2の高周波コイル装置1Bを示す。この実施形態2の可動部33は、図9に示すように、可動コイル20を固定するアーム部335と、アーム335を回動可能に支持する支持部336とで構成されている。アーム部335は、可動コイル20材の中央C1から両側面に向かって可動コイル20の曲面に沿って延びた形状の部材で、側面側の端部が、被検体の左右両側に対応する2箇所に設けられた支持部336に支持されている。
【0041】
この構成においては、アーム部335は支持部336に固定された端部と、お面型コイル20を固定した中央部との距離で決まる距離を半径として円形状に移動し、これによりアーム部335の中央に固定されたお面型コイル20を円形軌道に沿って移動させることができる。これにより図6に示した高周波コイル装置1Aと同様に、RFコイルユニット20がどの装着位置で固定されても、電磁気干渉を最小限するように初期設定された導体ループの関係を維持することができるという効果を得ることができる。
【0042】
本実施形態についても、アーム部335が固定される支持部336との間にアーム部335を任意の位置に止める手段(例えば、ラッチ、ラチェット、締めボルトなど)を設けることができ、それにより安定した装着位置にRFコイルユニットを設置できる。
【0043】
以上、本発明の高周波コイル装置の実施形態を説明したが、本発明の高周波コイル装置は図面に示す実施形態に限定されることなく、導体ループの構成、形状、組み合わせ、配置などを変更することが可能である。また上記実施形態では、2つのコイルユニットを備える高周波コイル装置について説明したが、特許文献3等に開示されるような第3のRFコイルユニット、例えば、被検体の側面に設置される一対のRFコイルユニットなどを追加することも可能である。
【0044】
また上記実施形態では、主として頭部用コイルに適用する場合を説明したが、2以上のコイルユニットの少なくとも一方を可動とし、コイルユニットの位置を可変にして装着するように構成された高周波コイル装置であれば、頭部用に限らず、本発明は適用可能であり、また装着部位に応じた変形を行うことが可能である。
【0045】
<MRI装置の実施形態>
本発明のMRI装置は、RF受信コイル及びRF送信コイルの少なくとも一方に、本発明の高周波コイル装置を備えるものである。高周波コイル装置以外の構成は一般的なMRI装置と同様であるので詳細な説明は省略し、装置の概要のみを説明する。
【0046】
図10は、MRI装置100の概略構成を示すブロック図である。本図に示すように、MRI装置100は、水平磁場方式のマグネット110、傾斜磁場コイル131、RF送信コイル151、RF受信コイル161と、傾斜磁場電源132と、シムコイル121、シム電源122と、高周波磁場発生器152と、受信器162と、磁気結合防止回路駆動装置180と、計算機(PC)170と、シーケンサ140と、表示装置171と、を備える。被検体40は、テーブル102に配置されて、マグネット110が形成する静磁場空間に配置される。
【0047】
傾斜磁場コイル131は、傾斜磁場電源132に接続され、傾斜磁場を発生させる。シムコイル121は、シム電源122に接続され、磁場の均一度を調整する。RF送信コイル151は、高周波磁場発生器152に接続され、被検体103に高周波磁場を照射(送信)する。RF受信コイル161は、受信器162に接続され、被検体103からの核磁気共鳴信号を受信する。磁気結合防止回路駆動装置180は、磁気結合防止回路に接続される。磁気結合防止回路は、RF送信コイル151およびRF受信コイル161にそれぞれ接続される、RF送信コイル151とRF受信コイル161との間の磁気結合を防止する回路である。
【0048】
シーケンサ140は、傾斜磁場電源132、高周波磁場発生器152、磁気結合防止回路駆動装置180に命令を送り、それぞれ動作させる。命令は、計算機(PC)170からの指示に従って送出する。また、計算機(PC)170からの指示に従って、受信器162で検波の基準とする磁気共鳴周波数をセットする。例えば、シーケンサ140からの命令に従って、高周波磁場が、RF送信コイル151を通じて被検体103に照射される。高周波磁場を照射することにより被検体103から発生する核磁気共鳴信号は、RF受信コイル161によって検出され、受信器162で検波が行われる。
【0049】
計算機(PC)170は、MRI装置100全体の動作の制御、各種の信号処理を行う信号処理部としても機能する。例えば、受信器162で検波された信号をA/D変換回路を介して受信し、画像再構成などの信号処理を行う。その結果は、表示装置171に表示される。検波された信号や測定条件は、必要に応じて、記憶媒体132に保存される。また、予めプログラムされたタイミング、強度で各装置が動作するようシーケンサ140に命令を送出させる。さらに、静磁場均一度を調整する必要があるときは、シーケンサ140により、シム電源122に命令を送り、シムコイル121に磁場均一度を調整させる。
【0050】
次に、本実施形態のRF送信コイル151およびRF受信コイル161の構成例を図11に示す。図11では、一例として、RF送信コイル151として鳥かご型形状を有するRFコイル(鳥かご型RFコイル)151Aを使用し、RF受信コイル161としてループ形状を有するRFコイル(表面コイル)を複数並べたアレイコイル161Aを使用する場合を示している。なお図11では、アレイコイル161Aを構成する表面コイル(サブコイル)を二つ示しているが、サブコイルの数は3以上でもよいし、一つの場合もある。
【0051】
RF送信コイル151として用いる鳥かご型RFコイル151Aの共振周波数は、励起対象元素の共鳴周波数、例えば、水素原子核の励起が可能な、水素原子核の磁気共鳴周波数に調整される。RF受信コイル161として用いるアレイコイル161Aは、鳥かご型RFコイル151Aが励起可能な元素の核磁気共鳴信号を検出可能に調整される。
【0052】
本実施形態のMRI装置は、このRF受信コイル161として、図1或いは図6に示すような頭部用の高周波コイル装置1、1A、1B、即ち固定部31に固定されたRFコイルユニット(固定コイル)10と、可動部33に支持され、RFコイルユニット10に対し位置を変えることが可能な可動RFコイルユニット(可動コイル)20とを備えている。
【0053】
この高周波コイル装置1を被検体に装着する際は、MRI装置の検査空間に挿入されるテーブル102に高周波コイル装置1を設置し、可動コイル20が固定コイル10から離れた退避位置(図7(a))にある状態で、固定コイル10の上に被検体の頭部を載せる。次いで、可動コイル20を退避位置から被検体の頭部に沿って移動させ(図7(b))、検査の目的に応じた位置で被検体に固定する。固定は、固定部31に設けられたベルト(不図示)を用いて行ってもよいし、可動部33に対し、可動コイル20が固定されたスライダ(或いは溝に係合する)をロックする手段が設けられている場合には、当該ロック手段を用いて所定位置に固定してもよい。
【0054】
ロック手段は、スライダを任意の位置に固定可能であり、これにより、被検体のサイズに応じた所望の位置に、或いは被検体が閉所恐怖症か否かに応じて適切な位置に可動コイルユニット20が装着される。
【0055】
その後、テーブル102をマグネット110が形成する静磁場空間に搬入し、検査を行うことは通常のMRI装置と同様であり、被検体が発生する磁気共鳴信号を被検体に装着した高周波コイル装置1の各コイルユニット10、20が受信する。この際、可動コイル20の位置が、固定コイル10に対し所定の範囲で変化しても、可動コイル20の導体ループ21と固定コイル10の導体ループ11とがほぼ同じ重なり面積を保つことができるので、電磁気干渉の変化による感度の低下がなく感度分布の均一性が維持される。結果として、良好な画像を得ることができる。
【0056】
なお図11の実施形態では、RF受信コイル161として本発明の高周波コイル装置を用いる場合を説明したが、RF送信コイル151の有無にかかわらず、RF受信コイル161として用いられる高周波コイル装置を送信用に用いることも可能であり、この場合には均一で高い照射感度を実現できる。
【符号の説明】
【0057】
1,1A、1B:高周波コイル装置、10:コイルユニット(固定コイル)、20:コイルユニット(可動コイル)、11、12:導体ループ、30:機構部、31:固定部、33:可動部、331:レール、332:スライダ、335:アーム、336:固定部材、100:MRI装置、151:RF送信コイル、161:RF受信コイル
図1
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図11