(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065666
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】薬液組成物及び地盤注入用組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 17/18 20060101AFI20240508BHJP
C09K 17/30 20060101ALI20240508BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C09K17/18 P
C09K17/30 P
E02D3/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174653
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000117102
【氏名又は名称】旭有機材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】本村 勇太
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼ 智裕
【テーマコード(参考)】
2D040
4H026
【Fターム(参考)】
2D040AA01
2D040AB01
2D040CA10
2D040CB03
4H026CA06
4H026CB08
4H026CC02
4H026CC05
(57)【要約】
【課題】地中への浸透性に優れ、難燃性に優れたウレタン樹脂を与える地盤注入用組成物、並びに、このような地盤注入用組成物の調製に用いられる、貯蔵安定性に優れる薬液組成物を提供する。
【解決手段】薬液組成物は、ポリオール、イミダゾール系触媒及び難燃剤を含有し、ポリオールの70質量%以上がポリエーテルポリオールであることを特徴とする。ポリエーテルポリオールは、2個以上の活性水素を有する化合物に、アルキレンオキサイドが付加されてなる化合物であり、該アルキレンオキサイドの70質量%以上がプロピレンオキサイドであることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイソシアネートと組み合わせて地盤注入用組成物の調製に用いられる薬液組成物であって、
ポリオール、イミダゾール系触媒及び難燃剤を含有し、
前記ポリオールの70質量%以上がポリエーテルポリオールであることを特徴とする薬液組成物。
【請求項2】
前記ポリエーテルポリオールは、2個以上の活性水素を有する化合物に、アルキレンオキサイドが付加されてなる化合物であり、該アルキレンオキサイドの70質量%以上がプロピレンオキサイドである請求項1に記載の薬液組成物。
【請求項3】
前記ポリオールは、水酸基価が30~1000mgKOH/gのポリオールを含む請求項1に記載の薬液組成物。
【請求項4】
前記水酸基価が30mgKOH/g以上350mgKOH/g未満のポリオール、及び、水酸基価が350~1000mgKOH/gのポリオールが含まれる請求項3に記載の薬液組成物。
【請求項5】
前記難燃剤が有機リン酸エステルを含む請求項1に記載の薬液組成物。
【請求項6】
更に、発泡剤を含有する請求項1に記載の薬液組成物。
【請求項7】
粘度(25℃)が300mPa・s以下である請求項1に記載の薬液組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の薬液組成物と、ポリイソシアネートを含むポリイソシアネート組成物とが組み合わされてなる地盤注入用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤を強化する地盤注入用組成物及びその調製に用いられる薬液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、強度が十分ではない地盤を強化する方法として、ポリオール及びポリイソシアネーを併用して地中にて発泡ポリウレタンを形成せしめる方法が知られている(特許文献1参照)。
この特許文献1には、補強を要する地層または多くの岩石および土壌の空所へ、反応してポリウレタンを生じる有機ポリヒドロキシル化合物および有機ポリイソシアネートをベースにした反応混合物を導入することによって地層およびゆるんだ岩石および土壌塊を補強する方法において、用いるポリイソシアネート成分が10~80重量%の2,4′-ジイソシアネートジフェニルメタンを含むポリイソシアネート混合物であることを特徴とする方法が開示されている。そして、有機ポリヒドロキシル化合物として、具体的には、トリメチロールプロパンと、プロピレンオキシドとから得られたポリエーテルポリオール、グリセロールと、プロピレンオキシドとから得られたポリエーテルポリオール、ヒマシ油、並びに、エチレンジアミンと、プロピレンオキシドとから得られたポリエーテルポリオールが用いられている。また、有機ポリヒドロキシル化合物と併用してもよい成分として、水およびフッ素化炭化水素等の膨張剤、第三級アミン等の促進剤、金属触媒、有機シリコン化合物等の泡調整剤、ナトリウムアミノシリケート等の水結合物質等が記載されている。
【0003】
発泡ポリウレタンは、ポリオール及びポリイソシアネートを接触させることで反応、形成されるが、地盤強化の施工に際しては、通常、地盤環境や、ポリオール及びポリイソシアネートを組み合わせてなる地盤強化原料液、即ち、地盤注入用組成物のゲルタイム等によって、地中への導入方法が選択される。そして、地盤強化原料液(地盤注入用組成物)を地中に導入する場合、例えば、(1)予め、別々に準備した、ポリオールを含む組成物と、ポリイソシアネートを含む組成物とを、所定の割合で混合した後、得られた1液型混合物からなる地盤強化原料液(地盤注入用組成物)を、注入管を通して地中に圧送する方法、(2)予め、別々に準備した、ポリオールを含む組成物と、ポリイソシアネートを含む組成物とを、別々に、注入管を通して圧送し、地中への導入直前の、注入管内又は注入管の出口外側で、所定の割合で合流させ、得られた混合物からなる地盤強化原料液(地盤注入用組成物)を地中に圧送する方法等が適用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
施工現場の地中温度は、環境温度(気候、地熱)の影響によって変化することもあるが、影響しない環境下では多くの場合、20℃以下であり、このような温度で、地中に導入された地盤強化原料液(地盤注入用組成物)の含有成分であるポリオール及びポリイソシアネートを、反応、硬化させ、ウレタン樹脂部を形成させることとなる。上記のように、地盤強化原料液(地盤注入用組成物)を調製する前には、ポリオールを含む組成物、及び、ポリイソシアネートを含む組成物が準備されるが、これらのうち、特に、ポリオール含有組成物は、組成物を調製後、貯蔵されていない「調製仕立て」の組成物であったり、調製仕立てではない貯蔵品であったりする。ポリオール含有組成物が貯蔵品であるときに、ポリイソシアネートと併用すると、調製仕立てのものをポリイソシアネートと併用した場合に比べて、ゲルタイムが長くなる、即ち、ポリオール含有組成物の貯蔵安定性が十分でなく、地盤強化原料液(地盤注入用組成物)におけるポリオール及びポリイソシアネートの反応性を低下させることがあった。ポリオール及びポリイソシアネートの反応性が低下すると、湧水により薬液が流出したり、薬液が注入予定箇所に留まらずに逸走したり、得られるウレタン樹脂(発泡体(発泡ポリウレタン)の場合もある)の難燃性が十分ではない傾向がある。
また、施工現場が、トンネル周辺部である場合、ポリオール及びポリイソシアネートの反応熱による火災等に対する対策が必要となる。
本発明は、地中への浸透性に優れ、難燃性に優れたウレタン樹脂を与える地盤注入用組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、このような地盤注入用組成物の調製に用いられる、貯蔵安定性に優れる薬液組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下に示される。
[1]ポリイソシアネートと組み合わせて地盤注入用組成物の調製に用いられる薬液組成物であって、
ポリオール、イミダゾール系触媒及び難燃剤を含有し、
上記ポリオールの70質量%以上がポリエーテルポリオールであることを特徴とする薬液組成物。
[2]上記ポリエーテルポリオールは、2個以上の活性水素を有する化合物に、アルキレンオキサイドが付加されてなる化合物であり、該アルキレンオキサイドの70質量%以上がプロピレンオキサイドである上記[1]に記載の薬液組成物。
[3]上記ポリオールは、水酸基価が30~1000mgKOH/gのポリオールを含む上記[1]に記載の薬液組成物。
[4]上記水酸基価が30mgKOH/g以上350mgKOH/g未満のポリオール、及び、水酸基価が350~1000mgKOH/gのポリオールが含まれる請求項3に記載の薬液組成物。
[5]上記難燃剤が有機リン酸エステルを含む上記[1]に記載の薬液組成物。
[6]更に、発泡剤を含有する上記[1]に記載の薬液組成物。
[7]粘度(25℃)が300mPa・s以下である上記[1]に記載の薬液組成物。
[8]上記[1]に記載の薬液組成物と、ポリイソシアネートを含むポリイソシアネート組成物とが組み合わされてなる地盤注入用組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の地盤注入用組成物は、地中への浸透性に優れ、難燃性に優れたウレタン樹脂を与えることができる。地中で形成されるウレタン樹脂は、中実体及び発泡体(発泡ポリウレタン)のいずれでもよく、発泡剤を含む地盤注入用組成物が地中に供給された場合、又は、地盤に発泡剤の作用を有する成分が存在しており、発泡剤を含まない地盤注入用組成物が地中に供給された場合には、地中で難燃性を有する発泡ポリウレタンを形成することができる。本発明において、このような地盤注入用組成物を調製する際に用いる本発明の薬液組成物が貯蔵品であっても、ポリイソシアネートとともにそれを含む地盤注入用組成物の反応時のゲルタイムが、調製仕立ての薬液組成物を含む地盤注入用組成物を用いたときの反応時のゲルタイムに比べて長すぎることはない。従って、本発明の薬液組成物は、貯蔵安定性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】〔実施例〕における地盤注入用組成物の浸透性評価方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を説明する。ここで示す事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要で、ある程度以上に本発明の構成的な詳細を示すことを意図しておらず、本説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0010】
本発明の薬液組成物は、ポリイソシアネートと組み合わせて、地中において中実体又は発泡体からなるウレタン樹脂を形成し地盤を強化する地盤注入用組成物の調製に用いる組成物である。そして、本発明の薬液組成物は、ポリオール(以下、「ポリオール成分」という)、イミダゾール系触媒及び難燃剤を含有し、上記ポリオール成分の70質量%以上がポリエーテルポリオールである。
【0011】
上記ポリオール成分は、ポリエーテルポリオールを含み、必要に応じて、更に、他のポリオール(後述)を含むことができる。
【0012】
ポリエーテルポリオールは、主鎖又は側鎖にエーテル結合を含み、2個以上のヒドロキシ基を有するものであれば、特に限定されない。例えば、2個以上の活性水素を有する有機化合物(2個以上のヒドロキシ基を含む化合物、1個以上のアミノ基を含む化合物等)に、アルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等)が付加されてなる化合物や、これらの化合物を除く、エーテル結合を含む多価アルコール等を用いることができる。本発明の薬液組成物に含まれるポリオールポリエーテルは、1種のみ又は2種以上とすることができる。
【0013】
本発明において、ポリエーテルポリオールは、2個以上の活性水素を有する有機化合物に、アルキレンオキサイドが付加されてなる化合物が好ましい。このようなポリオールポリエーテルとしては、2個以上のヒドロキシ基を有する炭化水素化合物のアルキレンオキサイド付加物(ジオール系ポリエーテルポリオール、トリオール系ポリエーテルポリオール、スクロース系ポリエーテルポリオール、ソルビトール系ポリエーテルポリオール等)、2個以上のアミノ基を有する炭化水素化合物のアルキレンオキサイド付加物(エチレンジアミン系ポリエーテルポリオール、トリレンジアミン系ポリエーテルポリオール、フェノール類、アルデヒド類及びアミン化合物を反応させたマンニッヒ縮合物、このマンニッヒ縮合物にアルキレンオキサイドを付加させたマンニッヒ系ポリエーテルポリオール等等)等が挙げられる。
【0014】
2個以上のヒドロキシ基を有する炭化水素化合物としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,10-デカメチレングリコール、1,2-テトラデカンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ジテトラメチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール、ソルビタン、ジグリセリン、ジペンタエリスリトール等の脂肪族化合物;シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール、シクロヘプタンジオール、シクロオクタンジオール、1,1-シクロヘキサンジエタノール、ヒドロキシプロピルシクロヘキサノール、トリシクロ[5,2,1,02,6]デカン-ジメタノール、ビシクロ[4.3,0]-ノナンジオール、ジシクロヘキサンジオール、トリシクロ[5,3,1,1]ドデカンジオール、ビシクロ[4,3,0]ノナンジメタノール、トリシクロ[5,3,1,1]ドデカン-ジエタノール、ヒドロキシプロピルトリシクロ[5,3,1,1]ドデカノール、スピロ[3,4]オクタンジオール、ブチルシクロヘキサンジオール、1,1′-ビシクロヘキシリデンジオール、2,2-ビス-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、1,3-アダマンタンジオール等の脂環式化合物;ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシフェニル、ナフタレンジオール、ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビスフェノールA、ジエトキシ化ビスフェノールA、p-キシリレングリコール、m-キシリレングリコール、o-キシリレングリコール、4,4′-ビスヒドロキシメチルビフェニル、4,2′-ビスヒドロキシメチルビフェニル、2,2′-ビスヒドロキシメチルビフェニル、4,3′-ビスヒドロキシメチルビフェニル、3,3′-ビスヒドロキシメチルビフェニル、3,2′-ビスヒドロキシメチルビフェニル等の芳香族化合物が挙げられる。
【0015】
2個以上のアミノ基を有する炭化水素化合物としては、エチレンジアミン、1,3-トリメチレンジアミン、1,4-テトラメチレンジアミン、1,5-ペンタメチレンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,7-ヘプタメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン、2-メチル-1,8-オクタメチレンジアミン、1,9-ノナメチレンジアミン、1,10-デカメチレンジアミン、1,11-ウンデカンメチレンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミン、1,13-トリデカメチレンジアミン、1,14-テトラデカメチレンジアミン、1,15-ペンタデカメチレンジアミン、1,16-ヘキサデカメチレンジアミン、1,17-ヘプタデカメチレンジアミン、1,18-オクタデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族化合物;o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、3,4-ジアミノジフェニルエーテル、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、1,5-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン、4,4′-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′-ジアミノ-3,3′-ジエチル-5,5-ジメチルフェニルメタン、4,4′-ジアミノ-3,3′,5,5′-テトラメチルジフェニルメタン、2,4-ジアミノトルエン、2,2′-ジメチルベンジジン等の芳香族化合物;4,4′-ジアミノ-ジシクロヘキシレンメタン、4,4′-ジアミノ-ジシクロヘキシレンプロパン、4,4′-ジアミノ-3,3′-ジメチル-ジシクロヘキシレンメタン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン等の脂環式化合物が挙げられる。
【0016】
本発明において、ポリエーテルポリオールは、地盤注入用組成物を用いて得られるウレタン樹脂の寸法安定性に優れることから、2個以上のヒドロキシ基を有する炭化水素化合物のアルキレンオキサイド付加物、及び、2個以上のアミノ基を有する炭化水素化合物のアルキレンオキサイド付加物を含むことが好ましい。この場合、両者の含有量の合計を100質量%とすると、後者の含有割合は、好ましくは5~60質量%、より好ましくは10~50質量%、更に好ましくは20~40質量%である。
【0017】
本発明に係るポリエーテルポリオールは、更に好ましくは、2個以上の活性水素を有する有機化合物に、アルキレンオキサイドが付加されてなる化合物であって、プロピレンオキサイドを、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上含むアルキレンオキサイドを用いて得られたポリエーテルポリオールである。高い割合でプロピレンオキサイドを付加させて得られたポリエーテルポリオールを用いることにより、地盤注入用組成物を用いて地山の地盤に注入した際の水濁りを抑制し、地盤に浸透した固結物の耐水性を向上させることができる。
【0018】
また、本発明において、ポリエーテルポリオールは、得られるウレタン樹脂の圧縮強度や寸法安定性の観点から、2個の活性水素を有する有機化合物に、アルキレンオキサイドが付加されてなる化合物、及び、3個以上の活性水素を有する有機化合物に、アルキレンオキサイドが付加されてなる化合物を含むことが好ましい。両者の含有量の合計を100質量%とすると、後者の含有割合は、好ましくは0~80質量%、より好ましくは20~70質量%である。尚、後者(3個以上の活性水素を有する有機化合物に、アルキレンオキサイドが付加されてなる化合物)は、アミノ基を有する炭化水素化合物のアルキレンオキサイド付加物を含むことが好ましい。
【0019】
本発明において、ポリオール成分を構成するポリエーテルポリオールの含有割合の下限は、貯蔵安定性に優れ、地盤注入用組成物を用いた場合に地中への浸透性に優れることから、ポリオール成分全量に対して、70質量%であり、好ましくは80質量%、更に好ましくは90質量%である。
【0020】
上記のように、ポリオール成分は、他のポリオールを含有することができる。他のポリオールとしては、エーテル結合を含まない脂肪族多価ヒドロキシ化合物、芳香族多価ヒドロキシ化合物、天然油脂系ポリオール(ヒマシ油等)、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートジオール、ポリジエンポリオール、アクリルポリオール等が挙げられる。
【0021】
本発明において、ポリオール成分は、水酸基価が30~1000mgKOH/gのポリオール(以下、「ポリオール(P)」という)を含むことが好ましい。尚、この水酸基価(mgKOH/g)は、JIS K 0070に準ずる測定値である。
ポリオール成分を構成するポリオール(P)の含有割合の下限は、貯蔵安定性に優れ、地盤注入用組成物を用いた場合に地中への浸透性に優れることから、ポリオール成分全量に対して、好ましくは50質量%、更に好ましくは60質量%、特に好ましくは70質量%である。
【0022】
ポリオール(P)は、特に限定されないが、ポリエーテルポリオールを含むことが好ましい。
【0023】
ポリオール(P)は、水酸基価が30mgKOH/g以上350mgKOH/g未満のポリオール(以下、「ポリオール(P1)」という)と、水酸基価が350~1000mgKOH/gのポリオール(以下、「ポリオール(P2)」という)とを含むようにすることが特に好ましい。
ポリオール(P1)及びポリオール(P2)を併用する場合、地盤注入用組成物を用いて地山の地盤に注入した際の水濁りが抑制され、発泡ポリウレタンを形成させる場合に、発泡安定性が良くなることで固結物の遮水性が向上することから、両者の含有割合は、これらの合計を100質量%とすると、それぞれ、好ましくは50~95質量%及び5~50質量%、より好ましくは60~90質量%及び10~40質量%である。
【0024】
本発明の薬液組成物の貯蔵安定性を改善するために、本発明の薬液組成物は、イミダゾール系触媒を含有する。
【0025】
イミダゾール系触媒としては、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-イソプロピルイミダゾール、1-イソブチル-2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール等が挙げられる。本発明の薬液組成物に含まれるイミダゾール系触媒は、1種のみ又は2種以上とすることができる。
【0026】
本発明の薬液組成物に含まれるイミダゾール系触媒の含有量は、ポリオール成分の合計量を100質量部とした場合に、好ましくは0.1~12質量部、より好ましくは0.3~10質量部、更に好ましくは0.5~8質量部である。
【0027】
本発明の薬液組成物は、必要に応じて、イミダゾール系触媒以外に、三量化触媒、3級アミン、有機金属化合物等の、他の触媒を含有することができる。
本発明の薬液組成物が他の触媒を含有する場合、その含有割合の上限は、ポリオール成分の合計量を100質量部とすると、好ましくは10質量部、より好ましくは8質量部、更に好ましくは5質量部である。
【0028】
本発明の薬液組成物は、難燃剤を含有する。
難燃剤としては、有機リン酸エステル、リン酸塩、スズ酸塩、ハロゲン化合物(有機リン酸エステルを除く)、ホウ素化合物、金属水酸化物、赤リン、リン酸エステルアミド、ホスホニトリル化合物、有機ホスホン酸化合物、有機ホスフィン酸化合物、ホスフィンオキシド、トリアゾール化合物、テトラゾール化合物、トリアジン化合物、環状モノウレイド、環状ジウレイド、アミジン化合物等が挙げられる。本発明の薬液組成物に含まれる難燃剤は、1種のみ又は2種以上とすることができる。
【0029】
有機リン酸エステルとしては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2-エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2-アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2-メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル-2-アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル-2-メタクリロイルオキシエチルホスフェート、メラミンホスフェート、ジメラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリクレジルホスフィンオキサイド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチル、レジルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、ホスファフェナンスレン、トリス(β-クロロプロピル)ホスフェート等のモノリン酸エステル;トリアルキルポリホスフェート、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ-2,6-キシリル)ホスフェート、ハイドロキノンポリ(2,6-キシリル)ホスフェート、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート等の縮合リン酸エステル等が挙げられる。
【0030】
リン酸塩としては、モノリン酸(リン酸、亜リン酸、次亜リン酸)、ピロリン酸又はポリリン酸と、周期律表IA族~IV族の金属、アンモニア、脂肪族アミン及び芳香族アミンから選ばれる少なくとも一種とから形成された塩等が挙げられる。
周期律表IA族~IV族の金属としては、リチウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、鉄(II)、鉄(III)、アルミニウム等が挙げられる。
脂肪族アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、ピペラジン等が挙げられる。
芳香族アミンとしては、ピリジン、トリアジン、メラミン等が挙げられる。
【0031】
モノリン酸塩としては、リン酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等のアンモニウム塩;リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、亜リン酸一ナトリウム、亜リン酸二ナトリウム、次亜リン酸ナトリウム等のナトリウム塩;リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、リン酸三カリウム、亜リン酸一カリウム、亜リン酸二カリウム、次亜リン酸カリウム等のカリウム塩;リン酸一リチウム、リン酸二リチウム、リン酸三リチウム、亜リン酸一リチウム、亜リン酸二リチウム、次亜リン酸リチウム等のリチウム塩;リン酸二水素バリウム、リン酸水素バリウム、リン酸三バリウム、次亜リン酸バリウム等のバリウム塩;リン酸一水素マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸三マグネシウム、次亜リン酸マグネシウム等のマグネシウム塩;リン酸二水素カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸三カルシウム、次亜リン酸カルシウム等のカルシウム塩;リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、次亜リン酸亜鉛等の亜鉛塩等が挙げられる。
【0032】
ポリリン酸塩としては、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸ピペラジン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸アンモニウムアミド、ポリリン酸アルミニウム等が挙げられる。
【0033】
リン酸塩を含む難燃剤として、リン酸塩に対して、シランカップリング剤処理、メラミン樹脂で被覆する等の耐水性改良処理等が施された複合物を用いることもできる。
【0034】
スズ酸塩としては、スズ酸亜鉛、スズ酸バリウム、スズ酸ナトリウム、スズ酸カリウム、スズ酸コバルト、スズ酸マグネシウム等が挙げられる。
【0035】
ハロゲン化合物(有機リン酸エステルを除く)は、好ましくは含臭素化合物であり、特に好ましくは含臭素芳香族化合物である。
含臭素芳香族化合物としては、ヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモトルエン、ヘキサブロモビフェニル、デカブロモビフェニル、ヘキサブロモシクロデカン、デカブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、ヘキサブロモジフェニルエーテル、ビス(ペンタブロモフェノキシ)エタン、エチレン-ビス(テトラブロモフタルイミド)、テトラブロモビスフェノールA、臭素化ビスフェノールAを用いて製造されたポリカーボネートオリゴマー、このポリカーボネートオリゴマーと、ビスフェノールAとの共重合物、臭素化ビスフェノールAと、エピクロルヒドリンとの反応生成物(ジエポキシ化合物)、臭素化フェノール類と、エピクロルヒドリンとの反応生成物(モノエポキシ化合物)、ポリ(臭素化ベンジルアクリレート)、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ビスフェノールA、塩化シアヌール及び臭素化フェノールの縮合物、臭素化(ポリスチレン)、ポリ(臭素化スチレン)、架橋臭素化ポリスチレン、架橋又は非架橋臭素化ポリ(α-メチルスチレン)等が挙げられる。
【0036】
ホウ素化合物としては、ホウ砂、酸化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸塩等が挙げられる。
酸化ホウ素としては、三酸化二ホウ素、三酸化ホウ素、二酸化二ホウ素、三酸化四ホウ素、五酸化四ホウ素等が挙げられる。
ホウ酸塩としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又は、周期律表第4族、第12族若しくは第13族の金属のホウ酸金属塩、ホウ酸アンモニウム等が挙げられる。ホウ酸金属塩としては、ホウ酸リチウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸セシウム等のホウ酸アルカリ金属塩;ホウ酸マグネシウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸バリウム等のホウ酸アルカリ土類金属塩;ホウ酸ジルコニウム、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アルミニウム等が挙げられる。
【0037】
金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化鉄、水酸化ニッケル、水酸化ジルコニウム、水酸化チタン、水酸化亜鉛、水酸化銅、水酸化バナジウム、水酸化スズ等が挙げられる。
【0038】
本発明において、難燃剤は、有機リン酸エステルを含むことが好ましい。
難燃剤の使用量は、ポリオール成分の合計量を100質量部とすると、好ましくは3~100質量部、より好ましくは5~80質量部、更に好ましくは10~60質量部である。
【0039】
本発明の薬液組成物は、上記の必須成分に加えて、更に、発泡剤、発泡体とする場合にそのセル構造を均一化する整泡剤、粘度調整剤(減粘剤、増粘剤)、ホルムアルデヒド捕捉剤、可塑剤、酸化防止剤、抗菌剤、腐食防止剤等の添加剤を含有することができる。
【0040】
発泡剤は、触媒の存在下、ポリオール成分とポリイソシアネートとの反応によって生成するウレタン樹脂を発泡せしめて、発泡ポリウレタンを形成させる成分である。本発明において、発泡剤(発泡剤源を含む)としては、水、物理発泡剤として炭酸ガス、炭化水素、含ハロゲン化合物等が挙げられる。これらのうち、ポリイソシアネートと反応して発泡剤としての炭酸ガスが生成される発泡剤源である水が好ましい。本発明の薬液組成物が水を含有する場合、その含有割合の上限は、ポリオール成分の合計量を100質量部とすると、好ましくは10質量部、より好ましくは8質量部、更に好ましくは5質量部である。また、水の含有割合の下限は、好ましくは0.1質量部、より好ましくは0.3質量部、更に好ましくは0.5質量部である。
物理発泡剤において、含ハロゲン化合物としては、ハイドロフルオロカーボン、ハロゲン化オレフィン(ハイドロフルオロオレフィン、ハイドロクロロフルオロオレフィン)が挙げられる。物理発泡剤は非フロン系が好ましく、ハロゲン化アルケンがより好ましい。物理発泡剤を用いる場合、その含有割合の上限は、ポリオール成分の合計量を100質量部とすると、好ましくは50質量部、より好ましくは40質量部、更に好ましくは30質量部である。また、物理発泡剤の含有割合の下限は、好ましくは1質量部、より好ましくは2質量部、更に好ましくは5質量部である。
尚、通常、補強が必要な地盤の含水率は様々であるので、地盤環境によっては、発泡剤として作用する水のみを含む薬液組成物、水を含まず物理発泡剤のみを含む薬液組成物、水と物理発泡剤を含む薬液組成物、又は、水も物理発泡剤も含まない薬液組成物をポリイソシアネートと併用することがあり得る。このうち、地盤への浸透を均一に広げて固結させる観点から、水及び/又は物理発泡剤を用いることが好ましい。
【0041】
整泡剤は、ノニオン系、アニオン系及びカチオン系のいずれの化合物でもよいが、ノニオン系整泡剤を含むことが好ましい。用いられる整泡剤は、1種のみでも、2種以上でもよい。
具体的な整泡剤としては、オルガノポリシロキサン、ポリオキシアルキレン変性ジメチルポリシロキサン、ポリシロキサンオキシアルキレン共重合体等のシリコーン系化合物や、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油脂肪酸エステル、ラウリル脂肪酸エチレンオキシド付加物、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等が挙げられる。これらのうち、シリコーン系化合物が好ましい。
【0042】
本発明の薬液組成物が整泡剤を含有する場合、その含有割合は、ポリオール成分の合計量を100質量部とすると、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.2~3質量部、更に好ましくは0.5~2.5質量部である。
【0043】
本発明の薬液組成物の粘度(25℃)は、ポリイソシアネートと併用して地盤注入用組成物としたときに、地中への浸透性に優れることから、好ましくは300mPa・s以下、より好ましくは20~250mPa・s、更に好ましくは40~200mPa・sである。尚、上記粘度は、JIS K 7117-1に準拠する測定値であり、B型粘度計を用いて測定することができる。
【0044】
本発明において、薬液組成物を製造する方法は、特に限定されない。原料成分を所定の割合で用い、これらを混合することにより、薬液組成物を製造することができる。
【0045】
次に、本発明の地盤注入用組成物について、説明する。本発明の地盤注入用組成物は、上記の薬液組成物と、ポリイソシアネートを含むポリイソシアネート組成物とが組み合わされてなる組成物である。
【0046】
上記ポリイソシアネート組成物は、ポリイソシアネートを含む一方、ポリイソシアネートのイソシアネート基と反応しない成分を含んでもよい組成物である。尚、このポリイソシアネート組成物は、ポリイソシアネートのみからなるものであってもよい。
【0047】
ポリイソシアネートは、薬液組成物中のポリオール成分と反応することにより、ウレタン樹脂を生成させるものであり、分子中に2つ以上のイソシアネート基を有する化合物である。
【0048】
ポリイソシアネートとしては、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、分子末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー、ポリイソシアネートのイソシアヌレート変性体又はカルボジイミド変性体等が挙げられる。ポリイソシアネート組成物に含まれるポリイソシアネートは、1種のみでも2種以上でもよい。
【0049】
芳香族ポリイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ポリトリレントリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、3,3′-ジメチルジフェニル-4,4′-ジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、イソプロピリデンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、トリフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ジメチルトリフェニルメタンテトライソシアネート等が挙げられる。
脂肪族ポリイソシアネートとしては、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジントリイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等が挙げられる。
脂環式ポリイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート(3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート)、1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、4,4′-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、ノルボルネンジイソシアネート等が挙げられる。
【0050】
本発明において、ポリイソシアネートは、芳香族ポリイソシアネートを含むことが好ましい。
ポリイソシアネート組成物を構成するポリイソシアネートの合計量に対する、芳香族ポリイソシアネートの含有割合の下限は、好ましくは70質量%、より好ましくは80質量%、更に好ましくは90質量%である。
【0051】
ポリイソシアネート組成物は、ポリイソシアネート以外に、他の成分を含有することができる。他の成分としては、上記薬液組成物に含まれてもよいとした添加剤のうち、ポリイソシアネートと反応しない成分を用いることができる。
【0052】
本発明に係るポリイソシアネート組成物に含まれるポリイソシアネートは、薬液組成物に含まれるポリオール成分と反応して、形状安定性に優れるウレタン樹脂を与える成分である。ここで、本発明の地盤注入用組成物におけるポリオール成分及びポリイソシアネートの間には、好ましい含有割合がある。本発明においては、ポリイソシアネートのイソシアネート基と、ポリオール成分全体のヒドロキシ基との当量比(NCO/OH)が、好ましくは0.8~6、より好ましくは1~4となるように、薬液組成物及びポリイソシアネート組成物が構成される。
【0053】
ここで、本発明の地盤注入用組成物は、これを地中における補強が必要な位置に導入することにより、ポリオール成分とポリイソシアネートとを反応(硬化反応)させて難燃性に優れたウレタン樹脂を形成させ、地盤を強化する材料である。地盤強化の施工に際しては、通常、地盤環境や、地盤注入用組成物のゲルタイム等によって、地中への導入方法が選択されるが、通常、地中に配設した注入管が用いられる。具体的な導入方法は、以下の(A)、(B)及び(C)に例示され、簡単に説明すると、予め、薬液組成物及びポリイソシアネート組成物の混合物(地盤注入用組成物)を準備し、これを地中に導入するか、あるいは、薬液組成物及びポリイソシアネート組成物が地中で合流するように、別々に導入するというものである。即ち、「地盤注入用組成物」は、どのタイミングで形成されてもよい。後者の場合は、薬液組成物及びポリイソシアネート組成物が地中で合流したときに、「地盤注入用組成物」が形成される。尚、地盤環境により、発泡剤として作用する水が地中に存在することがある。含水率が低い場合には、予め、薬液組成物に発泡剤(好ましくは水)を含有させておくか、あるいは、施工時に、薬液組成物に発泡剤を含まない場合に薬液組成物等とともに発泡剤(好ましくは水)を地中に導入することが好ましい。
(A)予め、別々に準備した、薬液組成物と、ポリイソシアネート組成物とを、所定の割合で混合した後、得られた1液型混合物からなる地盤注入用組成物を、注入管を通して地中に圧送する方法
(B)予め、別々に準備した、薬液組成物と、ポリイソシアネート組成物とを、別々に、注入管を通して圧送し、地中への導入直前の、注入管内で、所定の割合で合流させ、得られた混合物からなる地盤注入用組成物を地中に圧送する方法
(C)予め、別々に準備した、薬液組成物と、ポリイソシアネート組成物とを、別々に、注入管を通して圧送し、各注入管の出口外側の地中で、所定の割合で合流させる方法
【0054】
上記のように、地盤強化のためには、地中に水が存在するしないにかかわらず、発泡剤は存在しているほうがよい。従って、薬液組成物が発泡剤を含有するしないにかかわらず、施工時において、地中に導入されるポリオール成分に対する発泡剤の割合が好適になるように、発泡剤を選択し用いることができる。一般的には、上記方法(A)及び(B)に好適な地盤注入用組成物は、発泡剤を含むことが好ましく、以下の(1)及び(2)の方法で得られたものとすることができるが、(1)の方法で構成されたものが特に好ましい。
(1)発泡剤を含む薬液組成物と、ポリイソシアネート組成物とを混合する方法
(2)発泡剤を含まない薬液組成物と、発泡剤と、ポリイソシアネート組成物とを混合する方法
【0055】
上記方法(A)に好適な地盤注入用組成物は、薬液組成物及びポリイソシアネート組成物を混合することにより製造することができる。混合手段として、高速撹拌機、衝突混合機等を用いることができる。
【0056】
本発明の地盤注入用組成物の15℃におけるゲルタイムは、施工時のハンドリングと固結物の強度の発現時間の観点から、好ましくは10~600秒、より好ましくは30~300秒である。
本発明において、調製仕立ての薬液組成物をポリイソシアネート組成物と組み合わせた地盤注入用組成物と、例えば、150~300日間貯蔵した薬液組成物をポリイソシアネート組成物と組み合わせた地盤注入用組成物とをゲルタイムで比較すると、若干の差はあるものの、貯蔵品の薬液組成物を含む地盤注入用組成物の反応時のゲルタイムが、調製仕立ての薬液組成物を含む地盤注入用組成物を用いたときの反応時のゲルタイムに比べて長すぎることはなく、本発明の薬液組成物は貯蔵安定性に優れるので、地盤注入用組成物の利便性が高い。
【0057】
施工現場の地中温度は、環境温度の影響によって変化することもあるが、影響しない環境下では通常、20℃以下であり、例えば、10℃~30℃において、地盤注入用組成物により発泡ウレタンを形成させた場合の発泡倍率は、形状安定性及び難燃性に優れた発泡体が得られることから、好ましくは20倍以下、より好ましくは15倍以下である。
【0058】
本発明の地盤注入用組成物は、土の粒子の集合体への浸透性に優れるため、上記方法(A)、(B)及び(C)を適用して発泡ポリウレタンを形成させる場合において、地盤注入用組成物が地中に導入されると、土と接触した組成物は土の粒子との混合物となった後、土の粒子を含む複合発泡物が形成される。この複合発泡物に含まれる土の粒子は、複合発泡物の補強剤として作用する。一方、土と接触しなかった組成物は、そのまま、形状安定性及び難燃性に優れた発泡ポリウレタンを生成する。これにより、地中において、上記複合発泡物を構成するウレタン樹脂とともにウレタン樹脂連続相が形成されることとなり、地盤が強化(地盤の固結とも表現する)される。尚、本発明の地盤注入用組成物は、地盤の湧水部に注入することにより、地盤注入用組成物が地中に導入されながら湧水部を塞ぐことで、地盤の止水を行うこともできる。
【実施例0059】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。尚、下記の記載において、「部」及び「%」は、特に断らない限り、質量基準である。
【0060】
1.薬液組成物の製造原料
薬液組成物の製造原料を以下に示す。
【0061】
1-1.ポリオール
1-1-1.ポリエーテルポリオール
(1)AGC社製「エクセノール420」(商品名)
プロピレングリコールにプロピレンオキサイドを付加させて得られた官能基数2のポリエーテルポリオールであり、数平均分子量は400、水酸基価は280mgKOH/gである。
(2)AGC社製「エクセノール430」(商品名)
グリセリンにプロピレンオキサイドを付加させて得られた官能基数3のポリエーテルポリオールであり、数平均分子量は400、水酸基価は400mgKOH/gである。
(3)AGC社製「エクセノール500ED」(商品名)
エチレンジアミンにプロピレンオキサイドを付加させて得られた官能基数4のポリエーテルポリオールであり、数平均分子量は450、水酸基価は500mgKOH/gである。
(4)AGC社製「エクセノール450ED」(商品名)
エチレンジアミンに48%のプロピレンオキサイドを付加させて得られた官能基数4のポリエーテルポリオールであり、数平均分子量は500、水酸基価は450mgKOH/gである。
【0062】
1-1-2.ポリエステルポリオール
(1)エア・ウォーター・パフォーマンスケミカル社製「マキシモールRDK-133」(商品名)
フタル酸系ポリエステルポリオールであり、水酸基価は315mgKOH/gである。
【0063】
1-2.イミダゾール系触媒
(1)花王社製「カオーライザーNo.120」(商品名)
1-イソブチル-2-メチルイミダゾール
(2)花王社製「カオーライザーNo.390」(商品名)
1,2-ジメチルイミダゾールを70%含むジプロピレングリコール溶液
【0064】
1-3.三量化触媒
(1)エボニック社製「Dabco K-15」(商品名)
オクチル酸カリウム
(2)花王社製「カオーライザーNo.420」(商品名)
オクチル酸四級アンモニウム塩
【0065】
1-4.樹脂化触媒
(1)花王社製「カオーライザーNo.31」(商品名)
トリエチレンジアミンを33%含むジプロピレングリコール溶液
【0066】
1-5.整泡剤
(1)モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製変性シリコーン「NiaxTM Silicone L-6970」(商品名)
【0067】
1-6.難燃剤
(1)大八化学工業社製トリス(1-クロロ-2-プロピル)ホスフェート「TMCPP」(商品名)
(2)大八化学工業社製脂肪族縮合リン酸エステル「DAIGARD-880」(商品名)
【0068】
1-7.発泡剤
(1)水
【0069】
2.薬液組成物の製造及び評価
上記の原料を用いて、薬液組成物を製造し、その後、該組成物の粘度を、JIS K7117-1に準拠する方法により、B型粘度計を用いて25℃で測定した(表1~表3参照)。
【0070】
実施例1-1
100部の「エクセノール430」(ポリエーテルポリオール)と、3部の「カオーライザーNo.120」(イミダゾール系触媒)と、1部の「NiaxTM Silicone L-6970」(整泡剤)と、40部の「TMCPP」(難燃剤)と、1.5部の水(発泡剤)とを撹拌、混合し、薬液組成物(以下、「薬液組成物(V1)」という)を得た(表1参照)。
【0071】
実施例1-2~1-15
原料の種類及び使用量を表1及び表2に示す通りとした以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、薬液組成物(以下、それぞれ、「薬液組成物(V2)~(V15)」という)を得た(表1及び表2参照)。
【0072】
比較例1-1~1-5
原料の種類及び使用量を表3に示す通りとした以外は、実施例1-1と同様の操作を行い、薬液組成物(以下、それぞれ、「薬液組成物(W1)~(W5)」という)を得た(表3参照)。
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
3.地盤注入用組成物の製造及び評価
実施例2-1~2-15及び比較例2-1~2-5
上記で得られた薬液組成物、及び、ポリイソシアネートとして、錦湖MITSUI化学社製ポリメリックMDI「M-100」(商品名)を、薬液組成物の合計量をS、ポリイソシアネートの使用量をTとして、T/Sが所定比となるように用いて、地盤注入用組成物を製造した。尚、B型粘度計を用いて測定したポリイソシアネートの粘度(25℃)は118mPa・sである。次いで、地盤注入用組成物を用いて下記項目の評価を行った。その結果を表4及び表5に示す。
【0077】
(1)貯蔵安定性(経時変化)
製造した薬液組成物を15℃(地山の標準温度)に調整し、15℃に調整した上記ポリイソシアネートとともに、表4及び表5に示す割合で、且つ、全量が100mLとなるように、容積1LのPP製容器に入れた。そして、ミキサーを用いて、12000rpmで5秒間撹拌し、地盤注入用組成物を調製したところ、この容器内で発泡し始めた。発泡が開始してから、形成される発泡体の内部に串が刺さらなくなるまでの時間(固化時間=ゲルタイム)を計測した。以下、このゲルタイムを「R1」で表記する。
一方、薬液組成物を密閉可能なステンレス容器に封入し、恒温機を用いて、50℃で28日間貯蔵した。次いで、薬液組成物及びポリイソシアネートを15℃として、上記と同様の実験を行い、ゲルタイム(以下、「R2」という)を計測した。
その後、R1及びR2を用いて、ゲルタイムの変化率(R2/R1)を算出した。
【0078】
(2)外観
発泡完了後、常温(23℃)にて1時間養生し、目視で外観を判定した。発泡体の見た目が均一な(破泡や大きな穴が無い)状態であり、且つ発泡完了時からの収縮率が20%未満であったときに「良好」と判定した。
【0079】
(3)難燃性
製造した薬液組成物を15℃に調整し、他方、15℃に調整した上記ポリイソシアネートとともに、表4及び表5に示す割合で、且つ、発泡後の体積が2500cm3となるように、容積2LのPP製容器に入れた。そして、ミキサーを用いて、12000rpmで5秒間撹拌し、地盤注入用組成物を調製し、この容器内で発泡させた。発泡体を取り出した後、2時間以上常温(23℃)にて養生し、JIS A 9511に従い、燃焼時間及び燃焼距離を測定した。好ましい性能は、燃焼時間が120秒以内、燃焼距離が60mm以下である。
【0080】
(4)砂への浸透性(
図1参照)
内径40mm、長さ250mmの円筒型の下端にメッシュ網を配設し、上方から300gの「4号珪砂」(空隙率42%)を入れた後、水30gを注ぎ、この砂が、円筒の下端からの長さが160mmとなる位置まで満たされるようにした。
一方、薬液組成物及びポリイソシアネートを15℃に調整し、これらを、表4及び表5に示す割合で、且つ、全量が100mLとなるように、容積1LのPP製容器に入れた。そして、撹拌棒を用いて10秒間撹拌し、地盤注入用組成物を調製した。
その後、直ちに、23gの地盤注入用組成物を、上記の砂入り円筒型(23℃)に注入し、コーキングガンで押し込んだ。そして、このまま、常温(23℃)にて養生し、脱型した。次いで、地盤注入用組成物が浸透した長さ(以下、「砂内浸透距離」という)を測定した。
【0081】
【0082】
【0083】
表4及び表5から以下のことが分かる。
実施例2-1~2-15は、本発明の薬液組成物(V1)~(V15)及びポリイソシアネートを併用して得られた、本発明の地盤注入用組成物(Y1)~(Y15)の例であり、地中への浸透性に優れ、難燃性に優れた発泡体が形成されることが明らかである。また、薬液組成物(V1)~(V15)が、調製仕立てのものであっても、貯蔵品であっても、地盤注入用組成物の反応時のゲルタイムに大きな差がないため、これらの薬液組成物の貯蔵安定性に優れることが明らかである。更に、水酸基価が30mgKOH/g以上350mgKOH/g未満のポリオール、及び、水酸基価が350~1000mgKOH/gのポリオールが含まれる薬液組成物を用いて地盤注入用組成物とした実施例2-2~2-9は、水酸基価が30mgKOH/g以上350mgKOH/g未満のポリオールのみを含む薬液組成物を用いて地盤注入用組成物とした実施例2-1に比べて難燃性に優れていた。
一方、比較例2-1~2-5は、本発明の構成を有さない薬液組成物を用いた例である。比較例2-1は、ポリオールとして、ポリエーテルポリオールでなくポリエステルポリオールを含む薬液組成物(W1)を用いて地盤注入用組成物(YY1)とした例であり、砂への浸透性が十分ではなかった。また、薬液組成物(W1)の貯蔵安定性も劣っていた。比較例2-2は、ポリエーテルポリオールの含有割合が60質量%であるポリオールを含む薬液組成物(W2)を用いて地盤注入用組成物(YY2)とした例であり、砂への浸透性が十分ではなかった。また、薬液組成物(W2)の貯蔵安定性も劣っていた。比較例2-3は、イミダゾール系触媒を含有しない薬液組成物(W3)を用いて地盤注入用組成物(YY3)とした例であり、砂への浸透性が十分ではなく、得られた発泡体の難燃性も十分ではなかった。比較例2-4は、イミダゾール系触媒に代えて、3級アミン系触媒を含む薬液組成物(W4)を用いて地盤注入用組成物(YY4)とした例であり、得られた発泡体の難燃性が十分ではなかった。また、薬液組成物(W4)の貯蔵安定性も劣っていた。比較例2-5は、難燃剤を含有しない薬液組成物(W5)を用いて地盤注入用組成物(YY5)とした例であり、得られた発泡体の難燃性が十分ではなかった。