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特開2024-65670封止材料、エレクトロクロミックシートおよびエレクトロクロミック装置
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  • 特開-封止材料、エレクトロクロミックシートおよびエレクトロクロミック装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065670
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】封止材料、エレクトロクロミックシートおよびエレクトロクロミック装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/15 20190101AFI20240508BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
G02F1/15 505
C09K3/10 L
C09K3/10 E
C09K3/10 B
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174657
(22)【出願日】2022-10-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】西野 哲史
(72)【発明者】
【氏名】中村 匡志
(72)【発明者】
【氏名】松井 智紀
【テーマコード(参考)】
2K101
4H017
【Fターム(参考)】
2K101AA22
2K101DA01
2K101DB33
2K101DC03
2K101DC04
2K101DC06
2K101DC12
2K101DC43
2K101DC46
2K101DC53
2K101DC54
2K101DC55
2K101DC62
2K101EB01
2K101EB41
2K101EG37
2K101EG52
2K101EJ01
2K101EK04
2K101EK05
4H017AA04
4H017AB01
4H017AB08
4H017AC03
4H017AC08
4H017AD06
4H017AE05
(57)【要約】
【課題】エレクトロクロミックシートにおける封止部の密着性を向上できる封止材料を提供する。
【解決手段】本発明の封止材料は、電解質層4と、電解質層4の側面を覆うように設けられた封止部8と、電解質層4の少なくとも一方の面に設けられたエレクトロクロミック層3、5と、を備えるエレクトロクロミックシート100の封止部8を構成する封止材料であって、当該封止材料のせん断速度0.1/sにおける粘度(25℃)が800Pa・s以上かつせん断速度10/sにおける粘度(25℃)が200Pa・s以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層と、前記電解質層の側面を覆うように設けられた封止部と、
前記電解質層の少なくとも一方の面に設けられたエレクトロクロミック層と、
を備えるエレクトロクロミックシートの前記封止部を構成する封止材料であって、
当該封止材料のせん断速度0.1/sにおける粘度(25℃)が800Pa・s以上、かつせん断速度10/sにおける粘度(25℃)が200Pa・s以下である、封止材料。
【請求項2】
請求項1に記載の封止材料であって、
前記封止材料は、硬化性樹脂を含む、封止材料。
【請求項3】
請求項2に記載の封止材料であって、
前記硬化性樹脂は、紫外線反応性官能基、および熱反応性官能基の中から選ばれる少なくとも一方を有する、封止材料。
【請求項4】
請求項1または2に記載の封止材料であって、
前記封止材料は、無機粒子を含む、封止材料。
【請求項5】
請求項1または2に記載の封止材料であって、
前記エレクトロクロミックシートの前記電解質層は、固体またはゲルである、封止材料。
【請求項6】
請求項1または2に記載の封止材料であって、
前記エレクトロクロミックシートの前記電解質層の上下面に前記エレクトロクロミック層がそれぞれ設けられている、封止材料。
【請求項7】
請求項1または2に記載の封止材料であって、
前記封止部は、前記電解質層の側面と前記エレクトロクロミック層の側面とを一体に覆う、封止材料。
【請求項8】
請求項1または2に記載の封止材料を用いた、エレクトロクロミックシート。
【請求項9】
請求項8に記載のエレクトロクロミックシートを用いた、エレクトロクロミック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止材料、エレクトロクロミックシートおよびエレクトロクロミック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロクロミック素子は、電圧を印加することで、可逆的に酸化還元反応が起こり、可逆的に透過率が変化する現象であるエレクトロクロミズムを利用した素子として知られる。例えば、エレクトロクロミック素子にプラス電圧を印加することで発色がえられ、マイナス電圧を印加することで消色して透明にすることができることから、プラス電圧とマイナス電圧との印加の切り替えを行うことが可能なスイッチを設けることで、エレクトロクロミック素子における発色と消色とを、任意のタイミングで行い得るようになる。
【0003】
このようなエレクトロクロミック素子は、大きく2つの種類の層構成に分けることができる。一つは、エレクトロクロミック材料および電解質材料が混合された層構成であり、二つは、エレクトロクロミック材料および電解質材料を各々の層とし形成した多層構成である。また後者の多層構成のエレクトロクロミック素子は、エレクトロクロミック材料が層状に固定化されているため、エレクトロクロミック材料中に注入された電荷は、外部回路を通して逆反応を行うこととなる。これにより、一度発色させると消色駆動を行うまで発色状態を保持することができ、消費電力を少なくできるというメリットがある。
【0004】
エレクトロクロミック素子としては例えば、特許文献1に記載のものがある。特許文献1には、電圧電流を印加するための電極と、エレクトロクロミック材料を含むエレクトロクロミック素子と、エレクトロクロミック素子の周辺を覆う封止シールとを備えることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-106786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者はエレクトロクロミック素子を用いたエレクトロクロミックシートの信頼性を高める点から研究・開発を進めたところ、特許文献1に開示されるような従来のエレクトロクロミック素子は、エレクトロクロミック素子と封止樹脂層との密着性において改善の余地があることを判明した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、エレクトロクロミック素子と封止部との密着性を向上すべく鋭意検討を行った結果、特定の粘度を有する封止材料を用いて封止部を形成することが有効であることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明によれば、以下の封止材料およびエレクトロクロミックシートに関する技術が敵供される。
【0009】
[1] 電解質層と、前記電解質層の側面を覆うように設けられた封止部と、
前記電解質層の少なくとも一方の面に設けられたエレクトロクロミック層と、
を備えるエレクトロクロミックシートの前記封止部を構成する封止材料であって、
当該封止材料のせん断速度0.1/sにおける粘度(25℃)が800Pa・s以上かつせん断速度10/sにおける粘度(25℃)が200Pa・s以下である、封止材料。
[2] [1]に記載の封止材料であって、
前記封止材料は、硬化性樹脂を含む、封止材料。
[3] [2]に記載の封止材料であって、
前記硬化性樹脂は、紫外線反応性官能基、および熱反応性官能基の中から選ばれる少なくとも一方を有する、封止材料。
[4] [1]乃至[3]いずれか一つに記載の封止材料であって、
前記封止材料は、無機粒子を含む、封止材料。
[5] [1]乃至[4]いずれか一つに記載の封止材料であって、
前記エレクトロクロミックシートの前記電解質層は、固体またはゲルである、封止材料。
[6] [1]乃至[5]いずれか一つに記載の封止材料であって、
前記エレクトロクロミックシートの前記電解質層の上下面に前記エレクトロクロミック層がそれぞれ設けられている、封止材料。
[7] [1]乃至[6]いずれか一つに記載の封止材料であって、
前記封止部は、前記電解質層の側面と前記エレクトロクロミック層の側面とを一体に覆う、封止材料。
[8] [1]乃至[7]いずれか一つに記載の封止材料を用いた、エレクトロクロミックシート。
[9] [8]に記載のエレクトロクロミックシートを用いた、エレクトロクロミック装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、エレクトロクロミックシートにおける封止部の密着性を向上できる封止材料を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態のエレクトロクロミックシートを模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
煩雑さを避けるため、同一図面内に同一の構成要素が複数ある場合には、その1つのみに符号を付し、全てには符号を付さない場合がある。図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比等は、必ずしも現実の物品と対応するものではない。
【0013】
本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。また、数値範囲の下限値および上限値は、それぞれ他の数値範囲の下限値および上限値と任意に組み合わせられる。
【0014】
本明細書に例示する各成分および材料は、特に断らない限り、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0015】
本実施形態において「覆う」とは連続的である場合に限られず、一部に非連続的な部分があってもよいことを意味する。
【0016】
<エレクトロクロミックシート>
図1は、エレクトロクロミックシート100の実施形態の一例を示す模式断面図である。
図1に示すように、エレクトロクロミックシート100は、電解質層4、第1のエレクトロクロミック層3および第2のエレクトロクロミック層5が順に積層した積層体(以下、「エレクトロクロミック素子10」ともいう)と、エレクトロクロミック素子10の側面を覆う封止部8と、エレクトロクロミック素子10と封止部8の上下面を挟む一対の支持体層(第1の支持体層1、および第2の支持体層7)と、を備える。
換言すると、エレクトロクロミックシート100は、第1の支持体層1上に、順次積層された第1のエレクトロクロミック層3、電解質層4、第2のエレクトロクロミック層5、および第2の支持体層7を備え、第1のエレクトロクロミック層3、電解質層4および第2のエレクトロクロミック層5の側面がそれぞれ封止部8により覆われている。
【0017】
本実施形態において、エレクトロクロミックシート100はさらに、第1の支持体層1と第1のエレクトロクロミック層3との間に第1の電極2を有し、第2の支持体層7と第2のエレクトロクロミック層5との間に第2の電極6を有している。
以下、各構成について説明する。
【0018】
[封止部]
封止部8は、電解質層4の側面と、第1のエレクトロクロミック層3および第2のエレクトロクロミック層5の側面とを一体に覆い、外部からエレクトロクロミック素子10への水分や酸素ガスの侵入を防ぐとともに、第1の支持体層1および第2の支持体層7と接着しエレクトロクロミック素子10との剥離を防ぐために用いられる。また、対向する第1の電極2および第2の電極6の間に形成された第1のエレクトロクロミック層3および第2のエレクトロクロミック層5の位置がずれると、動作時に発色品質が低下してしまうため、これを抑止するために用いられる。
【0019】
封止部8の平均厚さ(積層方向の長さ)は、エレクトロクロミック素子10の平均厚さに応じて調整されるが、例えば、好ましくは20μm以上100μm以下程度、より好ましくは40μm以上80μm以下程度に設定される。
【0020】
本実施形態の封止部8は、せん断速度0.1/sにおける粘度(25℃)が800Pa・s以上かつせん断速度10/sにおける粘度(25℃)が200Pa・s以下の封止材料から構成される。これにより、エレクトロクロミック素子10において、封止部8と電解質層4との密着性を向上できる。その結果、本実施形態のエレクトロクロミックシート100を所望の形状に加工する際、封止部8を切削しても、封止部8と電解質層4とが剥離することを抑制し、良好な加工耐久性が得られるようになる。なかでも、本実施形態のエレクトロクロミックシート100をメガネレンズ等の用途に適用する場合、意匠性を高める点からレンズの外縁に位置する封止部8の幅はできるだけ薄いことが求められる。そのため、より高い密着性、加工性が求められることとなるが、本実施形態のエレクトロクロミックシート100は、所定の粘度を有する封止材料を用いているため、より高い密着性、加工性を得ることができる。
一方当該粘度は、封止部8の形成工程の際に封止材料の良好な塗布性を保持する点から、せん断速度0.1/sにおける粘度(25℃)が2000Pa・s以下であることが好ましく、せん断速度10/sにおける粘度(25℃)が10Pa・s以上であることが好ましい。
【0021】
封止材料の上記の粘度(25℃)は、後述する樹脂の種類および任意の無機粒子の含有量等を調整することで制御できる。また、発熱を抑えながら混錬するなど従来技術とは異なる製法上の工夫を施すことが好適である。
【0022】
測定条件は、回転粘度計もしくはレオメーターにてコーンとプレートを用いて一定の温度、せん断速度のもとで測定することが好ましい。
【0023】
(封止材料)
本実施形態の封止材料は、絶縁性材料であれば、特に限定されないが、硬化性樹脂を含むことが好ましい。
【0024】
・硬化性樹脂
硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、マレイミド樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、シアネート樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、および不飽和ポリエステル樹脂の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。紫外線反応性官能基、および熱反応性官能基の少なくとも一方を有するものが好ましく、(メタ)アクリロイル基および/またはエポキシ基を有するものがより好ましい。硬化性樹脂としては、例えば、(メタ)アクリレート、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0025】
上記(メタ)アクリレートとしては特に限定されず、例えば、ウレタン結合を有するウレタン(メタ)アクリレート、グリシジル基を有する化合物と(メタ)アクリル酸とから誘導されるエポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0026】
上記ウレタン(メタ)アクリレートとしては特に限定されず、例えば、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネートと、アクリル酸、ヒドロキシエチルアクリレート等のイソシアネートと付加反応する反応性化合物との誘導体等が挙げられる。これらの誘導体はカプロラクトンやポリオール等で鎖延長させてもよい。
【0027】
上記エポキシ(メタ)アクリレートとしては特に限定されず、例えば、エポキシ化合物と(メタ)アクリル酸とを、常法に従って塩基性触媒の存在下で反応することにより得られるもの等が挙げられる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂やプロピレングリコールジグリシジルエーテル等のエポキシ樹脂と、(メタ)アクリル酸とから誘導されたエポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0028】
その他の(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、(ポリ)エチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリストールトリアクリレート、およびグリセリンジメタクリレート等の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0029】
上記エポキシ樹脂としては、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジルトルイジン、ジアミノジフェニルメタン型グリシジルアミン、アミノフェノール型グリシジルアミンなどの芳香族グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリフェノールプロパン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェニレンおよび/またはビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレンおよび/またはビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂などのアラルキル型エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、アリサイクリックジエポキシ-アジペイドなどの脂環式エポキシなどの脂肪族エポキシ樹脂等の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0030】
また、硬化性樹脂として、1分子内に(メタ)アクリル基とエポキシ基とをそれぞれ少なくとも1つ以上有するエポキシ/(メタ)アクリル樹脂を用いてもよい。
【0031】
・無機粒子
本実施形態の封止材料はさらに無機粒子を含んでもよい。
無機粒子としては、シリカ、タルク、ガラスビーズ、石綿、石膏、珪藻土、スメクタイト、ベントナイト、モンモリロナイト、セリサイト、活性白土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化錫、酸化チタン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化珪素、硫酸バリウム、珪酸カルシウム等の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0032】
無機粒子は、表面を疎水処理したものであってもよい。例えば、エポキンシラン、アミノシラン、(メタ)アクリルシラン、ビニルシラン、メチルクロロシラン、ジメチルポリシロキサン等を用いて、無機粒子を公知の方法で表面処理できる。無機粒子としては、疎水処理をしたものと、そうでないものとを混合して用いてもよい。
【0033】
無機粒子の含有量は、封止材料全量に対して、1~80質量%であり、好ましくは3~70質量%であり、20~60質量%である。
【0034】
・その他
本実施形態の封止材料は、上記硬化性樹脂、無機粒子の他、有機粒子、重合開始剤、熱硬化剤等を含んでもよい。
【0035】
上記有機粒子としては、例えば、ポリエステル微粒子、ポリウレタン微粒子、ビニル重合体微粒子、アクリル重合体微粒子、シリコーン微粒子、コアシェル型ゴム微粒子等の中から選ばれる1種または2種以上が挙げられる。
【0036】
上記重合開始剤としては、例えば、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤等が挙げられる。
【0037】
上記ラジカル重合開始剤としては、光照射によりラジカルを発生する光ラジカル重合開始剤、加熱によりラジカルを発生する熱ラジカル重合開始剤等が挙げられる。
【0038】
上記光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、アセトフェノン系化合物、アシルフォスフィンオキサイド系化合物、チタノセン系化合物、オキシムエステル系化合物、ベンゾインエーテル系化合物、チオキサントン等が挙げられる。
【0039】
上記熱ラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾ化合物、有機過酸化物等からなるものが挙げられる。なかでも、高分子アゾ化合物からなる高分子アゾ開始剤が好ましい。
【0040】
上記カチオン重合開始剤としては、光カチオン重合開始剤を好適に用いることができる。
上記光カチオン重合開始剤は、光照射によりプロトン酸またはルイス酸を発生するものであれば特に限定されず、イオン性光酸発生タイプのものであってもよいし、非イオン性光酸発生タイプであってもよい。
上記光カチオン重合開始剤としては、例えば、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ハロニウム塩、芳香族スルホニウム塩等のオニウム塩類、鉄-アレン錯体、チタノセン錯体、アリールシラノール-アルミニウム錯体等の有機金属錯体類等が挙げられる。
【0041】
上記重合開始剤の含有量は、硬化性樹脂100重量部に対して、好ましくは0.1~30重量部であり、より好ましくは1~10重量部である。
上記重合開始剤の含有量が上記下限値以上であることにより、封止材料が硬化性により優れるものとなる。一方、上記重合開始剤の含有量が上記上限値以下であることにより、封止材料が保存安定性により優れるものとなる。
【0042】
上記熱硬化剤は、加熱により上記硬化性樹脂中の熱反応官能基を反応させ、架橋させるためのものであり、硬化後の硬化性樹脂組成物の接着性、耐湿性を向上させる役割を有する。
上記熱硬化剤としては、例えば、有機酸ヒドラジド、イミダゾール誘導体、アミン化合物、多価フェノール系化合物、酸無水物等が挙げられる。なかでも、固形の有機酸ヒドラジドが好適に用いられる。
【0043】
上記熱硬化剤の含有量は、硬化性樹脂100重量部に対して、好ましくは0.1~50重量部であり、より好ましくは1~30重量部である。
上記重合開始剤の含有量が上記下限値以上であることにより、封止材料が硬化性により優れるものとなる。一方、上記重合開始剤の含有量が上記上限値以下であることにより、封止材料の塗布性がより優れるものとなる。
【0044】
その他、必要に応じて、シランカップリング剤、遮光剤、反応性希釈剤、スペーサー、硬化促進剤、消泡剤、レベリング剤、重合禁止剤、その他のカップリング剤等の添加剤を含有してもよい。
【0045】
(封止材料の製法)
本実施形態の封止材料を製造する方法としては、例えば、混合機を用いて、硬化性樹脂と、無機粒子と、必要に応じて添加する、重合開始剤および/または熱硬化剤やシランカップリング剤等の添加剤とを混合する方法等が挙げられる。
上記混合機としては、例えば、ホモディスパー、ホモミキサー、万能ミキサー、プラネタリーミキサー、ニーダー、3本ロール、自転公転式ミキサー等が挙げられる。
これにより、上記粘度(25℃)を有する封止材料を得ることができる。
【0046】
[エレクトロクロミック層]
第1のエレクトロクロミック層3および第2のエレクトロクロミック層5は、電解質層4の上下面にそれぞれ設けられ、電解質層4を挟むように配置され、エレクトロクロミック材料を含む層である。
【0047】
上記エレクトロクロミック材料としては、無機エレクトロクロミック化合物及び有機エレクトロクロミック化合物のいずれであっても構わない。また、エレクトロクロミズムを示すことで知られる導電性ポリマーを用いてもよい。
第1のエレクトロクロミック層3と第2のエレクトロクロミック層5には、これらエレクトロクロミック材料から適宜選択することが可能であるが、一方が酸化発色性を有するエレクトロクロミック材料を用いた場合には、他方は還元発色性を有するエレクトロクロミック材料を用いることが好ましい。
酸化発色性を有するエレクトロクロミック材料としては、ラジカル重合性化合物を含む酸化発色性エレクトロクロミック組成物を重合した重合物が好ましく、トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含有するエレクトロクロミック組成物が特に好ましい。
【0048】
(第1のエレクトロクロミック層)
第1のエレクトロクロミック層3は、酸化反応によって着色を呈する材料を主材料として含有し、これにより、着色がなされる層である。
【0049】
第1のエレクトロクロミック層3の平均厚さは、特に限定されないが、0.1μm以上30μm以下程度であるのが好ましく、0.4μm以上10μm以下程度であるのがより好ましい。
【0050】
第1のエレクトロクロミック層3に、主材料として含まれる、酸化反応によって着色を呈する材料としては、特に限定されず、例えば、トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含む組成物を重合した重合物、ビスアクリダン化合物、プルシアンブルー型錯体、および酸化ニッケルが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含む組成物を重合した重合物としては、例えば、特開2022-25243号公報、特開2016-45464号公報、特開2020-138925号公報等に記載のものが挙げられる。
【0052】
また、プルシアンブルー型錯体としては、例えば、Fe(III)[Fe(II)(CN)からなる材料が挙げられる。
【0053】
これらの中でも、定電圧で動作可能であり、繰返し耐久性に優れ、高コントラストなエレクトロクロミック素子が得られる点から、特に、トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含む組成物を重合した重合物が好ましく用いられる。
【0054】
なお、トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物を含む組成物は、トリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物とは異なる他のラジカル重合性化合物を含み、かかる組成物を重合した重合物は、これらのラジカル重合性化合物が架橋した架橋物で構成されていてもよい。
【0055】
(第2のエレクトロクロミック層)
第2のエレクトロクロミック層5は、還元反応によって透明から着色を呈するエレクトロクロミック材料を主材料として含有し、これにより、着色がなされる層である。
【0056】
第2のエレクトロクロミック層5の平均厚さは、特に限定されないが、0.2μm以上5.0μm以下程度であるのが好ましく、1.0μm以上4.0μm以下程度であるのがより好ましい。前記平均厚さが、0.2μm未満であると、エレクトロクロミック材料の種類によっては、発色濃度が得にくくなるおそれがあり、5.0μmを超えると、製造コストが増大すると共に、エレクトロクロミック材料の種類によっては、着色によって視認性が低下するおそれがある。
【0057】
第2のエレクトロクロミック層5は、第1のエレクトロクロミック層3と同じ色調のレクトロクロミック材料を用いることが好ましい。これにより、最大発色濃度の向上が図られ、その結果、コントラストを改善することできる。
【0058】
また、これに対して、異なる色調の材料を用いた場合には、混色が可能となる。また、第1の電極2および第2の電極6との両極側で、酸化反応と還元反応とにより着色させることで、エレクトロクロミック層3、電解質層4、および第2のエレクトロクロミック層5における駆動電圧を効果的に低減し得ることから、エレクトロクロミックシート100の繰返し耐久性の向上が図れる。
【0059】
第2のエレクトロクロミック層5に、主材料として含まれる、還元反応によって着色を呈する材料としては、特に限定されず、例えば、無機エレクトロクロミック化合物、有機エレクトロクロミック化合物、導電性ポリマー等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0060】
無機エレクトロクロミック化合物としては、例えば、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化イリジウム、酸化チタン等が挙げられ、中でも、酸化タングステンが好ましい。酸化タングステンは、還元電位が低いことに基づいて、発消色電位が低く、さらに、無機材料であるため耐久性に優れることから、好ましく用いられる。
【0061】
また、有機エレクトロクロミック化合物としては、例えば、アゾベンゼン系、アントラキノン系、ジアリールエテン系、ジヒドロプレン系、ジピリジン系、スチリル系、スチリルスピロピラン系、スピロオキサジン系、スピロチオピラン系、チオインジゴ系、テトラチアフルバレン系、テレフタル酸系、トリフェニルメタン系、トリフェニルアミン系、ナフトピラン系、ビオロゲン系、ピラゾリン系、フェナジン系、フェニレンジアミン系、フェノキサジン系、フェノチアジン系、フタロシアニン系、フルオラン系、フルギド系、ベンゾピラン系、メタロセン系等の低分子系有機エレクトロクロミック化合物等が挙げられ、中でも、ビオロゲン系化合物、ジピリジン系化合物が好ましい。これらの化合物は、発消色電位が低く、良好な色値を示すことから好ましく、用いられる。
【0062】
ビオロゲン系化合物としては、例えば、特開2022-025243号公報、特許第3955641号公報、特開2007-171781号公報等に記載のものが挙げられる。また、ジピリジン系化合物としては、例えば、特開2007-171781号公報、特開2008-116718号公報等に記載のものが挙げられる。
【0063】
導電性ポリマーとしては、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、またはこれらの誘導体等が挙げられる。
【0064】
[電解質層]
電解質層4は、第1のエレクトロクロミック層3と第2のエレクトロクロミック層5との間に配置され、イオン電導性を有する電解質を含有するものである。
【0065】
電解質層4の平均厚さは、特に限定されないが、好ましくは10μm以上100μm以下程度、より好ましくは20μm以上80μm以下、更に好ましくは30μm以上70μm以下程度に設定される。
【0066】
電解質層は、バインダー樹脂、および電解質を含む。
【0067】
前記バインダー樹脂は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、重合膜としての相分離温度、膜強度の点で、ウレタン樹脂ユニットを含むことが好ましい。またポリエチレンオキシド(PEO)鎖を含むことで、電解質との相溶性が向上し、相分離温度を高めることができる。また、ポリメチルメタリクレート(PMMA)鎖を含むことで、PEO鎖を含むのと同様に、電解質との相溶性が向上し、相分離温度を高めることができる。
【0068】
電解質としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機イオン塩、4級アンモニウム塩や酸類、アルカリ類の支持塩等が挙げられ、具体的には、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LiCFSO、LiCFCOO、KCl、NaClO、NaCl、NaBF、NaSCN、KBF、Mg(ClO、Mg(BF等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0069】
これらの他、電解質の材料としては、イオン性液体を用いることもできる。このイオン性液体の中でも、有機のイオン性液体は、室温を含む幅広い温度領域で液体を示す分子構造を有していることから、取り扱いが容易であるため好ましく用いられる。
【0070】
有機のイオン性液体の分子構造として、カチオン成分としては、例えば、N,N-ジメチルイミダゾール塩、N,N-メチルエチルイミダゾール塩、N,N-メチルプロピルイミダゾール塩等のイミダゾール誘導体;N,N-ジメチルピリジニウム塩、N,N-メチルプロピルピリジニウム塩等のピリジニウム誘導体;トリメチルプロピルアンモニウム塩、トリメチルヘキシルアンモニウム塩、トリエチルヘキシルアンモニウム塩等の脂肪族4級アンモニウム系等が挙げられる。また、アニオン成分としては、大気中での安定性を考慮して、フッ素を含んだ化合物を用いることが好ましく、例えば、BF 、CFSO 、PF 、(CFSO等が挙げられる。
【0071】
このような電解質の材料としては、カチオン成分とアニオン成分とを任意に組み合わせたイオン性液体であることが好ましい。
【0072】
イオン性液体は、光重合性モノマー、オリゴマー、および液晶材料のいずれかに直接溶解させてもよい。なお、これらの材料に対する溶解性が悪い場合には、少量の溶媒に溶解させた溶液を得た後に、この溶液を光重合性モノマー、オリゴマー、および液晶材料のいずれかと混合することで溶解させてもよい。
【0073】
溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、γ-ブチロラクトン、エチレンカーボネート、スルホラン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,2-ジメトキシエタン、1,2-エトキシメトキシエタン、ポリエチレングリコール、アルコール類、またはこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0074】
電解質層4として充填される電解質は、固体、液体のいずれであってもよいが、電解質が低粘性の液体である場合の他、例えば、ゲル状や高分子架橋型、液晶分散型等の様々な形態をとることが可能である。中でも、電解質は、ゲル状、固体状に形成することが好ましい。これによりエレクトロクロミック素10の素子強度向上や、信頼性向上等を図ることができる。
【0075】
電解質層4を、固体状をなすものとする方法としては、例えば、電解質と溶媒とを含む液体をバインダー樹脂中に保持する方法が好ましい。これにより、電解質層4の高いイオン伝導度と固体強度との双方を得ることができる。また、ポリマー樹脂としては、例えば、光硬化性樹脂であることが好ましい。これにより、熱重合や、溶媒の気化により固体状をなす電解質層4を得る場合と比較して、低温かつ短時間で、固体状をなす電解質層4を得ることができる。
【0076】
電解質層4がゲル状である場合、例えば、以下のようにして作製することができる。
まず、組成物溶液を作製し、作製した組成物溶液を型やフィルムに挟んで重合させるキャスト重合法等を用いた重合反応により製造することができる。前記組成物溶液は、前記イオン液体あるいは固体電解質を溶媒と混合した電解液と、重合性材料とウレタンアクリレートモノマー、及び必要に応じて、PEO鎖を有するアクリレートモノマー、及び必要に応じて、PMMA鎖を有するアクリレートモノマーを所望比率で混合し、必要に応じて、前記重合開始剤、及びその他の成分を混合することができる。
その他の作製方法としては、重合前の組成物溶液を、一方のエレクトロクロミック層上に塗布し、紫外線照射や加熱によって重合させる方法も用いることができる。また、前記エレクトロクロミック層を形成した前記支持体を5μm以上150μm以下のギャップを保持した状態で対向させ、組成物溶液を充填した後で紫外線照射や加熱によって重合させる方法も用いることができる。
【0077】
[電極]
第1の電極2および第2の電極6は、それぞれ第1のエレクトロクロミック層3、電解質層4、第2のエレクトロクロミック層5にプラス電圧またはマイナス電圧を印加した際に、第1の電極2と第2の電極6との間に電子を供給するか、または、第1の電極2と第2の電極6との間から電子を受け取る電極である。
第1の電極2は第1のエレクトロクロミック層3の電解質層4側とは反対側の面上に設けられている。第2の電極6は第2のエレクトロクロミック層5の電解質層4側とは反対側の面上に設けられている。
【0078】
これら第1の電極2および第2の電極6の構成材料としては、透明性を有する導電材料であれば、特に限定されるものではないが、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)、FTO(F-doped Tin Oxide)、ATO(Antimony Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、In、SnO、Sb含有SnO、Al含有ZnO等の酸化物、Au、Pt、Ag、Cuまたはこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0079】
第1の電極2および第2の電極6の各々の作製方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等が挙げられる。また、第1の電極2および第2の電極6の各々の材料が塗布形成できるものであれば、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スリットコート法、キャピラリーコート法、スプレーコート法、ノズルコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、反転印刷法、インクジェットプリント法等の各種印刷法等が挙げられる。
【0080】
第1の電極2および第2の電極6は、その平均厚さが、第1のエレクトロクロミック層3、および第2のエレクトロクロミック層5の酸化還元反応に必要な電気抵抗値が得られるように調整され、例えば、第1の電極2および第2の電極6の構成材料としてITOを用いた場合には、それぞれ独立して、好ましくは50nm以上200nm以下程度、より好ましくは100nm以上150nm以下程度に設定される。
【0081】
なお、第1の電極2および第2の電極6との間における各層の間には、例えば、絶縁性多孔質層、保護層等の中間層が設けられていてもよい。
【0082】
[支持体層]
第1の支持体層1および第2の支持体層7は、第1の電極2、第1のエレクトロクロミック層3、電解質層4、第2のエレクトロクロミック層5、第2の電極6、および封止部8を支持する機能を有する。また、エレクトロクロミックシート100の最外層となる。
【0083】
また、第1の支持体層1および第2の支持体層7は、エレクトロクロミックシート100の最外層を構成する。すなわち、少なくとも第1のエレクトロクロミック層3、電解質層4、第2のエレクトロクロミック層5は、外部に露出しないこととなる。そのため、第1のエレクトロクロミック層3、電解質層4、第2のエレクトロクロミック層5を外部からの水分や酸素ガス、物理的な衝撃・摩擦等から保護することができる。
【0084】
第1の支持体層1および第2の支持体層7は、透明性を有する樹脂材料を主材料で構成されるものであれば、特に限定されないが、熱可塑性を有する透明樹脂(ベース樹脂)を主材料として含有するものであることが好ましい。
【0085】
透明樹脂としては、特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、シリコーン樹脂等の透明性を備える樹脂が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、ポリカーボネート系樹脂またはポリアミド系樹脂であるのが好ましく、特にポリカーボネート系樹脂であるのが好ましい。ポリカーボネート系樹脂は、透明性(透光性)や剛性等の機械的強度に富み、さらに耐熱性も高いため、透明樹脂にポリカーボネート系樹脂を用いることで、第1の支持体層1および第2の支持体層7における透明性や耐衝撃性、耐熱性を向上させることができる。
【0086】
このポリカーボネート系樹脂としては、各種の樹脂を用いることができるが、中でも、芳香族系ポリカーボネート系樹脂であることが好ましい。芳香族系ポリカーボネート系樹脂は、その主鎖に芳香族環を備えており、これにより、より優れた強度を有する第1の支持体層1および第2の支持体層7を得ることができる。
【0087】
この芳香族系ポリカーボネート系樹脂は、例えば、ビスフェノールとホスゲンとの界面重縮合反応、ビスフェノールとジフェニルカーボネートとのエステル交換反応等により合成される。
【0088】
ビスフェノールとしては、例えば、ビスフェノールAや、以下の式(1A)に示すポリカーボネートの繰り返し単位の起源となるビスフェノール(変性ビスフェノール)等が挙げられる。
【0089】
【化1】
【0090】
(式(1A)中、Xは、炭素数1~18のアルキル基、芳香族基または環状脂肪族基であり、RaおよびRbは、それぞれ独立して、炭素数1~12のアルキル基であり、mおよびnは、それぞれ0~4の整数であり、pは、繰り返し単位の数である。)
【0091】
なお、式(1A)に示すポリカーボネートの繰り返し単位の起源となるビスフェノールとしては、具体的には、例えば4,4’-(ペンタン-2,2-ジイル)ジフェノール、4,4’-(ペンタン-3,3-ジイル)ジフェノール、4,4’-(ブタン-2,2-ジイル)ジフェノール、1,1’-(シクロヘキサンジイル)ジフェノール、2-シクロヘキシル-1,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、2,3-ビスシクロヘキシル-1,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1’-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、2,2’-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0092】
なかでもポリカーボネート系樹脂としては、ビスフェノールに由来する骨格を有するビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂を主成分とするのが好ましい。かかるビスフェノール型ポリカーボネート系樹脂を用いることにより、第1の支持体層1および第2の支持体層7は、さらに優れた強度を発揮する。
【0093】
また、第1の支持体層1および第2の支持体層7は、光透過性を有していれば、その色は、無色であっても、赤色、青色、黄色等、如何なる色であってもよい。
【0094】
これらの色の選択は、第1の支持体層1および第2の支持体層7に染料または顔料を含有させることにより可能になる。この染料としては、例えば、酸性染料、直接染料、反応性染料、および塩基性染料等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0095】
染料の具体例としては、例えば、C.I.アシッドイエロー17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド52,80,82,249,254,289、C.I.アシッドブルー9,45,249、C.I.アシッドブラック1,2,24,94、C.I.フードブラック1,2、C.I.ダイレクトイエロー1,12,24,33,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー1,2,15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクトブラック19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック3,4,35等が挙げられる。
【0096】
第1の支持体層1および第2の支持体層7は、必要に応じて、上述した、透明樹脂、染料または顔料の他に、さらに、酸化防止剤、フィラー、可塑剤、光安定剤、紫外線吸収剤、熱線吸収剤、難燃剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0097】
また、第1の支持体層1および第2の支持体層7は、延伸されたものであってもよいし、非延伸のものであってもよい。
【0098】
さらに、第1の支持体層1および第2の支持体層7の波長589nmでの屈折率は、1.3以上1.8以下であるのが好ましく、1.4以上1.65以下であるのがより好ましい。第1の支持体層1および第2の支持体層7の屈折率n1を上記数値範囲とすることにより、エレクトロクロミックシート100の発消色機能が視認されやすくなる。
【0099】
第1の支持体層1および第2の支持体層7の平均厚さは、好ましくは0.1mm以上10.0mm以下、より好ましくは0.3mm以上5.0mm以下に設定される。
第1の支持体層1および第2の支持体層7の平均厚さがかかる範囲内に設定されることで、エレクトロクロミックシート100の薄型化を図りつつ、エレクトロクロミックシート100に撓みが生じるのを的確に抑制または防止することができる。
【0100】
第1の支持体層と第2の支持体層7は、互いに同じ構成材料としてもよく、また、異なるものとしてもよい。また、いずれも延伸されたものであってもよいし、一方のみを未延伸のものとしてもよい。
【0101】
第1の支持体層と第2の支持体層7は、互いに同じ屈折率としてもよく、また、異なるものとしてもよい。また、第1の支持体層と第2の支持体層7は、互いに同じ厚みとしてもよく、また、異なるものとしてもよい。
【0102】
本実施形態のエレクトロクロミックシート100の総厚は、特に限定されないが、0.3mm以上10.0mm以下であるのが好ましく、0.5mm以上5.0mm以下であるのがより好ましい。
エレクトロクロミックシート100の総厚を上記下限値以上とすることにより、強度を保持しつつ、層厚を上記上限値以下とすることで、エレクトロクロミックシート100を切断したり、湾曲させる等の加工性を良好にすることができる。
【0103】
なお、エレクトロクロミックシート100が備える各層は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換し、または他の層をさらに備えるものであってもよい。
【0104】
[作用効果]
エレクトロクロミックシート100は、上記のような構成を備えることで、例えば、第1の電極2と第2の電極6との間にプラス電圧を印加することにより、エレクトロクロミック素子10を所定の色に発色させることができ、一方で、第1の電極2と第2の電極6との間にマイナス電圧を印加することにより、エレクトロクロミック素子10を消色させ透明にすることができる。
【0105】
<エレクトロクロミックシートの製造方法>
本実施形態のエレクトロクロミックシートの製造方法は、エレクトロクロミック層が1つの場合に限られず、エレクトロクロミック層が複数の場合にも適用可能である。
以下、エレクトロクロミックシート100の製造方法の一例について説明する。
【0106】
エレクトロクロミックシート100の製造方法は、以下の工程を有する。
第1の支持体1上に第1の電極2を形成し、第1の電極2上に第1のエレクトロクロミック層3を積層する工程と、
第2の支持体7上に第2の電極6を形成し、第2の電極6上に、第2のエレクトロクロミック層5を形成する工程と、
前記第1のエレクトロクロミック層3の外縁を囲うように第1の電極2上に封止材料を塗布する、または、前記第2のエレクトロクロミック層5の外縁を囲うように第2の電極6上に封止材料を塗布する工程と、
電解質層4を準備し、電解質層4が介在するように第1のエレクトロクロミック層3および第2のエレクトロクロミック層5を対向させて、第1の支持体1および第2の支持体2を貼り合わせる工程と、
前記封止材料を硬化させて封止部8を形成する工程と、
を有し、
前記貼り合わせる工程において、前記封止材料を押し広げることによって、第1のエレクトロクロミック層3および第2のエレクトロクロミック層5が当該封止材料によって覆われるものである。
【0107】
これにより、本実施形態のエレクトロクロミックシート100が得られる。
貼り合わせ工程において封止材料のせん断速度10/sにおける粘度(25℃)が200Pa・s以下であることにより貼り合わせ圧力での封止材料の流動性が良好となり電解質層4とのアンカー効果が高まって密着性が良好となるとともに、せん断速度0.1/sにおける粘度(25℃)が800Pa・s以上であることにより貼り合わせ圧力開放後の低せん断状態では封止材料が動かないことにより電解質層4との密着性が維持される。
【0108】
<エレクトロクロミック装置>
本実施形態のエレクトロクロミック装置は、上記のエレクトロクロミックシート100を有し、更に必要に応じてその他の手段を有する。
その他の手段としては、特に制限はなく、用途に応じて適宜選択することができ、例えば、電源、固定手段、制御手段などが挙げられる。
エレクトロクロミック装置としては、例えば、アイウエア、調光眼鏡、双眼鏡、オペラグラス、自転車用ゴーグル、時計、電子ペーパー、電子アルバム、電子広告板などが挙げられる。
【0109】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例0110】
次に、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の内容は実施例に限られるものではない。
【0111】
<実施例1>
(1)封止材料の準備
以下の封止材料を準備した。
・封止材料1;エポキシアクリレート樹脂(「フォトレックS-WF17」積水マテリアルソリューションズ株式会社製)、加熱処理なし
・封止材料2;エポキシアクリレート樹脂(「フォトレックS-WF17」積水マテリアルソリューションズ株式会社製)を50℃加熱処理したもの。
・封止材料3;エポキシアクリレート樹脂(「フォトレックSUR-137」積水マテリアルソリューションズ株式会社製)、加熱処理なし
各封止材料の粘度は、以下の手順で測定した。結果を表1に示す。
ティ・エイ・インスツルメント社製ARESを用いてφ25mmコーンプレートとφ25mmパラレルプレートの組み合わせでギャップ0.053mmにて封止材料のせん断速度0.1/sおよび10/sの粘度(25℃)を測定した。
【0112】
(2)エレクトロクロミックシートの作製
図1に示すようなエレクトロクロミックシートを以下の手順で作製した。
-第1の電極の形成-
第1の支持体として厚み0.5mmのポリカーボネート樹脂基板(ポリカエース、荷重たわみ温度140℃、住友ベークライト社製)を準備した。
前記第1の支持体上に、ITO膜をスパッタ法により厚み約100nmに製膜して、第1の電極を形成した。
酸化チタン(石原産業株式会社製、ST-21)3g、アセチルアセトン0.2g、界面活性剤(和光純薬工業株式会社製、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル)0.3gを、水5.5g、エタノール1.0gと共に12時間ビーズミル処理した。
得られた分散液にポリエチレングリコール(#20,000、日油株式会社製)1.2gを加えてペーストを作製した。
第1の電極上に、得られたペーストを、厚みが2μmになるようにスクリーン印刷法によって塗布し、80℃で乾燥させた後、UVオゾン処理90℃で20分間実施し、多孔質酸化チタン粒子膜からなる電子輸送層を形成した。
【0113】
-第1のエレクトロクロミック層の形成-
続いて、以下の化学式で示される還元発色性のエレクトロクロミック化合物Iを1.5質量%含む2,2,3,3-テトラフロロプロパノール溶液をスピンコート法により塗布した後、80℃で10分間アニール処理を行うことにより、上記の多孔質酸化チタン粒子膜に担持(吸着)させて、第1のエレクトロクロミック層を形成した。
【0114】
【化2】
【0115】
-第2の電極の形成-
第2の支持体として上記の第1の支持体と同形状及び同厚みのポリカーボネート樹脂基板を準備した。第2の支持体上に、ITO膜をスパッタ法により厚み約100nmに製膜して、第2の電極を形成した。
【0116】
-第2のエレクトロクロミック層の形成-
第2の電極であるITO膜上に、ポリエチレングリコールジアクリレート(日本化薬株式会社製、PEG400DA)と、光開始剤(BASF社製、IRGACURE 184)
と、酸化発色性のエレクトロクロミック材料として、以下の式で示されるトリアリールアミンを有するラジカル重合性化合物IIと、2-ブタノンとを質量比(57:3:140:800)で混合した溶液を調製した。その後、調製した溶液をITOガラス基板上にスピンコート法により塗布した。
【0117】
【化3】
(式中、Meはメチル基を示す)
【0118】
次に、窒素雰囲気下で、Cr層のパターンがついた石英基板を介して、UV硬化させて第2の電極上に上記のラジカル重合性化合物IIで表される化合物を含む厚み1.2μmのパターン化された第2のエレクトロクロミック層を選択形成した。
【0119】
-ゲル電解質の作製-
離型処理したPETフィルム(NP75C、パナック株式会社製)表面に、重合性材料(V3877、大同化成工業株式会社製)と、電解質(1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラシアノボレート(EMIMTCB))とを質量比(20:80)で混合し、光重合開始剤(irgacure184、日本化薬株式会社製)を前記重合性材料に対して0.5質量%混合した溶液を塗布し、離型処理したPETフィルム(NP75A、パナック株式会社製)と貼り合わせて、紫外線(UV)硬化させてゲル電解質を作製した。
【0120】
-貼合プロセス-
作製したゲル電解質について、離型フィルムを剥離し、第1のエレクトロクロミック層の表面に貼合処理した。
続いて、準備した封止材料1を、第1のエレクトロクロミック層の側面周辺を囲うように、ディスペンサ方式により塗布した。
その後、第2の支持体の第2のエレクトロミック層とゲル電解質の表面とを合わせて貼合し、封止材料を押し広げることで、第1のエレクトロミック層および第2のエレクトロミック層の側面を封止材料によって覆い、紫外線を3J/cm照射(仮硬化)し、100℃で1時間の熱硬化処理(本硬化)を行い、封止材料を硬化させて封止部を形成し、エレクトロクロミックシートを作製した。
【0121】
(3)測定・評価
次に、得られた実施例1のエレクトロクロミックシートについて、以下の測定・評価を行った。結果を表1に示した。
【0122】
-加工耐久性の評価-
得られたエレクトロクロミックシートについて、熱プレス成型機を用いて146℃にて曲率半径が131mmとなるように3D曲げ加工を行った後に、エレクトロクロミックシートの外周の封止部の幅が2mmとなるように切削加工を行い、封止部の剥離有無を以下の評価基準に従い、評価した。
[評価基準]
〇:剥離無し
×:剥離あり
【0123】
<比較例1~2>
実施例1のエレクトロクロミックシートで用いた封止材料を表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様にエレクトロクロミックシートを作製し、測定・評価を行った。
【0124】
【表1】
【符号の説明】
【0125】
1 第1の支持体層
2 第2の電極
3 第1のエレクトロクロミック層
4 電解質層
5 第2のエレクトロクロミック層
6 第2の電極
7 第2の支持体層
8 封止部
10 エレクトロクロミック素子
100 エレクトロクロミックシート
図1
【手続補正書】
【提出日】2023-06-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層と、前記電解質層の側面を覆うように設けられた封止部と、
前記電解質層の少なくとも一方の面に設けられたエレクトロクロミック層と、
を備えるエレクトロクロミックシートの前記封止部を構成するために用いられる封止材料であって、
当該封止材料のせん断速度0.1/sにおける粘度(25℃)が800Pa・s以上、かつせん断速度10/sにおける粘度(25℃)が200Pa・s以下である、封止材料。
【請求項2】
請求項1に記載の封止材料であって、
前記封止材料は、硬化性樹脂を含む、封止材料。
【請求項3】
請求項2に記載の封止材料であって、
前記硬化性樹脂は、紫外線反応性官能基、および熱反応性官能基の中から選ばれる少なくとも一方を有する、封止材料。
【請求項4】
請求項1または2に記載の封止材料であって、
前記封止材料は、無機粒子を含む、封止材料。
【請求項5】
請求項1または2に記載の封止材料であって、
前記エレクトロクロミックシートの前記電解質層は、固体またはゲルである、封止材料。
【請求項6】
請求項1または2に記載の封止材料であって、
前記エレクトロクロミックシートの前記電解質層の上下面に前記エレクトロクロミック層がそれぞれ設けられている、封止材料。
【請求項7】
請求項1または2に記載の封止材料であって、
前記封止部は、前記電解質層の側面と前記エレクトロクロミック層の側面とを一体に覆う、封止材料。
【請求項8】
請求項1または2に記載の封止材料を用いた、エレクトロクロミックシート。
【請求項9】
請求項8に記載のエレクトロクロミックシートを用いた、エレクトロクロミック装置。