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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065700
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20240508BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20240508BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
H01L29/78 652D
H01L29/78 653C
H01L29/78 652P
H01L29/78 652M
H01L29/78 652J
H01L29/78 655B
H01L29/78 652C
H01L29/78 655A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174696
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】302062931
【氏名又は名称】ルネサスエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長田 尚
(57)【要約】
【課題】IGBTを備えた半導体装置の性能を向上させる。
【解決手段】半導体基板の表面に並ぶトレンチT1、T2と、半導体基板の裏面側に形成されたコレクタ領域CRと、トレンチT1、T2の間に設けられたボディ領域BRおよびエミッタ領域ERと、トレンチT1内に設けられたトレンチゲート電極G1と、トレンチT2内に設けられたトレンチゲート電極E1と、トレンチT1内においてトレンチゲート電極G1の下に設けられたトレンチゲート電極G2と、トレンチT2内においてトレンチゲート電極E1の下に設けられたトレンチゲート電極E2と、トレンチT1、T2を挟んで半導体基板内に形成されたフローティング領域FRとを備えたIGBTを用いる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面および前記第1主面と反対側の第2主面を有する半導体基板と、
前記半導体基板に設けられた第1導電型の第1半導体領域と、
前記第1半導体領域と前記第1主面との間の前記半導体基板に設けられた前記第1導電型と異なる第2導電型の第2半導体領域と、
前記第1半導体領域と前記第2主面との間の前記半導体基板に設けられた前記第2導電型の第3半導体領域と、
前記第2半導体領域を貫通する第1溝と、
前記第2半導体領域を貫通し、前記第1溝と離間して設けられた第2溝と、
前記第2半導体領域内の前記第1主面側に、前記第1溝の第1側面に接して設けられ、かつ前記第1溝と前記第2溝の間に位置する前記第1導電型の第4半導体領域と、
前記第1溝の内部に第1絶縁膜を介して設けられた第1トレンチ電極と、
前記第2溝の内部に第2絶縁膜を介して設けられた第2トレンチ電極と、
前記第1溝の内部に第3絶縁膜を介して設けられ、前記第1トレンチ電極と前記第2主面との間に位置する第3トレンチ電極と、
前記第2溝の内部に第4絶縁膜を介して設けられ、前記第2トレンチ電極と前記第2主面との間に位置する第4トレンチ電極と、
前記第1溝を挟んで前記第4半導体領域と反対側に位置する部分の前記第1半導体領域に形成された前記第2導電型の第5半導体領域と、
前記第2溝を挟んで前記第4半導体領域と反対側に位置する部分の前記第1半導体領域に形成された、前記第2導電型の第6半導体領域と、
前記第2溝と前記第4半導体領域とに接するコンタクトホールと、
を備える、半導体装置。
【請求項2】
請求項1記載の半導体装置において、
前記半導体装置のオフ時において、前記第4トレンチ電極に印加される第4電位は、前記第1トレンチ電極に印加される第1電位および前記第2トレンチ電極に印加される第2電位のいずれよりも小さい、半導体装置。
【請求項3】
請求項1記載の半導体装置において、
前記半導体装置のオン時において、前記第4トレンチ電極に印加される第4電位は、前記第2トレンチ電極に印加される第2電位よりも大きい、半導体装置。
【請求項4】
請求項1記載の半導体装置において、
前記第4トレンチ電極と前記第1溝との間の前記第4絶縁膜は、前記第2トレンチ電極と前記第1溝との間の前記第2絶縁膜よりも厚さが大きい、半導体装置。
【請求項5】
請求項1記載の半導体装置において、
前記第3トレンチ電極と前記第2溝との間の前記第3絶縁膜は、前記第1トレンチ電極と前記第2溝との間の前記第1絶縁膜よりも厚さが大きい、半導体装置。
【請求項6】
請求項1記載の半導体装置において、
前記第3トレンチ電極に接続される第3ゲート抵抗は、前記第1トレンチ電極に接続される第1ゲート抵抗よりも大きい、半導体装置。
【請求項7】
請求項1記載の半導体装置において、
前記第1溝と前記第5半導体領域との間には、前記第2絶縁膜、前記第2トレンチ電極、前記第4絶縁膜および前記第4トレンチ電極を内包する前記第2溝がさらに設けられ、
前記第1溝は2つの前記第2溝に挟まれ、
2つの前記第2溝のそれぞれと前記第1溝との間には、前記第4半導体領域が形成されている、半導体装置。
【請求項8】
請求項6記載の半導体装置において、
前記第1トレンチ電極と前記第4トレンチ電極とには、同じゲート電位が印加され、
前記第1トレンチ電極に接続される第1ゲート抵抗は、前記第4トレンチ電極に接続される第4ゲート抵抗よりも大きい、半導体装置。
【請求項9】
請求項6記載の半導体装置において、
前記第4トレンチ電極には、前記第1ゲート抵抗が接続される、半導体装置。
【請求項10】
請求項6記載の半導体装置において、
前記第4トレンチ電極には、前記第3ゲート抵抗が接続される、半導体装置。
【請求項11】
請求項5記載の半導体装置において、
前記第4トレンチ電極と前記第1溝との間の前記第4絶縁膜は、前記第3トレンチ電極と前記第2溝との間の前記第3絶縁膜よりも厚さが小さい、半導体装置。
【請求項12】
請求項1記載の半導体装置において、
隣り合う前記第1溝と前記第2溝とに挟まれる領域において、前記第2半導体領域と、前記第2主面との間には、前記第2半導体領域側から順に前記第1導電型の第7半導体領域、前記第2導電型の第8半導体領域、および、前記第2導電型の第9半導体領域が形成され、
前記第3トレンチ電極と前記第8半導体領域とは、前記第3絶縁膜を介して隣り合い、
前記第4トレンチ電極と前記第8半導体領域とは、前記第4絶縁膜を介して隣り合っている、半導体装置。
【請求項13】
請求項1記載の半導体装置において、
前記第7半導体領域の不純物濃度は、前記第8半導体領域の不純物濃度よりも高い、半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関し、特にIE型トレンチゲートIGBTに適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
コレクタ-エミッタ間飽和電圧VCE(sat)の低いIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)として、トレンチゲートIGBTが広く使用されている。伝導度変調を更に促進するため、IE(Injection Enhancement)効果を利用したIE型トレンチゲートIGBTが開発されている。このIE型トレンチゲートIGBTには、セル領域において、実際にエミッタ電極に接続されたアクティブセルと、フローティングPボディ領域を有するインアクティブセルを交互に配置することにより、半導体基板のデバイス主面側(エミッタ側)にホール(正孔)が蓄積しやすい構造としているものがある(例えば、特開2019-29434号公報)。この種のIE型トレンチゲートIGBTでは、コレクタ側から注入されるホールが、インアクティブセル領域によってエミッタ側へ抜けるのが阻止されることで、アクティブセル領域とコレクタ側との間のホールの濃度が高くなる。ホールの濃度が高くなると、エミッタ(ソース)側からの電子の注入が促進されて、電子の濃度も高くなる。こうして、キャリアの濃度が高くなること(IE効果)で、伝導度変調が起こり、VCE(sat)を低くすることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-29434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トレンチ内ダブルゲート型パワーMOSFETにおいてフィールドプレート電極にソース電位が供給される場合は、ゲート電位が供給される場合に比べて、MOSFETのオン抵抗が増加する問題がある。すなわち、フィールドプレート電極にソース電位が供給されることによる利点(スイッチング損失の低減、サージ電圧の低減、誤オンマージンの拡大)を維持しつつ、素子の低オン抵抗化を実現するという課題がある。
【0005】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0007】
一実施の形態である半導体装置は、半導体基板の表面に並ぶ第1溝と第2溝と、半導体基板の裏面側に形成されたコレクタ領域と、第1溝および第2溝の間に設けられたボディ領域およびエミッタ領域と、第1溝内に設けられた第1トレンチ電極と、第2溝内に設けられた第2トレンチ電極と、第1溝内において第1トレンチ電極の下に設けられた第3トレンチ電極と、第2溝内において第2トレンチ電極の下に設けられた第4トレンチ電極と、第1溝および第2溝を挟んで半導体基板内に形成されたフローティング領域とを備えるものである。
【発明の効果】
【0008】
一実施の形態によれば、半導体装置の性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1である半導体装置を示す断面図である。
図2図1の要部拡大図である。
図3】実施の形態1である半導体装置における第2エミッタ電位と、ゲート電位を示すタイミングチャートである。
図4】実施の形態1である半導体装置における寄生Pチャネル型MOSFETを示す断面図である。
図5】実施の形態1である半導体装置における寄生バイポーラトランジスタを模式的に示す断面図である。
図6】実施の形態1である半導体装置のトレンチゲート電極に接続されたゲート抵抗を模式的に示す断面図である。
図7】並列に接続された複数のIGBTを示す回路図である。
図8】ダンピング抵抗をループ回路に挿入した場合の等価回路図である。
図9】共振周波数を表す式である。
図10】共振条件を表す式である。
図11】実施の形態1である半導体装置におけるキャリアの流れる経路を示す断面図である。
図12】時間とゲート電位との関係を示す、スイッチングターンオフ波形のグラフである。
図13】時間とコレクタ電位およびコレクタ電流との関係を示す、スイッチングターンオフ波形のグラフである。
図14】コレクタ電位とコレクタ電流との関係を示すグラフである。
図15】スイッチングターンオフ時におけるダイナミックアバランシェ発生量を示すグラフである。
図16】実施の形態1の変形例である半導体装置を示す断面図である。
図17】実施の形態2である半導体装置を示す要部断面図である。
図18】実施の形態2である半導体装置を等価回路図である。
図19】実施の形態2である半導体装置におけるトレンチゲート電極の電位を示すタイミングチャートである。
図20】実施の形態2の変形例1である半導体装置を示す要部断面図である。
図21】実施の形態2の変形例1である半導体装置を等価回路図である。
図22】実施の形態2の変形例1である半導体装置におけるトレンチゲート電極の電位を示すタイミングチャートである。
図23】実施の形態2の変形例2である半導体装置を示す要部断面図である。
図24】実施の形態2の変形例2である半導体装置を等価回路図である。
図25】実施の形態2の性能と発振耐性との関係を示すグラフである。
図26】実施の形態3である半導体装置を示す要部断面図である。
図27】実施の形態4である半導体装置を示す要部断面図である。
図28】実施の形態4の変形例である半導体装置を示す要部断面図である。
図29】比較例1である半導体装置を示す断面図である。
図30】比較例2である半導体装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の実施の形態においては便宜上その必要があるときは、複数のセクションまたは実施の形態に分割して説明するが、特に明示した場合を除き、それらはお互いに無関係なものではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細、補足説明等の関係にある。また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その言及した数に限定されるものではなく、言及した数以上でも以下でもよい。
【0011】
さらに、以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことはいうまでもない。同様に、以下の実施の形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。このことは、上記数値および範囲についても同様である。
【0012】
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0013】
(実施の形態1)
<半導体装置の構造>
以下に、図1図11を用いて、本実施の形態の半導体装置について説明する。
【0014】
本実施の形態に係る半導体装置は、IGBTを有する。このIGBTは、アクティブセル領域とインアクティブセル領域との間にトレンチゲート電極またはトレンチエミッタ電極を備え、トレンチゲート電極およびトレンチエミッタ電極はインアクティブセル領域を挟んで設けられる。
【0015】
本実施の形態に係る半導体装置はIE型トレンチゲートIGBTであり、アクティブセル領域とインアクティブセル領域との間にトレンチゲート電極またはトレンチエミッタ電極とを有するGE(ゲート電位接続のトレンチとエミッタ電位接続のトレンチとで構成される)型IGBTである。なお、アクティブセル領域は、アクティブセル領域と当該アクティブセル領域を挟む2つのインアクティブセル領域のそれぞれとの間にトレンチゲート電極を有するGG型IGBTよりも狭められている。このため、本実施の形態のGE型IGBTは、GE-S(ゲート電位接続のトレンチと、エミッタ電位接続のトレンチとで構成される、シュリンクタイプ)型IGBTとも呼ばれる。
【0016】
図1は本実施の形態のIGBTの断面図である。図2図1の要部拡大図である。図1には、本実施の形態の半導体装置である半導体チップの断面を示しており、半導体チップは、半導体基板と、当該半導体基板に設けられた半導体素子であるIGBTとを備えている。半導体基板は、第1主面(表面)と、第1主面の反対側の第2主面(裏面)とを備えている。
【0017】
図1に示すように、IGBTの単位セル領域40はアクティブセル領域40aおよびインアクティブセル領域40iを備え、アクティブセル領域40aおよびインアクティブセル領域40iの間に、図2に示すトレンチゲート電極G1とトレンチゲート電極E1が配置されている。トレンチゲート電極G1はトレンチT1内に設けられ、トレンチゲート電極E1はトレンチT2内に設けられている。
【0018】
図2に示すように、半導体基板の裏面の半導体領域には、P型半導体領域であるコレクタ領域CRが設けられており、半導体基板の裏面にはコレクタ電極CEが設けられている。半導体基板の主要部を構成するN型半導体領域であるドリフト領域DFとP型半導体領域であるコレクタ領域CRとの間には、N型半導体領域であるフィールドストップ領域FSが設けられている。アクティブセル領域40aにおけるドリフト領域DFの上には、下から順に、N型半導体領域であるホールバリア領域HB、P型半導体領域であるボディ領域BRおよびエミッタ領域ERが設けられている。N型半導体領域であるエミッタ領域ERはトレンチゲート電極G1側にのみ設けられている。
【0019】
また、トレンチゲート電極G1、トレンチゲート電極E1、ボディ領域BRおよびエミッタ領域ERの上には、層間絶縁膜ILが形成されている。アクティブセル領域40aにおける層間絶縁膜IL部分には、トレンチゲート電極E1および半導体基板内部に及ぶコンタクト溝(コンタクトホール、接続孔)CHが形成されている。このコンタクト溝CHの底の半導体基板内には、上から順に、P型半導体領域であるボディコンタクト領域BCおよびP型半導体領域であるラッチアップ防止領域LRが、それぞれトレンチT1に接して設けられている。このコンタクト溝CH等を介して、ボディ領域BRおよびエミッタ領域ERは、層間絶縁膜IL上に設けられたエミッタ電極EEに接続されている。
【0020】
上記構造を言い換えれば、半導体基板内にはドリフト領域DFが形成されている。半導体基板の裏面とドリフト領域DFとの間の半導体基板内には、コレクタ領域CRが形成されている。コレクタ領域CRの底面は、コレクタ領域CRに接続された金属膜からなるコレクタ電極CEにより覆われている。コレクタ領域CRはコレクタ電極CEに電気的に接続されている。コレクタ領域CRとドリフト領域DFとの間の半導体基板内には、フィールドストップ領域FSが形成されている。2つのインアクティブセル領域40iに挟まれたアクティブセル領域40aと、2つのインアクティブセル領域40iのそれぞれとの境界のうち、一方の半導体基板の表面には、半導体基板の途中深さに達するトレンチT1が形成され、他方の半導体基板の表面には、半導体基板の途中深さに達するトレンチT2が形成されている。トレンチT1、T2のそれぞれの深さは同等であり、いずれも底部はドリフト領域DFとフィールドストップ領域FSとの境界に達していない。
【0021】
トレンチT1、T2の相互間のアクティブセル領域40aである、ドリフト領域DFと半導体基板の表面との間の半導体基板内には、トレンチT1、T2のそれぞれに接するホールバリア領域HBが形成されている。ホールバリア領域HBは、ホールバリア領域HBと半導体基板の表面との間の半導体基板内に並んで形成されたラッチアップ防止領域LRおよびボディ領域BRのそれぞれに接している。ラッチアップ防止領域LRはトレンチT2に接し、アクティブセル領域40aのボディ領域BRはトレンチT1に接している。半導体基板の表面とラッチアップ防止領域LRとの間の半導体基板内には、ラッチアップ防止領域LRに接してボディコンタクト領域BCが形成されている。半導体基板の表面とボディ領域BRとの間の半導体基板内には、ボディ領域BRに接してエミッタ領域ERが形成されている。
【0022】
トレンチT1内には、絶縁膜(ゲート絶縁膜)IF1を介してトレンチゲート電極G1が形成されている。トレンチT2内には、絶縁膜(ゲート絶縁膜)IF1を介してトレンチゲート電極E1が形成されている。半導体基板の表面上には、絶縁膜IF1を介して層間絶縁膜ILが形成されている。層間絶縁膜IL上には、金属膜からなるエミッタ電極(エミッタ配線)EEが形成されている。層間絶縁膜ILには、層間絶縁膜ILを貫通するコンタクト溝CHが形成されている。コンタクト溝CHは半導体基板の途中深さまで達しており、コンタクト溝CHの底面は、ボディ領域BRの底面より上の領域に位置している。コンタクト溝CHは、平面視においてトレンチT2と、トレンチT2と隣接するアクティブセル領域40aの半導体基板とに重なっている。コンタクト溝CH内に埋め込まれたエミッタ電極EEの一部であるコンタクトプラグ(導電性接続部)は、コンタクト溝CHの底面にてトレンチゲート電極E1と接し、ボディコンタクト領域BCに接している。また、エミッタ電極EEの一部である当該コンタクトプラグは、その一方の側面がコンタクト溝CHの側面においてエミッタ領域ERに接し、他方の側面がコンタクト溝CHの別の側面においてトレンチゲート電極E1と接している。エミッタ電極EEは、ボディコンタクト領域BCを介してラッチアップ防止領域LRおよびボディ領域BRに電気的に接続されている。エミッタ電極EEは、エミッタ領域ERに電気的に接続されている。
【0023】
ここで、本実施の形態の主な特徴の1つとして、トレンチT1内にはトレンチゲート電極G1の他にトレンチゲート電極G2が設けられ、トレンチT2内にはトレンチゲート電極E1の他にトレンチゲート電極E2が設けられている。具体的には、トレンチゲート電極G2は、トレンチT1内においてトレンチゲート電極G1の下に形成されている。言い換えれば、トレンチゲート電極G2は、トレンチT1内においてトレンチゲート電極G1と半導体基板の裏面との間に形成されている。同様に、トレンチゲート電極E2は、トレンチT2内においてトレンチゲート電極E1の下に形成されている。言い換えれば、トレンチゲート電極E2は、トレンチT2内においてトレンチゲート電極E1と半導体基板の裏面との間に形成されている。
【0024】
トレンチゲート電極G2は、トレンチT1内に絶縁膜IF2を介して形成され、トレンチゲート電極E2は、トレンチT2内に絶縁膜IF2を介して形成されている。絶縁膜IF2の膜厚は、絶縁膜IF1の膜厚よりも大きい。言い換えれば、トレンチT2内において、トレンチゲート電極E2とトレンチT1との間に形成された絶縁膜IF2は、トレンチゲート電極E1とトレンチT1との間に形成された絶縁膜IF1よりも厚さが大きい。また、トレンチT1内において、トレンチゲート電極G2とトレンチT2との間に形成された絶縁膜IF2は、トレンチゲート電極G1とトレンチT2との間に形成された絶縁膜IF1よりも厚さが大きい。
【0025】
トレンチゲート電極G1、G2の相互間は、絶縁膜IF1を介して離間している。トレンチゲート電極E1、E2の相互間は、絶縁膜IF1を介して離間している。ここでは、トレンチゲート電極E2は、トレンチゲート電極E1、G1およびG2のいずれに対しても絶縁されている。
【0026】
半導体基板は、例えば主にシリコン(Si)からなる。トレンチゲート電極G1、G2、E1およびE2のそれぞれは導電性部材からなり、例えばポリシリコン膜により構成されている。絶縁膜IF1、IF2および層間絶縁膜は、例えば酸化シリコン膜からなる。図1および図2に示す構造は、各図の奥行方向に延在している。
【0027】
ホールバリア領域HBは、ドリフト領域DFからエミッタ領域ERへの通路にホールが流れ込むのを阻止するためのバリア領域であり、その不純物濃度は、エミッタ領域ERよりも低く、ドリフト領域DFよりも高い。このホールバリア領域HBの存在により、インアクティブセル領域40iに蓄積されたホールが、アクティブセル領域40aのエミッタ通路(ドリフト領域DFからボディコンタクト領域BCへ向かう通路)へ入り込むのを有効に阻止することができる。フィールドストップ領域FSは、空乏層が半導体基板の表面側へ延びるのを阻止する役割を有している。
【0028】
トレンチT1、T2は、半導体基板の表面に形成されたボディ領域BRを貫通して形成されており、アクティブセル領域40aのボディ領域BRに対してトレンチT1またはT2を挟んだ反対側の、インアクティブセル領域40iにも、半導体基板の表面から所定の深さに亘ってP型半導体領域であるボディ領域BRが形成されている。インアクティブセル領域40iにおいて、ボディ領域BRとドリフト領域DFとの間には、P型半導体領域であるフローティング領域FRが形成されている。フローティング領域FRの深さは、トレンチT1、T2のそれぞれの深さよりも深く、トレンチT1、T2のそれぞれの下端部をカバーするように分布している。
【0029】
P型のコレクタ領域CRと、N型のドリフト領域DFおよびホールバリア領域HBと、P型のボディ領域BRと、N型のエミッタ領域ERと、トレンチゲート電極G1とは、IGBTを構成している。本実施の形態のIGBTは、さらに、少なくともトレンチゲート電極E1、E2およびG2と、フローティング領域FRと、ラッチアップ防止領域LRとを備えている。
【0030】
<スイッチングターンオフ損失の低減>
本実施の形態では、エミッタ領域ERおよびトレンチゲート電極E1には第1エミッタ電位が印加される一方、トレンチゲート電極E2には第1エミッタ電位とは異なる第2エミッタ電位が印加される。また、トレンチゲート電極G1およびG2には、それぞれ同じゲート電位が印加される。また、コレクタ領域CRにはコレクタ電位が印加される。すなわち、本実施の形態のIGBTは、ゲート電位、第1エミッタ電位、第2エミッタ電位およびコレクタ電位が別々に印加されて制御される、4端子素子である。
【0031】
このように、トレンチゲート電極E2に対しては他のゲート電極とは独立した電圧制御が行われる。図3は、トレンチゲート電極E2の電位(第2エミッタ電位)と、トレンチゲート電極G1の電位(ゲート電位)を示すタイミングチャートである。図4は、トレンチT2に生じる寄生Pチャネル型MOSFET(以下、寄生PMOSと呼ぶ)を示す断面図である。
【0032】
図3では、経過時間により、IGBTのオフ期間(オフ時)、オン期間(オン時、導通期間)、オフ期間(オフ時)へと移行する様子が記載されている。トレンチゲート電極E2には、オフ期間において-15Vが印加され、オン期間において+15Vが印加される。また、IGBTがオン状態のとき、トレンチゲート電極G1には+15Vの電圧VGが印加される。トレンチゲート電極E2に印加される第2エミッタ電位は、トレンチゲート電極E2に印加される第1エミッタ電位よりも絶対値が大きい。すなわち、オフ期間において第2エミッタ電位は第1エミッタ電位よりも小さく、オン期間における第2エミッタ電位は第1エミッタ電位よりも大きい。また、オフ期間において第2エミッタ電位はゲート電位よりも小さい。第2エミッタ電位はゲート保証最大電圧まで調整可能である。
【0033】
IGBTのターンオフ時にトレンチゲート電極E2に-15Vが印加される結果、寄生PMOSのチャネルに反転層が大きく形成される。この寄生PMOSは、図4に示すように、P型のラッチアップ防止領域LR、N型のホールバリア領域HBと、P型のフローティング領域FRと、ゲートとしてのトレンチゲート電極E2とにより構成される。トレンチゲート電極E2の電位が例えば0Vである場合でも寄生PMOSはオン状態となりホールを排出する。これに対し、ここではIGBTのターンオフ時にトレンチゲート電極E2に-15Vが印加されることで、寄生PMOSが強いオン状態となるため、トレンチゲート電極E2の電位が0Vである場合に比べて協力ホールを排出する。これにより、IGBTのターンオフを高速化できる。このようにして、IGBTのスイッチングターンオフ損失を低減できる。
【0034】
<スイッチングターンオン損失および導通損失の低減>
IGBTのターンオン時および導通時はトレンチゲート電極E2に+15Vが印加されることで、図4に示す寄生PMOSは完全オフ状態となる。このため、余計なホール排出を抑制できるため、キャリアの蓄積効果を高め、ターンオン高速化を実現できる。このようにして、IGBTのスイッチングターンオン損失を低減できる。仮に、トレンチゲート電極E2に第1エミッタ電位が印加される場合、寄生PMOSを完全オフ状態にはできないため、ホールが排出され、本実施の形態のようにターンオンを高速化できない。
【0035】
図5は、本実施の形態のIGBTにおける寄生バイポーラトランジスタを模式的に示す断面図である。IE型IGBTの半導体装置のセル形成領域には、オン状態(トレンチゲート電極G1にプラスの電圧(例えば+15V)が印加されて、コレクタ-エミッタ間が導通し、VCE(sat)が発生している状態)において動作する第1寄生PNPバイポーラトランジスタBP1および第2寄生PNPバイポーラトランジスタBP2が形成される。このように、エミッタ電極EEとコレクタ電極CEとの間には、2つの寄生バイポーラトランジスタが並列に接続されているものとみなせる。
【0036】
第1寄生PNPバイポーラトランジスタBP1は、アクティブセル領域40a(図1参照)に形成され、コレクタ領域CR-N型半導体領域(ドリフト領域DF、ホールバリア領域HBおよびエミッタ領域ER)-P型半導体領域(ボディコンタクト領域BCおよびラッチアップ防止領域LR)からなる。第2寄生PNPバイポーラトランジスタBP2は、インアクティブセル領域40i(図1参照)に形成され、コレクタ領域CR-N型半導体領域(ドリフト領域DF、ホールバリア領域HBおよびエミッタ領域ER)-P型半導体領域(ボディコンタクト領域BCおよびラッチアップ防止領域LR)からなる。
【0037】
IE効果を向上させるためには、ドリフト領域DFに蓄積されるキャリア(正孔)の濃度を高めて、ドリフト領域DFの抵抗を下げることが有効である。これを実現するためには、第1寄生PNPバイポーラトランジスタBP1および第2寄生PNPバイポーラトランジスタBP2の働き(活性化)を強める必要がある。
【0038】
ここで、オン状態(トレンチゲート電極G1にプラスの電圧(例えば+15V)が印加)におけるエミッタ領域ERからの電子供給が、第1寄生PNPバイポーラトランジスタBP1および第2寄生PNPバイポーラトランジスタBP2へのベース電流供給となる。したがって、第1寄生PNPバイポーラトランジスタBP1および第2寄生PNPバイポーラトランジスタBP2の働き(活性化)を強めるためには、両者への充分な電子供給を行うことが必要である。しかし、電子が供給されるエミッタ領域ERから、インアクティブセル領域40iに形成される第2寄生PNPバイポーラトランジスタBP2までの距離は、電子が供給されるエミッタ領域ERから、アクティブセル領域40aに形成される第1寄生PNPバイポーラトランジスタBP1までの距離よりも遠い。これにより、第2寄生PNPバイポーラトランジスタBP2のベース抵抗が第1寄生PNPバイポーラトランジスタBP1のベース抵抗よりも大きくなり、電子電流供給量に差異が生じる。
【0039】
このため、コレクタ-エミッタ間飽和電圧(VCE(sat))を低くするために、フローティング領域FRの幅を大きくしても、フローティング領域FRの幅が特定の幅よりも大きくなると、第2寄生PNPバイポーラトランジスタBP2のベース電流(電子電流)の供給が少なくなる。これにより、第2寄生PNPバイポーラトランジスタBP2の働き(活性化)が弱まり、IE効果が低下する。その結果、スイッチングターンオン損失および導通損失(コレクタ-エミッタ間飽和電圧(VCE(sat)))は高くなる。
【0040】
したがって、IE効果を向上させるには、コレクタ側から見たときの寄生PNPバイポーラトランジスタへのベース電流(エミッタからの電子供給)を増やす必要がある。この寄生PNPバイポーラトランジスタは、アクティブセル領域40aと、インアクティブセル領域のフローティング領域とで分けて見ることができる。
【0041】
本実施の形態では、トレンチゲート電極E2の電位を制御し、IGBTのターンオン時および導通時には、トレンチゲート電極E2に+15Vを印加する。この電位に引き寄せられて、エミッタ領域ER側からホールバリア領域HBを通ってきた電子はフローティング領域FR側(第2寄生PNPバイポーラトランジスタBP2側)に拡散する。その結果、第2寄生PNPバイポーラトランジスタBP2のベース電流の供給が増える。フローティング領域FRの下の領域(第2寄生PNPバイポーラトランジスタBP2)へのベース電流供給量の増加によって、IE効果を向上し、スイッチングターンオン損失および導通損失を低減できる。
【0042】
<スイッチング損失の低減>
図6は、トレンチゲート電極G1、G2のそれぞれに接続されたゲート抵抗を模式的に示す断面図である。図7は、並列に接続された複数のIGBTを示す回路図である。図8は、ダンピング抵抗をループ回路に挿入した場合の等価回路図である。図9は、共振周波数fを表す式である。図10は共振条件Qを表す式である。
【0043】
図6に示すように、トレンチゲート電極G1、G2のそれぞれには、ゲート抵抗が接続されている。トレンチゲート電極G2に接続されたゲート抵抗の値は、トレンチゲート電極G1に接続されたゲート抵抗の値よりも大きい。
【0044】
図7に示すように、複数(図7では2つ)のIGBTを並列接続すると、寄生容量(C1、C2)によりループ回路(破線)が形成される。ループ回路には、寄生インダクタンス(L1、L2)も含まれる。寄生容量および寄生インダクタンスでループ回路が形成されると、共振現象が現れる。図8は、共振現象を抑制するための抵抗(ダンピング抵抗)Rをループ回路に挿入した場合の等価回路である。等価回路における共振周波数fと共振条件Qとのそれぞれは、図9および図10に示される通りである。
【0045】
共振現象が発生すると半導体装置(IGBTチップ)の動作が不安定となるため、共振現象は抑制することが望ましい。図10に示す共振条件Qを参照すると、抵抗(ダンピング抵抗)Rを大きくすることで共振現象が抑制できることが分かる。IGBTの場合は、ゲート抵抗がダンピング抵抗として機能するため、ゲート抵抗を大きくすることで共振現象を抑制できる。しかし、ゲート抵抗を単純に大きくすると、IGBTのスイッチング動作が遅くなる。つまり、共振現象の抑制とスイッチング損失の低減の両立を考慮して、ゲート抵抗を決める必要がある。本実施の形態では、ゲート電位のトレンチゲート電極を2つのトレンチゲート電極G1、G2に分割することでこの両立を実現できる。
【0046】
すなわち、IGBTは2つのトレンチゲート電極G1、G2を有する。上側にあるトレンチゲート電極G1は、トレンチゲート電極G2と比べて、IGBTのスイッチング動作に対する寄与度が大きい。よって、トレンチゲート電極G1には小さなゲート抵抗を接続する。トレンチゲート電極G2は、ダンピング抵抗としての寄与度が大きいため、トレンチゲート電極G2には大きなゲート抵抗を接続する。このようにすることで、共振現象の抑制とスイッチング損失の低減の両立が可能となる。これらのゲート抵抗には、例えば、図1に示していない領域において、半導体基板上に設けられたポリシリコン膜からなるパターンにより構成される抵抗素子を用いる。
【0047】
本実施の形態の特徴の1つとして、トレンチゲート電極G2と半導体基板とを隔てる絶縁膜IF2の膜厚は、トレンチゲート電極G1と半導体基板とを隔てる絶縁膜IF1の膜厚よりも大きい。これにより、トレンチゲート電極G2に関し、ゲート帰還容量Cres(図7に示す寄生容量C1、C2に相当)が低下する。これにより共振条件Qの値も低下する。このことは、発振抑制の観点から好ましくないように思える。しかし、図10に示す共振条件Qを参照すると、容量Cは抵抗Rに比べ、その増減が共振条件Qに対する影響は小さいことが分かる。つまり、抵抗R(ダンピング抵抗)を制御する方が発振抑制に効果的であり、絶縁膜IF2が絶縁膜IF1より厚いことによる共振増大およびスイッチング損失への影響は小さい。よって、絶縁膜IF2が厚いことでゲート帰還容量Cresが低減しても、ゲート抵抗が確保されていれば、発振耐性を向上でき、スイッチング損失への影響を排除できる。つまり、スイッチング損失を低減できる。
【0048】
<破壊耐量の向上>
図11は、本実施の形態のIGBTにおけるキャリア(ホール)の流れる経路を示す断面図である。図11に示すようにIGBTにおいてホールの流れる経路としては、トレンチゲート電極G1をゲートとして有するNチャネル型MOSFET(以下、NMOSと呼ぶ)によりトレンチT1に沿って流れる経路X1と、トレンチゲート電極E2をゲートとして有する寄生PMOSによりトレンチT2に沿って流れる経路X2とがある。NMOSは、例えばN型のエミッタ領域ERと、P型のボディ領域BRと、N型のホールバリア領域HBと、トレンチゲート電極G1とにより構成される。
【0049】
IGBTにおいては、NMOSの動作によるトレンチゲート電極G1側(経路X1)へホールが集中し、これによりダイナミックアバランシェが発生することが問題となる。経路X1に電流が集中すると、ラッチアップが起こる。したがって、経路X1からホールが抜ける量を抑え、経路X2からホールが抜ける量を増やすことで、トレンチT1近傍のダイナミックアバランシェの発生を抑制し、ラッチアップを防ぐことができる。
【0050】
本実施の形態では、トレンチゲート電極E2に第2エミッタ電位を供給して寄生PMOSを強く動作させるため、経路X2でのホール排出を強化できる。その結果、経路X1でのホール電流の集中が緩和され、トレンチT1近傍の電界強度が低減し、ダイナミックアバランシェの発生が抑制される。また、トレンチゲート電極G2の側面を覆う絶縁膜IF2が、トレンチゲート電極G1の側面を覆う絶縁膜IF1より厚いことにより、トレンチT1近傍の電界を緩和でき、さらにダイナミックアバランシェの発生が抑制される。よって、破壊耐量を向上できる。
【0051】
また、トレンチゲート電極G2の側面を覆う絶縁膜IF2が、トレンチゲート電極G1の側面を覆う絶縁膜IF1より厚いことで、電界が緩和され、ダイナミックアバランシェの発生が抑制される結果、ホットキャリアの発生が抑制される。よってホットキャリアによる影響を低減できる。また、図6を用いて説明したように、トレンチゲート電極G2に接続されたゲート抵抗の値は、トレンチゲート電極G1に接続されたゲート抵抗の値よりも大きい。これにより、トレンチゲート電極G2のターンオフタイミングが遅くなり、その結果、トレンチT1の内側へのホットキャリア注入を抑制できる。つまり、ホットキャリア注入は、ダイナミックアバランシェが発生し、かつ、ゲート電位がマイナスであるポイントで発生するが、それらのタイミングをずらすことができる。これにより、半導体装置の信頼性が向上できる。
【0052】
<本実施の形態の効果およびその検証>
上述したように、本実施の形態の半導体装置であるIGBTによれば、主にスイッチングターンオフ損失の低減、スイッチングターンオン損失および導通損失の低減、スイッチング損失の低減、並びに、破壊耐量の向上という効果が得られる。これにより、半導体装置の性能を向上できる。以下では、図29および図30と、図12図15とを用いて、本実施の形態の効果およびその検証について説明する。
【0053】
図29は、比較例1の半導体装置であるIGBTを示す断面図である。比較例1のIGBTは、トレンチゲート電極G2、E2を有していない点で、本実施の形態のIGBTとは異なる。比較例1では、トレンチT1内に、薄い絶縁膜IF1を介してトレンチゲート電極G1が埋め込まれ、トレンチT2内に、薄い絶縁膜IF1を介してトレンチゲート電極E1が埋め込まれている。
【0054】
このようなIGBTでは、トレンチT2側に生じる寄生PMOS(図4参照)は、比較的小さい第1エミッタ電位が印加されるトレンチゲート電極E1をゲートとして有するため、ホール排出能力が低い。このため、スイッチングターンオフ損失が大きいという問題がある。また、ターンオン時において、第1エミッタ電位の絶対値が比較的小さいため、フローティング領域FR側への電子供給能力は低く、寄生PMOSは完全オフ状態にはならない。したがって、図7を用いて説明した第2寄生PNPバイポーラトランジスタBP2の働きが弱いため、スイッチングターンオン損失および導通損失が大きい。
【0055】
また、比較例1では、トレンチT1、T2のそれぞれの内部において、特に下部のトレンチゲート電極G1、E1のそれぞれを覆う絶縁膜IF1の膜厚が比較的小さく、また、上記寄生PMOSの動作が弱い。このため、トレンチT1近傍にホールの流れが集中し易く、破壊耐量が低く、かつ、ホットキャリア注入の発生量が多いという問題がある。
【0056】
図30は、比較例2の半導体装置であるIGBTを示す断面図である。比較例1に対し、比較例2では、トレンチT1内においてトレンチゲート電極G1の下にトレンチゲート電極G2を設けている。トレンチゲート電極G1、G2には、共にゲート電位が印加される。ただし、本実施の形態とは異なり、トレンチゲート電極G2と半導体基板とを隔てる絶縁膜IF1の膜厚は、トレンチゲート電極G1と半導体基板とを隔てる絶縁膜IF1の膜厚と同様に小さい。
【0057】
このようなIGBTでは、トレンチゲート電極G2を設けることで、図6図10を用いて説明したように、トレンチゲート電極G1、G2のそれぞれに別々の大きさのゲート抵抗を接続できる。これにより、発振を抑制しつつ、スイッチングターンオン損失を低減し、素子のスイッチングの高速化を実現できる。また、トレンチゲート電極G2に接続するゲート抵抗の値を、トレンチゲート電極G1に接続するゲート抵抗の値よりも大きくできる。このため、ダイナミックアバランシェの発生するタイミングと、ゲート電位がマイナスとなるタイミングとをずらすことができ、これによりトレンチT1内へのホットキャリアの注入を防ぐことができる。しかし、発振を抑制しつつスイッチングターンオン損失を低減可能な点と、ホットキャリア注入を抑制できる点を除き、比較例1のIGBTと同様の問題を有している。
【0058】
これに対し、本実施の形態の半導体装置では、スイッチングターンオフ損失の低減、スイッチングターンオン損失および導通損失の低減、スイッチング損失の低減、並びに、破壊耐量の向上という効果が得られる。
【0059】
すなわち、IGBTのターンオフ時にトレンチゲート電極E2に、第1エミッタ電位よりも絶対値が大きい第2エミッタ電位(-15V)を印加することで、スイッチングターンオフ損失を低減できる。本発明者が行ったTCAD(Technology Computer-Aided Design)ツールを使ったシミュレーション結果を図12および図13に示す。図12は、横軸を時間とし、縦軸をトレンチゲート電極G1の電位とする、スイッチングターンオフ波形を示すグラフである。図13は、横軸を時間とし、縦軸をコレクタ電位およびコレクタ電流とする、スイッチングターンオフ波形を示すグラフである。
【0060】
図12および図13では、ターンオフ時においてトレンチゲート電極E2に-15V(第2エミッタ電位)を印加した場合の電位のグラフを実線で示し、0V(第1エミッタ電位)を印加した場合の電位のグラフを破線で示している。また、図13では、ターンオフ時においてトレンチゲート電極E2に-15V(第2エミッタ電位)を印加した場合の電流のグラフを一点鎖線で示し、0V(第1エミッタ電位)を印加した場合の電位のグラフを二点鎖線で示している。トレンチゲート電極E2に第1エミッタ電位を印加した場合、比較例1、2と同様の特性を示すこととなる。よって、ここでは破線および二点鎖線のグラフを比較例のIGBTの特性であるものとして説明する。
【0061】
図12に示すようにトレンチゲート電極G1の電位が下がってターンオフされると、図13では、本実施の形態のIGBTは、比較例のIGBTに比べて早く電位が変化し、立ち上がりが早いことが分かる。このように、本実施の形態では、主に図3を用いて説明したように、スイッチングターンオフ損失の低減により、スイッチングの高速化が可能である。
【0062】
また、同様に、本発明者は、TCADツールを使ったシミュレーションにより、本実施の形態では比較例1、2に比べスイッチングターンオン損失を低減できることを確認している。したがって、ターンオン時においてもスイッチング高速化が可能である。
【0063】
図14は、横軸をコレクタ電位とし、縦軸をコレクタ電流とするグラフである。図14では、オン状態においてトレンチゲート電極E2に+15V(第2エミッタ電位)を印加した場合のグラフを実線で示し、0V(第1エミッタ電位)を印加した場合、つまり比較例のグラフを破線で示している。すなわち、図14では、比較例に比べ、本実施の形態のIGBTの方が同一コレクタ電流におけるコレクタ電圧の値が小さく、導通損失が小さいことが分かる。
【0064】
IGBTでは、半導体基板の裏面側からホールが注入され、フローティング領域FRが存在することでホールは半導体基板内から抜け難くなる。その結果、半導体基板内にキャリアが溜まり、伝導度変調が起きてホールの流れに対する抵抗値が低下する。アクティブセル領域40aの幅(メサ幅)を広げれば、正孔制限要因Rhd(ホールの溜まり易さ)が増加して導通損失を低減できるがIGBT素子の密度が低下する。本実施の形態では、当該幅を変えずとも、トレンチゲート電極E2にエミッタ電位を印加することで、導通損失を低減できる。すなわち、図4および図5を用いて説明したように、スイッチングターンオン損失および導通損失を低減できる。
【0065】
図15は、横軸を時間とし、縦軸をダイナミックアバランシェの発生量とするグラフである。つまり、当該グラフは、スイッチングターンオフ時におけるダイナミックアバランシェ発生量を示すグラフである。図15では、ターンオフ時においてトレンチゲート電極E2に-15V(第2エミッタ電位)を印加した場合のグラフを実線で示し、0V(第1エミッタ電位)を印加した場合、つまり比較例のグラフを破線で示している。ダイナミックアバランシェの発生量を計測した箇所は、図2に示すトレンチT1の直下の半導体基板内であって、トレンチT1の近傍の部分である。図15から分かる通り、本実施の形態では、比較例に比べ、スイッチングターンオフ時におけるダイナミックアバランシェ発生量を低減できる。すなわち、図11を用いて説明したように、ダイナミックアバランシェの発生抑制により、破壊耐量を向上できる。
【0066】
以上により、本実施の形態では、は導体装置の性能を向上できる。
【0067】
(まとめ)
実施形態に係る半導体装置の概要について説明する。なお、括弧内の要素は一例である。
【0068】
半導体装置は、
(a)第1主面(表面)および前記第1主面(表面)と反対側の第2主面(裏面)を有する半導体基板と、
(b)前記半導体基板に設けられた第1導電型(N型)の第1半導体領域(N型ドリフト領域)と、
(c)前記第1半導体領域(N型ドリフト領域)と前記第1主面(表面)との間の前記半導体基板に設けられた前記第1導電型(N型)と異なる第2導電型(P型)の第2半導体領域(ボディ領域)と、
(d)前記第1半導体領域(N型ドリフト領域)と前記第2主面(裏面)との間の前記半導体基板に設けられた前記第2導電型(P型)の第3半導体領域(コレクタ領域)と、
(e)前記第2半導体領域(ボディ領域)を貫通する第1溝(ゲートトレンチ)と、
前記第2半導体領域(ボディ領域)を貫通し、前記第1溝(ゲートトレンチ)と離間して設けられた第2溝(エミッタトレンチ)と、
(f)前記第2半導体領域(ボディ領域)内の前記第1主面側に、前記第1溝(ゲートトレンチ)の第1側面に接して設けられ、かつ前記第1溝(ゲートトレンチ)と前記第2溝(エミッタトレンチ)の間に位置する前記第1導電型(N型)の第4半導体領域(Nエミッタ領域)と、
(g)前記第1溝(ゲートトレンチ)の内部に第1絶縁膜を介して設けられた第1トレンチ電極(トレンチゲート電極)と、
(h)前記第2溝(エミッタトレンチ)の内部に第2絶縁膜を介して設けられた第2トレンチ電極(第1トレンチエミッタ電極)と、
(i)前記第1溝(ゲートトレンチ)の内部に第3絶縁膜を介して設けられ、前記第1トレンチ電極(第1トレンチゲート電極)と前記第2主面との間に位置する第3トレンチ電極(第2トレンチゲート電極)と、
(j)前記第2溝(エミッタトレンチ)の内部に第4絶縁膜を介して設けられ、前記第2トレンチ電極(第1トレンチエミッタ電極)と前記第2主面との間に位置する第4トレンチ電極(第2トレンチエミッタ電極)と、
(k)前記第1溝(ゲートトレンチ)を挟んで前記第4半導体領域(Nエミッタ領域)と反対側に位置する部分の前記第1半導体層に形成された、前記第2導電型(P型)の第5半導体領域(P型フローティング領域)と、
(l)前記第2溝(エミッタトレンチ)を挟んで前記第4半導体領域(Nエミッタ領域)と反対側に位置する部分の前記第1半導体領域(N型ドリフト領域)に形成された、前記第2導電型(P型)の第6半導体領域(P型フローティング領域)と、
(m)前記第2溝(エミッタトレンチ)と前記第4半導体領域(Nエミッタ領域)とに接するコンタクトホール(コンタクト溝)と、
を備える。
【0069】
本実施の形態では、トレンチ内にゲート電位のトレンチゲート電極を2つ設け、エミッタトレンチ内に第1エミッタ電位のトレンチゲート電極と、その下の第2エミッタ電位のトレンチゲート電極とを設けている。これにより、スイッチングターンオフ損失の低減、スイッチングターンオン損失および導通損失の低減、スイッチング損失の低減、並びに、破壊耐量の向上という効果が得られる。
【0070】
<変形例1>
本実施の形態は、GE-S型に限らず、EGE型IGBTにも適用可能である。図16に、本変形例であるEGE型IGBTの断面図を示す。
【0071】
EGE型IGBTは、隣り合うインアクティブセル領域40i同士の間において、トレンチT1を挟んで2つのトレンチT2が設けられている点で、図1および図2を用いて説明したGE-S型IGBTと異なる。つまり、EGE型IGBTは、図2に示すトレンチT1、T2およびアクティブセル領域40aを含む構造と、トレンチT1の中心を軸とする当該構造と線対称な構造とを含むものである。すなわち、トレンチT1のトレンチT2側とは反対側のフローティング領域FRとの間には、絶縁膜IF1、IF2、トレンチゲート電極E1およびE2を内包するトレンチT2がさらに設けられている。トレンチT1を挟む2つのトレンチT2のそれぞれと、トレンチT1との間には、ホールバリア領域HB、ラッチアップ防止領域LR、ボディ領域BR、ボディコンタクト領域BCおよびエミッタ領域ERが形成されている。
【0072】
このような構造は、第1エミッタ電位が印加されるトレンチゲート電極E1、ゲート電位が印加されるトレンチゲート電極G1、および、第1エミッタ電位が印加されるトレンチゲート電極E1が順に並ぶため、EGE型IGBTと呼ばれる。
【0073】
EGE型IGBTは、GE-S型IGBTに比べて高速スイッチングが可能である。EGE型IGBTでは、GE-S型IGBTに比べて発振耐性が低くなることが考えられる。しかし、本実施の形態では、トレンチゲート電極G2に接続するゲート抵抗の値を大きく確保することで、発振耐性を向上可能である。
【0074】
また、GE-S型IGBTに比べ、ユニットセル領域内での寄生PMOSの形成数が2倍となるため、さらなるターンオフ高速化が可能となる。
【0075】
また、EGE型IGBTでは、GE-S型IGBTに比べて導通損失が増大することが考えられる。しかし、本変形例では、トレンチゲート電極E2の電位を独立に制御することで、電子拡散能力を向上でき、これにより導通損失の低減が可能となる。
【0076】
(実施の形態2)
実施の形態1では4端子素子であるIGBTについて説明した。以下では、3端子素子であるIGBTについて、図17図19を用いて説明する。図17は、本実施の形態のIGBTを示す要部断面図である。図18は、本実施の形態のIGBTを示す等価回路図である。図19は、本実施の形態のトレンチゲート電極G3の電位(ゲート電位)と、トレンチゲート電極G1の電位(ゲート電位)を示すタイミングチャートである。
【0077】
図17に示すように、本実施の形態のIGBTは、断面図における構造は図1および図2に示す構造と同様であるが、トレンチT2内には、第2エミッタ電位が印加されるトレンチゲート電極E2(図2参照)に代わり、ここではゲート電位が印加されるトレンチゲート電極G3が設けられている。
【0078】
図18に示すように、IGBTのゲートには、トレンチゲート電極G1に接続されたゲート抵抗Rg1と、トレンチゲート電極G2に接続されたゲート抵抗Rg2と、トレンチゲート電極G3に接続されたゲート抵抗Rg3とがそれぞれ接続されている。ゲート抵抗Rg1、Rg2およびRg3はいずれも別々の抵抗であり、その値も互いに異なる。ここでは、各ゲート抵抗の値の大きさの関係は、Rg3<Rg1<Rg2である。
【0079】
図19では、経過時間により、IGBTのオフ期間、オン期間(導通期間)、オフ期間へと移行する様子が記載されている。トレンチゲート電極G3には、オフ期間において0Vが印加され、オン期間において+15Vが印加される。これは、トレンチゲート電極G1も同様である。図19から分かるように、トレンチゲート電極G1、G3は同じタイミングで動作する。このため、トレンチT1内へのホットキャリア注入抑制効果は、実施の形態1よりも低い。ただし、ゲート抵抗Rg1よりも小さいゲート抵抗Rg3をトレンチゲート電極G3に接続することで、上記NMOSよりも寄生PMOSを高速動作させることができる。また、スイッチングターンオフ時において、トレンチゲート電極G3の電位は0Vであるため、寄生PMOSの動作は弱くなり、トレンチT2側でのホール排出能力は実施の形態1よりも低下する。
【0080】
本実施の形態のIGBTは、トレンチゲート電極G1、G3を電気的に接続して導電位としている。このため、本実施の形態のIGBTは、実施の形態1に比べて独立した電圧制御を要する端子数を減らした3端子素子である。したがって、実施の形態1に比べ、ゲートドライバを1つ減らせるため、素子の制御が簡素化できるメリットがある。
【0081】
<変形例1>
以下に、実施の形態2の変形例1である3端子素子のIGBTについて、図20図21を用いて説明する。図20は、本変形例のIGBTを示す要部断面図である。図21は、本変形例のIGBTを示す等価回路図である。図22は、本変形例のトレンチゲート電極G3の電位(ゲート電位)と、トレンチゲート電極G1の電位(ゲート電位)を示すタイミングチャートである。
【0082】
図20に示すように、本変形例のIGBTの構造は、図17を用いて説明したIGBTの構造と同様である。ただし、トレンチゲート電極G3には、トレンチゲート電極G1が電気的に接続されており、トレンチゲート電極G1、G3のそれぞれに接続されるゲート抵抗が共通である点で、図17を用いて説明したIGBTとは異なる。すなわち、図21に示すように、トレンチゲート電極G1、G3には、共通してゲート抵抗Rg1が接続されており、トレンチゲート電極G2にはゲート抵抗Rg2が接続されている。ここでは、ゲート抵抗Rg1はゲート抵抗Rg3と同義である。この場合、各ゲート抵抗の値の大きさの関係は、Rg3=Rg1<Rg2である。
【0083】
図22に示すように、トレンチゲート電極G3には、オフ期間において0Vが印加され、オン期間において+15Vが印加される。これは、トレンチゲート電極G1も同様である。図22から分かるように、トレンチゲート電極G1、G3は同じタイミングで動作する。このため、トレンチT1内へのホットキャリア注入抑制効果は、実施の形態1よりも低い。ただし、ゲート抵抗を2種類、つまり、(ゲート抵抗Rg1(Rg3)とゲート抵抗Rg2のみ設ければよいため、IGBT素子の密度を高め、チップサイズを低減できる。
【0084】
また、図17を用いて説明した構造よりもトレンチゲート電極G3に接続されたゲート抵抗Rg3(Rg1)の値は大きくなるため、発振耐性が向上する。
【0085】
<変形例2>
以下に、実施の形態2の変形例2である3端子素子のIGBTについて、図24および図25を用いて説明する。図24は、本変形例のIGBTを示す要部断面図である。図25は、本変形例のIGBTを示す等価回路図である。
【0086】
図20に示すように、本変形例のIGBTの構造は、図17および図20を用いて説明したIGBTの構造と同様である。ただし、トレンチゲート電極G3には、トレンチゲート電極G2が電気的に接続されており、トレンチゲート電極G2、G3のそれぞれに接続されるゲート抵抗が共通である点で、図17および図20を用いて説明したIGBTとは異なる。すなわち、図24に示すように、トレンチゲート電極G1にはゲート抵抗Rg1が接続されており、トレンチゲート電極G2、G3には、共通してゲート抵抗Rg2が接続されている。ここでは、ゲート抵抗Rg2はゲート抵抗Rg3と同義である。この場合、各ゲート抵抗の値の大きさの関係は、Rg3=Rg2>Rg1である。
【0087】
トレンチゲート電極G2、G3は同じタイミングで動作する。このため、トレンチT1内へのホットキャリア注入抑制効果は、実施の形態1よりも低い。本変形例で得られる効果は、実施の形態1において説明した効果のうち、図5を用いて説明した導通損失の低減効果のみとなる。ただし、ゲート抵抗を2種類、つまり、(ゲート抵抗Rg2(Rg3)ゲート抵抗Rg1のみ設ければよいため、IGBT素子の密度を高め、チップサイズを低減できる。
【0088】
また、図20を用いて説明した変形例2の構造よりもトレンチゲート電極G3に接続されたゲート抵抗Rg3(Rg2)の値は大きくなるため、発振耐性が向上する。
【0089】
ここで、図25に、変形例1、2を含めた本実施の形態の実施例の性能(スイッチング動作の速さ)と発振耐性との関係をグラフに示す。当該グラフの横軸はIGBTの性能(スイッチング動作の速さ)であり、縦軸はIGBTの発振耐性の高さである。図25では、図17図19を用いて説明した実施の形態のIGBTの特性を丸のプロットで示し、図20図22を用いて説明した変形例1のIGBTの特性を三角のプロットで示し、図23および図24を用いて説明したIGBTの特性を四角のプロットで示している。
【0090】
図25に示すように、IGBTのスイッチング性能と発振特性とはトレードオフの関係にある。これら3種類のIGBTは、アプリケーションによって適宜選択可能である。
【0091】
(実施の形態3)
以下に、図26を用いて、実施の形態3の半導体装置であるIGBTについて説明する。図26は、本実施の形態のIGBTを示す要部断面図である。このIGBTは、トレンチT2内において第2エミッタ電位が印加されるトレンチゲート電極E2と半導体基板とを隔てる絶縁膜IF3の膜厚が、図2に記載の絶縁膜IF2の膜厚に比べて小さい点で、実施の形態1とは異なる。絶縁膜IF3の厚さは絶縁膜IF1の厚さと同等である。すなわち、トレンチゲート電極E2とトレンチT1との間の絶縁膜IF3は、トレンチゲート電極G2とトレンチT2との間の絶縁膜IF2よりも厚さが小さい。
【0092】
実施の形態1に比べ、トレンチT2の内壁とトレンチゲート電極E2との間の絶縁膜IF3の膜厚が小さいため、寄生PMOS(図4参照)の制御性が向上する。ただし、絶縁膜IF3の膜厚が小さいことで、電界強度が高くなる。この場合であっても、第1エミッタ電位および第2エミッタ電位が印加されるトレンチT2側では、ホットキャリアの影響があったとしても特性変動には至らない。これは、IGBTがエミッタ電位制御ではないためである。
【0093】
本実施の形態では、絶縁膜IF3の膜厚が小さいことで、トレンチT2側にて積極的にダイナミックアバランシェを発生させ、これにより電圧をクランプさせる。つまり、ゲート電位が印加されるトレンチゲート電極G1、G2を含むトレンチT1とは異なるトレンチT2側にてダイナミックアバランシェが大きく発生した場合、トレンチT1側でのダイナミックアバランシェを抑制、つまりサージを低減できる。これにより、トレンチT1近傍の電界強度を緩和可能であり、IGBTの動作を安定化できる。
【0094】
その他は、トレンチT2近傍での電界強度が低下する点を除き、実施の形態1と同様の効果を得られる。
【0095】
(実施の形態4)
以下に、図27を用いて、実施の形態3の半導体装置であるIGBTについて説明する。図27は、本実施の形態のIGBTを示す要部断面図である。このIGBTは、第2のチャネル層を有するチャネル2段制御側IGBTである。すなわち、図27に示すIGBTでは、図2に示すホールバリア領域HBを上下方向に分断するように、半導体基板内にP型の半導体領域SRが形成されている。ここでは、トレンチT1、T2の相互間において、半導体基板の裏面側から表面側に向かって順にN型のホールバリア領域HB1、P型の半導体領域SRおよびN型のホールバリア領域HB2が形成されている。言い換えれば、隣り合うトレンチT1、T2に挟まれる領域において、ボディ領域BRと、半導体基板の裏面との間には、ボディ領域BR側から順に、ホールバリア領域HB2、半導体領域SRおよびホールバリア領域HB1が形成されている。ホールバリア領域HB1、HB2および半導体領域SRは、いずれもトレンチT1の側面からトレンチT2の側面に亘って形成されている。
【0096】
実施の形態1とは異なり、トレンチゲート電極G2、E2のそれぞれは、半導体領域SRにチャネルを形成するため、トレンチT1、T2の相互に挟まれた領域へ寄って形成されている。つまり、隣り合う半導体領域SRとトレンチゲート電極G2との間の絶縁膜IF2の厚さは、隣り合うフローティング領域FRとトレンチゲート電極G2との間の絶縁膜IF2の厚さよりも小さい。また、隣り合う半導体領域SRとトレンチゲート電極E2との間の絶縁膜IF2の厚さは、隣り合うフローティング領域FRとトレンチゲート電極E2との間の絶縁膜IF2の厚さよりも小さい。このため、実施の形態1に比べ、破壊耐量が低く、信頼性は低い。
【0097】
ここでは、第2のチャネル層である半導体領域SRにより、耐圧を維持できる。これにより、半導体領域SR上のホールバリア領域HB2の高濃度化が可能となる。つまり、ホールバリア領域HB2の不純物濃度は、ホールバリア領域HB1の不純物濃度よりも高い。この高濃度化により、電子の濃度が高まるため、IE効果を向上させられる。
【0098】
また、トレンチゲート電極G2に接続されるゲート抵抗は、トレンチゲート電極G1に接続されるゲート抵抗より大きい。このため、トレンチゲート電極G2をゲートとし、半導体領域SRにチャネルが形成されるNMOSは、トレンチゲート電極G2をゲートとして作動するNMOSに比べて遅れたタイミングでオン・オフの動作を行う。このため、急激なスイッチング動作を抑制できる。
【0099】
<変形例>
半導体領域SRを形成する場合において、図28に示すように、トレンチT1、T2のそれぞれの内部構造を、実施の形態1と同じにしてもよい。つまり、半導体領域SRとトレンチゲート電極G2、E2との間の絶縁膜IF2の厚さを、絶縁膜IF1の厚さより厚くしてもよい。ここでは、半導体領域SRの不純物濃度を調整することで、絶縁膜IF2を一律に厚く形成しても、半導体領域SRをチャネル形成領域として有するNMOSを動作させられる。
【0100】
本変形例では、図27に示す構造に比べ、製造プロセスを簡略化でき、かつ、破壊耐量および信頼性の向上が可能となる。
【0101】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0102】
例えば、実施の形態と、他の実施の形態の変形例とを組み合わせてもよい。また、実施の形態同士、または、変形例同士を組み合わせてもよい。また、実施の形態1~4に記載したIGBTの構成部分の極性を入れ替えてもよい。
【符号の説明】
【0103】
40 単位セル領域
40a アクティブセル領域
40i インアクティブセル領域
BC ボディコンタクト領域
BR ボディ領域
CE コレクタ電極
CH コンタクト溝
CR コレクタ領域
DF ドリフト領域
E1、E2、G1、G2、G3 トレンチゲート電極
EE エミッタ電極
ER エミッタ領域
FR フローティング領域
FS フィールドストップ領域
HB、HB1、HB2 ホールバリア領域
IF1、IF2、IF3 絶縁膜
IL 層間絶縁膜
LR ラッチアップ防止領域
T1、T2 トレンチ
図1
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