(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065706
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】強化繊維不織布
(51)【国際特許分類】
D06M 11/46 20060101AFI20240508BHJP
B01J 35/39 20240101ALI20240508BHJP
B01J 35/58 20240101ALI20240508BHJP
A61L 9/00 20060101ALI20240508BHJP
D06M 15/55 20060101ALN20240508BHJP
D06M 101/40 20060101ALN20240508BHJP
【FI】
D06M11/46
B01J35/02 J
B01J35/06 A
B01J35/06 L
B01J35/06 H
A61L9/00 C
D06M15/55
D06M101:40
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174702
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高田 佳菜
【テーマコード(参考)】
4C180
4G169
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180AA07
4C180CC03
4C180EA34X
4C180HH05
4G169AA03
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA08A
4G169BA08B
4G169BA48A
4G169BB04B
4G169BC50B
4G169CA10
4G169CA17
4G169DA06
4G169EA10
4G169HA02
4G169HB01
4G169HE01
4G169HE07
4G169HF02
4L031AA27
4L031AB32
4L031AB34
4L031BA09
4L031DA12
4L031DA13
4L033AA09
4L033AB05
4L033AB07
4L033AC12
4L033CA49
(57)【要約】
【課題】
引用文献1について、炭素繊維の全表面に対し熱処理を行っているため、炭素繊維のサイジング剤が除去されてしまい、機械的強度が不足する可能性があった。
【解決手段】
上記課題を解決するために、本発明の強化繊維不織布1は、光触媒5を担持させた強化繊維不織布であって、強化繊維不織布1は、繊維表面の凹凸にサイジング剤を付着させた
強化繊維が編み込まれ、サイジング剤が付着している第一の領域3と、前記サイジング剤が除去された第二の領域4とを有し、第二の領域4に、光触媒5を担持させたことを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒を担持させた強化繊維不織布であって、
前記強化繊維不織布は、繊維表面の凹凸にサイジング剤を付着させた
強化繊維が編み込まれ、
前記サイジング剤が付着している第一の領域と、
前記サイジング剤が除去された第二の領域とを有し、
前記第二の領域に、前記光触媒を担持させたことを特徴とする強化繊維不織布。
【請求項2】
前記第一の領域は、前記強化繊維不織布の一方側の端部の辺と、前記一方側の端部の辺とは反対側の他方側の端部の辺を含むことを特徴とする請求項1に記載の強化繊維不織布。
【請求項3】
前記第一の領域は、前記強化繊維織物の周囲の全ての辺を含むことを特徴とする請求項1に記載の強化繊維不織布。
【請求項4】
前記光触媒は、前記第一の領域と前記第二の領域に渡って担持され、
前記光触媒の前記第二の領域における単位面積当たりの担持量は、
前記光触媒の前記第一の領域における単位面積当たりの担持量よりも多いことを特徴とする請求項1に記載の強化繊維不織布。
【請求項5】
前記強化繊維不織布が炭素繊維不織布であることを特徴とする請求項1に記載の強化繊維不織布。
【請求項6】
前記第一の領域及び前記第二の領域は、綾織であり、かつ目付けが100g/m2~200g/m2であることを特徴とする請求項1に記載の強化繊維不織布。
【請求項7】
前記第二の領域における面積が、前記第一の領域における面積より大きいことを特徴とする請求項1に記載の強化繊維不織布。
【請求項8】
前記光触媒が酸化チタンであることを特徴とする請求項1に記載の強化繊維不織布。
【請求項9】
前記強化繊維不織布がPAN系の炭素繊維から成る繊維であることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の強化繊維不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌、脱臭などの機能を有する強化繊維不織布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタン酸化物TiO2に代表される光触媒は、吸着したガス、臭気、ミスト、油滴、花粉、カビ菌、生菌、ウイルス等を光の下で酸化・分解することができるので、継続利用可能なフィルタとして利用される。光触媒材料として、TiO2、LiTiO2、NiO、CoO、WO3、及び、SiC等の存在が知られているが、材料単体で利用するのは使い勝手が悪く、効率良くないので、基盤となる物質の上に担持させて利用される。
【0003】
比表面積が大きい無機質繊維には、金属繊維、ガラス繊維、ロックウール、セラミックス、及び、炭素繊維、活性炭繊維、強化繊維、黒鉛化繊維等があり、耐熱ガラス繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、SiC繊維、炭素繊維等では耐熱性や化学的安定性に優れたものがある。
【0004】
また、化学的組成、物性値、及び、生産性の観点から、光触媒に適した繊維と優れた
光触媒フィルタを製造する方法が求められている。
【0005】
近年、臭い物質の除去を目的として活性炭繊維と光触媒とからなる脱臭剤の各種検討がなされており、例えば光触媒微粒子を活性炭繊維に担持させた光触媒微粒子担持活性炭が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
引用文献1について、炭素繊維の全表面に対し熱処理を行っているため、
炭素繊維のサイジング剤が除去されてしまい、機械的強度が不足する可能性があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の強化繊維不織布は、光触媒を担持させた強化繊維不織布であって、前記強化繊維不織布は、繊維表面の凹凸にサイジング剤を付着させた強化繊維が編み込まれ、前記サイジング剤が付着している第一の領域と、前記サイジング剤が除去された第二の領域とを有し、前記第二の領域に、前記光触媒を担持させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、強化繊維不織布に熱処理を部分的に行うことで、機械的強度に優れ、光触媒を担持させることで脱臭・除菌効果を持った強化繊維不織布を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1における炭素繊維不織布の周囲の全ての辺を重石でマスクした状態の図。
【
図2】実施例1における熱処理後の炭素繊維不織布の図。
【
図3】実施例1における光触媒担持炭素繊維不織布図。
【
図4】実施例1における炭素繊維を重石でマスクした部分の炭素繊維熱処理後の走査型電子顕微鏡観察結果。
【
図5】実施例1における炭素繊維を重石でマスクしていない部分の炭素繊維熱処理後の走査型電子顕微鏡観察結果。
【
図7】実施例2における炭素繊維不織布の一方側の端部の辺と、もう一方側の端部に重石でマスクした状態の図。
【
図8】実施例2における熱処理後の炭素繊維不織布の図。
【
図9】実施例2における光触媒担持炭素繊維不織布の図。
【
図11】実施例3における炭素繊維不織布の各末端部に重石でマスクした状態の図。
【
図12】実施例3における熱処理後の炭素繊維不織布の図。
【
図13】実施例3における光触媒担持炭素繊維不織布の図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を実施の形態に基づいて詳細に説明する。なお、以下に説明する本発明の実施の形態は、本発明の上位概念、中位概念および下位概念など種々の概念を説明するための一例である。今回は炭素繊維不織布を一例として構成を例示して説明するが、繊維にサイジング剤が塗布されているようなものであれば応用でき、例えば、強化繊維、金属繊維、ガラス繊維、ロックウール、セラミックス、活性炭繊維、黒鉛化繊維、耐熱ガラス繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、SiC繊維等などへの応用が可能である。したがって、本発明の技術的範囲は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0012】
(炭素繊維不織布)
本発明の強化繊維不織布は、光触媒酸化チタンと炭素繊維不織布から成り、熱処理により炭素繊維織物の周囲の全ての辺を含むなどの部分的に形成された表面凹凸形状により、臭い分子や菌・ウイルスなどを物理的吸着することができる。また、光触媒を担持することにより、前述の物理吸着+光触媒による化学的分解効果が得られる。また、部分的に表面処理を行うことで、炭素繊維不織布の優れた機械特性を持った脱臭・除菌用フィルタとなる。
【0013】
アクリル繊維等の人工有機質繊維を高温で炭化して得られる炭素繊維は機械強度、化学安定性、熱特性に優れており、航空機等飛翔体の構造材として大量に使われるようになった。
【0014】
具体的な炭素繊維の太さは3~10μmであり、質量は100~400g/m2であり、機械的性質として優れた性質を持っている。また、1000℃以上の温度で焼成して製造されるため、熱安定性にも優れている上に純度の高い炭素であり化学安定性にも優れている。
【0015】
得られる炭素繊維は非晶質であり、表面にはエポキシ系やウレタン系、ポリエチレン系のプロセス助剤(サイジング剤)の皮膜が施されている。サイジング剤は空気雰囲気中で400℃ に加熱することにより容易に分解除去できることが知られている。しかし、炭素繊維不織布全面のサイジング剤を除去した炭素繊維において、光触媒をコーティングすることはできるが、全表面を熱処理することにより線径が細り機械的強度が低下してしまう。
【0016】
本発明に用いる炭素繊維不織布は工業的規模で生産され、通常入手できるものが適用でき、具体的には、例えば、株式会社丸勝製のCF3K綾織クロス、CF12K綾織クロス、旭産業のカーボンクロス等が挙げられる。
【0017】
また、炭素繊維には原料別の分類としてピッチ系やPAN系などがあり、今回はPAN系を例に挙げているがこれに限定されるものではない。
【0018】
比表面積において、例えば、500m2/g以上、好ましくは1000m2/g~2000m2/gであり、平均直径が10μm~30μmである。比表面積が500m2/gより小さい場合、炭素繊維不織布の空隙は大きくなり、一定空間内に占める繊維量が少なすぎることとなる。そして、繊維の表面に光触媒をコーティングされることを考慮すると、繊維量が少なすぎることで、通気性は良いが、一定空間内に占める光触媒の担持量が充分ではなく、光触媒機能を充分に発揮することが困難となり、十分な除去性能を有する光触媒炭素繊維不織布が得られない場合がある。
【0019】
一方、炭素繊維不織布の比表面積が2000m2/g以上の場合、光触媒をコーティングすることで担持量も増えるが、炭素繊維間の密度が高いため空隙が小さく、空気抵抗が大きくなりすぎて空気が通過することが困難となり、通気性が低下する。また、有害物質(被分解物質)と光触媒とが接触し難くなる。
【0020】
前記炭素繊維不織布の目付けは、除去対象物質の濃度・種類、その濃度の経時変化の大小等により異なるため一義的ではないが、通常、1g/m2~500g/m2、好ましくは100g/m2~200g/m2である。目付けが100g/m2より少ない場合、炭素繊維不織布の空隙は大きくなり、一定空間内に占める繊維量が少なすぎることとなる。そして、繊維の表面に光触媒をコーティングされることを考慮すると、繊維量が少なすぎることで、通気性は良いが、一定空間内に占める光触媒の担持量が充分ではなく、光触媒機能を充分に発揮することが困難となり、十分な除去性能を有する光触媒炭素繊維不織布が得られない場合がある。
【0021】
一方、目付けが500g/m2より多い場合、光触媒をコーティングすることで担持量も増えるが、炭素繊維間の密度が高いため空隙が小さく、空気抵抗が大きくなりすぎて空気が通過することが困難となり、通気性、通液性等が低下する。また、光触媒が目詰まりしやすくなり、有害物質(被分解物質)と光触媒とが接触し難くなる。
【0022】
(光触媒)
光触媒粒子としては、二酸化チタンや酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化カドミウム、酸化インジウム、酸化銀、酸化マンガン、酸化銅、酸化鉄、酸化スズ、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム等の金属酸化物半導体、硫化カドミウム、硫化亜鉛、硫化インジウム、硫化鉛、硫化銅、硫化モリブデン、硫化タングステン、硫化アンチモン、硫化ビスマス等の金属硫化物半導体、チタン酸ストロンチウム、セレン化カドミウム、タンタル酸カリウム及びこれらの混合物を使用することができる。中でも、二酸化チタンは安価であり、化学的安定性に優れ、かつ高い触媒活性を有しているので好ましい。
【0023】
二酸化チタンには、結晶構造の違いによりアナターゼ(Anatase)型やルチル(Rutile)型、ブルッカイト型等が存在するが、結晶構造は特に限定されず、一方のみを用いてもよいし、これらの混合物を用いてもよい。尚、光触媒機能を重視する場合にはアナターゼ型の二酸化チタンを使用することが好ましく、コスト面を重視する場合にはルチル型の二酸化チタンを使用することが好ましい。
【0024】
二酸化チタン光触媒は、紫外線により励起されて水や酸素が・O H や・O 2- となり、強い酸化作用で有機物を、水とニ酸化炭素等に分解し、消臭するものである。また、酸化チタン光触媒の触媒活性を高めるため、白金、パラジウム、ロジウムなどの白金族金属を担持させたものや、銀、銅、亜鉛などの殺菌性のある金属を担持させたものを使用することもできる。
【0025】
光触媒分散液の基材へのコーティング方法としては、ディップコーティング法、スプレーコーティング法、スピナーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、リバースロールコーティング法などが挙げられる。既知の方法で少なくとも1回以上担持体上に塗布し、必要に応じて室温~200℃、常圧あるいは減圧下で予備乾燥後、200~800℃で焼成し酸化チタン粒子を担持体上に固着させる。
【0026】
また、前記の予備乾燥は室温~200℃、常圧あるいは減圧下あるいは乾燥気流下で、特に好ましくは室温~200℃、乾燥気流下で行うのが好ましい。焼成温度は、200℃~800℃、好ましくは300~600℃の温度で行う。焼成温度が200℃より低いと支持体との接着性が低下するため好ましくない。上限は使用する用途により一概には決められないが、800℃より高いと焼成後の酸化チタン粒子の結晶成長が大きくなってしまう場合や、酸化チタン膜の比表面積が小さくなるため好ましくない。以上のようにして、本発明の酸化チタン膜が得られる。
【0027】
本発明の強化繊維不織布の使用に際しては、例えば、光触媒担持炭素繊維不織布に除去対象物質を含む被処理液又は被処理気体を接触させ、光源を用いて光触媒担持炭素繊維不織布に光線を照射すればよい光を照射する光源としては、紫外線を発光するブラックライト、紫外線LEDランプ、可視光LEDランプ、蛍光灯、白熱電灯、冷陰極管(CCFL:Cold Cathode Fluorescent Lamp)等が挙げられる。
【0028】
本発明の強化繊維不織布の応用例としては、臭気の分解、ガス類の酸化分解、並びに、脱色、または、花粉、カビ、生菌、並びに、ウイルス等の滅菌駆除に大きな効果が得られる。
【0029】
(サイジング剤の処理方法)
炭素繊維不織布にコーティングされているサイジング剤は、熱処理を施すことによってサイジング剤を除去させることができるが、このとき全ての範囲の炭素繊維不織布を熱処理するのではなく、光触媒を担持させたい範囲のみに熱処理を施す。本発明でのサイジング剤とは、繊維の表面に塗布されているものをいい、それによって繊維の強度、耐摩耗性、平滑性が向上するものをいう。
【0030】
本発明において、例えば、炭素繊維不織布の周囲のすべての辺以外に熱処理を施してサイジング剤を除去する。このとき、炭素繊維不織布の周囲のすべての辺には、機械的強度をある程度保たせるため、サイジング剤を除去せず、さらに酸素による酸化を防ぐため重石を乗せる。
【0031】
また、炭素繊維不織布の一方側の端部の辺と、前記一方側の端部の辺とは反対側の他方側の端部の辺以外に熱処理を施して、サイジング剤を除去する。このとき、炭素繊維不織布の一方側の端部の辺と、前記一方側の端部の辺とは反対側の他方側の端部の辺は、機械的強度をある程度保たせるため、サイジング剤を除去せず、また、酸素によって酸化するのを防ぐため重石を乗せる。
【0032】
このような方法以外にも、酸素を行き渡らせないようにする場所は特に決まりはなく、フィルタとして使用する際の取り付け方に合わせるようにすればよい。
【0033】
サイジング剤の処理方法において、今回は熱処理によってサイジング剤を処理したが、他の方法でもサイジング剤を処理することができ、例えば、アセトンなどの有機溶剤による洗浄やレーザー加工、プラズマによる処理、プレスによる熱処理などが挙げられる。
【0034】
また、今回は重石を用いてサイジング剤の除去を部分的に防ぎ、機械的強度を保たせたが、他の方法でもよく、耐熱性のテープによる補強などが挙げられる。
【0035】
以上、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述した実施形態では、炭素繊維不織布を一例として構成を例示して説明したが、本発明は勿論これに限定されず、例えば、強化繊維、金属繊維、ガラス繊維、ロックウール、セラミックス、活性炭繊維、黒鉛化繊維、耐熱ガラス繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、SiC繊維等などへの応用が可能である。
【0036】
(実施例)
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明がこれにより限定されるものではない。本実施例では例として炭素繊維不織布を用いたが、これに限定されず、繊維にサイジング剤が塗布されているようなものであれば応用することができ、例えば、強化繊維不織布などへの応用が可能である。下記の実施例1及び2に記載の方法でそれぞれ炭素繊維不織布の処理を行い、光触媒フィルタを作製した。
【0037】
(実施例1)
PAN系である炭素繊維不織布(CF3K綾織クロスCCT3200×1000 目付け200g/m
2:丸勝社製)を10cm×10cmに裁断し、マッフル炉(Muffle Furnace FP300:ヤマト製)内に置き、酸素雰囲気中で400℃、1時間の条件で焼成した。このとき、炭素繊維不織布の表面に付着したサイジング剤(エポキシ系樹脂)を部分的に除去するため、
図1のようにサイジング剤の除去を行わない部分(炭素繊維不織布の周囲およそ1cmの領域)に重石を乗せて酸素が行き渡らないようにした。炭素繊維不織布1と重石2はこれらを模式的に表したものである。
【0038】
焼成後のフィルタは、
図2のようにサイジング剤未除去繊維不織布箇所とサイジング剤除去繊維不織布と部分的に分かれた。
図2のサイジング剤未除去繊維3は重石が乗っていたことにより酸化されず、サイジング剤が残った部分であり、サイジング剤除去繊維4は焼成したことでサイジング剤を除去することができた様子を模式的に表したものである。
【0039】
得られた炭素繊維不織布の重量減少率を求めると、400℃、1時間の焼成条件で1.7重量%のサイジング剤を容易に揮発・除去することができ、部分的に清浄化された炭素繊維不織布を得ることができた。
【0040】
次に炭素繊維不織布を走査型電子顕微鏡により撮影し、無作為に選んだ炭素繊維数本の表面の繊維径を調べた。得られた炭素繊維不織布の炭素繊維径を走査型電子顕微鏡にて測定した。
図4に示すサイジング剤未除去領域の炭素繊維は、繊維径8μm~9μmであった。一方、
図5に示すサイジング剤を除去した領域の炭素繊維径は、6μm~7μmであり、サイジング剤が除去され、且つ酸化されたことにより表面に微小な凹凸が形成された。
【0041】
部分的にサイジング剤を除去し清浄化した炭素繊維不織布に、光触媒酸化チタンをスプレー法にてコーティングを行った。光触媒酸化チタン溶液は、可視光応答型光触媒酸化チタン(STS-427:石原産業製)を用い、6.67gを純水で希釈し、マグネティックスターラーにて30分攪拌後、光触媒コーティング液を得た。
【0042】
このコーティング液を用いてスプレーコーティング後、乾燥炉にて120℃、1時間の条件で仮乾燥した。この工程を3回繰り返した後、マッフル炉にて300℃、30分の条件で炭素繊維不織布に光触媒を付着後焼結させ、光触媒を担持した光触媒炭素繊維不織布(
図3)を得た。光触媒5は、炭素繊維不織布1に担持された光触媒粒子を模式的に表したものである。
【0043】
このようにして得られた実施例1の光触媒炭素繊維不織布6は、周囲の全ての辺にサイジング剤が付着しているため、例えば
図6に示したような装置に取り付けることができる。
【0044】
図6(a)は、脱臭装置を断面から見た図であり、炭素繊維不織布6がファン7に取り付けられており、矢印はファン7の中央流路から風が送風される方向を模式的に表したものである。
【0045】
図6(b)は脱臭装置を正面から見た図であり、炭素繊維不織布6をファン7に取り付ける箇所、ファン7によって風が送風される箇所等を模式的に表したものである。
この装置は、ファン7の中央部の流路7aからの送風によって空気を運んでいる。このときの流路7aから運ばれてくる空気は臭気(有害物質)を含んでおり、実施例1で作製した光触媒炭素繊維不織布6a部を流路7a部に覆うことで臭気物質と光触媒との接触機会を増やすことができ、脱臭効果を向上させることができる。
【0046】
また、光触媒炭素繊維不織布6のサイジング剤未除去部6bはサイジング剤が付着しているが、光触媒を塗布する際にマスクせずスプレーコートするため、サイジング剤の上に光触媒が担持される。しかし光触媒の担持量はサイジング剤を除去した部分よりも少量であり機械的強度が高いため、ファン7の端部7bと貼り合わせるように配置することができる。
【0047】
このときの光触媒炭素繊維不織布6をファン7に取り付ける方法としては、例えば両面テープ、金具、溶接、超音波溶着などが使用できるが、保持する物であればこの限りではない。
【0048】
光触媒炭素繊維不織布6の取り付け方は、装置の構造にも依存するが、光触媒炭素繊維不織布6と必要な外形が異なる場合も想定される。
【0049】
このときは光触媒炭素繊維不織布6の形状を選択すればよく、本実施例1と同様のプロセスで、作製時に炭素繊維不織布の形状を変えることだけで、同様の光触媒炭素繊維不織布6を作製することが可能である。
【0050】
また、光触媒炭素繊維不織布6を配置する際に、光触媒の効果をより発揮できるように、光触媒を担持した表面部分に対し、光がより多く当たるように光源8を配置する。光触媒に光が当たる面が多い方が、光触媒の励起量が多くなり、より効果を得ることができる。さらに、光源8と光触媒炭素繊維不織布6の光触媒担持部6aとの距離は2cm以内になるよう配置する。
【0051】
(実施例2)
実施例2では、炭素繊維不織布を酸素雰囲気下、400℃、1時間の条件で焼成した。
【0052】
このとき、
図7に示すようにサイジング剤未除去部分として炭素繊維不織布の一方側の端部の辺(幅1cm)と、もう一方側の端部(幅1cm)に重石を乗せ、酸素が行き渡らないようにした。
図7の炭素繊維不織布11は焼成前の炭素繊維不織布を、重石12は酸素が行き渡らないよう乗せた様子を模式的に表したものである。
【0053】
次に400℃、1時間の条件で焼成することで
図8に示すような炭素繊維不織布を得た。サイジング剤未除去繊維13は重石が乗っていたことにより酸化されずサイジング剤が残った部分であり、サイジング剤除去繊維14は焼成したことでサイジング剤を除去することができた様子を模式的に表したものである。それ以外は実施例1と同様にして光触媒炭素繊維不織布(
図9)を作製した。光触媒15は、炭素繊維不織布11に担持された光触媒粒子を模式的に表したものである。
【0054】
このようにして得られた実施例2の光触媒炭素繊維不織布16は、炭素繊維不織布の一方側の端部の辺と、もう一方側の端部の辺にサイジング剤が付着しているため、例えば
図10に示したような装置に取り付けることができる。この装置は、ファン17による送風で臭気(有害物質)が矢印の方向へと運ばれていく。このとき、臭気を含む空気を光触媒炭素繊維不織布16と光源18で挟み込むように配置することで、ファン17によって運ばれてきた臭気(有害物質)を光触媒によって脱臭することができる。
【0055】
光触媒炭素繊維不織布16の炭素繊維不織布の一方側の端部の辺と、もう一方側の端部の辺はサイジング剤が付着しているが、光触媒を塗布する際にマスクせずスプレーコートするため、サイジング剤の上に光触媒が担持される。しかし光触媒の担持量はサイジング剤を除去した部分よりも少量である。よって炭素繊維不織布の一方側の端部の辺と、もう一方側の端部の辺は垂直方向に対し機械的強度があり、ファン17に対し垂直に設置する場合に最適である。
【0056】
また、実施例2で作製した光触媒炭素繊維不織布16は、全体的な強度は実施例1よりも劣るけれども、実施例1よりも単位面積当たりの表面積が大きいため、光触媒の担持量が多くなり、より効果を発揮することができる。
【0057】
(実施例3)
実施例3では、炭素繊維不織布を酸素雰囲気下、400℃、1時間の条件で焼成した。
【0058】
このとき、
図11に示すようにサイジング剤未除去部分として炭素繊維不織布の各末端部分(幅1cm)に重石を乗せ、酸素が行き渡らないようにした。
図11の炭素繊維不織布21は焼成前の炭素繊維不織布を、重石22は酸素が行き渡らないよう乗せた様子を模式的に表したものである
【0059】
次に400℃、1時間の条件で焼成することで
図12に示すような炭素繊維不織布を得た。サイジング剤未除去繊維23は重石が乗っていたことにより酸化されずサイジング剤が残った部分であり、サイジング剤除去繊維24は焼成したことでサイジング剤を除去することができた様子を模式的に表したものである。それ以外は実施例1と同様にして光触媒炭素繊維不織布(
図13)を作製した。光触媒25は、炭素繊維不織布21に担持された光触媒粒子を模式的に表したものである。
【0060】
このようにして得られた実施例3の光触媒炭素繊維不織布6は、炭素繊維不織布の各末端部分にサイジング剤が付着しているため、例えば流路と平行に並べる、もしくは流路に対して垂直に設置するなどが挙げられる。比較的強度が低くなりやすい末端部分において、サイジング剤が付着していることによって補強され、様々な装置に取り付けることができる。
【0061】
また、全体的な強度は実施例1よりも劣るけれども実施例1、2よりも単位面積当たりの表面積が大きいため、光触媒の担持量が多くなり、より効果を発揮することができる。
【符号の説明】
【0062】
1、11、21 炭素繊維不織布
2、12、22 重石
3、13、23 サイジング剤未除去繊維
4、14、24 サイジング剤除去繊維
5、15、25 光触媒
6、16 光触媒炭素繊維不織布
6a サイジング剤除部
6b サイジング剤未除去部
7、17 ファン
7a 流路
7b 端部
8、18 光源