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  • 特開-ケーブル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065724
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/04 20060101AFI20240508BHJP
   H01B 11/06 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
H01B11/04
H01B11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174732
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】大塚 順
(72)【発明者】
【氏名】四野宮 篤子
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕子
(72)【発明者】
【氏名】仲野 凌太
(72)【発明者】
【氏名】町中 翔太
【テーマコード(参考)】
5G319
【Fターム(参考)】
5G319DA01
5G319DB01
5G319DC25
5G319EB02
(57)【要約】
【課題】コモンモードからディファレンシャルモードへの変換を抑制できるケーブルを提供する。
【解決手段】一対の電線を撚り合わせた対撚り電線と、
前記対撚り電線を被覆する誘電体と、を有し、
前記誘電体の誘電正接が2.5×10-4より大きいケーブル。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電線を撚り合わせた対撚り電線と、
前記対撚り電線を被覆する誘電体と、を有し、
前記誘電体の誘電正接が2.5×10-4より大きいケーブル。
【請求項2】
前記誘電体の外に配置された外被を有する請求項1に記載のケーブル。
【請求項3】
前記誘電体と、前記外被との間に金属製の遮蔽層を有する請求項2に記載のケーブル。
【請求項4】
前記電線は、導体と、前記導体を被覆する絶縁体とを有しており、
前記誘電体の誘電正接が、前記絶縁体の誘電正接よりも大きい請求項1または請求項2に記載のケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、相互に撚られた一対の電線を備えたツイストペアケーブルであって、
前記電線は、複数種の撚りピッチを有するツイストペアケーブルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-17436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では通信に用いられるケーブルにおいて、通信エラーの発生を抑制し、通信を安定化する観点から、伝送によるコモンモードからディファレンシャルモードへの変換を抑制することが求められるようになっている。
【0005】
そこで、本開示は、コモンモードからディファレンシャルモードへの変換を抑制できるケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のケーブルは、一対の電線を撚り合わせた対撚り電線と、
前記対撚り電線を被覆する誘電体と、を有し、
前記誘電体の誘電正接が2.5×10-4より大きい。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、コモンモードからディファレンシャルモードへの変換を抑制できるケーブルを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示の一態様に係るケーブルの長手方向と垂直な面での断面図である。
図2図2は、誘電体の誘電正接を変化させた際のディファレンシャルモードの信号、コモンモードの信号の減衰の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施するための形態について、以下に説明する。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。以下の説明では、同一または対応する要素には同一の符号を付し、それらについて同じ説明は繰り返さない。
【0011】
(1)本開示の一態様に係るケーブルは、一対の電線を撚り合わせた対撚り電線と、
前記対撚り電線を被覆する誘電体と、を有し、
前記誘電体の誘電正接が2.5×10-4より大きい。
【0012】
本発明の発明者は、対撚り電線と、対撚り電線を被覆する誘電体とを有するケーブルにおいて、誘電体の誘電正接を変化させた場合の、コモンモード、ディファレンシャルモードの信号の減衰の程度について検討を行った。その結果、誘電体の誘電正接が大きくなるのに伴い、コモンモード、ディファレンシャルモードいずれの信号についても減衰が大きくなる。しかし、誘電正接の変化に伴う、減衰の変化率はコモンモードの信号の方がディファレンシャルモードの信号よりも大きくなる。
【0013】
そして、本発明の発明者の検討によれば、誘電体の誘電正接を2.5×10-4より大きくすることで、上記コモンモードの信号の減衰の程度を特に高めることができ、選択的に減衰させることができる。
【0014】
このため、誘電体の誘電正接を2.5×10-4より大きくすることで、モード変換して生じる信号、特にコモンモードの信号を抑制し、コモンモードからディファレンシャルモードへの変換を十分に抑制することができる。
【0015】
(2) 上記(1)において、前記誘電体の外に配置された外被を有していてもよい。
【0016】
本開示のケーブルが外被を有することで、内部に配置された対撚り電線等を保護し、ケーブルの耐久性を高めることができる。
【0017】
(3) 上記(2)において、前記誘電体と、前記外被との間に金属製の遮蔽層を有していてもよい。
【0018】
本開示のケーブルが遮蔽層を有することで、電線に対する外部からのノイズの侵入、および電線から外部へのノイズの放出を遮蔽できる。
【0019】
(4) 上記(1)から(3)のいずれかにおいて、前記電線は、導体と、前記導体を被覆する絶縁体とを有しており、
前記誘電体の誘電正接が、前記絶縁体の誘電正接よりも大きくてもよい。
【0020】
誘電体の誘電正接を、絶縁体の誘電正接よりも大きくすることで、対撚り電線が有する電線における伝送損失を抑制しつつ、コモンモードからディファレンシャルモードへの変換を抑制できる。
【0021】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)に係るケーブルの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
[ケーブル]
図1に、本実施形態のケーブルの長手方向と垂直な断面の構成例を示す。図1における紙面と垂直な方向がケーブルの長手方向になる。
【0022】
図1に示すように、本実施形態のケーブル10は、一対の電線11を撚り合わせた対撚り電線110と、対撚り電線110を被覆する誘電体12と、を有することができる。
(1)ケーブルが含有する各部材について
本実施形態のケーブルが含有する各部材について説明する。
(1-1)電線
電線11は、導体111と、導体111を被覆する絶縁体112とを有する。
(導体)
導体111の材料は特に限定されないが、例えば銅合金、銅、銀めっき軟銅、錫めっき軟銅から選択された1種類以上の導体材料を用いることができる。銅としては軟銅を好適に用いることができる。
【0023】
導体111は、単線であっても、撚線であってもよい。電線11や、電線11を含むケーブル10の屈曲性を高める等の観点から、導体111は、複数本の導体素線1111を撚り合わせた撚線とすることが好ましい。
【0024】
(絶縁体)
絶縁体112は、図1に示すように導体111の外表面、具体的には導体111の長手方向に沿った外表面を被覆できる。
【0025】
絶縁体112の材料は特に限定されない。絶縁体112は樹脂材料を含有できる。樹脂材料としては特に限定されないが、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、熱可塑性エラストマー(TPE)等から選択された1種類以上を好適に用いることができる。
【0026】
ポリオレフィン系樹脂としては特に限定されない。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン(PE)や、ポリプロピレン(PP)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)等のエチレンアクリル酸エステル共重合体、エチレンαオレフィン共重合体、エチレンアクリル酸メチル共重合体、エチレンアクリル酸ブチル共重合体、エチレンメタクリル酸メチル共重合体、エチレンアクリル酸共重合体、部分ケン化EVA、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、エチレンアクリル酸エステル無水マレイン酸共重合体等を挙げることができる。これらの樹脂は選択した1種類を単独で用いても良いし、2種類以上を混合して用いても良い。
【0027】
絶縁体112の樹脂材料は架橋されていても良く、架橋されていなくても良い。
【0028】
絶縁体112は、上記樹脂材料以外に難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤、反射付与剤、隠蔽剤、加工安定剤、可塑剤等の添加剤を含有することもできる。
【0029】
絶縁体112の形状、サイズは特に限定されない。絶縁体112は長手方向と垂直な断面が、図1に示すように円形状を有することができる。ここでいう円形状とは幾何学的に厳密な意味ではなく、例えば楕円等の真円ではない円も含む。
【0030】
(1-2)対撚り電線
上述のように、本実施形態のケーブル10は、上記電線11を2本、すなわち一対有することができる。
【0031】
上記一対の電線11は、撚り合わせて対撚り電線110とすることができる。対撚り電線110を構成する一対の電線11は同じ構成を有することができる。
【0032】
このように、同じ構成の2本の電線11を撚り合わせて対撚り電線110とすることで、該電線11が伝送する信号について、ノイズの影響を受けにくくすることができる。
(1-3)誘電体
(誘電正接)
誘電体12は、上述のように、対撚り電線110を被覆するように配置できる。
【0033】
そして、誘電体12は、誘電正接(tanδ)が2.5×10-4より大きいことが好ましく、7.0×10-4以上であることがより好ましく、2.5×10-3以上であることがさらに好ましい。
【0034】
なお、誘電体12の誘電正接の上限は特に限定されないが、6.0×10-2以下であることが好ましく、2.0×10-2以下であることがより好ましい。
【0035】
本発明の発明者は、対撚り電線と、対撚り電線を被覆する誘電体とを有するケーブルにおいて、誘電体の誘電正接を変化させた場合の、コモンモード、ディファレンシャルモードの信号の減衰の程度について検討を行った。その結果を図2に示す。図2は、誘電体の誘電正接が2.5×10-4の場合を基準として、誘電体の誘電正接を変化させた場合の各モードの信号の減衰割合を示した図である。
【0036】
図2に示すように、誘電体12の誘電正接が大きくなるのに伴い、コモンモード、ディファレンシャルモードいずれの信号についても減衰が大きくなる。しかし、誘電正接の変化に伴う、減衰の変化率はコモンモードの信号の方がディファレンシャルモードの信号よりも大きくなる。
【0037】
上記誘電体12の誘電正接の変化による減衰の程度の違いは、ディファレンシャルモードの信号と、コモンモードの信号とで、ケーブル10内での電磁界の分布が異なることに起因していると考えられる。具体的には、ディファレンシャルモードの信号の場合、主に電線11間に電磁界が分布する。これに対して、コモンモードの信号の場合、誘電体12の領域にも広く電磁界が分布する。このため、コモンモードの信号は、ディファレンシャルモードの信号と比較して、誘電体12の環境の影響を強く受け、誘電体12の誘電正接を高めることで、コモンモードの信号の方がディファレンシャルモードの信号よりも減衰し易くなると考えられる。
【0038】
そして、本発明の発明者の検討によれば、誘電体12の誘電正接を2.5×10-4より大きくすることで、上記コモンモードの信号の減衰の程度を特に高めることができ、選択的に減衰させることができる。
【0039】
このため、誘電体12の誘電正接を2.5×10-4より大きくすることで、モード変換して生じる信号、特にコモンモードの信号を抑制し、コモンモードからディファレンシャルモードへの変換を十分に抑制することができる。
【0040】
また、誘電体12の誘電正接は、電線11が有する絶縁体112の誘電正接よりも大きいことが好ましい。
【0041】
上述のように、誘電体12の誘電正接を大きくすることで、コモンモードからディファレンシャルモードへの変換を抑制できる。
【0042】
一方、電線11における伝送損失は、信号の周波数、および電線11の絶縁体112の誘電正接と正の相関を有する。このため、信号伝送の高速化のためには、絶縁体112の誘電正接は抑制することが好ましい。
【0043】
そこで、上述のように誘電体12の誘電正接を、絶縁体112の誘電正接よりも大きくすることで、対撚り電線110が有する電線11における伝送損失を抑制しつつ、コモンモードからディファレンシャルモードへの変換を抑制できる。
(材料)
誘電体12の材料は特に限定されない。誘電体12について、上記誘電正接となるように、材料を選択できる。
【0044】
誘電体12は樹脂材料を含有できる。樹脂材料としては特に限定されないが、ポリオレフィン系樹脂を好適に用いることができる。ポリオレフィン系樹脂は、絶縁体112で説明したものと同じものを用いることができるので、ここでは説明を省略する。
【0045】
誘電体12が有する樹脂材料は架橋されていても良く、架橋されていなくても良い。
【0046】
誘電体12は、上記樹脂材料以外に難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤、反射付与剤、隠蔽剤、加工安定剤、可塑剤等の添加剤を含有することもできる。
【0047】
誘電体12は、例えば樹脂材料と、添加剤とを含有し、添加剤の含有量を選択することで、その誘電正接を所望の値とすることもできる。
(サイズ)
誘電体12の形状、サイズは特に限定されない。誘電体12は長手方向と垂直な断面が、図1に示すように円形状を有することができる。ここでいう円形状とは幾何学的に厳密な意味ではなく、例えば楕円等の真円ではない円も含む。
【0048】
(1-4)本実施形態のケーブルが有することができる任意の部材について
(外被)
本実施形態のケーブル10は、誘電体12の外に配置された外被14を有していてもよい。外被14は、誘電体12に直接接するように配置しても良く、後述する遮蔽層13を誘電体12との間に有することもできる。
【0049】
本実施形態のケーブル10が外被14を有することで、内部に配置された対撚り電線110等を保護し、ケーブル10の耐久性を高めることができる。
【0050】
外被14の材料は特に限定されない。外被14は、樹脂材料を含有することができる。樹脂材料としては特に限定されないが、例えばポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン樹脂(PU)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)から選択された1種類以上を好適に用いることができる。ポリオレフィン系樹脂は、絶縁体112で説明したものと同じものを用いることができるので、ここでは説明を省略する。
【0051】
樹脂材料は架橋されていても良く、架橋されていなくても良い。
【0052】
外被14は、上記樹脂材料以外に難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤、反射付与剤、隠蔽剤、加工安定剤、可塑剤等の添加剤を含有することもできる。
(1-5)遮蔽層
本実施形態のケーブル10は、誘電体12と、外被14との間に金属製の遮蔽層13を有していてもよい。
【0053】
ケーブル10が遮蔽層13を有することで、電線11に対する外部からのノイズの侵入、および電線11から外部へのノイズの放出を遮蔽できる。
【0054】
遮蔽層13は、1層の遮蔽層から構成することもできるが、2層以上の遮蔽層から構成することもできる
遮蔽層13は、例えば金属素線を含む構成とすることができる。また、遮蔽層13は、例えば金属膜を含む構成とすることもできる。上述のように遮蔽層13が2層以上から構成される場合、層毎に異なる構成とすることもできる。
【0055】
以下、遮蔽層13が金属素線を含む場合と、遮蔽層13が金属膜を含む場合のそれぞれの構成について説明する。
(遮蔽層が金属素線を含む場合)
遮蔽層13は、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属材料、あるいはそれら金属材料の表面にめっきを施した材料よりなる金属素線を含むことができる。金属素線としては、軟銅線や硬銅線等を用いることもできる。金属素線は、上述のように表面にめっきが施されていてもよく、該めっきとしては、銀や錫が挙げられる。このため、金属素線としては、銀めっき軟銅線や、錫めっき軟銅線等を用いることもできる。
【0056】
上記のように、遮蔽層13が金属素線を含む場合、遮蔽層13は、上記金属素線を横巻または編組にして構成できる。
(遮蔽層が金属膜を含む場合)
遮蔽層13は、例えば金属膜を有することができる。
【0057】
遮蔽層13が、金属膜を有する場合、遮蔽層13は、金属膜単体を有してもよく、基材に金属膜を積層した複合材料を有していてもよい。
【0058】
遮蔽層13が基材と、金属膜との複合材料を有する場合、遮蔽層13は、基材としての高分子フィルムと、基材表面に配置した金属膜とを有することができる。
【0059】
基材表面に金属膜を配置する方法は特に限定されず、基材に、蒸着や、めっき、接着等により形成、固定できる。遮蔽層13が、基材と金属膜との複合材料を有することで、遮蔽層が金属膜単体のみから構成される場合と比較して、機械的強度を高め、取り扱い性も向上させることができる。遮蔽層13の機械的強度を高めることで、ケーブル10を屈曲させた際に遮蔽層13が破損しにくくなるため、ケーブル10の耐屈曲性を高める効果も発揮できる。
【0060】
遮蔽層13が、上述のように金属膜を有する場合、該金属膜の材料は特に限定されないが、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属材料を挙げることができる。金属膜は、単一の金属種の膜より構成されても、二種類以上の金属種の膜が積層されてもよい。また、金属膜の表面には、必要に応じて、有機材料よりなる保護膜等、金属以外の材料が配置されてもよい。
【0061】
遮蔽層13は、上述のように金属膜と基材を有することもできる。該基材の材料は特に限定されない。基材の材料としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂等を挙げることができる。基材は、各種高分子材料に加え、各種添加剤を含有することもできる。高分子材料としては、機械的強度と柔軟性に優れる等の観点から、ポリエステル樹脂を好適に用いることができる。
【0062】
遮蔽層13は、上記、金属素線を横巻または編組としたもの、および金属膜から選択された1種類以上を含むことができる。
(2)ケーブルの用途について
本実施形態のケーブル10の用途は特に限定されず、各種用途に用いることができる。
【0063】
近年では、自動車において電子化が進んでおり、多くの通信ケーブルが用いられているところ、自動車の車両内はノイズが非常に大きい環境にある。このため、通信エラーの発生を抑制し、通信を安定化する観点から、自動車用のケーブルには特にコモンモードからディファレンシャルモードへの変換を抑制することが要求されるようになっている。そして、本実施形態のケーブル10によれば、既述のようにコモンモードからディファレンシャルモードへの変換を抑制できる。このため、本実施形態のケーブル10は、自動車用のケーブルとして特に好適に用いることができる。
【実施例0064】
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(評価方法)
まず、以下の実験例において作製したケーブルの評価方法について説明する。
(1)絶縁体112、誘電体12の外径
絶縁体112の外径D112、および誘電体12の外径D12は、以下の手順により測定、算出した。
【0065】
具体的には、絶縁体112の外径D112の場合、ケーブル10の長手方向と垂直な任意の一断面内において、電線11の直交する2本の直径に沿って、マイクロメータにより絶縁体112の外径を測定した。そして、その平均値を電線11が有する絶縁体112の外径D112とした。
【0066】
誘電体12の外径D12についても、測定対象を誘電体12にした点以外は同じ手順により測定、算出した。
(2)誘電正接
以下の各実験例で誘電体12に用いた原料をプレス成形してシート状の試料を作製した。プレス成形は180℃にて5分間予備加熱した後、さらにその温度で加圧し、5分間保持する条件で実施した。得られたシート状の試料に対して、JIS R 1641(2007)に準ずる方法に従って、周波数10GHzの高周波電界を印加した場合における誘電正接(tanδ)を測定した。測定は3回行い、平均値を誘電体12の誘電正接とした。
(3)LCTL(Sdc21)
透過モード変換(LCTL)を示すSdc21を、以下の手順で評価した。
【0067】
なお、LCTLは、Longitudinal Conversion Transfer Lossの略である。
【0068】
Sdc21は、伝送時にコモンモードの信号がディファレンシャルモードの信号に変換される量を表す。
【0069】
まず、以下の各実験例で作製したケーブル(長さ10m)について、ネットワークアナライザーを接続し、コモンモードの信号を伝送した際の、600MHzにおけるコモンモードの信号と、ディファレンシャルモードの信号との比から、Sdc21を算出した。測定は、OPEN ALLIANCEから発行されている"Channel and Component Requirements for 1000BASE-T1 Link Segment Type A (STP)"に従って実施した。
(試料の作製条件、評価結果)
実験例1~実験例3のケーブルを作製し、上記評価を行った。実験例1が比較例、実験例2、実験例3が実施例となる。
[実験例1]
実験例1では、遮蔽層13と、外被14を設けていない点以外は、長手方向と垂直な断面において、図1に示したケーブル10と同じ断面構造を有するケーブルを作製した。
【0070】
表1に示した構成の導体、絶縁体を備える電線11を2本撚り合わせることで、対撚り電線110とした。導体としては、表1に示した本数の素線を撚り合わせた撚線を用いている。表1中、PPはポリプロピレンを意味する。
【0071】
表1に示した材料であるポリプロピレンを押出成形機に供給、成形することで対撚り電線110の外表面を被覆するように誘電体12を形成した。誘電体12の長手方向と垂直な断面は円形状を有していた。
【0072】
評価結果を表1に示す。
[実験例2、実験例3]
誘電体12を形成する際、表1に示したポリプロピレンと、難燃剤である金属水酸化物との混合物を押出成形機に供給した。上記混合物は、所望の誘電正接(tanδ)となるように混合比を予め調整しておいた。以上の点以外は実験例1と同じ条件でケーブルを作製し、評価を行った。
【0073】
評価結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
【符号の説明】
【0075】
10 ケーブル
11 電線
111 導体
1111 導体素線
112 絶縁体
D112 絶縁体の外径
110 対撚り電線
12 誘電体
D12 誘電体の外径
13 遮蔽層
14 外被
図1
図2