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特開2024-65739ループヒートパイプ及び放熱量の制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065739
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】ループヒートパイプ及び放熱量の制御方法
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/06 20060101AFI20240508BHJP
   F28D 15/02 20060101ALI20240508BHJP
   B64G 1/50 20060101ALN20240508BHJP
【FI】
F28D15/06 D
F28D15/02 L
B64G1/50 600
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174750
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】西川原 理仁
(72)【発明者】
【氏名】宮北 健
(57)【要約】
【課題】消費電力及び流動抵抗を抑えて放熱量を制御することができるループヒートパイプを提供する。
【解決手段】ループヒートパイプ25は、内部で冷媒Rが蒸発する蒸発器27と、蒸発器に接続された第1配管29と、蒸発器内の冷媒を第1配管に向かって流す冷媒を昇圧させる冷媒駆動部28と、第1配管に接続され、内部で冷媒が凝縮する凝縮器30と、凝縮器及び蒸発器にそれぞれ接続された第2配管31と、第1配管又は第2配管に設けられ、第1配管及び第2配管が蒸発器及び凝縮器を接続して構成される環状流路39に沿う、第1向き及び第2向きのいずれか一方に向かって、冷媒を選択的に流す電気流体力学ポンプ32と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部で冷媒が蒸発する蒸発器と、
前記蒸発器に接続された第1配管と、
前記蒸発器内の前記冷媒を前記第1配管に向かって流す冷媒駆動部と、
前記第1配管に接続され、内部で前記冷媒が凝縮する凝縮器と、
前記凝縮器及び前記蒸発器にそれぞれ接続された第2配管と、
前記第1配管又は前記第2配管に設けられ、前記第1配管及び前記第2配管が前記蒸発器及び前記凝縮器を接続して構成される環状流路に沿う、第1向き及び第2向きのいずれか一方に向かって、前記冷媒を選択的に流す電気流体力学ポンプと、
を備える、ループヒートパイプ。
【請求項2】
前記冷媒駆動部は、前記蒸発器の内部に配置された毛細管部である、請求項1に記載のループヒートパイプ。
【請求項3】
前記電気流体力学ポンプは、前記第2配管に設けられている、請求項1又は2に記載のループヒートパイプ。
【請求項4】
前記電気流体力学ポンプはコンダクションポンプである、請求項1又は2に記載のループヒートパイプ。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のループヒートパイプを用い、
前記電気流体力学ポンプが有する複数の電極間に印加する電圧を調節することで、前記凝縮器での放熱量を制御する、放熱量の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ループヒートパイプ及び放熱量の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機器で発生する熱を放熱面で放熱することにより、機器を許容温度範囲に制御する必要がある。放熱の具体的な方法は、機器が、宇宙空間で用いられる宇宙機の場合は、宇宙空間へ輻射により排熱する。機器が、地上で用いられる地上機器の場合は、ファン等で空冷されることが多い。
宇宙機や地上機器の熱輸送デバイスとして、ループヒートパイプ(Loop Heat Pipe。以下ではLHPとも言う)が用いられている(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)。LHPには、小型、機構品が無い、無電力で動作可能である等の特徴がある。LHPは、毛細管力等を利用してLHP内に封入される作動流体(冷媒)を循環することで機能する熱輸送デバイスである。
【0003】
LHPは、リザーバ(Compensation Chamber。補償室)を備える(例えば、非特許文献2参照)。リザーバを加熱することにより、蒸発器からリザーバへの熱交換量(放熱面におけるサブクール量)及び動作温度を制御することができる。また、蒸発器とリザーバと間の圧力バランスを崩すことで、熱輸送を停止することができる。なお、動作温度は、機器の温度に等しく、蒸気の温度(蒸発器での蒸発温度)にほぼ等しい。
これらの制御は、LHPにおける、熱輸送のON/OFF機能、ヒートスイッチ機能、熱輸送量制御とも言える。
【0004】
一方で、LHPの蒸気管(第1配管)等にバルブを設け、バルブの開閉をすることで作動流体の流れを制御し、動作温度を制御したり、熱輸送を停止することができる(例えば、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-110869号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Hosei NAGANO, Hiroki NAGAI, Fuyuko FUKUYOSHI, and Hiroyuki OGAWA, “Study on Thermal Performances of a Small Loop Heat Pipe” Journal of Thermal Science and Technology (2008), Vol.3, No.2, p.355-367
【非特許文献2】Atsushi Okamoto, Takeshi Miyakita, and Hosei Nagano, “Initial Evaluation of On-orbit Experiment of Loop Heat Pipe on ISS”, ICES-2019-55
【非特許文献3】John R. Hartenstine, et al., “Loop Heat Pipe with Thermal Control Valve for Variable Thermal Conductance Link of Lunar Landers and Rovers”, AIAA 2011-341
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献2のLHPではリザーバの加熱が必要となり、加熱には1~10Wオーダの電力が必要となる。このため、使用電力の制約が厳しい環境では、大きなデメリットとなる。
また、非特許文献3のLHPで用いられるバルブは、流動抵抗が大きい。このため、熱輸送している通常時の熱輸送性能を低下させ、熱輸送距離が長いという、LHPの本来の熱輸送能力を失うデメリットがある。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、消費電力及び流動抵抗を抑えて放熱量を制御することができるループヒートパイプ、及びこのループヒートパイプを用いた放熱量の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
(1)本発明の態様1は、内部で冷媒が蒸発する蒸発器と、前記蒸発器に接続された第1配管と、前記蒸発器内の前記冷媒を、前記第1配管に向かって流す冷媒駆動部と、前記第1配管に接続され、内部で前記冷媒が凝縮する凝縮器と、前記凝縮器及び前記蒸発器にそれぞれ接続された第2配管と、前記第1配管又は前記第2配管に設けられ、前記第1配管及び前記第2配管が前記蒸発器及び前記凝縮器を接続して構成される環状流路に沿う、第1向き及び第2向きのいずれか一方に向かって、前記冷媒を選択的に流す電気流体力学ポンプと、を備える、ループヒートパイプである。
ここで言う環状流路に沿う第1向き及び第2向きとは、環状流路を構成する蒸発器、凝縮器内等において局所的に冷媒が流れる向きを意味せず、環状流路に沿って隣り合う蒸発器、第1配管等の構成間等において冷媒が流れる向きを意味する。
【0010】
この発明では、冷媒駆動部単独により、蒸発器内で蒸発した冷媒は、蒸発器から第1配管に向かって流れる。第1配管内を流れた冷媒は、凝縮器内で凝縮し、第2配管内を通して再び蒸発器内に流れ込む。
ここで、電気流体力学ポンプ単独により、環状流路に沿う第1向き及び第2向きのいずれか一方に向かって、冷媒を選択的に流すことができる。このため、冷媒駆動部及び電気流体力学ポンプ全体として、蒸発器から第1配管に向かう冷媒の流れを強めたり、蒸発器から第1配管に向かう冷媒の流れを弱めたりすることができる。このように、蒸発器から第1配管に向かう冷媒の流量を制御することで、凝縮器での放熱量を制御することができる。
【0011】
また、電気流体力学ポンプは、比較的消費電力が少なく、比較的流動抵抗(圧力損失)が小さいポンプである。従って、ループヒートパイプにおける消費電力及び流動抵抗を抑えて、放熱量を制御することができる。
また、電気流体力学ポンプは機械的可動部が無いため、機械式ポンプとは異なり、振動及び騒音がない。
【0012】
(2)本発明の態様2は、前記冷媒駆動部は、前記蒸発器の内部に配置された毛細管部である、(1)に記載のループヒートパイプであってもよい。
この発明では、毛細管部内を冷媒が流れるときに作用する毛細管力を利用して、電力を用いずに冷媒を流すことができる。
【0013】
(3)本発明の態様3は、前記電気流体力学ポンプは、前記第2配管に設けられている、(1)又は(2)に記載のループヒートパイプであってもよい。
この発明では、電気流体力学ポンプをより確実に動作させることができる。
【0014】
(4)本発明の態様4は、前記電気流体力学ポンプはコンダクションポンプである、(1)から(3)のいずれか一に記載のループヒートパイプであってもよい。ここで言うコンダクションポンプとは、冷媒中のイオンの解離イオンによって形成されるヘテロチャージ層を利用して、非対称電界を与えることで、冷媒の正味の流れを生む方式のポンプを意味する。
この発明では、電気流体力学ポンプの流動抵抗をさらに抑え、電気流体力学ポンプの長寿命化を図ることができる。
【0015】
(5)本発明の態様5は、(1)から(4)のいずれか一に記載のループヒートパイプを用い、前記電気流体力学ポンプが有する複数の電極間に印加する電圧を調節することで、前記凝縮器での放熱量を制御する、放熱量の制御方法である。
この発明では、例えば、複数の電極間に印加する電圧を調節すると、蒸発器から第1配管に向かう冷媒の流量が変化する。凝縮器で凝縮する冷媒の流量を変化させることで、凝縮器での放熱量が制御される。従って、消費電力及び流動抵抗を抑えたループヒートパイプを用いて、凝縮器での放熱量を制御することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のループヒートパイプ及び放熱量の制御方法では、消費電力及び流動抵抗を抑えて放熱量を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態のループヒートパイプが用いられるローバーの概要構成を示す断面図である。
図2】同ループヒートパイプの概要構成を示す断面図である。
図3図2におけるA1部拡大図である。
図4】同ループヒートパイプにおける、電気流体力学ポンプ近傍の断面図である。
図5】夜間におけるローバーの概要構成を示す断面図である。
図6】同電気流体力学ポンプの他の例を示す断面図である。
図7】シリンダ型の電気流体力学ポンプにおける電荷密度分布の解析結果を示す図である。
図8】ロッド型の電気流体力学ポンプにおける電荷密度分布の解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係るループヒートパイプ及び放熱量の制御方法の一実施形態を、図1から図8を参照しながら説明する。
図1に示すように、本実施形態のループヒートパイプ25は、月面G1上で作業を行うローバー(rover)1に用いられている。なお、図1では、ローバー1が作業を行う時間帯が、ローバー1を太陽S1が照らす日中(day)である場合で説明する。
【0019】
ローバー1におけるループヒートパイプ25以外の構成は、限定されない。例えば、ローバー1は、本体10と、放熱部20と、ループヒートパイプ25と、を備える。
本体10は、筐体11と、車輪12と、発熱源13と、を有する。
例えば、筐体11は、中空の箱状に形成されている。筐体11の外面には、図示しない断熱材等が取付けられている。
車輪12は、筐体11の下端部に回転可能に取付けられている。
発熱源13は、図示はしないが、駆動部、計測部、制御部、通信部、蓄電池(以下では、駆動部等と言う)を有する。発熱源13は、筐体11内に収容されている。
駆動部は、モータ等を有する。駆動部は、車輪12を回転駆動する。
計測部は、各種のセンサを有する。計測部は、月面G1において各種の計測を行う。
なお、発熱源13の構成はこれに限定されず、駆動部等の少なくとも1つでもよいし、駆動部等以外に他の構成を有してもよい。
【0020】
制御部は、CPU(Central Processing Unit)、メモリ等を有する。メモリには、CPUを動作させるための制御プログラム等が記憶されている。制御部は、駆動部、計測部、及び通信部を制御する。
通信部は、ローバー1の外部に配置された制御装置との間で、無線通信等により通信を行う。
蓄電池は、駆動部、計測部、制御部、及び通信部に、所定の電力をそれぞれ供給する。
駆動部等は、動作する際に熱を発する。
【0021】
例えば、放熱部20は、金属製の部材であり、本体10の筐体11よりも上方に配置されている。放熱部20は、支持部材21により筐体11から離間した状態で支持されている。
【0022】
図2に示すように、ループヒートパイプ25内には、冷媒Rが充填されている。図1及び図2に示すように、ループヒートパイプ25は、リザーバ26と、蒸発器27と、毛細管部(冷媒駆動部)28と、第1配管29と、凝縮器30と、第2配管31と、電気流体力学(EHD:ElectroHydroDynamics)ポンプ32と、を有する。
例えば、冷媒Rとして、HFC-134a(R-134a)を用いることができる。冷媒Rは、電気的絶縁性を有することが好ましい。
ループヒートパイプ25内には、冷媒Rとして、液相の冷媒R1と、気相の冷媒R2とが、存在している。以下では、液相の冷媒R1及び気相の冷媒R2を区別しないで言うときには、単に冷媒Rと言う。
【0023】
リザーバ26は、公知の構成の容器である。リザーバ26の構成は、一定量の冷媒Rを蓄える容器であれば、限定されない。図2に示すように、リザーバ26は、ケース35と、延長配管36と、を有する。例えば、ケース35は、中空の箱状に形成されている。
延長配管36は、ケース35内に配置されている。延長配管36は、ケース35における対向する一対の側壁の一方から他方まで延びている。延長配管36には、複数の貫通孔36aが形成されている。
【0024】
蒸発器27及び毛細管部28の構成は、蒸発器27内で毛細管部28による毛細管力が発揮されるとともに、蒸発器27の内部で冷媒Rが蒸発する構成であれば、限定されない。
例えば、蒸発器27は、所定の方向に延びる中空の箱状に形成されている。この例では、毛細管部28は粉末焼結多孔体で筒状(有底筒状)に形成されている。すなわち、図3に示すように、毛細管部28には、複数の細かい孔28aが形成されている。なお、図3では、粉末焼結多孔体を模式的に示している。
複数の孔28aは全体として、毛細管部28を貫通している。図2に示すように、毛細管部28は、蒸発器27の内部に配置され、蒸発器27に沿って延びている。
【0025】
毛細管部28の第1端部は、蒸発器27における前記所定の方向に対向する一対の側壁27a,27bの一方である側壁27aを通して、リザーバ26の延長配管36に連なっている。毛細管部28における第1端部とは反対側の第2端部は、蒸発器27における前記所定の方向に対向する一対の側壁の他方である側壁27b近くまで延びている。
図3に示すように、冷媒Rが複数の孔28a内を流れる際の液相の冷媒R1の表面張力により、冷媒R1に毛細管力が作用する。
なお、毛細管部28は繊維シート等で形成されてもよい。
【0026】
図2に示すように、第1配管29の第1端部は、蒸発器27の側壁27bに接続されている。毛細管部28の複数の孔28a内の液相の冷媒R1が蒸発して気相の冷媒R2となり、蒸発器27と毛細管部28との間を通して第1配管29に向かって流れる。このように、単独の毛細管部28は、蒸発器27内の冷媒Rを、蒸発器27から第1配管29に向かって流す。以下では、蒸発器27から第1配管29に向かう向きを、第1向きD1と言う。
第1配管29における第1端部とは反対側の第2端部は、凝縮器30に接続されている。
【0027】
凝縮器30の構成は、内部で冷媒Rが凝縮できれば限定されない。例えば、凝縮器30は、直管状に形成されている。凝縮器30の内部では、冷媒Rが凝縮する。凝縮器30の第1端部は、第1配管29の第2端部に接続されている。
第2配管31の第1端部は、凝縮器30における第1端部とは反対側の第2端部に接続されている。第2配管31における第1端部とは反対側の第2端部は、リザーバ26の延長配管36に接続されている。第2配管31の第2端部は、リザーバ26を介して蒸発器27に接続されている。
以上のように、第1配管29及び第2配管31が、リザーバ26、蒸発器27、及び凝縮器30を接続して、環状の環状流路39が構成される。第1向きD1は、環状流路39に沿う、蒸発器27から第1配管29に向かう向きである。第2向きD2は、環状流路39に沿う、第1配管29から蒸発器27に向かう、第1向きD1とは反対の向きである。
この例では、凝縮器30は、第1配管29、凝縮器30、及び第2配管31のうち、後述するように放熱部20に接続されることで、内部で冷媒Rの凝縮が行われる部分である。
【0028】
本実施形態では、電気流体力学ポンプ32は、コンダクションポンプである。電気流体力学ポンプ32は、第2配管31に設けられている。
図4に示すように、例えば、電気流体力学ポンプ32は、複数(この例では3つ)の電極42,43,44と、電圧源45と、を有する。電極42,43,44は、それぞれ円柱状に形成されている。電極42,44の直径は互いに等しく、電極43の直径は電極42,44の直径よりも大きい。電極42,43,44は、第2配管31内に、第2配管31から離間した状態に配置されている。電極42,43,44は、リザーバ26に向かってこの順で配置されている。電極42,43,44は、互いに離間している。
【0029】
電圧源45は、電極42と電極43との間、及び電極43と電極44との間に、直流の電圧を選択的に印加する。電極42は、電圧源45の第1出力端子45aに接続されている。同様に、電極43は電圧源45の第2出力端子45bに接続され、電極44は電圧源45の第3出力端子45cに接続されている。
以下では、図4に示す形状の電気流体力学ポンプ32を、シリンダ(円筒)型と言う。
【0030】
コンダクションポンプは、冷媒R中のイオンの解離イオンによって形成されるヘテロチャージ層を利用して、非対称電界を与えることで、冷媒Rの正味の流れを生む方式のポンプである。電気流体力学ポンプ32を動作させると、+及び-の極性によらず、直径の小さい電極から直径の大きい電極に向かって冷媒Rが流れる。
以下では、電圧源45が電極42と電極43との間に電圧を印加し、単独の電圧源45により冷媒Rが第1向きD1に流れる状態を、第1印加状態と言う。さらに電圧源45は、第1印加状態において、電極42,43間に印加する電圧を調節することで、第1向きD1に流れる冷媒Rの流量を調節できることが好ましい。
一方で、電圧源45が電極43と電極44との間に電圧を印加し、単独の電圧源45により冷媒Rが第2向きD2に流れる状態を、第2印加状態と言う。
【0031】
例えば、電圧源45が第2印加状態であると、電気流体力学ポンプ32による冷媒Rを第2向きD2に流そうとする力と、毛細管部28による冷媒Rを第1向きD1に流そうとする力とが釣り合い、環状流路39内を冷媒Rが流れなくなってもよい。
このように、電圧源45の出力端子45a,45b,45cのうち出力する端子を切り替えることにより、電気流体力学ポンプ32は、環状流路39に沿う、第1向きD1及び第2向きD2のいずれか一方に向かって、冷媒Rを選択的に流す。
電圧源45は、制御部に接続され、制御部により制御される。
【0032】
以上のように構成されたループヒートパイプ25では、図1に示すように、蒸発器27は、発熱源13に熱伝導グリス、熱伝導部材(不図示)等を介して接続されている。一方で、凝縮器30は、放熱部20に熱伝導グリス等を介して接続されている。
【0033】
次に、以上のように構成されたローバー1の動作について、ループヒートパイプ25の動作に重点をおいて説明する。例えば、ローバー1は、月面G1上で、数日間にわたって作業を行う。蓄電池は、駆動部、計測部、制御部、及び通信部等に所定の電力をそれぞれ供給する。制御部のCPUは、メモリに記憶された制御プログラム、及び、制御装置から無線通信により通信部が受けた指示信号に基づいて制御する。具体的には、制御部は、駆動部により車輪12を駆動し、計測部により各種の計測を行う。
これらの処理の際に、発熱源13が有する駆動部等は、熱を発する。
なお、駆動部等が安定して動作するために、本体10の筐体11内の適正温度は、例えば、15℃以上60℃以下であることが好ましい。
【0034】
図1に示す日中では、ループヒートパイプ25では、制御部により電圧源45が第1印加状態になっている。なお、日中におけるローバー1の周囲の地表温度は、例えば100℃程度である。
毛細管部28及び電圧源45は、冷媒Rを第1向きD1にそれぞれ流す。凝縮器30は、内部で冷媒Rが蒸発することで、発熱源13が発した熱を吸収する。凝縮器30内で、液相の冷媒R1は気化して気相の冷媒R2となる。
【0035】
気相の冷媒R2は、第1配管29内を通り、凝縮器30内に流れ込む。凝縮器30内で気相の冷媒R2が凝縮し、凝縮器30の周囲に熱を発する。この熱は、凝縮器30から放熱部20に伝達され、放熱部20からローバー1の周囲に輻射等により放熱される。
毛細管部28及び電圧源45による冷媒Rを流す向きが第1向きD1に揃うことで、冷媒Rの流量が増加する。
なお、日中に電圧源45を駆動せず、電圧源45により電圧を印加しなくてもよい。この場合、毛細管部28のみの駆動力により冷媒Rが第1向きD1に流れる。
【0036】
一方で、図5に示す夜間(night)では、ローバー1の周囲の地表温度は、例えば-190℃程度である。
この場合、発熱源13が熱を発していたとしても、ローバー1の外気により、本体10の筐体11内の温度は、適正温度よりも低くなりがちである。従って、ループヒートパイプ25を通して筐体11内の熱が筐体11の外部に流れるのを防止するために、制御部は、電圧源45を第2印加状態にする。すると、環状流路39内を冷媒Rが流れなくなり、筐体11内の熱が、冷媒Rを介して筐体11の外部に伝達されるのが抑制される。
なお、夜間に電圧源45を駆動せず、電圧源45により電圧を印加しなくてもよい。
【0037】
次に、本実施形態の放熱量の制御方法について説明する。
放熱量の制御方法では、ループヒートパイプ25を用いる。そして、例えば第1印加状態において電極42,43間に印加する電圧を調節することで、冷媒Rの流量を制御する。これにより、凝縮器30での放熱量、及び蒸発器27での吸熱量をそれぞれ制御する。
【0038】
ここで、電気流体力学ポンプ32等の性能を解析した結果について説明する。
図4において、第2配管31の長手方向における長さ11rの範囲を解析した。第2配管31の流路の、長手方向に直交する断面形状は、矩形であるとした。第2配管31の流路の幅Hは、5.3mmとした。第2配管31の長さは、r(=H/2=3.18mm)の11倍(約34.9mm)とした。
電極43の直径Dは、4.76mm(3/16インチ)とした。電極44の直径Dは、1.59mm(1/16インチ)とした。電極43と電極44との距離Lは、直径Dに等しいとした。
【0039】
解析は、図6に示す電気流体力学ポンプ50に対しても行った。電気流体力学ポンプ50は、電気流体力学ポンプ32の電極42,43,44に代えて、電極51,52を有する。
電極51は、第2配管31内に配置され、第2配管31に沿って延びている。電極51よりも第2向きD2側となる位置には、電気的絶縁性の絶縁部材54が配置されている。絶縁部材54は、電極51に取付けられている。
電極52は、環状に形成されている。電極52は、第2配管31と同軸に、絶縁部材54よりも第1向きD1に離間した位置に配置されている。この例では、第2配管31は、電気的絶縁性を有する材料で形成される。
以下では、図6に示す形状の電気流体力学ポンプ50を、ロッド(棒)型と言う。
【0040】
第2配管31の流路の、長手方向に直交する断面形状は、円形であるとした。第2配管31の流路の径Dは、4.57mmとした。第2配管31の長さは、r(=D/2=2.29mm)の11倍(約25.1mm)とした。電極51の長さは、3rとした。電極51の直径は、2.0mmとした。電極52の軸線方向の長さは、rとした。絶縁部材54と電極52との第2配管31の長手方向の距離Lは、rとした。
【0041】
シリンダ型及びロッド型のいずれにおいても、第2配管31内の冷媒は、液相の冷媒R1であるとした。解析に用いたパラメータは、表1のようである。
【0042】
【表1】
【0043】
例えば、液相の冷媒R1の密度は、1199.7(kg/m)である。電極42,43及び電極51,52による印加電界は、それぞれ5.0×10(V/m)である。第2配管31における第1向きD1に流れる冷媒Rの入口に、5Wの熱量を与えた。冷媒Rの流量は、2.37×10-8(m/s)とした。
解析は、シリンダ型及びロッド型の対称性を考えて、一部分のみをモデル化した。
解析により求めたシリンダ型、ロッド型の電荷密度分布を、図7図8にそれぞれ示す。図7及び図8中には、液相の冷媒R1の電荷密度分布を、灰色の濃淡で示す。
図7及び図8のいずれにおいても、灰色が比較的薄い領域、及び灰色が比較的濃い領域として、ヘテロチャージ層R5,R6が現れている。ヘテロチャージ層R5,R6の境界を、実線L1,L2で示す。
【0044】
ロッド型、シリンジ型どちらにおいても、正と負のヘテロチャージ層R5,R6が冷媒Rの流れ方向に対して非対称な形状になっていることが分かる。
解析により、電気流体力学ポンプ32,50(シリンダ型、ロッド型)が動作したときの発生圧力を求めた。その結果を、表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
例えば、シリンダ型の発生圧力は、193(Pa)であった。
なお、電極43,44を組にして、第2配管31に沿って複数組配置することで、発生圧力を高めることができる。電極51,52についても、電極43,44と同様である。
電圧源45により電圧を印加しない状態で、ループヒートパイプが正常に動作しているときの、電気流体力学ポンプ32,50の圧力損失を求めた。その結果を、表2に示す。
例えば、シリンダ型の圧力損失は、0.313(Pa)であった。
ロッド型及びシリンダ型の圧力損失は、毛細管部28による毛細管力(例えば、10kPa)と比較して充分小さく、問題無い値であると言える。
【0047】
以上説明したように、本実施形態のループヒートパイプ25では、毛細管部28単独により、蒸発器27内で蒸発した冷媒Rは、蒸発器27から第1配管29に向かう第1向きD1に流れる。第1配管29内を流れた冷媒Rは、凝縮器30内で凝縮し、第2配管31内を通して再び蒸発器27内に流れ込む。
ここで、電気流体力学ポンプ32単独により、環状流路39に沿う、第1向きD1及び第2向きD2のいずれか一方に向かって、冷媒Rを選択的に流すことができる。このため、毛細管部28及び電気流体力学ポンプ32全体として、第1向きD1に向かう冷媒Rの流れを強めたり、第1向きD1に向かう冷媒Rの流れを弱めたりすることができる。このように、第1向きD1に向かう冷媒Rの流量を制御することで、凝縮器30での放熱量を制御することができる。
【0048】
また、電気流体力学ポンプ32は、比較的消費電力が少なく、比較的流動抵抗が小さいポンプである。従って、ループヒートパイプ25における消費電力及び流動抵抗を抑えて、放熱量を制御することができる。
また、ループヒートパイプ25の流動抵抗が抑えられているため、配管29,31を長くして、熱輸送距離を長くすることができる。もしくは、同じ熱輸送距離でも、最大放熱量を大きくできる。
また、電気流体力学ポンプ32は機械的可動部が無いため、機械式ポンプとは異なり、振動及び騒音がない。
【0049】
冷媒駆動部は、蒸発器27の内部に配置された毛細管部28である。このため、毛細管部28内を冷媒Rが流れるときに作用する毛細管力を利用して、電力を用いずに冷媒Rを流すことができる。
電気流体力学ポンプ32は、第2配管31に設けられている。このため、電気流体力学ポンプ32をより確実に動作させることができる。
【0050】
電気流体力学ポンプ32は、コンダクションポンプである。これにより、電気流体力学ポンプ32の流動抵抗をさらに抑え、電気流体力学ポンプ32の長寿命化を図ることができる。
また、本実施形態の放熱量の制御方法では、電極42,43間に印加する電圧を調節すると、第1向きD1に向かう冷媒Rの流量が変化する。凝縮器30で凝縮する冷媒Rの流量を変化させることで、凝縮器30での放熱量が制御される。従って、消費電力及び流動抵抗を抑えたループヒートパイプを用いて、凝縮器30での放熱量を制御することができる。
【0051】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、前記実施形態では、電気流体力学ポンプ32は、第1配管29に設けられていてもよい。電気流体力学ポンプ32はコンダクションポンプであるとしたが、電気流体力学ポンプはこれに限定されず、イオンドラッグポンプ、オンサガー効果を利用した電気流体力学ポンプ等でもよい。
ループヒートパイプ25は、リザーバ26を有さなくてもよい。
ループヒートパイプ25は、ローバー1以外の宇宙機、地球上で使用されるパーソナルコンピュータ等に用いることができる。
【0052】
ループヒートパイプ25では、蒸発器27、第1配管29、凝縮器30、及び第2配管31が配置される位置に制限はなく、例えば、蒸発器27は凝縮器30よりも上方に配置されてもよい。
冷媒駆動部は、毛細管部28であるとした。しかし、冷媒駆動部は、凝縮器を蒸発器よりも重力が作用する向きとは反対側(上方)に配置する構成でもよい。この場合、ループヒートパイプはサーモサイフォンを構成する。
また、冷媒駆動部は、ループヒートパイプへの冷媒の温度差により生じる自励振動でもよい。この場合、ループヒートパイプは振動流型ヒートパイプを構成する。また、冷媒駆動部は、機械式ポンプでもよい。ループヒートパイプは、キャピラリーポンプループでもよい。
【符号の説明】
【0053】
25 ループヒートパイプ
27 蒸発器
28 毛細管部(冷媒駆動部)
29 第1配管
30 凝縮器
31 第2配管
32,50 電気流体力学ポンプ
39 環状流路
42,43,44,51,52 電極
R 冷媒
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8