(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006575
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】見守りシステム
(51)【国際特許分類】
G08B 31/00 20060101AFI20240110BHJP
G08B 21/02 20060101ALI20240110BHJP
G08B 25/04 20060101ALI20240110BHJP
G16H 50/30 20180101ALI20240110BHJP
【FI】
G08B31/00 A
G08B21/02
G08B25/04 K
G16H50/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107608
(22)【出願日】2022-07-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 日本建築学会「2021年 日本建築学会大会学術講演梗概集」40821、p1759-p1760 2021年7月20日公開
(71)【出願人】
【識別番号】591287118
【氏名又は名称】学校法人日本工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】502054196
【氏名又は名称】学校法人武蔵野大学
(74)【代理人】
【識別番号】100216677
【弁理士】
【氏名又は名称】坂次 哲也
(72)【発明者】
【氏名】樋口 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】金 政秀
【テーマコード(参考)】
5C086
5C087
5L099
【Fターム(参考)】
5C086AA22
5C086BA01
5C086BA11
5C086BA13
5C086CA01
5C086CB01
5C086EA04
5C086EA13
5C087AA02
5C087DD03
5C087DD24
5C087DD35
5C087DD38
5C087EE07
5C087FF01
5C087FF04
5C087FF09
5C087FF23
5C087GG08
5C087GG14
5C087GG17
5C087GG19
5C087GG20
5C087GG30
5C087GG31
5C087GG36
5C087GG38
5C087GG51
5C087GG70
5C087GG83
5L099AA15
(57)【要約】
【課題】電力使用量のデータに基づく起床/睡眠や在/不在のパターンの変調の検知の精度を向上させ、生活の変調について多様な観点から早期に検知する。
【解決手段】住居における居住者の生活状況の異常を検知する見守りシステム1であって、単位時間毎の電力使用量データ2を外部から取得し、電力使用量等DB12に記録するデータ取得部11と、電力使用量のデータに基づいて、学習モデル14を用いて居住者の単位時間毎の生活状況を推定するAI予測部13と、推定結果に基づいて居住者の生活状況が異常な状態にあるかを判定し、異常な状態にあると判定した場合にアラートを出力するAIアラート処理部15と、電力使用量等DB12から電力使用量のデータを取得し、表計算ソフトウェアにより居住者の生活状況が異常な状態にあるかを判定し、異常な状態にあると判定した場合にアラートを出力する表計算アラート処理部17とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
住居における居住者の生活状況の異常を検知する見守りシステムであって、
所定の単位時間毎の前記住居の電力使用量のデータを外部から取得し、電力使用量等記録部に記録するデータ取得部と、
前記電力使用量等記録部から前記電力使用量のデータを取得し、当該データに基づいて、予め機械学習により生成した学習モデルを用いて前記居住者の前記単位時間毎の生活状況を推定するAI予測部と、
前記AI予測部による推定結果に基づいて、前記居住者の生活状況が異常な状態にあるか否かを判定し、異常な状態にあると判定した場合にアラートを出力するAIアラート処理部と、
前記電力使用量等記録部から前記電力使用量のデータを取得し、当該データに基づいて、表計算ソフトウェアにより、前記居住者の生活状況が異常な状態にあるか否かを判定し、異常な状態にあると判定した場合にアラートを出力する表計算アラート処理部と、
を有する、見守りシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の見守りシステムにおいて、
前記AI予測部は、所定の期間における前記居住者の前記単位時間毎の在/不在、睡眠/非睡眠、およびエアコンのON/OFFの各状態を推定し、推定結果のデータをクラスタ分析して、正常値からの距離が所定の閾値より大きいデータがある場合に異常な値がある旨のアラートを出力する、見守りシステム。
【請求項3】
請求項1に記載の見守りシステムにおいて、
前記AI予測部は、所定の期間における前記居住者の前記単位時間毎の睡眠/非睡眠の状態を推定し、推定結果のデータをクラスタ分析して、正常値からの距離が所定の閾値より大きいデータがある場合に睡眠に係る生活変調のアラートを出力する、見守りシステム。
【請求項4】
請求項1に記載の見守りシステムにおいて、
前記AI予測部は、所定の期間における前記居住者の前記単位時間毎の在/不在、およびエアコンのON/OFFの各状態を推定し、推定結果のデータと外気温のデータに基づいて熱中症の危険がある旨のアラートを出力する、見守りシステム。
【請求項5】
請求項1に記載の見守りシステムにおいて、
前記表計算アラート処理部は、所定の期間における前記居住者の1日の電力使用量の最小値に所定の係数を乗算した値より、前記居住者の当日1日の電力使用量が小さい場合に異常な値がある旨のアラートを出力する、見守りシステム。
【請求項6】
請求項1に記載の見守りシステムにおいて、
前記表計算アラート処理部は、所定の期間における前記居住者の前記単位時間毎の電力使用量のデータを、所定の基準値に基づいてデジタルデータ化して活動/非活動の状態を推定し、全てのデータが同一の状態である場合に異常な値がある旨のアラートを出力する、見守りシステム。
【請求項7】
請求項1に記載の見守りシステムにおいて、
前記表計算アラート処理部は、所定の期間における前記居住者の前記単位時間毎の電力使用量のデータを、所定の基準値に基づいてデジタルデータ化して活動/非活動の状態を推定し、活動/非活動の状態の遷移状況から前記居住者の日毎の起床時刻を推定し、前記所定の期間における平均の起床時刻もしくは最頻の起床時刻と、当日の起床時刻との差分の絶対値が所定の値以上である場合に睡眠に係る生活変調のアラートを出力する、見守りシステム。
【請求項8】
請求項1に記載の見守りシステムにおいて、
前記AI予測部が用いる前記学習モデルを機械学習により生成する際に用いる特徴量として、前記単位時間毎の前記住居の電力使用量のデータの所定の時間における遷移状況を含む、見守りシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単身高齢者等の見守りの技術に関し、特に、電力使用量に基づいて見守りを行う見守りシステムに適用して有効な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国では高齢化が進み、国民の約3人に1人が65歳以上の高齢者となっている中、単身の高齢者も増加している。そしてこれに伴い、いわゆる孤独死となる高齢者も増えて社会問題ともなっている。
【0003】
単身高齢者の孤独死を抑止するためには、例えば、親族や近隣の住民、医療や介護の担当者等による定期的な見回りや監視が有効となるが、24時間365日常時直接監視することは現実的に不可能であることから、これを補完する、もしくはこれに代わる技術的な仕組みとして、遠隔もしくは間接的に単身高齢者の生活の変調を監視・検知し、異常を早期に発見して通報・通知するようないわゆる見守りサービスやシステムも検討されている。
【0004】
中でも、単身高齢者自身に何らかの機器や装置を装着させる等の負担をかけない手法として、例えば、特開2007-183890号公報(特許文献1)には、サーバにおいて、利用者の日々の電力の使用状況をパターン化したデータと、利用者宅近辺に設置されるクライアント端末より受信される日々の電力の使用量のデータを比較して差分を抽出し、差分が閾値を超えた場合に異常発生を検出し、予め定めた宛先に通知する仕組みが記載されている。
【0005】
また、特開2019-46292号公報(特許文献2)には、所定時間毎の電気使用量と、監視対象者毎の過去の電気使用量の推移により解析した生活リズムパターンとを比較して、監視対象者に異常が発生したかを判定し、異常が発生した場合に通知する仕組みが記載されている。
【0006】
また、特許第6830298号公報(特許文献3)には、住居のライフライン使用状況を示す利用データを取得し、過去のライフライン使用状況のデータと住居の在/不在を示すデータとを学習データセットとして学習されたモデルに利用データを入力することで住居の在/不在の予測値を演算し、予測値および利用データに基づいて、住居の居住者のフレイル状態(加齢により身体的機能や認知機能が衰えた状態)を検知する仕組みが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-183890号公報
【特許文献2】特開2019-46292号公報
【特許文献3】特許第6830298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術によれば、単身高齢者の住居の電力使用量のデータに基づいて高齢者の起床/睡眠や在/不在などの生活パターンの変調を検知して通知する見守りサービスやシステムを実現することができる。
【0009】
しかし、従来技術では、電力使用量に基づく起床/睡眠や在/不在といった生活パターンの把握の精度には改善の余地がある。また、近年増加している熱中症の予防という観点も含め、孤独死や生活変調について早期に検知できるよう多様な観点での見守りを行いたいというニーズもある。さらに、AI(機械学習)により検知する仕組みの場合、判断結果についての理由を知りたいというニーズもある。
【0010】
そこで本発明の目的は、電力使用量のデータに基づく起床/睡眠や在/不在のパターンの変調の検知の精度を向上させ、熱中症の危険も含む孤独死や生活の変調について、多様な観点から早期に検知することを可能とする見守りシステムを提供することにある。また、本発明の他の目的は、生活の変調を検知したときの判断理由を推測することを可能とする見守りシステムを提供することにある。
【0011】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
【0013】
本発明の代表的な実施の形態による見守りシステムは、住居における居住者の生活状況の異常を検知する見守りシステムであって、所定の単位時間毎の前記住居の電力使用量のデータを外部から取得し、電力使用量等記録部に記録するデータ取得部と、前記電力使用量等記録部から前記電力使用量のデータを取得し、当該データに基づいて、予め機械学習により生成した学習モデルを用いて前記居住者の前記単位時間毎の生活状況を推定するAI予測部と、前記AI予測部による推定結果に基づいて、前記居住者の生活状況が異常な状態にあるか否かを判定し、異常な状態にあると判定した場合にアラートを出力するAIアラート処理部と、前記電力使用量等記録部から前記電力使用量のデータを取得し、当該データに基づいて、表計算ソフトウェアにより、前記居住者の生活状況が異常な状態にあるか否かを判定し、異常な状態にあると判定した場合にアラートを出力する表計算アラート処理部と、を有するものである。
【発明の効果】
【0014】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下のとおりである。
【0015】
すなわち、本発明の代表的な実施の形態によれば、電力使用量のデータに基づく起床/睡眠や在/不在のパターンの変調の検知の精度を向上させ、熱中症の危険も含む孤独死や生活の変調について、多様な観点から早期に検知することが可能となる。また、生活の変調を検知したときの判断理由を推測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施の形態である見守りシステムの構成例について概要を示した図である。
【
図2】本発明の一実施の形態におけるAIによる異常状態の検知内容について概要を示した図である。
【
図3】本発明の一実施の形態における表計算ソフトによる異常状態の検知内容について概要を示した図である。
【
図4】本発明の一実施の形態におけるAIアラート処理部によるアラート処理の流れの例について概要を示したフローチャートである。
【
図5】本発明の一実施の形態における対象者の1日の推定データについてクラスター分析を行った結果を散布図上に表した例を示した図である。
【
図6】本発明の一実施の形態におけるAIアラート処理部による他のアラート処理の流れの例について概要を示したフローチャートである。
【
図7】本発明の一実施の形態におけるAIアラート処理部による他のアラート処理の流れの例について概要を示したフローチャートである。
【
図8】本発明の一実施の形態における表計算アラート処理部よるアラート処理の流れの例について概要を示したフローチャートである。
【
図9】本発明の一実施の形態における表計算アラート処理部による他のアラート処理の流れの例について概要を示したフローチャートである。
【
図10】本発明の一実施の形態における表計算アラート処理部による他のアラート処理の流れの例について概要を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一部には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。一方で、ある図において符号を付して説明した部位について、他の図の説明の際に再度の図示はしないが同一の符号を付して言及する場合がある。
【0018】
<概要>
各世帯の電力使用量について、従来は、検針員が月1回メーターを目視で検針することにより1か月の総使用量を計測していたが、近年はいわゆるスマートメーターの普及が全国で進んでおり、例えば、30分毎の電力使用量を遠隔で自動検針するとともに、Webサービスを介して利用者が随時参照することが可能となっている。
【0019】
本発明の一実施の形態である見守りシステムは、スマートメーターにより計測した電力使用量のデータ等を利用して、間接的に居住者(主に単身高齢者)の起床/睡眠や在/不在などの利用状態の判断や異常状態の検知を行い、居住者の孤独死や熱中症の危険、生活の変調を早期に発見するシステムである。本実施の形態では、AI(機械学習)による判断の機能と、Microsoft Excel(登録商標)などの表計算ソフトウェアのマクロ機能を用いて実装したルールベースでの判断の機能とを備えることで、検知や判断の精度を向上させるとともに、ブラックボックス化されたAIでの判断の理由を一定程度推測可能とする。
【0020】
図2は、本発明の一実施の形態におけるAIによる異常状態の検知内容について概要を示した図である。本実施の形態では、スマートメーターにより計測した各居住者の電力使用量の時系列のデータ等に基づいて、図の左側に示すように、AIにより、当該居住者が在宅しているか否か(在/不在)、睡眠中か否か(睡眠/非睡眠)、エアコンが稼働中か否か(エアコンON/OFF)の3項目を推定する。そして、これらの推定結果の値が所定の条件を満たす場合に異常状態である(その可能性がある)として、図の右側に示すように3種類のアラートを出力する。すなわち、在/不在、睡眠/非睡眠、エアコンON/OFFの各推定結果に基づいて異常値がある旨のアラートを出力する。また、睡眠/非睡眠の推定結果に基づいて生活変調(睡眠)のアラートを出力する。また、在/不在およびエアコンON/OFFの各推定結果に基づいて熱中症のアラートを出力する。
【0021】
図3は、本発明の一実施の形態における表計算ソフトによる異常状態の検知内容について概要を示した図である。本実施の形態では、図の左側に示すように、スマートメーターにより計測した各居住者の電力使用量の時系列のデータをそのまま用いるとともに、電力使用量に基づいて、当該居住者が1日の中で電力が活発に使用されている活動状態にあるか、睡眠や外出中等の非活動状態か(活動/非活動)を推定する。
【0022】
この推定は、例えば、単位時間毎の電力使用量の時系列のデータを、予め設定した基準値(ベースライン)より大きいか否かにより、活動:1、非活動:0のデータに変換してデジタルデータ化することにより行う。これにより電力使用量のデータを表計算ソフトでも容易に処理できるようにする。なお、ベースラインの値は、月毎や季節毎など一般的な電力使用量の増減の傾向に従って設定値を適宜変更することで推定精度をより向上させることができる。
【0023】
そして、これらの推定結果の値等が所定の条件を満たすか否かをルールベースで判断し、条件を満たす場合に異常状態である(その可能性がある)として、図の右側に示すように3種類のアラートを出力する。すなわち、生の電力使用量のデータに基づいて異常値がある旨のアラートを出力する。また、活動/非活動の推定結果に基づいて異常値がある旨のアラートおよび生活変調(睡眠)のアラートを出力する。これらのアラートの出力状況と、
図2に示したAIによる推定結果に基づくアラートの出力状況とを対比することで、AIによる推定結果に基づくアラート(特に異常値や生活変調(睡眠))が出力された理由を推測できる場合がある。なお、アラート出力の処理の内容については後述する。
【0024】
<システム構成>
図1は、本発明の一実施の形態である見守りシステムの構成例について概要を示した図である。見守りシステム1は、例えば、サーバ機器やクラウドコンピューティングサービス上に構築された仮想サーバ等のサーバシステム、もしくはPC(Personal Computer)等のコンピュータシステムにより構成される。そして、図示しないCPU(Central Processing Unit)により、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の記録装置からメモリ上に展開したOS(Operating System)やDBMS(DataBase Management System)、Webサーバプログラム等のミドルウェアや、その上で稼働するソフトウェアを実行することで、居住者の安否や生活変調の検知に係る各種機能を実現する。
【0025】
見守りシステム1は、例えば、ソフトウェアとして実装されたデータ取得部11、AI予測部13、AIアラート処理部15、および表計算アラート処理部17などの各部を有する。また、データベースやファイルテーブル等により実装された電力使用量等データベース(DB)12を有する。なお、図中では各機能が1つの装置・機器上に実装されているように表現されているが、各機能が複数の装置・機器に分散して実装されている構成であってもよい。
【0026】
データ取得部11は、見守り対象の各住居の居住者に係る電力使用量データ2やその他データ3を取り込んで、電力使用量等DB12に記録する機能を有する。データソースとなる外部のシステム等と連携して定期的に自動でデータを取り込んでもよいし、運用担当者等の操作により手動でデータを取り込んでもよい。上述したように、電力使用量データ2は、スマートメーターにより計測したデータであり、例えば、電力事業者のシステムやWebサイト等から取得することができる。また、その他データ3としては、例えば、熱中症の危険を検知するために参照する気温データや、各居住者の健康状態を把握するためのカルテ情報などが含まれ得る。
【0027】
AI予測部13は、電力使用量等DB12に記録されたデータに基づいて、AI(機械学習)により上述の
図2に示した各居住者の在/不在、睡眠/非睡眠、エアコンON/OFFの3つの項目を推定する機能を有する。適用するAIのアルゴリズムやエンジン等は特に限定されないが、本実施の形態では、決定木アルゴリズムをベースにしたオープンソースの教師あり機械学習アルゴリズムであるLightGBM(Light Gradient Boosting Machine)を用いるものとする。
【0028】
AIによる推定を行うのに先立ち、予め、複数の単身高齢者を被験者として取得した電力使用量のデータと、目的変数である在/不在、睡眠/非睡眠、エアコンON/OFFの各項目の実績データに基づいて教師データのデータセットを生成し、これに基づいて機械学習を行って学習モデル14を生成しておく。教師データのデータセットを生成する前処理として、電力使用量のデータ等から説明変数となる特徴量を抽出するが、本実施の形態では、特徴量として電力使用量、電力使用量シフト、曜日、時刻のTE(Target Encoding:質的データを数値に変換したもの)、外気温の5つの項目を抽出する。
【0029】
電力使用量の項目は、スマートメーターにより計測された30分(0.5時間)毎の電力使用量(W)の積算値である。電力使用量シフトの項目は、直近の複数サンプル分(本実施の形態では9サンプル=4.5時間分)の電力使用量(W)である。LightGBMのアルゴリズムには「時間」の概念がないことから、4.5時間前からの電力使用量の遷移を1つの連続性として把握するための特徴量である。曜日の項目は、日曜日から土曜日までの各曜日にそれぞれ0~6の値を割り当てて数値化したものである。時刻のTEの項目は、時刻の値を教師データにおける目的変数の被験者全員の平均値で置き換えたものである。外気温の項目は、気象庁のホームページ等から取得した外気温(℃)のデータである。
【0030】
上記のような特徴量を用いることで、実際に20名程度の被験者の約2年間分のデータに基づいて学習モデル14を生成し、在/不在、睡眠/非睡眠、エアコンON/OFFの各項目について推定を行ったところ、それぞれ約95%前後という高い推定精度の実績が得られている。
【0031】
AIアラート処理部15は、AI予測部13により推定された在/不在、睡眠/非睡眠、エアコンON/OFFの各項目の推定結果に基づいて、上述の
図2に示した異常値、生活変調(睡眠)、熱中症の各アラートの出力の要否を判定し、出力が必要であると判定した場合に対応するAIアラート16を出力する機能を有する。
【0032】
表計算アラート処理部17は、電力使用量等DB12に記録されたデータに基づいて、表計算ソフトのマクロ機能等により、上述の
図3に示した活動/非活動の推定を行うとともに、電力使用量や活動/非活動の推定結果に基づいて、これらの異常値や生活変調(睡眠)の各アラートの出力の要否を判定し、出力が必要であると判定した場合に対応する表計算アラート18を出力する機能を有する。なお、本実施の形態では表計算ソフトのマクロ機能を用いる構成としているが、これに限られるものではなく、表計算ソフトを用いずにソフトウェアプログラムとして実装する構成としてもよい。
【0033】
なお、AIアラート16および表計算アラート18ともに、アラートの出力先は、例えば、対象者である単身高齢者等について予め設定されている緊急連絡先や見守り者などとすることができる。対象者自身を出力先に含めてもよい。出力の形式や手法等については特に限定されず、例えば、アラートの出力先となるユーザの携帯端末等にメッセージをプッシュ通知してもよいし、電子メールを送信してもよい。アラートを確認したオペレータ等の運用担当者等が対象者に安否確認の電話連絡をするようにしてもよい。
【0034】
<AIアラート処理の流れ>
図4は、本発明の一実施の形態におけるAIアラート処理部15によるアラート処理の流れの例について概要を示したフローチャートである。
図4では、上述の
図2に示した、在/不在、睡眠/非睡眠、エアコンON/OFFの各推定結果に基づいて異常値がある旨のAIアラート16を出力する場合の例を示している。
【0035】
対象者について、まずAI予測部13により推定された在/不在、睡眠/非睡眠、エアコンON/OFFの3種類の項目の1日分の推定データを取得する(S01)。本実施の形態では、3種類の項目それぞれについて30分毎のデータで24時間分(48個)の合計144個のデータ(144ベクトル)を取得する。そして、これらのデータ(ベクトル)について例えば公知のk-means法によるクラスター分析を行うことで(S02)、2つの成分(2次元)に次元削除する。
【0036】
図5は、本発明の一実施の形態における対象者の1日の推定データについてクラスター分析を行った結果を散布図上に表した例を示した図である。散布図の原点は、正常と判断された推定データ群であり、散布図上にプロットされた各推定データの原点からの距離が各推定データの異常の程度を表すことになる。本実施の形態では、この距離が任意に設定された閾値(例えば、
図5の例では5.649クラスタ)以上の推定データを異常値群と判定する。
【0037】
すなわち、
図4に戻り、ステップS02でクラスター分析した結果の推定データについて、正常と判断された推定値群(散布図の原点)との距離を算出し(S03)、距離が所定の閾値以上の推定データがあるか否かを判定する(S04)。所定の閾値以上の推定データがない場合(ステップS04でNo)は、異常値に係るアラート処理を終了する。一方、所定の閾値以上の推定データがある場合(ステップS04でYes)は、異常値に係るAIアラート16を出力し(S05)、アラート処理を終了する。
【0038】
図6は、本発明の一実施の形態におけるAIアラート処理部15による他のアラート処理の流れの例について概要を示したフローチャートである。
図6では、上述の
図2に示した、睡眠/非睡眠の推定結果に基づいて生活変調(睡眠)に係るAIアラート16を出力する場合の例を示している。
【0039】
対象者について、まずAI予測部13により推定された睡眠/非睡眠の項目の1日分の推定データを取得する(S11)。本実施の形態では、1種類の項目について30分毎のデータで24時間分(48個)の合計48個のデータ(48ベクトル)を取得する。そして、これらのデータ(ベクトル)について、上述の
図5の例と同様に、例えばk-means法によるクラスター分析を行うことで(S12)、2つの成分(2次元)に次元削除する。
【0040】
そして、ステップS12でクラスター分析した結果の推定データについて、正常と判断された推定値群(散布図の原点)との距離を算出し(S13)、距離が所定の閾値以上の推定データがあるか否かを判定する(S14)。なお、ここでの所定の閾値は、
図4のステップS04における所定の閾値と異なっていてもよい。所定の閾値以上の推定データがない場合(ステップS14でNo)は、生活変調(睡眠)に係るアラート処理を終了する。一方、所定の閾値以上の推定データがある場合は(ステップS14でYes)は、生活変調(睡眠)に係るAIアラート16を出力し(S15)、アラート処理を終了する。
【0041】
図7は、本発明の一実施の形態におけるAIアラート処理部15による他のアラート処理の流れの例について概要を示したフローチャートである。
図7では、上述の
図2に示した、在/不在およびエアコンON/OFFの各推定結果に基づいて熱中症に係るAIアラートを出力する場合の例を示している。
【0042】
対象者について、まずAI予測部13により推定された在/不在およびエアコンON/OFFの各項目のアラート時間帯の推定データを取得する(S21)。ここで、アラート時間帯とは、例えば13:00~16:00など、一般的に熱中症になりやすいと想定される時間帯として予め任意に設定したものである。
【0043】
その後、ステップS21で取得した各推定データ(アラート時間帯における30分毎のデータ)を順次処理対象としたループ処理を行う。ループ処理ではまず、対象の推定データについてエアコンがOFFの状態であるか否かを判定する(S22)。エアコンがONの状態である場合(ステップS22でNo)は、熱中症に係るアラート処理を終了する。
【0044】
エアコンが継続的にOFFの状態である場合(ステップS22でYes)は、次に対象の推定データについて在状態であるか否かを判定し(S23)、在状態ではない場合(ステップS23でNo)は、在状態の継続時間を示す在時間のカウンタをリセットし(S24)、次の推定データの処理に移る。一方、在状態である場合(ステップS23でYes)は、在時間のカウンタにデータの単位時間(本実施の形態では30分)を加算する(S25)。
【0045】
そして、在時間が予め設定された時間(本実施の形態では、例えば2時間)以上続いているかを判定し(S26)、まだ設定時間まで達していない場合(ステップS25でNo)は、次の推定データの処理に移る。一方、在時間が設定時間以上続いている場合(ステップS26でYes)は、さらに外気温が予め設定した気温(本実施の形態では、例えば35℃)より高いか否かを判定し(S27)、設定気温より低い場合(ステップS27でNo)は、次の推定データの処理に移る一方、設定気温より高い場合(ステップS27でYes )は、熱中症に係るAIアラート16を出力し(S28)、アラート処理を終了する。
【0046】
このように本実施の形態では、熱中症に係るアラート処理として、アラート時間帯の間エアコンが常時OFFの状態であること、アラート時間帯のうち在状態が設定時間以上続いたこと、および外気温が設定気温より高いこと、の3つの条件を満たした場合に熱中症に係るAIアラート16を出力することとしている。そして、上記の条件を30分毎の推定データに対して判断し、一度でも条件を満たしてAIアラート16を出力した場合は、その後条件を満たさなくなったとしても、当該日として熱中症に係るAIアラート16を出力したものとして取り扱う。
【0047】
<表計算アラート処理の流れ>
図8は、本発明の一実施の形態における表計算アラート処理部17によるアラート処理の流れの例について概要を示したフローチャートである。
図8では、上述の
図3に示した、電力使用量のデータ(スマートメーターにより計測された30分毎の積算値)に基づいて異常値がある旨の表計算アラート18を出力する場合の例を示している。なお、上述したように、当該処理は、例えば電力使用量のデータを表計算ソフトのセルに展開し、マクロ機能等によって実行することができる。
【0048】
まず、電力使用量等DB12から、過去の一定期間における対象者の電力使用量のデータを取得し、日単位での合計の電力使用量(日積算電力使用量)を取得する(S31)。本実施の形態では、例えば1か月(30日)分の電力使用量のデータを日単位で積算して取得する。そして、取得した日積算電力使用量の中で最小値のもの(最小日積算電力使用量)を算出し(S32)、さらに算出した最小日積算電力使用量に所定の係数を乗算する(S32)。当該係数は1以上の値を予め設定しておくことができるものとし、本実施の形態では、例えば省略時値を1.05とする。
【0049】
そして、係数を乗算した最小日積算電力使用量よりも、当日の合計の電力使用量(当日積算電力使用量)の方が下回る日が所定の日数(本実施の形態では、例えば2日)以上連続しているか否かを判定し(S33)、連続していない場合(ステップS33でNo)は電力使用量に係るアラート処理を終了する。一方2日以上連続している場合(ステップS34でYes)は、電力使用量の異常値に係る表計算アラート18を出力し(S34)、アラート処理を終了する。
【0050】
ステップS32において最小日積算電力使用量に所定の係数を乗算して値を大きくしておくことで、電力使用量が少ない状況が出てきた段階で早めに表計算アラート18を出力することができる。
【0051】
図9は、本発明の一実施の形態における表計算アラート処理部17による他のアラート処理の流れの例について概要を示したフローチャートである。
図9では、上述の
図3に示した活動/非活動の推定結果に基づいて異常値がある旨の表計算アラート18を出力する場合の例を示している。なお、当該処理も、例えば電力使用量のデータを表計算ソフトのセルに展開し、マクロ機能等によって実行することができる。
【0052】
まず、電力使用量等DB12から、直近の2日分(48時間分)の対象者の電力使用量のデータ(96個)を取得する(S41)。そして、各電力使用量のデータについて、予め設定したベースラインの値より大きいか否かにより1(活動)もしくは0(非活動)を設定してデジタルデータ化する(S42)。なお、
図9の例ではこのタイミングでベースラインによるデジタルデータ化を行っているが、予めデジタルデータ化したデータを電力使用量等DB12に保持しておき、これを取得するようにしてもよい。
【0053】
その後、デジタルデータ化された直近2日分の96個の電力使用量のデータ(活動/非活動の推定結果)について、全てが1(活動)もしくは全てが0(非活動)であるか否かを判定し(S43)、全てが1もしくは全てが0ではない場合(ステップS44でNo)は活動/非活動の推定結果の異常値に係るアラート処理を終了する。一方、全てが1もしくは全てが0である場合(ステップS44でYes)は、活動/非活動の推定結果の異常値に係る表計算アラート18を出力し(S44)、アラート処理を終了する。
【0054】
直近2日間継続的に非活動の状態である場合はもちろん、継続的に活動状態である場合も、電化製品の消し忘れ等に加えて、例えば、電化製品を使用後に何らかの事情で居住者が動けなくなってしまった可能性があり、このような場合にも表計算アラート18を出力することができる。
【0055】
図10は、本発明の一実施の形態における表計算アラート処理部17による他のアラート処理の流れの例について概要を示したフローチャートである。
図10では、上述の
図3に示した活動/非活動の推定結果に基づいて生活変調(睡眠)に係る表計算アラート18を出力する場合の例を示している。なお、当該処理も、例えば電力使用量のデータを表計算ソフトのセルに展開し、マクロ機能等によって実行することができる。
【0056】
まず電力使用量等DB12から直近2日分の対象者の電力使用量のデータを取得して(S51)、ベースラインによるデジタルデータ化を行い、1(活動)/0(非活動)を推定する(S52)。以上の処理については、上述の
図9におけるステップS41、S42と同様である。
【0057】
その後、直近の一定期間における起床時刻の平均を算出し(S53)、さらに、当日の起床時刻についても算出する(S54)。平均起床時刻を算出する対象の一定期間については、任意の値を予め設定しておくことができるが、本実施の形態では、例えば、直近の2か月間の平均起床時刻を求めるものとする。また、平均起床時刻に代えて一定期間における最頻の起床時刻を算出するようにしてもよい。
【0058】
任意の日の起床時刻の算出方法としては、例えば、当該日と前日の2日分の96個の活動/非活動の推定結果のデータ(30分単位)を最初(前日の24時)から順に時系列に参照し、所定の時間(本実施の形態では、例えば1.5時間)以上非活動状態が連続した場合に睡眠状態にあると判断する。その後、活動状態に遷移し、所定の短時間(本実施の形態では、例えば30分)以上活動状態が連続した場合に起床状態にあると判断し、活動状態に遷移した時刻を起床時刻とする。なお、活動状態が所定の短時間(本実施の形態では、例えば30分)より長く継続しなかった場合は、例えば、夜間のトイレなどのちょっとした起床であるとして、起床状態に遷移したとはせずに依然睡眠状態が継続しているものとして処理する。これにより起床時刻の推定精度を向上させることができる。
【0059】
その後、ステップS53で算出した平均起床時刻と、ステップS54で算出した当日起床時刻の差分を算出し(S55)、差分の絶対値が所定の設定値以上であるか否かを判定する(S56)。当該設定値は、対象者の当日の起床時刻と平均の起床時刻との差分として推定される値を予め設定しておくことができるが、本実施の形態では、例えば、省略時値を5時間とする。
【0060】
そして、ステップS55で算出した差分の絶対値が所定の設定値以上ではない場合(ステップS56でNo)は生活変調(睡眠)に係るアラート処理を終了する一方、差分の絶対値が所定の設定値以上である場合、すなわち、ステップS53で算出した平均起床時刻に対して、ステップS54で算出した当日起床時刻が所定の設定値以上乖離している場合(ステップS56でYes)は、生活変調(睡眠)に係る表計算アラート18を出力し(S57)、アラート処理を終了する。
【0061】
<結語>
以上に説明したように、本発明の一実施の形態である見守りシステム1によれば、スマートメーターにより計測された電力使用量のデータに基づいてAIにより在/不在や睡眠/非睡眠、エアコンON/OFFの状態について推定し、これらの多様な推測結果に基づいて異常値や生活変調(睡眠)、熱中症の危険などを早期に検知することが可能である。また、AIによる推測に際して、特徴量として電力量シフトも考慮することで、電力使用量のデータを連続性のある時系列のデータとして認識させ、推定結果の精度を向上させることが可能である。
【0062】
また、AIによる推定と合わせて、表計算ソフトを用いて電力使用量の異常値や生活変調(睡眠)などを検知することで、検知理由を推測して判断のブラックボックス化を回避できる場合がある。また、電力使用量のデータをベースラインによりデジタルデータ化することで、表計算ソフトでも容易に処理することが可能である。
【0063】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。また、上記の実施の形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、上記の実施の形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0064】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部または全部を、例えば、集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリやハードディスク、SSD等の記録装置、またはICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0065】
また、上記の各図において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、必ずしも実装上の全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、電力使用量に基づいて見守りを行う見守りシステムに利用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1…見守りシステム、2…電力使用量データ、3…その他データ、
11…データ取得部、12…電力使用量等DB、13…AIアラート処理部、14…学習モデル、15…AIアラート処理部、16…AIアラート、17…表計算アラート処理部、18…表計算アラート