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特開2024-65763電気接点用グリースの製造方法、電気接点用グリース、電気部品の製造方法および電気部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065763
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】電気接点用グリースの製造方法、電気接点用グリース、電気部品の製造方法および電気部品
(51)【国際特許分類】
   C10M 177/00 20060101AFI20240508BHJP
   C10M 169/02 20060101ALI20240508BHJP
   C10M 115/06 20060101ALN20240508BHJP
   C10M 131/04 20060101ALN20240508BHJP
   C10N 70/00 20060101ALN20240508BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20240508BHJP
   C10N 40/14 20060101ALN20240508BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240508BHJP
【FI】
C10M177/00
C10M169/02
C10M115/06
C10M131/04
C10N70:00
C10N20:04
C10N40:14
C10N30:00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174779
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】596024921
【氏名又は名称】株式会社ハーベス
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】坂本 新
(72)【発明者】
【氏名】藤井 正人
(72)【発明者】
【氏名】畑中 徹
(72)【発明者】
【氏名】木下 哲
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104CD02C
4H104CD04A
4H104EA03A
4H104JA01
4H104LA20
4H104PA14
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】リフロー工程後において電気接点の良好な電気的接触を安定に維持することができ、低温における電気的接触や摺動耐久性等の特性が良好な電気接点用グリースを提供すること。
【解決手段】分子量分布に幅のあるポリマーからなる原料オイルを加熱または減圧して低分子量成分を蒸発させ改質ベースオイルを製造する第1工程S11と、前記改質ベースオイルにフィラーを添加してグリースを製造する第2工程S12と、を含むことを特徴とする電気接点用グリースの製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量分布に幅のあるポリマーからなる原料オイルを加熱または減圧して低分子量成分を気化させ改質ベースオイルを製造する第1工程と、
前記改質ベースオイルにフィラーを添加してグリースを製造する第2工程と、を含むことを特徴とする電気接点用グリースの製造方法。
【請求項2】
前記原料オイルは、重量平均分子量が4,100以下のパーフルオロポリエーテルであり、
前記改質ベースオイルは、重量平均分子量が4,200~4,800のパーフルオロポリエーテルである請求項1に記載の電気接点用グリースの製造方法。
【請求項3】
前記改質ベースオイルを構成する前記パーフルオロポリエーテルの分子量範囲は2,000~13,000である請求項2に記載の電気接点用グリースの製造方法。
【請求項4】
電気接点用グリースは、260℃まで加熱したときの重量減少率が10%以下である請求項1に記載の電気接点用グリースの製造方法。
【請求項5】
前記フィラーは、ポリテトラフルオロエチレンからなる微粒子である請求項1に記載の電気接点用グリースの製造方法。
【請求項6】
重量平均分子量が4,200~4,800であるパーフルオロポリエーテルからなる改質ベースオイルと、
フィラーと、を含有することを特徴とする電気接点用グリース。
【請求項7】
前記パーフルオロポリエーテルの分子量範囲が2,000~13,000である請求項6に記載の電気接点用グリース。
【請求項8】
260℃まで加熱したときの重量減少率が10%以下である請求項6に記載の電気接点用グリース。
【請求項9】
前記フィラーは、ポリテトラフルオロエチレンからなる微粒子である請求項6に記載の電気接点用グリース。
【請求項10】
はんだ付け部を有する電気製品の製造方法において、
重量平均分子量が4,200~4,800のパーフルオロポリエーテルからなる改質ベースオイルおよび前記改質ベースオイルに添加されたフィラーからなる電気接点用グリースを電気部品の電気接点部に塗布する塗布工程と、
前記電気部品をリフロー炉に入れてはんだの融点以上まで加熱するリフロー工程と、を有することを特徴とする電気部品の製造方法。
【請求項11】
前記パーフルオロポリエーテルの分子量範囲は2,000~13,000である請求項10に記載の電気部品の製造方法。
【請求項12】
前記リフロー工程の前における前記電気接点用グリースは、260℃まで加熱したときの重量減少率が10%以下である請求項10に記載の電気部品の製造方法。
【請求項13】
はんだ付け部を有する電気部品において、
重量平均分子量が4,200~4,800のパーフルオロポリエーテルからなる改質ベースオイルおよび前記改質ベースオイルに添加されたフィラーからなる電気接点用グリースが電気接点部に塗布されていることを特徴とする電気部品。
【請求項14】
前記パーフルオロポリエーテルの分子量範囲は2,000~13,000である請求項13に記載の電気部品。
【請求項15】
前記電気接点用グリースは、260℃まで加熱したときの重量減少率が10%以下である請求項13に記載の電気部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器における摺動接点の潤滑に用いられる、電気接点用グリースの製造方法、電気接点用グリース、はんだ部を備えた電気部品の製造方法およびはんだ部を備えた電気部品に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン油を基油とするグリースは、スイッチなどの摺動接点の潤滑を目的として使用され、安定した特性を示す点において優れている。しかし、アークが発生する回路において、シリコーンの低分子量成分が蒸発・酸化することにより絶縁物であるシリカ(SiO2)を生成して、接触障害を招く虞があるという問題がある。このため、シリコーンを含まない、シリコーンフリーの電気接点用グリースが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂微粒子と、パーフルオロポリエーテル系オイルとを混合した接点用の潤滑剤(グリース)が記載されている。同文献には、グリースの塗布によるコネクタの導電性および摺動耐久性を改善するために、官能基を有さないパーフルオロポリエーテル(A)と、末端に少なくとも1つの官能基を有するフルオロポリエーテル化合物(B)と、を用いること、が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-019278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、近年、環境問題への対応として鉛フリー化が進み、電気部品の基板へのはんだ付けには、従来の鉛入りはんだに比べて融点の高い鉛フリーはんだが使用されるようになっている。このため、リフローはんだ(蒸着はんだ)付け工程の温度が従来よりも高くなり、当該リフローはんだ付け工程(以下、適宜、リフロー工程という)においてグリースの基油(ベースオイル)として用いられるパーフルオロポリエーテルが気化しやすくなっている。基油の気化によってフィラーの割合が高くなると、グリースの粘度が高くなり、接点における電気的接触の不安定化を招くという問題が生じる。他方、リフロー工程における基油の気化を抑えるために、重量平均分子量が高い基油を用いると、低温における電気的接触および摺動耐久性が低下するという問題がある。
本発明は、リフロー工程後において電気接点の良好な電気的接触を安定に維持することができ、低温における電気的接触や摺動耐久性等の特性が良好な電気接点用グリースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上述した課題を解決するための手段として、以下の構成を備えている。
分子量分布に幅のあるポリマーからなる原料オイルを加熱または減圧して低分子量成分を気化させ改質ベースオイルを製造する第1工程と、前記改質ベースオイルにフィラーを添加してグリースを製造する第2工程と、を含むことを特徴とする電気接点用グリースの製造方法。
原料オイル中の低分子量成分を除去して改質ベースオイルとする第1工程の後に、改質ベースオイルにフィラーを添加する第2工程を行うことで、リフロー工程による粘度上昇が少ないグリースを製造することができる。
【0007】
前記原料オイルは、重量平均分子量が4,100以下のパーフルオロポリエーテルであり、前記改質ベースオイルは、重量平均分子量が4,200~4,800のパーフルオロポリエーテルであってもよい。
【0008】
重量平均分子量が4,200~4,800であるパーフルオロポリエーテルからなる改質ベースオイルと、フィラーと、を含有することを特徴とする電気接点用グリース。
【0009】
はんだ付け部を有する電気製品の製造方法において、重量平均分子量が4,200~4,800のパーフルオロポリエーテルからなる改質ベースオイルおよび前記改質ベースオイルに添加されたフィラーからなる電気接点用グリースを電気部品の電気接点部に塗布する塗布工程と、前記電気部品をリフロー炉に入れてはんだの融点以上まで加熱するリフロー工程とを有することを特徴とする、電気部品の製造方法。
【0010】
はんだ付け部を有する電気部品において、重量平均分子量が4,200~4,800のパーフルオロポリエーテルからなる改質ベースオイルおよび前記改質ベースオイルに添加されたフィラーからなる電気接点用グリースが電気接点部に塗布されていることを特徴とする電気部品。
【0011】
重量平均分子量が4,100以下のパーフルオロポリエーテルを原料オイルとして用いることにより、低温における電気的接触や摺動耐久性等の特性が良好な電気接点用グリースとなる。また、重量平均分子量が4,200~4,800のパーフルオロポリエーテルを改質ベースオイルとして用いることで、リフロー工程においてパーフルオロポリエーテルが気化することを抑制できる。このため、粘度上昇によって電気接点用グリースの特性が低下することを抑制できる。
【0012】
上記電気接点用グリースの製造方法、上記電気接点用グリース、上記電気部品の製造方法および上記電気部品において、前記パーフルオロポリエーテルの分子量範囲が2,000~13,000であり、260℃まで加熱したときの重量減少率が10%以下であることが好ましい。
これらの構成により、リフロー工程の際においてパーフルオロポリエーテルが気化することを抑制できるため、良好な特性を備えた電気接点用グリースとなる。
【0013】
上記電気接点用グリースの製造方法および上記電気接点用グリースにおいて、前記フィラーは、ポリテトラフルオロエチレンからなる微粒子であってもよい。
ポリテトラフルオロエチレンが分散付着することで金属接点における摩擦係数が低くなるため、良好な特性を備えた電気接点用グリースとなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、原料オイル中の低分子量成分を除去した改質ベースオイルにフィラーを添加してグリースを製造することで、リフロー工程において原料オイルが気化することによるグリースの粘度上昇を抑えられる。したがって、リフロー工程の後においても、摺動接点の潤滑機能が良好に維持された摺動接点用グリースを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る電気接点用グリースの製造方法のフローチャートである。
図2】本発明の実施形態に係る電気製品の製造方法のフローチャートである。
図3】本発明の実施形態に係る電気製品のブロック図である。
図4】基油の重量平均分子量と加熱に伴う基油の重量変化の違いを示すグラフである。
図5】蒸留による基油の分子量範囲の変化を示すグラフである。
図6】蒸留の有無と加熱に伴う基油の重量変化の違いを示すグラフである。
図7A】実施例1のグリースの室温におけるスイッチの復帰力安定性を示すグラフである。
図7B】実施例1のグリースの85℃におけるスイッチの復帰力安定性を示すグラフである。
図8A】参考例1のグリースの室温におけるスイッチの復帰力安定性を示すグラフである。
図8B】参考例1のグリースの85℃におけるスイッチの復帰力安定性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<電気接点用グリースの製造方法>
本発明を電気接点用グリース(以下、適宜、グリースという)の製造方法として実施する態様について、以下に説明する。
本実施形態のグリースの製造方法は、図1に示すように、原料オイルから低分子量成分を取り除いて改質ベースオイルとする第1工程S11と、改質ベースオイルにフィラーを添加してグリースを製造する第2工程S12とを含んでいる。
【0017】
第1工程S11は、原料オイルから低分子量成分を気化させて、改質ベースオイルとする工程である。本実施形態の製造方法は、第2工程S12の前にあらかじめ、原料オイルを改質ベースオイルとする第1工程S11を備えている。第1工程S11により原料オイル中の低分子量成分をあらかじめ取り除いて改質ベースオイルとしておくことで、後のリフロー工程においてグリースが高温に晒された際の基油の気化量を抑えることができる。これにより、リフロー工程によりグリースの粘度が高くなって、グリースの潤滑機能が低下することを抑制できる。
【0018】
原料オイル中の低分子量成分を気化させる第1工程S11は、原料オイルを加熱または減圧することによって行う。すなわち、原料オイルに熱を加えたり、原料オイルが載置された容器内の圧力を低くしたりすることにより、原料オイル中の低分子量成分の少なくとも一部を気化させて原料オイルから取り除く。原料オイル中の低分子量成分を気化させることで、後の工程において高温にさらされることにより、グリースの潤滑機能が低下することを抑制できる。
【0019】
原料オイル中の低分子量成分とは、分子量分布に幅のある原料オイルにおいて、相対的に分子量が小さい成分をいう。第1工程S11により低分子量成分として取り除かれる原料オイル中の成分は、分子量が1,500以下の成分であることが好ましく、分子量が1,800以下の成分であることがより好ましく、分子量が2,000以下の成分であることがさらに好ましい。ベースオイルに含まれる低分子量成分を取り除くことにより、リフロー工程における基油の気化量を小さくして、グリースの粘度が高くなることを抑制できる。
【0020】
原料オイルは、分子量分布に幅のあるポリマーからなるグリースの基油であり、パーフルオロポリエーテルが好ましい。パーフルオロポリエーテルは、主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有する化合物であり、官能基を有さないものでも、官能基を有するものでもよい。また、原料オイルとして、官能基を有さないパーフルオロポリエーテルと、官能基を有するパーフルオロポリエーテルとの混合物を用いてもよい。
【0021】
低温におけるグリースの性能を良好にしてノイズ発生を抑制する観点から、原料オイルとして用いられるパーフルオロポリエーテルの重量平均分子量は、4,100以下が好ましく、4,000以下がより好ましい。
【0022】
また、シリカによる接触障害を防止すると共に、リフロー工程S22による粘度上昇を抑えて電気接点特性に優れたグリースとする観点から、第1工程により得られる改質ベースオイルは、パーフルオロポリエーテルが好ましい。また、同様の観点から、パーフルオロポリエーテルの重量平均分子量は、4,200~4,800が好ましく、4,300~4,700がより好ましく、4,400~4,600がさらに好ましい。パーフルオロポリエーテルの分子量範囲は、2,000~13,000が好ましい。本明細書において、数値範囲A~Bは、A以上B以下の範囲を意義する。
【0023】
改質ベースオイルの多分散度、すなわち重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnは、1.5以下が好ましい。
【0024】
リフロー工程S22の影響による粘度上昇が小さく電気接点特性に優れるグリースとする観点から、改質ベースオイルを260℃まで加熱したときの改質ベースオイルの重量減少率は、15%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、8%以下がさらに好ましい。
【0025】
同様の観点から、グリースを260℃まで加熱したときのグリースの重量減少率は、10%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、6%以下がさらに好ましい。
【0026】
加熱による改質ベースオイルまたはグリースの減少重量は、加熱前における改質ベースオイルまたはグリースの重量を測定した後、改質ベースオイルまたはグリースを260℃まで加熱した状態で、再度改質ベースオイルの重量を測定することにより行う。そして、加熱前における改質ベースオイルまたはグリースの重量を100%としたときの、加熱による改質ベースオイルまたはグリースの減少重量の割合(%)を重量減少率とする。重量減少率の測定において、改質ベースオイルまたはグリースを加熱および冷却する際の条件は、後述する実施例と同じ条件とする。
【0027】
第2工程S12は、上述した第1工程S11により製造した改質ベースオイルにフィラーを添加してグリースを製造する工程である。
フィラーは、グリースの粘度を調整する増ちょう剤として機能する。好ましいフィラーとして、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる微粒子が挙げられる。ポリテトラフルオロエチレンの微粒子が電気接点の接合部に分散付着することにより、接合部の摩擦係数が低くなる。なお、本発明において、微粒子とは平均粒径(D50、メジアン径)が30~100nmである粒子をいう。接合部の摩擦係数を小さくして電気的な接続を安定化する観点から、ポリテトラフルオロエチレンの平均粒径は、50~80nmが好ましく、60~70nmがより好ましい。フィラーは、例えば、市販のポリテトラフルオロエチレンを用いることができる。
【0028】
グリースに適度な粘度を付与する観点から、グリース100重量%におけるフィラーの含有量は、9~19重量%が好ましく、11~17重量%がより好ましく、13~15重量%がさらに好ましい。
【0029】
本実施形態に係る製造方法により、重量平均分子量が4,200~4,800であるパーフルオロポリエーテルからなる改質ベースオイルと、フィラーと、を含有する、電気接点用グリースを製造することができる。
【0030】
良好な電気的接触特性を安定的に維持する観点から、本実施形態の電気接点用グリースの粘度は、20℃、1rpmの条件において、20Pa・s以下が好ましく、18Pa・s以下がより好ましく、15Pa・s以下がさらに好ましい。また、電気接点用グリースの粘度は、20℃、5rpmの条件において、5Pa・s以下が好ましく、4Pa・s以下がより好ましく、3Pa・s以下がさらに好ましい。
【0031】
電気接点用グリースは、その性能を損なわない範囲で、改質ベースオイルおよびフィラー以外に、溶媒、酸化防止剤などの他の成分を含んでいてもよい。
【0032】
上述した本発明の製造方法により、リフロー工程後においても接点の電気的接触を良好に維持できる電気接点用グリースを製造することができる。また、この電気接点用グリースを用いて、はんだ付け部を有する電気部品を製造することができる。
【0033】
<電気接点用グリースの製造方法>
図2は、本実施形態に係る電気製品の製造方法のフローチャートである。同図に示すように、本実施形態に係る電気部品の製造方法は、電気接点用グリースを電気部品の電気接点部に塗布する塗布工程S21と、リフロー工程S22とを有する。
【0034】
塗布工程S21は、重量平均分子量が4,200~4,800のパーフルオロポリエーテルからなる改質ベースオイルおよび改質ベースオイルに添加されたフィラーからなる、本実施形態の電気接点用グリースを電気接点部に塗布する工程である。
【0035】
リフロー工程S22は、電気部品をリフロー炉に入れて、はんだの融点以上まで加熱する工程である。リフロー工程の温度は、鉛入りはんだの場合220~230℃程度、鉛フリーはんだの場合260~280℃程度である。
【0036】
上述したように、本実施形態の電気接点用グリースは、原料オイル中の低分子量成分を気化させた改質ベースオイルを含有している。高温条件下において気化しやすい低分子量成分の少なくとも一部をあらかじめ取り除いておくことで、リフロー工程の際に基油が気化してグリースの粘度が高くなることが抑えられる。このため、電気接点の電気的接触や摺動耐久性といった性質が良好な電気製品を製造できる。
【0037】
図3は、上述した製造方法により製造された電気部品1のブロック図である。同図に示すように、電気部品1は、グリース3が塗布された電気接点部2と、はんだ付け部4とを備えている。電気接点用のグリース3は、重量平均分子量が4,200~4,800のパーフルオロポリエーテルからなる改質ベースオイルおよび改質ベースオイルに添加されたフィラーからなる。このため、はんだ付け部4をはんだ付けするリフロー工程の影響を受けて、基油としての改質ベースオイルが気化して粘度が上昇することによるグリース3の性能低下が抑えられた、電気的接触特性の良好な電気部品1となる。
【実施例0038】
[基油の検討]
フッ素オイルに対するリフロー工程の影響を調べるため、以下の基油を加熱し、加熱に伴う重量の変化を測定した。
グリースの基油として用いたパーフルオロポリエーテルを以下に示す。適宜、以下の略号を用いて、各パーフルオロポリエーテルを示す。
・M03(フォンブリン(登録商標)M潤滑剤、SOLVAY製)
重量平均分子量 3,900
・M07(フォンブリン(登録商標)M潤滑剤、SOLVAY製)
重量平均分子量 5,400
・M15(フォンブリン(登録商標)M潤滑剤、SOLVAY製)
重量平均分子量 9,700
・M30(フォンブリン(登録商標)M潤滑剤、SOLVAY製)
重量平均分子量16,000
【0039】
図4は、加熱に伴う基油の重量変化を示すグラフであり、加熱に伴って変化する基油の重量を示している。同図は、加熱前における重量を100%とし、加熱に伴って基油中に含まれる成分が気化した後の基油の重量の加熱前に対する割合で示している。同図に示すように、パーフルオロポリエーテル(原料オイル)M03、M07、M15およびM30のうち、最も重量平均分子量が小さいM03は、260℃程度の高温に晒されて気化することによる損失が大きかった。このため、M03をそのままグリースの基油として用いた場合、リフロー工程によりM03中の低分子量成分が気化してグリースの粘度が高くなることで、グリースの性能が低下すると考えられる。
【0040】
そこで、M03から低分子量成分を除去することにより、M03蒸留品(改質ベースオイル)を製造した。そして、ゲル浸透カラムを用いて、M03(原料オイル)およびM03蒸留品(改質ベースオイル)それぞれについて、分子量範囲および重量平均分子量を測定した。
【0041】
図5は、M03(原料オイル)およびM03蒸留品(改質ベースオイル)について、以下の条件下におけるゲル浸透カラムを用いた測定の結果を示すグラフである。
カラム:Agilent Plgel MIXED-B+MIXED-C
温度:23℃
移動相:アサヒクリンAK-225
サンプル濃度:0.2wt%
注入量:0.2ml
標準分子量試料:ポリメチルメタクリレート(PMMA)
検出器:RI(示差屈折)
【0042】
ゲル浸透カラムを用いた測定の結果、M03蒸留品は、M03における分子量2,000未満の低分子量成分が取り除かれていることが分かった。
ゲル浸透カラムを用いた測定により得られた、M03およびM03蒸留品の分子量を以下に示す。
M03(原料オイル)
重量平均分子量:3,800
分子量範囲:500~13,000
M03蒸留品(改質ベースオイル)
重量平均分子量:4,500
分子量範囲:2,000~13,000
【0043】
図6は、加熱に伴う基油の重量変化を示すグラフであり、加熱に伴って変化する原料オイルの重量を示している。同図は、図4に示すパーフルオロポリエーテルである蒸留前のM03とM03蒸留品との測定結果を示している。
図6に示すように、M03はリフロー工程に対応する260℃程度における蒸発による損失が大きく、重量減少率が約30%となる。このため、M03はリフロー工程によってグリース中に含まれるフィラー量の割合が高くなりグリースの粘度が上昇する。グリースの粘度が上昇することで、摺動時における電気接点の電気的接触の安定性が低下する。
【0044】
これに対し、M03蒸留品は、260℃程度における蒸発による損失がほぼ抑えられていた。このため、M03蒸留品を基油として用いることにより、リフロー工程によってグリース中に含まれるフィラー量の割合が高くなりグリースの粘度が上昇することが抑えられる。グリースの粘度が上昇することを抑えることで、摺動時における電気接点の電気的接触の安定性が向上する。したがって、リフロー工程の後において安定した電気的接触を維持できるグリースを製造することができる。
【0045】
[実施例1]
以下の基油とフィラーとを用いて、グリースを製造した。
・原料オイル:M03蒸留品(フォンブリン(登録商標)M潤滑剤、SOLVAY製)
・フィラー:PTFE
【0046】
[比較例1]
実施例1におけるM03蒸留品の代わりに、蒸留を行わないM03を原料オイルとして用いた以外は、実施例1と同様にして、グリースを製造した。
【0047】
実施例1のグリースと、比較例1のグリースとを、以下の条件により加熱し、M03がリフロー工程に対応する260℃に晒されることによる重量減少率を測定した。結果は、以下のとおりであった。
条件:昇温速度を一分間あたり10[℃/min]として300℃まで加熱する途中で260℃に到達した時点におけるグリースの重量の減少量を測定した。
重量減少率
実施例1: 5%
比較例1:19%
【0048】
260℃に晒された後における実施例および比較例のグリースの粘度について、英弘精機製 回転粘度計DV-2T(コーン型R12mm)を用いて測定した結果を以下に示す。
実施例1
20℃ 1rpm 14Pa・s
20℃ 5rpm 3Pa・s
比較例1
20℃ 1rpm 39Pa・s
20℃ 5rpm 9Pa・s
【0049】
[比較例2]
実施例1におけるM03蒸留品の代わりに、以下の特性を備えたM15を原料オイルとして用いて、グリースを製造した。
M15 重量平均分子量:1.2×104、分子量範囲:4,000~60,000
【0050】
[参考例1]
以下の成分を含有する、20℃、1rpm条件における粘度が60~120Pa・s(6,000~12,000CP)のシリコーン油を基油とする潤滑剤を参考例1として評価した。
基油:ジメチルシリコーン
増ちょう剤:シリカ2~5重量%、
極圧剤
【0051】
(寿命特性)
アルプスアルパイン社製スイッチに0.1V-プルアップ抵抗10Ωにて、スイッチON時の出力波形をハイコーダで測定した結果、実施例1のグリースは、参考例1と同等の寿命特性を示した。
【0052】
アルプスアルパイン社製エンコーダに5V-プルアップ抵抗5kΩにてCW360-CCW360°の試験を20万回実施した後の出力波形をハイコーダで測定した。
実施例1のグリースの寿命特性は、比較例2のグリースよりも優れており、参考例1と同等であった。比較例2のグリースは、参考例1よりもノイズの発生量が大きく、金属接点における摩耗量が小さかった。このことから、比較例2のグリースでは、金属の接点が少ない流体潤滑の割合が高いことがノイズ発生の原因になっているといえる。そこで、実施例1のグリースでは、低粘度の基油を用いることによって摩擦係数を高くして、金属の接点の割合が高い混合潤滑とすることにより接点の安定性が向上した結果として、寿命特性が向上したと考えられる。
【0053】
(低温動作)
アルプスアルパイン社製スイッチに0.1V-プルアップ抵抗10ΩにてスイッチON時の出力波形をハイコーダで測定した。
実施例1、比較例2および参考例1のグリースについて、室温、-20℃および-40℃における動作を評価した。
実施例1のグリースは、室温、-20℃および-40℃において、参考例1のグリースと同等の出力安定性を示した。
比較例2のグリースは、室温、-20℃および-40℃において、参考例1のグリースよりもノイズが多く、出力安定性に劣っていた。
このように、比較例2のふっ素系潤滑剤においては、低温試験時、寿命試験時に電気的ノイズが発生してしまうという問題があった。そこで、実施例1のように、重量平均分子量の小さい原料オイル中の低分子量成分を除いた改質ベースオイルを基油として用いることで、出力安定性に優れたグリースとなることが分かった。
【0054】
(スイッチの復帰力安定性)
実施例1および参考例1についてそれぞれ、室温および85℃においてアルプスアルパイン社製スイッチのONとOFFとを切り替える時の反発力のトルク測定を行った結果を図7A図7B図8Aおよび図8Bに示す。これらの図では、縦軸がトルクを示し、横軸はスイッチの位置を示している。また、各グラフにおいて上側の複数の線がスイッチON動作時、すなわち、電気接点がスイッチOFFの位置(横軸において0mmの位置)からスイッチONの位置(横軸において1.9mm程度の位置)にスイッチを押したときの反力(トルク)の測定結果を示し、下側の複数の線がスイッチOFF動作時、すなわち、電気接点がスイッチONの位置からスイッチOFFの位置にスイッチを離したときの反力(トルク)の測定結果を示している。
【0055】
下側の測定結果が0gであるということは、スイッチを離したときの反力が無く、ノブが押されたまま帰ってこない状態となる不良品である。このような不良品の発生は、高温条件下においてグリースの潤滑効果が低下することが一因である。
【0056】
図7A図7Bに示す実施例1のグリースは、85℃において潤滑剤の効果は低下せず、室温および85℃のいずれの条件下においても、参考例1のグリースより良好な復帰力安定性を示した。具体的には、実施例1のグリースは、横軸0.4~1.8mmの範囲におけるスイッチを離したとき反力(トルク)が、図7A図7Bとで同程度であり、85℃においても室温と同等の潤滑効果が維持されていた。
対して、図8Aおよび図8Bに示す、比較例1のグリースは、横軸0.4~1.8mmの範囲におけるスイッチを離したとき反力(トルク)が、図8Bのほうが図8Aよりもやや小さくなっており、85℃における潤滑効果が室温よりもやや低下した。
【0057】
以上の結果より、実施例1に係る本発明のグリースは、寿命特性が参考例1のグリースと同等であり、スイッチの復帰特性が参考例1のグリースよりも優れていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、広温度域作動力特性に優れ、かつ鉛フリーリフローはんだ付け工程において、高温度にさらされても、その後の接触安定性が良好であり、導通する電流が微小電流から数アンペア程度までの電気接点に優れた特性を有する、電気接点用グリースおよびその製造方法、ならびにはんだ付け部を有する電気部品およびその製造方法として有用である。
【符号の説明】
【0059】
1 電気部品
2 電気接点部
3 グリース
4 はんだ付け部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B