(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065767
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】腸内細菌を用いた過敏性腸症候群の検出方法及び治療効果の判定
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/04 20060101AFI20240508BHJP
C12Q 1/689 20180101ALI20240508BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240508BHJP
【FI】
C12Q1/04 ZNA
C12Q1/689 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174783
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有田 龍太郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 真
(72)【発明者】
【氏名】石井 正
(72)【発明者】
【氏名】清水 律子
(72)【発明者】
【氏名】玉原 亨
(72)【発明者】
【氏名】青木 裕一
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ06
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
(57)【要約】
【課題】腸内細菌を用いた過敏性腸症候群の検出方法を提供すること。
【解決手段】過敏性腸症候群を検出する方法であって、対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種から成る群から選択される少なくとも1種の細菌を検出することを含む方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過敏性腸症候群を検出する方法であって、
対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種から成る群から選択される少なくとも1種の細菌を検出することを含む方法。
【請求項2】
前記細菌を検出することはラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌を検出することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細菌を検出することは、前記細菌の16S rRNAの核酸配列の量を測定することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記過敏性腸症候群を検出する方法は、過敏性腸症候群の発症又は発症の素因を検出する方法を含み、
ラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌の検出値が、基準値と比較して高いことは、過敏性腸症候群の発症又は発症の素因を示し、
ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌の検出値が、基準値と比較して低いことは、過敏性腸症候群の発症又は発症の素因を示し、
及び/又は
フィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種の検出値が、基準値と比較して低いことは、過敏性腸症候群の発症又は発症の素因を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記基準値は、健常者から得られた測定値、又は過敏性腸症候群の治療後の同じ対象から得られた測定値である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記細菌を検出することは、対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種から成る群から選択される少なくとも1種の細菌を、基準日と、基準日後の後の日とに検出することを含み、
後の日の測定値が、基準日の測定値と比べて以下(i)~(iii)の少なくともいずれかである場合に、過敏性腸症候群の症状が増悪している可能性が高いことを示す、請求項1に記載の方法。
(i)ラクノスピラ ブラウティア属の細菌の後の日の測定値が、基準日の測定値と比較して高い
(ii)ルミノコッカス オシロスピラ属の細菌の後の日の測定値が、基準日の測定値と比較して低い
(iii)フィーカリバクテリウム プラウスニッツィ種の後の日の検出値が、基準日の値と比較して低い
【請求項7】
前記細菌を検出することは、対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種から成る群から選択される少なくとも1種の細菌を、基準日と、基準日後の後の日とに検出することを含み、
後の日の測定値が、基準日の測定値と比べて以下(i)~(iii)の少なくともいずれかである場合に、過敏性腸症候群の症状が増悪している可能性が低いことを示す、請求項1に記載の方法。
(i)ラクノスピラ ブラウティア属の細菌の後の日の測定値が、基準日の測定値と比較して同じかそれより低い
(ii)ルミノコッカス オシロスピラ属の細菌の後の日の測定値が、基準日の測定値と比較して同じかそれより高い
(iii)フィーカリバクテリウム プラウスニッツィ種の後の日の検出値が、基準日の値と比較して同じかそれより高い
【請求項8】
前記過敏性腸症候群を検出する方法は、過敏性腸症候群の治療、予防又は改善のための措置の有効性の評価方法を含み、
前記細菌を検出することは、措置を施した対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種から成る群から選択される少なくとも1種の細菌を検出することを含み、
前記措置後の検出値が、基準値又は前記措置前の同じ患者の値と比べて以下(i)~(iii)の少なくともいずれかである場合に、前記措置は過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効である可能性が高いことを示す、請求項1に記載の方法。
(i)ラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌の前記措置後の検出値が、基準値又は前記措置前の値と比べて低い
(ii)ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌の前記措置後の検出値が、基準値又は前記措置前の値と比べて高い
(iii)フィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種の前記措置後の検出値が、基準値又は前記措置前の値と比較して高い
【請求項9】
過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効な措置のスクリーニング方法であって、
措置を施した対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種から成る群から選択される少なくとも1種の細菌を検出することを含み、
前記措置後の検出値が、基準値又は前記措置前の同じ患者の値と比べて以下(i)~(iii)の少なくともいずれかである場合に、前記措置を過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効である可能性が高い措置として選択する、方法。
(i)ラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌の前記措置後の検出値が、基準値又は前記措置前の値と比べて低い
(ii)ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌の前記措置後の検出値が、基準値又は前記措置前の値と比べて高い
(iii)フィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種の前記措置後の検出値が、基準値又は前記措置前の値と比較して高い
【請求項10】
前記措置は、医薬の投与、食品の投与、食事療法、及び糞便移植から成る群から選択される少なくとも一つである請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記過敏性腸症候群は下痢型の過敏性腸症候群である請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
過敏性腸症候群を診断及び/又は監視するためのバイオマーカーとしての、ラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種から成る群から選択される少なくとも1種の細菌の発現レベルのインビトロでの使用。
【請求項13】
過敏性腸症候群の診断用キットであって、
(i)ラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種から成る群から選択される少なくとも1種の細菌の16S rRNAの核酸配列又は16S rDNAの核酸配列とハイブリダイズすることができる核酸プローブ、又は
(ii)ラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種から成る群から選択される少なくとも1種の細菌の16S rRNAの核酸配列又は16S rDNAの核酸配列を特異的に増幅することができる一対の核酸プライマー
を備えたキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内細菌を用いた過敏性腸症候群の検出方法及び治療効果の判定に関する。
【背景技術】
【0002】
過敏性腸症候群(IBS)は、器質的変化のない機能性胃腸症で下部消化管症状を呈する疾患である(非特許文献1)。IBSは若年成人の15%に認め、画像や血液検査では診断できないことから未治療症例が多い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】D A Drossman et al. Dig Dis Sci Sep;38(9):1569-80.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
対象の試料中に存在するマーカーに基づいてIBSを検査できれば、簡便な検査で対象の状態を評価することができ、有用である。
【0005】
本発明が解決すべき課題は、腸内細菌を用いた過敏性腸症候群の検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に記載の実施形態を包含する。
項1.過敏性腸症候群を検出する方法であって、
対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種から成る群から選択される少なくとも1種の細菌を検出することを含む方法。
項2.前記細菌を検出することはラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌を検出することを含む項1に記載の方法。
項3.前記細菌を検出することは、前記細菌の16S rRNAの核酸配列の量を測定することを含む項1に記載の方法。
項4.前記過敏性腸症候群を検出する方法は、過敏性腸症候群の発症又は発症の素因を検出する方法を含み、
ラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌の検出値が、基準値と比較して高いことは、過敏性腸症候群の発症又は発症の素因を示し、
ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌の検出値が、基準値と比較して低いことは、過敏性腸症候群の発症又は発症の素因を示し、
及び/又は
フィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種の検出値が、基準値と比較して低いことは、過敏性腸症候群の発症又は発症の素因を示す、項1に記載の方法。
項5.前記基準値は、健常者から得られた測定値、又は過敏性腸症候群の治療後の同じ対象から得られた測定値である項4に記載の方法。
項6.前記細菌を検出することは、対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種から成る群から選択される少なくとも1種の細菌を、基準日と、基準日後の後の日とに検出することを含み、
後の日の測定値が、基準日の測定値と比べて以下(i)~(iii)の少なくともいずれかである場合に、過敏性腸症候群の症状が増悪している可能性が高いことを示す、項1に記載の方法。
(i)ラクノスピラ ブラウティア属の細菌の後の日の測定値が、基準日の測定値と比較して高い
(ii)ルミノコッカス オシロスピラ属の細菌の後の日の測定値が、基準日の測定値と比較して低い
(iii)フィーカリバクテリウム プラウスニッツィ種の後の日の検出値が、基準日の値と比較
して低い
項7.前記細菌を検出することは、対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種から成る群から選択される少なくとも1種の細菌を、基準日と、基準日後の後の日とに検出することを含み、
後の日の測定値が、基準日の測定値と比べて以下(i)~(iii)の少なくともいずれかである場合に、過敏性腸症候群の症状が増悪している可能性が低いことを示す、項1に記載の方法。
(i)ラクノスピラ ブラウティア属の細菌の後の日の測定値が、基準日の測定値と比較して同じかそれより低い
(ii)ルミノコッカス オシロスピラ属の細菌の後の日の測定値が、基準日の測定値と比較して同じかそれより高い
(iii)フィーカリバクテリウム プラウスニッツィ種の後の日の検出値が、基準日の値と比較して同じかそれより高い
項8.前記過敏性腸症候群を検出する方法は、過敏性腸症候群の治療、予防又は改善のための措置の有効性の評価方法を含み、
前記細菌を検出することは、措置を施した対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種から成る群から選択される少なくとも1種の細菌を検出することを含み、
前記措置後の検出値が、基準値又は前記措置前の同じ患者の値と比べて以下(i)~(iii)の少なくともいずれかである場合に、前記措置は過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効である可能性が高いことを示す、項1に記載の方法。
(i)ラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌の前記措置後の検出値が、基準値又は前記措置前の値と比べて低い
(ii)ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌の前記措置後の検出値が、基準値又は前記措置前の値と比べて高い
(iii)フィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種の前記措置後の検出値が、基準値又は前記措置前の値と比較して高い
項9.過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効な措置のスクリーニング方法であって、
措置を施した対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種から成る群から選択される少なくとも1種の細菌を検出することを含み、
前記措置後の検出値が、基準値又は前記措置前の同じ患者の値と比べて以下(i)~(iii)の少なくともいずれかである場合に、前記措置を過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効である可能性が高い措置として選択する、方法。
(i)ラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌の前記措置後の検出値が、基準値又は前記措置前の値と比べて低い
(ii)ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌の前記措置後の検出値が、基準値又は前記措置前の値と比べて高い
(iii)フィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種の前記措置後の検出値が、基準値又は前記措置前の値と比較して高い
項10.前記措置は、医薬の投与、食品の投与、食事療法、及び糞便移植から成る群から選択される少なくとも一つである項7又は8に記載の方法。
項11.前記過敏性腸症候群は下痢型の過敏性腸症候群である項1~10のいずれか一項に記載の方法。
項12.過敏性腸症候群を診断及び/又は監視するためのバイオマーカーとしての、ラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種から成る群から選択される少なくとも1種の細菌の発現レベルのインビトロでの使用。
項13.過敏性腸症候群の診断用キットであって、
(i)ラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種から成る群から選択される少なくとも1種の細菌の16S rRNAの核酸配列又は16S rDNAの核酸配列とハイブリダイズすることができる核酸プローブ、又は
(ii)ラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種から成る群から選択される少なくとも1種の細菌の16S rRNAの核酸配列又は16S rDNAの核酸配列を特異的に増幅することができる一対の核酸プライマー
を備えたキット。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】各群におけるラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌の相対量を示すグラフ。
【
図3】各群におけるルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌の相対量を示すグラフ、
【
図4】各群におけるフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)の相対量を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書において、過敏性腸症候群(IBS)の「検出」には、IBSの判定、IBSの診断補助のための検査、及びIBSの治療のための検査方法、IBSの治療用の措置(例えば治療薬)が奏効するIBS患者(リスポンダー)の判定、IBSの予防効果の判定、及びIBSの治療効果の判定が含まれる。IBSの「判定」には、IBSを判定することのみならず、予防的にIBSの発症の素因又は発症リスクを判定することや、IBSの治療用の措置後の該措置によるIBSの治療効果を判定することが含まれる。
【0009】
本明細書において、「治療」とは、疾患の治癒又は改善、或いは症状の治癒、改善、又は抑制を意味し、「予防」を含む。「予防」とは、疾患又は症状の発現を未然に防ぐことを意味する。
【0010】
本明細書において、16S リボソームRNA (16S rDNA)は、16S rRNAをコードするDNAを指す。
【0011】
本明細書において、16S rRNAの検出は、16S rRNAの核酸配列の量の測定を含み、16S rRNA遺伝子のV1~V9の可変領域中のいずれかを増幅することにより検出される。細菌DNAに特有の保存領域である16S リボソームRNA(rRNA)遺伝子の配列データ数(以下、単にデータ数と称する)を測定することにより、16S rRNAの核酸配列の量を検出することができる。
【0012】
発明者らは、対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)の各細菌の総細菌数(詳細には、増幅したリード数)に対する相対量が、健常者とIBS患者の間で異なることを見出した。これらの3種の細菌は、IBSであるか否かを診断又は判定するためのマーカーとして使用できる可能性がある。
【0013】
また本発明者らは、対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィの各細菌の相対量が、同じIBS患者内でも状態の相違により異なること、及び同じIBS患者内でも治療前と治療後で異なることを見出した。これらの3種の細菌は、IDS患者の状態を診断又は判定するためのマーカー、又はIBS患者の状態を定量的に把握できるマーカーとして使用できる可能性がある。
【0014】
さらに発明者らは、IDS患者への漢方薬の投与により、ラクノスピラ ブラウティア属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィの相対量が変化することを見出した。これら3種の細菌は、IBSの治療、予防又は改善に有効な措置のスクリーニングのために使用することができる可能性がある。
【0015】
本発明の一つの態様によれば、過敏性腸症候群を検出する方法であって、
対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種から成る群から選択される少なくとも1種の細菌を検出することを含む方法が提供される。過敏性腸症候群を検出する方法は、過敏性腸症候群の検出のためのデータ提供方法と称してもよい。
【0016】
過敏性腸症候群は、下痢型過敏性腸症候群、便秘型過敏性腸症候群、混合型過敏性腸症候群、及び分類不能型過敏性腸症候群を含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、過敏性腸症候群は、下痢型過敏性腸症候群である。
【0018】
対象は哺乳動物を含み、好ましくはヒトである。
【0019】
いくつかの実施形態では、細菌を検出することはラクノスピラ ブラウティア属の細菌を検出することを含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、細菌を検出することはルミノコッカス オシロスピラ属の細菌を検出することを含む。
【0021】
いくつかの実施形態では、細菌を検出することはフィーカリバクテリウム プラウスニッツィを検出することを含む。
【0022】
いくつかの実施形態では、上記細菌を検出することは細菌の量を測定することを含み、細菌の量を測定することは、核酸に基づく定量化方法、例えば、16S rRNA(16S リボゾーム rRNA)の領域をPCRで増幅してシーケンスする16S rRNA遺伝子アンプリコンシーケンシングを含む。16S rRNA遺伝子アンプリコンシーケンシングを使用した試料中の細菌の定性的及び定量的測定のための方法は、文献に記載されており、当業者に公知である。他の技術は、PCR、rtPCR、qPCR、ハイスループットシーケンシング、メタトランスクリプトームシーケンシング、又は16S rRNA解析を含み得る。
【0023】
いくつかの実施形態では、上記細菌を検出することは、対象の糞便中の総細菌数(詳細には、増幅した総リード数)に対する上記少なくとも1種の細菌のリード数又は当該細菌が属する操作的分類単位(OTU)のリード数を測定することを含む。当該技術分野において公知のように、操作的分類単位(OTU;operational taxonomic unit)は、密接に関連する個体群を分類するために使用される操作的定義である。本明細書で使用する場合、「OTU」は、特定の分類マーカー遺伝子のDNA配列類似性により分類される一群の生物である。
【0024】
いくつかの実施形態では、Ribosomal Database Project (RDP)分類子が、代表的なOTU配列に分類を割り当てるために使用される。
【0025】
例えば、ある細菌がラクノスピラ ブラウティア属に属するかどうかを分類するために、配列番号1の塩基配列が使用される。
TGGGGAATATTGCACAATGGGGGAAACCCTGATGCAGCGACGCCGCGTGAAGGAAGAAGTATCTCGGTATGTAAACTTCTATCAGCAGGGAAGATAGTGACGGTACCTGACTAAGAAGCCCCGGCTAACTACGTGCCAGCAGCCGCGGTAATACGTAGGGGGCAAGCGTTATCCGGATTTACTGGGTGTAAAGGGAGCGTAGACGGTGTGGCAAGTCTGATGTGAAAGGCATGGGCTCAACCTGTGGACTGCATTGGAAACTGTCATACTTGAGTGCCGGAGGGGTAAGCGGAATTCCTAGTGTAGCGGTGAAATGCGTAGATATTAGGAGGAACACCAGTGGCGAAGGCGGCTTACTGGACGGTAACTGACGTTGAGGCTCGAAAGCGTGGGGAGCAAACAGG(配列番号1)
【0026】
ある細菌がルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属に属するかどうかを分類するために、配列番号2の塩基配列が使用される。
TGGGGAATATTGGGCAATGGGCGCAAGCCTGACCCAGCAACGCCGCGTGAAGGAAGAAGGCTTTCGGGTTGTAAACTTCTTTTGTCGGGGACGAAACAAATGACGGTACCCGACGAATAAGCCACGGCTAACTACGTGCCAGCAGCCGCGGTAATACGTAGGTGGCAAGCGTTATCCGGATTTACTGGGTGTAAAGGGCGTGTAGGCGGGATTGCAAGTCAGATGTGAAAACTGGGGGCTCAACCTCCAGCCTGCATTTGAAACTGTAGTTCTTGAGTGCTGGAGAGGCAATCGGAATTCCGTGTGTAGCGGTGAAATGCGTAGATATACGGAGGAACACCAGTGGCGAAGGCGGATTGCTGGACAGTAACTGACGCTGAGGCGCGAAAGCGTGGGGAGCAAACAGG(配列番号2)
【0027】
ある細菌がフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種に属するかどうかを分類するために、配列番号3の塩基配列が使用される。
TGGGGAATATTGCACAATGGGGGGAACCCTGATGCAGCGACGCCGCGTGGAGGAAGAAGGTCTTCGGATTGTAAACTCCTGTTGTTGAGGAAGATAATGACGGTACTCAACAAGGAAGTGACGGCTAACTACGTGCCAGCAGCCGCGGTAAAACGTAGGTCACAAGCGTTGTCCGGAATTACTGGGTGTAAAGGGAGCGCAGGCGGGAGAACAAGTTGGAAGTGAAATCCATGGGCTCAACCCATGAACTGCTTTCAAAACTGTTTTTCTTGAGTAGTGCAGAGGTAGGCGGAATTCCCGGTGTAGCGGTGGAATGCGTAGATATCGGGAGGAACACCAGTGGCGAAGGCGGCCTACTGGGCACCAACTGACGCTGAGGCTCGAAAGTGTGGGTAGCAAACAGG(配列番号3)
【0028】
いくつかの実施形態において、細菌を検出することは、治療、予防又は改善のための措置前の対象の糞便中の上記少なくとも1種の細菌の量と、当該措置後の対象の糞便中の上記少なくとも1種の細菌の量とを測定することを含む。細菌の量は、例えば対象の糞便中の総細菌数(詳細には、増幅したリード数)に対する当該細菌のリード数又は当該細菌が属する操作的分類単位(OTU)のリード数から測定することができる。措置は例えば、医薬の投与、食品の投与、食事療法、及び糞便移植から成る群から選択される少なくとも一つである。
【0029】
本発明の一つの態様によれば、上記過敏性腸症候群を検出する方法は、過敏性腸症候群の発症又は発症の素因を検出する方法を含む。過敏性腸症候群の発症又は発症の素因を検出する方法は、 対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種から成る群から選択される少なくとも1種の細菌を検出することを含み、
ラクノスピラ ブラウティア属の細菌の検出値が、基準値と比較して高いことは、過敏性腸症候群の発症又は発症の素因を示し、
ルミノコッカス オシロスピラ属の細菌の検出値が、基準値と比較して低いことは、過敏性腸症候群の発症又は発症の素因を示し、
及び/又は
フィーカリバクテリウム プラウスニッツィ種の検出値が、基準値と比較して低いことは、過敏性腸症候群の発症又は発症の素因を示す、方法が提供される。
【0030】
過敏性腸症候群は、下痢型過敏性腸症候群、便秘型過敏性腸症候群、混合型過敏性腸症候群、及び分類不能型過敏性腸症候群を含む。
【0031】
いくつかの実施形態では、過敏性腸症候群は、下痢型過敏性腸症候群である。
【0032】
対象は哺乳動物を含み、好ましくはヒトである。
【0033】
いくつかの実施形態では、細菌を検出することはラクノスピラ ブラウティア属の細菌を検出することを含む。
【0034】
いくつかの実施形態では、細菌を検出することはルミノコッカス オシロスピラ属の細菌を検出することを含む。
【0035】
いくつかの実施形態では、細菌を検出することはフィーカリバクテリウム プラウスニッツィを検出することを含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、上記細菌を検出することは細菌の量を測定することを含み、細菌の量を測定することは、核酸に基づく定量化方法、例えば、16S rRNA(16S リボゾーム rRNA)の領域をPCRで増幅してシーケンスする16S rRNA遺伝子アンプリコンシーケンシングを含む。16S rRNA遺伝子アンプリコンシーケンシングを使用した試料中の細菌の定性的及び定量的測定のための方法は、文献に記載されており、当業者に公知である。他の技術は、PCR、rtPCR、qPCR、ハイスループットシーケンシング、メタトランスクリプトームシーケンシング、又は16S rRNA解析を含み得る。
【0037】
いくつかの実施形態では、上記細菌を検出することは、対象の糞便中の総細菌数(詳細には、増幅したリード数)に対する当該細菌のリード数又は当該細菌が属する操作的分類単位(OTU)のリード数を測定することを含む。当該技術分野において公知のように、操作的分類単位(OTU;operational taxonomic unit)は、密接に関連する個体群を分類するために使用される操作的定義である。
【0038】
本明細書で使用する場合、「OTU」は、特定の分類マーカー遺伝子のDNA配列類似性により分類される一群の生物である。幾つかの実施形態では、Ribosomal Database Project (RDP)分類子が、代表的なOTU配列に分類を割り当てるために使用される。
【0039】
いくつかの実施形態では、上記基準値は、健常者から得られた測定値、又は過敏性腸症候群の治療後の同じ対象から得られた測定値である。また、健常者から得られた測定値は、例えば、複数の健常者から得られた測定値の平均値又は中央値である。いくつかの実施形態では、基準値は、複数の健常者の平均値又は中央値よりも高く、かつ医師の診断により過敏性腸症候群に罹患していると診断された複数の患者群(以下、本段落では単に「患者群と称する」)の平均値又は中央値よりも低い一定の値である。いくつかの実施形態では、基準値は、健常者群と患者群とを切り分けるカットオフ値である。カットオフ値は当業者に周知の種々の統計解析手法により求めることができる。例えば、いくつかの実施形態では、カットオフ値は、健常者群と患者群の細菌の量の測定値においてログランク検定でのP値が最小となる値又はP値が水準未満になる値(例えばP値<0.05又はP値<0.01など)である。いくつかの実施形態では、カットオフ値は、健常者群と患者群の細菌の量の測定値において感度と特異度の和が最大となるようROC(ReceiverOperatingCharacteristic)分析に基づき求められる値である。いくつかの実施形態では、カットオフ値は、健常者群と患者群の細菌の量の測定値においてカイ二乗検定でのP値が最小となる値又はP値がある水準未満になる値(例えばP値<0.05又はP値<0.01など)である。本段落に記載した基準値の具体例は、本明細書の検出方法の各実施形態に適切な態様で適用することができる。
【0040】
ラクノスピラ ブラウティア属の細菌の検出値が、基準値と比較して高いことは、過敏性腸症候群の発症又は発症の素因を示す。このため、対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア属の細菌の量の測定値が、基準値と比較して高い場合、対象は過敏性腸症候群を発症している可能性が高いか、又は発症の素因が高いと診断又は判定することができる。対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア属の細菌の量の測定値が、基準値と比較して同じかそれより低い場合、対象は過敏性腸症候群を発症している可能性が低いか、又は発症の素因が低いと診断又は判定することができる。
【0041】
ルミノコッカス オシロスピラ属の細菌の検出値が、基準値と比較して低いことは、過敏性腸症候群の発症又は発症の素因を示す。このため、対象の糞便中のルミノコッカス オシロスピラ属の細菌の量の測定値が、基準値と比較して低い場合、対象は過敏性腸症候群を発症している可能性が高いか、又は発症の素因が高いと診断又は判定することができる。対象の糞便中のルミノコッカス オシロスピラ属の細菌の量の測定値が、基準値と比較して同じかそれより高い場合、対象は過敏性腸症候群を発症している可能性が低いか、又は発症の素因が低いと診断又は判定することができる。
【0042】
フィーカリバクテリウム プラウスニッツィの検出値が、基準値と比較して低いことは、過敏性腸症候群の発症又は発症の素因を示す。このため、対象の糞便中のフィーカリバクテリウム プラウスニッツィの細菌の量の測定値が、基準値と比較して低い場合、対象は過敏性腸症候群を発症している可能性が高いか、又は発症の素因が高いと診断又は判定することができる。対象の糞便中のフィーカリバクテリウム プラウスニッツィの細菌の量の測定値が、基準値と比較して同じかそれより高い場合、対象は過敏性腸症候群を発症している可能性が低いか、又は発症の素因が低いと診断又は判定することができる。
【0043】
本発明の一つの態様によれば、上記過敏性腸症候群を検出する方法は、過敏性腸症候群の症状を検査する方法を含む。過敏性腸症候群の症状を検査する方法は、対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種から成る群から選択される少なくとも1種の細菌を、基準日と、基準日後の後の日とに検出することを含む。
【0044】
過敏性腸症候群は、下痢型過敏性腸症候群、便秘型過敏性腸症候群、混合型過敏性腸症候群、及び分類不能型過敏性腸症候群を含む。
【0045】
いくつかの実施形態では、過敏性腸症候群は、下痢型過敏性腸症候群である。
【0046】
対象は哺乳動物を含み、好ましくはヒトである。
【0047】
いくつかの実施形態では、細菌を検出することはラクノスピラ ブラウティア属の細菌を検出することを含む。
【0048】
いくつかの実施形態では、細菌を検出することはルミノコッカス オシロスピラ属の細菌を検出することを含む。
【0049】
いくつかの実施形態では、細菌を検出することはフィーカリバクテリウム プラウスニッツィを検出することを含む。
【0050】
いくつかの実施形態では、上記細菌を検出することは細菌の量を測定することを含み、細菌の量を測定することは、核酸に基づく定量化方法、例えば、16S rRNA(16S リボゾーム rRNA)の領域をPCRで増幅してシーケンスする16S rRNA遺伝子アンプリコンシーケンシングを含む。16S rRNA遺伝子アンプリコンシーケンシングを使用した試料中の細菌の定性的及び定量的測定のための方法は、文献に記載されており、当業者に公知である。他の技術は、PCR、rtPCR、qPCR、ハイスループットシーケンシング、メタトランスクリプトームシーケンシング、又は16S rRNA解析を含み得る。
【0051】
いくつかの実施形態では、上記細菌を検出することは、対象の糞便中の総細菌数(詳細には、増幅したリード数)に対する上記少なくとも1種の細菌のリード数又は操作的分類単位(OTU)のリード数を測定することを含む。当該技術分野において公知のように、操作的分類単位(OTU;operational taxonomic unit)は、密接に関連する個体群を分類するために使用される操作的定義である。本明細書で使用する場合、「OTU」は、特定の分類マーカー遺伝子のDNA配列類似性により分類される一群の生物である。幾つかの実施形態では、Ribosomal Database Project (RDP)分類子が、代表的なOTU配列に分類を割り当てるために使用される。
【0052】
いくつかの実施形態では、ラクノスピラ ブラウティア属の細菌の後の日の測定値が、基準日の測定値と比較して高いことは、過敏性腸症候群の症状の増悪を示し、ルミノコッカス オシロスピラ属の細菌の後の日の測定値が、基準日の測定値と比較して低いことは、過敏性腸症候群の症状の増悪を示し、及び/又はフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ種の後の日の検出値が、基準日の値と比較して低いことは、過敏性腸症候群の症状の増悪を示す。基準日は、例えば対象がIBSの症状(例えば下痢)が重いと自覚した日(増悪の日)である。
【0053】
このため、対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア属の細菌の量の後の日の測定値が、基準日の測定値と比較して高い場合、対象における過敏性腸症候群の症状が増悪している可能性が高いと診断又は判定することができる。対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア属の細菌の量の後の日の測定値が、基準日の測定値と比較して同じかそれより低い場合、対象における過敏性腸症候群の症状が増悪している可能性が低いと診断又は判定することができる。
【0054】
対象の糞便中のルミノコッカス オシロスピラ属の細菌の量の後の日の測定値が、基準日の測定値と比較して低い場合、対象における過敏性腸症候群の症状が増悪している可能性が高いと診断又は判定することができる。対象の糞便中のルミノコッカス オシロスピラ属の細菌の量の後の日の測定値が、基準日の測定値と比較して同じかそれより高い場合、対象における過敏性腸症候群の症状が増悪している可能性が低いと診断又は判定することができる。
【0055】
対象の糞便中のフィーカリバクテリウム プラウスニッツィの細菌の量の後の日の測定値が、基準の測定値と比較して低い場合、対象における過敏性腸症候群の症状が増悪している可能性が高いと診断又は判定することができる。対象の糞便中のフィーカリバクテリウム プラウスニッツィの細菌の量の後の日の測定値が、基準日の測定値と比較して同じかそれより高い場合、対象における過敏性腸症候群の症状が増悪している可能性が低いと診断又は判定することができる。
【0056】
別のいくつかの実施形態では、ラクノスピラ ブラウティア属の細菌の後の日の測定値が、基準日の測定値と比較して低いことは、過敏性腸症候群の症状の改善を示し、ルミノコッカス オシロスピラ属の細菌の後の日の測定値が、基準日の測定値と比較して高いことは、過敏性腸症候群の症状の改善を示し、及び/又はフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ種の後の日の検出値が、基準日の値と比較して高いことは、過敏性腸症候群の症状の改善を示す。基準日は、例えば対象がIBSの症状(例えば下痢)が無い又は軽いと自覚した日(軽症の日)である。
【0057】
このため、対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア属の細菌の量の後の日の測定値が、基準日の測定値と比較して低い場合、対象における過敏性腸症候群の症状が改善している可能性が高いと診断又は判定することができる。対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア属の細菌の量の後の日の測定値が、基準日の測定値と比較して同じかそれより高い場合、対象における過敏性腸症候群の症状が改善している可能性が低いと診断又は判定することができる。
【0058】
対象の糞便中のルミノコッカス オシロスピラ属の細菌の量の後の日の測定値が、基準日の測定値と比較して高い場合、対象における過敏性腸症候群の症状が改善している可能性が高いと診断又は判定することができる。対象の糞便中のルミノコッカス オシロスピラ属の細菌の量の後の日の測定値が、基準日の測定値と比較して同じかそれより低い場合、対象における過敏性腸症候群の症状が改善している可能性が低いと診断又は判定することができる。
【0059】
対象の糞便中のフィーカリバクテリウム プラウスニッツィの細菌の量の後の日の測定値が、基準の測定値と比較して高い場合、対象における過敏性腸症候群の症状が改善している可能性が高いと診断又は判定することができる。対象の糞便中のフィーカリバクテリウム プラウスニッツィの細菌の量の後の日の測定値が、基準日の測定値と比較して同じかそれより低い場合、対象における過敏性腸症候群の症状が改善している可能性が低いと診断又は判定することができる。
【0060】
本発明の一つの態様によれば、上記過敏性腸症候群を検出する方法は、過敏性腸症候群の治療、予防又は改善のための措置の有効性の評価方法を含む。過敏性腸症候群の治療、予防又は改善のための措置の有効性の評価方法は、
措置を施した対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種から成る群から選択される少なくとも1種の細菌を検出することを含み、
前記措置後の検出値が、基準値又は前記措置前の同じ患者の値と比べて以下(i)~(iii)の少なくともいずれかである場合に、前記措置は過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効である可能性が高いことを示す。
(i)ラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌の前記措置後の検出値が、基準値又は前記措置前の値と比べて低い
(ii)ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌の前記措置後の検出値が、基準値又は前記措置前の値と比べて高い
(iii)フィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種の前記措置後の検出値が、基準値又は前記措置前の値と比較して高い
【0061】
いくつかの実施形態では、措置は、医薬の投与、食品の投与、食事療法、及び糞便移植から成る群から選択される少なくとも一つである。
【0062】
過敏性腸症候群は、下痢型過敏性腸症候群、便秘型過敏性腸症候群、混合型過敏性腸症候群、及び分類不能型過敏性腸症候群を含む。
【0063】
いくつかの実施形態では、過敏性腸症候群は、下痢型過敏性腸症候群である。
【0064】
対象は哺乳動物を含み、好ましくはヒトである。
【0065】
いくつかの実施形態では、細菌を検出することはラクノスピラ ブラウティア属の細菌を検出することを含む。
【0066】
いくつかの実施形態では、細菌を検出することはルミノコッカス オシロスピラ属の細菌を検出することを含む。
【0067】
いくつかの実施形態では、細菌を検出することはフィーカリバクテリウム プラウスニッツィを検出することを含む。
【0068】
いくつかの実施形態では、上記細菌を検出することは細菌の量を測定することを含み、細菌の量を測定することは、核酸に基づく定量化方法、例えば、16S rRNA(16S リボゾーム rRNA)の領域をPCRで増幅してシーケンスする16S rRNA遺伝子アンプリコンシーケンシングを含む。16S rRNA遺伝子アンプリコンシーケンシングを使用した試料中の細菌の定性的及び定量的測定のための方法は、文献に記載されており、当業者に公知である。他の技術は、PCR、rtPCR、qPCR、ハイスループットシーケンシング、メタトランスクリプトームシーケンシング、又は16S rRNA解析を含み得る。
【0069】
いくつかの実施形態では、上記細菌を検出することは、対象の糞便中の総細菌数(詳細には、増幅したリード数)に対する上記少なくとも1種の細菌のリード数又は操作的分類単位(OTU)のリード数を測定することを含む。当該技術分野において公知のように、操作的分類単位(OTU;operational taxonomic unit)は、密接に関連する個体群を分類するために使用される操作的定義である。本明細書で使用する場合、「OTU」は、特定の分類マーカー遺伝子のDNA配列類似性により分類される一群の生物である。幾つかの実施形態では、Ribosomal Database Project (RDP)分類子が、代表的なOTU配列に分類を割り当てるために使用される。
【0070】
ラクノスピラ ブラウティア属の細菌の措置後の検出値が、基準値又は措置前の値と比べて低い場合、措置は過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効である可能性が高いことを示す。このため、措置後の対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア属の細菌の量の測定値が、基準値又は前記措置前の値と比較して低い場合、措置は過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効である可能性が高いと診断又は判定することができる。措置後の対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア属の細菌の量の測定値が、基準値又は措置前の値と比較して同じかそれより高い場合、措置は過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効でない可能性が高いと診断又は判定することができる。
【0071】
ルミノコッカス オシロスピラ属の細菌の措置後の検出値が、基準値又は措置前の値と比べて高い場合、措置は過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効である可能性が高いことを示す。このため、措置後の対象の糞便中のルミノコッカス オシロスピラ属の細菌の量の測定値が、基準値又は前記措置前の値と比較して高い場合、措置は過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効である可能性が高いと診断又は判定することができる。措置後の対象の糞便中のルミノコッカス オシロスピラ属の細菌の量の測定値が、基準値又は措置前の値と比較して同じかそれより低い場合、措置は過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効でない可能性が高いと診断又は判定することができる。
【0072】
フィーカリバクテリウム プラウスニッツィの措置後の検出値が、基準値又は措置前の値と比べて高い場合、措置は過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効である可能性が高いことを示す。このため、措置後の対象の糞便中のフィーカリバクテリウム プラウスニッツィの量の測定値が、基準値又は前記措置前の値と比較して高い場合、措置は過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効である可能性が高いと診断又は判定することができる。措置後の対象の糞便中のフィーカリバクテリウム プラウスニッツィの量の測定値が、基準値又は措置前の値と比較して同じかそれより低い場合、措置は過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効でない可能性が高いと診断又は判定することができる。
【0073】
本発明の一つの態様によれば、過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効な措置のスクリーニング方法であって、
措置を施した対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種から成る群から選択される少なくとも1種の細菌を検出することを含み、
前記措置後の検出値が、基準値又は前記措置前の同じ患者の値と比べて以下(i)~(iii)の少なくともいずれかである場合に、前記措置を過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効である可能性が高い措置として選択する、方法が提供される。
(i)ラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌の前記措置後の検出値が、基準値又は前記措置前の値と比べて低い
(ii)ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌の前記措置後の検出値が、基準値又は前記措置前の値と比べて高い
(iii)フィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種の前記措置後の検出値が、基準値又は前記措置前の値と比較して高い
【0074】
いくつかの実施形態では、措置は、医薬の投与、食品の投与、食事療法、及び糞便移植から成る群から選択される少なくとも一つである。
【0075】
過敏性腸症候群は、下痢型過敏性腸症候群、便秘型過敏性腸症候群、混合型過敏性腸症候群、及び分類不能型過敏性腸症候群を含む。
【0076】
いくつかの実施形態では、過敏性腸症候群は、下痢型過敏性腸症候群である。
【0077】
対象は哺乳動物を含み、好ましくはヒトである。
【0078】
いくつかの実施形態では、細菌を検出することはラクノスピラ ブラウティア属の細菌を検出することを含む。
【0079】
いくつかの実施形態では、細菌を検出することはルミノコッカス オシロスピラ属の細菌を検出することを含む。
【0080】
いくつかの実施形態では、細菌を検出することはフィーカリバクテリウム プラウスニッツィを検出することを含む。
【0081】
いくつかの実施形態では、上記細菌を検出することは細菌の量を測定することを含み、細菌の量を測定することは、核酸に基づく定量化方法、例えば、16S rRNA(16S リボゾーム rRNA)の領域をPCRで増幅してシーケンスする16S rRNA遺伝子アンプリコンシーケンシングを含む。16S rRNA遺伝子アンプリコンシーケンシングを使用した試料中の細菌の定性的及び定量的測定のための方法は、文献に記載されており、当業者に公知である。他の技術は、PCR、rtPCR、qPCR、ハイスループットシーケンシング、メタトランスクリプトームシーケンシング、又は16S rRNA解析を含み得る。
【0082】
いくつかの実施形態では、上記細菌を検出することは、対象の糞便中の総細菌数(詳細には、増幅したリード数)に対する上記少なくとも1種の細菌のリード数又は操作的分類単位(OTU)のリード数を測定することを含む。当該技術分野において公知のように、操作的分類単位(OTU;operational taxonomic unit)は、密接に関連する個体群を分類するために使用される操作的定義である。本明細書で使用する場合、「OTU」は、特定の分類マーカー遺伝子のDNA配列類似性により分類される一群の生物である。幾つかの実施形態では、Ribosomal Database Project (RDP)分類子が、代表的なOTU配列に分類を割り当てるために使用される。
【0083】
ラクノスピラ ブラウティア属の細菌の措置後の検出値が、基準値又は措置前の値と比べて低い場合、措置は過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効である可能性が高いことを示す。このため、措置後の対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア属の細菌の量の測定値が、基準値又は前記措置前の値と比較して低い場合、措置は過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効である可能性が高いと診断又は判定することができる。措置後の対象の糞便中のラクノスピラ ブラウティア属の細菌の量の測定値が、基準値又は措置前の値と比較して同じかそれより高い場合、措置は過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効でない可能性が高いと診断又は判定することができる。
【0084】
ルミノコッカス オシロスピラ属の細菌の措置後の検出値が、基準値又は措置前の値と比べて高い場合、措置は過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効である可能性が高いことを示す。このため、措置後の対象の糞便中のルミノコッカス オシロスピラ属の細菌の量の測定値が、基準値又は前記措置前の値と比較して高い場合、措置は過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効である可能性が高いと診断又は判定することができる。措置後の対象の糞便中のルミノコッカス オシロスピラ属の細菌の量の測定値が、基準値又は措置前の値と比較して同じかそれより低い場合、措置は過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効でない可能性が高いと診断又は判定することができる。
【0085】
フィーカリバクテリウム プラウスニッツィの措置後の検出値が、基準値又は措置前の値と比べて高い場合、措置は過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効である可能性が高いことを示す。このため、措置後の対象の糞便中のフィーカリバクテリウム プラウスニッツィの量の測定値が、基準値又は前記措置前の値と比較して高い場合、措置は過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効である可能性が高いと診断又は判定することができる。措置後の対象の糞便中のフィーカリバクテリウム プラウスニッツィの量の測定値が、基準値又は措置前の値と比較して同じかそれより低い場合、措置は過敏性腸症候群の治療、予防又は改善に有効でない可能性が高いと診断又は判定することができる。
【0086】
いくつかの実施形態では、上記いずれかの態様の方法は、40%超(例えば、45%超、50%超、又は55%超)の感度及び90%超(例えば、93%超又は95%超、)の特異性を有することが好ましい。曲線下面積(AUC)は、0.60以上(例えば0.70以上、又は0.80以上)であることが好ましい。
【0087】
本発明の一つの態様によれば、過敏性腸症候群を診断及び/又は監視するためのバイオマーカーとしての、ラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種から成る群から選択される少なくとも1種の細菌の発現レベルのインビトロでの使用が提供される。
【0088】
これらの細菌は、バイオマーカーとして、上述の本発明のいずれかの態様の方法に使用することができる。
【0089】
本発明の一つの態様によれば、過敏性腸症候群の診断用キットであって、
(i)ラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種から成る群から選択される少なくとも1種の細菌の16S rRNAの核酸配列又は16S rDNAの核酸配列とハイブリダイズすることができる核酸プローブ、又は
(ii)ラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)種から成る群から選択される少なくとも1種の細菌の16S rRNAの核酸配列又は16S rDNAの核酸配列を特異的に増幅することができる一対の核酸プライマー
を備えたキットが提供される。
【0090】
キットは、核酸プローブ又は増幅された16S rRNAの核酸配列又は16S rDNAの核酸配列を検出するための検出試薬を含み得る。キットは、使用説明書を含み得る。
【0091】
本明細書中に引用されているすべての特許出願及び文献の開示は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0092】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例0093】
I. 研究目的
本研究の目的は以下の3つである。
1. 下痢型過敏性腸症候群(IBS-D)患者と健常者との身体的特性と腸内細菌叢特性の差を明らかにすること
2. IBS-D患者におけるIBS-Dの症状の漢方薬(半夏瀉心湯、六君子湯)服用による変化を明らかにすること
3. 漢方薬を服用した前後、服用終了後の腸内細菌叢の変化を時系列で明らかにすること
これらを明らかにするため、我々は成人男性IBS-D患者と健常者の腸内細菌叢の細菌叢の比較を行うと同時に、IBS-D患者を対象に漢方薬(半夏瀉心湯又は六君子湯)を投与し、その臨床効果と腸内細菌叢変化とを調査する臨床研究を実施した。
【0094】
II.研究方法
本研究の臨床評価部分は東北大学病院漢方内科にて実施した。
1.研究デザイン
研究デザインは、健常者とIBS-D患者の特徴を比較する背景因子比較研究、ならびにIBS-D患者の漢方薬治療前後を比較するオープンラベル前向き介入研究とした(
図1参照)。背景因子比較研究は上記「I. 研究目的」の項目1、オープンラベル前向き介入研究は上記「I. 研究目的」の項目2及び3に関する。
背景因子比較研究では疾患群としてIBS-D患者を、コントロール群として健常者を組み入れ、背景因子、臨床スコア、及び腸内細菌叢の比較を行った。
【0095】
オープンラベル前向き介入研究では、IBS-D群患者に対して漢方薬(半夏瀉心湯もしくは六君子湯:投与法は後述)を投与し、その治療前、治療後、治療後無加療で経過観察した時点(経過観察後)の3時点において症状の改善を判断し、臨床スコアを比較検討した。また腸内細菌叢については、治療前軽症時、増悪時、治療後、経過観察後の4時点での比較検討を行った。
【0096】
2. 検査対象
東北大学にて日本人の下痢型過敏性腸症候群(IBS-D)患者と健常者を募集した。
【0097】
IBS-D患者は、(1)20歳以上、60歳未満の男性で、(2)ROME III診断基準によりIBS-Dと診断された者であって、(3) 漢方専門医により漢方医学的に実証あるいは虚証と診断され、かつ(4)特記すべき器質的疾患や精神疾患の既往がなく、IBSの治療を現在受けていない者とした。(3)に関し、実証とは、体格がしっかりしており、活動性があり、皮膚のつやも良く、声に力があり、脈はしっかり触知可能で、腹診による腹部の力がある者と定義される。対して虚証とは、体格が痩せ型で、活動性が少なく、疲れやすく、脈は比較的弱く触知し、腹診による腹部の力が低下している者と定義される。
【0098】
健常者は、(1)20歳以上、60歳未満の男性で、(2)何らかの治療を必要とする疾患を有しない、又は治療中の疾患を有せず、身体的・精神的・社会的に良好な状態の者とした。
【0099】
IBS-D患者と健常者の両群とも、下記(1)-(8)のいずれかに該当する者は検査対象から除外した。
(1)腫瘍性疾患や炎症性腸疾患といった重篤な合併症がある者
(2)下剤、止痢剤、プロバイオティクス製剤を研究開始時より1週間以内に服用した者
(3)抗菌薬、抗炎症薬、ステロイドを研究開始時より6週間以内に服用した者
(4)抗コリン薬、抗ムスカリン薬、プロトンポンプ阻害薬、マイナートランキライザーによる治療を受けている者
(5)消化管手術の既往がある者。ただし虫垂摘出術は可とする
(6)初回の血液検査にて、血清カリウム値が3.5mEq/L以下、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)が正常範囲の2倍以上の者
(7)アトピー性皮膚炎、アレルギー疾患がある者
(8)うつ病、不安障害又は精神症状を合併し、試験参加が困難と判断される者
【0100】
3. 漢方薬の投与方法
IBS-D群は、漢方指導医による漢方医学的な診察を受け、実証と診断された者にはツムラ半夏瀉心湯エキス顆粒(医療用)2.5g/包を、虚証と診断された者にはツムラ六君子湯エキス顆粒(医療用)2.5g/包を、1日2包、分2朝夕食前又は食間、28日間投与した。
本研究ではランダム化や盲検化は実施していない。健常者群には介入を行わなかった。
【0101】
4.研究スケジュール
研究のスケジュールを
図1に示す。データの収集に際しては被験者に定期的にメール連絡し、研究参加脱落の防止を図った。
4-1. IBS-D群
研究参加前に、研究の組入除外基準、及びIBSに関する問診を行い、IBS-Dのスクリーニングを実施した。組入可能な被験者については同意を取得後、診察を行い各評価項目(表1)に従い評価した。漢方専門医による診察から漢方医学的診断を下し、実証と診断された者には半夏瀉心湯、虚証と判断された者には六君子湯を介入薬とした。IBS-Dは時期により症状が変化するため、漢方薬を服用する前に、患者自身の自覚的に下痢の症状が軽い時(軽症時)、症状が重いとき(増悪時)の2回、順不同で便検体を採取した。被験者は、保冷剤を入れた保冷バッグに入れて採取した当日に持参した。
2回の便検体を提出したIBS-D群の被験者は、28日間漢方薬を服薬した。服薬終了日に3回目の便検体(治療後)を提出し、各評価項目の測定及び診察を行った。その後28日間は漢方薬を服用せずに経過観察し、服薬開始から56日目に4回目の便検体(経過観察後)を提出し、各評価項目の測定及び診察を行った。治療後、経過観察後の2時点については前後1週間の猶予期間を設けた。
【0102】
4-2. 健常者群
研究参加前に、研究の組入除外基準、腹部症状の有無、既往歴、家族歴、アレルギーについての問診を行い、健常者のスクリーニングを実施した。組入可能な被験者については、研究参加への同意を取得後、身長、体重、血圧、脈拍を測定し、各評価項目(表1)に従い評価した。また、後日IBS-D群と同様に便検体を1回採取した。
【0103】
5. 安全性評価
安全性評価のため、末梢血検査、血清学的検査(AST, ALT, ALP, γ-GTP, BUN, Cr, Na, K, Cl)を測定したほか、漢方薬による過敏症(皮膚症状や胃腸症状)を計測した。
【0104】
6.臨床評価項目
6-1. 主要評価項目
漢方薬治療後の症状の改善を被験者に質問し、あり/なしで評価。
【0105】
6-2. 副次評価項目
以下の評価項目を設定した。
(1)IBS-QOL日本語版(Patric DL et al., Digestive Diseases and Sciences. 1998;43:400-11及び Kanazawa M et al., Biopsychosoc Med. 2007;1:6.)
IBSに関する自覚症状やQOLの質問35項目、0~4の5段階の自記式スコアで、全体で0~140点で計算され、高得点ほど重症となる。
(2)Gastrointestinal Symptom Rating Scale日本語版 (GSRS)(Svedlund J et al., Digestive Diseases and Sciences. 1988;33:129-34. 及び 本郷 道ら 診断と治療. 1999;87:731-6. )
胃腸症状に関する15項目、1~7の7段階の自記式スコアで、15項目の平均点1~7で計算され、高得点ほど重症となる。
(3)GSRS下痢スコア(Svedlund J et al., Digestive Diseases and Sciences. 1988;33:129-34. 及び 本郷 道ら 診断と治療. 1999;87:731-6. )
GSRSの下位スコアのうち、下痢、軟便、急な便意の3項目の平均値を1~7で計算したもので、高得点ほど重症となる。
(4)IBS Symptom Severity Scale 日本語版 (IBS-SSS)(Shinozaki M et al., J Gastroenterol. 2006;41:491-4.)
IBSの重症度に関するIBS severity indexの自記式質問票のうち、腹痛の程度(0~100)、10日間で出現する腹痛の平均回数×10、腹部の張りの程度(0~100)、排便に対する満足度(0~100)、腹部症状の日常生活への影響度(0~100)を足したスコアを計算した。その総点が0~75は問題なし、76~175は軽症、176~300は中等症、301以上は重症となる。
(5)うつ病自己評価尺度Self-rating Depression Scale (SDS)(Zung WW. Arch Gen Psychiatry. 1965;12:63-70., 福田一彦, 小林重雄. 自己評価式抑うつ性尺度の研究. 精神神経学雑誌. 1973;75:673-9.)。
抑うつ性に関する質問20項目、1~4の4段階の自記式スコアで、20~80点となる。高得点ほど重症で、40点以上をうつ傾向とした。
(6)状態・特性不安検査State-Trait Anxiety Inventory (STAI)(Spielberger CD et al., Mind Garden, Inc. 1970.)
STAI:不安に関する40項目、1~4の4段階の自記式スコアで、現在の不安(状態不安)20項目と、人格的な生来持っている不安(特性不安)20項目に分かれる。それぞれ20~80点で計算され、高得点ほど重症であり、今回の被験者である男性の場合、状態不安42点以上、特性不安44点以上で高不安にあるとする。
(7)便検体の解析による腸内細菌叢の変化
安全性評価項目として、末梢血検査、血液生化学検査(AST, ALT, ALP, γ-GTP, BUN, Cr, Na, K, Cl)異常、及び漢方薬による過敏症(皮膚症状や胃腸症状)を計測した。
【0106】
6-3. 臨床評価項目の解析方法
6-3-a IBS-D群と健常者群の比較
それぞれの群の背景因子については、連続変数についてはt検定、順序変数と二値変数についてはカイ二乗検定を行った。この際、body mass index(BMI)を体重/身長2 [kg/m2]で計算し比較した。
6-3-b IBS-D群の治療効果の解析
主要評価項目である漢方薬服用28日後の症状改善のあり/なしについては、統計解析を行わず、細菌叢解析における細菌叢の変動との関連を検討するのに使用した。副次評価項目については、治療前(軽症時、重症時)、漢方薬服用28日後(治療後)、56日後(経過観察後)の4時点について、連続変数、順序変数については分散分析(Friedman検定)、二値変数についてはカイ二乗検定を行い、有意差のある項目について、2時点でのWilcoxon符号順位検定あるいはカイ二乗検定を行った。
【0107】
7. 腸内細菌叢メタゲノム解析
臨床研究にて収集した便検体は-80℃にて冷凍保存し、使用時に常温に解凍した。便検体を用いて腸内細菌叢メタゲノム解析(16S rRNA解析)を行った。
7-1.DNA抽出
綿棒(ピューリタン)で採取した便検体の溶液300μLを、DNeasy PowerSoil Kit (QIAGEN Inc., Germany) を用いてDNAを抽出した。検体不良のためDNAを抽出できなかった検体については、固形の便検体(-80度凍結保存)1g程度で代用し、上記と同じ手法でDNAを抽出した。
【0108】
7-2.Polymerase chain reaction(PCR)
DNAをシーケンス解析用に増幅するため、細菌DNAに特有の保存領域である16S リボソームRNA(rRNA)をコードするDNAに含まれている、可変領域のV3-V4領域を2ステップPCR法を用いて増幅しアンプリコンを得た。
7-2-a 1st PCR
1回目のPCRは、V3-V4領域をターゲットとした特異的なプライマーを用いた。その配列は以下の通りである
。(Forward) 5’-ACACTCTTTCCCTACACGACGCTCTTCCGATCTNNNNNCCTACGGGNGGCWGCAG-3’ (55bp) (配列番号4)
配列番号4中、NはA,C,G又はTであり、WはA又はTである。
(reverse) 5’-GTGACTGGAGTTCAGACGTGTGCTCTTCCGATCTNNNNNGACTACHVGGGTATCTAATCC-3’ (60bp) (配列番号5)
配列番号5中、NはA,C,G又はTであり、HはA,T又はCであり、VはA,C又はGである。
1st RCRのプロトコールは以下の通りである;
94℃ 3分、(94℃ 30秒、55℃ 30秒、72℃ 30秒)×30サイクル、72℃ 5分、8℃∞。
7-2-b 2nd PCR
増幅したアンプリコンに配列解析シークエンスに必要なアダプター配列を結合させるため、2nd PCRを行った。2nd PCRで用いるプライマーは、各検体ごとに異なるインデックス配列、及びMiSeqでフローセルに結合するためのアダプター配列、シーケンスプライマーが結合する領域があらかじめ付いたものである。試薬、機器は1st PCRと同じものを用いた。
7-2-c ビーズ精製、ゲル切り出し
229検体分の2nd PCR産物を3μLずつをひとつのチューブ内にまとめ、プール検体とした。このプール検体から増幅DNA以外の不純物を除去するため、磁気ビーズAMPure XP (Beckman Coulter Inc., USA)を用いて増幅DNAを精製した。イソプロパノール沈殿を行い、純度の高い精製DNA溶液を得た。溶液中のDNA濃度をQubitで測定し、シーケンスに十分な濃度が得られたことを確認するとともに、この溶液と2nd PCRで得た増幅DNAを電気泳動して、当該バンド(V3-V4領域の場合、630bp)が一致することを確認した。
【0109】
7-3.MiSeqを用いたアンプリコンDNAシーケンス
精製したDNA溶液からアンプリコンDNAのシーケンスをするのにはMiSeq (Illumina Inc., USA)を用いて行った。
便に含まれている細菌のV3-V4領域の塩基配列が適切に取得されたことを確認した。
【0110】
7-4.細菌叢の系統樹解析
配列の解析にはメタゲノム解析の統合解析パイプラインプログラムであるQIIME 2 (version 2019.10)(Bolyen E et al., Nat Biotechnol. 2019;37:852-7.)を用いた。シーケンスエラー除去をDADA2(Callahan BJ et al., Nat Methods. 2016;13(7):581-3.)というプログラムを用いて行った。ノイズ除去したデータに被験者の臨床データを追加した後、DNA配列が97%以上の相同性があるものをクラスタリングした。これをひとつの菌を代表する配列という意味で代表配列と呼び、amplicon sequence variant (ASV)という単位で数え、1 ASVを1菌種に相当するものとした。
【0111】
7-5.系統樹の作成
複数の細菌がもつ共通配列から細菌叢をクラスタリングして系統樹を作成した。この過程はQIIME 2内で、MAFFT (Katoh K etl. Nucleic Acids Res. 2002;30:3059-66.)を用いて実行した。
こうしてできた菌の系統データから、通常の手法の通り、以下の解析を進めた。
【0112】
7-6.多様性解析(レアファクション解析)
検体中に含まれる菌種の数を推定する解析を多様性解析(レアファクション解析)と呼び、大きく2つに分けられる。一つの検体中における細菌叢の多様性はα多様性、複数の群間の細菌叢構成の多様性はβ多様性と呼ばれる。解析に入る前に、検体のサンプリング深度(リード数)を揃える (1400 reads)レアフラクション処理を実施した。
本研究では、α多様性として以下の3つの指数を計算した。
(1) Observed ASVs:一度でも観察されたASV数。希少種の存在まで考慮に入れた多様性指数
(2) Shannon index:サンプル全体に対する種の割合に基づいて計算される。広く用いられるが、割合の多い菌種の影響を受けやすいとされる。
(3) Faith’s phylogenetic distance:系統樹の枝の長さを考慮した系統学的多様性。
各指数について、健常者群とIBS-D群治療前の群間比較をWilcoxon順位和検定で、及びIBS-D群内の4時点における時系列比較をWilcoxon符号付き順位検定で行った。
また、β多様性として、各群間の多様性を二次元座標にて表現して解析を行うUniFrac主座標解析を行った。この解析では、リード数を考慮に入れるWeighted UniFrac解析(量的多様性の解析)と、考慮しないUnweighted UniFrac解析(質的多様性の解析)との2種類を行った。
【0113】
7-7.系統解析
シーケンスによって得られた細菌の代表配列と、既知の細菌のDNA配列(リファレンス配列)とを比較し、99%以上相同性があった配列をその菌種と同定して、菌種の系統解析を行った。本研究では、既存の細菌DNA配列データセットとしてGreengenes (release 13_8) (https://docs.qiime2.org/2021.11/data/tutorials/moving-pictures-usage/gg-13-8-99-515-806-nb-classifier.qza) を用いた。すべての生物は「界 kingdom」「門 phylum」「網 class」「目 order」「科 family」「属 genus」「種 species」の7段階で分類される。今回は同定できる全てのレベルで菌種の割合を計算した。
【0114】
7-8.各観察時点間の比較解析
以上により求められた全てのレベルでの細菌叢データについて、各検体内での相対量を計算し、各群間の比較を行った。健常者群とIBS-D群の治療前との比較はWilcoxon順位和検定にて行った。また、門 phylumでは、最も割合が多い2つの菌種であるFirmicutesとBacteroidetesの比率 (F/B比) が健常者と比較してIBS患者で上昇することが報告されている(Duan R, et al. Clin Transl Gastroenterol 2019;10(2):e00012.)。本研究でもF/B比を計算し、比較を行った。さらにIBS-D群は体質によって使用した漢方薬を分けたため、体質によって細菌叢の特徴にも差異がある可能性を考えて、使用した漢方薬による菌叢比較を行った。Wilcoxon順位和検定を用いて各分類レベルで比較を行い、門 phylumではF/B比の比較を行った。
IBS-D群内の比較では科 familyにおける各時点における菌の割合の変化量を計算し、ヒートマップを作成した。また、IBS-D群内の治療前(軽症時、重症時)、漢方治療後、及び経過観察後の4群で分散分析を行い、IBS群の各時点の比較にはWilcoxon符号付き順位検定を行った。
【0115】
7-9.背景因子と腸内細菌叢の相関(科 family)
治療前の身体所見、臨床スコアと各菌種の割合とのSpearman相関係数を計算して、背景因子と腸内細菌叢の関連解析を行った。
【0116】
7-10.IBS-D群における臨床スコアの変化と腸内細菌叢変化との相関(属 genus)
IBS-D群における治療前後の臨床スコアの変化量と、各菌種の変化割合とのSpearman相関係数を計算して、臨床スコアの変化と腸内細菌叢変化の関連解析を行った。
【0117】
7-11.PICRUSt2を用いた機能プロファイル予測
16S rRNAのメタゲノム解析で得られる細菌叢プロファイルから細菌叢全体の機能プロファイルを予測するパイプラインとしてPICRUSt2が近年開発された(Douglas GM et al., Nat Biotechnol. 2020;38:685-8.)。このパイプラインを用いることで、腸内細菌叢解析で同定された細菌叢データのゲノム配列から、PICRUSt2内に登録された4万種以上の細菌が有する遺伝子配列データを照合し、さらに各細菌の検体内での存在割合を乗算することにより、遺伝子コピー数を計算することができ、さらにその結果から、腸内細菌叢全体が有するであろう代謝機能を予測する。本研究ではPICRUSt2を用いて、細菌叢全体がもつ機能が各時点間でどのように変化していたかを予測した。
すべての統計解析には、R (version 3.5.2)を用いた。本研究で行った解析では、有意水準を5%とした。また、有意水準が5%以上10%未満の解析結果については傾向があるとみなした。
【0118】
III.結果
表1に、医師の診察により健常者(45名)及びIBS-D患者(57名)に分類されたそれぞれの被検者の群の患者背景因子を示す。IBS-QOL、GSRS、GSRS下痢スコア、及びIBSSの項目は健常者群とIBS-D群で有意差が見られた。
【0119】
【0120】
健常者45名及びIBS-D患者57名のうち、検体未提出者(健常者 N=4, IBS-D患者 N=13)、食中毒(IBS-D患者 N=1)、服用自己中断者(IBS-D患者 N=1)、検体解析困難者(IBS-D患者 N=1) を除外し、健常者41名及びIBS-D患者42名の糞便の細菌叢を解析した。
【0121】
漢方薬1ヶ月内服後に症状の改善の有無を患者に確認したところ、41名中33名(81%)が症状改善と回答した。
【0122】
図2に示すように、ラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌は、IBS-D群患者の増悪時の糞便中の相対量が上昇しており、健常者、IBS-D群患者の軽症時、及びIBS-D群患者の治療後の糞便中の相対量はそれより低かった。ラクノスピラ ブラウティア属の細菌の相対量は、健常者とIBS-D群患者の比較(P=0.006)、IBS-D群患者の軽症時と増悪時との比較(P=0.0002)、IBS-D群患者の増悪時と治療観察後との比較(P=0.004)のいずれでも有意差が見られた。
を示すグラフ。
【0123】
図3に示すように、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌の相対量は、IBS-D群患者の増悪時の糞便中の相対量が低下しており、健常者、IBS-D群患者の軽症時、及びIBS-D群患者の治療後の糞便中の相対量はそれより高かった。ルミノコッカス オシロスピラ属の細菌の相対量は、健常者とIBS-D群患者の比較(P=0.03)、IBS-D群患者の軽症時と増悪時との比較(P=0.0005)、IBS-D群患者の増悪時と治療観察後(P=0.0004)との比較のいずれでも有意差が見られた。
【0124】
図4に示すように、フィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)の相対量は、IBS-D群患者の増悪時の糞便中の相対量が低下しており、健常者、IBS-D群患者の軽症時、及びIBS-D群患者の治療後の糞便中の相対量はそれより高かった。フィーカリバクテリウム プラウスニッツィの相対量は、健常者とIBS-D群患者の間で差がある蛍光を認め(P=0.06)、IBS-D群患者の軽症時と増悪時との比較(P=0.03)、IBS-D群患者の増悪時と治療後との比較(P=0.04)のいずれでも有意差が見られた。
【0125】
比較解析の結果、
図5に示すように、ラクノスピラ ブラウティア(Lachnospiraceae Blautia)属の細菌、ルミノコッカス オシロスピラ(Ruminococcaceae Oscillospira)属の細菌、及びフィーカリバクテリウム プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)は、健常者とIBS-D群患者、IBS-D群患者の軽症時と増悪時、IBS-D群患者の増悪時と治療後の群間で差が見られた。