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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065769
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】キサゲ加工装置及びキサゲ加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23D 79/06 20060101AFI20240508BHJP
   B25J 13/08 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
B23D79/06
B25J13/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174786
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】町田 港
(72)【発明者】
【氏名】三ツ橋 正
【テーマコード(参考)】
3C050
3C707
【Fターム(参考)】
3C050FC09
3C707AS12
3C707KS17
3C707KS34
3C707KS36
3C707LU08
(57)【要約】
【課題】被加工物の加工対象面にキサゲ加工を行うキサゲ加工装置において、加工対象面を切削する際の平面精度を向上させる技術を提供する。
【解決手段】キサゲ加工装置は、スクレーパを保持する加工用ロボットと、平面出し加工処理を実行する制御装置を備える。平面出し加工処理は、加工対象面の加工領域層を上層側から順次切削する処理であると共に、各加工領域層の切削時における切削深さに応じてスクレーパの下方押し込み量とストローク抵抗力のそれぞれの基準値が定められている。制御装置は、切削対象加工領域層を切削する際、直上加工領域層の切削時におけるスクレーパの下方押し込み量と力覚センサにより測定したストローク抵抗力との関係を示すδ-f特性に基づいてスクレーパの下方押し込み量を調整する押し込み量調整制御を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の加工対象面に対してキサゲ加工を行うキサゲ加工装置であって、
切削刃を有するスクレーパを保持して動作させる加工用ロボットと、
前記加工用ロボットの制御によって、前記加工対象面に対して前記スクレーパを下方に押し込みながら当該スクレーパを前記加工対象面に沿った所定のストローク方向にストロークさせることにより、前記加工対象面の凸部を前記切削刃によって切削する平面出し加工処理を実行する制御装置と、
前記平面出し加工処理の実行時において、ストローク中の前記切削刃が前記加工対象面からストローク進行方向と逆方向に受ける抵抗力であるストローク抵抗力を検出する力覚センサと、
を備え、
前記平面出し加工処理は、前記加工対象面の凸部を高さ方向に区分する複数の加工領域層を上層側から順次切削する処理であると共に、各加工領域層の切削時における切削深さに応じて前記スクレーパの下方押し込み量と前記ストローク抵抗力のそれぞれの基準値が定められており、
前記制御装置は、切削対象となる加工領域層である切削対象加工領域層を切削する際、当該切削対象加工領域層の直上に位置する加工領域層である直上加工領域層の切削時における前記スクレーパの下方押し込み量の制御値と前記力覚センサにより測定した前記ストローク抵抗力の測定値との関係を示すδ-f特性に基づいて、当該切削対象加工領域層における前記スクレーパの下方押し込み量の制御値を調整する押し込み量調整制御を行う、
キサゲ加工装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記平面出し加工処理において、前記スクレーパの下方押し込み量の基準値を用いて最上層の加工領域層である最上加工領域層を切削する、
請求項1に記載のキサゲ加工装置。
【請求項3】
前記押し込み量調整制御において、前記制御装置は、前記直上加工領域層における前記δ-f特性に基づいて、順次、2層目以降の各加工領域層を切削する際の前記スクレーパの下方押し込み量の制御値を調整する、
請求項1又は2に記載のキサゲ加工装置。
【請求項4】
前記押し込み量調整制御において、前記制御装置は、前記直上加工領域層の平面領域を複数に区分した区分領域毎に前記δ-f特性を取得し、
前記切削対象加工領域層のうち、前記直上加工領域層における前記区分領域と上下に重なる領域を切削する際の前記スクレーパの下方押し込み量の制御値を、当該領域に対応する前記区分領域の前記δ-f特性に基づいて調整する、
請求項1又は2に記載のキサゲ加工装置。
【請求項5】
被加工物の加工対象面に対してキサゲ加工を行うキサゲ加工方法であって、
切削刃を有するスクレーパを保持して動作させる加工用ロボットと、
前記加工用ロボットの制御によって、被加工物の加工対象面に対して前記スクレーパを下方に押し込みながら当該スクレーパを加工対象面に沿った所定のストローク方向にストロークさせることにより、前記加工対象面の凸部を前記切削刃によって切削する平面出し加工処理を実行する制御装置と、
前記平面出し加工処理の実行時において、ストローク中の前記切削刃が前記加工対象面からストローク進行方向と逆方向に受ける抵抗力であるストローク抵抗力を検出する力覚センサと、
を備えたキサゲ加工装置によるキサゲ加工方法であって、
前記平面出し加工処理は、前記加工対象面の凸部を高さ方向に区分する複数の加工領域
層を上層側から順次切削する処理であると共に、各加工領域層の切削時における切削深さに応じて前記スクレーパの下方押し込み量と前記ストローク抵抗力のそれぞれの基準値が定められており、
前記制御装置は、切削対象となる加工領域層である切削対象加工領域層を切削する際、当該切削対象加工領域層の直上に位置する加工領域層である直上加工領域層の切削時における前記スクレーパの下方押し込み量の制御値と前記力覚センサにより測定した前記ストローク抵抗力の測定値との関係を示すδ-f特性に基づいて、当該切削対象加工領域層における前記スクレーパの下方押し込み量の制御値を調整する押し込み量調整制御を行う、
キサゲ加工方法。
【請求項6】
前記制御装置は、前記平面出し加工処理において、前記スクレーパの下方押し込み量の基準値を用いて最上層の加工領域層である最上加工領域層を切削する、
請求項5に記載のキサゲ加工方法。
【請求項7】
前記押し込み量調整制御において、前記制御装置は、前記直上加工領域層における前記δ-f特性に基づいて、順次、2層目以降の各加工領域層を切削する際の前記スクレーパの下方押し込み量の制御値を調整する、
請求項5又は6に記載のキサゲ加工方法。
【請求項8】
前記押し込み量調整制御において、前記制御装置は、前記直上加工領域層の平面領域を複数に区分した区分領域毎に前記δ-f特性を取得し、
前記切削対象加工領域層のうち、前記直上加工領域層における前記区分領域と上下に重なる領域を切削する際の前記スクレーパの下方押し込み量の制御値を、当該領域に対応する前記区分領域の前記δ-f特性に基づいて調整する、
請求項5又は6に記載のキサゲ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キサゲ加工装置及びキサゲ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移動部を有した工作機械等の摺動面には、その平面度を高めて摺動摩擦係数を低減するために、キサゲ加工(「スクレーピング加工」ともいう)が行われる。キサゲ加工は、金属加工の一種であり、従来、被加工物(ワーク)の加工対象面(被加工面)に光明丹(鉛丹)や顔料を塗り、先端が幅広でノミ状(ヘラ状)のキサゲ工具(スクレーパ)を作業者が使って、色の違いを見ながら手作業で凸部を削り除去する作業を行っていた。
【0003】
キサゲ加工の本来の目的は、摺動面を高精度な平面に仕上げることにあるが、このキサゲ加工によって摺動面に形成されたミクロン単位の微小な凹みは、摺動時に潤滑油の油溜まりの作用をするため、摺動面の潤滑性が向上し、摺動時のリンギングを防止する効果がある。しかしながら、作業者の手作業によるキサゲ加工は、熟練が要求される作業であり、また、大変な重労働でもあった。
【0004】
これに関連して、スクレーパの動作を自動制御することによって被加工物の加工対象面に対してキサゲ加工を行うキサゲ加工装置も提案されている(例えば、特許文献1等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-199611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来におけるキサゲ加工装置においては、被加工物の加工対象面を切削する際の平面精度を向上させる観点から改善の余地があった。
【0007】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであって、被加工物の加工対象面にキサゲ加工を行うキサゲ加工装置において、加工対象面を切削する際の平面精度を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(態様1)
本発明の態様1は、被加工物の加工対象面に対してキサゲ加工を行うキサゲ加工装置であって、切削刃を有するスクレーパを保持して動作させる加工用ロボットと、前記加工用ロボットの制御によって、前記加工対象面に対して前記スクレーパを下方に押し込みながら当該スクレーパを前記加工対象面に沿った所定のストローク方向にストロークさせることにより、前記加工対象面の凸部を前記切削刃によって切削する平面出し加工処理を実行する制御装置と、前記平面出し加工処理の実行時において、ストローク中の前記切削刃が前記加工対象面からストローク進行方向と逆方向に受ける抵抗力であるストローク抵抗力を検出する力覚センサと、を備え、前記平面出し加工処理は、前記加工対象面の凸部を高さ方向に区分する複数の加工領域層を上層側から順次切削する処理であると共に、各加工領域層の切削時における切削深さに応じて前記スクレーパの下方押し込み量と前記ストローク抵抗力のそれぞれの基準値が定められており、前記制御装置は、切削対象となる加工領域層である切削対象加工領域層を切削する際、当該切削対象加工領域層の直上に位置す
る加工領域層である直上加工領域層の切削時における前記スクレーパの下方押し込み量の制御値と前記力覚センサにより測定した前記ストローク抵抗力の測定値との関係を示すδ-f特性に基づいて、当該切削対象加工領域層における前記スクレーパの下方押し込み量の制御値を調整する押し込み量調整制御を行う。
【0009】
(態様2)
上記態様1において、前記制御装置は、前記平面出し加工処理において、前記スクレーパの下方押し込み量の基準値を用いて最上層の加工領域層である最上加工領域層を切削してもよい。
【0010】
(態様3)
上記態様1又は2に係るキサゲ加工装置の制御装置は、前記押し込み量調整制御において、前記直上加工領域層における前記δ-f特性に基づいて、順次、2層目以降の各加工領域層を切削する際の前記スクレーパの下方押し込み量の制御値を調整してもよい。
【0011】
(態様4)
上記態様1から3の何れかに係るキサゲ加工装置の制御装置は、前記押し込み量調整制御において、前記直上加工領域層の平面領域を複数に区分した区分領域毎に前記δ-f特性を取得し、前記切削対象加工領域層のうち、前記直上加工領域層における前記区分領域と上下に重なる領域を切削する際の前記スクレーパの下方押し込み量の制御値を、当該領域に対応する前記区分領域の前記δ-f特性に基づいて調整してもよい。
【0012】
(態様5)
本発明の態様5は、被加工物の加工対象面に対してキサゲ加工を行うキサゲ加工方法であって、切削刃を有するスクレーパを保持して動作させる加工用ロボットと、前記加工用ロボットの制御によって、被加工物の加工対象面に対して前記スクレーパを下方に押し込みながら当該スクレーパを加工対象面に沿った所定のストローク方向にストロークさせることにより、前記加工対象面の凸部を前記切削刃によって切削する平面出し加工処理を実行する制御装置と、前記平面出し加工処理の実行時において、ストローク中の前記切削刃が前記加工対象面からストローク進行方向と逆方向に受ける抵抗力であるストローク抵抗力を検出する力覚センサと、を備えたキサゲ加工装置によるキサゲ加工方法であって、前記平面出し加工処理は、前記加工対象面の凸部を高さ方向に区分する複数の加工領域層を上層側から順次切削する処理であると共に、各加工領域層の切削時における切削深さに応じて前記スクレーパの下方押し込み量と前記ストローク抵抗力のそれぞれの基準値が定められており、前記制御装置は、切削対象となる加工領域層である切削対象加工領域層を切削する際、当該切削対象加工領域層の直上に位置する加工領域層である直上加工領域層の切削時における前記スクレーパの下方押し込み量の制御値と前記力覚センサにより測定した前記ストローク抵抗力の測定値との関係を示すδ-f特性に基づいて、当該切削対象加工領域層における前記スクレーパの下方押し込み量の制御値を調整する押し込み量調整制御を行う。
【0013】
(態様6)
上記態様5において、前記制御装置は、前記平面出し加工処理において、前記スクレーパの下方押し込み量の基準値を用いて最上層の加工領域層である最上加工領域層を切削してもよい。
【0014】
(態様7)
上記態様5又は6に係るキサゲ加工方法において、前記制御装置は、前記押し込み量調整制御において、前記直上加工領域層における前記δ-f特性に基づいて、順次、2層目以降の各加工領域層を切削する際の前記スクレーパの下方押し込み量の制御値を調整して
もよい。
【0015】
(態様8)
上記態様5から7の何れかに係るキサゲ加工方法において、前記制御装置は、前記押し込み量調整制御において、前記直上加工領域層の平面領域を複数に区分した区分領域毎に前記δ-f特性を取得し、前記切削対象加工領域層のうち、前記直上加工領域層における前記区分領域と上下に重なる領域を切削する際の前記スクレーパの下方押し込み量の制御値を、当該領域に対応する前記区分領域の前記δ-f特性に基づいて調整してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、被加工物の加工対象面にキサゲ加工を行うキサゲ加工装置において、加工対象面を切削する際の平面精度を向上させる技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施形態1に係る自動キサゲ加工装置の概略構成を示す図である。
図2図2は、ロボットハンドに保持されたスクレーパユニットを示す図である。
図3図3は、スクレーパの切削刃によってワークの加工対象面を切削している状況を側方から眺めた図である。
図4図4は、制御装置の構成の一例を示すブロック図である。
図5図5は、制御装置の機能構成の一例を概略的に示すブロック図である。
図6図6は、ワークの加工対象面を示す図である。
図7図7は、加工対象面の表面高さ情報を説明する図である。
図8図8は、加工対象面の凸部の形状を模式的に示す図である。
図9図9は、各加工平面の高さを等高線として加工対象面における表面高さを等高線状に示した図である。
図10図10は、加工領域層分布情報を説明する図である。
図11図11は、加工点データを説明する図である。
図12図12は、切削条件情報テーブルを説明する図である。
図13図13は、押し込み量設定情報テーブルを説明する図である。
図14図14は、制御装置のプロセッサによって実行されるフローチャートである。
図15図15は、押し込み量調整制御に係るδ-f特性を説明する図である。
図16図16は、加工対象面の平面領域を複数の区分領域に区分する分割パターンを説明する図である。
図17図17は、各加工領域層の切削対象区分領域を模式的かつ部分的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本発明は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0019】
<実施形態1>
(加工装置の概略構成)
図1は、実施形態1に係る自動キサゲ加工装置1の概略構成を示す図である。図1に示すように、自動キサゲ加工装置1は、制御装置100、ロボットアーム200、三次元形状計測器300等を備えている。
【0020】
自動キサゲ加工装置1は、被対象物であるワーク10の加工対象面(被加工面)11に
対してキサゲ加工(スクレーピング加工)を自動で行う装置である。ワーク10は、例えば、工作機械等を構成する金属製の摺動部材であり、その摺動面を加工対象面11とすることができる。キサゲ加工は金属加工の一種であり、キサゲ工具(切削工具)であるスクレーパを用いて加工対象面11の凸部を削り取り、加工対象面11の平面度を高めることによって摺動摩擦係数を低減させる。また、キサゲ加工の本来の目的は、摺動面を高精度な平面に仕上げることにあるが、摺動面の摺動時にリンギング(Wringing)現象が発生することを防止すべく、キサゲの仕上加工においては摺動面にミクロン単位の微小な多数の窪みを潤滑油の油溜まりとして形成し、摺動面の潤滑性を向上させるようにしている。
【0021】
ロボットアーム200は、例えば、6軸の多関節ロボットアームであり、制御装置100によって制御される。ロボットアーム200は、その先端側にロボットハンド210を有し、このロボットハンド210にスクレーパユニット20やハンドチャック30を着脱自在に保持(把持)することが可能である。すなわち、ロボットアーム200は、ロボットハンド210にスクレーパユニット20及びハンドチャック30を選択的に付け替えることができる。そして、ロボットアーム200は、各関節(例えば、第1軸~第6軸)をサーボモータ等によって駆動することで、ロボットハンド210をXYZ三次元直交座標系の任意の位置へと移動させることができる。
【0022】
図2は、ロボットハンド210に保持されたスクレーパユニット20を示す図である。スクレーパユニット20は、ロボットハンド210に着脱自在なホルダ部21と、当該ホルダ部21と一体に設けられたキサゲ工具(切削工具)であるスクレーパ22等を備えるアタッチメントである。スクレーパ22は、可撓性を有する金属材料により形成された略帯板形状のスクレーパ本体23と、スクレーパ本体23の先端側に取り付けられた切削刃24等を含んで構成されている。切削刃24は、例えば超硬合金によって形成されており、例えば鋳物で形成されたワーク10の加工対象面11を切削することが可能である。図中の符号Wは切削刃24の幅寸法を表す。符号25は、切削刃24の刃先である。図2に示す刃先25は円弧(ラウンド)形状を有しているが、刃先25の形状については特に限定されない。例えば、刃先25は直線形状を有していてもよい。勿論、円弧形状を有する刃先25を用いる場合、その曲率半径(刃先端半径)についても特に限定されない。例えば、ロボットハンド210には、切削刃24の幅寸法W、曲率半径(刃先端半径)等のサイズが異なるスクレーパユニット20を付け替えることができる。
【0023】
ワーク10の加工対象面11に対するキサゲ加工は、例えば図1に示す加工用架台C1にワーク10を固定し、ロボットハンド210にスクレーパユニット20を保持した状態でロボットアーム200を制御することによって行われる。加工用架台C1の表面は、X-Y平面に平行な平面状に形成されている。
【0024】
図3は、スクレーパ22の切削刃24によってワーク10の加工対象面11を切削している状況を側方から眺めた図である。キサゲ加工では、加工対象面11に切削刃24を斜めに当てがい、スクレーパ22(ロボットハンド210)を-Z方向に駆動して加工対象面11に対してスクレーパ22を下方(-Z方向に押し込みながらスクレーパ22を加工対象面11に沿って(X-Y平面と平行に)ストローク(以下、その方向(図3中、白抜き矢印)を「ストローク方向」と呼ぶ)させることによって、加工対象面11を切削刃24によってミクロンオーダー或いはサブミクロンオーダーの厚さずつ切削する。加工対象面11を切削する際、切削刃24を加工対象面11に押し当てながら加工対象面11に対してスクレーパ22を下方に押し込むときの押し込み量(-Z方向への変位量)を「下方押し込み量δz」と呼ぶ。
【0025】
ロボットアーム200は、加工対象面11に対するスクレーパ22の下方押し込み量δzを制御パラメータとすることで、スクレーパ22の1ストローク当たりに切削刃24が
加工対象面11を切削する切削深さ(以下、「ストローク切削深さ」という)ΔDSを調整することができる。ここで、スクレーパ22の下方押し込み量δzは、例えば、三次元形状計測器300によって計測される加工対象面11の基準点における高さを基準高さ(ゼロ点)として設定される。加工対象面11における基準点の位置(XY座標)は特に限定されない。例えば、加工対象面11の隅部を基準点に設定し、その表面高さを基準高さとしてもよい。なお、スクレーパ22のスクレーパ本体23は上記の通り可撓性を有するため、スクレーパ本体23が撓った状態で加工対象面11の切削が行われる。そのため、加工対象面11の切削深さがミクロンオーダー或いはサブミクロンオーダーの寸法であるのに対して、切削時におけるスクレーパ22の下方押し込み量δzはミリオーダーの変位量として設定することができる。
【0026】
次に、ハンドチャック30について説明する。ハンドチャック30は、架台間でワーク10を移動させる際に、当該ワーク10を把持するためのアタッチメントであり、ロボットハンド210に着脱自在となっている。図1に示すレイアウトでは、例えば、加工用架台C1及び計測用架台C2間でワーク10を移動させる際に用いられる。すなわち、ロボットアーム200は、ロボットハンド210に装着したハンドチャック30によってワーク10を把持することで、加工用架台C1及び計測用架台C2間でワーク10を自由に移動させることができる。
【0027】
計測用架台C2は、三次元形状計測器300を用いてワーク10における加工対象面11の三次元形状を計測する際に、ワーク10を載置するための架台である。計測用架台C2の表面も、X-Y平面に平行な平面状に形成されている。
【0028】
三次元形状計測器300は、例えば、白色光干渉方式の計測器であり、加工対象面11の三次元形状データ(凹凸形状データ)を高精度に取得することができる。但し、三次元形状計測器300は、加工対象面11の凹凸形状データ(高さデータ)を計測できれば特に限定されず、例えば三次元レーザスキャナ等を用いてもよい。また、三次元形状計測器300は、加工対象面11の凹凸形状データを非接触で取得する「非接触式」の計測器であってもよいし、加工対象面11にプローブ等を接触させることで当該加工対象面11の凹凸形状データを取得する「接触式」の計測器であってもよい。その他、自動キサゲ加工装置1は、スクレーパユニット20を載置するための工具載置用架台C3や、ハンドチャック30を載置するためのハンドチャック用架台C4等を備えていてもよい。
【0029】
また、ロボットアーム200は、更に、力覚センサ220を備えている。力覚センサ220は、キサゲ加工時に、スクレーパ22に作用する抵抗力(負荷、反力)を検出するセンサである。力覚センサ220は、例えば、3軸力覚センサであり、加工対象面11の切削時におけるX方向、Y方向、Z方向から受ける抵抗力(負荷、反力)を検出することができる。自動キサゲ加工装置1の制御装置100は、力覚センサ220が出力するキサゲ加工中における負荷の状態を監視(モニタリング)し、必要に応じて、負荷の強弱に基づいたフィードバック制御を行うことができる。なお、上述したロボットアーム200は本発明に係るキサゲ加工用ロボットの一例であり、キサゲ加工用ロボットはロボットアーム200に限定されない。本発明に係るキサゲ加工用ロボットは、保持したスクレーパを動作させることによってワーク10の加工対象面11に対して自動でキサゲ加工を行うことができる構成であれば特に限定されない。
【0030】
次に、自動キサゲ加工装置1の制御装置100について説明する。制御装置100は、加工指示データに従ってロボットアーム200を制御し、その結果、ワーク10の加工対象面11に対して加工指示データに応じたキサゲ加工が行われる。また、制御装置100は、ロボットアーム200を制御するための加工指示データを生成する。すなわち、制御装置100は、ロボットアーム200を制御する装置として機能すると共に、ロボットア
ーム200を制御する際に用いる加工指示データを生成するための情報処理装置(加工指示データ生成装置)として機能する。但し、ロボットアーム200を制御するための加工指示データは、制御装置100とは別の情報処理装置(加工指示データ生成装置)によって生成されてもよい。この場合、当該情報処理装置(加工指示データ生成装置)が生成した加工指示データを制御装置100が取得し、取得した加工指示データに従って制御装置100がロボットアーム200を制御する。なお、情報処理装置(加工指示データ生成装置)から制御装置100への加工指示データの送信は有線通信または無線通信のいずれによって行われてもよい。
【0031】
図4は、制御装置100の構成の一例を示すブロック図である。制御装置100は、例えば、一般的なコンピュータである。制御装置100を構成するコンピュータは、通信インターフェース(通信I/F)101、記憶装置102、入出力装置103、及びプロセッサ104を備え、これらが通信バス105を介して接続されている。
【0032】
通信I/F101は、例えばネットワークカードや通信モジュールであってもよく、所定のプロトコルに基づき、他のコンピュータ、機器等と通信を行う。例えば、制御装置100は、通信I/F101を介してワーク10における加工対象面11の三次元形状情報を三次元形状計測器300から受信する。
【0033】
記憶装置102は、例えば、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の主記憶装置、及びHDD(Hard-Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等の補助記憶装置(二次記憶装置)を含んでいる。主記憶装置は、プロセッサ104が読み出すプログラムや他のコンピュータとの間で送受信する情報を一時的に記憶したり、プロセッサ104の作業領域を確保したりする。補助記憶装置は、プロセッサ104が実行するプログラムや他のコンピュータとの間で送受信する情報等を記憶する。また、補助記憶装置は、リムーバブルメディア(可搬記録媒体)を含んでいてもよい。リムーバブルメディアは、例えば、USBメモリ、SDカード、または、CD-ROM、DVDディスク、若しくはブルーレイディスクのようなディスク記録媒体である。記憶装置102(例えば、補助記憶装置)には、オペレーティングシステム(OS)、各種プログラム、および各種情報テーブル等が格納されている。
【0034】
入出力装置103は、例えば、キーボード、マウス等の入力装置、モニタ等の出力装置、タッチパネルのような入出力装置等のユーザインターフェースである。
【0035】
プロセッサ104は、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等の演算処理装置であり、プログラムを実行することにより本実施形態に係
る各処理を行う。例えば、プロセッサ104が、記憶装置102の補助記憶装置に記憶されたプログラムを主記憶装置にロードして実行することによって、後述するような加工指示データを生成するための加工指示データ生成処理等といった各種の処理が実現される。
【0036】
なお、制御装置100は、必ずしも単一の物理的構成によって実現される必要はなく、互いに連携する複数台のコンピュータによって構成されてもよい。
【0037】
次に、制御装置100の機能構成について図5に基づいて説明する。図5は、制御装置100の機能構成の一例を概略的に示すブロック図である。制御装置100は、加工指示データ生成部110、制御部111を機能部として有している。制御装置100のプロセッサ104は、記憶装置102の補助記憶装置に記憶されたプログラムを主記憶装置にロードして実行することにより、上述した各機能部を実現する。加工指示データ生成部110は、加工指示データを生成する加工指示データ生成処理を実行する。制御部111は、加工指示データ生成部110が生成した加工指示データを取得し、当該加工指示データに
従ってロボットアーム200を制御する。
【0038】
次に、自動キサゲ加工装置1のキサゲ加工に係る各処理について説明する。ここでは、ワーク10に対するキサゲ加工の一例として、加工対象面11の平面度が所定の目標平面度を満たすように加工対象面11の凸部を切削する平面出し加工処理を実行し、当該平面出し加工処理の後に、加工対象面11に油溜まり用の窪みを形成する仕上げ加工処理を実行する例について説明する。このように、ワーク10の加工対象面11に対するキサゲ加工を行うに際し、平面出し加工処理と仕上げ加工処理とに分離して行うことによって加工効率を向上させることができる。
【0039】
ここで、制御装置100が平面出し加工処理を実行する際に使用する加工指示データ(以下、「平面出し用加工指示データ」という)を生成する処理(平面出し用加工指示データ生成処理)について説明する。
【0040】
図6は、実施形態1に係るワーク10の加工対象面11を示す図である。図6に示す例において、ワーク10の加工対象面11は矩形平面を有しているが、勿論、加工対象面11の形状、大きさ等の態様は特に限定されない。ここでは、便宜上、加工対象面11の平面(X-Y平面)のうち、長辺方向(図6において、X方向)を長さ方向と呼び、短辺方向(図6において、Y方向)を幅方向と呼ぶ。
【0041】
平面出し加工用指示データの生成に際し、加工指示データ生成部110は、三次元形状計測器300の計測データに基づき、加工対象面11の表面高さ情報(三次元形状データ)を取得する。図7は、加工対象面11の表面高さ情報を説明する図である。表面高さ情報は、加工対象面11の平面方向(X-Y平面方向)における各座標(各測定点)に対応する高さ(Z座標)を示す情報である。便宜上、図7には、加工対象面11における一部の表面高さ情報を示している。
【0042】
加工指示データ生成部110は、加工対象面11の表面高さ情報に基づいて、加工対象面11の凸部を取得する。加工対象面11の凸部は、例えば、加工対象面11の高さ(Z座標)が最も低い位置を基準として、相対的に隆起した部位である。
【0043】
そして、加工指示データ生成部110は、加工対象面11の凸部を、その高さ方向(Z軸方向)にX-Y平面と平行な加工平面によって区分し、複数の加工領域層CRを設定する。
【0044】
図8は、Y=Y1上(Y1は、Y軸上における座標)における加工対象面11の凸部S3の形状を模式的に示す図である。図8に示す符号S0は、加工対象面11における凸部S3のうち、当該凸部S3において高さ(Z座標)が最も高い位置(頂上地点)を通り且つX-Y平面に平行な仮想平面である。図8に示す符号VPは、凸部S3を高さ方向に区分する仮想平面(図8中、一点鎖線で図示)であり、「加工平面」と呼ぶ。加工平面VPは、仮想平面S0と平行(すなわち、X-Y平面と平行)に設定されている。図8に示す例では、加工平面VP1~VP6によって凸部S3が高さ方向(Z軸方向)に区分されており、各加工領域層CRに割り当てられる高さ方向(Z軸方向)の範囲が加工平面VP1~VP6によって画定されている。図8に示す例では、凸部S3における頂上地点側(最上層側)から第1加工領域層CR1~第6加工領域層CR6が割り当てられている。なお、各加工領域層CRに割り当てられる高さ寸法は一定であってもよいし、一定でなくてもよい。また、図8に示す二点鎖線は、加工対象面11の長さ方向における端部位置を示す。
【0045】
図9は、各加工平面VPの高さを等高線として加工対象面11における表面高さを等高
線状に示した図である。図9に示す例では、加工対象面11の平面領域が、等高線(加工平面VP1~VP6)によって第1領域A1から第7領域A7に区画されている。図9に示される等高線は、各加工平面VPによって加工対象面11の凸部S3を仮想的に切断したときの切り口の輪郭と一致する。
【0046】
加工指示データ生成部110は、加工対象面11の平面領域内における各加工領域層CRの平面的な分布領域を示す加工領域層分布情報を生成する。加工領域層CRの平面的な分布領域は、各加工平面VPによって加工対象面11の凸部S3を仮想的に切断したときの切り口に対応する領域といえる。例えば、第1加工領域層CR1の分布領域は、加工対象面11の平面領域内において第1領域A1が占める領域に相当する。第2加工領域層CR2の分布領域は、加工対象面11の平面領域内において第1領域A1及び第2領域A2が占める領域の和に相当する。つまり、第N加工領域層(Nは、2以上の自然数)の分布領域は、加工対象面11の平面領域内において第1領域から第N領域が占める領域の総和に相当する。
【0047】
図10は、加工領域層分布情報を説明する図である。図10中、黒塗り以外の部分が各加工領域層CRの平面的な分布領域を示している。本実施形態における平面出し加工処理は、加工対象面11の凸部S3をその高さ方向に複数の加工領域層CRに区分すると共に、当該複数の加工領域層CRを上層側から順次切削する。図10に示す例では、最上層の第1加工領域層CR1から最下層の第6加工領域層CR6まで、順次上層側から凸部S3を切削することになる。
【0048】
なお、図8に示す符号HLは、加工領域層CRの割り付け高さである。各加工領域層CRの割り付け高さHLは、スクレーパ22における切削刃24が1ストローク当たりに加工対象面11の凸部S3を切削するストローク切削深さΔDSに対応する寸法に設定される。言い換えると、平面出し加工処理において加工対象面11の凸部S3を切削する際、スクレーパ22の切削刃24が1ストローク毎に加工領域層CRの割り付け高さHLに相当するだけのストローク切削深さΔDSが得られるように、加工対象面11に対するスクレーパ22の下方押し込み量δzが設定される。
【0049】
例えば、加工指示データ生成部110は、各加工領域層CRの割り付け高さHLを、予め定められた固定値(例えば、3μm~5μm程度)に設定してよい。或いは、凸部S3の最大高低差(加工対象面11の高さ(Z座標)が最も低い地点と最も高い地点におけるZ軸方向の高低差)に応じて、加工領域層CRの割り付け高さHLを設定してもよい。また、各加工領域層CRにおいて割り付け高さHLを等しくする必要はなく、各層の割り付け高さHLとして異なる値を設定してもよい。例えば、各加工領域層CRにおける割り付け高さHLが、凸部S3の上側(+Z方向側)から下側(-Z方向側)に向かって段階的に小さくなるように設定してもよい。
【0050】
また、加工指示データ生成部110は、ユーザから指定された値を用いて各加工領域層CRにおける割り付け高さHLを設定してもよい。この場合、例えば、キサゲ加工処理の開始前に入出力装置103を介したユーザによる入力操作を受け付けておき、割り付け高さHLを含む入力情報(設定情報)を記憶装置102に記憶しておいてもよい。勿論、加工指示データ生成部110が、各加工領域層CRの割り付け高さHLを自動で設定してもよい。
【0051】
次に、加工指示データ生成部110は、平面出し加工処理時においてスクレーパ22の切削刃24によって加工対象面11の凸部S3を切削する際に切削刃24をストロークさせる経路である加工パスPTを定義するデータが格納された加工点データを加工領域層CR毎に生成する。例えば、加工点データは、加工パスPTに関するデータを加工点番号毎
に対応付けてリストにしたデータであり、図10で説明した加工領域層分布情報に基づいて生成することができる。加工点番号は、例えば、対象とする加工領域層CRに含まれる加工パスPTの通し番号であり、当該加工領域層CRを切削する際における切削刃24の総ストローク回数に一致する。加工パスPTに関するデータは、加工パスPTの加工開始点及び加工終了点を規定するデータであり、例えば、各加工点における加工開始点座標(XY座標)、加工パス方向、加工パス長さが規定されていてもよい。勿論、加工パスPTに関するデータとして、加工パスPTの加工開始点座標(XY座標)及び加工終了点座標(XY座標)が規定されていてもよい。
【0052】
図11は、加工点データを説明する図である。本実施形態において、各加工領域層CRにおける加工パスPTの具体的な設定態様は特に限定されない。
【0053】
ここで、制御装置100の記憶装置102には、図12に示すような切削条件情報テーブルが記憶されている。切削条件情報テーブルは、平面出し加工処理時におけるストローク切削深さΔDS、基準下方押し込み量δzb、基準ストローク抵抗力fsbの対応関係が格納されたデータである。ストローク切削深さΔDS、基準ストローク抵抗力fsb、基準下方押し込み量δzbのフィールドに登録されている具体的な数値は例示である。また、切削条件情報テーブルは、いわゆるデータベースのテーブルであってもよいし、CSV(Comma Separated Values)のような所定の形式のファイルであってもよい。
【0054】
ここで、基準下方押し込み量δzbは、ストローク切削深さΔDSに対応する下方押し込み量δzの基準値である。上記のように、本実施形態においては、加工領域層CRの割り付け高さHLに応じてストローク切削深さΔDSの要求値が定まり、このストローク切削深さΔDSに応じて下方押し込み量δzの基準値が基準下方押し込み量δzbとして定められている。すなわち、基準下方押し込み量δzbは、割り付け高さHL(ストローク切削深さΔDS)に対応する下方押し込み量δzに対して設定された基準値である。
【0055】
また、基準ストローク抵抗力fsbは、平面出し加工処理に係るスクレーパ22のストローク中における切削刃24が加工対象面11からストローク進行方向と逆方向に受ける抵抗力であるストローク抵抗力fsに対して設定される基準値である。上記のように、自動キサゲ加工装置1は、力覚センサ220を備えており、力覚センサ220の検出信号に基づいて、加工対象面11の切削ストローク中に切削刃24がストローク進行方向と逆方向に加工対象面11から受けるストローク抵抗力fsを測定できる。基準ストローク抵抗力fsbは、ストローク切削深さΔDS及び基準下方押し込み量δzbの組み合わせに応じてその大きさが定められている。
【0056】
ストローク切削深さΔDS、基準下方押し込み量δzb、基準ストローク抵抗力fsbの対応関係は、例えば事前の試験切削によって予め求めておくことができる。例えば、試験用ワークを用意し、自動キサゲ加工装置1を用いて当該試験用ワークの表面に対して平面出し加工処理を試験的に実施する。その際、力覚センサ220によってストローク抵抗力fsを測定しながらスクレーパ22の下方押し込み量δzをパラメータ(変数)として試験切削を実施し、試験後に試験用ワークの切削深さを計測することによって、上記3つのパラメータの対応関係を求めることができる。
【0057】
加工指示データ生成部110は、記憶装置102に記憶された切削条件情報テーブルと、各加工領域層CRの割り付け高さHLに基づいて、加工領域層CR毎の下方押し込み量δzの基本制御値を決定する。具体的には、各加工領域層CRの割り付け高さHLに対応する基準下方押し込み量δzbを切削条件情報テーブルから読み出し、加工領域層CR毎に基準下方押し込み量δzbを対応付けた押し込み量設定情報テーブルを生成する。図13は、押し込み量設定情報テーブルの一例を示す図である。押し込み量設定情報テーブル
は、いわゆるデータベースのテーブルであってもよいし、CSV(Comma Separated Values)のような所定の形式のファイルであってもよい。また、図13に示す具体的な数値は例示である。また、図13に示すように、各加工領域層CRの基準下方押し込み量δzbは同じ値に設定される必要は無い。勿論、各加工領域層CRの基準下方押し込み量δzbが同じ値に設定されることは阻害されない。
【0058】
以上のように、制御装置100の加工指示データ生成部110は、加工領域層CR毎の加工点データと押し込み量設定情報テーブルを含む平面出し用加工指示データを生成し、記憶装置102に記憶させる。
【0059】
<キサゲ加工処理フロー>
次に、制御装置100において実行されるキサゲ加工処理フローについて説明する。図14は、制御装置100のプロセッサ104によって実行されるフローチャートである。キサゲ加工処理フローは、例えば、入出力装置103の入力装置を介してユーザからのキサゲ加工開始要求を制御装置100が受け付けることを契機に開始される。
【0060】
先ずステップS101において、加工指示データ生成部110は、上述した平面出し用加工指示データ生成処理を実行し、平面出し用加工指示データを生成する。加工指示データ生成部110が生成した平面出し用加工指示データは、記憶装置102に記憶される。
【0061】
次に、ステップS102において、制御部111は、記憶装置102から平面出し用加工指示データを取得する。そして、取得した平面出し用加工指示データに従ってロボットアーム200を制御し、ワーク10の加工対象面11に対する平面出し加工処理を実行する。平面出し加工処理は、上記のように、加工対象面11の凸部S3を高さ方向に区分する複数の加工領域層CRを上層側から順次切削する処理であり、図8で説明した例においては第1加工領域層CR1から第6加工領域層CR6まで、これらの順に平面出し用加工指示データに従った切削加工が行われる。平面出し用加工指示データには、上記のようにストローク切削深さΔDSに応じた基準下方押し込み量δzb及び基準ストローク抵抗力fsbの関係が定められた押し込み量設定情報テーブルが含まれており、各加工領域層CRを切削する際における下方押し込み量δzの基本制御値には、各加工領域層CRの割り付け高さHL(ストローク切削深さΔDS)に応じた基準下方押し込み量δzbの値が用いられる。
【0062】
ところで、ワーク10の被削性には個体差、バラツキがある。したがって、ワーク10の被削性の考慮せずに、スクレーパ22の下方押し込み量δzを単純に単に基準下方押し込み量δzbとした状態で平面出し加工処理を行ってしまうと、ワーク10の被削性によっては、各加工領域層CRにおける実際の切削深さと、その要求値との誤差が大きくなってしまう場合があり、これに起因して、加工対象面11における平面精度が悪化する虞がある。そこで、本実施形態においては、以下に説明する押し込み量調整制御を実行することにより、ワーク10の被削性を考慮した上で、加工対象面11に対する平面出し加工処理を行うようにした。なお、上記の被削性とは、ワーク10がどれくらい削りやすいかの性質を指し、被削性がよい場合にはワーク10が削り易く、被削性が悪い場合にはワーク10が削りにくいことを意味する。
【0063】
本実施形態に係る押し込み量調整制御は、制御装置100によって実行される。押し込み量調整制御は、概略として、切削対象となる加工領域層である切削対象加工領域層CRtを切削する際、当該切削対象加工領域層CRtの直上に位置する直上加工領域層CRuの切削時におけるスクレーパ22の下方押し込み量δzの制御値と力覚センサ220により測定したストローク抵抗力fsの測定値との関係を示すδ-f特性に基づいて、当該切削対象加工領域層CRtにおけるスクレーパ22の下方押し込み量δzの制御値を調整す
る制御である。
【0064】
ここで、複数の加工領域層CRのうち、最上層に位置する加工領域層である最上加工領域層CRum(図8に示す例では、第1加工領域層CR1)は、基準下方押し込み量δzbの値を用いて切削加工が行われる。そして、制御装置100は、最上加工領域層CRum(第1加工領域層CR1)を平面出し用加工指示データに従って切削する過程で力覚センサ220が測定したストローク抵抗力fsと、最上加工領域層CRum(第1加工領域層CR1)の切削時における下方押し込み量δzの制御値(ここでは、基準下方押し込み量δzb)に基づいて、最上加工領域層CRum(第1加工領域層CR1)のδ-f特性を取得する。なお、δ-f特性の詳細については後述する。
【0065】
制御装置100は、次層である第2加工領域層CR2を切削対象加工領域層CRtとして切削する際、当該切削対象加工領域層CRtである第2加工領域層CR2の直上に位置する直上加工領域層CRu(ここでは、第1加工領域層CR1)におけるδ-f特性に基づいて下方押し込み量δzの制御値を調整する。具体的には、第1加工領域層CR1の切削時に取得したストローク抵抗力fsと、下方押し込み量δzの制御値(ここでは、基準下方押し込み量δzb)に対応する基準ストローク抵抗力fsbとを比較し、その比較結果に基づいて、次層である第2加工領域層CR2における下方押し込み量δzの制御値を調整する。例えば、第1加工領域層CR1の切削時に取得したストローク抵抗力fsが基準ストローク抵抗力fsbよりも大きかった場合には、第1加工領域層CR1の被削性が標準よりもよいと判断し、次層である第2加工領域層CR2における下方押し込み量δzの制御値を、第2加工領域層CR2に設定された基準下方押し込み量δzbよりも小さな値に補正する。一方、第1加工領域層CR1の切削時に取得したストローク抵抗力fsが基準ストローク抵抗力fsbよりも小さかった場合には、第1加工領域層CR1の被削性が標準よりも悪いと判断し、次層である第2加工領域層CR2における下方押し込み量δzの制御値を、第2加工領域層CR2に設定された基準下方押し込み量δzbよりも大きな値に補正する。
【0066】
そして、第3加工領域層CR3を切削対象加工領域層CRtとして切削する際においても、第3加工領域層CR3の直上に位置する第2加工領域層CR2におけるδ-f特性に基づいて下方押し込み量δzの制御値を調整する。このようにして、本実施形態に係る押し込み量調整制御は、切削対象加工領域層CRtの直上に位置する直上加工領域層CRuにおけるδ-f特性に基づいて、順次、2層目以降の各加工領域層を切削する際の下方押し込み量δzの制御値を調整する。
【0067】
次に、δ-f特性に基づいた下方押し込み量δzの調整手法について説明する。図15は、押し込み量調整制御に係るδ-f特性を説明する図である。下段の図は、上段のグラフ中、四角で囲まれた領域の拡大図である。
【0068】
図15は、縦軸をストローク抵抗力fs、横軸を下方押し込み量δzとして、ストローク抵抗力fsと下方押し込み量δzの関係を示したグラフであり、ストローク抵抗力fsを下方押し込み量δzの関数として示している。ここでは説明を簡易にするため、ストローク抵抗力fsと下方押し込み量δzの関係を、原点を通る一次関数式(fs=a*δz)として表しているが、他の関数によってこれらの関係を表してもよい。
【0069】
直線Lbは、基準下方押し込み量δzbと基準ストローク抵抗力fsbの関係を示している。あくまで例示であるが、基準下方押し込み量δzbと基準ストローク抵抗力fsbの関係式は、一次関数fs=5*δzとして図15に示されている。
【0070】
図15に示す直線L1は、第1加工領域層CR1のδ-f特性(以下、「第1層δ-f
特性」という)を示したものであり、直線L2は、第2加工領域層CR2のδ-f特性(以下、「第2層δ-f特性」という)を示したものである。
【0071】
例えば、平面出し用加工指示データにおいて各加工領域層CRに設定されたストローク切削深さΔDS(割り付け高さHL)が3.5μmである場合を例に説明すると、図12の切削条件情報テーブルで説明したように、各加工領域層CRの基準下方押し込み量δzbは5.0mmに設定され、これに対応する基準ストローク抵抗力fsbは25Nとなる。この加工条件下で第1加工領域層CR1を切削した場合、第1加工領域層CR1の被削性が標準通りであれば、第1加工領域層CR1の切削時に測定したストローク抵抗力(以下、「第1層ストローク抵抗力fs1」という)が25Nとして得られるところ、第1加工領域層CR1の被削性次第で、第1層ストローク抵抗力fs1が基準ストローク抵抗力fsbからずれた値として測定されることとなる。
【0072】
ここでは、第1加工領域層CR1の切削時に測定した第1層ストローク抵抗力fs1が30Nであった場合を例に説明する。この場合、原点と座標(δzb,fs1)を通る第1層δ-f特性(図15における直線L1)を求め、この第1層δ-f特性に基づいて、次層である第2加工領域層CR2に設定された基準ストローク抵抗力fsb(ここでは、25N)に対応する下方押し込み量(以下、「第2層下方押し込み量δz2」という)を取得する。図15に示す例では、第2層下方押し込み量δz2は4.17mmとして取得される。
【0073】
第2層下方押し込み量δz2は、以下のように算出できる。すなわち、第1層δ-f特性に対応する直線L1(一次関数fs=a*δz)の傾きaは、fs及びδzにそれぞれ30,5を代入し、30/5=6として算出される。これにより、第1層δ-f特性に対応する関係式がfs=6*δzとして得られ、これに第2加工領域層CR2に設定された基準ストローク抵抗力fsb(ここでは、25N)を代入することで、第2層下方押し込み量δz2が25/6≒4.17mmとして算出される。
【0074】
第2加工領域層CR2の切削時には、上記のように求めた第2層下方押し込み量δz2が下方押し込み量δzの制御値として採用される。すなわち、第2加工領域層CR2における下方押し込み量δzの制御値が、直上加工領域層CRu(ここでは、第1加工領域層CR1)におけるδ-f特性(第1層δ-f特性)に基づいて補正される。なお、第1加工領域層CR1における第1層ストローク抵抗力fs1が基準ストローク抵抗力fsbと等しかった場合には、第2加工領域層CR2における下方押し込み量δzの制御値は補正されず、図13の押し込み量設定情報テーブルで設定された基準下方押し込み量δzbが制御値として採用されることとなる。
【0075】
次に、下方押し込み量δzを第2層下方押し込み量δz2として第2加工領域層CR2を切削した結果、第2加工領域層CR2の切削時に測定したストローク抵抗力(以下、「第2層ストローク抵抗力fs2」という)が23Nであった場合を例に説明する。この場合、原点と座標(δzb,fs2)を通る第2層δ-f特性(図15における直線L2)を求め、この第2層δ-f特性に基づいて、次層である第3加工領域層CR3に設定された基準ストローク抵抗力fsb(ここでは、25N)に対応する下方押し込み量(以下、「第3層下方押し込み量δz3」という)を取得する。図15に示す例では、第3層下方押し込み量δz3は4.53mmとして取得される。具体的には、第2層δ-f特性に対応する直線L2(一次関数fs=a*δz)の傾きaは、fs及びδzにそれぞれ23,4.17を代入し、23/4.17≒5.52として算出される。これにより、第2層δ-f特性に対応する関係式がfs=5.52*δzとして得られ、これに第3加工領域層CR3に設定された基準ストローク抵抗力fsb(ここでは、25N)を代入することで、第2層下方押し込み量δz2が255.52≒4.53mmとして算出される。そして
、第3層下方押し込み量δz3を下方押し込み量δzの制御値として採用し、第3加工領域層CR3の切削が行われる。
【0076】
第3加工領域層CR3以降についても、上記同様に、切削時における下方押し込み量δzの制御値が直上加工領域層CRuにおけるδ-f特性に基づいて順次補正される。つまり、(N+1)層目の加工領域層CRの切削時における下方押し込み量δzの制御値が、直上のN層目の加工領域層CRの切削時に得られたδ-f特性に基づいて、順次補正される。例えば、本実施形態では、第1加工領域層CR1~第6加工領域層CR6のうち、最上層に位置する第1加工領域層CR1を除いた第2加工領域層CR2~第6加工領域層CR6について切削時における下方押し込み量δzの制御値が、第1加工領域層CR1~第5加工領域層CR5におけるδ-f特性に基づいてそれぞれ補正される。なお、最下層に位置する第6加工領域層CR6については、切削時にストローク抵抗力fsを測定する必要は無い。
【0077】
また、押し込み量調整制御において、加工領域層CRの切削時におけるストローク抵抗力fsの測定値としては、加工領域層CRの切削時に力覚センサ220が検出したストローク抵抗力fsに関する検出データの代表値(平均値、中央値等)を採用してもよい。なお、加工領域層CRの切削時に力覚センサ220がストローク抵抗力fsを検出する検出データの数は特に限定されない。本実施形態においては、図11で説明したように、各加工領域層CRを切削する際に切削刃24をストロークさせる加工パスPTが加工領域層CR毎に設定される。そのため、例えば、加工パスPTに従って切削刃24をストロークさせる毎(1ストローク毎)に、ストローク中のストローク抵抗力fsを力覚センサ220が検出ししてもよい。このようにして得られた検出結果の代表値を、対応する加工領域層CRにおけるストローク抵抗力fsとして採用してもよい。また、加工対象面11の平面領域を複数に区分した区分領域毎にδ-f特性を取得し、次層の切削時における下方押し込み量δzの制御値を調整してもよい。
【0078】
上記のように、本実施形態においては、制御装置100が押し込み量調整制御を実行することで、ワーク10の被削性を考慮に入れつつ加工対象面11に対する平面出し加工処理を行うことができる。そのため、ワーク10の被削性に個体差、バラツキがあっても、加工領域層CR毎に設定されているストローク切削深さΔDSに対する実際の切削深さの誤差が大きくなることを抑制できる。これにより、加工対象面11に対する平面出しの精度を向上させることができる。
【0079】
上記のように、平面出し加工処理が終了すると、ステップS103に進む。制御部111は、ステップS103において、平面出し加工処理後における加工対象面11の表面高さ情報を取得し、平面出し加工処理後における加工対象面11の平面度が所定の目標平面度を満たしているか否かを判定する。なお、加工対象面11の表面高さ情報は、三次元形状計測器300の計測データに基づいて取得される。ここでいう「平面度」とは、例えばJIS B 0621「幾何偏差の定義及び表示」に規定されているように「平面形体の幾何学的に正しい平面(幾何学的平面)からの狂いの大きさ」として定義することができる。具体的には、加工対象面11における平面度は、加工対象面11のうち、その高さ(Z座標)が最も高い部位(最も突出した部位)と最も低い位置(最も凹んだ位置)のZ軸方向の高低差として捉えることができる。すなわち、加工対象面11の平面度の値が大きいほど加工対象面11の平面形状における凹凸(起伏)が激しく、加工対象面11の平面度の値が小さいほど加工対象面11の平面形状における凹凸(起伏)が小さく、平滑であることを意味する。加工対象面11の平面度は、加工対象面11における凹凸形状の最大高低差とも言える。本実施形態では、平面出し加工処理後の加工対象面11における凹凸形状の最大高低差が所定の閾値以下である場合に、加工対象面11の平面度が所定の目標平面度を満たすと判断してもよい。
【0080】
ステップS103において加工対象面11の平面度が目標平面度を満たすと判定された場合、ステップS104に進む。一方、ステップS103において加工対象面11の平面度が目標平面度を満たさないと判定された場合、ステップS101に戻り、平面出し用加工指示データ生成処理及び平面出し加工処理を再度実行する。つまり、加工対象面11の平面度が目標平面度を満たすまで、平面出し加工処理が行われる。
【0081】
ステップS104では、加工指示データ生成部110が仕上げ用加工指示データを生成する仕上げ用加工指示データ生成処理を実行する。仕上げ用加工指示データは、制御装置100が仕上げ加工処理を実行する際に使用する加工指示データである。仕上げ用加工指示データは、例えば、入出力装置103の入力装置を介して予めユーザから入力された入力情報に基づいて生成される。入力情報には、例えば、ユーザが指定した当たり面積率や当たり点数が含まれている。ここで、当たり面積率は、ワーク10の加工対象面11における、仕上げ加工処理によって形成される当たり面(凸部)の面積の割合として表されてもよい。また、当たり点数は、加工対象面11における、仕上げ加工処理によって形成される当たり面(凸部)の数として表されてもよい。
【0082】
加工指示データ生成部110は、ユーザが入力した入力情報に含まれるパラメータの条件に合致するように仕上げ用加工指示データを生成する。仕上げ用加工指示データは、スクレーパ22によって加工対象面11に油溜まり用の窪みを形成するための加工パスPT、下方押し込み量δz等といった制御パラメータを加工点番号毎に対応付けてリストにしたデータであってもよい。加工指示データ生成部110が生成した仕上げ用加工指示データは、記憶装置102に記憶される。
【0083】
ステップS105において、制御部111は、記憶装置102から仕上げ用加工指示データを取得し、取得した仕上げ用加工指示データに従ってロボットアーム200を制御し、ワーク10の加工対象面11に対する仕上げ加工処理を実行する。その結果、平面出し加工処理後の加工対象面11に油溜まり用の窪みが形成される。加工対象面11に対する仕上げ加工処理が完了すると、キサゲ加工処理フローが終了する。
【0084】
なお、上述したキサゲ加工処理フローにおいては、平面出し用加工指示データ生成処理、平面出し加工処理、仕上げ用加工指示データ生成処理、及び仕上げ加工処理を一連のフローで実行する例を説明したが、これには限定されない。例えば、平面出し用加工指示データ生成処理や仕上げ用加工指示データ生成処理を、キサゲ加工処理フローに先だって実行しておき、予め記憶装置102に記憶させておいてもよい。
【0085】
<実施形態2>
次に、実施形態2における平面出し加工処理時の押し込み量調整制御について説明する。本実施形態における押し込み量調整制御は、直上加工領域層CRuの平面領域を区分した区分領域毎にδ-f特性を取得し、その直下に位置する切削対象加工領域層CRtの切削時における下方押し込み量δzの制御値を調整することを特徴とする。なお、ここでは実施形態1との相違点を中心に説明し、その他の態様については実施形態1と基本的に共通である。
【0086】
図16は、加工対象面11の平面領域を複数の区分領域RAに区分する分割パターンを説明する図である。図16に示す例では、加工対象面11の平面領域に複数の区分領域RAが矩形領域としてグリッド状に配列されている。但し、区分領域RAの数、大きさ、形状、加工対象面11の平面領域を区分するパターン等は特に限定されない。
【0087】
ここでは、制御装置100の加工指示データ生成部110が平面出し用加工指示データ
を生成する際、加工対象面11の平面領域に割り当てられた区分領域RAのうち、各加工領域層CRと平面的に重なる区分領域を「切削対象区分領域RAt」として特定し、切削対象区分領域RAt毎に加工パスPTを設定する場合を例に説明する。
【0088】
本実施形態においても、実施形態1と同様、切削対象加工領域層CRtを切削する際、当該切削対象加工領域層CRtの直上に位置する直上加工領域層CRuの切削時に取得したδ-f特性に基づいて、切削対象加工領域層CRtにおける下方押し込み量δzの制御値を調整(補正)する。
【0089】
図17は、ワーク10の断面方向における各加工領域層CRの切削対象区分領域RAtを模式的かつ部分的に示した図である。ここでは、例示的に、第3加工領域層CR3を切削対象加工領域層CRtとし、第3加工領域層CR3の切削時における下方押し込み量δzの制御値を、直上加工領域層CRuである第2加工領域層CR2のδ-f特性に基づいて補正する内容を説明する。また、図17において、凸部S3の下方に位置する領域のうち、縦破線で区切られている個々の領域が切削対象区分領域RAtを模式的に表している。
【0090】
図17において、切削対象加工領域層CRt及び直上加工領域層CRuにおける切削対象区分領域RAtにハッチングを付している。また、図中の符号RAt1,RAt2,RAt3は、直上加工領域層CRuにおける切削対象区分領域RAtであり、符号RAt1´,RAt2´,RAt3´,RAt4´は、切削対象加工領域層CRtにおける切削対象区分領域RAtである。
【0091】
本実施形態における押し込み量調整制御では、制御装置100は、直上加工領域層CRuの切削対象区分領域RAt毎にδ-f特性を取得する。すなわち、図17の例では、RAt1,RAt2,RAt3のδ-f特性が個別に取得される。そして、切削対象加工領域層CRtのうち、直上加工領域層CRuの切削対象区分領域RAt(RAt1,RAt2,RAt3)と上下に重なる領域(RAt1´,RAt2´,RAt3´)を切削する際の下方押し込み量δzの制御値を、当該領域(RAt1´,RAt2´,RAt3´)に対応する(当該領域の直上に位置する)切削対象区分領域RAt(RAt1,RAt2,RAt3)の各々におけるδ-f特性に基づいて調整する。つまり、切削対象加工領域層CRtの切削対象区分領域RAt1´,RAt2´,RAt3´における下方押し込み量δzが、直上加工領域層CRuの切削対象区分領域RAt1,RAt2,RAt3毎に取得された各δ-f特性に基づいてそれぞれ調整される。また、切削対象加工領域層CRtのうち、直上加工領域層CRuの切削対象区分領域RAtと上下に重ならない領域RAt4´を切削する際には、例えば、直上加工領域層CRuの切削時に力覚センサ220が検出したストローク抵抗力fsに関する検出データの代表値(平均値、中央値等)を用いて取得したδ-f特性に基づいて下方押し込み量δzを調整するようにしてもよい。
【0092】
本実施形態に係る押し込み量調整制御によれば、加工対象面11の平面領域を複数に区分する区分領域を1単位としてδ-f特性に基づいた下方押し込み量δzの調整が可能となる。これによれば、切削対象加工領域層CRtの切削時における下方押し込み量δzをより細やかに調整することが可能となり、平面出し加工処理における平面出しの精度を更に向上させることができる。
【0093】
<その他の実施形態>
上記の実施形態はあくまでも一例であって、本開示はその要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得る。また、本開示において説明した処理や手段は、技術的な矛盾が生じない限りにおいて、自由に組み合わせて実施することができる。
【0094】
また、1つの装置が行うものとして説明した処理が、複数の装置によって分担して実行されてもよい。あるいは、異なる装置が行うものとして説明した処理が、1つの装置によって実行されても構わない。コンピュータシステムにおいて、各機能をどのようなハードウェア構成によって実現するかは柔軟に変更可能である。
【0095】
本開示は、上記の実施形態で説明した機能を実装したコンピュータプログラムをコンピュータに供給し、当該コンピュータが有する1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出して実行することによっても実現可能である。このようなコンピュータプログラムは、コンピュータのシステムバスに接続可能な非一時的なコンピュータ可読記憶媒体によってコンピュータに提供されてもよいし、ネットワークを介してコンピュータに提供されてもよい。非一時的なコンピュータ可読記憶媒体は、例えば、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクドライブ(HDD)等)、光ディスク(CD-ROM、DVDディスク、ブルーレイディスク等)など任意のタイプのディスク、読み込み専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、EPROM、EEPROM、磁気カード、フラッシュメモリ、または光学式カードのような、電子的命令を格納するために適した任意のタイプの媒体を含む。
【符号の説明】
【0096】
1・・・自動キサゲ加工装置
10・・・ワーク
11・・・加工対象面
100・・・制御装置
110・・・加工指示データ生成部
111・・・制御部
200・・・ロボットアーム
300・・・三次元形状計測器
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