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  • 特開-道路標示材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065773
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】道路標示材
(51)【国際特許分類】
   E01F 9/512 20160101AFI20240508BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240508BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
E01F9/512
B32B27/00 M
B32B27/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174792
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】本橋 晃
【テーマコード(参考)】
2D064
4F100
【Fターム(参考)】
2D064AA07
2D064CA03
2D064DA05
2D064DA06
2D064EA02
2D064EB22
2D064JA02
4F100AA21
4F100AG00
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK03A
4F100AK04A
4F100AK07A
4F100AK25
4F100AK53B
4F100AK68
4F100AK68A
4F100AK71
4F100AL06B
4F100BA02
4F100BA07
4F100CA13A
4F100CB00
4F100CB00B
4F100DE01
4F100GB90
4F100JA03
4F100JA03A
4F100JA03B
4F100JA11
4F100JA11A
4F100JA11B
4F100JB16B
4F100JK03
4F100JK03A
4F100JK03B
4F100JL11
4F100JL11B
4F100JN06
4F100JN06A
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】予め地面にプライマー等を塗布せずに設置面に取り付けられる道路標示材を提供する。
【解決手段】道路標示材1は、結晶性プラスチックを主成分とし、顔料および反射材のすくなくとも一方を含有する層状の基材10と、基材10上に形成され、結晶構造を含む熱可塑性樹脂を主成分とする熱可塑性接着層20とを備える。JIS K7133で規定される125℃30分の熱収縮率は1%以下であり、JIS K 7128-3に準拠して測定した加熱溶融後の引き裂き強度が10N/mm以下である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性プラスチックを主成分とし、顔料および反射材のすくなくとも一方を含有する層状の基材と、
前記基材上に形成され、結晶構造を含む熱可塑性樹脂を主成分とする熱可塑性接着層と、
を備え、
JIS K7133で規定される125℃30分の熱収縮率が1%以下であり、
JIS K 7128-3に準拠して測定した加熱溶融後の引き裂き強度が10N/mm以下である、
道路標示材。
【請求項2】
前記結晶性プラスチックとして、オレフィン系樹脂、α-オレフィン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体の少なくとも一つを含む、
請求項1に記載の道路標示材。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂は、エポキシを有する官能基を含むポリマーである、
請求項1に記載の道路標示材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路面等に各種標示を形成するための道路標示材に関する。
【背景技術】
【0002】
道路や駐車場等の地面には、センターラインや路側帯等を示す線や、制限速度や規制の内容等を示すための数字や文字等の各種標示が設けられる。
このような標示は、調製した塗料等を地面に塗布することによって形成するのが一般的であるが、施工に長時間かかることや、作業者によって質がばらつきやすい等の問題がある。
【0003】
この問題に関し、特許文献1には、加熱されて設置面へ付着する道路標示シートが開示されている。この道路標示シートは、加熱によって軟化または溶融する熱可塑性を有する基材シートを複数備え、その一部の外形が数字や文字等の形状になっている。したがって、形成される標示の外観が作業者によってばらつきにくいという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6685862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の道路標示シートは、熱可塑性接着剤を含むが、これは、基材シートどうしを一体にすることを目的としたものであり、設置面への接合においては、予め地面にプライマー等が塗布され、設置面に接着力を付与することが一般的である。
しかしながら、このプライマーの塗布作業には時間と労力を多く要するため、これを必要とせずに設置できる道路標示材が求められている。
【0006】
上記を踏まえ、本発明は、予め地面にプライマー等を塗布せずに設置面に取り付けられる道路標示材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、結晶性プラスチックを主成分とし、顔料および反射材の少なくとも一方を含有する層状の基材と、基材上に形成され、結晶構造を含む熱可塑性樹脂を主成分とする熱可塑性接着層とを備える道路標示材である。
この道路標示材は、JIS K7133で規定される125℃30分の熱収縮率が1%以下であり、JIS K 7128-3に準拠して測定した加熱溶融後の引き裂き強度が10N/mm以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る道路標示材は、予め地面にプライマー等を塗布せずに設置面に取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る道路標示材の模式平面図である。
図2】同道路標示材の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態について、図1を参照して説明する。
図1は、本実施形態の道路標示材1を示す平面図であり、図2は、道路標示材1の模式断面図である。図1において、道路標示材1は、矢印の形の平面形状を有しているが、これは一例であり、所望の標示内容の一部または全部を構成する、文字、線、絵柄、図形等とすることができる。
【0011】
図2に示すように、道路標示材1は、シート状の基材10と、基材10の一方の面に形成された熱可塑性接着層20とを備える。
【0012】
基材10は、道路標示材1の色彩や反射特性を規定する層であり、結晶性のプラスチックと、顔料および反射材の一方または両方を含有する。顔料および反射材は、標示の内容に応じて、公知の材料から適宜選択できる。
顔料としては、酸化チタン、カーボンブラック等を例示できる。
反射材としては、酸化チタン、ガラスビーズ、炭酸カルシウム、アルミ粉、マイカなどを例示できる。酸化チタンは、顔料および反射材のいずれとしても使用できる。
【0013】
結晶性プラスチックは、基材10に最も多く含まれる材料、すなわち基材10の主成分である。基材10は、結晶性プラスチックを主成分とすることにより、加熱による収縮が小さく構成されている。
基材10に適した結晶性プラスチックとしては、オレフィン系樹脂;α-オレフィン系樹脂;直鎖型ポリエチレン等のポリエチレン;低密度ポリプロピレン、高密度ポリプロピレン、中密度ポリプロピレン等のポリプロピレン;エチレン-酢酸ビニル共重合体エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)等を例示できる。
【0014】
熱可塑性接着層20は、道路標示材が適用されることの多いアスファルトやコンクリート等に対し、強い接着性を発揮する。
発明者が行った各種検討により得られた知見に基づき、熱可塑性接着層20は、結晶構造を含む接着性熱可塑性樹脂を主成分としている。熱可塑性接着層20に適した材料としては、エチレン-エポキシ変性樹脂、メタクリル酸グリシジル等を例示できる。中でも、エポキシ基を有する官能基を含むポリマーが特に優れている。熱可塑性接着層20は、単一の材料で構成されてもよいし、複数種類の材料を混合して構成されてもよい。
【0015】
基材10および熱可塑性接着層20の2層からなる道路標示材は、基材10が結晶性プラスチックを主成分とし、かつ熱可塑性接着層20が結晶構造を含む接着性熱可塑性樹脂を主成分とすることにより、全体として加熱による収縮が極めて小さく構成されている。
具体的には、道路標示材1において、JIS K7133で規定される125℃30分の熱収縮率は1%以下である。
【0016】
道路標示材1は、基材10の材料を混練したマスターバッチを層状に押出成形して基材10を形成し、その上に熱可塑性接着層20の材料を押出成形して積層することにより作製できる。各層の押出成形時の二次加熱の条件により道路標示材1の熱収縮率が変化するため、二次加熱の条件を適切に設定することにより、上述の熱収縮率を実現できる。
【0017】
道路標示材1の使用時の動作について説明する。
清掃により設置面のゴミ等を取り除いた後、所望の標示に対応した道路標示材1を、熱可塑性接着層20を設置面に向けて設置面上に配置する。設置面は、典型的にはアスファルトであるが、これには限られず、屋内駐車場のコンクリート面等であってもよい。
【0018】
道路標示材1の設置位置および向き等が問題ないことを確認したら、道路標示材を高温で加熱する。加熱温度としては、200℃以上が好ましく、方法としてはバーナーによる炙り等を例示できる。
【0019】
道路標示材1を高温で加熱すると、基材10の物性が変化し(詳細は後述する)するとともに、熱可塑性接着層20が溶融して強力な接着性を発揮し、予め設置面にプライマーを塗工しなくても設置面に強固に接合される。
接合後の道路標示材に、他の道路標示材の一部または全部を重ねて高温加熱することにより、複数の道路標示材を組み合わせて所望の標示を形成することもできる。
【0020】
道路標示材1の熱収縮率は極めて小さいため、高温加熱時に平面視形状が変化して所望の内容と異なるものとなったり、シワ等の外観不良を生じたりすることが好適に抑制され、所望の標示を良好な外観で簡便に形成でき、作業者の技量によるばらつきもほとんどない。
【0021】
基材10は、結晶性プラスチックを主成分とするため、高温加熱の前においては、高い引き裂き強度を有し、シートとしての取り扱い性に優れている。
その一方で、施工時に高温加熱されると、基材10および熱可塑性接着層20が溶融して結晶構造が非晶質状態に変化するため、引き裂き強度が著しく低下する。
このため、施工後の道路標示材1の一部に剥離するような力が加わった場合、力が作用した部位の付近ですぐちぎれて小片となり、標示材の広い範囲がつられて剥離する事態が生じない。したがって、路側帯の境界線やセンターライン等の、車両等の走行方向に延びる長い線を道路標示材1で形成した場合も、道路標示材1が線に沿って長く剥離して車両の車軸等に巻き付く等の自体を確実に防止することができる。
道路標示材1がこのような効果を奏するために必要な高温加熱後の引き裂き強度は、JIS K7128-3に準拠した測定で10N/mm以下であり、5N/mm以下であることがより好ましい。
【0022】
本発明に係る道路標示材について、実施例および比較例を用いてさらに説明する。本発明は、実施例および比較例の具体的内容のみによって何ら制限されない。
文中における「部」は、とくにことわらない限り質量部を意味する。
【0023】
(実施例)
基材10の材料として、下記を準備した。
結晶性プラスチック樹脂:エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂(住友化学社製 スミテートKA-30) 70部
顔料:硫酸法酸化チタン(ルチル型:石原産業社製 R-820) 20部
反射材:ソーダ石灰ガラスビーズ(ブライト標識工業社製 SAW-0610) 10部
上記材料を混錬してマスターバッチ化した後、押出成形によって厚み1mmのシート状に成形し、基材10を作製した。
基材10上に、結晶構造を含む熱可塑性樹脂であるエチレン-グリシジルメタクリレート系共重合体(住友化学社製 BF-30)を、Tダイを用いた押出成形にて100μmの厚みで積層し、熱可塑性接着層20を形成した。上記BF-30は、エポキシ構造を含むエチレン系ポリマーである。
基材10および熱可塑性接着層20をロール状に巻き取る際に融点(70~105℃)以上で20秒間二次加熱し、実施例に係る道路標示材を作製した。JIS K7133に則って測定したこの道路標示材の125℃30分における熱収縮率は0.8%であった。
【0024】
(比較例1)
実施例に係る基材を、熱可塑性接着層を設けずにそのまま使用した。基材上に、スプレータイプのエポキシ系接着剤(積水化学社製 RM-501)を塗布して乾燥した。その後、接着剤をアスファルト側に向けて基材をアスファルト上に施工した。
比較例1は、概ね従来の施工態様を再現したものである。
【0025】
(比較例2)
実施例に係る道路標示材の製造過程における二次加熱条件を調節し、JIS K7133で規定される125℃30分の熱収縮率を1.5%とした点を除き、実施例と同様の手順で比較例2に係る道路標示材を作製した。
【0026】
各例の道路標示材に対し、以下の評価を行った。
<設置面への接合性>
骨材、石などを含む密度の比較的高いアスファルト路面上に、熱可塑性接着層20を路面に向けて各例の道路標示材(幅100mm)を配置し、新富士バーナー社製の火炎バーナーにて10分間あぶる火炎処理を施した。
火炎処理後に、道路標示材の剥離を試みた。剥離によりアスファルトの凝集破壊を生じたものを合格(○)、道路標示材のみがはがれる界面剥離や、道路標示材のアスファルト上への残留等により、アスファルトの破壊を認めなかったものを不合格(×)とした。
【0027】
<施工後の外観>
各例について、火炎処理後の道路標示材の幅を計測した。幅寸法の変化量が初期値の1%以下であったものを合格(○)、1%を超えたものを不合格(×)とした。
結果を表1に示す。
【0028】
<高温加熱後の引き裂き強度>
各例の道路標示材を2枚のテフロン(登録商標)シートで挟み、新富士バーナー社製の火炎バーナーにて10分間あぶった。その後、道路標示材を取出し、JIS K 7128-3に準拠して引き裂き強度を測定した。引き裂き強度が10N/mm以下であったものを合格(○)、10N/mmを超えたものを不合格(×)とした。
【0029】
【表1】
【0030】
表1に示されるように、実施例は、設置面への接合性および設置後の外観のいずれも良好であった。比較例1では、アスファルトへの接合強度は十分であったものの、実施例に比して施工時間が著しく長かった。比較例2は、実施例と同一材質であるものの、熱収縮率が充分に小さくないため、施工後に大きく収縮し、設置後の外観が良好でなかった。
また、実施例の道路標示材を、バーナーを用いずに120℃程度に加熱して設置面への接合を試みたところ、接合性は十分でなかった。上記火炎処理においては、道路標示材が300℃超に加熱されていると推測されるため、道路標示材を充分設置面に接合するためには、十分な加熱により溶融させることが必要であり、加熱手段としてはバーナーが好適であると考えられた。
【0031】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせなども含まれる。
【符号の説明】
【0032】
1 道路標示材
10 基材
20 熱可塑性接着層
図1
図2