(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065793
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】レモンバーベナ葉抽出物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 36/85 20060101AFI20240508BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20240508BHJP
A61K 31/7028 20060101ALI20240508BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240508BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240508BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240508BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240508BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240508BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240508BHJP
A61P 3/04 20060101ALN20240508BHJP
A61P 31/16 20060101ALN20240508BHJP
【FI】
A61K36/85
A61K31/7048
A61K31/7028
A61P1/00
A61P1/16
A61P9/00
A61P17/00
A61P37/02
A61P25/00
A61P3/04
A61P31/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174823
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】592079815
【氏名又は名称】山川貿易株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】522232961
【氏名又は名称】MED R&D株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相川 淳
(72)【発明者】
【氏名】礒田 博子
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 光敏
【テーマコード(参考)】
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4C086AA04
4C086EA07
4C086EA11
4C086NA20
4C086ZA01
4C086ZA36
4C086ZA66
4C086ZA75
4C086ZA89
4C086ZB07
4C088AB12
4C088AC05
4C088BA08
4C088CA08
4C088NA20
4C088ZA01
4C088ZA36
4C088ZA66
4C088ZA75
4C088ZA89
4C088ZB07
(57)【要約】
【課題】 レモンバーベナ葉の抽出工程を2回に分けることによって、抽出工程に要する時間を短くして製造コスト削減を可能とすると共に、有効成分を効率よく抽出し品質を安定させる製造方法を提供する。
【解決手段】 抽出溶媒としてアルコール水溶液を用いて、レモンバーベナ葉からベルバスコシド及びベルベナリン含む抽出物を得るためのレモンバーベナ葉抽出物の製造方法において、抽出溶媒としてアルコール水溶液を用いてレモンバーベナ葉からベルバスコシド及びベルベナリンを抽出する第1抽出工程と、抽出溶媒としてアルコール水溶液を用いて前記第1工程で使用したレモンベーベナ葉の残渣からベルバスコシド及びベルベナリンを抽出する第2抽出工程とを含み、前記第1抽出工程及び前記第2抽出工程における前記アルコール水溶液は共にアルコール濃度が15~45体積%である、ことを特徴とするレモンバーベナ葉抽出物の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抽出溶媒としてアルコール水溶液を用いて、レモンバーベナ葉からベルバスコシド及びベルベナリン含む抽出物を得るためのレモンバーベナ葉抽出物の製造方法において、
抽出溶媒としてアルコール水溶液を用いてレモンバーベナ葉からベルバスコシド及びベルベナリンを抽出する第1抽出工程と、抽出溶媒としてアルコール水溶液を用いて前記第1工程で使用したレモンベーベナ葉の残渣からベルバスコシド及びベルベナリンを抽出する第2抽出工程とを含むことを特徴とするレモンバーベナ葉抽出物の製造方法。
【請求項2】
前記第1抽出工程及び前記第2抽出工程における前記アルコール水溶液は共にアルコール濃度が15~45体積%である、請求項1記載のレモンバーベナ葉抽出物の製造方法。
【請求項3】
前記第1抽出工程及び前記第2抽出工程における前記アルコール水溶液は共にアルコール濃度が25~35体積%である、請求項2記載のレモンバーベナ葉抽出物の製造方法。
【請求項4】
前記第1抽出工程及び第2抽出工程における前記アルコール水溶液は共にエタノール水溶液である、請求項1又は2記載のレモンバーベナ葉抽出物の製造方法。
【請求項5】
前記第1抽出工程及び第2抽出工程における前記アルコール水溶液の温度は共に40~70℃である、請求項1又2記載のレモンバーベナ葉抽出物の製造方法。
【請求項6】
前記第1抽出工程及び第2抽出工程における前記アルコール水溶液の温度は共に50~60℃である、請求項5記載のレモンバーベナ葉抽出物の製造方法。
【請求項7】
前記第1抽出工程及び第2抽出工程におけるレモンバーベナ葉の重量とアルコール水溶液の体積との比率は共に1~15g/100mLである、請求項1又は2記載のレモンバーベナ葉抽出物の製造方法。
【請求項8】
前記第1抽出工程及び第2抽出工程におけるレモンバーベナ葉の重量とアルコール水溶液の体積との比率は共に4~10g/100mLである請求項7記載のレモンバーベナ葉抽出物の製造方法。
【請求項9】
前記第1抽出工程及び第2抽出工程における抽出時間は共に30~180分である請求項1又は2記載のレモンバーベナ葉抽出物の製造方法。
【請求項10】
前記第1抽出工程及び第2抽出工程における抽出時間は共に40~80分である請求項9記載のレモンバーベナ葉抽出物の製造方法。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のレモンバーベナ葉抽出物の製造方法によって得られた抽出物から、さらに抽出溶媒を除去して乾燥粉末を得るレモンバーベナ葉抽出物粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抽出溶媒としてアルコール水溶液を用いて、レモンバーベナ葉からベルバスコシド及びベルベナリンを含む抽出物を得るためのレモンバーベナ葉抽出物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レモンバーベナ等の植物の部位群より選ばれる少なくとも1種を含有することにより、肥満を防止する医薬等について、抽出溶剤として80体積%エタノール水溶液を用いて3日間浸漬した後、ろ液を凍結乾燥し、抽出乾燥物を得ることや(特許文献1)、レモンバーベナ葉等の植物から抽出される抽出物を有効成分とする抗インフルエンザウイルス剤について、抽出溶剤として50体積%エタノール水溶液を用いて3時間還流抽出後、抽出液を濾別し、濃縮、凍結乾燥することにより、前記抽出物を得ることが知られている(特許文献2)。
【0003】
しかし、抽出工程において、抽出時間と抽出量は必ずしも比例関係にあるものではないことから、レモンバーベナ葉の抽出時間を3時間以上行うことは、抽出効率を考慮すると抽出物の製造コスト削減に限界があり、また、有効成分以外の望ましくない不純物が抽出されることがあるため品質が安定しないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-075640号公報
【特許文献2】特開2004-059463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の問題に鑑み、レモンバーベナ葉の抽出工程を2回に分けることによって、抽出工程に要する時間を短くして製造コスト削減を可能とすると共に、有効成分を効率よく抽出し品質を安定させるレモンバーベナ葉抽出物の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、抽出溶媒としてアルコール水溶液を用いて、レモンバーベナ葉からベルバスコシド及びベルベナリン含む抽出物を得るためのレモンバーベナ葉抽出物の製造方法において、
抽出溶媒としてアルコール水溶液を用いてレモンバーベナ葉からベルバスコシド及びベルベナリンを抽出する第1抽出工程と、抽出溶媒としてアルコール水溶液を用いて前記第1工程で使用したレモンベーベナ葉の残渣からベルバスコシド及びベルベナリンを抽出する第2抽出工程とを含み、
前記第1抽出工程及び前記第2抽出工程における前記アルコール水溶液は共にアルコール濃度が15~45体積%である、
ことを特徴とするレモンバーベナ葉抽出物の製造方法が提供される。
【0007】
前記第1抽出工程及び前記第2抽出工程における前記アルコール水溶液は共にアルコール濃度が25~35体積%であることが好ましい。
【0008】
前記第1抽出工程及び第2抽出工程における前記アルコール水溶液は共にエタノール水溶液であることが好ましい。
【0009】
前記第1抽出工程及び第2抽出工程における前記アルコール水溶液の温度は共に40~70℃であることが好ましい。
【0010】
前記第1抽出工程及び第2抽出工程における前記アルコール水溶液の温度は共に50~60℃であることが好ましい。
【0011】
前記第1抽出工程及び第2抽出工程におけるレモンバーベナ葉の重量とアルコール水溶液の体積との比率は共に1~15g/100mLであることが好ましい。
【0012】
前記第1抽出工程及び第2抽出工程におけるレモンバーベナ葉の重量とアルコール水溶液の体積との比率は共に4~10g/100mLであることが好ましい。
【0013】
前記第1抽出工程及び第2抽出工程における抽出時間は共に30~180分であることが好ましい。
【0014】
前記第1抽出工程及び第2抽出工程における抽出時間は共に40~80分であることが好ましい。
【0015】
前記レモンバーベナ葉抽出物の製造方法によって得られた抽出物から、さらに抽出溶媒を除去して乾燥粉末を得ることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のレモンバーベナ葉抽出物の製造方法は、レモンバーベナ葉の抽出工程を2回に分け、第1抽出工程の開始から第2抽出工程終了までの抽出に要する時間を短縮化することにより製造コストの削減を可能とする。また、抽出工程を2回に分けることにより、同時に抽出される不純物の抽出量を抑制し、レモンバーベナ葉に含有される有効成分であるベルバスコシド及びベルベナリンを効率よく抽出し品質を安定させることができる。前記抽出物から、さらに抽出溶媒を除去して乾燥粉末を得るレモンバーベナ葉抽出物粉末を得ることができ、前記抽出物粉末は、生体恒常性の維持に寄与すると共に、神経変性疾患治療に用いることができる可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1のレモンバーベナ葉抽出物を試料とした、HPLCを用いたベルバスコシドのクロマトグラムである。(a)は第1抽出工程後ろ液、(b)は第2抽出工程後ろ液を示す。
【
図2】比較例1のレモンバーベナ葉抽出物を試料とした、HPLCを用いたベルバスコシドのクロマトグラムである。(a)は第1抽出工程後ろ液、(b)は第2抽出工程後ろ液を示す。
【
図3】比較例2のレモンバーベナ葉抽出物を試料とした、HPLCを用いたベルバスコシドのクロマトグラムである。(a)は第1抽出工程後ろ液、(b)は第2抽出工程後ろ液を示す。
【
図4】実施例1のレモンバーベナ葉抽出物を試料とした、HPLCを用いたベルベナリンのクロマトグラムである。(a)は第1抽出工程後ろ液、(b)は第2抽出工程後ろ液を示す。
【
図5】比較例1のレモンバーベナ葉抽出物を試料とした、HPLCを用いたベルベナリンのクロマトグラムである。(a)は第1抽出工程後ろ液、(b)は第2抽出工程後ろ液を示す。
【
図6】比較例2のレモンバーベナ葉抽出物を試料とした、HPLCを用いたベルベナリンのクロマトグラムである。(a)は第1抽出工程後ろ液、(b)は第2抽出工程後ろ液を示す。
【
図7】実施例1のレモンバーベナ葉抽出物を試料とした、多能性幹細胞を用いた全ゲノムマイクロアレイ解析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のレモンバーベナ葉抽出物の製造方法について詳細に説明する。
【0019】
本発明は、レモンバーベナ葉に含有される有効成分であるベルバスコシド及びベルベナリンの抽出量に着目したものであり、前記ベルバスコシド及びベルベナリン以外の成分を不純物と考え、前記不純物の抽出量を抑制しつつ、有効成分であるベルバスコシド及びベルベナリンの抽出量を短時間で効率よく得ることができる。
【0020】
本発明で使用するレモンバーベナ葉は、クマツヅラ科の落葉低木であるレモンバーベナの葉であり、強いレモンの香りを放ち、明るい緑色で細長い形状をしている。前記レモンバーベナ葉を天日乾燥、熱風乾燥及び凍結乾燥等の公知の乾燥方法を用いて乾燥した後、粉砕機を用いて、直径または長さを最大でも30mm以下に粉砕したものを抽出に用いる。粉砕機には公知の粉砕機を用いることができるが、粉砕時間を短くできることから、ジョークラッシャーやインパクトクラッシャー等の粗粉砕機またはロールクラッシャーやSAGミル等の中間粉砕機を用いることが好ましい。
【0021】
本発明における抽出工程は、ソックスレー抽出器等公知の抽出器を用い、第1抽出工程及び第2抽出工程の2回に分けて抽出を行う。第1抽出工程の実施後、セルロースフィルター、ガラスフィルターまたはメンブレンフィルター等の公知のフィルターを用いて抽出液のろ過を行い、ろ液をガラス容器等に一時保存する。続けて、ろ別したレモンバーベナ葉の残渣を抽出器に投入し、再度アルコール水溶液を用いて第2抽出工程を実施する。第1抽出工程及び第2抽出工程の抽出条件は同一でも異なっていてもよいが、誤操作を防止する観点から同一であることが好ましい。第2抽出工程の実施後、第1抽出工程の実施後と同様に抽出液のろ過を行い、ろ液を第1抽出工程後に一時保存したろ液と混合する。混合後のろ液が本発明におけるレモンバーベナ葉抽出物に該当する。第2抽出工程後にろ別したレモンバーベナ葉の残渣は廃棄する。
【0022】
本発明の第1抽出工程及び第2抽出工程における抽出溶媒には、エタノール、メタノール、イソパノール等のアルコールを含むアルコール水溶液を用いる。安全性や入手の容易性からエタノール水溶液を用いることが好ましい。アルコール水溶液のアルコール濃度は、15~45体積%が好ましく、25~35体積%がさらに好ましい。15体積%未満であると有効成分の十分な抽出量を得ることができず、45体積%を超えると前記不純物の抽出量を抑制することが困難となる。
【0023】
本発明の第1抽出工程及び第2抽出工程における抽出温度である前記アルコール水溶液の温度は、共に40~70℃であることが好ましく、共に50~60℃であることがさらに好ましい。40℃未満であると有効成分の十分な抽出量を得ることができず、70℃を超えると前記不純物の抽出量を抑制することが困難となる。
【0024】
本発明の第1抽出工程及び第2抽出工程におけるレモンバーベナ葉の重量とアルコール水溶液の体積との比率は、共に1~15g/100mLであることが好ましく、共に4~10g/100mLであることがさらに好ましい。1g/100mL未満であると有効成分の十分な抽出量を得ることができず、15g/100mLを超えると前記不純物の抽出量を抑制することが困難となる。
【0025】
本発明の第1抽出工程及び第2抽出工程における抽出時間は、共に30~180分であることが好ましく、共に40~80分であることがさらに好ましく、共に50~70分であることがより好ましい。10分未満であると有効成分の十分な抽出量を得ることができず、90分以上であると前記第1抽出工程の実施後のろ過操作を含む抽出時間の合計が180分を超えることから、製造コストを削減することが困難となる。
【0026】
前記レモンバーベナ葉抽出物から、さらに抽出溶媒を除去して乾燥粉末を製造することができる。運搬、輸送等の流通時の取扱いが容易であることから、粉末の形態とすることが好ましい。抽出溶媒を除去して乾燥粉末を製造する方法としては、天日乾燥、熱風乾燥及び凍結乾燥等の公知の乾燥方法を用いることができる。高温を付与せず有効成分が変質しにくいことから凍結乾燥を用いることが好ましい。
【0027】
さらに、乾燥粉末を得る場合、デキストリン、コーンスターチ、乳頭等の公知の賦形剤を用いることができる。
【実施例0028】
以下に本発明を実施例により詳細に説明する。なお、実施例における測定方法及び試験方法は以下のとおりである。
【0029】
(1)ベルバスコシドの抽出量測定
各試料中のベルバスコシドの定量は、HPLC装置(アジレント・テクノロジー(株) 1220 Infinity II LC システム)を用い、以下の測定条件で行った。ベルバスコシド試薬(富士フイルム和光純薬(株))を用いて検量線を作成することにより、ベルバスコシドの抽出量を測定した。
<測定条件>
カラム:Agilent SB-C18
オーブン:40℃
流速:1.0mL/min.
注入量:10μL
検出波長:331nm
溶離液:「0.1%ギ酸水/0.1%ギ酸メタノール」を用い、「100/0」→「0/100」(35分)のグラジエントを行う。
【0030】
(2)ベルベナリンの抽出量測定
各試料中のベルベナリンの定量は、HPLC装置(アジレント・テクノロジー(株) 1220 Infinity II LC システム)を用い、以下の測定条件で行った。ベルベナリン試薬(富士フイルム和光純薬(株))を用いて検量線を作成することにより、ベルベナリンの抽出量を測定した。
<測定条件>
カラム:Agilent SB-C18
オーブン:40℃
流速:1.0mL/min.
注入量:10μL
検出波長:241nm
溶離液:「0.1%ギ酸水/0.1%ギ酸メタノール」を用い、「100/0」→「0/100」(40分)のグラジエントを行う。
【0031】
(3)抽出物の濃度別試料による細胞増殖率試験
ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を用いて、神経細胞SH-SY5Y(America Type Culture Collection)を5%CO2インキュベータの37℃加湿雰囲気下で培養した。また、細胞増殖率試験は、培地に還元血清培地であるOpti-MEMを用い、MTTアッセイにより実施した。
以下のスケジュールを用いて細胞増殖率試験を行った。
(i)最初に、96ウェルプレート(フィブロネクチンコートプレート、Corning社製BioCoat)を用い、神経細胞SH-SY5Yを2×105cell/mLの濃度で播種し、上記インキュベータで培養した。
(ii)24時間後、培地を除去し、細胞をレモンバーベナ葉抽出物の濃度別Opti-MEM溶液により希釈し、上記インキュベータ中に静置した。
(iii)72時間後、10μLのMTT(5mg/mL濃度)及び100μLのOpti-MEMの混合液を各ウェルに加え、さらに6時間、上記インキュベータ中に静置した。
(iv)10%SDS(w/v)を100μL加えてミトコンドリア活性を可溶化させた。マイクロタイタープレートリーダーを用いて570nmにおける吸光度を測定した。
【0032】
(4)アミロイドβ処理後の細胞増殖率試験
後述するアミロイドβ処理(iii)を行った以外は、上記(3)抽出物の濃度別試料による細胞増殖率試験と同様に試験を行った。
以下のスケジュールを用いて細胞増殖率試験を行った。
(i)最初に、96ウェルプレート(フィブロネクチンコートプレート、Corning社製BioCoat)を用い、神経細胞SH-SY5Yを2×105cell/mLの濃度で播種し、上記インキュベータの加湿雰囲気下で培養した。
(ii)24時間後、培地を除去し、細胞をレモンバーベナ葉抽出物の濃度別Opti-MEM溶液により希釈し、上記インキュベータ中に静置した。
(iii)48時間後、アミロイドβプロテイン(富士フイルム和光純薬(株))の2.5μM濃度Opti-MEM溶液により希釈し、5%CO2インキュベータ中に静置した。
(iv)72時間後、10μLのMTT(5mg/mL濃度)及び100μLのOpti-MEMの混合液を各ウェルに加え、さらに6時間、上記インキュベータ中に静置した。
(v)10%SDS(w/v)を100μL加えてミトコンドリア活性を可溶化させた。マイクロタイタープレートリーダーを用いて570nmにおける吸光度を測定した。
【0033】
(5)多能性幹細胞を用いた全ゲノムマイクロアレイ解析
羊膜上皮細胞を3Dスフェロイド培養して得られた多能性幹細胞にバーベナエキスを処理後、ISOGENキットを用いてRNAを抽出し、分光光度計(Thermo Fisher scientific社製 Nanodrop 2000)を用いて定量した。
実施例1のレモンバーベナ葉抽出物の神経細胞活動への影響の分子機構を解明するために、あらかじめ抽出したRNAに対してマイクロアレイを行い、全遺伝子発現を評価した。
実験は、GeneChip(登録商標) 3’ IVT PLUS Reagent Kit(Affymetrix社)のユーザーガイドにしたがって行った。簡単に説明すると、RNAを逆転写して二本鎖DNAを生成した。前記二本鎖DNAはビオチン標識cRNAを合成するための鋳型として使用され、当該標識cRNAの断片化後、得られた混合物をGeneChip(登録商標) MG-430 PM Array Strip(Affymetrix社)にハイブリダイゼーションステーション(Hybridization Station)を用いて45℃、16時間ハイブリダイズさせた。GeneAtlas(登録商標) Fluidics Station(Affymetrix社)を用いてハイブリダイゼーションしたアレイを洗浄・染色し、GeneAtlas(登録商標) Imaging Stationを用いてスキャンを行った。この方法で遺伝子解析を行った。すべての試料はマイクロアレイで解析され、得られたデータは、Expression Console(登録商標)及びPathway Studio(登録商標)ソフトウェア、並びにDAVID及びConsensus Pathデータベースを用いて解析された。
【0034】
(実施例1)
第1抽出工程として、粉砕機(槇野産業(株)製マキノ式粉砕機DD-2型)を用い、直径または長さを最大でも30mm以下に粉砕した乾燥レモンバーベナ葉42g、及び抽出溶媒として30体積%エタノール水溶液600mLを1Lのナス型フラスコに投入後、ロータリーエバポレータを使用して、抽出温度60℃にて1時間抽出処理を行った。抽出液をセルロースフィルターNo.5a(アドバンテック東洋(株)製)を用いた減圧ろ過にてろ別し、ろ液をガラス容器に一時保存した。第2抽出工程として、ろ別したレモンバーベナ葉の残渣及び30体積%エタノール水溶液600mLを1Lのナス型フラスコに投入後、再度ロータリーエバポレータを使用して、抽出温度60℃にて1時間抽出処理を行った。抽出液をセルロースフィルターNo.5a(アドバンテック東洋(株))を用いて減圧ろ過にてろ別し、ろ液を第1抽出工程後のろ液を一時保存したガラス容器に加え、2種類のろ液を混合して実施例1のレモンバーベナ葉抽出物を製造した。この時、試験用試料として、第1抽出工程後のろ液及び第2抽出工程のろ液を少量ずつ別途保存した。
【0035】
(比較例1)
抽出溶媒として蒸留水(以下、「水」とする。)を用いたこと以外は、実施例1と同様の製造方法を用い、比較例1のレモンバーベナ葉抽出物を製造した。
【0036】
(比較例2)
抽出溶媒として50体積%エタノール水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様の製造方法を用い、比較例2のレモンバーベナ葉抽出物を製造した。
【0037】
1.ベルバスコシドの抽出量測定
図1は実施例1のレモンバーベナ葉抽出物を試料とした、HPLCを用いたベルバスコシドのクロマトグラムであり、(a)は第1抽出工程後ろ液、(b)は第2抽出工程後ろ液を示す。保持時間21.5分付近のピークがベルバスコシド由来であり、その他の22.5分付近等のピークは不純物由来である。ベルバスコシド由来のピーク面積から検量線を用いて算出したベルバスコシドの抽出量測定結果を表1に示す。
【0038】
図2は比較例1のレモンバーベナ葉抽出物を試料とした、HPLCを用いたベルバスコシドのクロマトグラムであり、(a)は第1抽出工程後ろ液、(b)は第2抽出工程後ろ液を示す。ベルバスコシド由来のピークが小さく、ベルバスコシドがほとんど抽出されていないことが明らかである。ベルバスコシド由来のピーク面積から検量線を用いて算出したベルバスコシドの抽出量測定結果を表1に示す。
【0039】
図3は比較例2のレモンバーベナ葉抽出物を試料とした、HPLCを用いたベルバスコシドのクロマトグラムであり、(a)は第1抽出工程後ろ液、(b)は第2抽出工程後ろ液を示す。ベルバスコシド由来のピークは実施例1と同様に大きいことが示されているが、
図1の実施例1と比較し、その他の不純物由来のピークがやや大きく示されていることがわかる。ベルバスコシド由来のピーク面積から検量線を用いて算出したベルバスコシドの抽出量測定結果を表1に示す。
【0040】
【0041】
2.ベルベナリンの抽出量測定
図4は実施例1のレモンバーベナ葉抽出物を試料とした、HPLCを用いたベルベナリンのクロマトグラムであり、(a)は第1抽出工程後ろ液、(b)は第2抽出工程後ろ液を示す。保持時間21.0分付近のピークがベルベナリン由来であり、その他の23.5分付近等のピークは不純物由来である。
図5(b)における不純物のピークが大きく、これに
図4-
図6のクロマトグラムのスケールを合わせたため、ベルベナリン由来ピークが相対的に小さく表示されているが、スケールを拡大すればベルベナリン由来ピークははっきり認識することができる。ベルベナリン由来のピーク面積から検量線を用いて算出したベルベナリンの抽出量測定結果を表2に示す。
【0042】
図5は比較例1のレモンバーベナ葉抽出物を試料とした、HPLCを用いたベルベナリンのクロマトグラムであり、(a)は第1抽出工程後ろ液、(b)は第2抽出工程後ろ液を示す。ベルベナリン由来のピークが小さく、ベルベナリンがほとんど抽出されていないことが明らかである。ベルベナリン由来のピークに比較して、15.0付近及び25.0付近の不純物由来のピークが大きく、特に(b)における25.0付近の不純物が大きいことがわかる。ベルベナリン由来のピーク面積から検量線を用いて算出したベルベナリンの抽出量測定結果を表2に示す。
【0043】
図6は比較例2のレモンバーベナ葉抽出物を試料とした、HPLCを用いたベルベナリンのクロマトグラムであり、(a)は第1抽出工程後ろ液、(b)は第2抽出工程後ろ液を示す。ベルベナリン由来のピークは
図4の実施例1と同様の大きさであるが、不純物由来のピークが
図4の実施例1と比較し、大きくなっていること、特に(b)の不純物由来のピークが大きくなっていることがわかる。ベルベナリン由来のピーク面積から検量線を用いて算出したベルベナリンの抽出量測定結果を表2に示す。
【0044】
【0045】
表1、2のベルバスコシド及びベルベナリンの抽出量測定結果において、抽出溶媒に水を用いた場合、エタノール水溶液を用いた場合に比較して、有効成分であるベルバスコシド及びベルベナリンの抽出量が極端に少ないことが明らかとなった。抽出溶媒に30体積%エタノール水溶液及び50体積%エタノール水溶液を用いた場合、エタノール濃度の増加に応じてベルバスコシド及びベルベナリンの抽出量が増加するが、不純物の抽出量も大きく増加することが明らかとなった。なお、第2抽出工程後、続いて同様の操作による第3抽出工程を行った場合のろ液は、ベルバスコシド及びベルベナリンの抽出量が大きく減少すると共に、不純物の抽出量がさらに大きく増加すると予測される。したがって、抽出工程に要する時間を短くして製造コスト削減を可能とすると共に、有効成分を効率よく抽出し品質を安定させるためには、第2抽出工程までの抽出物を用いることが最適であることがわかった。
【0046】
3.抽出物の濃度別試料による細胞増殖率試験
実施例1及び比較例1~2のそれぞれ第1抽出工程後ろ液及び第2抽出工程後ろ液の計6種類の抽出物を噴霧乾燥機(中部熱工業(株)製スプレードライヤーCNK-SDD-1)を用いて、それぞれの乾燥粉末を得た。前記乾燥粉末及びそれぞれの抽出溶媒を用いて0.5~320.0μg/mLの範囲になるように濃度別試料を調製し、神経細胞SH-SY5Yを用いた細胞増殖率試験を行い、細胞増殖が認められる抽出物の濃度範囲を検討した。表3に細胞増殖率試験の結果を示した。ここで、本発明の抽出物を用いず、蒸留水を用いて試験を行ったコントロールと比較して、細胞増殖率が増加した試料を「○」、10%以上増加した試料を「◎」、減少した試料を「×」で示した。
【0047】
【0048】
表3において、実施例1の第1抽出工程後ろ液及び第2抽出工程後ろ液は、共に0.5~80.0μg/mLの範囲で細胞増殖率が増加し、特に5.0~80.0μg/mLの範囲で10%以上増加した。これは、抽出物中の有効成分であるベルバスコシド及びベルベナリンを含んでいる影響であると考えられる。また、比較例1の第1抽出工程後ろ液及び第2抽出工程後ろ液は、共に5.0μg/mL以上のほとんどの範囲で細胞増殖率が増加した。抽出溶媒が水であり、抽出物中の有効成分が少量しか含まれていないが、不純物も少量しか含まれていないため増加したと考えられる。比較例2の第1抽出工程後ろ液については、すべての濃度別試料で細胞増殖率が減少し、細胞毒性が認められた。これは抽出物に有効成分であるベルバスコシド及びベルベナリンを含んでいるとしても、不純物も大量に含んでいるためと考えられる。
【0049】
4.アミロイドβ処理後の細胞増殖率試験
前記「3.抽出物の濃度別試料による細胞増殖率試験」の結果に基づき、抽出物の濃度が5.0~40.0μg/mLの範囲における濃度別試料を調製し、アミロイドβ処理後の神経細胞SH-SY5Yを用いた細胞増殖率試験を行うことにより、神経保護作用が認められる抽出物の濃度範囲を検討した。ここで、アミロイドβは認知症の発症の原因となるタンパク質の1種であり、コントロールに対してアミロイドβ処理を行うことにより、細胞毒性が発現し、細胞増殖率が20%程度減少する。本発明の抽出物を添加することにより、細胞増殖率が20%未満の減少となる場合、神経保護作用があるといえる。表4に細胞増殖率試験の結果を示した。ここで、本発明の抽出物を用いず、蒸留水を用いて試験を行ったコントロールと比較して、細胞増殖率が20%未満の減少である試料を「○」、20%以上減少した試料を「×」で示した。
【0050】
【0051】
表4において、実施例1の第1抽出工程後ろ液及び第2抽出工程後ろ液は、共に5.0μg/mLの濃度の試料が神経保護作用を示した。したがって、第1抽出工程後ろ液及び第2抽出工程後ろ液を混合した、本発明のレモンバーベナ葉抽出物は神経保護作用を示すと考えられた。比較例2の第1抽出工程後ろ液及び第2抽出工程後ろ液は、すべての濃度の試料が神経保護作用を示さなかった。
【0052】
5.多能性幹細胞を用いた全ゲノムマイクロアレイ解析
実施例1の第1抽出工程後ろ液及び第2抽出工程後ろ液を混合した本発明のレモンバーベナ葉抽出物を試料に用い、多能性幹細胞を用いた全ゲノムマイクロアレイ解析を行った結果を
図7に示す。ここで、遺伝子数は対照区に対して実験区において発現が増加した遺伝子数を表し、統計的有意性はP値として0.05未満を用いて統計学的検定を行い、その有意差を示した。
【0053】
図7から、本発明のレモンバーベナ葉抽出物が「消化器疾患、肝疾患、肝硬変、腸疾患」、「循環器疾患、心筋虚血」、「皮膚疾患」及び「免疫系疾患」の幅広い分野において、ゲノムの増加についての統計的有意差を有しており、生体恒常性の維持に寄与する作用、機能を有すると共に、「神経系疾患、神経症状、中枢神経系疾患、脳疾患、神経行動学的症状」及び「精神疾患、神経発達障害」において統計的有意差を有しており、神経変性疾患の予防・改善に寄与する作用、機能を有する可能性があることが明らかとなった。