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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065799
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】キサゲ加工装置及びキサゲ加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23D 79/06 20060101AFI20240508BHJP
   B25J 13/08 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
B23D79/06
B25J13/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174832
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】町田 港
(72)【発明者】
【氏名】三ツ橋 正
【テーマコード(参考)】
3C050
3C707
【Fターム(参考)】
3C050FC09
3C707AS12
3C707BS12
3C707KS17
3C707KS34
3C707KS36
3C707LU08
(57)【要約】
【課題】スクレーパの個体差による切削結果のバラつきを抑制する技術を提供する。
【解決手段】キサゲ加工装置は、被加工物の加工対象面に対してキサゲ加工を行うキサゲ加工装置であって、切削刃を有するスクレーパを保持して動作させる加工用ロボットと、前記加工用ロボットを制御し、前記スクレーパを前記加工対象面に対して押し込みながら当該加工対象面に沿ってストロークさせることによって、前記加工対象面を切削する制御装置と、前記スクレーパが前記加工対象面に押し込まれた際に、その押し込み方向とは逆方向に前記スクレーパが前記加工対象面から受ける抵抗力である押し込み抵抗力を検出する力覚センサと、を備え、前記制御装置は、前記力覚センサが検出した前記押し込み抵抗力の検出値とその基準値とを比較した結果に基づいて前記スクレーパの押し込み量を調整する押し込み量調整制御を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の加工対象面に対してキサゲ加工を行うキサゲ加工装置であって、
切削刃を有するスクレーパを保持して動作させる加工用ロボットと、
前記加工用ロボットを制御し、前記スクレーパを前記加工対象面に対して押し込みながら当該加工対象面に沿ってストロークさせることによって、前記加工対象面を切削する制御装置と、
前記スクレーパが前記加工対象面に押し込まれた際に、その押し込み方向とは逆方向に前記スクレーパが前記加工対象面から受ける抵抗力である押し込み抵抗力を検出する力覚センサと、
を備え、
前記制御装置は、前記力覚センサが検出した前記押し込み抵抗力の検出値とその基準値とを比較した結果に基づいて前記スクレーパの押し込み量を調整する押し込み量調整制御を行う、
キサゲ加工装置。
【請求項2】
前記基準値が、所定の基準スクレーパを用いたときの押し込み量に対する押し込み抵抗力の値であり、
前記力覚センサが検出する前記押し込み抵抗力の検出値が当該基準値に近づくように、前記制御装置が前記押し込み量を調整する、
請求項1に記載のキサゲ加工装置。
【請求項3】
前記スクレーパを前記加工対象面に対して所定の押し込み量で押し込んだ際に前記力覚センサで検出した前記押し込み抵抗力の検出値と前記基準値とに基づいて、前記押し込み量の補正データを生成し、
前記制御装置が、加工指示データに従って前記加工用ロボットを制御する際、当該加工指示データによって指示された前記スクレーパの前記押し込み量を前記補正データに基づいて補正する補正処理を行う、
請求項2に記載のキサゲ加工装置。
【請求項4】
前記加工用ロボットは、前記スクレーパを交換可能に保持し、
前記制御装置は、前記スクレーパが交換された場合に、当該スクレーパについて予め定められた前記補正データを取得して前記補正処理を行う、
請求項3に記載のキサゲ加工装置。
【請求項5】
前記キサゲ加工装置を起動してから加工指示データに従う加工を行うまでの期間、又は前記スクレーパを交換して加工指示データに従う加工を行うまでの期間に、前記補正データを求める、
請求項3に記載のキサゲ加工装置。
【請求項6】
切削刃を有するスクレーパを保持して動作させる加工用ロボットと、
前記加工用ロボットを制御し、前記スクレーパを被加工物の加工対象面に対して押し込みながら当該加工対象面に沿ってストロークさせることによって、前記加工対象面を切削する制御装置と、
前記スクレーパが前記加工対象面に押し込まれた際に、前記スクレーパが前記加工対象面から押し込み方向と逆方向に受ける抵抗力である押し込み抵抗力を検出する力覚センサと、
を備えたキサゲ加工装置が、前記被加工物の加工対象面に対してキサゲ加工を行うキサゲ加工方法であって、
前記制御装置が、前記力覚センサによって検出した前記押し込み抵抗力の検出値とその
基準値とを比較した結果に基づいて前記スクレーパの押し込み量を調整する押し込み量調整制御を行う、
キサゲ加工方法。
【請求項7】
前記基準値が、所定の基準スクレーパを用いたときの押し込み量に対する押し込み抵抗力の値であり、
前記力覚センサが検出する前記押し込み抵抗力の検出値が当該基準値に近づくように、前記制御装置が前記押し込み量を調整する、
請求項6に記載のキサゲ加工方法。
【請求項8】
前記スクレーパを前記加工対象面に対して所定の押し込み量で押し込んだ際に前記力覚センサで検出した前記押し込み抵抗力の検出値と前記基準値とに基づいて、前記押し込み量の補正データを規定し、
前記制御装置が、加工指示データに従って前記加工用ロボットを制御する際、当該加工指示データによって指示された前記スクレーパの前記押し込み量を前記補正データに基づいて補正する補正処理を行う、
請求項7に記載のキサゲ加工方法。
【請求項9】
前記加工用ロボットは、前記スクレーパを交換可能に保持し、
前記制御装置は、前記スクレーパが交換された場合に、当該スクレーパについて予め定められた前記補正データを取得して前記補正処理を行う、
請求項8に記載のキサゲ加工方法。
【請求項10】
前記キサゲ加工装置を起動してから加工指示データに従う加工を行うまでの期間、又は前記スクレーパを交換して加工指示データに従う加工を行うまでの期間に、前記補正データを求める、
請求項8に記載のキサゲ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キサゲ加工装置及びキサゲ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移動部を有した工作機械等の摺動面には、その平面度を高めて摺動摩擦係数を低減するために、キサゲ加工(「スクレーピング加工」ともいう)が行われる。キサゲ加工は、金属加工の一種であり、従来、被加工物(ワーク)の加工対象面(被加工面)に光明丹(鉛丹)や顔料を塗り、先端が幅広でノミ状(ヘラ状)のキサゲ工具(スクレーパ)を作業者が使って、色の違いを見ながら手作業で凸部を削り除去する作業を行っていた。
【0003】
キサゲ加工の本来の目的は、摺動面を高精度な平面に仕上げることにあるが、このキサゲ加工によって摺動面に形成されたミクロン単位の微小な凹みは、摺動時に潤滑油の油溜まりの作用をするため、摺動面の潤滑性が向上し、摺動時のリンギングを防止する効果がある。しかしながら、作業者の手作業によるキサゲ加工は、熟練が要求される作業であり、また、大変な重労働でもあった。
【0004】
これに関連して、スクレーパの動作を自動制御することによって被加工物の加工対象面に対してキサゲ加工を行うキサゲ加工装置も提案されている(例えば、特許文献1等を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-199611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
被加工物の加工対象面をスクレーパで切削するキサゲ加工装置において、例えば、平面出し加工や仕上げ加工といった工程が切り替わった場合や、スクレーパ先端に取り付けられた切削刃が損耗した場合等に、スクレーパの交換が行われる。このようにスクレーパが交換されると、スクレーパの個体差によって切削結果にバラつきが生じることがある。
【0007】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであって、スクレーパの個体差による切削結果のバラつきを抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(態様1)
上記課題を解決するため、本発明の態様1は、被加工物の加工対象面に対してキサゲ加工を行うキサゲ加工装置であって、
切削刃を有するスクレーパを保持して動作させる加工用ロボットと、
前記加工用ロボットを制御し、前記スクレーパを前記加工対象面に対して押し込みながら当該加工対象面に沿ってストロークさせることによって、前記加工対象面を切削する制御装置と、
前記スクレーパが前記加工対象面に押し込まれた際に、その押し込み方向とは逆方向に前記スクレーパが前記加工対象面から受ける抵抗力である押し込み抵抗力を検出する力覚センサと、
を備え、
前記制御装置は、前記力覚センサが検出した前記押し込み抵抗力の検出値とその基準値
とを比較した結果に基づいて前記スクレーパの押し込み量を調整する押し込み量調整制御を行う。
【0009】
(態様2)
上記態様1において、前記基準値が、所定の基準スクレーパを用いたときの押し込み量に対する押し込み抵抗力の値であり、
前記力覚センサが検出する前記押し込み抵抗力の検出値が当該基準値に近づくように、前記制御装置が前記押し込み量を調整してもよい。
【0010】
(態様3)
上記態様2に係るキサゲ加工装置の制御装置は、前記スクレーパを前記加工対象面に対して所定の押し込み量で押し込んだ際に前記力覚センサで検出した前記押し込み抵抗力の検出値と前記基準値とに基づいて、前記押し込み量の補正データを生成し、
前記制御装置が、加工指示データに従って前記加工用ロボットを制御する際、当該加工指示データによって指示された前記スクレーパの前記押し込み量を前記補正データに基づいて補正する補正処理を行ってもよい。
【0011】
(態様4)
上記態様3において、前記加工用ロボットは、前記スクレーパを交換可能に保持し、
前記制御装置は、前記スクレーパが交換された場合に、当該スクレーパについて予め定められた前記補正データを取得して前記補正処理を行ってもよい。
【0012】
(態様5)
上記態様3に係るキサゲ加工装置の制御装置は、前記キサゲ加工装置を起動してから加工指示データに従う加工を行うまでの期間、又は前記スクレーパを交換して加工指示データに従う加工を行うまでの期間に、前記補正データを求めてもよい。
【0013】
(態様6)
上記課題を解決するため、本発明の態様6は、切削刃を有するスクレーパを保持して動作させる加工用ロボットと、
前記加工用ロボットを制御し、前記スクレーパを被加工物の加工対象面に対して押し込みながら当該加工対象面に沿ってストロークさせることによって、前記加工対象面を切削する制御装置と、
前記スクレーパが前記加工対象面に押し込まれた際に、前記スクレーパが前記加工対象面から押し込み方向と逆方向に受ける抵抗力である押し込み抵抗力を検出する力覚センサと、
を備えたキサゲ加工装置が、前記被加工物の加工対象面に対してキサゲ加工を行うキサゲ加工方法であって、
前記制御装置が、前記力覚センサによって検出した前記押し込み抵抗力の検出値とその基準値とを比較した結果に基づいて前記スクレーパの押し込み量を調整する押し込み量調整制御を行う。
【0014】
(態様7)
上記態様6に係るキサゲ加工方法は、前記基準値が、所定の基準スクレーパを用いたときの押し込み量に対する押し込み抵抗力の値であり、
前記力覚センサが検出する前記押し込み抵抗力の検出値が当該基準値に近づくように、前記制御装置が前記押し込み量を調整してもよい。
【0015】
(態様8)
上記態様7に係るキサゲ加工方法は、前記スクレーパを前記加工対象面に対して所定の
押し込み量で押し込んだ際に前記力覚センサで検出した前記押し込み抵抗力の検出値と前記基準値とに基づいて、前記押し込み量の補正データを規定し、
前記制御装置が、加工指示データに従って前記加工用ロボットを制御する際、当該加工指示データによって指示された前記スクレーパの前記押し込み量を前記補正データに基づいて補正する補正処理を行ってもよい。
(態様9)
上記態様8において、前記加工用ロボットは、前記スクレーパを交換可能に保持し、
前記制御装置は、前記スクレーパが交換された場合に、当該スクレーパについて予め定められた前記補正データを取得して前記補正処理を行ってもよい。
【0016】
(態様10)
上記態様8に係るキサゲ加工方法は、前記キサゲ加工装置を起動してから加工指示データに従う加工を行うまでの期間、又は前記スクレーパを交換して加工指示データに従う加工を行うまでの期間に、前記補正データを求めてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、被加工物の加工対象面にキサゲ加工を行うキサゲ加工に関し、加工対象面を切削する際の平面精度を向上させる技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施形態1に係る自動キサゲ加工装置の概略構成を示す図である。
図2図2は、ロボットハンドに保持されたスクレーパユニットを示す図である。
図3図3は、スクレーパの切削刃によってワークの加工対象面を切削している状況を側方から眺めた図である。
図4図4は、制御装置の構成の一例を示すブロック図である。
図5図5は、制御装置の機能構成の一例を概略的に示すブロック図である。
図6図6は、実施形態1に係るワークの加工対象面を示す図である。
図7図7は、加工対象面の表面高さ情報を説明する図である。
図8図8は、加工対象面の凸部の形状を模式的に示す図である。
図9図9は、各加工平面の高さを等高線として加工対象面における表面高さを等高線状に示した図である。
図10図10は、加工領域層分布情報を説明する図である。
図11図11は、加工点データを示す図である。
図12A図12Aは、基準データテーブルを示す図である。
図12B図12Bは、押し込み量設定情報テーブルを説明する図である。
図13図13は、スクレーパのバネ特性を示す図である。
図14図14は、スクレーパ特性取得部によって取得したスクレーパの特性と、基準スクレーパの特性(基準値)を示すグラフである。
図15A図15Aは、制御装置のプロセッサによって実行されるフローチャート(その1)である。
図15B図15Bは、制御装置のプロセッサによって実行されるフローチャート(その2)である。
図16図16は、実施形態2に係る制御装置の機能構成の一例を概略的に示すブロック図である。
図17図17は、補正データの一例を示す図である。
図18A図18Aは、実施形態2に係る制御装置のプロセッサによって実行されるフローチャート(その1)である。
図18B図18Bは、実施形態2に係る制御装置のプロセッサによって実行されるフローチャート(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本発明は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0020】
<実施形態1>
(加工装置の概略構成)
図1は、実施形態1に係る自動キサゲ加工装置1の概略構成を示す図である。図1に示すように、自動キサゲ加工装置1は、制御装置100、ロボットアーム200、三次元形状計測器300等を備えている。
【0021】
自動キサゲ加工装置1は、被対象物であるワーク(被加工物)10の加工対象面(被加工面)11に対してキサゲ加工(スクレーピング加工)を自動で行う装置である。ワーク10は、例えば、工作機械等を構成する金属製の摺動部材であり、その摺動面を加工対象面11とすることができる。キサゲ加工は金属加工の一種であり、キサゲ工具(切削工具)であるスクレーパを用いて加工対象面11の凸部を削り取り、加工対象面11の平面度を高めることによって摺動摩擦係数を低減させる。また、キサゲ加工の本来の目的は、摺動面を高精度な平面に仕上げることにあるが、摺動面の摺動時にリンギング(Wringing)現象が発生することを防止すべく、キサゲの仕上加工においては摺動面にミクロン単位の微小な多数の窪みを潤滑油の油溜まりとして形成し、摺動面の潤滑性を向上させるようにしている。
【0022】
ロボットアーム200は、例えば、6軸の多関節ロボットアームであり、制御装置100によって制御される。ロボットアーム200は、その先端側にロボットハンド210を有し、このロボットハンド210にスクレーパユニット20やハンドチャック30を着脱自在に保持(把持)することが可能である。すなわち、ロボットアーム200は、ロボットハンド210にスクレーパユニット20及びハンドチャック30を選択的に付け替えることができる。そして、ロボットアーム200は、各関節(例えば、第1軸~第6軸)をサーボモータ等によって駆動することで、ロボットハンド210をXYZ三次元直交座標系の任意の位置へと移動させることができる。
【0023】
図2は、ロボットハンド210に保持されたスクレーパユニット20を示す図である。スクレーパユニット20は、ロボットハンド210に着脱自在なホルダ部21と、当該ホルダ部21と一体に設けられたキサゲ工具(切削工具)であるスクレーパ22等を備えるアタッチメントである。スクレーパ22は、可撓性を有する金属材料により形成された略帯板形状のスクレーパ本体23と、スクレーパ本体23の先端側に取り付けられた切削刃24等を含んで構成されている。切削刃24は、例えば超硬合金によって形成されており、例えば鋳物で形成されたワーク10の加工対象面11を切削することが可能である。図中の符号Wは切削刃24の幅寸法を表す。符号25は、切削刃24の刃先である。図2に示す刃先25は円弧(ラウンド)形状を有しているが、刃先25の形状については特に限定されない。例えば、刃先25は直線形状を有していてもよい。勿論、円弧形状を有する刃先25を用いる場合、その曲率半径(刃先端半径)についても特に限定されない。また、スクレーパ本体23の幅、長さ、材質、弾性力なども特段限定されない。即ち、これら切削刃24の幅寸法W、曲率半径(刃先端半径)等のサイズや形状、スクレーパ本体23の幅、長さ、材質、弾性力といった仕様は、適宜設定され得る。例えば、広い幅で切削する場合や、細かく切削する場合、平面加工処理を行う場合、仕上げ加工処理を行う場合など、加工用途に応じて複数の仕様が定められてもよい。これら仕様の異なる複数のスクレーパ22がそれぞれ統一された形状のホルダ部21と一体に設けられた複数のスクレーパユニット20が、工具載置用架台C3上に用意されることで、ロボットハンド210は、
異なる仕様のスクレーパユニット20を選択的に付け替えることができる。また、同一仕様のスクレーパユニット20が、複数工具載置用架台C3上に用意されることで、使用中のスクレーパ22が損耗した場合に、ロボットハンド210は、新たなスクレーパユニット20に付け替えることができる。
【0024】
ワーク10の加工対象面11に対するキサゲ加工は、例えば図1に示す加工用架台C1にワーク10を固定し、ロボットハンド210にスクレーパユニット20を保持した状態でロボットアーム200を制御することによって行われる。加工用架台C1の表面は、X-Y平面に平行な平面状に形成されている。
【0025】
図3は、スクレーパ22の切削刃24によってワーク10の加工対象面11を切削している状況を側方から眺めた図である。キサゲ加工では、加工対象面11に切削刃24を斜めに当てがい、スクレーパ22(ロボットハンド210)を-Z方向に駆動して加工対象面11に対してスクレーパ22を下方(-Z方向)に押し込みながらスクレーパ22を加工対象面11に沿って(X-Y平面と平行に)ストローク(以下、その方向(図3中、白抜き矢印)を「ストローク方向」と呼ぶ)させることによって、加工対象面11を切削刃24によってミクロンオーダー或いはサブミクロンオーダーの厚さずつ切削する。加工対象面11を切削する際、切削刃24を加工対象面11に押し当てながら加工対象面11に対してスクレーパ22を下方に押し込むときの押し込み量(-Z方向への変位量)を「下方押し込み量δz」と呼ぶ。
【0026】
ロボットアーム200は、加工対象面11に対するスクレーパ22の下方押し込み量δzを制御パラメータとすることで、スクレーパ22の1ストローク当たりに切削刃24が加工対象面11を切削する切削深さ(以下、「ストローク切削深さ」という)ΔDSを調整することができる。ここで、スクレーパ22の下方押し込み量δzは、例えば、三次元形状計測器300によって計測される加工対象面11の基準点における高さを基準高さ(ゼロ点)として設定される。加工対象面11における基準点の位置(XY座標)は特に限定されない。例えば、加工対象面11の隅部を基準点に設定し、その表面高さを基準高さとしてもよい。
【0027】
なお、スクレーパ22のスクレーパ本体23は上記の通り可撓性を有するため、スクレーパ本体23が撓った状態で加工対象面11の切削が行われる。例えば、制御装置100は、ストロークの開始位置(加工開始点)に、スクレーパ22を撓ませない状態で、その下端である切削刃24の刃先を合わせたときのロボットアーム200の高さを押し込み開始高さとする。そして、制御装置100は、ロボットアーム200を押し込み開始高さから、加工指示データによって指定される下方押し込み量δzだけ-Z方向へ変位させてスクレーパ22のホルダ部21側を押し下げることによりスクレーパ本体23を撓ませ、この状態でストロークを行わせる。これにより切削刃24がスクレーパ本体23の弾性力によって加工対象面11に押し当てられ、この弾性力に応じた切削深さで切削が行われる。そのため、加工対象面11の切削深さがミクロンオーダー或いはサブミクロンオーダーの寸法であるのに対して、切削時におけるスクレーパ22の下方押し込み量δzはミリオーダーの変位量として設定することができる。
【0028】
次に、ハンドチャック30について説明する。ハンドチャック30は、架台間でワーク10を移動させる際に、当該ワーク10を把持するためのアタッチメントであり、ロボットハンド210に着脱自在となっている。図1に示すレイアウトでは、例えば、加工用架台C1及び計測用架台C2間でワーク10を移動させる際に用いられる。すなわち、ロボットアーム200は、ロボットハンド210に装着したハンドチャック30によってワーク10を把持することで、加工用架台C1及び計測用架台C2間でワーク10を自由に移動させることができる。
【0029】
計測用架台C2は、三次元形状計測器300を用いてワーク10における加工対象面11の三次元形状を計測する際に、ワーク10を載置するための架台である。計測用架台C2の表面も、X-Y平面に平行な平面状に形成されている。
【0030】
三次元形状計測器300は、例えば、白色光干渉方式の計測器であり、加工対象面11の三次元形状データ(凹凸形状データ)を高精度に取得することができる。但し、三次元形状計測器300は、加工対象面11の凹凸形状データ(高さデータ)を計測できれば特に限定されず、例えば三次元レーザスキャナ等を用いてもよい。また、三次元形状計測器300は、加工対象面11の凹凸形状データを非接触で取得する「非接触式」の計測器であってもよいし、加工対象面11にプローブ等を接触させることで当該加工対象面11の凹凸形状データを取得する「接触式」の計測器であってもよい。その他、自動キサゲ加工装置1は、スクレーパユニット20を載置するための工具載置用架台C3や、ハンドチャック30を載置するためのハンドチャック用架台C4等を備えていてもよい。
【0031】
また、ロボットアーム200は、更に、力覚センサ220を備えている。力覚センサ220は、キサゲ加工時に、スクレーパ22に作用する負荷、反力等の力(以下、抵抗力と称する)を検出するセンサである。力覚センサ220は、例えば、3軸力覚センサであり、加工対象面11の切削時におけるX方向、Y方向、Z方向から受ける抵抗力(負荷、反力)を検出することができる。例えば、力覚センサ220は、スクレーパ22がワーク10の加工対象面11に押し込まれた際に、その押し込み方向(-Z方向)とは逆方向にスクレーパ22が加工対象面11から受ける抵抗力である押し込み抵抗力Czを検出する。自動キサゲ加工装置1の制御装置100は、力覚センサ220が出力するキサゲ加工中における負荷の状態を監視(モニタリング)し、必要に応じて、負荷の強弱に基づいたフィードバック制御を行うことができる。なお、上述したロボットアーム200は本発明に係るキサゲ加工用ロボットの一例であり、キサゲ加工用ロボットはロボットアーム200に限定されない。本発明に係るキサゲ加工用ロボットは、保持したスクレーパを動作させることによってワーク10の加工対象面11に対して自動でキサゲ加工を行うことができる構成であれば特に限定されない。
【0032】
次に、自動キサゲ加工装置1の制御装置100について説明する。制御装置100は、加工指示データに従ってロボットアーム200を制御し、その結果、ワーク10の加工対象面11に対して加工指示データに応じたキサゲ加工が行われる。また、制御装置100は、ロボットアーム200を制御するための加工指示データを生成する。すなわち、制御装置100は、ロボットアーム200を制御する装置として機能すると共に、ロボットアーム200を制御する際に用いる加工指示データを生成するための情報処理装置(加工指示データ生成装置)として機能する。但し、ロボットアーム200を制御するための加工指示データは、制御装置100とは別の情報処理装置(加工指示データ生成装置)によって生成されてもよい。この場合、当該情報処理装置(加工指示データ生成装置)が生成した加工指示データを制御装置100が取得し、取得した加工指示データに従って制御装置100がロボットアーム200を制御する。なお、情報処理装置(加工指示データ生成装置)から制御装置100への加工指示データの送信は有線通信または無線通信のいずれによって行われてもよい。
【0033】
図4は、制御装置100の構成の一例を示すブロック図である。制御装置100は、例えば、一般的なコンピュータである。制御装置100を構成するコンピュータは、通信インターフェース(通信I/F)101、記憶装置102、入出力装置103、及びプロセッサ104を備え、これらが通信バス105を介して接続されている。
【0034】
通信I/F101は、例えばネットワークカードや通信モジュールであってもよく、所
定のプロトコルに基づき、他のコンピュータ、機器等と通信を行う。例えば、制御装置100は、通信I/F101を介してワーク10における加工対象面11の三次元形状情報を三次元形状計測器300から受信する。
【0035】
記憶装置102は、例えば、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の主記憶装置、及びHDD(Hard-Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等の補助記憶装置(二次記憶装置)を含んでいる。主記憶装置は、プロセッサ104が読み出すプログラムや他のコンピュータとの間で送受信する情報を一時的に記憶したり、プロセッサ104の作業領域を確保したりする。補助記憶装置は、プロセッサ104が実行するプログラムや他のコンピュータとの間で送受信する情報等を記憶する。また、補助記憶装置は、リムーバブルメディア(可搬記録媒体)を含んでいてもよい。リムーバブルメディアは、例えば、USBメモリ、SDカード、または、CD-ROM、DVDディスク、若しくはブルーレイディスクのようなディスク記録媒体である。記憶装置102(例えば、補助記憶装置)には、オペレーティングシステム(OS)、各種プログラム、各種設定データ、および各種情報テーブル等が格納されている。
【0036】
入出力装置103は、例えば、キーボード、マウス等の入力装置、モニタ、スピーカ、プリンタ等の出力装置、タッチパネルのような入出力装置等のユーザインターフェースである。
【0037】
プロセッサ104は、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等の演算処理装置であり、コンピュータプログラムを実行することにより本
実施形態に係る各処理を行う。例えば、プロセッサ104が、記憶装置102の補助記憶装置に記憶されたプログラムを主記憶装置にロードして実行することによって、後述するような加工指示データを生成するための加工指示データ生成処理等といった各種の処理が実現される。
【0038】
なお、制御装置100は、必ずしも単一の物理的構成によって実現される必要はなく、互いに連携する複数台のコンピュータによって構成されてもよい。
【0039】
次に、制御装置100の機能構成について図5に基づいて説明する。図5は、制御装置100の機能構成の一例を概略的に示すブロック図である。制御装置100は、加工指示データ生成部110、制御部111、スクレーパ特性取得部112、押し込み量調整部113、スクレーパ特性判定部114を機能部として有している。制御装置100のプロセッサ104は、記憶装置102の補助記憶装置に記憶されたプログラムを主記憶装置にロードして実行することにより、上述した各機能部を実現する。これら複数の機能部は、複数のプロセッサ又は単一のプロセッサに含まれる複数のコアによって実現されてもよい。また、複数の機能部は、マルチタスク又はマルチスレッドといった技術で単一のプロセッサによって実現されてもよい。なお、これら機能部の一部又は全部が、DSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPG
A(Field-Programmable Gate Array)等の専用LSI(large scale integration)、論理回路、その他のデジタル回路といったハードウェアで形成されたものであってもよい。また、上記各機能部の少なくとも一部にアナログ回路を含む構成としてもよい。
【0040】
加工指示データ生成部110は、加工指示データを生成する加工指示データ生成処理を実行する。制御部111は、加工指示データ生成部110が生成した加工指示データを取得し、当該加工指示データに従ってロボットアーム200を制御する。また、制御部111は、加工指示データやスクレーパの状態に応じて交換を判定する。例えば、制御部111は、ロボットアーム200に取り付けたスクレーパ22を切削に使用した場合に、この使用時間を記憶装置102に累積して記憶させる。そして、制御部111は、累積した使
用時間(累積使用時間)が所定値(閾値、上限値とも称す)に達した場合に、スクレーパユニット20の交換が必要と判定する。同様に、制御部111は、スクレーパ22を切削に使用した場合に、この切削のためにストロークした距離(使用距離)を求め、この使用距離を記憶装置102に累積して記憶させる。そして、制御部111は、累積した使用距離(累積使用距離)が所定値(閾値、上限値とも称す)に達した場合に、スクレーパユニット20の交換が必要と判定する。更に、制御部111は、スクレーパ22について、所定のタイミングで測定したバネ特性を記憶装置102に記憶し、その後、測定したバネ特性と比較して、先のバネ特性と後のバネ特性が所定値以上乖離した場合にスクレーパユニット20の交換が必要と判定する。また、切削に用いるスクレーパ22の仕様が加工指示データに指定されている場合、制御部111は、現用のスクレーパ22の仕様と次の工程で使用するスクレーパ22の仕様が異なっている場合にスクレーパユニット20の交換が必要と判定する。
【0041】
スクレーパ特性取得部112は、自動キサゲ加工装置1を起動してから加工指示データに従う加工を開始するまでの期間(起動時)、又は前記スクレーパ22を交換してから加工指示データに従う加工を開始するまでの期間(交換時)など、所定のタイミングでスクレーパ22のバネ特性を取得する。ここでスクレーパ22のバネ特性は、例えば下方押し込み量δzに対応する押し込み抵抗力Czである。スクレーパ22は、同じ仕様のものであってもバネ特性に個体差がある。このため、スクレーパ特性取得部112は、ロボットアーム200に取り付けられたスクレーパ22のバネ特性を取得する。
【0042】
押し込み量調整部113は、スクレーパ特性取得部112で取得したスクレーパ22のバネ特性とその基準値とを比較した結果に基づいてスクレーパ22の押し込み量を調整する押し込み量調整処理(押し込み量調整制御)を行う。ここで、基準値は、例えば、所定の基準スクレーパを用いたときの押し込み量に対する押し込み抵抗力の値である。押し込み量調整部113は、力覚センサ220が検出する押し込み抵抗力の検出値が当該基準値に近づくように押し込み量δzを調整する。
【0043】
スクレーパ特性判定部114は、スクレーパ特性取得部112で取得したスクレーパ22のバネ特性が適正か否かを判定する特性判定処理を行う。例えば、スクレーパ特性判定部114は、記憶装置102に記憶されたバネ特性テーブルと基準データテーブルとを参照し、スクレーパ22のバネ特性と基準スクレーパのバネ特性を比較して、スクレーパ22のバネ特性が基準スクレーパのバネ特性から所定値以上乖離している場合に、バネ特性が適切でないと判定する。例えばスクレーパ22が不良品であり、所定の仕様から外れている場合や、スクレーパユニット20がロボットアーム200に正しく装着されていない場合、スクレーパ22を加工対象面11に対して押し込んだ際の押し込み抵抗力Czが正しく得られないため、スクレーパ22のバネ特性が適正でない、即ちスクレーパ22が異常と判定する。また、スクレーパ特性判定部114は、スクレーパ22が異常と判定した場合、このスクレーパの異常を示す情報(警報)を出力してもよい。例えば、スクレーパ特性判定部114は、この警報として、「スクレーパに異常が発生しました」などのようなメッセージをモニタに表示出力することや、スピーカから音出力すること、又はプリンタから印刷出力することとしてもよい。また、スクレーパ特性判定部114は、通信I/F101を介して他の装置へ警報を送信(出力)してもよい。
【0044】
次に、自動キサゲ加工装置1のキサゲ加工に係る各処理について説明する。ここでは、ワーク10に対するキサゲ加工の一例として、加工対象面11の平面度が所定の目標平面度を満たすように加工対象面11の凸部を切削する平面出し加工処理を実行し、当該平面出し加工処理の後に、加工対象面11に油溜まり用の窪みを形成する仕上げ加工処理を実行する例について説明する。このように、ワーク10の加工対象面11に対するキサゲ加工を行うに際し、平面出し加工処理と仕上げ加工処理とに分離して行うことによって加工
効率を向上させることができる。
【0045】
ここで、制御装置100が平面出し加工処理を実行する際に使用する加工指示データ(以下、「平面出し用加工指示データ」という)を生成する処理(平面出し用加工指示データ生成処理)について説明する。
【0046】
図6は、実施形態1に係るワーク10の加工対象面11を示す図である。図6に示す例において、ワーク10の加工対象面11は矩形平面を有しているが、勿論、加工対象面11の形状、大きさ等の態様は特に限定されない。ここでは、便宜上、加工対象面11の平面(X-Y平面)のうち、長辺方向(図6において、X方向)を長さ方向と呼び、短辺方向(図6において、Y方向)を幅方向と呼ぶ。
【0047】
平面出し加工用指示データの生成に際し、加工指示データ生成部110は、三次元形状計測器300の計測データに基づき、加工対象面11の表面高さ情報(三次元形状データ)を取得する。図7は、加工対象面11の表面高さ情報を説明する図である。表面高さ情報は、加工対象面11の平面方向(X-Y平面方向)における各座標(各測定点)に対応する高さ(Z座標)を示す情報である。便宜上、図7には、加工対象面11における一部の表面高さ情報を示している。
【0048】
加工指示データ生成部110は、加工対象面11の表面高さ情報に基づいて、加工対象面11の凸部を取得する。加工対象面11の凸部は、例えば、加工対象面11の高さ(Z座標)が最も低い位置を基準として、相対的に隆起した部位である。
【0049】
そして、加工指示データ生成部110は、加工対象面11の凸部を、その高さ方向(Z軸方向)にX-Y平面と平行な加工平面によって区分し、複数の加工領域層CRを設定する。
【0050】
図8は、Y=Y1上(Y1は、Y軸上における座標)における加工対象面11の凸部S3の形状を模式的に示す図である。図8に示す符号S0は、加工対象面11における凸部S3のうち、当該凸部S3において高さ(Z座標)が最も高い位置(頂上地点)を通り且つX-Y平面に平行な仮想平面である。図8に示す符号VPは、凸部S3を高さ方向に区分する仮想平面(図8中、一点鎖線で図示)であり、「加工平面」と呼ぶ。加工平面VPは、仮想平面S0と平行(すなわち、X-Y平面と平行)に設定されている。図8に示す例では、加工平面VP1~VP6によって凸部S3が高さ方向(Z軸方向)に区分されており、各加工領域層CRに割り当てられる高さ方向(Z軸方向)の範囲が加工平面VP1~VP6によって画定されている。図9に示す例では、凸部S3における頂上地点側(最上層側)から第1加工領域層CR1~第6加工領域層CR6が割り当てられている。なお、各加工領域層CRに割り当てられる高さ寸法は一定であってもよいし、一定でなくてもよい。また、図8に示す二点鎖線は、加工対象面11の長さ方向における端部位置を示す。
【0051】
図9は、各加工平面VPの高さを等高線として加工対象面11における表面高さを等高線状に示した図である。図9に示す例では、加工対象面11の平面領域が、等高線(加工平面VP1~VP6)によって第1領域A1から第7領域A7に区画されている。図9に示される等高線は、各加工平面VPによって加工対象面11の凸部S3を仮想的に切断したときの切り口の輪郭と一致する。
【0052】
加工指示データ生成部110は、加工対象面11の平面領域内における各加工領域層CRの平面的な分布領域を示す加工領域層分布情報を生成する。加工領域層CRの平面的な分布領域は、各加工平面VPによって加工対象面11の凸部S3を仮想的に切断したとき
の切り口に対応する領域といえる。例えば、第1加工領域層CR1の分布領域は、加工対象面11の平面領域内において第1領域A1が占める領域に相当する。第2加工領域層CR2の分布領域は、加工対象面11の平面領域内において第1領域A1及び第2領域A2が占める領域の和に相当する。つまり、第N加工領域層(Nは、2以上の自然数)の分布領域は、加工対象面11の平面領域内において第1領域から第N領域が占める領域の総和に相当する。
【0053】
図10は、加工領域層分布情報を説明する図である。図10中、黒塗り以外の部分が各加工領域層CRの平面的な分布領域を示している。本実施形態における平面出し加工処理は、加工対象面11の凸部S3をその高さ方向に複数の加工領域層CRに区分すると共に、当該複数の加工領域層CRを上層側から順次切削する。図10に示す例では、最上層の第1加工領域層CR1から最下層の第6加工領域層CR6まで、順次上層側から凸部S3を切削することになる。
【0054】
なお、図9に示す符号HLは、加工領域層CRの割り付け高さである。各加工領域層CRの割り付け高さHLは、スクレーパ22における切削刃24が1ストローク当たりに加工対象面11の凸部S3を切削する切削深さΔDSに対応する寸法に設定される。言い換えると、平面出し加工処理において加工対象面11の凸部S3を切削する際、スクレーパ22の切削刃24が1ストローク毎に加工領域層CRの割り付け高さHLに相当するだけのストローク切削深さΔDSが得られるように、加工対象面11に対するスクレーパ22の下方押し込み量δzが設定される。
【0055】
例えば、加工指示データ生成部110は、各加工領域層CRの割り付け高さHLを、予め定められた固定値(例えば、3μm~5μm程度)に設定してよい。或いは、凸部S3の最大高低差(加工対象面11の高さ(Z座標)が最も低い地点と最も高い地点におけるZ軸方向の高低差)に応じて、加工領域層CRの割り付け高さHLを設定してもよい。また、各加工領域層CRにおいて割り付け高さHLを等しくする必要はなく、各層の割り付け高さHLとして異なる値を設定してもよい。例えば、各加工領域層CRにおける割り付け高さHLが、凸部S3の上側(+Z方向側)から下側(-Z方向側)に向かって段階的に小さくなるように設定してもよい。
【0056】
また、加工指示データ生成部110は、ユーザから指定された値を用いて各加工領域層CRにおける割り付け高さHLを設定してもよい。この場合、例えば、キサゲ加工処理の開始前に入出力装置103を介したユーザによる入力操作を受け付けておき、割り付け高さHLを含む入力情報(設定情報)を記憶装置102に記憶しておいてもよい。勿論、加工指示データ生成部110が、各加工領域層CRの割り付け高さHLを自動で設定してもよい。
【0057】
次に、加工指示データ生成部110は、平面出し加工処理時においてスクレーパ22の切削刃24によって加工対象面11の凸部S3を切削する際に切削刃24をストロークさせる経路である加工パスPTを定義するデータが格納された加工点データを加工領域層CR毎に生成する。例えば、加工点データは、加工パスPTに関するデータを加工点番号毎に対応付けてリストにしたデータであり、図10で説明した加工領域層分布情報に基づいて生成することができる。加工点番号は、例えば、対象とする加工領域層CRに含まれる加工パスPTの通し番号であり、当該加工領域層CRを切削する際における切削刃24の総ストローク回数に一致する。加工パスPTに関するデータは、加工パスPTの加工開始点Ps及び加工終了点Peを規定するデータであり、例えば、各加工点における加工開始点座標(XY座標)、加工パス方向DT、加工パス長さLTが規定されていてもよい。勿論、加工パスPTに関するデータとして、加工パスPTの加工開始点座標(XY座標)及び加工終了点座標(XY座標)が規定されていてもよい。
【0058】
図11は、加工点データを示す図である。本実施形態において、各加工領域層CRにおける加工パスPTの具体的な設定態様は特に限定されない。
【0059】
ここで、制御装置100の記憶装置102には、図12Aに示すような基準データテーブルが記憶されている。基準データテーブルは、平面出し加工処理時におけるストローク切削深さΔDS、基準下方押し込み量δzb、基準押し込み抵抗力Czbの対応関係が格納されたデータである。ストローク切削深さΔDS、基準押し込み抵抗力Czb、基準下方押し込み量δzbのフィールドに登録されている具体的な数値は例示である。また、基準データテーブルは、いわゆるデータベースのテーブルであってもよいし、CSV(Comma Separated Values)のような所定の形式のファイルであってもよい。
【0060】
ここで、基準下方押し込み量δzbは、ストローク切削深さΔDSに対応する下方押し込み量δzの基準値である。上記のように、本実施形態においては、加工領域層CRの割り付け高さHLに応じてストローク切削深さΔDSの要求値が定まり、このストローク切削深さΔDSに応じて下方押し込み量δzの基準値が基準下方押し込み量δzbとして定められている。すなわち、基準下方押し込み量δzbは、割り付け高さHL(ストローク切削深さΔDS)に対応する下方押し込み量δzの基準値である。
【0061】
また、基準押し込み抵抗力Czbは、加工処理に係るスクレーパ22の切削刃24が加工対象面11から押し込み方向と逆方向に受ける抵抗力である押し込み抵抗力Czに対して設定される基準値である。上記のように、自動キサゲ加工装置1は、力覚センサ220を備えており、力覚センサ220の検出信号に基づいて、加工対象面11に押し当てたスクレーパ22の切削刃24が押し込み方向と逆方向に加工対象面11から受ける抵抗力を測定することができる。基準押し込み抵抗力Czbは、ストローク切削深さΔDS及び基準下方押し込み量δzbの組み合わせに応じてその大きさが定められている。換言すると、基準押し込み抵抗力Czbは、スクレーパ22の基準となる所定の基準スクレーパを基準下方押し込み量δzbで加工対象面11に押し当てたときの抵抗力であり、この基準下方押し込み量δzbで基準スクレーパがストロークされたときに、加工対象面11がストローク切削深さΔDSで切削される。この基準データテーブルに定められた基準下方押し込み量δzbと基準押し込み抵抗力Czbの対応関係は、基準スクレーパのバネ特性である。
【0062】
ストローク切削深さΔDS、基準下方押し込み量δzb、基準押し込み抵抗力Czbの対応関係は、例えば事前の試験切削によって予め求めておくことができる。例えば、試験用ワークを用意し、自動キサゲ加工装置1を用いて当該試験用ワークの表面に対して平面出し加工処理を試験的に実施する。その際、力覚センサ220によって押し込み抵抗力Czを計測しながらスクレーパ22の下方押し込み量δzをパラメータ(変数)として試験切削を実施し、試験後に試験用ワークの切削深さを計測することによって、上記3つのパラメータの対応関係を求めることができる。
【0063】
加工指示データ生成部110は、記憶装置102に記憶された切削条件情報テーブルと、各加工領域層CRの割り付け高さHLに基づいて、加工領域層CR毎の下方押し込み量δzを決定する。具体的には、各加工領域層CRの割り付け高さHLに対応する基準下方押し込み量δzbを切削条件情報テーブルから読み出し、加工領域層CR毎に基準下方押し込み量δzbを対応付けた押し込み量設定情報テーブルを生成する。図12Bは、押し込み量設定情報テーブルの一例を示す図である。押し込み量設定情報テーブルは、いわゆるデータベースのテーブルであってもよいし、CSV(Comma Separated Values)のような所定の形式のファイルであってもよい。図12Bに示す具体的な数値は例示である。
また、図12Bに示すように、各加工領域層CRの基準下方押し込み量δzbは同じ値に
設定される必要は無い。勿論、各加工領域層CRの基準下方押し込み量δzbが同じ値に設定されることは阻害されない。また、加工指示データ生成部110は、これら加工指示データに基づいて切削を行うスクレーパ22の仕様を指定してもよい。例えば、各加工領域層CR1~CR6のうち、最終層(例えば第6加工領域層CR6)から所定数の加工領域層(例えば加工領域層CR5,CR6)は、刃先25の曲率半径(刃先端半径)が大きいスクレーパ22を指定し、それよりも高い加工領域層(例えば加工領域層CR1~CR4)は刃先25の曲率半径が小さいスクレーパ22を指定する。
【0064】
以上のように、制御装置100の加工指示データ生成部110は、加工領域層CR毎の加工点データと下方押し込み量δz使用するスクレーパ22の指示データを生成し、記憶装置102に記憶させる。
【0065】
次にスクレーパ22のバネ特性を取得する処理(バネ特性取得処理)について説明する。図13は、スクレーパ22のバネ特性を示す図である。スクレーパ特性取得部112は、三次元形状計測器300によって計測された加工対象面11の形状に基づいてロボットアーム200を制御し、スクレーパ22を撓ませない状態で、その下端である切削刃24の刃先を加工対象面11上の所定位置(例えば基準点)に合わせ、このときのロボットアーム200の高さを押し込み開始高さとする。
【0066】
そして、スクレーパ特性取得部112は、ロボットアーム200を押し込み開始高さから-Z方向へ変位させ、スクレーパ22のホルダ部21側を押し込むことによりスクレーパ本体23を撓ませ、この状態で力覚センサ220によって押し込み抵抗力Czを測定する。更に、スクレーパ特性取得部112は、ロボットアーム200の変位量(下方押し込み量δz)を変えて押し込み抵抗力Czの測定を繰り返し、図13のように複数の下方押し込み量δzと押し込み抵抗力Czとの対応関係をスクレーパ22のバネ特性として取得する。
【0067】
スクレーパ特性取得部112は、取得したバネ特性をバネ特性テーブルとして記憶装置102に記憶させる。バネ特性テーブルは、いわゆるデータベースのテーブルであってもよいし、CSV(Comma Separated Values)のような所定の形式のファイルであってもよい。なお、図13のテーブルは例示であり、バネ特性は図13の値等に限定されるものではない。例えば図13では、下方押し込み量δzの値を所定量(図13では1.0mm)ずつ変え、所定の測定間隔で押し込み抵抗力Czを測定したが、この測定間隔は任意に設定できる。また、バネ特性は、テーブルに限定されるものではない。例えば、スクレーパ特性取得部112は、前述のように取得した複数の下方押し込み量δzと押し込み抵抗力Czとから、これらの対応関係を示す関係式を求め、この関係式をバネ特性としてもよい。
【0068】
押し込み量調整部113は、加工指示データによってスクレーパ22の下方押し込み量δzが指示された場合に、スクレーパ特性取得部112で取得したスクレーパ22のバネ特性を記憶装置102から読み出し、このバネ特性と基準値とに基づいて下方押し込み量δzを調整する。図14は、スクレーパ特性取得部112によって取得したスクレーパ22の特性と、基準スクレーパの特性(基準値)を示すグラフである。
【0069】
図14のグラフは、縦軸が押し込み抵抗力Cz、横軸が下方押し込み量δzを示し、基準スクレーパの下方押し込み量δzに対する押し込み抵抗力Czの値(基準値)を丸印、スクレーパ特性取得部112で取得したスクレーパ22の下方押し込み量δzに対する押し込み抵抗力Czの値(検出値)を三角印でプロットしている。また、図14において、符号L0は各基準値を一次近似した場合の近似式によって示される直線(基準特性線)である。即ち、基準特性線L0を示す近似式は、基準スクレーパのバネ特性を示す関係式で
ある。また、符号L1は、各検出値を一次近似した場合の近似式によって示される直線(検出特性線)である。
【0070】
図14に示すように、基準スクレーパが下方押し込み量δzmで押し込まれた場合、押し込み抵抗力Czの値(基準値)はCzeとなる。一方、図14の検出特性線L1で示されるバネ特性のスクレーパ22が下方押し込み量δzmで押し込まれた場合、押し込み抵抗力Czの値はCzfとなる。
【0071】
このようにスクレーパ22の特性が、個体差によって基準スクレーパの特性と異なっていると、同じ下方押し込み量δzmで押し込まれた場合でも押し込み抵抗力Czの値が異なり、同じ切削結果が得られない。このため押し込み量調整部113は、当該スクレーパ22が押し込まれた場合の押し込み抵抗力Czの値を基準値に近づける調整処理を行う。例えば、押し込み量調整部113は、当該スクレーパ22の下方押し込み量δzの値を調整してδzpとし、押し込み抵抗力Czの値を基準値と一致させる。
【0072】
これにより当該スクレーパ22が調整後の下方押し込み量δzpで切削した際の切削深さが、加工指示データのとおり下方押し込み量δzmで基準スクレーパが切削を行う場合の切削深さと一致し、スクレーパ22の個体差による切削結果のバラつきを抑制することができる。なお、スクレーパ22が補正後の下方押し込み量δzpで押し込まれた場合の押し込み抵抗力Czは、基準値と一致するものに限らず、切削結果のバラつきを抑制できるように基準値に近い値となればよい。例えば、押し込み量調整部113は、加工指示データによって下方押し込み量δzが指示された場合に、この下方押し込み量δzと対応する押し込み抵抗力Czの基準値を基準データテーブルから取得する。そして、押し込み量調整部113は、スクレーパ22が加工対象面11に押し込まれた際の押し込み抵抗力Czが基準値となる下方押し込み量δzの値をバネ特性テーブルから近似し、この近似値となるように下方押し込み量δzを調整することで、スクレーパ22の押し込み抵抗力Czが基準値に近づくようにしてもよい。このように押し込み量調整部113による調整処理は、押し込み抵抗力Czの値を基準値と一致させる処理と、押し込み抵抗力Czの値を基準値に近づける処理とを含んでもよい。
【0073】
<キサゲ加工処理フロー>
次に、制御装置100において実行されるキサゲ加工処理フローについて説明する。図15A図15Bは、制御装置100のプロセッサ104によって実行されるフローチャートである。キサゲ加工処理フローは、例えば、入出力装置103の入力装置を介してユーザからのキサゲ加工開始要求を制御装置100が受け付けることを契機に開始される。
【0074】
先ずステップS110において、加工指示データ生成部110は、上述した平面出し用加工指示データ生成処理を実行し、平面出し用加工指示データを生成する。加工指示データ生成部110が生成した平面出し用加工指示データは、記憶装置102に記憶される。
【0075】
ステップS120において、スクレーパ特性取得部112は、上述したバネ特性取得処理を実行し、ロボットアーム200に取り付けたスクレーパ22のバネ特性を取得する。なお、スクレーパ特性取得部112は、ステップS110で生成された平面出し用加工指示データが示す各加工領域層CRの割り付け高さHLを1ストロークで切削する押し込み抵抗力Czに対応する下方押し込み量δzを求めてバネ特性としてもよい。
【0076】
前述のバネ特性取得処理では、スクレーパ22を加工対象面11に対して押し込んだ際の押し込み抵抗力Czを力覚センサ220で検出することでバネ特性を取得したが、図15A図15Bの処理フローを実行する毎に力覚センサ220による検出するのではなく、予め加工指示データ生成部110がバネ特性取得処理を実行してバネ特性を記憶装置1
02に記憶させておき、図15AのステップS120では、記憶装置102からバネ特性を取得してもよい。この場合、バネ特性を記憶させておく記憶装置は、制御装置100内の記憶装置102に限らず、外部に設けられた記憶装置や、スクレーパユニット20に設けられた記憶装置(記憶媒体)であってもよい。
【0077】
ステップS130において、スクレーパ特性判定部114は、上述した特性判定処理を実行し、ステップS120で取得したバネ特性が適正か否かを判定する。ステップS130で否定判定であれば、スクレーパ特性判定部114は、ステップS140へ移行し、警報を出力して図15A図15Bの処理を終了する。
【0078】
一方、ステップS130で肯定判定であれば、ステップS150へ移行し、押し込み量調整部113は、上述した押し込み量調整処理(押し込み量調整制御)を実行する。例えば、押し込み量調整部113は、スクレーパ22のばね特性と基準スクレーパのバネ特性とに基づいて、記憶装置102に記憶された加工指示データの下方押し込み量δzを調整する。
【0079】
次に、ステップS160において、制御部111は、記憶装置102から平面出し用加工指示データを取得する。なお、この平面出し用加工指示データに含まれる下方押し込み量δzの値は、ステップS150で調整されたものである。そして、取得した平面出し用加工指示データに従ってロボットアーム200を制御し、ワーク10の加工対象面11に対する平面出し加工処理を実行する。すなわち、加工対象面11(凸部S3)における各加工領域層CRを、スクレーパ22の切削刃24によって上層側から順次切削する制御が行われる。図8で説明した例においては、第1加工領域層CR1から第6加工領域層CR6まで、これらの順に平面出し用加工指示データに従った切削加工が行われる。なお、制御部111は、平面出し用加工指示データに従う一連の加工処理のうち、加工点番号毎や層毎など所定単位の処理が完了する毎にステップS170へ移行する。
【0080】
ステップS170において、制御部111は、スクレーパユニット20の交換が必要か否かを判定する。例えば、制御部111は、スクレーパ22の累積使用時間や累積加工距離が所定値に達した場合に、スクレーパユニット20の交換が必要と判定する。また、制御部111は、平面出し用加工指示データに基づき、次の加工処理で現用のスクレーパ22と異なる仕様のスクレーパ22が指定されている場合には、スクレーパユニット20の交換が必要と判定(肯定判定)する。
【0081】
ステップS170で肯定判定した場合、制御部111は、ステップS180へ移行し、スクレーパユニット20の交換を行ってステップS120へ戻る。
【0082】
一方、ステップS170で否定判定した場合、制御部111は、ステップS190へ移行し、平面出し加工処理が完了したか否かを判定する。制御部111は、ステップS190で肯定判定であれば、ステップS200へ移行し、否定判定であればステップS160へ戻る。このようにステップS180からステップS120へ戻る或はステップS190からステップS160へ戻ることで、ステップS160の平面出し加工処理が繰り返される場合、制御部111は、一連の加工処理のうち、完了済みの処理は繰り返さず、次に未完了の加工処理を実行する。
【0083】
平面出し加工処理が完了すると、ステップS200に進む。制御部111は、ステップS200において、平面出し加工処理後における加工対象面11の表面高さ情報を取得し、平面出し加工処理後における加工対象面11の平面度が所定の目標平面度を満たしているか否かを判定する。なお、加工対象面11の表面高さ情報は、三次元形状計測器300の計測データに基づいて取得される。ここでいう「平面度」とは、例えばJIS B 0621「幾
何偏差の定義及び表示」に規定されているように「平面形体の幾何学的に正しい平面(幾何学的平面)からの狂いの大きさ」として定義することができる。具体的には、加工対象面11における平面度は、加工対象面11のうち、その高さ(Z座標)が最も高い部位(最も突出した部位)と最も低い位置(最も凹んだ位置)のZ軸方向の高低差として捉えることができる。すなわち、加工対象面11の平面度の値が大きいほど加工対象面11の平面形状における凹凸(起伏)が激しく、加工対象面11の平面度の値が小さいほど加工対象面11の平面形状における凹凸(起伏)が小さく、平滑であることを意味する。加工対象面11の平面度は、加工対象面11における凹凸形状の最大高低差とも言える。本実施形態では、平面出し加工処理後の加工対象面11における凹凸形状の最大高低差が所定の閾値以下である場合に、加工対象面11の平面度が所定の目標平面度を満たすと判断してもよい。
【0084】
ステップS200において加工対象面11の平面度が目標平面度を満たすと判定された場合、ステップS210に進む。一方、ステップS200において加工対象面11の平面度が目標平面度を満たさないと判定された場合、ステップS110に戻り、平面出し用加工指示データ生成処理及び平面出し加工処理を再度実行する。つまり、加工対象面11の平面度が目標平面度を満たすまで、平面出し加工処理が行われる。
【0085】
ステップS210では、加工指示データ生成部110が仕上げ用加工指示データを生成する仕上げ用加工指示データ生成処理を実行する。仕上げ用加工指示データは、制御装置100が仕上げ加工処理を実行する際に使用する加工指示データである。仕上げ用加工指示データは、例えば、入出力装置103の入力装置を介して予めユーザから入力された入力情報に基づいて生成される。入力情報には、例えば、ユーザが指定した当たり面積率や当たり点数が含まれている。ここで、当たり面積率は、ワーク10の加工対象面11における、仕上げ加工処理によって形成される当たり面(凸部)の面積の割合として表されてもよい。また、当たり点数は、加工対象面11における、仕上げ加工処理によって形成される当たり面(凸部)の数として表されてもよい。
【0086】
加工指示データ生成部110は、ユーザが入力した入力情報に含まれるパラメータの条件に合致するように仕上げ用加工指示データを生成する。仕上げ用加工指示データは、スクレーパ22によって加工対象面11に油溜まり用の窪みを形成するための加工パスPT、下方押し込み量δz等といった制御パラメータを加工点番号毎に対応付けてリストにしたデータであってもよい。加工指示データ生成部110が生成した仕上げ用加工指示データは、記憶装置102に記憶される。
【0087】
ステップS220において、制御部111は、仕上げ加工用のスクレーパユニット20に交換する。例えば、仕上げ加工用のスクレーパユニット20は、予め定められ、このスクレーパユニット20を示す設定データが記憶装置102に記憶されていてもよい。この場合、制御部111は、ステップS220において記憶装置102から設定データを読み出し、現用のスクレーパユニット20を当該設定データで指定された仕上げ加工用のスクレーパユニット20に交換する。
【0088】
ステップS230において、スクレーパ特性取得部112は、上述したバネ特性取得処理を実行し、仕上げ加工用のスクレーパユニット20におけるスクレーパ22のバネ特性を取得する。
【0089】
ステップS240において、スクレーパ特性判定部114は、上述した特性判定処理を実行し、ステップS230で取得したバネ特性が適正か否かを判定する。ステップS240で否定判定であれば、スクレーパ特性判定部114は、ステップS250へ移行し、警報を出力して図15A図15Bの処理を終了する。
【0090】
一方、ステップS240で肯定判定であれば、ステップS260へ移行し、押し込み量調整部113は、上述した押し込み量調整処理(押し込み量調整制御)を実行する。例えば、押し込み量調整部113は、スクレーパ22のばね特性と基準スクレーパのバネ特性とに基づいて、記憶装置102に記憶された仕上げ用加工指示データの下方押し込み量δzを調整する。
【0091】
ステップS270において、制御部111は、記憶装置102から仕上げ用加工指示データを取得し、取得した仕上げ用加工指示データに従ってロボットアーム200を制御し、ワーク10の加工対象面11に対する仕上げ加工処理を実行する。その結果、平面出し加工処理後の加工対象面11に油溜まり用の窪みが形成される。加工対象面11に対する仕上げ加工処理が完了すると、図15A図15Bのキサゲ加工処理フローが終了する。
【0092】
なお、上述したキサゲ加工処理フローにおいては、平面出し用加工指示データ生成処理、平面出し加工処理、仕上げ用加工指示データ生成処理、及び仕上げ加工処理を一連のフローで実行する例を説明したが、これには限定されない。例えば、平面出し用加工指示データ生成処理や仕上げ用加工指示データ生成処理を、キサゲ加工処理フローに先だって実行しておき、予め記憶装置102に記憶させておいてもよい。
【0093】
本実施形態では、制御装置100が、力覚センサ220で検出した押し込み抵抗力の検出値とその基準値とを比較した結果に基づいてスクレーパ22の下方押し込み量δzを調整する。これにより本実施形態の自動キサゲ加工装置1は、当該スクレーパ22が調整後の下方押し込み量δzpで切削した場合の切削深さを、基準スクレーパが加工指示データのとおり基準下方押し込み量δzbで切削する場合の切削深さと一致させ、スクレーパ22の個体差による切削結果のバラつきを抑制することができる。
【0094】
また、本実施形態では、スクレーパ22を交換した場合や、自動キサゲ加工装置1を起動してから加工指示データに従う加工を行うまでの期間、又は前記スクレーパ22を交換して加工指示データに従う加工を行うまでの期間に、スクレーパ22のバネ特性を取得する。これにより、本実施形態の自動キサゲ加工装置1は、ロボットアーム200に取り付けられたスクレーパ22のバネ特性を適切に取得し、スクレーパ22の個体差による切削結果のバラつきを抑制することができる。
【0095】
本実施形態では、制御装置100が、スクレーパ22のバネ特性と基準スクレーパのバネ特性を比較し、スクレーパ22のバネ特性が基準スクレーパのバネ特性から所定値以上乖離している場合に、スクレーパ22の状態が適切でないと判定して警報を出力する。これにより本実施形態の自動キサゲ加工装置1は、スクレーパ22が不適切な状態で加工処理を行うことを防止し、加工処理の信頼性を向上させることができる。
【0096】
<実施形態2>
次に、実施形態2を説明する。前述の実施形態1では、スクレーパ22のバネ特性を取得して記憶装置102に記憶し、このバネ特性に基づいて押し込み量δzを調整したが、本実施形態では、スクレーパ22のバネ特性に基づいて押し込み量δzの補正データを生成して記憶装置102に記憶し、この補正データに基づいて押し込み量δzを補正する構成とした。なお、その他の構成は、前述の実施形態1と同じであるため、同一の要素に同符号を付すなどして再度の説明を省略する。
【0097】
図16は、実施形態2に係る制御装置100の機能構成の一例を概略的に示すブロック図である。制御装置100は、前述の実施形態1における図5の構成に加えて、補正データ生成部115を機能部として有している。
【0098】
次に下方押し込み量δzの補正データを生成する処理(補正データ生成処理)について説明する。図13図14に示されるように、基準スクレーパの下方押し込み量δzbの値が4.0mmであった場合、押し込み抵抗力Czbの値(基準値)は20[N]となる。
【0099】
一方、図14の検出特性線L1で示されるバネ特性のスクレーパ22が加工対象面11に対して押し込まれた際の下方押し込み量δzbの値が4.0mmであった場合、押し込み抵抗力Czの値は16[N]となる。
【0100】
このようにスクレーパ22の特性が、個体差によって基準スクレーパの特性と異なっていると、下方押し込み量δzの値が同じであっても押し込み抵抗力Czの値が異なり、同じ切削結果が得られない。この場合、スクレーパ22の下方押し込み量δzの値を5.0mmと補正すれば、押し込み抵抗力Czの値が基準スクレーパの押し込み抵抗力Czbの値(基準値)と同じ20[N]となることが図13図14から分かる。
【0101】
そこで補正データ生成部115は、例えば、スクレーパ22を加工対象面11に押し込んだ際に力覚センサ220で検出される押し込み抵抗力Czの検出値と、基準スクレーパの押し込み抵抗力Czbの値(基準値)とに基づいて、下方押し込み量δzの補正データを生成する。
【0102】
図17は、補正データの一例を示す図である。補正データ生成部115は、図17に示すように、加工指示データで指定される下方押し込み量δzbと、補正した下方押し込み量δzcとを対応付けて補正データとし、記憶装置102に記憶させる。この補正した下方押し込み量δzcでスクレーパ22を加工対象面11に押し込んだ際に力覚センサ220で検出される押し込み抵抗力Czは、当該下方押し込み量δzcと対応する下方押し込み量δzbで基準スクレーパを加工対象面11に押し込んだ際の押し込み抵抗力Czbと同じになる。
【0103】
そして、本実施形態の制御部111は、この補正データを参照して、加工指示データで指定される下方押し込み量δzbを対応する下方押し込み量δzcに補正し、この補正後の下方押し込み量δzcでスクレーパ22を押し込むように制御する。これによりスクレーパ22の個体差による切削結果のバラつきを抑制するようにしている。
【0104】
次に、制御装置100において実行されるキサゲ加工処理フローについて説明する。図18A図18Bは、実施形態2に係る制御装置100のプロセッサ104によって実行されるフローチャートである。キサゲ加工処理フローは、例えば、入出力装置103の入力装置を介してユーザからのキサゲ加工開始要求を制御装置100が受け付けることを契機に開始される。
【0105】
先ずステップS110において、加工指示データ生成部110は、上述した平面出し用加工指示データ生成処理を実行し、平面出し用加工指示データを生成する。加工指示データ生成部110が生成した平面出し用加工指示データは、記憶装置102に記憶される。
【0106】
ステップS120において、スクレーパ特性取得部112は、上述したバネ特性取得処理を実行して、スクレーパ22のバネ特性を取得する。
【0107】
ステップS130において、スクレーパ特性判定部114は、上述した特性判定処理を実行し、ステップS120で取得したバネ特性が適正か否かを判定する。ステップS130で否定判定であれば、スクレーパ特性判定部114は、ステップS140へ移行し、警報を出力して図18図18Bの処理を終了する。
【0108】
一方、ステップS130で肯定判定であれば、ステップS145へ移行し、補正データ生成部115は、上述した補正データ生成処理を行う。補正データ生成部115は、生成した補正データを記憶装置102に記憶させる。
【0109】
次に、ステップS160Aにおいて、制御部111は、記憶装置102から平面出し用加工指示データを取得すると共に、ステップS145で生成した補正データを参照し、平面出し用加工指示データで指定される下方押し込み量δzbを対応する下方押し込み量δzcに補正する補正処理を行う。そして、補正後の平面出し用加工指示データに従ってロボットアーム200を制御し、ワーク10の加工対象面11に対する平面出し加工処理を実行する。ステップS160Aの後、ステップS230までは前述の図15A図15Bと同様である。
【0110】
ステップS240において、スクレーパ特性判定部114は、上述した特性判定処理を実行し、ステップS230で取得したバネ特性が適正か否かを判定する。ステップS240で否定判定であれば、スクレーパ特性判定部114は、ステップS250へ移行し、警報を出力して図18図18Bの処理を終了する。
【0111】
一方、ステップS240で肯定判定であれば、ステップS255へ移行し、補正データ生成部115は、上述した補正データ生成処理を行う。補正データ生成部115は、生成した補正データを記憶装置102に記憶させる。
【0112】
ステップS270Aにおいて、制御部111は、記憶装置102から仕上げ用加工指示データを取得すると共に、ステップS255で生成した補正データを参照し、仕上げ用加工指示データで指定される下方押し込み量δzbを対応する下方押し込み量δzcに補正する補正処理を行う。そして、補正後の仕上げ用加工指示データに従ってロボットアーム200を制御し、ワーク10の加工対象面11に対する仕上げ加工処理を実行する。その結果、平面出し加工処理後の加工対象面11に油溜まり用の窪みが形成される。加工対象面11に対する仕上げ加工処理が完了すると、図18図18Bのキサゲ加工処理フローが終了する。
【0113】
なお、上述したキサゲ加工処理フローにおいては、平面出し用加工指示データ生成処理、バネ特性取得処理、補正データ生成処理、平面出し加工処理、仕上げ用加工指示データ生成処理、及び仕上げ加工処理を一連のフローで実行する例を説明したが、これには限定されない。例えば、バネ特性取得処理及び補正データ生成処理を、キサゲ加工処理フローに先だって実行し、補正データを生成して予め記憶装置102に記憶させておいてもよい。
【0114】
本実施形態では、制御装置100が、力覚センサ220で検出した押し込み抵抗力の検出値とその基準値とを比較した結果に基づいてスクレーパ22の下方押し込み量δzの補正データを生成する。また、制御装置100は、加工指示データに従ってロボットアーム200を制御する際、当該加工指示データによって指示された押し込み量δzを補正データに基づいて補正し、補正後の押し込み量δzcで切削を行う。これにより本実施形態の自動キサゲ加工装置1は、当該スクレーパ22が補正後の下方押し込み量δzcで切削した場合の切削深さを、基準スクレーパが加工指示データのとおり基準下方押し込み量δzbで切削する場合の切削深さと一致させ、スクレーパ22の個体差による切削結果のバラつきを抑制することができる。
【0115】
また、本実施形態では、スクレーパを交換した場合や、前記キサゲ加工装置を起動してから加工指示データに従う加工を行うまでの期間、又は前記スクレーパを交換して加工指
示データに従う加工を行うまでの期間に、下方押し込み量δzの補正データを生成する。これにより、本実施形態の自動キサゲ加工装置1は、ロボットアーム200に取り付けられたスクレーパ22の下方押し込み量δzを適時補正し、スクレーパ22の個体差による切削結果のバラつきを抑制することができる。
【0116】
<その他の実施形態>
上記の実施形態はあくまでも一例であって、本開示はその要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得る。また、本開示において説明した処理や手段は、技術的な矛盾が生じない限りにおいて、自由に組み合わせて実施することができる。
【0117】
また、1つの装置が行うものとして説明した処理が、複数の装置によって分担して実行されてもよい。あるいは、異なる装置が行うものとして説明した処理が、1つの装置によって実行されても構わない。コンピュータシステムにおいて、各機能をどのようなハードウェア構成によって実現するかは柔軟に変更可能である。
【0118】
本開示において前述した課題を解決する手段は、プロセッサ104に読み出されて実行されるコンピュータプログラムであってもよい。当該コンピュータプログラムは、コンピュータ(制御装置100)に提供され、当該コンピュータが有する1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出して実行することによって、上述した各機能部の機能を実現させ、ロボットアーム200の制御等を行う。このようなコンピュータプログラムは、コンピュータのシステムバスに接続可能な非一時的なコンピュータ可読記憶媒体によってコンピュータに提供されてもよいし、ネットワークを介してコンピュータに提供されてもよい。非一時的なコンピュータ可読記憶媒体は、例えば、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクドライブ(HDD)等)、光ディスク(CD-ROM、DVDディスク、ブルーレイディスク等)など任意のタイプのディスク、読み込み専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、EPROM、EEPROM、磁気カード、フラッシュメモリ、または光学式カードのような、電子的命令を格納するために適した任意のタイプの媒体を含む。
【符号の説明】
【0119】
1・・・自動キサゲ加工装置
10・・・ワーク
11・・・加工対象面
100・・・制御装置
110・・・加工指示データ生成部
111・・・制御部
200・・・ロボットアーム
300・・・三次元形状計測器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14
図15A
図15B
図16
図17
図18A
図18B