(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065804
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】キッチン用不織布及びキッチン用不織布の製造方法
(51)【国際特許分類】
D04H 1/4258 20120101AFI20240508BHJP
D04H 1/49 20120101ALI20240508BHJP
【FI】
D04H1/4258
D04H1/49
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174843
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】595031775
【氏名又は名称】シンワ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142217
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 宜紀
(74)【代理人】
【識別番号】100119367
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 理
(72)【発明者】
【氏名】高岡 亮
(72)【発明者】
【氏名】中原 誠
(72)【発明者】
【氏名】安藤 希
【テーマコード(参考)】
4L047
【Fターム(参考)】
4L047AA12
4L047AA21
4L047AA27
4L047AA28
4L047AB02
4L047BA04
4L047BA09
4L047BB09
4L047CA12
(57)【要約】
【課題】吸油性及び吸水性、並びに濡れたときの破れ難さの性能をバランスよく増大させた、比較的安価なキッチン用不織布を提供する。
【解決手段】キッチン用不織布1は、再生セルロース繊維を40質量%以上含有する不織布2でできている。この不織布2は、再生セルロース繊維の繊維長が20~80ミリメートルであり、不織布2の片面2aに多数の凸部3を有しており、この不織布2を構成する繊維が、凸部3がある領域Aでは、不織布2の他の片面2bから凸部3の頂上3aまで分布すると共に、凸部3がある領域Bでは、凸部がある領域に比べて疎らに分布し、他の片面2bから凸部3の頂上3aまでの厚さが、0.6~1.4ミリメートルであるよう構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生セルロース繊維を40質量%以上含有する不織布であって、
前記再生セルロース繊維の繊維長が20~80ミリメートルであり、
少なくとも片面に多数の凸部を有しており、
当該不織布を構成する繊維が、前記凸部がある領域では他の片面から前記凸部の頂上まで分布すると共に前記凸部がない領域では前記凸部がある領域に比べて疎らに分布し、
前記他の片面から前記凸部の頂上までの厚さが、0.6~1.4ミリメートルであることを特徴とするキッチン用不織布。
【請求項2】
請求項1に記載のキッチン用不織布であって、
前記再生セルロース繊維を40~95質量%含有し、熱融着繊維を5~30質量%含有することを特徴とするキッチン用不織布。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のキッチン用不織布であって、
前記熱融着繊維が芯鞘型複合繊維であり、
前記芯鞘型複合繊維の鞘部がポリエステル系樹脂からなることを特徴とするキッチン用不織布。
【請求項4】
請求項1に記載のキッチン用不織布であって、
前記不織布を構成する繊維が水流交絡されていることを特徴とするキッチン用不織布。
【請求項5】
繊維長が20~80ミリメートルである再生セルロース繊維を、前記再生セルロース繊維が40質量パーセント以上含有するようにして得た繊維の方向を引き揃えてウェブを形成するカーディング工程と、
メッシュローラに沿って走行する前記ウェブに向けて高圧水を噴射することで前記ウェブを構成する繊維を交絡すると共に前記ウェブに多数の凸部を形成した不織布を得る結合工程と、
前記結合工程で得られた不織布を加熱し、乾燥する乾燥工程と、
を含むことを特徴とするキッチン用不織布の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のキッチン用不織布の製造方法であって、
前記メッシュローラは、
外周面から内部へ通じる多数の孔を有する中空円筒体と、
前記中空円筒体の外周を覆うように該中空円筒体に装着した、表面が平滑な円筒状に形成されたメッシュ板とを備え、
前記メッシュ板は、該メッシュ板の表面に網の目状に配置した多数の穴と、
前記穴の底に目の細かい網とを有し、
前記噴射されて前記メッシュ板に至った高圧水は、前記穴と前記孔を通じて前記中空円筒体の内部に吸引された後、当該メッシュローラの外部へ排出されることを特徴とするキッチン用不織布の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば台所で油や水の吸収、食器や食材の清拭等に使用するキッチン用不織布及びキッチン用不織布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油や水の吸収、食器や食材の清拭等に使用するシートとして、例えば特許文献1に開示されているように、エンボス加工が施されたクレープ紙等の二つのシートを、層間に多数のエンボス空間が生じるよう積層して構成したキッチンペーパーがある。このキッチンペーパーでは、毛細管現象により吸い取った油や水をエンボス空間に貯めるようにして油の吸収性能を高めている。そして油や水の吸収性能が低下しないよう各エンボス空間を潰れ難くする構造を採用している。
【0003】
また、例えば特許文献2に開示されているように、パルプでできた単層シートの表面にエンボス処理により多数の凹凸が形成されており、各種の産業用製品やこれに用いる部品に付着した塵・埃・水分・油分等の拭き取りに使用される産業用ワイプが知られている。この産業用ワイプでは、基材シートが湿潤紙力剤を含有していることから、湿潤時引張強度が大きく厨房用のキッチンペーパーとしても使用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-053384号公報
【特許文献2】特開2010-259560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上述のエンボス加工が施されたクレープ紙等の二つのシートを、層間に多数のエンボス空間が生じるよう積層して構成したキッチンペーパーは、原料がパルプであるため、油や水を吸ったとき、湿潤引張強度が低下して破れ易くなる。特に、食器等の清拭のために擦るときや、水切りや油切りのために野菜等を包んで絞るときなどに破れ易い。またエンボス加工が施されたシートを積層する必要があるため、製造工程が複雑になり、製造コストの低減を図ることが難しい。
【0006】
また、上述の産業用ワイプは、湿潤紙力剤を含むため、それを野菜や肉等の食材の水切りや油切りのために食材と接触させるのは、衛生上好ましいとはいえない。またエンボス処理によって凸部の裏面側は凹部となり、この凹部は、水や油等の液体の表面張力、毛細管現象により油等をある程度保持することができるため、吸油量や吸水量を、エンボス処理をしない単層シートに比べて幾分増大させることができるが、その大幅な増大は望めない。
【0007】
本発明は、上述のような問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、濡れたときの破れ難さを確保しつつ、吸油性及び吸水性を増大させた、比較的安価なキッチン用不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
本発明の第1の側面に係るキッチン用不織布によれば、再生セルロース繊維を40質量%以上含有する不織布であって、前記再生セルロース繊維の繊維長が20~80ミリメートルであり、少なくとも片面に多数の凸部を有しており、当該不織布を構成する繊維が、前記凸部がある領域では他の片面から前記凸部の頂上まで分布すると共に前記凸部がない領域では前記凸部がある領域に比べて疎らに分布し、前記他の片面から前記凸部の頂上までの厚さが、0.6~1.4ミリメートルであるよう構成できる。
【0009】
前記構成により、濡れたときの破れ難さの性能を極力低下させないよう、吸油性及び吸水性を増大させることができ、例えば食器等の拭き取りを繰り返したり、濡れた野菜の水切りのために、野菜を包んで絞ったりしても破れ難く、しかも吸油性や吸水性の良いキッチン用不織布を得ることができる。また、比較的簡素な製造工程でキッチン用不織布を得ることができるので、製造コストの低減を図ることができる。
【0010】
本発明の第2の側面に係るキッチン用不織布によれば、前記再生セルロース繊維を40~95質量%含有し、熱融着繊維を5~30質量%含有するよう構成できる。
【0011】
本発明の第3の側面に係るキッチン用不織布によれば、前記熱融着繊維が芯鞘型複合繊維であり、前記芯鞘型複合繊維の鞘部がポリエステル系樹脂からなるよう構成できる。
【0012】
本発明の第4の側面に係るキッチン用不織布によれば、前記不織布を構成する繊維が水流交絡されているよう構成できる。
【0013】
本発明の第5の側面に係るキッチン用不織布の製造方法によれば、繊維長が20~80ミリメートルである再生セルロース繊維を、前記再生セルロース繊維が40質量パーセント以上含有するようにして得た繊維の方向を引き揃えてウェブを形成するカーディング工程と、メッシュローラに沿って走行する前記ウェブに向けて高圧水を噴射することで前記ウェブを構成する繊維を交絡すると共に前記ウェブに多数の凸部を形成した不織布を得る結合工程と、前記結合工程で得られた不織布を加熱し、乾燥する乾燥工程と、を含むよう構成できる。
【0014】
本発明の第6の側面に係るキッチン用不織布の製造方法によれば、前記メッシュローラは、外周面から内部へ通じる多数の孔を有する中空円筒体と、前記中空円筒体の外周を覆うように該中空円筒体に装着した、表面が平滑な円筒状に形成されたメッシュ板とを備え、前記メッシュ板は、該メッシュ板の表面に網の目状に配置した多数の穴と、前記穴の底に目の細かい網とを有し、前記噴射されて前記メッシュ板に至った高圧水は、前記穴と前記孔を通じて前記中空円筒体の内部に吸引された後、当該メッシュローラの外部へ排出されるよう構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係るキッチン用不織布の凸部の説明図である。
【
図3】メッシュローラの外周面を構成するメッシュ板の断面図である。
【
図4】ライトテーブル上に置いて撮影した、実施例1のサンプルの写真である。
【
図5】ライトテーブル上に置いて撮影した、実施例2のサンプルの写真である。
【
図6】ライトテーブル上に置いて撮影した、実施例3のサンプルの写真である。
【
図7】ライトテーブル上に置いて撮影した、比較例1のサンプルの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するためのキッチン用不織布及びキッチン用不織布の製造方法を例示するものであって、本発明はそれらを以下のものに特定しない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
(キッチン用不織布)
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係るキッチン用不織布を、その表面に垂直方向に切断したときに現れる断面の一部分を模型的に示している。このキッチン用不織布1は、再生セルロース繊維を40質量%以上含有する不織布2でできている。この不織布2は、再生セルロース繊維の繊維長が20~80ミリメートルであり、不織布2の片面2aに多数の凸部3を有しており、この不織布2を構成する繊維が、凸部3がある領域Aでは不織布2の他の片面2bから凸部3の頂上3aまで分布すると共に、凸部3がない領域Bでは凸部がある領域に比べて疎らに分布し、他の片面2bから凸部3の頂上3aまでの厚さが、0.6~1.4ミリメートルであるよう構成されている。この実施形態では、不織布2は再生セルロース繊維と合成樹脂繊維とで構成されていることが望ましい。不織布2は、再生セルロース繊維を40~95質量%含有し、合成樹脂繊維として熱融着繊維を5~30質量%含有するのが望ましく、熱融着繊維の繊維長も20~80ミリメートルであるのが望ましい。
【0018】
多数の凸部3は、不織布2の片面2aに所要の相互間隔で分散して配置されており、凸部3の平面視形状は夫々略円形状になっている。
【0019】
再生セルロース繊維の繊維長及び合成樹脂繊維の繊維長が夫々20ミリメートル未満だと、繊維同士が十分に絡みつかず、キッチン用不織布1の強度が低下して破れ易くなり、再生セルロース繊維の繊維長及び合成樹脂繊維の繊維長が夫々80ミリメートルを超えると、カーディング時に繊維が、例えば局在したり毛玉になったりして均等に分散しにくくなる傾向にある。
【0020】
再生セルロース繊維の含有率が40質量%未満だと吸水量や吸油量が不足する。再生セルロース繊維の含有率が95質量%を超えると凸部3の突出高さを、十分に得ることが困難になる傾向にある。また合成樹脂繊維の含有率が5質量%未満だと、凸部3の突出高さを十分に得ることが困難になる傾向にあり、合成樹脂繊維が熱融着繊維である場合には繊維同士が十分融着せず、合成樹脂繊維の含有率が30質量%を超えると、キッチン用不織布の吸水性及び吸油性が低下すると共に柔軟性が損なわれる傾向にある。
【0021】
不織布2の他の片面2bから凸部3の頂上3aまでの厚さtつまりキッチン用不織布1の厚さが0.6ミリメートルに満たないと、キッチン用不織布1は、吸油量が不十分なものとなり、1.4ミリメートルを超えると、キッチン用不織布1は、十分な引張強度が得られず、破れ易くなる傾向にある。
(キッチン用不織布の製造方法)
【0022】
本実施形態に係るキッチン用不織布1は、ウェブ状の不織布2を含む他、ウェブ状の不織布2を原反とし、この原反を、例えば所要の幅と長さに切断してシート状にしたり、複数枚に切り離せるように一定間隔でミシン目等を設けてロール形状に巻いたり、複数枚に切断して折り畳んだりしたものを含むものである。原反となるウェブ状の不織布2は、混綿・開繊工程、カーディング工程、結合工程、乾燥工程、検査工程、巻取工程を経て製造される。
【0023】
図2は、結合工程で使用される水流交絡装置の一例を示し、この水流交絡装置10は、メッシュローラ11と、メッシュローラ11に向けて高圧水Wを噴射するノズル部121を備えた高圧水噴射装置12とからなり、ノズル部121は、高圧水Wを噴出するための多数の噴出口を有しており、この多数の噴出口はメッシュローラ11の回転中心軸線と平行する方向に一列に並んでいる。
【0024】
図3は、メッシュローラ11を、その回転中心軸線に沿う平面で切断したときの外周付近の断面の一部分を模型的に示しており、メッシュローラ11は、中空円筒体111と、この中空円筒体111に、その外周を覆うように装着したメッシュ板112とを備えている。メッシュ板112は、剛性があり表面が平滑な円筒状に形成してあり、その表面に網の目状に配置した多数の穴113を有し、穴113の底は、目の細かい網114になっている。中空円筒体111には、その外周面から内部に通ずる多数の孔115が設けてある。
【0025】
混綿・開繊工程では、繊維長が20~80ミリメートルである再生セルロース繊維をほぐすことで、次工程であるカーディングにおいて目付ムラの少ないウェブを得ることができる。再生セルロース繊維と合成樹脂繊維との混綿を行う場合には、それらの繊維を配合や重量が均一になるよう混ぜ合わせて混合繊維を得る。
【0026】
カーディング工程では、混綿・開繊工程で得られたセルロース繊維や、混ぜ合わせた混合繊維に対してカーディングを行うことで、繊維の方向を揃えてウェブを形成する。
【0027】
結合工程では、カーディング工程で形成されたウェブ4を、
図2に示すように水流交絡装置10のメッシュローラ11へ案内して走行させ、
図3に示すように、メッシュローラ11に沿うよう導入されたウェブ4に対してノズル部121から高圧水Wを噴射することで、ウェブ状の不織布2を形成する。
【0028】
ノズル部121から噴射された高圧水Wは、ウェブ4を貫通する。ウェブ4を貫通した高圧水Wのうちの、メッシュ板112の穴113に対応していない部分の高圧水Wは、メッシュ板112の表面に縦向きに衝突して、その衝突位置からメッシュ板の表面沿いに周りへ広がるような横向きの水流となり、その横向きの水流が、ウェブ4の、穴113に対応していない部分の繊維のうちの一部分を、水流に沿うよう引き伸ばしたり、水流の方向へ移動させたりするよう作用する。そのため、穴113に対応していない部分の繊維が穴113の方へ寄せられて疎になり、その穴113の方へ寄せられた繊維が、ウェブ4の穴113に対応する部分に元々ある繊維に加わることにより、穴113に対応する部分に繊維が密集することになり、その密集した繊維が、噴射された高圧水Wにより穴113の底に向かって移動したり水流沿いに伸ばされたりすると同時に水流交絡され、ウェブ4の穴113に対応する部分が穴113の底へ向かって膨らむ。それによって、ウェブ4の穴113に対応する部分に凸部3が形成されると共に、ウェブ4が不織布2になる。ウェブ4を貫通して穴113に到達した横向きの水流及び、ウェブ4を貫通して直接的に穴113に到達した水流は、穴113の底から網114を通過し、更に孔115を通過して中空円筒体111の内部に吸引された後、円筒体の中心支持軸に設けた孔を通じてメッシュローラ11の外部へ排出されるようになっている。
【0029】
このようにして、
図2に示すウェブ4はメッシュローラ11を通過することで多数の凸部3を有するウェブ状の不織布2となり、この不織布2がキッチン用不織布1の基材シートとなる。そして
図1に示す不織布2の凸部3がある領域Aの密度が、不織布2の凸部3がない領域Bの密度より小さくなる。これは、領域Aの方が繊維が水流により寄せられるため繊維量は多いが、他の片面から凸部の頂上までの厚さが大きいため、結果的に領域Aの密度が領域Bの密度より小さくなるためである。
【0030】
乾燥工程では、凸部形成工程で凸部3が形成された不織布2を熱風により加熱して不織布2を乾燥させる。また、必要に応じて、不織布2に含まれている熱融着繊維と再生セルロース繊維とを部分的に融着させることが可能になっている。
【0031】
検査工程では、乾燥工程で乾燥した不織布2に不良個所がないか等を検査し、巻取工程では、検査を終え不織布2をロール状に巻取って原反ロールを形成する。
【実施例0032】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はこの実施例によって何ら制限されるものではない。
(湿潤引張強度、吸油性及び吸水性の検証)
【0033】
本実施形態に係るキッチン用不織布の破れ難さ、吸油性及び吸水性を検証するため、以下の試験を行った。
(実施例1)
【0034】
試験に用いる本実施形態に係るキッチン用不織布1の原反として、レーヨンからなる再生セルロース繊維を50質量%、ポリエチレンテレフタレート繊維を50質量%含有し、目付が1平方メートル当たり54.4グラム、厚さtが約0.82ミリメートル、密度が1立方センチメートル当たり0.066グラムのウェブ状の不織布2を、前述のキッチン用不織布の製造方法により製造し、この不織布2をキッチン用不織布1の実施例1のサンプルとして用いた。
図4は実施例1のサンプルの写真である。なお、この実施例1のサンプルを製造する際、乾燥工程において、再生セルロース繊維とポリエチレンテレフタレート繊維との熱融着を行っていない。
【0035】
実施例1のサンプルにおいて、再生セルロース繊維の繊維長は51ミリメートル、再生セルロース繊維の繊度は1.7dtex、ポリエチレンテレフタレートの繊維長は51ミリメートル、ポリエチレンテレフタレート繊維の繊度は1.7dtexであった。
【0036】
実施例1のサンプルの製造に使用した水流交絡装置10において、高圧水噴射装置12のノズル部121の噴射口は0.6ミリメートルのピッチで配置してあり、ノズル部121の噴射口のオリフィスの孔径は0.1ミリメートルであり、ノズル部121に送られる高圧水の圧力は8メガパスカルであった。またメッシュローラ11のメッシュ板112の表面に形成された多数の穴113は、各々の形状が、直径4ミリメートルの円に内接する六角形となっており、深さが1ミリメートルであり、互いに横方向の中心間距離8ミリメートルを隔てて45°千鳥に配置されている。
(実施例2)
【0037】
また、試験に用いる本実施形態に係るキッチン用不織布1の原反として、レーヨンからなる再生セルロース繊維を85質量%、及びポリエステル系芯鞘型複合繊維からなる熱融着繊維を15質量%含有し、目付が1平方メートル当たり55.4グラム、厚さtが0.75ミリメートル、密度が、1立方センチメートル当たり0.074グラムのウェブ状の不織布2を、実施例1と同様の製造方法によって製造し、これを実施例2のサンプルとして用いた。
図5は実施例2のサンプルの写真である。
(実施例3)
【0038】
また、試験に用いる本実施形態に係るキッチン用不織布1の原反として、レーヨンからなる再生セルロース繊維を85質量%、及びポリエステル系芯鞘型複合繊維からなる熱融着繊維を15質量%含有し、目付が1平方メートル当たり44.8グラム、厚さtが約0.72ミリメートル、密度が、1立方センチメートル当たり0.062グラムのウェブ状の不織布2を、実施例1と同様の製造方法によって製造し、これを実施例3のサンプルとして用いた。
図6は実施例3のサンプルの写真である。
【0039】
実施例2及び実施例3の各サンプルの再生セルロース繊維の繊維長及び繊度は、実施例1のサンプルと同じとし、ポリエステル系芯鞘型複合繊維の繊維長は51ミリメートル、繊度は2.2dtexであった。また、実施例2及び実施例3の結合工程で用いる水流交絡装置10も実施例1の場合と同じ条件設定で運転した。また実施例2及び実施例3の各サンプルのポリエステル系芯鞘型複合繊維は、芯がポリエチレンテレフタレート、鞘が低融点(摂氏110度)の共重合ポリエチレンテレフタレートでできており、実施例2及び実施例3の各サンプルでは、乾燥工程において再生セルロース繊維とポリエステル系芯鞘型複合繊維とが部分的に熱融着されている。
【0040】
実施例1から実施例3の各サンプルの目付は、「JIS L 1913:1998 6.2」に基づき測定した。即ち、サンプルから、一辺の長さが200ミリメートルの正方形の試験片を3枚採取し、標準状態における試験片の質量を測定した。そして測定した試験片の質量を試験片の面積で除算して不織布の目付を算出した。質量の測定は各試験片について行い、平均値を算出した。
【0041】
実施例1から実施例3の各サンプルの厚さは、「JIS L1913:1998 6.1.2A法」に基づき測定した。即ち、不織布2から、一片が50ミリメートルの正方形の試験片を5枚採取した。厚さ測定器(大栄科学精器製作所製ピーコック厚さ計(端子の直径44ミリメートル))を用いて標準状態で試験片に0.34キロパスカルの圧力をかけて厚さを測定した。厚さの測定は各試験片(5枚)について行い、平均値を算出した。
(比較例)
【0042】
また、表1に示す不織布を比較例のサンプルとして用意した。
【0043】
【表1】
なお表中の、PETはポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)繊維を示している。
(比較例1)
【0044】
比較例1のサンプルは、レーヨンからなる再生セルロース繊維を100質量%含有し、目付が1平方メートル当たり45.8グラム、密度が、1立方センチメートル当たり0.14グラムの不織布である。比較例2のサンプルにおいて再生セルロース繊維は、その繊維長が51ミリメートル、その繊度が1.7dtexのものである。この比較例1のサンプルの厚さは0.32ミリメートルである。比較例1のサンプルの目付や厚さは実施例1~実施例3と同様に測定した。
【0045】
比較例1のサンプルには、
図1に示すような凸部3が形成されていない。つまり、比較例1のサンプルは、結合工程において、
図2及び
図3に示すメッシュローラ11の代わり、目の小さな円筒状の網からなる外周面を有する支持ローラを用いた。つまり、この支持ローラは、
図3に示す多数の穴113を有するメッシュ板112を備えていない。そして、この支持ローラの外周面を走行するウェブ4に対して高圧水を噴射することにより、ウェブ4の繊維を水流交絡させてスパンレース不織布を形成したものである。
図7は比較例1のサンプルを示す写真である。また比較例1のサンプルは、乾燥工程において単に乾燥させたものである。
(濡れたときの破れ難さ、吸油性及び吸水性に関する評価方法)
【0046】
実施例1及び比較例1~3に対して、以下の方法で濡れたときの破れ難さ、吸油性及び吸水性の性能について評価試験を行った。
【0047】
各サンプルについて、濡れたときの破れ難さの指標として湿潤引張強度を採用し、吸油性の指標として吸油時間及び吸油量を採用し、吸水性の指標として吸水時間及び吸水量を採用し、それらの測定を行った。
(湿潤引張強度の測定)
【0048】
各サンプルの湿潤引張強度を「JIS L 1913:1998 6.3.2」に基づいて測定した。即ち、まずサンプルから幅50ミリメートル、長さ200ミリメートル四角形の試験片を採取し、この試験片を水中に10分間以上浸漬した。そして、この試験片を水中から取出し、速やかに定速伸長形引張試験機に試験片を取付け、つかみ間隔を100ミリメートルとし、引張速度が300ミリメートル/毎分となる条件で、試験片が切断するまで荷重を加え、最大点の応力を測定した。この測定は、ウェブ状の不織布2の搬送方向を縦方向とし、それに直交する方向を横方向としたとき、縦方向と横方向について各5枚の試験片(計10枚の試験片)で行い、10枚の平均値を算出し、これをサンプルの縦・横平均の湿潤引張強度とした。この縦・横平均の湿潤引張強度は、縦方向の試験片と横方向の試験片に最大応力が加わったときの、夫々幅5センチメートル当たりに生じる引張力の平均値であり、この引張力の単位はニュートンである。
(吸油時間の測定)
【0049】
各サンプルの吸油時間を次のようにして求めた。まず各サンプルから一片の長さが200ミリメートルの正方形の試験片を1枚採取した。次いで、標準状態で試験片の上部10ミリメートルの高さから食用油を1滴滴下し、食用油が試験片の表面に達した時から、試験片の内部に吸収されるまでの時間を測定し、吸油時間(秒)とした。測定は試験片の任意の箇所で5回行い、平均値を算出した。なお、滴下後に即座に吸収する場合は、1秒以下と記録した。また、測定には食用油として、「日清オイリオグループ株式会社製 日清サラダ油 コレステロールゼロ」を用いた。
(吸油量の測定)
【0050】
各サンプルの吸油量を次のようにして求めた。まずサンプルから一辺の長さが100ミリメートルの正方形の試験片を5枚採取し、各試験片について、1枚あたりの質量を、試験片の吸油前の質量として夫々測定した。次いで、各試験片について、試験片を食用油中に1分間浸漬後、試験片を食用油中から取出し、速やかに試験片の一端をクリップで固定し、2分間吊り下げた後、速やかに1枚あたりの質量を、試験片の吸油後の質量として夫々測定した。そして試験片毎に、測定した試験片の吸油後の質量から、測定した試験片の吸油前の質量を引き算して試験片毎の吸油量の平均値を算出して、サンプルの吸油量とした。このときの各質量の単位はグラムである。なお測定には食用油として、「日清オイリオグループ株式会社製 日清サラダ油 コレステロールゼロ」を用いた。
(吸水時間の測定)
【0051】
各サンプルの吸水時間を次のようにして求めた。まず各サンプルから一辺が200ミリメートルの正方形の試験片を1枚採取した。次いで、標準状態で試験片の上部10ミリメートルの高さから水を1滴滴下し、水が試験片の表面に達した時から、試験片の内部に吸収されるまでの時間を測定し、吸水時間(秒)とした。測定は試験片の任意の箇所で5回行い、平均値を算出した。なお、滴下後に即座に吸収する場合は、1秒以下と記録した。
(吸水量の測定)
【0052】
各サンプルの吸水量を、「JIS L 1912:1997 6.12.2」に基づいて測定した。即ち、まずサンプルから一片が100ミリメートルの正方形の試験片を5枚採取し、各試験片について、1枚あたりの質量を吸水前の質量として測定した。次いで、各試験片について。試験片を水中に1分間浸漬後、試験片を水中から取出し、速やかに試験片の一端をクリップで固定し、2分間吊り下げた後、速やかに1枚あたりの質量を吸水後の質量として測定した。そして、そして試験片毎に、測定した試験片の吸水後の質量から、測定した試験片の吸水前の質量を引き算して試験片毎の吸水量を算出し、試験片毎の吸水量の平均値を算出して、サンプルの吸水量とした。このときの各質量の単位はグラムである。
(破れ難さ、吸油性及び吸水性に関する評価結果)
【0053】
表1に、実施例1~実施例3及び比較例1の各サンプルの湿潤引張強度、吸油速度、吸油量、吸水速度及び吸水量の測定結果を示した。
【0054】
実施例1~実施例3及び比較例1の目付は夫々同程度の大きさであり、実施例1及び実施例2の各サンプルの湿潤引張強度は、比較例1と比べて夫々増大している。そして実施例3のサンプルの湿潤引張強度は、比較例1のサンプルの湿潤引張強度の約78%になっており、比較例1に比べて少し低減している。
【0055】
実施例1のサンプルでは、その吸油量が比較例1のサンプルの吸油量の約2.33倍となり、その吸水量が比較例1のサンプルの吸水量の約1.72倍になっている。実施例2のサンプルでは、その吸油量が比較例1のサンプルの吸油量の約1.96倍になり、その吸水量が比較例1のサンプルの吸水量の約1.58倍になっている。また、実施例3のサンプルでは、その吸油量が比較例1のサンプルの吸油量の約1.89倍になり、その吸水量が比較例1のサンプルの吸水量の約1.5倍になっており、実施例1~実施例3の吸油量及び吸水量は大幅に増大している。したがって、結合工程においてウェブ4に
図1に示すような凸部3を形成して不織布を製造することで、不織布の湿潤引張強度の低下を極力抑え、吸油量及び吸水量を大幅に増加させることができることが確認できた。
【0056】
本発明によれば、キッチン用不織布は、凸部が表と裏の両面から突出したものでもよく、スパンレース不織布でできていることが望ましいが、サーマルボンド不織布に高圧水を噴射することで多数の凸部を形成したものでもよい。熱融着繊維はサイドバイサイドの複合繊維でもよいし、海島状の複合繊維でもよいが、芯鞘型複合繊維であることが引張強度を得る点で好ましい。芯鞘型複合繊維は、芯部がポリプロピレンからなるものでもよいし、鞘部がポリエチレンからなるものでもよいが、鞘部がポリエステル系樹脂であることが、吸水性の点で望ましい。再生セルロース繊維としてリヨセル、キュプラ等を用いることもあり得る。また凸部を形成する際に噴射される高圧水は、水の代わりに、水の性質に似た性質の他の液体を使用してもよい。