(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065814
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】作業工程最適化支援方法及び作業工程最適化支援装置
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/20 20230101AFI20240508BHJP
G06Q 50/06 20240101ALI20240508BHJP
G21C 17/00 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
G06Q10/00 300
G06Q50/06
G21C17/00 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174855
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】細川 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】太田 信之
(72)【発明者】
【氏名】清水 亮介
【テーマコード(参考)】
2G075
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
2G075AA01
2G075BA16
2G075CA50
2G075DA08
2G075GA37
5L049CC06
5L049CC15
5L050CC06
(57)【要約】
【課題】原子力プラントの保全計画について効率的な定期検査工程の作成ができる作業工程最適化支援方法を提供する。
【解決手段】原子力プラントの点検計画作成を支援する作業工程最適化支援装置の作業工程最適化支援方法であって、主要線源(例えば、炉外配管)の放射性核種付着量予測を使って、主要線源の線量率を求める。実績情報から作業件名、作業グループ、作業職種ごとに定検ごとの総被ばく線量と総作業時間から被ばく線量率を求めて、その関係性を評価する。これに予測される主要線源の線量率を反映させて予測される被ばく線量率を求める。更に、予測される作業量から総作業時間に相当する仕事量を求め、これを予測される被ばく線量率に乗じて被ばく線量を求め、必要遮蔽量を求めて遮蔽工事の最適化を図って定検工事工程の最適化を図る。
【選択図】
図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力プラントの点検計画作成を支援する作業工程最適化支援装置の作業工程最適化支援方法であって、
点検・工事の実績情報に加え、過去の運転情報と将来の運転計画から予測する被ばく線量を含む情報を用いて作業計画の作成を支援する際に、作業件名、作業グループ、作業職種ごとの予測被ばく線量に基づいて、人員、作業工程の標準作業からの偏差を計算して人員、作業工程を見積もり、各作業の組み合わせに基づいて作業日数を削減可能となる工程順序で検査を計画する
ことを特徴とする作業工程最適化支援方法。
【請求項2】
前記被ばく線量の評価に用いる仕事量は、前記実績情報に基づく過去の作業時間に、過去の作業効率係数と作業習熟度情報に基づく作業習熟度係数とを乗じて算出され、作業計画時の推定作業時間は、前記仕事量を、計画時の作業効率係数と計画時の作業習熟度係数との乗算値で除算して算出される
ことを特徴とする請求項1に記載の作業工程最適化支援方法。
【請求項3】
前記被ばく線量の評価に用いる作業者の被ばく線量は、前記実績情報から作業件名、作業グループ、作業職種ごとに、総被ばく線量を総作業時間で除した被ばく線量率に、同じ作業件名、作業グループ、作業職種ごとの総仕事量を乗じて算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の作業工程最適化支援方法。
【請求項4】
前記被ばく線量の評価に用いる作業者が作業する場所の線量率は、前記実績情報から作業件名、作業グループ、作業職種ごとに、総被ばく線量を総作業時間で除した被ばく線量率と、作業場所の主要線源の線量率との関係を各定検回で整理して、その主要線源の線量率と被ばく線量率との関係を求めて、次回の主要線源の予測線量率からその関係を用いて評価した被ばく線量率を用いる
ことを特徴とする請求項1に記載の作業工程最適化支援方法。
【請求項5】
前記被ばく線量の評価に用いる作業者が作業する場所の線量率の評価に用いる作業場所の主要線源の線量率は、過去の給水水質、炉水水質、運転情報と炉水、給水に含まれる金属不純物とその放射化生成物のマスバランスモデルから、マスバランスモデルのパラメータを決定し、決定したパラメータを用いたマスバランスモデルに次回定期検査までの給水水質、運転情報を入力として与えて計算される炉水水質を用いて評価される構造材料への放射性核種付着量と、作業場所の主要線源の各定検回ごとの線量率の実績情報と、マスバランスモデルから求めた各定検回ごとの構造材料への放射性核種付着量との関係を求めておいて、この関係性に次回の放射性核種付着量を反映させて求めた主要線源の予測線量率を用いる
ことを特徴とする請求項1に記載の作業工程最適化支援方法。
【請求項6】
炉水の放射性核種濃度の予測に基づく作業場所の主要線源の線量率予測を、前記作業件名、作業グループ、作業職種ごとの被ばく線量率と主要線源の線量率との関係に反映させて、次回の被ばく線量予測を行い、その被ばく線量予測に基づいて遮蔽量を評価し、被ばく線量目標に対して遮蔽量を最適化して、最適化した遮蔽量を施工するための遮蔽工事工程を作業工程に取り入れる
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の作業工程最適化支援方法。
【請求項7】
炉水の放射性核種濃度の予測に基づく作業場所の主要線源の線量率予測に、化学除染の適用による線量率低下効果を反映させ、前記化学除染の適用後、運転を再開して停止する将来の定検開始時の作業場所の主要線源の線量率予測の際には、除染後の放射性核種付着量を初期値として、炉水の放射性核種濃度の予測方法を適用して追加の放射性核種付着量の蓄積量を評価し、これに基づいて、主要線源の線量率を求め、これを使って被ばく線量を求めて必要遮蔽量を評価し、遮蔽工事工程を計画して作業工程に取り入れる
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の作業工程最適化支援方法。
【請求項8】
原子力プラントの点検計画作成を支援する作業工程最適化支援装置であって、
点検・工事の実績情報に加え、過去の運転情報と将来の運転計画から予測する被ばく線量を含む情報を用いて作業計画の作成を支援する際に、作業件名、作業グループ、作業職種ごとの予測被ばく線量に基づいて、人員、作業工程の標準作業からの偏差を計算して人員、作業工程を見積もり、各作業の組み合わせに基づいて作業日数を削減可能となる工程順序で検査を計画する処理部を有する
ことを特徴とする作業工程最適化支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所における定期検査計画に係る作業工程最適化支援方法及び作業工程最適化支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
日本における原子力発電所関連の定期検査計画は電力事業者により専門性を持つ少人数で行われるのが通常である。スケジューリングは高度な熟練度を持った少数の専門家に頼らざるを得ず、また、そのために費やされる専門家たちの労力は多大なものであった。このため、労力を軽減する方法が各種提案されている。
【0003】
特許文献1では、建設エリアに施工される複数の構成要素からなるプラントの建設工事又は更新工事の計画作成を支援するプラントの工事計画支援装置において、過去に実施された工事(以下、過去工事という)の実績データを複数蓄積したデータベース手段と、予定される工事(以下、予定工事という)と同一又は類似する、工事対象の型式及び工事部位を入力する入力手段と、入力手段により入力された工事対象の型式及び工事部位に対応する過去工事の実績データをデータベース手段から抽出する実績データ抽出手段と、実績データ抽出手段で抽出された実績データを用いて、予定工事の作業内容とその時系列順が設定された工程計画表を作成する計画作成手段とを備えることが提案されている。
【0004】
特許文献2では、プラント保守作業管理装置が保守作業のスケジュール作成に必要な対象機器に関する情報と、保守作業内容に関する情報と、作業者及び作業機材に関する情報とを含むデータを格納するデータベースと、スケジュール作成上必要最小限の情報を提示してユーザにデータを設定させ、このユーザ設定のデータに基づいてデータベースの情報を取得して作業間の干渉を回避しつつ最適なスケジュールを作成し、必要に応じてメッセージを出力するスケジュール管理支援モジュールと、ワークステーションの入力装置、スクリーン、ハンディーターミナルの少なくとも一つを含む入出力装置と、入出力装置を介して入力されたユーザの命令に基づいてスケジュール管理支援モジュールの命令を実行し、処理結果を入出力装置に出力する情報演算処理装置とを有することが提案されている。
【0005】
特許文献3では、プラント保守作業管理の管理項目の一つである放射線被ばく管理に関するシステムと管理方法を提供している。管理方法は収集した個人被ばく線量値を作業区域毎に総和を集計し、作業区域及び作業種別毎に単位時間、単位人数当たりの被ばく線量値として算出し、作業予定情報に基づく作業時間と突き合わせることで区域別被ばく線量予測を行うというものである。これにより、予定作業前に被ばく線量値を予測する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-170496号公報
【特許文献2】特開平08-129414号公報
【特許文献3】特開2016-125832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
日本では海外に比べ原子力発電所の設備利用率が低い。この原因の一つとして定期検査(以下、適宜「定検」と記載)の際の点検対象部品が多いため、原子炉停止をした点検期間が長くなってしまうことが挙げられる。また、点検作業を長時間行うことで作業者の被ばく量も海外に比べ高いことが知られている。日本国内で原子力発電所の設備利用率の向上と作業者被ばくの低減のため、定期検査期間の短縮を目指すとき、保全作業の生産性を上げる計画が求められる。
【0008】
米国では原子力発電所保全の計画を立てる際に関連する組織の関係者が集まり、詳細な計画と実行性があるかどうかレビューを行い、現場での変更が極力出ないように事前計画の作成や準備を進めている。これは米国原子力業界のワークマネジメントに基づき、作業実施のためのプロセスとして実施されている。米国の原子力発電運転協会(INPO:Institute of Nuclear Power Operations)の作成するAP-928(作業管理プロセス)に作業優先度分類、作業決定、作業詳細計画、作業スケジュール決定、実行性について多方面からのレビュー、作業実施、改善のための評価の順に分けられている。
【0009】
国内での原子力プラントの定期検査に着目するとおおむねこのプロセスに沿っているが、作業管理が受注単位で行われているため、実作業に関する時間、人、モノ等において細かな調整を行うことが難しいという課題がある。また、作業員の被ばく線量については管理対象としているが、その作業前の予測は前回実績でしか行っていない。従って被ばくに影響する仮設遮蔽の計画や系統配管の水抜きの計画は過剰に保守的になっていて、仮設遮蔽の設置作業や配管系統の水抜きアイソレーション作業が工程計画の最適化を妨げている可能性があるという課題がある。
【0010】
本発明は、前記の課題を解決するための発明であって、原子力プラントの保全計画について効率的な定期検査工程の作成ができる作業工程最適化支援方法及び作業工程最適化支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明の作業工程最適化支援方法は、原子力プラントの点検計画作成を支援する作業工程最適化支援装置の作業工程最適化支援方法であって、点検・工事の実績情報に加え、過去の運転情報と将来の運転計画から予測する被ばく線量を含む情報を用いて作業計画の作成を支援する際に、作業件名、作業グループ、作業職種ごとの予測被ばく線量に基づいて、人員、作業工程の標準作業からの偏差を計算して人員、作業工程を見積もり、各作業の組み合わせに基づいて作業日数を削減可能となる工程順序で検査を計画することを特徴とする。本発明のその他の態様については、後記する実施形態において説明する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、原子力発電所の保全対象機器について、効率的な定期検査工程の作成ができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係る作業工程最適化支援装置の構成を示す図である。
【
図2】作業工程最適化支援装置による作業計画の作成支援処理を示すフローチャートである。
【
図3】作業工程最適化支援装置による作業計画の実行性評価処理を示すフローチャートである。
【
図4】定検計画支援処理を示すフローチャートである。
【
図5】進行中工程の見直し支援処理を示すフローチャートである。
【
図6】作業人数による作業効率の変化例を示す図である。
【
図7】作業人数による作業効率係数決定処理を示すフローチャートである。
【
図8】作業グループごとの作業習熟度評価処理を示すフローチャートである。
【
図9】現場作業の情報支援処理を示すフローチャートである。
【
図10】計画実行性の評価結果の表示例を示す図である。
【
図11】炉水中の腐食生成物、放射性腐食生成物の移動の様子を模式化して示した図である。
【
図12】給水水質、炉水水質、配管Co-60付着量の運転時間変化を示した図である。
【
図13】サイクル終了時の炉外配管のCo-60付着量と炉外配管表面線量率の関係を示した図である。
【
図14】サイクル終了時の作業被ばくの主要線源である炉外配管表面線量率と定検作業後の作業件名、作業グループ、作業職種毎の総被ばく線量を総作業時間で除した被ばく線量率の関係を示す図である。
【
図15】作業習熟度の評価結果の表示例を示す図である。
【
図16】予測される被ばく線量に基づいて仮設遮蔽工事の計画処理を示すフローチャートである。
【
図17】予測される被ばく線量に基づいて計画される仮設遮蔽工事の作業工程を示す図である。
【
図18】化学除染の効果を考慮した仮設遮へい工事の増減を示した図である。
【
図19】化学除染の効果を考慮した検査工事物量の増減を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る作業工程最適化支援装置100の構成を示す図である。作業工程最適化支援装置100は、処理部10、記憶部20、入力部30、出力部40、通信部50を有する。処理部10は、作業工程最適化部11、作業計画評価部12を有する。作業計画評価部12は、作業時間に関する評価、被ばくに関する評価、作業計画の懸案項目の抽出、作業計画と作業実績との比較等の機能を有する。記憶部20には、被ばく管理情報21、工程進捗状況22、リソース情報23、作業者の作業習熟度24、処理部出力情報25等が記憶されている。被ばく管理情報21には、作業員の作業日時、作業時間、作業内容、作業場所、作業場所の線量率に加え、炉水放射能濃度の評価に利用できるプラントの給水水質、炉水水質、運転情報等が含まれる。
【0015】
図1において、処理部10は、中央演算処理装置(CPU)であり、RAMやHDD等に格納される各種プログラムを実行する。記憶部20は、HDDであり、作業工程最適化支援装置100が処理を実行するための各種データを保存する。入力部30は、キーボードやマウス等のコンピュータに指示を入力するための装置であり、プログラム起動等の指示を入力する。出力部40は、ディスプレイ等であり、作業工程最適化支援装置100による処理の実行状況や実行結果等を表示する。通信部50は、ネットワークNWを介して、他の装置と各種データやコマンドを交換する。
【0016】
また、作業工程最適化支援装置100は、外部記憶装置のデータベース装置200を有する。データベース装置200には、作業の基本情報DB210、プラント環境情報DB220、点検実績情報DB230、作業者情報DB240、リアルタイム更新情報DB250、新たな知見や対策等情報DB260等を有する。なお、DBはデータベースを意味する。
【0017】
各DBに格納される情報について説明する。
作業の基本情報DB210は、作業を行うための条件、手順、必要リソース、他作業との前後関係を含む作業を実施するための必要情報のDBであり、作業人数(人員)、作業工程の標準作業の内容が含まれる。プラント環境情報DB220は、点検を実施する際の作業区域の躯体情報、3D-CAD情報、線量分布情報、及び作業中足場情報を含む作業者の作業環境に関する情報のDBである。プラント環境情報DB220には更に線量分布を予測するために利用できるプラントの給水水質、炉水水質、運転情報等が含まれる。点検実績情報DB230は、過去に実施された原子力プラント等の点検時における作業工程、作業ごとの詳細計画(作業手順)、作業内容、作業時間、作業人数、作業者の作業習熟度情報、作業者被ばく情報及び作業実施結果情報を含む情報のDBである。
【0018】
作業者情報DB240は、点検作業に従事する作業者個人及びグループの作業経験情報、教育・トレーニングの実績情報、放射線管理情報及び資格等の取得情報を含む作業者の技能と被ばくに関する情報のDBである。リアルタイム更新情報DB250は、進行中の点検における作業進捗情報及び作業者被ばく情報を含む進行中作業に係る情報のDBである。新たな知見や対策等情報DB260は、点検方法の改善技術や方法を含む過去の実績以外から得られる改善に関わる情報のDBである。
【0019】
処理部10について説明する。
作業工程最適化部11は、工程作成に係る各作業の条件を指定することで作業の基本情報、プラント環境情報、作業者情報、点検実績情報を含むDBから入力条件を満たすように作業工程の自動作成を行う機能を有する。
【0020】
作業計画評価部12は、作成された工程からDBの情報より作業完了時間、作業者の被ばく線量の予測を行う。また、作業計画評価部12は、作業計画と作業実績の比較部にて作業の計画と過去実績データの比較結果を表示する機能を有する。ここで比較結果により差異が大きいと判断される項目を改善項目として表示する作業計画の改善項目提案機能を有する。さらに、作業計画評価部12は、シミュレーションを行うための作業手順や作業場所の躯体データ、過去の同一作業及び類似作業の実績情報を含む関係情報を表示参照できる機能を有する。更に作業計画評価部12は、炉水放射能濃度のプラント運転時間に対する変化の挙動をシミュレーションして、それを基に機器表面の放射性核種付着量を評価して、これと過去の定検作業の作業員の作業実績、被ばく線量を用いて作業被ばく線量を予測する機能を有する。
【0021】
前記したように、処理部10は、
図2、
図3に示すフローチャートのように定期検査工程作成の支援と作業計画レビューの支援を行う機能を有する。以下詳細に説明する。
【0022】
図2は、作業工程最適化支援装置100による作業計画の作成支援処理S100を示すフローチャートである。ステップS101において、工程作成者により各作業の実施条件が入力される。このとき、データベース装置200より作業実績情報が参照できる場合、入力を省略することができる。
【0023】
ステップS102において、処理部10は、各作業実施の前後制約を抽出し、実施作業ごとに整理する。
【0024】
ステップS103において、処理部10は、整理された情報より、クリティカル工程を作成する。クリティカル工程とは、定検工程内において作業の開始と終了時間に弾性力がない一連の作業を示す。
【0025】
ステップS104において、処理部10は、クリティカル工程を基準とし、その他作業のスケジュールリングを行う。このとき作業と作業の間の時間の裕度がなるべく均等となるように工程上配置される。
【0026】
図3は、作業工程最適化支援装置100による作業計画の実行性評価処理S110を示すフローチャートである。ステップS111において、処理部10は、実行性の評価に用いる、実施作業に関連する情報をデータベース装置200より抽出する。ステップS112において、処理部10は、抽出した点検の実績データや研究等による新たな知見として得られたデータと作業計画の情報を比較する。ステップS113において、処理部10は、比較による計画実行性の評価を表示する。
図10に計画実行性の評価結果を表示例として示す。
【0027】
図10は、計画実行性の評価結果の表示例を示す図である。表示画面41には、作業番号を含む作業内容411、作業手順412、手順番号ごとの評価結果413が表示されている。作業手順412には、手順番号、作業内容、作業者、作業時間、被ばく線量等が含まれる。評価結果には、手順番号413ごとに、作業時間414、被ばく線量415の評価結果が示されている。手順番号XXX-01-01の場合、作業時間414をみると、推定作業時間は20分であり、人数及び作業機器は実施可能であるが、作業習熟度の点から遅延の可能性があることがわかる。さらに、被ばく線量415をみると、作業環境、作業者累計被ばく線量の点から実施可能であるが、作業時間の遅れの可能性から時間が超過する可能性があることがわかる。被ばく線量の評価については更に詳しく次で説明する。
【0028】
図11は、炉水中の腐食生成物、放射性腐食生成物の移動の様子を模式化して示した図である。作業計画立案はプラント停止前に行うことがあり、その場合、次回定検時の作業場所の線量率は前回の作業場所の線量率から変化している。作業場所の線量率は運転中に放射性核種を含む炉水が循環する系統機器に付着した放射性核種によって生じる。放射性核種の付着量は炉水中の放射性核種濃度に系統機器の材質や使用条件に応じた付着速度係数を乗じて求めることができる。一方、炉水中の放射性核種は給水系や炉内構造材の腐食によって発生した金属イオンや金属元素を含む不溶解性の微粒子であるクラッドが、燃料棒表面で発生する沸騰によって析出して付着し、そこで中性子の照射を受けて生成する。生成した放射性核種の一部が炉水に溶解、或いは不溶解性の微粒子として剥離し、炉水中の放射性核種となる。この炉水中の放射性核種が炉水と接触する構造材表面に付着したり、炉水浄化系で除去される。これらの炉水中の放射性核種を含む金属腐食生成物の移行の様子を
図11に示す。この金属腐食生成物の移行の様子はマスバランスモデルとして、以下に示す(式1)~(式8)に示される連立微分方程式群により記述される。
【0029】
【数1】
ここで、
C:炉水の金属腐食生成物濃度(炉水金属腐食生成物濃度、例えば、鉄、ニッケル、コバルト等の濃度)
t:時刻
V:炉水保有水量
F
f:給水流量
C
f:金属腐食生成物の給水中濃度(給水金属腐食生成物濃度)
X:炉内構造材の腐食により発生する金属腐食生成物の発生率
ζ:燃料棒付着物の溶出あるいは剥離定数
ζ
p
1:炉内構造材付着物の溶出あるいは剥離定数
ζ
p
2:炉外構造材付着物の溶出あるいは剥離定数
【0030】
【数2】
【数3】
【数4】
ここで、
M:燃料棒上に蓄積する金属腐食生成物量
m
1:炉内の構造材表面に付着蓄積する金属腐食生成物量
m
2:炉外の構造材表面に付着蓄積する金属腐食生成物量
δ:燃料棒への付着定数
β:原子炉浄化系における除去率
δ
p
1:炉内構造材への付着定数
δ
p
2:炉外構造材への付着定数
S
1:炉内の構造材の表面積
S
2:炉外の構造材の表面積
【0031】
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
ここで、
R:炉水の放射性金属腐食生成物濃度(炉水放射性金属腐食生成物濃度、例えば、コバルト60、コバルト58、マンガン54等の濃度)
Y:炉内構造材の腐食により発生する放射性金属腐食生成物の発生率
A:燃料棒上に蓄積する放射性金属腐食生成物量
Γ
1:炉内の構造材表面に付着蓄積する放射性金属腐食生成物量
Γ
2:炉外の構造材表面に付着蓄積する放射性金属腐食生成物量
λ:放射性金属腐食生成物の崩壊定数
G:燃料棒上における放射性核種の生成率
G
1:炉内構造材上における放射性核種の生成率
【0032】
前記変数の内、C、Cf、Ff、Rは運転中に測定可能な状態量であり、M、A、Γ1、Γ2は定期検査等の停止時に炉内から燃料棒を取り出したときに測定可能な状態量である。また、V、S1、S2はプラント固有のプラントパラメータである。λ、G、G1は放射性金属腐食生成物の核種に応じて定まる物理定数であって、X、Y、ζ、ζp
1、ζp
2、δ、δp
1、δp
2、βは原則的にモデルパラメータである。なお、m1、m2は水側から付着したものと構造材の腐食によって発生したものとの区別ができないので、通常測定が困難な状態量である。
【0033】
モデルパラメータのX、Y、ζ、ζp
1、ζp
2、δ、δp
1、δp
2、βの決定方法はプラント環境情報DB220に含まれる過去のC、Cf、Ff、R及びM、A、Γ1、Γ2を再現するように設定する。
【0034】
続いて、過去データから求めたモデルパラメータを使って、作業工程計画を立案する対象となる定検の直前のサイクルの、まだ炉水水質データが得られていない予定運転期間に対する給水水質データを(式1)から(式8)に与えて連立微分方程式を解くことで炉水の金属不純物濃度C、放射性金属腐食生成物濃度Rを求める。これらを解く計算プログラムは作業工程最適化支援装置100の作業計画評価部12の被ばくに関する評価に準備しておく。
【0035】
図12は、給水水質、炉水水質、配管Co-60付着量の運転時間変化を示した図である。
図12には、過去の運転情報に基づく、給水水質として使用する鉄濃度、炉水水質として求めるコバルト60濃度、及び炉外配管のコバルト60付着量の運転時間に対する変化の計算結果の一例(実線)と、将来の運転計画に基づくコバルト60濃度、及び炉外配管のコバルト60付着量の運転時間に対する変化(破線、一点鎖線、二点鎖線)を示した。給水水質の各金属腐食生成物濃度の予定値についてはそれまでの濃度を引きついで継続させるとよい。給水鉄濃度や給水亜鉛濃度はある程度制御できるので、
図12で示すように目標とする濃度を与えることができる。
【0036】
図13は、サイクル終了時の炉外配管のCo-60付着量と炉外配管表面線量率の関係を示した図である。炉外配管の表面線量率は過去の定検で測定されているサイクルごとの表面線量率と炉外配管の放射性核種付着量の計算値との関係を、例えば
図13のように求めることができる。過去の1サイクルから3サイクルの炉外配管コバルト60付着量の計算値と炉外配管の表面線量率の関係は直線で近似できるので、4サイクル終了時の線量率はこの直線と
図12で示した炉外配管のコバルト60付着量から求めることができる。なお、サイクルとは定検までの期間をサイクルとしている。順次定検ごとにサイクル数が増す。
【0037】
次に、求めた炉外配管表面線量率から被ばく線量を求める方法を説明する。
図14は、サイクル終了時の作業被ばくの主要線源である炉外配管表面線量率と定検作業後の作業件名、作業グループ、作業職種毎の総被ばく線量を総作業時間で除した被ばく線量率の関係を示す図である。
【0038】
炉外配管付近のある機器の定検時のメンテナンス作業、例えば部品交換作業についての被ばく線量を求める場合を考える。交換作業を行うには例えば足場を組み立てたり取り外す鳶職、保温材の取り付け取外しを行う保温工、交換部品の取外し、取付けを行う機械工、作業の指揮管理を行う指導員、現場の放射線管理を行う放管員等の類似の作業を行うグループがある。これらの作業グループでは各定検ごとに同じような作業位置で類似作業を行うことが多い。このため、作業グループの作業員の被ばく線量の合計を作業員の作業時間の合計で除した被ばく線量率は作業位置の主要線源の表面線量率と相関があると考えられる。その関係を
図14は示している。
【0039】
第4サイクルが始まった段階で第1サイクルから第3サイクルのある機器の部品交換作業の部品取外し作業における各作業グループの作業位置における主要線源の炉外配管の表面線量率と被ばく線量、作業時間は確定しており、これらのデータはプラント環境情報DB220、点検実績情報DB230、作業者情報DB240に収納されており、これらを用いて
図14のように炉外配管線量率と被ばく線量率の関係を求めておく。
【0040】
第4サイクル開始後、終了時(運転計画終了時)までの給水水質、運転データをプラント環境情報DB220の過去のデータに基づいて
図12のように与えて(式1)から(式8)のマスバランス連立微分方程式をプラント環境情報DB220の各種データを用いて解いて炉水放射能濃度を求め、これを使って第4サイクル終了時の炉外配管Co-60付着量を求める。これを
図13で示した炉外配管Co-60付着量と、いま求めたいある機器の部品交換作業を行う作業位置の炉外配管表面線量率との関係を用いて、第4サイクル終了時の炉外配管線量率を求める。
【0041】
この第4サイクル終了時の炉外配管線量率を
図14に適用することで、ある機器の部品交換作業の部品取外し作業における各作業グループの作業位置における被ばく線量率を求めることができる。すると第4サイクル終了後の第4回定検で計画される部品交換作業量から、点検実績情報DB230、作業者情報DBに含まれる過去の部品交換作業量と部品交換作業時間から求められる一人当たりの作業時間を用いて被ばく線量を評価することができる。
【0042】
図15は、作業習熟度の評価結果の表示例を示す図である。
図15の表示画面42は、
図10の作業時間414において、作業習熟度の「△」の部分をクリックすると、表示される画面である。作業習熟度の評価結果から、第2回定検では、作業実績・作業経験が不足しており、トレーニングも実施されていないことがわかる。第3回定検では、トレーニングが実施されていないことがわかる。次回定検では、資格、作業実績・作業経験が不足していることがわかる。また、グループの作業習熟度評価では、後記する作業習熟度係数が表示されており、第3回定検の場合、作業習熟度係数が1.20であり、他の定検よりも高いことがわかる。
【0043】
図4は、定検計画支援処理S230を示すフローチャートである。
図4において、左側の列は、作業工程最適化支援装置100の処理であり、右側の列は、工程作成者の処理である。
図4において、作業工程最適化支援装置100(支援装置)を用いた、工程作成の実施について、適宜
図1を参照して説明する。
【0044】
工程作成者は、定検時点検作業項目について、次回の定期検査で行うすべての作業項目を抽出する(ステップS200、定検項目の抽出)。そのとき、作業工程最適化支援装置100にて定検時点検項目の選定の支援を行う(ステップS201)。選定支援では、作業工程最適化支援装置100は、抽出した作業項目に関する点検周期や点検履歴等を表示し次回定検に過不足が無いかの検討を支援する。
【0045】
工程作成者は、定検時点検項目を決定する(ステップS202)。工程作成者は、作業現場情報の測定・収集において、点検作業現場となるプラント環境情報を収集し、データベース(DB)へ格納する(ステップS203)このとき、プラントがまだ運転中で、現場の線量率情報がない場合は、
図11から
図13を用いて説明した炉水放射能予測、炉外配管表面線量率予測のデータを使う。また、工程作成者は、点検実績情報の収集において、過去の点検実績情報及び点検作業改善のための取り組みにより得られた情報を収集し、データベースへ格納する(ステップS204、次回定検に係るデータの収集)。この情報には
図14の説明で求めた炉外配管線量率の予測線量率に基づく作業員の作業グループの職種に基づく被ばく線量率を含む。
【0046】
工程作成者は、各作業の予定時間、予定作業人数等の各作業の実施に関係する情報である各作業実施条件を入力する(ステップS205)。このとき、データベースから過去データを参照可能な場合は、これらの各作業実施条件の入力を省略することが可能である。また過去実績から作業効率の向上等を見込み、作業時間の変更を行う場合は入力作業を行う。
【0047】
作業工程最適化支援装置100は、全体作業工程を作成する(ステップS206)。工程作成者は、次回定期検査において作業を行うことができる作業人数リソースを確保し確定する(ステップS207)。また、工程作成者は、作業者の個人データを収集しデータベースへ格納する。
【0048】
作業工程最適化支援装置100は、データベース装置200より、作業計画のレビューに必要な情報を抽出する(ステップS208)。作業工程最適化支援装置100は、ステップS206で作成された作業計画に対し各作業の実行性について評価を行う(ステップS209)。各作業への評価は作業を計画通りに実行することが可能であるかを実行性として評価する。
【0049】
作業工程最適化支援装置100(作業計画評価部12)は、作業計画の作業時間及び
図11から
図13を用いて説明した炉水放射能予測、炉外配管表面線量率予測のデータと、
図14の説明で求めた炉外配管線量率の予測線量率に基づく作業員の作業グループの職種に基づく被ばく線量率から求めた被ばく量の観点からデータベース装置200のデータベースの情報を基に評価を行い、レビューを支援する。作業計画の評価を行う際、各作業を作業人数、作業習熟度、作業機器、作業エリアの空間線量、作業者の累計被ばく線量等から作業の実行性の評価を行う。ここで作業人数、作業習熟度、作業機器、作業エリアの空間線量、作業者の累計被ばく線量等はデータベースに格納されている過去の実績データや研究・実験により得られたデータと比較され、各作業において設定されている作業時間、被ばく線量を上回る原因となる要素を表示する支援を行う。
【0050】
工程作成者は、評価結果をもとに作業計画をレビューする(ステップS210)。各作業の実行性に対しての評価結果より各作業の懸案項目に対し対策が必要かを判断する。工程作成者は、作業計画の懸案項目に対する対策を実施する。対策が必要であると判断された項目に対して評価結果の詳細より必要な対策を検討し、この対策を行う(ステップS211)。具体的な対策案は後記する。
【0051】
作業工程最適化支援装置100は、ステップS211にて行った対策の効果を評価し各作業の実行性の評価・レビューへ反映する(ステップS212)。そして、作業工程最適化支援装置100は、ステップS212にて各作業について反映された対策の効果を含め、全体作業工程の再評価をし、作業の実行性について再評価を行う(ステップS213)。
【0052】
工程作成者は、再評価の結果を踏まえ作業工程に変更の必要はないか判断する(ステップS214)。全体工程への影響がある作業工程の変更を行う場合(ステップS214,No)、ステップS205へと戻り、現在の工程を基に作業条件を変更し、工程の再作成に進む。一方、作業工程に変更の必要がない場合(ステップS214,Yes)、全体作業工程が決定される(ステップS215)。
【0053】
図5は、進行中工程の見直し支援処理S330を示すフローチャートである。作業進行中等に、作業工程最適化支援装置100(支援装置)を用いた、工程見直しの実施を説明する。適宜
図1を参照する。なお、
図5の左側が、作業工程最適化支援装置100が行う情報処理である。
【0054】
工程作成者は、特定の作業に遅れが発生した場合、作業の遅れ状況を作業工程最適化支援装置100に入力する(ステップS300)。作業工程最適化支援装置100は、他作業への影響抽出において遅れが発生したとき、この作業の遅れが他作業の着手・進行へ与える影響がないかを、データベースの情報から確認し、影響がある場合抽出を行う(ステップS301)。このとき、作業工程最適化支援装置100は、遅延が発生した作業に直接関連性はないが波及的な影響を受ける作業(後工程)も抽出を行い遅延に対する対策の実施を支援する。
【0055】
工程作成者は、リカバリープランの作成条件を入力し(ステップS302)、工程の見直しを行う際、各作業について実施条件に変更がある場合これを入力する。
【0056】
作業工程最適化支援装置100は、作業工程最適化部11により作業遅延が工程へ与える影響を考慮し、現状使用可能なリソースからクリティカル工程が最短となるようなリカバリープランを作成する(ステップS303)。作業工程最適化支援装置100は、全データベースから作業計画の評価に必要な情報を抽出する(ステップS304)。作業工程最適化支援装置100は、ステップS303で作成されたリカバリープランに対し各作業の実行性について評価を行う(ステップS305)。
【0057】
工程作成者は、評価結果をもとに、リカバリープランとして作成された作業計画の実行性をレビューする(ステップS306)。工程作成者は、評価結果より作業計画の懸案項目に対する対策を実施する(ステップS307)。工程作成者は、対策が必要であると判断された項目に対して評価結果の詳細より必要な対策を検討し、この対策を行う。
【0058】
作業工程最適化支援装置100は、ステップS307にて行った対策の効果を評価し各作業の実行性の評価・レビューへ反映する(ステップS308)。作業工程最適化支援装置100は、ステップS308にて各作業について反映された対策の効果を含め全体作業について作業の実行性について再評価を行う(ステップS309)。
【0059】
工程作成者は、作業工程の実行性が許容できる範囲か否かを判断する(ステップS310)。作業工程の実行性が許容できず、全体工程への影響がある変更を行う場合(ステップ310,No)、ステップS302へと戻り現在の工程を基に作業条件の変更し、作業工程の再作成に進む。一方、作業工程の実行性が許容できる範囲の場合(ステップS310,Yes)、工程作業者は、リカバリープランを決定する(ステップS311)。
【0060】
次に、作業工程最適化支援装置100による定期検査の点検計画、点検工程の作成の支援を、
図4の定検計画支援処理S230のフローチャートを用いて、さらに詳細に説明する。適宜
図1を参照する。
【0061】
<詳細例1:定期検査計画の支援>
(ステップS200~ステップS202)
工程作成者は、次回定期検査時に実施される点検項目を決定する。その後点検項目の点検実施に必要な作業項目を確定する。
【0062】
国内原子力発電所の定期点検では点検実施の対象となる設備・機器はそれらに設定されている点検周期に基づいて点検の実施時期が決められる。この点検周期は設備・機器の種類、設置環境、機能等によりさまざまであり適切な周期内での点検が必要である。
【0063】
この作業周期ごとにそれぞれの設備・機器の点検を行うことが点検の実施において最も効率的だが、作業足場の設営や大型重機の使用等点検を行う際に工数が大きい準備作業が必要な箇所の点検においてはその都度準備を行うことでコストや時間が多く掛かってしまう。複数回にわたる原子力発電所の定期点検を考えるにあたり特定の準備作業が必要な作業について作業の実施時期を適切に調整することは、定期点検期間の短縮及び作業者の被ばく低減において有効となる場合がある。作業工程最適化支援装置100は、作業実施時期の適切な選定を支援する。
【0064】
作業工程最適化支援装置100は、データベース(DB)より作業準備について共通の項目を有し、関係する作業エリアにて行われる作業を抽出し整理する。これら作業の実施履歴と点検周期を抽出し整理する。作業の準備について共通の項目かつ関係作業エリアで実施される作業に対し、準備内容、作業エリア、点検周期、これら作業の前後関係等の情報を出力部40の表示装置に表示する。この情報により各作業について共通の準備作業が必要な点検作業が明確となり、準備作業に掛かるコストと点検作業コストとその周期から最適な実施時期の検討を支援する。この情報により次回定検にて実施する作業を決定することができる。
【0065】
(ステップS203)
工程作成者は、現場作業情報の測定・収集を行う。作業者が作業準備を行うエリア、移動経路、作業を行うエリアの躯体情報及び設置される足場情報等の情報を整理する。作業手順の検討、危険予測や被ばく量の推定に使用するため、必要に応じ3D-CAD等3次元データの取得やガンマスキャン等による線量分布等の情報を取得する。被ばく線量に関するデータについては、
図11から
図14を使って説明したように、次回定検までの給水水質を過去のデータから推定値として与えて、炉水放射性核種濃度を予測し、炉水放射性核種濃度の推移の予測を使って炉外配管等の機器表面のサイクル終了時の放射性核種付着量を予測し、予測した付着量から過去のガンマスキャンデータを使って表面線量率を予測する。続いて
図14で示した表面線量率と作業内容と作業グループ、作業職種毎の過去データから導き出される相関関係を使って、予測した表面線量率での作業職種毎の被ばく線量率を求める。これらの情報をプラント環境情報DB220に整備し、これらの情報に更新がないか確認を行う。
【0066】
(ステップS204)
工程作成者は、点検実績データを収集する。これは過去に行った点検の実績データすなわち、過去の点検計画、実績データ及び改善に資する分析データ等の情報等である。この情報を点検実績情報、新たな知見や対策等情報DB260へ整備し、これらの情報に更新がないか確認を行う。
【0067】
(ステップS205、ステップS206)
工程作成者は、確定した実施作業から各作業実施条件を入力する(ステップ205)。過去実績から機器スペックや手法の改善による作業効率の大幅な向上等を見込む場合は以後の評価、レビューで参照ができるようこれら情報を入力し、必要に応じ作業の基本情報DB210へ格納し整理する。
【0068】
作業工程最適化支援装置100は、入力された情報とデータベースの情報を基にして、
図2に示す作業計画の作成支援処理S100により全体工程を作成する。このとき、各作業の作業必要人数、作業必要時間を過去実績データ等から参照可能なように、被ばく線量予想については
図11から
図14で説明した方法によって予測した被ばく線量が参照可能なように、作業工程最適化支援装置100は、工程作成者の入力を支援する。
【0069】
その後、作業工程最適化支援装置100は、各作業実施における制約や前後関係の整理、クリティカルパスを作成、その他作業を、クリティカルパスを基準として作業人数の平準化に着目してスケジューリングを行い、作業工程が作成される(ステップS206)。
【0070】
作業人数の平準化とは、定期検査(定検)の実施にあたり作業の進行に必要な最低作業人数の工程の進行による変化を少なくすること、すなわちピーク作業人数とボトム作業人数の差を可能な限り抑えることである。作業工程最適化支援装置100は、全体工程に対して必要作業人数の変化をグラフ等で視覚化し作業人数のピークから実施時期を前後に移動可能か検討を行うための情報を支援する。この支援のために全体工程の時間的スケジュールと必要作業人数を示す図表及び各作業の制約と前後関係を、出力部40の表示装置に表示する。作業人数ピークを平準化することで定期検査期間中の余剰リソースを減少させる効果が期待できる。
【0071】
(ステップS207)
工程作成者は、作業工程を基に作業に必要となる人員を確保する。確保した作業人数の個人データを集める。個人データとは作業者個人の作業実績、資格、教育・トレーニング記録及び放射線管理情報を含む情報を作業者情報DB240へ整備する(作業人数の確保及び作業者の個人データの収集)。
【0072】
(ステップS208)
作業工程最適化支援装置100は、各作業計画のレビューに必要なデータとして作業番号、作業内容、作業手順、作業必要人数、作業必要時間、水質情報、作業被ばく線量率予測、被ばく線量予測、作業エリア、作業に必要な特殊技能、作業に必要な機器、作業に必要な道具等の情報を抽出する(作業計画レビューに必要な情報を抽出)。
【0073】
(ステップS209)
作業工程最適化支援装置100は、抽出した情報より各作業項目単位で作業計画の評価を行う。各作業計画の評価(レビュー)は作業項目単位で推定作業完了時間、
図11から
図14で説明した推定被ばく線量や過去実績に基づく推定被ばく線量によって実施される。作業工程最適化支援装置100は、全体工程作成時の作業時間、推定被ばく線量と比較を行い、ギャップとその原因が懸案項目として
図10のアウトプットイメージのように推定作業完了時間、推定被ばく線量を出力し作業計画のレビューを支援する。レビューの支援で予測される推定作業時間Tは、(式10)のように算出される。
【0074】
W=T′×α′×β′ (式9)
T=W/(α×β) (式10)
X=T×I (式11)
ここで、過去データを基にした仕事量をW、過去実績作業時間をT′(H)、過去実績作業人数による作業効率係数をα′、過去作業者の作業習熟度係数をβ′、推定作業時間をT(h)、計画時の作業人数による作業効率係数をα、計画時の作業熟練度係数をβ、作業終了時作業者の推定被ばく線量をX(Sv)、
図11から
図14で説明した方法で求めたある作業の作業職種毎の被ばく線量率をI(Sv/h)とする。
【0075】
作業工程最適化支援装置100は、(式9)より過去データを基に各作業番号単位で仕事量Wを算出する。より詳細なデータがある場合、手順番号単位で仕事量を算出する。作業工程最適化支援装置100は、(式10)より仕事量を基にして推定作業時間Tを算出し、(式11)より推定作業時間から推定被ばく量Xを算出する。
【0076】
作業工程最適化支援装置100は、作業者以外のリソース(重機等)によって作業時間が大きく変わる作業は作業項目を作成し、別途シミュレーション等で推定作業時間を評価する。
【0077】
推定作業時間算出の際、作業人数による作業効率の変化を考慮する。仕事量の算出に用いた過去データから作業人数に変化がある場合、作業人数増減が作業の生産性へ与える影響を作業効率係数α,α′として考慮する。また、作業習熟度は作業グループごとに作業に必要な技能を評価し、生産性へ与える影響を作業習熟度係数β,β′として考慮する。
【0078】
作業人数による作業効率係数の変化と作業習熟度係数は、作業の性質を考慮する必要があるため
図6、
図7、
図8を参照して説明する。
【0079】
図6は、作業人数による作業効率の変化例を示す図である。適宜
図1を参照して説明する。
図6に示すように作業のタイプにより作業人数の増加による作業効率の変化の仕方はそれぞれ異なる場合がある。
図6のグラフ6Aの場合は、作業人数の増加とともに、作業効率が上がる場合である。
図6のグラフ6Bの場合は、作業人数の増加とともに作業効率が上がるが飽和する場合である。
図6のグラフ6Cの場合は、作業人数の増加とともに、作業効率がステップ状にあがる場合である。
【0080】
図6に示す作業効率に基づく作業効率係数の例を表1に示す。表1の左側は、
図6のグラフ6Aに対応し、表1の右側は、
図6のグラフ6Cに対応する。
【表1】
【0081】
図7は、作業人数による作業効率係数決定処理S500を示すフローチャートである。適宜
図1、
図6を参照して説明する。
作業工程最適化支援装置100の処理部10は、評価する作業の効率が作業人数の変化によりどの様に変化するか検討しモデルを設定する(ステップS501)。この作業人数と作業効率の変化モデルの検討において、作業工程最適化支援装置100がデータベースに十分な情報を持つとき過去データを基にモデルを作成する。データが十分でない場合は関連情報の表示を行い工程作成者のモデル検討を支援する。
【0082】
処理部10は、作業の実施における作業人数の最大人数と最少人数を設定する(ステップS502;人数の上限、下限の設定)。これは作業実施において物理構成上の作業人数の上限と下限の人数を定めることで、作業現場で実行不可能な人数を想定して作業効率へ寄与することを防止するためである。また、作業人数の入力の間違い、現場にて作業者の不足による作業の中断や大幅な作業者の過多となるのを防止することができる。
【0083】
処理部10は、作業実施における人数を計画し決定する(ステップS503)。そして、処理部10は、作業人数による作業効率変化のモデルから、仕事量と作業時間推定に用いる作業効率係数を決定する(ステップS504)。
【0084】
図8は、作業グループごとの作業習熟度評価処理S700を示すフローチャートである。適宜
図1を参照して説明する。作業習熟度は習熟度をランク分けし、それぞれの作業に必要な技能習熟度を評価する。作業の性質ごとに必要技能と基準を設け習熟度をランク分けし作業効率に係る作業習熟度係数を設ける。作業習熟度評価処理S700では、作業時間に影響を与える作業習熟度の評価を行うが、必要に応じ同様に作業品質について評価を行い作業計画に反映することができる。
【0085】
作業工程最適化支援装置100の処理部10は、作業の基本情報を出力部40の表示部に表示し(ステップS701)、工程作成者は、当該作業を行うにあたり必要な技能・資格を抽出する(ステップS702)。作業工程最適化支援装置100により、工程作成者が工程作成作業を行うにあたり必要な技能・資格の抽出を支援することができる。
【0086】
処理部10は、作業の基本情報と過去の作業者データを出力部40の表示装置に表示し(ステップS703)、工程作成者は、抽出された技能・資格より過去データや作業シミュレーション等から作業遂行時間へ影響を与える項目を評価・設定する(ステップS704)。作業工程最適化支援装置100により、作業遂行時間へ影響を与える項目を評価・設定を支援することができる。
【0087】
処理部10は、過去データや参考データを抽出し、出力部40の表示装置に表示し(ステップS705)、工程作成者は、作業タイプにより作業効率を上げるために必要な作業経験者や有資格者の割合等が変わるため、作業タイプを考慮し各評価項目の評価条件を検討し設定する(ステップS706)。
【0088】
処理部10は、計画中の定検担当の作業グループの作業者情報を抽出し、作業習熟度の評価を行う(ステップS707)。
【0089】
作業習熟度に基づく作業習熟度係数の例を表2に示す。表2の左側は、個人で作業できる場合で、超音波探傷点検の場合である。表2の右側は、グループで作業する場合で、機器の分解点検や取り換えの場合である。
【表2】
前記説明したように、(式10)により作業人数による作業効率係数と作業習熟度係数とを考慮し推定作業時間を算出することができる。
【0090】
ステップS209の処理に戻り(
図4参照)、作業工程最適化支援装置100は、表示されるレビュー支援には算出結果に加え、計算に使用した各項をデータベースと比較してステップS206で作成した全体工程に設定されている作業時間、作業人数、計画した被ばく線量にて実施可能か実行性についての評価を出力部40の表示装置に表示する(作業計画を評価)。この評価結果により計画された全体工程に遅延の発生や品質の低下が起こらないように対策が必要であるか懸案項目を検討することを支援することができる。
【0091】
(ステップS210、ステップS211)
工程作成者は、評価結果より各作業の計画についてレビューを行う(ステップS210)。計画される作業にとって作業の実行性に対して懸案となる項目がある場合、懸案項目に対する対策を行うと判断し、対策が必要と判断された懸案項目に対して対策を実施する(ステップS211)。ここで今回計画している定検以降の点検作業へ資するデータ収集等の長期的な対策が検討される場合この実施の可否を決める。
【0092】
<実施する対策の例>
(1)特別な技能が必要な場合や、作業が複雑であり知識や経験が作業の生産性に大きく影響する作業に対して、作業者の作業習熟度が十分でないと評価されている場合を想定する。定検作業の実施前に教育及び作業トレーニングを実施することで作業習熟度の向上を図り、計画通りに作業を完了させるための実行性を高めることができる。
【0093】
(2)過去の実績や
図11から
図14で求めた作業エリアの線量率が想定より高く被ばく線量が計画より多くなる場合、また作業者個人の累計被ばく線量が許容範囲を超える場合、作業エリアの放射線環境改善または作業者の配置変更が考えられる。環境改善のため作業エリア、作業準備エリア及び移動経路において線量の高い場所に対する化学除染や仮設遮蔽の設置、運転中の水質管理法の改善等を検討する。
【0094】
運転中の水質管理方法の改善としては、例えば
図12の給水鉄濃度をパラメータとして、炉水Co-60濃度、配管Co-60付着量を(式1)から(式8)のマスバランスモデルに基づいて求め、
図13及び
図14の関係を利用して被ばく線量を評価し、水質改善の指標として検討する。高線量対策の仮設遮蔽を作業工程に取込んだ作業計画の立案については、
図16を参照して後記する。
【0095】
(3)計画では実績データと比較して作業人数・作業機器が不足している場合、配置の変更・リソースの追加を検討する。放射線環境改善の対策実施後も作業者個人の累計被ばく線量が許容範囲より大きくなる場合も作業者の配置変更を検討する。
【0096】
(4)作業実績より遅れや手戻りが多く発生する作業について、現場にてより生産性が高くなるよう、また作業の間違いが起こらないよう作業手順の見直しを行う。また作業を確実に実施し、やり直しが発生しないように作業現場にて作業手順を表示する情報支援を行う。詳細については、
図9を参照して後記する。
【0097】
前記(2)、(3)にて行われる配置変更を行う際は変更に起因して作業人数、作業習熟度、個人の累計被ばく線量が変化するため変更のある作業について再度評価を行う必要がある。しかし、工程最適化を行う際の調整や対策の実施結果を反映し、データベース装置200と作業工程最適化支援装置100により再評価が容易に行えるため、細かな配置変更の調整を行いやすくなる効果がある。対策の検討にあたり十分なデータが無いと判断される場合、必要な実績データを検討する。また、次回定検以後の点検を見据え、作業データを収集する計画を立てる。
【0098】
(ステップS212)
作業工程最適化支援装置100は、ステップS211にて行った各対策の効果を評価し作業計画のレビューに反映する。作業工程最適化支援装置100は、対策の実施内容を、定期検査終了時に実施した対策の効果を評価できるようリアルタイム更新情報としてリアルタイム更新情報DB250に記録し、評価結果は次回以降の定期検査での改善検討のために点検実績情報として記録する。
【0099】
(ステップS213、ステップS214)
作業工程最適化支援装置100は、対策の効果が反映された作業の実行性について再評価を行う(全体作業工程の再評価)。工程作成者は、この結果を踏まえ再度全体工程について変更を行う場合(ステップS214;No)、現状作成されている全体工程を基にステップS205へ戻り再検討を行う。
【0100】
(ステップS215)
工程作成者は、ステップS214の再レビューから全体工程の実行性が十分であると判断される場合(ステップS214;Yes)、ステップS215で全体工程を決定する。
【0101】
<詳細例2:定期検査中の工程見直しの支援>
定期検査の実施中にトラブルや作業遅延等が発生し、工程への影響が予想される場合、各作業の進捗状況を速やかに共有しリカバリープランを作成することが工程遅延の対策として有効である。
【0102】
特定の作業において予定されていた工程より遅延が発生した場合、以後の工程に与える影響を評価し、遅れが許容できないときは是正すべく作業計画及び全体工程を見直すことが求められる。この工程見直しの支援を
図5における進行中工程の見直し支援処理S330の詳細例として説明する。
【0103】
(ステップS300)
工程作成者は、作業の遅れを確認した作業に対してその遅れ状況を確認し、作業工程最適化支援装置100へ入力する(作業工程の遅れ状況を入力)。また、工程作成者は、工程進捗管理のデータベースよりデータを取得する。
【0104】
(ステップS301)
作業工程最適化支援装置100は、作業の遅れによる他の作業及び全体工程(後工程)への影響を抽出する。クリティカルパスとなる作業等の遅れによる影響は、以後の作業工程に波及していくことが予測される。作業工程最適化支援装置100は、波及的な遅れを関係者へ迅速に周知するための支援として、作業遅延の影響を受ける作業を、出力部40の表示部に表示する。また、作業工程最適化支援装置100は、リカバリープランを作成するため、工程の進捗状況を取得し、各作業を完了、進行中、未着手に分類する。
【0105】
(ステップS302、ステップS303)
作業工程最適化支援装置100は、ステップS205、ステップS206と同様にして工程リカバリープランを作成する(ステップS303)。工程作成者は、リカバリープランにおける作業条件の入力を行う際(ステップS302)、作業遅れによる工程への波及的な影響をより抑えたプランを作成するため、作業者や作業機器等のリソースの投入計画や作業時間計画の変更を行い、クリティカルパスの短縮が可能かを検討する。変更を行う場合、変更後の作業計画実行が可能であるか作業関係者への確認を行う。このとき、リカバリープランとして作成される工程は進行中、未着手の作業を抽出したものである。
【0106】
(ステップS304、ステップS305)
作業工程最適化支援装置100は、データベースより作業計画レビューに必要な情報を抽出(ステップS304)、作成されたリカバリープランについて作業計画評価部12にて各作業の実行性について評価(ステップS305;作業計画を評価)、結果を出力部40の表示装置に表示しレビューを支援する。
【0107】
(ステップS306、ステップS307)
工程作成者は、詳細例1のステップS210、ステップS211と同様にリカバリープランのレビューと懸案項目に対する対策を行う。
【0108】
(ステップS308~ステップS310)
作業工程最適化支援装置100は、対策の効果を反映し作業の実行性について再評価を行う。工程作成者は、この結果を踏まえ再度全体工程について変更を行う場合(ステップS310;No)、現状作成されている全体工程を基にステップS302へ戻り再検討を行う。
【0109】
(ステップS311)
工程作成者は、ステップS310の再レビューより全体工程の実行性が十分であると判断される場合(ステップS310;Yes)、リカバリープランを決定する。
【0110】
<詳細例3:現場作業の情報支援>
図9は、現場作業の情報支援処理S400を示すフローチャートである。作業計画の作成とレビュー支援を行うため、整備された情報を用いることで現場作業の支援を行うことが可能である。計画通りの作業実施と被ばく線量管理を支援する場合、不要な作業や作業の手戻りをなくすことが作業時間と被ばく線量低減の観点から有効である。計画通りの点検作業を支援するため、作業者の作業実施と作業現場へのアクセス支援を、
図9を参照して説明する。
【0111】
本詳細例ではこの情報支援にスマートフォン、スマートウォッチ、スマートグラス等のスマートデバイスを用いることを想定する。スマートデバイスより、リアルタイムに工程進捗・作業者位置情報・被ばく線量をデータベースへ反映できるようホームのデータベースと通信を行い、
図1に示すリアルタイム更新情報DB150へ格納する。リアルタイムで取得した情報については
図10に示すレビュー支援のアウトプットイメージに示すような作業番号及び作業の手順番号単位で記録を行う。作業手順の記録は、次回以降の点検作業や点検計画において技術伝承の意味でも重要な役割を果たす。
【0112】
作業熟練者が想定より作業の信頼性や生産性を上げている場合、この作業者の作業の様子を詳細に記録することで作業の改善や教育・トレーニングに反映することができる。例えばアイトラッキング技術を用い、視覚情報から潜在に意識している行動や加速度センサーや圧力センサー等で工具の使用法や持ち替えを分析すること等である。作業工程最適化支援装置100は、これら作業支援と現場データの取得及び適切な管理を支援する。
【0113】
作業工程最適化支援装置100は、作業準備の支援を行う(ステップS401)。作業者は、個人線量計とスマートデバイスを無線接続し、情報同期を行う場合はプラントへの入場前に確認を行う。
【0114】
作業工程最適化支援装置100は、作業に必要な装備の確認を支援する。作業用道具の持ち込みを最低限にすることで作業現場での誤りや工具の置き忘れ等を防止する効果が期待できる。また、放射線防護服等の被ばくに係る装備を確認することで想定外の被ばくを抑える効果が期待できる。また、作業工程最適化支援装置100は、進行中の作業を引き継ぐ場合、進行状況や確認事項等を表示し適切に作業引継ぎが行えるよう支援する。
【0115】
作業工程最適化支援装置100は、作業エリアへのアクセスを支援する(ステップS402)。作業工程最適化支援装置100は、作業エリアへのアクセス情報をスマートデバイスに送信し、スマートデバイスの表示で現場へ移動する時間を最小限に抑え、移動中に想定外の遅延や被ばくを抑える効果が期待できる。
【0116】
作業工程最適化支援装置100は、作業の実施を支援する(ステップS403)。作業工程最適化支援装置100は、スマートデバイスに作業手順を送信し、作業者は表示された作業手順を確認する。作業手順の詳細を表示し支援を行うことにより、作業の抜け漏れや誤った操作を防止し作業を計画通りに行うことができ、実行性が高まる効果が期待できる。また、作業工程最適化支援装置100は、スマートデバイスからの現場作業の記録として作業進捗を手順番号ごとに作業時間・被ばく線量をデータベースへ記録する。
【0117】
作業工程最適化支援装置100は、作業完了の確認を支援する(ステップS404)。作業工程最適化支援装置100は、作業ごとに作業完了条件やチェック項目をスマートデバイスに送信し支援を行う。すなわち、作業工程最適化支援装置100は、スマートデバイスを用いた遠隔でのチェック作業等の支援を行う。作業品質の向上及びオンラインによる遠隔作業による作業効率の向上効果が期待できる。
【0118】
作業工程最適化支援装置100は、次の作業があるか否かを判定し(ステップS405)、続いて作業がある場合(ステップS405,Yes)、ステップS402に進み、次の作業エリアへのアクセスを支援する。次の作業がない場合(ステップS405,No)、プラント内でのすべての作業完了後、退所までのアクセスを支援する(ステップS406)。
【0119】
詳細例3では、作業現場へのアクセス支援と同様に移動する時間を最小限に抑え、移動中に想定外の遅延や被ばくを抑える効果が期待できる。また、作業工程最適化支援装置100は、作業の引継ぎが必要な場合はその内容、必要情報の入力を支援することができる。
【0120】
以上、本実施形態の原子力プラントの点検計画作成を支援する作業工程最適化支援方法は、点検・工事の実績情報、作業者の作業習熟度情報を含む情報を用い作業計画の作成を支援する際に、作業人数の変化が作業効率に与える影響のモデルを作成し、モデルにより求められる作業人数による作業効率の変化を表した作業効率係数を用いた仕事量を基に作業計画を作成する。本実施形態によれば、原子力発電所の保全対象機器について、高い信頼性でかつ効率的な定期検査工程の作成ができる。
【0121】
仕事量は、実績情報に基づく過去の作業時間に、過去の作業効率係数と作業習熟度情報に基づく作業習熟度係数とを乗じて算出され、作業計画時の推定作業時間は、仕事量を、計画時の作業効率係数と計画時の作業習熟度係数との乗算値で除算して算出される。これにより、過去の仕事量を適切に把握でき、作業計画時の推定作業時間が適切に見積もることができる。
【0122】
作業者の作業習熟度の評価に、作業者個人の作業経験情報、教育・トレーニングの実績情報、及び資格の取得情報を用い、評価結果より推定作業時間を算出することができる。
【0123】
作業計画の作成にて、作業計画の実行性の評価及びレビューを行う。作業計画の実行性の評価には、作業者の作業習熟度、作業手順、定検実績、作業現場情報、被ばく線量を用いる。作業計画の実行性の評価を行う際に、作業実行性を高めるための改善点・効果的な対策項目を作業実行性の評価結果により提示する。
【0124】
本実施形態の原子力プラントの点検計画作成を支援する作業工程最適化支援装置100は、点検・工事の実績情報、作業者の作業習熟度情報を含むデータベース(例えば、データベース装置200)の情報に基づき作業計画の作成を支援する際に、作業人数の変化が作業効率に与える影響のモデルを作成し、モデルにより求められる作業人数による作業効率の変化を表した作業効率係数を用いた仕事量を基に作業計画を作成する処理部10を有する。本実施形態によれば、原子力発電所の保全対象機器について、高い信頼性でかつ効率的な定期検査工程の作成ができる。
【0125】
<被ばく線量予測を活用した遮蔽作業計画>
図16は、予測される被ばく線量に基づいて仮設遮蔽工事の計画処理を示すフローチャートである。
図16は、給水水質運用計画に基づいて
図11から
図14で示した方法で予測した被ばく線量に基づいて仮設遮蔽計画を実施する場合の仮設遮蔽工事計画作成のフローチャートを示す。作業場所の雰囲気線量を決定する配管やポンプ等の機器の放射性核種付着量は、炉水中の放射性核種濃度と機器表面材料に形成される酸化皮膜の成長に伴う取り込み率によって決まる。このため、炉水中の放射性核種で被ばくに最も影響するCo-60の濃度を精度良く予測することが重要となる。そこで、従来の定期検査毎の雰囲気線量のトレンドからの予測だけではなく、
図11から
図12で説明したように運転予定の給水水質を反映させた評価が有効となる。そこで、作業工程最適化支援装置100の作業計画評価部12の内部にある被ばくに関する評価に含まれる(式1)から(式8)を含む計算プログラムに給水水質を入力する(ステップS601)。
【0126】
計算プログラムでは炉水Co-60濃度を計算し、それに基づいて評価対象作業、例えば作業Aの作業場所の主要線源機器のCo-60付着量を計算する。このCo-60付着量からプラント環境情報DB220のデータに基づいて作成される
図13に基づいて表面線量率を求め、作業Aについてのプラント環境情報DB220と作業者情報DB240に基づいて求められる
図14に基づいて被ばく線量率、及び作業者情報DB240に含まれる作業Aの過去の作業時間を反映させて作業グループ毎の被ばく線量を評価する(ステップS602)。
【0127】
同様に、A作業と同じ作業場所で行われる作業Bから作業Eについても同様に被ばく線量を評価し、そのうち最大の被ばく線量となる作業、作業グループに対する被ばく線量と目標被ばく線量から仮設遮蔽物量を評価して、仮設遮蔽物量を決定する(ステップS603)。決定した仮設遮蔽物量に基づいて仮設遮蔽工事工程を作成する(ステップS604)。
【0128】
こうして仮設遮蔽物量を、給水水質運用計画を利用して予測される被ばく線量に基づいて適切に決めることで過剰な仮設遮蔽工事の削減や、仮設遮蔽の不足による被ばく線量増加、或いは追加仮設遮蔽工事による工程遅延を回避できる。また、各作業毎に被ばく線量を精度良く予測できることから、同じ作業場所の仮設遮蔽工事を作業開始前にひとまとめに実施するのではなく、各作業と並行して実施し、仮設遮蔽工事を分散して行うことで工程短縮が可能な場合もある。
図17を参照して説明する。
【0129】
図17は、予測される被ばく線量に基づいて計画される仮設遮蔽工事の作業工程を示す図である。例えば、作業Eが最大の被ばく線量だったという予測の場合、点検計画17Aにおいて、作業Aの開始前に、同じ作業場所の仮設遮蔽工事を作業開始前にひとまとめに実施する。これに対し、点検計画17Bにおいて、作業Aに必要な仮設遮蔽工事を先に行い、作業Bに必要な仮設遮蔽は作業Aと並行して実施し、ここまでの仮設遮蔽で実施可能な作業C、作業Dを実施しているときに作業Eに必要な仮設遮蔽工事を実施する。こうすることで、同じ仮設遮蔽工事物量でも並行作業を実施することで仮設遮蔽工事の人員を平坦化し、工程を短縮することができる。
【0130】
すなわち、点検・工事の実績情報に加え、過去の運転情報と将来の運転計画から予測する被ばく線量を含む情報を用いて作業計画の作成を支援する際に、作業件名、作業グループ、作業職種ごとの予測被ばく線量に基づいて、人員、作業工程の標準作業からの偏差を計算して人員、作業工程を見積もり、各作業の組み合わせに基づいて作業日数を削減可能となる工程順序で検査を計画するとよい。
【0131】
次に、作業工程最適化支援装置100による定期検査の点検計画、点検工程の作成の支援を、化学除染を適用する計画を取り込んで、将来の数回分の定検について適用する場合について説明する。
【0132】
<化学除染を反映した定検工事工程作成>
図18は、化学除染の効果を考慮した仮設遮蔽工事の増減を示した図である。説明には
図4の定検計画支援処理S230のフローチャート、
図1を参照して説明する。なお、
図18の表中のPLRは原子炉再循環系、CUWは原子炉水浄化系、RPVは原子炉圧力容器を意味する。
【0133】
(ステップS200~ステップS202)
工程作成者は、次回定期検査時に実施される点検項目を決定する。その際、再循環系や炉水浄化系のポンプや隔離弁等の高線量機器の点検を含む場合は化学除染の適用を検討する。その後点検項目の点検実施に必要な作業項目を確定する。
【0134】
国内原子力発電所の定期点検では点検実施の対象となる設備・機器はそれらに設定されている点検周期に基づいて点検の実施時期が決められる。この点検周期は設備・機器の種類、設置環境、機能等によりさまざまであり適切な周期内での点検が必要である。
【0135】
この作業周期ごとにそれぞれの設備・機器の点検を行うことが点検の実施において最も効率的だが、化学除染のように工数の大きい作業を定検当初に行う場合は、その後の低線量率を利用して次々回以降に予定されている点検項目を前倒しして実施することがある。このように、複数回にわたる原子力発電所の定期点検を考えるにあたり特定の高被ばく線量作業について作業の実施時期を適切に調整することは、定期点検期間の短縮及び作業者の被ばく低減において有効となる場合がある。作業工程最適化支援装置100は、作業実施時期の適切な選定を支援する。
【0136】
作業工程最適化支援装置100は、データベース(DB)より作業準備について共通の項目を有し、関係する作業エリアにて行われる作業を抽出し整理する。これら作業の実施履歴と点検周期を抽出し整理する。作業の準備について共通の項目かつ関係作業エリアで実施される作業に対し、準備内容、作業エリア、点検周期、これら作業の前後関係等の情報を出力部40の表示装置に表示する。この情報により各作業について共通の準備作業が必要な点検作業が明確となり、準備作業に掛かるコストと点検作業コストとその周期から最適な実施時期の検討を支援する。この情報により次回定検にて実施する作業を決定することができる。ここでは
図18の定検項目表の第N回定検の点検項目で示すように、再循環系と炉水浄化系の隔離弁とポンプの除染と点検を行う場合を検討する。
【0137】
(ステップS203)
工程作成者は、現場作業情報の測定・収集を行う。作業者が作業準備を行うエリア、移動経路、作業を行うエリアの躯体情報及び設置される足場情報等の情報を整理する。作業手順の検討、危険予測や被ばく線量の推定に使用するため、必要に応じ3D-CAD等3次元データの取得やガンマスキャン等による線量分布等の情報を取得する。被ばく線量に関するデータについては、
図11から
図14を使って説明したように、次回定検までの給水水質を過去のデータから推定値として与えて、炉水放射性核種濃度を予測し、炉水放射性核種濃度の推移の予測を使って炉外配管等の機器表面のサイクル終了時の放射性核種付着量を予測し、予測した付着量から過去のガンマスキャンデータを使って表面線量率を予測する。続いて
図14で示した表面線量率と作業内容と作業職種毎の過去データから導き出される相関関係を使って、予測した表面線量率での作業職種毎の被ばく線量率を求める。これらの情報をプラント環境情報DB220に整備し、これらの情報に更新がないか確認を行う。
【0138】
次に化学除染を行う系統については、その系統配管の表面線量率に除染の効果を適用して例えば1/10として評価し、その値を用いて
図14で示した表面線量率と作業内容と作業職種毎の過去データから導き出される相関関係を使って、予測した表面線量率での作業職種毎の被ばく線量率を求める。これらの情報をプラント環境情報DB220に整備し、これらの情報に更新がないか確認を行う。
【0139】
以下、点検実績データの収集(ステップS204)、各作業実施条件の入力(ステップS205)、全体工程表の作成(ステップS206)、作業人数の確保及び作業者の個人データの収集(ステップS207)、作業計画レビューに必要な情報をDBから抽出(ステップS208)、各作業項目単位で作業計画の評価(ステップS209)、評価結果より各作業の計画についてレビュー(ステップS210)、作業計画の懸案項目に対する対策の実施(ステップS211)、各対策の効果を評価し作業計画のレビューへの反映(ステップS212)、対策の効果が反映された作業の実行性についての再評価(ステップS213)、再評価を踏まえ作業工程全体について変更の判断(ステップS214)を前述の詳細例1と同様に行う。
【0140】
第N回の定期検査の工程計画の立案に続いて、第N+1回の定期検査の工程計画を実施する。初めに定検時点検項目の抽出(ステップS200)、定検時点検項目選定の支援(ステップS201)、定検時点検作業項目の決定(ステップS202)を行う。続いて、作業現場情報の測定・収集(ステップS203)を行うが、この段階では第N回の定期検査はまだ終了していないので、その結果に基づいた情報の収集はできないが、第N回定検で化学除染を実施したことで、対象箇所の線量率は低下しており、その傾向が第N+1回定検でも継続することが予想される。更に
図11から
図12で説明したように第N+1サイクルの給水水質を例えば第Nサイクルと同様と仮定し、同じような給水水質で運転された場合の炉水放射性核種濃度の推移を予測することが可能となる。
【0141】
この時、(式8)で示される放射性核種付着量Γ
2について、化学除染の対象箇所では第N回定検で化学除染が実施されて線量率が1/10に低下すると予想されることから、その付着量を1/10とした初期値から計算する。これにより第N+1回定検開始時の除染対象箇所の放射性核種付着量を、除染と給水水質運用を取り入れて精度よく予想ができ、これに基づいて
図13と
図14で示した方法で作業グループの作業職種ごとに被ばく線量率を予測し、作業量から求められる作業時間を用いて被ばく線量を評価できる。
【0142】
除染の効果が残っているので、被ばく線量が低いことが予想されるため、
図18の第N+1回定検のCUW配管肉厚検査、PLR配管溶接線検査で示すように、被ばく線量に合わせて、仮設遮蔽工事の物量を減らすことができるので、それに基づいて作業工程を短くして計画することができる。以降の手順は第N回定検の工程計画立案と同様に進める。なお、
図18中の「短」は、作業工程を短くしていることを意味する。
【0143】
同様にして第N+2回の定期検査の工程計画を実施する。第N+1回定検の工程計画策定と同様に、定検時点検項目の抽出(ステップS200)、定検時点検項目選定の支援(ステップS201)、定検時点検作業項目の決定(ステップS202)を行う。続いて、作業現場情報の測定・収集(ステップS203)を行うが、この段階では第N回及びN+1回の定期検査はまだ終了していないので、その結果に基づいた情報の収集はできておらず、また、第N回定検で実施した化学除染の効果も薄れていることが予測される。
【0144】
そこで、
図11から
図12で説明したように第N+2サイクルの給水水質を例えば第Nサイクルと同様と仮定し、同じような給水水質で運転された場合の炉水放射性核種濃度の推移を予測することが可能となる。この時、(式8)で示される放射性核種付着量Γ
2については、第N+1サイクルで予測した値を使って評価する。以降の手順は第N+1回の定検工程計画立案と同様に進める。
【0145】
同様にして第N+3回の定期検査の工程計画を実施する。第N+2回定検の工程計画策定と同様に、定検時点検項目の抽出(ステップS200)、定検時点検項目選定の支援(ステップS201)、定検時点検作業項目の決定(ステップS202)を行う。続いて、作業現場情報の測定・収集(ステップS203)を行うが、この段階では第N回からN+2回の定期検査はまだ終了していないので、その結果に基づいた情報の収集はできておらず、また、第N回定検で実施した化学除染の効果も薄れており、場合によっては除染前よりも線量率が高くなっていることもあり得る。そこで、
図11から
図12で説明したように第N+3サイクルの給水水質を例えば第Nサイクルと同様と仮定し、同じような給水水質で運転された場合の炉水放射性核種濃度の推移を予測することが可能となる。
【0146】
この時、(式8)で示される放射性核種付着量Γ
2については、第N+2サイクルで予測した値を使って評価する。除染の効果が消えて、被ばく線量が高いことが予想されると、
図18の第N+3回定検のCUW肉厚検査、PLR配管溶接線検査で示すように、被ばく線量に合わせて仮設遮蔽工事の物量を増やして仮設遮蔽工事期間を増やすことができる。なお、
図18中の「長」は、作業工程を長くしていることを意味する。
【0147】
また、現時点からは3サイクル後の定検であることから、増えた仮設遮蔽工事に対応する資材や人員を準備しておくことが十分に可能である。この予測被ばく線量と仮設遮蔽物量、仮設遮蔽工事に基づいて作業工程を計画することができる。以降の手順は第N回定検の工程計画立案と同様に進める。
【0148】
以上の説明では予測被ばく線量に合わせて仮設遮蔽物量を増減させて、それに合わせて仮設遮蔽工事期間も増減させ(期間を長くしたり短くし)、被ばく線量を目標に合わせるようにしていた。他の手段としては仮設遮蔽物量を調整する代わりに検査物量を予測被ばく線量に合わせて増減させる方法がある。
【0149】
図19は、化学除染の効果を考慮した検査工事物量の増減を示した図である。例えば、
図19で示すように予測被ばく線量が少なくなる場合の第N+1回定検では、CUW配管肉厚検査とPLR配管溶接線検査の物量を、N+1回より先の定検で実施する予定の検査を前倒しして実施することで増やして実施する。被ばく線量が少ないことから仮設遮蔽工事が少なくて済み、その分の期間を検査期間に充てて検査物量を増やす(多く)ことができる。なお、
図19中の「多」は、検査物量を多くしていることを意味する。
【0150】
続いて、予測被ばく線量が多くなることが予想される第N+3回定検では、CUW配管肉厚検査とPLR配管溶接線検査を第N+1回や第N+2回に前倒しして実施することで減らす。予測被ばく線量が多いことから仮設遮蔽を増やしてその設置工事期間も増えるが、その分、検査物量を減らすことで検査工事期間の延長を防止する。なお、
図19中の「少」は、検査物量を少なくしていることを意味する。
【0151】
前記で示したように、給水水質を用いて予測する炉水放射性核種濃度から、配管や構造材への放射性核種付着量を予測し、作業場所の主要線源の放射性核種付着量と線量率の関係、及び主要線源の線量率と作業グループの作業職種ごとの被ばく線量率の関係を求めることで、被ばく線量を精度良く求めることができるようになる。これにより定検工程計画における作業被ばく線量の目標に対する精度を向上できるので、不必要な仮設遮蔽工事が排除され、必要な仮設遮蔽工事を計画できるので、追加の仮設遮蔽工事も排除でき、定検工事短縮に貢献できる。
【0152】
以上、本実施形態の作業工程最適化支援方法及び作業工程最適化支援装置100は、次の特徴を有する。
(1)原子力プラントの点検計画作成を支援する作業工程最適化支援装置100の作業工程最適化支援方法であって、点検・工事の実績情報に加え、過去の運転情報と将来の運転計画から予測する被ばく線量を含む情報を用いて作業計画の作成を支援する際に、作業件名、作業グループ、作業職種ごとの予測被ばく線量に基づいて(
図14参照)、人員、作業工程の標準作業からの偏差を計算して人員、作業工程を見積もり、各作業の組み合わせに基づいて作業日数を削減可能となる工程順序で検査を計画することを特徴とする。これにより、原子力発電所の保全対象機器について、効率的な定期検査工程の作成ができる。例えば、
図17の点検計画17Bにおいて、同じ仮設遮蔽工事物量でも並行作業を実施することで仮設遮蔽工事の人員を平坦化し、工程を短縮することができる。
【0153】
(2)(1)において、被ばく線量の評価に用いる仕事量は、実績情報に基づく過去の作業時間に、過去の作業効率係数と作業習熟度情報に基づく作業習熟度係数とを乗じて算出され、作業計画時の推定作業時間は、仕事量を、計画時の作業効率係数と計画時の作業習熟度係数との乗算値で除算して算出されることができる((式9)~(式11)参照)。
【0154】
(3)(1)において、被ばく線量の評価に用いる作業者の被ばく線量は、実績情報から作業件名、作業グループ、作業職種ごとに、総被ばく線量を総作業時間で除した被ばく線量率に、同じ作業件名、作業グループ、作業職種ごとの総仕事量を乗じて算出することができる。
【0155】
(4)(1)において、被ばく線量の評価に用いる作業者が作業する場所の線量率は、実績情報から作業件名、作業グループ、作業職種ごとに、総被ばく線量を総作業時間で除した被ばく線量率と、作業場所の主要線源の線量率との関係を各定検回で整理して、その主要線源の線量率と被ばく線量率との関係を求めて、次回の主要線源の予測線量率からその関係を用いて評価した被ばく線量率を用いるとよい。主要線源には、炉外配管として、再循環系配管、炉水浄化系配管、残留熱除去系配管があり、炉外配管以外ではドライヤ、再循環系ポンプ、炉水浄化系ポンプがある。
【0156】
(5)(1)において、被ばく線量の評価に用いる作業者が作業する場所の線量率の評価に用いる作業場所の主要線源の線量率は、過去の給水水質、炉水水質、運転情報と炉水、給水に含まれる金属不純物とその放射化生成物のマスバランスモデルから、マスバランスモデルのパラメータを決定し、決定したパラメータを用いたマスバランスモデルに次回定期検査までの給水水質、運転情報を入力として与えて計算される炉水水質を用いて評価される構造材料(例えば、炉外配管の材料)への放射性核種付着量と、作業場所の主要線源の各定検回ごとの線量率の実績情報と、マスバランスモデルから求めた各定検回ごとの構造材料への放射性核種付着量との関係を求めておいて、この関係性に次回の放射性核種付着量を反映させて求めた主要線源の予測線量率を用いるとよい((式1)~(式8)、
図11~
図14参照)。
【0157】
(6)(1)乃至(5)のいずれかにおいて、炉水の放射性核種濃度の予測に基づく作業場所の主要線源の線量率予測を、作業件名、作業グループ、作業職種ごとの被ばく線量率と主要線源の線量率との関係に反映させて、次回の被ばく線量予測を行い、その被ばく線量予測に基づいて遮蔽量(遮蔽物量)を評価し、被ばく線量目標に対して遮蔽量(遮蔽物量)を最適化して、最適化した遮蔽量(遮蔽物量)を施工するための遮蔽工事(仮設遮蔽工事)工程を作業工程に取り入れることができる(
図16、
図17参照)。
【0158】
(7)(1)乃至(5)のいずれかにおいて、炉水の放射性核種濃度の予測に基づく作業場所の主要線源の線量率予測に、化学除染の適用による線量率低下効果を反映させ、化学除染の適用後、運転を再開して停止する将来の定検開始時の作業場所の主要線源の線量率予測の際には、除染後の放射性核種付着量を初期値として、炉水の放射性核種濃度の予測方法を適用して追加の放射性核種付着量の蓄積量を評価し、これに基づいて、主要線源の線量率を求め、これを使って被ばく線量を求めて必要遮蔽量を評価し、遮蔽工事工程を計画して作業工程に取り入れることができる(
図18、
図19参照)。
【0159】
(8)原子力プラントの点検計画作成を支援する作業工程最適化支援装置100であって、点検・工事の実績情報に加え、過去の運転情報と将来の運転計画から予測する被ばく線量を含む情報を用いて作業計画の作成を支援する際に、作業件名、作業グループ、作業職種ごとの予測被ばく線量に基づいて、人員、作業工程の標準作業からの偏差を計算して人員、作業工程を見積もり、各作業の組み合わせに基づいて作業日数を削減可能となる工程順序で検査を計画する処理部10を有する。これによれば、点検・工事の被ばく線量を含む実績情報を用い作業計画の作成を支援する際に、作業計画作成対象定検前の運転情報と点検・工事の被ばく線量を含む実績情報を組み合わせて予測できる被ばく線量情報を利用して作業計画を作成することができる。
【0160】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【符号の説明】
【0161】
10 処理部
11 作業工程最適化部
12 作業計画評価部
20 記憶部
30 入力部
40 出力部
50 通信部
100 作業工程最適化支援装置
200 データベース装置
210 作業の基本情報DB
220 プラント環境情報DB
230 点検実績情報DB
240 作業者情報DB
250 リアルタイム更新情報DB
260 新たな知見や対策等情報DB
S100 作業計画の作成支援処理
S110 作業計画の実行性評価処理
S230 定検計画支援処理
S330 進行中工程の見直し支援処理
S400 現場作業の情報支援処理
S500 作業人数による作業効率係数決定処理
S600 予測される被ばく線量に基づいて仮設遮蔽工事の計画処理
S700 作業グループごとの作業習熟度評価処理