(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065825
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】キサゲ加工工具、キサゲ加工工具交換装置、及びキサゲ加工工具交換方法
(51)【国際特許分類】
B23D 79/10 20060101AFI20240508BHJP
B23D 79/06 20060101ALI20240508BHJP
B23Q 3/155 20060101ALI20240508BHJP
B25J 13/00 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
B23D79/10
B23D79/06
B23Q3/155 K
B25J13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174877
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三ツ橋 正
(72)【発明者】
【氏名】町田 港
【テーマコード(参考)】
3C002
3C050
3C707
【Fターム(参考)】
3C002KK02
3C002LL00
3C050FC09
3C707AS12
3C707BS12
3C707GS19
3C707KS34
3C707KW03
3C707LU06
(57)【要約】
【課題】キサゲ加工工具交換装置により低コストかつ小スペースでキサゲ加工工具の刃部を交換する技術を提供する。
【解決手段】キサゲ加工工具10は、刃部と、第1面と、第1面と反対側を向く第2面と、を有し、刃部を保持する刃保持部12と、第2面に当接する柄部13と、柄部に対して固定される固定部と、固定部に接続された回転軸部16と、回転軸部16に回転可能に支持された回転部14と、を有する押圧部と、を備え、キサゲ加工工具交換装置によって刃保持部の交換が行われるキサゲ加工工具10であって、回転部16には、第1面を押圧可能であって、回転部16の回転に伴って第1面までの距離が変化する押圧面14aが設けられ、回転部14が回転することで、押圧面14aが第1面を押圧して押圧部と柄部13が刃保持部12を挟持する押圧状態と、押圧面14aが第1面を押圧しない非押圧状態と、に切替可能である。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃部と、
第1面と、前記第1面と反対側を向く第2面と、を有し、前記刃部を保持する刃保持部と、
前記第2面に当接する柄部と、
前記柄部に対して固定される固定部と、前記固定部に接続された回転軸部と、前記回転軸部に回転可能に支持された回転部と、を有する押圧部と、
を備え、キサゲ加工工具交換装置によって前記刃保持部の交換が行われるキサゲ加工工具であって、
前記回転部には、前記第1面を押圧可能であって、前記回転部の回転に伴って前記第1面までの距離が変化する押圧面が設けられ、
前記回転部が回転することで、前記押圧面が前記第1面を押圧して前記押圧部と前記柄部が前記刃保持部を挟持する押圧状態と、前記押圧面が前記第1面を押圧しない非押圧状態と、に切替可能であることを特徴とするキサゲ加工工具。
【請求項2】
前記回転部は、前記第1面と平行な方向に延びる回転軸線を中心に回転可能で、前記キサゲ加工工具交換装置により操作されるレバーであり、
前記押圧面は、前記回転軸線を中心に偏心していることを特徴とする請求項1に記載のキサゲ加工工具。
【請求項3】
前記回転部は、前記第1面と直交する方向に延びる回転軸線を中心に回転可能で、前記キサゲ加工工具交換装置により操作されるカム部であり、
前記押圧面は、前記第1面に近づく方向に凸の凸部と、前記第1面から離れる方向に凹んだ凹部と、を含むことを特徴とする請求項1に記載のキサゲ加工工具。
【請求項4】
前記押圧部は、前記第1面に垂直な方向に延びて前記固定部と前記回転軸部とを接続する軸部を更に含み、
前記刃保持部は、前記第1面と平行な方向の一端側に開口して、前記第1面から前記第2面まで貫通した長穴部を有し、
前記刃保持部は、前記長穴部の前記一端側と反対の他端側の端面に前記軸部が当接した状態で、前記押圧部に押圧されることを特徴とする請求項1に記載のキサゲ加工工具。
【請求項5】
前記刃保持部は、前記一端側に設けられて前記柄部と係合する第1係合部と、前記他端側に設けられて前記刃部と係合する第2係合部と、を有することを特徴とする請求項4に記載のキサゲ加工工具。
【請求項6】
前記長穴部の前記他端側の前記端面は、前記他端側に凸の曲面形状であり、前記刃部の刃幅方向において前記端面の幅は前記軸部の幅より大きく、
前記第1面に垂直な方向から見たときに、
前記刃部の前記刃幅方向の中心線と前記柄部の長手方向と直交する短手方向の中心線とがなす角度が第1角度となる位置で前記軸部が前記端面に当接する第1状態と、
前記角度が前記第1角度と異なる第2角度となる位置で前記軸部が前記端面に当接する第2状態と、
を切替可能であることを特徴とする請求項5に記載のキサゲ加工工具。
【請求項7】
前記押圧部は、前記軸部が内部に挿通され、前記第1面に当接する座金を更に含み、
前記第1面は、前記座金を介して前記押圧部の前記押圧面に押圧されることを特徴とする請求項4に記載のキサゲ加工工具。
【請求項8】
前記押圧部は、前記軸部が内部に挿通され、前記柄部と前記座金との間に設けられるスペーサーを更に含み、
前記第1面に垂直な方向における前記スペーサーの厚みは、前記刃保持部の前記第1面から前記第2面までの幅より小さいことを特徴とする請求項7に記載のキサゲ加工工具。
【請求項9】
前記刃保持部は、前記第1面の前記長穴部が開口した前記一端側の端部に位置する斜面であって、前記他端側から前記一端側に向かうにつれて前記第2面に近づく方向に傾斜する斜面を更に有し、
前記刃部の刃幅方向において、前記斜面の幅は前記座金の幅より大きいことを特徴とする請求項8に記載のキサゲ加工工具。
【請求項10】
刃部と、第1面と、前記第1面と反対側を向く第2面と、を有し、前記刃部を保持する刃保持部と、前記第2面に当接する柄部と、前記柄部に対して固定される固定部と、前記固定部に接続された回転軸部と、前記回転軸部に回転可能に支持された回転部と、を有する押圧部と、を備え、前記回転部には、前記第1面を押圧可能であって、前記回転部の回転に伴って前記第1面までの距離が変化する押圧面が設けられ、前記回転部が回転することで、前記押圧面が前記第1面を押圧して前記押圧部と前記柄部が前記刃保持部を挟持する押圧状態と、前記押圧面が前記第1面を押圧しない非押圧状態と、に切替可能なキサゲ加工工具の前記刃保持部を交換するキサゲ加工工具交換装置であって、
前記キサゲ加工工具の前記押圧部を操作するための操作治具と、
前記操作治具を保持して動作させる加工用ロボットと、
前記加工用ロボットの動作を制御する制御部と、
前記キサゲ加工工具を支持する工具支持部と、
前記刃保持部を保持して、前記柄部に対して前記刃保持部を着脱させる着脱装置と、
を備え、
前記制御部は、前記加工用ロボットに保持された前記操作治具が前記回転部を回転させるように前記加工用ロボットを動作させて、前記工具支持部に保持された前記キサゲ加工工具の前記押圧部の前記押圧状態と前記非押圧状態とを切り替えることを特徴とするキサゲ加工工具交換装置。
【請求項11】
前記加工用ロボットによって前記操作治具が前記回転部を回転させるときに、前記加工用ロボットに作用する負荷を検出する力覚センサを更に備え、
前記制御部は、前記力覚センサが検知する前記負荷が正常範囲内にあるか否かについて判定を行うことを特徴とする請求項10に記載のキサゲ加工工具交換装置。
【請求項12】
前記キサゲ加工工具は、前記第1面に垂直な方向から見たときに、前記刃部の刃幅方向の中心線と前記柄部の長手方向と直交する短手方向の中心線とがなす角度が第1角度となる位置で前記刃保持部が前記押圧部と前記柄部に挟持される第1状態と、前記角度が前記第1角度と異なる第2角度となる位置で前記刃保持部が前記押圧部と前記柄部に挟持される第2状態と、を切替可能であり、
前記工具支持部は、前記刃保持部を支持する第1支持部と、前記柄部を支持し、前記第1面に垂直な方向に延びる回動軸線を中心に前記第1支持部に対して回動可能な第2支持部と、を有し、
前記第2支持部が回動することで、前記第1状態と前記第2状態とを切り替えて前記キサゲ加工工具の前記刃保持部を交換可能であることを特徴とする請求項10に記載のキサゲ加工工具交換装置。
【請求項13】
刃部と、第1面と、前記第1面と反対側を向く第2面と、を有し、前記刃部を保持する刃保持部と、前記第2面に当接する柄部と、前記柄部に対して固定される固定部と、前記固定部に接続された回転軸部と、前記回転軸部に回転可能に支持された回転部と、を有す
る押圧部と、を備え、前記回転部には、前記第1面を押圧可能であって、前記回転部の回転に伴って前記第1面までの距離が変化する押圧面が設けられ、前記回転部が回転することで、前記押圧面が前記第1面を押圧して前記押圧部と前記柄部が前記刃保持部を挟持する押圧状態と、前記押圧面が前記第1面を押圧しない非押圧状態と、に切替可能なキサゲ加工工具の前記刃保持部を交換するキサゲ加工工具交換装置によるキサゲ加工工具交換方法であって、
前記キサゲ加工工具の前記押圧部を操作するための操作治具と、
前記操作治具を保持して動作させる加工用ロボットと、
前記キサゲ加工工具を支持する工具支持部と、
前記刃保持部を保持して、前記柄部に対して前記刃保持部を着脱させる着脱装置と、
を備える前記キサゲ加工工具交換装置によるキサゲ加工工具交換方法において、
前記加工用ロボットに保持された前記キサゲ加工工具を前記工具支持部に支持させる工具設置工程と、
前記加工用ロボットに保持された前記操作治具により、前記工具支持部に支持された前記キサゲ加工工具の前記押圧部を前記押圧状態から前記非押圧状態へ切り替える第1切替工程と、
前記押圧部が前記非押圧状態のときに、前記着脱装置により前記キサゲ加工工具から前記刃保持部を取り外す取外し工程と、
前記着脱装置により、交換用刃部を保持する交換用刃保持部を前記キサゲ加工工具に取り付ける取付け工程と、
前記加工用ロボットに保持された前記操作治具により、前記工具支持部に支持された前記キサゲ加工工具の前記押圧部を前記非押圧状態から前記押圧状態へ切り替える第2切替工程と、
を含むことを特徴とするキサゲ加工工具交換方法。
【請求項14】
前記キサゲ加工工具交換装置は、前記加工用ロボットによって前記操作治具が前記回転部を回転させるときに、前記操作治具に作用する負荷を検出する力覚センサを更に備え、
前記第2切替工程における前記力覚センサが検知する前記負荷が正常範囲内であるか否かについて判定を行う判定工程と、を更に含むことを特徴とする請求項13に記載のキサゲ加工工具交換方法。
【請求項15】
前記キサゲ加工工具は、前記第1面に垂直な方向から見たときに、前記刃部の刃幅方向の中心線と前記柄部の長手方向と直交する短手方向の中心線とがなす角度が第1角度となる位置で前記刃保持部が前記押圧部と前記柄部に挟持される第1状態と、前記角度が前記第1角度と異なる第2角度となる位置で前記刃保持部が前記押圧部と前記柄部に挟持される第2状態と、を切替可能であり、
前記工具支持部は、前記刃保持部を支持する第1支持部と、前記柄部を支持し、前記第1面に垂直な方向に延びる回動軸線を中心に前記第1支持部に対して回動可能な第2支持部と、を有し、
前記第1切替工程の後、かつ前記第2切替工程の前に、前記第2支持部を回動させる角度変化工程を更に含むことを特徴とする請求項13に記載のキサゲ加工工具交換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キサゲ加工工具の刃部の交換動作を自動で行うための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
移動部を有した工作機械等の摺動面には、その平面度を高めて摺動摩擦係数を低減するために、キサゲ加工(「スクレーピング加工」ともいう)が行われる。キサゲ加工は、金属加工の一種であり、従来、作業者がワークの加工対象面に光明丹(鉛丹)や顔料を塗り、先端が幅広でノミ状(ヘラ状)のキサゲ工具(スクレーパ)を使って、色の違いを見ながら手作業で凸部を削り除去する作業を行っていた。
【0003】
キサゲ工具は、一般的に、切れ刃を有する刃部と、刃部を保持する刃保持部と、刃保持部と接続された可撓性の柄部と、を有する。キサゲ加工は非常に繊細な加工であり、キサゲ工具の切れ刃の状態が摺動面の仕上げ状態に大きく影響する。従って、キサゲ加工が繰り返し行われて刃部の切れ刃が摩耗したときには、刃部の交換が必要となる。
【0004】
一方で、作業者の手作業によるキサゲ加工は、熟練が要求される作業であり、また、大変な重労働でもあるため、キサゲ加工を自動化する装置が求められている。例えば、特許文献1には、ロボットによりキサゲ加工が行われるキサゲ加工装置の構成が開示されている。当該構成においては、キサゲ工具にツールチェンジャが取り付けられたツールユニットが予め複数用意されており、切れ刃が摩耗したときにツールユニットごと交換可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述の構成においては、切れ刃が摩耗するたびにツールユニットごと交換する必要があるため、用意する切れ刃の数だけツールチェンジャやキサゲ工具の柄部も複数用意する必要があり、ツールユニットの準備コストが高くなり、工具保管スペースも大きくとる必要がある。
【0007】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであって、キサゲ加工工具交換装置により低コストかつ小スペースでキサゲ加工工具の刃部を交換する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(態様1)
上記課題を解決するため、本発明の態様1に係るキサゲ加工装置は、刃部と、第1面と、前記第1面と反対側を向く第2面と、を有し、前記刃部を保持する刃保持部と、前記第2面に当接する柄部と、前記柄部に対して固定される固定部と、前記固定部に接続された回転軸部と、前記回転軸部に回転可能に支持された回転部と、を有する押圧部と、を備え、キサゲ加工工具交換装置によって前記刃保持部の交換が行われるキサゲ加工工具であって、前記回転部には、前記第1面を押圧可能であって、前記回転部の回転に伴って前記第1面までの距離が変化する押圧面が設けられ、前記回転部が回転することで、前記押圧面が前記第1面を押圧して前記押圧部と前記柄部が前記刃保持部を挟持する押圧状態と、前
記押圧面が前記第1面を押圧しない非押圧状態と、に切替可能である。
【0009】
(態様2)
上記態様1において、前記回転部は、前記第1面と平行な方向に延びる回転軸線を中心に回転可能で、前記キサゲ加工工具交換装置により操作されるレバーであり、前記押圧面は、前記回転軸線を中心に偏心していても良い。
【0010】
(態様3)
上記態様1において、前記回転部は、前記第1面と直交する方向に延びる回転軸線を中心に回転可能で、前記キサゲ加工工具交換装置により操作されるカム部であり、前記押圧面は、前記第1面に近づく方向に凸の凸部と、前記第1面から離れる方向に凹んだ凹部と、を含んでいても良い。
【0011】
(態様4)
上記態様1~3のいずれか一の態様において、前記押圧部は、前記第1面に垂直な方向に延びて前記固定部と前記回転軸部とを接続する軸部を更に含み、前記刃保持部は、前記第1面と平行な方向の一端側に開口して、前記第1面から前記第2面まで貫通した長穴部を有し、前記刃保持部は、前記長穴部の前記一端側と反対の他端側の端面に前記軸部が当接した状態で、前記押圧部に押圧されても良い。
【0012】
(態様5)
上記態様4において、前記刃保持部は、前記一端側に設けられて前記柄部と係合する第1係合部と、前記他端側に設けられて前記刃部と係合する第2係合部と、を有しても良い。
【0013】
(態様6)
上記態様5において、前記長穴部の前記他端側の前記端面は、前記他端側に凸の曲面形状であり、前記刃部の刃幅方向において前記端面の幅は前記軸部の幅より大きく、前記第1面に垂直な方向から見たときに、前記刃部の前記刃幅方向の中心線と前記柄部の長手方向と直交する短手方向の中心線とがなす角度が第1角度となる位置で前記軸部が前記端面に当接する第1状態と、前記角度が前記第1角度と異なる第2角度となる位置で前記軸部が前記端面に当接する第2状態と、を切替可能であっても良い。
【0014】
(態様7)
上記態様4~6のいずれか一の態様において、前記押圧部は、前記軸部が内部に挿通され、前記第1面に当接する座金を更に含み、前記第1面は、前記座金を介して前記押圧部の前記押圧面に押圧されても良い。
【0015】
(態様8)
上記態様7において、前記押圧部は、前記軸部が内部に挿通され、前記柄部と前記座金との間に設けられるスペーサーを更に含み、前記第1面に垂直な方向における前記スペーサーの厚みは、前記刃保持部の前記第1面から前記第2面までの幅より小さくても良い。
【0016】
(態様9)
上記態様8において、前記刃保持部は、前記第1面の前記長穴部が開口した前記一端側の端部に位置する斜面であって、前記他端側から前記一端側に向かうにつれて前記第2面に近づく方向に傾斜する斜面を更に有し、前記刃部の刃幅方向において、前記斜面の幅は前記座金の幅より大きくても良い。
【0017】
(態様10)
上記課題を解決するため、本発明の態様10に係るキサゲ加工工具交換装置は、刃部と、第1面と、前記第1面と反対側を向く第2面と、を有し、前記刃部を保持する刃保持部と、前記第2面に当接する柄部と、前記柄部に対して固定される固定部と、前記固定部に接続された回転軸部と、前記回転軸部に回転可能に支持された回転部と、を有する押圧部と、を備え、前記回転部には、前記第1面を押圧可能であって、前記回転部の回転に伴って前記第1面までの距離が変化する押圧面が設けられ、前記回転部が回転することで、前記押圧面が前記第1面を押圧して前記押圧部と前記柄部が前記刃保持部を挟持する押圧状態と、前記押圧面が前記第1面を押圧しない非押圧状態と、に切替可能なキサゲ加工工具の前記刃保持部を交換するキサゲ加工工具交換装置であって、
前記キサゲ加工工具の前記押圧部を操作するための操作治具と、前記操作治具を保持して動作させる加工用ロボットと、前記加工用ロボットの動作を制御する制御部と、前記キサゲ加工工具を支持する工具支持部と、前記刃保持部を保持して、前記柄部に対して前記刃保持部を着脱させる着脱装置と、を備え、前記制御部は、前記加工用ロボットに保持された前記操作治具が前記回転部を回転させるように前記加工用ロボットを動作させて、前記工具支持部に保持された前記キサゲ加工工具の前記押圧部の前記押圧状態と前記非押圧状態とを切り替える。
【0018】
(態様11)
上記態様10において前記加工用ロボットによって前記操作治具が前記回転部を回転させるときに、前記加工用ロボットに作用する負荷を検出する力覚センサを更に備え、前記制御部は、前記力覚センサが検知する前記負荷が正常範囲内にあるか否かについて判定を行っても良い。
【0019】
(態様12)
上記態様10又は11において、前記キサゲ加工工具は、前記第1面に垂直な方向から見たときに、前記刃部の刃幅方向の中心線と前記柄部の長手方向と直交する短手方向の中心線とがなす角度が第1角度となる位置で前記刃保持部が前記押圧部と前記柄部に挟持される第1状態と、前記角度が前記第1角度と異なる第2角度となる位置で前記刃保持部が前記押圧部と前記柄部に挟持される第2状態と、を切替可能であり、前記工具支持部は、前記刃保持部を支持する第1支持部と、前記柄部を支持し、前記第1面に垂直な方向に延びる回動軸線を中心に前記第1支持部に対して回動可能な第2支持部と、を有し、前記第2支持部が回動することで、前記第1状態と前記第2状態とを切り替えても良い。
【0020】
(態様13)
上記課題を解決するため、本発明の態様13に係るキサゲ加工工具交換方法は、刃部と、第1面と、前記第1面と反対側を向く第2面と、を有し、前記刃部を保持する刃保持部と、前記第2面に当接する柄部と、前記柄部に対して固定される固定部と、前記固定部に接続された回転軸部と、前記回転軸部に回転可能に支持された回転部と、を有する押圧部と、を備え、前記回転部には、前記第1面を押圧可能であって、前記回転部の回転に伴って前記第1面までの距離が変化する押圧面が設けられ、前記回転部が回転することで、前記押圧面が前記第1面を押圧して前記押圧部と前記柄部が前記刃保持部を挟持する押圧状態と、前記押圧面が前記第1面を押圧しない非押圧状態と、に切替可能なキサゲ加工工具の前記刃保持部を交換するキサゲ加工工具交換装置によるキサゲ加工工具交換方法であって、
前記キサゲ加工工具の前記押圧部を操作するための操作治具と、前記操作治具を保持して動作させる加工用ロボットと、前記キサゲ加工工具を支持する工具支持部と、前記刃保持部を保持して、前記柄部に対して前記刃保持部を着脱させる着脱装置と、を備える前記キサゲ加工工具交換装置によるキサゲ加工工具交換方法において、
前記加工用ロボットに保持された前記キサゲ加工工具を前記工具支持部に支持させる工具設置工程と、前記加工用ロボットに保持された前記操作治具により、前記工具支持部に
支持された前記キサゲ加工工具の前記押圧部を前記押圧状態から前記非押圧状態へ切り替える第1切替工程と、前記押圧部が前記非押圧状態のときに、前記着脱装置により前記キサゲ加工工具から前記刃保持部を取り外す取外し工程と、前記着脱装置により、交換用刃部を保持する交換用刃保持部を前記キサゲ加工工具に取り付ける取付け工程と、前記加工用ロボットに保持された前記操作治具により、前記工具支持部に支持された前記キサゲ加工工具の前記押圧部を前記非押圧状態から前記押圧状態へ切り替える第2切替工程と、を含む。
【0021】
(態様14)
上記態様13において、前記キサゲ加工工具交換装置は、前記加工用ロボットによって前記操作治具が前記回転部を回転させるときに、前記操作治具に作用する負荷を検出する力覚センサを更に備え、前記第2切替工程における前記力覚センサが検知する前記負荷が正常範囲内であるか否かについて判定を行う判定工程と、を更に含んでいても良い。
【0022】
(態様15)
上記態様13又は14において、前記キサゲ加工工具は、前記第1面に垂直な方向から見たときに、前記刃部の刃幅方向の中心線と前記柄部の長手方向と直交する短手方向の中心線とがなす角度が第1角度となる位置で前記刃保持部が前記押圧部と前記柄部に挟持される第1状態と、前記角度が前記第1角度と異なる第2角度となる位置で前記刃保持部が前記押圧部と前記柄部に挟持される第2状態と、を切替可能であり、前記工具支持部は、前記刃保持部を支持する第1支持部と、前記柄部を支持し、前記第1面に垂直な方向に延びる回動軸線を中心に前記第1支持部に対して回動可能な第2支持部と、を有し、前記第1切替工程の後、かつ前記第2切替工程の前に、前記第2支持部を回動させる角度変化工程を更に含んでも良い。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、キサゲ加工工具交換装置により低コストかつ小スペースでキサゲ加工工具の刃部を交換する技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例1に係るキサゲ加工装置の概略構成を示す斜視図である。
【
図2】実施例1に係る制御装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】実施例1に係る制御装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】実施例1に係るスクレーパの先端部を示す図である。
【
図7】実施例1に係る工具交換部の概略構成を示す斜視図である。
【
図9】実施例1に係るスクレーパの非押圧状態への切替方法を示す図である。
【
図10】実施例1に係るスクレーパの押圧状態への切替方法を示す図である。
【
図11】実施例1に係る刃保持部の取外し方法を示す図である。
【
図12】実施例1に係る工具交換動作のフローチャートである。
【
図14】実施例2に係る第1状態のスクレーパを示す図である。
【
図15】実施例2に係る第2状態のスクレーパを示す図である。
【
図16】実施例2に係る工具交換部の概略構成を示す斜視図である。
【
図17】実施例2に係る工具支持部を示す図である。
【
図18】実施例3に係るスクレーパの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。なお、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状それらの相対配置などは、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものである。すなわち、この発明の範囲を以下の実施の形態に限定する趣旨のものではない。
【0026】
本発明は、キサゲ加工をスクレーパ等のキサゲ加工工具を用いて、キサゲ加工を自動的に行うキサゲ加工装置に好適である。本発明はまた、キサゲ加工装置に備えられ、又はキサゲ加工装置と独立したキサゲ加工工具交換装置であって、キサゲ加工工具の交換を自動的に行うキサゲ加工工具交換装置として捉えられる。本発明はまた、キサゲ加工工具交換装置により自動的に工具交換が可能なキサゲ加工工具や、キサゲ加工工具交換装置によるキサゲ加工工具交換方法として捉えられる。
【0027】
<実施例1>
(キサゲ加工装置100)
まず、本発明の実施例に係るキサゲ加工装置100の概略構成について説明する。
図1は、実施例に係るキサゲ加工装置100の概略構成を示す模式図である。キサゲ加工装置100は、スクレーパ10を保持して動作させるロボットアーム20と、指示データに従いロボットアーム20を制御する制御装置30と、工具交換部110と、を備える。
【0028】
キサゲ加工装置100は、被加工物であるワーク90の加工対象面(被加工面)に対してキサゲ加工(スクレーピング加工)を自動で行う装置である。ワーク90は、例えば、工作機械等を構成する金属製の摺動部材であり、その摺動面が加工対象面としてキサゲ加工により加工される。キサゲ加工は金属加工の一種であり、キサゲ工具(切削工具)であるスクレーパ10を用いて加工対象面の凸部を削り取り、加工対象面の平面度を高めることによって直進性が得られ、さらに油溜まりの窪みを設けることで摺動摩擦係数を低減させる。
【0029】
キサゲ加工における加工対象面は、一般的に切削面や研削面、鋳造面等の一定の平面度を有し、微小な凹凸を有する平面である。キサゲ加工の本来の目的は、摺動面をより高精度な平面に仕上げることである。更に、摺動面の摺動時にリンギング(Wringing)現象が発生することを防止すべく、キサゲ仕上げ加工においては、摺動面にミクロン単位の微小な多数の窪みを潤滑油の油溜まりとして形成し、摺動面の潤滑性を向上させる。本実施例におけるキサゲ加工装置100は、加工対象面の平面度が所定の目標平面度を満たすように加工対象面の凸部を切削する平面出し加工処理と、当該平面出し加工処理の後に、加工対象面に油溜まり用の窪みを形成する仕上げ加工処理と、を行う。
【0030】
工具交換部110は、スクレーパ10の切れ刃が寿命に達したときなどに、自動的に工具交換を行うために設けられる。工具交換部110は、操作治具40を保管する治具保管部50と、スクレーパ10を支持する工具支持部60と、交換用工具を保管する交換工具保管部70と、スクレーパ10に対して切れ刃を着脱する着脱装置80と、を備える。工具交換部110による、一部の交換動作は、ロボットアーム20が指示データに従って動作されることで行われる。すなわち、キサゲ加工装置100には、工具交換部110とロボットアーム20により構成されるキサゲ加工工具交換装置が含まれているとみなすことができる。
【0031】
スクレーパ10は、刃部11と、刃部11を保持する刃保持部12と、刃保持部12と接続される柄部13と、を有する。柄部13は、アダプタ21と接続されており、アダプタ21を介してロボットアーム20により保持される。
【0032】
ロボットアーム20は、例えば、6軸の多関節ロボットアームであり、制御装置30によって制御される加工用ロボットである。ロボットアーム20は、その先端側にロボットハンド23を有する。ロボットハンド23は、スクレーパ10等に取り付けられたアダプタ21を着脱自在に保持(把持)できる。すなわち、ロボットアーム20は、スクレーパ10に限られず、アダプタ21を介してその他の治具を保持することができる。そして、ロボットアーム20は、各関節(例えば、第1軸~第6軸)をサーボモータ等によって駆動することで、ロボットハンド23をXYZ三次元直交座標系の任意の位置へと移動させることができる。すなわち、ロボットアーム20により、ロボットハンド23が保持するスクレーパ10やその他治具を自由に動作させることができる。
【0033】
また、ロボットアーム20は、不図示の力覚センサを備える。力覚センサは、キサゲ加工時に、スクレーパ10等に作用する負荷(抵抗)を検出するセンサである。制御装置30は、力覚センサが出力するキサゲ加工中や工具交換動作中における負荷の状態を監視(モニタリング)し、必要に応じて、負荷の強弱に基づいたフィードバック制御や動作が正常に行われているかについて判定を行うことができる。なお、上述したロボットアーム20は本発明に係るキサゲ加工用ロボットの一例であり、キサゲ加工用ロボットはロボットアーム20に限定されない。本発明に係るキサゲ加工用ロボットは、保持したスクレーパ10等を動作させることによって、自動でキサゲ加工や工具交換を行うことができる構成であれば特に限定されない。
【0034】
ワーク90の加工対象面に対するキサゲ加工は、例えば加工用架台95にワーク90を固定し、ロボットハンド23がスクレーパ10を保持した状態で制御装置30がロボットアーム20を制御することによって行われる。加工用架台95の表面は、水平な平面状に形成され、加工対象面は当該表面に対して平行であっても、平行でなくても良い。
【0035】
また、キサゲ加工においては、予め、三次元形状計測器によって加工対象面の三次元形状データ(凹凸形状データ)が取得される。三次元形状計測器としては、接触式であっても非接触式であっても良いが、測定精度が仕上がりの面精度に大きく影響するため、高精度に三次元形状データが計測されることが好ましい。
【0036】
(制御装置30)
次に、キサゲ加工装置100の制御装置30について説明する。制御装置30は、加工指示データに従ってロボットアーム20を制御し、その結果、ワーク90の加工対象面に対して加工指示データに応じたキサゲ加工が行われる。また、制御装置30は、工具交換指示データに従ってロボットアーム20を制御し、工具交換指示データに応じて工具交換を行うことができる。制御装置30は、ロボットアーム20を制御するための加工指示データや工具交換指示データを生成する。すなわち、制御装置30は、ロボットアーム20を制御する装置として機能すると共に、ロボットアーム20を制御する際に用いる指示データを生成するための情報処理装置(加工指示データ生成装置)として機能する。但し、ロボットアーム20を制御するための指示データは、制御装置30とは別の情報処理装置(指示データ生成装置)によって生成されてもよい。この場合、当該情報処理装置(指示データ生成装置)が生成した指示データを制御装置30が取得し、取得した指示データに従って制御装置30がロボットアーム20を制御する。なお、情報処理装置(指示データ生成装置)から制御装置30への指示データの送信は有線通信、又は無線通信のいずれによって行われてもよい。
【0037】
図2は、制御装置30の構成の一例を示すブロック図である。制御装置30は、例えば、一般的なコンピュータである。制御装置30を構成するコンピュータは、通信インターフェース(通信I/F)31、記憶装置32、入出力装置33、及びプロセッサ34を備え、これらが通信バス35を介して接続されている。
【0038】
通信I/F31は、例えばネットワークカードや通信モジュールであってもよく、所定のプロトコルに基づき、他のコンピュータ、機器等と通信を行う。例えば、制御装置30は、通信I/F31を介してワーク90における加工対象面の三次元形状情報を三次元形状計測器から受信する。
【0039】
記憶装置32は、例えば、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の主記憶装置、及びHDD(Hard-Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等の補助記憶装置(二次記憶装置)を含む。主記憶装置は、プロセッサ34が読み出すプログラムや他のコンピュータとの間で送受信する情報を一時的に記憶したり、プロセッサ34の作業領域を確保したりする。補助記憶装置は、プロセッサ34が実行するプログラムや他のコンピュータとの間で送受信する情報等を記憶する。また、補助記憶装置は、リムーバブルメディア(可搬記録媒体)を含んでいてもよい。リムーバブルメディアは、例えば、USBメモリ、SDカード、又は、CD-ROM、DVDディスク、若しくはブルーレイディスクのようなディスク記録媒体である。記憶装置32(例えば、補助記憶装置)には、オペレーティングシステム(OS)、各種プログラム、及び各種情報テーブル等が格納されている。
【0040】
入出力装置33は、例えば、キーボード、マウス等の入力装置、モニタ等の出力装置、タッチパネルのような入出力装置等のユーザインターフェースである。作業者は、入出力装置33を通じて、キサゲ加工の加工パス設定や工具交換のための制御用パラメータを入力できる。
【0041】
プロセッサ34は、CPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等の演算処理装置であり、プログラムを実行することにより本実施例に係る各処理を行う。例えば、プロセッサ34が、記憶装置32の補助記憶装置に記憶されたプログラムを主記憶装置にロードして実行することによって、後述するような指示データを生成するための指示データ生成処理等といった各種の処理が実現される。
【0042】
なお、制御装置30は、必ずしも単一の物理的構成によって実現される必要はなく、互いに連携する複数台のコンピュータによって構成されてもよい。
【0043】
次に、制御装置30の機能構成について
図3を参照して説明する。
図3は、制御装置30の機能構成の一例を概略的に示すブロック図である。制御装置30は、指示データ生成部36、制御部37を機能部として有している。制御装置30のプロセッサ34は、記憶装置32の補助記憶装置に記憶されたプログラムを主記憶装置にロードして実行することにより、上述した各機能部を実現する。指示データ生成部36は、指示データを生成する指示データ生成処理を実行する。制御部37は、指示データ生成部36が生成した指示データを取得し、当該指示データに従ってロボットアーム20を制御し、キサゲ加工や工具交換を実行する。
【0044】
(スクレーパ10)
次に、スクレーパ10の構成について、より詳細に説明する。
図4(a)はスクレーパ10の先端部を示す上面図であり、
図4(b)はスクレーパ10の先端部を示す側面図である。スクレーパ10は、柄部13に対して回転可能に設けられるレバー14と、刃保持部12の上面12aに当接し、刃保持部12とレバー14との間に位置する座金15と、を更に有する。
【0045】
刃部11は、例えば超硬合金によって形成されており、例えば金属製のワーク90の加工対象面を切削することが可能なチップである。刃保持部12は、刃部11の刃幅方向の両側から刃部11をネジ部品によって保持するチップホルダである。
【0046】
柄部13は、可撓性を有する金属材料により形成された略帯板形状であり、長手方向の一端に刃保持部12が交換可能に設けられる。本実施例において、柄部13の長手方向は刃部11の刃幅方向と略直交し、柄部13の長手方向と直交する短手方向は刃部11の刃幅方向と略平行である。また、柄部13は刃保持部12を着脱自在に保持する。すなわち、繰り返し加工が行われて刃部11が摩耗したときや、異なる切れ刃幅や曲率半径を有する刃部11が用いられるときは、柄部13に対して、刃部11と刃保持部12を一体的に付け替えることができる。なお、本発明の適用にあたっては、スクレーパの構成は上述のものに限られず、例えば、刃部が刃保持部に対して分離不能なものや、刃部と刃保持部が一体的に形成されたものでも良い。
【0047】
図5(a)は、
図4(b)のA-A断面図であり、レバー14が刃保持部12を押圧していない非押圧状態のスクレーパ10を示す。
図5(b)は、
図4(b)のA-A断面図であり、レバー14が刃保持部12を押圧している押圧状態のスクレーパ10を示す。
【0048】
スクレーパ10は、刃保持部12を押圧して保持するための押圧部を有する。押圧部は、スクレーパ10の先端部に設けられており、柄部13に対して接続され、刃保持部12を柄部13に向かって押圧する。すなわち、刃保持部12は柄部13と押圧部に挟持されることで、スクレーパ10に取り付けられる。
【0049】
押圧部は、押圧面である偏心面14aを有するレバー14と、刃保持部12とレバー14の間に位置する座金15と、レバー14を回転可能に保持する回転軸部16と、を含む。本実施例において、レバー14は、上面12aと平行な方向のうち、柄部13の長手方向と略平行な回転軸線を中心に回転する。押圧部は、更に、柄部13と回転軸部16を接続する軸状の接続部17と、柄部13と座金15の間に位置するスペーサー18と、を含む。
【0050】
刃保持部12の上面12aには、座金15が当接しており、座金15の更に上方にはレバー14が位置している。また、刃保持部12の上面12aと反対側を向く下面12bには、柄部13が当接している。言い換えると、刃保持部12は座金15と柄部13の間に位置する。
【0051】
レバー14の偏心面14aは、レバー14の回転軸線を中心に偏心しており、座金15に対向している。レバー14が回転軸部16を中心に回転することで、偏心面14aの座金15や上面12aまでの距離が変化し、偏心面14aと座金15との当接状態が変化する。そして、レバー14が所定の姿勢になると、偏心面14aが座金15に当接して、刃保持部12が座金15を介してレバー14に押圧される。
【0052】
また、接続部17は、柄部13と回転軸部16との間で上面12aに垂直な方向に延びる軸部17aと、柄部13と係合する雄ネジ部17bと、回転軸部16と係合する雄ネジ部17cと、を含む。接続部17は、軸部17aが刃保持部12に設けられた長穴部12eの内部を挿通するように配置されている。固定部としての雄ネジ部17bが柄部13の雌ネジ部13aに接続され、雄ネジ部17cが回転軸部16の雌ネジ部16aに接続されることで、回転軸部16が接続部17を介して柄部13に対して固定される。
【0053】
回転軸部16が柄部13に対して固定された状態で、レバー14が座金15を介して刃保持部12の上面12aを押圧することで、刃保持部12がレバー14と柄部13により
挟持される。刃保持部12が押圧されない非押圧状態(
図5(a)の状態)のスクレーパ10は、レバー14の回転により偏心面14aが座金15に当接すると、刃保持部12が押圧される押圧状態(
図5(b)の状態)へと変化する。
【0054】
非押圧状態においては、偏心面14aは座金15から離間しており、刃保持部12に対して押圧力は作用しないため、刃保持部12を柄部13から取り外すことが可能である。すなわち、刃部11を新品に交換する際は、スクレーパ10は非押圧状態とされ、刃保持部12が柄部13に対して着脱される。一方、キサゲ加工が行われる際、スクレーパ10は押圧状態とされて、刃部11、刃保持部12及び柄部13が一体的にロボットアーム20により動作される。
【0055】
スペーサー18は、刃保持部12が柄部13に取り付けられている状態において、刃保持部12の長穴部12eの内部に位置する。そして、スペーサー18は、刃保持部12が柄部13から取り外されているときに座金15を支持し、刃保持部12が柄部13に取り付けられる際に座金15がスムーズに刃保持部12の上に移動するように補助する。上面12aに垂直な方向におけるスペーサー18の厚みは、刃保持部12の上面12aから下面12bまでの幅より小さい。従って、刃保持部12が柄部13に取り付けられたときに、スペーサー18が座金15に当接することはなく、スペーサー18はレバー14による刃保持部12の押圧を阻害しない。
【0056】
図6(a)は刃保持部12の上面図であり、
図6(b)は
図6(a)のB-B断面図である。刃保持部12は、上述の通り上面(第1面)12aと、上面12aと反対側を向く下面(第2面)12bと、上面12aと平行な方向における刃保持部12の一端側に開口し、刃保持部12を上下方向に貫通した長穴部12eと、を有する。長穴部12eには、接続部17の軸部17aが挿通され、長穴部12eの端面12e1(当該一端側と反対の他端側の端面)に軸部17aが当接することで、刃保持部12の柄部13に対する位置が決まる。本実施例においては、長穴部12eが開口する一端側は、柄部13と係合する側であり、刃部11と係合する側の反対側である。なお、本発明の適用にあたっては、軸部17aを長穴部12eの端面12e1に当接させる代わりに、第1支持部61に位置決め部を設けて刃保持部12の柄部13に対する位置決めをする構成としても良い。
【0057】
また、刃保持部12は、柄配置部12dを刃保持部12の一端側に有し、刃配置部12cを刃保持部12の他端側に有する。柄配置部12dは、柄部13が配置されて柄部13と係合する第1係合部であり、刃配置部12cは、刃部11が配置されて、刃部11と係合する第2係合部である。柄部13に当接する下面12bは、柄配置部12dを構成する面である。また、刃保持部12の長穴部12eが開口している一端側の端部には、上面12aに斜面12fが形成されている。斜面12fは、他端側の端部から一端側の端部に向かうにつれて下面12bに近づく方向に傾斜している。刃部11の刃幅方向において、斜面12fは長穴部12eをまたがって形成されており、斜面12fの幅は座金15の幅より大きい。斜面12fは、刃保持部12を柄部13に取り付ける際に、スペーサー18に支持される座金15がスムーズに上面12aの上に乗るように、座金15を案内する。このような構成とすることで、座金15を上に持ち上げるための専用の装置を設けることなく、自動的に刃保持部12を柄部13に取り付けることができる。
【0058】
なお、本発明の適用にあたっては、スクレーパ10は上述の構成に限られず、種々の変更が可能である。例えば、レバー14は、座金15を介さず刃保持部12を直接押圧する構成であっても良いし、柄部13の長手方向と交差する方向に延びる回転軸線を中心に回転する構成であっても良い。また、例えば、押圧部はレバー14ではなくその他の回転部により構成されていても良い。回転部が溝部を有し、操作治具が溝部に係合する突起部を有し、溝部と突起部が係合した状態で操作治具により回転部が回転される構成であっても
、キサゲ加工工具の押圧状態と非押圧状態とを切り替えることができる。
【0059】
(工具交換部110)
次に、工具交換部110について詳細を説明する。工具交換部110では、スクレーパ10の刃部11を保持する刃保持部12の交換が行われる。刃保持部12の交換に際しては、ロボットアーム20が操作治具40を保持して、スクレーパ10の押圧部を操作する。すなわち、刃保持部12を交換するためのキサゲ加工工具交換装置は、ロボットアーム20と工具交換部110により構成される。
【0060】
図7は、工具交換部110の概略構成を示す斜視図である。上述の通り、工具交換部110は、治具保管部50と、工具支持部60と、交換工具保管部70と、着脱装置80とで構成される。以下、工具支持部60にスクレーパ10が設置された際の、刃部11の刃幅方向をx方向、水平方向のうち刃幅方向と直交する方向をy方向、x方向及びy方向と直交する鉛直方向をz方向として説明する。本実施例においては、工具支持部60にスクレーパ10が設置された際、柄部13の長手方向がy方向と平行となり、柄部13の短手方向がx方向と平行となる。
【0061】
治具保管部50には、スクレーパ10の押圧部を操作するための操作治具40を支持する複数の柱状の支持具51が設けられる。操作治具40は、ロボットアーム20に保持されていないとき、治具保管部50の支持具51の上に載置されて保管される。
【0062】
工具支持部60は、刃保持部12を柄部13に対して着脱する際に、スクレーパ10を支持する。工具支持部60は、刃保持部12を支持する第1支持部61と、柄部13を支持する第2支持部62と、アダプタ21を支持する第3支持部63と、を含む。第1支持部61には、x方向において、刃保持部12を両側から把持するハンド61aが設けられている。同様に、第2支持部62は、x方向において、柄部13を両側から把持するハンド62aが設けられている。また、第3支持部63には、スクレーパ10に取り付けられたアダプタ21を支持する複数の柱状の支持具63aが設けられる。
【0063】
交換工具保管部70は、交換用刃部72と交換用刃保持部73を支持する支持台71が設けられる。交換用刃部72は、例えば、新品の刃部や、刃部11と異なる切れ刃形状を有する刃部である。交換用刃部72は、すべて交換用刃保持部73に保持された状態で、交換工具保管部70に保管される。交換用刃保持部73は、支持台71に対して位置決めされた状態で支持される。交換用刃保持部73の位置決めのため、支持台71には位置決めピンや当接面等の公知の位置決め機構が設けられている。また、
図7には、2つの支持台71が図示されているが、支持台71の個数に制限はない。なお、交換用刃保持部73は、刃保持部12と同様の構成である。
【0064】
着脱装置80は、刃保持部12を把持するハンド81aを有する着脱部81と、着脱部81を移動可能に支持するレール部82と、を備える。着脱部81がレール部82上を移動することで、工具支持部60と交換工具保管部70との間で刃保持部12が搬送され、柄部13に対して刃保持部12を着脱される。本実施例においては、工具支持部60と交換工具保管部70はx方向に隣接して配置され、着脱部81はx方向とy方向に移動可能に構成されている。刃保持部12を工具支持部60に支持された柄部13に着脱する際は、着脱部81はy方向に移動し、刃保持部12を工具支持部60と交換工具保管部70との間で搬送する際は、着脱部81はx方向に移動する。なお、本発明の適用にあたっては、必ずしも上述の配置構成とする必要はなく、着脱部81が刃保持部12を把持して、工具支持部60と交換工具保管部70との間で刃保持部12を搬送できれば良い。例えば、着脱部が複数設けられ、複数の着脱部を介して刃保持部12が工具支持部60と交換工具保管部70との間で搬送される構成にも、本発明は適用可能である。
【0065】
次に、レバー14を操作するための操作治具40について説明する。
図8は、操作治具40の斜視図である。操作治具40は、操作部41と、操作部41と接続されるアダプタ43と、を備える。アダプタ43は、柄部13に接続されたアダプタ21と同様のアダプタであり、ロボットアーム20に保持される。すなわち、制御装置30に制御されたロボットアーム20により、操作治具40を動作させてレバー14を操作することができる。
【0066】
操作部41は、軸部41aと、つば部41bと、逃げ止め部41cと、を有する。操作治具40がレバー14を操作するとき、軸部41aはレバー14の回転軸線方向に沿って延びるように位置し、レバー14に当接する。つば部41bは、軸部41aをレバー14に当接させるように操作治具40を動作させる際に、レバー14が確実に軸部41aに当接するようにレバー14をガイドする。逃げ止め部41cは、刃保持部12の交換中にレバー14が意図しない方向に移動することを防ぐ。
【0067】
(工具交換方法)
次に、操作治具40によるスクレーパ10の工具交換方法について説明する。まずは、スクレーパ10の押圧状態と非押圧状態を切り替える方法について説明する。
図9(a)、(b)は、スクレーパ10を押圧状態から非押圧状態へと変化させる様子を示す断面図である。
図10(a)、(b)は、スクレーパ10を非押圧状態から押圧状態へと変化させる様子を示す断面図である。本実施例においては、スクレーパ10が工具支持部60に支持された状態で、スクレーパ10の状態の切替が行われる。
【0068】
図9(a)は、押圧状態のスクレーパ10のレバー14に、操作治具40の軸部41aが当接して、スクレーパ10が押圧状態から非押圧状態へと切り替わる直前の様子を示す。
図9(a)には、スクレーパ10を押圧状態から非押圧状態へと切り替える際の操作治具40とレバー14の移動方向が黒塗り矢印で示される。このとき、レバー14の偏心面14aは座金15に当接しており、レバー14は座金15を介して刃保持部12を押圧している。軸部41aがレバー14に当接した状態で、軸部41aでレバー14を下側から押すように操作治具40が移動することで、レバー14は回転する。そして、レバー14の回転に伴い、偏心面14aは座金15から離間して、スクレーパ10は
図9(b)に示される非押圧状態に切り替わる。
【0069】
刃保持部12の交換動作は、スクレーパ10が非押圧状態(
図9(b)の状態)にあるときに行われる。このとき、レバー14の回転軸線方向から見たときに、レバー14は軸部41aと逃げ止め部41cとの間に位置する。すなわち、刃保持部12の交換動作中は、軸部41aと逃げ止め部41cにより、レバー14の意図しない回転は規制され、レバー14の操作不良が防止される。
【0070】
図10(a)は、非押圧状態のスクレーパ10のレバー14に、操作治具40の軸部41aが当接して、スクレーパ10が非押圧状態から押圧状態へと切り替わる直前の様子を示す。
図10(a)には、スクレーパ10を非押圧状態から押圧状態へと切り替える際の操作治具40とレバー14の移動方向が黒塗り矢印で示される。このとき、レバー14の偏心面14aは座金15から離間しており、レバー14が刃保持部12を押圧する押圧力は作用していない。軸部41aがレバー14から離間した状態で、軸部41aでレバー14を押すように操作治具40が移動することで、レバー14は回転する。そして、レバー14の回転に伴い、偏心面14aは座金15に当接して、スクレーパ10は
図10(b)に示される押圧状態に切り替わる。
【0071】
以上より、本実施例の構成によれば、操作治具40によってレバー14が操作されることで、スクレーパ10の押圧状態と非押圧状態とを切替可能である。工具交換にあたって
は、操作治具40の単純な動作によりレバー14は回転可能であるため、ロボットアーム20に複雑な動きをさせる必要がなく、確実に刃保持部12の交換ができる。
【0072】
次に、非押圧状態のスクレーパ10から刃保持部12を取り外す方法について説明する。
図11(a)、(b)は、刃保持部12の取外し方法を示す図である。刃保持部12をスクレーパ10から取外す工程は、スクレーパ10が工具支持部60に支持された状態で行われる。本実施例においては、アダプタ21は第3支持部63の支持具63aに支持されてx方向及びy方向の位置決めがされる。また、柄部13は第2支持部62のハンド62aに支持されてx方向の位置決めがされ、刃保持部12は第1支持部61のハンド61aに支持されてx方向の位置決めがされる。
【0073】
刃保持部12の取外し工程に先んじて、スクレーパ10は、工具支持部60に支持された状態で、非押圧状態へと切り替えられる。次に、
図11(a)に示されるように、着脱部81が移動してハンド81aが刃保持部12を把持する。そして、
図11(b)に示されるように、刃保持部12を把持した着脱部81がy方向に移動して、刃保持部12がスクレーパ10から取り外される。取り外された刃保持部12は、着脱部81により交換工具保管部70まで搬送される。
【0074】
また、刃保持部12をスクレーパ10に取り付ける際は、上述の取外し工程が逆順に行われる。刃保持部12の取付けの際、着脱部81は刃保持部12を把持しながらy方向に移動させる。そして、押圧部の軸部17aと刃保持部12の長穴部12eの端面12e1とが当接することで、刃保持部12が柄部13や押圧部に対して位置決めされる。また、刃保持部12がy方向に移動する際、スペーサー18の上に乗っている座金15は、刃保持部12の斜面12fに案内されながら、刃保持部12の上面12aの上に乗る。そして、操作治具40によりスクレーパ10が非押圧状態から押圧状態に切り替えられて、刃保持部12が柄部13とレバー14に挟持されてスクレーパ10に取り付けられる。
【0075】
次に、スクレーパ10の工具交換方法について、一連の流れを説明する。
図12は、工具交換動作のフローチャートである。スクレーパ10の刃部11と刃保持部12を一体的に交換する工具交換においては、ロボットアーム20や着脱装置80が制御装置30により制御されて動作される。
【0076】
工具交換が開始されると(S100)、まずは工具設置工程として、ロボットアーム20がスクレーパ10を工具支持部60に設置する(S101)。このとき、スクレーパ10はハンド61a等に把持される。
【0077】
次に、ロボットアーム20は、スクレーパ10を離し、代わりに操作治具40を保持する(S102)。そして、第1切替工程として、操作治具40により押圧部のレバー14が操作されて、スクレーパ10が押圧状態から非押圧状態へと切り替えられる(S103)。こうして、刃保持部12はレバー14と柄部13に挟持されていない状態となり、刃保持部12が取り外し可能になる。
【0078】
次に、取外し工程として、着脱装置80の着脱部81により、刃部11が摩耗した使用済の刃保持部12がスクレーパ10から取り外される(S104)。そして、取り外された刃保持部12は、交換工具保管部70へと搬送され、支持台71の上に置かれる(S105)。使用済の刃保持部12を搬送した後、着脱部81は、交換用刃部72を保持する交換用刃保持部73を把持し、交換用刃保持部73を交換工具保管部70から工具支持部60へと搬送する(S106)。
【0079】
次に、取付け工程として、着脱部81によって、工具支持部60に支持されたスクレー
パ10に交換用刃保持部73が取り付けられる(S107)。そして、第2切替工程として、操作治具40により押圧部のレバー14が操作されて、スクレーパ10が非押圧状態から押圧状態へと切り替えられる(S108)。こうして、スクレーパ10には、交換用刃部72と交換用刃保持部73が取り付けられ、交換用刃保持部73は柄部13とレバー14に挟持される。
【0080】
また、本実施例においては、ロボットアーム20に設けられる力覚センサによって、第2切替工程におけるレバー14を押圧する際に、ロボットアーム20に作用する負荷がモニタリングされる。そして、モニタリングされた負荷が、正常範囲内であるか否かについて判定を行う判定工程が行われる(S109)。負荷の正常範囲は、押圧部等の構成により定まり、制御装置30に予め入力される。そして、当該正常範囲に基づいて、制御装置30は判定を行う。なお、判定工程は、第1切替工程(S103)における負荷についても行われることとしても良い。また、判定工程は第2切替工程と同時に行われ、押圧力が正常範囲内でないことが検出されたときに、第2切替工程の途中で交換動作が中断される構成としても良い。
【0081】
判定工程において、押圧力が正常範囲内でないと判定された場合(S109でNO)、動作不良が発生したことを作業者に報知するため、アラームが発報され(S110)、交換動作が中断される。なお、作業者への報知方法はアラーム発報に限られず、キサゲ加工装置100のモニタリング状態が表示される画面上に注記画面を表示する等その他の方法でも良い。交換動作に何かしらの異常が起きたことを察知した作業者は、押圧部の状態を確認し、動作不良の原因となった不具合を解消して(S111)、押圧部を正常な状態に戻す。そして、改めて第2切替工程が行われて押圧部が操作される(S108)。このような構成とすることで、例えばレバー14が摩耗して押圧部が適切に操作されなかった場合に、エラーを検知し、レバー14を新品に交換して、装置の破損等を防ぐことができる。
【0082】
一方、判定工程において、押圧力が正常範囲内であると判定された場合(S109でYES)、制御装置30はスクレーパ10が正常に押圧状態に切り替わったと認識し、次の工程へと移る。スクレーパ10が押圧状態に切り替わり、刃保持部12が座金15を介してレバー14と柄部13に挟持されると、ロボットアーム20は操作治具40を離し、代わりにスクレーパ10を保持する(S112)。操作治具40は、ロボットアーム20により治具保管部50の支持具51の上に載置されて、次の工具交換まで治具保管部50に保管される。こうして、工具交換が終了する(S113)。
【0083】
以上より、本実施例の構成によれば、人の手によらず、刃部11は刃保持部12と共に自動的に交換可能である。また、柄部13をアダプタ21から取り外すことなく、刃部11と刃保持部12のみを交換できるため、交換用のスクレーパ10一式を用意する必要がなく、ツールユニットの準備コストが抑えられ、かつ、交換用工具の保管スペースの小サイズ化が実現される。
【0084】
<実施例2>
次に、本発明の実施例2について説明する。実施例2は、刃部11の刃幅方向の中心線と柄部13の短手方向の中心線とがなす角度を変化させて、刃保持部12をスクレーパ10に取り付けることができる点で実施例1と異なる。このような構成とすることにより、スクレーパ10の刃部11の寿命延長を図ることができる。以下、実施例2の説明において、実施例1と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略し、実施例2の特徴的な構成についてのみ説明する。
【0085】
(刃保持部12)
まず、実施例2に係る刃保持部12について説明する。
図13(a)は実施例2に係る刃保持部12の上面図であり、
図13(b)は
図13(a)のC-C断面図である。本実施例の刃保持部12は、長穴部12gの形状が実施例1と異なる。長穴部12gは、上面12aと平行な方向における刃保持部12の一端側に開口し、刃保持部12を上下方向に貫通している。また、長穴部12gは、開口している一端側から他端側に向かって延び、更に他端側で刃部11の刃幅方向の両側に向かって延びるように形成されている。すなわち、上面12aと垂直な方向から見たときに、長穴部12gは略T字形状である。そして、本実施例においては、長穴部12gの他端側の端面12g1は、他端側に凸の曲面形状である。また、本実施例においては、長穴部12gが開口する一端側は、柄部13と係合する側である。
【0086】
長穴部12gには、接続部17の軸部17aが挿通され、長穴部12gの端面12g1に軸部17aが当接することで、刃保持部12の柄部13に対する刃幅方向と直交する方向の位置が決まる。一方、上述の通り、長穴部12gの他端側は刃幅方向に延伸している。従って、刃幅方向において、軸部17aの端面12g1に対する当接位置は変更可能である。このような構成とすることで、刃部11の刃幅方向の中心線と柄部13の短手方向の中心線とがなす角度を変化させて、刃保持部12をスクレーパ10に取り付けることが可能となる。
【0087】
(スクレーパ10)
次に、実施例2に係る刃保持部12がスクレーパ10に取り付けられた状態について説明する。上述の通り、実施例2においては、刃部11の刃幅方向の中心線と柄部13の短手方向の中心線とがなす角度を変化させて、刃保持部12をスクレーパ10に取り付けることができる。ここで、刃部11の刃幅方向の中心線とは、刃部11の刃幅方向と直交する方向であって、刃保持部12に取り付けられた状態において上面12aと平行な方向に延びる線である。また、柄部13の短手方向の中心線とは、柄部13の長手方向と直交する方向であって、刃保持部12が取り付けられた状態において上面12aと平行な方向に延びる線である。
【0088】
図14(a)~(c)は、刃部11の刃幅方向の中心線と柄部13の短手方向の中心線とがなす第1角度θaが0degである第1状態のスクレーパ10を示す。
図14(a)はスクレーパ10の先端部の上面図であり、
図14(b)はスクレーパ10の先端部の下面図であり、
図14(c)はキサゲ加工が行われるときのスクレーパ10をワーク90の加工対象面に垂直な方向から見たときの図である。
【0089】
図14(a)に示されるように、第1角度θaは0degであり、刃部11の刃幅方向の中心線と柄部13の短手方向の中心線とは平行である。このような状態で加工が行われると、刃部11の刃幅方向の中央部に位置する第1当接部11aが、ワーク90に当接する。すなわち、この状態でキサゲ加工が繰り返し行われると、刃部11の第1当接部11aのみが摩耗する。
【0090】
図14(b)に示されるように、スクレーパ10が第1状態のとき、刃幅方向において、柄部13は刃保持部12の柄配置部12dの中央部に位置し、軸部17aを有する接続部17は長穴部12gの中央部に位置する。このとき、柄部13は、柄配置部12dの側面に対して隙間を有した状態で配置されている。
【0091】
また、本実施例の刃部11は、切れ刃は刃幅方向の中央部が凸の円弧形状である。
図14(c)に示されるように、スクレーパ10がワーク90を加工する姿勢にあるとき、加工対象面に垂直な方向から見ると、刃部11の切れ刃の円弧は半径Raである。
【0092】
上述の通り、刃部11の刃幅方向の中心線と柄部13の短手方向の中心線とが平行な状態で加工が行われると、刃部11の中心部である第1当接部11aのみが摩耗する。そして、刃部11の切れ刃には加工に使用されて摩耗した部分と、加工に使用されずに摩耗しなかった部分とが存在することになる。そこで、本願発明者らはワークに対する刃先当接位置をずらすことができるようにキサゲ工具の構成を工夫して、単一の切れ刃を複数部分に分けて個別に加工に使用することで、工具の切れ刃を有効に活用して工具の寿命を延長する技術を着想した。
【0093】
図15(a)~(c)は、刃部11の刃幅方向の中心線と柄部13の短手方向の中心線とがなす角度が第2角度θbである第2状態のスクレーパ10を示す。第2角度θbは、0degより大きい所定の値である。すなわち、第2状態では、第1状態に対して、刃部11と刃保持部12が柄部13に対して傾いて取り付けられている。
図15(a)はスクレーパ10の先端部の上面図であり、
図15(b)はスクレーパ10の先端部の下面図であり、
図15(c)はキサゲ加工が行われるときのスクレーパ10をワーク90の加工対象面に垂直な方向から見たときの図である。
【0094】
図15(a)に示されるように、刃部11の刃幅方向の中心線と柄部13の短手方向の中心線とがなす角度は、第2角度θbである。このような状態で加工が行われると、第1当接部11aに対して刃部11の刃幅方向の端部側に位置する第2当接部11bがワーク90に当接する。すなわち、この状態でキサゲ加工が繰り返し行われると、第1当接部11aはワーク90に当接せず、第2当接部11bのみが摩耗する。
【0095】
図15(b)に示されるように、スクレーパ10が第2状態のとき、刃幅方向において、柄部13は刃保持部12の柄配置部12dの端部に位置し、軸部17aを有する接続部17は長穴部12gの端部に位置する。柄配置部12dの刃幅方向の幅や、長穴部12gの刃幅方向の幅は、柄部13に対して刃保持部12を傾ける最大の角度を考慮して定められている。
【0096】
また、
図15(c)に示されるように、刃部11の刃幅方向の中心線と柄部13の短手方向の中心線との交点は、刃部11の切れ刃の円弧の中心と重なるように各部品は配置される。このような構成とすることで、スクレーパ10がワーク90を加工する姿勢にあるとき、加工対象面に垂直な方向から見ると、刃部11の切れ刃の円弧は半径Raとなる。従って、
図14(c)の状態と
図15(c)の状態とで、刃部11の切れ刃は同様の姿勢でワーク90に当接する。すなわち、刃部11の第1当接部11aを加工に使用した場合と第2当接部11bを加工に使用した場合とで、同様の加工が行える。
【0097】
本実施例によれば、刃部11の第1当接部11aの摩耗が進行した場合に、刃保持部12の柄部13に対する角度を切り替えて、摩耗していない第2当接部11bを用いて加工できる。また、第2当接部11bの摩耗が進行した場合には、更に、第1当接部11aに対して、刃部11の第2当接部11bとは反対側の端部側に位置する部分を用いて、加工を継続することもできる。すなわち、本実施例においては、刃部11の切れ刃を3つの領域に分けて使用しており、各領域の摩耗の進行に伴って、異なる領域が加工に用いられる。
【0098】
このように、切れ刃の異なる位置を加工に使用することで、切れ刃の同一部分のみを使用し続ける場合と比較して、刃部11を有効に活用して工具の寿命を延長することができる。なお、上述の実施例においては、第1当接部11aが切れ刃の刃幅方向の中央部に位置する構成としたが、刃部11の寿命延長にあたってはこの構成に限られない。例えば、刃部11の刃幅方向において、第1当接部11aが切れ刃の一端部側、第2当接部11bが切れ刃の一端部と反対側の他端部側に位置するように、刃部11の切れ刃を2つの領域
に分けることも可能である。また、上述の実施例においては第1角度θaを0°としたが、第1角度θaと第2角度θbの両方を鋭角とすることも可能である。
【0099】
(工具交換部110)
次に、実施例2に係る工具交換部110について説明する。本実施例は、工具交換部110の工具支持部60の構成が実施例1と異なる。
図16は、実施例2に係る工具交換部110の概略構成を示す斜視図である。
【0100】
本実施例の工具支持部60は、刃保持部12を支持する第1支持部61、柄部13を支持する第2支持部62、アダプタ21を支持する第3支持部63に加えて、第2支持部62と第3支持部63を支持する回動ステージ64を含む。第2支持部62と第3支持部63は、回動ステージ64の支持台64aに支持されている。そして、回動ステージ64は、支持台64aをz方向に延びる回動軸線を中心に回動させることができる。すなわち、本実施例の工具支持部60は、第1支持部61に対して、支持台64a上の第2支持部62と第3支持部63を回動させることができる。このような構成とすることで、刃保持部12の柄部13に対する角度を変化させて、刃保持部12をスクレーパ10に取り付けることができる。
【0101】
図17(a)は第1状態のスクレーパ10が工具支持部60に支持されている様子を示す上面図であり、
図17(b)は第2状態のスクレーパ10が工具支持部60に支持されている様子を示す上面図である。回動ステージ64は、
図17(a)に示される矢印D方向に支持台64aを回動させて、第1支持部61に対する第2支持部62と第3支持部63の姿勢を変更できる。
図17(b)は、
図17(a)に示される状態に対して、回動ステージ64の支持台64aが回動して、第2支持部62と第3支持部63の姿勢が変化した工具支持部60の状態を示す。
【0102】
本実施例の工具支持部60は、第2支持部62と第3支持部63の第1支持部61に対して回動可能であるため、
図17(a)、(b)に示されるように、スクレーパ10が第1状態であっても第2状態であってもスクレーパ10を支持できる。
【0103】
スクレーパ10を第1状態から第2状態へと切り替える際、まず第1切替工程として、工具支持部60に支持された第1状態(
図17(a)中の状態)において、カムレバー解除の動作が行われる。次に、角度変化工程として、回動ステージ64の支持台64aが回動され、第1支持部61に対する第2支持部62と第3支持部63の姿勢が変わる。本工程により、非押圧状態にあるスクレーパ10において、刃保持部12の柄部13に対する角度が変化する。そして、第2切替工程として、スクレーパ10に対し、カムレバー固定の動作が行われることで、スクレーパ10が第2状態(
図17(b)中の状態)に切り替わる。なお、工具交換と角度変化を並行して行う場合も、第1切替工程の後、かつ第2切替工程の前に角度変化工程が実施されればよい。この場合、角度変化工程は、取外し工程の前、又は取外し工程の後、かつ取付け工程の前、又は取付け工程の後、いずれのタイミングで行われても良い。
【0104】
以上より、本実施例の構成によれば、刃部11の刃幅方向の中心線と柄部13の短手方向の中心線とがなす角度を変化させて、刃保持部12をスクレーパ10に自動的に取付けできる。従って、本実施例においては、刃部11の切れ刃の同一部分のみを使用し続ける場合と比較して、刃部11を有効に活用して工具の寿命を延長することができる。
【0105】
また、本実施例の構成によれば単一の工具支持部60によって、刃部11と刃保持部12の柄部13に対する角度を変更して、刃保持部12を柄部13に取り付けることができる。従って、例えば、第1状態のスクレーパ10を保持するための工具支持部と、第2状
態のスクレーパ10を保持するための工具支持部を設ける場合と比較して、工具交換部110の小スペース化が実現できる。
【0106】
<実施例3>
次に、本発明の実施例3について説明する。実施例3は、押圧部の構成が実施例1と異なる。以下、実施例3の説明において、実施例1と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略し、実施例3の特徴的な構成についてのみ説明する。
【0107】
実施例3に係る押圧部の構成について、
図18を参照して説明する。
図18(a)、(b)は、実施例3に係るスクレーパ10の押圧部の構成を示す断面図である。
図18(a)は、押圧部により刃保持部12が押圧されていない非押圧状態のスクレーパ10の断面図であり、
図18(b)は、押圧部により刃保持部12が押圧されている押圧状態のスクレーパ10の断面図である。
【0108】
実施例3の押圧部は、回転軸部25、上カム部26、下カム部27、抜け止め部28により構成される。回転軸部25は、柄部13に接続されており、刃保持部12の上面12aに垂直な方向に延びる。また、回転軸部25には、下カム部27と、上カム部26と、抜け止め部28と、が係合されている。上カム部26は、刃保持部12の上方に位置し、回転軸部25に回転可能に支持されている回転部である。本実施例においては、上カム部26の回転に伴ってスクレーパ10の押圧状態と非押圧状態とが切り替えられる。下カム部27は、刃保持部12と上カム部26の間に位置しており、上カム部26の押圧力を刃保持部12に伝達する。抜け止め部28は、上カム部26より更に上方に位置し、上カム部26の上方向への移動を規制し、上カム部26が回転軸部25から抜けることを防止すると共に、上カム部26が刃保持部12を押圧する押圧力を発生させるために設けられる。
【0109】
上カム部26は、下カム部27の方を向く偏心面を有し、当該偏心面は下カム部27に近づく方向に凸の凸部26aと、下カム部27から離れる方向に凹んだ凹部26bと、凸部26aと凹部26bとを接続する斜面部と、を含む。同様に、下カム部27は、上カム部26の方を向く偏心面を有し、当該偏心面は上カム部26に近づく方向に凸の凸部27aと、上カム部26から離れる方向に凹んだ凹部27bと、凸部27aと凹部27bとを接続する斜面部と、を含む。
【0110】
上カム部26は、上面12aと垂直な方向に延びる回転軸線を中心に回転可能に構成されている。また、下カム部27は、上カム部26の回転時に上カム部26に従動して回転しないように、刃保持部12に設けられた溝部と係合している。実施例3においては、上カム部26が回転して、上カム部26の偏心面と下カム部27の偏心面の当接状態が変化することで、スクレーパ10の押圧状態と非押圧状態とが切り替わる。
【0111】
図18(a)に示されるように、スクレーパ10が非押圧状態のとき、凸部26aは凹部27bに当接し、凹部26bは凸部27aに当接する。非押圧状態のスクレーパ10の上カム部26が回転するには凸部26aが下カム部27の斜面部を駆け上るように移動する必要がある。従って、凸部26aが回転しようとすると、上カム部26の回転を抑制する方向に上カム部26に力が作用するため、操作治具等による外力が作用しない限り、上カム部26は回転せず、スクレーパ10の非押圧状態は保たれる。また、上カム部26と抜け止め部28との間には隙間が設けられており、刃保持部12に対して押圧力は発生しない。そして、スクレーパ10は、上カム部26が回転することで、
図18(a)に示される非押圧状態から
図18(b)に示される押圧状態へと切り替えられる。
【0112】
図18(b)に示されるように、スクレーパ10が押圧状態のとき、凸部26aは凸部
27aに当接し、凹部26bは凹部27bに対して離間して対向する。スクレーパ10が非押圧状態から押圧状態に切り替えられるとき、上カム部26の回転に伴い、凸部26aは下カム部27の偏心面の上を滑るように移動して凸部27aに当接する。そして、上カム部26は下カム部27に対して相対的に上方向に移動し、上カム部26と抜け止め部28との間の隙間が小さくなる。すなわち、凸部26aは、上カム部26の回転に伴って、刃保持部12の上面12aまでの距離が変化する。言い換えると、上カム部26の回転に伴って、上カム部26の抜け止め部28に対する当接面と下カム部27の刃保持部12に対する当接面との間隔が変化する。
【0113】
上カム部26は、上方向に所定量移動した後に、抜け止め部28に当接して上方向の移動が規制される。すると、上カム部26が下カム部27を介して刃保持部12を押圧する押圧力が発生し、上カム部26の凸部26aが押圧面として機能する。そして、回転軸部25は、抜け止め部28と柄部13のそれぞれに接続されているため、刃保持部12は押圧部と柄部13に挟持される。また、このとき上カム部26には下カム部27と抜け止め部28に挟持される力が作用するため、上カム部26は操作治具等により操作されない限り回転しない。
【0114】
以上より、本実施例の構成によれば、ロボットアーム20が操作治具等を把持して上カム部26を回転させることで、上カム部26を上下方向に移動させて、スクレーパ10の押圧状態と非押圧状態とを切り替えることができる。すなわち、本実施例においても、工具交換にあたって、ロボットアーム20に複雑な動きをさせる必要がなく、確実に刃保持部12の交換ができる。
【0115】
なお、実施例3の構成においては、上カム部26が下カム部27を介して刃保持部12を押圧していたが、例えば、刃保持部12に偏心面が設けられ、上カム部26が直接、刃保持部12を押圧する構成としても良い。
【0116】
<その他の実施例>
上述の実施例はあくまでも一例であって、本開示はその要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得る。また、本開示において説明した処理や手段は、技術的な矛盾が生じない限りにおいて、自由に組み合わせて実施することができる。例えば、上述の実施例は一つのロボットアームでキサゲ加工と工具交換が行われる構成としたが、キサゲ加工装置には、キサゲ加工用のロボットアームと工具交換用のロボットアームがそれぞれ設けられていても良い。
【0117】
また、1つの装置が行うものとして説明した処理が、複数の装置によって分担して実行されてもよい。あるいは、異なる装置が行うものとして説明した処理が、1つの装置によって実行されても構わない。コンピュータシステムにおいて、各機能をどのようなハードウェア構成によって実現するかは柔軟に変更可能である。
【符号の説明】
【0118】
10…スクレーパ(キサゲ加工工具)、11…刃部、12…刃保持部、12a…上面(第1面)、12b…下面(第2面)、13…柄部、14…レバー(回転部)、14a…偏心面(押圧面)、16…回転軸部、17b…雄ネジ部(固定部)