(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065847
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】ズリ搬送システムにおけるディープラーニング方法及びそのディープラーニングによる学習モデルを備えた人工知能が行うベルトコンベアの損傷状況の判別方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/12 20060101AFI20240508BHJP
G01N 21/88 20060101ALI20240508BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240508BHJP
G06V 10/82 20220101ALI20240508BHJP
G06V 10/774 20220101ALI20240508BHJP
B65G 43/02 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
E21D9/12 B
G01N21/88 J
G06T7/00 350C
G06V10/82
G06V10/774
G06T7/00 610B
B65G43/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174912
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】522426906
【氏名又は名称】ドゥヴェディ ウッタム クマール
(71)【出願人】
【識別番号】596074029
【氏名又は名称】東京機材工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】511283066
【氏名又は名称】株式会社アカセ
(71)【出願人】
【識別番号】500103199
【氏名又は名称】マクセルフロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(74)【代理人】
【識別番号】100208292
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 直己
(72)【発明者】
【氏名】ドゥヴェディ ウッタム クマール
【テーマコード(参考)】
2D054
2G051
3F027
5L096
【Fターム(参考)】
2D054DA02
2D054GA81
2D054GA95
2G051AA90
2G051AB02
2G051BA20
2G051BB11
3F027AA02
3F027CA07
3F027DA23
3F027EA01
3F027FA01
5L096BA03
5L096CA02
(57)【要約】
【課題】ズリ搬送システムにおいて、ベルトコンベアの損傷状況の高精度な判別が可能なディープラーニング方法及びそのディープラーニングによる学習モデルを備えた人工知能が行うベルトコンベアの損傷状況の高精度な判別方法。
【解決手段】情報処理装置によって、データベースに格納されているディープラーニング用の連続ベルトコンベアの画像データに手書き数字画像を重ね合わせた合成画像データを作成し、及び、データベースに格納されている前記連続ベルトコンベアの表面に損傷を有する損傷画像データに手書き数字画像を重ね合わせた合成画像データを作成及び水増しをし、その合成画像データを基にディープラーニングを行い、学習モデルを構築し、更新し、エッジデバイスに取り込み、エッジデバイスの人工知能(エッジAI)がベルトコンベアの損傷状況を高精度で判別する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報処理装置によって、
データベースに格納されているディープラーニング用の破砕機ベルトコンベアにホッパーにより繋げられる連続ベルトコンベアの画像データに手書き数字画像を重ね合わせた合成画像データを作成し、及び、データベースに格納されている前記連続ベルトコンベアの表面に損傷を有する損傷画像データに手書き数字画像を重ね合わせた合成画像データを作成し、
これら作成した合成画像データを水増しし、
これら水増しした合成画像データを基にディープラーニングを行い、学習モデルを構築し、
さらに、ディープラーニングを繰り返すことで、上記学習モデルを更新することが可能であり、
エッジデバイスに取り込むために上記学習モデルを最適化する、
ことを特徴とするディープラーニング方法。
【請求項2】
掘削されたズリを搬送する破砕機ベルトコンベアと、
前記破砕機ベルトコンベアと次の連続ベルトコンベアとを繋ぐホッパーと、
前記ホッパーから供給されるズリを受けて搬送する連続ベルトコンベアと、
前記ホッパーから前記連続ベルトコンベアへのズリの乗継状況及び前記連続ベルトコンベアの損傷状況を撮像するカメラとLED照明を備えた撮像部と、
前記破砕機ベルトコンベアと前記連続ベルトコンベアの稼働及び停止を制御する制御部とを備え、
前記制御部には、エッジデバイスを用い、前記エッジデバイスは、記憶部と前記人工知能(エッジAI)を有する判断部とを備え、
前記人工知能(エッジAI)は、前記最適化により最適化された学習モデルを備え、
前記記憶部は、前記ズリの乗継状況及び前記カメラにより撮像した前記損傷状況の撮像画像を記憶し、
前記人工知能(エッジAI)が、前記記憶と前記最適化された学習モデルに基づき、前記連続ベルトコンベアの損傷の位置と損傷の程度を判別し、その損傷の程度と前記破砕機ベルトコンベアと前記連続ベルトコンベアを停止する判別基準に基づいてベルトコンベアの停止の要否を判別する、
ことを特徴とする、請求項1に記載のディープラーニング方法に基づくベルトコンベアの損傷状況の判別方法。
【請求項3】
前記連続ベルトコンベアに対し、前記カメラと前記LED照明の反対側に反射板を設け、反射光を前記カメラが検知することにより、ベルトコンベアの貫通損傷を判別することを特徴とする、請求項2に記載のベルトコンベアの損傷状況の判別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ズリ搬送システムにおけるディープラーニング方法及びそのディープラーニングによる学習モデルを備えた人工知能が行うベルトコンベアの損傷状況の判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルの掘削作業では、長距離のベルトコンベアがズリ搬出に利用される。
このとき、ズリ、異物等によって、ベルトが損傷する場合がある。これらの損傷を放置したままだと、ベルト切れやズリこぼれを引き起こし、その修復のためにベルトコンベアの稼働率は大きく低下してしまう。
そこで、このような兆候を早期に発見して予防保全を行う必要がある。
【0003】
ベルトコンベアに対してレーザ光を照射し、前記レーザ光の照射によって前記ベルトコンベア上に描かれた輪郭線をデジタルカメラによって撮像し、撮影データに基づいて、ベルトの損傷程度を判別する方法が存在したが(特許文献1)、前記レーザ光の照射による輪郭線の観察では、前記ベルトの損傷を十分に監視することができなかった。
【0004】
そこで、深層学習(ディープラーニング)による学習モデルを備えた人工知能(AI)が行うベルトコンベアの損傷程度を判別する方法が提案されてきた(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-032346号公報
【特許文献2】特開2020-128286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術である上述の深層学習(ディープラーニング)による学習モデルを備えた人工知能(AI)が行うベルトコンベアの損傷状況を判別する方法について、鋭意研究の末に見出した独創的な深層学習(ディープラーニング)方法とその学習モデルを備えた人工知能(AI)により高精度で行うベルトの損傷状況を判別する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、情報処理装置によって、データベースに格納されているディープラーニング用の破砕機ベルトコンベアにホッパーにより繋げられる連続ベルトコンベアの画像データに手書き数字画像を重ね合わせた合成画像データを作成し、及び、データベースに格納されている前記連続ベルトコンベアの表面に損傷を有する損傷画像データに手書き数字画像を重ね合わせた合成画像データを作成し、これら作成した合成画像データを水増しし、これら水増しした合成画像データを基にディープラーニングを行い、学習モデルを構築し、さらに、ディープラーニングを繰り返すことで、上記学習モデルを更新することが可能であり、エッジデバイスに取り込むために上記学習モデルを最適化する、ことを特徴とするディープラーニング方法に関する。
【0008】
請求項2に係る発明は、掘削されたズリを搬送する破砕機ベルトコンベアと、前記破砕機ベルトコンベアと次の連続ベルトコンベアとを繋ぐホッパーと、前記ホッパーから供給されるズリを受けて搬送する連続ベルトコンベアと、前記ホッパーから前記連続ベルトコンベアへのズリの乗継状況及び前記連続ベルトコンベアの損傷状況を撮像するカメラとLED照明を備えた撮像部と、前記破砕機ベルトコンベアと前記連続ベルトコンベアの稼働及び停止を制御する制御部とを備え、前記制御部には、エッジデバイスを用い、前記エッジデバイスは、記憶部と前記人工知能(エッジAI)を有する判断部とを備え、前記人工知能(エッジAI)は、前記最適化により最適化された学習モデルを備え、前記記憶部は、前記ズリの乗継状況及び前記カメラにより撮像した前記損傷状況の撮像画像を記憶し、前記人工知能(エッジAI)が、前記記憶と前記最適化された学習モデルに基づき、前記連続ベルトコンベアの損傷の位置と損傷の程度を判別し、その損傷の程度と前記破砕機ベルトコンベアと前記連続ベルトコンベアを停止する判別基準に基づいてベルトコンベアの停止の要否を判別する、ことを特徴とする請求項1に記載のディープラーニング方法に基づくベルトコンベアの損傷状況の判別方法に関する。
【0009】
請求項3に係る発明は、前記連続ベルトコンベアに対し、前記カメラと前記LED照明の反対側に反射板を設け、反射光を前記カメラが検知することにより、ベルトコンベアの貫通損傷を判別することを特徴とする、請求項2に記載のベルトコンベアの損傷状況の判別方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明のディープラーニング方法によれば、情報処理装置によって、データベースに格納されているディープラーニング用の破砕機ベルトコンベアにホッパーにより繋げられる連続ベルトコンベアの画像データに手書き数字画像を重ね合わせた合成画像データを作成し、及び、データベースに格納されている前記連続ベルトコンベアの表面に損傷を有する損傷画像データに手書き数字画像を重ね合わせた合成画像データを作成し、これら作成した合成画像データを水増しし、これら水増しした合成画像データを基にディープラーニングを行い、学習モデルを構築し、さらに、ディープラーニングを繰り返すことで、上記学習モデルを更新することが可能であり、エッジデバイスに取り込むために上記学習モデルを最適化することにより、非常に高い精度でベルトコンベアの損傷状況を判別する人工知能(エッジAI)を実現することができる。
【0011】
請求項2に係る発明のベルトコンベアの損傷状況の判別方法によれば、請求項1に記載のディープラーニング方法で得られた最適化された学習モデルに基づく人工知能(エッジAI)がベルトコンベアの損傷の位置と損傷の程度を判別し、その損傷の程度と前記破砕機ベルトコンベアと前記連続ベルトコンベアを停止する判別基準に基づいてベルトコンベアの停止の要否を判別することで、非常に高い精度でベルトコンベアの損傷状況の判別を行うことができる。
【0012】
請求項3に係る発明のベルトコンベアの損傷状況の判別方法によれば、ベルトコンベアの貫通損傷の判別を非常に高い精度で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態におけるエッジAIのディープラーニングと再学習等の関係の構成を示す図である。
【
図2】ベルトコンベアに手書き数字画像を重ね合わせて合成画像データを作成する説明図であり、(1)は運転支障の無いゴムベルト、(2)は損傷ゴムベルトに関する。
【
図3】YOLOV4の繰り返し学習の平均再現率(mAP)を示す図である。
【
図4】ディープラーニングによる学習モデルの構築を示すフロー図である。
【
図5】本発明に係る実施形態のズリ搬送システムを備える掘削工事設備の構成を示す図である。
【
図6】本実施形態のズリ搬送システムの構成を示す図である。
【
図7】本実施形態における連続ベルトコンベアの(1)基準マークの概略図と(2)損傷の判別基準である。
【
図8】(1)(a)は連続ベルトコンベアのベルト表面の損傷がないの例の撮像画像であり、(b)は(a)の画像の輪郭を示す図である。(2)(a)は連続ベルトコンベアのベルト表面の小さい損傷の例の撮像画像であり、(b)は(a)の画像の輪郭を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<ディープラーニング方法>
以下、ディープラーニング方法について詳細に説明する。
なお、本説明では、クラウドに情報処理装置及びデータベースを配置したネットワーク構成(
図1)を例に説明しているが、必ずしもそれらをクラウドに配置する必要は無い。
【0015】
連続ベルトコンベアの特色として、
(1)高速運転であること(最速時200m/分)
(2)ゴムベルト表面が一様でないこと
(3)運転支障の無いゴムベルト表面には、傷、泥の付着、水濡れ、照明の反射等があること
(4)ゴムベルトの貫通損傷が生じた場合、運転の緊急停止が必要であること
がある。
このため、人工知能(AI)には、
(1)高速撮影(0.4秒/枚以下)に対応した高速判別を行うこと
(2)ゴムベルトの様々な表面映像から損傷を判別すること
(3)損傷の程度の判別、及び基準マークの判読による位置判別を行うこと
(4)重大な損傷時に運転の緊急停止の信号を発信すること
という機能が必要となる。
特に、(1)の高速判別を行うために、クラウドとの通信を経由しての損傷検出の仕組みを用いるのではなく、その場で即座に判別を行う人工知能(エッジAI)を用いることが必須となる。エッジAIは、取得したデータの推論や解析の計算をネットワークを介さず端末内で処理できるため、リアルタイムに近い速さの応答性が必要となる高速判別に適している。
【0016】
上述の高速処理に対応するエッジAIの好適な例として、YOLOV4が挙げられる。YOLOV4は、物体検出において、GPU(グラフィックス プロセシング ユニット)ひとつでリアルタイムでの推論が可能で、かつ高速なモデルとして評価されている。
YOLOV4をAIモデルとして用いるにあたり、映像に存在する様々な要素のそれぞれが属性を持った物体であると仮定した。
具体的には、ベルトゴムの様々な映像から運転支障の有る損傷及び0から9までの各々の数字が、それぞれの属性を持った物体として捉え、これらを映像から見出すものとした。見出すべき物体個数は11個となり、これら以外の属性は運転支障の無い属性物体とみなす検出用AIとした。
【0017】
(属性別のAI学習モデルデータの整理)
トンネル掘削工事で稼働中の連続ベルトコンベアのゴムベルト(全長3km)を撮影した映像を基にして、AI学習用モデルデータを次のように整理した。
(1)運転支障の無いゴムベルトモデル(学習モデル数:60,000、テストモデル数:10,000)
泥、水、ゴムの凹凸、擦れ、照明反射など、損傷を除くすべての映像にMNISTデータベースの手書き数字画像をオーバーレイにより表示させた(
図2(1))。データオーギュメンテーションにより水増しをした。
(2)損傷ゴムベルトモデル(学習モデル数:8,188、テストモデル数:1,174)
実際の映像からベルト損傷を特定した映像にMNISTデータベースの手書き数字画像をオーバーレイにより表示させた(
図2(2))。データオーギュメンテーションにより水増しをした。
【0018】
全長3kmにも及ぶ連続ベルトコンベアにおけるゴムベルトの損傷の判別においては、上述のとおり、損傷の程度のみならず、損傷のベルト上の位置を正しく判別することが必要である。そのため、ベルトの画像上に基準マークの数字の画像、それもMNISTデータベースの手書き数字画像を表示させディープラーニングを行ったことに、本発明の大きな特徴がある。
【0019】
ゴムベルトへの基準マークの数字は、型どおりの数字を印字したものである場合が多いが、ゴムベルトは野外の現場では風雨、風雪に晒され、岩ズリ等による擦り傷等が発生し、必ずしも、型どおりの数字が視認できるわけではない。また、ベルト補修時や、現場によっては、手書きで数字を追記していくことも想定される。そのため、MNISTデータベースの手書き数字画像をディープラーニングに用いることは非常に有用である。
【0020】
(AIディープラーニングとその評価及びその活用)
クラウドサーバーと接続するデータベースDに格納した運転支障の無いゴムベルトモデルの60,000のデータと損傷ゴムベルトモデルの8,188データをクラウドサーバーの情報処理装置Jによって各々繰り返し学習を行い(
図1参照)、各サイクルごとに、運転支障がないモデルのテストデータ10,000データ、及び、損傷モデルのテストデータ1,174データにより学習成果を確認した。
4万回の繰り返し学習における平均再現率(mAP)は、約99.2%であった(
図3)。
ディープラーニング後のAIは、様々な属性を有するゴムベルト表面から、運転に支障の有る「損傷」と、その損傷の位置を特定するために必要なベルトの「距離情報」を判別する。
損傷の大きさはピクセルにより算定する。そのため、カメラセンサーの幅及び高さ、光学レンズの倍率、そして、ベルトコンベアからカメラまでの距離が重要な要素となる。また、損傷位置は、一番近い距離表示からの距離を、ベルトコンベアのスピード及びシャッタースピードから割り出した画像位置から算定する。
【0021】
(ゴムベルト貫通損傷)
ゴムベルトは、鋭利な岩ズリにより貫通損傷が発生する場合がある。貫通損傷は、ベルトクリーナー部分の突起に引っ掛かることで縦裂きにつながる可能性があるため、重大な損傷として区分する必要があり、このような損傷が発生した場合はベルトコンベアの運転を停止しなければならない。
貫通損傷を他の損傷と区分するために、ゴムベルトの背面に反射板を設置して撮影を行った。ベルト表面を撮影するためのLED照明の光により、貫通している損傷を区分することができた。この画像も人工知能(AI)がディープラーニングをする。
【0022】
(学習モデルの最適化)
このようにして得られた学習モデルは、クラウドサーバー上の情報処理装置Jにより、エッジAIで使用するために最適化される。また、エッジAIを実行するためのプラットフォームの好適な例として、TensorRTが挙げられる。
【0023】
(まとめ)
上述のディープラーニング方法をまとめると、
図4のように表される。
【0024】
本発明に係るズリ搬送システムの好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
ズリ搬送システムを備える掘削工事設備の全体を
図5に示す。各設備の内容を下記に示す。
ズリ積込機101は、トンネル切羽で掘削したズリを運搬して破砕機102に投入を行う建設機械であり、ペイローダーの使用が一般的である。
破砕機102は、切羽での発破作業後のズリに大きな岩塊が含まれることから、ズリの最大粒形を20cm程度以下にしてベルトコンベア運搬できるように破砕するための設備である。
テール台車103は、破砕機102で破砕したズリをベルトコンベアに乗せ替えることと、ベルトの張力を保つことに加えて、ベルトコンベア延伸時に切羽側への自走が可能な設備である。
中間ブースター104は、ベルトコンベア設備の全長が3kmを超える場合に、ベルトの張力と動力の低下を補うための設備である。
ストレージカセット105は、連続ベルトコンベアの延伸に必要なゴムベルト300~400m分を格納して張力を保つための設備である。
メインドライブ106は、坑口側の折り返し部分にあり連続ベルトコンベアの張力と動力を与えるヘッドプーリーを備える設備である。
坑外ベルトコンベア107は、切羽からメインドライブ106まで運搬されてきたズリを受け、ズリ仮置場まで連続的にズリを運搬する設備である。
ズリ搬送システムが備える後述する破砕機ベルトコンベアは、上記の破砕機102で粉砕されたズリをテール台車103に載せるためにズリを上方に搬送するベルトコンベアであり、破砕機102に備えられている。また、後述する連続ベルトコンベアは、その先頭がテール台車103に設けられており、破砕機ベルトコンベアから受けたズリをメインドライブ106まで搬送する。
【0025】
図6にズリ搬送システム1の構成を示す。
ズリ搬送システム1は、掘削されたズリを搬送する破砕機ベルトコンベア2と、破砕機ベルトコンベア2と次の連続ベルトコンベア4とを繋ぐホッパー3と、ホッパー3から供給されるズリを受けて搬送する連続ベルトコンベア4と、ホッパー3から連続ベルトコンベア4へのズリの乗継状況及び連続ベルトコンベア4の表面の損傷状況を撮像するカメラを備えた撮像部5と、破砕機ベルトコンベア2と連続ベルトコンベア4の稼働、停止を制御する制御部6とを備える。
撮像部5は、ホッパー3から連続ベルトコンベア4へのズリの乗継状況と、連続ベルトコンベア4の表面の損傷状況を個別に連続して撮像している。
ズリ搬送システム1は、ズリ搬送システム1が有する破砕機ベルトコンベア2及び連続ベルトコンベア4等の装置の稼働、停止を制御する機械制御盤7を備えている。制御部6は機械制御盤7を介して破砕機ベルトコンベア2及び連続ベルトコンベア4の稼働と停止を制御する。
制御部6は、記憶部61と、人工知能(AI)を有する判断部62とを備える。
ズリ搬送システム1は、この構成によってホッパー3から連続ベルトコンベア4へのズリの乗継状況を管理する乗継管理と、連続ベルトコンベア4の表面の損傷状況を管理するベルト損傷管理とを行う。
連続ベルトコンベア4のベルト表面には、ベルトの長さ方向の基準位置からの距離を示す基準マークが1箇所以上に付されている(
図7(1)参照)。
図7(1)では、左側にkm表示数値を示す○が示され、右側に10m表示数値を表す△◇が示されている。例えば、左側に「1」、右側に「23」が付されていると、基準位置から1.23kmであることを意味している。なお、基準位置には「0.00」と付されている。この基準マークは、ベルトの継ぎ足しを行った場合に、その継ぎ足し部分に追加して付される。
撮像部5のカメラのシャッタースピードは、連続ベルトコンベア4の表面を全長に亘って撮像できる速度になっている。そのことにより、損傷があった場合、損傷が写っている撮像画像と基準マークの撮像画像との間の撮像枚数、シャッタースピード、及び連続ベルトコンベア4の移動速度から、基準位置から損傷までの距離を算出することができる。
例えば、連続ベルトコンベア4の移動速度が180m/分、シャッタースピードが0.4秒/枚、損傷が写っている撮像画像と基準マークの撮像画像との間の撮像枚数が100枚、基準マークの距離表示が1.23km、であるとすると、基準位置から損傷までの距離は
180m/分×0.4秒/枚×100枚+1.23km=1.35km
となる。
このようにして、損傷の位置を明確に把握することができる。
【0026】
(ゴムベルト損傷管理)
判断部62は、連続ベルトコンベア4のベルトの貫通孔の有無、及びベルト表面の傷の大きさによって破砕機ベルトコンベア2及び連続ベルトコンベア4の稼働、停止を制御する。ベルトの表面は汚れや傷が多いので損傷の有無の判別の精度が問題となるところ、判断部62は人工知能であるエッジAIを有し、エッジAIが撮像画像を解析して貫通孔の有無やベルト表面の傷の大きさを高い精度で判別する。ベルトの貫通孔、及びベルト表面の損傷に関する多数の撮像画像を記憶部61に記憶させ、撮像画像から貫通孔の有無、及びベルト表面の傷の大きさを判別できるように、エッジAIを有する判断部62にディープラーニングを行う。
この場合、ディープラーニングに用いる撮像画像に撮られている貫通孔や傷の種類が多い方が良いが、貫通孔や大きい傷は、実際には得にくい。そこで、撮像画像を加工してディープラーニングに用いる。例えば、撮像画像を印画し、貫通孔や傷の部分の画像を切り取って、画像の回転、縮小、拡大、ノイズの付加等を行って様々な画像を作り出して撮像する。
このようにディープラーニングを行うことによって、予め定めた判別基準(
図7(2))に基づいて判断部62が撮像画像から機械全停止を判別することができる。
また、ベルト表面の撮像画像で、傷なしの例を
図8(1)に小さい損傷の例を
図8(2)に示す。
ベルトコンベアのベルトは上側ゴム層と下側のゴム層とゴム層の間の帆布からなっており、ゴムは帆布に比べて穴が開きやすい。そして、ゴムと帆布の両方に貫通孔が開いた場合と帆布が無事でも上側のゴムに所定の大きさ以上の傷が発生した場合には、エッジAIは損傷が「重大」であると判別し、破砕機ベルトコンベア2及び連続ベルトコンベア4を緊急停止(以下、機械全停止ともいう)し、作業員は切り詰め補修またはパッチ補修を行う。また、「重大」ではないが、所定の大きさの傷が発生した場合には、エッジAIは損傷が「中」であると判断し、作業員は運転休止時にパッチ補修を行う。
【0027】
ベルト損傷管理の手順のステップ1(S1と略す。以下同様。)からS8を
図9に示す。
S1:ベルトの貫通孔、及びベルト表面の損傷に関する多数の撮像画像を記憶部61に記憶させる。
S2:撮像画像から貫通孔の有無、及びベルト表面の傷の大きさを判別できるように人工知能(エッジAI)を有する判断部62に上述したディープラーニングを行う。
S3:撮像部5のカメラが連続ベルトコンベア4の表面を撮像し、撮像画像を判断部62に送る。撮像する箇所としては、連続ベルトコンベア4の下側面が好ましいが、特に制限はない。
S4:判断部62は撮像画像から損傷の判別をする。
S5:損傷が「重大」であれば機械制御盤7を介して機械全停止を行い、撮像画像と位置データを記憶部61に記憶し、報知のブザーを鳴らす。
S6:損傷が「中」であれば機械全停止を行わず、撮像画像と位置データを記憶部61に記憶し、報知のブザーを鳴らす。
S7:「汚れ」であれば、撮像画像と位置データを記憶部61に記憶し、報知のブザーを鳴らす。
S8:「少」、「なし」であれば何も行わず、運転を続行する。
損傷が「重大」の場合は、発見後に直ぐに機械全停止させて修復する。損傷が「中」、「汚れ」の場合には、直ぐに機械全停止させずに稼働終了後に修復する。
判断部62による判別は、撮像部5が連続して撮像した全撮像画像で行う。
損傷判別が「少」、「なし」であっても、撮像画像が従来の画像と異なる状況を映している場合にも、撮像画像を記憶するようにしてもよい。
【0028】
ズリ搬送システム1の稼働によって、新たな撮像画像が増えると、ディープラーニングを再実施する(再学習)。ディープラーニングの再実施は、例えば、定期的に行ってもよいし、撮像画像が所定枚数増えたときに行ってもよいし、従来と異なる撮像画像が撮れたとき行なってもよい。このディープラーニングの再実施は、
図1に示す如く、データベースDに新たな撮像画像を保存し、情報処理装置Jによって、クラウドサーバー上で行われる。
【0029】
(乗継管理)
破砕機ベルトコンベア2から連続ベルトコンベア4へのズリの乗継においては、ズリ詰まりと縦裂きの問題がある。
ズリ詰まりとは、大きいズリ(岩ズリ)等がホッパー3に詰まってしまい、ズリがホッパー3から溢れて周囲に散乱することである。
縦裂きとは、岩ズリ等が連続ベルトコンベア4のベルトに接触し、ベルトを縦に裂くことである。
【0030】
(ズリ詰まり)
ホッパー3でのズリ詰まりの有無によって機械全停止を判定する。乗継の写真を
図10に示す。
ホッパー3から連続ベルトコンベア4へのズリの乗継状況の連続した画像で、その画像において、もしズリが詰まり岩ズリの動きが止まった状態になった場合、前の画像と同じ場所に岩ズリが撮影されているはずなので、判断部62は前の画像と現在の画像の引き算を行い、変化のないところを見つけることでズリの詰まりを判定する。
ズリ詰まりが発生していると判定すると、機械制御盤7を介して機械全停止を行い、撮像画像を記憶部61に記憶し、報知のブザーを鳴らす。
【0031】
(縦裂き)
連続ベルトコンベア4のベルトの縦裂きに関する有無によって機械全停止を判定する。
このために、ベルトの縦裂きの多数の撮像画像を記憶部61に記憶させ、撮像画像から縦裂きの大きさを判定できるよう判断部62のエッジAIにディープラーニングを行う。
この場合、ディープラーニングに用いる撮像画像に撮られている縦裂きの種類が少ない場合には、撮像画像を加工してディープラーニングに用いる。例えば、縦裂きの撮像画像を印画し、縦裂きの部分の画像を切り取って、画像の回転、縮小、拡大、ノイズの付加等を行って様々な画像を作り出して撮像する。
このようにディープラーニングを行うことによって、判断部62が予め定めた停止基準に基づいて撮像画像から機械全停止を判定する。判別基準は
図7(2)のとおりである。
【0032】
ズリ搬送システム1の運転中の管理を次のように行う(
図11参照)。
S11:ベルトの縦裂きに関する多数の撮像画像を記憶部61に記憶させる。
S12:撮像画像からベルトの縦裂きを判定できるようにAIを有する判断部62にディープラーニングを行う。
S13:撮像部5のカメラがホッパー3から連続ベルトコンベア4へのズリの乗継状況を撮像し、判断部62に送る。
S14:判断部62は撮像画像から縦裂きを判定する。
S15:縦裂きであれば機械制御盤7を介して機械全停止を行い、撮像画像を記憶部61に記憶し、報知のブザーを鳴らす。
縦裂きの発見後は、直ぐに機械全停止させて修復する。
判断部62による判定は、撮像部5が連続して撮像した全撮像画像で行う。
【0033】
本発明に係るズリ搬送システム及びズリ搬送システムの稼働管理方法は、前述の実施形態に限定されるものでなく、例えば下記のようなものも本発明に含まれる。
(1)乗継管理は、破砕機ベルトコンベア2から連続ベルトコンベア4への乗継だけでなく、他のベルトコンベア間での乗継に行ってもよい。
(2)連続ベルトコンベア4の損傷位置を同定、記憶するために、ベルトに位置センサーを取り付けて行ってもよい。
(3)ベルト損傷管理において、判断部62による判定を、撮像部5が連続して撮像した全撮像画像で行なわずに、何らかの基準を設けて、その基準に対応する撮像画像のみに行うようにしてもよい。
(4)乗継管理での縦裂きの判断部62による判定を、撮像部5が連続して撮像した全撮像画像で行なわずに、何らかの基準を設けて、その基準に対応する撮像画像のみに行うようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、トンネルや地下掘削等の掘削作業に用いることができ、ズリ搬出におけるベルトコンベアのトラブルの発生を未然に防ぐことができる。これにより、作業が安全になり、作業効率も大きく向上する。
【符号の説明】
【0035】
1 ズリ搬送システム
2 破砕機ベルトコンベア
3 ホッパー
4 連続ベルトコンベア
5 撮像部
6 制御部
61 記憶部
62 判断部
7 機械制御盤
D データベース
J 情報処理装置