(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065854
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】触覚センサ
(51)【国際特許分類】
G01L 5/1623 20200101AFI20240508BHJP
【FI】
G01L5/1623
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174923
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大原 隆憲
(72)【発明者】
【氏名】笹川 和彦
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 和弘
【テーマコード(参考)】
2F051
【Fターム(参考)】
2F051AB07
2F051BA07
2F051DA03
(57)【要約】
【課題】破損の恐れの少ない触覚センサを提供する。
【解決手段】第1基材側から順に、第1電極と、導電性を有する第1樹脂層とが積層された第1積層体と、第1基材の一方面に、第1積層体を取り囲み、かつ、第1積層体と離間して設けられる第1絶縁層と、第1基材の一方面と対向する第2基材と、第2基材の第1基材と対向する面の第1積層体と対向する位置に設けられ、第2基材側から順に、第2電極と、導電性を有する第2樹脂層とが積層された第2積層体と、第2基材の第1基材と対向する面に、第2積層体を取り囲み、かつ、第2積層体と離間して設けられる第2絶縁層と、を備え、第1絶縁層は、第1積層体を取り囲む内側絶縁層、及び、内側絶縁層を取り囲み、内側絶縁層から所定距離離間して設けられる外側絶縁層とを含み、第2絶縁層は、内側絶縁層と外側絶縁層との間に位置する、触覚センサ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基材と、
前記第1基材の一方面に設けられ、前記第1基材側から順に、第1電極と、導電性を有する第1樹脂層とが積層された第1積層体と、
前記第1基材の前記一方面に、前記第1積層体を取り囲み、かつ、前記第1積層体と離間して設けられる第1絶縁層と、
前記第1基材の前記一方面と対向する第2基材と、
前記第2基材の前記第1基材と対向する面の前記第1積層体と対向する位置に設けられ、前記第2基材側から順に、第2電極と、導電性を有する第2樹脂層とが積層された第2積層体と、
前記第2基材の前記第1基材と対向する面に、前記第2積層体を取り囲み、かつ、前記第2積層体と離間して設けられる第2絶縁層と、を備え、
前記第1樹脂層及び前記第2樹脂層の重なり面積に応じた前記第1電極及び前記第2電極間の電気抵抗値の変化に基づいて、加えられたずり力の検出が可能であり、
前記第1絶縁層は、前記第1積層体を取り囲む内側絶縁層、及び、前記内側絶縁層を取り囲み、前記内側絶縁層から所定距離離間して設けられる外側絶縁層とを含み、
前記第2絶縁層は、前記内側絶縁層と前記外側絶縁層との間に位置する、触覚センサ。
【請求項2】
前記第1積層体及び前記第2積層体を用いて、第1方向に加えられたずり力の検出が可能であり、
前記第1電極及び前記第2電極は、前記第1方向と直交する第2方向に延びる一対の小電極と、前記一対の小電極を電気的に接続する接続部とを有する、請求項1に記載の触覚センサ。
【請求項3】
2つの前記第1積層体と、2つの前記第2積層体とを備え、
前記第1積層体の一方及びこれに対向する前記第2積層体の一方を用いて前記第1方向のずり力の検出が可能であり、前記第1積層体の他方及びこれに対向する前記第2積層体の他方を用いて前記第1方向と直交する第2方向のずり力の検出が可能である、請求項1に記載の触覚センサ。
【請求項4】
前記第1積層体の前記一方の前記第1電極及び前記第2積層体の前記一方の前記第2電極は、前記第2方向に延びる一対の小電極と、前記一対の小電極を電気的に接続する接続部とを有し、
前記第1積層体の前記他方の前記第1電極及び前記第2積層体の前記他方の前記第2電極は、前記第1方向に延びる一対の小電極と、前記一対の小電極を電気的に接続する接続部とを有する、請求項3に記載の触覚センサ。
【請求項5】
前記第1樹脂層及び前記第2樹脂層の縦弾性係数が1000MPa~5000MPaである、請求項1に記載の触覚センサ。
【請求項6】
前記第1絶縁層及び前記第2絶縁層の縦弾性係数が1000MPa~5000MPaである、請求項1に記載の触覚センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ずり力を検知する触覚センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧力やせん断応力を検出する感圧センサとして、対向させた2つの電極の間に導電体層や樹脂層を挟み込んだ構造を有するものが知られている。この感圧センサは、外力によって導電体層や樹脂層が変形することによって電極間の物理量を変化させ、電極間の物理量変化に基づいて圧力やずり力(せん断応力)を検出することができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、対向する2枚の基板間に、一対の導電体層と、導電体層のそれぞれを覆う一対の抵抗体層とを設け、力の入力で導電層が変形することにより電極間抵抗値が変化することを利用した抵抗式感圧センサが記載されている。
れている。
【0004】
また、特許文献2には、2枚の矩形の電極の間に、導電性及び可撓性を有する磁性ゴム体を取り付け、磁性ゴム体の変形に応じて変化する電極間の電流量変化に基づいて、接触面に平行な方向(ずり方向)に加えられたずり力を検出する触覚センサが記載されている。
【0005】
抵抗値変化を検出する場合、対向した2つの電極間に導電性を持つゴムを挟む、または導電層に直接電極を印刷する、あるいは、電極に導電層を印刷したものを二つ作りそれらの導電層同士を重ね合せることで、検知層を構成する。
【0006】
しかし、電極間に導電性ゴムを挟む方式は導電性ゴムと電極の接触状態がセンサ検出時のノイズとなりうる。また、導電層に直接電極を印刷する方式は、原理上導電層が変形することで信号検出を行うが、センサの小型化を目的として導電層を薄くした場合、加えられた外力に対して十分な変形ができず、検出精度が劣る。
【0007】
そのため、電極に導電層を印刷したものを二つ作りそれらの導電層同士を重ね合せる方法が着目されている。この構成の場合、製造が簡単であり、さらに、外力により対向する電極の距離が変化することで抵抗値が変化するため検出がしやすいという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3664622号公報
【特許文献2】特開2013-232293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような触覚センサは、ずり力の入力前後において、上下で対向する電極同士が相対的に移動することでずり力を測定できる。しかし、加えられるずり力が大きくなると上下の電極の重複部分がなくなり、抵抗値の変化を検出することができない。また、大きなずり力が加えられた場合、センサが破損し、上下の電極が初期位置(ずり力が入力されていない状態における理想的な位置)に戻らない恐れがあった。
【0010】
それ故に、本願発明は、破損の恐れの少ない触覚センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1基材と、第1基材の一方面に設けられ、第1基材側から順に、第1電極と、導電性を有する第1樹脂層とが積層された第1積層体と、第1基材の一方面に、第1積層体を取り囲み、かつ、第1積層体と離間して設けられる第1絶縁層と、第1基材の一方面と対向する第2基材と、第2基材の第1基材と対向する面の第1積層体と対向する位置に設けられ、第2基材側から順に、第2電極と、導電性を有する第2樹脂層とが積層された第2積層体と、第2基材の第1基材と対向する面に、第2積層体を取り囲み、かつ、第2積層体と離間して設けられる第2絶縁層と、を備え、第1樹脂層及び第2樹脂層の重なり面積に応じた第1電極及び第2電極間の電気抵抗値の変化に基づいて、加えられたずり力の検出が可能であり、第1絶縁層は、第1積層体を取り囲む内側絶縁層、及び、内側絶縁層を取り囲み、内側絶縁層から所定距離離間して設けられる外側絶縁層とを含み、第2絶縁層は、内側絶縁層と外側絶縁層との間に位置する、触覚センサ。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、再現性に優れ、破損の恐れの少ない触覚センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る触覚センサの概略構成を示す模式図。
【
図2】第1基材上における積層体の配置例を示す模式図。
【
図3】第2基材上における積層体の配置例を示す模式図。
【
図5】本発明の実施形態に係る触覚センサの概略構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。電極の形状や数は一例であり、本説明の具体例に限定されるものではない。また、説明の簡単化のため、実寸法と異なる比で図を描いているが、本発明に係る技術の主旨を損なうものではない。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る触覚センサの概略構成を示す模式図であり、より詳細には、
図1(a)は、触覚センサの平面図であり、
図1(b)は、
図1(a)に示すA-A’線に沿う断面図である。
図1(a)は便宜上、第2基板2及び樹脂層が透過した状態で記載している。また、
図2は、第1基材上における積層体の配置例を示す模式図であり、より詳細には、
図2(a)は、平面図であり、
図2(b)は、
図2(a)に示すB-B’線に沿う断面図である。
図3は、第2基材上における積層体の配置例を示す模式図であり、より詳細には、
図3(a)は、平面図であり、
図3(b)は、
図3(a)に示すC-C’線に沿う断面図である。
【0016】
触覚センサ100は、第1基材1と、第1基材1に対向する第2基材2と、第1基材1及び第2基材2の間に設けられる第1積層体11及び第2積層体12と、第1絶縁層15と、第2絶縁層16とを備える。触覚センサ100は基材に加えられたずり力を検出可能なセンサである。ずりとは基材の面方向の力成分を示す。
【0017】
(基材)
第1基材1及び第2基材2は、可撓性を有していればよく、例えば、PET、PEN、ポリイミドなどのプラスチックフィルムや、紙など、印刷用のインキ、フォトリソグラフィーで形成する電極の条件やセンサとしての用途に合わせて適宜選択できる。また、第1基材1と第2基材2とで種類や厚みが異なるものを用いてもよい。
【0018】
(積層体)
第1積層体11は、第1基材1の一方面(第2基材2と対向する面)上に設けられており、第1基材1側から順に第1電極11aと、第1電極11a上に積層された第1樹脂層11bとを有する。第2積層体12は、第2基材2の一方面(第1基材1と対向する面)上に設けられており、第2基材2側から順に第2電極12aと、第2電極上に積層された第2樹脂層12bとを有する。第1積層体11及び第2積層体12は、第1基材1及び第2基材2の間においてそれぞれが互いに対向している。
【0019】
第1積層体11及び第2積層体12は、それぞれ1つ以上設けられていればよいが、
図1に示すように2つ設けてもよい。2つの場合は、二軸方向のずり力を検出可能となる。具体的には、第1積層体11の一方(第1積層体11X)及びこれに対向する第2積層体の一方(第2積層体12X)を用いて第1方向(
図1におけるX軸方向)のずり力の検出が可能であり、第1積層体の他方(第1積層体11Y)及びこれに対向する第2積層体の他方(第2積層体12Y)を用いて第1方向と直交する第2方向(
図1におけるY軸方向)のずり力の検出が可能となる。検出するずりの方向が1方向に決まっている場合、第1積層体11及び第2積層体12は1つでよい。また、積層体を増やすことでより精度よくずり力を測定することが可能になる。例えば、精度向上のために第1、第2方向と直交しない第3方向にさらに積層体を設けてもよい。積層体を増やすことは、測定対象のずり検出方向が完全に特定されている場合でも、測定解像度を上げたい場合などに有効である。
【0020】
(電極)
第1電極11a及び第2電極12aは、長方形の小電極を2つ並べた形状(コの字形状)を有する。具体的には、X軸方向のずり力の検出が可能な第1積層体11X及び第2積層体12Xの第1電極11aと第2電極12aは、Y軸方向に延びる一対の小電極と、当該一対の小電極を電気的に接続する接続部とを有する。また、Y軸方向のずり力の検出が可能な第1積層体11Y及び第2積層体12Yの第1電極11aと第2電極12aは、X軸方向に延びる一対の小電極と、当該一対の小電極を電気的に接続する接続部とを有する。各対の小電極は所定の間隔を空けて平行に配置されている。これにより、第1電極11a及び第2電極12aのそれぞれを1つの正方形で形成する場合に比べ、第1電極11a及び第2電極12aが上下でずれた時の面積変化が大きくなり、検出感度を向上させることができる。また、触覚センサ100を指に貼って使用することを想定した場合、各小電極が4mm×4mmを超えない大きさにすると小電極を指の腹に複数配置することができるため好ましい。なお、第1電極11a及び第2電極12a形状やその大きさは、測定対象の大きさにより自由に選択でき、例えば正方形でもよい。この場合、基材に対する第1電極11a及び第2電極12aの位置合わせが単純化できるため製造難易度を下げることができる。また、上下で対向する第1電極11aと第2電極12aは、ずり力を入力していない状態において、
図1に示すように、検出可能なずり力の方向に対して互いにずれており(一部重複しない)、ずり力が入力されると、その方向に応じて重複面積が増加または減少するように配置される。これにより、ずり力の方向を検出することができる。ずれ量は各小電極の幅の半分が望ましい。これにより、電極の重なりの増加と減少の幅が同じになり対称な測定ができる。
【0021】
第1電極11a及び第2電極12aは、数マイクロメートルから数十ナノメートルの貴金属粉末を熱硬化性樹脂に混合したペーストを用いて形成されるのが一般的であるが、カーボンやアルミ、或いは合金やこれらの混合物を用いてもよい。第1電極11a及び第2電極12aは、スクリーン印刷やグラビアオフセット印刷など公知の印刷方法を用いて形成することができる。また、めっき、スパッタリングされた膜をエッチングして形成してもかまわない。また図示しないが、第1電極11a及び第2電極12aの形成のために、基材上に位置合わせ用のマークを付してもよい。マークの形状や大きさは特に限定されない。
【0022】
第1電極11a及び第2電極12aには配線(リード)が接続されており、リードの端部から信号を取り出す(図においてリード端部は図示しない)。リードの形成される経路は、リード同士が途中で交わらない限りどのような引き回しでも許容されるが、触覚センサ100の小型化を考慮すると、基材の端部の一箇所に集約することが好ましい。
【0023】
(樹脂層)
第1樹脂層11b及び第2樹脂層12bは、検知層としての役割を果たすものであり、触覚センサ100の検出は対向電極間の抵抗値変化を検出するため導電性を持つ材料が選択される。第1樹脂層11b及び第2樹脂層12bは、第1電極11a及び第2電極12aのそれぞれを完全に覆うように、かつ、同一基板に形成された他の樹脂層と離間するように形成される。同一基板上の樹脂層同士が接触すると、ノイズが発生し、検出精度が低下するため好ましくない。第1樹脂層11b及び第2樹脂層12bは、同じ大きさで形成される。これにより、第1基材1と第2基材2とが相対的にずれた時に一方の基板上の電極が他方の基板の電極上に形成された樹脂層からはみ出してしまうのを抑制でき、信号検出が安定化する。
【0024】
第1樹脂層11b及び第2樹脂層12bには、導電性を有し、かつ、第1電極11a及び第2電極12aよりも高い抵抗率を有する材料が用いられる。抵抗率が小さすぎると、信号変化を捉えることが難しく、抵抗率が大きくなると検出信号にノイズが多くなる。抵抗率はより好ましくは5Ωcm以上500Ωcm以下であることが好ましい。具体的には、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリアニリン、ポリピロールなどの導電性高分子や、グラファイトやカーボンナノチューブを用いたカーボンペースト及びこれらにメジウムなどの調整剤を混ぜて抵抗率を調整した材料を用いることができる。
【0025】
第1樹脂層11b及び第2樹脂層12bは、スクリーン印刷などの公知の印刷方法やスプレー塗布などの公知の塗工方法を使用して形成できるが、各電極付近にのみ選択的に形成するためには、一度の印刷により形成できる印刷法を採用するのが望ましい。
【0026】
触覚センサ100は、上下で対向する第1樹脂層11bと第2樹脂層12bとが、ずり力が加えられた方向に相対的にずれることで電極間の抵抗値が変化し、当該抵抗値変化に基づいてずり力を検出する。そのため、第1樹脂層11bと第2樹脂層12bとのずれに対して、ずり力の入力によって生じる第1樹脂層11b及び第2樹脂層12bの変形が大きい場合は、変形に依存したノイズも大きくなり、検出精度も低下する。そのため、第1樹脂層11b及び第2樹脂層12bの縦弾性係数は1000MPa~5000MPaであることが好ましい。縦弾性係数が1000MPaを下回るとずりの入力により無視できないほど変形が生じる可能性がある。一方、5000MPaを超える材料では硬すぎるため基材や電極との密着が取れない可能性がある。縦弾性係数は、2000MPa~5000MPaであることがより好ましい。
【0027】
(第1絶縁層)
第1絶縁層15は、後述する第2絶縁層16と組み合わせることにより、ずり力が入力された際に、第1基板1と第2基板2との相対的なずれ量を制限するための部材である。第1基材1の一方面に設けられ、第1積層体11を取り囲み、かつ、第1積層体11と所定距離離間して設けられる内側絶縁層15aと、内側絶縁層15aを取り囲み、内側絶縁層15aから所定距離離間して設けられる外側絶縁層15bとを備える。図において、第1絶縁層15は、平面視において正方形状を有しているが円形形状などでもよく、電極の配置等に応じてずり力の入力が基材に対して均一になるような形状を適宜選択すればよい。
【0028】
第1積層体11と内側絶縁層15aとの離間距離をd1、内側絶縁層15aと外側絶縁層15bとの離間距離をd2とする(
図1(b)参照)。距離d1は、ずり力の入力時に発生する第1基材1と第2基材2との相対的なずれの量に基づいて決定される。距離d1は、第1電極11aと対向する第2電極12aの平面視における重なり幅の0.5~2倍の範囲が好ましく、さらに、1倍であることが好ましい。また、距離d2はd1の2倍が望ましい。ずり力の入力により第1電極11a及び第2電極12aに対して重なり幅が増加する方向に第1積層体11がずれると、上下電極間の抵抗値が減少するため、対向する第1積層体11と第2積層体12とが完全に重なるまでは信号が増加するが、それ以上ずれると重なりが減少するため信号が減少に転じてしまい、ずり力との対応が取れなくなる。対向する第1電極11a及び第2電極12aの重複が減少に転じない距離をd2とすることで、ずり力と信号変化を対応させることができる。
【0029】
第1絶縁層15の縦弾性係数は1000MPa以上5000MPa以下が望ましい。さらに、基材と同じ弾性係数を有し、かつ、第1樹脂層11b及び第2樹脂層12bよりも低いことが好ましい。触覚センサ100は、第1樹脂層11b及び第2樹脂層12bの界面がずれるため、ずれが発生した際に樹脂層が変形すると変形分の抵抗値変化がノイズとなり測定精度が低下する。そのため、絶縁層は第1樹脂層11b及び第2樹脂層12bよりも低い弾性率であることが好ましい。また、ずりをかけるときに基材厚み方向に押してからずりをかけるため、その際に絶縁層が基材の厚み方向に変形しないように基材と同じ弾性率であることが好ましい。また、絶縁層は基材から柱状に延び、基材でのみ固定されている状態である。そのため、ずりの際には絶縁層端部に基材と平行な力がかかる。このとき絶縁層の弾性係数が高すぎると、ずり力印加の際に絶縁層が変形できず力を逃がせないため固定部分である基材との界面に大きな負荷がかかり基材表面からはがれてしまう恐れがある。例えば、ポリイミドを基材とする場合では、基材を3000MPa程度、絶縁層を3000MPa程度、樹脂層を4000MPa程度とするのがよい。
【0030】
第2絶縁層16は、第2基材2の一方面に設けられ、第1絶縁層15と同一の材料及び形成方法を用いて形成される。第2絶縁層16は、内側絶縁層15a及び外側絶縁層15bと同一形状に形成され、内側絶縁層15aと外側絶縁層15bとの間であって、距離d2を二等分する位置に設けられる。ただし、第2絶縁層16と内側絶縁層15a及び外側絶縁層15bとの位置関係はこれに限定されるものではなく、例えば、部分的に内側絶縁層15aと接するように第2絶縁層16を形成することで、接触している方向へのずれを抑制できるため誤検出を防ぐことができる。これは、重たいものを持ち上げるときのずり力の解析など、ずれる方向が一方向に決まっている場合などに有効である。
【0031】
第2絶縁層16の幅及び高さ(厚み)は使用する材料の縦弾性係数によって適宜変更される。一例として、第2絶縁層16の幅は、ずり量の0.15倍以上0.5倍未満、好ましくは0.15倍以上0.2倍以下とすることができる。幅をずり量に対して0.15倍未満にしてしまうと形成が困難となり、0.5倍以上にしてしまうと、ずらせる量が少なくなってしまう。また、第2絶縁層16の高さは幅の0.05倍~0.1倍とすることができる。高さを幅の0.1倍を超える設計にしてしまうと、ダレなどが起こり形成が難しくなる。例として、ずり力2Nを入力した場合に0.5mmのずり量が発生する設定の触覚センサにおいては、高さ0.01mm、幅0.2mmで形成するとよい。
【0032】
第1絶縁層15及び第2絶縁層16の厚みは特に制限がないが第1樹脂層11b及び第2樹脂層12bよりも厚いことが望ましい。各樹脂層より厚く形成することで、第1積層体11、第2積層体12を対向させたときに、第1絶縁層15及び第2絶縁層16が支点となって、第2基材2が垂れることにより第1樹脂層11b及び第2樹脂層12bが接触した状態となる。この状態であれば第1樹脂層11b及び第2樹脂層12bに余計な応力が作用せず、ずりによって第1樹脂層11bと第2樹脂層12bとをずらすことが可能となる。垂れ量は第1絶縁層15および第2絶縁層16を支点とした梁のたわみとして近似でき、基材の厚みや硬さ、支点の距離で変わる。たわみ量Dは、固定端の距離L、荷重W(この場合基材の重さ)、断面二次モーメントI、縦弾性係数Eとして
D=WL^3/48EI
と表すことができる。たわみ量Dが第1絶縁層15及び第2絶縁層16の厚みを超える場合、上下基材は接触していることを意味する。
【0033】
第1絶縁層15及び第2絶縁層16には、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂などの絶縁性が高く硬い熱硬化性樹脂などの材料を用いることができる。
【0034】
触覚センサ100は、
図1に示す第1基材1と第2基材同士を貼り合わせた状態において、さらに貼り合わせた基材がばらばらにならないよう、全体をテープなどで封止してもよい。
【0035】
図4は、ずり力測定時における触覚センサの積層体近傍の断面図である。より具体的には、
図4(a)はずり力が入力されていない状態の触覚センサ100の状態を示し、
図4(b)はずり力が入力された状態の触覚センサ100の状態を示している。
【0036】
図4(a)の状態において、平面視において第1電極11aと第2電極12aとは一部のみ重複するようにずらして設置されている。そして、
図4(a)の状態から、紙面右方向にずり力を入力すると、第1電極11aと第2電極12aとの重複領域が増加し、電極間の電気抵抗値が減少する一方、紙面左方向にずり力を入力すると、第1電極11aと第2電極12aとの重複領域が減少し、電極間の電気抵抗値が増加する。そのため、この抵抗値の変化に基づいてずり力の向きと大きさを検出することができる。なお、ずり力の向きを検出する必要がない場合は、第1電極11aと第2電極12aの初期位置を、第1電極11aと第2電極12aとが完全に重複している状態としてもよい。
【0037】
なお、触覚センサ100には、第1絶縁層15及び第2絶縁層16の外側に、両面テープや接着層などで構成される固定層17を更に設けてもよい(
図5)。固定層17が設けられることで、第1基材1と第2基材2との位置関係を固定することができ、ずり力による第1樹脂層11bと第2樹脂層12bとのずれが、基材全体の移動ではなく、基材のひずみに起因したものとなる。この場合、ずり力がなくなると生じているひずみが元に戻るため、固定層17がない場合に比べて信号検出の再現性が向上する。
【0038】
固定層17を設ける場合、固定層17は第1絶縁層15及び第2絶縁層16以上の厚みとなる。これは固定層17により基材に余計な応力が生じないようにするためである。固定層17の厚みは、第1絶縁層15及び第2絶縁層16の厚みに対して1.0倍~10倍であることが好ましい。第1絶縁層15及び第2絶縁層16より薄くした場合、基材に応力が生じ、ずれを阻害する。また、10倍より厚くした場合、第1積層体11と第2積層体12よりはるかに厚くなるため、使用する際に第1樹脂層11b及び第2樹脂層12bに掛けるべき力を固定層17が受け止めてしまい、第1樹脂層11b及び第2樹脂層12bに十分な力がかからず検出不良が起こる。また、第2絶縁層16から固定層17までの距離が、距離d1の2倍となることが好ましい。固定層17と第2絶縁層16との距離が距離d1の2倍未満の場合、固定層17によって基材に応力が生じてしまう。また2倍を超える場合、触覚センサ100において検知に関わらない部分が増え、センサが大きくなってしまう。
【0039】
以上説明したように、本実施形態に係る触覚センサ100は、第1絶縁層15と第2絶縁層とを備える。これにより、ずりによって対向する第1積層体11及び第2積層体12がずれた時に、第1絶縁層15と第2絶縁層とがぶつかることでずれ量を拘束することができ、ずらした時のセンサの破損を抑止できる。
【0040】
また、固定層17を設けることで、ずり力が加えられた後でも上下の電極が初期位置に戻りやすくなり、測定の再現性を向上させることができる。
【実施例0041】
(実施例1)
第1基材1として125μmのポリイミドフィルム(東レ:カプトン500V)を使用し、銀ペーストを用いて、
図2に示す第1電極11aを7mm×7mmの範囲内に印刷法で作製した。このとき、第1電極11aはそれぞれコの字形状で作製し、長方形の小電極寸法は幅それぞれ0.5mm、長さ3.2mmとし、小電極間の距離を2.5mmとした。また第1電極11aと同時にリードも幅0.03mmで、互いに交わることが無いように配置した。
【0042】
次に、第1電極11aの各小電極の上に、十条ケミカル製のカーボンインキJELCON CH-Nを印刷して第1樹脂層11bを形成し、第1積層体11を作製した。CH-Nの膜厚は平均6μmであった。
【0043】
第1電極11aを含む7mm×7mmの範囲から各辺250μm隔てたところに外側絶縁層15bが形成されるように、アサヒ化学研究所の絶縁性樹脂FR-1T-NSD9をスクリーン印刷により正方形状に形成して第1絶縁層15を作製した。この時、幅は150μmであり、内側絶縁層15aと外側絶縁層15bとの距離は500μmであった。また、膜厚は15μmであった
【0044】
第2基材2として125μmのポリイミドフィルム(東レ:カプトン500V)を使用し、銀ペーストを用いて、
図3に示す第2電極12aおよびリードを印刷法で作製した。
【0045】
次に、第2電極12aの各小電極の上に、十条ケミカル性のカーボンインキJELCON CH-Nを印刷して第2樹脂層12bを形成し、第2積層体12を作製した。CH-Nの膜厚は平均6μmであった。
【0046】
第1基材1と第2基材2とを貼り合わせたときに、内側絶縁層15aと外側絶縁層15bとの間に位置するように、アサヒ化学研究所の絶縁性樹脂FR-1T-NSD9をスクリーン印刷により正方形状に形成して第2絶縁層16を作製した。この時、印刷線幅は150μmであり、膜厚は15μmであった。
【0047】
第1積層体11及び第2積層体12を対向させて第1基材1と第2基材2との間に厚み50μmの両面テープを配置して基材を固定することで、実施例1に係る触覚センサ100を得た(
図5)。このとき、第1電極11aの小電極と第2電極12aの小電極とは、平面視における重なり幅が250μmであった。固定位置は触覚センサ100を構成する基材の一番外側とした。
【0048】
このセンサに指でずり力をかけたところ、ずりの方向に基材がずれ、対応する電極の抵抗値変化が確認された。ずりをかけ続けると、基材のずれが止まったところで抵抗値変化も止まった。
【0049】
(比較例1)
第1基材1として125μmのポリイミドフィルム(東レ:カプトン500V)を使用し、銀ペーストを用いて、
図2に示す第1電極11aを7mm×7mmの範囲内に印刷法で作製した。このとき、第1電極11aはそれぞれコの字形状で作製し、長方形の小電極寸法は幅それぞれ0.5mm、長さ3.2mmとし、小電極間の距離を2.5mmとした。また第1電極11aと同時にリードも幅0.03mmで、互いに交わることが無いように配置した。
【0050】
次に、第1電極11aの各小電極の上に、十条ケミカル製のカーボンインキJELCON CH-Nを印刷して第1樹脂層11bを形成し、第1積層体11を作製した。CH-Nの膜厚は平均6μmであった。
【0051】
第2基材2として125μmのポリイミドフィルム(東レ:カプトン500V)を使用し、銀ペーストを用いて、
図3に示す第2電極12aおよびリードを印刷法で作製した。
【0052】
次に、第2電極12aの各小電極の上に、十条ケミカル性のカーボンインキJELCON CH-Nを印刷して第2樹脂層12bを形成し、第2積層体12を作製した。CH-Nの膜厚は平均6μmであった。
【0053】
第1積層体11及び第2積層体12を対向させて第1基材1と第2基材2との間に厚み10μmの両面テープを配置して基材を固定することで、比較例1に係る触覚センサを得た。固定位置は触覚センサ100を構成する基材の一番外側とした。
【0054】
このセンサに指でずり力をかけたところ、ずりの方向に基材がずれ、対応する電極の抵抗値変化が確認された。しかしずりをかけ続けると基材がずれているにもかかわらず抵抗値変化取れなくなった。確認すると、上下の検出層が完全にずれていた。