IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

特開2024-65863コイル、電子部品、巻線治具および電子部品の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065863
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】コイル、電子部品、巻線治具および電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 5/00 20060101AFI20240508BHJP
   H01F 17/02 20060101ALI20240508BHJP
   H01F 41/04 20060101ALI20240508BHJP
   H01F 41/064 20160101ALI20240508BHJP
   H01F 27/28 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
H01F5/00 H
H01F17/02
H01F41/04 F
H01F41/064
H01F41/04 B
H01F27/28 123
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174933
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】嶋▲崎▼ 真佳
(72)【発明者】
【氏名】大畑 修
(72)【発明者】
【氏名】風間 拓人
(72)【発明者】
【氏名】小池 信太朗
(72)【発明者】
【氏名】占部 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 真史
【テーマコード(参考)】
5E002
5E043
5E062
5E070
【Fターム(参考)】
5E002AA01
5E043AA02
5E043AB01
5E062FF01
5E070AA01
5E070AB01
5E070BA01
5E070CA16
(57)【要約】
【課題】高特性のコイルを提供する。
【解決手段】ワイヤ15が巻回されて形成される巻線部11を有するコイルであって、前記巻線部11の巻回軸に垂直な断面の内周形状が、少なくとも3つの第1の円弧A11~A14と、隣接する前記第1の円弧を接続する複数の接続線A21,A22,A31,A32とからなる外周形状を有し、少なくとも3つの前記第1の円弧A11~A14は、それぞれ、前記ワイヤ15が屈曲可能な所定の半径および所定の中心角を持つ円弧である。
【選択図】図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤが巻回されて形成される巻線部を有するコイルであって、
前記巻線部の巻回軸に垂直な断面の内周形状が、少なくとも3つの第1の円弧と、隣接する前記第1の円弧を接続する複数の接続線とからなる形状を有し、
少なくとも3つの前記第1の円弧は、それぞれ、前記ワイヤが屈曲可能な所定の半径および所定の中心角を持つ円弧である、コイル。
【請求項2】
複数の前記接続線は、それぞれ、1つ以上の直線、1つ以上の曲線、または、1つ以上の前記直線および1つ以上の前記曲線との組み合わせのいずれかにより構成されており、前記曲線は、その曲線で隣り合う前記第1の円弧のいずれの半径よりも大きい曲率半径を有する、請求項1に記載のコイル。
【請求項3】
少なくとも3つの前記第1の円弧は、前記接続線と正接に接続されている、請求項1に記載のコイル。
【請求項4】
複数の前記接続線は、
直交する2つの軸の一方に沿って対向する一対の第2の円弧と、
前記直交する2つの軸の他方に沿って対向する一対の第3の円弧と、を有し、
前記第1の円弧は、前記第2の円弧と前記第3の円弧との間にそれぞれ配置され、円弧の中点と中心点とを結ぶ方向が前記直交する2つの軸とそれぞれ45°をなし、前記第2の円弧および前記第3の円弧とそれぞれ正接に接続されている、
請求項1に記載のコイル。
【請求項5】
前記巻線部の巻回軸に垂直な前記断面の内周形状は、下の2式がともに正となる解を有する形状である、請求項4に記載のコイル。
【数7】
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のコイルを有する電子部品。
【請求項7】
ワイヤを巻回するための巻線治具であって、その断面が、
少なくとも3つの第1の円弧と、隣接する前記第1の円弧を接続する複数の接続線とからなる外周形状を有し、
少なくとも3つの前記第1の円弧は、それぞれ、前記ワイヤが密着可能な所定の半径および所定の中心角を持つ円弧である、巻線治具。
【請求項8】
複数の前記接続線は、それぞれ、1つ以上の直線、1つ以上の曲線、または、1つ以上の前記直線および1つ以上の前記曲線との組み合わせのいずれかにより構成されており、前記曲線は、その曲線で隣り合う前記第1の円弧のいずれの半径よりも大きい曲率半径を有する、請求項7に記載の巻線治具。
【請求項9】
少なくとも3つの前記第1の円弧は、前記接続線と正接に接続されている、請求項7に記載の巻線治具。
【請求項10】
前記巻線治具の前記断面は、4つの前記第1の円弧が4隅に配置された略長方形状である、請求項7に記載の巻線治具。
【請求項11】
前記第1の円弧を接続する前記接続線の少なくとも1つは、複数の前記直線の組み合わせまたは1つ以上の前記曲線が外側に張り出す形状である、請求項8に記載の巻線治具。
【請求項12】
ワイヤを巻回するための巻線治具であって、その断面が、
直交する2つの軸の一方に沿って対向する一対の第2の円弧と、
前記直交する2つの軸の他方に沿って対向する一対の第3の円弧と、
前記第2の円弧と前記第3の円弧との間にそれぞれ配置され、円弧の中点と中心点とを結ぶ方向が前記直交する2つの軸とそれぞれ45°をなし、前記第2の円弧および前記第3の円弧とそれぞれ正接に接続される4つの第1の円弧と、
からなる外周を有する形状である、巻線治具。
【請求項13】
前記巻線治具の前記断面は、下の2式がともに正となる解を有する形状である、請求項12に記載の巻線治具。
【数8】
【請求項14】
請求項9~13のいずれか1項に記載の巻線治具にワイヤを巻回する工程を有する電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、たとえばワイヤが巻回されているコイル、コイルを有する電子部品、コイルを製造するための巻線治具、および電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば特許文献1においては、ワイヤをボビンに巻回してコイルを形成した後、ボビンごとコイルを軸線方向に圧縮することにより、ワイヤが巻回されているボビンの側面を外側に湾曲させ、ワイヤをボビンの側面に沿って整列させ、形状を安定化させることが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-287822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構造は、コアあるいはボビンを具備しないいわゆる空芯コイルに適用することは困難であり、高特性の空芯コイルを得ることが困難である。本開示は、高特性のコイル、電子部品、および、そのようなコイルや電子部品を製造可能な巻線治具および電子部品の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一実施形態に係るコイルは、
ワイヤが巻回されて形成される巻線部を有するコイルであって、
前記巻線部の巻回軸に垂直な断面の内周形状が、少なくとも3つの第1の円弧と、隣接する前記第1の円弧を接続する複数の接続線とからなる形状を有し、
少なくとも3つの前記第1の円弧は、それぞれ、前記ワイヤが屈曲可能な所定の半径および所定の中心角を持つ円弧である。
【0006】
このような構成のコイルにおいては、巻線部の巻回軸に垂直な断面の内周形状が、ワイヤが屈曲可能な所定の半径および所定の中心角を持つ少なくとも3つの第1の円弧と、隣接する第1の円弧を接続する複数の接続線とからなる内周形状を有している。このような巻線部は、ワイヤを巻回する際、ワイヤ巻線治具との間にギャップが生じないため、あるいは、ギャップが生じても小さくすることができるため、ワイヤのばらつきが少なく安定した形状の巻線部となる。その結果、特性のばらつきが低減される。また、Q値が改善されたコイルを得ることができる。特に、コイルのサイズが小さい場合においても、形状および特性が安定した高徳性のコイルを得ることができる。
【0007】
上記コイルにおいて、複数の前記接続線は、それぞれ、1つ以上の直線、1つ以上の曲線、または、1つ以上の前記直線および1つ以上の前記曲線との組み合わせのいずれかにより構成されていてもよい。また、前記曲線は、その曲線で隣り合う前記第1の円弧のいずれの半径よりも大きい曲率半径を有していてもよい。
【0008】
上記いずれかのコイルにおいて、少なくとも3つの前記第1の円弧は、前記接続線と正接に接続されていてもよい。
【0009】
上記いずれかのコイルにおいて、複数の前記接続線は、
直交する2つの軸の一方に沿って対向する一対の第2の円弧と、
前記直交する2つの軸の他方に沿って対向する一対の第3の円弧と、を有し、
前記第1の円弧は、前記第2の円弧と前記第3の円弧との間にそれぞれ配置され、円弧の中点と中心点とを結ぶ方向が前記直交する2つの軸とそれぞれ45°をなし、前記第2の円弧および前記第3の円弧とそれぞれ正接に接続されていてもよい。
【0010】
上記いずれかのコイルにおいて、前記巻線部の巻回軸に垂直な前記断面の内周形状は、下の2式がともに正となる解を有する形状であってもよい。
【0011】
【数1】
【0012】
また、本開示の一実施形態に係る電子部品は、上記いずれかのコイルを有する。
【0013】
また、本開示の一実施形態に係る巻線治具は、
ワイヤを巻回するための巻線治具であって、その断面が、
少なくとも3つの第1の円弧と、隣接する前記第1の円弧を接続する複数の接続線とからなる外周形状を有し、
少なくとも3つの前記第1の円弧は、それぞれ、前記ワイヤが密着可能な所定の半径および所定の中心角を持つ円弧である。
【0014】
上記巻線治具において、複数の前記接続線は、それぞれ、1つ以上の直線、1つ以上の曲線、または、1つ以上の前記直線および1つ以上の前記曲線との組み合わせのいずれかにより構成されており、前記曲線は、その曲線で隣り合う前記第1の円弧のいずれの半径よりも大きい曲率半径を有していてもよい。
【0015】
上記いずれかの巻線治具において、少なくとも3つの前記第1の円弧は、前記接続線と正接に接続されていてもよい。
【0016】
上記いずれかの巻線治具において、前記巻線治具の前記断面は、4つの前記第1の円弧が4隅に配置された略長方形状であってもよい。
【0017】
上記いずれかの巻線治具において、前記第1の円弧を接続する前記接続線の少なくとも1つは、複数の前記直線の組み合わせまたは1つ以上の前記曲線が外側に張り出す形状であってもよい。
【0018】
また、本開示の一実施形態に係る巻線治具は、
ワイヤを巻回するための巻線治具であって、その断面が、
直交する2つの軸の一方に沿って対向する一対の第2の円弧と、
前記直交する2つの軸の他方に沿って対向する一対の第3の円弧と、
前記第2の円弧と前記第3の円弧との間にそれぞれ配置され、円弧の中点と中心点とを結ぶ方向が前記直交する2つの軸とそれぞれ45°をなし、前記第2の円弧および前記第3の円弧とそれぞれ正接に接続される4つの第1の円弧と、
からなる外周を有する形状である。
【0019】
上記巻線治具において、前記巻線治具の前記断面は、下の2式がともに正となる解を有する形状であってもよい。
【0020】
【数2】
【0021】
また、本開示の一実施形態に係る電子部品の製造方法は、上記いずれかの巻線治具にワイヤを巻回する工程を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1A図1Aは、本開示の一実施形態に係るコイル部品の全体構成を示す透視斜視図である。
図1B図1Bは、図1Aに示すコイル部品のコイル部10の構成を示す斜視図である。
図1C図1Cは、自動巻線機の巻線台部の巻線治具にワイヤが巻回されている状態を示す図である。
図2A図2Aは、図1Cに示す巻線治具にワイヤが巻回されている状態を示す図であり、図1CのII-IIにおける断面図である。
図2B図2Bは、図2Aに係る工程により形成されたコイル部を示す図である。
図2C図2Cは、本開示の第1の変形例に係る巻線治具にワイヤが巻回されている状態を示す断面図である。
図2D図2Dは、図2Cに係る工程により形成されたコイル部を示す図である。
図2E図2Eは、本開示の第2の変形例に係る巻線治具にワイヤが巻回されている状態を示す断面図である。
図2F図2Fは、図2Eに係る工程により形成されたコイル部を示す図である。
図3図3は、本開示の一実施形態に係る巻線治具の断面形状を説明するための図である。
図4A図4Aは、本開示の一実施形態に係る巻線治具の断面形状の決定のために必要なワイヤの特性を説明するための第1の図である。
図4B図4Bは、本開示の一実施形態に係る巻線治具の断面形状の決定のために必要なワイヤの特性を説明するための第2の図である。
図5A図5Aは、本開示の比較例を示す図であり、長方形の断面を有する巻線治具にワイヤが巻回されている状態を示す図である。
図5B図5Bは、本開示の第1の実施例を示す図であり、角部が円弧状に形成された略長方形状の断面を有する巻線治具にワイヤが巻回されている状態を示す図であるである。
図5C図5Cは、本開示の第2の実施例を示す図であり、角部が曲率半径の大きい円弧状に形成された略長方形状の断面を有する巻線治具にワイヤが巻回されている状態を示す図であるである。
図6図6は、図5A図5Cに示す各コイル部を有するコイル部品のQ特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示の実施形態を、図面を参照しながら説明する。以下に説明する本開示の実施形態は、本開示を説明するための例示である。本開示の実施形態に係る各種構成要素、例えば数値、形状、材料、製造工程などは、技術的に問題が生じない範囲内で改変したり変更したりすることができる。
【0024】
また、本開示の図面に表された形状等は、実際の形状等とは必ずしも一致しない。説明のために形状等を改変している場合があるためである。
【0025】
図1Aに示す本開示の一実施形態に係るコイル部品1は、素体40の内部に、電子要素としての空芯コイル(コイル部)10が封止収容された電子部品、すなわち素体40に空芯コイルが埋め込まれた電子部品である。コイル部品1は、たとえばチョークコイル、ノイズフィルタなどとして用いられるインダクタ装置であり、特に、高周波用途に好敵に用いられる電子部品である。
【0026】
なお、本実施形態のコイル部品1は、平面方向の最大辺の長さが、たとえば、5mm以下、あるいは3mm以下、あるいは0.5mm以下であり、高さが、たとえば、5mm以下、あるいは3mm以下、あるいは0.5mm以下である小型の電子部品である。
【0027】
素体40は、内部にコイル部10を封止収容する外装部材である。素体40は、図1Aに示すように直方体形状(六面体)である。なお、直方体形状には、角部および稜線部が面取りされている直方体、および、角部および稜線部が丸められている直方体が含まれる。
【0028】
本実施形態において、素体40は、磁性粉を含む樹脂で構成してもよいが、磁性粉を含まない樹脂で構成することが好ましい。このような構成とすることにより、コイル部品1を高周波用途に適したコイル部品とすることができる。素体40の材料としては、たとえば、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂の少なくとも一方を含んでいる。素体40の材料は、熱硬化性樹脂として、たとえば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、及び、不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいる。ポリイミド樹脂は、たとえば、ビスマレイミド樹脂である。素体40の材料は、熱可塑性樹脂として、たとえば、結晶性ポリスチレン、フッ素樹脂、ポリエチレン、液晶ポリマー及びポリフェニレンサルファイド(PPS)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいる。フッ素樹脂は、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂である。また、素体は、上記の樹脂が中空ガラスまたは針状ガラスなどのフィラーを含む、フィラー含有樹脂で構成してもよい。
【0029】
素体40の底面は、コイル部品1を実装する基板などの部品設置面(基板などの実装面)に対向する実装面48として形成されている。実装面48には、第1電極31および第2電極32の一方の面(外面)が露出している。第1電極31と第2電極32とは、実装面48においてX軸方向に離間して配置されている。
【0030】
なお、電極31,32の形状や配置は、図1Aに示すものに限られない。たとえば、電極31,32の露出面が、素体40の上面と底面、対向する側面あるいは隣接する任意の外面(上面、底面、側面を含む)などのように異なる面に配置される構成でもよい。また、L字形状の端子電極が、実装面48と隣接する素体40の側面に跨るように、素体40の角部に配置される形態でもよい。
【0031】
なお、本実施形態においては、コイル部品1の実装面48に垂直な方向をY軸方向とし、実装面48の周縁を形成する2組の対向する辺縁のうち、第1電極31および第2電極32が配置される方向をX軸方向とし、X軸方向およびY軸方向に対して直交する方向をZ軸方向とし、コイル部品1を説明する。
【0032】
コイル部10は、導体としてのワイヤ15をコイル状に巻回することで構成してあり、本実施形態においては、巻回軸が実装面に平行となる姿勢(縦置き)で素体40に収容されている。コイル部10は、図1Bに示すように、ワイヤ15が巻回された巻線部11と、巻線部11から引き出されているワイヤ15の両端部である第1リード12および第2リード13とを有する。
【0033】
巻線部11の巻回軸に垂直な平面における断面形状、換言すれば、巻線部11の内周面17の形状(内周形状)、さらに換言すれば、巻線部11の内側空間19の形状(外周形状)は、ワイヤ15を巻回する際、巻線治具との間にギャップが生じさせることがないような、あるいは、ギャップが生じても小さいギャップですむような、所定の形状である。すなわち、巻線部11の巻回軸に垂直な平面における断面形状は、このような所定の断面形状の巻線治具にワイヤ15を巻回した結果として得られる、特定の形状である。
【0034】
本開示のコイル部品1の巻線部11は、自動巻線機等の巻線治具にワイヤ15を巻回して形成するところ、本開示においては、巻線治具に巻き付けるときのワイヤの曲がり易さを示すパラメータを予め計測しておき、このパラメータに基づき、巻線治具との間にギャップがほぼ無い状態で(密着状態で)ワイヤ15が巻回可能なように、巻線治具の断面形状を特定の形状に決定する。したがって、巻線部11の巻線部内側空間部19(図1B)の巻回軸に垂直な平面における形状は、このように設計され決定された巻線治具の特定の断面形状により規定される形状である。ただし、実際の巻線部11の断面形状は、上記した巻線治具の断面形状と完全に一致しなくともよい。
【0035】
上記巻線治具の特定の断面形状とは、ワイヤ15が塑性変形により(弾性変形ではなく、また破断することなく)屈曲可能な、所定の半径および所定の中心角を持つ少なくとも3つの第1の円弧と、隣接する第1の円弧を接続する複数の接続線とからなる内周形状を有する形状である。巻線治具のこの「断面形状」については、後に詳述する。
【0036】
巻線部11の内周部19には、図1Bに示すように何らの部材は配置されないが、コイル部10をコイル部品1として構成する際には、図1Aを参照して前述したように、素体40を構成する部材が充填等される。
【0037】
コイル部10の第1リード12および第2リード13は、図1Aに示すように、巻線部11の側面から実装面48側に引き出され、その端部12eおよび13eが、それぞれ、第1電極31および第2電極32に接続されている。後述するように、本開示に係るコイル部10は、巻軸に垂直な断面形状において角部が大きな曲率の円弧に形成されているところ、このような円弧部分であるコイル部10の側面から第1リード12および第2リード13を引き出すことにより、第1リード12および第2リード13の長さが長くなり、浮遊容量を低減することができ、Q値が改善される。
【0038】
なお、ワイヤ15は、主として銅などの低抵抗な金属を含む導体部と、その導体部の外周を覆う絶縁被膜とで構成される。より具体的に、導体部は、無酸素銅やタフピッチ銅などの純銅、リン青銅や黄銅、丹銅、ベリリウム銅、銀-銅合金などの銅を含む合金、もしくは、銅被覆鋼線などで構成される。
【0039】
絶縁被膜は、電気絶縁性を有していればよく、特に限定されない。たとえば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ナイロン、ポリエステル、ポリビニルホルマールなど、もしくは、上記のうち少なくとも2種の樹脂を混合した合成樹脂が例示される。
【0040】
また、本実施形態において、コイル部10を構成するワイヤ15は丸線であり、導体部の断面形状が円形となっているが、丸線に限らず、断面矩形のワイヤや、平角線などであってもよい。ワイヤ15の導体部の線径は、特に限定されないが、たとえば、丸線の場合、5μm~2mm、あるいは10μm~1mmである。平角線の場合、たとえば、厚さ10μm~2.5mm、幅100μm~1mmである。
【0041】
また、本実施形態のコイル部品1のコイル部10は、ワイヤ15を一般的なノーマルワイズで巻回したコイルであるが、ワイヤの巻回方式はこれに限定されない。たとえば、ワイヤ15をα巻きしたコイルや、フラット巻またはエッジワイズ巻きしたコイルであってもよい。また、ワイヤ15の巻き層数も特に限定されない。また、本実施形態においては1本のワイヤ15を巻回して巻線部11を構成しているが、2本以上のワイヤ15を巻回して巻線部11を形成してもよい。
【0042】
第1電極31および第2電極32は、薄板状の金属部材であり、図1Aに示すように、素体40の実装面48に設置され、コイル部10を実装基板上の外部配線に電気的に接続する。第1電極31は、実装面48のX方向一方側に配置され、第2電極32は、実装面48のX方向他方側に配置される。また、第1電極31および第2電極32は、その下面が素体40の底面と面一になるように、素体40の底面に埋設されている。
【0043】
上述したように、第1電極31は、コイル部10を構成するワイヤ15の第1リード12と接続され、第2電極32は、コイル部102を構成するワイヤ15の第2リード13と接続される。これら第1電極31と第1リード12との接続、および、第2電極32と第2リード13との接続は、たとえば、第1電極31および第2電極32の実装面48への露出面とは反対側の面(継線部38,38)に対して、第1リード端部12eおよび第2リード端部13eをレーザ溶接することにより行う。第1電極31と第1リード12との接続、および、第2電極32と第2リード13との接続は他の方法により接合してもよい。
【0044】
第1電極31、第2電極32は、タフピッチ鋼、リン青銅、黄銅、鉄、ニッケルなどの導電性金属板で構成してある。なお、第1電極31および第2電極32は、ワイヤ15の端部を潰し加工してワイヤ15の一部として、すなわちワイヤ15と一体な構成として形成してもよい。
【0045】
次に、コイル部品1の製造方法について説明する。
ここではまず、本開示のコイル部品1の巻線部11を形成するためにワイヤ15を巻き付ける巻線治具21について説明する。
【0046】
図1Cに示すように、巻線部11は、たとえば自動巻線機等の装置の巻線治具21にワイヤ15を巻回して形成する。巻線治具21は、たとえば、自動巻線機の巻線台部20において、図示のごとく基台26上に立設されて提供される。この巻線治具21の外周に沿って、図示せぬ自動巻線機のノズルから提供されるワイヤ15を所定の方向で所定の荷重の力を作用させて巻回することにより、巻線治具21の周囲に巻線部11が形成される。なお、巻線治具21は、図1Cに示すように基台26に鉛直方向上向きに立設された形態に限られない。たとえば、基台に垂直に(鉛直方向に)形成された壁面から水平方向に突出するように複数の巻線治具が設置された構成でもよい。
【0047】
巻線治具21は、巻回軸に垂直な断面が、図2Aにおいて斜線部で示すような所定の断面形状に形成されている。巻線治具21の断面形状は、コイル部品1のサイズ(巻線治具21の断面サイズ)、ワイヤ15を巻き付けるときの条件、および、その条件の下でのワイヤ15の曲がり易さを示すパラメータに基づいて設計され規定されており、たとえば図2Aに示すような形状である。
【0048】
図2Aに示す巻線治具21の断面は、4つの第1の円弧A11~A14、2つの第2の円弧A21,A22および2つの第3の円弧A31,A32が、順次滑らかに接続されている外周形状を有する。より具体的には、巻線治具21の断面の外周形状は、Y軸に沿って対向して配置されている2つの第2の円弧A21,A22と、X軸に沿って対向して配置されている2つの第3の円弧A31,A32とを有し、これらの間を接続するように、4つの第1の円弧A11~A14が配置されている形状である。
【0049】
第1の円弧A11~A14は、それぞれ中心位置C11~C14を円弧中心として、所定の半径および所定の中心角を有する円弧である。第2の円弧A21,A22は、それぞれ中心位置C21,C22を円弧中心として、所定の半径および所定の中心角を有する円弧である。第3の円弧A31,A32は、それぞれ中心位置C31,C32を円弧中心として、所定の半径および所定の中心角を有する円弧である。
【0050】
第2の円弧A21,A22の中心C21,C22はY軸上に配置されており、第3の円弧A31,A32の中心C31,C32はX軸上に配置されており、第1の円弧A11~A14の中点と中心C11~C14とを結ぶ直線はそれぞれX軸およびY軸に対して45°をなす直線上に配置されている。また、第1~第3の円弧A11~A14,A21,A22,A31,A32は、全て、弦を原点側に向けており、巻線治具21の断面の外周形状は凸図形をなしている。
【0051】
これら8つの第1~第3の円弧A11~A14,A21,A22,A31,A32は、順次接続点P1~P8で滑らかに接続されており、本実施形態において、これら8つの円弧は、接続点P1~P8において、それぞれ正接に接続されている。正接とは、隣接する円弧の接続点における接線が等しい状態を言い、2つの円弧が正接に接続されている状態では、2つの円弧の中心と接続点の3点は一直線に配置されることになる。
【0052】
図2Aに示す巻線治具21においては、たとえば、第1の円弧A11と第2の円弧A21との接続に関して、第1の円弧A11の中心C11と、第2の円弧A21の中心C21と、第1の円弧A11と第2の円弧A21との接続点P1の3点は、図示のごとく一直線に並んでいる。また、この直線に接続点P1で直交する直線は、第1の円弧A11と第2の円弧A21それぞれの接続点P1における接線であり一致する。
【0053】
また、たとえば、第1の円弧A11と第3の円弧A31との接続に関して、第1の円弧A11の中心C11と、第3の円弧A31の中心C31と、第1の円弧A11と第3の円弧A31との接続点P2の3点は、図示のごとく一直線に並んでいる。また、この直線に接続点P2で直交する直線は、第1の円弧A11と第3の円弧A31それぞれの接続点P1における接線であり一致する。このように、隣接する各円弧は、順次正接に接続されている。
【0054】
第1~第3の円弧A11~A14,A21,A22,A31,A32の中心位置、半径および中心角の決定方法について、図3および図4を参照して説明する。
【0055】
各円弧の中心位置等の決定に際しては、巻線治具21の断面形状のサイズ(コイル部品1の形状に依存する)に係る条件として、図3に示すように、巻線治具21のX軸方向長さ2L1(すなわち、L1は巻線治具21のX軸方向長さの1/2)およびY軸方向長さ2L2(すなわち、L2は巻線治具21のY軸方向長さの1/2)を決定する。また、巻線治具21に巻き付けるワイヤ15の選択、および、その選択したワイヤ15を巻き付けるときに曲げ方向に作用させる荷重Fを予め決定する。
【0056】
次に、実際に巻回するワイヤ15および巻回時の荷重Fを用いて、ワイヤ15を巻き付けるときのワイヤ15の曲がり易さを示すパラメータを、以下のように計測する。
【0057】
まず、図4Aに示すように、ワイヤ15を水平作業台81の上に載置し、所定の基準位置X0までの一方側を、押さえ保持部材82により押さえ、ワイヤ15の一方側を水平作業台81上に固定する。この状態で、ワイヤ15の他方側(押さえ保持部材82により押さえられていない自由端側)に、ワイヤを巻き付けるときの荷重Fを曲げ方向に作用させ、図示のごとくワイヤ15を屈曲させる。
【0058】
その結果、ワイヤ15は、破断をしない範囲の略最大の曲率で塑性変形した状態となるので、この状態を解析し、ワイヤ15の曲がり易さを示すパラメータを得る。具体的には、図4(B)に示すように、曲げられたワイヤ15のある位置Pwに対して、その位置Pwにおけるワイヤ15の接線に垂直な直線(法線)Hと、水平作業台81の上面に対する垂直軸Ysとがなす角度(法線角度)Φを検出する。また、位置Pwにおいて長さsを法線角度Φで微分した値|ds/dΦ|を、曲率半径rとして検出する。
【0059】
この解析は、位置Pwまでのワイヤ15の屈曲状態を円で近似し、その屈曲状態を曲率半径rと法線角度Φで表すものであり、ワイヤ15の曲がった全ての位置に対して、すなわち0°から90°までの全ての法線角度Φに対して、曲率半径rが検出可能である。したがって、検出した法線角度Φと曲率半径rとの組み合わせの中から最小の曲率半径rminを選択することにより、巻回対象のワイヤ15が巻回時の荷重Fで最も曲がった箇所の曲率半径(rmin)を検出できる。なお、巻線治具21の断面形状を決定するための屈曲状態検出位置Pwは、検出結果に基づいて後述するように決定される巻線治具21の断面面積が最大となる位置を選択することが好ましい。あるいはまた、ワイヤ15が最も曲がっている位置を選択してもよい。
【0060】
ワイヤ15を巻回する巻線治具21の断面の外周形状が、この最小の曲率半径rminより小さい曲率半径の屈曲部分(円弧部分)を含まず、曲率半径r(r≧rmin)の円弧部分の組み合わせにより滑らかに形成されている場合、ワイヤ15を巻線治具21の外周に沿って密着して巻き付けることが可能である。その結果、ワイヤ15と巻線治具21の外周面との間に、ギャップが生じることが防止されるか、あるいは、ギャップを小さくすることができる。
【0061】
このように検出したワイヤ15の曲がり易さを示すパラメータΦ、r(rmin)および、上述した巻線治具21のサイズL1,L2、に基づいて、巻線治具21の断面の形状、すなわち第1~第3の円弧A11~A14,A21,A22,A31,A32の中心位置、半径および中心角を決定する。
【0062】
たとえば、図2Aに示すような巻線治具21の断面形状は、4隅に配置される第1の円弧A11~A14として、曲率半径がr(r≧rmin)、中心角がΦの円弧を当てはめ、これよりも曲率半径の大きい第2の円弧A21,A22および第3の円弧A31,A32を、巻線治具21のサイズ2L1×2L2の範囲内に、順次正接に接続して配置することにより得られる。なお、上記条件を満たす形状は1つに限られないが、条件を満たす断面形状が複数存在する場合は、その中で最も面積が大きくなる形状を選択することが好ましい。
【0063】
また、図3に示すような条件にしたがって、巻線治具21の断面形状を規定することもできる。図3に示す形状も、図2Aに示した形状と同様に、第1~第3の円弧A11~A14,A21,A22,A21,A22が、順次接続点P1~P8で滑らかに接続された形状である。図3に示す形状においても、4隅に配置される第1の円弧A11~A14としては、図4に示す方法により計測したパラメータΦ、r(rmin)に基づいて、曲率半径がR(R=r≧rmin)、中心角がΦの円弧を配置する。
【0064】
また、図3に示す形状(条件)においては、第2の円弧A21,A22と第3の円弧A31,A32の中心角θは同じとしており、このような条件の下では、幾何学的な特徴に基づいて以下の関係式が成り立つ。
【0065】
【数3】
【0066】
そして、これらを連立方程式として解くと、第1の円弧A11の中心座標(X,Y)は、以下の値となる。
【0067】
【数4】
【0068】
換言すれば、本開示に係る巻線治具21の断面は、上記X,Y、すなわち、下の2式がともに正となる解を有する形状である。
【0069】
【数5】
【0070】
また、これに基づいて、第2の円弧A21の半径R2、第3の円弧A31の半径R3、第2の円弧A21の中心座標(0,Y2)および第3の円弧A31の中心座標(X3,0)が以下のように定まる。
【数6】
【0071】
本開示に係る巻線治具21の断面は、このような形状に形成する。
【0072】
コイル部品1の製造においては、まず、コイル部10を製造する。図1Cに示すように、たとえば自動巻き線機により、ワイヤ15に所定のテンションをかけ、上述した形状に形成された巻線治具21に対して、その外周に沿ってワイヤ15を巻き付け、コイル部10を製造する。
【0073】
このとき、ワイヤ15に対しては、予め決定した所定の荷重Fが曲がり方向に作用するようにテンションをかける。上述したように、本開示に係る巻線治具21は、ワイヤ15が少なくとも当該所定のテンション(荷重F)で巻き付けられるときにはワイヤが巻線治具21の外周面に密着するように断面形状が形成されている。そのため、そのような所定のテンション(荷重F)でワイヤ15の巻き付けを行うことにより、ワイヤ15と巻線治具21との間にギャップが生じることが防止され、巻線治具21の周囲に隙間なくワイヤ15を巻回することができる。
【0074】
巻き終わったワイヤ15の端部は、第1リード12および第2リード13に相当する所定の長さが確保されて切断され、切断された端部である第1リード12の端部12eおよび第2リード13の端部13eに対して、第1電極31および第2電極32をレーザ溶接する。なお、電極31,32の接合は、コイル部10を巻線治具21から引き抜いた後に行ってもよい。ただし、電極31,32をワイヤ15の端部を潰し加工して形成する場合には、コイル部10が巻線治具21に巻回されている状態で潰し加工をするのが好適である。
【0075】
次に、巻線治具21に巻線部11が巻回されているコイル部10を、図示せぬピックアップ装置により引き抜き、巻線治具21から離脱させる。その結果、たとえば図2Bに示すような空芯コイル(巻線部)が得られる。
【0076】
次に、得られた空芯コイル(コイル部10)を、素体40に封止(封入)する。コイル部10の素体封入(外装封止)は、たとえば、複数のコイル部10を型枠内に配列し、型枠に樹脂を注入して硬化させ、その後個片化することにより行う。このとき、コイル部10を、実装面48が下面となるように型枠内に配置することにより、第1電極31および第2電極32の外側面が素体40の実装面48と面一な状態に配置される。なお、個々のコイル部品への個片化は、外装封止工程の後に直ちに行ってもよいし、後段の端子被膜剥離処理工程あるいはメッキ処理工程の後に行ってもよい。
【0077】
コイル部10を外装封止したら、第1電極31および第2電極32の外部への露出を確保するための研磨を行う。研磨は、ブレードを用いた研磨、あるいは、レーザの照射などにより行ってよい。このとき、同時に素体40の実装面48の全体を研磨などして、実装面48を平坦にしておくのが好ましい。
【0078】
コイル部品1は、このような方法により製造することができる。
【0079】
本開示のコイル部品1は、ワイヤ15が密着可能な断面形状に形成された巻線治具21にワイヤ15を巻き付けて製造している。そのため、製造時において、巻回されるワイヤ15と巻線治具21との間にギャップが生じることを防止できる。あるいは、ギャップが生じたとしても、小さくすることができる。その結果、巻線部11の形状を安定化させることができる。
【0080】
また、本開示においては、巻線部11の形状を安定化させることができるため、コイル部品1の特性にばらつきが生じることを防止でき、インダクタンス特性を安定させることができる。また、Q値を改善あるいは向上させることができる。すなわち、本開示によれば、形状のばらつきや特性のばらつきが小さく、高特性のコイル部品1を安定的に提供することができる。
【0081】
また、これにより、本開示のコイル部品1においては、コイル部品のサイズを大きくすることなく(同じサイズで)、高特性のコイル部品を得ることができる。換言すれば、同じ特性であれば、コイル部品1のサイズを小さくできる。
【0082】
また、本開示においては、巻線部11の形状が安定しているため、コイル部品1の特性が安定することに加え、巻線部11の封止サイズ(すなわちコイル部品1のサイズ)を小さくできる。形状にばらつきがある場合には、コイル部品1としてのサイズに余計なマージンを確保する必要があるが、本開示に係る巻線部11にはそのような必要が無いためである。その結果、コイル部品1のインダクタンス等の特性が一層安定する。
【0083】
また、巻線部11の形状が安定することにより、製造が容易になる。また、たとえば外装封止のために巻線部11を配置する際に、巻線部11を高密度に配置することができる等、効率よく製造が可能となる。その結果、コイル部品1の製造コストを低減することも可能となる。
【0084】
また、本開示のコイル部品1においては、ワイヤ15を巻線治具21に密着させて巻回することができるので、ワイヤ15のずれが防止され、この点においても巻線部11の形状を安定させることができる。その結果、インダクタンス等の特性のばらつきを防止し低減することができる。また、巻線治具21に巻回された状態でワイヤ15のずれが防止されるので、ワイヤ15の端部を潰して電極に形成する場合等においては、形成する電極の形状やサイズのばらつきも抑えることができる。
【0085】
本開示に係るコイル部品の実施例について説明する。
まず、巻線治具の断面形状の最も屈曲している箇所の曲率半径の相違により、ワイヤを巻回して製造する巻線部の形状のばらつきが相違するかを確認するために、同一の縦横最大サイズであって、角部の曲率半径のみが異なる2種類の巻線治具を用いて、巻線部を形成し、形成された巻線部の内径の寸法を計測した。
【0086】
巻線治具の断面形状の最も屈曲している箇所の曲率半径の相違により、コイル部品の特性が向上するかどうかを確認するために、単に角部がr面取りしてある略長方形状の断面形状を有する巻線治具にワイヤを巻回して形成した巻線部と、角部が本開示による十分な曲率半径を有する円弧に形成された断面形状を有する巻線治具にワイヤを巻回して形成した巻線部2種類とを製造し、そのインダクタンスとQ特性を計測した。
【0087】
図5Aに示す巻線部911は、本開示の比較例としての巻線部(Cex.2)であり、断面が長方形の巻線治具921の周囲にワイヤ15を巻回し形成したものである。図5Bに示す巻線部931は、本開示の第1実施例としての巻線部(Ex.2)であり、角部が所定の曲率半径の円弧状に形成された略長方形状の断面を有する巻線治具941の周囲にワイヤ15を巻回し形成したものである。図5Cに示す巻線部951は、本開示の第2実施例としての巻線部(Ex.3)であり、角部がさらに大きい所定の曲率半径の円弧状に形成された略長方形状の断面を有する巻線治具941の周囲にワイヤ15を巻回し形成したものである。
【0088】
それぞれの巻線治具921の寸法は、比較例(Cex.2)の巻線治具921は、0.11mm×0.31mmの平面形状で、角部に半径20μの丸み(面取り部)を有する断面形状である。実施例1(Ex.2)の巻線治具941は、0.113mm×0.32mmの平面形状で、角部が半径57μの1/4円弧に形成されている断面形状である。実施例2(Ex.3)の巻線治具961は、0.116mm×0.316mmの平面形状で、角部が半径58μの1/4円弧に形成されている断面形状である。
【0089】
これら、比較例(Cex.2)の巻線治具921で製造された巻線部911、実施例1(Ex.2)の巻線治具941で製造された巻線部931、および、実施例2(Ex.3)の巻線治具961で製造された巻線部951の巻線部内側空間の断面積は、略同じである。
【0090】
これらの巻線部911,931,951について、インダクタンスおよびQ特性を計測したところ、インダクタンスについては、図示省略するがほとんど相違はなかった。一方、Q特性については、図6に示すように、比較例(Cex.2)の巻線部911に対して、実施例1(Ex.2)の巻線部931および実施例2(Ex.3)の巻線部951においては、明らかに有意な向上が確認できた。
【0091】
本開示は、上記実施形態に限られず、任意好適な種々の改変が可能である。
たとえば、巻線治具の断面形状は、上述した実施形態の形状に限られない。ワイヤが密着可能な所定の半径および所定の中心角を持つ第1の円弧が少なくとも3つあれば、巻線治具の断面形状を、ワイヤを密着させて巻き付ける形状にすることが可能である。本開示に係る巻線治具は、そのような任意の形状でよく、本開示の範囲は、そのような治具の断面形状に沿った内周形状を有するコイル部品を含む。
【0092】
具体的には、たとえば、3つの第1の円弧を、これらに正接に接続する直線で順次接続すれば、角部が丸くなった略三角形状のいわゆる「おにぎり形」が形成される。巻線治具の断面形状をこのような「おにぎり形」にした場合も、その外周に沿ってワイヤを、ギャップが生じることなく巻き付けることが可能である。
【0093】
また、巻線治具は、図2Cに示すように、長方形(仮想長方形)222に対して、4つの角部が円弧状角部223に形成されている略長方形状の断面を有する巻線治具221でもよい。この断面形状は、円弧状角部223が本開示に係る第1の円弧に相当し、4つの第1の円弧をそれぞれ直線の接続線で接続した形状である。このような巻線治具221においても、円弧状角部223を、上述したようにワイヤの曲がり易さを考慮した、すなわちワイヤが密着可能な所定の半径および所定の中心角を持つ円弧で形成することにより、ワイヤ15は、円弧状角部223の部分で密着して巻線治具221に巻き付けられる。その結果、巻線部211と巻線治具221との間のギャップは小さくなり、図2Dに示すような空芯コイル210が得られる。
【0094】
なお、図2Cの形態においては、巻線治具221の断面外周が直線の部分、特に、仮想長方形222の長辺にあたる直線部分では、巻線部内周面217と巻線治具221との間にわずかな隙間218が生じる。しかしながら、通常の長方形断面の巻線治具にワイヤ15を巻回する形態と比較して、その隙間218は小さいものであり、図2Cの形態においても形状の安定化が図れる。また、このような間隙218が巻線部内周面217と巻線治具221との間に形成されることにより、巻線部211を巻線治具221から引き抜きやすくなるという効果が得られる。なお、円弧状角部223は、仮想長方形222の短手方向の幅Lsの1/2まで、その半径を大きくすることができる。
【0095】
また、巻線治具は、図2Eに示すような巻線治具321であってもよい。巻線治具321は、図2Cに示した巻線治具221に対して、さらに、仮想長方形の長辺に対応する箇所が外側に張り出した形状である。すなわち、巻線治具321は、仮想長方形322に対して、4つの角部が、本開示に係る第1の円弧に相当する4つの円弧状角部323により形成されており、仮想長方形322の長辺に対応する箇所が、2つの直線である傾斜辺325,325により三角形状に張り出した断面形状である。このような巻線治具321を用いることにより、図2Fに示すような空芯コイル310が得られる。
【0096】
このような形状においては、仮想長方形322の長辺にあたり巻線治具の周面からワイヤ15が浮く位置(図2Cの隙間218)に対応して張り出し部324が形成されているので、図2Cに示す巻線部211の隙間218に比較して、巻線部内周面317と巻線治具321との間の隙間318を小さくすることができる。なお、このような巻線部311においても、間隙318が巻線部内周面317と巻線治具321との間に形成されることにより、巻線部311を巻線治具321から引き抜きやすくなるという効果が得られる。また、巻線治具321においても、円弧状角部323は、仮想長方形322の短手方向の幅Lsの1/2まで、その半径を大きくすることができる。
【0097】
また、図2C図2Eに示した巻線治具221,321において、角部の円弧状角部223,323を接続する接続線は、曲線、2つ以上の曲線の組み合わせ、3つ以上の直線の組み合わせ、直線と曲線のそれぞれ任意の数の組み合わせ等で構成してもよい。いずれの場合も、曲線を適用する場合には、円弧状角部223,323の曲率半径よりも大きい曲率半径を有する曲線を適用することが、巻線治具221,321と巻線部211,311との間のギャップを無くす、あるいは小さくする点から望ましい。
【0098】
また、直線を使用する場合には、その直線が他の直線や曲線と正接して接続されることが好ましい。しかし、必ずしもその直線が他の直線や曲線と正接しなくとも、巻き付けられるワイヤとの間のギャップが小さくなるような角度で他の直線や曲線と接続する構成であればよい。
【0099】
また、本開示は、ワイヤを巻線治具に巻回する構成に限られない。巻線治具の周囲に密着させて製造する任意の電子部品要素に対して好適に適用可能である。
【符号の説明】
【0100】
1…コイル部品
10,210,310…コイル部
11,211,311,911,931,951…巻線部
12…第1リード
13…第2リード
12e,13e…リード端部
15…ワイヤ
17,217,317…巻線部内周面
19,219,319…巻線部内側空間部
218,318…隙間
31…第1電極
32…第2電極
38…継線部
40…素体
48…実装面
20…巻線台部
21,221,321、921,941,961…巻線治具
26…基台
222,322…仮想長方形
223,323…円弧状角部
324…張り出し部
325…傾斜辺
81…水平作業台
82…押さえ保持部材
P1~P8…接続点
11~A14…第1の円弧
21,A22…第2の円弧
31,A32…第3の円弧
11~C14…第1の円弧の中心
21,C22…第2の円弧の中心
31,C32…第3の円弧の中心
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6