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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006588
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】作業機
(51)【国際特許分類】
   B25C 1/06 20060101AFI20240110BHJP
   B25C 1/04 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B25C1/06
B25C1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107630
(22)【出願日】2022-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】工機ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 貴士
(72)【発明者】
【氏名】上野 翔汰
【テーマコード(参考)】
3C068
【Fターム(参考)】
3C068AA01
3C068BB01
3C068CC02
3C068CC07
3C068DD01
3C068JJ20
(57)【要約】
【課題】長期的な打込み性能や耐久性を向上した作業機を提供する。
【解決手段】作業機は、第1方向B1に延びる筒形状のシリンダ30を含む、中空状のケース部と、シリンダの内部で第1方向に移動可能であり、ケース部と協働して該ケース部の内部に圧力室45を画定すると共に、該圧力室の内部の気体の圧力により第1方向の一方側に移動することで止具を打撃するピストン部40と、を備え、ピストン部は、第1方向に延びる柱状のベース部材41と、該ベース部材の側壁に設けられる第1嵌合溝41aに嵌合してシリンダの内壁と当接する環状のシールリング43と、を有し、ベース部材は、一端が嵌合溝に連通し他端が圧力室に連通する通気路50を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に延びる筒形状のシリンダを含む、中空状のケース部と、
前記シリンダの内部で前記第1方向に移動可能であり、前記ケース部と協働して該ケース部の内部に圧力室を画定すると共に、該圧力室の内部の気体の圧力により前記第1方向の一方側に移動することで止具を打撃するピストン部と、を備え、
前記ピストン部は、前記第1方向に延びる柱状のベース部材と、該ベース部材の側壁に設けられる嵌合溝に嵌合して前記シリンダの内壁と当接する環状のシール部材と、を有し、
前記ベース部材は、一端が前記嵌合溝に連通し他端が前記圧力室に連通する通気路を有する、作業機。
【請求項2】
前記通気路は複数本設けられる、請求項1に記載の作業機。
【請求項3】
前記シール部材はゴム製である、請求項1又は2に記載の作業機。
【請求項4】
前記シリンダの内壁には、潤滑剤が塗布されており、
前記ベース部材には、前記圧力室に面する端面に、前記第1方向の一方側に向けて窪んだ凹部が設けられ、
前記通気路の前記他端が前記凹部に連通する、請求項1又は2に記載の作業機。
【請求項5】
前記シール部材には、内周面の全周に亘って延びる溝部が設けられ、
前記通気路の前記一端が前記溝部に向けて開口する、請求項1又は2に記載の作業機。
【請求項6】
前記ベース部材は、該ベース部材の側壁に設けられ前記シリンダの内壁と当接する環状の摺動部材を有し、
前記摺動部材は、前記第1方向の一方側と他方側とで前記シール部材を挟み込むように一対設けられ、
前記通気路の前記一端が一対の前記摺動部材の間に開口する、請求項1又は2に記載の作業機。
【請求項7】
前記通気路は、複数本の第1通気路と、1本の第2通気路と、からなり、
前記複数本の第1通気路の各々の一端が前記嵌合溝に連通し、該複数本の第1通気路の各々の他端が前記1本の第2通気路の一端に連通し、該1本の第2通気路の他端が前記圧力室に連通する、請求項1に記載の作業機。
【請求項8】
モータと、
前記モータの駆動力によって前記ピストン部を前記第1方向の他方側に移動する移動部と、を有する、請求項1又は2に記載の作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、止具を打撃して相手材に打ち込む、作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の作業機では、図8に示すように、シリンダ1内を移動するピストン2の外壁に、嵌合溝2aが設けられている。該嵌合溝2aには、シール部材3が嵌合されている。これにより、ピストン2の外壁とシリンダ1の内壁との間がシールされて、シール部材3よりも上側におけるシリンダ1の内部に、圧力室4が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-34267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の構成では、ピストン2は、圧力室4の圧力に抗してシリンダ1内をシリンダ軸に沿って上死点(バンパから離れた最上位置)に向けて移動する。ピストン2が上死点に到達すると、ピストン2が圧力室4の圧力で下死点(バンパに接触した最下位置)に向けて移動し、止具の打込みを行う。この上死点-下死点間の往復動作を繰り返すことで打込み動作を繰り返し行うが、この際に、圧力室4内の圧力変動時に、嵌合溝2a内の高圧空気が抜けにくいことや、シール部材3の内周側に潤滑剤が流入することなどにより、シール部材3の変形量が大きな状態のままピストン2が下降し、止具の打込み作業が行われてしまうことがあった。このように、シール部材3が変形すると、シール性能が低下したり、シール部材3とシリンダ1との間の摺動抵抗が大きくなったりして、打込み性能が低下したり、耐久性が低下するおそれがあった。
【0005】
上記課題を鑑み、本発明の目的は、長期的な打込み性能や耐久性を向上した作業機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態の作業機は、第1方向に延びる筒形状のシリンダを含む、中空状のケース部と、前記シリンダの内部で前記第1方向に移動可能であり、前記ケース部と協働して該ケース部の内部に圧力室を画定すると共に、該圧力室の内部の気体の圧力により前記第1方向の一方側に移動することで止具を打撃するピストン部と、を備え、前記ピストン部は、前記第1方向に延びる柱状のベース部材と、該ベース部材の側壁に設けられる嵌合溝に嵌合して前記シリンダの内壁と当接する環状のシール部材と、を有し、前記ベース部材は、一端が前記嵌合溝に連通し他端が前記圧力室に連通する通気路を有する。
【発明の効果】
【0007】
一実施形態の作業機では、嵌合溝の内部の高圧空気や潤滑剤を、通気路を介して圧力室に排出することにより、シール部材の変形量が大きな状態のままピストンが下降し、止具の打込み作業が行われてしまうのを防止することができるので、打込み性能やシール部材の耐久性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る作業機を示す側面断面図である。
図2】ピストン部のベース部材を示す図であり、(A)は側面図、(B)は正面図、(C)はA-A断面図、(D)はB-B断面図である。
図3】ピストン部が下死点に位置する状態を示す側面断面図である。
図4】ピストン部が上死点に位置する状態を示す側面断面図である。
図5】上死点に位置するピストン部を拡大して示す側面断面図である。
図6】第2実施形態に係る作業機の、ピストン部のベース部材を示す図であり、(A)は側面図、(B)は正面図、(C)はC-C断面図、(D)はD-D断面図である。
図7】第3実施形態に係る作業機の、ピストン部のベース部材を示す図であり、(A)は側面図、(B)は正面図、(C)はE-E断面図である。
図8】従来の作業機のピストンを示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の第1~第3実施形態に係る作業機を、図面を参照して説明する。
【0010】
[第1実施形態]
第1実施形態に係る作業機10は、止具を打撃して相手材Wに打ち込む打込機であり、本例では釘を打ち込む釘打機である。まず、図1を参照して、作業機10の概要について説明する。作業機10は、金属及び合成樹脂で構成されるハウジング11を備えている。ハウジング11には、本体部12、ハンドル13、モータケース14、マガジン15、装着部16、射出部18、プッシュレバー19、コントローラ24,トリガ25等が設けられている。
【0011】
本体部12の内部には、シリンダ30、ヘッドカバー31、テールカバー32、バンパ33、ピストン部40、ホイール23等が収容されている。シリンダ30の中心線A1に沿った方向を、第1方向と称し、上下方向とも称する。第1方向の一方側は下側とも称し、第1方向の他方側は上側とも称する。また、図1の右側を前側と称し、図1の左側を後ろ側と称する。本体部12は、第1方向に延びる筒形状である。
【0012】
本体部12の中央部から後ろ側に向けて、ハンドル13が伸びており、本体部12の下部から後ろ側に向けて、モータケース14が延びている。モータケース14には、モータの一例である電動モータ21と、減速機22とが収容されている。電動モータ21と減速機22は、中心線A2に沿って配置されており、電動モータ21が後ろ側、減速機22が前側に配置されている。電動モータ21と減速機22は、同軸である。
【0013】
ハンドル13には、トリガ25が支持されている。トリガ25は、作業者に操作される。ハンドル13の内部には、トリガスイッチ26が設けられている。トリガスイッチ26は、トリガ25の動作を検知する。ハンドル13の後ろ側には、装着部16が設けられている。装着部16には、電池パック17が装着されている。電池パック17は、電動モータ21に電力を供給する。ハンドル13の後端部の内部には、コントローラ24が収容されている。コントローラ24は制御部の一例であって、マイコンを有し、トリガスイッチ26等から受ける信号に応じて、電動モータ21の駆動を制御する。
【0014】
モータケース14の下側には、マガジン15が装着されている。マガジン15の内部には、複数の止具が保持されている。本体部12の下側には、射出部18が設けられている。射出部18からは、マガジン15より供給される止具が射出される。射出部18に隣接して、上下方向に延びるプッシュレバー19が設けられている。プッシュレバー19は、上下方向に移動可能である。
【0015】
作業者によりプッシュレバー19の最下端(先端部)が相手材Wに当接されると、該プッシュレバー19の動作(上方向への移動)がプッシュレバースイッチで検知され、該プッシュレバースイッチからコントローラ24に対して、プッシュレバー動作信号が送信される。また、作業者によりトリガ25が引かれると、該トリガ25の動作がトリガスイッチ26で検知され、該トリガスイッチ26からコントローラ24に対して、トリガ動作信号が送信される。コントローラ24は、プッシュレバー動作信号及びトリガ動作信号を受信すると、電動モータ21を作動させる制御を行う。
【0016】
次に、本体部12の内部に収容されている、シリンダ30、ヘッドカバー31、テールカバー32、バンパ33、ピストン部40、ホイール23等について説明する。
【0017】
シリンダ30は、第1方向に延びる筒形状(本例では円筒形状)の部材である。シリンダ30の内部には、ピストン部40が、第1方向に移動可能に設けられている。ピストン部40は、ベース部材41、ブレード42等を有する。
【0018】
ベース部材41は、第1方向に延びる柱状(本例では円柱状)の部材である。ベース部材41は、金属製である。ベース部材41の構造については、図2以下を参照して後述する。ブレード42は、ベース部材41の第1方向の一方側に設けられ、該第1方向に延びる棒状の部材である。ブレード42は、金属製である。
【0019】
シリンダ30の内壁には、後述する図5に示すように、潤滑剤G(グリス)が塗布されている。潤滑剤Gは、シリンダ30の内部をピストン部40が移動する際に、シリンダ30とピストン部40のベース部材41に嵌合装着されたシールリング43の外周面との間の摺動抵抗を減少させ、またシールリング43と、シリンダ30及びピストン部40のベース部材41間の気密性を保持する効果がある。
【0020】
シリンダ30の上方には、ヘッドカバー31が設けられている。ヘッドカバー31は、シリンダ30の第1方向の他方側を閉塞する。シリンダ30の下方には、テールカバー32が設けられている。テールカバー32は、底壁部材の一例であって、シリンダ30の第1方向の一方側を閉塞する。テールカバー32には、ブレード42が貫通する貫通孔が形成されている。
【0021】
これらシリンダ30、ヘッドカバー31、及びテールカバー32は、金属製であり、中空状のケース部を構成する。ケース部の内部は、ピストン部40により仕切られる。ケース部の内部のうち、ピストン部40、シリンダ30、及びヘッドカバー31が協働して画定する、該ピストン部40の後述するシールリング43よりも上側の領域が、圧力室45である。圧力室45は密閉されており、圧力室45の内部には気体(本例では空気)が封入されている。
【0022】
テールカバー32の上には、バンパ33が設けられている。バンパ33は、止具を打撃するピストン部40が下死点に到達した際にピストン部40のエネルギーを吸収し、テールカバー32に伝わる衝撃を緩衝するためのもの(即ち、下向きに移動するピストン部40の余剰エネルギーを吸収するもの)である。バンパ33は、円筒形状であって、ゴム状弾性体である。バンパ33には、ブレード42が貫通する貫通孔が形成されている。
【0023】
ブレード42は、バンパ33の貫通孔及びテールカバー32の貫通孔を貫通し、ブレード42の最下端(先端部)は、マガジン15から射出部18に供給される止具を打撃する。
【0024】
テールカバー32の下方には、ホイール23が収容されている。ホイール23は、中心線A2に沿って配置されており、減速機22の前側に配置されている。ホイール23は、電動モータ21及び減速機22と同軸である。ホイール23には、周方向に所定間隔で、複数のピニオンピン23aが設けられている。ブレード42の左側面には、ラックが設けられている。ラックは、複数の凸部及び凹部を有している。
【0025】
電動モータ21が作動すると、該電動モータ21の駆動力が、減速機22により減速され、ホイール23に伝達されて、該ホイール23が反時計回りに回動する。すると、複数のピニオンピン23aがラックの複数の凸部に順次係合して、ブレード42及びベース部材41を含むピストン部40が上方向に移動する。これにより、圧力室45内の空気が徐々に圧縮されて、圧縮エネルギーが蓄えられる。
【0026】
ピストン部40が上方向に移動して、上死点に到達すると、すべてのピニオンピン23aがラックと係合しなくなる。すると、圧力室45内に蓄えられた圧縮エネルギーによって、ピストン部40が下方向に押し出されて、ブレード42がマガジン15から射出部に装填された止具を打撃する。その後も、ピストン部40は、下死点に到達して、バンパ33に衝突するまで下方向に移動することで、止具の打込みが完了する。
【0027】
ホイール23、ピニオンピン23a、及びラックは、移動部の一例であって、電動モータ21の駆動力によってピストン部40を第1方向の他方側に移動するものである。これらホイール23、ピニオンピン23a、及びラックは、金属製である。
【0028】
図2を参照して、ピストン部40のベース部材41の構造について詳述する。図2(A)(B)に示すように、ベース部材41の側壁の中央部には、第1嵌合溝41aが設けられている。ベース部材41の側壁の上部及び下部(即ち、第1嵌合溝41aよりも上側と下側)には、一対の第2嵌合溝41bが設けられている。
【0029】
図2(C)に示すように、ベース部材41の、圧力室45に面する端面41dには、第1方向の一方側(即ち、下側)に向けて窪んだ凹部41cが設けられている。凹部41cは、ベース部材41の軽量化のために形成される。
【0030】
ベース部材41には、通気路50が設けられている。通気路50は、一端が第1嵌合溝41aに連通し、他端が凹部41cに連通する。この通気路50により、第1嵌合溝41aと圧力室45とが連通し、圧力室45内の圧力が通気路50を介してもシールリング43に印加される。凹部41cの底には、圧力室45内に塗布された潤滑剤Gの一部が蓄えられており、後述する図5に示すように、通気路50を介して、凹部41cからシールリング43への潤滑剤Gの供給(補充)、及びシールリング43から凹部41cへの潤滑剤Gの排出がなされる。通気路50は、複数本設けられる。図2(D)に示すように、本例の通気路50は、放射状に8本設けられる。
【0031】
図3に示すように、第1嵌合溝41aには、環状のシールリング43が嵌合する。シールリング43は、シール部材の一例であって、シリンダ30の内壁と当接して、シール面を形成する。シールリング43は、ゴム製である。本例のシールリング43は、断面形状がX形のXリングである。シールリング43の内周面には、全周に亘って延びる溝部43aが設けられている。
【0032】
一対の第2嵌合溝41bの各々には、環状のスライドリング44が嵌合する。スライドリング44は、摺動部材の一例であって、シリンダ30の内壁と当接して、該シリンダ30の内部でピストン部40が上下方向に移動する際のピストン部40のガイド、及び摺動ロス低減を目的としている。スライドリング44は、シールリング43を挟み込むように、一対設けられる。上下一対のスライドリング44が設けられることにより、シリンダ30の内部でピストン部40が上下方向に移動する際のベース部材41の傾きを抑制させる。スライドリング44は、摩擦抵抗が小さく耐熱性に優れた合成樹脂製である。この合成樹脂としては、例えばポリエチレン樹脂やフッ素樹脂が好適である。
【0033】
図3図5を参照して、通気路50の作用及び効果について説明する。ピストン部40が、図3に示す下死点から図4に示す上死点に上昇する際には、圧力室45内に封入された空気が圧縮されて、圧力室45内の空気圧が上昇し、シールリング43は上昇した圧力を受けて変形量が増加し、シールリング43の上面と、第1嵌合溝41aの上面間の隙間が大きくなる。
【0034】
一方で、ピストン部40が、図4に示す上死点から図3に示す下死点に下降する際には、圧力室45内に封入された空気が膨張し、圧力室45内の空気圧が低下し、シールリング43は低下した圧力を受けて変形量が減少し、シールリング43の上面と、第1嵌合溝41aの上面間の隙間は小さくなる。
【0035】
つまり、シールリング43は、短い打込み動作サイクル時間の中で、圧力室45内の圧力変動に追従して変形量を変えながら、適正な気密性能/寿命を担保している。
【0036】
このように、圧力室45内をピストン部40が上昇すると、図5に示すように、シールリング43の上面と、第1嵌合溝41aの上面間の隙間が増加する。一方で、潤滑剤Gが表面に塗布されたシリンダ30内をシールリング43が摺動して上死点に向けて上昇する際に、シリンダ30内面の潤滑剤Gをシールリング43が削ぎ取る。削ぎ取られた潤滑剤Gは、シールリング43の上面と第1嵌合溝41aの上面間の隙間や、シールリング43の内周面に設けられている溝部43aに流入する。流入した潤滑剤Gが迅速に排出されないと、シールリング43の変形量が大きな状態のままピストン部40が下降し、止具の打込み作業が行われることになり、摺動ロス増加による打込み性能低下、シールリング43の摩耗や損傷によるシール性能の低下や耐久性の低下が発生するおそれがある。
【0037】
しかしながら、本例の作業機10では、圧力室45と第1嵌合溝41aとを連通する通気路50を設けたことにより、第1嵌合溝41aとシールリング43との間や、溝部43aに流入した潤滑剤Gが、矢印のように通気路50を介して凹部41cに排出される。従って、シールリング43の変形量が大きな状態のままピストン部40が下降し、止具の打込み作業が行われてしまうのを防止することができる。
【0038】
また、圧力室45内の変動する圧力が、通気路50を介して、瞬時にシールリング43に作用するため、シール性の向上を図ることができる。また、通気路50が凹部41cに連通しているので、第1嵌合溝41a内に溜まった潤滑剤Gを凹部41cに排出したり、逆に凹部41c内に溜まっている潤滑剤Gを第1嵌合溝41aに供給できる。
【0039】
また、通気路50の一端がシールリング43の溝部43aに向けて開口しているので、溝部43aに流入した潤滑剤Gを円滑に排出できる。また、通気路50の一端が一対のスライドリング44の間に開口しているので、凹部41c内に溜まっている潤滑剤Gを、第1嵌合溝41aを介してシリンダ30の内壁に供給するにあたり、上側のスライドリング44で掻き落とされない位置に供給できる。
【0040】
以上に説明したように、通気路50が有ることによって、第1嵌合溝41a内からの空気や潤滑剤の通り道が、シリンダ30側のみならず、圧力室45側にも設けられることになるため、空気や潤滑剤の抜けや供給が円滑にできるようになる。
【0041】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る作業機10は、第1実施形態に係る作業機10と比較して、ベース部材41に代えて、ベース部材141が設けられる点のみが相違し、その他の点は同様であるため、該相違点について説明する。
【0042】
図6を参照して、ベース部材141の構造について詳述する。図6(A)(B)に示すように、ベース部材141の側壁には、第1嵌合溝41a及び一対の第2嵌合溝41bが設けられている。
【0043】
ベース部材141には、通気路150が設けられている。通気路150は、複数本の第1通気路150aと、1本の第2通気路150bと、からなる。第1通気路150aは、複数本設けられる。図6(D)に示すように、本例の第1通気路150aは、放射状に8本設けられる。複数本の第1通気路150aの各々の一端は、第1嵌合溝41aに連通している。該複数本の第1通気路150aの各々の他端は、1本の第2通気路150bの一端に連通している。1本の第2通気路150bの他端は、圧力室45に連通している。なお、第2通気路150bは、第1実施形態に係る凹部41cと同様に、ベース部材141の圧力室45に面する端面41dから第1方向の一方側(即ち、下側)に向けて窪んでいるが、複数本の第1通気路150aの開口は、該第2通気路150bの底である。
【0044】
この通気路150も、第1嵌合溝41aと圧力室45とを連通しているので、第1実施形態に係る通気路50と同様の効果を奏する。
【0045】
[第3実施形態]
第3実施形態に係る作業機10は、第1実施形態に係る作業機10と比較して、ベース部材41に代えて、ベース部材241が設けられる点のみが相違し、その他の点は同様であるため、該相違点について説明する。
【0046】
図7を参照して、ベース部材241の構造について詳述する。図7(A)(B)に示すように、ベース部材241の側壁には、第1嵌合溝41a及び一対の第2嵌合溝41bが設けられている。
【0047】
ベース部材241には、通気路250が設けられている。通気路250は、図7(C)に示すように、第1嵌合溝41aに連通し、該第1嵌合溝41aから斜め上方向に延びて、ベース部材241の圧力室45に面する端面41dに開口している。通気路250は、複数本設けられる。図示しないが、本例の通気路250は、放射状に8本設けられる。
【0048】
この通気路250も、第1嵌合溝41aと圧力室45とを連通しているので、第1実施形態に係る通気路50と同様の効果を奏する。
[変形例]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0049】
止具である釘の形状は、ステープル形状でも棒形状でもアーチ形状でもよい。止具は、釘には限られず、タッカや鋲であってもよい。
【0050】
作業機10は、圧力室45内に封入された空気を圧縮するものではなく、圧力室45内に外部から圧縮空気を供給するものであってもよい。
【0051】
各実施形態において、通気路50の本数は、8本には限られず、複数本であればよい。
【0052】
シールリング43は、Xリングには限られず、Oリング、Dリング、Tリングであってもよい。
【符号の説明】
【0053】
10…作業機、12…本体部、18…射出部、21…電動モータ、23…ホイール、23a…ピニオンピン、30…シリンダ、31…ヘッドカバー、32…テールカバー、33…バンパ、40…ピストン部、41…ベース部材、41a…第1嵌合溝、41c…凹部、42…ブレード、43…シールリング、43a…溝部、44…スライドリング、45…圧力室、50…通気路、B1…第1方向、G…グリス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8