(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006589
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置用の電極板と電極構造
(51)【国際特許分類】
C23C 16/44 20060101AFI20240110BHJP
C23C 16/50 20060101ALI20240110BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20240110BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C23C16/44 J
C23C16/50
H01L21/302 101H
H05H1/46 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022107631
(22)【出願日】2022-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】森 理恵
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慎司
【テーマコード(参考)】
2G084
4K030
5F004
【Fターム(参考)】
2G084AA02
2G084BB07
2G084BB14
2G084BB23
2G084BB26
2G084CC12
2G084CC33
2G084DD02
2G084DD15
2G084DD23
2G084DD40
2G084DD64
2G084FF15
2G084FF32
2G084FF38
4K030CA04
4K030CA12
4K030EA05
4K030EA06
4K030FA01
4K030GA02
4K030KA17
4K030KA18
4K030KA46
4K030KA47
4K030LA15
5F004AA15
5F004BA04
5F004BB13
5F004BB22
5F004BB23
5F004BB29
5F004BD04
(57)【要約】
【課題】プラズマ処理装置の機能を向上させる、プラズマ処理装置用の電極板を提供する。
【解決手段】冷却板14の電極接触面側に配置され、冷却板14の一方の面から電極接触面に貫通する上流ガス流路15と連通する下流ガス流路11を設けた電極板3であって、冷却板14の上流ガス流路15を流れるプロセスガスに対する耐腐食膜210が、下流ガス流路11の入口111を設けて冷却板14と接触する第一面31側に形成されている。プロセスガスが電極板3と冷却板14の隙間に入り込んで滞留したとしても、プロセスガスによって電極板3が腐食することを防止することができる。耐腐食膜210は好ましくはフッ化物膜、C含有膜、貴金属膜の何れかである。耐腐食膜210の膜厚は、好ましくは30nm以上5000nm以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却板の電極接触面側に配置され、前記冷却板の一方の面から前記電極接触面に貫通する上流ガス流路と連通する下流ガス流路を設けた電極板であって、
前記冷却板の前記上流ガス流路を流れるプロセスガスに対する耐腐食膜が、前記下流ガス流路の入口を設けて前記冷却板と接触する第一面側に形成されていることを特徴とする、プラズマ処理装置用の電極板。
【請求項2】
前記耐腐食膜がフッ化物膜、C含有膜、貴金属膜の何れかであることを特徴とする、請求項1に記載のプラズマ処理装置用の電極板。
【請求項3】
前記フッ化物膜は、Al、Zr、Zn、Mg、Ce、Ag、Y、Fe、Cu、Cr、Niの何れかの元素を含み、
前記C含有膜は、Cのみから成り、或いは、CとSiとを含み、
前記貴金属膜はAg合金を含むことを特徴とする、請求項2に記載のプラズマ処理装置用の電極板。
【請求項4】
前記耐腐食膜の膜厚が30nm以上5000nm以下であることを特徴とする、請求項1に記載のプラズマ処理装置用の電極板。
【請求項5】
前記第一面と前記耐腐食膜との間に下地膜を有することを特徴とする、請求項1に記載のプラズマ処理装置用の電極板。
【請求項6】
前記耐腐食膜が、加熱処理されていることを特徴とする、請求項1に記載のプラズマ処理装置用の電極板。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れかに記載のプラズマ処理装置用の電極板と、
前記上流ガス流路の出口を設けて前記電極板の前記第一面と接触する電極接触面を有する前記冷却板と、を備えていることを特徴とする、プラズマ処理装置用の電極構造。
【請求項8】
前記耐腐食膜が、前記冷却板の前記電極接触面にも形成されていることを特徴とする、請求項7に記載のプラズマ処理装置用の電極構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置用の電極板とプラズマ処理装置用の電極構造とに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造プロセスに使用されるプラズマエッチング装置や、プラズマCVD装置等のプラズマ処理装置では、チャンバー内に、高周波電源に接続される上部電極と下部電極とを上下に対向配置し、下部電極の上に被処理基板を配置した状態として、上部電極に形成した貫通孔からプラズマ生成用のプロセスガスを被処理基板に向かって流通させながら、両電極間に高周波電圧を印加することによりプラズマを発生させ、被処理基板にエッチング等の処理を行う構成とされている。
【0003】
従来、プラズマ処理装置では、プロセスガスによる部材の腐食を抑えるために、該装置を構成する部材の表面に耐腐食の処理を施している。
特許文献1では、プラズマ処理装置のチャンバーの内部に上部電極や下部電極等を配置した状態で、保護膜形成用ガスをプロセスガスの導入口からチャンバー内に導入し、また保護膜形成用ガスをプロセスガスの排気口からチャンバーの外に出して、プラズマ処理装置のチャンバー内で、処理ガスが触れる箇所に保護膜を形成している。
特許文献2では、プラズマ処理装置で、処理ガスが触れる箇所に溶射膜を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2006/137541号
【特許文献2】特開2006-265619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の保護膜の形成方法によれば、保護膜形成用ガスをチャンバー内に導入することで、保護膜が上部電極板に形成される。この保護膜の形成方法を、例えばアルミニウム製の冷却板を上部電極板に重ねるように組み立てたプラズマエッチング装置に適用した場合では、チャンバー内に保護膜形成用ガスを導入することで、保護膜が上部電極板と冷却板とに形成されるかもしれないがパーティクル発生が多くなる恐れがある。
【0006】
また、特許文献2の溶射膜の形成方法では、溶射膜を形成する前に基材との密着性を向上させるために、基材の表面を粗くする処理を行う必要があるが、このような粗面処理を行うと基材の表面にクラックが形成され、これがプラズマ処理装置におけるパーティクル発生の原因となり、好ましくない。
【0007】
そこで、本発明は、上記の課題を解決するために創作されたものであり、プラズマ処理装置の機能を向上させる、プラズマ処理装置用の電極板と、プラズマ処理装置用の電極構造と、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、冷却板の電極接触面側に配置され、前記冷却板の一方の面から前記電極接触面に貫通する上流ガス流路と連通する下流ガス流路を設けた電極板であって、前記冷却板の前記上流ガス流路を流れるプロセスガスに対する耐腐食膜が、前記下流ガス流路の入口を設けて前記冷却板と接触する第一面側に形成されている。
【0009】
本発明の電極板は、前記第一面と、この第一面とは反対に位置する第二面とを有しており、第一面と第二面の内、耐腐食膜を第一面側に形成している。ここで、「第一面側に形成」とは、耐腐食膜が電極板の第一面に直に形成されている場合と、耐腐食膜が電極板の第一面との間に後述の下地膜を介在させて第一面に形成されている場合と、を含む。
本発明の電極板は、好ましくは、前記耐腐食膜がフッ化物膜、C含有膜、貴金属膜の何れかである。前記フッ化物膜は、Al、Zr、Zn、Mg、Ce、Ag、Y、Fe、Cu、Cr、Niのいずれかの元素を含み、前記C含有膜は、Cのみから成り、或いは、CとSiとを含み、前記貴金属膜はAg合金を含む。
【0010】
本発明の電極板は、好ましくは、前記耐腐食膜の膜厚が30nm以上5000nm以下である。
膜厚が30nmより薄い場合、耐腐食膜がピンホールなどの欠陥を多く含むようになり、その部分が腐食して剥落しパーティクルとなるおそれがあるため、膜厚は30nm以上であることが望ましい。膜厚が5000nmより厚い場合、膜応力が大きくなり広範囲に耐腐食膜の剥離が生じるおそれがあるため膜厚は5000nm以下であることが望ましい。
【0011】
本発明の電極板は、好ましくは、前記第一面と前記耐腐食膜との間に下地膜を有する。
下地膜を有している場合、耐腐食膜と電極板の密着性が向上する。さらに、耐腐食膜成分が電極板に拡散し被処理基板を汚染することを防止できる。
【0012】
本発明の電極板は、好ましくは、前記耐腐食膜が、加熱処理されている。
加熱処理されていると耐腐食膜が緻密化したり、電極板との密着が強固になったりすることにより、耐腐食性が向上する。
【0013】
本発明のプラズマ処理装置用の電極構造は、前記プラズマ処理装置用の電極板と、前記上流ガス流路の出口を設けて前記電極板の前記第一面と接触する電極接触面を有する前記冷却板と、を備えている。
本発明のプラズマ処理装置用の電極構造は、好ましくは、前記耐腐食膜が、前記冷却板の前記電極接触面にも形成されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、プロセスガスが電極板と冷却板の隙間に入り込んで滞留したとしても、プロセスガスによって電極板が腐食することを防止することができる。これにより、腐食生成物が電極板から剥離、また脱落することを原因とした、パーティクル発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るエッチング装置を示す図である。
【
図2】(a)は
図1のエッチング装置の電極構造の一部を示す図であり、(b)は(a)の冷却板の一部を示す図であり、(c)は(a)の電極板の一部を示す図である。
【
図3】
図2(c)の電極構造の変形例を示す図である。
【
図4】(a)は本発明の第二実施形態に係るエッチング装置の電極構造の一部を示す図であり、(b)は(a)の冷却板の一部を示す図であり、(c)は(a)の電極板の一部を示す図である。
【
図5】実施例の第一試験の手順を説明するための図である。
【
図6】(a)は実施例6(C膜)のX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectrometry:以下、XPSと呼ぶ。)データ、(b)は実施例10(SiC膜)のXPSデータ、(c)は比較例1(Al
2O
3膜)のXPSデータを示す図である。
【
図7】(a)は実施例6(C膜)のX線回折法(X-ray Diffractometry:以下、XRDと呼ぶ。)データ、(b)は実施例10(SiC膜)のXRDデータを示す図である。
【
図8】(a)は実施例1(MgF
2膜)のXRDデータ、(b)は実施例2(YF
3膜)のXRDデータを示す図である。
【
図9】実施例の第二試験の手順を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。
(第一実施形態)
図1に示すように、本発明の第一実施形態に係るプラズマエッチング装置1は、真空チャンバー2内の上部に、上部電極となる電極板3が設けられると共に、下部に、下部電極となる上下動可能な架台4が電極板3と相互間隔をおいて平行に設けられている。
【0017】
上部の電極板3は、絶縁体5により真空チャンバー2の壁に対して絶縁状態に支持されているとともに、架台4の上には、静電チャック6と、その周りを囲むシリコン製の支持リング7とが設けられており、静電チャック6の上に、支持リング7により周縁部を支持した状態でウエハ(被処理基板)8を載置するようになっている。また、真空チャンバー2の上部にはエッチングガス供給管9が設けられ、このエッチングガス供給管9から送られたエッチングガスは拡散部材10で拡散された後に、冷却板14に設けられた上流ガス流路15と電極板3に設けられた下流ガス流路11とを流れて、ウエハ8に向い、真空チャンバー2の側部の排出口12から外部に排出される。
【0018】
このプラズマエッチング装置1では、電極板3と架台4との間に高周波電圧を印加する高周波電源13を設けている。エッチングガスが電極板3と架台4との間の空間Sに放出され、高周波電源13から高周波電圧が印加されると、この空間S内でプラズマとなってウエハ8に当たる。このプラズマによるスパッタリングすなわち物理反応と、エッチングガスの化学反応とにより、ウエハ8の表面がエッチングされる。
また、ウエハ8の均一なエッチングを行う目的で、発生したプラズマをウエハ8の中央部に集中させ、外周部へ拡散するのを阻止して電極板3とウエハ8との間に均一なプラズマを発生させるために、通常、プラズマ発生領域16がシリコン製のシールドリンク17で囲われた状態とされている。
【0019】
プラズマエッチング装置1では、
図2(a)に示すように、電極板3と、この電極板3に密着して電極板3の熱を冷却する冷却板14とで電極構造20を構成する。電極構造20の電極板3と冷却板14とは分離可能に設けられており、
図2(b)には冷却板14を示し、
図2(c)には電極板3を示している。
【0020】
(電極板3)
電極構造20の電極板3は、単結晶シリコン、柱状晶シリコン、又は多結晶シリコンにより円板状に形成されている。
また、この電極板3の上側表面となる第一面31には冷却板14が固定される。電極板3の第一面31は、冷却板14との密着性及び接合性を高めるためにその表面が鏡面処理されている。電極板3のプラズマ放射面となる第二面32も異常放電防止のため鏡面処理される。これらの鏡面の程度としては、例えば中心線平均粗さRaで0.001μm程度とされるが、実質上Raが0.3μm以下であればよい。
電極板3は、
図2(c)に示すように、下流ガス流路11の入口111を第一面31に設けると共に第一面31とは反対に位置する第二面32に下流ガス流路11の出口112を設けて、下流ガス流路11が電極板3を貫通している。下流ガス流路11は電極板3に複数形成されている。
【0021】
(冷却板14)
電極構造20の冷却板14は、熱伝導性に優れるアルミニウム等からなり、一方の面141が拡散部材10を臨み、他方の面(以下、電極接触面と呼ぶ。)142が電極板3の第一面31に密着する。
冷却板14は、
図2(b)に示すように、上流ガス流路15の入口151を面141に設けると共に上流ガス流路15の出口152を電極接触面142に設けて、上流ガス流路15が冷却板14を貫通している。上流ガス流路15は冷却板14に複数形成されている。このように、電極板3は、冷却板14の電極接触面側に配置され、冷却板14の一方の面141から電極接触面142に貫通する上流ガス流路15と連通する下流ガス流路11と、後述の耐腐食膜210とを備えている。
【0022】
(耐腐食膜)
耐腐食膜210は電極板3の第一面31に形成され、第二面32には形成されていない。耐腐食膜210は、電極板3をプロセスガスによる腐食から保護する保護膜であり、フッ化物膜、C含有膜、貴金属膜として形成される。フッ化物膜としては、Al、Zr、Zn、Mg、Ce、Ag、Y、Fe、Cu、Cr、Niの何れかの元素を含む膜が好ましく、C含有膜としてはCのみから成る膜、或いはCとSiとを含む膜が好ましく、貴金属膜としてはAg合金で成る膜が好ましい。さらに、耐腐食膜210は好ましくは非晶質の膜として形成される。また、耐腐食膜210は緻密に構成された高硬度の膜が好ましい。耐腐食膜210の膜厚は、好ましくは30nm以上5000nm以下である。耐腐食膜210は、好ましくはピンホールや亀裂など欠陥密度が1.24個/mm2以下である。ここで、欠陥密度は、一定の面積(平方ミリメートル)に存在するピンホールや亀裂などの欠陥の数であり、複数個所の欠陥の数の平均値である。
【0023】
耐腐食膜210は、
図3に示すように、下地膜220を介して電極板3の第一面31に形成されてもよい。下地膜220としては、Si及び/又はCを含む膜を用いることができ、また下地膜220は、単層膜として、或いは多層構造として構成される。下地膜220を設けることで、耐腐食膜210と電極板3の第一面31との密着性が向上する。
【0024】
電極構造20では、電極板3の耐腐食膜210が冷却板14の電極接触面142に密着している。
【0025】
(電極板の製造方法)
電極板の製造方法は、電極板3を形成する電極板形成工程と、電極板の冷却面に耐腐食膜210を形成する膜形成工程と、を備えている。
電極板形成工程では、ドリルを用いてSi基板に貫通穴(下流ガス流路11)を形成し、Si基板の両面の貫通穴の周囲にあるバリをエッチング処理により取り除く。バリを削った後に、Si基板の両面をポリッシングする。
膜形成工程では、スパッタリングや真空蒸着によって、耐腐食膜210を電極板3の第一面31(冷却面)に形成する。なお、膜形成工程では、電極板3を加熱しながら成膜を行って、耐腐食膜210が加熱処理された膜として形成することもできる。膜形成工程の後に、第一面31に膜を形成された電極板3を加熱してもよい。加熱処理によって、耐腐食膜210が緻密化し、電極板3の第一面31との密着が強固になる。
【0026】
プラズマエッチング装置1の電極構造20によれば、電極板3と冷却板14との間にプロセスガスが入り込んで滞留したとしても、電極板3の第一面31が耐腐食膜210で覆われていることで、電極板3の第一面31の腐食を防止し、パーティクル発生を低減することができる。
【0027】
電極板3の第一面31が耐腐食膜210で覆われていない場合、プラズマエッチング装置1内で使用されるプロセスガスが電極板3と冷却板14の間に入り込むと、そのプロセスガスによって電極板が腐食し、さらに腐食生成物が剥離してパーティクルと成り、ウエハ(被処理基板)8を汚染することになる。
耐腐食膜210が下地膜220を介して電極板3の第一面31に形成されていると、耐腐食膜成分が電極板3に拡散して、プラズマ放射面からチャンバー内に放出されてウエハ(被処理基板)を汚染することを防止できる。さらに、耐腐食膜210の電極板3に対する密着性が向上することにより剥離が起こりにくくなりパーティクル発生を一層低減することができる。
【0028】
耐腐食膜210が非晶質であると、耐腐食性を一層発揮することができる。一方、耐腐食膜に結晶粒界があると腐食性ガスの高速拡散路となりその部分から電極板の腐食が進む場合がある。
耐腐食膜210が高硬度の膜であると、耐腐食性を一層発揮することができる。膜の硬度は一般に密度と相関があり、密度が高いほど硬度も高くなる傾向にあると考える。膜密度が高いことは腐食性ガスが膜に侵入し難くなることに繋がる。一方、耐腐食膜の硬度が低く、傷がつき易いと傷の部分から腐食が進む恐れがある。
耐腐食膜210が表面粗さの小さい平坦な膜であると、耐腐食性を一層発揮することができる。表面粗さの小さい平坦な膜は、粗さが大きく複雑な形状の表面を持つ膜に比べて腐食性ガスが吸着しにくく脱離しやすい傾向にあると考える。
【0029】
耐腐食膜210の膜厚が30nmより薄いと、耐腐食膜210にピンホールなどの欠陥が多くなり、欠陥部分から腐食性ガスが侵入して電極板3の第一面31が腐食し、さらに腐食生成物が剥落するとパーティクルと成る恐れがある。
耐腐食膜210の膜厚が5000nmより厚いと、膜応力が大きくなり広範囲に耐腐食膜210の剥離が生じる恐れがある。
【0030】
耐腐食膜210の欠陥密度が1.24個/mm2よりも大きくなると、ピンホールなどの欠陥から腐食性ガスが侵入して局所的な電極板3の第一面31の腐食が起こり、腐食生成物のガスによって膜が破れてパーティクルが発生する恐れがある。
【0031】
(第二実施形態)
第二実施形態に係るプラズマエッチング装置1Aは、第一実施形態に係るプラズマエッチング装置1と比べて、電極構造20Aが異なる。
図1や
図4において、第一実施形態と同じ構成には同じ符号を用いており、その詳細な説明は省略する。
【0032】
図4(a)は電極構造20Aを示し、
図4(b)には冷却板14を示し、
図4(c)には電極板3を示している。電極構造20Aの電極板3では、第一実施形態の電極板3と比べて、耐腐食膜210が下流ガス流路11の内周面11Aにも形成されている。冷却板14は、第一実施形態の冷却板14と比べて、耐腐食膜230が上流ガス流路15の内周面15Aと、上流ガス流路15の出口152が形成された電極接触面142にも形成されている。
【0033】
耐腐食膜230は、耐腐食膜210と同様に、フッ化物膜、C含有膜、貴金属膜として形成されていて、冷却板14をプロセスガスによる腐食から保護する。フッ化物膜としては、Al、Zr、Zn、Mg、Ce、Ag、Y、Fe、Cu、Cr、Niの何れかの元素を含む膜が好ましく、C含有膜としてはCのみから成る膜、或いはCとSiとを含む膜が好ましく、貴金属膜としてはAg合金で成る膜が好ましい。
耐腐食膜230の膜厚は、好ましくは30nm以上5000nm以下である。
耐腐食膜230は、好ましくはピンホールや亀裂などの欠陥密度が1.24個/mm2以下である。
【0034】
下流ガス流路11の内周面11Aや上流ガス流路15の内周面15Aを含めて電極板3や冷却板14への成膜は化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition:以下、CVDと呼ぶ。)や原子層堆積法(Atomic Layer Deposition)により行うことができる。
【0035】
図示することを省略するが、耐腐食膜230も、下地膜を介して冷却板14の電極接触面142に形成されてもよい。下地膜を設けることで、耐腐食膜230と冷却板14の電極接触面142との密着性が向上する。
【0036】
電極構造20Aでは、電極板3の耐腐食膜210が冷却板14の耐腐食膜230に密着している。
【0037】
プラズマエッチング装置1Aの電極構造20Aでは、電極板3と冷却板14との間にプロセスガスが入り込んで滞留したとしても、電極板3の第一面31が耐腐食膜210で覆われ、さらに冷却板14の電極接触面142が耐腐食膜230で覆われていることで、電極板3の第一面31及び冷却板14の電極接触面142の腐食を防止することができる。また、下流ガス流路11の内周面11Aが耐腐食膜210で覆われ、上流ガス流路15の内周面15Aが耐腐食膜230で覆われることでも、下流ガス流路11の内周面11Aや上流ガス流路15の内周面15Aが腐食することを防止することができる。電極構造20Aによれば、パーティクルの発生を一層防止することができる。
【0038】
さらに、下流ガス流路11の内周面11Aが耐腐食膜210で覆われ、上流ガス流路15の内周面15Aが耐腐食膜230で覆われることで、内周面11Aや内周面15Aがプロセスガスにより腐食しガス流路の内径が大きくなり、使用寿命が短くなることを防止できる。
【0039】
本発明は、上記の実施形態に限らず実施をすることができる。
電極構造20Aでは、耐腐食膜230が上流ガス流路15の内周面15Aを覆っているが、内周面15Aの耐腐食膜230を省いて構成されてもよい。
【0040】
電極構造20,20Aにおいて、上流ガス流路15の内周面15Aや下流ガス流路11の内周面11Aに耐腐食膜を形成してもよく、内周面15Aや内周面11Aに耐腐食膜を形成するかどうかは必要に応じて選択することができる。ガス流通路内周面11Aの耐腐食膜も下地膜220を介して形成してもよい。
上流ガス流路15の内周面15Aや下流ガス流路11の内周面11Aが耐腐食膜210,230で覆われている場合には、使用が長時間に及んだときにプロセスガスにより耐腐食膜210,230の表面が変質し、この変質箇所が剥落してパーティクルと成る恐れがあるが、耐腐食膜210,230を省くとこれを回避できる。
【実施例0041】
A.第一試験
(1)腐食性ガス暴露試験
(1-1)試験内容
各種の膜を形成した基板で成る試料を腐食性ガスに晒して、暴露後の膜の外観、暴露後の膜の欠陥の数、暴露後の基板の表面の腐食の度合い、暴露後の試料のパーティクルの発生数を確認した。
【0042】
(1―2)試料
基板としては、外観評価、欠陥密度評価、表面腐食度評価に、縦2cm横2cmの大きさに切断したSiウエハを用い、パーティクル発生数評価には4インチSiウエハを用いた。
試料としては、それぞれ異なる膜を形成したものを用い、その内、膜厚が30nm以上5000nm以下であるものを実施例1~実施例14、膜厚が200nmで耐腐食性に乏しいAl2O3膜を形成したものを比較例1、膜厚が30nm未満5000nmよりも大きいものを比較例2及び比較例3、さらに膜を設けていないものを比較例4とした。以下、各試料の膜の構成、成膜条件、成膜方法である。
【0043】
(1―2-1)実施例1~実施例4
実施例1の膜はMgF2で構成され、実施例2の膜はYF3膜で構成され、実施例3の膜はAlF3で構成され、実施例4の膜はCeF3膜で構成されている。
成膜方法 : 真空蒸着
成膜条件
蒸着材 : MgF2,YF3,AlF3,CeF3
成膜開始圧力 : 2×10-3Pa
自動圧力制御(APC): なし
基板温度 : 300℃
基板ドーム回転速度 : 20rpm
【0044】
(1―2-2)実施例5~実施例11、比較例2~比較例3
実施例5~実施例8の膜はCで構成され、実施例9~実施例11の膜はSiCで構成され、比較例2~比較例3はCで構成されている。
成膜方法 : スパッタリング
成膜条件
ターゲット : C,SiC
ターゲットの大きさ : φ125mm、厚さ5mm
放電電力(電力密度) : パルスDC 1000W(8.1W/cm2)
パルス条件 : 周波数50kHz,duty比20%
成膜開始圧力 : 7×10-4Pa
スパッタガス全圧 : 0.67Pa
Ar流量 : 50sccm
基板温度 : 室温(加熱も冷却もなし)
【0045】
(1―2-3)実施例12
実施例12の膜はAg合金で構成されている。
成膜方法 : スパッタリング
成膜条件
ターゲット : Ag合金
ターゲットの大きさ : 縦126mm、横178mm、厚さ6mm
放電電力(電力密度) : DC 300W(1.3W/cm2)
成膜開始圧力 : 7×10-4Pa
スパッタガス全圧 : 0.3Pa
Ar流量 : 50sccm
基板温度 : 室温(加熱も冷却もなし)
【0046】
(1―2-4)実施例13(C膜)
実施例13はCで構成されている。
成膜方法 : RFプラズマCVD
成膜条件
反応ガス : CH4, H2
ガス全圧 : 25Pa
RF電力 : 2W/cm2
基板温度 : 250℃
【0047】
(1―2-5)実施例14(SiC膜)
実施例14はSiCで構成されている。
成膜方法 : RFプラズマCVD
成膜条件
反応ガス : SiH4,CH4,H2
ガス全圧 : 100Pa
RF電力密度 : 2W/cm2
基板温度 : 400℃
【0048】
(1―2-6)比較例1(Al2O3膜)
比較例1はAl2O3で構成されている。
成膜方法 : 真空蒸着
成膜条件
蒸着材 : Al2O3(1~3mm)
成膜開始圧力 : 5×10-3Pa
自動圧力制御(APC): あり(O2導入)
基板温度 : 300℃
基板ドーム回転速度 : 20rpm
【0049】
(1-3)試験手順
以下の第一工程A1から第四工程A4を順に行う。
第一工程A1:
図5に示すように、無水フッ酸を収容すると共にキャリアガスとして窒素ガスを無水フッ酸に流し込んで腐食性ガス(HFガス)を生成するガス生成槽410と、試料300を底に収容してガス生成槽410からの腐食性ガスに試料300を暴露するための反応槽420と、を設けた試験装置400を組み立てる。ガス生成槽410と反応槽420としてはそれぞれPFA(フッ素樹脂)製の容器を用いる。
第二工程A2: 反応槽に膜形成面を上にして試料を入れる。
第三工程A3: 以下の試験条件で反応槽にHFガスを流通させ膜表面をガスに暴露させる。なお、試験用の腐食性ガスには半導体製品のプラズマエッチングに使用される高腐食性ガスが使用できる。本実施例では特に腐食性の高いHFガスを用いた。反応槽の大きさは試料の大きさや数に応じて調整することができる。
〈試験条件〉
窒素ガスの流量 : 60ml/min
腐食性ガス(HF)源 : 無水フッ酸
流通ガス中のHF濃度 : 40~60%
暴露時間 : 24時間
試験温度 : 室温
第四工程A4: 所定の時間だけ暴露したら試料を取出し水洗して外観、欠陥の数、表面腐食度、パーティクル発生数の評価を行う。
【0050】
(2)評価
暴露後の膜の外観、暴露後の膜の欠陥の数、暴露後の基板の表面の腐食の度合い、暴露後の試料のパーティクルの発生数の評価方法は以下のとおりである。
【0051】
(2-1)腐食性ガス暴露試験済み試料の外観の評価方法
目視で膜の表面状態として、膜の剥離、変色、変形などを観察し、腐食性ガス暴露試験前の状態と比較して著しい表面状態の変化などがなければ合格、あれば不合格とする。外観評価を表1に示す。なお、表1では合格を『OK』、不合格を『NG』と表している。
【0052】
(2-2)耐腐食膜の欠陥の数の評価方法
耐腐食膜がピンホールなどの欠陥を多く含むと、そこから腐食性ガスが侵入して局所的な基板の腐食が起こる。腐食性ガスによって基板の腐食した箇所を腐食点と呼ぶ。さらに、腐食生成物のガスによって耐腐食膜が破れてパーティクルが発生する場合がある。これは膜材料自身が耐腐食性を有していても欠陥があれば起こり得る現象である。
腐食性ガス暴露試験によって発生した基板の腐食点の密度が耐腐食膜にもともと存在していたピンホールなどの欠陥の密度に相当すると定義すれば、一定の面積に観察された腐食点の数から欠陥密度を得ることができる。
この定義にしたがって、腐食性ガス暴露試験を行った試料を用い、縦4mm、横4mmの視野を撮影した光学顕微鏡写真上で直径40μm以上の腐食点を計数することにより耐腐食膜にもともと存在していたと考えられる欠陥の数を求めた。
欠陥の数が20個未満であれば『合格』、20個以上を『不合格』とした。欠陥数の評価を表1に示す。なお、表1では合格の内、欠陥の数が5個未満を『優』、5個以上20個未満を『良』、不合格を『NG』と表している。
【0053】
(2-3)腐食性ガス暴露試験済み試料の表面腐食度の評価方法
外観評価が合格である試料を対象とする。XPSによって深さ方向元素分析を行い、試料表面の腐食度を調べる。XPSによる深さ方向の分析条件は以下に示す。
〈分析条件〉
スパッタイオン : Ar
+
スパッタ時間合計 : 60分
スパッタ速度 : 0.3nm/min(スパッタ開始後0~30分間)
1.1nm/min(30分経過後~60分間経過まで)
分析間隔 : スパッタリングを1分行うごとに分析を行う。
分析元素種 : F、各耐腐食膜材料の構成元素
なお、スパッタ速度は、試料表面は暴露試験による変化が大きいためゆっくりスパッタリングして深さ方向に掘っていき、ある程度の深さから速度を上げる条件とし、また基準試料のSiO
2膜をスパッタリングしたときの成膜速度で表している。
表面腐食度としては、腐食生成物が検出されないものを『合格』、腐食生成物が最表面でしか検出されないものも『合格』、それ以外を『不合格』とする。
図6の(a)に実施例6(C膜)のXPSデータ、(b)に実施例10(SiC膜)のXPSデータ、(c)に比較例1(Al
2O
3膜)のXPSデータを示す。C膜はFが検出されず、SiC膜は最表面にのみFが存在するため、それぞれ合格とした。Al
2O
3膜は目視外観評価の段階で不合格だが、参考のためにXPSデータを示す。Al
2O
3膜では大部分が剥離したためAlはほとんど検出されずにSiが多く検出されており、Si基板が露出したことが確認できる。
表面腐食度の評価を表1に示す。なお、表1では合格の内、腐食生成物が検出されないものを『優』、腐食生成物が最表面でしか検出されないものを『良』、不合格を『NG』と表している。
【0054】
(2-4)腐食性ガス暴露試験済み試料のパーティクル発生数の試験手順と評価方法
(2-4―1)試験手順
以下の第一工程B1から第四工程B6を順に行う。
第一工程B1: プラズマエッチング装置などの真空チャンバーを有する装置の中に腐食性ガス暴露試験を行った試料(Siウエハ)と、何も処理を施していない清浄な他の試料(Siウエハ:ダミーウエハ)を並べて配置する。
第二工程B2: チャンバーを真空度が5×10-3Paに到達するまで真空排気する。
第三工程B3: 真空度が5×10-3Paである状態を10分間維持する。
第四工程B4: 乾燥空気や窒素ガスなどを導入しチャンバーを大気圧に戻す。
第五工程B5: 第二工程B2から第四工程B4を10回繰り返す。
第六工程B6: ダミーウエハを取出し、パーティクルカウンタでダミーウエハ上のパーティクルの数を測定、或いは光学顕微鏡の暗視野像の画像解析を行い輝点(パーティクル)の合計面積を算出して、パーティクル数n1とする。
(2-4―2)評価方法
ダミーウエハ上のパーティクル数n1が、腐食性ガス暴露試験を行ったSiウエハを置かず、ダミーウエハのみで上記のパーティクル発生数の試験を実施したときのパーティクル発生数n2を10倍した数(以下、参照値と呼ぶ。)n3より小さければ『合格』とし、パーティクル数n1が参照値n3よりも大きければ『不合格』とした。パーティクル数n1の評価を表1に示す。なお、表1では合格の内、パーティクル数n1がパーティクル発生数n2の3倍未満であれば『優』、パーティクル数n1がパーティクル発生数n2の3倍以上10倍未満であれば『良』と表し、また不合格を『NG』と表している。
【0055】
【0056】
(3)第一試験のまとめ
実施例1~実施例14の耐腐食膜は外観評価、欠陥密度評価、表面腐食度評価は何れも合格であり、パーティクルの発生数も合格であり、電極板の冷却面を保護する膜として好ましいことを確認した。
比較例1~比較例3の耐腐食膜は外観評価、欠陥密度評価何れも不合格であり、パーティクルの発生数も不合格となり、電極板の冷却面に用いるには好ましくはないことを確認した。
【0057】
(耐腐食膜の欠陥)
耐腐食膜がピンホールなどの欠陥を多く含むと、そこから腐食性ガスが侵入して局所的な基材の腐食が起こり、腐食生成物のガスによって膜が破れてパーティクルが発生する場合があるため、欠陥は少ないほうが耐腐食膜として有利である。縦4mm、横4mmの視野に20個の欠陥がある場合には、欠陥密度が1.25個/mm2となり、これに相当する比較例1~比較例3のパーティクル発生数が不合格となったことから、電極板や冷却板に設ける耐腐食膜としては欠陥密度が1.24個/mm2以下であることが望ましい。
【0058】
(耐腐食膜の結晶性)
結晶粒界は腐食性ガスの高速拡散路となるおそれがあるが、非晶質にはこれがないため耐腐食膜として有利である。
図7の(a)に実施例6(C膜)のXRDデータと、(b)に実施例10(SiC膜)のXRDデータと、を示すように、実施例6(C膜)と実施例10(SiC膜)は結晶ピークが観測されず非晶質である。一方、
図8の(a)に示す実施例1(MgF
2膜)のXRDデータと、(b)に示す実施例2(YF
3膜)のXRDデータにはMgF
2とYF
3の結晶ピークがそれぞれ観測されており、実施例1のMgF
2膜と実施例2のYF
3膜は結晶質膜である。なお、XRDの測定は、薄膜X線回折法により行い、その際のX線の入射角度は1度とした。実施例1のMgF
2膜と実施例2のYF
3膜と実施例12のAg合金膜は結晶質膜であるが、緻密な膜が形成されているため耐腐食性は良好である。
【0059】
(耐腐食膜の硬度)
膜の硬度が低く傷がつき易いと傷の部分から電極板3の第一面31の腐食が進む恐れがあるが、高硬度の膜ではこれを回避できるため耐腐食膜として有利である。
また、膜の硬度は一般に密度と相関があり、密度が高いほど硬度も高くなる傾向にあることが多い。膜密度が高いことは腐食性ガスが膜に侵入しにくくなることにつながると期待でき、耐腐食膜として有利である。表2に本発明の膜の硬度として耐腐食膜の押し込み硬さを示す。押し込み硬さの測定は、ナノインデンテーション法により行い、バーコビッチ圧子を使用して、最大荷重は押し込み深さが膜厚の1/10以内に収まるように設定した。なお、耐腐食膜は、『A.第一試験』の膜の構成、成膜方法、成膜条件と同じであり、『A.第一試験』と同じ膜には『A.第一試験』の試料番号を、表2で用いている。
【0060】
【0061】
<表面粗さ>
表面粗さの小さい平坦な膜は、粗さが大きく複雑な形状の表面を持つ膜に比べて腐食性ガスが吸着しにくく脱離しやすい傾向にある。このことは耐食膜として有利である。表3に耐腐食膜の表面粗さを示す。原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope)で、1μm四方の範囲を観察し、平均面粗さRaと最大高低差P-Vを測定した。
【0062】
【0063】
B.第二試験
(1)電極板のガス流路(内周面)の耐腐食膜
(1-1)試験内容
各種の耐腐食膜を冷却板側の第一面に形成した電極板を試料として、ガス流路(内周面)の耐腐食膜の有無を確認した。
【0064】
(1―2)試料
電極板としては、複数のガス流路が第一面から第二面まで貫通していて、冷却板と接触する第一面に耐腐食膜が形成されたSi電極板を用いた。Si電極板の大きさは、φ418mm、厚さ14mm、耐腐食膜の膜厚は200nmである。
なお、耐腐食膜は、『A.第一試験』の膜の構成、成膜方法、成膜条件と同じであり、『A.第一試験』と同じ膜には『A.第一試験』の試料番号を用いる。
【0065】
(1―3)電極板のガス流路(内周面)の耐腐食膜の分析方法
以下の第一工程C1から第三工程C3を順に行う。
第一工程C1: Si電極板の第一面(冷却板と接触する冷却面)に200nmの厚さの耐腐食膜を形成する。
第二工程C2: ガス流路の断面が出るよう電極板を切断し、樹脂に埋め込んで観察用試料を作製する。
第三工程C3: ガス流路内周面の入口から1mm深さまでの範囲を走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(Scanning Electron Microscope - Energy Dispersive X-ray Spectrometry:以下、SEM-EDXと呼ぶ。)で線分析する。SEM-EDXによる線分析条件を以下に示す。
分析位置 :
図9(b)に示すP1~P5の箇所を分析。P1は第一面512近傍に設定する。
線分析走査方向: ガス流路の内周面に当たる位置を横切るよう、
図9(b)の矢印で示す方向に走査する。
入射電圧 : 15kV
WD : 10mm前後
倍率 : 5000倍程度
分析元素種 : 各耐腐食膜を構成する元素、Si(電極板の成分)、C(埋め込み用樹脂の成分)
なお、
図9(b)は
図9(a)の破線で囲った部分の拡大図であり、図中の符号500が電極板、符号510がガス流路、511がガス流路510の入口、511Aがガス流路510の内周面、512が入口511を設けていると共に冷却板と接触する第一面、513がガス流路510の出口、514が出口513を設けていると共に第一面(冷却面)512の反対側に位置する第二面、520が耐腐食膜である。
【0066】
(2)電極板のガス流路(内周面)の耐腐食膜の評価方法
膜形成面から1mm深さまでの範囲のガス流路の内周面から耐腐食膜を構成する元素が検出されたら「有り」、検出されなければ「無し」として表4に評価結果を示す。
【0067】
【0068】
(3)第二試験のまとめ
実施例13~実施例14の試料では、ガス流路510の内周面511Aに耐腐食膜520が形成されていることを確認した。
実施例1~実施例12、比較例1~比較例3の試料では、耐腐食膜520はガス流路510の内周面511Aには形成されていないことを確認した。
ガス流路510の内周面511Aに耐腐食膜520が形成されている場合、使用が長時間に及んだときにプロセスガスやプラズマにより耐腐食膜520の表面が変質して剥落しパーティクルが発生する恐れがあるが、内周面511Aに耐腐食膜520が形成されていなければこれを回避できる。
ガス流路510の内周面511Aに耐腐食膜520が形成されていない場合、プロセスガスにより内周面511Aが腐食してガス流路510の内径が大きくなり使用寿命が短くなる恐れがあるが、内周面511Aに耐腐食膜520が形成されていればこれを回避できる。