(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065908
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】飲料用組成物および唾液分泌促進方法
(51)【国際特許分類】
A23L 2/52 20060101AFI20240508BHJP
A23L 29/238 20160101ALN20240508BHJP
【FI】
A23L2/52
A23L29/238
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022174996
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】591014972
【氏名又は名称】株式会社 伊藤園
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【弁理士】
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】田中 泰史
(72)【発明者】
【氏名】一谷 正己
(72)【発明者】
【氏名】小林 誠
(72)【発明者】
【氏名】瀧原 孝宣
【テーマコード(参考)】
4B041
4B117
【Fターム(参考)】
4B041LC10
4B041LD01
4B041LE08
4B041LH07
4B041LK02
4B041LK05
4B041LP17
4B041LP18
4B117LE10
4B117LG17
4B117LK01
4B117LK06
4B117LK13
4B117LL09
4B117LP14
4B117LP17
(57)【要約】
【課題】 唾液分泌を促進することができ、かつ飲料の形態で摂取することのできる組成物、およびこれを用いた唾液分泌を促進する方法を提供する。
【解決手段】 カテキン類を有効成分とする、唾液分泌を促進するための飲料用組成物。飲料としたときに、カテキン類含有量が200~2000ppmであり、ガレート型カテキン含有量が100~2000ppmであり、カテキン類含有量に対するガレート型カテキン含有量の比率(ガレート型カテキン/カテキン類)が0.3~1.0であることが好ましい。飲料用組成物は、飲料として調製され、単回で摂取されることが好ましい。また、飲料用組成物は、増粘剤を含有することが好ましい。本発明はさらに、カテキン類を飲料の形態で摂取することを特徴とする、唾液分泌を促進する方法も提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテキン類を有効成分とする、唾液分泌を促進するための飲料用組成物。
【請求項2】
液状、粉末状および顆粒状から選択される1種または2種以上の形態であることを特徴とする、請求項1に記載の飲料用組成物。
【請求項3】
飲料としたときに、カテキン類含有量が200~2000ppmであり、ガレート型カテキン含有量が100~2000ppmであり、カテキン類含有量に対するガレート型カテキン含有量の比率(ガレート型カテキン/カテキン類)が0.3~1.0であることを特徴とする請求項1または2に記載の飲料用組成物。
【請求項4】
飲料として調製され、単回で摂取されることを特徴とする請求項1または2に記載の飲料用組成物。
【請求項5】
増粘剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の飲料用組成物。
【請求項6】
飲料としたときに、粘度が1.8mPa・s以上であることを特徴とする請求項1に記載の飲料用組成物。
【請求項7】
飲料として調製され、単回で摂取されることを特徴とする請求項5または6に記載の飲料用組成物。
【請求項8】
カテキン類を飲料の形態で摂取することを特徴とする、唾液分泌を促進する方法。
【請求項9】
前記飲料において、カテキン類含有量が200~2000ppmであり、ガレート型カテキン含有量が100~2000ppmであり、カテキン類含有量に対するガレート型カテキン含有量の比率(ガレート型カテキン/カテキン類)が0.3~1.0であることを特徴とする請求項8に記載の唾液分泌を促進する方法。
【請求項10】
前記飲料を単回で摂取することを特徴とする請求項8または9に記載の唾液分泌を促進する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、唾液分泌を促進するための飲料用組成物および唾液分泌を促進する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、口腔機能低下者の増加が社会的な問題となっている。この進行により、食事の摂れない状態に陥り、生命を脅かされうる事態となっている。したがって、日常生活で口腔機能を良好に保つことは重要である。口腔機能の低下の多くは唾液分泌の低下に起因する。これにより口腔内が乾燥すると、齲蝕や歯周病に加え、口内炎、カンジダ症、誤嚥性肺炎、味覚障害、摂食嚥下障害等を引き起こす(非特許文献1)。日本では約3000万人、すなわち国民の4人に1人が口腔乾燥症(ドライマウス)とも言われており(非特許文献2)、口腔内の潤いを保つことは、健やかな生活やおいしく食事をとれる生活を維持するうえで重要で、その一助となる食品が望まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】日本静脈経腸栄養学会雑誌,(2016),31巻,2号,pp.675-680
【非特許文献2】老年歯科医学,(2008),23巻,3号,pp.319-329
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
口腔乾燥対策の機能性表示食品としていくつかの届出がなされているが、これらはいずれもサプリメント形状の食品に限定されており、飲料の形態で摂取可能な口腔乾燥対策食品は十分に提供されているとは言い難い状況であった。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、唾液分泌を促進することができ、かつ飲料の形態で摂取することのできる組成物、およびこれを用いた唾液分泌を促進する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく本発明者等が鋭意検討したところ、カテキン類を有効成分として用いることで、飲料の形態で摂取可能な飲料用組成物であって、かつ唾液分泌を促進することができることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のとおりである。
【0007】
〔1〕 カテキン類を有効成分とする、唾液分泌を促進するための飲料用組成物。
〔2〕 液状、粉末状および顆粒状から選択される1種または2種以上の形態であることを特徴とする、〔1〕に記載の飲料用組成物。
〔3〕 飲料としたときに、カテキン類含有量が200~2000ppmであり、ガレート型カテキン含有量が100~2000ppmであり、カテキン類含有量に対するガレート型カテキン含有量の比率(ガレート型カテキン/カテキン類)が0.3~1.0であることを特徴とする〔1〕または〔2〕に記載の飲料用組成物。
〔4〕 飲料として調製され、単回で摂取されることを特徴とする〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の飲料用組成物。
〔5〕 増粘剤を含有することを特徴とする〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の飲料用組成物。
〔6〕 飲料としたときに、粘度が1.8mPa・s以上であることを特徴とする〔1〕~〔3〕および〔5〕のいずれかに記載の飲料用組成物。
〔7〕 飲料として調製され、単回で摂取されることを特徴とする〔5〕または〔6〕に記載の飲料用組成物。
〔8〕 カテキン類を飲料の形態で摂取することを特徴とする、唾液分泌を促進する方法。
〔9〕 前記飲料において、カテキン類含有量が200~2000ppmであり、ガレート型カテキン含有量が100~2000ppmであり、カテキン類含有量に対するガレート型カテキン含有量の比率(ガレート型カテキン/カテキン類)が0.3~1.0であることを特徴とする〔8〕に記載の唾液分泌を促進する方法。
〔10〕 前記飲料を単回で摂取することを特徴とする〔8〕または〔9〕に記載の唾液分泌を促進する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の飲料用組成物は、飲料の形態で摂取可能であり、かつ唾液分泌を促進することができる。また、本発明の唾液分泌促進方法によれば、飲料の形態で摂取するという簡便な方法で、唾液の分泌を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】試験例1における試験当日のスケジュールを示した図である。
【
図2】試験例1:カテキン類溶解水(殺菌処理無し)の唾液分泌効果の結果を表すグラフである。
【
図3】試験例2:カテキン類配合飲料(殺菌処理有り)の唾液分泌効果の結果を表すグラフである。
【
図4】試験例3:粘度付与によるカテキン類の効果への影響を検討した結果を表すグラフである。A:ローカストビーンガムによるカテキン類の苦味増強効果の検討,B:ローカストビーンガムによるカテキン類の渋味増強効果の検討
【
図5】試験例4における試験当日のスケジュールを示した図である。
【
図6】試験例4:カテキン類+ローカストビーンガム配合飲料(殺菌処理有り)の唾液分泌効果の結果を表すグラフである。
【
図7】試験例4において、介入前唾液分泌速度の平均が0.1g/分を超える研究対象者(健常者)に対するカテキン類の効果を抜粋して比較した結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔飲料用組成物〕
本発明の一実施形態に係る、唾液分泌を促進するための飲料用組成物は、カテキン類を有効成分とするものである。
【0011】
本実施形態において「飲料」とは、そのまま飲用することのできる液状組成物をいう。また、本実施形態において「飲料用組成物」とは、前述した「飲料」に加えて、水や牛乳等の液体に溶解、希釈、または分散させることによって飲料を調製し得る組成物を包含した用語である。
本実施形態における飲料および飲料用組成物は、経口的に摂取される一般食品、健康食品、保健機能食品(特定保健用食品,栄養機能食品,機能性表示飲食品)、医薬部外品等を幅広く含むものである。
【0012】
本実施形態に係る飲料用組成物は、液状の形態であってもよく、粉末状や顆粒状等の固形物の形態であってもよい。また、液状である場合に、そのまま飲用することのできる飲料であってもよく、飲用前に希釈されることを前提とした濃縮液であってもよい。
【0013】
(カテキン類)
本明細書において「カテキン類」とは、カテキン(C)、ガロカテキン(GC)、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、カテキンガレート(Cg)、ガロカテキンガレート(GCg)、エピカテキンガレート(ECg)、エピガロカテキンガレート(EGCg)の8種をいうものとする。また、本明細書において「ガレート型カテキン」とは、上記8種のうちのカテキンガレート(Cg)、ガロカテキンガレート(GCg)、エピカテキンガレート(ECg)、エピガロカテキンガレート(EGCg)の4種をいうものとする。
【0014】
上記ガレート型カテキンまたは上記カテキン類は、それらを含有する植物から抽出することにより得ることができる。カテキン類を含有する植物としては、例えば、ツバキ科ツバキ属の常緑樹であるチャノキ(茶の木、学名:Camellia sinensis)が挙げられる。
【0015】
本明細書において、カテキン類の含有量等(飲料における含有量,摂取量等)は、これらの8種のカテキン類の含有量等の総和を意味し、ガレート型カテキンの含有量等とは、上記4種のガレート型カテキンの含有量等の総和を意味する。また、飲料用組成物におけるこれらの含有量は、特に断らない限り、当該飲料用組成物を飲料としたときの含有量を意味する。
【0016】
なお、上述した8種類のカテキン類のそれぞれの含有量は、紫外部波長で検出する高速液体クロマトグラフィーを用いた方法によって測定・定量することができる。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、例えば以下の条件で実施することができる。
装置名:Waters Alliance 2695セパレーションモジュール
カラム :Wakosil-II 3C18HG φ3.0×250mm(和光純薬工業社製)
カラム温度:40℃
移動相A:1% ギ酸水溶液
移動相B:メタノール
流速:0.5mL/分
検出器:Waters 2487 デュアル波長吸光度検出器 または Waters 2996 PDA検出器
検出波長:230nm
グラジエントプログラム:
[送液開始 条件I(A相:B相=85:15)]→
[0分~12分 条件Iから条件IIへ直線的に変化]→
[12分 条件II(A相:B相=65:35)]→
[12分~15分 条件IIから条件IIIへ直線的に変化]→
[15分 条件III(A相:B相=20:80)]→
[15分~15.5分 条件IIIから条件IVへ直線的に変化]→
[15.5分~25分 条件IV(A相:B相=85:15)を維持]
【0017】
本実施形態に係る飲料用組成物は、飲料としたときのカテキン類の含有量が200ppm以上であることが好ましく、300ppm以上であることがさらに好ましく、400ppm以上であることが特に好ましい。また、飲料としたときのガレート型カテキンの含有量は、100ppm以上であることが好ましく、200ppm以上であることがさらに好ましく、300ppm以上であることが特に好ましい。
カテキン類含有量およびガレート型カテキン含有量が上記下限値以上であると、本実施形態の飲料用組成物を摂取することによる唾液分泌促進効果がより発揮されやすくなる。
【0018】
本実施形態に係る飲料用組成物は、飲料としたときのカテキン類の含有量が、2000ppm以下であってよく、1500ppm以下であってよく、1200ppm以下であってよい。また、飲料としたときのガレート型カテキンの含有量は、2000ppm以下であってよく、1500ppm以下であってよく、1200ppm以下であってよい。
カテキン類含有量およびガレート型カテキン含有量が上記上限値以下である場合、本実施形態の飲料用組成物において、カテキン類等による苦味や渋味等が抑制され、嗜好性の観点から飲料として好ましい場合がある。
【0019】
本実施形態に係る飲料用組成物は、飲料としたときに、カテキン類含有量に対するガレート型カテキン含有量の比率(ガレート型カテキン/カテキン類)が、0.3以上、0.5以上、0.6以上、0.8以上、0.9以上、さらには0.95以上とすることが好ましい。ガレート型カテキン/カテキン類が上記下限値以上であることで、本実施形態の飲料用組成物を摂取することによる唾液分泌促進効果がより発揮されやすくなる。
なお、ガレート型カテキン/カテキン類の比率の上限は、1.0以下であればよい。
【0020】
なお、後述する増粘剤を含有する飲料用組成物は、増粘剤を含有しない飲料用組成物と比較して、カテキン類等による苦味・渋味を強く感じやすく、唾液分泌効果がより顕著なものとなる。したがって、増粘剤を含有しない飲料用組成物よりカテキン類含有量に対するガレート型カテキン含有量の比率(ガレート型カテキン/カテキン類)を低く設定することができる。
増粘剤を含有しない飲料用組成物(あるいは、飲料としたときの粘度が後述する下限値に満たない飲料用組成物)においては、上記ガレート型カテキン/カテキン類が0.6以上であることが好ましく、さらには0.8以上、0.9以上、さらには0.95以上とすることが好ましい。
【0021】
(増粘剤)
本実施形態に係る飲料用組成物は、増粘剤を含有することも、好ましい一態様である。飲料用組成物が増粘剤を含有することで、得られる飲料を摂取することにより、カテキン類による唾液分泌促進効果がより顕著なものとなり、特に唾液分泌速度が0.1g/分を超える対象者において、唾液分泌促進効果がより一層顕著なものとなる。
【0022】
ここで、本実施形態で使用し得る増粘剤とは、食品添加物として使用可能なものであって、水に溶解または分散して粘稠性を生じる物質をいう。本実施形態で使用し得る増粘剤としては、例えば、ローカストビーンガム、グアーガム、キサンタンガム、タマリンドガム、ジェランガム、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アラビアガム、スクシノグリカン、寒天等が挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、ローカストビーンガム、グアーガム、キサンタンガム、ジェランガム、カラギーナン、スクシノグリカン、寒天が好ましく、ローカストビーンガムが特に好ましい。
【0023】
(粘度)
本実施形態に係る飲料用組成物は、飲料としたときに、粘度が1.8mPa・s以上であることが好ましく、2.0mPa・s以上であることが特に好ましい。飲料としたときにかかる粘度を有する場合、飲料においてカテキン類による苦味や渋味が増強される。また、粘度が上記下限値以上である飲料を摂取することにより、カテキン類による唾液分泌促進効果がより顕著なものとなり、特に唾液分泌速度が0.1g/分を超える対象者において、唾液分泌促進効果がより一層顕著なものとなる。
なお、飲料としたときの粘度の上限は特に限定されないが、例えば、500mPa・s以下であってよく、350mPa・s以下であってよい。
【0024】
(飲料用組成物の製造方法等)
本実施形態に係る飲料用組成物は、有効成分とするカテキン類を含有させる以外、その形態に合わせた公知の方法に沿って製造することができる。より具体的には、有効成分とするカテキン類に加え、所望により増粘剤やその他の成分を適宜混合すればよい、その他の成分としては、例えば、甘味料、着色料、保存料、乳化剤、安定剤、酸化防止剤、発色剤、香料、酸味料、調味料、pH調整剤、栄養強化剤等を適宜用いることができる。
飲料用組成物が液状の場合は、加熱殺菌を行ってもよい。
【0025】
(摂取方法)
本実施形態に係る飲料用組成物は、飲料として調製され、摂取される。
かかる飲料用組成物は、単回で摂取されてもよく、所定期間(例えば、1週間以上等)継続的に摂取されてもよい。後述する実施例にて示すように、本実施形態に係る飲料用組成物は、単回で摂取されても、充分な唾液分泌促進効果を発揮することができる。
【0026】
なお、「単回」で摂取するとは、調製された1回分量の飲料を、短時間の間(具体的には、5分以内)に全て摂取することをいう。具体的には、調製された1回分量の飲料を、一時に一口で飲み切る態様のほか、短時間の間に複数口に分けて飲み切る態様も包含するものとする。
【0027】
かかる飲料は、一定時間口の中に含ませてから摂取されてもよい。口の中に含ませる時間は、1秒~300秒が好ましく、3秒~180秒がより好ましく、5秒~120秒が特に好ましい。上記のように摂取することで、有効成分を口内に行き渡らせることが出来るため、唾液分泌促進効果がより一層顕著なものとなる。
【0028】
1回分量の飲料の摂取量は、特に限定されないが、50~200mLとすることが好ましく、80~150mLとすることより好ましい。
上記範囲になるように摂取することで、有効成分を無理なく摂取することができる。
【0029】
摂取のタイミングは、特に限定されないが、食前、食間であることが好ましく、食前であることがより好ましい。
食前に摂取することで、唾液分泌が増えた状態で食事をすることが出来、飲みこみやすくする、味を感じやすくするといった唾液による効果を充分に得ることができる。
【0030】
(カテキン類の摂取量等)
本実施形態に係る飲料用組成物は、カテキン類の1回あたりの摂取量が、20~200mgであることが好ましく、30~150mgであることがさらに好ましく、40~120mgであることが特に好ましい。
また、本実施形態に係る飲料用組成物は、ガレート型カテキンの1回あたりの摂取量が、10~200mgであることが好ましく、20~150mgであることがさらに好ましく、30~120mgであることが特に好ましい。
カテキン類およびガレート型カテキンの1回あたりの摂取量が上記範囲にあることで、唾液分泌促進効果に優れるとともに、飲料として好ましいものとなる。
【0031】
(摂取対象)
本実施形態に係る飲料用組成物の摂取対象者は特に限定されず、口内の乾燥が気になるヒト、唾液分泌の低下が気になるヒト又はドライマウスの改善を意図するヒトであればよい。ただし、後述する実施例にて示すように、本実施形態に係る飲料用組成物は、唾液分泌速度が0.1g/分を超える対象者に対し、唾液分泌促進効果(さらにはドライマウス改善効果)がより一層顕著なものとなることから、かかる対象者は特に好適である。
【0032】
本実施形態に係る飲料用組成物は、カテキン類を有効成分とすることにより、飲料として摂取したときに唾液の分泌を促進することができる。かかる飲料用組成物は、例えば、ドライマウスの改善にも寄与することができる。
【0033】
〔唾液分泌促進方法〕
本発明の一実施形態に係る唾液分泌促進方法は、カテキン類を飲料の形態で摂取するものである。
本実施形態で用いる飲料としては、前述した実施形態に係る飲料用組成物から調製した飲料を好ましく例示することができる。
飲料用組成物に含まれる成分、当該飲料用組成物から調製された飲料の摂取方法は、前述した実施形態で説明したとおりである。
【0034】
本実施形態に係る方法は、ヒトの医療行為(ヒトに対する医師による医療行為)を除くものとすることができる。ヒトの医療行為を除く方法としては、例えば、前述した実施形態に係る飲料用組成物(あるいは、これから調製された飲料)が飲食品である態様を好ましく例示することができる。
【0035】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例0036】
以下、試験例等を示すことにより本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の試験例等に何ら限定されるものではない。
【0037】
〔試験例1〕カテキン類溶解水(殺菌処理無し)の唾液分泌効果
(1)研究対象者
本試験は、20~65歳で、口内の乾燥緩和が期待できる食品や医薬品を常用していない非喫煙健常男性8名を研究対象者として実施した。なお、研究対象者には試験の内容について十分な説明を行い、全ての研究対象者から試験参加の同意を得た上で実施した。
【0038】
(2)被験食品
表1に示す被験食品(カテキン類溶解水、プラセボ水)を調製し試験に用いた。尚、プラセボ水には着色料を配合し、両食品の見た目が同等となるようにした。また、被験食品は試験直前に調製され、殺菌処理は行わなかった。
【0039】
【0040】
(3)試験方法
試験は、単盲検無作為化プラセボ対照クロスオーバー試験にて実施した。試験当日のスケジュールを
図1に示す。
【0041】
試験当日の朝は歯磨きをすることとし、8:30以降の飲食を禁止した。マスクを着用してAM10:00に試験室(室温25℃程度に調整)に入室してもらい、30mLの脱イオン水で口内を30秒間すすがせた。マスクを装着した状態で、15分間座位で安静にしてもらった。15分後、手を膝に置き、目を開けたまま、頭を少し下げる姿勢をとり、口内の唾液を全て飲み込み、マスクを装着したまま5分間唾液を飲まずに下唇の後ろに溜めてもらい、口の中にたまった唾液全量を紙コップに吐き出してもらった。唾液吐出後に唇に付着した唾液は拭き取り紙(キムワイプ、日本製紙クレシア製)で拭って、拭き取り紙ごと紙コップに入れるよう指示した。事前に紙コップと拭き取り紙の合計重量を計量しておき、唾液採取後の重量との差を唾液分泌量とした。採取時間(5分)で除した値を介入前の唾液分泌速度(g/分)とした。
【0042】
次いで、後述する方法で被験食品を1分間かけて摂取させた。その後、マスクを装着し、唾液を全て飲み込んでから、同じ方法で唾液分泌量を測定し、介入後の唾液分泌速度(g/分)を算出した。
【0043】
被験食品は次の手順で摂取した。被験食品は試験前に25℃程度に保温し、100mLを2つの茶色の紙コップ(90mL容)に50mLずつに分けて研究対象者に提供した(尚、茶色の紙コップは、両飲料の液色の見た目を完全に一致させるために使用した)。2カップ分100mLを4口(1カップ分50mLを2口)に分けて、1口10秒間口に含ませる含み飲みにより飲用させた。飲用間隔を調整し、1口当たり15秒程度を目安とし、全量4口を1分間かけて飲み切るよう指示した。尚、各研究対象者に対し、カテキン類溶解水とプラセボ水を入れ替え、2日間試験を行った。
【0044】
(4)評価項目
介入前後の唾液分泌速度の変化を評価した。
(5)統計解析
データは、平均値±標準誤差で示した。
統計解析は、IBM SPSS Statistics(Ver.25)を用いて実施し、有意水準は両側5%とした。
群間の比較は、Wilcoxon符号付順位検定により行った。
【0045】
(6)結果
図2に示すとおり、プラセボ水と比較し、カテキン類溶解水で有意に唾液分泌が促進された(
p<0.05)。
本結果から、カテキン類による唾液分泌促進効果が確認された。また、本結果から、粉末緑茶、粉末清涼飲料水形態に適用できるものと考えらえた。
【0046】
〔試験例2〕カテキン類配合飲料(殺菌処理有り)の唾液分泌効果
(1)研究対象者
本試験は、20~65歳で、口内の乾燥緩和が期待できる食品や医薬品を常用していない非喫煙健常男性13名を研究対象者として実施した。なお、研究対象者には試験の内容について十分な説明を行い、全ての研究対象者から試験参加の同意を得た上で実施した。
【0047】
(2)被験食品
表2に示す被験食品(カテキン類配合飲料、プラセボ飲料)を調製し、缶容器に充填し、密封した後、121.1℃・15分間の殺菌処理を行った。尚、プラセボ飲料には着色料を配合し、両食品の見た目が同等となるようにした。
【0048】
【0049】
(3)試験方法
試験は、単盲検無作為化プラセボ対照クロスオーバー試験にて実施した。試験当日は試験例1の
図1と同様のスケジュールに従った。
【0050】
試験当日の朝は歯磨きをすることとし、8:30以降の飲食を禁止した。マスクを着用してAM10:00に試験室(室温25℃程度に調整)に入室してもらい、30mLの脱イオン水で口内を30秒間すすがせた。マスクを装着した状態で、15分間座位で安静にしてもらった。15分後、手を膝に置き、目を開けたまま、頭を少し下げる姿勢をとり、口内の唾液を全て飲み込み、マスクを装着したまま5分間唾液を飲まずに下唇の後ろに溜めてもらい、口の中にたまった唾液全量を紙コップに吐き出してもらった。唾液吐出後に唇に付着した唾液は拭き取り紙(キムワイプ、日本製紙クレシア製)で拭って、拭き取り紙ごと紙コップに入れるよう指示した。事前に紙コップと拭き取り紙の合計重量を計量しておき、唾液採取後の重量との差を唾液分泌量とした。採取時間(5分)で除した値を介入前の唾液分泌速度(g/分)とした。
【0051】
次いで、後述する方法で被験食品を1分間かけて摂取させた。その後、マスクを装着し、唾液を全て飲み込んでから、同じ方法で唾液分泌量を測定し、介入後の唾液分泌速度(g/分)を算出した。
【0052】
被験食品は次の手順で摂取した。被験食品は試験前に25℃程度に保温し、100mLを2つの無色透明のプラスチックカップ(80mL容)に50mLずつに分けて、茶色の木製の机の上に提供した。(プラスチックカップに被験食品を注ぎ、茶色の木製の机の上に提供することで、両飲料の見た目は完全に同一となった。)2カップ分100mLを4口(1カップ分50mLを2口)に分けて、1口10秒間口に含ませる含み飲みにより飲用させた。飲用間隔を調整し、1口当たり15秒程度を目安とし、全量4口を1分間かけて飲み切るよう指示した。尚、各研究対象者に対し、カテキン類配合飲料とプラセボ飲料を入れ替え、2日間試験を行った。
【0053】
(4)評価項目
介入前後の唾液分泌速度の変化を評価した。
【0054】
(5)統計解析
データは、平均値±標準誤差で示した。
統計解析は、IBM SPSS Statistics(Ver.25)を用いて実施し、有意水準は両側5%とした。
群間の比較は、Wilcoxon符号付順位検定により行った。
【0055】
(6)結果
図3に示すとおり、プラセボ飲料と比較し、カテキン類配合飲料で有意に唾液分泌が促進された(
p<0.05)。
本結果から、カテキン類による唾液分泌促進効果が再確認されたとともに、当該発明は、容器詰緑茶飲料、容器詰清涼飲料水等の形態に適用できるものと考えられた。
【0056】
〔試験例3〕粘度付与によるカテキン類の効果への影響の検討
(1)試験方法
表3に示すとおり、水に、緑茶抽出物(製品名:テアフラン90S)と、濃度を振ったローカストビーンガム(製品名:GENU GUM type RL-200-J,CPケルコ社製)とを配合し、サンプルを調製した(サンプル1~6)。重炭酸ナトリウムでpHを6.1に調整し、缶容器に充填し、密封した後、121.1℃・15分間の殺菌処理を行った。
【0057】
得られたサンプルを、2回転倒混和した。その後開封し、23℃の条件下において、TVB-10形粘度計(東機産業社製)を用い、100rpm・30秒にて、サンプルの粘度を測定した。サンプル1~4については、Lアダプタを装着したLロータ、サンプル5,6についてはM1ロータを併せて用い(いずれも東機産業社製)、測定した。得られたサンプルにおいては、ローカストビーンガムの濃度依存的に粘度が増加した(表3)。
【0058】
【0059】
得られたサンプル(サンプル1~6)を、味認識装置(Taste Sensing system SA402B,アンリツ社製)に供し、苦味と渋味強度を測定した。尚、測定は3連で行った。
【0060】
(2)結果
図4に示すとおり、ローカストビーンガムの濃度依存的に、苦味・渋味が増強された。カテキン類の唾液分泌促進効果は苦味や渋味によるものと考えられるため、ローカストビーンガムを併用すると、その効果が高まるものと推察された。
【0061】
〔試験例4〕カテキン類+ローカストビーンガム配合飲料(殺菌処理有り)の唾液分泌効果
(1)研究対象者
研究対象者として、表4の登録基準を満たし、除外基準を満たさなかった29名(男性24名,女性5名)を採用した。研究対象者の年齢は25~52歳(33.3±7.7歳(平均値±標準偏差))であった。なお、研究対象者に対しては、研究内容について十分な説明を行い、全ての研究対象者から試験参加の同意を得た上で実施した。
【0062】
【0063】
(2)被験食品
本試験では、表5に示す試験飲料とプラセボ飲料を調製し、缶容器に充填し、密封した後、121.1℃・15分間の殺菌処理を行った。ただし、ローカストビーンガムの配合量は、両飲料の殺菌後の粘度が同等となるように、濃度を調整して配合した。両飲料の栄養成分、及びカテキン類含有量を表6に示す。研究対象者にはいずれかの飲料100mLを、後述する方法にて単回摂取させた。また、飲料を入れ替えて、別の日に単回摂取させた。
【0064】
【0065】
【0066】
(3)試験方法
本試験は、単盲検無作為化プラセボ対照クロスオーバー試験にて実施した。選抜した29人をA群(先に試験飲料を摂取)とB群(先にプラセボ飲料を摂取)に無作為に分けた。
研究対象者には、“試験の同意日から最終試験日まで、それまでの生活習慣を変えないこと”、“口内の乾燥緩和が期待できる食品や医薬品を摂取しないこと”、“試験日前日は日常生活を逸脱する過食や節食、睡眠不足、過度の労作を避け、夜更かしや飲酒をしないこと”を遵守させた。
【0067】
試験当日のスケジュールを
図5に示す。
試験当日の朝は歯磨きをすることとし、8:30以降の飲食を禁止した。マスクを着用してAM10:30に試験室(室温22℃程度に調整)に入室してもらい、30mLの脱イオン水で口内を30秒間すすがせた。マスクを装着した状態で、15分間座位で安静にしてもらった。15分後、手を膝に置き、頭を下げて目を開けて机の手前を見る姿勢をとり、口内の唾液を全て飲み込み、マスクを装着したまま5分間唾液を飲まずに下唇の後ろに溜めてもらい、口の中にたまった唾液全量をプラスチックカップに吐き出してもらった。唾液を溜めている間はできる限り動かず、かつ舌を動かさないよう指示した。唾液吐出後に唇に付着した唾液は拭き取り紙(キムワイプ、日本製紙クレシア製)で拭って、拭き取り紙ごとプラスチックカップに入れるよう指示した。事前にプラスチックカップと拭き取り紙の合計重量を計量しておき、唾液採取後の重量との差を唾液分泌量とした。採取時間(5分)で除した値を介入前の唾液分泌速度(g/分)とした。
【0068】
次いで、後述する方法で被験食品を1分間かけて摂取させた。その後、マスクを装着し、唾液を全て飲み込んでから、同じ方法で唾液分泌量を測定し、介入後の唾液分泌速度(g/分)を算出した。
【0069】
被験食品は次の手順で摂取した。被験食品は試験前に25℃程度に保温し、100mLを2つの蓋付紙コップに50mLずつに分けて研究対象者に提供した(尚、蓋付紙コップは、視覚的プラセボ効果を完全に排除するために使用した)。被験食品は蓋の飲み口から飲用させた。ただし、2カップ分100mLを4口(1カップ分50mLを2口)に分けて、1口10秒間口に含ませる含み飲みにより飲用させた。飲用間隔を調整し、1口当たり15秒程度を目安とし、全量4口を1分間かけて飲み切るよう指示した。尚、各研究対象者に対し、試験飲料とプラセボ飲料を入れ替え、2日間試験を行った。
【0070】
(4)評価項目
介入前後の唾液分泌速度の変化を評価した。
(5)統計解析
データは、平均値±標準誤差で示した。
統計解析は、IBM SPSS Statistics(Ver.25)を用いて実施し、有意水準は両側5%とした。
群間の比較は、Wilcoxon符号付順位検定により行った。
【0071】
(6)結果
図6に示す通り、カテキン類を含まないローカストビーンガム配合飲料(プラセボ飲料)と比較し、試験飲料の単回摂取により唾液分泌が有意に促進された。
本結果から、当該発明は、高齢者向け飲料、嚥下障害者向け飲料等の粘度を付与した食品形態にも適用できることが確認された。
【0072】
(7)層別解析
シェーングレーン症候群の診断基準の1つに、10分間の吐唾法での唾液分泌量が1mL以下(0.1mL/分)という基準が設けられている。唾液はほとんど水分であるため、比重1とすると、介入前の唾液分泌速度が0.1g/分以下の研究対象者は、シェーングレーン症候群の診断基準の1つを満たす可能性が考えられる。
そこで、2日間の試験における介入前唾液分泌速度の平均が0.1g/分以下の研究対象者(非健常者の疑いがある者)7名と、0.1g/分を超える研究対象者(健常者)22名とに分けて結果を解析した。
【0073】
介入前唾液分泌速度の平均が0.1g/分を超える研究対象者(健常者)に対するカテキン類の効果を抜粋して比較した結果を
図7に示す。0.1g/分を超える研究対象者(健常者,22名)では、カテキン類による効果が、研究対象者全体に対する効果よりもさらに顕著であった。そのため、カテキン類の効果は健常者で効果が高いと考えられた。