(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065916
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】化合物、潜熱蓄熱材、潜熱蓄熱体、電子デバイス、及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
C09K 5/06 20060101AFI20240508BHJP
C07C 211/07 20060101ALI20240508BHJP
C07C 211/08 20060101ALI20240508BHJP
C07C 55/10 20060101ALI20240508BHJP
C07C 55/08 20060101ALI20240508BHJP
C07C 55/12 20060101ALI20240508BHJP
C07C 309/04 20060101ALI20240508BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C09K5/06 J ZAB
C07C211/07 CSP
C07C211/08
C07C55/10
C07C55/08
C07C55/12
C07C309/04
H01L23/36 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175015
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】521134754
【氏名又は名称】株式会社K-マテリアルズラボ
(71)【出願人】
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 洋文
(72)【発明者】
【氏名】近藤 永大
(72)【発明者】
【氏名】飯村 兼一
【テーマコード(参考)】
4H006
5F136
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB93
4H006BS10
4H006BS70
5F136AA10
5F136FA51
(57)【要約】
【課題】潜熱蓄熱特性を有する化合物、潜熱蓄熱材、潜熱蓄熱体、電子デバイス、及び蓄電デバイスの提供。
【解決手段】下記の式(I)で表される化合物、及びその応用。式(I)中、n及びmは各々独立に、nは0~24の整数、mは1~24の整数、lは1~10の整数であり、XはCO
2又はSO
3を表す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(I)で表される化合物。
【化1】
前記式(I)中、n及びmは各々独立に、nは0~24の整数、mは1~24の整数であり、lは1~10の整数であり、XはCO
2又はSO
3を表す。
【請求項2】
前記式(I)中、n及びmは、各々独立に、1~24の整数であり、lは1~10の整数であり、XはCO2を表す、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の化合物を含む潜熱蓄熱材。
【請求項4】
電子デバイス又は蓄電デバイスに用いられる請求項3に記載の潜熱蓄熱材。
【請求項5】
請求項3に記載の潜熱蓄熱材を含む潜熱蓄熱体。
【請求項6】
請求項3に記載の潜熱蓄熱材を備える電子デバイス。
【請求項7】
請求項3に記載の潜熱蓄熱材を備える蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、化合物、潜熱蓄熱材、潜熱蓄熱体、電子デバイス、及び蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急速に普及しているデジタル家電製品では、高速大容量の情報を取り扱う電子機器からの発熱が増大の一途をたどっている。また、小型化、軽量化、及び薄型化の進展により、部品の放熱をいかに効率良く行うかという熱対策の重要性が増している。特に、スマートフォン、タブレットPC(personal computer)等のモバイルデバイスは、小型でありながら、高機能化及び高性能化が進んでおり、発熱密度が著しく増加している。モバイルデバイスでは、発熱密度の増加が、熱暴走、はんだの熱サイクルによる疲労の加速等を招く危険性が高まっており、信頼性向上のため、熱対策が求められている。
【0003】
電子機器の冷却方法として、相変化材料(PCM:Phase Change Material)を用いた受動的な冷却方法が注目を集めている。PCMは、潜熱蓄熱材とも称され、潜熱により、温度をほとんど変化させることなく熱を吸収できるため、PCMを用いると、温度上昇にかかる時間を遅らせる効果、いわゆる遅延効果が得られる。
潜熱蓄熱材は、物質が状態変化する際の吸熱及び放熱を利用するものであり、繰り返して使用できることに加えて、蓄熱容量が他の蓄熱材に比べて大きいという利点を有する。潜熱蓄熱材としては、例えば、パラフィン〔融点:36.4℃(エイコサン:C20H42)〕、酢酸ナトリウム三水和物(融点:58℃)、エリスリトール(融点:119℃)等の化合物が知られている。また、潜熱蓄熱材としては、イミダゾール系イオン液体である1-hexadecyl-3-methylimidazolium chlorideが知られている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2参照)。これらの化合物は、いずれも固相から液相への相変化に伴う融解潜熱を利用する潜熱蓄熱材である。
【0004】
ところで、近年、エネルギーの高効率利用のため、高性能電池を搭載した電気自動車の普及が進んでいる。電気自動車に搭載する高性能電池として、特に、リチウムイオン電池の開発が積極的に行われており、リチウムイオン電池の高出力化及び高容量化が図られている。しかし、高出力化による過度の高温状態、及び、高容量化に伴い大量に発生する充放電時の熱は、電池としての寿命を著しく低下させる要因となり、最悪の場合、発火及び爆発を引き起こす危険性もある。一般に、リチウムイオン電池では、60℃を超える使用温度領域において性能の劣化が顕著に表れる傾向がある(例えば非特許文献3参照)。このため、電池特性の最適化、電池の長寿命化、及び電池の安全性向上には、電池の温度を最適な温度領域(例えば、15℃~60℃)に維持する熱管理技術が必要不可欠となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】E.Thomas, D.Thomas, S. Bhuvaneswari, K. P.Vijayalakshmi, B. K.George, “1-Hexadecyl-3-methylimidazolium chloride: Structure, thermal stability and decomposition mechanism”, J.Mol. Liq., vol. 249(2018), pp. 404-411.
【非特許文献2】M. Bendova, M. Canji, M. G. Bogdanov, Z. Wagner, N. Zdolsek, F. Quirion, “Phase Transitions in Higher-Melting Ionic Liquids: Thermal Storage Materials or Liquid Crystals?” Chemical Engineering Transactions Vol. 69, pp. 37-42(2018) ISBN 978-88-95608-66-2(著者である「M. Bendova」の後ろから2番目の「a」は、チャールカ付きの「a」であり、「M. Canji」の「C」は、ハーチェク付きの「C」であり、「N. Zdolsek」の「s」は、ハーチェク付きの「s」である。)
【非特許文献3】L. M. Thompson1, J. E. Harlow, A. Eldesoky1, M. K. G. Bauer, J. H. Cheng, W. S. Stone, T. Taskovic1, C. R. M. McFarlane and J. R. Dahn, “Study of Electrolyte and Electrode Composition Changes vs Time in Aged Li-Ion Cells”J. Electrochem. Soc. Vol. 168 (2021) 020532
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、電子機器類の冷却に使用される潜熱蓄熱材に対しては、低い相変化温度を示し、かつ、潜熱量が大きいことが求められている。また、潜熱蓄熱材には、好ましくは、吸熱及び放熱を繰り返す性質(所謂、繰り返し特性)が求められる。
【0007】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものである。
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、潜熱蓄熱特性を有する新規な化合物を提供することにある。
本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、潜熱蓄熱特性に優れた潜熱蓄熱材、好ましくは相変化温度が115℃以下と低く、潜熱量が大きく、かつ、繰り返し特性を有する潜熱蓄熱材を提供することにある。
本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、上記潜熱蓄熱材を含む潜熱蓄熱体、並びに、上記潜熱蓄熱材を備える電子デバイス及び蓄電デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねる過程で、相変化時の潜熱量が大きいジカルボン酸に着目した。そして、ジカルボン酸変性化合物、つまりジアンモニウム塩に関し、鋭意研究を重ねたところ、ジカルボン酸をジアルキルアンモニウム塩に変性することにより、高い潜熱量が保持しつつ、相変化温度が低くすることができることを見出した。また、ジカルボン酸をモノアルキルアンモニウム塩に変性した化合物、及びジスルホン酸をジアルキルアンモニウム塩に変性した化合物も潜熱蓄熱特性を有することを見出し、本開示を完成するに至った。
【0009】
上記課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 下記の式(I)で表される化合物。
【0010】
【0011】
前記式(I)中、n及びmは各々独立に、nは0~24の整数、mは1~24の整数であり、lは1~10の整数であり、XはCO2又はSO3を表す。
<2> 前記式(I)中、n及びmは、各々独立に、1~24の整数であり、lは1~10の整数であり、XはCO2を表す、<1>に記載の化合物。
<3> <1>又は<2>に記載の化合物を含む潜熱蓄熱材。
<4> 電子デバイス又は蓄電デバイスに用いられる<3>に記載の潜熱蓄熱材。
<5> <3>に記載の潜熱蓄熱材を含む潜熱蓄熱体。
<6> <3>に記載の潜熱蓄熱材を備える電子デバイス。
<7> <3>に記載の潜熱蓄熱材を備える蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0012】
本開示の一実施形態によれば、潜熱蓄熱特性を有する新規な化合物が提供される。
本開示の他の実施形態によれば、相変化に伴う潜熱を利用する潜熱蓄熱材であって、好ましくは、相変化温度が115℃以下と低く、潜熱量が大きく、かつ、繰り返し特性を有する潜熱蓄熱材が提供される。
本開示の他の実施形態によれば、上記潜熱蓄熱材を含む潜熱蓄熱体、並びに、上記潜熱蓄熱材を備える電子デバイス及び蓄電デバイスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1~5、実施例9~12、実施例15~18及び比較例3~5におけるジアルキルアンモニウム塩のアルキル基の炭素数n(式(II)中、n=m)と潜熱量との関係を示すグラフである。
【
図2】実施例1~5、実施例9~12、実施例15~18及び比較例3~5におけるジアルキルアンモニウム塩のアルキル基の炭素数n(式(II)中、n=m)と相変化温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の化合物、上記化合物を含む潜熱蓄熱材、上記潜熱蓄熱材を含む潜熱蓄熱体、並びに、上記潜熱蓄熱材を備える電子デバイス及び蓄電デバイスについて、詳細に説明する。以下に記載する要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において、適宜、変更を加えて実施することができる。
【0015】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0016】
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、潜熱蓄熱材中の各成分の量は、潜熱蓄熱材中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、潜熱蓄熱材中に存在する上記複数の物質の合計量を意味する。なお、潜熱蓄熱体についても同様である。
【0017】
[化合物]
本開示の化合物は、下記式(I)で表される化合物である。
【0018】
【0019】
前記式(I)中、n及びmは各々独立に、nは0~24の整数、mは1~24の整数であり、lは1~10の整数である。XはCO2又はSO3を表す。好ましくは、n及びmは、各々独立に、1~24の整数であり、lは1~10の整数であり、XはCO2を表す。すなわち、本開示の好ましい化合物は、下記式(II)で表される化合物である。
【0020】
【0021】
式(II)中、n及びmは、各々独立に、1~24の整数であり、lは1~10の整数である。
【0022】
上記式(I)で表される化合物は潜熱蓄熱特性を有し、特に式(II)で表される化合物は、優れた潜熱蓄熱特性を有する。
なお、本開示において「潜熱蓄熱特性」とは、好ましくは、(A)相変化温度が125℃以下であり、かつ潜熱量が120J/g以上である性質、又は(B)相変化温度が115℃以下であり、かつ繰り返し特性を有する性質の少なくとも一方の性質を満たすことを意味する。
【0023】
〔式(I)で表される化合物の合成方法〕
式(I)で表される化合物の合成方法は、特に限定されない。
式(I)で表される化合物は、具体的には、実施例に記載の方法により合成できる。
【0024】
[潜熱蓄熱材]
本開示の潜熱蓄熱材は、既述の式(I)で表される化合物を含む。本開示の潜熱蓄熱材は、既述の式(II)で表される化合物を含むことが好ましい。
以下、式(I)で表される化合物を含む本開示の潜熱蓄熱材について説明し、適宜、式(II)で表される化合物を含む潜熱蓄熱材について説明する。
本開示の潜熱蓄熱材は、相変化に伴う潜熱を利用する潜熱蓄熱材であって、好ましくは式(II)で表される化合物を含み、相変化温度が115℃以下と低く、潜熱量が大きく、かつ、繰り返し特性を有する潜熱蓄熱材である。
【0025】
本発明者らは、ジカルボン酸をジアルキルアンモニウム塩に変性することにより、潜熱量を保持しつつ、相変化温度が低くなることができることを見出した。
【0026】
本開示の潜熱蓄熱材は、好ましくは下記の式(II)で表される化合物を含む。
【0027】
【0028】
式(II)中、n及びmは、各々独立に、1~24の整数、lは1~10の整数である。
【0029】
式(II)中、n及びmは、1~24の整数を表し、3~22の整数を表すことが好ましく、6~20の整数を表すことがより好ましく、6~18の整数を表すことが更に好ましい。lは1~10の整数を表し、1~6の整数が好ましく、1~4の整数を表すことが更に好ましい。
【0030】
本開示の潜熱蓄熱材は、式(I)で表される化合物を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0031】
本開示の潜熱蓄熱材における式(I)で表される化合物の含有率は、特に限定されないが、例えば、潜熱蓄熱材中の全固形分量に対して、30質量%~100質量%であることが好ましく、50質量%~100質量%であることがより好ましく、70質量%~100質量%であることが更に好ましい。
本開示において、「潜熱蓄熱材中の全固形分量」とは、潜熱蓄熱材が溶媒を含まない場合には、潜熱蓄熱材の全質量を意味し、潜熱蓄熱材が溶媒を含む場合には、潜熱蓄熱材から溶媒を除いた残渣の質量を意味する。
本開示において、「溶媒」とは、水及び有機溶剤を意味する。
【0032】
〔バインダー〕
本開示の潜熱蓄熱材は、バインダーを含んでいてもよい。
バインダーとしては、例えば、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリアセタール、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリ塩化ビニル、ABS(acrylonitrile butadiene styrene)樹脂、及びAS(acrylonitrile styrene)樹脂が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、ジアリルフタレート樹脂、ウレタン樹脂、及びシリコーン樹脂が挙げられる。
【0033】
また、バインダーとしては、ゴム類の使用も可能である。
ゴムとしては、例えば、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ハロゲン化ブチルゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、アクリル酸エステルと他の単量体との共重合により得られるアクリルゴム(ACM)、チーグラー触媒を用いたエチレンとプロピレンとの配位重合により得られるエチレン-プロピレンゴム、イソブチレンとイソプレンとの共重合により得られるブチルゴム(IIR)、ブタジエンとスチレンとの共重合により得られるスチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンとの共重合により得られるアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、及びシリコーンゴムが挙げられる。
【0034】
また、バインダーとしては、例えば、熱可塑性エラストマー(TPE)が挙げられる。
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、及びポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)が挙げられる。
【0035】
また、分子量600以上のポリエチレングリコール(PEG)あるいはPEGをジイソシアネートで架橋させたポリウレタン類〔C. Alkan, E. Gunther, S. Hiebler, Oemer F. Ensari, D. Kahraman, “Polyurethanes as solid-solid phase change materials for thermal energy storage,”Solar Energy vol.86 (2012) pp.1761-1769 参照〕は、100~150J/g程度の潜熱量を持つことから、本開示の式(II)で表される化合物と混合して使用するバインダーとして好ましい。
【0036】
本開示の潜熱蓄熱材は、バインダーを含む場合、バインダーを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0037】
本開示の潜熱蓄熱材がバインダーを含む場合、バインダーの含有率は、特に限定されないが、例えば、潜熱蓄熱材中の全固形分量に対して、20質量%~95質量%であることが好ましく、30質量%~95質量%であることがより好ましく、50質量%~90質量%であることが更に好ましい。
【0038】
〔その他の成分〕
本開示の潜熱蓄熱材は、その効果を損なわない範囲において、必要に応じて、既述した成分以外の成分(所謂、その他の成分)を含んでいてもよい。
その他の成分としては、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、結合剤、熱伝導性材料、難燃材料等の各種添加剤が挙げられる。添加剤は、1つの成分が2つ以上の機能を担うものであってもよい。
本開示の潜熱蓄熱材が、バインダーとしてゴムを含む場合、ゴムに加えて、加硫剤、加硫助剤、軟化剤、可塑剤等を含んでいてもよい。
加硫剤としては、例えば、硫黄、有機硫黄化合物、及び金属酸化物が挙げられる。
【0039】
本開示の潜熱蓄熱材がその他の成分を含む場合、その他の成分の含有量は、本開示の潜熱蓄熱材の効果を損なわない範囲において、適宜設定できる。
【0040】
<<相変化温度及び潜熱量>>
本開示の潜熱蓄熱材の相変化温度は、好ましくは115℃以下であり、80℃以下であることがより好ましく、60℃以下であることが更に好ましい。
特に本開示の潜熱蓄熱材の相変化温度が80℃以下であると、潜熱蓄熱材を適用した物品(例えば、電子機器、電池等の物品)の性能劣化を特に良好に抑制できる傾向がある。
本開示の潜熱蓄熱材の相変化温度の下限は、特に限定されないが、例えば、25℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましく、35℃以上であることが更に好ましい。
【0041】
本開示の潜熱蓄熱材の潜熱量は、特に限定されないが、例えば、150J/g以上であることがより好ましく、200J/g以上であることが更に好ましく、250J/g以上であることが特に好ましい。
本開示の潜熱蓄熱材の潜熱量は、高いほど好ましく、上限は、特に限定されない。
【0042】
本開示の潜熱蓄熱材の相変化温度は、測定装置として示差走査熱量計(DSC:Differential Scanning Calorimeter)を用い、下記の条件により測定される昇温時の吸熱ピークの温度である。
本開示の潜熱蓄熱材の潜熱量は、測定装置として示差走査熱量計を用い、下記の条件により測定される昇温時の吸熱ピークの熱量である。
示差走査熱量計としては、例えば、日立ハイテクサイエンス社製の示差走査熱量計〔型式:DSC7020〕を好適に用いることができる。但し、示差走査熱量計は、これに限定されない。
【0043】
-条件-
測定温度範囲:30℃~150℃
昇温速度:10℃/min
雰囲気ガス:窒素
測定試料量:6.0mg
【0044】
<潜熱蓄熱材の用途>
本開示の潜熱蓄熱材の用途は、特に限定されない。
本開示の潜熱蓄熱材は、固相から固相への相変化に伴う潜熱を利用する潜熱蓄熱材であって、特に式(II)で表される化合物を含む場合は、相変化温度が115℃以下と低く、潜熱量が大きく、かつ、繰り返し特性を有するため、電子デバイス又は蓄電デバイスに用いられる潜熱蓄熱材として好適である。
電子デバイス及び蓄電デバイスの具体例は、後述するため、ここでは説明を省略する。
【0045】
本開示の好ましい潜熱蓄熱材(式(II)で表される化合物を含む潜熱蓄熱材)は、相変化温度が115℃以下と低く、潜熱量が大きく、かつ、繰り返し特性を有する潜熱蓄熱材であるため、電子デバイス及び蓄電デバイスの特性、寿命、及び安全性を長期に維持し得る。本開示の好ましい潜熱蓄熱材は、特に、高温かつ大量の熱の発生を伴う、高出力及び高容量の蓄電デバイスに用いられる潜熱蓄熱材として好適である。
【0046】
[潜熱蓄熱体]
本開示の潜熱蓄熱体は、本開示の潜熱蓄熱材を含む。
本開示の潜熱蓄熱体は、本開示の潜熱蓄熱材を含むため、好ましくは相変化温度が115℃以下と低く、潜熱量が大きく、かつ、繰り返し特性を有することができる。
【0047】
本開示の潜熱蓄熱体の形状は、特に限定されず、目的に応じて、適宜設定できる。
本開示の潜熱蓄熱体は、平面形状を有していてもよく、立体形状を有していてもよい。
平面形状としては、例えば、シート状及びフィルム状が挙げられる。
立体形状は、特に限定されず、例えば、本開示の潜熱蓄熱体を適用する対象の形状に応じて、適宜設定できる。
【0048】
本開示の潜熱蓄熱体の製造方法は、特に限定されない。
本開示の潜熱蓄熱体は、例えば、本開示の潜熱蓄熱材と溶剤とを用いて、公知の方法により製造できる。
【0049】
本開示の潜熱蓄熱体は、例えば、以下の方法Xにより製造できる。
【0050】
(方法X)
式(I)で表される化合物及びバインダーを含む本開示の潜熱蓄熱材と、溶剤と、を含む潜熱蓄熱体形成用組成物を、仮支持体上に塗布し、潜熱蓄熱体形成用組成物の塗布膜を形成する。次いで、潜熱蓄熱体形成用組成物の塗布膜を乾燥させることにより、仮支持体上に潜熱蓄熱体を形成する。次いで、潜熱蓄熱体から仮支持体を剥離することにより、平面形状の潜熱蓄熱体を製造できる。
【0051】
方法Xにおける溶剤は、特に限定されず、例えば、水、有機溶剤、又は、水と有機溶剤との混合溶媒が挙げられる。
有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤(例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、及びi-プロパノール)、ケトン系溶剤(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、及びシクロヘキサノン)、塩素系溶剤(例えば、クロロホルム、及びジクロルメタン)、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、酢酸エチル、及びトルエンが挙げられる。また有機溶媒の混合物でも良い。
【0052】
潜熱蓄熱体形成用組成物における溶剤の含有率は、特に限定されず、例えば、潜熱蓄熱体形成用組成物に配合される成分の種類及び量により、適宜設定できる。
【0053】
潜熱蓄熱体形成用組成物中において、式(I)で表される化合物とバインダーとは、単に混合されていればよい。
式(I)で表される化合物とバインダーとを混合する方法は、特に限定されず、例えば、撹拌により混合する方法が挙げられる。
撹拌手段としては、特に限定されず、一般的な撹拌装置を用いることができる。
撹拌装置としては、例えば、ロールミル、撹拌子を取り付けたスリーワンモーター、パドルミキサー、インペラーミキサー等のミキサー、機械的攪拌装置が挙げられる。
撹拌時間は、特に限定されず、撹拌装置の種類、潜熱蓄熱体形成用組成物の組成等に応じて、適宜設定できる。
【0054】
仮支持体は、特に限定されない。
仮支持体としては、例えば、金属板、ガラス板、樹脂シート、及び各種フィルムが挙げられる。
樹脂シートは、表面に離型処理が施されていることが好ましい。
【0055】
仮支持体の大きさは、特に限定されず、例えば、潜熱蓄熱体の大きさに応じて、適宜設定できる。
仮支持体の厚みは、特に限定されず、例えば、作業性を考慮し、適宜設定される。
【0056】
仮支持体上に、潜熱蓄熱体形成用組成物を塗布する方法は、特に限定されず、例えば、ダイコーター、ナイフコーター、アプリケーター等を用いる方法が挙げられる。
【0057】
潜熱蓄熱体形成用組成物の塗布膜を乾燥させる方法としては、特に限定されず、例えば、オーブン等の加熱装置を用いる方法が挙げられる。
乾燥温度及び乾燥時間は、特に限定されず、潜熱蓄熱体形成用組成物の塗布膜に含まれる溶剤を揮発させることができればよい。
【0058】
本開示の潜熱蓄熱体は、上記方法X以外に、例えば、以下の方法Yにより製造できる。
【0059】
(方法Y)
式(I)で表される化合物及びバインダーを含む本開示の潜熱蓄熱材と、必要に応じて、溶剤と、を含む混合物を、加熱しながら、混練機を用いて混練し、混練物を得る。次いで、得られた混練物を成形加工することにより、本開示の潜熱蓄熱体を製造できる。
【0060】
方法Yにおける溶剤は、方法Xにおける溶剤と同義である。
【0061】
混合物が溶剤を含む場合、混合物における溶剤の含有率は、特に限定されず、例えば、混合物に配合される成分の種類及び量により、適宜設定できる。
【0062】
混合物中において、式(I)で表される化合物とバインダーとは、単に混合されていればよい。
式(I)で表される化合物とバインダーとを混合する方法は、特に限定されず、例えば、撹拌により混合する方法が挙げられる。
撹拌手段としては、特に限定されず、一般的な撹拌装置を用いることができる。
撹拌装置としては、例えば、パドルミキサー、インペラーミキサー等のミキサーが挙げられる。
撹拌時間は、特に限定されず、撹拌装置の種類、混合物の組成等に応じて、適宜設定できる。
【0063】
混合物の加熱温度は、特に限定されず、例えば、バインダーの種類に応じて、適宜設定できる。
加熱温度は、バインダーを溶融させることができる温度であることが好ましく、例えば、130℃~170℃とすることができる。
【0064】
混練手段としては、特に限定されず、一般的な混練装置を用いることができる。
混練装置としては、ミキサー、二本ロール、ニーダー等が挙げられる。
混練条件は、特に限定されず、混練装置の種類、混合物の組成等に応じて、適宜設定できる。
【0065】
成形加工としては、例えば、プレス成形、押し出し成形、射出成形、インモールド成形、3次元造形機を用いる成形等による加工が挙げられる。
成形加工条件は、特に限定されず、例えば、成形加工装置の種類、混合物の組成、及び潜熱蓄熱体の大きさに応じて、適宜設定できる。
【0066】
[電子デバイス]
本開示の電子デバイスは、本開示の潜熱蓄熱材を備え、本開示の潜熱蓄熱材を含む潜熱蓄熱体(即ち、本開示の潜熱蓄熱体)を備えていてもよい。
本開示の電子デバイスは、本開示の潜熱蓄熱材を備えるため、電子デバイスの特性、寿命、及び安全性を長期に維持し得る。
本開示の電子デバイスとしては、例えば、IC(Integrated Circuit)、ICモジュール等の半導体デバイス、及び、LED(Light Emitting Diode)デバイスが挙げられる。
【0067】
本開示の電子デバイスが本開示の潜熱蓄熱材を備える態様は、特に限定されない。
本開示の電子デバイスが、例えば、半導体デバイスである場合の態様としては、半導体デバイスとヒートシンクとの間に、平面形状(例えば、シート状)の本開示の潜熱蓄熱体(即ち、本開示の潜熱蓄熱材を含む潜熱蓄熱体)が配置された態様が挙げられる。このような態様によれば、半導体デバイスにおいて発生した熱を、本開示の潜熱蓄熱材に含まれる式(I)で表される化合物が潜熱として吸収し、式(I)で表される化合物が相変化する。相変化の間は、温度が一定に保持されるため、半導体デバイスを一定温度に保つことができる。式(I)で表される化合物によって蓄熱された熱は、例えば、ヒートシンクにより熱輸送され、放熱される。
【0068】
[蓄電デバイス]
本開示の蓄電デバイスは、本開示の潜熱蓄熱材を備え、本開示の潜熱蓄熱材を含む潜熱蓄熱体(即ち、本開示の潜熱蓄熱体)を備えていてもよい。
本開示の蓄電デバイスは、本開示の潜熱蓄熱材を備えるため、蓄電デバイスの特性、寿命、及び安全性を長期に維持し得る。
本開示の蓄電デバイスとしては、例えば、バッテリーが挙げられる。
バッテリーとしては、例えば、鉛蓄電池、アルカリ蓄電池、ニッケルカドミウム電池、リチウムイオン電池、及びその全固体電池が挙げられる。
【0069】
本開示の蓄電デバイスが本開示の潜熱蓄熱材を備える態様は、特に限定されない。
本開示の蓄電デバイスが、例えば、バッテリーである場合、電池セル間、及び/又は、電池セルとヒートシンクとの間に、電池セルの全部又は一部を覆うように、立体形状の本開示の潜熱蓄熱体(即ち、本開示の潜熱蓄熱材を含む潜熱蓄熱体)が配置された態様が挙げられる。このような態様によれば、電池セルにおいて発生した熱を、本開示の潜熱蓄熱材に含まれる式(I)で表される化合物が潜熱として吸収し、式(I)で表される化合物が相変化する。相変化の間は、温度が一定に保持されるため、バッテリーモジュール内を一定温度に保つことができる。式(I)で表される化合物によって蓄熱された熱は、例えば、ヒートシンクにより熱輸送され、放熱される。
【実施例0070】
以下、本開示の化合物及び潜熱蓄熱材を実施例により更に具体的に説明する。本開示はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
各化合物の核磁気共鳴(NMR)スペクトルの測定には、バリアン社製の核磁気共鳴装置〔型式:UNITY INOVA 500(500MHz)〕を用いた。また、各化合物の赤外線吸収スペクトルの測定には、日本分光(株)製のフーリエ変換赤外分光光度計〔型式:FT/IR-400〕を用いた。
【0072】
[ジアルキルアンモニウムジカルボン酸塩の合成]
〔合成例1〕
化合物1:ジオクチルアンモニウムコハク酸塩[(C8H17)2N+H2O-OCC2H4COO-N+H2(C8H17)2]
ジオクチルアミンとそれに対して0.5当量のコハク酸の混合物をイソプロパノールに溶解させたイソプロパノール溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のイソプロパノール溶液を常温に冷却した後、溶媒をエバポレーターで除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサン及びエタノールの混合溶媒を用いた再結晶を行い、目的とする化合物1(ジオクチルアンモニウムコハク酸塩)を得た。
【0073】
得られた化合物1の1H-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による吸収スペクトルの結果を以下に示す。
1H-NMR(500MHz,CDCl3) δ(ppm): 2.767(8H t/J=8.0Hz), 2.524(4H s), 1.590(8H quintet/J=7.5Hz), 1.295-1.218(40H m), 0.867(12H t/J=6.8Hz)
FT-IR νmax(cm-1): 2929, 2853, 1628, 1558, 1469, 1384, 1326
【0074】
〔合成例2〕
化合物2:ジノニルアンモニウムコハク酸塩[(C9H19)2N+H2O-OCC2H4COO-N+H2(C9H19)2]
ジノニルアミンとそれに対して0.5当量のコハク酸の混合物をイソプロパノールに溶解させたイソプロパノール溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のイソプロパノール溶液を10℃に冷却した後、濾過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、イソプロパノールを用いた再結晶を行い、目的とする化合物2(ジノニルアンモニウムコハク酸塩)を得た。
【0075】
得られた化合物2の1H-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
1H-NMR(500MHz,CDCl3) δ(ppm): 2.763(8H t/J=8.0Hz), 2.531(4H s), 1.600(8H quintet/J=7.3Hz), 1.296-1.203(48H m), 0.868(12H t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax(cm-1): 2930, 2852, 1629, 1558, 1469, 1384, 1326
【0076】
〔合成例3〕
化合物3:ジデシルアンモニウムコハク酸塩[(C10H21)2N+H2O-OCC2H4COO-N+H2(C10H21)2]
ジデシルアミンとそれに対して0.5当量のコハク酸の混合物をイソプロパノールに溶解させたイソプロパノール溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のイソプロパノール溶液を10℃に冷却した後、濾過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、イソプロパノールを用いた再結晶を行い、目的とする化合物3(ジデシルアンモニウムコハク酸塩)を得た。
【0077】
得られた化合物3の1H-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
1H-NMR(500MHz,CDCl3) δ(ppm): 2.750(8H t/J=7.8Hz), 2.543(4H s), 1.588(8H quintet/J=7.4Hz), 1.301-1.248(56H m), 0.872(12H t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax(cm-1): 2917, 2852, 1628, 1560, 1472, 1365, 1322
【0078】
〔合成例4〕
化合物4:ジウンデシルアンモニウムコハク酸塩[(C11H23)2N+H2O-OCC2H4COO-N+H2(C11H23)2]
ジウンデシルアミンとそれに対して0.5当量のコハク酸の混合物をイソプロパノールに溶解させたイソプロパノール溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のイソプロパノール溶液を10℃に冷却した後、濾過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、イソプロパノールを用いた再結晶を行い、目的とする化合物4(ジウンデシルアンモニウムコハク酸塩)を得た。
【0079】
得られた化合物4の1H-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による吸収スペクトルの結果を以下に示す。
1H-NMR(500MHz,CDCl3) δ(ppm): 2.762(8H t/J=7.8Hz), 2.538(4H s), 1.598(8H quintet/J=7.3Hz), 1.301-1.248(64H m), 0.874(12H t/J=6.8Hz)
FT-IR νmax(cm-): 2918, 2851, 1629, 1560, 1472, 1365, 1322
【0080】
〔合成例5〕
化合物5:ジドデシルアンモニウムコハク酸塩[(C12H25)2N+H2O-OCC2H4COO-N+H2(C12H25)2]
ジドデシルアミンとそれに対して0.5当量のコハク酸の混合物をイソプロパノールに溶解させたイソプロパノール溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のイソプロパノール溶液を10℃に冷却した後、濾過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、イソプロパノールを用いた再結晶を行い、目的とする化合物5(ジドデシルアンモニウムコハク酸塩)を得た。
【0081】
得られた化合物5の1H-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H-NMR(500MHz,CDCl3) δ(ppm): 2.764(8H t/J=8.3Hz), 2.550(4H s), 1.595(8H quintet/J=7.3Hz), 1.308-1.201(72H m), 0.876(12H t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax(cm-): 2919, 2850, 1628, 1560, 1472, 1365, 1322
【0082】
〔合成例6〕
化合物6:デシルウンデシルアンモニウムコハク酸塩[C10H21(C11H23)N+H2O-OCC2H4COO-N+H2C10H21(C11H23)]
デシルアミンと上記デシルアミンの1.5倍当量のトリエチルアミンをクロロホルムに溶解させた溶液に、滴下漏斗を用いて、上記デシルアミンと等モル量のウンデカン酸クロリドをクロロホルムに溶解させた溶液を滴下した。滴下終了後、得られたクロロホルム溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のクロロホルム溶液を常温に冷却した後、水で洗浄した。
次いで、クロロホルム層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を行い、N-デシルウンデカン酸アミド(C10H21CONHC10H21)を得た。
無水ジエチルエーテルに、上記にて得られたN-デシルウンデカン酸アミド、及び水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4)を加えて1時間常温で反応させた後、2時間加熱還流させた。反応終了後、得られた液に水を加えて過剰の水素化リチウムアルミニウムを分解させた。
次いで、ジエチルエーテル層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を2回行い、デシルウンデシルアミンを得た。次いで、デシルウンデシルアミンとそれに対して0.5当量のコハク酸の混合物をイソプロパノールに溶解させたイソプロパノール溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のイソプロパノール溶液を10℃に冷却した後、濾過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、イソプロパノールを用いた再結晶を行い、目的とする化合物6(デシルウンデシルアンモニウムコハク酸塩)を得た。
【0083】
得られた化合物6の1H-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H-NMR(500MHz,CDCl3) δ(ppm): 2.764(8H t/J=7.8Hz), 2.540(4H s), 1.588(8H quintet/J=7.3Hz), 1.300-1.250(60H m), 0.874(12H t/J=6.8Hz)
FT-IR νmax(cm-): 2917, 2851, 1628, 1561, 1473, 1366, 1320
【0084】
〔合成例7〕
化合物7:ドデシルトリデシルアンモニウムコハク酸塩[C12H25(C13H27)N+H2O-OCC2H4COO-N+H2C12H25(C13H27)]
トリデシルアミンと上記トリデシルアミンの1.5倍当量のトリエチルアミンをクロロホルムに溶解させた溶液に、滴下漏斗を用いて、上記トリデシルアミンと等モル量のドデカン酸クロリドをクロロホルムに溶解させた溶液を滴下した。滴下終了後、得られたクロロホルム溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のクロロホルム溶液を常温に冷却した後、水で洗浄した。
次いで、クロロホルム層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を行い、N-トリデシルドデカン酸アミド(C11H23CONHC13H27)を得た。無水ジエチルエーテルに、上記にて得られたN-トリデシルドデカン酸アミド、及び水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4)を加えて1時間常温で反応させた後、2時間加熱還流させた。反応終了後、得られた液に水を加えて過剰の水素化リチウムアルミニウムを分解させた。次いで、ジエチルエーテル層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を2回行い、ドデシルトリデシルアミンを得た。次いで、ドデシルトリデシルアミンとそれに対して0.5当量のコハク酸の混合物をイソプロパノールに溶解させたイソプロパノール溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のイソプロパノール溶液を10℃に冷却した後、濾過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、イソプロパノールを用いた再結晶を行い、目的とする化合物7(ドデシルトリデシルアンモニウムコハク酸塩)を得た。
【0085】
得られた化合物7のH-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H-NMR(500MHz,CDCl3) δ(ppm): 2.758(8H t/J=7.8Hz), 2.551(4H s), 1.590(8H quintet/J=7.3Hz), 1.304-1.207(76H m), 0.874(12H t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax(cm-): 2916, 2850, 1622, 1542, 1473, 1388, 1334
【0086】
〔合成例8〕
化合物8:テトラデシルオクタデシルアンモニウムコハク酸塩[C14H29(C18H37)N+H2O-OCC2H4COO-N+H2C14H29(C18H37)]
テトラデシルアミンと上記テトラデシルアミンの1.5倍当量のトリエチルアミンをクロロホルムに溶解させた溶液に、滴下漏斗を用いて、上記テトラデシルアミンと等モル量のオクタデカン酸クロリドをクロロホルムに溶解させた溶液を滴下した。滴下終了後、得られたクロロホルム溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のクロロホルム溶液を常温に冷却した後、水で洗浄した。
次いで、クロロホルム層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を行い、N-テトラデシルオクタデカン酸アミド(C17H35CONHC14H29)を得た。無水ジエチルエーテルに、上記にて得られたN-テトラデシルオクタデカン酸アミド、及び水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4)を加えて1時間常温で反応させた後、2時間加熱還流させた。反応終了後、得られた液に水を加えて過剰の水素化リチウムアルミニウムを分解させた。次いで、ジエチルエーテル層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を2回行い、テトラデシルオクタデシルアミンを得た。次いで、テトラデシルオクタデシルアミンとそれに対して0.5当量のコハク酸の混合物をイソプロパノールに溶解させたイソプロパノール溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のイソプロパノール溶液を10℃に冷却した後、濾過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、イソプロパノールを用いた再結晶を行い、目的とする化合物8(テトラデシルオクタデシルアンモニウムコハク酸塩)を得た。
【0087】
得られた化合物8のH-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H-NMR(500MHz,CDCl3) δ(ppm): 2.760(8H t/J=7.8Hz), 2.552(4H s), 1.591(8H quintet/J=7.3Hz), 1.306-1.203(104H m), 0.876(12H t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax(cm-): 2915, 2850, 1623, 1541, 1474, 1388, 1335
【0088】
〔合成例9〕
化合物9:ジオクチルアンモニウムマロン酸塩[(C8H17)2N+H2O-OCCH2COO-N+H2(C8H17)2]
ジオクチルアミンとそれに対して0.5当量のマロン酸の混合物をイソプロパノールに溶解させたイソプロパノール溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のイソプロパノール溶液を常温に冷却した後、溶媒をエバポレーターで除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサン及びエタノールの混合溶媒を用いた再結晶を行い、目的とする化合物9(ジオクチルアンモニウムマロン酸塩)を得た。
【0089】
得られた化合物9の1H-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
1H NMR (500MHz, CDCl3) δ(ppm): 8.675 (2H, brs), 3.010-2.950 (4H, m), 1.725 (4H, quintet/J=7.6Hz), 1.360-1.200 (m, 40H), 0.874(3H, t/J=7.0Hz), 0.870(3H, t/J=7.0Hz)
H-NMR(500MHz,CDCl3) δ(ppm):3.115(2H s), 2.795(8H t/J=8.0Hz), 1.620(8H quintet/J=7.6Hz), 1.300-1.250(40H m), 0.876(12H t/J=7.8H)
FT-IR νmax(cm-): 2920, 2854, 1582, 1466
【0090】
〔合成例10〕
化合物10:ジデシルアンモニウムマロン酸塩[(C10H21)2N+H2O-OCCH2COO-N+H2(C10H21)2]
ジデシルアミンとそれに対して0.5当量のマロン酸の混合物をイソプロパノールに溶解させたイソプロパノール溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のイソプロパノール溶液を常温に冷却した後、溶媒をエバポレーターで除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサン及びエタノールの混合溶媒を用いた再結晶を行い、目的とする化合物10(ジデシルアンモニウムマロン酸塩)を得た。
【0091】
得られた化合物10の1H-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H-NMR(500MHz,CDCl3) δ(ppm):3.110(2H s), 2.797(8H t/J=8.0Hz), 1.618(8H quintet/J=7.6Hz), 1.303-1.251(56H m), 0.874(12H t/J=7.8H)
FT-IR νmax(cm-): 2918, 2851, 1582, 1466
【0092】
〔合成例11〕
化合物11:ジウンデシルアンモニウムマロン酸塩[(C11H23)2N+H2O-OCCH2COO-N+H2(C11H23)2]
【0093】
ジウンデシルアミンとそれに対して0.5当量のマロン酸の混合物をイソプロパノールに溶解させたイソプロパノール溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のイソプロパノール溶液を常温に冷却した後、溶媒をエバポレーターで除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサン及びエタノールの混合溶媒を用いた再結晶を行い、目的とする化合物11(ジウンデシルアンモニウムマロン酸塩)を得た。
【0094】
得られた化合物11の1H-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H-NMR(500MHz,CDCl3) δ(ppm):3.112(2H s), 2.798(8H t/J=8.0Hz), 1.616(8H quintet/J=7.6Hz), 1.305-1.253(64H m), 0.875(12H t/J=7.8H)
FT-IR νmax(cm-): 2918, 2850, 1582, 1466
【0095】
〔合成例12〕
化合物12:ジドデシルアンモニウムマロン酸塩[(C12H25)2N+H2O-OCCH2COO-N+H2(C12H25)2]
【0096】
ジドデシルアミンとそれに対して0.5当量のマロン酸の混合物をイソプロパノールに溶解させたイソプロパノール溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のイソプロパノール溶液を10℃に冷却した後、濾過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、イソプロパノールを用いた再結晶を行い、目的とする化合物12(ジドデシルアンモニウムマロン酸塩)を得た。
【0097】
得られた化合物12の1H-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H-NMR(500MHz,CDCl3) δ(ppm):3.112(2H s), 2.795(8H t/J=8.0Hz), 1.614(8H quintet/J=7.6Hz), 1.301-1.253(72H m), 0.872(12H t/J=7.8H)
FT-IR νmax(cm-): 2917, 2850, 1582, 1465
【0098】
〔合成例13〕
化合物13:ウンデシルテトラデシルアンモニウムマロン酸塩[C11H23(C14H29)N+H2O-OCCH2COO-N+H2C11H23(C14H29)]
【0099】
テトラデシルアミンと上記テトラデシルアミンの1.5倍量のトリエチルアミンをクロロホルムに溶解させた溶液に、滴下漏斗を用いて、上記テトラデシルアミンと等モル量のウンデカン酸クロリドをクロロホルムに溶解させた溶液を滴下した。滴下終了後、得られたクロロホルム溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のクロロホルム溶液を常温に冷却した後、水で洗浄した。
次いで、クロロホルム層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を行い、N-テトラデシルウンデカン酸アミド(C10H21CONHC14H29)を得た。無水ジエチルエーテルに、上記にて得られたN-テトラデシルウンデカン酸アミド、及び水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4)を加えて1時間常温で反応させた後、2時間加熱還流させた。反応終了後、得られた液に水を加えて過剰の水素化リチウムアルミニウムを分解させた。次いで、ジエチルエーテル層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を2回行い、ウンデシルテトラデシルアミンを得た。次いで、ウンデシルテトラデシルアミンとそれに対して0.5当量のマロン酸の混合物をイソプロパノールに溶解させたイソプロパノール溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のイソプロパノール溶液を常温に冷却した後、溶媒をエバポレーターで除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサン及びエタノールの混合溶媒を用いた再結晶を行い、目的とする化合物13(ウンデシルテトラデシルアンモニウムマロン酸塩)を得た。
【0100】
得られた化合物13の1H-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H-NMR(500MHz,CDCl3) δ(ppm):3.111(2H s), 2.799(8H t/J=8.0Hz), 1.615(8H quintet/J=7.6Hz), 1.302-1.255(76H m), 0.875(12H t/J=7.8H)
FT-IR νmax(cm-): 2918, 2851, 1582, 1466
【0101】
〔合成例14〕
化合物14:テトラデシルオクタデシルアンモニウムマロン酸塩[C14H29(C18H37)N+H2O-OCCH2COO-N+H2C14H29(C18H37)]
【0102】
テトラデシルアミンと上記テトラデシルアミンの1.5倍量のトリエチルアミンをクロロホルムに溶解させた溶液に、滴下漏斗を用いて、上記テトラデシルアミンと等モル量のオクタデカン酸クロリドをクロロホルムに溶解させた溶液を滴下した。滴下終了後、得られたクロロホルム溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のクロロホルム溶液を常温に冷却した後、水で洗浄した。
次いで、クロロホルム層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を行い、N-テトラデシルオクタデカン酸アミド(C17H35CONHC14H29)を得た。無水ジエチルエーテルに、上記にて得られたN-テトラデシルオクタデカン酸アミド、及び水素化リチウムアルミニウム(LiAlH4)を加えて1時間常温で反応させた後、2時間加熱還流させた。反応終了後、得られた液に水を加えて過剰の水素化リチウムアルミニウムを分解させた。次いで、ジエチルエーテル層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンを用いた再結晶を2回行い、テトラデシルオクタデシルアミンを得た。次いで、テトラデシルオクタデシルアミンとそれに対して0.5当量のマロン酸の混合物をイソプロパノールに溶解させたイソプロパノール溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のイソプロパノール溶液を10℃に冷却した後、濾過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、イソプロパノールを用いた再結晶を行い、目的とする化合物14(テトラデシルオクタデシルアンモニウムマロン酸塩)を得た。
【0103】
得られた化合物16の1H-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H-NMR(500MHz,CDCl3) δ(ppm):3.110(2H s), 2.798(8H t/J=8.0Hz), 1.616(8H quintet/J=7.6Hz), 1.301-1.251(104H m), 0.874(12H t/J=7.8H)
FT-IR νmax(cm-): 2917, 2851, 1581, 1465
【0104】
〔合成例15〕
化合物15:ジオクチルアンモニウムグルタル酸塩[(C8H17)2N+H2O-OCC3H6COO-N+H2(C8H17)2]
【0105】
ジオクチルアミンとそれに対して0.5当量のグルタル酸の混合物をイソプロパノールに溶解させたイソプロパノール溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のイソプロパノール溶液を常温に冷却した後、溶媒をエバポレーターで除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサン及びエタノールの混合溶媒を用いた再結晶を行い、目的とする化合物15(ジオクチルアンモニウムグルタル酸塩)を得た。
【0106】
得られた化合物15の1H-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H-NMR(500MHz,CDCl3) δ(ppm): 2.790(8H t/J=7.8Hz), 2.324(4H t/J=7.0Hz), 1.879(2H quintet/J=7.0Hz), 1.644(8H quintet/J=7.5Hz), 1.310-1.240(40H m), 0.867(12H t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax(cm-):2922, 2853, 1561,1544, 1465, 1380
【0107】
〔合成例16〕
化合物16:ジデシルアンモニウムグルタル酸塩[(C10H21)2N+H2O-OCC3H6COO-N+H2(C10H21)2]
【0108】
ジデシルアミンとそれに対して0.5当量のグルタル酸の混合物をイソプロパノールに溶解させたイソプロパノール溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のイソプロパノール溶液を常温に冷却した後、溶媒をエバポレーターで除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサン及びエタノールの混合溶媒を用いた再結晶を行い、目的とする化合物16(ジデシルアンモニウムグルタル酸塩)を得た。
【0109】
得られた化合物16の1H-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H-NMR(500MHz,CDCl3) δ(ppm): 2.788(8H t/J=7.8Hz), 2.326(4H t/J=7.0Hz), 1.877(2H quintet/J=7.0Hz), 1.642(8H quintet/J=7.5Hz), 1.312-1.241(56H m), 0.869(12H t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax(cm-):2921, 2851, 1560,1542, 1466, 1381
【0110】
〔合成例17〕
化合物17:ジウンデシルアンモニウムグルタル酸塩[(C11H23)2N+H2O-OCC3H6COO-N+H2(C11H23)2]
【0111】
ジウンデシルアミンとそれに対して0.5当量のグルタル酸の混合物をイソプロパノールに溶解させたイソプロパノール溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のイソプロパノール溶液を常温に冷却した後、溶媒をエバポレーターで除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサン及びエタノールの混合溶媒を用いた再結晶を行い、目的とする化合物17(ジウンデシルアンモニウムグルタル酸塩)を得た。
【0112】
得られた化合物17の1H-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H-NMR(500MHz,CDCl3) δ(ppm): 2.786(8H t/J=7.8Hz), 2.328(4H t/J=7.0Hz), 1.879(2H quintet/J=7.0Hz), 1.644(8H quintet/J=7.5Hz), 1.311-1.243(64H m), 0.868(12H t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax(cm-):2921, 2850, 1559,1541, 1466, 1380
【0113】
〔合成例18〕
化合物18:ジドデシルアンモニウムグルタル酸塩[(C12H25)2N+H2O-OCC3H6COO-N+H2(C12H25)2]
【0114】
ジドデシルアミンとそれに対して0.5当量のグルタル酸の混合物をイソプロパノールに溶解させたイソプロパノール溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のイソプロパノール溶液を10℃に冷却した後、濾過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、イソプロパノールを用いた再結晶を行い、目的とする化合物(化合物18ジドデシルアンモニウムグルタル酸塩)を得た。
【0115】
得られた化合物18の1H-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H-NMR(500MHz,CDCl3) δ(ppm): 2.790(8H t/J=7.8Hz), 2.330(4H t/J=7.0Hz), 1.880(2H quintet/J=7.0Hz), 1.644(8H quintet/J=7.5Hz), 1.312-1.240(72H m), 0.870(12H t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax(cm-):2918, 2850, 1560,1542, 1467, 1382
【0116】
〔合成例19〕
化合物19:デシルアンモニウムコハク酸塩[C10H21N+H3O-OCC2H4COO-N+H3C10H21]
デシルアミンとコハク酸の混合物をイソプロパノールに溶解させたイソプロパノール溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のイソプロパノール溶液を10℃に冷却した後、濾過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、イソプロパノールを用いた再結晶を行い、目的とする化合物19(デシルアンモニウムコハク酸塩)を得た。
【0117】
得られた化合物19の1H-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H-NMR(500MHz,CDCl3) δ(ppm): 2.851(4H t/J=7.5Hz), 2.375(4H s), 1.634(4H quintet/J=7.5Hz), 1.342-1.251(28H m), 0.862(6H t/J=7.5Hz)
FT-IR νmax(cm-): 2918, 2852, 1655, 1524, 1384
【0118】
〔合成例20〕
化合物20:ドデシルアンモニウムコハク酸塩[C12H25N+H3O-OCC2H4COO-N+H3C12H25]
ドデシルアミンとコハク酸の混合物をイソプロパノールに溶解させたイソプロパノール溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のイソプロパノール溶液を10℃に冷却した後、濾過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、イソプロパノールを用いた再結晶を行い、目的とする化合物20(ドデシルアンモニウムコハク酸塩)を得た。
【0119】
得られた化合物20の1H-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H-NMR(500MHz,CDCl3) δ(ppm): 2.849(4H t/J=7.8Hz), 2.367(4H s), 1.637(4H quintet/J=7.5Hz), 1.338-1.244(36H m), 0.874(6H t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax(cm-): 2918, 2850, 1656, 1525, 1376
【0120】
〔合成例21〕
化合物21:ジデシルアンモニウム-1,3-プロピルジスルホン酸塩[(C10H21)2N+H2O-O2SC3H6SO3
-N+H2(C10H21)2]
ジデシルアミンをイソプロパノールに溶解させた溶液に、1,3-プロピルジスルホン酸をイソプロパノールに溶解させた溶液を少量ずつ、全体がわずかに酸性になるまで加え、イソプロパノール溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のイソプロパノール溶液を常温に冷却した後、溶媒をエバポレーターで除去して無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、n-ヘキサンとエタノールの混合溶媒を用いた再結晶を行い、目的とする化合物21(ジデシルアンモニウム-1,3-プロピルジスルホン酸塩)を得た。
【0121】
得られた化合物21の1H-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H-NMR(500MHz,CDCl3) δ(ppm): 8.539(4H br) 3.038(4H t/J=7.5Hz), 2.910(8H t/J=11.5Hz), 2.217(2H quintet/J=7.5Hz), 1.750(8H quintet/J=7.5Hz), 1.301-1.245(56H m), 0.873(12H t/J=6.8Hz)
FT-IR νmax(cm-): 2957, 2921, 2853, 2361, 2343, 1467, 1257, 1217, 1180, 1158
【0122】
〔比較合成例1〕
比較化合物1:コハク酸-N-ドデシルアミド[C12H25NHCOC2H4CONH C12H25]
ドデシルアミンと上記ドデシルアミンの1.5倍量のトリエチルアミンをクロロホルムに溶解させた溶液に、滴下漏斗を用いて、上記ドデシルアミンと0.5倍モル量のコハク酸クロリドをクロロホルムに溶解させた溶液を滴下した。滴下終了後、得られたクロロホルム溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のクロロホルム溶液を10℃に冷却した後、濾過することにより、無色の結晶を得た。得られた結晶に対し、クロロホルムを用いた再結晶を行い、目的とする比較化合物1(コハク酸-N-ドデシルアミド)を得た。
【0123】
得られた比較化合物1の1H-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H-NMR(500MHz,CDCl3) δ(ppm): 5.883(2H broad), 3.205(4H quartet/J=5.0Hz), 2.497(4H s), 1.459(4H quintet/J=7.5Hz), 1.291-1.245(36H m), 0.872(6H t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax(cm-): 3310, 2915, 2848, 1633, 1543, 1472
【0124】
〔比較合成例2〕
比較化合物2:コハク酸-N,N-ジドデシルアミド[(C12H25)2NCOC2H4CON(C12H25)2]
ジドデシルアミンと上記ジドデシルアミンの1.5倍量のトリエチルアミンをクロロホルムに溶解させた溶液に、滴下漏斗を用いて、上記ジドデシルアミンと0.5倍モル量のコハク酸クロリドをクロロホルムに溶解させた溶液を滴下した。滴下終了後、得られたクロロホルム溶液を1時間常温で攪拌した後に1時間加熱還流させた。加熱還流後のクロロホルム溶液を常温に冷却した後、水で洗浄した。次いで、クロロホルム層に無水硫酸ナトリウムを加えて水分を除去した後、溶媒を除去して比較化合物2(コハク酸-N,N-ジドデシルアミド)を得た。
【0125】
得られた比較化合物2の1H-NMRスペクトル及びフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)による赤外線吸収スペクトルの結果を以下に示す。
H-NMR(500MHz,CDCl3) δ(ppm): 3.250(8H t/J=7.8Hz), 2.659(4H s), 1.482(8H quintet/J=6.8Hz), 1.249-1.237(72H m), 0.872(12H t/J=7.0Hz)
FT-IR νmax(cm-): 2923, 2853, 1648, 1465
【0126】
[評価]
(実施例1~21及び比較例1~5)
合成例1~21で合成した化合物1~21、及び比較合成例1、2で合成した比較化合物1、2について相変化温度(単位:℃)及び潜熱量(単位:J/g)の測定、繰り返し特性の有無の確認を行った。結果を表1と表2及びその一部を
図1と
図2に示す。
また、変性前のマロン酸、コハク酸、グルタル酸について〔NIST Chemistry WebBook, SRD 69 参照〕表2の比較例3~5に示す。
相変化温度及び潜熱量は、測定装置として日立ハイテクサイエンス社製の示差走査熱量計〔型式:DSC7020〕を用い、下記の条件にて測定した。なお、相変化温度は、昇温時の吸熱ピークの温度であり、複数ある場合にはメインピークの温度を示した。また、潜熱量は、昇温時の吸熱ピークの熱量である。
繰り返し特性の有無は、冷却時に発熱が起きるか否かにより判断した。具体的には、150℃まで加熱した後、約1時間かけて30℃まで冷却したときに発熱が起きなければ、繰り返し特性を有さないと判断した。
【0127】
-条件-
測定温度範囲:30℃~150℃
昇温速度:10℃/min
雰囲気ガス:窒素
測定試料量:6.0mg
【0128】
実施例1~18の結果を表1に示す。実施例19~21及び比較例1~5の結果を表2に示す。
【0129】
【0130】
【0131】
ジアルキルアンモニウムのアルキル鎖の炭素数が8~12であり、m=nの場合の、マロン酸(l=1)、コハク酸塩(l=2)、グルタル酸(l=3)の場合の、実施例1~4、実施例9~12、実施例15~18、のアンモニウム塩変性後の潜熱量と相変化温度について、それぞれ変性前のジカルボン酸(比較例3~5)との比較を
図1及び
図2に示す。
実施例1~5はいずれも式(II)におけるアルキル鎖の炭素数がm=nの場合のジアルキルアンモニウムコハク酸塩(l=2)である。変性前のコハク酸(比較例4)は相変化温度が183℃と高いが、実施例1~5は、いずれも相変化温度が95℃以下と低く、大きく改善されている。また潜熱量はコハク酸よりは小さいが、191J/g以上と大きく、かつ、繰り返し特性を有することがわかった。つまりアンモニウム塩とすることにより、高潜熱量を維持しながら、相変化温度を低く改善することができた。
【0132】
実施例9~12はいずれも式(II)におけるアルキル鎖の炭素数がm=nの場合のジアルキルアンモニウムマロン酸塩(l=1)である。変性前のマロン酸(比較例3)は相変化温度が135℃と高いが、実施例9~12はいずれも85℃以下と低く改善されている。また潜熱量も実施例10及び11ではマロン酸よりも大きく、また実施例9及び12でも大きく減少することなく195J/g以上と大きく、かつ、繰り返し特性を有することがわかった。つまりアンモニウム塩とすることにより、高潜熱量を維持しながら、相変化温度を低く改善することができた。
【0133】
実施例15~18はいずれも式(II)におけるアルキル鎖の炭素数がm=nの場合のジアルキルアンモニウムグルタル酸塩(l=3)である。変性前のグルタル酸(比較例5)は相変化温度が98℃であるが、実施例15~18はいずれも85℃以下と低く、改善されている。また潜熱量も、いずれも比較例5のグルタル酸の159J/gよりも大きい。つまりアンモニウム塩とすることにより相変化温度及び潜熱量を改善することができた。
【0134】
実施例6~8いずれも式(II)におけるアルキル鎖の炭素数がm≠nの場合のジアルキルアンモニウムコハク酸塩(l=2)である。m=nの場合と同様に相変化温度が低く、かつ、大きな潜熱量を持つ。実施例8の場合には相変化温度は113℃と比較的高いが、コハク酸よりは低く改善されており、かつ潜熱量が358J/gと非常に大きくなっている。つまりアルキル基の炭素数がm≠nの場合においても、アンモニウム塩とすることにより高潜熱量を高く維持しながら、相変化温度を低く改善することができた。実施例8の化合物8の場合には、潜熱量が非常に大きいために、電子デバイス以外の応用の可能性も考えられる。
【0135】
実施例13及び14はいずれも式(II)におけるアルキル鎖の炭素数がm≠nの場合のジアルキルアンモニウムマロン酸塩(l=1)である。変性前のマロン酸は相変化温度が135℃と高いが、実施例13、14はそれぞれ52℃と70℃で大きく改善されている。また潜熱量も181と197J/g以上と高く、つまりアンモニウム塩とすることにより、高潜熱量を高く維持しながら、相変化温度を低く改善することができた。
【0136】
実施例19及び20と実施例3及び5の比較から、モノアルキルアンモニウム塩とジアルキルアンモニウム塩の潜熱量及び相変化温度の比較を行うことができる。実施例19及び20では相変化温度はそれぞれ124℃と122℃と対応する比較例4より改善されている。対応するジアルキルアンモニウム塩の実施例3と5では86℃と95℃と更に低く改善されている。また潜熱量は前者がそれぞれ121J/gと122J/gであるのに対して、後者はそれぞれ202J/gと191J/gである。つまりアンモニウム塩でもジアルキルアンモニウム塩とすることにより、潜熱量を高く維持しながら、相変化温度を低くできることがわかる。
【0137】
比較例1及び2のアミド化合物と実施例3及び5のアンモニウム塩との比較から、アンモニウム塩とすることによる効果が明らかになる。つまり比較例1のアミドでは、前述の実施例5に対して、相変化温度は103℃と高く、潜熱量も112J/gと小さい。比較例2の場合には相変化温度が30℃以下と低く、本開示の目的には適さない。
【0138】
実施例16と実施例21から、ジカルボン酸とジスルホン酸との潜熱量及び相変化温度の比較を行うことができる。つまり実施例21のジデシルアンモニウムジスルホン酸塩の場合の相変化温度は54℃と低く改善されている。その潜熱量は105J/gであるが、対応するジカルボン酸の実施例16では184J/gと大きい。また実施例3(コハク酸塩)では202J/g、実施例10(マロン酸塩)では248J/gであることから、二塩基酸でもジカルボン酸塩とすることの効果が大きく現れていることがわかる。