(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065937
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】メタンの製造方法、制御装置、及びメタン製造システム
(51)【国際特許分類】
C12P 5/02 20060101AFI20240508BHJP
C12M 1/38 20060101ALI20240508BHJP
C12M 1/36 20060101ALI20240508BHJP
C12N 1/00 20060101ALN20240508BHJP
【FI】
C12P5/02
C12M1/38 Z
C12M1/36
C12N1/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175065
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(74)【代理人】
【識別番号】100173473
【弁理士】
【氏名又は名称】高井良 克己
(72)【発明者】
【氏名】川野 誠
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩之
【テーマコード(参考)】
4B029
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029AA07
4B029BB02
4B029DF01
4B029DF04
4B029DF07
4B029DF10
4B064AB03
4B065AA01X
4B065AC14
4B065BC02
4B065BC03
4B065BC06
4B065BC07
4B065BC11
4B065BC12
4B065CA03
4B065CA54
(57)【要約】
【課題】酸素(O
2)混入状況下でも継続的に優れたメタン生成能力を伴う、メタン生成菌を用いたメタンの製造方法、並びにそれに用いることができる制御装置及びメタン製造システムを提供する。
【解決手段】メタン生成菌と通性嫌気性細菌とを共培養してメタンを生成するステップを含む、メタンの製造方法、並びにそれに用いることができる制御装置及びメタン製造システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン生成菌と通性嫌気性細菌とを共培養してメタンを生成するステップを含む、メタンの製造方法。
【請求項2】
培養系の培養条件をモニタリングするステップと、
モニタリングされた培養条件が設定閾値範囲外であるかどうかを判定するステップと、
モニタリングされた培養条件が前記設定閾値範囲外である場合に、前記通性嫌気性細菌の酸素消費活性が高くなるように培養条件を調整するステップと
をさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
モニタリングされる培養条件が、酸素濃度であり、制御される培養条件が、培養温度である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
モニタリングされる培養条件及び制御される培養条件が、培養温度、培養液のpH、培養液の酸化還元電位、又は反応容器内圧力である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
メタン生成菌と通性嫌気性細菌とを共培養するための培養条件の制御装置であって、以下:
培養系の培養条件をモニタリングするセンサ部と、
モニタリングされた培養条件が設定閾値範囲外であるかどうかを判定し、かつモニタリングされた培養条件が前記設定閾値範囲外である場合に、前記通性嫌気性細菌の酸素消費活性が高くなるように培養条件を制御する制御部と
を備える、制御装置。
【請求項6】
モニタリングされる培養条件が、酸素濃度であり、制御される培養条件が、培養温度である、請求項5に記載の制御装置。
【請求項7】
モニタリングされる培養条件及び制御される培養条件が、培養温度、培養液のpH、培養液の酸化還元電位、又は反応容器内圧力である、請求項5に記載の制御装置。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか一項に記載の制御装置と、
メタン生成菌と通性嫌気性細菌とを共培養するための反応容器と、
メタン生成菌と通性嫌気性細菌とを共培養するための培養条件を調整する機構と
を備える、メタン製造システムであって、
前記培養条件を調整する機構における培養条件の調整が、前記制御装置によって制御される、
メタン製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、メタンの製造方法、制御装置、及びメタン製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近時のクリーンエネルギー化の要求に応えるため、メタンをエネルギー源として用いること、およびメタン生成菌を用いてメタンを生成することが検討されている。例えば、特許文献1には、水素生成菌を用いて有機性廃液を嫌気性発酵して水素とメタン原料有機物を生成する水素発酵部と、メタン生成菌を用いて前記メタン原料有機物を嫌気性発酵してメタンを生成するメタン発酵部と、を備えたバイオガス発生装置が開示されている。特許文献2には、アンモニウム塩を含有せず、還元剤としてL システイン塩酸塩を含有する培地により共培養可能な紅色非硫黄細菌と水素資化性メタン生成菌とを、二酸化炭素含有ガス存在下で共培養してメタンガスを得るメタン生産方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-149983号公報
【特許文献2】特開2013-192547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
メタンガスを生成するメタン生成菌は、偏性嫌気性微生物であり、反応容器内に酸素(O2)が存在することはメタン生成菌の活性低下や死滅につながる。外部から液体あるいは気体をメタン生成の反応容器内に供給する場合、不純物として酸素が混入する恐れがあるが、いずれの文献においても、酸素除去等、酸素混入への対策に関する方法が示されていない。酸素混入への対策がなされていないと、混入した酸素の影響により、期待したメタン生成がなされないおそれがある。
【0005】
そこで、本開示は、酸素混入状況下でも継続的に優れたメタン生成能力を伴う、メタン生成菌を用いたメタンの製造方法、並びにそれに用いることができる制御装置及びメタン製造システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
幾つかの実施形態に係るメタンの製造方法は、メタン生成菌と通性嫌気性細菌とを共培養してメタンを生成するステップを含む。これにより、酸素混入状況下でも継続的に優れたメタン生成能力を伴ってメタンを生成することができる。
【0007】
一実施形態において、
培養系の培養条件をモニタリングするステップと、
モニタリングされた培養条件が設定閾値範囲外であるかどうかを判定するステップと、
モニタリングされた培養条件が前記設定閾値範囲外である場合に、前記通性嫌気性細菌の酸素消費活性が高くなるように培養条件を調整するステップと
をさらに含んでもよい。
【0008】
一実施形態において、モニタリングされる培養条件が、酸素濃度であり、制御される培養条件が、培養温度であってもよい。
【0009】
一実施形態において、モニタリングされる培養条件及び制御される培養条件が、培養温度、培養液のpH、培養液の酸化還元電位、又は反応容器内圧力であってもよい。
【0010】
幾つかの実施形態に係る制御装置は、メタン生成菌と通性嫌気性細菌とを共培養するための培養条件の制御装置であって、以下:
培養系の培養条件をモニタリングするセンサ部と、
モニタリングされた培養条件が設定閾値範囲外であるかどうかを判定し、かつモニタリングされた培養条件が前記設定閾値範囲外である場合に、前記通性嫌気性細菌の酸素消費活性が高くなるように培養条件を制御する制御部と
を備える、制御装置である。これにより、酸素混入状況下でも継続的に優れたメタン生成能力を伴ってメタンを生成することができる。
【0011】
一実施形態において、モニタリングされる培養条件が、酸素濃度であり、制御される培養条件が、培養温度であってもよい。
【0012】
一実施形態において、モニタリングされる培養条件及び制御される培養条件が、培養温度、培養液のpH、培養液の酸化還元電位、又は反応容器内圧力であってもよい。
【0013】
幾つかの実施形態に係るメタン製造システムは、
上述した制御装置と、
メタン生成菌と通性嫌気性細菌とを共培養するための反応容器と、
メタン生成菌と通性嫌気性細菌とを共培養するための培養条件を調整する機構と
を備える、メタン製造システムであって、
前記培養条件を調整する機構における培養条件の調整が、前記制御装置によって制御される、
メタン製造システムである。これにより、酸素混入状況下でも継続的に優れたメタン生成能力を伴ってメタンを生成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、酸素(O2)混入状況下でも継続的に優れたメタン生成能力を伴う、メタン生成菌を用いたメタンの製造方法、並びにそれに用いることができる制御装置及びメタン製造システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示のメタン製造システムの例を示す概略図である。
【
図2】実施例1における反応容器内の気相中メタン濃度の経時変化を示すグラフである。矢印は、反応容器内ガス入れ替え時点を示す。
【
図3】参考例1における反応容器内の気相中メタン濃度の経時変化を示すグラフである。矢印は、反応容器内ガス入れ替え時点を示す。
【
図4】比較例1における反応容器内の気相中メタン濃度の経時変化を示すグラフである。矢印は、反応容器内ガス入れ替え時点を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(メタンの製造方法)
本開示のメタンの製造方法は、メタン生成菌と通性嫌気性細菌とを共培養してメタンを生成するステップを含む。本開示のメタンの製造方法では、メタン生成の原料をガスまたは培養液の成分として供給し、生成したメタンを含有する培養系内ガスを回収することによって、メタンを得ることができる。メタン生成菌と通性嫌気性細菌とを共培養することにより、混入した酸素(O2)を通性嫌気性細菌が消費して、培養系内を低酸素状態に維持してメタン生成菌のメタン生成活性を良好に維持し、酸素混入状況下でも継続的に優れたメタン生成能力を伴ってメタンを製造することができる。
【0017】
また、本開示のメタンの製造方法は、培養系の培養条件をモニタリングするステップと、モニタリングされた培養条件が設定閾値範囲外であるかどうかを判定するステップと、モニタリングされた培養条件が前記設定閾値範囲外である場合に、前記通性嫌気性細菌の酸素消費活性が高くなるように培養条件を調整するステップとをさらに含んでもよい。本開示のメタンの製造方法において、モニタリングされる培養条件は、酸素濃度であり、制御される培養条件は、培養温度であってもよい。あるいは、本開示のメタンの製造方法において、モニタリングされる培養条件及び制御される培養条件が同じであってもよく、例えば、培養温度、培養液のpH、培養液の酸化還元電位(ORP)、反応容器内圧力等が挙げられる。培養条件を調整することにより、メタン生成菌のメタン生成活性を良好に維持し、酸素混入状況下でも継続的に優れたメタン生成能力を伴ってメタンを製造することができる。例えば、酸素濃度をモニタリングし、培養温度を調整することによって、培養系内を低酸素状態に維持してメタン生成菌のメタン生成活性を良好に維持し、酸素混入状況下でも継続的に優れたメタン生成能力を伴ってメタンを製造することができる。
【0018】
また、本開示のメタンの製造方法では、培養系内ガスを周期的に入れ替えて、生成したメタンを含有する培養系内ガスを回収してもよい。培養系内ガスの入れ替えは、一定時間間隔で行ってもよく、培養系のメタン濃度に応じて行ってもよい。培養系内ガスの入れ替えを培養系のメタン濃度に応じて行う場合、本開示のメタンの製造方法は、培養系のメタン濃度をモニタリングするステップと、前記メタン濃度が設定閾値を超えているかどうかを判定するステップと、前記メタン濃度が前記設定閾値を超えている場合に、培養系のガスを入れ替えるステップとをさらに含んでもよい。
【0019】
(制御装置)
本開示の制御装置は、メタン生成菌と通性嫌気性細菌とを共培養するための培養条件の制御装置であって、以下:
培養系の培養条件をモニタリングするセンサ部と、
モニタリングされた培養条件が設定閾値範囲外であるかどうかを判定し、かつモニタリングされた培養条件が前記設定閾値範囲外である場合に、前記通性嫌気性細菌の酸素消費活性が高くなるように培養条件を制御する制御部と
を備える、制御装置である。
【0020】
本開示の制御装置は、本開示のメタンの製造方法に用いることができる。本開示の制御装置をメタンの製造方法に用いれば、酸素混入状況下でも継続的に優れたメタン生成能力を伴ってメタンを製造することができる。本開示の制御装置において、モニタリングされる培養条件は、酸素濃度であり、制御される培養条件は、培養温度であってもよい。あるいは、本開示の制御装置において、モニタリングされる培養条件及び制御される培養条件が同じであってもよく、例えば、培養温度、培養液のpH、培養液の酸化還元電位(ORP)、酸素濃度(例、培養液の溶存酸素(DO)、気相部分の酸素濃度、またはこれらの両方等)等が挙げられる。本開示の制御装置の各構成要素の説明は後述する。
【0021】
(メタン製造システム)
本開示のメタン製造システムは、上述した本開示の制御装置と、メタン生成菌と通性嫌気性細菌とを共培養するための培養槽と、メタン生成菌と通性嫌気性細菌とを共培養するための培養条件を調整する機構とを備え、前記培養条件を調整する機構における培養条件の調整が、前記制御装置によって制御される、メタン製造システムである。本開示のメタン製造システムを用いれば、酸素混入状況下でも継続的に優れたメタン生成能力を伴ってメタンを製造することができる。
【0022】
(各構成要素の説明)
以下、本開示のメタンの製造方法、制御装置、及びメタン製造システムの各構成要素について説明する。
【0023】
<メタン生成菌>
メタン生成菌としては、メタノバクテリウム・アルカリフィラム(Methanobacterium alcaliphilum)、メタノバクテリウム・ブライアンティイ(Methanobacterium bryantii)、メタノバクテリウム・コンゴレンセ(Methanobacterium congolense)、メタノバクテリウム・デフルビイ(Methanobacterium defluvii)、メタノバクテリウム・エスパル(Methanobacterium espanolae)、メタノバクテリウム・フォルミシカム(Methanobacterium formicicum)、メタノバクテリウム・イバノビイ(Methanobacterium ivanovii)、メタノバクテリウム・パルストレ(Methanobacterium palustre)、メタノバクテリウム・サーマグレガンス(Methanobacterium thermaggregans)、メタノバクテリウム・ウリギノサム(Methanobacterium uliginosum)、メタノブレビバクター・アシディデュランス(Methanobrevibacter acididurans)、メタノブレビバクター・アルボリフィリカス(Methanobrevibacter arboriphilicus)、メタノブレビバクター・ゴッシアリキイ(Methanobrevibacter gottschalkii)、メタノブレビバクター・オレヤエ(Methanobrevibacter olleyae)、メタノブレビバクター・ルミナンチウム(Methanobrevibacter ruminantium)、メタノブレビバクター・スミシイ(Methanobrevibacter smithii)、メタノブレビバクター・オエセイ(Methanobrevibacter woesei)、メタノブレビバクター・ウォルニイ(Methanobrevibacter wolinii)、メタノサーモバクター・マーブルゲンシス(Methanothermobacter marburgensis)、メタノサーモバクター・サーモオートトロフィカス(Methanothermobacter thermoautotrophicus)、メタノバクテリウム・サーモオートトロフィカス(Methanobacterium thermoautotrophicus)、メタノサーモバクター・サーモフレキアス(Methanothermobacter thermoflexus)、メタノサーモバクター・サーモフィリクス(Methanothermobacter thermophilics)、メタノサーモバクター・ウォルフェイイ(Methanothermobacter wolfeii)、メタノサームス・ソシアビリス(Methanothermus sociabilis)、メタノコルプスクルム・ババリカム(Methanocorpusculum bavaricum)、メタノコルプスクルム・パルバム(Methanocorpusculum parvum)、メタノクレウス・チクオエンシス(Methanoculleus chikuoensis)、メタノクレウス・サブマリナス(Methanoculleus submarinus)、メタノゲニウム・フリギダム(Methanogenium frigidum)、メタノゲニウム・リミナタンス(Methanogenium liminatans)、メタノゲニウム・マリナム(Methanogenium marinum)、メタノミクロビウム・モービレ(Methanomicrobium mobile)、メタノカルドコックス・ヤンナスキイ(Methanocaldococcus jannaschii)、メタノコッカス・エオリカス(Methanococcus aeolicus)、メタノコッカス・マリパルディス(Methanococcus maripaludis)、メタノコッカス・バンニエリ(Methanococcus vannielii)、メタノコッカス・ボルタエイ(Methanococcus voltaei)、メタノサーモコッカス・サーモリソトロフィカス(Methanothermococcus thermolithotrophicus)等を例示することができる。
【0024】
<通性嫌気性細菌>
通性嫌気性細菌としては、Caldilinea属(Caldilinea aerophila等)、ブドウ球菌属(Staphylococcus属:黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、腐性ブドウ球菌(Staphylococcu saprophyticus))、Corynebacterium属(コリネバクテリウム属:グルタミン酸生産菌 (Corynebacterium glutamicum)等)、Listeria属(Listeria monocytogenes等)、Escherichia属(Escherichia coli等)等を例示することができる。
【0025】
<メタン生成の原料>
メタン生成の原料としては、例えば、水素(H2)及び二酸化炭素(CO2)の組合せが挙げられる。メタン生成菌によるメタン生成反応としては、
CO2+4H2→CH4+2H2O
が挙げられる。
【0026】
<モニタリング及び制御される培養条件>
モニタリングされる培養条件としては、例えば、酸素濃度(例、培養液の溶存酸素(DO)量等)、培養温度、培養液のpH、培養液の酸化還元電位(ORP)、反応容器内圧力等が挙げられる。
【0027】
制御(調整)される培養条件としては、例えば、培養温度、培養液のpH、培養液の酸化還元電位(ORP)、反応容器内圧力等が挙げられる。
【0028】
-酸素濃度-
酸素濃度は、例えば、培養液の溶存酸素(DO)量、気相部分の酸素濃度、またはこれらの両方等を指標としてモニタリングすることができる。メタン生成菌は偏性嫌気性微生物であり、酸素(O2)の存在は活性の低下、増殖抑制、死滅につながるため、酸素濃度(例、培養液中のDO量、気相部分の酸素濃度、またはこれらの両方等)を可能な限り少なくする必要がある。酸素濃度をモニターし、予め設定した閾値を超えたときには通性嫌気性細菌の活性が高くなるように培養条件を調整して、酸素(O2)を通性嫌気性細菌に消費させて取り除く。調整する培養条件としては、例えば、培養温度が挙げられる。液体中の気体の溶解度は温度が高くなると低くなることから、温度を上げてDO量を下げることは可能だが、菌体の死滅につながる可能性もあるので、培養温度はあまり高くなり過ぎないように調整されることが好ましい。
【0029】
酸素濃度の最適化は、モニタリングされた酸素濃度をフィードバックして培養温度を調整することによって行うことができる。このようなフィードバックは、例えば、培養系の酸素濃度(例、培養液中のDO量、気相部分の酸素濃度、またはこれらの両方等)をモニタリングするセンサ部(例、溶存酸素センサ、気相部分の酸素センサ等)と、モニタリングされた酸素濃度が設定閾値を超えているかどうかを判定し、かつモニタリングされた酸素濃度が前記設定閾値を超えている場合に、前記通性嫌気性細菌の酸素消費活性が高くなるように培養温度を制御する制御部とを備える、制御装置を用いて行うことができる。
【0030】
-培養温度-
各微生物菌株には固有の生育温度範囲があり、生育温度範囲外においては微生物は増殖できず、また培養温度が至適生育温度を外れると活性が低下する。生育温度よりも培養温度が下がった状況が長期にわたると活性を取り戻すまでに時間を要する。生育温度よりも培養温度が上がった場合、菌体が死滅する可能性がある。
【0031】
メタン生成菌と通性嫌気性細菌の至適生育温度が異なる場合、通常時はメタン生成菌の至適生育温度で稼働し、酸素濃度が過剰になった場合は、通性嫌気性細菌の至適生育温度に培養温度を変更することで、より積極的に酸素(O2)を除去することができる。
【0032】
したがって、培養温度は、モニタリングされた酸素濃度をフィードバックすることによって、例えば通性嫌気性細菌の至適生育温度となるように調整されてもよい。また、培養温度は、培養温度自体をモニタリングしてフィードバックすることによって、例えば菌体の死滅につながらないようにあまり高くなり過ぎない温度に調整されてもよい。培養温度自体をモニタリングしてフィードバックする場合、このようなフィードバックは、例えば、培養系の培養温度をモニタリングするセンサ部と、モニタリングされた培養温度が設定閾値範囲外であるかどうかを判定し、かつモニタリングされた培養温度が前記設定閾値範囲外である場合に、前記通性嫌気性細菌の酸素消費活性が高くなるように培養温度を制御する制御部とを備える、制御装置を用いて行うことができる。培養温度を制御する制御部としては、例えば、反応容器を加熱又は冷却することができる温度調節装置が挙げられる。
【0033】
-培養液のpH-
各微生物菌株には固有の生育pH範囲があり、生育可能なpH範囲外において微生物は増殖せず、至適生育pHから外れると微生物の活性が低下する。培養液のpHは、例えば、培養液のpHをモニタリングしてフィードバックすることによって調整されてもよい。至適生育pHから外れたときは、アルカリまたは酸を培養液に添加することで範囲内に戻し、メタン生成菌と通性嫌気性細菌の生育状態を良好に維持し、継続的に優れたメタン生成能力を伴ってメタンを製造することを可能にする。
【0034】
このようなフィードバックは、例えば、培養系の培養液のpHをモニタリングするセンサ部と、モニタリングされた培養液のpHが設定閾値範囲外であるかどうかを判定し、かつモニタリングされた培養液のpHが前記設定閾値範囲外である場合に、前記通性嫌気性細菌の酸素消費活性が高くなるように培養液のpHを制御する制御部とを備える、制御装置を用いて行うことができる。培養液のpHを制御する制御部としては、例えば、アルカリ性溶液注入装置及び酸性溶液注入装置が挙げられる。
【0035】
-培養液の酸化還元電位(ORP)-
メタン生成菌は嫌気状態で活動し、酸化還元電位がマイナスの値を示す還元環境で活性を有する。活性を有する酸化還元電位の値は、微生物の種類によって異なる。通性嫌気性細菌が存在する環境では、時間を置くことでメタン生成が可能となるが、より積極的に環境を改善するには、培養液の酸化還元電位(ORP)を微生物の活動状態を良好にするように調整することが好ましい。このような調整は、例えば、還元剤(硫化ナトリウム9水和物、システイン塩酸1水和物など)を培養液に添加することによって行ってもよい。なお、酸素(O2)はORPを上げる要因となるので、ORPが上がった時には酸素(O2)が混入した可能性があると考えることができる。
【0036】
培養液のORPは、例えば、培養液の酸化還元電位をモニタリングしてフィードバックすることによって調整されてもよい。このようなフィードバックは、例えば、培養系の培養液の酸化還元電位をモニタリングするセンサ部と、モニタリングされた培養液の酸化還元電位が設定閾値範囲外であるかどうかを判定し、かつモニタリングされた培養液の酸化還元電位が前記設定閾値範囲外である場合に、前記通性嫌気性細菌の酸素消費活性が高くなるように培養液の酸化還元電位を制御する制御部とを備える、制御装置を用いて行うことができる。培養液の酸化還元電位を制御する制御部としては、例えば、還元剤注入装置が挙げられる。
【0037】
-反応容器内圧力-
各微生物菌株には固有の生育圧力範囲があり、生育圧力範囲外において微生物は増殖せず、死滅に至る。反応容器内圧力は、例えば、反応容器内圧力をモニタリングしてフィードバックすることによって微生物の至適生育圧力に調整されてもよい。反応容器内圧力が微生物の生育圧力範囲外になったときは、例えば、反応容器内の気相をガス排出口から排出することで範囲内に戻し、メタン生成菌と通性嫌気性細菌の生育状態を良好に維持し、継続的に優れたメタン生成能力を伴ってメタンを製造することを可能にする。
【0038】
このようなフィードバックは、例えば、培養系の反応容器内圧力をモニタリングするセンサ部と、モニタリングされた反応容器内圧力が設定閾値範囲外であるかどうかを判定し、かつモニタリングされた反応容器内圧力が前記設定閾値範囲外である場合に、前記通性嫌気性細菌の酸素消費活性が高くなるように反応容器内圧力を制御する制御部とを備える、制御装置を用いて行うことができる。反応容器内圧力を制御する制御部としては、例えば、ガス排出口が挙げられる。
【0039】
<反応容器>
反応容器は、培養液及び気相を収容し、微生物を培養液中で液体培養することができる容器であれば、特に限定されない。以下、
図1を参照して、反応容器100及び反応容器100を備えるメタン(CH
4)製造システム300の例を説明する。反応容器100は、気相収容領域で、水素(H
2)ガス供給部101、二酸化炭素(CO
2)ガス供給部102、ガス排出部103、ガス分析装置104、温度センサ105、及び圧力センサ106と接続されていてもよい。また、反応容器100は、培養液収容領域で、温度センサ105、溶存酸素(DO)センサ107、pHセンサ108、酸化還元電位(ORP)センサ109、温度調整機構110、酸化還元電位(ORP)調整機構111、pH調整機構112と接続されていてもよい。反応容器100は、ガス排出口103を介して、メタン(CH
4)ガスタンク200と接続されていてもよい。メタン(CH
4)製造システム300は、反応容器100及び反応容器100以外の上述した部材の幾つか又は全てを備えていてもよい。
【実施例0040】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらにより限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
(1)反応容器内に、NBRCオンラインカタログに記載のMedium No.398(https://www.nite.go.jp/nbrc/catalogue/NBRCMediumDetailServlet?NO=398)と同一の組成を有する培養液を注液した。(2)容器を封止し、気相部分の気体を反応ガスであるH2/CO2混合ガス(混合比H2:CO2=80:20vol.%)で満たした。(3)水素資化性メタン生成菌および通性嫌気性細菌を含む微生物群を培養液に注液した。(4)培養開始時の酸素(O2)含有量が1vol.%となるように、気相部分に空気を添加した。(5)反応ガスで培養開始設定圧力まで容器内を加圧した。(6)所定の温度一定の条件下で培養を行った。(7)供給したCO2がメタンに変換されているのを確認し、生成したメタンガスを反応ガスであるH2/CO2で置換し、上記(4)と同一条件となるように空気を入れた後、設定圧力まで反応ガスで加圧し、培養を継続した。
【0042】
培養液は、Methanothermobacter 属の水素資化性メタン生成菌及びCaldilinea属の通性嫌気性細菌を含有していた。
【0043】
反応容器内のメタン濃度(メタン生成量の指標)の経時変化の結果を、
図2に示す。矢印は、生成したメタンガスを反応ガスであるH
2/CO
2混合ガスで置換した時点を示す。
図2に示す結果から、水素資化性メタン生成菌の活性阻害特性を有するO
2存在下であっても、メタン生成が良好に継続していたことが示された。
【0044】
(参考例1)
Methanothermobacter 属のメタン生成菌を単独で用いた標準的な培養によるメタン生成を行った。具体的には、微生物として、Methanothermobacter 属のメタン生成菌を単独で含み、通性嫌気性細菌を含有しない培養液を用いて、培養時に気相部分への空気添加を行わなかった以外は、実施例1と同様に培養を行った。
【0045】
反応容器内のメタン濃度(メタン生成量の指標)の経時変化の結果を、
図3に示す。矢印は、生成したメタンガスを反応ガスであるH
2/CO
2混合ガスで置換した時点を示す。
図3に示す結果から、水素資化性メタン生成菌の活性阻害特性を有するO
2を非添加であったので、培養液が通性嫌気性細菌を含有しなくても、メタン生成が良好に継続していたことが示された。
【0046】
(比較例1)
微生物として、Methanothermobacter 属の水素資化性メタン生成菌を単独で含み、通性嫌気性細菌を含有しない培養液を用いた以外は、実施例1と同様に培養を行った。
【0047】
反応容器内のメタン濃度(メタン生成量の指標)の経時変化の結果を、
図4に示す。矢印は、生成したメタンガスを反応ガスであるH
2/CO
2混合ガスで置換した時点を示す。
図4に示す結果から、通性嫌気性細菌を含有していないことにより、添加されたO
2が消費されずに蓄積し、水素資化性メタン生成菌の生育状態が悪化し、培養時間が経過するにつれてメタン生成能が低下し、最終的にメタン生成がほぼ停止した。
【0048】
(結果)
本発明のメタンの製造方法に従う実施例1では、水素資化性メタン生成菌の活性阻害特性を有する酸素(O2)存在下であっても、水素資化性メタン生成菌を用いた標準的な培養によるメタン生成を示す参考例1と同程度にメタン生成が良好に継続していた。一方、通性嫌気性細菌を含有しない培養液で培養した比較例1では、培養時間が経過するにつれてメタン生成能が低下し、最終的にメタン生成がほぼ停止した。この結果から、本発明のメタンの製造方法に従えば、水素資化性メタン生成菌の活性阻害特性を有する酸素存在下であっても、良好にメタンを生成することが示された。
【0049】