(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065940
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】水素チャージ方法及び水素脆化特性評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20240508BHJP
G01N 33/2045 20190101ALI20240508BHJP
【FI】
G01N17/00
G01N33/2045 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175068
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】591006298
【氏名又は名称】JFEテクノリサーチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】大熊 隆次
【テーマコード(参考)】
2G050
2G055
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050BA04
2G055AA03
2G055BA01
2G055BA11
2G055CA23
2G055FA01
2G055FA06
2G055FA09
(57)【要約】
【課題】電解液温度を高温とすることで水素チャージ量を増やすことが可能な、簡易な電気化学的手法を用いた水素チャージ方法を提供する。
【解決手段】アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンの一方又は両方を含有し、100℃超えの沸点を有し、ヒドロキシ基を有する有機溶媒からなる電解液に金属試料を浸漬する工程と、前記電解液中で前記金属試料に電子が供給され、前記金属試料の表面から前記電子が抜ける電気回路を形成することで、前記金属試料に電気化学的に水素をチャージする工程と、を有する水素チャージ方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンの一方又は両方を含有し、100℃超えの沸点を有し、ヒドロキシ基を有する有機溶媒からなる電解液に金属試料を浸漬する工程と、
前記電解液中で前記金属試料に電子が供給され、前記金属試料の表面から前記電子が抜ける電気回路を形成することで、前記金属試料に電気化学的に水素をチャージする工程と、
を有する水素チャージ方法。
【請求項2】
前記電解液に対極を浸漬し、
前記金属試料と前記対極とを外部電源に接続して、
前記外部電源により、作用極としての前記金属試料に対して前記対極よりも負の電圧を印加する
ことにより、前記電気回路を形成する、請求項1に記載の水素チャージ方法。
【請求項3】
前記電解液の温度が0℃超えである、請求項1に記載の水素チャージ方法。
【請求項4】
前記電解液の温度が85℃以上、かつ、前記有機溶媒の沸点未満である、請求項1に記載の水素チャージ方法。
【請求項5】
前記電解液の温度が100℃以上、かつ、前記有機溶媒の沸点未満である、請求項1に記載の水素チャージ方法。
【請求項6】
前記有機溶媒がアルコールである、請求項1に記載の水素チャージ方法。
【請求項7】
前記アルコールが、25℃において3.2×103Pa以下の蒸気圧を有する、請求項6に記載の水素チャージ方法。
【請求項8】
前記アルコールが、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリンからなる群から選択される一種以上である、請求項6に記載の水素チャージ方法。
【請求項9】
前記金属試料が、25℃において1.0×10-15m2/s以下の水素拡散係数を有する、請求項1に記載の水素チャージ方法。
【請求項10】
前記金属試料がオーステナイト系ステンレス鋼である、請求項9に記載の水素チャージ方法。
【請求項11】
前記電解液が、さらにシアン化合物を含有する、請求項1に記載の水素チャージ方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の水素チャージ方法によって水素がチャージされた前記金属試料に対して、水素脆化特性評価試験を行う水素脆化特性評価方法。
【請求項13】
前記水素脆化特性評価試験が、トレーサー水素分析法による試験である、請求項12に記載の水素脆化特性評価方法。
【請求項14】
前記水素脆化特性評価試験が、前記金属試料に、引張、圧縮、曲げ、せん断、及びねじりの一種以上の応力を負荷して行う物性試験である、請求項12に記載の水素脆化特性評価方法。
【請求項15】
前記水素脆化特性評価試験が、水素透過試験である、請求項12に記載の水素脆化特性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素脆化特性評価試験に供される金属試料への水素チャージ方法と、当該水素チャージ方法を含む水素脆化特性評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼等の金属材料の開発において、水素により強度及び靭性が劣化する水素脆化が問題となっている。金属材料の水素脆化特性を評価する方法としては、当該金属材料からなる試料に水素をチャージし、この水素がチャージされた試料に対して、種々の手法による水素脆化特性評価試験を行う方法が開発されている。
【0003】
金属試料に水素をチャージする方法として、金属試料を高圧水素ガス環境下に置くことで、気相中で金属試料に水素をチャージする方法がある。
【0004】
また、電気化学的な手法で金属試料に水素をチャージする方法も知られている。例えば特許文献1に記載されるように、作用極としての金属試料と対極とを電解液に浸漬し、金属試料に対して対極よりも負の電圧を印可して、金属試料に電気化学的に水素をチャージする方法がある。この方法では、電解液として、塩化ナトリウム(NaCl)水溶液、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液、硫酸(H2SO4)水溶液、塩酸(HCl)水溶液などの水溶液を用いていた。この方法では、電解液中の水素イオンが金属試料から電子を受けて、金属試料の表面で水素原子となり、一部の水素原子は互いに結合して水素分子となり金属試料表面から離脱するものの、残りの水素原子は金属試料の内部に侵入するものと考えられる。
【0005】
ただし、特許文献1の方法では、0℃以下では電解液中の水が凝固するため、0℃以下といった低温では水素チャージができない。この問題を解決するべく、特許文献2には、作用極としての金属試料と対極とを、アルカリ金属イオンを含有するアルコールからなる電解液に浸漬し、金属試料に対して対極よりも負の電圧を印可して、金属試料に電気化学的に水素をチャージする方法が記載されている。この方法は、アルカリ金属イオンを含有するアルコールを電解液として用いて、金属試料表面で金属アルコキシド反応により水素を発生させて、この水素を金属試料にチャージするものである。このような非水系有機溶媒を電解液として用いることで、電解液が0℃以下で凝固することがないため、0℃以下といった低温で水素チャージが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-184293号公報
【特許文献2】特開2022- 53488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
昨今、水素化社会の実現のため、水素を大量に貯蔵し、運搬する方法として、液体水素(温度:-253℃)を運搬する設備や貯蔵する設備の建設が進められている。このような低温でこれら設備に使用される金属材料の中には、例えばオーステナイト系ステンレス鋼など、水素拡散係数が小さい金属材料、すなわち水素がチャージされにくい金属材料もある。このような水素がチャージされにくい金属材料に対しても、低温での水素脆化特性評価のために、なるべく多くの水素をチャージすることが求められている。
【0008】
水素がチャージされにくい金属試料に対してなるべく多くの水素をチャージするためには、高温環境下で当該金属試料に水素をチャージすることが考えられる。また、水素がチャージされにくい金属試料に限らず、金属材料全般に関して、水素チャージを行う環境が高温であるほど、より多くの水素をチャージすることができる。
【0009】
そこで、金属試料を高圧水素ガス環境下に置く水素チャージ方法を、85℃以上、さらには120℃程度といった高温環境下で行うことが考えられる。しかしながら、この方法は、大掛かりな高圧水素設備が必要でコストが高い上に、簡易的でないという問題がある。また、気相中での水素チャージであるため、水素チャージ速度が低く、金属試料中に水素を飽和させるのに300時間などの長時間を要するという問題がある。このため、簡易な電気化学的な手法による高温での水素チャージ方法が求められている。
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載された水溶液系の電解液を用いた電気化学的な水素チャージ方法では、水の沸点が100℃であるため、電解液の温度を高温化するとしても、高々85℃程度であった。
【0011】
また、特許文献2に記載された非水系有機溶媒からなる電解液を用いた電気化学的な水素チャージ方法は、0℃以下の低温での水素チャージを志向した技術であり、電解液の温度を高温化して水素チャージ量を増加させるとの課題を全く考慮していない。実際、引用文献2で用いるアルコールは、0℃未満の融点を有する(すなわち0℃で凝固しない)上に、沸点が100℃よりも低いため、特許文献1の水溶液系よりもさらに、電解液温度の高温化に制約があった。
【0012】
そこで本発明は、上記課題に鑑み、電解液温度を高温とすることで水素チャージ量を増やすことが可能な、簡易な電気化学的手法を用いた水素チャージ方法と、当該水素チャージ方法を用いた水素脆化特性評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決すべく、本発明者は、高温でも沸騰しない有機溶媒を電解質として用いる、簡易な電気化学的な水素チャージ方法を検討した。まず、金属試料表面で金属アルコキシド反応により水素を発生させるためには、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンの一方又は両方を含有し、ヒドロキシ基を有する有機溶媒を電解質として用いる必要がある。さらに、100℃超えの沸点を有する有機溶媒を用いることで、従来よりも電解液温度を高温化することができ、その結果、水素チャージ量を増やすことが可能となる。
【0014】
以上の知見に基づいて完成された本発明の要旨構成は以下のとおりである。
[1]アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンの一方又は両方を含有し、100℃超えの沸点を有し、ヒドロキシ基を有する有機溶媒からなる電解液に金属試料を浸漬する工程と、
前記電解液中で前記金属試料に電子が供給され、前記金属試料の表面から前記電子が抜ける電気回路を形成することで、前記金属試料に電気化学的に水素をチャージする工程と、
を有する水素チャージ方法。
【0015】
[2]前記電解液に対極を浸漬し、
前記金属試料と前記対極とを外部電源に接続して、
前記外部電源により、作用極としての前記金属試料に対して前記対極よりも負の電圧を印加する
ことにより、前記電気回路を形成する、上記[1]に記載の水素チャージ方法。
【0016】
[3]前記電解液の温度が0℃超えである、上記[1]又は[2]に記載の水素チャージ方法。
【0017】
[4]前記電解液の温度が85℃以上、かつ、前記有機溶媒の沸点未満である、請求項上記[1]又は[2]に記載の水素チャージ方法。
【0018】
[5]前記電解液の温度が100℃以上、かつ、前記有機溶媒の沸点未満である、請求項上記[1]又は[2]に記載の水素チャージ方法。
【0019】
[6]前記有機溶媒がアルコールである、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の水素チャージ方法。
【0020】
[7]前記アルコールが、25℃において3.2×103Pa以下の蒸気圧を有する、上記[6]に記載の水素チャージ方法。
【0021】
[8]前記アルコールが、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリンからなる群から選択される一種以上である、上記[6]に記載の水素チャージ方法。
【0022】
[9]前記金属試料が、25℃において1.0×10-15m2/s以下の水素拡散係数を有する、上記[1]~[8]のいずれか一項に記載の水素チャージ方法。
【0023】
[10]前記金属試料がオーステナイト系ステンレス鋼である、上記[9]に記載の水素チャージ方法。
【0024】
[11]前記電解液が、さらにシアン化合物を含有する、上記[1]~[10]のいずれか一項に記載の水素チャージ方法。
【0025】
[12]上記[1]~[11]のいずれか一項に記載の水素チャージ方法によって水素がチャージされた前記金属試料に対して、水素脆化特性評価試験を行う水素脆化特性評価方法。
【0026】
[13]前記水素脆化特性評価試験が、トレーサー水素分析法による試験である、上記[12]に記載の水素脆化特性評価方法。
【0027】
[14]前記水素脆化特性評価試験が、前記金属試料に、引張、圧縮、曲げ、せん断、及びねじりの一種以上の応力を負荷して行う物性試験である、上記[12]に記載の水素脆化特性評価方法。
【0028】
[15]前記水素脆化特性評価試験が、水素透過試験である、上記[12]に記載の水素脆化特性評価方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明の水素チャージ方法と、当該水素チャージ方法を用いた水素脆化特性評価方法は、簡易な電気化学的手法による水素チャージを含み、電解液温度を高温とすることで水素チャージ量を増やすことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施形態による水素チャージ方法を実施可能な電気化学セルの模式図である。
【
図2】発明例1~3における昇温脱離分析の結果を示すグラフである。
【
図3】発明例3、比較例1、及び比較例2における、t/L
2(t:チャージ時間、L:試料厚さ)に対する水素量を示すグラフである。
【
図4】発明例4及び比較例3における昇温脱離分析の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(水素チャージ方法)
本発明の一実施形態による水素チャージ方法は、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンの一方又は両方を含有し、100℃超えの沸点を有し、ヒドロキシ基を有する有機溶媒からなる電解液に金属試料を浸漬する工程と、前記電解液中で前記金属試料に電子が供給され、前記金属試料の表面から前記電子が抜ける電気回路を形成することで、前記金属試料に電気化学的に水素をチャージする(侵入させる)工程と、を有する。
【0032】
前記電気回路を形成する方法として、典型的には、前記電解液に対極を浸漬し、前記金属試料と前記対極とを外部電源に接続して、前記外部電源により、作用極としての前記金属試料に対して前記対極よりも負の電圧を印加する方法が挙げられる。
【0033】
[金属試料]
本実施形態の水素チャージ方法に供する金属試料を構成する材料は、特に限定されず、種々の鋼材や、マグネシウム及びマグネシウム合金など、任意の金属材料とすることができる。ただし、水素が入りにくい金属試料を用いる場合に、電解液温度を高温とすることで水素チャージ量を増やすという本発明の効果を顕著に得ることができる。このため、金属試料は、水素が入りにくい材料、具体的には、25℃において1.0×10-15m2/s以下の水素拡散係数を有する材料からなることが好ましい。このような金属材料として、オーステナイト系ステンレス鋼、ニッケル、亜鉛等を挙げることができる。よって、金属試料は、これらの材料からなることが好ましい。なお、水素拡散係数は、電気化学的水素透過試験、又は、金属材料を透過した水素を直接ガスとして分析する方法により求めることができる。
【0034】
金属試料の形状及びサイズは、特に限定されない。金属試料の形状は、例えば、板状であってもよいし、円柱状であってもよい。なお、効率的な水素チャージの観点から、金属試料の表面は洗浄し、汚れ及び酸化皮膜等は除去しておくことが好ましい。
【0035】
[対極及び参照極]
対極の材料は、特に限定されず、対極としては、例えば白金又は炭素電極を用いることができる。ただし、電解液が塩化物イオンを含む場合、高温の電解液中での対極の腐食が懸念される。このような場合の対極の腐食を抑制して、安定した水素チャージを実現する観点から、対極として炭素電極を用いることが好ましい。対極の形状も、特に限定されず、例えば、線状、棒状、又は板状とすることができる。また、必要に応じて、参照極を電解液に浸漬してもよい。参照極には、電解液が塩化物イオンを含む場合は、非水系参照極、例えば銀塩化銀電極(内封液なし)を用いることができる。電解液が塩化物イオンを含有しない場合は、塩化リチウムを含有したエタノールを内封液とした銀塩化銀電極を用いることができる(低温試験の場合)。参照極を用いることによって、電位制御でも水素をチャージすることが可能となる。水素チャージを電位制御で行う場合には、外部電源にポテンショスタットを用いることができる。一方、水素チャージを電流制御で行う場合には、外部電源にガルバノスタットを用いることができ、参照極は省略することができる。
【0036】
[電解液]
本実施形態では、電解液が、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンの一方又は両方を含有し、100℃超えの沸点を有し、ヒドロキシ基を有する有機溶媒からなることが肝要である。このような電解液は、100℃超えの沸点を有し、ヒドロキシ基を有する有機溶媒に、アルカリ金属イオンを含有する電解質及びアルカリ土類金属イオンを含有する電解質の一方又は両方を溶解させて得ることができる。このような電解液を用いて、金属試料に対して対極よりも負の電圧を印可することによって、金属試料表面で金属アルコキシド反応により水素を発生させて、金属試料に水素をチャージすることができる。
【0037】
金属アルコキシド反応とは、典型的には以下の反応である。
M + R-OH → R-OM + 1/2H2
M=アルカリ金属、R=炭化水素基
M’ + 2(R-OH) → M’(R-O)2 + H2
M’=アルカリ土類金属、R=炭化水素基
【0038】
塩化ナトリウム(NaCl)を溶解したエチレングリコール(HO-C2H4-OH)を電解質とした場合を例として、水素チャージの推定メカニズムを以下に説明する。
まず、塩化ナトリウムは、電解液中で以下のとおり電離している。
NaCl → Na+ + Cl-
そして、金属試料の表面から抜ける電子が電解液中に供給されることで、金属試料表面では、以下の反応が生じる。
HOC2H4OH + e- → HOC2H4O- + 1/2H2 (水素発生)
Na+ + HOC2H4O- → HOC2H4ONa (アルコキシド生成)
すなわち、
Na+ + HOC2H4OH + e- →HOC2H4ONa + 1/2H2
の金属アルコキシド反応によって、金属試料表面にて水素が発生する。
なお、対極側では、電解液中の塩化物イオンが電子を引き抜かれて、以下の反応を生じる。
2Cl- - 2e- → Cl2
このようにして生じた水素(H2)の一部が、乖離して水素原子として金属試料内に侵入するものと考えられる。
【0039】
本実施形態によれば、100℃超えの沸点を有する有機溶媒を電解液として用いることで、従来よりも電解液温度を高温化することができ、その結果、水素チャージ量を増やすことが可能となる。本実施形態は、電気化学的な水素チャージ方法であるため、金属試料を高圧水素ガス環境下に置く水素チャージ方法に比べて、低コストで簡易的である。
【0040】
また、本実施形態により電解液温度を高温として水素チャージを行うと、同じく高温で金属試料を高圧水素ガス環境下に置く水素チャージ方法を実施する場合に比べて、水素チャージ速度を高くすることができ、短時間で多くの水素をチャージすることができることが分かった。
【0041】
アルカリ金属イオンを含有する電解質は、本実施形態で用いる有機溶媒に溶解してアルカリ金属イオンを生じるものである限り特に限定されず、例えば、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化リチウム(LiCl)、酢酸カリウム(CH3COOK)、酢酸リチウム(CH3COOLi)、酢酸ルビジウム(CH3COORb)等を挙げることができ、これらのうち一種以上を用いることができる。
【0042】
アルカリ土類金属イオンを含有する電解質は、本実施形態で用いる有機溶媒に溶解してアルカリ土類金属イオンを生じるものである限り特に限定されず、例えば、酢酸マグネシウム(Mg(CH3COO)2)、塩化マグネシウム(MgCl2)等を挙げることができ、これらのうち一種以上を用いることができる。
【0043】
なお、本実施形態で用いる電解液は、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンの一方又は両方に加えて、あるいは、アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオンの一方又は両方に代えて、金属試料表面で金属アルコキシド反応により水素を発生させ得る限り、3価の金属イオンを含有してもよい。このような電解液は、所定の有機溶媒に、3価の金属イオンを含有する電解質を溶解させて得ることができる。3価の金属イオンを含有する電解質は、本実施形態で用いる有機溶媒に溶解して3価の金属イオンを生じるものである限り特に限定されず、例えば、酢酸アルミニウム(Al(CH3COO)3)、塩化アルミニウム(AlCl3)等を挙げることができ、これらのうち一種以上を用いることができる。
【0044】
本実施形態で用いる有機溶媒は、100℃超えの沸点を有し、ヒドロキシ基を有する限りものである限り、特に限定されないが、金属アルコキシド反応を好適に起こす観点から、アルコールであることが好ましい。
【0045】
本実施形態で用いる有機溶媒、好ましくはアルコールの沸点は、100℃超えであることが肝要であり、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上である。当該沸点の上限は特に限定されないが、金属試料の組織変化を防止する観点から、200℃以下であることが好ましい。なお、本明細書において「沸点」は、1気圧における沸点を意味するものとする。
【0046】
本実施形態で用いるアルコールは、揮発しにくいものであること、具体的には、25℃において3.2×103Pa以下の蒸気圧を有するものであることが好ましい。高圧水素ガスによる水素チャージよりも水素チャージ速度が高いとはいえ、特に水素が入りにくい金属試料に水素チャージする場合には、本実施形態でもそれなりの時間を要する。その際、揮発しにくいアルコールを用いれば、電解液の補充を行うことなく効率的に水素チャージを行うことができる。
【0047】
上記の沸点及び蒸気圧を有するアルコールとして、本実施形態で用いるアルコールは、炭素数が10以下、より好ましくは6以下の直鎖又は分岐の、2価又は3価の低級アルコールを用いることができ、より具体的には、エチレングリコール(沸点:197℃、蒸気圧:7Pa(20℃))、プロピレングリコール(沸点:188℃、蒸気圧:10.7Pa(20℃))、及びグリセリン(沸点:290℃、蒸気圧:0.01Pa(25℃))からなる群から選択される一種以上を用いることが好ましい。
【0048】
有機溶媒に対する電解質の濃度は、電解質の溶解度以下であり、水素チャージ時の電流及び電圧の安定性がよい濃度範囲が好ましい。例えば、塩化ナトリウムとエチレングリコールの場合、塩化ナトリウムの濃度はエチレングリコールに対して1質量%以上7質量%以下とすることが好ましい。7質量%以下であれば、エチレングリコールに溶けなくなった不溶の塩化ナトリウムが存在せず、水素チャージ時の電位又は電流が確実に安定する。1質量%以上であれば、電気抵抗が増加することがなく、電流又は電圧が確実に安定する。この濃度範囲において、電位一定の条件下で電流を増加させたい場合には、溶液抵抗を下げる目的で、電解質濃度をより増加させたほうが好ましい。
【0049】
水素チャージ量を多くする観点から、電解液は、さらに添加剤としてシアン化合物(シアンイオンを含む化合物)を含有することが好ましい。この添加剤としては、チオシアン酸アンモニウム(NH4SCN)、チオシアン酸カリウム(KSCN)等を挙げることができ、これらの一種以上を用いることができる。当該添加剤の濃度は、水素チャージ効果を高める観点から、0~5g/Lの範囲であることが好ましい。
【0050】
電解液の温度は特に限定されないが、0℃超えであることが好ましく、85℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることがさらに好ましく、120℃以上であることが最も好ましい。本実施形態では、高沸点の有機溶媒を電解液として用いることから、電解液温度を高温化することで、水素チャージ量を増やすことができる。他方で、電解液の温度は有機溶媒の沸点未満であることが好ましい。
【0051】
[水素チャージ工程]
電気化学セルを組み立てた後、電解液の温度を上げ、電解液の温度が所定の温度に到達後、試料を電解液に入れて、水素チャージを行う。水素チャージ中は、セル内上部の空間(電解液の上部の空間)に乾燥窒素又は空気を通気させておくことが好ましい。必要に応じて、セル上部に冷却管を設置し、チャージ時に生じたガスは、冷却管の出口より、吸収液(水酸化ナトリウム溶液など)を通じて、局所排気設備に排気することが好ましい。
【0052】
水素チャージ環境の(雰囲気)温度は、特に限定されず、常温とすることができる。ただし、電解液を常温以上の高温とする場合には、雰囲気温度の制御よりもヒーターにより電解液を加熱することが好ましい。
【0053】
水素チャージの手法は、ポテンショスタットを用いる電位制御でもよいし、ガルバノスタットを用いる電流制御でもよい。水素チャージ後、外部電源を切って、必要に応じて、局所排気設備内にセルを持ち込み、金属試料を電解液から取り出す。
【0054】
[洗浄・保管]
水素チャージ後は、流水にて金属試料を洗浄し、その後、アセトンにて金属試料を洗浄することが好ましい。アセトン洗浄後は、金属試料を不織布で軽く拭き取り、液体窒素に保管する。
【0055】
[他の実施態様]
外部電源を用いた電気回路の形成による水素チャージ方法に加えて、金属試料とこれよりも卑な金属との異種金属接触腐食を利用した水素チャージ方法を行うこともできる。すなわち、金属試料と、この金属試料よりも卑な金属(異種金属)とを接触させた状態で、これらを電解液に浸漬することにより、電解液中で金属試料に電子が供給され、金属試料の表面から電子が抜ける電気回路を形成することができる。「金属試料よりも卑な金属」とは、金属試料よりも腐食電位が低い金属を意味する。異種金属としては、金属試料との電位差を大きくする観点から、例えば、Mg、Al等を好適に用いることができる。異種金属の形状は、例えば、板状であってもよいし、ペレットのような粒状であってもよいが、表面積を確保する観点から、ペレットのような粒状であることが好ましい。水素チャージの手法は、金属試料と異種金属とを接触させた状態で電解液に浸漬するのみでよい。異種金属接触腐食によって金属試料表面で金属アルコキシド反応を発生させて、水素をチャージすることができる。本実施形態では、外部電源を使用せず、浸漬のみの簡易な方法で水素チャージを行うことができる。ただし、外部電源を用いる場合よりは、水素チャージ量のコントロールが難しく、チャージにより長時間を要する。
【0056】
(水素脆化特性評価方法)
本発明の一実施形態による水素脆化特性評価方法は、上記した本実施形態による水素チャージ方法によって水素がチャージされた金属試料に対して、水素脆化特性評価試験を行うことを特徴とする。水素脆化特性評価試験は、大気中で、又は、水素チャージを継続しながら行うことができる。
【0057】
水素脆化特性評価試験を行う際の(雰囲気)温度は、特に限定されない。水素拡散係数が小さい金属試料においては、水素をチャージした後でも、大気中で水素が放散しづらく、大気中で水素脆化特性評価試験を行うことができる。また、水素をチャージしながら試験をする場合は、試験温度に応じて、チャージ用の電解液を適当なものに選択し、水素脆化特性評価試験を行う。
【0058】
水素脆化特性評価試験は、公知の又は任意の試験方法であればよく、特に限定されないが、(i)トレーサー水素分析法による試験、(ii)金属試料に、引張、圧縮、曲げ、せん断、及びねじりの一種以上の応力を負荷して行う物性試験、及び(iii)水素透過試験のうち一つ以上を行うことができる。
【0059】
[トレーサー水素分析法]
トレーサー水素分析法とは、金属試料中の転位、空孔、粒界などの格子欠陥に水素をチャージし、そのチャージされた水素を昇温脱離分析装置により分析し、得られるプロファイルによって、金属試料中の格子欠陥プロファイルを把握する手法である。昇温脱離分析装置としては、検出系が質量分析計であるTDS(Thermal Desorption Spectrometry)と、検出系がガスクロマトグラフィ装置であるTDA(Thermal Desorption Analysis)とを挙げることができる。TDS又はTDAによる、金属試料に含まれる水素濃度の測定条件は、特に限定されないが、昇温速度50~100℃/hで、金属試料を-100~-50℃の開始温度から、200~600℃の終了温度まで加熱しつつ、放出された水素量を測定することができる。
【0060】
本実施形態をトレーサー水素分析法に適用した場合、以下の効果を得ることができる。高温で水素チャージすることができ、また、高圧水素ガスによる水素チャージ法と比べて、水素チャージ後に短時間で液体窒素に保管することができる。このため、水素チャージ後に金属試料から水素が拡散することを抑制することができ、その結果、精度の高い水素濃度の測定が可能であり、ひいては、水素脆化特性評価を高精度に行うことができる。特に、トレーサー水素分析法では、ピーク温度がトラップエネルギーと比例するように(すなわち熱拡散律速となるように)、金属試料を厚さ0.5mm以下といった薄片とすることが好ましい。ただし、金属試料が薄い場合、水素チャージ後に水素が拡散しやすいため、本実施形態によって水素の拡散を抑制できる効果は顕著である。
【0061】
[応力負荷物性試験]
金属試料に、引張、圧縮、曲げ、せん断、及びねじりの一種以上の応力を負荷する。金属試料に対する応力の負荷は、上述の方法によって金属試料に水素をチャージした後に行ってもよいし、水素をチャージしながら行ってもよい。金属試料に負荷する応力の種類については、特に制限されず、引張応力、圧縮応力、曲げ応力、せん断応力、ねじり応力のいずれであってもよい。これらの応力は、さらに静的応力及び動的応力のどちらであってもよい。そして、例えば、金属試料に破断が生じた際の応力を測定することによって、金属試料の水素脆化特性を直接的に評価することが可能である。
【0062】
本実施形態を応力負荷物性試験に適用した場合、以下の効果を得ることができる。高温で水素チャージすることができ、また、高圧水素ガスによる水素チャージ法と比べて、水素チャージ後に短時間で液体窒素に保管することができる。このため、水素チャージ後に金属試料から水素が拡散することを抑制することができ、その結果、精度の高い水素濃度の測定が可能であり、ひいては、水素脆化特性評価を高精度に行うことができる。
【0063】
[水素透過試験]
水素透過試験とは、板状の金属試料の片面から水素をチャージし、金属試料の内部を透過して、他面から放出される水素を検出する手法である。金属試料の片面への水素チャージ方法として、本実施形態の水素チャージ方法を適用することができる。水素検出側については、透過してきた水素を電気化学的に測定してもよいし、ガスクロマトグラフ等を用いてガスとして評価してもよい。ただし、本実施形態の水素チャージ方法を85℃以上の高温で行う場合には、ガスクロマトグラフ等を用いて水素をガスとして検出する。水素透過試験では、金属試料中への水素の侵入速度及び拡散速度を評価することができる。
【0064】
本実施形態を水素透過試験に適用した場合、以下の効果を得ることができる。高温で水素チャージ及び水素透過試験を行うことによって、水素の拡散係数を精度よくプロットすることができる。
【実施例0065】
[実験例1]
(発明例1)
図1に示す電気化学セルを用いて、金属試料(4)への水素チャージ試験を行った。金属試料(4)は、SUS316鋼(オーステナイト系ステンレス鋼)であり、その寸法及び形状は、長さ20mm、幅10mm、厚さ1.86mmの薄板状である。金属試料(4)をステンレスワイヤー(5)にスポット溶接した。常温(25℃)雰囲気内に設置したセパラブルフラスコ(1)に電解液(3)を収容した。電解液(3)は、塩化ナトリウム10gをエチレングリコール400mLに溶解した液体である。セパラブルフラスコ(1)の周囲にはマントルヒーター(10)を配置して、これで電解液を加熱して、熱電対(8)で電解液の温度を測定し、電解液の温度を100℃に維持した。対極は、炭素電極(7)を用いた。
【0066】
セパラブルフラスコ(1)に蓋部(2)を取り付け、ここに炭素電極(7)、ステンレスワイヤー(5)を通したガラス管(6)、熱電対(8)、ガラス管(11)、及び冷却管(12)を固定した。金属試料(4)及び炭素電極(7)を電解液(3)に浸漬させ、炭素電極(7)と、金属試料(4)と接続したステンレスワイヤー(5)とを、ポテンショガルバノスタット(9)に接続した。ポテンショガルバノスタット(9)により、定電流制御にて金属試料(4)に対して対極の炭素電極(7)よりも負の電圧を印可して、金属試料(4)に電気化学的に水素をチャージした。電流密度は1mA/cm2とした。水素チャージ時間は6日間(144時間)とした。なお、水素チャージ中は、ガラス管(11)を介して、セル内の上部空間に空気を通気した。
【0067】
水素チャージ後、金属試料を電解液から取り出し、流水洗浄を行い、さらにアセトンで超音波洗浄した。その後、キムワイプで金属試料を少し拭き取り、液体窒素にすぐさま保管した。金属試料を電解液から取り出してから、液体窒素に入れるまでの時間は、約3分間であった。
【0068】
その後、液体窒素から金属試料を取り出し、金属試料に充填された水素濃度の測定を行った。具体的には、凍結されたままの金属試料をTDA(株式会社ジェイ・サイエンス・ラボ製 JTF-20AL)に入れ、金属試料を昇温速度100℃/hで-100℃から600℃まで加熱しつつ、放出された水素量を測定した。この水素分析の結果を
図2に示す。なお、グラフ内の数値(単位:ppm)は水素量を示す。
【0069】
(発明例2)
電解液(3)を、塩化ナトリウム10gをエチレングリコール400mLに溶解し、さらにチオシアン酸アンモニウム(NH
4SCN)を2g添加した液体としたこと以外は、発明例1と同様にして、水素チャージ及び水素濃度の測定を行った。水素分析の結果を
図2に示す。なお、電解液にチオシアン酸アンモニウムを添加した場合、高濃度のシアン化水素が発生する。そこで、ガラスフラスコ(14)に1N 水酸化ナトリウム水溶液を収容して、蓋部(2)に固定した冷却管(12)からテフロン(登録商標)チューブ(13)を介して、セル内のガスを水酸化ナトリウム水溶液に導入することで、シアン化水素を吸収した。シアン化水素が除去されたガスは、テフロン(登録商標)チューブ(15)から排出される。
【0070】
(発明例3)
電流密度を3A/cm
2としたこと以外は、発明例2と同様にして、水素チャージ及び水素濃度の測定を行った。水素分析の結果を
図2に示す。
【0071】
(発明例1~3の考察)
図2より、塩化ナトリウムを溶解したエチレングリコールを電解液として用いることで、水素拡散係数の小さいオーステナイト系ステンレス鋼に対しても、電解液を100℃の高温とすることで、6日間で発明例1では3ppm、発明例3では30ppmもの水素を電気化学的にチャージすることができた。
【0072】
(比較例1,2)
SUS316L鋼に対して高圧水素ガスによる水素チャージを行い、水素濃度を測定した結果を比較例1,2として示す。比較例1は、試料厚さ:0.25mm、水素ガス圧力:45MPa、ガス温度:85℃、水素ガスチャージ時間:300℃としたものであり、「ステンレス鋼の水素脆化感受性に及ぼす表面水素濃度の影響」大村朋彦ら、Zairyo-to-Kankyo, 55, 537-543 (2006)のFig. 2に記載のデータによるものである。比較例2は、試料厚さ:0.33mm、水素ガス圧力:78MPa、ガス温度:110℃、水素ガスチャージ時間:100℃としたものであり、「高圧水素ガス雰囲気に暴露したオーステナイト系ステンレス鋼の疲労き裂進展挙動と水素侵入特性」峯 洋二ら、鉄と鋼 Tetsu-to-Hagane Vol.93 (2007) No.3 p247-256のFig. 9(b)に記載のデータによるものである。
【0073】
図3は、横軸をt/L
2(t:チャージ時間(hr)、L:試料厚さ(mm))、縦軸を検出された水素量として、発明例3、比較例1、及び比較例2の結果をプロットしたグラフである。このグラフにおける傾きは水素侵入速度を表しており、水素ガス圧力:45MPaの比較例1よりは、水素ガス圧力:78MPaの比較例2の方が水素侵入速度は高いものの、発明例3による水素チャージ方法は、傾きがほぼ90°で、比較例2よりもさらに水素侵入速度が高いことが分かる。本発明例では、電解液を高温化することができ、これにより電気化学的に水素チャージを行うことができる。しかも、気相中の水素侵入である比較例1,2よりも、短時間かつ簡易的に、オーステナイト系ステンレス鋼に多くの水素を固溶させることができた。
【0074】
[実験例2]
(発明例4)
電流密度を2A/cm
2とし、水素チャージ時間を3日間(72時間)としたこと以外は、発明例2と同様にして、水素チャージ及び水素濃度の測定を行った。水素分析の結果を
図4に示す。
【0075】
(比較例3)
電解液を、3質量%の塩化ナトリウム水溶液に3g/Lのチオシアン酸アンモニウム(NH
4SCN)を添加した液体とし、電解液温度を常温(25℃)としたこと以外は、発明例4と同様にして、水素チャージ及び水素濃度の測定を行った。水素分析の結果を
図4に示す。
【0076】
図4から、発明例4では、比較例3よりもピーク温度が約220℃高温側にシフトし、比較例3よりも多くの水素をチャージすることができた。ピーク温度が高温側にシフトしていることは、金属試料のより内部(深い位置)に水素が侵入していることを示している。
本発明による水素チャージ方法は、トレーサー水素分析法による試験、金属試料に、曲げ、圧縮、引張及びねじりの一種以上の応力を負荷して行う物性試験、並びに水素透過試験などの種々の水素脆化特性評価方法に適用できる。