(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065967
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】ランヤード用巻取り器及びランヤード
(51)【国際特許分類】
A62B 35/00 20060101AFI20240508BHJP
【FI】
A62B35/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175104
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】000156307
【氏名又は名称】株式会社TJMデザイン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179947
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 晃太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 昭仁
(72)【発明者】
【氏名】篠▲崎▼ 勇也
(72)【発明者】
【氏名】久保 新一
【テーマコード(参考)】
2E184
【Fターム(参考)】
2E184KA04
2E184LA27
(57)【要約】
【課題】ストラップの引出しのみが許容されるオートストップ状態と、ストラップの引出し及び巻取りが自由となるフリー状態とをより確実に維持することができる、ランヤード用巻取り器及びランヤードを提供する。
【解決手段】ランヤード10は、巻取り器11を備える。巻取り器11、ラチェット歯車2と、係止レバー3、係止解除レバー4、操作ボタン5及びカバー6を備える。操作ボタン5の基端部分51には、操作ボタン5を基端側にスライドさせることによって、操作ボタン5が係止解除レバー4の先端部分42を押圧しながらカバー6の内面に沿って当該カバー6の内側に差込み可能な差込み突起53が設けられている。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランヤードに用いられる、ランヤード用巻取り器であって、
ストラップの引出し及び巻取りに応じて回転可能なラチェット歯車と、前記ラチェット歯車のラチェット歯に係止可能なラチェット爪を備えた係止レバーと、前記ラチェット歯と前記ラチェット爪との係止を解除可能な係止解除レバーと、前記係止解除レバーを操作可能な操作ボタンと、前記ラチェット歯車、前記係止レバー、前記係止解除レバー及び前記操作ボタンが収容されたカバーと、を備えており、
前記係止レバーは、前記係止レバーの基端部分に配置された第1軸によって当該第1軸の周りに揺動可能に保持されており、前記係止レバーの先端部分の内側には、前記ラチェット爪が設けられており、前記係止レバーの基端部分には、押圧によって前記係止レバーの先端部分が前記ラチェット歯車から離間するように前記係止レバーを揺動させる受圧片が設けられており、
前記係止解除レバーは、前記係止解除レバーの基端部分に配置された第2軸によって当該第2軸の周りに揺動可能に保持されており、前記係止解除レバーの内側には、前記係止解除レバーの先端部分を押圧することによって前記係止レバーの前記受圧片を押圧する押圧片が設けられており、
前記操作ボタンは、前記係止解除レバーの先端部分にスライド可能に取り付けられているとともに前記カバーに形成された開口から露出しており、さらに、
前記操作ボタンの基端部分には、前記操作ボタンを基端側にスライドさせることによって、前記操作ボタンが前記係止解除レバーの前記先端部分を押圧しながら前記カバーの内面に沿って当該カバーの内側に差込み可能な差込み突起が設けられている、ランヤード用巻取り器。
【請求項2】
前記差込み突起は、当該差込み突起の先端に連なるテーパー面を備える、請求項1に記載されたランヤード用巻取り器。
【請求項3】
前記カバーは、当該カバーの基端側開口縁に連なるテーパー面を備える、請求項1に記載されたランヤード用巻取り器。
【請求項4】
前記カバーは、当該カバーの基端側開口縁に連なる内面に、前記差込み突起を収容可能な凹溝を備える、請求項1に記載されたランヤード用巻取り器。
【請求項5】
前記カバーは、前記操作ボタンを基端側にスライドさせたとき、前記操作ボタンの前記差込み突起と接触可能な第1ストッパを備える、請求項1に記載されたランヤード用巻取り器。
【請求項6】
前記カバーは、前記操作ボタンの前記差込み突起が内側に向かって変形したとき、前記差込み突起と接触可能な第2ストッパを備える、請求項5に記載されたランヤード用巻取り器。
【請求項7】
前記操作ボタンと前記カバーとに、それぞれ、前記操作ボタンを基端側にスライドさせたとき、前記操作ボタンを前記カバーに対して係止する一方で、前記操作ボタンを先端側にスライドさせたとき、前記操作ボタンと前記カバーとの係止が解除される、係止手段を備える、請求項1に記載されたランヤード用巻取り器。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載されたランヤード用巻取り器と、ショックアブソーバーと、使用者側固定部と、構造物側固定部と、を備えたランヤード。
【請求項9】
前記ショックアブソーバーの伸びしろは、フルハーネス型のランヤードのショックアブソーバーの伸びしろに設定されている、請求項8に記載されたランヤード。
【請求項10】
前記使用者側固定部は、ツイストロック機構を備えたカラビナである、請求項8又は9に記載されたランヤード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランヤード用巻取り器及びランヤードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のランヤード用巻取り器には、ラチェット歯車とカムに設けた噛合部(ラチェット爪)との噛合によって、ベルト(ストラップ)の引出しのみが許容されるロック状態(オートストップ状態)を実現する一方で、ベルトの引出し及び巻取りが自由となるフリー状態も併せて実現されるように、ラチェット歯車とカムに設けた噛合部との噛合を切替レバーの操作によって解除させるようにした、ベルト巻取機が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記ベルト巻取機によれば、切替レバーは、当該切替レバーに設けた長孔部に沿ってスライドさせることができる。これによって、切替レバーをカムに近づく方向にスライドさせた場合、切替レバーの先端部の下部がカムの突出部を押えることなく、ラチェット歯車とカムに設けた噛合部とを噛合させる。この場合、上記ベルト巻取機はオートストップ状態となる。その一方で、切替レバーをカムから離れる方向にスライドさせた場合、切替レバーの先端部の下部がカムの突出部を押えることによって、ラチェット歯車とカムに設けた噛合部との噛合が解除される。この場合、上記ベルト巻取機はフリー状態となる。
【0005】
しかしながら、上記ベルト巻取機は、切替レバーの先端部の下部でカムの突出部を押えるだけの構造であるため、不意に衝撃が加わったときなどの、使用者の予期せぬ状況で、フリー状態からオートストップ状態に切り替わってしまうことがある。
【0006】
本発明の目的は、ストラップの引出しのみが許容されるオートストップ状態と、ストラップの引出し及び巻取りが自由となるフリー状態と、を、より確実に維持することができる、ランヤード用巻取り器及びランヤードを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る、ランヤード用巻取り器は、ランヤードに用いられる、ランヤード用巻取り器であって、ストラップの引出し及び巻取りに応じて回転可能なラチェット歯車と、前記ラチェット歯車のラチェット歯に係止可能なラチェット爪を備えた係止レバーと、前記ラチェット歯と前記ラチェット爪との係止を解除可能な係止解除レバーと、前記係止解除レバーを操作可能な操作ボタンと、前記ラチェット歯車、前記係止レバー、前記係止解除レバー及び前記操作ボタンが収容されたカバーと、を備えており、前記係止レバーは、前記係止レバーの基端部分に配置された第1軸によって当該第1軸の周りに揺動可能に保持されており、前記係止レバーの先端部分の内側には、前記ラチェット爪が設けられており、前記係止レバーの基端部分には、押圧によって前記係止レバーの先端部分が前記ラチェット歯車から離間するように前記係止レバーを揺動させる受圧片が設けられており、前記係止解除レバーは、前記係止解除レバーの基端部分に配置された第2軸によって当該第2軸の周りに揺動可能に保持されており、前記係止解除レバーの内側には、前記係止解除レバーの先端部分を押圧することによって前記係止レバーの前記受圧片を押圧する押圧片が設けられており、前記操作ボタンは、前記係止解除レバーの先端部分にスライド可能に取り付けられているとともに前記カバーに形成された開口から露出しており、さらに、
前記操作ボタンの基端部分には、前記操作ボタンを基端側にスライドさせることによって、前記操作ボタンが前記係止解除レバーの前記先端部分を押圧しながら前記カバーの内面に沿って当該カバーの内側に差込み可能な差込み突起が設けられている。
【0008】
(2)上記(1)のランヤード用巻取り器において、前記差込み突起は、当該差込み突起の先端に連なるテーパー面を備えることが好ましい。
【0009】
(3)上記(1)又は(2)のランヤード用巻取り器において、前記カバーは、当該カバーの基端側開口縁に連なるテーパー面を備えることが好ましい。
【0010】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つのランヤード用巻取り器において、前記カバーは、当該カバーの基端側開口縁に連なる内面に、前記差込み突起を収容可能な凹溝を備えることが好ましい。
【0011】
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つのランヤード用巻取り器において、前記カバーは、前記操作ボタンを基端側にスライドさせたとき、前記操作ボタンの前記差込み突起と接触可能な第1ストッパを備えることが好ましい。
【0012】
(6)上記(1)~(5)のいずれか1つのランヤード用巻取り器において、前記カバーは、前記操作ボタンの前記差込み突起が内側に向かって変形したとき、前記差込み突起と接触可能な第2ストッパを備えることが好ましい。
【0013】
(7)上記(1)~(6)のいずれか1つのランヤード用巻取り器において、前記操作ボタンと前記カバーとに、それぞれ、前記操作ボタンを基端側にスライドさせたとき、前記操作ボタンを前記カバーに対して係止する一方で、前記操作ボタンを先端側にスライドさせたとき、前記操作ボタンと前記カバーとの係止が解除される、係止手段を備えることが好ましい。
【0014】
(8)本発明に係るランヤードは、上記(1)~(7)のいずれか1つのランヤード用巻取り器と、ショックアブソーバーと、使用者側固定部と、構造物側固定部と、を備える。
【0015】
(9)上記(8)のランヤードにおいて、前記ショックアブソーバーの伸びしろは、フルハーネス型のランヤードのショックアブソーバーの伸びしろに設定されていることが好ましい。この場合、ランヤードは、胴ベルト型墜落制止用器具のランヤードとフルハーネス型墜落制止用器具のランヤードとの両方を兼用することができる。
【0016】
(10)上記(8)又は(9)のランヤードにおいて、前記使用者側固定部は、ツイストロック機構を備えたカラビナであることが好ましい。この場合、使用者側固定部を小型化させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ストラップの引出しのみが許容されるオートストップ状態と、ストラップの引出し及び巻取りが自由となるフリー状態と、を、より確実に維持することができる、ランヤード用巻取り器及びランヤードを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る、ランヤードを左側から概略的に示す側面図であり、当該ランヤードは、本発明の一実施形態に係る、ランヤード用巻取り器を備えている。
【
図2】
図1のランヤードを下側から概略的に示す底面図である。
【
図3】
図1のランヤードの使用者側固定部を前側から概略的に示す拡大図であり、当該使用者側固定部は、安全装置が機能している初期状態で示されている。
【
図4】
図1のランヤードの使用者側固定部を前側から概略的に示す拡大図であり、当該使用者側固定部は、安全装置が解除された状態で示されている。
【
図5】
図3の使用者側固定部のフック閉じ部材が開かれている状態を左側から概略的に示す拡大図である。
【
図6】
図1のランヤード用巻取り器がオートストップ状態であるときの、当該ランヤード用巻取り器の要部を概略的に示す側面図であり、操作側カバーの輪郭形状は仮想線で示されている。
【
図7】
図1のランヤード用巻取り器がフリー状態であるときの、当該ランヤード用巻取り器の要部を概略的に示す側面図であり、操作側カバーの輪郭形状は仮想線で示されている。
【
図8】
図1のランヤード用巻取り器の操作ボタンの基端側の要部を、巻取り基板への取付側から概略的に示す拡大図である。
【
図9】
図1のランヤード用巻取り器の操作側カバーの要部を、巻取り基板への取付側から概略的に示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る、ランヤード用巻取り器及びランヤードについて説明をする。以下の説明では、次のように定義する。
【0020】
ストラップが巻取り器から引き出される側を前側とし、ストラップが巻取り器に巻き取られる側を後側とする。また、左側及び右側とは、後側から前側を見たときを基準とするものとする。さらに、使用者側固定部が配置される側は上側とし、巻取り器が配置される側は下側とする。ただし、これら定義は、当該説明を容易にするための、便宜的なものである。
【0021】
図1には、本発明の一実施形態に係る、ランヤード10が左側から概略的に示されている。
図2には、ランヤード10が下側から概略的に示されている。
【0022】
図1を参照すれば、ランヤード10は、ランヤード用巻取り器11(以下、単に「巻取り器11」ともいう。)と、ショックアブソーバー12と、構造物側固定部13と、使用者側固定部14と、を備えている。
【0023】
構造物側固定部13は、低所作業時又は高所作業時の落下に備えて、構造物に取外し可能に固定される。ここで、低所作業とは、例えば、地上から作業床までの高さが2m~6.75m未満での作業をいう。また、高所作業とは、例えば、地上から作業床までの高さが6.75m以上での作業をいう。さらに、構造物とは、例えば、建物の骨組み(梁)、足場の一部をいう。
【0024】
図2を参照すれば、本実施形態において、構造物側固定部13は、安全装置付きフックである。本実施形態において、安全装置付きフックは、揺動可能な安全装置を備えるゲートロック構造を備えたカラビナである。構造物側固定部13は、前記構造物に引っ掛けることが可能なフック本体13aと、フック本体13aが前記構造物から外れることを防止するためのフック閉じ部材13bと、を備えている。フック閉じ部材13bは、フック本体13aに対してピンP1の周りで周方向に揺動可能に保持されている。本実施形態において、フック閉じ部材13bは、
図2に示すように、初期位置において、フック本体13aの開放部分(先端部分)を、当該フック本体13aの内側から閉じている。フック本体13aは、フック閉じ部材13bをフック本体13aの側に押し込むことによって、前記構造物に引っ掛けることができる。本実施形態において、フック閉じ部材13bは、閉じ側付勢部材(図示省略。)によって、フック本体13aの開放部分を閉じる側に付勢されている。前記閉じ側付勢部材は、例えば、ばね等の弾性部材とすることができる。これによって、フック閉じ部材13bは、フック本体13aの側への押し込みを解除すると、前記閉じ側付勢部材の付勢力(復元力)によって、
図2の初期位置に自動的に復帰する。したがって、構造物側固定部13は、前記構造物から外れることなく、当該構造物に対して確実に固定することができる。
【0025】
さらに、本実施形態において、構造物側固定部13は、上述のとおり、フック閉じ部材13bの押し込みを阻止するための安全装置13cを備えている。安全装置13cは、フック本体13aに対してピンP2の周りで周方向に揺動可能に保持されている。安全装置13cは、フック閉じ部材13bを案内する案内孔13dを備えている。案内孔13dには、フック閉じ部材13bに設けられたピンP3がスライド可能に貫通している。安全装置13cは、
図2の初期位置からフック閉じ部材13bとともに当該安全装置13cをフック本体13aの側に押し込むと、フック閉じ部材13bを案内孔13dに沿ってフック本体13aの側に揺動させることができる。その一方で、フック本体13aの側への押し込みを解除すると、フック閉じ部材13bは、前記閉じ側付勢部材の付勢力(復元力)によってフック閉じ部材13bと接する初期位置に自動的に復帰する。そして、フック閉じ部材13bの自動復帰に伴って、安全装置13cもまた、
図2の初期位置に復帰する。このように、本実施形態において、構造物側固定部13は、フック閉じ部材13bとともに安全装置13cを操作しない限り、フック閉じ部材13bを押し込むことができない。したがって、構造物側固定部13によれば、当該構造物側固定部13が前記構造物から不用意に外れることをより確実に防ぐことができる。
【0026】
次いで、
図1には、使用者側固定部14が示されている。使用者側固定部14は、低所作業時又は高所作業時の落下に備えて、使用者が装着した胴ベルト又はフルハーネスに取外し可能に固定される。具体的には、使用者側固定部14は、墜落制止用器具(「安全帯」ともいう。)の胴ベルト又はフルハーネスに設けられた、D環等の取付具(以下、「安全帯側取付具」ともいう。)に取外し可能に固定される。
【0027】
本実施形態において、使用者側固定部14もまた、安全装置付きフックである。ただし、本実施形態において、使用者側固定部14は、回転可能な安全装置を備えるツイストロック構造を備えたカラビナである。使用者側固定部14は、前記安全帯側取付具に引っ掛けることが可能なフック本体14aと、フック本体14aが前記安全帯側取付具から外れることを防止するためのフック閉じ部材14bと、を備えている。フック閉じ部材14bは、フック本体14aに対してピンP4(
図3参照。)の周りで周方向に揺動可能に保持されている。
図1に示すように、本実施形態において、フック閉じ部材14bは、初期位置において、フック本体14aの開放部分(先端部分)を閉じている。フック本体14aは、後述の安全装置14cを解除側に操作した後、フック閉じ部材14bをフック本体14aの側に押し込むことによって、前記安全帯側取付具に引っ掛けることができる。本実施形態において、フック閉じ部材14bは、フック閉じ部材14bに固定された閉じ側付勢部材(図示省略。)によって、フック本体14aの開放部分を閉じる側に付勢されている。前記閉じ側付勢部材は、例えば、板ばねとすることができる。これによって、フック閉じ部材14bは、フック本体14aの側への押し込みを解除すると、前記閉じ側付勢部材の付勢力(復元力)によって、
図1の初期位置に自動的に復帰する。したがって、使用者側固定部14は、前記安全帯側取付具から外れることなく、当該安全帯側取付具に対して確実に固定することができる。
【0028】
図3には、使用者側固定部14が前側から概略的に示されている。
図3において、使用者側固定部14は、
図1と同様に、安全装置14cが機能している初期状態で示されている。
図4には、安全装置14cが解除された状態が概略的に示されている。さらに、
図5には、
図1に示す使用者側固定部14において、フック閉じ部材14bが開かれている状態が概略的に示されている。
【0029】
本実施形態において、使用者側固定部14は、上述のとおり、フック閉じ部材14bの押し込みを阻止するための安全装置14cを備えている。
図3を参照すれば、安全装置14cは、フック閉じ部材14bを取り囲むスリーブである。安全装置14cは、フック閉じ部材14bに回転可能に保持されている。具体的には、安全装置14cは、フック閉じ部材14bの延在方向軸線周りで周方向に回転させることができるように、フック閉じ部材14bに保持されている。
【0030】
加えて、本実施形態において、安全装置14cは、フック閉じ部材14bの周りに配置された戻り側付勢部材(図示省略。)によって、フック閉じ部材14bに対して
図3の初期位置に付勢されている。前記戻り側付勢部材は、例えば、当該戻り側付勢部材の一端がフック閉じ部材14bに固定され、かつ、当該戻り側付勢部材の他端が安全装置14cに固定されたコイルばねとすることができる。安全装置14cは、前記戻り側付勢部材の付勢力(復元力)に抗して
図4の位置まで回転させることができる。また、安全装置14cは、当該安全装置14cの回転(ねじり)を解除すると、前記戻り側付勢部材の付勢力(復元力)によって、
図3の初期位置に自動的に復帰させることができる。
【0031】
図4を参照すれば、本実施形態において、フック閉じ部材14bは、フック本体14aの先端部分14dを収容可能なスリット溝14eを備えている。本実施形態において、フック本体14aの先端部分(開放部分)14dは、ヘッド14d1と、ヘッド14d1に連なって当該ヘッド14d1よりも横幅(左右方向幅)の狭いウエスト14d2と、によって構成されている。また、本実施形態において、フック閉じ部材14bのスリット溝14eは、フック閉じ部材14bの上端部に形成されている。本実施形態において、スリット溝14eは、ヘッド14d1を収容可能な幅広溝14e1と、当該幅広溝14e1に連なって当該幅広溝14e1よりも横幅(左右方向幅)の狭い幅狭溝14e2とによって構成されている。幅狭溝14e2は、フック閉じ部材14bの上端に開放されている。本実施形態において、フック本体14aの先端部分14dと、フック閉じ部材14bのスリット溝14eとはそれぞれ、
図4の示すように前面(後面)視において、ヘッド14d1と幅広溝14e1を左右方向に張り出させた逆T字形の形状を有している。
【0032】
本実施形態に係る使用者側固定部14のように、フック本体14aの先端部分14dにヘッド14d1を追加するとともに、フック閉じ部材14bのスリット溝14eに幅広溝14e1を追加し、ヘッド14d1を幅広溝14e1に収容するように構成すれば、フック本体14aの先端部分14dをウエスト14d2のみとするとともに、フック閉じ部材14bのスリット溝14eを幅狭溝14e2のみとした場合に比べて、フック本体14aの先端部分14dは、安全装置14cに対する接触面積と、フック閉じ部材14bに対する接触面積との、両方の接触面積を増加させることができる。したがって、本実施形態によれば、強度的に優れた使用者側固定部14となる。
【0033】
その一方で、安全装置14cは、
図4に示すように、フック閉じ部材14bに対する回転によって、当該フック閉じ部材14bの一部を外部に開放する切り抜き14fを備えている。本実施形態では、安全装置14cは、2つの切り抜き14fを備えている。2つの切り抜き14fのうちの、安全装置14cの上端に通じる切り抜き14fは、フック閉じ部材14bのスリット溝14eを通してフック本体14aの先端部分14dを外部に開放させることができる。その一方で、2つの切り抜き14fのうちの、安全装置14cの下端に通じる切り抜き14fは、フック本体14aの下側部分を外部に開放させることができる。
【0034】
本実施形態において、使用者側固定部14によれば、前記戻り側付勢部材の付勢力(復元力)に抗して、安全装置14cを
図4の位置まで回転させたのち、安全装置14cをフック本体14aの側に押し込めば、
図5に示すように、安全装置14cとともにフック閉じ部材14bをフック本体14aの側に押し込むことができる。また、本実施形態において、フック本体14aは、フック本体14aの側への押し込みを解除すると、前記閉じ側付勢部材の付勢力(復元力)によって、
図1の初期位置に自動的に復帰する。次いで、安全装置14cは、前記戻り側付勢部材の付勢力(復元力)によって、
図4の位置から
図3の初期位置に自動的に復帰する。これによって、安全装置14cは、
図3に示すように、フック本体14aの先端部分14dを覆い隠すとともに、フック本体14aの下側部分を覆い隠す。したがって、本実施形態において、使用者側固定部14は、安全装置14cを再び回転させない限り、当該安全装置14cを通してフック閉じ部材14bをフック本体14aの側に押し込むことができない。したがって、使用者側固定部14によれば、使用者側固定部14が前記安全帯側取付具から不用意に外れることをより確実に防ぐことができる。さらに、本実施形態において、使用者側固定部14は、ツイストロック機構を備えたカラビナとしている。この場合、ゲートロック機構を備えたカラビナに比べて、当該使用者側固定部14を小型化させることができる。
【0035】
巻取り器11は、本発明の一実施形態に係る、ランヤード用巻取り器である。巻取り器11は、ストラップ15の引出し及び巻取りを可能にする。
【0036】
図3を参照すれば、巻取り器11は、ストラップ15を巻き取り可能なボビン16を備えている。ボビン16は、ストラップ15の一端が固定される胴部16aと、2つのフランジ16bとを備えている。2つのフランジ16bはそれぞれ、胴部16aの端部に設けられている。本実施形態において、胴部16aは、シャフト16c(例えば、
図6参照。)が貫通する筒状部材である。本実施形態において、シャフト16cは、ボビン16の胴部16aに一体的に固定されている。
【0037】
また、
図3に示すように、巻取り器11は、支持フレーム17を備えている。支持フレーム17は、ボビン16の左外側(図面では右外側)に配置される左側部分17aと、ボビン16の右外側(図面では左外側)に配置される右側部分17bと、を備えている。シャフト16cの左側端部は、支持フレーム17の左側部分17aに形成された貫通孔を貫通し、当該支持フレーム17の左側部分17aに回転可能に支持されている(図示省略。)。シャフト16cの右端部は、支持フレーム17の右側部分17bに形成された貫通孔を貫通し、当該支持フレーム17の右側部分17bに回転可能に支持されている(図示省略。)。つまり、本実施形態において、ボビン16は、シャフト16cを介して支持フレーム17に回転可能に支持されている。なお、支持フレーム17の左側部分17aと右側部分17bとは、
図2に示すように、下側部分17cによって連結されている。支持フレーム17は、例えば、曲げ加工によって形成することができる。
【0038】
さらに、
図3を参照すれば、巻取り器11は、巻取り側基板18と、巻取り側カバー19と、を備えている。本実施形態において、巻取り側基板18は、巻取り側カバー19によって覆われている。巻取り側基板18と巻取り側カバー19との間には、巻取り手段Wを配置するための空間R1が形成されている。巻取り手段Wは、例えば、渦巻きばねとすることができる。なお、
図3では、巻取り側カバー19の一部を省略することによって、当該巻取り側カバー19の内側に配置された巻取り手段Wを視認可能としている。
【0039】
本実施形態において、巻取り側基板18は、巻取り側カバー19に取り付けられている(図示省略。)。さらに、本実施形態において、巻取り側カバー19は、支持フレーム17の右側部分17bに取り付けられている(図示省略。)。つまり、本実施形態において、巻取り側基板18は、巻取り側カバー19を介して、支持フレーム17の右側部分17bに取り付けられている。
【0040】
さらに、
図4を参照すれば、本実施形態において、シャフト16cは、巻取り側基板18に形成された貫通孔(図示省略。)を回転可能に貫通している。これによって、シャフト16cの右側端部は、巻取り側基板18と巻取り側カバー19との間に形成された空間R1に露出している。なお、
図4では、巻取り側カバー19の一部をさらに省略することによって、当該巻取り側カバー19の内側に配置された巻取り手段Wを視認可能としている。本実施形態において、空間R1に配置された巻取り手段Wの一端部は、巻取り側基板18及び巻取り側カバー19の少なくともいずれか一方に固定されている。さらに、巻取り手段Wの他端部は、シャフト16cの右側端部に固定されている。これによって、本実施形態において、ボビン16に巻き取られたストラップ15は、巻取り手段Wの付勢力(復元力)に抗して引き出すことによって、巻取り器11から引き出すことができる。また、本実施形態において、ストラップ15の引出しを解除すれば、巻取り手段Wの付勢力(復元力)によって、引き出されたストラップ15を自動的にボビン16に巻き取ることができる。
【0041】
加えて、巻取り器11は、操作側カバー6と、操作側基板8と、を備えている。本実施形態において、操作側基板8は、操作側カバー6によって覆われている。操作側カバー6と操作側基板8との間には、操作ボタン5等を配置するための空間R2(
図6参照。)が形成されている。
【0042】
図3を参照すれば、本実施形態において、操作側カバー6は、支持フレーム17の左側部分17aの外側に取り付けられている。また、本実施形態において、操作側基板8は、支持フレーム17の左側部分17aの内側に取り付けられている。つまり、本実施形態において、操作側カバー6と操作側基板8とは、支持フレーム17の左側部分17aを挟み込むように、当該支持フレーム17の左側部分17aに取り付けられている。
【0043】
図6には、巻取り器11がオートストップ状態であるときの、当該巻取り器11の要部が概略的に示されている。
図7には、巻取り器11がフリー状態であるときの、当該巻取り器11の要部が概略的に示されている。
図6及び
図7では、支持フレーム17は省略されており、かつ、操作側カバー6の輪郭形状は仮想線で示されている。
【0044】
図6に示すように、巻取り器11は、ストラップ15の引出し及び巻取りに応じて回転可能なラチェット歯車2と、ラチェット歯車2に設けられたラチェット歯2aに係止可能なラチェット爪3aを備えた係止レバー3と、ラチェット歯2aとラチェット爪3aとの係止を解除可能な係止解除レバー4と、係止解除レバー4を操作可能な操作ボタン5と、ラチェット歯車2、係止レバー3、係止解除レバー4及び操作ボタン5が収容された操作側カバー6(カバー)と、を備えている。
【0045】
本実施形態において、ラチェット歯車2は、シャフト16cに対して一体的に取り付けられている。つまり、本実施形態において、ラチェット歯車2は、シャフト16cとともに一体的に回転する。本実施形態において、ラチェット歯車2の回転中心軸線は、シャフト16cの回転中心軸線О1(以下、単に、「軸線О1」ともいう。)と一致している。本実施形態において、ラチェット歯2aは、軸線О1を中心とする、引き出し方向(
図6では、反時計回り方向)の回転を許容するように構成されている。
【0046】
また、本実施形態において、操作側基板8と操作側カバー6とはそれぞれ、
図6に示すように側面視において、軸線О1を中心とする円形である。以下の説明では、軸線О1の延在方向に対して直交する方向を「径方向」ともいう。また、径方向のうち、軸線О1に近い側を「径方向内側」ともいい、さらに、径方向のうち、軸線О1から遠い側を「径方向外側」ともいう。
【0047】
係止レバー3は、係止レバー3の基端部分31に配置された第1軸7aによって当該第1軸7aの周りに揺動可能に保持されている。本実施形態において、係止レバー3は、操作側基板8に設けられた第1軸7aによって、当該第1軸7aの周りで周方向に揺動可能に保持されている。また、本実施形態において、係止レバー3の基端部分31は、ラチェット歯車2よりも径方向外側に配置されている。係止レバー3の先端部分32の内側には、ラチェット爪3aが設けられている。本実施形態において、ラチェット爪3aは、ラチェット歯車2のラチェット歯2aに引っ掛かって係止されたとき、軸線О1を中心とする、巻取り方向(
図6では、時計回り方向)の回転を阻止するように構成されている。本実施形態において、係止レバー3の先端部分32は、第1弾性部材9aによって、ラチェット爪3aがラチェット歯2aに係止される側(径方向内側)に付勢されている。これによって、本実施形態において、係止レバー3のラチェット爪3aは、ラチェット歯車2のラチェット歯2aに係止された状態が初期状態(初期位置)となる。本実施形態において、第1弾性部材9aの一端は、操作側基板8に保持され、当該第1弾性部材9aの他端は、係止レバー3の先端部分32を押圧している。第1弾性部材9aは、例えば、コイルばねとすることができる。
【0048】
加えて、係止レバー3の基端部分31には、押圧によって係止レバー3の先端部分32がラチェット歯車2から離間するように係止レバー3を揺動させる受圧片33が設けられている。本実施形態において、係止レバー3の先端部分32は、受圧片33を内側(径方向内側)に押圧することによって、ラチェット歯車2から離間させることができる。つまり、ラチェット歯車2のラチェット歯2aと、係止レバー3のラチェット爪3aとの係止は、係止レバー3の受圧片33を押圧することによって解除することができる。本実施形態において、係止レバー3の先端部分32は、第1弾性部材9aの付勢力(復元力)に抗して、係止レバー3の受圧片33を押圧することによって、
図7に示すように、ラチェット歯車2から離間させることができる。その一方で、本実施形態において、係止レバー3の先端部分32は、受圧片33の押圧が解除されると、第1弾性部材9aの付勢力(復元力)によって、
図6の初期位置に自動的に復帰する。
【0049】
係止解除レバー4は、当該係止解除レバー4の基端部分41に配置された第2軸7bによって当該第2軸7bの周りに揺動可能に保持されている。本実施形態において、係止解除レバー4は、操作側基板8に設けられた第2軸7bによって、当該第2軸7bの周りで周方向に揺動可能に保持されている。また、本実施形態において、第2軸7bは、第1軸7aよりも径方向外側に配置されている。さらに、本実施形態において、第2軸7bは、第1軸7aも引出し方向(
図6では、反時計回り方向)に配置されている。加えて、係止解除レバー4の内側には、係止解除レバー4の先端部分42を押圧することによって係止レバー3の受圧片33を押圧する押圧片43が設けられている。本実施形態において、係止解除レバー4の押圧片43は、係止レバー3の受圧片33を径方向内側に押圧することによって、係止レバー3の先端部分32をラチェット歯車2から離間させることができる。つまり、ラチェット歯車2のラチェット歯2aと、係止レバー3のラチェット爪3aとの係止は、係止解除レバー4の押圧片43が係止レバー3の受圧片33を押圧することによって解除することができる。本実施形態において、係止解除レバー4の先端部分42は、第2弾性部材9bによって、押圧片43が係止レバー3の受圧片33を押圧しない側(径方向外側)に付勢されている。これによって、係止解除レバー4の押圧片43は、係止レバー3の受圧片33を押圧しない状態が初期状態(初期位置)になる。本実施形態において、第2弾性部材9bの一端は、操作側基板8に保持され、当該第2弾性部材9bの他端は、係止解除レバー4の基端部分41を押圧している。第2弾性部材9bは、例えば、コイルばねとすることができる。
【0050】
操作ボタン5は、係止解除レバー4の先端部分42にスライド可能に取り付けられているとともに操作側カバー6に形成された開口Aから露出している。
【0051】
本実施形態において、操作ボタン5は、当該操作ボタン5の先端部分52の内側にスライド突起54を備えている。スライド突起54は、操作ボタン5の先端部分52の内面(径方向内面)から内側(径方向内側)に向かって突出している。その一方で、本実施形態において、係止解除レバー4は、当該係止解除レバー4の先端部分42に、スライド溝44を備えている。スライド溝44は、操作ボタン5のスライド突起54を収容するとともに、当該スライド突起54をスライド溝44の延在方向にスライド可能に案内する。本実施形態において、スライド溝44は、係止解除レバー4を径方向に貫通する貫通溝である。本実施形態において、スライド溝44は、係止解除レバー4の先端から当該係止解除レバー4の延在方向(軸線О1の周方向)に延在している。係止解除レバー4のスライド溝44には、当該係止解除レバー4の外側から操作ボタン5のスライド突起54が挿入されている。これによって、操作ボタン5は、係止解除レバー4の先端部分42の外面に沿ってスライドさせることができる。
【0052】
また、本実施形態において、開口Aは、操作側カバー6の周壁6aに形成されている。
図4を参照すれば、本実施形態において、操作側カバー6は、筒状の周壁6aと、当該周壁6aの一端を閉じる側壁6bとを備えている。本実施形態において、開口Aは、周壁6aの他端(図面左側端)が開放されるように当該周壁6aの一部を切り抜いた開口である。本実施形態において、開口Aは、操作側カバー6の開口縁6eによって形作られている。
【0053】
さらに、
図6を参照すれば、操作ボタン5の基端部分51には、操作ボタン5を基端側にスライドさせることによって、操作ボタン5が係止解除レバー4の先端部分42を押圧しながら操作側カバー6の内面に沿って当該操作側カバー6の内側に差込み可能な差込み突起53が設けられている。
【0054】
ここで、操作ボタン5の基端部分とは、係止解除レバー4の基端部分41に相当する部分である。また、操作ボタン5の先端部分とは、係止解除レバー4の先端部分42に相当する部分である。
【0055】
図6を参照すれば、本実施形態において、差込み突起53は、操作ボタン5の基端部分51から一体的に突出している板状の突起である。本実施形態において、差込み突起53は、
図6に示すように、初期状態(初期位置)において、操作ボタン5とともに操作側カバー6の開口Aの内部に配置されている。具体的には、差込み突起53は、
図6に示すように、操作ボタン5を先端側にスライドさせたオートストップ状態において、操作ボタン5とともに操作側カバー6の開口Aの内部に配置されている。
【0056】
図6に示すように、操作ボタン5が差込み突起53とともに操作側カバー6の開口Aの内部に配置されている状態では、操作ボタン5は、係止解除レバー4とともに、第2弾性部材9bの付勢力によって、当該係止解除レバー4の押圧片43が係止レバー3の受圧片33を押圧しない状態に維持されている。このため、係止レバー3は、第1弾性部材9aの付勢力によって、当該係止レバー3のラチェット爪3aがラチェット歯車2のラチェット歯2aに係止されている状態に維持されている。したがって、
図6に示すように、操作ボタン5を先端側にスライドさせたオートストップ状態では、ボビン16に巻き取られたストラップ15をボビン16から引き出すことだけが可能となる。加えて、オートストップ状態において、ストラップ15の引出しは、ラチェット歯2aとラチェット爪3aとの係止間隔に応じた段階的なものとなる。
【0057】
さらに、
図6のオートストップ状態では、引き出されたストラップ15を再び、ボビン16に巻き取ることができる。オートストップ状態でのストラップ15の巻取りは、操作ボタン5を押圧することによって行うことができる。
【0058】
操作ボタン5を内側(径方向内側)に押し込むと、係止解除レバー4の押圧片43が第2弾性部材9bの付勢力に抗して係止レバー3の受圧片33を径方向内側に押し下げる。係止レバー3の受圧片33の押下げは、当該係止レバー3の先端部分32を、第1弾性部材9aの付勢力に抗してラチェット歯車2から離間させる。これによって、係止レバー3のラチェット爪3aとラチェット歯車2のラチェット歯2aとの係止は解除される。したがって、
図6のオートストップ状態であっても、操作ボタン5を押圧すれば、ストラップ15の引出し及び巻取りの両方が可能なフリー状態となる。特に、本実施形態では、巻取り手段Wが設けられているため、ストラップ15の引出しを解除すれば、自動的にストラップ15をボビン16に巻き取ることができる。
【0059】
図7には、操作ボタン5を基端側にスライドさせたフリー状態が示されている。操作ボタン5を基端側にスライドさせると、開口Aの内部に配置されていた差込み突起53は、操作側カバー6の基端側開口縁6e1から、当該操作側カバー6の内側(径方向内側)に差し込まれる。具体的には、操作ボタン5の差込み突起53は、操作側カバー6の周壁6aの内面と接触しながらスライドすることによって当該操作側カバー6の周壁6aの内面に保持される。これによって、操作ボタン5は、差込み突起53とともに操作側カバー6よりも内側(径方向内側)に固定される。つまり、操作ボタン5は、差込み突起53が操作側カバー6の内側に差し込まれることによって、係止解除レバー4の先端部分42を径方向内側に押し下げる。係止解除レバー4の先端部分42の押下げは、当該係止解除レバー4の押圧片43を介して、係止レバー3の受圧片33を押し下げる。さらに、係止レバー3の受圧片33の押下げは、当該係止レバー3の先端部分32をラチェット歯車2から離間させる。これによって、係止レバー3のラチェット爪3aと、ラチェット歯車2のラチェット歯2aとの係止は解除される。したがって、
図7のフリー状態では、ストラップ15の引出し及び巻取りの両方が可能となる。特に、本実施形態では、巻取り手段Wが設けられているため、ストラップ15の引出しを解除すれば、自動的にストラップ15をボビン16に巻き取ることができる。
【0060】
巻取り器11は、ストラップ15の引出し及び巻取りを可能にすることで、ストラップ15のたるみによって生じ得る、作業の妨げを抑制することができる。
【0061】
ところで、墜落制止用器具には、胴ベルト型とフルハーネス型とがあり、それに伴って、ランヤードもまた、胴ベルト型とフルハーネス型とで使い分ける必要がある。フルハーネス型のランヤードは一般的に、使用者の手に届きにくい使用者の背中側に装着される。このため、巻取り器は、常にストラップを巻取り可能なフリー状態であることが好ましい。これに対し、胴ベルト型のランヤードは一般的に、使用者の手に届きやすい胴部腰周りに装着される。このため、巻取り器は、ストラップの巻取りに伴う拘束感が得られ難いオートストップ状態であることが好ましい。
【0062】
しかしながら、ランヤードの種類を胴ベルト型とフルハーネス型とに分けた場合、誤った組み合わせで使用されてしまう虞がある。加えて、この場合、複数のランヤードを準備しておく必要がある。
【0063】
前述した従来のベルト巻取機は、1つのランヤードにおいて、当該ベルト巻取機の切替レバーをスライドさせることによってオートストップ状態とフリー状態とを切り替えることができる。しかしながら、前記従来のベルト巻取機は、使用者が意図しない場面で前記切替レバーが切り替わってしまうことがある。
【0064】
これに対し、巻取り器11もまた、操作ボタン5をスライドさせることによって、オートストップ状態とフリー状態とを切り替えることができる。これによって、巻取り器11もまた、フルハーネス型の巻取り器と胴ベルト型の巻取り器とに兼用することができる。しかも、操作ボタン5のスライドによってフリー状態を実現させる場合、操作ボタン5の差込み突起53は、操作側カバー6よりも内側(径方向内側)で当該操作側カバー6に保持されることによって固定される。したがって、巻取り器11によれば、ストラップ15の引出しのみが許容されるオートストップ状態と、ストラップ15の引出し及び巻取りが自由となるフリー状態と、を、より確実に維持することができる。
【0065】
加えて、巻取り器11は、従来と同様に、オートストップ状態とフリー状態との切替が、操作ボタン5をスライドさせるだけの簡易な構成によって実現することができる。さらに、巻取り器11は、オートストップ状態であっても、操作ボタン5を押圧することによって、フリー状態とすることができる。加えて、オートストップ状態での、フリー状態は、操作ボタン5の押圧を解除することによって終了させることができる。
【0066】
また、本実施形態において、差込み突起53は、
図6に示すように、操作ボタン5の基端部分51よりも厚さ(径方向厚さ)が薄い。これによって、差込み突起53は、操作ボタン5を基端側にスライドさせることによって、操作側カバー6の基端側開口縁6e1から、当該操作側カバー6の内側に、比較的簡便に差し込むことができる。
【0067】
また、本実施形態において、差込み突起53は、当該差込み突起53の先端53aに連なるテーパー面53bを備えている。この場合、差込み突起53を操作側カバー6の内側に容易に差し込むことができる。
【0068】
図8には、操作ボタン5の基端側の要部が操作側基板8への取付側から概略的に示されている。
【0069】
本実施形態において、テーパー面53bは、先端53aから外側に向かって傾斜している。詳細には、テーパー面53bは、差込み突起53の先端53aから操作ボタン5の基端部分51に向かうにしたがって径方向外側に向かって傾斜している。本実施形態において、操作ボタン5の差込み突起53は、当該差込み突起53のテーパー面53bを案内にすることにより、操作側カバー6の基端側開口縁6e1から、当該操作側カバー6の内側に、容易に差し込むことができる。
【0070】
加えて、本実施形態において、差込み突起53の先端53aは、
図8に示すように、側面視において、外側に向かって凸の曲面によって構成されている。詳細には、差込み突起53の先端53aは、操作ボタン5の基端部分51の側に、中心Оが配置された曲率半径r5の曲面である。ただし、差込み突起53の先端53aは、曲面によって構成されているものに限定されない。
【0071】
図9には、操作側カバー6の要部が操作側基板8への取付側から概略的に示されている。
【0072】
本実施形態において、操作側カバー6は、当該操作側カバー6の基端側開口縁6e1に連なるテーパー面61を備えている。この場合、操作ボタン5の差込み突起53を操作側カバー6の内側に容易に差し込むことができる。
【0073】
本実施形態において、操作側カバー6の基端側開口縁6e1に連なるテーパー面61は、当該操作側カバー6の基端側開口縁6e1から内側に向かって傾斜している。詳細には、テーパー面61は、基端側開口縁6e1から遠くなるのにしたがって径方向内側に向かって傾斜している。本実施形態において、操作ボタン5の差込み突起53は、操作側カバー6のテーパー面61を案内にすることにより、当該操作側カバー6の基端側開口縁6e1から、当該操作側カバー6の内側に容易に差し込むことができる。
【0074】
また、本実施形態において、操作側カバー6は、当該操作側カバー6の基端側開口縁6e1に連なる内面に、操作ボタン5の差込み突起53を収容可能な凹溝62を備えている。この場合、差込み突起53を操作側カバー6の内側に容易に差し込むことができる。
【0075】
本実施形態において、凹溝62の底面F62は、操作側カバー6の周壁6aの内周面F6よりも外側(径方向外側)に配置されている。本実施形態において、凹溝62の深さ(径方向深さ)D6は、周壁6aの内周面F6と凹溝62の底面F62との間の深さ(径方向深さ)である。本実施形態では、凹溝62の深さD6の分だけ、差込み突起53を操作側カバー6の内側に容易に差し込むことができる。
【0076】
また、本実施形態において、操作側カバー6は、操作ボタン5を基端側にスライドさせたとき、差込み突起53と接触可能な第1ストッパ63を備える。この場合、操作ボタン5のスライドが制限されることによって、操作ボタン5を開口Aの基端側に精度よく位置決めすることができる。
【0077】
本実施形態において、第1ストッパ63は、操作側カバー6の側壁6bと一体的に形成されている壁である。第1ストッパ63は、操作ボタン5を基端側に適切な量だけスライドさせたとき、当該操作ボタン5の差込み突起53を接触させることができる。これによって、操作ボタン5を開口Aの基端側に精度よく位置決めすることができる。
【0078】
特に、本実施形態において、第1ストッパ63は、操作側カバー6の周壁6aの内周面F6から内側(径方向内側)に突出している壁である。この場合、第1ストッパ63が周壁6aの内周面F6に連なることから、第1ストッパ63の、ストッパとしての機能をより精度よく発揮させる。また、この場合、第1ストッパ63の強度を高め、ひいては、第1ストッパ63の耐久性を高めることができる。
【0079】
また、本実施形態において、操作側カバー6は、操作ボタン5の差込み突起53が内側に向かって変形したとき、差込み突起53と接触可能な第2ストッパ64を備えている。この場合、操作ボタン5の差込み突起53が第1ストッパ63に接触した後、当該差込み突起53が内側に向かって変形しないようにすることができる。したがって、この場合、操作ボタン5を開口Aの基端側により精度よく位置決めすることができる。
【0080】
本実施形態において、第2ストッパ64は、操作側カバー6の周壁6aに沿って延在している壁である。本実施形態において、第2ストッパ64は、操作側カバー6の側壁6bと一体的に形成されている。第2ストッパ64は、操作ボタン5の差込み突起53が第1ストッパ63に接触した後も、操作ボタン5がさらに基端側にスライドすることによって、当該差込み突起53が径方向内側に向かって変形しようとしたとき、当該差込み突起53を接触させることができる。したがって、この場合、操作ボタン5を開口Aの基端側により一層精度よく位置決めすることができる。
【0081】
特に、本実施形態において、第2ストッパ64は、第1ストッパ63と連なっている壁である。この場合、第2ストッパ64が第1ストッパ63に連なることから、第2ストッパ64の、ストッパとしての機能をより精度よく発揮させる。また、この場合、第2ストッパ64の強度を高め、ひいては、第2ストッパ64の耐久性を高めることができる。
【0082】
さらに、本実施形態において、巻取り器11は、操作ボタン5と操作側カバー6とに、それぞれ、操作ボタン5を基端側にスライドさせたとき、操作ボタン5を操作側カバー6に対して係止する一方で、操作ボタン5を先端側にスライドさせたとき、操作ボタン5と操作側カバー6との係止が解除される、係止手段Fを備えている。この場合、操作ボタン5を基端側にスライドさせたとき、当該操作ボタン5を基端側の位置に離脱可能に固定させることができる。
【0083】
図9を参照すれば、本実施形態において、操作側カバー6には、操作側カバー側の係止手段Fとして、凸部65が設けられている。本実施形態において、凸部65は、操作側カバー6の内面(径方向内面)から突出させた凸部である。本実施形態において、凸部65は、凹溝62の底面F62から内側(径方向内側)に突出している。これに対し、
図8を参照すれば、本実施形態において、操作ボタン5の差込み突起53には、操作ボタン側の係止手段Fとして、凹部53cが設けられている。本実施形態において、凹部53cは、操作ボタン5の差込み突起53の外面(径方向外面)に形成された凹部である。
【0084】
操作側カバー6を基端側にスライドさせたとき、当該操作ボタン5の凹部53cは、操作側カバー6の凸部65に引っ掛かって当該凸部65に係止される。これによって、
図7に示すように、操作ボタン5を基端側にスライドさせたとき、当該操作ボタン5を基端側の位置に固定させることができる。また、操作側カバー6を先端側にスライドさせたとき、当該操作ボタン5の凹部53cは、操作側カバー6の凸部65を乗り越えて当該凸部65から離脱する。これによって、
図6に示すように、操作ボタン5を先端側にスライドさせることができる。したがって、本実施形態によれば、操作ボタン5を基端側にスライドさせたとき、当該操作ボタン5を基端側の位置に離脱可能に係止させることができる。
【0085】
上述のとおり、本実施形態において、係止手段Fは、操作側カバー側の係止手段Fを凸部(65)とし、操作ボタン側の係止手段Fを凹部(53c)としている。ただし、係止手段Fは、操作側カバー側の係止手段Fを凹部とし、操作ボタン側の係止手段Fを凸部としてもよい。
【0086】
また、ランヤード10のショックアブソーバー12は、落下時に伸長することによって、落下衝撃を吸収することができる。ショックアブソーバー12は、例えば、ストラップ15の一部を折り重ねて当該折り重ね部分を縫い合わせることによって構成することができる。この場合、ストラップ15の縫い目が落下荷重によって剥離しながら、当該ストラップ15が余計に伸びることによって、落下時の衝撃を吸収することができる。
【0087】
しかしながら、ショックアブソーバーの伸びしろの設定もまた、胴ベルト型墜落制止用器具とフルハーネス型墜落制止用器具とでは規格が異なる。こうした規格(例えば、2019年改正労働安全衛生法)にしたがえば、ショックアブソーバーの伸びしろ(伸長長さ)は、胴ベルト型に比べてフルハーネス型の方が長く設定される。このため、ショックアブソーバーもまた、胴ベルト型とフルハーネス型とで使い分ける必要がある。
【0088】
これに対し、本実施形態において、ショックアブソーバー12の伸びしろは、より衝撃吸収性の高い、フルハーネス型のランヤードのショックアブソーバーの伸びしろに設定されている。これによって、ランヤード10は、胴ベルト型のランヤードとして使用することができ、かつ、フルハーネス型のランヤードとしても使用することができる。つまり、ランヤード10は、胴ベルト型のランヤードとフルハーネス型のランヤードとの両方を兼用することができる。
【0089】
図2を参照すれば、本実施形態において、構造物側固定部13は、ストラップ15の一端部に、固定手段Cを介して連結されている。本実施形態において、固定手段Cは、前後方向軸線の周りで周方向に相対回転させることができる。また、本実施形態において、固定手段Cは、左右方向又は上下方向に揺動させることができる。これによって、構造物側固定部13は、ストラップ15に対して様々な向きに自由に動かすことができる。構造物側固定部13は、例えば、アルミニウム合金によって形成することができる。この場合、構造物側固定部13、ひいてはランヤード10の軽量化を図ることができる。
【0090】
また、
図1を参照すれば、本実施形態において、使用者側固定部14は、ピンP5を介して巻取り器11に揺動可能に連結されている。使用者側固定部14もまた、例えば、アルミニウム合金によって形成することができる。この場合もまた、使用者側固定部14、ひいてはランヤード10の軽量化を図ることができる。
【0091】
上述のとおり、ランヤード10は、巻取り器11を備えている。したがって、ランヤード10は、フルハーネス型のランヤードと胴ベルト型のランヤードとに兼用することができる。これによって、同一の作業現場において、高所作業用のフルハーネス型墜落制止用器具と、低所作業用の胴ベルト型墜落制止用器具とを準備する必要がある場合でも、フルハーネス型と胴ベルト型とに分けて複数のランヤードを所持する必要が無い。
【0092】
さらに、本実施形態において、構造物側固定部13は、固定手段C及びピンP5を用いることによって、ランヤード10を二つ折りにすることができる。本実施形態において、ランヤード10を二つ折りにしたときに、巻取り器11は、構造物側固定部13の内側(フック本体13aとフック閉じ部材13bとの間の空間)に収容することができる。この場合、ランヤード10は、胴ベルト等にコンパクトな状態で吊り下げておくことができる。
【0093】
上述したところは、本発明の一実施形態にすぎず、特許請求の範囲に従えば、様々な変更が可能となる。本実施形態において、ストラップ15は、単層のストラップ(ベルト:帯状の部材)として説明したが、ストラップ15は、積層構造を有したストラップとすることができる。また、ストラップ15は、前記ストラップ15を当該ストラップ15の延在方向に沿って複数のセグメントに分割し、当該複数のセグメントを互いに連結させたものとすることができる。この場合、各セグメントの構成は、適宜変更させることができる。また、操作側カバーと巻取り側カバーとは一体に構成することができる。
【符号の説明】
【0094】
2:ラチェット歯車, 2a:ラチェット歯, 3:係止レバー, 3a:ラチェット爪, 31;係止解除レバーの基端部分, 32:係止解除レバーの先端部分, 33:受圧片, 4:係止解除レバー, 41;係止解除レバーの基端部分, 42:係止解除レバーの先端部分, 43:押圧片, 44;スライド溝, 5:操作ボタン, 51;操作ボタンの基端部分, 52:操作ボタンの先端部分, 53:差込み突起, 53a:差込み突起の先端, 53b:テーパー面, 53c:凹部(係止手段), 54;スライド突起, 6:操作側カバー, 6a:操作側カバーの周壁, 6b:操作側カバーの側壁, 6e:操作側カバーの開口縁, 6e1:操作側カバーの基端側開口縁, 61:テーパー面, 62:凹溝, F62:凹溝の底面, 63;第1ストッパ, 64:第2ストッパ, 66:凸部(係止手段), 7a:第1軸, 7b:第2軸, 8:操作側基板, 9a:第1弾性部材, 9b:第2弾性部材, 10:ランヤード, 11:ランヤード用巻取り器, 12:ショックアブソーバー, 13:構造物側固定部(ゲートロック構造カラビナ), 13a:フック本体, 13b:フック閉じ部材, 13c;安全装置, 14:使用者側固定部(ツイストロック構造カラビナ), 14a:フック本体, 14b:フック閉じ部材, 14c;安全装置, 15:ストラップ, 16:ボビン, 16a:胴部, 16b:フランジ, 16c:シャフト, 17:支持フレーム, 17a:支持フレームの左側部分, 17b:支持フレームの右側部分, 18:巻取り側基板, 19:巻取り側カバー, C:連結手段, F:係止手段, P1~P5:ピン, W:巻取り手段