(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024065996
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】動作機能向上装置および動作機能向上方法
(51)【国際特許分類】
A61H 3/00 20060101AFI20240508BHJP
A61F 2/72 20060101ALI20240508BHJP
B25J 11/00 20060101ALI20240508BHJP
A61H 1/02 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
A61H3/00 B
A61F2/72
B25J11/00 Z
A61H1/02 R
A61H1/02 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175158
(22)【出願日】2022-10-31
(71)【出願人】
【識別番号】506310865
【氏名又は名称】CYBERDYNE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山海 嘉之
【テーマコード(参考)】
3C707
4C046
4C097
【Fターム(参考)】
3C707AS38
3C707KS21
3C707KS24
3C707WK08
3C707XK03
3C707XK06
3C707XK12
3C707XK27
3C707XK54
3C707XK59
3C707XK60
4C046AA09
4C046AA25
4C046AA27
4C046AA42
4C046BB07
4C046BB08
4C046BB17
4C046CC01
4C046CC11
4C046DD02
4C046DD37
4C046DD38
4C046DD39
4C046EE02
4C046EE03
4C046EE04
4C046EE06
4C046EE08
4C046EE10
4C046EE11
4C046EE12
4C046FF02
4C097BB03
4C097BB07
4C097TB11
(57)【要約】
【課題】本発明は、対象者による過剰な努力を要しない随意的な動作の繰り返しにより、脳・神経・筋系の運動機能を向上することが可能な動作機能向上装置および動作機能向上方法を実現する。
【解決手段】対象者の動作意思と運動現象との差異が最小限となるように、対象者の身体と動作機構部との間で相互作用的に促される生体自己制御ループに基づいて、脳神経系からの動作指令による当該差異の補正と同時に、合成した制御状態をフィードバック調整する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者と一体となるように用いられ、当該対象者の身体動作に連動して能動的または受動的に駆動する駆動部を有する動作機構部と、
前記対象者の脳神経系から筋系へと伝わるイオン電流の変化を皮膚表面に表れる生体電位信号として検出する信号検出部と、
前記駆動部からの出力信号に基づいて、前記対象者の身体動作に伴う関節周りの物理量を検出する関節周り検出部と、
前記生体電位信号および前記関節周りの物理量に基づいて、前記対象者の動作意思を反映させた運動現象となるように、前記駆動部を制御する随意的制御部と、
タスクとして分類した前記対象者の動作パターンを構成する一連の最小動作単位であるフェーズの各々の基準パラメータをデータ格納部に格納しておき、前記関節周りの物理量と前記データ格納部に格納された基準パラメータとを比較することにより、前記対象者のタスクのフェーズを推定し、当該フェーズに応じた動力を発生させるように前記駆動部を制御する自律的制御部と、
前記データ格納部に各タスクのフェーズ毎に設定された前記随意的制御部および前記自律的制御部の制御比率を格納しておき、当該フェーズに応じた制御比率となるように、前記随意的制御部および前記自律的制御部による制御状態を合成する合成制御部とを備え、
前記合成制御部は、
前記関節周りの物理量に基づいて、装置全体および前記対象者からなる系全体の物理的インピーダンスを、当該対象者の人体特性を含む当該系全体の物理特性および重力に合わせて補償するとともに、
前記対象者の動作意思と運動現象との差異が最小限となるように、前記対象者の身体と前記動作機構部との間で相互作用的に促される生体自己制御ループに基づいて、前記脳神経系からの動作指令による当該差異の補正と同時に、前記合成した制御状態をフィードバック調整する
ことを特徴とする動作機能向上装置。
【請求項2】
前記対象者の足裏面への荷重変化に基づいて、当該対象者の重心位置を検出する重心位置検出部と、
前記合成制御部による制御状態と前記重心位置検出部による重心位置とに基づいて、当該対象者の歩行状態を認識する歩行状態認識部とを備え、
前記随意的制御部は、前記生体電位信号と前記関節周りの物理量と前記歩行状態認識部により認識される歩行状態とに基づいて、前記対象者の動作意思を反映させた運動現象となるように、前記駆動部を制御する
ことを特徴とする請求項1に記載の動作機能向上装置。
【請求項3】
前記生体自己制御ループを形成するに際して、前記対象者の意思により生じる随意動作を実現するための最小の運動制御単位を、脳神経系とシナプス結合と筋系とからなる最小随意運動制御ユニットとして設定し、
前記動作機構部を用いて、前記運動現象を実現するために連動する身体動作を形成する前記最小随意運動制御ユニットごとに前記生体自己制御ループを成り立たせる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の動作機能向上装置。
【請求項4】
前記関節周り検出部は、前記関節周りの物理量として、前記動作補助具における前記駆動部の回転子側のフレームおよび固定子側のフレーム間の絶対角度、回動角度、角速度、角加速度および駆動トルクを検出する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の動作機能向上装置。
【請求項5】
対象者の身体動作に連動して能動的または受動的に駆動する駆動部を有する動作機構部が、前記対象者と一体となるように用いられる状態において、
前記対象者の脳神経系から筋系へと伝わるイオン電流の変化を皮膚表面に表れる生体電位信号と、前記駆動部からの出力信号に基づき検出される前記対象者の身体動作に伴う関節周りの物理量とに基づいて、前記対象者の動作意思を反映させた運動現象となるように、前記駆動部を制御する随意的制御ステップと、
タスクとして分類した前記対象者の動作パターンを構成する一連の最小動作単位である
フェーズの各々の基準パラメータをデータ格納部に格納しておき、前記関節周りの物理量と前記データ格納部に格納された基準パラメータとを比較することにより、前記対象者のタスクのフェーズを推定し、当該フェーズに応じた動力を発生させるように前記駆動部を制御する自律的制御ステップと、
前記データ格納部に各タスクのフェーズ毎に設定された前記随意的制御ステップおよび前記自律的制御ステップの制御比率を格納しておき、当該フェーズに応じた制御比率となるように、前記随意的制御ステップおよび前記自律的制御ステップによる制御状態を合成する合成制御ステップとを備え、
前記合成制御ステップでは、
前記関節周りの物理量に基づいて、装置全体および前記対象者からなる系全体の物理的インピーダンスを、当該対象者の人体特性を含む当該系全体の物理特性および重力に合わせて補償するとともに、
前記対象者の動作意思と運動現象との差異が最小限となるように、前記対象者の身体と前記動作機構部との間で相互作用的に促される生体自己制御ループに基づいて、前記脳神経系からの動作指令による当該差異の補正と同時に、前記合成した制御状態をフィードバック調整する
ことを特徴とする動作機能向上方法。
【請求項6】
前記合成制御ステップによる制御状態と、前記対象者の足裏面への荷重変化に基づき検出される当該対象者の重心位置とに基づいて、当該対象者の歩行状態を認識する歩行状態認識ステップを備え、
前記随意的制御ステップでは、前記生体電位信号と前記関節周りの物理量と前記歩行状態認識ステップにより認識される歩行状態とに基づいて、前記対象者の動作意思を反映させた運動現象となるように、前記駆動部を制御する
ことを特徴とする請求項4に記載の動作機能向上方法。
【請求項7】
前記生体自己制御ループを形成するに際して、 前記対象者の意思により生じる随意動作を実現するための最小の運動制御単位を、脳神経系とシナプス結合と筋系とからなる最小随意運動制御ユニットとして設定し、
前記動作機構部を用いて、前記運動現象を実現するために連動する身体動作を形成する前記最小随意運動制御ユニットごとに前記生体自己制御ループを成り立たせる
ことを特徴とする請求項5または6に記載の動作機能向上方法。
【請求項8】
前記関節周りの物理量として、前記動作補助具における前記駆動部の回転子側のフレームおよび固定子側のフレーム間の絶対角度、回動角度、角速度、角加速度および駆動トルクを検出する
ことを特徴とする請求項5または6に記載の動作機能向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動作機能向上装置および動作機能向上方法に関し、特に脳神経系・身体系の機能障害を有する対象者の治療処置やリハビリテーションの際に適用して好適なるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、運動機能障害を有する対象者の動作を補助あるいは代行するための種々の装置の開発が進められている。これらの装置として、例えば、対象者の意図に応じた随意的な筋活動に伴う生体電位を基に運動を制御および補助することが可能な装着式動作補助装置が普及している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような装着式動作補助装置は、対象者の意思に応じた動作補助を行うだけでなく、例えば運動機能の回復を目的とした治療処置やリハビリテーションを行う際にも適用することができる。特に、脳・神経・筋系に疾患のある対象者が、上述のような装着式動作補助装置を活用することで機能改善した事例が多数報告されている。
【0004】
対象者本人の脳神経系からの信号をもとに、装着式動作補助装置が機能し、運動機能が不全となった身体を動かすと、結果的に対象者は自分の意思で筋骨格系を動かすことになり、感覚系の情報が人体内外を通じて脳神経系へと流れ、脳神経系と筋骨格系の間で双方向のバイオフィードバックループが構築される。
【0005】
これを繰り返すことによって、脳・神経・筋系のシナプス結合が強化され、再学習や機能再生などが進み、脳や神経系、筋系の疾患を持つ対象者の身体機能の改善が促進されると考えられている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】山海嘉之、田中博志、“下肢運動機能を改善するロボット新医療機器”、第14回新機械振興賞受賞者業績概要、平成28年、p.5-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、人間は、屈筋や伸筋など複数の筋肉を協調的に活性化させる動作パターンを適応的に調整しながら動作意思に基づいた随意運動を実現しているが、そのような各種筋群を目的の動作が実現できるように協調運動させる調整機構の仕組みはほとんど解明されていない。
【0009】
医学的には、モデル動物を用いて脳神経系がどのようにして特定の運動パターンを生成するのか探索したり、コネクトーム(神経系内の接続の包括的なマップ)による解析研究(コネクトミクス)によって、神経細胞がどのような回路構造を介して運動を制御しているのかを探索するなど、脳に焦点をあてた情報処理を解明するための実験研究が行われている。
【0010】
しかし、脳に焦点をあてた情報処理を解明するための実験研究では、身体の運動機能を扱うことができないため、協調的な随意運動の解明は困難である。
【0011】
また、脳だけでなく身体系も含めた実験研究であっても、上述した装着式動作補助装置を用いなかった場合、対象者が特定の随意運動を行う際に、身体部位を動かすための随意運動指令信号や動かすことができたことによって生じた感覚信号が、中枢系(脳・脊髄)と末梢系(運動神経・筋系・感覚神経)の間を行き来して、随意運動のための身体機能を改善・再構築することを立証するには、非常に困難であると思われる。
【0012】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、対象者による随意的な動作の繰り返しにより、脳・神経・筋系の運動機能を向上することが可能な動作機能向上装置および動作機能向上方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる課題を解決するため本発明においては、対象者と一体となるように用いられ、当該対象者の身体動作に連動して能動的または受動的に駆動する駆動部を有する動作機構部と、対象者の脳神経系から筋系へと伝わるイオン電流の変化を皮膚表面に表れる生体電位信号として検出する信号検出部と、駆動部からの出力信号に基づいて、対象者の身体動作に伴う関節周りの物理量を検出する関節周り検出部と、生体電位信号および関節周りの物理量に基づいて、対象者の動作意思を反映させた運動現象となるように、駆動部を制御する随意的制御部と、タスクとして分類した対象者の動作パターンを構成する一連の最小動作単位であるフェーズの各々の基準パラメータをデータ格納部に格納しておき、関節周りの物理量とデータ格納部に格納された基準パラメータとを比較することにより、対象者のタスクのフェーズを推定し、当該フェーズに応じた動力を発生させるように駆動部を制御する自律的制御部と、データ格納部に各タスクのフェーズ毎に設定された随意的制御部および自律的制御部の制御比率を格納しておき、当該フェーズに応じた制御比率となるように、随意的制御部および自律的制御部による制御状態を合成する合成制御部とを備え、合成制御部は、関節周りの物理量に基づいて、装置全体および対象者からなる系全体の物理的インピーダンスを、当該対象者の人体特性を含む当該系全体の物理特性および重力に合わせて補償するとともに、対象者の動作意思と運動現象との差異が最小限となるように、対象者の身体と動作機構部との間で相互作用的に促される生体自己制御ループに基づいて、脳神経系からの動作指令による当該差異の補正と同時に、合成した制御状態をフィードバック調整するようにした。
【0014】
この結果、動作機能向上装置では、対象者が動作機構部を用いて随意的な動作を繰り返し行うと、脳神経系からの動作指令と実際の運動現象との差異の補正に伴って、対象者の脳・神経・筋系の運動機能を向上することが可能となる。
【0015】
また本発明においては、対象者の足裏面への荷重変化に基づいて、当該対象者の重心位置を検出する重心位置検出部と、合成制御部による制御状態と重心位置検出部による重心位置とに基づいて、当該対象者の歩行状態を認識する歩行状態認識部とを備え、随意的制御部は、生体電位信号と関節周りの物理量と歩行状態認識部により認識される歩行状態とに基づいて、対象者の動作意思を反映させた運動現象となるように、駆動部を制御するようにした。
【0016】
この結果、動作機能向上装置では、対象者が下肢の自力動作が困難な場合でも安全に歩行動作を行うこと可能となると同時に、随意制御部が駆動部を制御する際に、対象者の動作意思を反映させた運動現象の精度を向上させることができる。
【0017】
さらに本発明においては、生体自己制御ループを形成するに際して、対象者の意思により生じる随意動作を実現するための最小の運動制御単位を、脳神経系とシナプス結合と筋系とからなる最小随意運動制御ユニットとして設定し、動作機構部を用いて、運動現象を実現するために連動する身体動作を形成する最小随意運動制御ユニットごとに生体自己制御ループを成り立たせるようにした。
【0018】
この結果、動作機能向上装置では、最小随意運動制御ユニットを、疾患部位・疾患原因の影響を明示的に動作機構部による生体自己制御ループの基本理論に基づく機能改善・治療というプロセスの中に組み込むことにより、他の最小随意運動制御ユニットにも作用が及んで動作機構部の動作と同期して連動が進み、目標とする動作の実現のためにそれぞれの最小随意運動制御ユニットの機能が動作機構部の動作と同期して強化・調整され、脳・神経・筋系の機能改善を行うことができる。
【0019】
さらに本発明においては、関節周り検出部は、関節周りの物理量として、動作補助具における駆動部の回転子側のフレームおよび固定子側のフレーム間の絶対角度、回動角度、角速度、角加速度および駆動トルクを検出するようにした。
【0020】
さらに本発明においては、対象者の身体動作に連動して能動的または受動的に駆動する駆動部を有する動作機構部が、対象者と一体となるように用いられる状態において、対象者の脳神経系から筋系へと伝わるイオン電流の変化を皮膚表面に表れる生体電位信号と、駆動部からの出力信号に基づき検出される対象者の身体動作に伴う関節周りの物理量とに基づいて、対象者の動作意思を反映させた運動現象となるように、駆動部を制御する随意的制御ステップと、タスクとして分類した対象者の動作パターンを構成する一連の最小動作単位であるフェーズの各々の基準パラメータをデータ格納部に格納しておき、関節周りの物理量とデータ格納部に格納された基準パラメータとを比較することにより、対象者のタスクのフェーズを推定し、当該フェーズに応じた動力を発生させるように駆動部を制御する自律的制御ステップと、データ格納部に各タスクのフェーズ毎に設定された随意的制御ステップおよび自律的制御ステップの制御比率を格納しておき、当該フェーズに応じた制御比率となるように、随意的制御ステップおよび自律的制御ステップによる制御状態を合成する合成制御ステップとを備え、合成制御ステップでは、関節周りの物理量に基づいて、装置全体および対象者からなる系全体の物理的インピーダンスを、当該対象者の人体特性を含む当該系全体の物理特性および重力に合わせて補償するとともに、対象者の動作意思と運動現象との差異が最小限となるように、対象者の身体と動作機構部との間で相互作用的に促される生体自己制御ループに基づいて、脳神経系からの動作指令による当該差異の補正と同時に、合成した制御状態をフィードバック調整するようにした。
【0021】
この結果、動作機能向上方法では、対象者が動作機構部を用いて随意的な動作を繰り返し行うと、脳神経系からの動作指令と実際の運動現象との差異の補正に伴って、対象者の脳・神経・筋系の運動機能を向上することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、対象者が動作機構部を用いて随意的な動作を繰り返し行うと、脳神経系からの動作指令と実際の運動現象との差異の補正に伴って、対象者の脳・神経・筋系の運動機能を向上することが可能な動作機能向上装置および動作機能向上方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明による生体自己制御ループの基本理論の説明に供する概念図である。
【
図2】最小随意運動制御ユニットの説明に供する概念図である。
【
図3】対象者に上述した生体自己制御ループの基本理論を適用した場合の遷移状態を表す概念図である。
【
図4】本実施の形態における下肢タイプの動作機能向上装置の外観構成を示す略線図である。
【
図5】
図4の動作機能向上装置の制御系システムの構成を示すブロック図である。
【
図6】データ格納部に格納される各タスクおよび各フェーズの一例を示す概念図である。
【
図7】他の実施の形態における腰タイプの動作機構部を含む動作機能向上装置の外観構成を示す略線図である。
【
図8】
図7の動作機能向上装置のうち主要構成を示す略線図である。
【
図9】
図7の動作機能向上装置の動作状態および可動範囲を示す略線図である。
【
図10】他の実施の形態における単関節タイプの動作機構部を含む動作機能向上装置の外観構成を示す略線図である。
【
図11】
図10の動作機能向上装置を対象者の右脚の膝関節に適用した場合の状態を示す略線図である。
【
図12】
図10の動作機能向上装置を対象者の左腕の肘関節に適用した場合の状態を示す略線図である。
【
図13】対象者に本動作機能向上装置を装着した状態を示す図である。
【
図14】対象者に本動作機能向上装置を装着した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0025】
(1)本発明における生体自己制御ループの基本理論
対象者の脳・神経・筋系の運動機能を向上するための手法として、医学的には脳に焦点をあてた情報処理を解明するための実験研究が行われているが、脳研究のみでは、運動系と分離されているため、身体の運動機能を対象とすることは困難である。
【0026】
人体の運動系は、脳・脊髄という中枢神経と末梢神経、および、筋骨格系で構成されており、中枢から離れて末梢へ向かう遠心性神経の情報の流れを扱う場合に、これらが連なった情報伝達系になっているものの、これだけでは適切な運動制御は実現されない。
【0027】
すなわち、遠心性神経の情報が伝達される場所は、筋肉が収縮する際に関わってくる筋線維であるが、収縮後の情報については、脳から脊髄を経て運動神経を介して筋線維に伝達されても、その情報は脳には戻って来ない。このため、運動神経と筋線維で構成される「運動単位」を解析するだけでは、運動機能の改善の仕組みを明らかにすることも、運動制御の改善技術を作り出すこともほぼ不可能である。
【0028】
このためロボット技術を用いて、脚や手などの関節系・筋系に対する外部からの動作入力により関節系・筋系を動かすことで機能改善を図ろうとする研究もあるが、単に外力を付与して脚や手などの関節系・筋系を動かすだけでは、機能改善には至らないことも報告されている。
【0029】
本発明では、
図1に示すように、対象者の身体動作に連動して能動的または受動的に駆動する駆動部を有する動作機構部を用いて、対象者が特定の動作を行う際に、運動意思に従って動こうとする指令信号(遠心性の神経信号)、および、動かすことができたことによって生じた感覚信号(求心性の神経信号)が、中枢系(脳・脊髄)と末梢系(運動神経・筋系・感覚神経)の間を行き来して、随意運動のための身体機能を改善・再構築することを立証する。
【0030】
本発明による動作機能向上方法では、対象者の動作意思に従った動作をさせるための随意的制御ステップと、予め設定された理想的な動力を発生させるための自律的制御ステップと、動作機構部自体の荷重や粘性摩擦により動きにくく感じることを低減するためのインピーダンス制御ステップ(重力補償制御を含む)とを備えることにより、対象者が動作機構部をあたかも自分の体の一部のように感じられ、対象者と動作機構部との機能的な融合・一体化を実現することが可能となる。
【0031】
さらにこの動作機能向上方法では、タスクのフェーズに応じた制御比率となるように随意的制御ステップおよび自律的制御ステップによる制御状態を合成する合成制御ステップは、上述のインピーダンス制御ステップを実行するのみならず、対象者の動作意思と運動現象との差異が最小限となるように、対象者の身体と動作機構部との間で相互作用的に促される生体自己制御ループに基づいて、脳神経系からの動作指令による当該差異の補正と同時に、合成した制御状態をフィードバック調整する。
【0032】
この生体自己制御ループは、脳から脊髄を経て運動神経を介して神経系指令情報が筋線維に伝達され筋収縮するのと同期して、筋や腱の中の筋紡錘・腱紡錘という固有受容器が賦活化され、その賦活化情報が筋収縮時の情報となって感覚神経を経て中枢神経系(脊髄・脳)にフィードバックされ、そのフィードバック情報に基づく神経と神経および神経と筋肉の間のシナプス結合の強化・調整までの循環する流れが繰り返されていくことにより形成される。
【0033】
このようにして、動作機能向上方法では、対象者が動作機構部を用いて随意的な動作を繰り返し行うと、脳神経系からの動作指令と実際の運動現象との差異の補正に伴って、対象者の脳・神経・筋系の運動機能を向上することが可能となる。
【0034】
本発明の特徴の一つは、生体自己制御ループを形成するに際して、脳神経系(脳・脊髄)とシナプス結合(神経と神経のシナプス結合および神経と筋肉のシナプス結合)と筋系(筋線維(α運動ニューロンが結合する錘外筋線維およびγ運動ニューロンが結合する錘内筋線維)・腱線維、筋紡錘・腱紡錘など)とからなる最小随意運動制御ユニットが、生体自己制御ループを成り立たせるための人の意思により生じる随意動作を実現するための最小の運動制御単位として構成できる点にある。
【0035】
すなわち、最小随意運動制御ユニットは、
図2に示すような、脳神経系(脳、脊髄、運動神経)、筋線維、動作(反応)、筋紡錘・腱紡錘および脳神経系(感覚神経、脊髄神経、脳)という経路で形成される最小の随意運動を実現させるための制御単位である。
【0036】
特定の関節動作を形成する最小随意運動制御ユニットが、他の関節動作と連動しながら当該最小随意運動ユニットと関わる他の最小随意運動制御ユニットと併せて複数構成されることにより、目標とする全体的な動作を実現することになる。
【0037】
その際に、最小随意運動制御ユニットにおける神経と神経、神経と筋肉の間のシナプス結合が、目標とする全体動作に関する最小随意運動制御ユニットの群と例えば無意識に行われる姿勢のバランス調整といった全体の調整系の中で、それぞれ調整・強化されていくことになる。
【0038】
さらに最小随意運動制御ユニット(単位)で構成される筋群(いわゆる屈曲系、伸展系の筋群)で駆動される関節の動作、および、各関節系で構成されるより複合的協調的な動作において、動作機構部(後述する下肢タイプ、単関節タイプ、腰タイプ、ハンドタイプ、フィンガータイプなど)を使うことにより、最小単位から高次の複合的な身体系まで対応させることが可能となり、脳・神経・筋系の機能改善を実現させることができる。
【0039】
実際に、最小随意運動制御ユニットを、脳・神経・筋系の機能改善のための基本的神経機能であるシナプス可塑性・神経可塑性・筋可塑性を促進させる単位とする場合、疾患または症状(弛緩、強張り、震え、硬直、運動失調、同時収縮など)に応じた対象者の自己治癒力を賦活化させるためのプロセスが、当該最小随意運動制御ユニットごとに異なってくる。
【0040】
したがって、疾患ごとにまたは症状ごとに、脳・神経・筋系の運動機能を向上させるための最小随意運動制御ユニットの単位構成要素が異なるとともに、当該最小随意運動制御ユニットが関わる他の最小随意運動制御ユニットの該当部位および該当範囲も異なるため、対象者の状態に応じた動作機構部の各種調整(対象者の動作意思に従った動作を実現し、生体自己制御ループを成り立たせるためのパラメータのチューニング等)を行う際の最小単位として用いることによって治療制御の戦略を構築することが可能となる。
【0041】
本発明による動作機能向上方法では、疾患部位・疾患原因が影響する経路から得られる随意意思に連動した神経系由来の信号を検出することによって、その経路に関わる最小随意運動制御ユニットに着目して、目標となる全体的な随意動作を構成するそれぞれの最小随意運動制御ユニットに対して機能改善を実施する。
【0042】
人間の随意動作を実現するには、大脳における随意運動意思が発現することが基点であり、その運動意思の神経系の信号は、脳から脊髄、運動神経および筋線維へと伝達され、最終的には目標とする動作が実現される。しかし、この流れでは、意思の発現から動作生成に至る流れが大まかすぎるため、脳・神経系からシナプス結合を通じて筋線維や筋紡錘の感覚神経とγ運動ニューロンによるγループを含む筋系に至るまでの随意運動における疾患部位・疾患原因の影響を明示的に捉えることは困難であり、また、疾患部位・疾患原因の影響を考慮した治療を明示的に行うことも困難である。そのため、実際の臨床現場では、単純な動作の繰り返しを訓練として行うにとどまっている。
【0043】
したがって、動作機構部による生体自己制御ループの基本理論に基づく機能改善治療のプロセスの中に、疾患部位・疾患原因の影響を反映した最小随意運動制御ユニットを明示的に組み込むことにより、他の最小随意運動制御ユニットにも作用が及んで動作機構部の動作と同期して連動が進み、目標とする動作の実現のためにそれぞれの最小随意運動制御ユニットが動作機構部の動作と同期してその単位構成要素の機能が強化・調整され、従来とは異なる新たな手法として、脳・神経・筋系の機能改善を行うことができる。
【0044】
図3(A)~(E)に対象者に上述した生体自己制御ループの基本理論を適用した場合の遷移状態を示す。治療前の動作機構部の非装着状態(
図3(A))から開始し、治療初期には、動作機構部を用いた関節動作による筋骨格系からの感覚神経系情報が中枢神経系(脳・脊髄)にフィードバックされる(
図3(B))。
【0045】
続いて初期治療後の動作機構部の非装着状態(
図3(C))では、感覚神経系情報のフィードバック感覚が多少残存するが、動作機構部を用いた継続的な治療を行うことにより(
図3(D))、対象者の身体と動作機構部との間で相互作用的に促される生体自己制御ループに基づいて、中枢神経系からの動作指令による対象者の動作意思と運動現象との差異の補正が行われる。
【0046】
そして継続的な治療後に動作機構部の非装着状態であっても、中枢神経系からの動作指令と実際の運動現象との差異の補正に伴って、対象者の自己治癒力を賦活化させながら、対象者の脳・神経・筋系の運動機能を向上することができる(
図3(E))。
【0047】
(2)本実施の形態における動作機能向上装置
(2-1)動作機構部の構成(下肢タイプ:ハードウェア)
本実施の形態における下半身用(下肢タイプ)の動作機構部を備える動作機能向上装置の構成について説明する。
【0048】
図4に示すように、動作機能向上装置1は、対象者と一体となるように用いられ、当該対象者の身体動作に連動して能動的または受動的に駆動する駆動機構を有する動作機構部2に、上述した随意的制御ステップ、自律的制御ステップ、インピーダンス制御ステップおよび生体自己制御ループの基本理論の機能的構成を備えた制御系システム3(
図5)が内蔵されて構成されている。
【0049】
動作機能向上装置1は、対象者の歩行動作を構成する各歩行フェーズに応じた自律的制御による駆動力と生体電位信号に基づいた随意的制御による駆動力を当該対象者に付与する装置であり、生体電位信号や当該対象者の股関節や膝関節の動作角度を検出し、この検出信号に基づいて駆動機構からの駆動力を付与するように作動する。
【0050】
動作機構部2は、対象者の腰に装着される腰フレーム10と、対象者の下肢に装着される下肢フレーム11と、対象者の関節に対応させて下肢フレーム11に設けられた複数の駆動部(駆動機構)12L、12R、13L、13Rと、駆動部12L、12R、13L、13Rの力を対象者に前方または後方から作用させるべく下肢フレーム11に取り付けられた補助力作用部材としてのカフ14L、14R、15L、15Rとからなる。
【0051】
動作機能向上装置1は、上述の動作機構部2に加えて、対象者の下肢動作に起因する信号に基づいて駆動部(駆動機構)12L、12R、13L、13Rを制御する制御装置30(後述する
図5)と、制御装置30を搭載した背面ユニット16と、介助者が使用する操作ユニット(図示せず)とを有する。
【0052】
制御装置30(
図5)は、対象者の関節に対応する駆動部12L、12R、13L、13Rのアクチュエータの出力軸を中心に相対的に下肢フレーム11同士を駆動することができる。各駆動部12L、12R、13L、13Rには、アクチュエータの駆動トルクや回転角度等を検出するためのセンサ群が搭載されている。なお、背面ユニット16には、装置全体の駆動電源を供給するためのバッテリユニット(図示せず)が搭載されている。
【0053】
腰フレーム10は、対象者の腰を受け入れてその後部から左右両側部にかけて包囲し得る前方に開いた平面視略C字形状の部材であり、対象者の背後に位置する後腰フレーム部17と、後腰フレーム部17の両端から湾曲しつつ前方に延びる左腰フレーム部18Lおよび右腰フレーム部18Rとを有する。
【0054】
左腰フレーム部18Lおよび右腰フレーム部18Rは、開度調節機構(図示せず)を介して後腰フレーム部17に連結されている。左腰フレーム部18Lおよび右腰フレーム部18Rの基部は、後腰フレーム部17内に左右方向にスライド可能に挿入されて保持されている。
【0055】
下肢フレーム11は、対象者の右下肢に装着される右下肢フレーム19Rと、対象者の左下肢に装着される左下肢フレーム19Lとを有する。左下肢フレーム19Lと右下肢フレーム19Rは、左右対称に形成されている。
【0056】
左下肢フレーム19Lは、対象者の左大腿の左側に位置する左大腿フレーム20Lと、対象者の左下腿の左側に位置する左下腿フレーム21Lと、対象者の左脚の裏(靴を履く場合には、左側の靴の底)が載置される左脚下端フレーム22Lとを有する。左下肢フレーム19Lは、腰部連結機構23Lを介して左腰フレーム部18Lの先端部に連結されている。
【0057】
右下肢フレーム19Rは、対象者の右大腿の右側に位置する右大腿フレーム20Rと、対象者の右下腿の右側に位置する右下腿フレーム21Rと、対象者の右脚の裏(靴を履く場合には、右側の靴の底)が載置される右脚下端フレーム22Rとを有する。右下肢フレーム21Rは、腰部連結機構23Rを介して右腰フレーム部18Rの先端部に連結されている。
【0058】
なお、腰フレーム10(後腰フレーム17、右腰フレーム18Rおよび左腰フレーム18L)と下肢フレーム11(右下肢フレーム19Rおよび左下肢フレーム19L)とは、例えばステンレス等の金属またはカーボンファイバ(炭素繊維)等により細長い板状に形成されたフレーム本体を有し、軽量かつ高い剛性をもつように形成される。本実施の形態においては、強度部材として炭素繊維強化フラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastic;CFRP)およびアルミ合金である超々ジェラルミンを用いることとした。
【0059】
カフ14L、14R、15L、15Rは、左大腿フレーム20L、右大腿フレーム20R、左下腿フレーム21Lおよび右下腿フレーム21Rに、各々一つずつ設けられている。
【0060】
左大腿フレーム20Lおよび右大腿フレーム20Rに設けられているカフ(以下、「大腿カフ」と記す。)14L、14Rは、大腿フレーム本体の下端部に取り付けられた大腿カフ支持機構24L、24Rに支持されている。大腿カフ14L、14Rは、対象者の大腿に嵌合させるようにして添え当て得る円弧状に湾曲した装着面を有している。大腿カフ14L、14Rの装着面には、対象者の大腿と隙間をなく密着し得るようフィッティング部材が取り付けられている。
【0061】
左下腿フレーム21Lおよび右下腿フレーム21Rに設けられているカフ(以下、「下腿カフ」と記す。)15L、15Rは、上側要素の上端部に取り付けられた下腿カフ支持機構25L、25Rに支持されている。下腿カフ15L、15Rは、対象者の下腿に嵌合させるようにして添え当て得る円弧状に湾曲した装着面を有している。下腿カフ15L、15Rの装着面には、対象者の下腿と隙間をなく密着し得るようフィッティング部材が取り付けられている。
【0062】
実際にこの動作機能向上装置を対象者に装着する場合、左右の足部にそれぞれ専用靴26L、26Rが装着されるとともに、左右の下腿部にそれぞれ下腿カフ15L、15Rが装着され、さらに左右の大腿部にそれぞれ大腿カフ14L、14Rが装着される。そして、これら足部、下腿部、大腿部をそれぞれ対応するフレームと一体化するように、靴やカフにベルト等を締結させる。
【0063】
この専用靴26L、26Rは、左右一対の構成からなり、対象者の足先から足首までを密着した状態で保持すると共に、足底に設けられた床反力センサ(後述のFRFセンサ60)により荷重測定し得る。
【0064】
このように動作機能向上装置1は、動作機構部2を装着する対象者の意図に応じた随意的な神経系指令信号に伴う生体電位信号に基づいて、歩行運動を制御および補助することができる。
【0065】
(3)動作機能向上装置における制御系システム
図5は、動作機能向上装置1の制御系システム3の構成を示すブロック図である。
図5に示すように、動作機能向上装置1の制御系システム3は、システム全体の統括制御を司る制御装置30と、当該制御装置30の指令に応じて各種データが読書き可能にデータベース化されているデータ格納部31と、対象者の下肢動作に連動して能動的または受動的に駆動する駆動部12L、12R、13L、13Rとを有する。
【0066】
また、制御系システム3は、ポテンショメータ32、絶対角度センサ33およびトルクセンサ34を有する関節周り検出部40が設けられ、駆動部12L、12R、13L、13Rからの出力信号に基づいて、対象者の身体動作に伴う関節周りの物理量を検出する。
【0067】
関節周り検出部40は、関節周りの物理量として、動作機構部2における駆動部12L、12R、13L、13Rの回転子側のフレームおよび固定子側のフレーム間の絶対角度、回動角度、角速度、角加速度および駆動トルクを検出する。
【0068】
ポテンショメータ32は、駆動部12L、12R、13L、13Rにおけるアクチュエータの出力軸と同軸上には、当該出力軸の回転角度を検出することにより、対象者の下肢動作に応じた関節角度を検出する。
【0069】
また絶対角度センサ33は、下肢フレーム11に搭載されており、対象者の大腿部の鉛直方向に対する絶対角度を計測する。この絶対角度センサ33は、加速度センサおよびジャイロセンサから構成され、複数のセンサデータを用いて新しい情報を抽出する方法であるセンサフュージョンに用いられる。
【0070】
大腿部の絶対角度の算出には、各センサにおける並進運動および温度ドリフトの影響を取り除くため、1次フィルタが使用される。この1次フィルタは、各センサから得られる値に対して重み付けを付与して加算されることで算出される。
【0071】
大腿部の鉛直方向に対する絶対角度をθabs(k)、ジャイロセンサによって得られた角速度をω、サンプリング周期をdt、加速度センサによって得られた加速度をαとすると、θabs(t)は、次の(1)式のように表される。
【数1】
【0072】
さらにトルクセンサ34は、例えば駆動部12L、12R、13L、13Rに供給される電流値を検出し、この電流値をアクチュエータに固有となるトルク定数に乗じることによって駆動トルクを検出する。
【0073】
対象者の下肢動作に伴う関節を基準とする当該対象者の体表部位(主として大腿部の体表面)には生体電位センサ(電極群)を有する生体信号検出部41が配置されており、対象者の脳神経系から筋系へと伝わるイオン電流の変化を皮膚表面に表れる生体電位信号として検出する。
【0074】
生体信号検出部41は、対象者の脚を動かすために脳から脚へ向けて発せられる神経活動電位および骨格筋が筋力を発生させる際の筋活動電位を測定する検出部であり、身体系の末梢で発生した微弱電位を検出する電極を有する。なお、本実施形態においては、生体電位センサは、例えば電極の周囲を覆う粘着シール等により対象者の皮膚表面に着脱自在に貼着されるように取り付けられる。
【0075】
データ格納部31には、制御装置30における種々の演算処理を行う上で必要となるデータが格納されている。生体信号検出部41により検出された生体電位信号は、データ格納部31に格納される。関節周り検出部40の絶対角度センサ33によって検出された関節角度(θknee,θhip)および後述するFRFセンサ60によって検出された荷重のデータは、データ格納部31に入力される。
【0076】
制御装置30は、例えば、メモリを有するCPU(Central Processing Unit)チップで構成され、随意的制御部50と自律的制御部51と合成制御部52とを備えている。
【0077】
随意的制御部50は、生体電位信号および関節周りの物理量に基づいて、対象者の動作意思を反映させた運動現象となるように、駆動部12L、12R、13L、13Rを制御する。具体的に、随意的制御部50は、生体信号検出部41の検出信号に応じた指令信号を電流制御部55に供給する。
【0078】
随意的制御部50は、生体信号検出部41に所定の指令関数f(t)またはゲインPを適用して指令信号を生成する。このゲインPは予め設定された値または関数であり、外部入力により調整することができる。
【0079】
ポテンショメータ32によって検出された膝関節角度のデータと、絶対角度センサ33によって検出された大腿部の鉛直方向に対する絶対角度のデータと、トルクセンサ34によって検出された駆動トルクと、生体信号検出部41によって検出された生体電位信号とは、データ格納部31に入力される。
【0080】
また、一対の専用靴26L、26Rの足底には、FRF(Floor Reaction Force)センサ60が設けられ、対象者の左右の足裏面への圧力分布を検出する。このFRFセンサ60は、足裏面にかかる荷重を前足部(つま先部)と後足部(踵部)とに分割して独立して測定可能である。
【0081】
このFRFセンサ60は、例えば、印加された荷重に応じた電圧を出力する圧電素子または荷重に応じて静電容量が変化するセンサなどからなり、体重移動に伴う荷重変化および対象者の脚と地面との接地の有無をそれぞれ検出することができる。
【0082】
さらに一対の専用靴26L、26Rでは、各FRFセンサ60の検出結果に基づく左右の足裏面に係る荷重のバランスから、重心位置を求めることができる。このように一対の専用靴26L、26Rでは、対象者の左右の足のどちら側に重心が偏っているかを、各FRFセンサ60で計測されるデータに基づいて、推定することができる。
【0083】
各専用靴26L、26Rは、靴構造以外に、FRFセンサ60とMCU(Micro Control Unit)からなるFRF制御部61と送信部62とを有する。FRFセンサ60の出力は、変換器63を介して電圧変換された後、LPF(Low Pass Filter)64を介して高域周波数帯が遮断されてFRF制御部61に入力される。
【0084】
このFRF制御部(重心位置検出部および歩行状態認識部)61は、FRFセンサ60の検知結果に基づいて、対象者の体重移動に伴う荷重変化や接地の有無を求めると共に、左右の足裏に係る荷重バランスに応じた重心位置を求める。FRF制御部61は、求めた重心位置をFRFデータとして送信部62を介して装置本体内の受信部65にワイヤレス送信する。
【0085】
制御装置30は、受信部65を介して各専用靴26L、26Rの送信部62からワイヤレス送信されたFRFデータを受信した後、当該FRFデータに基づく左右の足裏に係る荷重および重心位置がデータ格納部31に格納される。
【0086】
自律的制御部51は、タスクとして分類した対象者の動作パターンを構成する一連の最小動作単位であるフェーズの各々の基準パラメータをデータ格納部31に格納しておき、関節周りの物理量とデータ格納部31に格納された基準パラメータとを比較することにより、対象者のタスクのフェーズを推定し、当該フェーズに応じた動力を発生させるように駆動部を制御する。
【0087】
自律的制御部51は、関節周り検出部(ポテンショメータ32)40により検出された膝関節角度のデータと、FRFセンサ60により検出された荷重のデータとを、データ格納部31に格納された基準パラメータの膝関節角度および荷重と比較することにより、当該比較結果に基づいて、対象者の動作のフェーズを推定する。
【0088】
そして、自律的制御部51は、推定したフェーズの制御データを得ると、このフェーズの制御データに応じた指令信号を生成し、この動力を駆動部12L、12R、13L、13Rに発生させるための指令信号を電流制御部55に供給する。
【0089】
また、自律的制御部51は、外部入力により調整されたゲインが入力されており、このゲインに応じた指令信号を生成し、電流制御部55に出力する。電流制御部55は、駆動部12L、12R、13L、13Rのアクチュエータを駆動する電流を制御してアクチュエータのトルクの大きさおよび回動角度を制御することにより、対象者の膝関節にアクチュエータによるアシスト力を付与する。
【0090】
このように自律的制御部51は、関節周り検出部(ポテンショメータ32、絶対角度センサ33およびトルクセンサ34)40により検出される物理量に基づいて、対象者の歩行タスクに応じた歩行フェイズをそれぞれ特定し、各歩行フェイズに対応する動力を駆動部12L、12R、13L、13Rに発生させる。
【0091】
合成制御部52は、随意的制御部50および自律的制御部51からの制御信号を合成し、当該合成された制御信号に応じた駆動電流を電流制御部55により増幅して、駆動部12L、12R、13L、13Rのアクチュエータに供給する。対象者の膝関節には、このアクチュエータのトルクが、アシスト力として下肢フレームを介して伝達される。
【0092】
図6に、データ格納部31に格納される各タスクおよび各フェーズの一例を示す。対象者の動作を分類するタスクとしては、例えば、座位状態から立位状態に移行する立ち上がり動作データを有するタスクAと、立ち上がった対象者が歩行する歩行動作データを有するタスクBと、立った状態から座位状態に移行する座り動作データを有するタスクCと、立った状態から階段を昇り降りする階段昇降動作データを有するタスクDとが、データ格納部31に格納されている。
【0093】
そして、各タスクには、複数のフェーズデータが設定されており、例えば、歩行動作のタスクBには、左脚に重心を置いて立脚した状態から右脚を前に振り出そうとするときの動作データ(関節角度や重心位置の軌跡、トルクの変動、生体電位信号の変化など)を有するフェーズBと、右脚を前に出した状態から着地して重心を移すときの動作データを有するフェーズBと、右脚に重心を置いて立脚した状態から左脚を前に振り出そうとするときの動作データを有するフェーズBと、左脚を右脚の前に出した状態から着地して重心を移すときの動作データを有するフェーズBと、が設定されている。
【0094】
このように、人間の一般的な動作を分析すると、各フェーズにおける各関節の角度や重心の移動等の典型的な動作パターンが決まっていることが分かる。そこで、人間の多数の基本動作(タスク)を構成する各フェーズについて、典型的な関節角度の変位や重心移動の状態等を経験的に求め、それらをデータ格納部31に格納しておく。また、各フェーズについては、複数のパターンのアシストパターンが割り当てられており、同じフェーズでも各アシストパターンで異なったアシストがされる。
【0095】
以上の構成において、動作機能向上装置1は、対象者の脳神経系から筋系へと伝わるイオン電流の変化を皮膚表面に表れる生体電位信号として生体信号検出部41で検出し、この検出信号に基づいて駆動部(アクチュエータ)からの駆動力を付与するように作動する。
【0096】
動作機構部2を装着した対象者には、自らの意思で歩行動作を行おうする際に発生した生体電位信号に応じた駆動トルクがアシスト力として動作機構部2から付与される。すなわちアシスト力は、動作機構部2のフレーム機構における各関節(対象者の膝関節および股関節のそれぞれに相当)を回転軸として作用するトルクを生ずる力である。
【0097】
したがって、対象者は、自身の筋力と駆動部12L、12R、13L、13Rからの駆動トルクとの合力によって体重を支えながら歩行することができる。その際、動作機能向上装置1は、歩行動作に伴う重心の移動に応じて付与されるアシスト力が対象者の意思を反映するように制御している。そのため、動作機構部2の駆動部12L、12R、13L、13Rは、対象者の意思に反するような負荷を与えないように制御されており、対象者の動作を妨げないように制御される。
【0098】
また、動作機能向上装置1は、歩行動作以外にも、例えば対象者が椅子に座った状態から立ち上がる際の動作、または立った状態から椅子に腰掛ける際の動作、更には、対象者が階段を上がったり、階段を下がったりする動作等、対象者の意思に対応した動作を補助することができる。特に、筋力が弱っている場合には、階段の上り動作や、椅子から立ち上がる動作を行うことが難しいが、動作機構部2を装着した対象者は、自らの意思に応じて駆動トルクを付与されて筋力の低下を気にせずに動作することが可能になる。
【0099】
合成制御部52は、データ格納部31に各タスクのフェーズ毎に設定された随意的制御部50および自律的制御部51の制御比率を格納しておき、当該フェーズに応じた制御比率となるように、随意的制御部50および自律的制御部51による制御状態を合成する。
【0100】
すなわち、対象者が身体を動かそうとした場合、その運動意思は、微弱なイオン電流として、脳から脊髄、神経、筋紡錘、筋肉へ伝達されて関節を有する筋骨格系が動くことになる。その際、微弱な生体電位信号が対象者の皮膚表面から検出されると、随意的制御部50がアクチュエータを制御して対象者の意思に応じて関節を動作させる。
【0101】
そして、動作機構部2は、対象者の脚(生体部位)などに密着した状態で締結されているため、駆動部12L、12R、13L、13Rの駆動力は、関節を回動させる補助力として対象者に伝達される。そのため、対象者の身体が動作機構部2のアシスト力によって動くことにより筋紡錘からIa求心性ニューロンの信号が神経、脊髄を経て脳に戻る。
【0102】
これにより、対象者と、脳と、動作機能向上装置1との間では、「脳→脊髄→運動神経→[筋骨格系+動作機構部2]」という信号伝達系と、「動作機構部2→筋骨格系(筋紡錘)→感覚神経→脊髄→脳」という信号伝達系からなるインタラクティブなバイオフィードバックが構成される。これが脳からと動作機構部2からの双方向の随意制御であり、ニューロリハビリテーションによる神経系の機能回復訓練の効果をより高めることが可能になる。
【0103】
このように、動作機能向上装置1は、運動に関する意思決定後の脳から末梢への生体電位信号をセンシングしてアクチュエータ制御に活用する構成であるが、脳活動に対応した生体電位信号を末梢である筋肉活動から捉えようとしたものである。そして、末梢でセンシングされた脳・神経系にリアルタイムにフィードバックさせることが可能になる。よって、対象者に動作機構部2を装着した状態でリハビリテーションを行うことで双方向の信号伝達系における機能回復を促進することができる。
【0104】
また、重度の運動機能障害を呈する場合、生体電位信号が検出できないような状態では、随意的制御が機能しないため、人間の基本運動パターンや動作メカニズムの解析結果を元にフェーズ毎の制御プログラムによって駆動部を制御する自律的制御が機能するように制御比率が切り替わる。
【0105】
このような随意的制御と自律的制御とが共存するハイブリット制御方式では、例えば完全に身体が麻痺した状態、あるいは神経・筋難病疾患における進行過程でも、身体の運動機能の状態に応じて生体電位信号の振幅や信号特性なども変化するため、これらの症状に対してもリハビリテーションを有効に行える。
【0106】
さらに合成制御部52は、関節周りの物理量に基づいて、装置全体および対象者からなる系全体の物理的インピーダンスを、当該対象者の人体特性を含む当該系全体の物理特性および重力に合わせて補償する。
【0107】
すなわち、合成制御部52は、データ格納部31から読み取った運動方程式データ(Mi)および既知パラメータ(Pk)を用いて対象となる運動方程式を演算環境上に構成し、かつ、当該運動方程式に駆動トルク推定値(Te)、関節トルク推定値(ΔT)、および関節角度θを代入可能に構成されている。
【0108】
ここで、運動方程式データ(Mi)は、動作機能向上装置1および対象者からなる系全体の運動方程式を構成するためのものである一方、既知パラメータ(Pk)は、動作機能向上装置1における各部の重量、関節回りの慣性モーメント、粘性係数およびクーロン摩擦係数等の動力学パラメータからなる。
【0109】
関節周り検出部40は、上述したポテンショメータ32、絶対角度センサ33およびトルクセンサ34のみならず、相対力検出部70、関節トルク推定部71および筋トルク推定部72を有する。相対力検出部70は、動作機構部(フレーム機構)2に作用する相対力(ΔF)、つまり駆動部12L、12R、13L、13Rの発生する力と対象者の筋力との関係で相対的に定まる力を検出する。
【0110】
関節トルク推定部71は、相対力検出部70により検出された相対力データ(ΔF)に予め設定された係数を乗じたものと、トルクセンサ34により検出された駆動トルク(Te)との差分から、対象者の各関節回りの関節モーメント(ΔT)を推定する。対象者の脚には、駆動部12L、12R、13L、13Rの駆動トルク(Te)と対象者の筋トルク(Tm)との合力が関節モーメント(ΔT)として作用するため、対象者は動作機構部(フレーム機構)2を装着しない場合よりも小さな筋力で脚を動作させることが可能になる。
【0111】
筋トルク推定部72は、トルクセンサ34により検出された駆動トルク(Te)と、関節トルク推定部71により推定された関節モーメント(ΔT)とに基づき、対象者の筋力による筋トルク(Tm)を推定する。なお、筋トルク(Tm)を求めるのは、対象者が筋力を発生している状況下であってもパラメータ同定を可能とするためであり、対象者の動作状態でパラメータ同定を行う場合に有利である。
【0112】
合成制御部52は、関節周り検出部40から得られる駆動トルク(Te)、関節データ(θ)および関節モーメント(ΔT)、さらには筋トルク(Tm)をも考慮した演算処理を行い、対象者における各部の重量、各関節回りの慣性モーメント、粘性係数、クーロン摩擦係数等の未知なる動力学パラメータ(Pu)を同定し、複数回数(例えば10回)繰り返して平均化する。
【0113】
続いて合成制御部52は、推定された筋トルク(Tm)および生体電位の比(Tm/BES)と、データ格納部31からの所定の設定ゲイン(Gs)とを読み取り、当該設定ゲイン(Gs)が許容可能な誤差範囲(Ea)外である場合には、生体電位(BES)を補正して補正生体電位(BES’)を求め、筋トルク(Tm)および補正生体電位(BES’)の比(Tm/BES’)を設定ゲイン(Gs)と略等しくさせる。
【0114】
この結果、対象者の未知なる動力学パラメータ(Pu)の同定精度が低下する事態を防止できるとともに、駆動部12L、12R、13L、13Rが発生するアシスト力が過小あるいは過大となる事態をも防止することができる。
【0115】
合成制御部52は、データ格納部31からの制御方法データ(Ci)、関節周り検出部40から得られる駆動トルク(Te)、関節トルク(ΔT)および関節角度θ、並びに未知なる動力学パラメータ(Pu)を同定した結果である同定パラメータ(Pi)、および補正生体電位(BES’)を読み込み可能に構成されている。
【0116】
また合成制御部52は、制御方法データ(Ci)を用いて所定の制御部を演算環境上に構成し、この合成制御部52に、駆動トルク(Te)、関節トルク(ΔT)、関節角度θ、同定パラメータ(Pi)および生体電位(BES’)を反映させることにより、駆動部12L、12R、13L、13Rを駆動制御するための制御信号Urを送出可能である。電流制御部55は、合成制御部52からの制御信号Urに応じて駆動部12L、12R、13L、13Rを駆動する。
【0117】
さらに動作機能向上装置1は、装置自体がもつ物理的特性、すなわち関節周りの粘弾性やフレームの慣性による拘束に起因する自然な制御の妨げを解消すべく、インピーダンス調整に基づいてアシスト力を制御するようになされている。すなわち動作機能向上装置1は、関節のパラメータを算出し、駆動部(アクチュエータ)12L、12R、13L、13Rにより慣性モーメント、粘性、弾性を補償することにより、歩行動作におけるアシスト率の向上および対象者への違和感の軽減を実現する。
【0118】
このように動作機能向上装置1では、装置自体に対象者を加えた系全体の特性を変更することにより、対象者の特性を間接的に変更して調節することが可能となる。例えば、系全体の慣性項および粘性摩擦項の影響を抑えることができるように駆動トルクを調節することにより、対象者が本来有する反射等の機敏な動作を行う能力を最大限に発揮することが可能となる。さらには、対象者自身の慣性項や粘性摩擦項の影響をも抑えることができ、対象者に本来の周期よりも早く歩行させたり、装着前よりも滑らかに(粘性摩擦の小さい)動作をさせることもできる。
【0119】
さらに動作機能向上装置1は、対象者に装着された状態において当該対象者固有の動力学パラメータを合成制御部52により同定し、該同定した動力学パラメータを代入した運動方程式に基づき制御装置30により駆動部12L、12R、13L、13Rを制御することができるため、対象者の個人差や体調等の変動要因によらず、制御装置30が用いる制御方法に応じた効果を発揮することができる。
【0120】
また関節周り検出部40により推定された筋トルク(Tm)をも代入した運動方程式に基づき制御装置30により駆動部12L、12R、13L、13Rを制御することができるため、対象者から筋力が発生している状態においても動力学パラメータを同定することができ、当該動力学パラメータを同定するための待ち時間を対象者に要することなく、上記の効果を発揮することができる。
【0121】
生体信号検出部41により検出された生体電位(BES)と、関節周り検出部40により検出された筋トルク(Tm)との相互間のゲインを、予め設定された設定ゲイン(Gs)となるように調整するようにしたことから、生体信号検出部41からの検出結果に感度不良や感度過剰が生じる事態を未然に防止することができる。
【0122】
この結果、対象者の動力学パラメータの同定精度が低下する事態を防止できるとともに、駆動部12L、12R、13L、13Rが発生するアシスト力が過小或いは過大となる事態をも防止することができる。しかも、本実施例の動作機能向上装置1によれば、対象者から筋力が発生している状態においてもキャリブレーションを行うことができ、当該キャリブレーション行うための待ち時間を対象者に要しない。
【0123】
合成制御部52により同定された動力学パラメータを用いた重力補償および慣性補償の少なくとも何れか一方を制御装置30に適用することができるため、装置自体の重さが対象者に負担となる事態や、動作時において装置自体の慣性が対象者に違和感を与える事態を防止することができる。
【0124】
これに加えて、合成制御部52は、対象者の動作意思と運動現象との差異が最小限となるように、対象者の身体と動作機構部2との間で相互作用的に促される生体自己制御ループに基づいて、脳神経系からの動作指令による当該差異の補正と同時に、合成した制御状態をフィードバック調整する。
【0125】
この結果、動作機能向上装置1では、対象者が動作機構部2を用いて随意的な動作を繰り返し行うと、脳神経系からの動作指令と実際の運動現象との差異の補正に伴って、対象者の脳・神経・筋系の運動機能を向上することが可能となる。
【0126】
さらに、動作機能向上装置1においては、生体自己制御ループを形成するに際して、対象者の意思により生じる随意動作を実現するための最小の運動制御単位を、脳神経系とシナプス結合と筋系とからなる最小随意運動制御ユニットとして設定し、動作機構部2を用いて、運動現象を実現するために連動する身体動作を形成する最小随意運動制御ユニットごとに生体自己制御ループを成り立たせるようにした。
【0127】
この結果、動作機能向上装置1では、最小随意運動制御ユニットを、疾患部位・疾患原因の影響を明示的に動作機構部による生体自己制御ループの基本理論に基づく機能改善・治療というプロセスの中に組み込むことにより、他の最小随意運動制御ユニットにも作用が及んで動作機構部2の動作と同期して連動が進み、目標とする動作の実現のためにそれぞれの最小随意運動制御ユニットの機能が動作機構部2の動作と同期して強化・調整され、脳・神経・筋系の機能改善を行うことができる。
【0128】
例えば、進行性の疾患(緩徐進行性神経筋疾患)を持つ対象者では、通常では時間経過と共に動作機能が徐々に低下していくものであるが、動作機能向上装置1を用いると、
図7に示す従来では考えられなかった機能向上効果が得られており、また、通常生活や従来運動療法では筋破壊により血液中の筋破壊を示す指標である血中CK値が上昇することが常識であると考えられているが、動作機能向上装置1によってむしろCK値が減少する効果が得られている。
【0129】
(4)他の実施の形態における動作機能向上装置
(4-1)動作機構部の構成(腰タイプ:ハードウェア)
図9(A)および(B)に、他の実施の形態における腰タイプの動作機構部101を含む動作機能向上装置100を示す。また
図10(A)および(B)は、
図9の動作機構部101のうち大腿カフやベルト等を除いた主要構成について示す。動作機能向上装置100は、対象者の作業や動作を支援(アシスト)する装置であり、生体電位信号や当該対象者の股関節の動作角度や体幹部絶対角度を検出し、この検出信号に基づいて駆動部からの駆動力を付与するように作動する。
【0130】
動作機能向上装置100を装着した対象者は、自らの意思で比較的重い対象物を持ち上げて運搬動作を行う場合、その際に発生した広背筋または大殿筋(大臀筋)の皮膚表面上の生体電位信号や当該対象者の股関節の動作角度に応じた駆動トルクがアシスト力として動作機構部101から付与される。従って、対象者は、自身の筋力と駆動機構(アクチュエータ)からの駆動トルクとの合力によって対象物を持ち上げて運搬することができる。
【0131】
また動作機能向上装置100は、対象物を持ち上げて歩行する運搬作業以外にも、例えば、対象者が荷物を持ったまま階段を上り下りするといった昇降作業も補助することができる。
【0132】
動作機能向上装置100における動作機構部101では、対象者の腰の背面側において、左右方向にわたって腰部フレーム110が装着されている。腰部フレーム110は、例えば、CFRP(carbon fiber reinforced plastic:炭素繊維強化プラスチック)製の中空部材であり、人体の腰部の背面および両側面の形状に合わせてラウンドした形状を有する。
【0133】
腰部フレーム110は、対象者の腰部の背面側において、左右にわたって装着される第1腰部フレーム110Aと、当該第1腰部フレーム110Aよりも上側で左右方向にわたって装着される第2腰部フレーム110Bとが支柱111を介して接続するように構成されている。
【0134】
第1腰部フレーム110Aおよび第2腰部フレーム110Bは、対象者の腹側にわたされる装着ベルト112、113よって、対象者の腰部に装着される。第1腰部フレーム110Aおよび第2腰部フレーム110Bは、装着された状態では、背面側よりも両端側が低くなるように、すなわち、長手方向の中央部(対象者の背面側に位置する部分)よりも両端が低い位置に位置するように、前傾姿勢で装着される。
【0135】
第1腰部フレーム110Aおよび第2腰部フレーム110Bの両端には、左側部フレーム120および右側部フレーム121が固定されている。
【0136】
また、動作機構部101の装着側とは反対側の外側において、第1腰部フレーム110Aの中央部には、バッテリ122が着脱自在に収納されるとともに、当該バッテリ122に接続される配線等が内部空間内に挿通されている。
【0137】
支柱111は、第1腰部フレーム110Aの長手方向の中央部と、第2腰部フレーム110Bの長手方向の中央部とを縦方向に接続する部材である。支柱111は、例えば、強化樹脂製の中空部材であり、内部には、センサの配線が挿通される。また、支柱111の内部には、動作機構部101の動作を制御する制御装置(図示しないが、上述した
図5の制御装置30に相当)が設けられる。
【0138】
支柱111によって第1腰部フレーム110Aおよび第2腰部フレーム110Bを構成する各種部材が回転しないように保持されることによって、モノコック構造の強度が担保されている。また、支柱111には、第1腰部フレーム110Aに対応する装着ベルト112と第2腰部フレーム110Bに対応する装着ベルト113がそれぞれ取り付けられる。
【0139】
左側部フレーム120は、対象者の股関節の左側において、第1腰部フレーム110Aの左端と第2腰部フレーム110Bの左端とを接合して固定する。右側部フレーム121は、左側部フレーム120と略左右対称の構造を有し、第1腰部フレーム110Aの右端と第2腰部フレーム110Bの右端とを接合して固定する。
【0140】
左側部フレーム120には、アクチュエータおよびブレーキ機構(共に図示せず)が内蔵され、当該アクチュエータの駆動力を低下させるための入力用のマイナスボタン123が設けられている。このマイナスボタン123は、動作機能向上装置の電源がオン状態のとき点灯する。
【0141】
右側部フレーム121には、アクチュエータおよびブレーキ機構(共に図示せず)が内蔵され、当該アクチュエータの駆動力を増大させるための入力用のプラスボタン124と、動作機能向上装置1の電源をオン/オフを切り替えるための電源ボタン125とが設けられている。このプラスボタン124および電源ボタン125は、動作機能向上装置の電源がオン状態のとき点灯する。
【0142】
このように腰部フレーム(第1腰部フレーム110Aおよび第2腰部フレーム110B)、支柱111、側部フレーム(左側部フレーム120および右側部フレーム121)は、一体構成となるように組み立てることにより、フレーム自体に応力を受け持たせるモノコック構造を実現している。
【0143】
図9(A)および(B)において、大腿固定部130は、対象者の左側の大腿部を固定する左大腿固定部130Lと、対象者の右側の大腿部を固定する右大腿固定部130Rとからなる。
【0144】
左大腿固定部130Lは、左側部フレーム120内のアクチュエータに接続されたステー部131Lと、当該ステー部131Lに取り付けられたベルト部132Lとから構成され、左側部フレーム120に対して側面視で回動可能に設けられている。
【0145】
また右大腿固定部130Rは、右側部フレーム121内のアクチュエータに接続されたステー部131Rと、当該ステー部131Rに取り付けられたベルト部132Rとから構成され、右側部フレーム121に対して側面視で回動可能に設けられている。
【0146】
なお、左大腿固定部130Lおよび右大腿固定部130Rにおいて、ステー部131L、131Rは人体の大腿部の平均的長さを基準に最適長に設計され、ベルト部132L、132Rによって対象者の大腿部が固定される。
【0147】
装着ベルト112は、第1腰部フレーム110Aを対象者に取り付ける際に、腹側にわたされる装着ベルトであり、動作機構部101を人体の腰部に取り付けるためのメインとなる。
【0148】
装着ベルト113は、第2腰部フレーム110Bを対象者に取り付ける際に、腹側にわたされる装着ベルトである。装着ベルト113は、動作機構部101を装着する対象者が膝を曲げた状態から比較的重い対象物を持ち上げる動作を行うときに、脚の動きに伴って生じる反力を対象者の腹部または腰部に効率的に伝達するために、装着ベルト113よりも上側で人体に動作機構部101を固定するために用いられる。
【0149】
バッテリ122は、動作機構部101の装着側とは反対側の外側において、第1腰部フレーム110Aの中央部の外側に設けられ、制御装置、アクチュエータ、ブレーキ機構(図示せず)、マイナスボタン123、プラスボタン124および電源ボタン125に電力を供給する。
【0150】
生体電位センサを有する生体信号検出部140は、対象者の腰部の背面に装着され、対象者が体幹を起こそうとする際の筋活動あるいは体幹の角度を維持しようとする際の筋活動に伴う生体電位信号を検出する検出部である。
【0151】
生体信号検出部140の生体電位センサは、支柱111に設けられた孔部から支柱の外側に伸延する配線の先端に接続されており、3つ設けられている。生体電位センサは、対象者の腰部の背面に貼り付けられることによって、対象者が体幹の筋肉を動かす際に発生する生体電位信号を検出する。
【0152】
生体信号検出部140で検出された生体電位信号は、制御装置に入力される。なお、生体電位センサは、テープ等を用いて対象者の背中に貼り付けてもよいし、ゲル等を用いて貼り付けてもよい。3つのセンサのうちの1つは、基準信号を測定するために用いられ、残りの2つのセンサは、生体電位信号を測定するために用いられる。
【0153】
実際に、動作機能向上装置100において、動作機構部101は、対象者の腰部に背面側から装着される。動作機能向上装置100は、対象者が
図11(A)に示すように屈んだ状態(中腰姿勢)から、
図11(B)に示すように立ち上がる際に、腰部に対する大腿部の動きを補助するように補助力(アシスト力)を発生する装置である。このような対象者の動作は、例えば、中腰姿勢から立ち上がる動作、中腰姿勢から対象物を持ち上げる動作、移乗介助時の動作等である。
【0154】
図11(C)は、動作機能向上装置100における動作機構部101の可動範囲を示す図(左側面図)である。左大腿固定部130Lは、左側部フレーム120を回転中心として、
図11)(C)に示す基準位置から、時計回りに130°、反時計回りに30°回動可能である。このような動作により、動作機能向上装置は、対象者が
図11(A)に示すように屈んだ状態から、
図11(B)に示すように立ち上がる際に、腰部に対する大腿部の動きを補助するように補助力を発生する。なお、右大腿固定部130Rの動作範囲も同様である。
【0155】
この実施形態における腰タイプの動作機能向上装置100では、上述した下肢タイプの動作機構向上装置1の制御系システム3とほぼ同一構成(受信部65を除外)を有している。これにより、動作機能向上装置100においても、対象者の動作意思に従った動作をさせるための随意的制御ステップと、予め設定された理想的な動力を発生させるための自律的制御ステップと、動作機構部101自体の荷重や粘性摩擦により動きにくく感じることを低減するためのインピーダンス制御ステップ(重力補償制御を含む)とを機能的に備える。
【0156】
この結果、腰タイプの動作機能向上装置100では、対象者が動作機構部101をあたかも自分の体の一部のように感じられ、対象者と動作機構部101との機能的な融合・一体化を実現することが可能となる。
【0157】
実際に動作機能向上装置100によれば、対象者が
図11(A)に示すように屈んだ状態から、
図11(B)に示すように立ち上がる際に、腰部に対する大腿部の動きを補助するように補助力を発生することができる。このような補助力は、生体信号検出部140によって検出される、対象者が体幹を起こそうとする際の筋活動あるいは体幹の角度を維持しようとする際の筋活動に伴う生体電位信号に基づいて駆動部(アクチュエータ)が駆動されることによって発生される。
【0158】
従って、対象者の意志に応じて必要な補助力を必要な方向に提供できる、利便性の高い動作機能向上装置100を提供することができる。また、対象者が自ら発生すべき動力(筋力)を可及的に抑えることができ、かつ、対象者の利便性を損なう事態を抑えることのできる動作機能向上装置100を提供することができる。
【0159】
なお、制御装置は、対象者の左右大腿の生体信号の信号レベルが左右均等でないと判断した場合は、対象者が歩行中であると判定する一方、当該信号レベルが左右均等であると判断した場合は、対象者が停止状態にあると判定するようになされている。
【0160】
また、制御装置は、対象者が停止状態にあると判定した状態において、左右の股関節角度が共に所定の規定角度より大きいと判断した場合は、当該対象者が歩行中であると判定する一方、当該規定角度以下であると判断した場合、当該対象者が上体を前方に低くした姿勢であると判定するようになされている。
【0161】
さらに動作機能向上装置100では、タスクのフェーズに応じた制御比率となるように随意的制御ステップおよび自律的制御ステップによる制御状態を合成する合成制御ステップは、上述のインピーダンス制御ステップを実行するのみならず、対象者の動作意思と運動現象との差異が最小限となるように、対象者の身体と動作機構部との間で相互作用的に促される生体自己制御ループに基づいて、脳神経系からの動作指令による当該差異の補正と同時に、合成した制御状態をフィードバック調整する。
【0162】
この結果、動作機能向上装置100では、対象者が動作機構部101を用いて随意的な動作を繰り返し行うと、脳神経系からの動作指令と実際の運動現象との差異の補正に伴って、対象者の脳・神経・筋系の運動機能を向上することが可能となる。
【0163】
さらに、動作機能向上装置100においては、生体自己制御ループを形成するに際して、対象者の意思により生じる随意動作を実現するための最小の運動制御単位を、脳神経系とシナプス結合と筋系とからなる最小随意運動制御ユニットとして設定し、動作機構部101を用いて、運動現象を実現するために連動する身体動作を形成する最小随意運動制御ユニットごとに生体自己制御ループを成り立たせるようにした。
【0164】
この結果、動作機能向上装置100では、最小随意運動制御ユニットを、疾患部位・疾患原因の影響を明示的に動作機構部による生体自己制御ループの基本理論に基づく機能改善・治療というプロセスの中に組み込むことにより、他の最小随意運動制御ユニットにも作用が及んで動作機構部101の動作と同期して連動が進み、目標とする動作の実現のためにそれぞれの最小随意運動制御ユニットの機能が動作機構部の動作と同期して強化・調整され、脳・神経・筋系の機能改善を行うことができる。
【0165】
(3-2)動作機構部の構成(単関節タイプ:ハードウェア)
図12に、他の実施の形態における単関節タイプの動作機構部151を含む動作機能向上装置150を示す。この動作機能向上装置150における動作機構部151のうちカフやベルト等を除いた主要構成について示す。
【0166】
動作機能向上装置150は、対象者の上肢または下肢の関節部位(肘関節や膝関節等)に装着される動作機構部151の動作を支援(アシスト)する装置であり、対象者の動作意思に応じて駆動部(アクチュエータ)を駆動させて随意運動をアシストし、関節の伸展運動の反復動作をすることにより、上肢または下肢の運動の円滑性を向上させる機能を有する。
【0167】
この実施形態による動作機能向上装置150は、
図12に示すように、対象者の任意の関節部位に装着される動作機構部151と、制御装置(図示しないが、上述した
図5の制御装置30に相当)が内蔵された制御ユニット152とが、必要な情報を表示して設定変更や確認を操作するための操作部153とから構成されている。なお、
図12には、制御ユニット152に接続される電極ケーブルおよび充電器は省略されている。
【0168】
動作機構部151は、駆動部(アクチュエータ)160の駆動力により、第1の伝達部材170と第2の伝達部材171とを相対的に回動させるように構成されている。これら第1の伝達部材170および第2の伝達部材171は、対象者の関節に応じて選択されるアタッチメントであり、当該関節の一端側部位および他端側部位にそれぞれ第1の結合部175および第2の結合部176を介して締結される。
【0169】
駆動部160は、対象者の膝関節の側方に位置するように設けられ、回転子(マグネット)または固定子(コイル)の何れか一方が収納される第1のモータハウジング180と、回転子(マグネット)または固定子(コイル)の何れか他方が収納される第2のモータハウジング181とを有する。
【0170】
第1のモータハウジング180は、対象者の関節の一端側部位(例えば、大腿部)に装着される第1の伝達部材が結合される第1の結合部が設けられている。また、第2のモータハウジング181は、当該関節の他端側部位(例えば、脛部)に装着される第2の伝達部材50が結合される第2の結合部38が設けられている。さらに、第1の伝達部材40は、対象者の関節の一端側部位に嵌合される一対のカフ(図示せず)が固定部材76により固定されている。
【0171】
駆動部160は、第1のモータハウジング180と、第2のモータハウジング181とを同軸上に重ね合わせた構成であり、第1のモータハウジング180の裏面と、第2のモータハウジング181の裏面とが互いに対向している。また、第1のモータハウジング180の回転中心と、第2のモータハウジング181の回転中心との間は、ハウジング間に装架されたモータ軸(図示せず)によって連結されている。
【0172】
さらに、第1のモータハウジング180は、円形ドーム状に形成された円形カバー180Aと、円形カバー180Aの外周から半径方向に延在形成された延在部180Bとを有する。延在部180Bの端部は、第1の結合部175を支持すると共に、第1の伝達部材170の挿脱操作をガイドするように形成されている。また、第2のモータハウジング181も同様に、円形ドーム状に形成された円形カバー181Aと、円形カバー181Aの外周から半径方向に延在形成された延在部181Bとを有する。延在部181Bの端部は、第2の結合部176を支持すると共に、第2の伝達部材171の挿脱操作をガイドするように形成されている。
【0173】
駆動部160において、第1のモータハウジング180と第2のモータハウジング181との間の相対回動角θは、例えば膝関節の動作範囲に応じたθ=65度~180度に設定されている。また、相対回動角θが最小角度θmin=65度、および最大角度θmax=180度に達すると、第1のモータハウジング180と第2のモータハウジング181との間のストッパが当接して相対的な回動が規制される。
【0174】
さらに、駆動部161は、第1のモータハウジング180と第2のモータハウジング181との間の相対回動角θを検出する角度センサを有する。尚、この角度センサは、第1のモータハウジング180または第2のモータハウジング181の何れか内部に収納されている。
【0175】
この実施形態における単関節タイプの動作機能向上装置150では、上述した下肢タイプの動作機構向上装置1の制御系システム3とほぼ同一構成(受信部を除外)を有している。これにより、動作機能向上装置150においても、対象者の動作意思に従った動作をさせるための随意的制御ステップと、予め設定された理想的な動力を発生させるための自律的制御ステップと、動作機構部151自体の荷重や粘性摩擦により動きにくく感じることを低減するためのインピーダンス制御ステップ(重力補償制御を含む)とを機能的に備える。
【0176】
この結果、単関節タイプの動作機能向上装置150では、対象者が動作機構部151をあたかも自分の体の一部のように感じられ、対象者と動作機構部151との機能的な融合・一体化を実現することが可能となる。
【0177】
実際に動作機能向上装置150によれば、
図13に示すように、対象者の右脚の膝関節に動作機構部151を装着することにより、対象者の右膝関節の治療または手術を受けた後の機能回復訓練(リハビリテーション)を行うことができる。また、対象者がベッドで寝た状態、あるいは対象者が椅子に座った状態でも動作機能向上装置150を用いた機能回復訓練を行うことができるので、対象者に無理な負担を掛けずに機能回復訓練を適宜行うことが可能である。
【0178】
また動作機能向上装置150によれば、
図14に示すように、対象者の左腕の肘関節に動作機構部151を装着することにより、対象者の左肘関節の治療または手術を受けた後の機能回復訓練(リハビリテーション)を行うことができる。
【0179】
さらに動作機能向上装置150では、タスクのフェーズに応じた制御比率となるように随意的制御ステップおよび自律的制御ステップによる制御状態を合成する合成制御ステップは、上述のインピーダンス制御ステップを実行するのみならず、対象者の動作意思と運動現象との差異が最小限となるように、対象者の身体と動作機構部151との間で相互作用的に促される生体自己制御ループに基づいて、脳神経系からの動作指令による当該差異の補正と同時に、合成した制御状態をフィードバック調整する。
【0180】
この結果、動作機能向上装置150では、対象者が動作機構部151を用いて随意的な動作を繰り返し行うと、脳神経系からの動作指令と実際の運動現象との差異の補正に伴って、対象者の脳・神経・筋系の運動機能を向上することが可能となる。
【0181】
さらに、動作機能向上装置150においては、生体自己制御ループを形成するに際して、対象者の意思により生じる随意動作を実現するための最小の運動制御単位を、脳神経系とシナプス結合と筋系とからなる最小随意運動制御ユニットとして設定し、動作機構部151を用いて、運動現象を実現するために連動する身体動作を形成する最小随意運動制御ユニットごとに生体自己制御ループを成り立たせるようにした。
【0182】
この結果、動作機能向上装置150では、最小随意運動制御ユニットを、疾患部位・疾患原因の影響を明示的に動作機構部151による生体自己制御ループの基本理論に基づく機能改善・治療というプロセスの中に組み込むことにより、他の最小随意運動制御ユニットにも作用が及んで動作機構部151の動作と同期して連動が進み、目標とする動作の実現のためにそれぞれの最小随意運動制御ユニットの機能が動作機構部151の動作と同期して強化・調整され、脳・神経・筋系の機能改善を行うことができる。
【0183】
(5)その他の実施の形態
なお上述のように本実施の形態においては、動作機能向上装置1、100、150として、下半身用(下肢タイプ)の動作機構部2を備えるものや、腰タイプの動作機構部101を備えるもの、さらには単関節タイプの動作機構部151を備えるものを適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、対象者の身体動作が可能な関節部位であれば、当該関節部位に適応した動作機構部を備える動作機能向上装置に広く適用することができる。
【0184】
例えば、手指用(ハンドタイプ)の動作機構部と、上述した随意的制御ステップ、自律的制御ステップ、インピーダンス制御ステップおよび生体自己制御ループの基本理論の機能的構成を備えた制御系システムとを備える動作機能向上装置を構成するようにしてもよい。このハンドタイプの動作機構部は、対象者の手指に直接装着する構成でもよく、卓上に固定する構成でもよい。
【0185】
また上述の実施の形態においては、関節周り検出部40は、関節周りの物理量として、動作機構部2(101、151)における駆動部12L、12R、13L、13R(160)の回転子側のフレームおよび固定子側のフレーム間の絶対角度、回動角度、角速度、角加速度および駆動トルクを検出するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、筋骨格に生じる発生筋力、各関節の可動域、可動速度および反応速度、外乱に対する自律制御特性、フレームの慣性モーメント、質量および重心のうち少なくとも1以上のパラメータ同定結果、屈筋および伸筋を含めた関節系のインピーダンス調整結果(摩擦による粘性特性)、電気的な物理量(指令信号)等を関節回りの物理量として検出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0186】
1、100、150…動作機能向上装置、2、101、151…動作機構部、3…制御系システム、12L、12R、13L、13R、160…駆動部、26L、26R…専用靴、30…制御装置、31…データ格納部、32…ポテンショメータ、33…絶対角度センサ、34…トルクセンサ、40…関節周り検出部、41、140…生体信号検出部、50…随意的制御部、51…自律的制御部、52…合成制御部、55…電流制御部、60…FRFセンサ、70…相対力検出部、71…関節トルク推定部、72…筋トルク推定部。