(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066011
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】入隅角部用役物
(51)【国際特許分類】
E04D 5/00 20060101AFI20240508BHJP
【FI】
E04D5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175184
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】591000506
【氏名又は名称】早川ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 弘三
(72)【発明者】
【氏名】早川 智史
(72)【発明者】
【氏名】山根 慶典
(57)【要約】
【課題】現場での施工作業を容易にしながら、入隅角部の防水性を高める。
【解決手段】防水シートが敷設された陸屋根の入隅角部に使用される入隅角部用役物1は、入隅角部に対応する形状に成形され、防水シートの表面に固定される鋼板2と、鋼板2における防水シートへの固定側と反対側の面を覆うように成形され、当該面に一体化された樹脂成形シート3とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防水シートが敷設された陸屋根の入隅角部に使用される入隅角部用役物であって、
前記入隅角部に対応する形状に成形され、前記入隅角部に固定される鋼板と、
前記鋼板における前記入隅角部への固定側と反対側の面を覆うように成形され、当該面に一体化された樹脂成形シートとを備えていることを特徴とする入隅角部用役物。
【請求項2】
請求項1に記載の入隅角部用役物において、
前記樹脂成形シートは、前記防水シートと同じ材料で構成されていることを特徴とする入隅角部用役物。
【請求項3】
請求項1に記載の入隅角部用役物において、
前記樹脂成形シートの厚みは、前記防水シートの厚みと同じに設定されていることを特徴とする入隅角部用役物。
【請求項4】
請求項1に記載の入隅角部用役物において、
前記樹脂成形シートの厚み方向中間部には、補強用の繊維が設けられていることを特徴とする入隅角部用役物。
【請求項5】
請求項1に記載の入隅角部用役物において、
前記鋼板は、樹脂被覆鋼板で構成されていることを特徴とする入隅角部用役物。
【請求項6】
請求項1に記載の入隅角部用役物において、
前記鋼板は、連結材によって連結された繋ぎ目を有していることを特徴とする入隅角部用役物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、建物の屋上防水施工時に使用される入隅角部用役物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、塩化ビニル樹脂系シート、塩化ビニル共重合体系シート、ポリオレフィン系シート等の合成高分子系ルーフィングシートは、各種建物の屋上防水シートとして使用されている。また、建物の屋根が陸屋根である場合には、通常、四方にパラペットと呼ばれる立ち上がり部が設けられている。
【0003】
陸屋根に防水シートを敷設する場合には、パラペットの立ち上がり面と平場面を覆うように複数の防水シートを配置するとともに、防水シート同士を溶剤による溶着や熱風機による融着で接合する。
【0004】
しかしながら、屋上で2つの面が交わることによって内側に凹んだ部分、いわゆる入隅角部は立体構造となっており、平面の防水シートをそのまま敷設することはできない。よって、入隅角部に沿うように防水シートをカットしたり、折り曲げたりして入隅角部に納める必要がある。そうすると、入隅角部では防水シートの欠損部が発生するため、最後に欠損部を覆う目的で成形役物を使用して増し張りを行う(例えば、非特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日本建築学会、「建築工事標準仕様書・同解説 JASS 8 防水工事」、235頁、238頁
【非特許文献2】一般社団法人 公共建築協会、「建築工事監理指針 令和元年版(上巻)」、886頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、入隅角部に発生する防水シートの欠損部を非特許文献1、2に開示されているような成形役物によって覆うことは防水性を確保する上で重要なことである。しかし、防水シート同士を接合する際には防水シート同士を厚み方向に重ねているので、防水シートの厚み分の段差ができてしまう。この段差が入隅角部の欠損部につながると水道(みずみち)となって雨水等が防水シートの下へ流れてしまうおそれがある。そこで、防水シートの接合部分に発生する段差をつぶして、水道をなくす必要がある。
【0007】
ところが、水道をつぶしながら成形役物を施工する作業は熟練が必要なうえ、手間がかかる。特に、入隅角部は水が集まりやすい箇所であり、成形役物の増し張りが不十分だと漏水に直結するという問題がある。
【0008】
また、入隅角部は角だしをするための作業が必要であるが、この角だしをするための作業も熟練を必要とし、うまくやらないと美観を損ねるという問題もある。
【0009】
本開示は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、現場での施工作業を容易にしながら、入隅角部の防水性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本開示の第1の態様では、防水シートが敷設された陸屋根の入隅角部に使用される入隅角部用役物を前提とすることができる。入隅角部用役物は、前記入隅角部に対応する形状に成形され、前記入隅角部に固定される鋼板と、前記鋼板における前記入隅角部への固定側と反対側の面を覆うように成形され、当該面に一体化された樹脂成形シートとを備えている。
【0011】
この構成によれば、鋼板が入隅角部に対応する形状に予め成形されているので、入隅角部用役物を現場で入隅角部に設置することで、入隅角部が入隅角部用役物によって覆われる。入隅角部が入隅角部用役物によって覆われることにより、現地では、入隅角部に沿わせるための防水シートのカットや折り曲げが不要となるため、入隅角部では欠損部がなくなるとともに、漏水の原因となる水道をつぶす箇所が減少する。よって、現地での作業が容易になり、作業者の熟練度が低くても防水性能を損なわない施工が可能になる。
【0012】
また、樹脂成形シートが鋼板と一体化されているので、鋼板を利用することで入隅角部用役物を下地に対してビス止め、またはアンカー止めすることができる。さらに、樹脂成形シートが鋼板と一体化されているので、強度が高まる。
【0013】
本開示の第2の態様に係る樹脂成形シートは、前記防水シートと同じ材料で構成することができる。これにより、入隅角部用役物の施工性を防水シートと同様な施工性とすることができる。
【0014】
本開示の第3の態様に係る樹脂成形シートの厚みは、前記防水シートの厚みと同じに設定することができる。これにより、樹脂成形シートの傷に対する強さが防水シートと同程度になるとともに樹脂成形シートの耐久性を高めることができる。また、樹脂成形シートの厚みが十分に確保されるので、溶剤による溶着や熱による融着が容易になるとともに、水道をつぶしやすくなる。
【0015】
本開示の第4の態様に係る樹脂成形シートの厚み方向中間部には、補強用の繊維を設けることができる。これにより、樹脂成形シート自体が補強効果を発揮する。また、樹脂成形シートの表面に傷ができたときに、傷の進行を繊維によって抑制できる。
【0016】
本開示の第5の態様に係る鋼板は、樹脂被覆鋼板で構成することができる。樹脂成形シートが一体化される面が樹脂被覆されていることで、樹脂成形シートを鋼板と一体化し易くなる。また、防水シートに固定される面が樹脂被覆されていることで、溶剤による溶着や熱による融着が容易になる。
【0017】
本開示の第5の態様に係る鋼板は、連結材によって連結された繋ぎ目を有していてもよい。すなわち、入隅角部の形状は複雑であることから、平板状の鋼板を入隅角部に対応する形状に成形する際には繋ぎ目を設けることで成形が容易になる。この場合、繋ぎ目を連結材で連結しておくことで、入隅角部用役物の強度を十分に確保できる。これにより、施工時における入隅角部用役物の変形を抑制できるとともに、施工後、下地の動きや、経年による防水シートの収縮に起因した引っ張りによっても入隅角部用役物の変形を抑制できる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、入隅角部に対応する形状に予め成形された鋼板に樹脂成形シートが一体化されているので、現場での施工作業を容易にしながら、入隅角部の防水性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態1に係る入隅角部用役物の斜視図である。
【
図4】別の例に係る施工後の入隅角部近傍の斜視図である。
【
図5】入隅角部用役物を鋼板と樹脂成形シートに分離した状態を示す斜視図である。
【
図6】本発明の実施形態2に係る入隅角部用役物の下側部材の斜視図である。
【
図7】下側部材を鋼板と樹脂成形シートに分離した状態を示す斜視図である。
【
図8】本発明の実施形態2に係る入隅角部用役物の上側部材の斜視図である。
【
図9】上側部材を鋼板と樹脂成形シートに分離した状態を示す斜視図である。
【
図11】実施形態2の変形例に係る
図3相当図である。
【
図12】樹脂成形シートの成形方法を説明する図である。
【
図13】金型によって樹脂成形シートを成形する要領を説明する図である。
【
図14】高さ寸法の調整構造について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0021】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る入隅角部用役物1の斜視図である。入隅角部用役物1は、防水シートが敷設された陸屋根100(
図2に示す)の入隅角部101aに使用される。陸屋根100は、各種建物の屋上に設けられており、平場100aと、平場100aの周縁部から立ち上がるパラペット101とを有している。平場100aは、略矩形状とされており、従って、パラペット101は平場100aの形状に対応するように、平面視で矩形枠状をなしている。パラペット101の高さ寸法Hは、平場100aからパラペット101の天面101bまでの寸法である。
【0022】
入隅角部101aは、パラペット101の2つの内側面101c、101dが交差する部分に形成されており、当該2つの内側面101c、101dが平場100aに交差する部分も含んでいる。パラペット101の2つの内側面101c、101dは互いに略直交する関係となっている。また、パラペット101の内側面101cと平場100aも互いに略直交する関係となっており、さらに、パラペット101の内側面101dと平場100aも互いに略直交する関係となっている。
【0023】
上述したように、パラペット101の上記2つの内側面101c、101dと、平場100aとが交差する分部に入隅角部101aが形成されることになるので、入隅角部101aの形状は複雑になる。また、パラペット101が平面視で矩形枠状をなしているので、本実施形態では入隅角部101aが4つ設けられることになる。以下の説明では、
図2に破線で示す入隅角部101aに固定されて使用される入隅角部用役物1について説明するが、他の入隅角部101aにも同様な入隅角部用役物1を使用することができる。
【0024】
図3は、入隅角部用役物1を入隅角部101aに設置するとともに、平場ルーフィングシート200、第1立ち上がりルーフィングシート201及び第2立ち上がりルーフィングシート202を敷設した状態を示している。平場ルーフィングシート200及び立ち上がりルーフィングシート201、202を敷設する前に、入隅角部用役物1を入隅角部101aに固定する。
【0025】
また、
図4は、入隅角部用役物1、平場ルーフィングシート200、第1立ち上がりルーフィングシート201及び第2立ち上がりルーフィングシート202に加えて、第3立ち上がりルーフィングシート203を敷設した状態を示している。平場ルーフィングシート200及び立ち上がりルーフィングシート201、202、203を敷設する前に、入隅角部用役物1を入隅角部101aに固定する。
【0026】
平場ルーフィングシート200及び立ち上がりルーフィングシート201、202、203は、水非透過性を有する防水シートである。すなわち、平場ルーフィングシート200及び立ち上がりルーフィングシート201、202、203は、例えば、塩化ビニル樹脂系シート、塩化ビニル共重合体系シート、ポリオレフィン系シート等の合成高分子系ルーフィングシートで構成されている。平場ルーフィングシート200及び立ち上がりルーフィングシート201、202、203の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば1.3mm以上2.5mm以下の範囲で設定することができる。
【0027】
図5に示すように、入隅角部用役物1は、鋼板2と樹脂成形シート3とを備えている。鋼板2は、入隅角部101aに対応する形状に成形され、入隅角部101aに直接固定される部材であり、鋼板2と入隅角部101aの表面との間には防水シートが介在していない。鋼板2の厚みは特に限定されるものではないが、例えば0.4mm以上0.8mm以下の範囲で設定することができる。この範囲に設定しておくことで、所定形状となるように加工する際の加工性や、現地でのカット(例えば金切りハサミによるカット)が容易に行えるようになる。また、鋼板2の表面には、防錆処理が施されていてもよい。また、鋼板2は、ステンレス製であってもよい。
【0028】
樹脂成形シート3は、鋼板2における入隅角部101aへの固定側と反対側の面を覆うように成形され、当該面に一体化された部材である。樹脂成形シート3は、平場ルーフィングシート200及び立ち上がりルーフィングシート201、202、203と同じ材料で構成されており、例えば、塩化ビニル系樹脂や熱可塑性エラストマー系樹脂などで構成されている。樹脂成形シート3の材料をルーフィングシート200、201、202、203と同じ材料とすることで、樹脂成形シート3とルーフィングシート200、201、202、203とを溶剤により溶着する際の溶け具合や、熱風により融着の時の熱風温度に対する溶け具合が同じとなるため、なじみがよくなり、両者を確実に接合できる。また、ルーフィングシート200、201、202、203の樹脂と、樹脂成形シート3の樹脂の配合が同等であれば、特に塩化ビニル系樹脂では可塑剤の移行による影響が少なくなる。
【0029】
また、樹脂成形シート3の厚みは、平場ルーフィングシート200及び立ち上がりルーフィングシート201、202、203の厚みと同じに設定されている。樹脂成形シート3を厚くすることで、表面にひっかき傷ができたとしても、鋼板2が露出しにくくなる。本実施形態では、施工後、入隅角部101aは樹脂成形シート3が露出した状態となるため、樹脂成形シート3の厚みはルーフィングシート200、201、202、203と同等かそれ以上がよい。ただし、樹脂成形シート3が厚すぎても、施工時の段差が大きくなるため、樹脂成形シート3の厚みは、一般的なルーフィングシートの厚みである1.3mm以上2.5mm以下が望ましい。また、樹脂成形シート3の厚みがあれば、水道をつぶす作業において、樹脂の溶け代が多くなるので水道がつぶしやすくなる。
【0030】
樹脂成形シート3の厚み方向中間部には、補強用の繊維(図示せず)が設けられていてもよい。補強用の繊維としては、例えば合成樹脂製の繊維やガラス繊維等を挙げることができる。現在使用されているルーフィングシート200、201、202、203の多くがシート内に基布(織布、不織布など)を複合して寸法安定性や力学的物性を改善している。よって、樹脂成形シート3もルーフィングシート200、201、202、203と同様な寸法安定性や力学的物性を付与するために、補強用の繊維を設けるのが好ましい。
【0031】
また、例えば、紫外線などによる表面劣化で表面にクラックが入った場合でも、クラックの進行を補強用の繊維によって止めることができる。鋼板2と一体化した樹脂成形シート3に、生産時に浮き(鋼板2と樹脂成形シート3とが十分に一体化できていない箇所)があっても、補強用の繊維があることで膨れを抑えることができる。膨れが進行すると、樹脂成形シート3の切れや防水層としての脆弱部、見栄えの悪化につながるとともに、漏水に進展するおそれがあるため、補強用の繊維によって膨れを抑えることは有効である。また、経年で鋼板2と樹脂成形シート3との界面に剥離が発生しても、樹脂成形シート3の膨れが補強用の繊維によって抑えられる。
【0032】
図5に示すように、鋼板2は、下板部20と、第1縦板部21及び第2縦板部22と、上板部23とを有している。下板部20は、陸屋根100の平場100aに沿って延びるように形成されており、平面視で矩形状をなしている。下板部20の第1辺部20aは、パラペット101の内側面101c(
図2に示す)の下縁部に沿って延びるように配置され、また、下板部20の第2辺部20bは、パラペット101の内側面101d(
図2に示す)の下縁部に沿って延びるように配置されている。従って、下板部20の第1辺部20aと第2辺部20bとは直角に交わっている。下板部20の第3辺部20cは、第1辺部20aに対して直角に交わっており、また、下板部20の第4辺部20dは、第2辺部20bに対して直角に交わっている。
【0033】
下板部20は、第1下板構成部20eと第2下板構成部20fとで構成されている。すなわち、第1辺部20a及び第3辺部20cを有する第1下板構成部20eと、第2辺部20b及び第4辺部20dを有する第2下板構成部20fとが1枚の板をなすように繋ぎ合わされることにより、下板部20が構成されている。第1下板構成部20eと第2下板構成部20fとは、下側連結材25によって連結されており、従って、鋼板2は、下側連結材25によって連結された下側繋ぎ目Aを有している。
【0034】
下側連結材25は、下板部20の下面に沿って延びるように形成された金属製の板材で構成されている。下側連結材25の長手方向一側がリベット等の締結部材25aにより第1下板構成部20eに固定され、また、下側連結材25の長手方向他側がリベット等の締結部材25aにより第2下板構成部20fに固定されている。これにより、第1下板構成部20e及び第2下板構成部20fが分離しないように一体化される。締結部材25aをリベットとすることで、鋼板2表面からの出っ張りが少なくなり、好ましい。
【0035】
第1縦板部21は、下板部20の第1辺部20aから上方へ延びる平板状をなしており、パラペット101の内側面101cに沿って延びるように形成されている。また、第2縦板部22は、下板部20の第2辺部20bから上方へ延びる平板状をなしており、パラペット101の内側面101dに沿って延びるように形成されている。従って、第1縦板部21及び第2縦板部22は直交している。
【0036】
第1縦板部21には、第1固定穴21aが形成されている。第1固定穴21aにビス等の固定部材を挿通し、パラペット101にねじ込むことで、第1縦板部21をパラペット101に固定することができる。また、第2縦板部22には、第2固定穴22aが形成されている。第2固定穴22aにビス等の固定部材を挿通し、パラペット101にねじ込むことで、第2縦板部22をパラペット101に固定することができる。尚、固定穴は、下板部20、上板部23にも設けてもよい。
【0037】
上板部23は、パラペット101の天面101bに沿って延びるように形成されている。上板部23は、第1縦板部21の上端部に一体成形された第1上板構成部23aと、第2縦板部22の上端部に一体成形された第2上板構成部23bと、別部材で構成された第3上板構成部23cとが1枚の板をなすように繋ぎ合わされることにより、上板部23が構成されている。
【0038】
第1上板構成部23aと第2上板構成部23bとの間に、第3上板構成部23cが配置されている。第1上板構成部23aと第3上板構成部23cとは、第1上側連結材26によって連結されており、従って、鋼板2は、第1上側連結材26によって連結された第1上側繋ぎ目B1を有している。また、第2上板構成部23bと第3上板構成部23cとは、第2上側連結材27によって連結されており、従って、鋼板2は、第2上側連結材27によって連結された第2上側繋ぎ目B2を有している。
【0039】
第1上側連結材26は、第1上板構成部23a及び第3上板構成部23cの下面に沿って延びるように形成された金属製の板材で構成されている。第1上側連結材26の長手方向一側がリベット等の締結部材26aにより第1上板構成部23aに固定され、また、第1上側連結材26の長手方向他側がリベット等の締結部材26aにより第3上板構成部23cに固定されている。
【0040】
第2上側連結材27は、第2上板構成部23b及び第3上板構成部23cの下面に沿って延びるように形成された金属製の板材で構成されている。第2上側連結材27の長手方向一側がリベット等の締結部材27aにより第2上板構成部23bに固定され、また、第2上側連結材27の長手方向他側がリベット等の締結部材27aにより第3上板構成部23cに固定されている。第1上側連結材26と第2上側連結材27とにより、第1上板構成部23a、第2上板構成部23b及び第3上板構成部23cが分離しないように一体化される。
【0041】
鋼板2は原板の平板から入隅角部101aに対応する形状となるように、裁断、折り曲げ加工して作製することができる。平面である原板から立体的に加工することになるため、鋼板2の継ぎ目A、B1、B2や不足部分が発生する。鋼板2の継ぎ目A、B1、B2がそのままであると、即ち、鋼板2の継ぎ目A、B1、B2や不足部分を連結していないと、入隅角部用役物1が変形しやすくなるため、施工時の下地へのアンカー固定時や、気候変化や地震や風などによる下地の動き、気候変化や風、によるルーフィングシート200、201、202、203の動き、また、温度変化や経年劣化によるルーフィングシート200、201、202、203の動き、特に収縮による引っ張り力によって変形する恐れがある。その対策として、鋼板2の継ぎ目A、B1、B2や不足部分を連結材25、26、27で連結しておく。連結材25、26、27は鋼板2と同じ金属材で構成されたもの、もしくは鋼板2よりも曲げや引張強度の高い材料で構成されたものを使用できる。
【0042】
さらに、前記継ぎ目A、B1、B2には後述する樹脂成形シート3との絶縁目的のために継ぎ目をまたぐように目地テープ(図示しない)を貼っておいてもよい。継ぎ目端部まで樹脂成形シート3が鋼板2と一体化した状態では、継ぎ目がゼロスパンとなってしまい、経時変化によって亀裂が発生するおそれがある。目地テープを貼ることで、絶縁部が昼夜や季節による気温差による微細なシートの伸縮での応力集中を緩和できるので樹脂成形シート3の破断防止に効果が期待できる。目地テープは絶縁できるテープ状のものであれは特に指定はしないが、例えばクラフトテープやアルミテープを使用する。また、目地テープの幅も特に指定はしないが10mm~50mm程度が望ましい。
【0043】
樹脂成形シート3は、下側シート部30と、第1縦シート部31及び第2縦シート部32と、上側シート部33とを有しており、下側シート部30、第1縦シート部31、第2縦シート部32及び上側シート部33は一体成形されている。下側シート部30は、鋼板2の下板部20の上面に沿って延びるとともに当該下板部20の上面を被覆する部分であり、当該下板部20の上面に接合されている。第1縦シート部31は、鋼板2の第1縦板部21に沿って延びるとともに当該第1縦板部21を被覆する部分であり、当該第1縦板部21に接合されている。第2縦シート部32は、鋼板2の第2縦板部22に沿って延びるとともに当該第2縦板部22を被覆する部分であり、当該第2縦板部22に接合されている。上側シート部33は、鋼板2の上板部23の上面に沿って延びるとともに当該上板部23の上面を被覆する部分であり、当該上板部23の上面に接合されている。
【0044】
樹脂成形シート3と鋼板2との一体化の方法としては、例えば接着剤を用いた接着などの方法がある。使用可能な接着剤としては、例えば合成ゴム系、エポキシ樹脂系、およびポリウレタン系などを挙げることができ、鋼板2および樹脂成形シート3の材質の種類によっては、接着前の下地処理としてプライマーを塗布してもよい。
【0045】
鋼板2は片面若しくは両面に樹脂を被覆一体化した部材、即ち、樹脂被覆鋼板で構成されていてもよい。特に、樹脂成形シート3が一体化される側がルーフィングシート200、201、202、203と同等の材料であるとよい。樹脂被膜層の厚みは0.1mm以上0.3mm以下が望ましい。同等の材料で被覆されている鋼板2であれば、樹脂成形シート3を一体化する方法として、接着剤を使用する以外にも、溶剤による溶着や熱融着、誘導加熱等による方法を使用できる。
【0046】
次に、入隅角部用役物1を用いた防水施工方法について説明する。施工完了後は、
図3や
図4に示すようになるが、はじめに、平場100aの入隅角部101a及びパラペット101の入隅角部101aの近傍に、ルーフィングシート200、201、202、203を固定するための固定金具(図示せず)をビスやアンカー等の固定部材によって固定する。
【0047】
その後、固定穴21a、22aを利用して入隅角部用役物1を入隅角部101aに固定する。このとき、入隅角部用役物1の下板部20が陸屋根100の平場100aに沿うように配置され、また、入隅角部用役物1の第1縦板部21及び第2縦板部22がパラペット101の内側面101c、100dに沿うように配置され、さらに、入隅角部用役物1の上板部23がパラペット101の天面101bに沿うように配置される。
【0048】
次いで、平場ルーフィングシート200を平場100aに張り込み、平場ルーフィングシート200の周縁部を、平場100aの入隅角部101aの固定金具に固定するとともに、入隅角部用役物1の下部(下板部20及び下側シート部30)に固定する。
【0049】
次に、
図3に示す例では、第1立ち上がりルーフィングシート201をパラペット101の内側面101dに沿うように所定位置に配置する。第1立ち上がりルーフィングシート201の下部を平場ルーフィングシート200の上面に重ねて接合する。第1立ち上がりルーフィングシート201の上部を入隅角部用役物1の上側シート部33の上面に重ねて接合する。さらに、第1立ち上がりルーフィングシート201の上下方向に延びる部分の縁部を、入隅角部用役物1の第2縦シート部32に重ねて接合する。
【0050】
その後、第2立ち上がりルーフィングシート202をパラペット101の内側面101cに沿うように所定位置に配置する。第2立ち上がりルーフィングシート202の下部を平場ルーフィングシート200の上面に重ねて接合する。第2立ち上がりルーフィングシート202の上部を入隅角部用役物1の上側シート部33の上面に重ねて接合する。また、第2立ち上がりルーフィングシート202の上下方向に延びる部分の縁部を、入隅角部用役物1の第1縦シート部31に重ねて接合する。さらに、第2立ち上がりルーフィングシート202の上部を第1立ち上がりルーフィングシート201の上面に重ねて接合する。
【0051】
図4に示す例では、第1立ち上がりルーフィングシート201及び第2立ち上がりルーフィングシート202を敷設した後、第3立ち上がりルーフィングシート203を敷設する。第3立ち上がりルーフィングシート203は、第1立ち上がりルーフィングシート201及び第2立ち上がりルーフィングシート202の上面に重ねて接合する。
【0052】
(実施形態1の作用効果)
以上説明したように、鋼板2が入隅角部101aに対応する形状に予め成形されているので、入隅角部用役物1の形状が所定の形状に保たれる。そして、入隅角部用役物1を現場で入隅角部101aに設置することで、入隅角部101aが入隅角部用役物1によって覆われる。入隅角部101aが入隅角部用役物1によって覆われることにより、現地では、入隅角部101aに沿わせるための防水シートのカットや折り曲げが不要となるため、入隅角部101aでは欠損部がなくなるとともに、漏水の原因となる水道をつぶす箇所が減少する。よって、現地での作業が容易になり、作業者の熟練度が低くても防水性能を損なわない施工が可能になる。
【0053】
また、樹脂成形シート3が鋼板2と一体化されているので、鋼板2を利用することで入隅角部用役物1を下地に対して、例えばビス止め、またはアンカー止めすることができる。さらに、樹脂成形シート3が鋼板2と一体化されているので、入隅角部用役物1の強度が高まる。
【0054】
(実施形態2)
図6~
図11は、本発明の実施形態2に係る入隅角部用役物1を示している。実施形態2は、入隅角部用役物が上下に分割されている点で実施形態1のものとは異なっている。以下、実施形態1と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略し、異なる部分について詳細に説明する。
【0055】
すなわち、
図2に示すパラペット101の高さ寸法Hは、陸屋根100ごとに異なっている場合がある。実施形態1のように、下板部20から上板部23まで一体成形した入隅角部用役物1では、パラペット101の高さ寸法Hが異なると、高さ寸法Hに合わせた入隅角部用役物1を成形すべく、別の金型を用意する必要が生じる。このことに対し、実施形態2の入隅角部用役物1は、
図6及び
図7に示す下側部材35と、
図8及び
図9に示す上側部材60とで構成されており、パラペット101の高さ寸法Hに合わせて下側部材35と上側部材60との間隔を変更できるようになっている。
【0056】
以下、具体的に説明する。
図7に示すように、下側部材35は、入隅角部101aの下側部分に対応する形状に成形され、入隅角部101aの下側部分に固定される下側鋼板40と、下側鋼板40における入隅角部101aへの固定側と反対側の面を覆うように成形され、当該面に一体化された下側樹脂成形シート50とを備えている。下側鋼板40は、下板部41と、下側第1縦板部42及び下側第2縦板部43とを備えている。
【0057】
下板部41は、実施形態1の下板部20と同様に構成されており、第1下板構成部41eと第2下板構成部41fとが下側連結材25によって連結されている。下側第1縦板部42は、下板部41から上方へ延びる平板状をなしており、パラペット101の内側面101cに沿って延びるように形成されている。下側第2縦板部43は、下板部41から上方へ延びる平板状をなしており、パラペット101の内側面101dに沿って延びるように形成されている。下側第1縦板部42及び下側第2縦板部43は、それぞれ、固定穴42a、43aを有している。
【0058】
下側樹脂成形シート50は、下側シート部51と、下側第1縦シート部52及び下側第2縦シート部53とを備えている。下側シート部51は、下側鋼板40の下板部41の上面に沿って延びるとともに当該下板部41の上面を被覆する部分であり、当該下板部41の上面に接合されている。下側第1縦シート部52は、下側鋼板40の下側第1縦板部42に沿って延びるとともに当該下側第1縦板部42を被覆する部分であり、当該下側第1縦板部42に接合されている。下側第2縦シート部53は、下側鋼板40の下側第2縦板部43に沿って延びるとともに当該下側第2縦板部43を被覆する部分であり、当該下側第2縦板部43に接合されている。
【0059】
図9に示すように、上側部材60は、入隅角部101aの上側部分に対応する形状に成形され、入隅角部101aの上側部分に固定される上側鋼板70と、上側鋼板70における入隅角部101aへの固定側と反対側の面を覆うように成形され、当該面に一体化された上側樹脂成形シート80とを備えている。上側鋼板70は、上板部71と、上側第1縦板部72及び上側第2縦板部73とを備えている。
【0060】
上板部71は、実施形態1の上板部23と同様に構成されており、上側第1縦板部72の上端部に一体成形された第1上板構成部71aと、上側第2縦板部73の上端部に一体成形された第2上板構成部71bと、別部材で構成された第3上板構成部71cとが1枚の板をなすように繋ぎ合わされることによって構成されている。第1上板構成部71aと第3上板構成部71cとは、第1上側連結材26によって連結され、また、第2上板構成部71bと第3上板構成部71cとは、第2上側連結材27によって連結されている。
【0061】
上側第1縦板部72は、上板部71から下方へ延びる平板状をなしており、パラペット101の内側面101cに沿って延びるように形成されている。上側第2縦板部73は、上板部71から下方へ延びる平板状をなしており、パラペット101の内側面101dに沿って延びるように形成されている。上側第1縦板部72及び上側第2縦板部73は、それぞれ、固定穴72a、73aを有している。
【0062】
上側樹脂成形シート80は、上側シート部81と、上側第1縦シート部82及び上側第2縦シート部83とを備えている。上側シート部81は、上側鋼板70の上板部71の上面に沿って延びるとともに当該上板部71の上面を被覆する部分であり、当該上板部71の上面に接合されている。上側第1縦シート部82は、上側鋼板70の上側第1縦板部72に沿って延びるとともに当該上側第1縦板部72を被覆する部分であり、当該上側第1縦板部72に接合されている。上側第2縦シート部83は、上側鋼板70の上側第2縦板部73に沿って延びるとともに当該上側第2縦板部73を被覆する部分であり、当該上側第2縦板部73に接合されている。
【0063】
尚、実施形態2の鋼板40、70は、実施形態1の鋼板2と同じ金属材で構成されており、また、実施形態2の樹脂成形シート50、80は、実施形態1の樹脂成形シート3と同じ樹脂材で構成されている。
【0064】
図10は、実施形態2に係る施工例を示している。下側部材35を入隅角部101aの下側部分に固定し、上側部材60を入隅角部101aの上側部分に固定した後、実施形態1と同様に、ルーフィングシート200、201、202を敷設する。上側部材60と下側部材35との連結部分には、ジョイントシート300を用いる。ジョイントシート300は、ルーフィングシート200、201、202と同じ材料で構成されている。ジョイントシート300は施工時に施工してもよいし、予め工場で施工しておいてもよい。パラペット101の高さ寸法Hが短い場合には、下側部材35の上部及び/または上側部材60の下部を切断して上側部材60や下側部材35を短くすることで対応可能である。
【0065】
また、
図11に示すように、下側部材35のみで入隅角部用役物1が構成されていてもよい。この場合、入隅角部101aの上側部分に対しては、第3立ち上がりルーフィングシート203を用いるとともに、別の成形役物204を用いて止水性を確保する。また、図示しないが、上側部材60のみで入隅角部用役物1が構成されていてもよい。
【0066】
(樹脂成形シート3の成形方法)
実施形態1、2の樹脂成形シート3は、射出成形によって成形することができるが、別の成形方法で成形することもできる。すなわち、
図12の(a)に示すように、樹脂成形シート3を展開した形状に裁断された防水シートからなる素材350を用意する。この素材350には、予め切れ目351を入れておく。その後、図に破線Cで示している折り線に従って素材350を折ることで、
図12の(b)に示すように、立体的な形状の樹脂成形シート3を得ることができる。このとき、上側シート部33の一部は欠如しているので、別のシート352を設けて欠如した部分を補うようにする。
【0067】
その後、
図13に示すように、樹脂成形シート3及びシート352を成形用の金型(下金型)360にセットする。このとき、樹脂成形シート3における接合する部分には、紐状に切断した樹脂材353を置いておく。その後、図示しない上金型を樹脂成形シート3の上に置く。金型360は、電熱プレス機または蒸気プレス機に設置されており、加熱、冷却および加圧ができる状態になっている。
【0068】
樹脂成形シート3を構成している樹脂材が軟化・溶融する温度となるまで金型360を加熱することで、予め折り曲げた箇所や、カットした部分が軟化して所定の形状に成形され、カットした部分の継ぎ目は溶融して一体化し、樹脂成形シート3が得られる。成形時、樹脂材353は、カットした部分が溶融し一体化する時の充填材料にもなるため、溶融着がより確実なものとなる。
【0069】
次に、一定時間の加熱および加圧後に、プレス機の熱板(図示せず)に冷却水を循環させ、金型360を冷却することで金型360内部の樹脂成形シート3を冷却する。その後、金型360から樹脂成形シート3を取り出す。なお、樹脂成形シート3は全てを一体成形してもよいし、上側部分のみ成形してもよいし、下側部分のみ成形してもよい。
【0070】
この成形方法は、厚み方向中間部に繊維が設けられた樹脂成形シート3の成形に最適である。また、この成形方法で成形すると、ルーフィングシート200等と全く同じ材料で樹脂成形シート3を成形することができる。
【0071】
(高さ寸法の調整方法)
図14は、入隅角部用役物1の高さ寸法を調整する方法の一例を示すものである。まず、
図14の(a)に示すように、入隅角部用役物1の上下方向中間部の一部を切除する。その後、(b)に示すように、上側部分1Aと下側部分1Bとを焼き継ぎ金型380を用いて、溶融接合する。これにより、(c)に示すように、高さ方向の寸法が短い入隅角部用役物1を得ることができる。また、(d)に示すように、高さ寸法の長い上側部分1Aと下側部分1Bを接合することで、高さ方向の寸法が長い入隅角部用役物1を得ることができる。さらに、(e)に示すように、上下方向中間部に延長部材1Cを設け、延長部材1Cと上側部分1Aとを接合し、延長部材1Cと下側部分1Bとを接合することで、高さ方向の寸法がより一層長い入隅角部用役物1を得ることができる。延長部材1Cの数は1つに限られるものではなく、2つ以上であってもよい。また、長さが異なる複数の延長部材1Cを組み合わせてもよい。
【0072】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。例えば、成形方法や高さ寸法調整のための構造は、実施形態1、2のいずれにも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上説明したように、本開示に係る入隅角部用役物は、建物の屋上防水施工時に利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 入隅角部用役物
2 鋼板
3 樹脂成形シート
100a 入隅角部