IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066018
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】多層成形品
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20240508BHJP
   C08L 81/02 20060101ALI20240508BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20240508BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20240508BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
B32B27/00 A
C08L81/02
C08L77/00
C08L79/08
C08L63/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175197
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鎗水 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】山中 悠司
(72)【発明者】
【氏名】井砂 宏之
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AK28A
4F100AK35A
4F100AK46A
4F100AK53A
4F100AK53B
4F100AK57A
4F100AK57B
4F100AL01A
4F100AL05A
4F100AL05B
4F100AL09A
4F100AL09B
4F100BA02
4F100BA44A
4F100BA44B
4F100DA02
4F100DD07B
4F100EH20
4F100JK04
4F100JK04A
4F100JK06
4F100JK07
4F100JK07A
4F100JK08
4F100JK08A
4F100YY00A
4F100YY00B
4J002AC11X
4J002BP01X
4J002CD19Y
4J002CL01X
4J002CL03X
4J002CM04X
4J002CN011
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】本発明では表面平滑性、層間接着性、耐熱老化性、曲げ加工性に優れる多層成形品を得ることができる。
【解決手段】少なくとも2層の熱可塑性樹脂層からなる多層成形品であり、第1の熱可塑性樹脂の層(i)がポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)からなり、該ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)を成形してなるISO(1A)ダンベルについて、引張伸度が60%以上、170℃×1000hr処理後の引張伸度保持率が50%以上で、および曲げ弾性率が1500MPa以下であり、第2の熱可塑性樹脂の層(ii)がポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(b)からなり、該ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(b)からなるチューブ成形品の内面粗さRaが1.0μm以下であることを特徴とする多層成形品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2層の熱可塑性樹脂層からなる多層成形品であり、第1の熱可塑性樹脂の層(i)がポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)からなり、該ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)を成形してなるISO(1A)ダンベルについて、引張伸度が60%以上、170℃×1000hr処理後の引張伸度保持率が50%以上、および曲げ弾性率が1500MPa以下であり、第2の熱可塑性樹脂の層(ii)がポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(b)からなり、該ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(b)からなるチューブ成形品の内面粗さRaが1.0μm以下であることを特徴とする多層成形品。
【請求項2】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)が、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)アミノ基含有樹脂および(C)エポキシ基を含有するエラストマーを配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)アミノ基含有樹脂、および(C)エポキシ基を含有するエラストマーの合計を100質量%としたとき、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が20質量%以上、60質量%以下であって、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)からなる成形品を透過型電子顕微鏡により観察したときのモルフォロジーにおいて、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を形成し、(B)アミノ基含有樹脂および(C)エポキシ基を含有するエラストマーが分散相を形成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物である請求項1に記載の多層成形品。
【請求項3】
前記(B)アミノ基含有樹脂がポリアミド樹脂である請求項2に記載の多層成形品。
【請求項4】
前記分散相において、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの分散相内にポリアミド樹脂が二次分散相を形成する請求項3に記載の多層成形品。
【請求項5】
前記(B)アミノ基含有樹脂がアミノ基含有ジエン系共重合体である請求項2に記載の多層成形品。
【請求項6】
前記分散相がアミノ基含有ジエン系共重合体と(C)エポキシ基を含有するエラストマーの共連続構造からなる分散相である請求項5に記載の多層成形品
【請求項7】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(b)が、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100質量部に対して(C)エポキシ基を含有するエラストマーを1~20質量部配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物である請求項1に記載の多層成形品。
【請求項8】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(b)が、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(b)からなる成形品を透過型電子顕微鏡により観察したときのモルフォロジーにおいて、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を形成し、(C)エポキシ基を含有するエラストマーが分散相を形成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの分散相の数平均分散粒子径が500nm以下である請求項7に記載の多層成形品。
【請求項9】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)からなる層(i)を最外層とした中空状の多層成形品である請求項1~8のいずれかに記載の多層成形品。
【請求項10】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)およびポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(b)をブロー成形もしくは押出成形する請求項1~8のいずれかに記載の多層成形品の製造方法。
【請求項11】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)からなる層(i)を最外層とし、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)およびポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(b)をブロー成形もしくは押出成形する請求項1~8のいずれかに記載の多層成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層間接着強度、耐熱老化性、曲げ加工性および表面平滑性に優れた多層成形品、および多層成形品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車部品としてエンジンルーム内のダクト、チューブ等の配管類を樹脂化し、軽量化による燃費向上を図る方法が普及しており、主としてポリアミド系材料が用いられている。エンジンルーム内の小スペース化やレイアウト最適化の観点から、従来以上の組付性や振動吸収性が求められており、成形品設計の自由度が高いブロー成形や押出成形などの成形方法と、高柔軟な樹脂とを組み合わせて配管類を設計することが重要となる。加えて配管類と熱源の距離が近づく場合、外部環境温度が高くなる傾向がある。
【0003】
このような背景の下、自動車の配管類に用いる樹脂にはこれまで以上の耐熱性や耐薬品性に加えて、高柔軟性とブロー成形性や押出成形性を満足することが求められる。
【0004】
ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略すことがある)樹脂は、優れた耐熱性、耐薬品性、難燃性、電気絶縁性、耐湿熱性など、エンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有していることから、電気・電子部品、通信機器部品、自動車部品などに幅広く利用されている。一方で、PPS樹脂を上記コンセプトの基、配管類に適用するためには、柔軟性・靱性と、ブロー成形性、押出成形性に劣る課題がある。
【0005】
そこで、PPSとポリアミドからなり耐熱性、耐薬品性に加えて柔軟性を付与した管状成形品が検討されている(例えば特許文献1)
しかし、特許文献1に記載された樹脂組成物からなる管状成形品はエラストマーが配合されていないため柔軟性に劣る。
【0006】
また、PPS、ポリアミド、エポキシ基含有エラストマーからなり、ポリアミドとエポキシ基含有エラストマーを適切に反応させることで、PPS樹脂を連続相としながら柔軟性を付与した樹脂組成物による配管も検討されている(例えば特許文献2)。
【0007】
また、内層に燃料バリヤー性、表面平滑性に優れたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、外層に耐衝撃性と柔軟性に優れたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を配した多層成形品も検討されている(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-31233号公報
【特許文献2】国際公開第2018/3700号
【特許文献3】特開2005-178183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献2に記載された配管は耐熱性、柔軟性に優れるものの、成形時のエラストマーの熱劣化に伴い配管の内面荒れが発生する課題があった。また、特許文献3に記載の多層成形品は、PPS樹脂を積層しているので層間接着強度に優れ、外層に柔軟なPPS樹脂を用いているので曲げ加工性に優れるが、外層のエラストマー配合量が多いため高温環境下では劣化が進行しやすい問題があった。
【0010】
本発明では表面平滑性、層間接着強度、耐熱老化性、および曲げ加工性に優れる多層成形品を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、2層の熱可塑性樹脂層からなる多層成形品であり、第1の熱可塑性樹脂の層が、柔軟性および耐熱性に優れるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる層で、第2の熱可塑性樹脂の層が、表面平滑性に優れるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる層であることを特徴とする多層成形品が目的とする特性を発現することを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の構成を有するものである。
1.少なくとも2層の熱可塑性樹脂層からなる多層成形品であり、第1の熱可塑性樹脂の層(i)がポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)からなり、該ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)を成形してなるISO(1A)ダンベルについて、引張伸度が60%以上、170℃×1000hr処理後の引張伸度保持率が50%以上、および曲げ弾性率が1500MPa以下であり、第2の熱可塑性樹脂の層(ii)がポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(b)からなり、該ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(b)からなるチューブ成形品の内面粗さRaが1.0μm以下であることを特徴とする多層成形品。
2.前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)が、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)アミノ基含有樹脂および(C)エポキシ基を含有するエラストマーを配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)アミノ基含有樹脂、および(C)エポキシ基を含有するエラストマーの合計を100質量%としたとき、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が20質量%以上、60質量%以下であって、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)からなる成形品を透過型電子顕微鏡により観察したときのモルフォロジーにおいて、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を形成し、(B)アミノ基含有樹脂および(C)エポキシ基を含有するエラストマーが分散相を形成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物である1項に記載の多層成形品。
3.前記(B)アミノ基含有樹脂がポリアミド樹脂である2項に記載の多層成形品。
4.前記分散相において、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの分散相内にポリアミド樹脂が二次分散相を形成する3項に記載の多層成形品。
5.前記(B)アミノ基含有樹脂がアミノ基含有ジエン系共重合体である2項に記載の多層成形品。
6.前記分散相がアミノ基含有ジエン系共重合体と(C)エポキシ基を含有するエラストマーの共連続構造からなる分散相である5項に記載の多層成形品
7.前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(b)が、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100質量部に対して(C)エポキシ基を含有するエラストマーを1~20質量部配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物である1項~6項のいずれかに記載の多層成形品。
8.前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(b)が、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(b)からなる成形品を透過型電子顕微鏡により観察したときのモルフォロジーにおいて、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を形成し、(C)エポキシ基を含有するエラストマーが分散相を形成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの分散相の数平均分散粒子径が500nm以下である7項に記載の多層成形品。
9.前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)からなる層(i)を最外層とした中空状の多層成形品である1項~8項のいずれかに記載の多層成形品。
10.前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)およびポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(b)をブロー成形もしくは押出成形する1項~9項に記載の多層成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、表面平滑性、層間剥離強度、耐熱老化性、および曲げ加工性に優れた多層成形品を得ることができる。本発明の多層成形品は、はめ合わせや、折り曲げて使用するチューブ、ホース類、とりわけ高温、振動下で使用される自動車エンジン周りのダクト、ホース等の成形品に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0015】
まず本発明の多層成形品における第1の熱可塑性樹脂の層(i)(以下、層(i)と略すことがある)について説明する。該層(i)は、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)からなる層で、該ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)は、引張伸度が60%以上、170℃×1000hr処理後の引張伸度保持率が50%以上で、かつ曲げ弾性率が1500MPa以下である必要がある。本発明の多層成形品として実用上必要な靱性を得る観点から、引張伸度は70%以上が好ましく、耐熱老化性に優れ、薬品に曝されたことによる劣化後であっても靱性を確保する観点から80%以上がより好ましい。上限値については、高い靭性を得る観点から、引張伸度が高いほど好ましいが、引張伸度が200%を超える場合、柔軟性が高くなりすぎて、多層成形品を高温環境下で使用する場合に形状保持が困難となる場合があるため好ましくない。ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)の引張伸度は、例えばポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)の原料として(C)エポキシ基を含有するエラストマーと(D)官能基を含有しないエラストマーを併用することで調整できる。また、(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーとを適切に反応させることでも調整できる。
【0016】
また、優れた耐熱老化性が発現するという観点から、大気下、温度170℃×1000hrの処理後の引張伸度保持率は60%以上であることが好ましく、70%以上がより好ましい。高い耐熱性を得るという観点から、引張伸度保持率は高ければ高いほど良く、100%を上限として100%に近いほど好ましい。引張伸度保持率は、例えばポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)の原料として(B)アミノ基含有樹脂および(C)エポキシ基を含有するエラストマーを使用し、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)からなる成形品を透過型電子顕微鏡により観察したときのモルフォロジーにおいて、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続層を形成し、(B)アミノ基含有樹脂および(C)エポキシ基を含有するエラストマーが分散相を形成することで、高い引張伸度保持率を得ることが可能である。なお、引張伸度保持率とは、170℃×1000hr耐久処理前の引張伸度に対する170℃×1000hr耐久処理後の引張伸度の比率のことである。
【0017】
柔軟性を得る観点から、曲げ弾性率は1200MPa以下が好ましく、振動吸収性を得る観点から1000MPa以下がより好ましく、特に優れた振動吸収性を得る観点から800MPa以下が特に好ましい。成形品の優れた組み付け性を得る観点から、曲げ弾性率は600MPa以下がさらに好ましい。高い柔軟性を得る観点からは、曲げ弾性率が低いほど好ましいが、成形品の形状保持の観点から、曲げ弾性率は10MPa以上が好ましい。曲げ弾性率が1.0MPaを下回る場合、例えば成形品を高温環境下で使用する場合の変形が大きく、形状保持が困難となるため好ましくない。ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)の曲げ弾性率は、樹脂組成物の構成成分それぞれの曲げ弾性率とその配合量によって調整することができる。
【0018】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)が、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)アミノ基含有樹脂および(C)エポキシ基を含有するエラストマーを配合してなるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂、(B)アミノ基含有樹脂、および(C)エポキシ基を含有するエラストマーの合計を100質量%としたとき、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が20質量%以上、60質量%以下であって、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)からなる成形品を透過型電子顕微鏡により観察したときのモルフォロジーにおいて、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を形成し、(B)アミノ基含有樹脂および(C)エポキシ基を含有するエラストマーが分散相を形成することで、引張伸度60%以上、引張伸度保持率50%以上、および曲げ弾性率1500MPa以下を達成することができる。
【0019】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)に用いられる(A)PPS樹脂とは、下記構造式で示される繰り返し単位を有する重合体である。
【0020】
【化1】
【0021】
(A)PPS樹脂は、耐熱性の観点からは上記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、さらには90モル%以上含む重合体が好ましい。また(A)PPS樹脂は、その繰り返し単位の30モル%以下が、下記式で表される繰り返し単位の内の少なくとも1種で構成されていてもよい。
【0022】
【化2】
【0023】
本発明で用いられる(A)PPS樹脂の溶融粘度に特に制限はないが、より優れた靱性を得る観点から、溶融粘度は高い方が好ましい。例えば、溶融粘度が30Pa・sを超えることが好ましく、50Pa・s以上がより好ましく、100Pa・s以上がさらに好ましい。上限については溶融時における流動性を保持する点から600Pa・s以下であることが好ましい。
【0024】
なお、本発明における(A)PPS樹脂の溶融粘度は、試験温度300℃、滞留時間5分、剪断速度1216/sの条件下、キャピラリーレオメーター(例えば、東洋精機製キャピログラフ(登録商標))を用いて測定した値である。
【0025】
(A)PPS樹脂を製造する方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、特許文献2(国際公開第2018/003700号)に記載の有機極性溶媒中でポリハロゲン化芳香族化合物とスルフィド化剤とを脱塩重縮合する方法や、ジヨードベンゼンと硫黄を用いて溶融条件下で合成する方法などが挙げられる。
【0026】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)に用いられる(B)アミノ基含有樹脂とは、アミノ基を含有する重合体である。アミノ基は、重合体を構成する繰り返し単位に含まれていてもよいし、重合体末端に含まれていてもよい。アミノ基含有樹脂の具体例としては、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルイミドシロキサン共重合体、ポリイミド樹脂などが挙げられる。これらの2種以上を併用してもよい。
【0027】
ポリアミド樹脂(以下、PA樹脂と略すことがある)とは、アミノ酸、ラクタムまたはジアミンとジカルボン酸とを主たる構成単位とする重合体である。
【0028】
ポリアミドの構成単位の代表例としては、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸;ε-アミノカプロラクタム、ω-ラウロラクタムなどのラクタム;テトラメチレンジアミン、ヘキサメレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン、メタキシレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン、2-メチルペンタメチレンジアミンなどのジアミン;およびアジピン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ダイマー酸などのジカルボン酸が挙げられる。
【0029】
本発明において、好ましいポリアミド樹脂としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)およびこれらの混合物ないし共重合体などが挙げられる。
【0030】
中でもより柔軟性を得る観点から、アミド基1個当たりの炭素数が10~16の範囲である構成単位からなるポリアミド樹脂が好適である。かかるポリアミド樹脂としては、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)などが例示できる。
【0031】
ポリアミド樹脂の重合度には特に制限はないが、98%濃硫酸溶液(ポリマー1g、濃硫酸100ml)、25℃で測定した相対粘度が、1.5~7.0の範囲が好ましく、2.0~6.5の範囲がより好ましく、2.5~5.5の範囲がさらに好ましい。
【0032】
また、(B)アミノ基含有樹脂として、アミノ基を含有する熱可塑性エラストマーを用いることもできる。熱可塑性エラストマーの具体例としては、ポリオレフィン系共重合体、ジエン系共重合体、ポリウレタン系共重合体、ポリアミド系共重合体(前述のポリアミド樹脂に相当するものを含まないものとする)、ポリエステル系共重合体などが挙げられる。アミノ基は、熱可塑性エラストマーを構成する繰り返し単位に含まれてもよいし、重合体末端に含まれてもよい。後述する(C)エポキシ基を含有するエラストマーとの反応性や相溶性の観点から、アミノ基含有ジエン系共重合体が好ましい。
【0033】
ここで、ジエン系共重合体とは、1対の共役二重結合を有する共役ジエン化合物を主たる構成単位とする共役ジエン系重合体である。共役ジエン化合物の代表例としては、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1-3ペンタジエン、1,3-ヘキサジエンなどが挙げられる。これらの中でも、入手性および生産性の観点から、好ましくは1,3-ブタジエンおよびイソプレンが挙げられる。ジエン系共重合体は、1種の共役ジエン化合物単位で構成されていてもよいし、2種以上の共役ジエン化合物単位を含んでもよい。ここで、共役ジエン化合物単位とは、モノマーである共役ジエン化合物に由来する構成単位を表す。本発明におけるジエン系共重合体としては、共役ジエン単位の一部もしくはすべてが水添された重合体も含まれるものとする。すなわち、共役ジエン化合物に由来する構造単位が水添された構造を含む重合体もジエン系共重合体に含む。(C)エポキシ基を含有するエラストマーとの反応性や相溶性の観点から、少なくとも一部に共役二重結合を有する重合体が好ましい。
【0034】
また、アミノ基含有ジエン系共重合体は、共役ジエン化合物単位以外の構成単位を含んでもよい。アミノ基含有ジエン系共重合体は、ビニル芳香族重合体ブロック、共役ジエン重合体ブロック、および共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物とのランダム共重合体ブロックからなる群より選ばれる2種以上の重合体ブロックを有するブロック共重合体であることが好ましい。
【0035】
前記ビニル芳香族重合体ブロックを構成するビニル芳香族化合物としては、限定されるものではないが、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルエチレン、N,N-ジメチル-p-アミノエチルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン等のビニル芳香族化合物が挙げられる。これらの中でも、入手性および生産性の観点から、好ましくはスチレンである。ビニル芳香族重合体ブロックは、1種のビニル芳香族単量体単位で構成されていてもよいし、2種以上のビニル芳香族単量体単位から構成されていてもよい。
【0036】
前記共役ジエン重合体ブロックを構成する共役ジエン化合物としては、限定されるものではないが、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1-3ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられる。これらの中でも、入手性および生産性の観点から、好ましくは1,3-ブタジエンおよびイソプレンが挙げられる。共役ジエン重合体ブロックは、1種の共役ジエン単量体単位で構成されていてもよいし、2種以上の共役ジエン単量体単位から構成されていてもよい。上記の通り、共役ジエン単位の一部もしくはすべてが水添されていてもよいが、(C)エポキシ基を含有するエラストマーとの反応性や相溶性の観点から、共役ジエン重合体ブロックの少なくとも一部に共役二重結合を有することが好ましい。
【0037】
前記共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物とのランダム共重合体ブロックを構成する共役ジエン化合物およびビニル芳香族化合物としては、前記ビニル芳香族重合体ブロックおよび共役ジエン重合体ブロックに用いることができる化合物として例示したものを用いることができる。
【0038】
本発明に用いる(C)エポキシ基を含有するエラストマーとは、具体的にはエポキシ基を含有する熱可塑性エラストマーのことを言う。熱可塑性エラストマーの具体例としては、ポリオレフィン系共重合体、ジエン系共重合体、ポリウレタン系共重合体、ポリアミド系共重合体、ポリエステル系共重合体などが挙げられる。
【0039】
エポキシ基を含有するポリオレフィン系共重合体としては、側鎖にグリシジルエステル、グリシジルエーテル、グリシジルジアミンなどのエポキシ基を有するモノマーが共重合されたオレフィン系共重合体や、二重結合を有するオレフィン系共重合体の二重結合部分を、エポキシ酸化したものなどが挙げられる。中でもエポキシ基を有するモノマーが共重合されたオレフィン系共重合体が好適であり、特にα-オレフィンおよびα,β-不飽和酸のグリシジルエステルを主構成成分とするオレフィン系共重合体(C1)(以下、エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体(C1)と略すことがある)が好適に用いられる。
【0040】
α-オレフィンの具体例としては、エチレン、プロピレン、ブテン-1、4-メチルペンテン-1、ヘキセン-1、デセン-1、オクテン-1などが挙げられ、中でもエチレンが好ましく用いられる。またこれらは2種以上を同時に使用することもできる。
【0041】
一方、α,β-不飽和酸のグリシジルエステルとは、下記一般式(3)で示される化合物であり、一般式(3)中、Rは水素原子または炭素数1~5のアルキル基である。
【0042】
【化3】
【0043】
上記の一般式(3)で表されるα,β-不飽和酸のグリシジルエステルとしては、具体的にはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジルなどが挙げられ、中でもメタクリル酸グリシジルが好ましく用いられる。
【0044】
α-オレフィンおよびα,β-不飽和酸のグリシジルエステルを主構成成分とするオレフィン系共重合体(C1)は、上記α-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステルとのランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体いずれの共重合様式であってもよい。
【0045】
本発明において(C)エポキシ基を含有するエラストマーとして、α-オレフィンおよびα,β-不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構造に加え、さらに下記一般式(4)で示される単量体に由来する構造を必須成分とするエポキシ基含有オレフィン系共重合体(C2)(以下、エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体(C2)と略すことがある)もまた、好適に用いられる。
【0046】
【化4】
【0047】
上記一般式(4)において、Rは水素または炭素数1~5のアルキル基を示し、Xは-COOR基、-CN基および芳香族基から選ばれた基、Rは炭素数1~10のアルキル基を示す。
【0048】
エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体(C2)に用いられるα-オレフィンおよびα,β-不飽和酸のグリシジルエステルの詳細は、上述したエポキシ基を含有するオレフィン系重合体(C1)に用いられるα-オレフィンおよびα,β-不飽和酸のグリシジルエステルと同様である。
【0049】
一般式(4)で示される単量体の具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸イソブチルなどのα,β-不飽和カルボン酸アルキルエステル;アクリロニトリル、スチレン、α-メチルスチレン、芳香環がアルキル基で置換されたスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、などが挙げられる。これらは2種以上を同時に使用することもできる。
【0050】
エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体(C2)は、α-オレフィンに由来する構造と、一般式(3)に示すα,β-不飽和酸のグリシジルエステルに由来する構造と、一般式(4)に示す単量体に由来する構造とのランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、およびそれらの共重合体が共重合された共重合体のいずれの共重合様式であってもよい。例えばα-オレフィンと一般式(3)に示すα,β-不飽和酸のグリシジルエステルのランダム共重合体に対し、一般式(4)に示す単量体がグラフト共重合したような、2種以上の共重合様式が組み合わされた共重合体であってもよい。
【0051】
エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体(C1)を構成する各成分の共重合割合は、目的とする効果への影響、重合性、ゲル化、耐熱性、流動性、強度への影響などの観点から、α-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステルの合計量を100質量%として、α-オレフィン/α,β-不飽和酸のグリシジルエステル=60/40~99/1(質量比)の範囲が好ましく選択される。α,β-不飽和酸のグリシジルエステルの共重合量は、3質量%以上が好ましく、特に5質量%以上が好ましい。また、α,β-不飽和酸のグリシジルエステルの共重合量の上限値は、分子鎖のからみ合いを低減し、PPS樹脂組成物が優れた溶融時の靱性を得る観点から40質量%以下が好ましく、15質量%以下がさらに好ましく、10質量%以下が特に好ましい。また、エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体(C2)において、α-オレフィンおよびα,β-不飽和酸のグリシジルエステルの共重合割合は、エポキシ基を含有するオレフィン系共重合体(C1)と同様である。一般式(4)で示される単量体の共重合割合は、α-オレフィン、α,β-不飽和酸のグリシジルエステルおよび一般式(4)で示される単量体の合計量を100質量%として、α-オレフィンとα,β-不飽和酸のグリシジルエステルの合計量を95質量%~40質量%、一般式(4)で示される単量体を5質量%~60質量%の範囲が好ましく選択される。
【0052】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)中の(C)エポキシ基を含有するエラストマーの配合量は、該エラストマーを構成する各成分の共重合量によるため、一概には規定できないが、(A)PPS樹脂、(B)アミノ基含有樹脂、および(C)エポキシ基を含有するエラストマーの合計を100質量%としたとき、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの配合量は20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましい。(C)エポキシ基を含有するエラストマーの配合量を20質量%以上とすることで、十分な柔軟性を得られ、所望の相構造を得ることができる。また、配合量の上限値としては70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、適度な粘度を得る観点から、50質量%以下が特に好ましい。(C)エポキシ基を含有するエラストマーの配合量を70質量%以下とすることで、顕著な高粘度化により過度なせん断発熱が生じポリマーの熱分解が生じることを抑制する。
【0053】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)は、(B)アミノ基含有樹脂、および(C)エポキシ基を含有するエラストマーと共に(D)官能基を含有しないエラストマーを配合することにより、より優れた靱性、柔軟性を得ることができるため、好ましい。(D)官能基を含有しないエラストマーの具体例としては、ポリオレフィン系共重合体、ジエン系共重合体、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムなどが挙げられる。
【0054】
ポリオレフィン系共重合体の具体例としては、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、ポリブテン、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体などが挙げられる。中でもエチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体が特に好ましい。(D)官能基を含有しないエラストマーは、2種以上を併用して用いてもよい。
【0055】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)中の(D)官能基を含有しないエラストマーの配合量は、優れた靱性および柔軟性を発現させる観点から、(A)PPS樹脂100質量部に対し、(B)アミノ基含有樹脂、(C)エポキシ基を含有するエラストマー、および(D)官能基を含有しないエラストマーの合計配合量が1質量部以上、200質量部以下の範囲が好ましい。(B)アミノ基含有樹脂、(C)エポキシ基を含有するエラストマー、および(D)官能基を含有しないエラストマーの合計配合量が1質量部以上の場合、靭性および柔軟性に優れる。前記合計配合量を200質量部以下とすることで、増粘を抑制し、ゲル化物の形成を抑制できるため、靱性の低下が発生せず好ましい。前記合計配合量の下限値は、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは30質量部以上、成形品の組み付け性を得る観点から特に好ましくは50質量部以上、70質量部以上が殊さらに好ましい。前記合計配合量の上限値は150質量部以下がより好ましく、さらに好ましくは140質量部以下、耐熱性と耐薬品性を得る観点から特に好ましくは130質量部以下、120質量部以下が殊さらに好ましい。
【0056】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)は、(A)PPS樹脂、(B)アミノ基含有樹脂、(C)エポキシ基を含有するエラストマー、および(D)官能基を含有しないエラストマーの合計を100質量%とした場合、(C)成分および(D)成分(以下、全エラストマーと記載する場合がある)の合計配合量(単位:質量%)を特定の範囲とすることで、飛躍的に柔軟性を向上させることができる。具体的には、全エラストマーの合計配合量は70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、成形性の観点から、55質量%以下であることがさらに好ましい。また、全エラストマーの合計配合量の下限は、柔軟性を得る観点から、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上が特に好ましい。
【0057】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)中において、(C)エポキシ基を含有するエラストマーと(D)官能基を含有しないエラストマーの配合比を特定の範囲とすることで、優れた柔軟性を維持しつつ靭性を向上させることができるので好ましい。この指標として、エポキシ基含有エラストマー比を用いる。ここで、エポキシ基含有エラストマー比とは、(A)PPS樹脂100質量部に対する(C)エポキシ基を含有するエラストマーの質量部をC、(A)PPS樹脂100質量部に対する(D)官能基を含有しないエラストマーの質量部をDとした時、C/(C+D)で求められる値と定義する。エポキシ基含有エラストマー比は、0.5以上1.0以下が好ましく、0.7以上1.0以下がより好ましい。エポキシ基含有エラストマー比がこのような範囲にある場合、(C)エポキシ基を含有するエラストマーと(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が十分に反応し、(C)エポキシ基を含有するエラストマーおよび(D)官能基を含有しないエラストマーの分散性が向上することで、優れた靭性が発現するとともに、(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーが十分に反応し、高粘度化することで、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を形成しやすくなる結果、優れた耐熱性および耐薬品性が発現する傾向にある。
【0058】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)では、(X)カルボン酸および酸無水物から選択される少なくとも1種の分子量1000以下の化合物(以下(X)成分と略すことがある)を添加してもよい。本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)に、(X)成分を添加することで、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの残存するエポキシ基の反応性と(B)アミノ基含有樹脂の反応性を調整し、(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーの適切な反応性を維持しながら、滞留増粘を抑制することで、優れたレオロジー特性および成形加工性が得られる。
【0059】
(X)成分を、(A)PPS樹脂、(B)アミノ基含有樹脂および(C)エポキシ基を含有するエラストマーと効率よく反応させる観点から、(X)成分の分子量は1000以下であることが好ましく、500以下がより好ましい。分子量の下限は、化学的・物理的な安定性の面から100以上が好ましい。
【0060】
上記効果を奏するならば、(X)成分の構造は制限しないが、化学的・物理的な安定性の面から、芳香環を含有する化合物であることが好ましい。特に(A)PPS樹脂の反応性基と、(B)アミノ基含有樹脂と、(C)エポキシ基を含有するエラストマーのエポキシ基の反応性を好ましく調整する観点から、テトラカルボン酸およびテトラカルボン酸二無水物から選択される少なくとも1種化合物であることが好ましい。さらにテトラカルボン酸は、分子内で脱水縮合してテトラカルボン酸二無水物が生じ得る構造であることが好ましい。これらの化合物は1種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。またテトラカルボン酸は、その一部が分子内で脱水縮合したテトラカルボン酸二無水物であってもよく、これらを併用してもよい。
【0061】
(X)成分の具体例としては、工業的入手性やコストの観点からピロメリット酸二無水物またはピロメリット酸が好ましい。
【0062】
(X)成分の配合量は、用いる(X)成分の種類と、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの種類や量に依るため一概には規定できないが、(A)PPS樹脂100質量部に対し、0.01質量部以上、3質量部以下添加することが好ましく、優れた成形加工性を得る観点から0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましい。配合量の上限としては、優れた耐熱性と耐薬品性を得る観点から2質量部以下が好ましい。
【0063】
本発明の多層成形品に用いられるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)からなる成形品を透過型電子顕微鏡により観察したときのモルフォロジーについて、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を形成し、(B)アミノ基含有樹脂および(C)エポキシ基を含有するエラストマーが分散相を形成することが好ましい。ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)中の(A)PPS樹脂の配合量が、(A)PPS樹脂、(B)アミノ基含有樹脂、および(C)エポキシ基を含有するエラストマーの合計配合量を100質量%としたとき、20質量%以上60質量%以下という比較的少ない配合量であるにもかかわらず、(A)PPS樹脂が連続相となることで、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)は、高柔軟性かつ高靭性であるのみならず、PPS樹脂に由来する優れた耐熱老化性や耐薬品性などを発現することが可能となる。ここで、「(B)アミノ基含有樹脂および(C)エポキシ基を含有するエラストマーが分散相を形成する」とは、一つの分散相中に(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーとを共に含む分散相を形成することを表している。一つの分散相中に(B)成分と(C)成分とを共に含んでいれば、それ以外の成分が含まれていてもよく、例えば(B)成分と(C)成分とが反応した反応物が含まれていてもよいし、(A)成分が一部含まれていてもよい。また、(B)成分と(C)成分とを共に含む分散相が存在すれば、(B)成分のみの分散相がさらに存在していてもよいし、(C)成分のみの分散相がさらに存在していてもよい。さらに、分散相の中は(B)成分と(C)成分の共連続構造であってもよい。また、(C)エポキシ基を含有するエラストマーが分散相を形成し、その中に(B)アミノ基含有樹脂が二次分散相を形成している構造や、(B)アミノ基含有樹脂の分散相の中に(C)エポキシ基を含有するエラストマーが二次分散相を形成する構造であってもよい。
【0064】
このような相構造を形成するためには、(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーとを適切に反応させる必要がある。この反応を経ることで、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)中の、(A)PPS樹脂の溶融粘度に対して、(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーが反応した成分の溶融粘度が大きくなる。それによって、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)中の(A)PPS樹脂の質量分率が少ない場合でも、(A)PPS樹脂を連続相とすることが可能となる。
【0065】
より優れた耐熱老化性および靱性を得る観点から、(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーとが一つの分散相中に含まれていることが好ましい。このような相構造を形成するためには、(B)アミノ基含有樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーの相溶性を高めることが重要である。
【0066】
(B)アミノ基含有樹脂にポリアミド樹脂を用いた場合、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの分散相中にポリアミド樹脂が二次分散相を形成する構造であることが好ましい。このような分散構造を有することにより、ポリアミド樹脂に由来する耐薬品性低下の顕在化を抑制し、優れた耐薬品性が得られやすい。(B)アミノ基含有樹脂として、アミド基1個当たりの炭素数が10~16の範囲である構成単位からなるポリアミド樹脂を用い、(C)エポキシ基を含有するエラストマーとして、エポキシ基を含有するポリオレフィン系共重合体を用いることで上記のような分散構造を形成しやすくなる。
【0067】
また、(B)アミノ基含有樹脂として、アミノ基含有ジエン系共重合体を用いた場合、(C)エポキシ基を含有するエラストマーとアミノ基含有ジエン系共重合体の共連続構造からなる分散相であることが好ましい。このような分散構造を有することで、特に優れた柔軟性および靱性を得ることができる。(B)アミノ基含有樹脂として、ビニル芳香族重合体ブロックおよび共役ジエン重合体ブロックを含むアミノ基含有ジエン系共重合体を用い、(C)エポキシ基を含有するエラストマーとして、エポキシ基を含有するポリオレフィン系共重合体を用いることで、相溶性が特に優れ、上記のような分散構造を形成しやすくなる。
【0068】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)のモルフォロジーの観察は、以下の方法で行う。ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)のペレット、ブロー成形品、射出成形品などから、ウルトラミクロトームを用いて超薄切片を切り出し、その超薄切片について、四酸化ルテニウム等で染色を行ったサンプルと、無染色のサンプルを、透過型電子顕微鏡にて5000~10000倍の倍率にて観察する。分散相を構成する成分の同定は、無染色時の相のコントラスト差と、四酸化ルテニウム等で染色を行った際の相のコントラスト差を比較することで決定することができる。
【0069】
次に第2の熱可塑性樹脂の層(ii)(以下、層(ii)と略すことがある)について説明する。
【0070】
本発明の多層成形品における層(ii)はポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(b)からなる層である。ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(b)からなるチューブ成形品の内面粗さRaは、1.0μm以下であることを要する。内面粗さが1.0μmを超える場合、チューブ等の中空成形品として用いる際、他の部材との接続時に隙間が発生してしまう恐れがあるため好ましくない。なお、本発明におけるチューブ成形品の内面粗さは、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(b)を、真空水槽を具備した押出成形機により、シリンダー温度300℃、任意のスクリュー回転数の条件で、外径18mm、長さ100mmのチューブ成形品を成形し、得られたチューブ成形品を切り出して、チューブ成形品の内面を測定した値である。なお、チューブ成形品の内面粗さの測定は、東京精密製表面粗さ形状測定機を用いて、評価長さ20mm、評価速度0.6mm/sの条件で行った。
【0071】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(b)からなるチューブ成形品の内面粗さRaは、該ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(b)の組成を調整することにより調整することができ、たとえば、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂100質量部に対して(C)エポキシ基を含有するエラストマーを1~20質量部の範囲で配合することで、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの分散系が500nm以下となり、内面粗さRaが1.0μm以下とすることができる。
【0072】
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(b)に用いるポリフェニレンスルフィド樹脂としては、前述したPPS樹脂組成物(a)に用いられる(A)PPS樹脂と同様であることが適当であるが、PPS樹脂組成物(a)に用いられる(A)PPS樹脂と分子量や化学構造が同一である必要はない。
【0073】
また、前記PPS樹脂組成物(b)には、PPS樹脂組成物(b)の溶融張力を向上する観点から(C)エポキシ基を含有するエラストマーを配合することが好ましい。(A)PPS樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーが反応しPPS樹脂組成物(b)の溶融張力が向上することでチューブ成形性が向上する。また、(A)PPS樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーが適度に反応し(A)PPS樹脂中に(C)エポキシ基を含有するエラストマーが微分散となることでチューブの内面平滑性に優れる。
【0074】
また、前記樹脂組成物(b)は必要に応じて、未変性のポリオレフィン系エラストマーを含有していてもよい。
【0075】
(C)エポキシ基を含有するエラストマーの配合量としては特に制限されるものではないが、溶融張力とチューブ成形品の内面平滑性のバランスの観点から、(A)PPS樹脂100質量部に対して(C)エポキシ基を含有するエラストマーが1~20質量部であることが好ましい。
【0076】
本発明の多層成形品に用いられるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(b)からなる成形品を透過型電子顕微鏡により観察したときのモルフォロジーについて、(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂が連続相を形成し、(C)エポキシ基を含有するエラストマーが分散相を形成するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、(C)エポキシ基を含有するエラストマーの分散相の数平均分散粒子径が500nm以下であることが好ましい。(C)エポキシ基を含有するエラストマーの数平均分散粒子径は成形品の表面平滑性の観点から300nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、その下限は5nmである。このような分散径を得るためには(A)ポリフェニレンスルフィド樹脂と(C)エポキシ基を含有するエラストマーを適切に反応させることが有効である。
【0077】
なお、これらの相分離構造における分散相の数平均分散粒子径は、以下の方法により求めることができる。ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物のペレット、ブロー成形品、射出成形品などから、ウルトラミクロトームを用いて超薄切片を切り出し、その超薄切片について、四酸化ルテニウム等で染色を行ったサンプルと、無染色のサンプルを、透過型電子顕微鏡にて5000~10000倍の倍率にて観察し、任意の異なる分散相を10個選び、それぞれの分散相について長径および短径を求めて平均値を取り、それらの平均値を数平均値として算出することができる。分散相を構成する成分の同定は、無染色時の相のコントラスト差と、四酸化ルテニウム等で染色を行った際の相のコントラスト差を比較することで決定することができる。
【0078】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)およびポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(b)の製造方法については、特に制限は無く、単軸または二軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、およびミキシングロールなど公知の溶融混練機に原料を供給し、樹脂温度が(A)PPS樹脂の融解ピーク温度+5℃~100℃になるように溶融混練する方法などを代表例として挙げることができる。中でも二軸押出機による溶融混練が好ましい。
【0079】
また、本発明で用いるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)およびポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(b)の溶融粘度としては、特に限定されるものではないが、押出成形時の溶融樹脂の引き取り性の観点から、500Pa・sを超える範囲が好ましく、700Pa・s以上がより好ましい。上限については溶融流動性保持の点から3000Pa・s以下であることが好ましく、溶融時の靱性を向上させて成形加工性を得る観点から2500Pa・s以下が好ましい。溶融粘度が500Pa・sを下回る場合は、押出成形が困難となるため好ましくない。
【0080】
なお、本発明におけるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の溶融粘度は、試験温度300℃、せん断速度122/s条件下で、東洋精機製キャピログラフを用いて測定した値
である。
【0081】
多層成形品の形状については特に限定されないが、管状の成形品であることが好ましい。その層構成についても特に限定されないが、柔軟性に優れた構造となる観点から、層(i)が外側、層(ii)が内側にすることが好ましい。3層以上の層構成になる場合には、中間層としてポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)およびポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(b)から選択されるいずれかの層があってもよい。積層の数については2層以上であり、当然4層以上でもよい。また、最外層はポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(a)からなる層(i)であることが好ましい。
【0082】
本発明の多層成形品は押出成形、ブロー成形、射出成形などの各種方法で成形できる。
【0083】
本発明の多層成形品は特に管状の成形品として有用に用いることができる。中でも、ハイブリッド自動車や電気自動車、鉄道、発電設備のモーターコイル用巻線の被覆成形体や、高温環境下に晒される自動車の燃料関係・排気系・吸気系、冷却系の各種パイプ、ダクト、チューブや、ガス給湯器やヒートポンプ式給湯器、温水暖房機等に用いられる配管として有用である。特に、本発明の多層成形品は、ポリアミド樹脂に比較して耐薬品性に優れるため、自動車のエンジンやモーターの冷却に用いられるエチレングリコールを主成分とした自動車用冷却水に触れる配管として用いるのにも有用である。
【実施例0084】
以下、実施例を挙げて本発明の効果をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものでは無い。本発明における評価は、次の方法により行った。
【0085】
(1)射出成形
住友重機械製射出成形機SE75-DUZを用い、シリンダー温度を310℃とし、金型温度140℃として、ISO(1A)ダンベル試験片を射出成形した。
【0086】
(2)初期の機械特性
(1)項で射出成形したISO(1A)ダンベル試験片について、温度23℃条件下、テンシロンUTA2.5T引張試験機を用い、ISO527-1,-2(2012)に従い、支点間距離114mm、引張速度50mm/minの条件で引張特性(引張伸度)を評価した。次いで、ISO178(2010)に従い、支点間距離64mm、速度2mm/minの条件で曲げ特性(曲げ弾性率)を評価した。
【0087】
(3)170℃×1000hr耐久処理後の機械特性(耐熱老化性)
(1)項で射出成形したISO(1A)ダンベル試験片を、温度170℃に加熱したエスペック製PHH202熱風乾燥機中にて1000hr耐久処理した後、室温で24hr放冷した。
【0088】
次いで、23℃条件下、テンシロンUTA2.5T引張試験機を用い、ISO527-1,-2(2012)に従い、支点間距離114mm、引張速度50mm/minの条件で、前記耐久処理後のダンベル試験片の引張特性(引張伸度)を評価した。初期の引張伸度に対する170℃×1000hr耐久処理後の引張伸度の比率を引張伸度保持率(%)とした。
【0089】
(4)相構造の観察
(1)項で射出成形したISO(1A)ダンベル試験片の中央部を樹脂の流れ方向に対して垂直方向に切断し、-20℃に冷却して、その断面の中心部から厚さ0.1μm以下の薄片をウルトラミクロトームを用いて切削した。その後、四酸化ルテニウムにより染色したサンプルと無染色のサンプルを調製した。日立製作所製H-7100型透過型電子顕微鏡(分解能(粒子像)0.38nm、倍率50~60万倍)を用いて、1000~10000倍に拡大してこれらのサンプルの写真撮影を行った。なお、分散相を構成する成分の同定は、無染色のサンプルの相のコントラスト差と、四酸化ルテニウム染色されたサンプルの相のコントラスト差を比較することで決定した。
【0090】
(5)溶融粘度測定
東洋精機製キャピログラフ(登録商標)を用いて試験温度300℃で5分滞留後、せん断速度122/s、キャピラリー長10mm、キャピラリー径1mmの条件下でポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の溶融粘度を測定した。
【0091】
(6)チューブ成形品(押出成形品)の内面粗さ
後述の多層チューブ製造方法で得られたチューブ成形品について、チューブ成形品の内面を切り出して、東京精密製表面粗さ形状測定機を用いて、評価長さ20mm、評価速度0.6mm/sの条件で、Ra(算術平均粗さ)を測定した。実施例および比較例に記載のチューブは以下の基準で評価した。
○:Raが1μm以下である。
×:Raが1μmを超える。
【0092】
(7)層間接着性
後述の多層チューブ製造方法で得られたチューブ成形品を切ることにより、短冊状の試験片(幅:5mm、長さ:110mm以上)を得た。次に、カッターで試験片の端から長さ方向に30mm程度剥離できるか否かを確認し、以下基準で評価した。
○:剥離できなかった
×:剥離できた
【0093】
(8)長期耐熱性
後述の多層チューブ製造方法で得られたチューブ成形品について以下の条件で処理を行った。
条件1:成形後、室温で放冷した。
条件2:成形後、170℃に加熱したエスペック製PHH202熱風乾燥機中にて1000hr処理した後、室温で24hr放冷した。
【0094】
その後、各条件で得たチューブ成形品について、オートグラフ試験機を用いて、治具で固定したニップルに、チューブ成形品を上から500mm/minの速度で15mm押し込み、チューブ成形品のひび割れの有無を確認し、以下の通り評価した。
○:全ての条件でひび割れなく挿入できた。
×:条件1でひび割れなく挿入できたが、条件2でひび割れが生じた。
【0095】
(9)曲げ加工性
後述の多層チューブ製造方法で得られたチューブ成形品について、260℃で2時間予熱した後に、曲率半径55mm、角度90°となるように曲げ加工用の治具にはめ込んで曲げ加工を行い以下の通り評価した。ポリアミド単層のチューブについては200℃で2時間予熱後に曲げ加工を行った。
○:治具にはめ込むことができた。
×:治具にはめ込むことができなかった。
【0096】
各実施例および比較例に用いた原材料について、以下に示す。
【0097】
[参考例1](A)PPS樹脂:A-1
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.94kg(70.63モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)、酢酸ナトリウム1.89kg(23.1モル)、及びイオン交換水5.50kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水9.77kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0098】
その後200℃まで冷却し、p-ジクロロベンゼン10.42kg(70.86モル)、NMP9.37kg(94.50モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温し、270℃で140分反応した。その後、270℃から250℃まで15分かけて冷却しながら水2.40kg(133モル)を圧入した。ついで250℃から220℃まで75分かけて徐々に冷却した後、室温近傍まで急冷し内容物を取り出した。
【0099】
内容物を約35リットルのNMPで希釈しスラリーとして85℃で30分撹拌後、80メッシュ金網(目開き0.175mm)で濾別して固形物を得た。得られた固形物を同様にNMP約35リットルで洗浄濾別した。得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収する操作を合計3回繰り返した。得られた固形物および酢酸32gを70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過し、更に得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収した。このようにして得られた固形物を窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPSを得た。このような方法で製造されたPPS樹脂をA-1とした。また、東洋精機製キャピログラフ(登録商標)を用いて試験温度300℃で5分滞留後、せん断速度1216/s、キャピラリー長10mm、キャピラリー径1mmの条件下で求めた溶融粘度は100Pa・sであった。
【0100】
[参考例2](A)PPS樹脂:A-2
撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.94kg(70.63モル)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)、酢酸ナトリウム2.24kg(27.3モル)、及びイオン交換水5.50kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水9.77kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0101】
その後200℃まで冷却し、p-ジクロロベンゼン10.32kg(70.20モル)、NMP9.37kg(94.50モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.8℃/分の速度で200℃から235℃まで昇温し、235℃で40分反応した。その後0.8℃/分の速度で270℃まで昇温し、270℃で70分反応した後、270℃から250℃まで15分かけて冷却しながら水2.40kg(133モル)を圧入した。ついで250℃から220℃まで75分かけて徐々に冷却した後、室温近傍まで急冷し内容物を取り出した。
【0102】
内容物を約35リットルのNMPで希釈しスラリーとして85℃で30分撹拌後、80メッシュ金網(目開き0.175mm)で濾別して固形物を得た。得られた固形物を同様にNMP約35リットルで洗浄濾別した。得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収する操作を合計3回繰り返した。得られた固形物および酢酸32gを70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過し、更に得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収した。このようにして得られた固形物を窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPSを得た。このような方法で製造されたPPS樹脂をA-2とした。また、東洋精機製キャピログラフ(登録商標)を用いて試験温度300℃で5分滞留後、せん断速度1216/s、キャピラリー長10mm、キャピラリー径1mmの条件下で求めた溶融粘度は170Pa・sであった。
【0103】
(B)アミノ基含有樹脂
B-1:相対粘度(98%濃硫酸溶液(ポリマー1g、濃硫酸100ml)、25℃で測定した。)が2.7のナイロン610(東レ製“アミラン”)を用いた。
B-2:アミン変性スチレン-ブチレン/ブタジエン-スチレンブロック共重合体(スチレン系熱可塑性エラストマー旭化成製“タフテック(登録商標)”MP10)を用いた。
【0104】
(C):エポキシ基を含有するエラストマー
C-1:グリシジルメタクリレート共重合量が12質量%のエチレン・グリシジルメタクリレート共重合体(住友化学製“ボンドファースト”E)を用いた。
C-2:グリシジルメタクリレート共重合量が6質量%のエチレン・グリシジルメタクリレート共重合体(住友化学製“ボンドファースト”7M)を用いた。
【0105】
(C’):エポキシ基以外の官能基を含有するエラストマー
C’-1:無水マレイン酸変性エチレン-ブテン共重合体(三井化学製“タフマー”MH-7020)を用いた。
【0106】
(D)官能基を含有しないエラストマー
D-1:エチレン・1-ブテン共重合体(三井化学製“タフマー”A4085S)を用いた。
D-2:エチレン・1-ブテン共重合体(三井化学製“タフマー”A0550S)を用いた。
【0107】
(X)テトラカルボン酸およびテトラカルボン酸二無水物から選択される少なくとも1種の化合物
X-1:ピロメリット酸(東京化成製)を用いた。
【0108】
(PA)ポリアミド樹脂
PA1:市販のナイロン12(アルケマ製“リルサミド”AESNOTL:曲げ弾性率1500MPa)を用いた。
【0109】
PPS樹脂組成物(PPS1~6)の調製
表1に示す割合で各原料をドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45、ニーディング部3カ所、切り欠き部を有するスクリューの割合0%))へ全ての原料を一括で元込めから投入し、シリンダー温度230~300℃、スクリュー回転数300rpmにて溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。その後、120℃で一晩乾燥したペレットを前述した方法で各種特性評価を行った後、後述のチューブ製造方法で単層チューブを作製し、(6)チューブ成形品(押出成形品)の内面粗さと同様の方法で、単層チューブの内面の評価を行った。
【0110】
【表1】
【0111】
チューブ成形品の作製
[PPS1~6、実施例1~2、比較例1~4]
3つの可塑化シリンダーを有し、ダイの部分で各々のシリンダーで可塑化された樹脂を1つの3層チューブに合一化させるチューブ用ダイを有する3層押出成形装置を用いて、表1および2の材料を用いて、表1および2のシリンダー温度、引取速度5m/minの条件で、スクリュー回転数を任意に調節して共押出し、外径18mm、肉厚1mmの単層チューブ成形品および多層チューブ成形品を成形した。
【0112】
【表2】
【0113】
本発明の多層成形品である実施例1、2では層間接着性、長期耐熱性、曲げ加工性、チューブ成形品の内面平滑性に優れていることを確認した。
【0114】
PA単層である比較例3では長期耐熱性が劣り、特許文献1に記載のPPS樹脂組成物単層の比較例2では長期耐熱性に優れるものの柔軟性が足りなかった。内層にチューブ成形品の内面平滑性に優れるPPS樹脂組成物、外層に柔軟性を付与したPPS樹脂組成物を用いた比較例1では、曲げ加工性およびチューブ成形品の内面平滑性に優れるが、外層を構成するPPS樹脂組成物のモルフォロジーがPPSとエラストマーの共連続構造を形成するため長期耐熱性が悪かった。PPS樹脂組成物単層で柔軟性と耐熱性を改良した比較例4では長期耐熱性、柔軟性に優れるものの柔軟成分を多く配合した結果、チューブ成形品の内面に荒れが発生した。