IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JFEエンジニアリング株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-アンモニア蒸発ガス除害装置 図1
  • 特開-アンモニア蒸発ガス除害装置 図2
  • 特開-アンモニア蒸発ガス除害装置 図3
  • 特開-アンモニア蒸発ガス除害装置 図4
  • 特開-アンモニア蒸発ガス除害装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066025
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】アンモニア蒸発ガス除害装置
(51)【国際特許分類】
   F17C 11/00 20060101AFI20240508BHJP
   B01D 53/58 20060101ALI20240508BHJP
   B01D 53/82 20060101ALI20240508BHJP
   F17C 13/00 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
F17C11/00 A
B01D53/58 ZAB
B01D53/82
F17C13/00 302Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175219
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】浦部 治貴
(72)【発明者】
【氏名】土居 真
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 佳樹
【テーマコード(参考)】
3E172
4D002
【Fターム(参考)】
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB20
3E172BA06
3E172BB03
3E172BD05
3E172DA90
3E172FA09
3E172FA10
3E172FA26
3E172HA04
3E172HA08
4D002AA13
4D002AC10
4D002BA04
4D002CA07
4D002DA41
4D002DA45
4D002DA46
4D002DA47
4D002DA70
4D002FA01
4D002GA01
4D002GB20
(57)【要約】
【課題】設備が過大となることなく、緊急時やメンテナンス時にアンモニア蒸発ガスを回収することができるアンモニア蒸発ガス除害装置を提供する。
【解決手段】本発明に係るアンモニア蒸発ガス除害装置27は、液化アンモニアの気化器15またはアンモニア蒸発ガス再液化装置22を有する設備に設けられて、点検時または緊急時に液化アンモニアの気化器15またはアンモニア蒸発ガス再液化装置22のアンモニア蒸発ガスが外部に流出することを防止するためのものであって、前記アンモニア蒸発ガスを吸着する吸着装置31を備え、吸着装置31は、前記アンモニア蒸発ガスを吸着する吸着材を収容した吸着容器37と、吸着容器37内に配設されて前記吸着材を所定温度以下に冷却した状態を保持するための保冷剤39と、該保冷剤39を融点以下に冷却し保持するために保冷剤39を冷却する冷熱媒体を循環させる冷熱媒体循環機構41とを備えている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化アンモニアの気化器またはアンモニア蒸発ガス再液化装置を有する設備に設けられて、点検時または緊急時に前記液化アンモニアの気化器またはアンモニア蒸発ガス再液化装置のアンモニア蒸発ガスが外部に流出することを防止するためのアンモニア蒸発ガス除害装置であって、
前記アンモニア蒸発ガスを吸着する吸着装置を備え、
該吸着装置は、前記アンモニア蒸発ガスを吸着する吸着材を収容した吸着容器と、該吸着容器内に配設されて前記吸着材を所定温度以下に冷却した状態を保持するための保冷剤と、該保冷剤を融点以下に冷却し保持するために前記保冷剤を冷却する冷熱媒体を循環させる冷熱媒体循環機構とを備えたことを特徴とするアンモニア蒸発ガス除害装置。
【請求項2】
前記保冷剤の融解温度が-30℃~30℃の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア蒸発ガス除害装置。
【請求項3】
前記冷熱媒体循環機構は、アンモニア蒸発ガスもしくは液化アンモニアを循環するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のアンモニア蒸発ガス除害装置。
【請求項4】
前記吸着容器内を減圧する減圧手段を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のアンモニア蒸発ガス除害装置。
【請求項5】
前記吸着容器内を減圧する減圧手段を有することを特徴とする請求項3に記載のアンモニア蒸発ガス除害装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化アンモニアの気化器またはアンモニア蒸発ガス再液化装置を有する設備に設けられて、その点検時または緊急時に前記液化アンモニアの気化器またはアンモニア蒸発ガス再液化装置のアンモニア蒸発ガスが外部に流出することを防止するためのアンモニア蒸発ガス除害装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼時にCO2を排出しないアンモニアはカーボンフリー燃料として期待されており、例えば大規模石炭火力発電におけるボイラーの燃料として石炭との混焼に利用されている。
大規模石炭火力発電への混焼では大量のアンモニア需要があり、このためアンモニアは液化アンモニアとして巨大な貯蔵タンクに貯蔵される。
【0003】
この巨大な貯蔵タンクは低温・常圧型の液化貯蔵タンクが用いられることが多く、貯蔵タンク内では外部入熱により液化アンモニアの蒸発ガスが常に発生し続け、放っておくとタンク内圧が上昇し損壊する恐れがある。このため、平時は蒸発ガスをボイラーへ供給して燃焼させるか、またはアンモニア蒸発ガス再液化装置によって再液化して貯蔵タンクに戻している。
【0004】
しかし、発電所の事故時、緊急停止時やメンテナンス時には上記の対応ができなくなるが、アンモニアは可燃性毒性ガスであり、そのまま大気放出はできず除害処理が必要となる。
また、再生可能エネルギーなどを用いたアンモニアの合成は高コストであり、なるべくアンモニアを無駄にせず利用したいというニーズもある。
【0005】
このような処理方法として、例えば特許文献1ではアンモニアを燃焼により除害することが提案されている。
また、特許文献2ではアンモニアを水あるいは水溶液中に溶解させ、ストリッピングにより放出することが提案されている。
また、特許文献3では液化燃料の貯蔵タンクの蒸発ガス(BOG:Boil Off Gas とも表記)を吸着材充填吸着塔で回収することが提案されている。
また、特許文献4では、熱媒体循環で吸着材を冷却しながらアンモニアガスを回収することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭51-53636号公報
【特許文献2】特開昭54-51251号公報
【特許文献3】特開2004-308844号公報
【特許文献4】特開2000-317246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のようにアンモニアを燃焼により除害するシステムでは、アンモニアを再利用することができない。
また、アンモニアは燃焼速度が遅いため、石油ガスなどを添加して燃焼を補助するが、この時CO2やNOxが発生し、環境への悪影響がある。
【0008】
また、特許文献2のようにアンモニアを水あるいは水溶液中に溶解させる方式は最も簡便な除害設備であるが、大規模石炭火力発電所のように大量の蒸発ガスが発生する場合には、アンモニア蒸発ガスの圧力がほぼ大気圧と低いため、十分に溶解させるために必要な水深への吹込みが難しく、また出来たとしても大面積の水槽が必要になり、設置面積が嵩んでしまう。
また生成した多量のアンモニア水は基本廃棄されるためコストが高くなり、ストリッピング装置での再生は設備費及び動力コスト大きいという課題がある。
【0009】
また、特許文献3のように吸着材充填吸着塔で回収する場合、吸着材は温度が上がるほど吸着量が指数関数的に低下する。そのため、100%アンモニアガスを多量吸着すると、吸着熱による発熱で温度が上昇するため、吸着量が大きく低下するという課題がある。
【0010】
この点、特許文献4では熱媒体循環で吸着材を冷却しながらアンモニアガスを回収しているが、単位時間あたりの吸着熱と同じ熱量が熱交換可能な大きな熱交換器及び循環流量が必要である。半導体産業などの排ガスで連続処理が必要な小規模な場合には有効な手段であるが、巨大な設備で発生する蒸発ガスでは、吸着塔及び循環設備が大きくなり適用が難しい。
【0011】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、設備が過大となることなく、緊急時やメンテナンス時にアンモニア蒸発ガスを回収することができるアンモニア蒸発ガス除害装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明に係るアンモニア蒸発ガス除害装置は、液化アンモニアの気化器またはアンモニア蒸発ガス再液化装置を有する設備に設けられて、点検時または緊急時に前記液化アンモニアの気化器または前記アンモニア蒸発ガス再液化装置のアンモニア蒸発ガスが外部に流出することを防止するためのものであって、
前記アンモニア蒸発ガスを吸着する吸着装置を備え、
該吸着装置は、前記アンモニア蒸発ガスを吸着する吸着材を収容した吸着容器と、該吸着容器内に配設されて前記吸着材を所定温度以下に冷却した状態を保持するための保冷剤と、該保冷剤を融点以下に冷却し保持するために前記保冷剤を冷却する冷熱媒体を循環させる冷熱媒体循環機構とを備えたことを特徴とするものである。
【0013】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記保冷剤の融解温度が-30℃~30℃の範囲にあることを特徴とするものである。
【0014】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記冷熱媒体循環機構は、アンモニア蒸発ガスもしくは液化アンモニアを循環するものであることを特徴とするものである。
【0015】
(4)また、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、前記吸着容器内を減圧する減圧手段を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るアンモニア蒸発ガス除害装置は、アンモニア蒸発ガスを吸着する吸着装置を備え、該吸着装置は、前記アンモニア蒸発ガスを吸着する吸着材を収容した吸着容器と、該吸着容器内に配設されて前記吸着材を所定温度以下に冷却した状態を保持するための保冷剤と、該保冷剤を融点以下に保持するために前記保冷剤を冷却する冷熱媒体を循環させる冷熱媒体循環機構とを備えたことにより、必要な吸着材量及び吸着塔サイズが小さく、また冷熱媒体循環機構も小さなアンモニア蒸発ガス除害装置を提供することができる。
この効果は、保冷剤の持つ熱容量(融解熱)により吸着材の吸着時の発熱による温度上昇を抑え、吸着材の高い吸着性能が維持できる低温に保持できることによる。
さらにアンモニア蒸発ガスを吸着材による回収、脱着による再利用設備への放出ができ、外部へのアンモニア放出は無く、100%再利用も可能となる。
また、吸着容器は、水槽と異なり縦置きができるため、水吸収システムに比べて大幅に設置スペースを小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】アンモニア蒸発ガス除害装置をアンモニア貯蔵設備に適用した場合の機器構成を説明する説明図である。
図2】吸着材の一般的な特性を説明するグラフである。
図3図2に示した特性を有する吸着材の予冷温度ごとの、NH3吸着量、到達温度の実測値を示すグラフである。
図4】アンモニア蒸発ガス除害装置の吸着および脱着時の吸着容器内の状態を説明する説明図である。
図5】吸着時及び脱着時の第1開閉弁、第2開閉弁、第1安全弁及び第2安全弁の開閉状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施の形態に係るアンモニア蒸発ガス除害装置について、アンモニアを火力発電所の石炭炊きボイラーの混焼に用いる場合のアンモニア貯蔵設備に適用した場合を例に挙げて説明する。
【0019】
図1は、アンモニア貯蔵設備1の機器構成を示す図である。
アンモニア貯蔵設備1には、液化アンモニア2を貯蔵する貯蔵タンク3と、貯蔵タンク3の液化アンモニア2を石炭炊きボイラー4に向けて払い出す払出ライン5と、貯蔵タンク3で発生したアンモニア蒸発ガス(BOGという場合あり)を再液化して貯蔵タンク3に戻す再液化ライン7と、貯蔵タンク3で発生したアンモニア蒸発ガスを払い出しラインに供給するアンモニア蒸発ガス払出ライン9と、貯蔵タンク3で発生したアンモニア蒸発ガスを吸着して除害する除害ライン11と、を備えている。また、本例では、払出ライン5の下流側と除害ライン11とを結ぶアンモニアガス回収ライン12が設けられている。
【0020】
払出ライン5には、移送ポンプ13と、気化器15と、第1開閉弁17が設けられている。また、再液化ライン7には、第1BOG圧縮機19と、再液化器21とが設けられており、これらがアンモニア蒸発ガス再液化装置22を構成している。
さらに、アンモニア蒸発ガス払出ライン9には、第2BOG圧縮機23が設けられている。またさらに、除害ライン11には、第1安全弁25、アンモニア蒸発ガス除害装置27が設けられ、アンモニアガス回収ライン12には第2安全弁29が設けられている。
なお、第1開閉弁17、第1安全弁25、第2安全弁29、及び後述する第2開閉弁33は、開放状態を白抜きで示し、閉止状態を黒塗りで示している。
【0021】
以上のように構成されたアンモニア貯蔵設備1において、通常時は、第1開閉弁17が開放され、第1安全弁25、第2安全弁29及び第2開閉弁33は閉止されており、貯蔵タンク3に貯蔵された液化アンモニア2は、移送ポンプ13によって払出ライン5に払い出され、気化器15によって気化されて石炭炊きボイラー4に供給される。
また、貯蔵タンク3で発生するアンモニア蒸発ガスは、第1BOG圧縮機19で圧縮され再液化器21で液化されて貯蔵タンク3に戻され、あるいは第2BOG圧縮機23で圧縮されて払出ライン5に供給されて石炭炊きボイラー4に供給される。
【0022】
緊急あるいは不慮の電源喪失時やメンテナンス時にはアンモニア蒸発ガス再液化装置22が稼動できず、またメンテナンス時にはアンモニア蒸発ガスを石炭炊きボイラー4へ払出できず、また払出ライン5が緊急閉止することもある。
このような場合においても貯蔵タンク3ではアンモニア蒸発ガスが発生し続け、また、払出しラインの停止まで気化器からアンモニア蒸発ガスが多量に発生するため、これを回収する設備が本実施の形態のアンモニア蒸発ガス除害装置27である。
【0023】
アンモニア蒸発ガス除害装置27は、図1に示すように、アンモニア蒸発ガスを吸着する吸着装置31を備えている。また、本実施の形態では、吸着されたアンモニアガスを脱着するための装置として、吸着容器37の出口に第2開閉弁33、及び真空ポンプ35を備えている。
なお、アンモニア蒸発ガス除害装置27は、貯蔵タンク3が大型で貯蔵タンク3の耐圧や気化アンモニア蒸発ガスの圧力(大気圧レベル~110kPaA)が低い場合に有効な装置である。
【0024】
吸着装置31は、アンモニア蒸発ガスを吸着する吸着材を収容した吸着容器37と、吸着容器37内に配設されて吸着材を所定温度以下に冷却した状態を保持するための保冷剤39と、保冷剤39を融点以下の温度に冷却し保持するために保冷剤39を冷却する冷熱媒体を循環させる冷熱媒体循環機構41とを備えている。
【0025】
吸着材としては、アンモニア吸脱着性能に優れた吸着剤、例えば活性炭、ゼオライト、金属有機構造体(MOF:Metal Organic Frameworks)、シリカゲル、活性アルミナ、イオン交換樹脂、粘土鉱物等が挙げられる。このような吸着材を充填した吸着容器37を低温(アンモニア融点以上、大気温度以下:-30~30℃)にして真空で待機させる。
保冷剤としては一般的な水(氷)や水を高吸水ポリマーに吸収させたジェル材、水にエチレングリコールを添加したもの(不凍液)の他、-30~30℃の温度範囲に融解(凝固)温度を持つ潜熱蓄冷材であればよく、パラフィンやデカン系を用いた蓄冷材や塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)等の水和物系でも良い。
【0026】
吸着材は、一般的に温度が低いほど吸着性能が高く、温度が高くなると吸着性能が低下する。この点を、図2に基づいて説明する。図2の横軸は吸着材温度、縦軸は吸着量である。
実プロセスでは、図2に示すように、例えば-30℃に吸着材を冷却(予冷)した状態から、吸着を開始すると、吸着開始時は低温であるため吸着性能が高く吸着量が多いが、徐々に吸着熱により吸着材温度が上昇し吸着性能が低下する。
最終的な到達温度は、流量や放熱、冷却条件で変わるが、図2の黒丸で示すように、一例として40℃の場合もあれば、100℃まで上昇する場合もある。
【0027】
図3は、図2で示した特性を有する吸着材について、アンモニアガス(NH3)の吸着量と到達温度を実測定したグラフである。
吸着させるアンモニアガスの流量は一定となり1時間当たりのその流量を吸着材体積で割ったものを吸着速度と定義する。その吸着速度は、72h-1、120h-1、1200h-1の3条件とし、予冷温度は、横軸の左のプロットから-30℃、-15℃、10℃の3条件とした。
【0028】
本プロセスの操作条件は、減圧した吸着容器37にて緊急時にパージされた約1気圧で所定流量と時間(例えば流量20~100トン/h×時間60~10min)でアンモニアを回収するので、吸着速度を変えた測定をしており、72h-1が1時間吸着条件の速度になる。なお、吸着容器37の内圧力が1気圧に到達した瞬間にアンモニアガスの流入を停止した。
図3に示すように、予冷温度が低いほど、また流量が小さいほどアンモニアの吸着量は多くなっていることが分かる。
【0029】
保冷剤39は、潜熱である大きな融解熱を有効利用するために用いるがそのために融解温度以下に維持しておく必要がある。その冷却手段として液化アンモニア等による冷却方法を用いた場合にはアンモニアの液化温度-33.4℃近くの-30℃までの冷却が可能である。また、海水による冷却や外気冷却による循環水冷却を用いた場合の冷却可能な上限温度は30℃である。よって融解温度は-30℃から30℃の範囲にあるものが好ましい。このような保冷剤39を吸着容器37内に吸着剤と混合しないように充填する。
保冷剤39の充填量は、アンモニア吸着熱の総熱量≒保冷剤39の総融解熱となるようにするのが好ましい。
すなわち、吸着材がアンモニア蒸発ガスを吸着する際に発生する吸着熱を保冷剤39の融解熱で相殺でき、アンモニア蒸発ガスを吸着材から脱着する際に発生する脱着熱で保冷剤39の凝固熱を相殺できるようにすることが好ましい。
【0030】
このようにすることで、冷熱媒体循環機構41の設備及び能力を小さく、また吸着材量も少なくして吸着材の温度を保冷剤融解温度レベルに保持し、吸着熱による吸着材の温度上昇を抑制して吸着量を確保することができる。さらに、緊急あるいは不慮の電源喪失では冷熱媒体循環機構41が機能しなくなり除害ができない場合(例えば特許文献4)にも対応することができる。
【0031】
なお、吸着材及び保冷剤39を予め融解温度未満の低い温度に予冷しておくことで、吸着材及び保冷剤39の顕熱を利用して比熱容量分の保冷剤39の量を減量可能となるので好ましい。さらに、吸着時到達温度を融解温度超の高い温度とすることで、吸着材及び保冷剤39の顕熱を利用して、同上の減量が可能となる。もっとも、吸着時到達温度は、使用する吸着材の吸着性能が大きく減殺されない程度とする。
【0032】
冷熱媒体循環機構41は、外部入熱による保冷剤39の融解を防ぎ、保冷剤39を融点以下に保持するために保冷剤39を冷却する冷熱媒体を循環させるものである。
外部入熱をより低減するためには、吸着容器37を断熱材等で断熱することが好ましい。これによって、冷熱媒体循環機構41をより小型化することができる。
冷熱媒体としては、特に限定されないが、液化アンモニアやアンモニア蒸発ガスを用いることができる。
一般に、液化アンモニア設備では、保冷のための液化アンモニア2及び低温ガス循環設備(保冷循環)を有しており、これらを吸着容器37の予冷や保冷剤39の低温維持へ利用することが可能である。このように、吸着材の冷却に工場内に豊富に存在する気化前の液化アンモニアや低温ガス循環設備を利用することで、ほとんど動力コストなしで冷却することが可能となる。
また、冷熱媒体循環機構41は吸着材及び保冷剤の初期冷却に用いることもできるが、この初期冷却には時間制限がなくゆっくりとした冷却で良いため、設備及び能力を小さくした冷冷熱媒体循環機構41を用いることができる。
【0033】
本実施の形態では、吸着材に吸着されたアンモニアガスを脱着するための手段として、吸着容器37内を減圧する真空ポンプ35(減圧手段)を有している。
吸着装置31の稼動は、上述したように常時ではなく緊急時やメンテナンス時であり、吸着されたアンモニアガスの脱着には時間的制限はほとんどなく、時間をかけて脱着することができる。そのため真空ポンプの容量は小さくてよく、設備コストや設置スペースを抑えることができる。
また、単に低出力の真空ポンプ35で、吸着容器37内を吸引し続けることで、減圧脱着による脱着熱で吸着材及び保冷剤の冷却が可能となり、保冷剤を凝固させることで、脱着熱による吸着剤の過冷却を防ぐことができ、脱着をより簡単に進めることが可能である。
【0034】
また、脱着方法としては減圧手段に限られず、種々の方法が取り得る。
例えば、冷熱媒体循環機構41の冷媒循環を停止して、外部入熱(自然、強制)によって吸着容器37内を昇温し、内部圧力を上げて、排気することも可能である。
強制的な外部入熱としては、例えば海水や水、気化アンモニアが適用可能である。
【0035】
上記のように構成された本実施の形態のアンモニア蒸発ガス除害装置27の動作について、図4及び図5に基づいて説明する。
なお、図4(a)は、吸着容器37内の状態を模式的に示したものである。また、図4(b)は、アンモニア蒸発ガス除害装置27の稼動時(吸着時、脱着時)における時間と、吸着容器37内の圧力(i)、温度(ii)、吸着量(iii)の関係を示すグラフである。
図4に示す例では、吸着容器37は真空引きされてアンモニアを脱着させた状態で内圧は1kPaで、吸着材は液化アンモニア2で-20℃に予冷した状態で待機している。
【0036】
不慮の電源喪失時やメンテナンス時等にはアンモニア蒸発ガス除害装置27が稼動することになるが、このとき、図5(a)に示すように、第1開閉弁17が閉止されるか、第1BOG圧縮機19が停止するため、第2安全弁29あるいは第1安全弁25が開放される。また、第2開閉弁33は閉状態を維持する。
【0037】
アンモニア蒸発ガスは、アンモニアガス回収ライン12あるいは除害ライン11を通じて吸着容器37に供給されて吸着材に吸着される。吸着容器37内では、図4(b)に示すように、大気圧~100kPaのアンモニアが所定流量(一定)で流入し吸着材に吸着される。吸着による吸着熱で吸着材の温度は上昇する(図4(b)(ii)参照)。一定流量で全量吸着の条件であるため、吸着量は積算され直線的に増加する(図4(b)(iii)参照)。
吸着容器37内の圧力は徐々に上昇し、100kPaに到達する前にアンモニアガスの発生が終了するように十分な吸着材を収容しておき、100kPa未満の圧力で吸着は完了する。
【0038】
脱着は、特に時間制限がないので、例えば図5(b)に示すように、緊急状態やメンテナンスが終了して、アンモニア貯蔵設備1が通常稼動している状態で行うことができる。このとき、第1開閉弁17及び第2開閉弁33が開放状態、第1安全弁25及び第2安全弁29が閉止状態となる。
【0039】
脱着は真空ポンプ35でゆっくり引いて(時間制限がないため)行い、待機圧力1kPaまで到達すると停止し、閉止して待機となる。脱着されたアンモニアガスは再利用することができる。
【0040】
脱着時には、圧力は徐々に低下し(図4(b)(i)参照)、脱着熱により温度も徐々に低下する(図4(b)(ii)参照)。なお、脱着による抜熱で吸着材の温度は低下し、その脱着熱を吸着材及び保冷剤の冷却及び再凝固に有効利用することができる。
吸着されたアンモニアガスは脱着されて、吸着量はほぼゼロとなる(図4(b)(iii)参照)。
なお、予冷温度を含めた吸着開始時の吸着材温度は-30~30℃の範囲になり、吸着終了温度も流量や熱的な条件で異なるが、本例では一例として-20℃開始、0℃終了としている。
【0041】
以上のように、本実施の形態に係るアンモニア蒸発ガス除害装置27によれば、吸着材による回収、脱着による放出のため、外部へのアンモニア放出は無く、100%再利用可能となる。
また、吸着容器37は、水槽と異なり縦置きができるため、水吸収システムに比べて大幅に設置スペースを小さくできる。
さらに、予冷することにより吸着材量を少なくすることができるために吸着容器そのものも小さくでき、また、冷却のための冷媒循環装置も小さくすることができる。
また、動力源を必要としないため緊急時の電源喪失にも対応することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 アンモニア貯蔵設備
2 液化アンモニア
3 貯蔵タンク
4 石炭炊きボイラー
5 払出ライン
7 再液化ライン
9 アンモニア蒸発ガス払出ライン
11 除害ライン
12 アンモニアガス回収ライン
13 移送ポンプ
15 気化器
17 第1開閉弁
19 第1BOG圧縮機
21 再液化器
22 アンモニア蒸発ガス再液化装置
23 第2BOG圧縮機
25 第1安全弁
27 アンモニア蒸発ガス除害装置
29 第2安全弁
31 吸着装置
33 第2開閉弁
35 真空ポンプ
37 吸着容器
39 保冷剤
41 冷熱媒体循環機構
図1
図2
図3
図4
図5