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特開2024-66036ケトンを原料とするアミド化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066036
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】ケトンを原料とするアミド化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 201/04 20060101AFI20240508BHJP
   C07D 223/10 20060101ALI20240508BHJP
   C07D 225/02 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C07D201/04
C07D223/10
C07D225/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175251
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】山本 豪紀
(57)【要約】
【課題】ケトンを原料とするアミド化合物の製造において、オキシム化する工程とベックマン転位によりアミド化する工程との間で、溶媒中の水分を除去して低減する必要があり、オキシム化する工程からベックマン転位によりアミド化する工程に直ちに移ることが困難であった。
【解決手段】ケトンをヒドロキシルアミンによってオキシム化する工程、及び前記オキシム化工程により得られるオキシム化合物をベックマン転位によりアミド化する工程を含むケトンを原料とするアミド化合物の製造方法において、前記オキシム化する工程でヒドロキシルアミンの酸塩を固体で用いると共に、前記オキシム化する工程で使用した溶媒について、そのままベックマン転位によりアミド化する工程で使用することを特徴とするアミド化合物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中で、ケトンをヒドロキシルアミンによってオキシム化する工程及び前記オキシム化する工程により得られるオキシム化合物をベックマン転位によりアミド化する工程を含むケトンを原料とするアミド化合物の製造方法において、前記オキシム化する工程でヒドロキシルアミンの酸塩を固体で用いると共に、前記オキシム化する工程で使用した溶媒について、そのままベックマン転位によりアミド化する工程で使用することを特徴とするアミド化合物の製造方法。
【請求項2】
オキシム化する工程及びアミド化する工程を同一の反応容器で続けて行う請求項1に記載のアミド化合物の製造方法。
【請求項3】
ケトンが環状ケトンであり、アミド化合物がラクタム化合物である請求項1または2に記載のアミド化合物の製造方法。
【請求項4】
溶媒がニトリル化合物、エステル化合物、カルボン酸、低級脂肪族アルコール、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素及び脂環式炭化水素から選択されるいずれか1の溶媒である請求項1に記載のアミドの製造方法。
【請求項5】
ニトリル化合物がアセトニトリルである請求項4に記載のアミドの製造方法。
【請求項6】
さらに、硫酸シリカゲル又は無機系のルイス酸を添加することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のアミド化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケトンを原料とするアミド化合物の製造方法に関し、特に、ε-カプロラクタム、ラウロラクタムなどのラクタム化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衣料繊維には、綿や絹のような天然繊維とナイロンやポリエステルのような合成繊維とがあり、合成繊維は安価でシワになりにくいなど繊維によって様々な特徴を持っている。また、近年では繊維ごとの性質を利用して様々な用途での製品の多様化が進んでいる。ナイロンの用途も、衣料用品に留まらず、自動車用シートやカーペット、安全ネットや釣り糸、食品用フィルム、ギターの弦など多岐にわたっている。
【0003】
ナイロン6は、ε-カプロラクタムを開環重合して製造される。世界で生産されたε-カプロラクタムのほとんどがナイロン6の原料として使用されている。一方、ナイロン12は、ラウロラクタムを開環重合して製造される。ナイロン12は、ポリアミドの中では最も密度が低く、融点は176℃、比重は1.02であって、ナイロン6と比べると融点や吸水性が低い材料であるが、耐寒衝撃性と寸法安定性に優れた素材であり、特に低温での特性に優れている点が他のナイロンと大きく違う点である。
【0004】
ラクタム化合物は、一般的に、環状ケトンを原料として、オキシム化、さらにベックマン転位により得られることが知られている。例えば、ラウロラクタムの場合、環状ケトン化合物であるシクロドデカノンをオキシム化する工程が知られており、得られたシクロドデカノンオキシムはベックマン転位により、ラウロラクタムに転位するものである。
【0005】
具体的には、アミド化合物としてのラウロラクタムの製造において、環状ケトンであるシクロドデカノンからシクロドデカノンオキシムを得るためにヒドロキシルアミンと溶媒の存在下でオキシム化が行われている。さらに生成したシクロドデカノンオキシムを油相として水相と分離等を行った後、溶媒とともにベックマン転位を行い当量以上の発煙硫酸等の酸を加えてラウロラクタムを得ることが知られている。ヒドロキシルアミンは、不安定なために、ヒドロキシルアミン硫酸塩又はヒドロキシルアミン炭酸塩等のヒドロキシルアミン等の酸塩とし、その水溶液と塩基(好ましくはアンモニア水)をケトンと混合して、反応装置中で遊離させて用いられてきた。
【0006】
また、ベックマン転位反応には転位するための薬剤(転位触媒)として発煙硫酸が使用されているため、ラウロラクタムは硫酸塩として得られる。そこで、ラウロラクタムの硫酸塩を遊離させるためにアンモニアで中和する必要がある。しかも、ベックマン転位には過剰量の発煙硫酸を用いるため、中和に必要なアンモニアも過剰に必要となり、その結果、多量の硫酸アンモニウム (硫安) が副生することになることから、発煙硫酸等に代えて多量の塩を生成しないような触媒を用いる製法も提案されている(特許文献1、特許文献2)。これらの製法は、シクロドデカノンだけではなく、シクロヘキサノン等の他のケトンに対しても同様に適用できるものである。
【0007】
さらに、溶媒に関して、ラウロラクタムを製造する上では、中間生成物であるシクロドデカノンオキシムが高融点であることから、転位工程を高温下で行う装置上等の問題を回避するため、溶媒を適切に選択することも行われている。溶媒の選択について、前掲特許文献2には、オキシム化時に使用する溶媒と転位反応時に使用する溶媒を異なる種類にする場合には、オキシム化の後に溶媒を交換することが記載されている。また、特許文献3には、以下のような技術が提案されている。
【0008】
シクロヘキサノンとシクロドデカノンとのケトン混合物を原料として、ヒドロキシルアミン硫酸塩の水溶液を用いてオキシム化し、水相から液状オキシムを単離した後、シクロヘキサノンオキシムとシクロドデカノンオキシムとのオキシム混合物を得る。このオキシム化中に遊離する硫酸は、含水アンモニアを添加して中和される。ε-プロラクタム、ω-ドデカラクタム及び100%硫酸を所定質量割合混合した95℃の混合物に、乾燥させたオキシム混合物を、新たに100%硫酸とともに挿入し、中和等を経て、減圧下で蒸留した後、ε-カプロラクタム及びω-ドデカラクタムがそれぞれ分離されて得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2015-129130号公報
【特許文献2】WO2009/142206
【特許文献3】特公昭46―7254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のとおり、従来のケトンを原料とするアミド化合物の製造においては、ケトンをオキシム化する工程においてヒドロキシルアミンの酸塩の水溶液(第1の水溶液)、さらにはその酸塩から遊離する酸を中和するためにアンモニア水などの塩基を含む水溶液(第2の水溶液)を使用することを前提とする場合には、そのような水を大量に含む溶媒中のオキシムに対し、水に溶けると酸が生成する転位触媒を作用させてもオキシムが加水分解されてケトンに戻ってしまう不都合があった。このため、これらの技術では、オキシム化する工程からベックマン転位によりアミド化する工程に直ちに移ることが困難であったことから、オキシム化する工程とベックマン転位によりアミド化する工程との間で、ベックマン転位によりアミド化する工程に入る前に第1の水溶液又は第2の水溶液を含む溶媒中の水分を除去して低減しなければならないという課題があった。本発明は、かかる課題を解決すべく、ヒドロキシルアミンの酸塩を使用した場合でも、溶媒中の水分を除去して低減する必要がないアミド化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、シクロドデカノンを原料として、溶媒中で、ヒドロキシルアミンの酸塩を固体で用いることで、オキシム化する工程で使用した溶媒について、溶媒中の水分を除去して低減することなく、そのままベックマン転位によりアミド化する工程で使用することで、ラウロラクタムが生成することを見出し、本発明に至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の事項により特定されるとおりのものである。
[1]溶媒中で、ケトンをヒドロキシルアミンによってオキシム化する工程及び前記オキシム化する工程により得られるオキシム化合物をベックマン転位によりアミド化する工程を含むケトンを原料とするアミド化合物の製造方法において、前記オキシム化する工程でヒドロキシルアミンの酸塩を固体で用いると共に、前記オキシム化する工程で使用した溶媒について、そのままベックマン転位によりアミド化する工程で使用することを特徴とするアミド化合物の製造方法。
[2]オキシム化する工程及びアミド化する工程を同一の反応容器で続けて行う[1]に記載のアミド化合物の製造方法。
[3]ケトンが環状ケトンであり、アミド化合物がラクタム化合物である[1]又は[2]に記載のアミド化合物の製造方法。
[4]前記溶媒がニトリル化合物、エステル化合物、カルボン酸、低級脂肪族アルコール、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素及び脂環式炭化水素から選択されるいずれか1の溶媒である[1]に記載のアミドの製造方法。
[5]ニトリル化合物がアセトニトリルである[4]に記載のアミドの製造方法。
「6」さらに、硫酸シリカゲル又は無機系のルイス酸を添加することを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載のアミド化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、溶媒中でオキシム化する工程とそれに続くベックマン転位によってアミド化する工程とによりケトンを原料とするアミド化合物の製造方法において、オキシム化する工程の後、ベックマン転位を行う前に溶媒中の水分の除去を不要とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ケトンをヒドロキシルアミン(以下の反応工程では、ヒドロキシルアミン塩酸塩の例を示した)によってオキシム化する工程、及びかかるオキシム化する工程により得られるオキシム化合物をベックマン転位によりアミド化する工程によって、アミド化合物(ラクタム)を製造するものである。本発明の反応工程を以下に示す。
【化1】
この反応工程では、溶媒にケトンと共に添加された固体のヒドロキシルアミンの酸塩から遊離するヒドロキシルアミンによりケトンがオキシムとなり、さらにヒドロキシルアミンの酸塩由来の酸の作用でオキシムがベックマン転位してアミド化合物まで一気に得られるものと考えられる。つまり、ケトンから生成したオキシムを含む溶媒中そのままでラクタムまで反応が進行する。
【0015】
本発明のアミド化合物の製造方法における原料であるケトンとしては、環状ケトンでも鎖状ケトンでもよく特に制限はないが、6員環~12員環の環状ケトンが好ましく、12員環の環状ケトンであるシクロドデカノンが特に好ましい。
【0016】
本発明で用いられる固体のヒドロキシルアミンの酸塩としては、上記例示のとおりヒドロキシルアミンの塩酸塩の他に、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩などの無機塩も用いることができる。本発明において、ヒドロキシルアミンの塩酸塩を用いた場合は塩化水素が生じてベックマン転位反応における転位触媒としての機能を有するものと考えられ、酸塩としては弱酸よりも強酸の酸塩が好適である。
また、本発明において、「ヒドロキシルアミンの酸塩を固体で用いる」とは、ヒドロキシルアミンの酸塩を水溶液(第1の水溶液)として用いたり、この酸塩からヒドロキシルアミンを遊離させるとともに酸を中和するアンモニア等の塩基の水溶液(第2の水溶液)を使用したりしないことを意味するものである。なお、ヒドロキシルアミンの酸塩は、吸湿していないほうが好ましいが、必ずしも、乾燥状態である必要はなく、大気中の水分を吸湿していたとしても固体として扱うことができる。
シクロドデカノンに対し添加されるヒドロキシルアミンの酸塩の当量としては、1~3当量が好ましく、1~2当量がより好ましい。
【0017】
本発明において用いられる溶媒としては、特に限定されるものではないが、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル化合物、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル化合物、酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸、エタノール、メタノール等の低級脂肪族アルコール、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素、シクロオクタン、シクロドデカン、イソプロピルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素などが挙げられ、好ましくはニトリル化合物、特にアセトニトリルがアミド化合物の収率を高める観点からより好適である。本発明の反応時間は、2~30時間が好ましく、2~24時間がより好ましい。反応温度は20~120℃が好ましく、50~110℃がより好ましく、60~100℃が特に好ましい。
本発明において用いられる溶媒は、オキシム化する工程で第1の水溶液や第2の水溶液を使用することがないため、溶媒中の水分を除去することなく、そのままオキシムをベックマン転位によりアミド化する工程においても使用できるものである。また、オキシム化する工程で使用された溶媒とベックマン転位によりアミド化合物を得る工程で使用する溶媒も同一でよく、溶媒を交換する必要もない。よって、生産効率の向上に寄与すると考えられると共に、ワンポットでケトンからアミド化合物を得ることが容易になる。
本発明においては、ベックマン転位によりアミド化する工程でブレステッド酸やルイス酸といった酸を追加で加えることなく、アミド化合物を製造できる。一方、ベックマン転位反応を促進する目的で、硫酸シリカゲルやルイス酸を転位触媒として本発明の途中で使用することも可能である。しかし、反応途中で触媒を添加することは、そのための設備や反応途中で添加のタイミングを決めることが必要となるなど、アミド化合物の製造が煩雑になる。他方、本発明ではヒドロキシルアミンの酸塩を水溶液ではなく固体で添加するため、最初から転位触媒が存在していても不都合はない。そこで、転位反応完了まで簡易にアミド化合物を得るため、オキシム化工程開始前に転位触媒を添加・共存させるのが好ましい。硫酸シリカゲルなどのブレンステッド酸としての酸の添加量に特に制限はないが、ケトン1molに対して0.001~50molであることが好ましく、0.01~10molであることがより好ましく、0.05~2.0molが特に好ましい。ルイス酸としては、有機性でも無機性でもよく特に限定するものではないが、不均一なものがアミド化合物との分離がしやすいことから無機塩が好ましく、ニッケル塩やコバルト塩がより好ましく、特にテトラフルオロホウ酸ニッケル六水和物(Ni(BF・6HO)又はテトラフルオロホウ酸コバルト六水和物(Co(BF・6HO)が好ましい。Ni(BF・6HO又はCo(BF・6HOの添加量は、ケトン1molに対して0.01~1molが好ましく、0.05~0.5molがより好ましい。硫酸シリカゲルやルイス酸等の無機物質の添加により、反応時間を短縮できるとともにヒドロキシルアミンの酸塩の使用量を低減することができる。
【実施例0018】
以下に、本発明について実施例に基づいて説明するが、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0019】
[アミド化合物生成手順]
ねじ付き試験管にシクロドデカノン1.0mmol(特級 シグマ アルドリッチジャパン RC109800-100G)、ヒドロキシルアミン塩酸塩(特級 東京化成RH0258)及びアセトニトリル(富士フイルム和光純薬製,局方一般試験用(液体クロマトグラフィー用))を2ml加え、窒素を注入した後、80℃で所定の反応時間攪拌する。反応後、反応混合物を酢酸エチル(富士フイルム和光純薬,1級)10mlで希釈し、溶媒を減圧下で除去する。残渣にジクロロメタン(富士フイルム和光純薬,1級)を50ml加えて、よく攪拌することで不溶分を濾別し、減圧下で濃縮する。この操作を4回繰り返し、白色の粉末固体を得る。内部標準物質としてアニソールを添加し、攪拌する。測定はHNMRスペクトルにより行い、収率を計算した。
[ヒドロキシルアミン塩酸塩の量・反応時間]
上記アミド化合物生成手順においてケトンに対し固体のヒドロキシルアミン塩酸塩を化学量論としての1当量に相当する1.0mmol添加し、反応時間として24時間撹拌した場合を実施例1とした。実施例2においては、ヒドロキシルアミン塩酸塩の量による効果を検討するため、ヒドロキシルアミン塩酸塩を2当量に相当する2.0mmolを添加した以外は実施例1と同一の条件とした。また、反応時間の影響を検討するために、比較例1においては反応時間として2時間攪拌した以外は実施例1と同一の条件とした。また、実施例1,実施例2及び比較例1においては、溶媒中の水分を除去することはなかった。
【0020】
結果を以下の表1に示す。表1では、出発物質であるケトンとしてのシクロドデカノンを「1a」と記載し、得られたオキシム化合物であるシクロドデカノンオキシムを「2a」と記載し、得られたアミド化合物であるラウロラクタムを「3a」と記載した。
【表1】
実施例1では、オキシム化合物であるシクロドデカノンオキシム(2a)の収率は35.9%であり、アミド化合物であるラウロラクタム(3a)の収率は34.4%であった。また、実施例2では、オキシム化合物であるシクロドデカノンオキシム(2a)の収率は0.0%であり、アミド化合物であるラウロラクタム(3a)の収率は71.5%であった。さらに、反応時間を2時間とした比較例1では、オキシム化合物であるシクロドデカノンオキシム(2a)の収率は52.4%、アミド化合物であるラウロラクタム(3a)の収率は0.0%であった。
【0021】
実施例1及び2の結果からは、シクロドデカノンはヒドロキシルアミン塩酸塩中のヒドロキシルアミンによってオキシム化されシクロドデカノンオキシムが製造され、さらに、ヒドロキシルアミン塩酸塩中の塩化水素がベックマン転位反応に寄与して、ラウロラクタムが製造されていると考えられる。さらに、化学量論としての1当量に相当するヒドロキシルアミン塩酸塩の添加量では、反応しなかったシクロドデカノンオキシム(2a)が35.9%残ったが、2当量に相当するヒドロキシルアミン塩酸塩を添加することによりすべてのシクロドデカノンオキシム(2a)がラウロラクタム(3a)に転位しており、ヒドロキシルアミン塩酸塩の塩化水素が転位触媒として有効に機能していると考えられる。また、反応時間としての攪拌時間については、実施例1及び比較例1の結果から、2時間の反応時間ではシクロドデカノンオキシム(2a)へのオキシム化が起きているものの、ラウロラクタム(3a)が生成してないことが確認された。なお、ヒドロキシルアミン塩酸塩を添加せず、アセトニトリル1mlにシクロドデカノン0.5mmol添加し、80℃で2時間加熱してもシクロドデカノンは溶解しなかった。
以上の結果から、アセトニトリルを溶媒として用いて、その溶媒中の水分を除去して低減することもなく、そのまま使用して、シクロドデカノンから、シクロドデカノンオキシムを経て、ラウロラクタムが製造されることが確認された。また、ヒドロキシルアミンの酸塩を固体で用いることにより、オキシム化反応において中和のために塩基を用いることが不要となった。
【0022】
[シクロヘキサノン・シクロオクタノン]
さらに、出発物質のケトンとして、シクロドデカノンに代えて、実施例3及び実施例4においてはシクロヘキサノン(Sigma-Aldrich,ReagentPlus)を用い、実施例5及び比較例2においてはシクロオクタノン(Sigma-Aldrich,98%)を用い、実施例1及び2と同一の実験条件で実施した。
【0023】
結果を以下の表2及び表3に示す。
【表2】
【表3】
実施例3~5の結果からは、ケトン化合物としてシクロヘキサノン、シクロオクタノンを用いた場合でも、目的化合物であるアミド化合物としてε-カプロラクタム、カプリルラクタムがそれぞれ製造できることが確認された。また、ケトン化合物としてシクロドデカノンを用いた場合には2時間の反応時間ではベックマン転位が起こらなかったが、実施例4の結果からは、ケトン化合物としてシクロヘキサノンを用いた場合には2時間の反応時間であってもオキシム化とともにベックマン転位が起きることが確認された。
【0024】
[硫酸シリカゲル]
実施例1の結果から、目的生成物であるラウロラクタムは、ヒドロキシルアミンの酸塩を固体で用いて、シクロドデカノンのオキシム化反応及びベックマン転位反応により生成されることが確認された。ここでは、ラウロラクタムの収率をさらに上げることを目指して、反応しなかったシクロドデカノンオキシムをラウロラクタムに転位させるために、転位触媒である55%硫酸シリカゲル(富士フイルム和光純薬,ダイオキシン類分析用)を、実施例6においては0.0178g、実施例7においては0.0891g添加した。実施例6及び実施例7においては、反応開始の際にヒドロキシルアミン塩酸塩とともに添加した。なお、ヒドロキシルアミン塩酸塩の添加量は1当量に相当する1.0mol%(0.0695g)であり、反応時間としての攪拌時間は24時間とし、その他は実施例1と同様に行った。
【0025】
結果を以下の表4に示す。表4における、1a、2a及び3aは、表1と同じ意味を示す。
【表4】
実施例6の結果からは、転位触媒としての55%硫酸シリカゲルの添加は、反応しなかったオキシム化合物であるシクロドデカノンオキシム(2a)から目的生成物であるラウロラクタム(3a)の転位に寄与することが確認できた。具体的には、ヒドロキシルアミン塩酸塩(1当量)のみを加えた実施例1ではラウロラクタム(3a)の収率は34.4%であったが、転位触媒としての55%硫酸シリカゲルを加えた実施例6ではラウロラクタム(3a)の収率は84.7%と高収率であった。しかしながら、実施例7の結果からは、転位触媒としての55%硫酸シリカゲルの添加は、過剰に添加しても効果は限定的であることが併せて確認された。
【0026】
[ニッケル塩・コバルト塩]
実施例6における55%硫酸シリカゲルに代えて、転位触媒であるコバルト塩としてテトラフルオロホウ酸コバルト六水和物(Co(BF・6HO)及びニッケル塩としてテトラフルオロホウ酸ニッケル六水和物(Ni(BF・6HO)を用いて、反応しなかったシクロドデカノンオキシムからラウロラクタムへの転位を検討した。実施例6における55%硫酸シリカゲルに代えて、実施例8及び10においてはテトラフルオロホウ酸コバルト六水和物を0.1mmol、並びに実施例9及び11においてはテトラフルオロホウ酸ニッケル六水和物を0.1mmol加えた。実施例8~11において、これらのいずれの六水和物も反応開始の際に固体のヒドロキシルアミン塩酸塩とともに添加した。また、反応時間としての攪拌時間については、実施例8及び9おいては24時間とし、実施例10及び11においては2時間とした。
【0027】
結果を以下の表5に示す。表5における、1a、2a及び3aは、表1と同じ意味を示す。
【表5】
表5の結果からは、シクロドデカノンの反応においては、反応時間としての攪拌時間が24時間の場合にはコバルト塩とニッケル塩とは共に転位触媒としてラウロラクタムの生成に寄与することが確認され、ニッケル塩を転位触媒として用いた方が高い収率を示した。一方、反応時間としての攪拌時間が2時間の場合には、比較例1ではラウロラクタムの生成が確認できなかったが、コバルト塩又はニッケル塩を転位触媒として用いることにより攪拌時間が24時間の場合に比較すると収率は低かったもののラウロラクタムの生成は確認できた。
【0028】
出発物質のケトンとして、シクロドデカノンに代えて、シクロヘキサノン又はシクロオクタノンを用いることで、テトラフルオロホウ酸コバルト六水和物(Co(BF・6HO)及びテトラフルオロホウ酸ニッケル六水和物(Ni(BF・6HO)のオキシム化合物からアミド化合物への転位の効果における、出発物質としてのケトンの違いについても検討した。実験条件は、ケトン化合物を除いて、実施例8~11と同一である。
【0029】
結果を以下の表6及び7に示す。表6は出発物質としてシクロヘキサノンを用いた場合の結果を示し、同様に、表7は出発物質としてシクロオクタノンを用いた場合の結果を示す。
【表6】
【表7】
【0030】
表6及び7の結果からは、ケトンとしてシクロヘキサノン又はシクロオクタノンを用いた場合でも、コバルト塩及びニッケル塩の添加がベックマン転位によるラクタム化合物の生成に寄与することが確認できた。
【0031】
[回収したニッケル塩]
ニッケル塩(テトラフルオロホウ酸ニッケル六水和物)がジクロロメタンに不溶なことから、反応終了後に、反応混合物をジクロロメタンで十分に洗浄することで、生成物であるラクタム化合物をジクロロメタンに溶解させ、同時にジクロロメタンに不溶のニッケル塩をラクタム化合物から分離することができる。このように分離することにより、生成したラクタムを得ることができ、通常の酸を用いた反応後に塩基処理を行う方法と比べて、副生物としての無機塩を産生することを防ぐことができる。残渣として分離されたニッケル塩は、イソプロパノールにより溶解させて溶液とし、濃縮することにより容易に回収することができる。
回収したニッケル塩の転位触媒としての活性を実施例19として確認した。実験は実施例9と同一の条件で実施した。結果を以下の表8に示す。
【表8】
表8(実施例19)の結果からは、回収したニッケル塩の転位触媒としての活性を確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、溶媒中でヒドロキシルアミンの酸塩を用い、オキシム化する工程とそれに続くベックマン転位によるアミド化する工程とによりケトンを原料とするアミド化合物の製造方法において、ヒドロキシルアミンの酸塩を固体で用いることにより、オキシム化する工程後に溶媒から水分を除去して低減する必要がなくなり、その溶媒をそのまま使用して、ケトンからアミド化合物が生成されるため、アミド化合物の生産効率を向上に寄与すると考えれる。オキシム化反応における中和も不要にでき、溶媒の交換も必要がないのでアミド化合物の生産をより簡素化することもできる。さらに、原料として、多様なケトンに適用することにより、有用な医薬等の製造への応用が可能となるものである。