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  • 特開-構造用ジョイントおよび骨格構造体 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066050
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】構造用ジョイントおよび骨格構造体
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/00 20060101AFI20240508BHJP
   C22C 38/04 20060101ALI20240508BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240508BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
B62D25/00
C22C38/04
C22C38/58
C22C38/00 301Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175273
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 賢武
(72)【発明者】
【氏名】松岡 秀明
(72)【発明者】
【氏名】八百川 盾
(72)【発明者】
【氏名】森 広行
(72)【発明者】
【氏名】各務 綾加
(72)【発明者】
【氏名】松尾 康秀
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203BA05
3D203BB12
3D203BB53
3D203BB62
3D203BB64
3D203CA12
3D203CA66
3D203CA75
3D203CB03
3D203CB06
3D203CB09
3D203CB19
(57)【要約】
【課題】骨格構造体の構成部材を強固に連結できる構造用ジョイントを提供する。
【解決手段】本発明は、骨格を構成する構造部材の端部等が結合される連結部を有する鋳鋼からなる構造用ジョイントである。その連結部の最大厚さは0.5~5mmである。鋳鋼全体に含まれるC量は0.05~0.5質量%である。鋳鋼は、さらにMn:0.1~3質量%やSi:0.01~2質量%含んでもよい。構造用ジョイントは、構造部材とのスポット溶接性にも優れる。鋳鋼は、構造部材の成形により生じた鋼板の端材を原料の少なくとも一部に用いて鋳造されると、端材の水平リサイクルが可能となる。これにより、骨格構造体の製造に際して、サーキュラーエコノミーやカーボンニュートラルの推進も図られる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨格を構成する構造部材の端部が結合される連結部を有し、
該連結部の最大厚さは0.5~5mmであり、
Cを0.05~0.5質量%含む鋳鋼からなる構造用ジョイント。
【請求項2】
前記連結部は、前記構造部材とスポット溶接される請求項1に記載の構造用ジョイント。
【請求項3】
前記鋳鋼は、前記構造部材の成形により生じた鋼板の端材を、原料の少なくとも一部とした溶湯を凝固させてなる請求項1に記載の構造用ジョイント。
【請求項4】
前記鋳鋼は、その全体に対して、Mn:0.1~3質量%および/またはSi:0.01~2質量%を含む請求項1に記載の構造用ジョイント。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の構造用ジョイントと、
該構造用ジョイントに連結された複数の構造部材と、
を備える骨格構造体。
【請求項6】
モノコック構造体である請求項5に記載の骨格構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造用ジョイント等に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体は、ラダーフレーム等の車台がないモノコック構造体を基本的な骨格とすることが多い。モノコック構造体は、鋼板をプレス成形した多数の構造部材(各種ピラー、レール、メンバー(フレーム)、サイドシル、センタートンネル、ルーフパネル、アンダーボディ等)を、スポット溶接やビーム溶接等により連結(結合、接合)されてなる。
【0003】
モノコック構造体の機械的性質(特に剛性)は、走行性能の他、安全性(外部から加わる衝撃の吸収性)等の観点からも重要である。構造体の剛性等は、各構造部材の形態や材質等に加えて、構造部材が重なる部分(多重連結部)の構造にも大きく影響される。このため、そのような連結構造に関する提案が多くなされており、例えば、下記の特許文献に関連する記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5―286457
【特許文献2】特開2004-306698
【特許文献3】特開2014-226985
【特許文献4】特開平5―65078
【特許文献5】特開2002-68013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~3は、センターピラーとサイドシルに関する連結構造を提案している。いずれの特許文献にも、センターピラーとサイドシルの連結を補強するためにリンフォースメントを設ける旨の記載はあるが、それらの連結にジョイントを用いる旨の記載はない。
【0006】
特許文献4は、鋼板をプレス成形したフロントピラーとルーフレールを連結するジョイントを提案している。このジョイントは、鋼材より機械的特性が劣る鋳鉄製であるため、全体を肉厚にせざるを得ず、重量増加を招き、軽量化が求められるモノコック構造には適さない。
【0007】
特許文献5は、サッシュ、横フレームおよび縦フレームの各端部を鋳込んで連結することを提案している。この場合も特許文献4と同様に重量増加等を招く。また、特許文献5の場合、鋳造工程を接合工程等と併存させる必要があり効率的ではない。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、骨格を構成する部材の新たな連結構造等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、鋳鋼からなる薄肉なジョイントを用いて骨格を形成することを着想し、これを具現化した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成させるに至った。
【0010】
《構造用ジョイント》
本発明は、骨格を構成する構造部材の端部が結合される連結部を有し、該連結部の最大厚さは0.5~5mmであり、Cを0.05~0.5質量%含む鋳鋼からなる構造用ジョイントである。
【0011】
本発明の構造用ジョイント(単に「ジョイント」ともいう。)は、剛性や強度に優れる鋳鋼からなると共に薄肉である。このジョイントを介して構造部材を連結することにより、複数の構造部材で構成される骨格構造体の機械的特性(剛性、強度等)の向上や軽量化等が図られる。
【0012】
また、このようなジョイントを用いることにより、連結構造の簡素化や連結工程の簡略化、構造部材の形状の自由度拡大(簡素化、直線化等)も図られ得る。そして、ジョイント部分における加工基準点の設定、プラットホーム毎に分けられていた組立工程の一元化、製造工場の省スペース化、構造部材のプレス時の材料歩留りや生産性の向上等が見込まれる。
【0013】
《骨格構造体》
本発明は、骨格構造体(単に「構造体」ともいう。)としても把握される。例えば、本発明は、上述した構造用ジョイントと、該構造用ジョイントに端部等が連結された複数の構造部材と、を備える骨格構造体でもよい。
【0014】
《その他》
特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。また、特に断らない限り、本明細書でいう「x~ymm」はxmm~ymmを意味する。他の単位系についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】解析モデルを示す模式図である。
図1B】解析モデルのスポット溶接部を拡大して示す模式図である。
図1C】解析条件と解析対象(変形量)を示す模式図である。
図2】鋳鋼により試作したジョイントを示す写真である。
図3A】スポット溶接に供した鋳鋼板を示す写真である。
図3B】スポット溶接の通電パターンと通電条件を示す表である。
図3C】スポット溶接部の断面を観察した顕微鏡写真である。
図4】ジョイント、構造部材および骨格構造体を例示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、ジョイント、構造部材、骨格構造体の他、それらの製造方法等にも適宜該当し得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0017】
《構造用ジョイント》
(1)連結部
ジョイントは、構造部材と接続(結合、接合等)される連結部を有する。連結部の配置は、一方向(例えばX方向)、二方向(例えばX方向、Y方向)または三方向(例えばX方向、Y方向、Z方向)のいずれに沿ってなされてもよい。
【0018】
連結部は、構造部材の結合部(端部等)の形状に呼応した形状であれば、平面状でも、曲面状でも、環状等でもよい。構造部材と連結部は、溶接(スポット溶接、ビーム溶接等)の他、嵌合、締結(螺合、リベット結合等)などにより接続されてもよい。
【0019】
連結部は、例えば、最大厚さが0.5~5mm、1~3.5mmまたは1.5~2mm程度となる薄肉からなるとよい。これにより、ジョイントひいては骨格構造体の軽量化、連結部分における段差抑制や形態自由度の拡大等も図られる。なお、構造部材の端部等と連結される連結部以外の部位(例えば、連結部が集合する部分(隅部、基部、起部等)、補強部(リブ等)など)は、連結部より肉厚でもよい。
【0020】
(2)鋳鋼
ジョイントを構成する鋳鋼は、鋳鉄(C:2.14~6.67%)よりもC含有量が少ない(C:2.14%未満)。そのC含有量は、例えば、0.05~0.5%、0.1~0.4%または0.2~0.35%である。Cは、鋳物の強度(硬さ)、焼入性等に影響する。Cが過少ではその効果が乏しく、Cが過多になると延性、靭性の低下等が生じ得る。なお、本明細書でいう化学組成(成分組成)は、特に断らない限り、鋳鋼(鋳物)全体(100質量%)に対する質量割合で示し、単に「%」と表記する。
【0021】
鋳鋼は、普通鋳鋼(炭素鋼鋳鋼)でも合金鋳鋼でもよい。普通鋳鋼は、5元素(C、Si、Mn、P、S)の一種以上と、残部であるFe(不純物を含む)とからなる。Siは、例えば、0.01~2%、0.05~0.8%、0.1~0.6%または0.2~0.4%含まれるとよい。Siは、溶湯の流動性や鋳物の強度向上に寄与する。Siが過少ではその効果が乏しく、Siが過多になると溶接性の低下、脆化等が生じ得る。
【0022】
Mnは、例えば、0.1~3%、0.4~2.7%または0.8~2.4%含まれるとよい。Mnは、鋳物の強度や焼入性を向上させ得る。Mnが過少ではその効果が乏しく、Mnが過多になると溶接性の低下、延性の低下等が生じ得る。
【0023】
なお、P、Sは、特定の作用を意図して添加されてもよいし、不純物として扱われてもよい。Pは、例えば、0.03%以下、0.025%以下または0.02%以下含まれてもよい。Sは、例えば、0.02%以下、0.015%以下または0.01%以下含まれてもよい。
【0024】
普通鋳鋼の化学組成の一例を示すと、その全体を100%として、C:0.05~0.5%、Si:0.01~2%、Mn:0.1~3%、残部:Feおよび不純物である。
【0025】
合金鋳鋼は、5元素以外の合金元素として、例えば、Cr、Mo、Cu、Ni、V、Ni、W、Ti等の1種以上を含む。合金元素の合計含有量は、例えば、0.1~3%、0.5~2%または0.8~1.5%である。具体的にいうと、例えば、Cr:0.05~2%、0.15~1.5%または0.3~0.7%、Mo:0.05~1.5%、0.15~1%または0.2~0.5%等である。
【0026】
合金鋳鋼の化学組成の一例を示すと、その全体を100%として、C:0.1~0.5%、Si:0.2~1%、Mn:1~2%、Cr:0.3~0.7%、残部:Feおよび不純物である。
【0027】
(3)原料
鋳鋼(溶湯)の原料、溶湯の調製方法等は問わない。原料の少なくとも一部にスクラップが利用されてもよい。例えば、スクラップを含む原料を電気炉等で溶解した溶湯を鋳型に注湯後、冷却凝固させて得られたジョイントを用いれば、その製造コストの低減も図られる。
【0028】
そのスクラップに、構造部材の成形により生じた鋼板の端材の少なくとも一部が利用されてもよい。この場合、端材のダウングレードリサイクルではなく、水平リサイクルが可能となり、骨格構造体の製造工程全体について、サーキュラーエコノミー(CE)やCO等の削減によるカーボンニュートラル(CN)の推進が図られる。
【0029】
化学組成の異なる複数種の鋼板の端材が含まれるスクラップを用いて溶湯を調製しても、溶湯の成分組成はあまり変動せず、所望組成の溶湯が比較的安定して調製され得る。
【0030】
(4)補足
ジョイントの形態は、連結される構造部材や配置に応じて調整される。ジョイントの全体または一部は、平面的でもよいし、屈曲や湾曲等していてもよい。ジョイントは、剛性等を確保する補強部を有してもよい。ジョイントは、鋳放しのまま利用されてもよいし、塑性加工、機械加工(除去加工)、表面処理、熱処理等がなされてもよい。ジョイントの鋳造は、非酸化雰囲気(真空雰囲気、不活性雰囲気)でなされてもよいし、酸化雰囲気(大気雰囲気等)でなされてもよい。鋳鋼用の鋳型には、例えば、十分な耐熱性を有するセラミックス型の他、砂型、金型(高融点金属製)等が用いられてもよい。セラミックス型は、繰返し利用可能であると、ジョイントの製造コストも低減され得る。
【0031】
《骨格構造体》
(1)連結
骨格構造体は、ジョイントで連結された複数の構造部材からなる。連結方法は種々あるが、構造部材の端部等をジョイントの連結部に接合(溶接等)することにより、骨格構造体の高剛性化や高強度化が図られる。
【0032】
ジョイントの連結部は薄肉であるため、板材をプレス成形等した構造部材とのスポット溶接に適する。スポット溶接により骨格構造体を効率的に製造できる。スポット溶接の条件は、構造部材の材質、被接合材(ジョイントと構造部材)の厚さ等により調整されるとよい。
【0033】
鋼板(例えば厚さ0.5~3mm)からなる構造部材をジョイントの連結部にスポット溶接する場合なら、例えば、電流値:4~10kAまた5~8kA(電流密度:10~200A/mmさらには20~100A/mm)、加圧力:2~6kNまたは3~5kN、通電時間:25~300msまたは50~200msとしてもよい。
【0034】
Al(合金)板(例えば厚さ0.5~3mm)からなる構造部材をジョイントの連結部にスポット溶接する場合なら、例えば、電流値:11~15kAまたは12~14kA(電流密度:50~300A/mmまたは100~250A/mm )、通電時間:50~600msまたは150~400msとしてもよい。
【0035】
スポット溶接の通電工程は、複数工程に分割してなされてもよい。工程中の電流値や加圧力は、略一定でもよいし、変化してもよい。例えば、本通電工程を第1通電工程と第2通電工程に分割してなされてもよいし、その本通電工程前に接合面間を馴染ませるプレ通電工程等を行なってもよい。また、本通電工程またはその前後に行なう通電工程は、電流値が時間的に変化(上昇、下降)するスロープ(アップスロープ、ダウンスロープ)通電工程でもよい。
【0036】
スポット溶接に用いられる電極(チップ)の形態(形状、大きさ)や材質等は、被接合材の形態や材質等に応じて調整、選択される。例えば、電極の胴部の外径(呼び径)はφ10~20mmまたはφ12~18mmでもよい。電極の先端部の基本形状は、例えば、JIS C9304(1999)に規定されている平面形(F形)、ラジアス形(R形)、ドーム形(D形)、ドームラジアス形(DR形)、円錐台形(CF形)、円錐台ラジアス形(CR形)等でもよい。電極の材質は、例えば、熱伝導性、導電性、強度等に優れる銅合金(クロム銅、ジルコニウム銅、クロム・ジルコニウム銅、アルミナ分散銅、ベリリウム銅等)でもよい。
【0037】
ジョイントの一つの連結部に、構造部材を構成する複数枚の板材(2枚以上の鋼板、鋼板とAl合金板など)が重ねて接合されてもよい。
【0038】
(2)構造部材
構造部材は、ジョイントに連結される限り、その形態、材質、製法等を問わない。構造部材は、例えば、板材をプレス加工した成形品からなる。板材は、鋼板の他、Al合金板等でもよい。
【0039】
鋼板は、例えば、冷間圧延鋼板、熱間圧延鋼板、高強度鋼板、ホットスタンプ鋼板等である。鋼板は表面処理(亜鉛めっき等)がなされていてもよい。Al合金板には、通常、2000系~8000系、特に5000系または6000系が用いられる。5000系なら、例えば、JISに規定されているA5052、A5083、A5005等に相当するAl合金板が用いられる。6000系なら、例えば、JISに規定されているA6022、A6016、A6N01等に相当するAl合金板が用いられる。本明細書でいうAl合金板には、A1000系も含まれる。
【0040】
各板材の板厚は同じでも異なっていてもよい。鋼板の板厚は、例えば0.4~2.5mm、0.6~1.8mmさらには0.8~1.4mmである。Al合金板の板厚は、例えば0.8~3mmさらには1~2mmである。
【0041】
(3)具体例
骨格構造体は、例えば、モノコック構造体である。モノコック構造体は、自動車(二輪車を含む。)、飛行体、鉄道車両、船舶等の移動体に利用される。
【0042】
自動車のモノコック構造体なら、各種のピラー、レール、メンバー(フレーム)、サイドシル、センタートンネル、パネル等を構成する構造部材の二種以上が、それらの多重連結部でジョイントを介して接合される(図4参照)。
【0043】
なお、骨格構造体を構成する全ての構造部材がジョイントを介して連結されている必要はない。また、構造部材の連結部に、接着剤やシーリング剤等の樹脂材が介層、充填、補填等されてもよい。
【実施例0044】
ジョイントの機械的性質またはスポット溶接性を、解析モデルまたは試作した現物を用いて評価した。このような具体例を示しつつ、本発明をさらに詳細に説明する。
【0045】
[第1実施例](数値解析)
(1)モデル
図1Aに示すように、直交三方向の多重接合部を例にとり、その三次元簡易モデルをSpaceClaim(ANSYS社製)を用いて作成した。具体的にいうと、鋼鋳物からなる一体のジョイントを想定したモデル1と、鋼板からなるアングル材の端部を相互に重なってスポット溶接したモデルC1とを作成した。各モデルの詳細なサイズは、図1Aに示した通りである。ジョイントとアングル材は共に板厚:2mmとした。
【0046】
図1Bに示すように、モデルC1は、直交する3つの平面域(連結部)それぞれで、重なる2枚の鋼板が4箇所のスポット溶接部(各ナゲット:φ5mm×厚さ0.1mm)で接合されているとした。
【0047】
(2)解析
図1Cに示すように、各モデルについて、印加する荷重、境界条件(固定端)、解析項目(変形量)等をそれぞれ設定し、ANSYS Mechanical(ANSYS社製)を用いてFEM解析を行なった。その結果を表1にまとめて示した。
【0048】
各モデルの材質は、構造用鋼(ヤング率:200GPa、密度:7.85g/cm)とした。スポット溶接部(ナゲット)も同じ構造用鋼とし、モデルC1の鋼板とスポット溶接部は一体的に連なっている状態とした。なお、表1に示した軸剛性(kN/cm)は、モデル角頂部のX軸に沿った変形量(cm)で荷重(kN)を除して求めた。
【0049】
(3)評価
表1から明らかなように、鋳鋼からなる一体のモデル1は、鋼板からなる構造部材の端部同士をスポット溶接しただけのモデルC1よりも、高剛性で軽量であった。具体的にいうと、モデルC1に対してモデル1は、約12%程度の剛性向上と、約17%程度の軽量化が実現されていた。
【0050】
[第2実施例](鋳造)
モデル1と同形状な鋳鋼製のジョイント(実物)を、次のように試作した。JIS(G 5111-1991)に規定されている構造用高張力炭素鋼(SCMnCr―2A:Fe―1.36%Mn―0.41%Si―0.43%Cr―0.29%C)からなる原料を真空中で溶解させた。得られた溶湯(1580℃)を、モデル1と同形状なキャビティを有する鋳型へ注湯し、冷却凝固させる精密鋳造を行なった。この鋳造は大気雰囲気中で行なった。鋳型には、900℃で焼成させたセラミックス型を用いた。こうして、図2に示す鋳鋼製のジョイント(試料2)を現実に得た。図2からも明らかなように、試作されたジョイントの外観に欠陥(引け巣、クラック等)、形状不良等は観られなかった。
【0051】
[第3実施例](溶接)
(1)被溶接材
鋳鋼のジョイントとプレス鋼板の成形品(構造部材)との溶接性を、次のように確認した。図3Aに示す鋳鋼板と、プレス鋼板とを用意した。鋳鋼板は、キャビティ形状の異なるセラミックス型を用いて、第2実施例の場合と同様に鋳造した。プレス鋼板には、JIS(G 3141-2005)に規定されている4種類の冷間圧延鋼板(SPC270、SPC590、SPC780、SPC1180)を用いた。鋳鋼板の厚さは2mm、プレス鋼板の厚さは1mmとした。いずれも長さ:100mm、幅:30mmとした。
【0052】
(2)スポット溶接
鋳鋼板と各プレス鋼板(板厚:t)とがφ5mm(5√t)のナゲットで接合されるように、図3Bに示す通電パターンに沿って両板をスポット溶接した。具体的にいうと、サーボ加圧式スポット溶接機(愛知産業社製)を用いて、直流電流を制御しつつ、第1通電工程と第2通電工程を行った。
【0053】
第1通電工程は、電流値を6kAから7kAへ直線的に変化させるアップスロープ通電により行なった。第2通電工程は、電流値を7kA(一定)にして行なった。各工程の通電時間は、図3B中の表にまとめて示した。なお、試料33と試料34は第1通電工程のみ行なった。
【0054】
電極による板組の加圧力は、スポット溶接の開始から終了まで3kN(一定)とした。一対の電極にはDR形(JIS C9304)の市販チップ(先端径φ6mm/株式会社ヤマイチ製WWT-CT-155)を用いた。
【0055】
こうしてスポット溶接した試験片(試料31~34)を得た。各試験片の溶接部(ナゲット)の中央付近を切断・処理して、その金属組織を顕微鏡で観察した。それらの観察像(写真)を図3Cにまとめて示した。
【0056】
図3Cから明らかなように、いずれの試料でも溶接不良(ナゲットにおける溶け込みのアンバランス、母材表面に到達する粗大なブローホール、溶接端部の亀裂等)は認められなかった。つまり、プレス鋼板の種類(化学成分等)や溶接条件(通電パターン等)が異なっても、鋳鋼板とプレス鋼板のスポット溶接は良好に行えることが確認された。
【0057】
[第4実施例](機械的性質)
表2に示すように、化学成分の異なる複数の鋳鋼板(100mm×30mm×t2mm)を、第3実施例と同様に精密鋳造により製作した(試料41~45)。溶湯の調製は、端材等のスクラップを利用せず、化学成分が明らかな鉄塊、炭素源、フェロシリコン、フェロマンガン等の原料に用いて行なった。表2に示した化学成分(成分組成)は、得られた鋳鋼板の分析値である。
【0058】
各鋳鋼板から切り出した試験片を用いて引張試験を行い、それぞれの引張特性(機械的性質)を測定した。その結果を表2に併せて示した。
【0059】
鋳鋼板の機械的性質は、その化学成分により異なるが、概ね270~780MPa級のプレス鋼板に相当する強度(引張強さ、0.2%耐力)であった。また、いずれの試料も伸びが7%以上あった。これらの結果から、鋳鋼板も、骨格構造体を構成する構造部材(ジョイント)として十分な信頼性を有することが確認された。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図3C
図4