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  • 特開-軟磁性金属粉体及びその製造方法 図1
  • 特開-軟磁性金属粉体及びその製造方法 図2
  • 特開-軟磁性金属粉体及びその製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066059
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】軟磁性金属粉体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240508BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20240508BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20240508BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240508BHJP
【FI】
C22C38/00 303T
H01F1/147 191
C21D6/00 C
B22F1/00 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175302
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】冨田 祐也
(72)【発明者】
【氏名】筒井 美紀子
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K018BA16
4K018BD01
4K018GA04
4K018KA44
5E041AA04
5E041CA02
5E041HB11
5E041HB17
5E041NN01
5E041NN06
5E041NN15
5E041NN17
5E041NN18
(57)【要約】
【課題】室温での磁気特性を良好に維持しつつ広い温度範囲で安定した磁気特性を有する軟磁性金属粉体及びその製造方法の提供。
【解決手段】軟磁性金属粉体は、質量%で、Feに、Al:6.0~8.0wt%、Si:8.0~10.0wt%を不可避的不純物とともに含有する成分組成を有し、再結晶化を伴う加工歪み組織にてKAM値を0.30~0.70°とした粒状体からなる。軟磁性金属粉体の製造方法は、上記した成分組成の粒状体からなる溶融凝固粉粉体を圧縮加工して加工歪みを導入し、600~900℃の範囲内の温度で磁気焼鈍し再結晶化を伴う加工歪み組織にてKAM値を0.30~0.70°とした粒状体からなる粉体とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Feに、Al:6.0~8.0wt%、Si:8.0~10.0wt%を不可避的不純物とともに含有する成分組成を有し、
再結晶化を伴う加工歪み組織にてKAM値を0.30~0.70°とした粒状体からなることを特徴とする軟磁性金属粉体。
【請求項2】
磁性コアに加工して、磁束密度0.1T、周波数100kHzの条件で測定したコアロスが600kW/m以下であることを特徴とする請求項1記載の軟磁性金属粉体。
【請求項3】
質量%で、Feに、Al:6.0~8.0wt%、Si:8.0~10.0wt%を不可避的不純物とともに含む成分組成の粒状体からなる溶融凝固粉体を圧縮加工して加工歪みを導入し、600~900℃の範囲内の温度で磁気焼鈍し再結晶化を伴う加工歪み組織にてKAM値を0.30~0.70°とした粒状体からなる粉体とすることを特徴とする軟磁性金属粉体の製造方法。
【請求項4】
前記加工歪みの導入は、前記溶融凝固粉体を閉空間内に収容して2~12t/cmの範囲内の面圧を与えて圧縮加工することを特徴とする請求項2記載の軟磁性金属粉体の製造方法。
【請求項5】
磁性コアに加工して、磁束密度0.1T、周波数100kHzの条件で測定したコアロスが600kW/m以下であることを特徴とする請求項3又は4に記載の軟磁性金属粉体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Fe-Si-Al合金からなるFe基軟磁性金属粉体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換回路に使用されるパワーインダクタやリアクトルの磁性コアには、センダスト合金や、アモルファス又はアモルファス+ナノ結晶組織を利用した合金からなる軟磁性合金が使用されている。かかる合金では、鉄損、すなわち、磁性コアでの発熱によるエネルギー損失を低く抑え、高い電力効率や発熱抑制が可能となっている。一方、近年、電気自動車の車載電気回路における電力変換機構の昇圧リアクトルなどにも軟磁性合金が使用されているが、動作環境が従来以上に過酷となり、例えば、電気自動車では、-40~125℃といった広い温度範囲における安定性が要求されることになる。
【0003】
例えば、特許文献1では、通信機器や電子機器の使用時の周辺温度の変化や発熱に対して安定した磁気特性、例えば、自動車では-40~150℃、その他では-40~85℃での磁気特性の安定性が要求されることを述べた上で、-40~85℃の温度範囲における透磁率の温度係数Kを調整したFe-Si-Al合金からなるFe基軟磁性金属粉体を開示している。Fe中に、Al:6~7.5wt%、Si:8.5~9.5wt%を含有し、かつ、AlとSiの合計含有量を15~16.5wt%とした成分組成の母合金をアトマイズ法などで粉体に成形し、アトライターなどで扁平化処理後、500~900℃で歪取り熱処理を行って、平均粒子径、アスペクト比、かさ密度/真密度比を調整して、所定の温度範囲での温度係数Kを調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-111766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、典型的には、Feに、Al:5.5wt%、Si:9.5wt%を含有させたセンダスト合金は、広く通信機器や電子機器に使用されてきたが、電気自動車の車載電気回路での使用にも耐えるよう、室温での良好な磁気特性を維持しつつ、広い温度範囲での磁気特性、特に、損失特性の安定性が求められた。
【0006】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、室温での良好な磁気特性を維持しつつ広い温度範囲で安定した磁気特性を有する軟磁性金属粉体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による軟磁性金属粉体は、質量%で、Feに、Al:6.0~8.0%、Si:8.0~10.0%を不可避的不純物とともに含有する成分組成を有し、
再結晶化を伴う加工歪み組織にてKAM値を0.30~0.70°とした粒状粉体からなることを特徴とする。
【0008】
かかる特徴によれば、母材の磁気異方性と、歪みによる磁気異方性とをバランスさせて室温での磁気特性を良好に維持しつつ、広い温度範囲で安定した磁気特性を示すのである。
【0009】
上記した発明において、磁性コアに加工して、磁束密度0.1T、周波数100kHzの条件で測定したコアロスが600kW/m以下であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、室温での磁気特性を良好に維持できて、広い温度範囲で安定した磁気特性を示すのである。
【0010】
また、本発明による軟磁性金属粉体の製造方法は、質量%で、Feに、Al:6.0~8.0%、Si:8.0~10.0%を不可避的不純物とともに含む成分組成の粒状体からなる溶融凝固粉体を圧縮加工して加工歪みを導入し、600~900℃の範囲内の温度で磁気焼鈍して再結晶化を伴う加工歪み組織にてKAM値を0.30~0.70°とした粒状体からなる粉体とすることを特徴とする。
【0011】
かかる特徴によれば、母材の磁気異方性と符号の異なる程度に歪みによる磁気異方性を圧縮加工で生じせしめて、これを磁気焼鈍でバランスさせることで室温での磁気特性を良好に維持しつつ、広い温度範囲で安定した磁気特性を示す軟磁性金属粉体を得られるのである。
【0012】
上記した発明において、前記加工歪みの導入は、前記溶融凝固粉体を閉空間内に収容して2~12t/cmの範囲内の面圧を与えて圧縮加工することを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、簡便な制御で、室温での磁気特性を良好に維持しつつ、広い温度範囲で安定した磁気特性を示す軟磁性金属粉体を得られるのである。
【0013】
上記した発明において、磁性コアに加工して、磁束密度0.1T、周波数100kHzの条件で測定したコアロスが600kW/m以下であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、室温での磁気特性を良好に維持できて、広い温度範囲で安定した磁気特性を示す軟磁性金属粉体を得られるのである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実効磁気異方性と母材の磁気異方性及び歪みによる磁気異方性の関係を説明する図である。
図2】製造試験に用いた合金の成分とコアロスの測定結果の表である。
図3】製造試験における圧縮加工の圧力と磁気焼鈍の温度による金属粉体及び磁性コアの性能試験の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の例による軟磁性金属粉体及びその製造方法について、図1を参照して説明する。
【0016】
一般に、センダストによる軟磁性金属粉体は、得られる磁性コアにおいて、コアロスをはじめとする磁気特性の温度依存性が大きい。様々な使用環境において安定した磁気特性を得るために、この温度依存性を低減することが要求される。一方、温度依存性の低減に伴って室温でのコアロスが大きくなってしまう傾向も見られた。
【0017】
ここで、コアロスPは、以下の式のように実効磁気異方性K1,effの絶対値に比例する。
【0018】
【数1】
【0019】
また、実効磁気異方性は、磁性コアの母材の磁気異方性K1,m及び歪による磁気異方性K1,σの和である。
【0020】
【数2】
【0021】
ここで、図1に示すように、実効磁気異方性K1,effは、磁気焼鈍の熱処理温度を高くするとともに単調減少し、再結晶化温度を超えた熱処理温度では増加に転じる(図1の実線参照)。つまり、母材の磁気異方性K1,mは熱処理によって緩和されるから、熱処理温度に依存して減少していく。一方、歪みの磁気異方性K1,σは、母材の磁気異方性K1,mとは正負の符号を逆にするとともに、再結晶化の開始によって緩和される。そのため、これらの和である実効磁気異方性K1,effは、再結晶化温度を超えた熱処理温度で歪みの磁気異方性K1,σの変化分だけ増加に転じることになる。
【0022】
ところで、実効磁気異方性K1,effがゼロを超えて単調減少するように、導入する歪量を変えて歪みの磁気異方性K1,σを調整すれば、実効磁気異方性K1,effの大きさ、つまり、その「絶対値」(図1の点線参照)を小さく出来る(図1のA領域)。そこで、発明者らは、磁性コアの想定される使用温度範囲である-40~125℃の範囲におけるコアロスPの温度依存性を小さく抑え得る合金の成分組成を検討し、かかる成分組成の合金に対して、磁気異方性K1,mに対して歪みの磁気異方性K1,σを調整、つまり、導入する歪み量を調整し、実効磁気異方性K1,effがゼロ近傍となるようにして磁気焼鈍の熱処理をすることで、コアロスPを小さく、かつ温度依存性を小さくできることに着目した。
【0023】
以下にそして、上記したようなコアロスPを小さく、かつ温度依存性を小さくするプロセスを具体的に説明する。
【0024】
まず、軟磁性金属粉体を得るための合金を精錬し、粉体を得る。合金の成分組成としては、Feに、Al:6.0~8.0質量%、Si:8.0~10.0質量%を不可避的不純物とともに含むものである。そしてかかる合金を溶融し凝固させ、溶融凝固粉体を得る。溶融凝固粉体は、アトマイズ法などの溶融した合金を凝固させて粒状体とする粉体の製造方法によって得る。つまり、粉体の製造方法のうち、比較的球状に近い粒状体を得る方法を用いる。
【0025】
次に、得られた溶融凝固粉体を圧縮加工する。ここでは、溶融凝固粉体を閉空間内に収容して、粉体の粒のそれぞれが互いに固着しないようにするとともに、各粒について比較的球状に近い粒状体の形状を維持したまま圧縮加工し、加工歪みを導入する。圧縮加工においては、2~12t/cmの範囲内の面圧を与えることとする。例えば、冷間等方圧加工法などの方法を用いることができる。
【0026】
最後に、600~900℃の範囲内の所定温度で磁気焼鈍すると、再結晶化を伴う加工歪み組織を有する粉体となる。圧縮加工で導入した歪みを駆動力に再結晶化させるが、得られた加工歪み組織にてKAM(Kernel Average Misorientation)値を0.30~0.70°とするように、上記した圧縮加工及び磁気焼鈍の条件を定める。特に、再結晶化した部分を有するとともに、加工歪みの残存する部分も併せて有する組織とする。このようにして、歪による磁気異方性を調整するのである。なお、KAM値は、複数の測定点において結晶方位を測定し、ある測定点とこれに隣接する他の測定点全てとの間の結晶方位の差の平均値とされる。
【0027】
以上のように、圧縮加工によって歪みを与え、磁気焼鈍で再結晶化させて歪みを部分的に開放し歪みによる磁気異方性を調整できる。つまり、上記した実効磁気異方性の「絶対値」を小さくするよう、歪みによる磁気異方性をバランスさせることができる。その結果、得られる磁性コアにおいて、室温での磁気特性を良好に維持できて、広い温度範囲で安定した磁気特性を示すような軟磁性金属粉体を得られるのである。特に、室温でのコアロスをセンダストと同等としつつ、さらにコアロスの温度依存性をセンダストよりも小さくすることができる。
【0028】
[製造試験]
上記した軟磁性金属粉体を含む金属粉体を製造し、主として磁性コアとしたときのコアロスについて調査した結果について説明する。
【0029】
図2に示す含有量のSi及びAlを含むFe-Si-Al合金をそれぞれ溶製し、ガスアトマイズ法により金属粉体を製造し、目開き45μmの篩を用いてこれを通過したものに分級した。得られた金属粉体には9.0t/cmの圧力での圧縮加工を施し、750℃にて磁気焼鈍を行った。さらに、エポキシ樹脂を用いて、外径28mm、内径20mm、高さ5mmのリング状の磁性コアを製造した。
【0030】
得られた磁性コアのそれぞれについてのコアロスを測定した。岩通計測株式会社製のB-Hアナライザ(SY-8258)を用いて、まず、室温にて磁束密度0.1T、周波数100kHzの条件でコアロスを測定した。次いで、-40℃、-20℃、0℃、25℃、50℃、75℃、100℃、125℃においてそれぞれ同様にコアロスを測定し、コアロスの最大値と最小値の比(最大値/最小値)を算出し、温度依存性とした。
【0031】
合金番号1は、センダストの組成であり、この結果を参考として、室温でのコアロスを600kW/m以下とし、且つ、コアロスの温度依存性を1.65以下とするものを合格とした。その結果、合金番号で2、4、9の3種が合格となった。この結果に基づき、本実施例で検討するFe-Si-Al合金の合金成分を、Al:6.0~8.0質量%、Si:8.0~10.0質量%の範囲内と定めた。これは、母材の磁気異方性を同等とし、圧縮加工と磁気焼鈍による歪による磁気異方性の調整を同様にできる範囲として考慮したものである。
【0032】
次いで、図3に示すように、合金番号2の合金を用いて圧縮加工の圧力及び磁気焼鈍の温度を変えて同様の製造方法で金属粉体を得て、粉体の状態でのKAM値を測定した。KAM値は、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いたEBSD(後方散乱電子回折)解析によって得た。さらに、上記と同様に磁性コアを製造し、室温でのコアロス、コアロスの温度依存性を測定した。
【0033】
まず、磁気焼鈍の温度を400℃又は500℃とした比較例1、2、8、9、12、13、15、16、18、19について、室温でのコアロスが大きかった。磁気焼鈍の温度が低く、再結晶化を生じなかったためと考えられる。
【0034】
一方、磁気焼鈍の温度を1000℃とした比較例7、11、14、17、24については、磁気焼鈍において粉体の粒同士が互いに焼結してしまい磁性コアを形成出来るような粉体とならなかった。(そのため、これらについては、磁性コアの製造及びコアロスの測定を行っていない。)
【0035】
磁気焼鈍の温度を600~900℃とし、圧縮加工の圧力を1MPa/cmとした比較例3~6について、室温でのコアロスが大きかった。加工歪みの導入が充分でなかったため、再結晶化を伴う加工歪み組織を得られず、また、上記した実効磁気異方性K1,effをゼロとする温度も高く、上記した磁気焼鈍の温度では実効磁気異方性が小さくならず、コアロスも大きくなったものと考えられる。
【0036】
圧縮加工の圧力を15MPa/cmとした比較例20~23について、室温でのコアロスが大きかった。圧縮加工にて導入された加工歪みが大きく、実効磁気異方性K1,effをゼロとする温度が低温側に大きく移動し、再結晶化を生じさせる程度の磁気焼鈍の温度においてもコアロスを小さくできず、コアロスも大きくなったものと考えられる。
【0037】
これらに対し、実施例1~12については、KAM値を0.30~0.70°の範囲内としそれぞれ所定の温度で磁気焼鈍したところ、室温でのコアロスを600kW/m以下、コアロスの温度依存性を1.65以下とできた。つまり、センダストによる軟磁性金属粉体と比較して、磁性コアとしたときの室温でのコアロスを同等程度に維持しつつ、コアロスの温度依存性を小さくできた。これらに基づき、磁気焼鈍の温度を600~900℃の範囲内とするのに併せ、圧縮加工の圧力を2~12MPaの範囲内とすることが好ましいことが判った
【0038】
以上、本発明の代表的な実施例を説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。

図1
図2
図3