(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066063
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】匂い評価システム及び匂い評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/14 20060101AFI20240508BHJP
G01N 5/02 20060101ALI20240508BHJP
G01N 33/00 20060101ALN20240508BHJP
G06Q 30/0601 20230101ALN20240508BHJP
【FI】
G01N33/14
G01N5/02 A
G01N33/00 C
G06Q30/0601 330
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175316
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】519277520
【氏名又は名称】株式会社リビングロボット
(74)【代理人】
【識別番号】100186510
【弁理士】
【氏名又は名称】豊村 祐士
(72)【発明者】
【氏名】川内 康裕
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅愉
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン・サトシ シーブ
(72)【発明者】
【氏名】内山 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】丸本 智彦
(72)【発明者】
【氏名】遠山 理
【テーマコード(参考)】
5L030
5L049
【Fターム(参考)】
5L030BB24
5L049BB24
(57)【要約】
【課題】計測対象の匂い情報に基づき、当該計測対象と匂いが類似する他の対象の匂いを利用者に想起させやすく提示することが可能な匂い評価システムを提供する。
【解決手段】
少なくとも1つの基準対象の匂いに関する基準匂い情報、及び複数の抽出対象の各々の匂いに関する第1情報が予め記憶されたサーバ記憶部7aと、計測対象の匂いを検出する匂いセンサ1aと、制御部(サーバ制御部7b,情報端末制御部6a)と、を備え、サーバ制御部7bは、匂いセンサの出力に基づく計測匂い情報と第1情報とに基づき、計測対象と複数の抽出対象との間で第1匂い類似度を算出し、第1匂い類似度が第1の所定値より大きい抽出対象を利用者に提示する提示候補として抽出し、情報端末制御部6aは、基準匂い情報を基準として、提示候補に含まれる抽出対象についての第1情報の相対的な関係を可視化して、利用者に提示する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの基準対象の匂いに関する基準匂い情報、及び複数の抽出対象の各々の匂いに関する第1情報が予め記憶された記憶部と、
計測対象の匂いを検出する匂いセンサと、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記匂いセンサの出力に基づく計測匂い情報と前記第1情報とに基づき、前記計測対象と複数の前記抽出対象との間で第1匂い類似度を算出し、前記第1匂い類似度が第1の所定値より大きい前記抽出対象を利用者に提示する提示候補として抽出し、
前記基準匂い情報を基準として、前記提示候補に含まれる前記抽出対象についての前記第1情報の相対的な関係を可視化して、利用者に提示することを特徴とする匂い評価システム。
【請求項2】
少なくとも1つの基準対象の匂いに関する基準匂い情報、及び複数の抽出対象の各々の匂いに関する第1情報が予め記憶された記憶部と、
計測対象の匂いを検出する匂いセンサと、
制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記匂いセンサの出力に基づく計測匂い情報と前記第1情報とに基づき、前記計測対象と複数の前記抽出対象との間で第1匂い類似度を算出し、前記第1匂い類似度が第1の所定値より大きい前記抽出対象を第1候補群として抽出し、
前記基準匂い情報と前記第1情報とに基づき、前記基準対象と複数の前記抽出対象との間で第2匂い類似度を算出し、前記第2匂い類似度が第2の所定値より大きい前記抽出対象を第2候補群として抽出し、
前記第1候補群と前記第2候補群とに共通に含まれる前記抽出対象を利用者に提示する提示候補として抽出し、
前記基準匂い情報を基準として、前記提示候補に含まれる前記抽出対象についての前記第1情報の相対的な関係を可視化して、利用者に提示することを特徴とする匂い評価システム。
【請求項3】
前記制御部は、更に前記基準匂い情報に対する前記計測匂い情報の相対的な関係を可視化して、前記利用者に提示することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の匂い評価システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記計測匂い情報と実質的に同一の前記第1情報が付された前記抽出対象を前記提示候補から除外することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の匂い評価システム。
【請求項5】
前記計測対象の画像情報を取得する撮像部を更に備え、
前記記憶部には、複数の前記抽出対象の各々の画像に関する第2情報が予め記憶され、
前記制御部は、
前記計測対象の画像情報と前記第2情報とに基づき画像類似度を算出し、前記画像類似度に基づいて前記計測対象と一致すると判断した前記抽出対象を前記提示候補から除外することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の匂い評価システム。
【請求項6】
前記利用者の味覚の好みに関する味覚嗜好情報を入力する入力部を更に備え、
前記記憶部には、更に前記抽出対象の各々の味覚に関する第3情報が予め記憶され、
前記制御部は、
前記味覚嗜好情報と前記第3情報とに基づいて味覚類似度を算出し、前記味覚類似度に基づいて、前記提示候補を絞り込むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の匂い評価システム。
【請求項7】
前記味覚嗜好情報及び前記第3情報は、数値化された甘味、酸味、苦味、うま味、収斂味のうち少なくとも一つを含むM次元ベクトルであり、
前記制御部は、M次元の前記味覚嗜好情報と前記第3情報とに基づいて、前記味覚類似度を算出することを特徴とする請求項6に記載の匂い評価システム。
【請求項8】
前記匂いセンサは、互いに異なる匂い物質が脱吸着するN個のセンサモジュールを備えており、
前記匂いセンサはN次元の計測匂いベクトルを出力し、
前記第1情報は、N次元の記憶匂いベクトルを構成し、
前記制御部は、N次元の前記計測匂いベクトルと前記記憶匂いベクトルとに基づいて、前記第1匂い類似度を算出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の匂い評価システム。
【請求項9】
前記第1情報と基準匂い情報とは、N次元の記憶匂いベクトルを構成し、
前記制御部は、N次元の前記記憶匂いベクトルに基づいて、前記第2匂い類似度を算出することを特徴とする請求項2に記載の匂い評価システム。
【請求項10】
前記抽出対象は、前記基準匂い情報及び前記第1情報に基づいて複数の抽出対象群に分類され、
前記制御部は、
各々の前記抽出対象群について、前記抽出対象群に含まれる前記基準匂い情報及び前記第1情報に基づいて、前記抽出対象群を代表する代表座標を算出し、
前記代表座標のうちの所定の二つを結ぶ線分を第1座標軸に設定し、前記基準匂い情報に対する、前記提示候補に含まれる前記抽出対象についての前記第1情報の相対的な関係を可視化することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の匂い評価システム。
【請求項11】
前記基準対象は複数であって、
前記制御部は、
前記計測匂い情報と複数の前記基準対象の基準匂い情報とに基づき、前記計測対象と複数の前記基準対象との間で第3匂い類似度を算出し、
前記第3匂い類似度が最も大きい前記基準対象が含まれる前記抽出対象群の前記代表座標と他の前記代表座標とを結ぶ線分のうち、前記計測匂い情報に基づき決定される座標と最も近い線分を前記第1座標軸として設定することを特徴とする請求項10に記載の匂い評価システム。
【請求項12】
前記制御部は、
前記第1座標軸の設定に際して参照された前記抽出対象群を除く二つの前記抽出対象群の前記代表座標を結ぶ線分のうち、前記計測匂い情報に基づき決定される座標と最も近い線分を、第2座標軸として設定することを特徴とする請求項11に記載の匂い評価システム。
【請求項13】
前記基準対象を、前記抽出対象のうち前記利用者における匂いに関する認知度が相対的に高いものとしたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の匂い評価システム。
【請求項14】
少なくとも1つの基準対象の匂いに関する基準匂い情報、及び複数の抽出対象の各々の匂いに関する第1情報を予め記憶し、
匂いセンサで計測対象の匂いを検出し、
前記匂いセンサの出力に基づく計測匂い情報と前記第1情報とに基づき、前記計測対象と複数の前記抽出対象との間で第1匂い類似度を算出し、
前記第1匂い類似度が第1の所定値より大きい前記抽出対象を利用者に提示する提示候補として抽出し、
前記基準匂い情報を基準として、前記提示候補に含まれる前記抽出対象についての前記第1情報の相対的な関係を可視化して、利用者に提示することを特徴とする匂い評価方法。
【請求項15】
少なくとも1つの基準対象の匂いに関する基準匂い情報、及び複数の抽出対象の各々の匂いに関する第1情報を予め記憶し、
匂いセンサで計測対象の匂いを検出し、
前記匂いセンサの出力に基づく計測匂い情報と前記第1情報とに基づき、前記計測対象と複数の前記抽出対象との間で第1匂い類似度を算出し、
前記第1匂い類似度が第1の所定値より大きい前記抽出対象を第1候補群として抽出し、
前記基準匂い情報と前記第1情報とに基づき、前記基準対象と複数の前記抽出対象との間で第2匂い類似度を算出し、前記第2匂い類似度が第2の所定値より大きい前記抽出対象を第2候補群として抽出し、
前記第1候補群と前記第2候補群とに共通に含まれる前記抽出対象を利用者に提示する提示候補として抽出し、
前記基準匂い情報を基準として、前記提示候補に含まれる前記抽出対象についての前記第1情報の相対的な関係を可視化して、利用者に提示することを特徴とする匂い評価方法。
【請求項16】
前記基準対象を、前記抽出対象のうち前記利用者における匂いに関する認知度が相対的に高いものとしたことを特徴とする請求項14または請求項15に記載の匂い評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測対象としての匂い発生源の匂いを評価する匂い評価システム、及び匂い評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばワインやウイスキーといった嗜好性が高い飲料においては、その特徴あるいは個性を表現する言葉が多数存在する。特にワインは、原料となる葡萄の品種が非常に多く、醸造される国・地域も多く、更に生産者の醸造方法の工夫等によっても味わいや香りが変化する。このことから、色、香り、味わい、余韻等、ワインの個性を表現する非常に多くの言葉が用いられる。この言葉を用いることで、自己の好みのワインを具体的に表現でき、ワインを購入する際には店員等に伝えやすく、レストラン等でワインを注文する際には、ソムリエに伝えやすくなる。
【0003】
ここで例えば「味わい」においては、赤ワインに関してフルボディ、ミディアムボディ、ライトボディといった表現が一般的であり、また白ワインに関しては甘口・辛口を硬さで表現することもある。他方、「香り」においては、例えば果物や花・植物に例える言葉が用いられる。このような言葉に基づき、ワインの一般的な香りを視覚的に表現したものとして、例えば「ワインアロマチャート」が知られている(https://aromaster.com/ja/)。
【0004】
匂いを評価する技術に関して、例えば、成分Bを含有する飲食品Asのレトロネーザルアロマ(口腔香気、口中香、後香)を試料ガスaとし、前記飲食品Asと同種の飲食品であり、かつ前記成分Bを含有する飲食品Cのオルソネーザルアロマ(鼻腔香気、たち香)、前記成分Bのオルソネーザルアロマ、又は前記飲食品Asのオルソネーザルアロマを基準ガスbとし、互いに異なる匂い成分の応答特性を有する複数の匂いセンサを備えた匂い分析装置によって、前記試料ガスa及び前記基準ガスbの複数の前記匂い成分に関する分析を行う工程と、前記匂い分析装置による前記試料ガスaの分析結果及び前記基準ガスbの分析結果に基づいて、前記試料ガスaの前記基準ガスbに対する匂いの類似度及び前記試料ガスaにおける該基準ガスbに対応する匂いの強度のうち、少なくとも一方を求める工程と、を含む飲食品の評価方法が知られている。(特許文献1)
【0005】
特許文献1によれば、飲食品の風味は、食したときに鼻腔から抜け出る気体が嗅覚器に作用して感じられる匂い、すなわちレトロネーザルアロマに大きく影響を受けるとして、飲食品Asのレトロネーザルアロマである試料ガスaの基準ガスbに対する匂いの類似度及び試料ガスaにおける該基準ガスbに対応する匂いの強度のうち、少なくとも一方を求めることにより、ヒトが感じる飲食品Asの風味に相応した風味評価を、客観的、且つ、簡便に行うことができるとしている。
【0006】
また、匂いを分類する技術に関して、例えば、匂いの質を分類した複数の匂いグループの中から測定対象の匂いの質の属する匂いグループを弁別する匂い弁別方法であって、匂いの質に対して互いに異なる感応特性を持ち匂いの強さに応じた出力値を出力するN個の匂いセンサを準備する匂いセンサ準備工程と、M個の匂いグループに夫々に属するM個の測定サンプルの各々毎に前記測定サンプルの匂いを測定したN個の前記匂いセンサの出力値であるN個のサンプル出力値を基礎として演算手続きにより得られるデータ列であるM組のサンプルデータ列をM個の前記匂いグループに各々関連づけて予め記憶するサンプル記憶工程と、測定対象の匂いを測定したN個の前記匂いセンサの出力値を基礎として前記演算手続きにより得られるデータ列である測定データ列を生成する測定データ列生成工程と、M組の前記サンプルデータ列の中から前記測定データ列と良い相関を持った1組の前記サンプルデータ列を選定し選定された前記サンプルデータ列に関連づけられた前記匂いグループを特定する匂いグループ特定工程と、を備えることを特徴とする匂い弁別方法が知られている。(特許文献2)
【0007】
特許文献2によれば、簡易な構成または簡易な手順で、匂いを弁別し、また匂い評価値を導き出すことができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-012090号公報
【特許文献2】特開2007-218704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載された技術では、試料ガスの基準ガスに対する匂いの類似度を求めているものの、試料ガスの匂いと基準ガスの匂いとを比較するに留まっている。
【0010】
また特許文献2に記載された技術では、N個の匂いセンサを用い、M個の匂いグループのそれぞれに属するM個の測定サンプル毎に、N個のサンプル出力値により得られるM組のサンプルデータ列を匂いグループに各々関連づけて記憶し、測定対象の匂いを測定したN個の匂いセンサの出力値に基づいて、M組のサンプルデータ列の中から測定データ列と相関の高い1組のサンプルデータ列に関連づけられた匂いグループを特定しているが、あくまでも測定された匂いを特定の匂いグループに分類しているにすぎない。
【0011】
さて、昨今「ネットショップ」や「ネット通販」といった電子商取引(eコマース)が盛んに利用されている。電子商取引を利用して物品を購入する場合、利用者は現物を手に取ることはできず、当該物品の購入に際して、その味や匂いを確かめることができない。特に利用者の嗜好が購買行動に大きく反映される物品の香りや匂いについては、購買を促すレコメンドの際に、利用者に訴求しにくいのが現状である。
【0012】
具体的には、特定の物品(例えば、飲食店等で提供されたワイン)の匂いを計測可能な環境下において、利用者に対して当該物品に類似する匂いをもつ他の物品の購入をレコメンドするような場合、特許文献1や特許文献2に記載された技術を用いることで、利用者に対して特定の物品が属する匂いグループを提示することや、特定の物品の匂いに類似する匂いを発する他の物品を提示することは可能だと考えられる。
【0013】
しかしながら、利用者に対して特定の匂いグループに属する他の物品や、特定の物品に類似する匂いを発する他の物品(あるいは特定の物品と他の物品との間で算出される匂いの類似度)を提示したとしても、利用者は当該情報のみを手掛かりとして当該他の物品の匂いを認識(想起・想像)することは難しい。そのような状況において、利用者に対して当該他の物品をレコメンドしたとしても具体的な購買行動には結びつきにくい、という課題があった。
【0014】
本発明は、このような従来技術の課題を解決するべく案出されたものであり、計測対象の匂い情報に基づき、当該計測対象と匂いが類似する他の対象の匂いを利用者に想起させやすく提示することが可能な匂い評価システム及び匂い評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するためになされた本発明は、少なくとも1つの基準対象の匂いに関する基準匂い情報、及び複数の抽出対象の各々の匂いに関する第1情報が予め記憶された記憶部と、計測対象の匂いを検出する匂いセンサと、制御部と、を備え、前記制御部は、前記匂いセンサの出力に基づく計測匂い情報と前記第1情報とに基づき、前記計測対象と複数の前記抽出対象との間で第1匂い類似度を算出し、前記第1匂い類似度が第1の所定値より大きい前記抽出対象を利用者に提示する提示候補として抽出し、前記基準匂い情報を基準として、前記提示候補に含まれる前記抽出対象についての前記第1情報の相対的な関係を可視化して、利用者に提示する匂い評価システムである。
【0016】
これによって、基準対象として大衆の認知度が高い物品を選定することで、利用者は、基準対象を介して抽出対象としての物品の匂いを想起しやすくなる。
【0017】
また、本発明は、少なくとも1つの基準対象の匂いに関する基準匂い情報、及び複数の抽出対象の各々の匂いに関する第1情報が予め記憶された記憶部と、計測対象の匂いを検出する匂いセンサと、制御部と、を備え、前記制御部は、前記匂いセンサの出力に基づく計測匂い情報と前記第1情報とに基づき、前記計測対象と複数の前記抽出対象との間で第1匂い類似度を算出し、前記第1匂い類似度が第1の所定値より大きい前記抽出対象を第1候補群として抽出し、前記基準匂い情報と前記第1情報とに基づき、前記基準対象と複数の前記抽出対象との間で第2匂い類似度を算出し、前記第2匂い類似度が第2の所定値より大きい前記抽出対象を第2候補群として抽出し、前記第1候補群と前記第2候補群とに共通に含まれる前記抽出対象を利用者に提示する提示候補として抽出し、前記基準匂い情報を基準として、前記提示候補に含まれる前記抽出対象についての前記第1情報の相対的な関係を可視化して、利用者に提示するようにしたものである。
【0018】
これによって、基準対象として大衆の認知度が高い物品を選定することで、利用者は、基準対象を介して抽出対象としての物品の匂いを想起しやすくなる。
【0019】
また、本発明は、前記制御部は、更に前記基準匂い情報に対する前記計測匂い情報の相対的な関係を可視化して、前記利用者に提示するようにしたものである。
【0020】
これによって、計測対象、基準対象、抽出対象の全体的な関係を俯瞰することが可能となる。
【0021】
また、本発明は、前記制御部は、前記計測匂い情報と実質的に同一の第1情報が付された前記抽出対象を前記提示候補から除外するようにしたものである。
【0022】
これによって、レコメンド等において計測対象と抽出対象との情報が二重に表示され、利用者が計測対象に係る物品を再度購入する等の不具合が防止される。
【0023】
また、本発明は、前記計測対象の画像情報を取得する撮像部を更に備え、前記記憶部には、複数の前記抽出対象の各々の画像に関する第2情報が予め記憶され、前記制御部は、前記計測対象の画像情報と前記第2情報とに基づき画像類似度を算出し、前記画像類似度に基づいて前記計測対象と一致すると判断した前記抽出対象を前記提示候補から除外するようにしたものである。
【0024】
これによって、レコメンド等において計測対象と抽出対象との情報が二重に表示され、利用者が計測対象に係る物品を再度購入する等の不具合が防止される。
【0025】
また、本発明は、前記利用者の味覚の好みに関する味覚嗜好情報を入力する入力部を更に備え、前記記憶部には、更に前記抽出対象の各々の味覚に関する第3情報が予め記憶され、前記制御部は、前記味覚嗜好情報と前記第3情報とに基づいて味覚類似度を算出し、前記味覚類似度に基づいて、前記提示候補を絞り込むようにしたものである。
【0026】
これによって、利用者が好む味覚をもつ対象を抽出することが可能となる。
【0027】
また、本発明は、前記味覚嗜好情報及び前記第3情報は、数値化された甘味、酸味、苦味、うま味、収斂味のうち少なくとも一つを含むM次元ベクトルであり、前記制御部は、M次元の前記味覚嗜好情報と前記第3情報とに基づいて、前記味覚類似度を算出するようにしたものである。
【0028】
これによって、M次元ベクトル同士を比較する単純な処理で、味覚類似度を算出することが可能となる。
【0029】
また、本発明は、前記匂いセンサは、互いに異なる匂い物質が脱吸着するN個のセンサモジュールを備えており、前記匂いセンサはN次元の計測匂いベクトルを出力し、前記第1情報は、N次元の記憶匂いベクトルを構成し、前記制御部は、N次元の前記計測匂いベクトルと前記記憶匂いベクトルとに基づいて、前記第1匂い類似度を算出するようにしたものである。
【0030】
これによって、N次元ベクトル同士を比較する単純な処理で、計測匂いベクトルと記憶匂いベクトルとの類似度を算出することが可能となる。
【0031】
また、本発明は、前記第1情報と基準匂い情報とは、N次元の記憶匂いベクトルを構成し、前記制御部は、N次元の前記記憶匂いベクトルに基づいて、前記第2匂い類似度を算出するようにしたものである。
【0032】
これによって、N次元ベクトル同士を比較する単純な処理で、記憶匂いベクトル同士の類似度を算出することが可能となる。
【0033】
また、本発明は、前記抽出対象は、前記第1情報に基づいて複数の抽出対象群に分類され、前記制御部は、各々の前記抽出対象群について、前記抽出対象群に含まれる前記抽出対象の前記第1情報に基づいて、前記抽出対象群を代表する代表座標を算出し、前記代表座標のうちの所定の二つを結ぶ線分を第1座標軸に設定し、前記基準匂い情報に対する、前記提示候補に含まれる抽出対象についての前記第1情報の相対的な関係を可視化するようにしたものである。
【0034】
これによって、基準対象や抽出対象がプロットされる際の座標軸が明確に定義され、利用者は、ワインの匂いをより想起しやすくなる。
【0035】
また、本発明は、前記基準対象は複数であって、前記制御部は、前記計測匂い情報と複数の前記基準対象の基準匂い情報とに基づき、前記計測対象と複数の前記基準対象との間で第3匂い類似度を算出し、前記第3匂い類似度が最も大きい前記基準対象が含まれる前記抽出対象群の前記代表座標と他の前記代表座標とを結ぶ線分のうち、前記計測匂い情報に基づき決定される座標と最も近い線分を前記第1座標軸として設定するようにしたものである。
【0036】
これによって、2つの抽出対象群のそれぞれが占める空間の中間に、計測匂い情報が位置するような線分を座標軸として設定することが可能となる。
【0037】
また、本発明は、前記制御部は、前記第1座標軸の設定に際して参照された前記抽出対象群を除く二つの前記抽出対象群の代表座標を結ぶ線分のうち、前記計測匂い情報に基づき決定される座標と最も近い線分を、第2座標軸として設定するようにしたものである。
【0038】
これによって、計測匂い情報に対して匂いについての関連性が高い線分を座標軸として設定することが可能となる。
【0039】
また、本発明は、少なくとも1つの基準対象の匂いに関する基準匂い情報、及び複数の抽出対象の各々の匂いに関する第1情報を予め記憶し、匂いセンサで計測対象の匂いを検出し、前記匂いセンサの出力に基づく計測匂い情報と前記第1情報とに基づき、前記計測対象と複数の前記抽出対象との間で第1匂い類似度を算出し、前記第1匂い類似度が第1の所定値より大きい前記抽出対象を利用者に提示する提示候補として抽出し、前記基準匂い情報を基準として、前記提示候補に含まれる前記抽出対象についての前記第1情報の相対的な関係を可視化して、利用者に提示する匂い評価方法である。
【0040】
これによって、基準対象として大衆の認知度が高い物品を選定することで、利用者は、基準対象を介して抽出対象としての物品の匂いを想起しやすくなる。
【0041】
また、本発明は、少なくとも1つの基準対象の匂いに関する基準匂い情報、及び複数の抽出対象の各々の匂いに関する第1情報を予め記憶し、匂いセンサ1aで計測対象の匂いを検出し、前記匂いセンサ1aの出力に基づく計測匂い情報と前記第1情報とに基づき、前記計測対象と複数の前記抽出対象との間で第1匂い類似度を算出し、前記第1匂い類似度が第1の所定値より大きい前記抽出対象を第1候補群として抽出し、前記基準匂い情報と前記第1情報とに基づき、前記基準対象と複数の前記抽出対象との間で第2匂い類似度を算出し、前記第2匂い類似度が第2の所定値より大きい前記抽出対象を第2候補群として抽出し、前記第1候補群と前記第2候補群とに共通に含まれる前記抽出対象を利用者に提示する提示候補として抽出し、前記基準匂い情報を基準として、前記提示候補に含まれる前記抽出対象についての前記第1情報の相対的な関係を可視化して、利用者に提示する匂い評価方法である。
【0042】
これによって、基準対象として大衆の認知度が高い物品を選定することで、利用者は、基準対象を介して抽出対象としての物品の匂いを想起しやすくなる。
【発明の効果】
【0043】
このように本発明によれば、購入者の評価が高い、市場に大量に流通している、購入者が多い、準的な香りと評価されている、著名人の評価が高い等の理由によって、大衆あるいは利用者の認知度が高く、利用者が香りをイメージしやすい物品を基準対象として選定することで、利用者は、基準対象を介して抽出対象としての物品の匂いを想起しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る匂い評価システムS1の全体構成を示すブロック構成図
【
図2】利用者が計測対象100の匂いを計測した際に、サーバ7で実行される処理を示すフローチャート
【
図3】計測匂い情報、第1情報、基準匂い情報の関係を示す説明図
【
図4】利用者に提示する提示候補を抽出する過程を示す説明図
【
図6】計測匂い情報と第1情報とが実質的に一致した場合の、これらの情報と基準匂い情報の関係を示す説明図
【
図7】可視化する際の座標軸を選定する過程を示す説明図
【
図9】利用者に対する第2の提示態様の変形例を示す説明図
【
図10】利用者に対する第3の提示態様を示す説明図
【
図11】本発明の第2実施形態に係る匂い評価システムS1の全体構成を示すブロック構成図
【
図12】本発明の第3実施形態に係る匂い評価システムS1の全体構成を示すブロック構成図
【発明を実施するための形態】
【0045】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態の匂い評価システムS1について説明する。ここでは匂いの計測対象100をワインとし、利用者に対して当該ワインと類似する匂いを発する他のワインを提示する例を説明する。
【0046】
図1は、本発明の第1実施形態に係る匂い評価システムS1の全体構成を示すブロック構成図である。匂い評価システムS1は、空気中に含まれる匂い物質を検出することで、匂い発生源(計測対象100)としてのワインの発する匂いを計測する計測ユニット1と、情報端末6と、サーバ7とで構成される。
【0047】
計測ユニット1は匂いセンサ1a、センサ駆動部1b、通信部1d、計測ユニット制御部1f、計測ユニット記憶部1gで構成される。ここで計測ユニット1は、空間SPにおいて計測対象100の近傍に配置されており、計測ユニット1に含まれる匂いセンサ1aによって、計測対象100の発する匂いを検出する。なお、計測ユニット1には図示しない電源(バッテリ)が搭載されており、計測ユニット1の各構成要素は、当該電源が供給する電力に基づき動作する。
【0048】
計測ユニット制御部1fはCPU(Central Processing Unit)等の演算装置を備え、計測ユニット記憶部1gを構成するROM(Read Only Memory)、RAM(Random access memory)等に記憶された制御プログラムに従って他の構成要素を制御する。なお計測ユニット制御部1fと他の構成要素とは図示しないバスで結合されており、当該バスを介してデータ等が授受される。なお、計測ユニット制御部1fは、匂いセンサ1aから出力されるアナログ信号(図示しない増幅器によって増幅されてもよい)をディジタル信号に変換するA/D変換器を含んでいてもよい。
【0049】
以降、計測ユニット1を構成する各構成要素について説明する。匂いセンサ1aは、化学センサデバイスの一種であって、互いに異なる匂い物質に対する脱吸着特性を有する感応膜が設けられた振動子を備える複数(N個)のセンサモジュールで構成される。例えば匂いセンサ1aはN=180個のセンサモジュールを備えている。そして各々のセンサモジュールの感応膜に特定の匂い物質(分子)が吸着または脱離した際の、振動子の共振周波数に基づいて匂い物質が検出される。
【0050】
また、感応膜に吸着する匂い物質の増減に伴い、センサモジュールを構成する振動子の共振周波数が変化することに基づいて匂いの濃度を検出する。具体的には、振動子を片持ち梁で構成した場合、感応膜に吸着する匂い物質が増加すると振動子の質量が増加して共振周波数が低下する。匂いセンサ1aは検出された匂いの濃度を「計測匂い情報」として出力する。なお、匂い物質が吸着したのち一定時間が経過すると、吸着した匂い物質は感応膜から離脱し、振動子は再利用が可能となっている。
【0051】
センサ駆動部1bは、計測ユニット制御部1fの指示に基づいて、匂いセンサ1aの振動子を振動させる圧電素子に対して駆動信号を出力する。ここで駆動信号としては、例えば所定の周波数の範囲で掃引(スイープ)する正弦波(交流電圧)が用いられる。なお、駆動信号をスイープする際、その周波数(駆動周波数)は順次計測ユニット制御部1fで決定され、駆動周波数に対応した所定のコマンドがセンサ駆動部1bに出力される。そしてセンサ駆動部1bは当該コマンドに対応した周波数の駆動信号を匂いセンサ1aの圧電素子に供給する。
【0052】
ここで匂いセンサ1aを構成する複数のセンサモジュールには、それぞれ振動子が振動する際の振幅を計測する圧電素子(ピエゾ素子)が設けられている。圧電素子の出力(通常は正弦波)は、図示しないハードウェア等によって全波(あるいは半波)整流ののち平滑化される。そしてこの平滑化データは、匂いセンサ1aに設けられた図示しないA/D変換器によってディジタル信号に変換される。
【0053】
更に計測ユニット制御部1fは、駆動周波数を順次更新(即ち、スイープ)して振動子の振幅計測を繰り返し、ディジタル化された平滑化データを参照して、各振動子の振幅が最大となる共振周波数を計測する。なお共振周波数については、センサ駆動部1bが駆動周波数をスイープする際の最小周波数を"0"、最大周波数を"1"として正規化されていてもよい。このとき、共振周波数は0~1の範囲の実数となる。計測ユニット制御部1fは、後述する通信部1dを介して、センサモジュール毎に計測された共振周波数を計測匂い情報としてサーバ7に送信する。
【0054】
ここで、匂いセンサ1aを構成するセンサモジュールの個数がN個だとすると、計測匂い情報は、センサモジュールのそれぞれに対応する0~1の数値が付されたN次元(ここでは180次元)ベクトルを構成している。即ち、匂いセンサ1aは、計測匂い情報としてN次元の計測匂いベクトルを出力する。ただし、一般にワインの匂いを計測したとき、全てのセンサモジュールから有意な出力が得られる訳ではない。従って、実際にワインの匂いに反応するセンサモジュールの出力のみを抽出することで、ベクトルの次元を低くしてもよい。
【0055】
さて、ワインの匂いに含まれる匂い物質としては、例えば以下のようなものが知られている。
(1)ブドウそのものの香り
(a)いわゆるフォクシーフレーバー
・アントラニル酸メチル
・o-アミノアセトフェノン
・アントラニル酸エチル
・フラネオール
・4-メトキシ-2,5-ジメチル-3-フラノン
・3-メルカプトプロピオン酸エチル
(b)ピーマン臭
・メトキシアルキルピラジン類
(c)コショウ香
・ロツンドン
(2)ブドウに含まれる前駆体の香り
(a)マスカット香(テンペル香)
・リナロール
・ゲラニオール
(b)チオール系香気成分
・4-メチルペンタン-2-オン
・3-メルカプトヘキサノール
(c)ノルイソプレノイド系香気成分
・C13-ノルイソプレノイド類
(3)発酵に由来する香り
・酢酸イソアミル(バナナ香),カプロン酸エチル(リンゴ香)等のエステル類
・ダイアセチル(バターフレーバ)
(4)熟成香
・フルフラール類
・3-メチル-γ-オクタラクトン
・オイゲノール,
・バニリン
・ヴィティスピラン
・ダマセノン
【0056】
センサモジュールの各々に設けられた感応膜の少なくとも一部は、上述した匂い物質を含め、ワインに含まれる匂い物質について脱吸着特性を有している。センサモジュールを構成する振動子に、例えばアントラニル酸メチル(C8H9NO2)に応答する感応膜、ロツンドン(C15H22O)に応答する感応膜、リナロール(C10H18O)に応答する感応膜を設けることで、これらの匂い物質が検出される。なお、匂いセンサ1aのセンサモジュールの個数を多くして、検出する匂い物質の数を増やしてもよい。これによって、区別可能なワインの数が実質的に増大する。また同一の匂い物質を検出するセンサモジュールの数を複数としてもよい。この場合、複数のセンサモジュールの出力を平均化することによって検出誤差を小さくすることができる。
【0057】
通信部1dは、例えばLTE(Long Term Evolution)、4Gあるいは5Gといった通信規格に準拠した通信モジュールを含む。通信部1dは当該通信モジュールを介してネットワーク5に接続しており、同様にネットワーク5に接続されている情報端末6との間で種々の情報を送受信する。また通信部1dは、ネットワーク5に接続されたサーバ7との間で様々な情報を送受信する。
【0058】
サーバ7は、サーバ制御部7bとサーバ記憶部7aとで構成される。サーバ制御部7bはCPU等の演算装置を備え、図示しないROM、RAM等に格納された制御プログラムに従って他の構成要素を制御する。またサーバ7には図示しないサーバ通信部が設けられ、ネットワーク5に接続された情報端末6、計測ユニット1との間で様々な情報を送受信する。サーバ記憶部7aは、RAID(Redundant Arrays of Independent Disks)等で構成され、サーバ記憶部7aにはワインデータベース(以降、「ワインDB」と称することがある。)が構築されている。ワインDBに蓄積されているデータの構成等については後述する。
【0059】
情報端末6は、例えばスマートフォンやタブレット端末等の携帯情報端末、PC(Personal Computer)である。情報端末6には撮像部としてのカメラ、タッチパネル等で構成された入力部、LCD(Liquid Crystal Display)やOLED(Organic Light Emitting Diode)で構成された表示部(いずれも図示せず)が設けられている。利用者は、カメラを用いて計測対象100としてのワインのラベルを含むボトル全体あるいはラベルを撮影し、その画像情報を、ネットワーク5を介してサーバ7に送信することができる。
【0060】
また利用者は、入力部を操作して、利用者の味覚の嗜好に関する情報(以降、「味覚嗜好情報」と称することがある。)等の所定の情報をサーバ7に送信することができる。情報端末6の表示部には、サーバ7から送信された情報に基づき、レコメンド情報が表示される。情報端末6の情報端末制御部6aは、カメラ、入力部、表示部等、情報端末6の各構成要素を制御するとともに、後述する可視化の処理を実行する。
【0061】
以降、ワインDBについて説明する。ワインDBには、複数のワインに対応するレコードが予め蓄積されており、各レコードは例えば下記のフィールドで構成される。
【0062】
(i)ID情報
(ii)銘柄に関する情報
(iii)種別情報(基準対象/抽出対象)
(iv)匂いに関する情報(基準匂い情報/第1情報)
(v)ラベルを含むボトル全体の画像情報/ラベルの画像情報(第2情報)
(vi)味覚に関する情報(第3情報)
(vii)銘柄の詳細に関する情報
【0063】
ここで(i)ID情報は、個々のワインに対応する固有の識別番号である。(ii)銘柄に関する情報は、ワインボトルのラベルに記載されたメルロ、ピノ・ノワールといった銘柄(名称)であり、テキスト情報が格納されている。(iii)種別情報は「基準対象」と「抽出対象」とのいずれかを示すフラグ(種別フラグ)である。ここで「基準対象」とは、「購入者の評価が高い」、「市場に大量に流通している」、「購入者が多い」、「標準的な香りであると評価されている」、「著名人の評価が高い」等の理由によって、大衆あるいは利用者(ワイン愛好者)における認知度が高く、利用者が匂い・香りをイメージしやすい(即ち、匂いの基準となり得る)ワインを意味する。このような基準を満たす「基準対象」は複数存在する。また「抽出対象」とは、ワインDBに蓄積されているワインの全対象をいう。
【0064】
集合としては「抽出対象」の方が大きく、「基準対象」は「抽出対象」に包含される。即ち、「抽出対象」のうち大衆や利用者における匂いに関する認知度が相対的に高いものが「基準対象」として選定されている。「基準対象」及び「抽出対象」は、eコマース等において商取引の対象となるワインであり、いずれも利用者に対して購買行動等を促すレコメンドの対象となる。
【0065】
(iv)匂いに関する情報は、「基準対象」及び「抽出対象」について、予め匂いセンサ1aの出力に基づく計測匂い情報を収集・蓄積したものである。なお、匂いに関する情報については、上述の種別フラグが「基準対象」を示すときは「基準匂い情報」と称し、種別フラグが「抽出対象」を示すときは「第1情報」と称する。上述のように計測匂い情報(計測匂いベクトル)はN次元のベクトルで構成されている。ワインDBに蓄積された基準匂い情報及び第1情報も、計測匂いベクトルとして予め計測されたものに他ならないため、同様にN次元のベクトル(以降、「記憶匂いベクトル」と称することがある。)を構成している。
【0066】
ここで、ワインDBに蓄積された匂いに関する情報(記憶匂いベクトル)は、全体として[数1]に示す行列Aで表すことができる。
【数1】
【0067】
行列Aにおいて、行の各要素は、特定の基準対象あるいは抽出対象に対する、各センサモジュールの出力を表す。即ち、各々の行は記憶匂いベクトルに相当する。また列の各要素は、特定のセンサモジュールに対応する、全ての基準対象あるいは抽出対象の出力に相当する。
【0068】
さて、ワインDBに十分な量のレコードが蓄積された段階、即ち匂いに関する情報(記憶匂いベクトル)が十分に蓄積された状況において、サーバ制御部7bは、行列Aの各列の配列要素(例えばa11,a21...am1)を取り出して分散を求める。そして分散の値が大きい列を所定の個数だけ(例えば8列)抽出する。ここで「分散の値が大きい列」は、ワインDBを構築する際、互いに異なるワインの匂いを計測したときに出力値が大きく変化したセンサモジュール(以降、「識別用センサモジュール」と称することがある。)に対応している。この操作で、ワインの匂いを識別するのに適した(即ち、ワインの匂いの違いに対して敏感に反応する)センサモジュールが抽出され、結果として記憶匂いベクトルの次元は例えば8次元に減少する。
【0069】
更にサーバ制御部7bは、行列Aから識別用センサモジュールに対応する列を取り出し、これらを2つの列ベクトルに集約する操作を実行する。つまり、識別用センサモジュールに対応する列が8つだとして、これを2列に集約する。サーバ制御部7bは、8つの列から任意の4つの列ベクトルを取り出し、これらのベクトルの和を算出して第1列ベクトルを生成するとともに、その分散を計算する(第1工程)。更に、残った4つの列ベクトルについても同様に、第2列ベクトルを生成し、分散を算出する(第2工程)。そして第1列ベクトルを構成する要素の分散の値と、第2列ベクトルを構成する要素の分散の値とが、ともに所定の値より大きくなる列ベクトルの組み合わせ(即ち、識別用センサモジュールの組み合わせ)を決定する(第3工程)。この操作により行列Aは、m行2列の配列で表され、記憶匂いベクトルの次元は2次元に減少する(以降、「低次元化された記憶匂いベクトル」と称することがある。)。
【0070】
なお、計測対象100についても、上述した第1列ベクトルを構成する要素の分散の値と、第2列ベクトルを構成する要素の分散の値とが、ともに所定の値より大きくなる列ベクトルに対応する識別用センサモジュールの出力を用いることで、計測匂い情報(計測匂いベクトル)は、2次元ベクトルとなる(以降、「低次元化された計測匂いベクトル」と称することがある。)。
【0071】
ここで、記憶匂いベクトル同士を用いて、全ての基準対象(基準匂い情報)と全ての抽出対象(第1情報)との間で、第2匂い類似度が予め算出され、ワインDBに蓄積されている。なお、計測匂いベクトルと記憶匂いベクトルとに基づいて、計測対象100(計測匂い情報)と抽出対象(第1情報)との類似度である第1匂い類似度が算出される。また、同様にして、計測対象100(計測匂い情報)と基準対象(基準匂い情報)との類似度である、第3匂い類似度が算出される。
【0072】
即ち、第1実施形態では、匂いセンサ1aは、互いに異なる匂い物質が脱吸着するN個のセンサモジュールを備えており、匂いセンサ1aはN次元の計測匂いベクトルを出力し、第1情報はN次元の記憶匂いベクトルを構成し、制御部(サーバ制御部7b)は、N次元の計測匂いベクトルと記憶匂いベクトルとに基づいて、第1匂い類似度を算出する。また、第1情報と基準匂い情報とは、N次元の記憶匂いベクトルを構成し、制御部(サーバ制御部7b)は、N次元の記憶匂いベクトルに基づいて、第2匂い類似度を算出する。なお、第1匂い類似度、第2匂い類似度、第3匂い類似度は、上述した低次元化された計測匂いベクトルと低次元化された記憶匂いベクトルとを用いて算出してもよい。
【0073】
(v)ラベルを含むボトル全体の画像情報/ラベルの画像情報は、予め「基準対象」及び「抽出対象」について、ラベルを含むボトル全体あるいはラベルの少なくとも一方を撮影して得られた画像情報(以降、「第2情報」と称することがある。)である。なお、情報端末6で撮影された画像情報と第2情報とに基づき画像類似度が算出される。
【0074】
(vi)味覚に関する情報は、「基準対象」及び「抽出対象」について味覚を数値化した情報(例えば評点)であり、これらに対して予め付与されている(以降、この味覚に関する情報を「第3情報」と称することがある。)。なお、第3情報にはテキスト情報も含まれうる。例えば赤ワインの場合は、「ライトボディ」,「ミディアムボディ」,「フルボディ」といった特徴的かつ広く知られた表現を第3情報として用いることができる。
【0075】
ここで、第3情報を構成する数値情報は、数値化された甘味、酸味、苦味、うま味、収斂味のうち少なくとも一つを含むM次元ベクトル(例えば、甘味、酸味、苦味、うま味、収斂味の全てを含む場合は5次元ベクトル)で構成されている。上述した、利用者が情報端末6を操作して入力する味覚嗜好情報もまた同様のM次元ベクトルを構成している。味覚嗜好情報を構成するM次元ベクトルと第3情報を構成するM次元ベクトルとに基づいて、味覚類似度が算出される。
【0076】
(vii)銘柄の詳細に関する情報は、当該銘柄のワインの製造年、使用する原料、熟成期間、匂いや味覚の特徴、当該銘柄と相性のよい食材等が記述された紹介文(テキスト情報)である。銘柄の詳細に関する情報には、醸造所、ワインボトル、ラベル等の画像情報が適宜含まれていてもよい。
【0077】
図2は、利用者が計測対象100の匂いを計測した際に、サーバ7で実行される処理を示すフローチャートである。以降、
図2に
図1を併用して、利用者が計測対象100の匂いを計測した際に、サーバ7で実行される処理について説明する。
【0078】
計測ユニット1には図示しないスイッチ部材が設けられている。匂い評価システムS1の利用者がスイッチ部材をONに操作する度、これをトリガとして計測ユニット制御部1fはセンサ駆動部1bを介して匂いセンサ1aを駆動し、空間SPの匂いを計測する(STP001)。ここで、匂いセンサ1aは計測ユニット1と別体に構成されてもよい。この場合、スイッチ部材は匂いセンサ1aが収納された別ユニットに設けられ、利用者は当該別ユニットを計測対象100にかざし、スイッチ部材をONにすることで計測対象100が発する匂いが計測される。
【0079】
計測された匂い、即ち計測匂い情報は、通信部1dによってネットワーク5を経由してサーバ7に送信される。そして計測匂い情報はサーバ制御部7bに入力される。サーバ制御部7bはワインDBにアクセスし、計測対象100の計測匂い情報と全ての抽出対象の第1情報とに基づき、第1匂い類似度を算出する(STP002)。第1匂い類似度は抽出対象の数だけ生成される。
【0080】
同様に、サーバ制御部7bは、種別情報を参照して、計測対象100の計測匂い情報と全ての基準対象の基準匂い情報とに基づき、第3匂い類似度を算出する(STP003)。第3匂い類似度は基準対象の数だけ生成される。
【0081】
なお、上述したように計測匂い情報(計測匂いベクトル)、第1情報、基準匂い情報(記憶匂いベクトル)はいずれもN次元ベクトルを構成している。第1匂い類似度は、計測匂い情報と第1情報とのユークリッド距離に基づき、当該ユークリッド距離が小さいほど大きくなるように算出される。同様に第3匂い類似度も、計測匂い情報と基準匂い情報とのユークリッド距離に基づいて算出され、ユークリッド距離が小さいほど大きく算出される。
【0082】
図3は、計測匂い情報、第1情報、基準匂い情報の関係を示す説明図である。なお、
図3は、上述した低次元化(ここでは2次元化)された記憶匂いベクトル及び低次元化(ここでは2次元化)された計測匂いベクトルを、AxMX,AxMYを軸とする2次元空間に配置したものである。ただし、以下の説明において「2次元化された」の語は省略することがある。以下、
図1、
図2に
図3を併用して、利用者に対して提示される提示候補を抽出する過程を説明する。
【0083】
図3において、M_AROは計測匂い情報、即ち計測匂いベクトルの終点の範囲を表し、ST_n(nは自然数)は基準匂い情報(記憶匂いベクトル)の終点の範囲を表し、W_m(mは自然数)は第1情報(記憶匂いベクトル)の終点の範囲を表す。なお、ベクトルの終点が範囲を持つのは、匂いを計測した際の誤差を反映したためである。以降、説明を簡単にするため、これらを計測匂い情報M_ARO、基準匂い情報ST_n、第1情報W_mのように称する場合がある。また基準匂い情報ST_nに対応する基準対象を基準対象st_n、第1情報W_mに対応する抽出対象を抽出対象w_mと称することがある。
【0084】
ここで、Omは計測匂い情報M_AROの代表点、O1~O6は基準匂い情報ST_nの代表点を表す。ここで、代表点として、例えば計測匂い情報M_ARO、基準匂い情報ST_nを複数回取得した際の平均値を採用することができる。
図3では便宜的に計測匂い情報M_ARO、基準匂い情報ST_nを示す円の中心を代表点としている。なお、第1情報W_mの代表点は図示していないが、情報M_ARO等の代表点と同様に、第1情報W_mを示す円の中心にあるものとする。
【0085】
以下、
図2に戻り、
図1、
図3を併用して説明を続ける。
サーバ制御部7bは、第1匂い類似度に基づき計測対象100と類似する匂いを発する抽出対象を抽出し、同様に第3匂い類似度に基づき、計測対象100と類似する匂いを発する基準対象を抽出する(STP004)。
【0086】
ここで計測匂い情報M_AROの代表点Omを中心として、第1匂い類似度及び第3匂い類似度が第1の所定値より大きくなる範囲(第1類似範囲A1)が設定されている(
図3参照)。第1類似範囲A1に代表点が含まれる第1情報W_mに対応した抽出対象w_mは、計測対象100に匂いが類似すると判断され、抽出される。同様に、第1類似範囲A1に代表点が含まれる基準匂い情報ST_nに対応した基準対象st_nは、計測対象100に匂いが類似すると判断され、抽出される。なお、第1実施形態では、第1匂い類似度及び第3匂い類似度について同一の第1類似範囲A1を設定しているが、第1匂い類似度と第3匂い類似度とで類似範囲を異ならせてもよい。
【0087】
図3においては、第1匂い類似度に基づいて、第1類似範囲A1に含まれる抽出対象、即ち抽出対象w_9,w_10,w_11,w_16,w_17,w_18,w_22,w_20,w_21,w_15が第1候補群として抽出される。また、第3匂い類似度に基づいて、第1類似範囲A1に含まれる基準対象、即ち、基準対象st_3が抽出される。
【0088】
次に、サーバ制御部7bは、可視化の際に基準とする基準対象を選択する(STP005)。ここでは上述した第3匂い類似度に基づき抽出された基準対象st_3が、可視化の際の基準(可視化基準)として用いられる。ここで、第1類似範囲A1に基準対象st_nが複数含まれるときは、計測匂い情報M_AROの代表点Omと最も近い代表点に対応した基準匂い情報ST_n(基準対象st_n)が可視化基準として選択される。もちろん、可視化基準は複数選択されてもよい。この場合は、それぞれの基準匂い情報ST_n(基準対象st_n)を基準として可視化が行われる。
【0089】
ここで、基準匂い情報ST_3の代表点O3を中心として、上述した第2匂い類似度が第2の所定値より大きい範囲(第2類似範囲A2)が設定されている。第2類似範囲A2に代表点が含まれる第1情報W_mに対応した抽出対象w_mは、基準対象に匂いが類似すると判断される。
図3においては、第2類似範囲A2に含まれる抽出対象w_8,w_9,w_10,w_11が、基準対象st_3に類似すると判断され、第2候補群として抽出される。
【0090】
図4は、利用者に提示する提示候補を抽出する過程を示す説明図である。
図4に示すように、サーバ制御部7bは、上述した第1類似範囲A1及び第2類似範囲A2の両方に含まれる抽出対象w_m(即ち、第1候補群と第2候補群とに共通に含まれる抽出対象w_m)を、可視化の際に利用者に提示する提示候補として抽出する(STP006)。ここでは、抽出対象w_9,w_10,w_11が可視化の際の提示候補として抽出される。
【0091】
そして計測対象100の計測匂い情報、選択された基準対象の基準匂い情報、抽出された提示候補(抽出対象)の第1情報は、サーバ7からネットワーク5を介して情報端末6に送信される(STP007)。また、この際、基準匂い情報、第1情報とともに、これらと関連付けられたID情報が送信される。もちろん、このときID情報以外の情報(銘柄に関する情報,種別情報,第2情報,第3情報,銘柄の詳細に関する情報等)が送信されてもよい。なお情報端末6は、受け取ったID情報をサーバ7に送信することで、ID情報に関連付けられた各ワインのレコードを受け取ることができる。
【0092】
情報端末6の情報端末制御部6aは、受信した計測匂い情報、基準匂い情報、第1情報に基づき、基準匂い情報を基準として、提示候補に含まれる抽出対象について第1情報の相対的な関係を表示部(図示せず)で可視化して、利用者に提示する(STP008)。
【0093】
図5は、第1の可視化態様を示す説明図である。
図5は、情報端末6の表示部にレコメンド情報が表示された状態を示している。
図5に示すように、サーバ制御部7bは、利用者に対して提示候補を可視化する。即ち可視化の処理において、選択された基準対象st_3(基準匂い情報ST_3)を例えば円形のフィールドで示し、これを2つの座標軸の原点に置き、基準対象st_3が可視化基準であることを明確に示す。そして、基準対象st_3を基準として、抽出対象w_9(第1情報W_9),w_10(W_10),w_11(W_11)の各フィールドとの相対的な関係を可視化する。
【0094】
もちろん基準匂い情報ST_nや抽出対象(第1情報W_m)を示す各フィールドは、単純な円でなく、ワインボトルやラベルの画像を採用してもよい。なお、図示するように、更に基準対象st_3に対する計測対象100(計測匂い情報M_ARO)の相対的な関係を可視化してもよい。これによって、計測対象100、基準対象、抽出対象の全体的な関係を俯瞰することができる。
【0095】
可視化に際して、
図3等に示す基準匂い情報ST_n(ここでは、ST_3)に替えて、例えば「スタンダードワイン 名称AAA」、第1情報W_mに替えて、例えば「お薦めワイン 名称:BBB」のように利用者に理解しやすいように表示される。また基準匂い情報ST_nや第1情報W_mが表示されるフィールドには所定のリンク情報を付加してもよい。利用者が当該フィールドをタップ等した場合、情報端末制御部6aはフィールドに対応するID情報をサーバ7に送信する。サーバ制御部7bは、ID情報をキーとしてワインDBを検索し、銘柄の詳細に関する情報を取得し、これを情報端末6に送信する。そして情報端末制御部6aは、銘柄の詳細に関する情報を情報端末6の表示部に表示する。
【0096】
また、各フィールドには、「購入」ボタンが表示されている。利用者が「購入」ボタンをタップ等すると、情報端末制御部6aは、当該「購入」ボタンと対応するフィールドのID情報等を、ネットワーク5を介して電子商取引用サーバ8に送信する。他方、「購入」ボタンがタップ等されたことはサーバ7にも送信され、サーバ制御部7bは、サーバ記憶部7aに別途記憶された利用者の個人情報を電子商取引用サーバ8に送信する。これによって利用者は匂い評価システムS1が提供するレコメンドに基づいて、ワインを購入することができる。
【0097】
以上、説明したように、第1実施形態の匂い評価システムは、少なくとも1つの基準対象の匂いに関する基準匂い情報、及び複数の抽出対象の各々の匂いに関する第1情報が予め記憶された記憶部(サーバ記憶部7a)と、計測対象100の匂いを検出する匂いセンサ1aと、制御部(サーバ制御部7b、情報端末制御部6a)と、備え、前記制御部(サーバ制御部7b)は、前記匂いセンサ1aの出力に基づく計測匂い情報と前記第1情報とに基づき、前記計測対象100と複数の前記抽出対象との間で第1匂い類似度を算出し、前記第1匂い類似度が第1の所定値より大きい前記抽出対象を利用者に提示する提示候補として抽出し、制御部(情報端末制御部6a)は、前記基準匂い情報を基準として、前記提示候補に含まれる前記抽出対象についての前記第1情報の相対的な関係を可視化して、利用者に提示する。この態様においては、サーバ制御部7bと情報端末制御部6aとが制御部として機能する。
【0098】
また、第1実施形態の匂い評価システムは、少なくとも1つの基準対象の匂いに関する基準匂い情報、及び複数の抽出対象の各々の匂いに関する第1情報が予め記憶された記憶部(サーバ記憶部7a)と、計測対象100の匂いを検出する匂いセンサ1aと、制御部(サーバ制御部7b、情報端末制御部6a)と、を備え、前記制御部(サーバ制御部7b)は、前記匂いセンサの出力に基づく計測匂い情報と前記第1情報とに基づき、前記計測対象100と複数の前記抽出対象との間で第1匂い類似度を算出し、前記第1匂い類似度が第1の所定値より大きい前記抽出対象を第1候補群として抽出し、前記基準匂い情報と前記第1情報とに基づき、前記基準対象と複数の前記抽出対象との間で第2匂い類似度を算出し、前記第2匂い類似度が第2の所定値より大きい前記抽出対象を第2候補群として抽出し、前記第1候補群と前記第2候補群とに共通に含まれる前記抽出対象を利用者に提示する提示候補として抽出し、制御部(情報端末制御部6a)は、前記基準匂い情報を基準として、前記提示候補に含まれる前記抽出対象についての前記第1情報の相対的な関係を可視化して、利用者に提示する。この態様においては、サーバ制御部7bと情報端末制御部6aとが制御部として機能する。
【0099】
また、第1実施形態の匂い評価方法は、少なくとも1つの基準対象の匂いに関する基準匂い情報、及び複数の抽出対象の各々の匂いに関する第1情報を予め記憶し、匂いセンサ1aで計測対象の匂いを検出し、前記匂いセンサ1aの出力に基づく計測匂い情報と前記第1情報とに基づき、前記計測対象と複数の前記抽出対象との間で第1匂い類似度を算出し、前記第1匂い類似度が第1の所定値より大きい前記抽出対象を利用者に提示する提示候補として抽出し、前記基準匂い情報を基準として、前記提示候補に含まれる前記抽出対象についての前記第1情報の相対的な関係を可視化して、利用者に提示する。
【0100】
また、第1実施形態の匂い評価方法は、少なくとも1つの基準対象の匂いに関する基準匂い情報、及び複数の抽出対象の各々の匂いに関する第1情報を予め記憶し、匂いセンサ1aで計測対象の匂いを検出し、前記匂いセンサ1aの出力に基づく計測匂い情報と前記第1情報とに基づき、前記計測対象と複数の前記抽出対象との間で第1匂い類似度を算出し、前記第1匂い類似度が第1の所定値より大きい前記抽出対象を第1候補群として抽出し、前記基準匂い情報と前記第1情報とに基づき、前記基準対象と複数の前記抽出対象との間で第2匂い類似度を算出し、前記第2匂い類似度が第2の所定値より大きい前記抽出対象を第2候補群として抽出し、前記第1候補群と前記第2候補群とに共通に含まれる前記抽出対象を利用者に提示する提示候補として抽出し、前記基準匂い情報を基準として、前記提示候補に含まれる前記抽出対象についての前記第1情報の相対的な関係を可視化して、利用者に提示する。
【0101】
このように、第1実施形態では、利用者に対して、単に計測したワインの匂いに類似する匂いを持つワインが提示されるのではなく、匂いを想起しやすいワインを基準として、計測したワインの匂いに類似する匂いを持つワインが提示(レコメンド)される。これによって、利用者は提示されたワインの匂いを想起しやすくなり、現物に接することができない電子商取引等で購買を促すレコメンドを行う際、嗜好が大きく反映される物品の香りや匂いを利用者に訴求しやすくなる。
【0102】
図6は、計測匂い情報と第1情報とが実質的に一致した場合の、これらの情報と基準匂い情報の関係を示す説明図である。
図6は、計測対象100(計測匂い情報M_ARO)が
図3に示す抽出対象w_10(第1情報W_10)と一致している場合を示している。計測匂い情報と抽出対象の第1情報とが実質的に一致する場合、可視化の際にこれらの情報が二重に表示されると、利用者が誤認して、計測対象100と同一のワインを購入してしまう状況も考えられる。
【0103】
このような不具合を解消するため、上述したSTP002において、サーバ制御部7bは、計測対象100の計測匂い情報と抽出対象の第1情報とに基づき算出された第1匂い類似度が所定の値より大きい場合、両者が実質的に同一であると判断する。そして、STP006において、当該抽出対象を提示候補から除外する。即ち、サーバ制御部7bは、計測匂い情報と実質的に同一の第1情報が付された抽出対象を提示候補から除外する。これによって、可視化の際にこれらの情報が二重に表示される不具合を解消することができる。
【0104】
他方、計測匂い情報が選択された基準匂い情報(ここではST_3)と実質的に一致した場合、当該基準匂い情報は排除されない。上述したSTP003において、サーバ制御部7bは、計測対象100の計測匂い情報と全ての基準対象の基準匂い情報とに基づき算出した第3匂い類似度が所定の値より大きい場合、両者が実質的に同一であると判断する。そしてSTP007において、基準匂い情報に替えて特定のベクトル(例えばゼロベクトル)を情報端末6に送信する。ゼロベクトルで構成された基準匂い情報を受信した情報端末制御部6aは、計測匂い情報と基準匂い情報が一致すると判断し、
図5に示す表示画面において、ST_3のフィールドに「あなたが匂いを測ったワインはスタンダードワイン 名称:AAAです」のように表示する。なお、このときST_3のフィールドに「購入」ボタンは表示されない。
【0105】
また、利用者はワインの匂いの計測する際に、情報端末6のカメラで撮影したワインのラベルを含むボトル全体の画像情報、あるいはラベルの画像情報(以降、「計測対象100の画像情報」と称することがある。)をサーバ7に送信することができる。サーバ制御部7bはワインDBにアクセスし、予め記憶された各ワインについてのラベルを含むボトル全体の画像情報/ラベルの画像情報(第2情報)を抽出し、これと受信した画像情報との類似度(画像類似度)を算出する。
【0106】
画像類似度の算出にあたっては、例えばコーナーを特徴点とするアルゴリズムの一つであるSIFT(Scale-Invariant Feature Transformation)や、これを改良したAKAZEの手法で特徴量を検出し、当該特徴量についてBrute-Force Matcherにより総当たりマッチングを行って距離の平均値を算出し、この平均値を画像類似度とすることができる。平均値が小さい方が、画像類似度が高いと判断される。
【0107】
上述したSTP002の処理に加えて、サーバ制御部7bは、計測対象100の画像情報とワインDBに蓄積されたラベルを含むボトル全体の画像情報/ラベルの画像情報(第2情報)とに基づき算出された画像類似度が所定の値より大きい場合、両者が実質的に同一であると判断する。そして、STP006において、当該第2情報を含む抽出対象を提示候補から除外する。即ち、サーバ制御部7bは、計測対象100の画像情報を取得する撮像部(情報端末6に設けられたカメラ(図示せず))を更に備え、記憶部(サーバ記憶部7a)には、複数の抽出対象の各々の画像に関する第2情報が予め記憶され、制御部(サーバ制御部7b)は、計測対象100の画像情報と第2情報とに基づき画像類似度を算出し、画像類似度に基づいて計測対象100と一致すると判断した抽出対象を提示候補から除外する。これによって、可視化の際に計測対象100と抽出対象との情報が二重に表示される不具合を解消することができる。
【0108】
さて、ワインの好みを決定する要素には、匂いの他に味覚がある。第1実施形態では、上述した抽出候補を利用者の味覚の好み(味覚嗜好情報)に基づいて絞り込むことが可能とされている。以下、この抽出候補絞込み処理について説明する。なお、抽出候補絞込み処理はSTP006に組み込まれうる。
【0109】
情報端末6の表示部には、味覚嗜好情報としての甘味、酸味、苦味、うま味、収斂味のうち少なくとも一つの項目に対する関心度(好み)を、1(低い)~5(高い)の5段階で入力(あるいは選択)するよう、利用者に促す画面が表示される。更に、表示部には、例えば赤ワインに関して「ライトボディ」、「ミディアムボディ」、「フルボディ」のうち最も好むタイプを入力するよう促す画面が表示されてもよい。利用者は情報端末6の入力部を用いて設問に回答する。このように味覚嗜好情報は数値化された評点であり、数値化された甘味、酸味、苦味、うま味、収斂味のうち少なくとも一つを含むM次元ベクトルを構成する。利用者が入力した味覚嗜好情報はネットワーク5を介してサーバ7に送信される。
【0110】
上述したように、サーバ記憶部7a(ワインDB)には第3情報として、数値化された甘味、酸味、苦味、うま味、収斂味のうち少なくとも一つを含むM次元ベクトルが蓄積されている。味覚嗜好情報を受信したサーバ制御部7bは、サーバ記憶部7aから抽出対象の第3情報を取得し、味覚嗜好情報と第3情報とに基づいて味覚類似度を算出する。
【0111】
ここで味覚類似度は、味覚嗜好情報及び第3情報を構成するM次元ベクトルがなす角のコサイン値(コサイン類似度)に基づき算出される。もちろん、味覚類似度をM次元ベクトルとのユークリッド距離に基づいて算出してもよい。サーバ制御部7bは、コサイン類似度やユークリッド距離が小さいほど、味覚類似度を大きく算出する。
【0112】
そして、サーバ制御部7bは、上述したSTP006で抽出された提示候補を、味覚類似度が所定の値より大きいものに絞り込む。これによって、利用者が好む味覚をもつワインがレコメンドされる。なお、このようにレコメンドの対象を絞り込むのみならず、例えば
図5において、お薦めワインのフィールドに味覚類似度を表示することで、利用者は味覚類似度を参考にしてワインを購入することができる。
【0113】
このように第1実施形態の匂い評価システムは、利用者の味覚の好みに関する味覚嗜好情報を入力する入力部(情報端末6のタッチパネル等)を更に備え、記憶部(サーバ記憶部7a)には、更に抽出対象の各々の味覚に関する第3情報が予め記憶され、制御部(サーバ制御部7b)は、味覚嗜好情報と第3情報とに基づいて味覚類似度を算出し、味覚類似度に基づいて、提示候補を絞り込む。
【0114】
さて上述したように、第1実施形態では、低次元化された記憶匂いベクトル及び低次元化された計測匂いベクトルを、AxMX,AxMYを軸とする2次元空間に配置している(
図3参照)。そして、基準匂い情報を基準として、提示候補に含まれる抽出対象についての第1情報の相対的な関係を可視化する(
図5参照)。
【0115】
このような可視化態様により、利用者は基準対象と抽出対象との相対的な関係を把握することができる。しかしながら第1情報がプロットされる2次元空間がどのような意味合いを持つのか(即ち、各座標軸がどのような属性を表しているのか)は明確ではない。座標軸が定義されることで、基準対象と抽出対象との関係がより明確になり、利用者はワインの匂いをより想起しやすくなると考えられる。
【0116】
図7は、可視化する際の座標軸を選定する過程を示す説明図である。
図7は、N次元(ここでは、例えば180次元)ベクトル空間に、計測対象100の計測匂い情報(M_ARO)、基準対象の基準匂い情報(ST_n)、抽出対象の第1情報(W_n)をプロットした状態を、便宜的に2次元座標上に表している。もちろん、可視化する際の座標軸を選定する際、上述した低次元化された計測匂いベクトルと低次元化された記憶匂いベクトルとを用いてもよい。
【0117】
ここで、基準匂い情報及び第1情報は、予め第1抽出対象群G1~第6抽出対象群にクラスタリングされている。ここで一つの抽出対象群には、基準匂い情報と第1情報との間に類似関係があるワインが含まれており、例えば基準匂い情報と第1情報との間で算出された第2匂い類似度が所定の値より大きいワイン、あるいは第2匂い類似度が所定の値より大きくかつ第1情報同士の間で算出される匂い類似度が所定の値より大きいワインが含まれている。
【0118】
即ち、各抽出対象群に含まれる基準対象と抽出対象との匂い、及び抽出対象同士の匂いは類似しているものとして取り扱われる。ここで、各抽出対象群にはラベル付けが行われている。ここでは例えば
図7に示すように、第1抽出対象群G1には「A地方産ワイン」、第2抽出対象群G2には「B国産ワイン」等のラベルが付されている。
【0119】
サーバ制御部7bは、各抽出対象群に対して代表座標o_N(ここでは、o_1~o_6)を算出する。ここで代表座標o_Nとしては、例えば各抽出対象群に含まれる基準匂い情報及び第1情報の記憶匂いベクトルについての平均(平均ベクトル)を用いることができる。
【0120】
さて、サーバ制御部7bは、計測匂い情報と複数の基準対象の基準匂い情報とに基づく第3匂い類似度が最も大きい基準対象を可視化の際の基準とする(上述したSTP005の処理を参照)。そして、可視化の際の基準とされた基準対象を含む抽出対象群を抽出し、この代表座標を算出する(ここでは代表座標o_2)。更に、この代表座標と他の代表座標とを結ぶ線分(ここではo_1,o_3,o_4,o_5,o_6に対する5本)を求め、計測匂い情報M_ARO(代表点Om)と最も距離が近い線分(ここでは代表座標o_2,o_4を結ぶ線分)を第1座標軸Axis1として設定(採用)する。
【0121】
これによって、2つの抽出対象群のそれぞれが占める領域に挟まれた領域に、計測匂い情報が位置するような線分、即ち計測匂い情報と匂いについての関連性が大きく外れていない線分を第1座標軸Axis1として設定することが可能となる。即ち、図示するように、ラべル「B国産ワイン」が付された第2抽出対象群G2の代表座標o_2とラベル「D地方産ワイン」が付された第4抽出対象群G4の代表座標o_4を結ぶ線分が、第1座標軸Axis1として設定され、計測匂い情報M_AROは、第1座標軸Axis1の近傍(中間)に位置することとなる。
【0122】
図8は、利用者に対する第2の提示態様を示す説明図である。
図8では、情報端末6の表示部に表示されるコンテンツのみを示しており、座標軸として上述した第1座標軸Axis1が採用されている。図示するように第2の提示態様においても、基準匂い情報ST_3が基準として採用される。基準匂い情報ST_3から第1座標軸Axis1を右方に向かうほど、ワインの匂いが「B国産ワイン」に近くなり、逆に左方に向かうほど、匂いが「D地方産ワイン」に近くなることが利用者に分かりやすく提示される。これによって、基準対象や抽出対象がプロットされる空間の座標軸が明確に定義されることで、レコメンドに際して基準対象と抽出対象との関係がより明確になり、利用者はワインの匂いをより想起しやすくなる。
【0123】
即ち、第1実施形態では、前記抽出対象は、前記基準匂い情報及び前記第1情報に基づいて複数の抽出対象群に分類され、前記制御部(サーバ制御部7b)は、各々の前記抽出対象群について、前記抽出対象群に含まれる前記基準匂い情報及び前記第1情報に基づいて、前記抽出対象群を代表する代表座標を算出し、前記代表座標のうちの所定の二つを結ぶ線分を第1座標軸Axis1に設定し、前記基準匂い情報に対する、前記提示候補に含まれる抽出対象についての前記第1情報の相対的な関係を可視化する。
【0124】
図9は、利用者に対する第2の提示態様の変形例を示す説明図である。
図9においては、上述した第2の提示態様に加え、計測匂い情報M_AROが併せて表示されている。なお、第2の提示態様と変形例とは、利用者が情報端末6の入力部を操作することで、交互に表示されてもよい。
【0125】
以降、
図7に戻って説明を続ける。上述した第2の提示態様では、座標軸として第1座標軸Axis1のみを採用しているが、例えば表示部に2次元で表示する場合、当該第1座標軸Axis1と交差する第2座標軸Axis2を設定することが好ましい。また、このように座標軸を2軸で構成することで、利用者は更にワインの匂いを想起しやすくなると考えられる。
【0126】
サーバ制御部7bは、上述した第1座標軸Axis1の設定に際して参照された抽出対象群(ここでは、第2抽出対象群G2)を除く二つの抽出対象群の代表座標を結ぶ線分のうち、計測匂い情報M_AROに基づき決定される座標(計測匂い情報の代表点Om)と最も近い線分を、第2座標軸Axis2として設定する。これによって、計測匂い情報に対して匂いについての関連性が高い線分を第2座標軸Axis2として設定することが可能となる。
【0127】
具体的には、図示するようにラべル「A地方産ワイン」が付された第1抽出対象群G1の代表座標o_1とラベル「E国産ワイン」が付された第5抽出対象群G5の代表座標o_5を結ぶ線分が代表点Omと最も近く(距離はL1)、かつ当該線分は第1座標軸Axis1と交差すると判断され、この線分が第2座標軸Axis2として設定される。なお、更に第3座標軸を定めることで、情報端末6の表示部において、基準対象と抽出対象との関係を立体的に提示してもよい。
【0128】
図10は、利用者に対する第3の提示態様を示す説明図である。
図10においても、情報端末6の表示部に表示されるコンテンツのみを示しており、座標軸として上述した第1座標軸Axis1と第2座標軸Axis2とが採用されている。第3の提示態様においても、基準匂い情報ST_3は基準として、座標軸の原点に配置される。
【0129】
図示するように、基準匂い情報ST_3から第1座標軸Axis1を右方に向かうほど、ワインの匂いが「B国産ワイン」に近くなり、逆に左方に向かうほど、匂いが「D地方産ワイン」に近くなること、更には、基準匂い情報ST_3から第2座標軸Axis2を上方に向かうほど、ワインの匂いが「A地方産ワイン」に近くなり、逆に下方に向かうほど、匂いが「E国産ワイン」に近くなること、が利用者に分かりやすく提示される。このように、基準対象や抽出対象がプロットされる際の座標軸が明確に定義されることで、基準対象と抽出対象との関係がより明確になり、利用者はレコメンドされたワインの匂いをより想起しやすくなる。
【0130】
なお、第1実施形態においては、可視化の際に用いられる座標軸(第1座標軸Axis1あるいは第2座標軸Axis2)を選定する際、「A地方産ワイン」、「B国産ワイン」といった産地等に基づくクラスタリングを行っているが、これを例えば「オレンジの匂い」、「ナッツの匂い」といった匂いを表す定性的な区分(官能評価から導かれる区分)でクラスタリングを行ってもよい。端的には、クラスタリングに用いる指標は任意に定めてよい。
【0131】
また、例えば第1座標軸Axis1を産地等に基づき選定し、第2座標軸Axis2を官能評価から導かれる抽出対象群に基づき選定してもよい。また、一つの座標軸を選定する際に、どのような属性に基づく抽出対象群を選定するかは任意であり、一方の抽出対象群を産地等に基づき定め、他方を匂いを表す定性的な区分等に基づき定めてもよい。
【0132】
また、可視化の際に用いられる座標軸に関して、上述のようにサーバ制御部7bが計測匂い情報と匂いについての関連性が高い線分を抽出して、これを座標軸に設定しているが、座標軸を設定する際に用いる抽出対象群を、利用者に選択させる構成としてもよい。具体的には、情報端末6の表示部に選択可能な抽出対象群を提示し、このうち利用者が選択した抽出対象群の代表座標o_Nを結ぶ線分を座標軸として採用する。
【0133】
なお、第1実施形態では、第1匂い類似度、第2匂い類似度、第3匂い類似度、画像類似度、味覚類似度の算出、提示候補の抽出、提示候補からの計測対象100と同一の対象の除外、提示候補の絞り込み等の処理をサーバ制御部7bで実行し、可視化処理を情報端末制御部6aで実行するものとして説明したが、この機能分担を適宜変更した構成としてもよい。例えば、これらの処理の全てを情報端末制御部6aで行ってもよい。この構成においては、情報端末制御部6aが制御部としての機能を担い、サーバ7は記憶部としての機能を担うこととなる。
【0134】
(第2実施形態)
図11は、本発明の第2実施形態に係る匂い評価システムS1の全体構成を示すブロック構成図である。第1実施形態においては、計測ユニット1はネットワーク5を介して情報端末6やサーバ7と情報を送受信しているが、第2実施形態では、計測ユニット1と情報端末6とは直接的に情報を送受信する。
【0135】
具体的には、計測ユニット1と情報端末6とは、近距離無線通信規格あるいはUSB(Universal Serial Bus)規格等に基づいて情報を送受信する。特にUSBは情報の送受のみならず、情報端末6から計測ユニット1に電力(バスパワー)を供給できる点で特に有用である。この場合、計測ユニット1には電源を搭載する必要がなくなる。第2実施形態では、例えば情報端末6のUSBポート(図示せず)に計測ユニット1が接続される。そして匂いセンサ1aが出力する計測匂い情報は、情報端末6に入力され、情報端末6からネットワーク5を介してサーバ7に送信される。以降の処理等は第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0136】
(第3実施形態)
図12は、本発明の第3実施形態に係る匂い評価システムS1の全体構成を示すブロック構成図である。第3実施形態では、計測ユニット1において、空気導入部12と空気排出部13とが設けられた筐体11の内部に流路14が形成されている点で、第1実施形態とは異なっている。計測ユニット1は、空気導入部12から空気(ガス)を吸引し、流路14を経て、空気排出部13から排出する。なお、以降の説明において、第1実施形態等で既に説明した構成要素については説明を省略する。
【0137】
流路14には空気流AFの上流から下流にかけて、第1フィルタ15、匂いセンサ1a、送風機17、第2フィルタ18が設けられている。第1フィルタ15は例えばプレフィルタ及び集塵フィルタ(いずれも図示せず)の2層構造とされている。第1フィルタ15によって、下流に配置された匂いセンサ1aに粉塵等が侵入することが防止される。
【0138】
ここでプレフィルタは、空気流AFに含まれる比較的大きな埃を捕集する。集塵フィルタは、プレフィルタを通過した空気が次に通過するフィルタであり、例えばHEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルタが好適に用いられる。HEPAフィルタは、空気に含まれる粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の捕集率を有し、細菌やPM2.5などの微小粒子物質を捕集する。
【0139】
送風機17は例えばファンで構成され、送風機17を駆動することで、匂い物質が含まれた外部(空間SP)の空気が計測ユニット1の内部に取り込まれる。なお、送風機17の駆動源は例えばDCモータが用いられ、計測ユニット制御部1fは送風量及び駆動方向(送風方向)が制御可能となっている。
【0140】
第2フィルタ18は例えば外部から内部にかけてプレフィルタ、集塵フィルタ、脱臭フィルタ(いずれも図示せず)の3層構造とされている。ここで脱臭フィルタには活性炭が含まれ、空気中に含まれる匂い物質は活性炭に吸着される。
【0141】
匂いを計測する際、計測ユニット制御部1fは、流路14において空気流AFが第1フィルタ15、匂いセンサ1a、第2フィルタ18の順に通過するよう送風機17を制御する。一方、匂いを計測するタイミングに先立ち、計測ユニット制御部1fは、匂いを計測する際とは風向が逆方向となるように送風機17を制御する。これによって、第2フィルタ18、匂いセンサ1a、第1フィルタ15の順に空気流AFが通過する。
【0142】
上述したように、第2フィルタ18には脱臭フィルタが設けられていることから、匂いセンサ1aにはいわゆる無臭空気が供給され、匂いセンサ1aの各センサモジュールを構成する感応膜のリフレッシュ(匂い物質の離脱)が図られる。これによって、計測対象100の匂いを正確に計測することが可能となる。
【0143】
このように第3実施形態の匂い評価システムS1は、リフレッシュモードを備えることから、特に匂いセンサ1aの出力を時系列に取得するような用途において有用である。具体的には、匂いセンサ1aの出力を時系列に取得するタイミングの中間の期間において、空気の搬送方向を逆転させて匂いセンサ1aのリフレッシュを行うように構成される。これによって、例えば複数のワインについての基準匂い情報や第1情報を効率よく収集し、ワインDBに蓄積することが可能となる。もちろん、匂いセンサ1aの出力に対して上述の可視化処理を行って、利用者に提示するよう構成してもよい。
【0144】
以上、本発明に係る匂い評価システムS1について特定の実施形態に基づいて詳細に説明したが、これらはあくまでも例示であって、本発明はこれらの実施形態によって限定されるものではない。例えば第1実施形態では、計測したワインの匂いに基づき利用者にレコメンドを行う匂い評価システムS1について説明したが、本発明は、ワインに限らず、ビール、ウイスキー等の酒類、香水、アロマオイル、食品等、あらゆる匂いの評価に適用されうることは言うまでもない。
【0145】
また、第2実施形態あるいは第3実施形態で説明した構成に基づいて計測匂い情報を得て、当該計測匂い情報を用いて可視化やレコメンドを行うことも当然に可能である。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明に係る匂い評価システムS1及び匂い評価方法は、計測対象100の匂い情報に基づき当該計測対象100と匂いが類似する他の対象の匂いを利用者に想起させやすく提示することが可能であることから、物品の購入に際して利用者が匂いや香りを確かめることができない電子商取引に応用でき、特に電子商取引において、利用者に購買を促すレコメンド等に好適に応用することができる。
【符号の説明】
【0147】
1 計測ユニット
1a 匂いセンサ
1b センサ駆動部
1d 通信部
1f 計測ユニット制御部
1g 計測ユニット記憶部
5 ネットワーク
6 情報端末
6a 情報端末制御部
7 サーバ
7a サーバ記憶部
7b サーバ制御部
8 電子商取引用サーバ