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  • 特開-アルミナ焼結体部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066076
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】アルミナ焼結体部材
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/111 20060101AFI20240508BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20240508BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C04B35/111
C04B41/87 Z
H01B3/12 337
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175352
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】小林 凌
(72)【発明者】
【氏名】深沢 祐司
(72)【発明者】
【氏名】河上 佳奈
【テーマコード(参考)】
5G303
【Fターム(参考)】
5G303AA10
5G303AB07
5G303BA09
5G303CA01
5G303CB01
5G303CB17
5G303CB40
5G303DA05
5G303DA06
5G303DA07
(57)【要約】
【課題】誘電損失が少なく、耐食性に優れ、パーティクルの発生が抑制されたアルミナ焼結体部材、また表面に、均一な保護膜を形成することができるアルミナ焼結体部材、また表面に、均一な保護膜が形成されたアルミナ焼結体部材を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明にかかるアルミナ焼結体部材は、酸化アルミニウムを少なくとも99.5wt%、Mgを100ppm以上1000ppm以下、Naを25ppm以上100ppm以下、Siを100ppm以上1000ppm以下含有し、密度が少なくとも3.97g/cm3のアルミナ焼結体からなり、アルミナ焼結体の任意の一表面で(500×500μm)四方エリアにおけるアルミナ粒子の平均粒径が2μm以上6μm以下、アルミナ粒子の平均アスペクト比は0.5以上1以下であり、四方エリアにおける算術平均高さSaが0.2μm以下、表面性状のアスペクト比Strが0.05以上1未満である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化アルミニウムを少なくとも99.5wt%、Mgを100ppm以上1000ppm以下、Naを25ppm以上100ppm以下、Siを100ppm以上1000ppm以下含有し、密度が少なくとも3.97g/cm3のアルミナ焼結体からなり、
前記アルミナ焼結体の任意の一表面で(500×500μm)四方エリアにおけるアルミナ粒子の平均粒径が2μm以上6μm以下、アルミナ粒子の平均アスペクト比は0.5以上1以下であり、前記四方エリアにおける算術平均高さSaが0.2μm以下、表面性状のアスペクト比Strが0.05以上1未満であることを特徴とするアルミナ焼結体部材。
【請求項2】
請求項1記載のアルミナ焼結体部材の表面に、更にイットリウムを含むセラミックスの保護膜が形成されており、
前記保護膜は厚さが1μm以上20μm以下、気孔率が0.2%以下、算術平均高さSaが0.2μm以下、表面性状のアスペクト比Strが0.05以上1未満であることを特徴とするアルミナ焼結体部材。
【請求項3】
3~7GHzにおける誘電損失(tanδ)が1×10-5以上1×10-4以下であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のアルミナ焼結体部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ焼結体部材に関し、例えば、半導体製造装置内で使用される部材の素材として好適なアルミナ焼結体部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルミナ焼結体部材は、各種の半導体製造装置、例えばエッチャー等の高周波プラズマを発生させる装置の部品として用いられている。
しかしながら、このような高周波プラズマを発生させる装置内で、アルミナ焼結体部材が高周波プラズマに晒されるとパーティクルが生じ、被処理体であるシリコンウェハーの歩留まりが低下するという課題があった。
【0003】
この改善策の一つとして、表面に各種の保護膜が成膜されたアルミナ焼結体部材が知られている。
従来、アルミナ焼結体に成膜される保護膜として溶射膜がある。例えば、特許文献1には、アルミナ焼結体の表面における平均気孔径を5μm以下、または、粗さRaを0.1μm未満にすることで、溶射膜が均一に成膜され、溶射膜の表面の状態を良好にできることが示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1にあるような表面粗さRa、即ち線粗さで表面性状を規定したとしても、基材表面全体の性状について詳細に知ることができない。
そのため更に、前記面に拡張した面粗さで表面性状を評価したものとして、特許文献2に示されるように、基材の表面を算術平均高さSaで特定することが提案されている。
即ち、特許文献2には、メディアン径D50が0.1[μm]以上6[μm]以下の溶射粒子を準備する工程と、表面の算術平均高さSa[μm]が0.04×D50≦Sa≦1.4×D50を満たす基材を準備する工程と、前記基材の表面に前記溶射粒子を溶射することにより前記基材の表面に溶射膜を形成する工程とを備える溶射部材の製造方法が示されている。
【0005】
この特許文献2に開示された発明によれば、溶射粒子のメディアン径D50が0.1[μm]以上6[μm]以下と小さいので、溶射において、溶融状態の溶射粒子が基材の表面に衝突して付着する際に、溶射粒子と基材との間に隙間が生じ難い。その結果、基材と溶射膜との密着強度の向上が図られる。
【0006】
また、例えば、半導体製造装置内で使用される部材は、低誘電損失体であることが望ましく、誘電損失の指標として用いられるtanδの値は、対象とする周波数域を特定して評価されることがある。
例えば特許文献3には、Al23を主成分とし、0.5重量%以上のY23を含有する焼結体であって、Al23結晶相の粒界にY23もしくはAl23とY23の化合物が存在し、7~9GHzにおける誘電損失(tanδ)が1.0×10-4以下である低誘電損失体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-50536号公報
【特許文献2】特開2019-127598号公報
【特許文献3】特開平8-325054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、例えば、半導体製造装置内で使用される、アルミナ焼結体からなる部材としては、低誘電損失であることが好ましい。
しかしながら、低誘電損失のアルミナ焼結体とするために、特許文献3に開示されるようにアルミナに0.5重量%以上のY23を含有させた場合、焼結体の表面において粒界を含めて粒子を均一に存在させることが難しく、表面の凹凸を増大させてしまうという課題があった。
そのため、特許文献3に記載の発明にあっては、表面の凹凸が大きく、その表面に保護膜を良好に形成することに対して、十分に対応できるとは言い難いものであった。
【0009】
また、特許文献2に記載の発明は、メディアン径D50が0.1[μm]以上6[μm]以下の溶射粒子を用い、そのメディアン径Dと特定の関係を有する算術平均高さSaの基材を用いるものであって、溶射法以外の方法によって形成される保護膜に対応するものではなかった。また、特許文献2に記載の発明では、算術平均高さSaで基材の表面性状を特定しているが、保護膜を形成するのに、適切に表面性状を特定するものではなかった。
【0010】
更に、溶射膜中の気孔がエッチングプロセスにおいてパーティクル発生の原因となるため、近年イオンプレーティング法などの緻密な成膜法の導入が進められている。
しかしながら、特許文献2の表面性状は、イオンプレーティング法などの緻密な成膜法に適用できる基材の適切な表面性状については示されていない。
【0011】
このように特許文献1~3のいずれの文献をみても、保護膜をより良好に形成することを可能とする、高純度で低誘電損失のアルミナ焼結体の表面性状については、まだ十分に把握できているとは言えなかった。
【0012】
そこで、本発明者らは、アルミナ焼結体部材が低誘電損失のアルミナ焼結体であること、またアルミナ焼結体の基材中にアルミナ以外の元素が多いと、これらがアルミナの粒界に偏析して局所的にプラズマによるエッチングが進行するため、基材のアルミナは高純度であることを前提とし、保護膜を形成するのに適切なアルミナ焼結体部材を鋭意、研究し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、誘電損失が少なく、耐食性に優れ、パーティクルの発生が抑制されたアルミナ焼結体部材を提供することを目的とする。
また、アルミナ焼結体(基材)表面に、均一な保護膜を形成することができるアルミナ焼結体部材、またアルミナ焼結体(基材)表面に、均一な保護膜が形成されたアルミナ焼結体部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために本発明に係るアルミナ焼結体部材は、酸化アルミニウムを少なくとも99.5wt%、Mgを100ppm以上1000ppm以下、Naを25ppm以上100ppm以下、Siを100ppm以上1000ppm以下含有し、密度が少なくとも3.97g/cm3のアルミナ焼結体からなり、前記アルミナ焼結体の任意の一表面で(500×500μm)四方エリアにおけるアルミナ粒子の平均粒径が2μm以上6μm以下、アルミナ粒子の平均アスペクト比は0.5以上1以下であり、前記四方エリアにおける算術平均高さSaが0.2μm以下、表面性状のアスペクト比Strが0.05以上、1未満であることを特徴とする。
【0015】
このような構成を有することで、誘電損失が少なく、耐食性に優れ、パーティクルの発生が抑制され、表面の粒子の剥離が抑制されたアルミナ焼結体部材を得ることができる。さらに、アルミナ焼結体部材の表面の凹凸が小さいための、アルミナ焼結体(基材)表面に成膜する場合には、均一な成膜を形成することができる。
尚、本発明に係るアルミナ焼結体部材にあっては、3~7GHzにおける誘電損失(tanδ)が1×10-5以上1×10-4以下である。
【0016】
ここで、前記アルミナ焼結体部材の表面に、更にイットリウムを含むセラミックスの保護膜が形成されており、前記保護膜は厚さが1μm以上20μm以下、気孔率が0.2%以下、算術平均高さSaが0.2μm以下、表面性状のアスペクト比Strが0.05以上、1未満であることが望ましい。
【0017】
このように、保護膜として、イットリウムを含むセラミックス形成した場合には、プラズマに対する耐食性をより向上させることができる。
また、アルミナ焼結体部材における保護膜の表面性状が、基材となるアルミナ焼結体の表面性状(Sa、Str)と略同等となる。このようにすることで、保護膜表面での剥離が低減でき、保護膜が形成されたアルミナ焼結体部材も優れた低誘電損失特性を有する。
尚、本発明に係る保護膜が形成されたアルミナ焼結体部材にあっては、3~7GHzにおける誘電損失(tanδ)が1×10-5以上1×10-4以下である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、誘電損失が少なく、耐食性に優れ、パーティクルの発生が抑制されたアルミナ焼結体部材を得ることができる。また、アルミナ焼結体(基材)表面に、均一な保護膜を形成することができるアルミナ焼結体部材、またアルミナ焼結体(基材)表面に、均一な保護膜が形成されたアルミナ焼結体部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施例、及び比較例の条件及び結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るアルミナ焼結体部材について詳細に説明する。
本発明にかかるアルミナ焼結体部材のアルミナ焼結体は、酸化アルミニウムを少なくとも99.5wt%、Mgを100ppm以上1000ppm以下、Naを25ppm以上100ppm以下、Siを100ppm以上1000ppm以下含有し、密度が少なくとも、3.97g/cm3以上である。
また、前記アルミナ焼結体の任意の一表面で(500×500μm)四方エリアにおけるアルミナ粒子の平均粒径が2μm以上6μm以下、アルミナ粒子の平均アスペクト比が0.5以上1以下であって、前記四方エリアの算術平均高さSaが0.2μm以下、表面性状のアスペクト比Strが0.05以上、1未満である。
【0021】
このように、本発明にかかるアルミナ焼結体部材は、特徴あるアルミナ焼結体によって構成され、このアルミナ焼結体部材の誘電損失は、3~7GHzにおける誘電損失(tanδ)が1×10-5以上1×10-4以下と少ない。
尚、アルミナ焼結体部材とは、例えば、半導体製造装置等に適用される部材をいい、適用するために、特定の形状寸法に形成されたものをいう。またアルミナ焼結体は、アルミナ焼結体部材を構成する材料あるいは基材をいう。
【0022】
上記のように、本発明にかかるアルミナ焼結体部材のアルミナ焼結体は、酸化アルミニウムを99.5wt%以上含む。
これは、例えば半導体製造装置内で用いられるセラミックスが、プラズマガスと反応してセラミックス表面が損傷を受けることを考えると、耐食性の高い酸化アルミニウムを99.5wt%以上含むことが好ましい。
酸化アルミニウムが99.5wt%未満では不純物が多く、アルミナ結晶に溶存できなかった不純物が粒界に偏析し、プラズマガスとの局所的な反応が生じやすく、パーティクルの発生につながるためである。
【0023】
尚、前記アルミナ焼結体の酸化アルミニウム含有量が多いほど、アルミナ焼結体部材に好適ではあるが、後述する各不純物の上限と、セラミックス材料における不可避不純物と、を合計した値が100wt%となるようにしてもよい。
【0024】
また、前記アルミナ焼結体は、Mgが100ppm以上1000ppm以下、Naが25ppm以上100ppm以下、Siが100ppm以上1000ppm以下、それぞれ含まれる。
【0025】
上記のように前記アルミナ焼結体に含まれるMgが100ppm未満の場合、焼結が不十分となり緻密化しない。
前記Mgが1000ppmより大きい場合、スピネル粒子以外にアルミナ粒子の粒界に偏析することで、アルミナ粒子のアスペクト比が0.5未満になる。アルミナ粒子のアスペクト比が0.5を下回ると、後述する理由により均一な成膜が困難となる。
【0026】
前記アルミナ焼結体の断面(表面)を観察すると、アルミナ粒子、これらアルミナ粒子同士の界面に存在する粒界、3本の粒界が交差する3重点、そして、スピネル(MgAl24)粒子で構成されている。
不純物元素は、粒界や3重点に偏析して存在しているが、Mgについては、酸化アルミニウムを焼成する際に、Mgの一部がスピネル粒子の生成に消費され、粒界や3重点に偏析して存在する量は、その他の同程度の濃度で含まれる元素に比べると、少ないものといえる。
この時、Mgの濃度が高い場合は、スピネル粒子の生成に消費される以上のMgが、アルミナ粒子またはスピネル粒子の粒界に多めに偏析することになる。
【0027】
すなわち、本発明では、添加するMgの量をより厳密に調整することで、スピネル粒子の生成以上の、いわゆる余剰のMgができるだけ少なくなるようにする、言い換えると粒界に存在するMgが非常に少ない態様にすることが、より好ましい。
【0028】
また、前記アルミナ焼結体に含まれるNaは25ppm以上100ppm以下である。Naが25ppm未満でも、特性や品質の上、特に支障があるわけではないが、Naはもともとアルミナ原料に必ず一定量含まれており、Na含有量が少ない高純度な原料は高価になる点で不利である。
一方、Naが100ppmより大きい場合、誘電損失が1×10-4より大きくなるので好ましくない。
【0029】
また、前記アルミナ焼結体に含まれる含むSiは100ppm以上1000ppm以下である。
Siが100ppm未満でも特性や品質の上、特に支障があるわけではないが、SiもNaと同様に、もともとアルミナ原料に必ず一定量含まれており、Na含有量が少ない高純度な原料は高価になる点で不利である。
一方、Siが1000ppmより大きい場合、粒界にSiが偏析して、この箇所にプラズマガスとの局所的な反応が生じ、パーティクルの発生につながるので好ましくない。
【0030】
また、前記アルミナ焼結体の密度は、少なくとも3.97g/cm3である。
密度が高いと、局所的な気孔が少なく均一な成膜が可能となる。本発明では、上限は特に設定しておらず、理論密度まで適用が可能といえる。
一方、密度が3.97g/cm3未満では、局所的な気孔に沿って成膜されるため、ドライエッチング耐性が低下する懸念がある。
【0031】
また、前記アルミナ焼結体は、任意の一表面で(500×500μm)四方エリアにおけるアルミナ粒子は、平均粒径が2μm以上6μm以下、平均アスペクト比が0.5以上1以下である。
そしてまた、前記四方エリアの算術平均高さSaが0.2μm以下、表面性状のアスペクト比Strが0.05以上、1未満である。
【0032】
ここで、任意の一表面で(500×500μm)四方エリアとは、所定の形状(円筒、平板、ブロック、その他)を有するアルミナ焼結体において、プラズマに晒される面を選択し、その面(平面または曲面)のある箇所(中心部1点または等間隔で数点)で、(500×500μm)四方の領域を指すものである。
この箇所は、面の中で任意に一つ、あるいは複数選択することが出来る。
【0033】
また、(500×500μm)四方エリアの表面は、各種顕微鏡で表面観察し、目視あるいは画像解析ソフト等を用いて観察することができる。ただし、これ以外の手法を用いることを妨げるものではない。
【0034】
本発明では、任意の一表面で(500×500μm)四方エリアにおいて、アルミナ粒子の平均粒径が2μm以上6μm以下、アルミナ粒子の平均アスペクト比が0.5以上1以下である。
【0035】
また、上記のようにアルミナ粒子の平均粒径は2μm以上6μm以下である。
平均粒径が2μm未満では、3つの結晶粒からなる三重点が生じやすく、粒界と同じように不純物が偏析しやすくプラズマガスとの反応が生じやすい。
一方、平均粒径が6μmより大きい場合、研磨時に生じた脱粒の影響で算術平均粗さが大きくなる。
【0036】
また、アルミナ粒子の平均アスペクト比は、0.5以上1以下である。
アルミナ焼結体の一表面に膜を形成する場合の成膜性は、その一表面が筋目のない等方性表面であると良好になる。そのため、一表面におけるアルミナ粒子のアスペクト比は等方性が高い形状(アスペクト比が1に近い)が求められる。一方、アスペクト比が0.5未満では、単一方向に筋目のある表面になるため、均一な成膜は困難となる。
さらに、アルミナ焼結体はフッ化水素酸等の酸洗浄されることがあるが、酸洗浄を実施した後においても、表面の状態を良好に保持できるようにするには、やはりアスペクト比が0.5以上1以下であると好ましい。因みに、アスペクト比が0.5未満の粒子の場合、単位面積当たりの粒界の交点が多くなる。その結果、粒界の交点が多いとエッチングにより腐食される起点が多くなり、表面の状態を良好に保持できなくなると推察される。
【0037】
尚、平均粒径または平均アスペクト比は、任意の一表面で(500×500μm)四方エリアで観察される粒子を、所定の数(例として200~300前後)をランダムに選択して、それぞれの径またはアスペクト比を測定して平均した値を指すものとする。
これら平均粒径または平均アスペクト比は、各種顕微鏡を用いて表面観察を行い、目視あるいは画像解析ソフト等を用いて、それぞれ算出することができる。
【0038】
また、前記アルミナ焼結体は、算術平均高さSaが0.2μm以下、表面性状のアスペクト比Strが0.05以上、1未満である。
これら算術平均高さSa、表面性状のアスペクト比Strは、面における粗さや凹凸を表現するパラメータの中で特に成膜に大きな影響を与え、セラミックス材料としてこれらの値が容易に作製することができ、かつ、必要最小限の個数であることを、総合的に勘案して決定されたものである。
即ち、表面性状を示すパラメータは、SaやStr以外にも数多く存在するが、この数が多いほど、全ての数値を所定の範囲に収めるために製造条件が複雑化するので、好ましくない。本発明では、最低限この2つのパラメータを管理するだけでも、耐食性と低誘電特性を容易に両立させることを可能とすることを見出したものである。
【0039】
算術平均高さSaが0.2μmを超えると、凹凸が大きすぎて均一な成膜が困難になることが懸念される。
なお、本発明では、算術平均高さSaは小さい分には、成膜性の点では特に問題ない。しかしながら、このような非常に平坦な面を作るのは、技術的にハードルが高く、製造コストの面でも好ましいものではない。この点を考慮すると、例えば、算術平均高さSaは0.01μm以上であればよい。
【0040】
表面性状のアスペクト比Strは、0.05以上、1未満である。すなわち、表面性状のアスペクト比Strが0.05未満の場合、上記した方向性を持った筋目のある表面になるため、均一な成膜が困難となる点で、好ましくない。
なお、表面性状のアスペクト比Str=1というのは、完全に方向性のない面であることを表しており、これは実現することが極めて困難といえるものである。
【0041】
尚、本発明では、アルミナ焼結体において、酸洗浄などによってフッ化水素酸が接触することによって生じる面の面荒れは、この表面性状のアスペクト比Strでも評価することができる。
すなわち、表面性状のアスペクト比Strが0.05未満の場合、面荒れが生じ、イットリア酸化物などの保護膜の成膜が不均一となる虞がある。
【0042】
また、前記アルミナ焼結体は、算術平均高さSa、表面性状のアスペクト比Strが上記した範囲内にあることで、平面全体にわたりうねりや筋状の凹凸が確認されない、良好な平面を得ることができる。
このような面は、この上に成膜される保護膜の品質を向上させ、パーティクルの発生が抑制された保護膜とすることが出来る。
【0043】
そして、アルミナ焼結体部材(アルミナ焼結体)は、上記してきた各元素の含有量、算術平均高さSa、表面性状のアスペクト比Strで表される表面性状を具備することで、3~7GHzにおける誘電損失(tanδ)を1×10-5以上1×10-4以下とすることができる。
【0044】
低誘電損失アルミナは、1~10GHzにおける誘電損失(tanδ)を1×10-4以下というものが一般的である。ただし、1~10GHzという幅広い周波数帯において誘電損失1×10-4以下を保証するのは難しい。
【0045】
ところで、本発明の発明者らは、5GHz近辺における誘電損失の低減には、表面性状も少なからず影響することを見出し、本発明では、5GHzにおける誘電損失にフォーカスし、これにある程度の幅を持たせた3~7GHzでの誘電損失を低く抑えるために、パーティクル発生低減効果と併せて、所定の各元素濃度とSa、Strとの組み合わせを得た。このようにすることで、狭い周波数帯領域において確実に誘電損失を低減させることを可能にしたものである。
【0046】
以上のように本発明にかかるアルミナ焼結体部材のアルミナ焼結体は、その表面の凹凸が小さいだけでなく、凹凸が等方性面である特徴も有しているため、表面に形成される保護膜が密着しやすくなり、均一に成膜することが可能となる。そして、これにより気孔を起点としたパーティクルの発生を回避することができる。
また、酸洗浄後も面荒れが少ないことから、研磨剤・加工屑を除去する酸洗浄を行うことができ、その後、保護膜を均一に形成することができる。そのため、保護膜を形成したアルミナ焼結体部材は、半導体製造装置で使用したときのパーティクルの発生を回避することができる。
さらに、このようなアルミナ焼結体は、特に5GHz近辺での誘電損失を低減させることができる。
【0047】
また、本発明にかかるアルミナ焼結体部材は、上記した本発明のアルミナ焼結体からなる基材の表面にイットリウムを含むセラミックスの保護膜が形成されたものである。
この保護膜は、厚さが1μm以上20μm以下、気孔率が0.2%以下、算術平均高さSaが0.2μm以下、表面性状のアスペクト比Strが0.05以上、1未満である。
更に、このアルミナ焼結体部材は、3~7GHzにおける誘電損失(tanδ)が1×10-5以上1×10-4以下である。
【0048】
本発明のアルミナ焼結体部材が有する保護膜は、イットリウムを含むセラミックスであれば、アルミナ焼結体の表面に形成され、プラズマに対する耐食性をより向上させることが出来る。具体的には、酸化イットリウムが挙げられる。
尚、必要に応じて、この酸化イットリウムに各種元素(F,Zr,Al,Ti,Si等)が添加されたものでもよい。
【0049】
また、本発明のアルミナ焼結体部材が有する保護膜は、気孔率が0.2以下であれば、気孔を起点としたパーティクルの発生を回避することができる。
本発明では、気孔率は小さいほど好ましいが、用途及び製造コストとの兼ね合いで、最適な気孔率を設定することが好ましい。
【0050】
保護膜の厚さが1μmより小さい場合、均一に成膜することが困難である。
一方、保護膜の厚さが20μmより大きい場合、均一に成膜するには複数回成膜する必要が生じてしまい、製造コストがかさむうえに、一回で全膜厚を成膜する場合に比べて凹凸が多発してしまう。
【0051】
本発明に係るアルミナ焼結体部材においては、基材となるアルミナ焼結体の表面性状(Sa、Str)と、その表面に形成された保護膜の表面性状がおおむね同等である。このようにすることで、保護膜表面での剥離が低減でき、アルミナ焼結体からなる部材も、優れた低誘電損失特性を有する。
【0052】
尚、保護膜の厚さの均一性は、保護膜が形成されるアルミナ表面の凹凸の高さに依存する。具体的には、SaまたはStrが本発明の範囲より大きくなると、イットリア酸化物による成膜が均一になされない懸念があるため、好ましくない。
【0053】
以上のように、本発明のアルミナ焼結体部材は、例えば、半導体製造装置に適用することができ、シリコンウェハーを処理したときの製造歩留まりの低下問題を効率的に解決することができる。
【実施例0054】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記に示す実施例により制限されるものではない。
【0055】
(実験1)
(アルミナ焼結体の作製1~共通条件)
純度99.5%以上のアルミナ粉末に、溶媒として水をアルミナ粉末と同重量、バインダーとしてポリビニルアルコールをアルミナ重量比で2%を添加し、スプレー造粒した後、大気中で1600℃にて焼結させ、径φ500mmで厚さ15mmの焼結体を得た。この焼結体の全表面を、セラミックス加工用のグラインダーで研削した。
【0056】
(アルミナ焼結体の作製2~各条件の調整方法)
酸化アルミニウムの割合については、酸化アルミニウム純度の異なるアルミナ粉末を選択して対応した。密度については、焼成時間の変更で対応した。
Mg、Na、Siの割合については、各元素の酸化物を適量添加することで対応した。平均粒径については、アルミナ粉末の粒度を変更して対応した。
平均アスペクト比については、焼成温度と時間を調整することで対応した。
SaとStrについては、粒径1μm以下の研磨剤を用いて1時間から3時間の間で研磨時間を調整して研磨することで、それぞれ所定の粗さになるよう対応し、図1の実施例1~15、比較例1~13のアルミナ焼結体を得た。
【0057】
(評価1~密度)
各評価用アルミナ焼結体について、密度をJISR1634(1998)に基づき算出した。
【0058】
(評価2~平均粒径と平均アスペクト比)
各評価用アルミナ焼結体について、大気中1550℃×120分熱処理後に、一平面上の中央部を走査型電子顕微鏡(SEM)で粒径の観察を行い、一画像(500×500μm四方)中に観察される粒子200個をランダムに選択し、個々の粒径とアスペクト比を測定し、平均粒径と平均アスペクト比を算出した。視野は500倍または1000倍とした。
【0059】
(評価3~表面性状)
各評価用アルミナ焼結体、及び各評価用アルミナ焼結体部材について、キーエンス株式会社製の共焦点レーザー顕微鏡(VK-X1100)を用いて、評価2と同様の領域について観察し、装置付属ソフトにより算術平均高さSa、及び表面性状のアスペクト比Strの値を算出した。このSaとStrは、国際標準化機構ISO25178(2012)に基づき算出される。
【0060】
(評価4~誘電損失)
各評価用アルミナ焼結体を、径φ25mmで厚さ10mmになるように研削加工を行い、これを110℃×1時間大気中で乾燥させた後、波長5GHz帯で測定を行った。測定装置は、Agilent社製8720ESを使用し、測定条件は室温で行った。
【0061】
(評価5~気孔率)
各評価用アルミナ焼結体部材の断面をSEMで観察し、500倍または1000倍の視野における断面電子顕微鏡観察で得られた気孔の面積により測定することで、気孔率を得た。
【0062】
(評価6~耐プラズマ性)
各評価用アルミナ焼結体または各評価用アルミナ焼結体部材を、プラズマ発生装置に導入できるように20mmに切断後、シリコンウェハーの上に設置し、半導体製造装置(エッチャー)にアルゴンおよび四フッ化炭素および酸素の混合ガスを導入し、13Paの真空度でプラズマ処理を50時間行った。試験後にシリコンウェハー上に付着したパーティクルを観察して、0.1μm以上のパーティクルが確認された場合は、耐プラズマ性がないものと評価した。
【0063】
アルミナ焼結体について、実施例1~15、及び、比較例1~13の条件と試験結果とを図1の表1に示す。
【0064】
図1の表1の結果から、本発明の範囲にあるものは、誘電損失とプラズマ耐性に優れたアルミナ焼結体であることを確認した。
【0065】
(実験2)
次に、実施例1、比較例1、比較例2の評価用アルミナ焼結体について、酸洗浄を行い、洗浄後の表面形状と耐プラズマ性について評価した。酸洗浄は、予備水洗→HF9%溶液浸漬15分→純水リンス→自然乾燥、という工程を経て実施した。
表2にその結果を示す。洗浄後は、それぞれ実施例1’、比較例1’および比較例2’とした。
尚、算術平均高さSa、表面性状のアスペクト比Strは、評価3の内容と同様に行った。また、プラズマ耐性は、評価6の内容と同様に行った。
【0066】
【表2】
【0067】
表2の結果から、算術平均高さSa、及び表面性状のアスペクト比Strが本発明の範囲を外れると、酸洗浄後の表面状態が悪化して、プラズマ耐性が低下することを確認した。
【0068】
(実験3)
実施例1のアルミナ焼結体に対し、保護膜を形成すると共に、保護膜の厚さを変更した実施例16~18、比較例14~18の評価用アルミナ焼結体部材を作製した。
具体的には、実施例1のアルミナ焼結体の一平面に対して、イオンプレーティング法で酸化イットリウム膜を形成した。この時、膜厚、気孔率の変更は、これらが変化するような膜の条件、すなわち、成膜速度を調整することで膜を形成した。
そして、SaとStrについては、粒径1μm以下の研磨剤を用いて1時間から3時間の間で研磨時間を調整して研磨することで、それぞれ所定の粗さになるようにし、保護膜の膜厚、気孔率、Sa、Strを変更した評価用アルミナ焼結体部材を作製して、プラズマ耐性を評価した。その結果を表3に示す。
尚、保護膜の膜厚は、保護膜の断面をSEMで観察して求めた。また保護膜の気孔率、表面性状は、各評価用アルミナ焼結体部材の保護膜の断面をSEMで観察し、500倍または1000倍の視野における断面電子顕微鏡観察で得られた気孔の面積により測定することで、保護膜の気孔率を得た。また、保護膜の算術平均高さSa、及び表面性状のアスペクト比Strは、評価3の内容と同様に行った。また、プラズマ耐性は、評価6の内容と同様に行った。
【0069】
【表3】
【0070】
表3の結果から、保護膜の膜厚、算術平均高さSa、及び表面性状のアスペクト比Strが本発明の範囲内にあるものは、保護膜が適切に形成されているので、十分なプラズマ耐性がある。一方、ひとつでも本発明の範囲を外れると、プラズマ耐性が悪化することを確認した。
図1