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特開2024-66095マグネシア・スピネルれんがの再資源化方法およびマグネシア・スピネルれんが
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066095
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】マグネシア・スピネルれんがの再資源化方法およびマグネシア・スピネルれんが
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/043 20060101AFI20240508BHJP
   C04B 35/622 20060101ALI20240508BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20240508BHJP
   F27B 7/28 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C04B35/043
C04B35/622 040
F27D1/00 N
F27B7/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175387
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083172
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 豊明
(72)【発明者】
【氏名】戸田 義大
【テーマコード(参考)】
4K051
4K061
【Fターム(参考)】
4K051AA04
4K051AB03
4K051BB02
4K051BE00
4K061AA08
4K061BA01
(57)【要約】
【課題】使用済マグネシア・スピネルれんがに沈積した不純物を、効率的に除去し、リサイクルする。
【解決手段】マグネシア原料60質量%以上95質量%以下、スピネル原料5質量%以上40質量%以下含み、SiO含有量が0.25質量%未満、CaO/SiO(質量比)が2.5以上4.0以下とするマグネシア・スピネルれんがを、全圧が101kPa以下で酸素分圧が5kPa以下の雰囲気下で、1300℃以上1500℃以下で処理する。上記処理した原料を5質量%以上40質量%以下用い、マグネシア原料50質量%以上95質量%以下、スピネル原料5質量%以上35質量%以下含み、SiO含有量が0.25質量%未満、CaO/SiO(質量比)が2.5以上4.0以下であるマグネシア・スピネルれんがをリサイクルれんがとして成形する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシア原料60質量%以上95質量%以下、スピネル原料5質量%以上40質量%以下含むマグネシア・スピネルれんがにおいて、
SiO含有量が0.25質量%未満、CaO/SiO(質量比)が2.5以上4.0以下であることを特徴とするマグネシア・スピネルれんが。
【請求項2】
マグネシア・スピネルれんがをセメントロータリーキルンで使用後に回収して粉砕し、
全圧が101kPa以下で酸素分圧が5kPa以下の雰囲気下で、
1300℃以上1500℃以下で処理することを特徴とする使用後マグネシア・スピネルれんがの再生方法。
【請求項3】
請求項2記載の方法で処理したリサイクル原料を5質量%以上40質量%以下、
マグネシア原料50質量%以上95質量%以下、
スピネル原料5質量%以上35質量%以下含むマグネシア・スピネルれんがにおいて、
SiO含有量が0.25質量%未満、
CaO/SiO(質量比)が2.5以上4.0以下であることを特徴とするマグネシア・スピネルれんが。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシア・スピネルれんがの再資源化処理方法と、その再資源化に適するマグネシア・スピネルれんがに関する。
【背景技術】
【0002】
セメントロータリーキルンで使用されるマグネシア・スピネル耐火れんがは、使用済れんがの廃棄量を減らし有効活用するためにも、一部リサイクルされている。
【0003】
ところで、稼働中のキルン内では、焼成物や炉内ガス中に含まれるアルカリ金属成分などが耐火れんが内部に侵入し沈積する。これらの成分は、使用済れんがを原料として再利用する際に、当該再利用れんがの強度や耐スポーリング性を低下させる不純物となる。
【0004】
そこで、耐火れんがにとって悪影響となる上記のアルカリ金属成分等の不純物の除去処理を行なった上で、リサイクルが図られている。
【0005】
特許文献1は、マグネシア・スピネル焼成れんがの製造方法において、Al含有量が3~25質量%の範囲内にあり、気孔率が10~20%の範囲内にある使用後または未使用のマグネシア・スピネル焼成れんがのリサイクル原料10~90質量%、アルミナ原料2~8質量%、及び残部がマグネシア原料および/またはスピネル原料を配合してなり、得られた原料配合物中のAl含有量が3~25質量%の範囲内にあり、且つAlとMgOの合計含有量100質量%とした時に、NaO+KO+TiOの合計含有量が外掛けで0.5質量%未満である原料配合物を所定の形状に成型した後、焼成することが開示されている。
【0006】
特許文献2は、各種容器内張りにて使用されたマグネシア-クロム質れんがを還元雰囲気下にて500℃以上で焼成することが開示されている。
【0007】
特許文献3は、マグネシア及びスピネルを主構成原料とした配合物を成形、高温焼成したマグネシア・スピネルれんがにおいて、CaO1.0~4.0重量%、SiO0.25~2.0重量%を含有し、かつCaO/SiO比が2.0~4.0範囲に化学組成を調整することにより、セメントとの親和性を向上させ、使用時、れんがのセメントコーティング性を向上させたセメントロータリーキルン用マグネシア・スピネルれんが、が開示されている。
【0008】
特許文献4は、CaOを0.2~3.0重量%、SiOを0.05~1.2重量%、Bを0.015重量%以下、MgOを95重量%以上含有し、かつCaOとSiOの含有比(CaO/SiO)が重量比で2.5以上であるガラス炉蓄熱室用高マグネシア質れんが、が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第6624133号公報
【特許文献2】特開平10-174955号公報
【特許文献3】特開平09-052754号公報
【特許文献4】特開平08-133749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1は、使用済れんがを処理する過程でケレン処理やふるい分けを行い不純物の多い部分を取り除いているが、使用済れんがにはケレンやふるい分けで除去が困難な不純物も多く含まれるため、リサイクル原料を使用したれんが不純物が多く混ざることもあり、れんがの耐用性に問題が生じる懸念がある。
【0011】
また、特許文献1では、使用できる粒径に制限を加えている(段落0028)ため、使用済みれんがの一部は、れんがに再利用できない。
【0012】
特許文献2は、使用後マグクロれんがを還元雰囲気下で焼成することで、6価クロムと共にNaやKなどの不純物が除去されることが示されているが、れんがの原料として再使用すると、れんがの耐スポーリング性や強度を低下させる場合があり、リサイクル原料として使用するには問題がある。
【0013】
特許文献3、特許文献4は、セメントロータリーキルン用のれんがとしての性能は優れるものの、再利用する場合の検討がなされていない。
【0014】
本発明は上記従来の事情に鑑みて提案されたものであって、使用済セメントロータリーキルンのマグネシア・スピネルれんが内に沈積したアルカリ金属成分などの不純物を、効率的に除去できる方法を提供するとともに、当該アルカリ金属成分の除去が容易で繰り返しリサイクルできるマグネシア・スピネルれんがを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、マグネシア原料60質量%以上95質量%以下、スピネル原料5質量%以上40質量%以下含むセメントロータリーキルンに使用するマグネシア・スピネルれんがを前提とする。当該れんがにおいて、SiO含有量が0.25質量%未満、CaO/SiO(質量比)が2.5以上4.0以下とする。当該れんがに対して、以下の処理を施すと再利用が可能となる。
【0016】
すなわち、上記のマグネシア・スピネルれんがをセメントロータリーキルンで使用後に回収して粉砕し、全圧が101kPa以下で酸素分圧が5kPa以下の雰囲気下で、1300℃以上1500℃以下で処理する。
【0017】
上記の方法で処理したリサイクル原料を5質量%以上40質量%以下用い、マグネシア原料50質量%以上95質量%以下、スピネル原料5質量%以上35質量%以下含むマグネシア・スピネルれんがを成形する。このとき当該リサイクル原料を用いたれんがの不純物組成は、SiO含有量が0.25質量%未満、CaO/SiO(質量比)が2.5以上4.0以下である。
【発明の効果】
【0018】
前記再資源化される使用済マグネシア・スピネルれんがは、当該れんがに不純物として含まれるSiOの量を制限することによって、稼働中のアルカリ金属の酸化物のれんがへの浸潤・沈積を抑えることができる。同様に当該れんがに不純物として含まれるCaOによって硫酸塩類が生成されるが、これを除去するには温度を調整した低酸素雰囲気での焼成を考慮することで足りる。また、CaO/SiOの値を制限することによって、前記硫酸塩類除去後の気孔率の増加を防止することができる。従って、当該使用済れんがを再資源化に供しても、強度、耐スポーリング性の高いマグネシア・スピネルれんがを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(1)基本的事項
前記のように、セメントロータリーキルンに使用されるマグネシア・スピネルれんがには、当該セメントロータリーキルンの稼働中にNa、K、S、Cl等の不純物が沈積、浸潤する。この不純物が多いほど、当該グネシア・スピネル質れんがをリサイクル原料として使用したれんがの強度や耐脆化性など、各種特性が低下する傾向にあることが知られている。
【0020】
本発明は、セメントロータリーキルンでの使用済れんがを再利用するについて、当該再利用対象のれんがの組成におけるSiOの割合と、CaO/SiOの比率、更に、再資源化処理をする焼成過程における焼成雰囲気と温度条件を調整することによって、再利用を繰り返してもれんがの耐用性が維持できることを確認した。
【0021】
すなわち、再資源化する当該れんがの組成は、SiOの割合を0.25質量%未満とし、CaO/SiOの比率を2.5以上4.0以下とする。更に、再資源化の過程で前記れんがを、全圧が101kPa以下で酸素分圧が5kPa以下の雰囲気下で、1300℃以上1500℃以下で焼成を行う。
【0022】
前記のように、セメントロータリーキルンでマグネシア・スピネルれんがが使用されると、れんがの内部にNa、K、Clの酸化物、硫酸塩類等の不純物が浸潤・沈積する。カリウム(K)を含む成分を例にあげると、KCl、(K,Na)Cl、KO、(K,Na)O、KCa(SO、KSO、KNa(SO等、様々な浸潤と沈積がある。
【0023】
当該成分は、マグネシア・スピネルれんが中のSiO量や、CaO/SiO比によって、沈積する量や形態が変わる傾向があることが確認されている。すなわち、SiO量が多いれんがに対しては、前記成分はKOなどの酸化物の形で沈積が生じやすく、CaOが多いれんがに対しては、KCa(SOなどの硫酸塩類の形で沈積が生じやすい。
【0024】
この現象が生じる理由は、れんが中に含まれる不純物の一つであるSiOは、NaOやKO等のアルカリ金属酸化物と容易に反応して複合酸化物を生じやすい性質を持つのに対して、CaOは、硫黄(S)の酸化物と容易に反応して硫酸塩系の化合物となりやすい性質を持つためであると考えられる。
【0025】
このように使用済れんがに浸潤している不純物を除去しようとするときに、その方法の一つとして高温焼成によってこれらの成分を揮発させる方法がある。その時に、不純物がKOやNaO等の酸化物として沈積している場合は、これをほぼ完全に除去するために1600℃以上の超高温が必要となる。その一方で不純物がKCa(SOやKNa(SO等の硫酸塩類として沈積している場合は、低酸素雰囲気で焼成することで1300~1500℃でもこれを除去できる。
【0026】
この理由は、KO等のアルカリ金属酸化物は雰囲気中の酸素の多寡に関係なく1600℃前後で揮発し除去されるのに対して、KCa(SO等の硫酸塩類は低酸素雰囲気で焼成すると、1300~1500℃でも分解が促され除去できるためと考えられる。
【0027】
すなわち、使用済れんがを焼成してNa、K、S、Clを主とする不純物を除去するためには、使用済れんがに含まれるSiOの割合が低く、かつCaO/SiO比が高い方が、より低温での除去が可能となる。
【0028】
より具体的には、れんが中のSiO含有量は0.25質量%未満かつCaO/SiO比が2.5以上4.0以下であることが好ましい。
【0029】
マグネシア・スピネルれんがにSiO含有量が0.25質量%以上含まれている場合は、セメントロータリーキルン内で当該れんがが使用される過程で、れんが中にアルカリ成分がKOなどの酸化物の形で沈積する。このようなれんがに含まれるアルカリ系成分を、焼成によって除去するには、前述の通りに超高温(1600℃前後)での焼成が必要となる。
【0030】
CaO/SiO比が2.5以下であれば、同様にアルカリ成分がKOなどのアルカリ金属酸化物の形で沈積する。その一方で、CaO/SiO比が4.0以上になるとアルカリ金属酸化物の沈積は少なくなるが、硫酸塩類の沈積量が多くなりやすいため、結果として前記焼成による、前記硫酸塩類の除去効率が悪く、れんがの耐用性にも悪影響となる。
【0031】
そこで、マグネシア・スピネルれんがのSiO含有量は0.25%未満かつCaO/SiO比は2.5~4.0にすることで、れんがへのアルカリ金属酸化物の沈積、硫酸塩類の沈積が抑制されると考えられる。
【0032】
マグネシア・スピネルれんが(前記資源化原料を用いて生成されたれんがを含む)でロータリーキルンを構築し、所定期間使用の使用済れんがを回収する。回収したれんがを粉砕し、低酸素雰囲気で焼成して使用中に沈着、浸透したアルカリ金属や硫黄等の不純物を揮発させて除去することによって、不純物量は低減され、高品質な再資源化原料ができる。
【0033】
この時の焼成温度については、1500℃より高い温度では不純物の除去は可能であるものの、燃料や電気を多く必要とするためコスト面や環境保護の面で好ましくない。その一方で1300℃より低い温度であると、温度不足により完全な不純物除去(目安として、アルカリ金属成分と硫黄成分が1.0%以下)とすることが難しくなる。よって、焼成時の温度は1300℃以上1500℃以下が望ましい。
【0034】
前記焼成は、全圧が101kPa以下で酸素分圧が5kPa以下の雰囲気下で行われる。この焼成雰囲気中の酸素以外の成分としては、窒素や二酸化炭素など通常の大気中に含まれる成分及びアルゴンなどの不活性ガス成分は含まれていてもよいが、塩素やフッ素などの活性の高いガス成分は含まれないのが好ましい。
【0035】
(2)再資源化れんがとその製造方法
本発明を構成する原料の配合として、[1]マグネシア原料を60~95重量%、[2]スピネル原料を5~40重量%、[3]微量添加物を0~5重量%、[4]結合剤(バインダー)を2~6重量%、の範囲で配合する。この際に、れんが全体に含まれる成分としてSiOが0.25重量%未満、CaO/SiO比が2.5以上4.0以下となるように配合する。
【0036】
<マグネシア原料>
マグネシア原料は、主要鉱物がぺリクレースであり、市販されている電融品、焼結品のいずれも使用することができるが、マグネシア原料中のMgOが98.5重量%以上の物が好ましい。MgO含有量が98.5重量%以下の物は、不純物が多いためマグネシア原料そのものの耐食性が低く、使用中にアルカリ金属や硫黄成分との反応を生じやすくなるため好ましくない。
【0037】
当該マグネシア原料は60~95重量%使用される。マグネシア原料が60重量%を下回ると、高温時の耐食性が損なわれるため好ましくない。またマグネシア原料が95重量%を超えると耐スポーリング性が損なわれて使用中に割れの発生が増えるため好ましくない。
【0038】
<スピネル原料>
スピネル原料は、主要鉱物がAl-Mgスピネル及びペリクレースであり、電融や焼結、いずれの方法で製造されたものでも使用できる。Al-Mgスピネル原料に含まれる成分構成として、MgOの含有量が25~55重量%であり、かつMgOとAl合計が97.5重量%以上の高純度の物が好ましい。MgOとAl合計が97.5重量%より低いと、使用中にアルカリや硫黄成分と不純物が反応し、耐食性が低下するため好ましくない。
【0039】
当該スピネル原料は5~40重量%使用される、5重量%を下回ると耐スポーリング性が損なわれて使用中に割れが頻発してしまうため好ましくない。40重量%を超えると高温時の耐食性が損なわれるため好ましくない。
【0040】
<微量添加物>
微量添加物としてAl、ZrO、Fe、FeO等が使用できる。これらの添加物は、れんがの耐溶損性能の向上や、れんがの表面に原料が付着することによる保護効果の向上を狙うために、1種または2種以上を組み合わせて添加することができる。当該微量添加物の添加量は0~5重量%である。当該微量添加物が5重量%以上であると、焼成時にれんがの寸法異常が発生するため好ましくない。
【0041】
<SiO、CaO>
SiOやCaOは基本的には上述した主な原料に対して不可避的に混入する不純物である。セメントロータリーキルンで使用するれんがの当該SiO、CaOが多いとアルカリ物質の不純物をれんが内に浸潤・沈積することから、SiOは0.25重量%未満、CaO/SiO比が2.5以上4.0以下とすることが望ましい。
【0042】
<結合剤(バインダー)>
一般的に耐火れんがに使用される結合剤であればよく、例えば、糖蜜、リグニンスルフォン酸マグネシウム、フェノ-ル樹脂、硫酸マグネシウム(苦汁)、ポリビニルアルコール、水、等の中から1種、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0043】
当該結合剤は、外掛けで2重量%以上~6重量%以下の範囲で配合する。
【0044】
<混錬・焼成>
前記の原料の配合物を混錬し、所定の形状に成形してれんがを得る。成形は、フリクションプレスや油圧プレスなどの成型機を用いて1.0~3.0t/cmの圧力をかけて成形する。
【0045】
成形された成形体は、トンネルキルン、シャトルキルンなどの連続焼成炉又は単独焼成炉で焼成し、マグネシア・スピネルれんがを得る。この時の焼成温度は、一般的なマグネシア・スピネルれんがと同じでよく、最高温度は1300~1850℃の範囲となるように適宜調整する事ができるが、セメントロータリーキルン用のれんがとして高耐用を得るために、1700℃以上で焼成することが好ましい。
【0046】
(3)使用済れんがの再資源化方法
セメントロータリーキルンで使用されたマグネシア・スピネルれんが(上記再資源化原料を含まない場合、あるいは以下の焼成処理によって得られた再資源化原料を含む場合がある)は、セメントロータリーキルンで使用された後、回収される。この回収したれんがを粉砕し、以下に説明する焼成工程を経て内部に含まれるアルカリ成分や硫黄成分が除去され、原料として再利用される。
【0047】
<解体・回収>
セメントロータリーキルンで使用されたマグネシア・スピネルれんがは、油圧ブレーカー等で解体した後に、本発明以外のれんがと分別して回収することが望ましい。
【0048】
回収されたれんがは、全体の化学組成が、SiO含有量が0.25%未満、CaO/SiO比が2.5以上4.0以下の範囲である。
【0049】
<粉砕>
粉砕の方法としては、ジョークラッシャー、ロールクラッシャー、ハンマークラッシャー、スタンプミル等の広く市販されている粉砕機を使用する事ができる。
【0050】
粉砕後の使用済れんがの粒の大きさについては特に限定するものではないが、一般的なれんがの粒度構成は最大5mm程度であるため、5mm以下の粒径に粉砕するのが好ましい。
【0051】
<焼成>
前工程で粉砕された使用後原料は、トンネルキルン、ロータリーキルン、シャトルキルン、箱型加熱炉等で焼成できる。原料の投入方法や、回収の手間、揮発・除去されたアルカリ金属等の不純物成分が含まれる排ガスの処理のしやすさを考慮すると、ロータリーキルンを用いることが好ましい。
【0052】
雰囲気や温度制御可能なロータリーキルンを用いれば、全圧が101kPa以下で酸素分圧が5kPa以下の雰囲気下で、1300℃以上1500℃以下での焼成処理が可能である。
【0053】
電気加熱などの方法で加熱する場合は、炉内の空気を真空ポンプ等の機器で引いて圧力を下げるか、窒素やCOなどの不活性ガスを炉内に導入することによって、炉内の酸素分圧を5kPa以下とすることができる。
【0054】
以上の工程より得られた処理原料を、リサイクル原料としてマグネシア・スピネルれんが用の原料として再利用する。
【実施例0055】
まず再資源化の元になるマグネシア・スピネルれんがの試験片を作成した。純度が約99%のマグネシア原料を78重量%およびMgO-Alの重量比が1:1のスピネル原料を22重量%配合した。この配合物の化学成分は、MgO:84~86%、Al:11~13%、その他不純物成分:1~2%である。この配合物にバインダーとして糖蜜2.5重量%、水0.2重量%を添加し、混練後型枠に充填し、油圧プレス機にて1.5t×5回締めにて成形し、トンネルキルンで最高温度が1700℃以上となるように、試験用のれんがとした。
【0056】
この試験用れんがを、セメントロータリーキルンにて約半年間使用した後に回収し、3.3mm以下の粒径に粉砕して、粉砕後原料を得た。この粉砕後原料を試料とし、後述する各種試験を行った。
【0057】
<SiO、CaO>
化学組成はJIS R 2216の蛍光X線分析法にて、粉砕後原料と加熱後原料の組成を測定した。
【0058】
<気孔率>
気孔率は、粉砕後原料をふるい分けし、粒度が3.35~2.00mmのものについて、3回測定した平均値を求めた。試験方法は、JIS R 2205の真空法と同じ方法で測定した。
【0059】
<不純物除去試験>
粉砕後原料100gを坩堝状容器(容器の材質の主成分はMgO)に入れ、電気炉で表1に示す炉内雰囲気と各温度で5時間加熱し、粉砕後原料内部に含まれる不純物成分の除去試験を行った。この加熱後に得られた試料を、加熱後原料とする。粉砕後原料と加熱後原料の組成の測定値から、式(1)、式(2)に示すKOとSOの除去率を求めた。

O除去率=(A―B)/A×100・・・式(1)
:粉砕後原料に含まれるKO量
:加熱後原料に含まれるKO量

SO除去率=(A―B)/A×100・・・式(2)
:粉砕後原料に含まれるSO
:加熱後原料に含まれるSO

また、加熱後原料の気孔率を測定し、式(3)より気孔率増加量を求めた。

気孔率増加量=B―A・・・式(3)
:粉砕後原料の気孔率
:加熱後原料の気孔率

気孔率増加量の値が大きいほど、不純物が除去されたことを示す。
試験結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
<表1の各実施例>
実施例1~3はSiOおよびCaOの含有量が異なる粉砕後原料を箱型電気炉の内部をCOガスで満たし、1500℃で加熱したものである。この時のO濃度は4%であることから、酸素分圧は4.08kPaとしている。その各試験結果は、加熱後原料のKO除去率とSO除去率は、いずれも80%以上と高い値となり、加熱後の気孔率増加量は4%以下の低い値に抑えられている。
【0062】
実施例4~6は、同様にSiOおよびCaOの含有量が異なる粉砕後原料を箱型電気炉にて1400℃で加熱した結果である。この時に電気炉の内部はそれぞれ、COガス雰囲気(実施例4)、Nガス雰囲気(実施例5)であり、この時のO濃度は4%であることから、酸素分圧は4.08kPaとしている。真空雰囲気の実施例6は、気圧が16.2kPaであり、酸素分圧は3.3kPaとしている。その各試験結果は、1500℃で加熱した実施例1~3と比べると加熱後原料のKO除去率とSO除去率は低いものの、いずれも80%以上と高い値となり、加熱後の気孔率増加量は4%以下の低い値に抑えられている。
【0063】
表1に記載された実施例は、いずれも焼成後のKO除去率およびSO除去率が80%を超えており、かつ焼成後の気孔率増加量も4.0%を下回っていることから、いずれも本発明のリサイクル原料となり、高品質の状態に再資源化されていると言える。なお、気孔率増加量が4.0%を下回ることが好ましい理由は、気孔率増加量が高いほど多くの不純物が除去されていると判断できるが、気孔率増加量が高すぎる原料をれんがに再利用した場合、れんがの強度等の品質特性が悪化するため、好ましくないからである。
【0064】
表2に比較例を示す。記載のサンプルの処理や分析の手順は表1に記載の実施例と同一である。
【0065】
【表2】
【0066】
<表2の比較例>
比較例1および比較例2は、KOの除去率が80%を下回るため不十分である。これらは原料中に含まれるSiO量がやや多めになっていることが影響してカリウム成分の揮発が妨げられていると考えられる。
【0067】
比較例3はKOおよびSOの除去率が共に80%を下回るため不十分である。これは焼成温度が1300℃では不純物成分を分解・揮発させるのに不十分であったと考えられる。
【0068】
比較例4は、KOおよびSOの除去率が共に80%以上と高いが、焼成温度が1600℃と高いため、加熱するためのエネルギーが多く必要となり、コストや環境面において好ましくない。
【0069】
比較例5は、KOおよびSOの除去率が共に80%以上と高いが、加熱後の気孔率増加量が4.8%と高いため不適である。これは、含まれるCaO量とCaO/SiO比が高いことから、れんが中に沈積する不純物として硫酸カルシウム系の化合物が多くなり、焼成処理時に除去された分、気孔率増加量が高くなったと考えられる。
【0070】
比較例6は、KOの除去率は80%を超えているが、SOの除去率は80%を下回っているため不十分である。これは加熱時の雰囲気が大気雰囲気であるため、れんが中に含まれる硫酸塩類の分解が進まず、除去しきれなかったためと考えられる。
【0071】
次に、表1の実施例1で得られた加熱後原料を使用したれんがを表3の実施例1とし、表2の比較例1・5・6の加熱後原料を使用したれんがを表3の比較例1・5・6とし、各種試験を行った。その結果を表3に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
表3は、加熱後原料、焼結MgO(純度:99%)、スピネル原料(Al : MgO比=重量比で1 : 1)、仮焼アルミナ、バインダーとして糖蜜+水(1:1)を加えて混錬して型枠に充填し、油圧プレス機にて1.5t×5回締めで成形し、トンネルキルンで1700℃以上の高温焼成したれんがを得て試料とした。
【0074】
表3の試験方法と結果について説明する。
【0075】
<圧縮強度>
強度の指標として、圧縮強さを測定した。圧縮強さは、JIS R 2206-2に従い測定した。
【0076】
<耐スポーリング性>
耐スポーリング性を示す指標として弾性率を測定した。弾性率は、ISO 12680-1に準拠する動弾性率測定装置を用いて測定した。
【0077】
<気孔率>
JIS R 2205の真空法により、見掛け気孔率を測定した。
【0078】
品質結果は、リサイクル原料を含んでいない基準のれんがとしており、評価の優劣は、「◎」はリサイクル原料を含まない場合と同等、「〇」は、◎よりやや劣るが耐用に問題なく使用可能、「△」は〇より劣り、耐用に影響が出る可能性があるものとした。
【0079】
実施例1は、表1で得たKOとSOの除去率が高く、加熱後の気孔率増加量が4%未満の加熱後原料を、リサイクル原料としてれんがに再使用したものである。強度、耐スポーリング性、気孔率ともに比較例より優れる結果となり、リサイクル原料を含まない基準のれんがと同等のれんがが得られた。
【0080】
比較例1、5、6は、表2の比較例1、5、6の加熱後原料をれんがに使用したものである。比較例の加熱後原料は、セメントロータリーキルンでれんがが使用されている間にKOやSO等の不純物が多く沈積された分、加熱中に不純物が揮発して加熱後原料に気孔ができており、それをリサイクル原料としてれんがに使用した場合、れんがの気孔率が増大し、強度低下となったと考えられる。あるいはリサイクル原料に残留していたKOやSO等の不純物がれんがを高温焼成する過程で揮発し、より気孔率が増加すると同時に強度が低下したと考えられる。
【0081】
比較例1と比較例5は、加熱後原料のKOやSOの除去率が低かった。これはKOやSO成分が残留しており、れんがの焼成過程で低融点のガラス層を介した液相焼結が生じやすくなることで、れんがの原料の結合が脆くなったため、耐スポーリング性が劣る結果となったと考えられる。
【0082】
表3の実施例1に示すれんがをセメントロータリーキルンで使用し、その後回収し、表1と同様の条件で再び再原料化した。結果を表4に示す。
【0083】
【表4】
【0084】
実施例1~4の再再原料化した処理原料は、表1と同様にKO除去率およびSO除去率が80%以上かつ加熱後の気孔率増加量は4%以下となり、再びマグネシア・スピネル質れんがの高品質なリサイクル原料として再再使用することができる。よって、当技術範囲のマグネシア・スピネルれんがと再資源化方法を用いれば、マグネシア・スピネルれんがを繰り返し使用することが可能である。