(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066100
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】電力分配合成器
(51)【国際特許分類】
H01P 5/103 20060101AFI20240508BHJP
H01P 5/12 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
H01P5/103 D
H01P5/12 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175403
(22)【出願日】2022-11-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】593030923
【氏名又は名称】株式会社ニッシン
(74)【代理人】
【識別番号】100093056
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100142930
【弁理士】
【氏名又は名称】戸高 弘幸
(74)【代理人】
【識別番号】100175020
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 知彦
(74)【代理人】
【識別番号】100180596
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 要
(74)【代理人】
【識別番号】100195349
【弁理士】
【氏名又は名称】青野 信喜
(72)【発明者】
【氏名】南光 正平
(72)【発明者】
【氏名】中村 治
(57)【要約】
【課題】より高出力かつ広帯域の電力について、分配または合成を可能とする電力分配合成器を提供する。
【解決手段】
主軸xの一端側に開口部31を有するとともに他端側が閉鎖されている導波管3と、マイクロ波電力を供給する同軸ケーブル8を導波管3に接続させる少なくとも2以上のコネクタ部5と、導波管3の内部に配置され同軸ケーブル8と接続されており、コネクタ部5と開口部31との間におけるインピーダンスを整合させる導電部材7とを備え、導電部材7は、同軸ケーブル8が接続されている中央部14から一端側および他端側の各々に向かって先細りとなる形状となっており、導波管3の底面26および他端側の側面と当接されるように配置されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2以上のマイクロ波供給源から供給されるマイクロ波電力の分配および合成を行う電力分配合成器であって、
主軸に沿って延在しており、前記主軸の一端側に開口部が形成されているとともに前記主軸の他端側が閉鎖されている導波管と、
前記マイクロ波供給源が発振するマイクロ波電力を供給する同軸ケーブルを前記導波管へ接続するように構成された少なくとも2以上の同軸コネクタ部と、
前記導波管の内部に配置され、前記同軸ケーブルと接続されており、前記同軸コネクタ部と前記開口部との間におけるインピーダンスを整合させる整合部材と、
を備え、
前記整合部材は、
前記同軸ケーブルが接続されている接続領域から前記一端側および前記他端側の各々に向かって先細りとなる形状となっており、
前記導波管の底面および前記他端側の側面と当接されるように配置されている
ことを特徴とする電力分配合成器。
【請求項2】
請求項1に記載の電力分配合成器において、
前記整合部材は、
前記接続領域から前記一端側および前記他端側の各々に向かって高さが徐々に低くなるステップ状となるように構成される
ことを特徴とする電力分配合成器。
【請求項3】
請求項1に記載の電力分配合成器において、
前記整合部材は、
前記接続領域から前記一端側および前記他端側の各々に向かって高さが徐々に低くなるスロープ状となるように構成される
ことを特徴とする電力分配合成器。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の電力分配合成器において、
前記整合部材は、
前記導波管の底面および前記他端側の側面に加え、前記主軸に交差する軸方向における前記導波管の側面に当接するように構成される
ことを特徴とする電力分配合成器。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の電力分配合成器において、
前記整合部材は、前記同軸ケーブルと接続される接続部を複数備えており、
前記整合部材は、複数の前記接続部を介して複数の前記同軸ケーブルと接続可能に構成される
ことを特徴とする電力分配合成器。
【請求項6】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の電力分配合成器において、
前記整合部材および前記同軸コネクタ部は複数設けられており、
複数の前記整合部材および同軸コネクタ部は、少なくとも前記導波管の主軸方向に複数並ぶように配置される
ことを特徴とする電力分配合成器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を例とする電力を分配または合成する電力分配合成器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロ波を発生させるためにマグネトロンなどを用いることが知られており、マグネトロンによって高出力を得ることができる。マグネトロンなどによって出力される電力を分配または合成し、同軸で伝送させる装置として電力分配合成器が用いられている。
【0003】
特に最近では250Wまたは500Wを例とする高出力で同軸出力を行う半導体発振器が提案されており、これらの半導体発振器が発振するマイクロ波などの電力を電力分配合成器で合成して数kW級の電力を得る試みがなされている。
【0004】
導波管と2以上の同軸線路とを有する電力分配合成器として、それぞれ異なる発振器と接続されている2以上の同軸プローブがそれぞれ導波管に連結されている、プローブ型の電力分配合成器が知られている(例えば、特許文献1)。また電力分配合成器の他の例として、導波管の内部において横架されているクロスバーに2以上の同軸プローブが接続されている、クロスバー型の電力分配合成器が提案されている(例えば、特許文献2)。これらの電力分配合成器では、各々の発振器において発振されたマイクロ波などの電力は、各々の発振器に接続されている同軸プローブを介して導波管の内部へと伝送され、伝送された電力は導波管の内部において合成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第3286202号明細書
【特許文献2】特表2021-524684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような構成を有する従来例の場合には、次のような問題がある。
【0007】
すなわち従来の構成では電力分配合成器において発生する熱の排出効率が低いので、特に同軸プローブにおいて発生する熱によって電力分配合成器の温度が容易に上昇する。その結果、従来の電力分配合成器では合成できる電力の上限が低くなる。よって、従来の電力分配合成器では高出力の電力を分配または合成することに適していない。
【0008】
また従来の装置では分配合成を可能とする電力の周波数帯域が狭いという問題も懸念される。近年において提案されている半導体発振器は、発振周波数を容易に変えることができる。そのため半導体発振器と電力分配合成器とを組み合わせることによって、より広範囲の周波数帯域について電力の分配または合成を可能とする電力分配合成器が望まれている。しかしながら従来の装置ではインピーダンスの整合がとれる周波数帯域が非常に狭い範囲に限られているので、広帯域における電力分配合成を実現することが困難となっている。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、より高出力かつ広帯域の電力について、分配または合成を可能とする電力分配合成器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち本発明は、少なくとも2以上のマイクロ波供給源から供給されるマイクロ波電力の分配および合成を行う電力分配合成器であって、
主軸に沿って延在しており、前記主軸の一端側に開口部が形成されているとともに前記主軸の他端側が閉鎖されている導波管と、
前記マイクロ波供給源が発振するマイクロ波電力を供給する同軸ケーブルを前記導波管へ接続するように構成された少なくとも2以上の同軸コネクタ部と、
前記導波管の内部に配置され、前記同軸ケーブルと接続されており、前記同軸コネクタ部と前記開口部との間におけるインピーダンスを整合させる整合部材と、
を備え、
前記整合部材は、
前記同軸ケーブルが接続されている接続領域から前記一端側および前記他端側の各々に向かって先細りとなる形状となっており、
前記導波管の底面および前記他端側の側面と当接されるように配置されている
ことを特徴とするものである。
【0011】
(作用・効果)この構成によれば、導波管は主軸の一端側に開口部が形成されており他端側は閉鎖された状態となっている。当該導波管の内部にはインピーダンスを整合させる整合部材が配置されている。導波管の内部に配置されている整合部材は、同軸ケーブルが接続されている接続領域から導波管の一端側に向かって先細りとなっており、かつ当該接続領域から導波管の他端側に向かっても先細りとなる形状となっている。さらに整合部材は、導波管の底面および他端側の側面と当接されるように配置されている。
【0012】
整合部材が接続領域から導波管の一端側および他端側の各々に向かって先細りとなる形状となっていることにより、インピーダンスの整合がとれる周波数帯域がより広くなる。よって、広範囲の周波数帯域について電力の分配または合成を可能とする電力分配合成器を実現できる。
【0013】
また整合部材は、導波管の底面に当接するとともに導波管における他端側の側面と当接するように、導波管の内部に配置される。この場合、整合部材と導波管との接触部分の面積がより広くなるので、同軸ケーブルまたは整合部材などで発生した熱は当該接触部分を介して整合部材から導波管へと効率良く伝導され、導波管の外部へと排出される。その結果、電力分配合成器における排熱効率を大きく向上できるので、高出力の電力を分配合成させる場合であっても電力分配合成器が高温化することを回避できる。よって、電力分配合成器が扱うことのできる電力の上限が高くなるので、高出力の電力について分配または合成を行うことが可能となる。
【0014】
また、上述した発明において、前記整合部材は、前記接続領域から前記一端側および前記他端側の各々に向かって高さが徐々に低くなるステップ状となるように構成されることが好ましい。
【0015】
(作用・効果)この構成によれば、整合部材は接続領域から導波管の一端側に向かって高さが徐々に低くなるステップ状であるとともに、接続領域から導波管の他端側に向かって高さが徐々に低くなるステップ状である。整合部材がステップ形状であることにより、同軸コネクタ部と導波管の開口部との間におけるインピーダンスをより適切に整合できる。特に整合部材が接続領域から導波管の他端側に向かって高さが徐々に低くなるステップ状であることにより、広い周波数帯域について同軸コネクタ部と導波管の開口部との間におけるインピーダンスを整合することができる。
【0016】
また、上述した発明において、前記整合部材は、前記接続領域から前記一端側および前記他端側の各々に向かって高さが徐々に低くなるスロープ状となるように構成されることが好ましい。
【0017】
(作用・効果)この構成によれば、整合部材は接続領域から導波管の一端側に向かって高さが徐々に低くなるスロープ状であるとともに、接続領域から導波管の他端側に向かって高さが徐々に低くなるスロープ状である。整合部材がスロープ形状であることにより、同軸コネクタ部と導波管の開口部との間におけるインピーダンスをより適切に整合できる。特に整合部材が接続領域から導波管の他端側に向かって高さが徐々に低くなるスロープ状であることにより、広い周波数帯域について同軸コネクタ部と導波管の開口部との間におけるインピーダンスを整合することができる。
【0018】
また、上述した発明において、前記整合部材は、前記導波管の底面および前記他端側の側面に加え、前記主軸に交差する軸方向における前記導波管の側面に当接するように構成されることが好ましい。
【0019】
(作用・効果)この構成によれば、整合部材は、導波管の底面および導波管の他端側の側面に加え、主軸に交差する軸方向における導波管の側面に当接する。この場合、整合部材と導波管とが接触する部分の面積がさらに増大するので、電力分配合成器における排熱効率がさらに向上する。従って、より高出力の電力について分配または合成を行うことが可能となる。
【0020】
また、上述した発明において、前記整合部材は、前記同軸ケーブルと接続される接続部を複数備えており、前記整合部材は、複数の前記接続部を介して複数の前記同軸ケーブルと接続可能に構成されることが好ましい。
【0021】
(作用・効果)この構成によれば、整合部材は同軸ケーブルと接続される接続部を複数備えている。そのため、1つの整合部材は複数の同軸ケーブルと同時に接続できる。よって、導波管の内部に配置する整合部材の数を低減させつつ、より多くのマイクロ波供給源から発振されるマイクロ波を合成させることが可能となる。
【0022】
また、上述した発明において、前記整合部材および前記同軸コネクタ部は複数設けられており、複数の前記整合部材および同軸コネクタ部は、少なくとも前記導波管の主軸方向に複数並ぶように配置されることが好ましい。
【0023】
(作用・効果)この構成によれば、複数の前記整合部材および同軸コネクタ部は、少なくとも前記導波管の主軸方向に複数並ぶように配置される。当該構成により、マイクロ波の波長などの条件に起因して幅方向における導波管のサイズが制限される場合であっても、同軸コネクタ部および整合部材の数を多くすることができる。よって、より多数のマイクロ波供給源から入力されるマイクロ波を合成させることが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る電力分配合成器によれば、導波管は主軸の一端側に開口部が形成されており他端側は閉鎖された状態となっている。当該導波管の内部にはインピーダンスを整合させる整合部材が配置されている。導波管の内部に配置されている整合部材は、同軸ケーブルが接続されている接続領域から導波管の一端側に向かって先細りとなっており、かつ当該接続領域から導波管の他端側に向かっても先細りとなる形状となっている。さらに整合部材は、導波管の底面および他端側の側面と当接されるように配置されている。
【0025】
整合部材が接続領域から導波管の一端側および他端側の各々に向かって先細りとなる形状となっていることにより、インピーダンスの整合がとれる周波数帯域がより広くなる。よって、広範囲の周波数帯域について電力の分配または合成を可能とする電力分配合成器を実現できる。
【0026】
また整合部材は、導波管の底面に当接するとともに導波管における他端側の側面と当接するように、導波管の内部に配置される。この場合、整合部材と導波管との接触部分の面積がより広くなるので、同軸ケーブルまたは整合部材などで発生した熱は当該接触部分を介して整合部材から導波管へと効率良く伝導され、導波管の外部へと排出される。その結果、電力分配整合器における排熱効率を大きく向上できるので、高出力の電力を分配合成させる場合であっても電力分配合成器が高温化することを回避できる。よって、より高出力かつ広帯域の電力について、分配または合成を可能とする電力分配合成器を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施例1に係る電力分配合成器の全体構成を説明する斜視図である。
【
図2】実施例1に係る導電部材の構成を説明する図である。(a)は導電部材の正面図であり、(b)は導電部材の右斜め前方向からの斜視図であり、(c)は導電部材の左斜め前方向からの斜視図である。
【
図3】実施例1に係る電力分配合成器における導電部材の配置を示す、右斜め前方向からの斜視図である。
【
図4】実施例1に係る電力分配合成器の縦断面図である。
【
図5】実施例1に係る導電部材を用いた場合における、反射電力と周波数との関係を説明するグラフ図である。
【
図6】比較例に係る導電部材の構成を説明する、右斜め前方向からの斜視図である。
【
図7】比較例に係る電力分配合成器の縦断面図である。
【
図8】比較例に係る導電部材を用いた場合における、反射電力と周波数との関係を説明するグラフ図である。
【
図9】実施例1に係る電力分配合成器の効果を説明する縦断面図である。
【
図10】第1の従来例に係る電力分配合成器の縦断面図である。
【
図11】第2の従来例に係る電力分配合成器における導電部材の配置を示す、右斜め前方向からの斜視図である。
【
図12】第2の従来例に係る電力分配合成器の縦断面図である。
【
図13】実施例1に係る電力分配合成器の効果を説明する縦断面図である。
【
図14】実施例2に係る電力分配合成器の縦断面図である。
【
図15】実施例2に係る導電部材の構成を説明する図である。(a)は導電部材の正面図であり、(b)は導電部材の左斜め前方向からの斜視図であり、(c)は導電部材の右斜め前方向からの斜視図である。
【
図16】変形例の構成を説明する図である。(a)は変形例に係る導電部材の右斜め前方向からの斜視図であり、(b)は変形例に係る電力分配合成器における導電部材の配置を示す、右斜め前方向からの斜視図である。
【
図17】変形例に係る電力分配合成器における導電部材の配置を示す、右斜め前方向からの斜視図である。
【
図18】変形例に係る電力分配合成器における導電部材の配置を示す、右斜め前方向からの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0028】
以下、図面を参照してこの発明の実施例1を説明する。
図1は実施例1に係る電力分配合成器1の概略図である。
【0029】
<全体構成の説明>
実施例1に係る電力分配合成器1は
図1に示すように、導波管3と、コネクタ部5と、導電部材7と、プローブ部12とを備えている。導波管3は主軸が延びる方向(x方向)に沿って延在する。x方向(導波管3の長手方向)について、導波管3の一端側は開口部31が形成されている。またx方向について、導波管3の他端側は短絡板33によって閉じられた閉鎖部となっている。すなわち導波管3の一端側(先端側)は開放端部となっている一方、導波管3の他端側(基端側)は閉鎖端部となっている。なおx方向について、導波管3の一端側(開口部31)に向かう方向をx1方向とする。また導波管3の他端側(短絡板33)に向かう方向をx2方向とする。
【0030】
実施例1において、導波管3は金属で構成されている、縦断面が矩形状である導波管を用いるものとするが、導波管3の形状および材料は適宜変更してよい。なお、導波管3の高さ方向をz方向とする。そしてx方向およびz方向の各々と直交する方向をy方向とする。y方向は、導波管3の幅方向に相当する。導波管3は、上面25と底面26と側面27と、短絡板33とを備えている。上面25および底面26は、z方向軸に交差する導波管3の側壁である。側面27は、y方向軸に交差する導波管3の側壁である。短絡板33は、主軸に相当するx方向軸に交差する導波管3の側壁である。
【0031】
コネクタ部5は筒状の構成を有しており、導波管3の上面25に配設されている。コネクタ部5は、同軸ケーブル8が取り付けられることにより、導波管3とマイクロ波供給部9との接続を確保する。実施例1において、導波管3には2つのコネクタ部5が配設されており、一方をコネクタ部5a、他方をコネクタ部5bとして両者を区別する。コネクタ部5aとコネクタ部5bは、導波管3の上面35においてy方向に整列配置されている。コネクタ部5は、本発明における同軸コネクタ部に相当する。
【0032】
コネクタ部5は、中心コンタクト6と中心コンタクト支持部10とを備えている。中心コンタクト6はコネクタ部5の中心軸に沿って配置されており、同軸ケーブル8およびプローブ部12と接続される。中心コンタクト支持部10はコネクタ部5の内部において中心コンタクト6の周りを充填するように配設されており、中心コンタクト6を支持する。中心コンタクト支持部10は誘電体で構成されており、構成材料の例としてテフロン(登録商標)が挙げられる。
【0033】
同軸ケーブル8は、コネクタ部5とマイクロ波供給部9とを接続しており、マイクロ波供給部9が発振するマイクロ波エネルギーを伝送する。プローブ部12は、基端部においてコネクタ部5に接続されている棒状部材である。プローブ部12の径はコネクタ部5の内径より小さくなるように構成されている。またプローブ部12の先端部は後述する導電部材7と接続される。
【0034】
同軸ケーブル8の中心軸に設けられている内部導体13の先端がコネクタ部5の中心コンタクト6に嵌合されることによって同軸ケーブル8はコネクタ部5に取り付けられる。また、中心コンタクト6の先端部に対してプローブ部12の基端部が螺合などによって固定され、さらにプローブ部12の先端部が導電部材7に接続固定されることにより、プローブ部12は導波管3に取り付けられる。同軸ケーブル8およびプローブ部12が取り付けられることにより、マイクロ波供給部9から発振されたマイクロ波エネルギーは同軸ケーブル8、コネクタ部5の中心コンタクト6、プローブ部12、および導電部材7を経由して導波管3へと伝送される。
【0035】
実施例1ではコネクタ部5は2つ配設されているため、2本の同軸ケーブル8と2つのマイクロ波供給部9とが用いられる。2本の同軸ケーブル8のうち、一方に符号8aを付すとともに他方に符号8bを付すことで両者を区別する。一方の同軸ケーブル8aはコネクタ部5aに取り付けられる。また他方の同軸ケーブル8bはコネクタ部5bに取り付けられる。なお
図1において、同軸ケーブル8aはコネクタ部5aに取り付けられた後の状態を示しており、同軸ケーブル8bはコネクタ部5bに取り付けられる前の状態を示している。
【0036】
マイクロ波供給部9は、周波数を可変にして特定の周波数のマイクロ波を発振する。そしてマイクロ波供給部9は、発振されたマイクロ波を電力分配合成器1に供給する。本実施例において、マイクロ波供給部9は半導体発振器を用いるものとする。半導体発振器は、より広帯域に周波数を変更できるマイクロ波発振器であるという点において、マイクロ波供給部9として好ましい構成である。本実施例において、また2つのマイクロ波供給部9のうち、一方に符号9aを付すとともに他方に符号9bを付すことで両者を区別する。一方のマイクロ波供給部9aは同軸ケーブル8aおよびコネクタ部5aを介して電力分配合成器1と接続される。また他方のマイクロ波供給部9bは、同軸ケーブル8bおよびコネクタ部5bを介して電力分配合成器1と接続される。マイクロ波供給部9は、本発明におけるマイクロ波供給源に相当する。
【0037】
導電部材7は
図1および
図3などに示すように、導波管3の内部に配置される。導電部材7は導電性部材で構成されており、その長手方向はx方向と一致するように配置される。導電部材7は中央部14の上面15に接続孔17が形成されている。接続孔17は同軸ケーブル8のプローブ部12を固定するための接続部として機能する。接続孔17の径はプローブ部12の径と略同じになるように構成されている。プローブ部12の先端を接続孔17に嵌合させることでプローブ部12は安定に固定され、マイクロ波供給部9は同軸ケーブル8を介して電力分配合成器1と電気的に接続される。
【0038】
なお導電部材7を導波管3の内部に配置する場合、
図3などに示すように、接続孔17がコネクタ部5の下方に位置するように導電部材7の配設位置が調整される。導電部材7は後述するように、インピーダンスを整合させる機能と、電力分配合成器1において発生した熱を外部へ排出させる機能とを有している。導電部材7は、本発明における整合部材に相当する。
【0039】
本実施例において、電力分配合成器1は2つの導電部材7を備えており、各々の導電部材7は1つの接続孔17が配設されているものとする。すなわち各々の導電部材7は1つの同軸ケーブル8と接続される構成を有している。
図3に示すように、2つの導電部材7のうち、同軸ケーブル8aに接続される導電部材7については符号7aを付すとともに、同軸ケーブル8bに接続される導電部材7については符号7bを付すことで両者を区別する。
【0040】
<導電部材の構成>
ここで導電部材7の構成について、
図2(a)、
図2(b)、および
図2(c)を用いて詳細に説明する。導電部材7は全体として、同軸ケーブル8が接続される中央部14から一端側および他端側の双方に向かって高さが低くなる形状となるように構成されている。すなわち導電部材7は、中央部14からx1方向に向かって導電部材7の高さが低くなるように構成されている。また、中央部14からx2方向に向かって導電部材7の高さが低くなるように構成されている。言い換えると、導電部材7の形状は全体として、中央部14から一端側および他端側の双方に向かって先細りとなるテーパ状となるように構成されている。
【0041】
実施例1において、導電部材7は全体として階段状となっている。実施例1に係る導電部材7は、中央部14と、第1ステップ部18と、第2ステップ部19と、第3ステップ部20とを備えている。中央部14はx方向において導電部材7の中央部に位置する柱状部材であり、平坦な上面15には接続孔17が配設されている。そして中央部14の高さH1は導電部材7全体の中で最も高くなるように構成されている。
【0042】
第1ステップ部18は中央部14からx1方向に突出している柱状部材である。第1ステップ部18の高さH2は、中央部14の高さH1より低くなるように構成されている。第2ステップ部19は第1ステップ部18からさらにx1方向へ突出している柱状部材である。第2ステップ部19の高さH3は、第1ステップ部18の高さH2より低くなるように構成されている。このように、中央部14と第1ステップ部18と第2ステップ部19とが順にx1方向へ向かって並ぶように構成されることにより、導電部材7はx1方向に向かって高さが低くなる階段状となっている。
【0043】
第3ステップ部20は中央部14からx2方向に突出している柱状部材である。第3ステップ部20の高さH4は、中央部14の高さH1より低くなるように構成されている。このように、中央部14と第3ステップ部20とが順にx2方向へ向かって並ぶように構成されることにより、導電部材7はx2方向に向かって高さが低くなる階段状となっている。
【0044】
また第3ステップ部20は、x2方向側に当接面21を備えている。当接面21は
図3または
図4に示すように、導波管3の他端側を閉鎖する短絡板33と当接する。言い換えると、導電部材7はx2方向側の端面である当接面21を介して、導波管3の他端側に相当する閉鎖端面に当接するように導波管3内部における配置が調整される。
【0045】
導電部材7において、中央部14と第1ステップ部18と第2ステップ部19と第3ステップ部20とは底面の高さがいずれも同じである。すなわち導電部材7の底面16は全体にわたって一様に平坦となっている。導電部材7は、導波管3の底面26に載置されるように導波管3内部における配置が調整される。すなわち導電部材7は底面16を介して、導波管3の底面26に当接する。
【0046】
なお、第1ステップ部18のx方向における長さL1(ステップ長さL1)は、電力分配合成器1に入力されるマイクロ波の波長λに応じた長さに限ることはなく、適宜の長さに定めてよい。一例としてステップ長さL1はλ/4に限ることはなく、さらに短い長さに設定することができる。また、第2ステップ部19のx方向における長さL2、および第3ステップ部20のx方向における長さL3についても適宜の長さに調整してよい。
【0047】
なお、実施例1に係るステップ形状の導電部材7を用いる場合、後述するスロープ形状の導電部材7Aを用いる場合と比べてx方向における長さが短い場合であっても、好適にインピーダンスを整合させることができる。そのため、ステップ形状である場合は導電部材7をより小型化しつつ、好適にインピーダンスを整合させることが可能となる。
【0048】
また電力分配合成器1は、導波管3の開口部31の側に環状連結フランジ4を備えている。環状連結フランジ4は、電力分配合成器1の出力側に配設される所定の装置と電力分配合成器1とを連結させる。
【0049】
電力分配合成器1を使用する場合、マイクロ波発生器9aに接続されている同軸ケーブル8aをコネクタ部5aに取り付けるとともに、マイクロ波発生器9bに接続されている同軸ケーブル8bをコネクタ部5bに取り付ける。すなわち同軸ケーブル8aのプローブ部12をコネクタ部5aに挿入し、当該プローブ部12の先端部を導電部材7aに設けられている接続孔17に嵌合させる。また、同軸ケーブル8bのプローブ部12をコネクタ部5bに挿入し、当該プローブ部12の先端部を導電部材7bに設けられている接続孔17に嵌合させる。
【0050】
各々の同軸ケーブル8をコネクタ部5に取り付けてマイクロ波供給部9を電力分配合成器1に接続させた後、各々のマイクロ波供給部9を作動させてマイクロ波を発振させる。マイクロ波供給部9aから発振されたマイクロ波と、マイクロ波供給部9bから発振されたマイクロ波はそれぞれ導波管3に伝送され、導波管3の内部において合成される。合成されたマイクロ波は、導波管3の一端側に設けられた開口部31から出力される。
【0051】
ここで導波管3に伝送されたマイクロ波は、導電部材7によってインピーダンスが整合される。実施例1に係る導電部材7は、導波管3の開口部31に向かう方向(x1方向)のみならず導波管3の閉鎖末端側に向かう方向(x2方向)についても中央部14から端部に向かって高さが低くなるように構成される。すなわち中央部14からx2方向に突出する第3ステップ部20の高さH4は中央部14の高さH1より低くなっている。そして導電部材7のx2方向における端部には当接面21が形成されており、
図3および
図4に示すように、当該当接面21は導波管3の他端側を閉鎖している短絡板33に当接されている。
【0052】
言い換えると、導電部材7は端部に当接面21を備えており、当接面21は同軸ケーブル8と導電部材7との接続部(実施例1では接続孔17)よりも低い位置に配置されている。そして導電部材7は当接面21を介して導波管3における閉鎖末端側の側壁(ここでは短絡板33)と当接するように、導波管3の内部に配置されている。
【0053】
<実施例1の構成による効果>
このような構成を有する導電部材7を導波管3の内部に配置することにより、実施例1に係る電力分配合成器1では広い周波数帯域にわたってインピーダンスを整合させることが可能となる。
図5は、実施例1に係る導電部材7によるインピーダンス整合の効果を示す図である。
図5は、マイクロ波の周波数と反射電力の値との関係を示すグラフ図である。なお、ここでは反射電力が所定値Pc以下である場合においてインピーダンスが整合されているものとする。
【0054】
図5において、導電部材7を導波管3の内部に配置しない場合における導波管3内部の反射電力を符号M1で示している。導電部材7を導波管3の内部に配置しない場合、反射電力は全ての周波数帯域において高い状態を維持する。すなわち導電部材7が設けられていない場合は全周波数帯域において反射電力が所定値Pcより大きい値であるので、全周波数帯域においてインピーダンスの整合がとれていない状態となっている。
【0055】
次に、
図4のように導電部材7を導波管3の内部に配置する場合における導波管3内部の反射電力を、
図5において符号M2で示している。導電部材7を配置した場合、広い周波数帯域において反射電力が大きく低減される。そして比較的広い周波数帯域S1において、反射電力は所定値Pc以下となる。
【0056】
すなわち発明者が鋭意検討を行った結果、実施例1に係る導電部材7を用いることにより、広帯域においてインピーダンスが整合されることが判明した。
図5に示す場合、少なくとも2.2GHz~2.7GHzの帯域にわたってインピーダンスを整合できる。よって、マイクロ波供給部9から発振させるマイクロ波の周波数が2.2GHz~2.7GHzの帯域に変更された場合であっても、入力側と出力側とのインピーダンスを整合させつつマイクロ波を合成させることができる。
【0057】
このように、同軸ケーブル8が接続される中央部14を基準としてx1方向およびx2方向の各々に向かって高さが低くなる形状を導電部材7が備えることにより、広帯域においてインピーダンスを整合できる。すなわち半導体発振器を例とする、発振周波数を容易に変えることができる構成をマイクロ波供給部9として用いることにより、広範囲の周波数帯域について電力の分配または合成を可能とする電力分配合成器1を実現することができる。
【0058】
一方、中央部を基準としてx2方向に向かって高さが低くなる形状を有しない導電部材を用いた場合、広帯域におけるインピーダンス整合を行うことができない。
図6は、比較例に係る導電部材Tの構成を示す図である。比較例に係る導電部材Tの構成は、第3ステップ部20を有しないという点を除いて、実施例1に係る導電部材7の構成と共通する。すなわち第1ステップ部18および第2ステップ部19を備えることによって、導電部材Tは中央部14からx1方向に向かって高さが低くなる形状を有している。
【0059】
その一方で、中央部14より高さが低くx2方向に突出する第3ステップ部20を導電部材Tは有しない。そのため、比較例に係る導電部材Tはx2方向の端部が最も高い形状となっている。言い換えると、導電部材Tは中央部14を基準としてx2方向に向かって高さが低くなる形状を有していない。そして比較例では
図6および
図7に示すように、導電部材Tのx2方向における端面である、当接面Wgを短絡板33に当接させる。すなわち当接面Wgは、中央部14のx2方向側の面に相当する。
図7は、導電部材7の代わりに導電部材Tを配設した、比較例に係る電力分配合成器1Sの断面図を示している。
【0060】
このような比較例に係る導電部材Tを用いた場合における、マイクロ波の周波数と反射電力の値との関係を示すグラフを
図8に示している。導電部材Tを導波管3の内部に配置しない場合における導波管3内部の反射電力は、
図5と同様に符号M1で示している。導電部材Tを導波管3の内部に配置しない場合、反射電力は全ての周波数帯域において反射電力が所定値Pcより大きい値となっている。
【0061】
次に、
図7のように導電部材Tを導波管3の内部に配置する場合における導波管3内部の反射電力を、
図8において符号M3で示している。x2方向に向かって高さが低くならない形状である導電部材Tを配置した場合、反射電力を低減できる周波数帯域は、周波数帯域S2と比べて狭い周波数帯域S2に限定されることがわかった。
【0062】
すなわち比較例に係る導電部材Tは、x1方向に向かって先細りとなる形状を有しているので、所定の周波数において反射電力を下げてインピーダンスを整合させることはできる。しかしながら、導電部材Tを用いた場合、比較的狭い周波数帯域S2に限って反射電力は所定値Pc以下となる。すなわち比較例に係る導電部材Tを用いると、インピーダンスを整合できる周波数帯域は、実施例1に係る導電部材7を用いる場合に比べて非常に狭くなる。具体的に
図8に示す比較例では、インピーダンスを整合できる周波数帯域は一例として2.45GHzを中央値とする、±数MHz~数十MHz程度の範囲に限定される。少なくとも比較例に係る電力分配合成器1Sでは2.2GHzまたは2.7GHzなどの周波数条件において適切にインピーダンスを整合させることが困難である。
【0063】
このように、入力側と出力側とのインピーダンスを整合させつつマイクロ波を合成させることができる周波数帯域S2が非常に狭いので、比較例に係る導電部材Tを用いた場合は電力分配合成器1Sの汎用性を高めることが困難である。
【0064】
実施例1に係る導電部材7のように、x方向に向かって高さを低くする形状を有することで広帯域にわたるインピーダンスの整合が可能となる要因として以下のような仮説が考えられる。導電部材7は、同軸ケーブル8が接続された中央部14からx方向に突出している、中央部14より高さが低い第3ステップ部20を有している。そして第3ステップ部20のx2方向側の端面である当接面21が短絡板33に当接している。そのため
図9に示すような短絡経路Scが形成されると考えられる。短絡経路Scは、高さH1である中央部14から、中央部14の高さH1より低い高さH4へと下降した後、短絡板33に沿って伝送される経路である。
【0065】
このような短絡経路Scは、導電部材7において短絡板33に当接している部分の高さ(当接面21の高さH4)が、同軸ケーブル8が接続される部分の高さ(中央部14の高さH1)より低いことによって形成されると考えられる。実施例1に係る導電部材7を導波管3に配設する場合、このような短絡経路Scが形成されるので、従来よりも広い周波数帯域にわたってインピーダンスの整合をとることができると考えられる。
【0066】
一方、比較例に係る導電部材Tを用いた場合、短絡板33と当接する部分の高さ(当接面Wgの高さ)と同軸ケーブル8が接続される部分との高さが同じであるので、マイクロ波が接続孔17から短絡板33に向かって流れる場合、当該マイクロ波は低い位置へと流れる経路を辿らない。すなわち比較例では低い位置へと流れた後に短絡板33を経由するような短絡経路Scは形成されないので、結果としてインピーダンスを整合できる周波数帯域は狭い範囲に限定されるものと考えられる。
【0067】
さらに実施例1に係る導電部材7は、広帯域におけるインピーダンス整合を可能とする効果に加え、電力分配合成器1における排熱効果を向上させるという効果も有する。ここで
図10ないし
図13などを用いて、実施例1における排熱効果について説明する。
【0068】
図10は、特許文献1に開示されている、第1の従来例に係る電力分配合成器D1を示している。第1の従来例に係る電力分配合成器D1では導電部材7に相当する構成を有しておらず、同軸ケーブルのプローブ部Prは導波管K1の内部空間に延在している。すなわち第1の従来例に係る電力分配合成器D1ではプローブ部Prが導波管K1の壁面Gに接触していない。その結果、プローブ部Prなどにおいて発生する熱を導波管K1の外部へと排出することが困難であるので、電力分配合成器D1における排熱効率は大きく低下する。
【0069】
図11および
図12は、特許文献2に開示されている、第2の従来例に係る電力分配合成器D2を示している。第2の従来例に係る電力分配合成器D2では、導波管K1の内部において横架されている棒状のクロスバーYkに、同軸ケーブルのプローブ部Prがそれぞれ接続されている。このような構成では、導波管K1の幅方向y側の側壁面GsにクロスバーYkが接触している。すなわちクロスバーYkと側壁面Gsとが接触している部分Faを経由して、
図12に示すように、プローブ部Prなどで発生した熱Htを排出することはできる。なお
図11においては説明の便宜上、マイクロ波供給部9の記載を省略している。
【0070】
しかしながら第2の従来例において、クロスバーYkが導波管K1に接触する箇所は側壁面Gsに限られる。またクロスバーYkは断面が円形である棒状部材であるので、両者が接触している部分Faの面積は非常に狭い範囲に限定される。そのため、第2の従来例に係る電力分配合成器D2は、プローブ部Prにおいて発生する熱Htの排出効率を向上させることは困難である。このように、従来の構成では電力分配合成器において発生する熱の排出効率が低いので、プローブ部Prにおいて発生した熱は導波管K1および導波管K1の外部へと排出されにくい。その結果、プローブ部PrおよびクロスバーYkの温度が容易に上昇する。従って、従来の電力分配合成器D1またはD2では合成できる電力の上限が低くなるので、高出力の電力を扱うことに適していない。
【0071】
このような従来の構成に対し、実施例1に係る電力分配合成器1では同軸ケーブル8が接続している導電部材7を、導波管3の基端側の側壁(ここでは短絡板33)と導波管3の底面側の側壁(ここでは底面26)との各々に当接させる構成を有している。すなわち実施例1に係る導電部材7は、x2方向側の端部に当接面21を有し、下面側に底面16を有している。そして導電部材7の当接面21を短絡板33に当接させるとともに、導電部材7の底面16を導波管3の底面26に当接させる。
【0072】
このような実施例1の構成では、同軸ケーブル8が接続されている導電部材7は導波管の底面と基端側の側面との両方に接触する。また導電部材7は全体として柱状の部材であり当接面21などを広い矩形状の面とすることができる。そのため、導電部材7は非常に広い範囲において導波管3と接触している。よって
図13に示すように、同軸ケーブル8のプローブ部12において発生した熱Htは、導電部材7の当接面21および底面16を経由して、効率良く導波管3の外部へと排出される。実施例1に係る導電部材7は、導波管3と接触する部分の面積を容易に広くすることができるので、電力分配合成器1の排熱効率を容易に向上できる。従って、実施例1に係る電力分配合成器1では高出力の電力を分配または合成する場合であっても電力分配合成器1が高温になることを回避できるので、従来よりも電力の上限を高くすることが可能となる。
実施例2に係る導電部材7Aは、中央部14と、第1スロープ部23と、第2スロープ部24とを備えている。中央部14はx方向において導電部材7の中央部に位置する柱状部材であり、平坦な上面15には接続孔17が配設されている。
第1スロープ部23は、中央部14からx1方向に突出している、全体として三角柱状の部材である。第1スロープ部23は、中央部14の上面15と接続されておりx1方向に向かって徐々に高さが低くなるスロープ面23aを備えている。中央部14と第1スロープ部23とが順にx1方向へ向かって並ぶように構成されることにより、導電部材7Aはx1方向に向かって高さが低くなるスロープ状となっている。
第2スロープ部24は、中央部14からx2方向に突出している、全体として略四角錐台状の部材である。第2スロープ部24は、中央部14の上面15と接続されておりx2方向に向かって徐々に高さが低くなるスロープ面24aを備えている。中央部14と第2スロープ部24とが順にx2方向へ向かって並ぶように構成されることにより、導電部材7Aはx2方向に向かって高さが低くなるスロープ状となっている。なお、第1スロープ部23および第2スロープ部24の各々は、y方向における幅の長さは一定となっている。
なお、第1スロープ部23のx方向における長さL4(スロープ長さL4)は、電力分配合成器1に入力されるマイクロ波の波長λに応じた長さに限ることはなく、適宜の長さに定めてよい。なお、第2スロープ部24のx方向における長さについても適宜の長さに定めてよい。
このようなスロープ形状を有する導電部材7Aを導波管3の内部に配設し、導電部材7Aと同軸ケーブル8とを接続することで、実施例2に係る電力分配合成器1Aは実施例1と同様の効果を得ることができる。すなわち中央部14の上面15からスロープ面24aおよび短絡板33を経由する短絡経路Scが形成されるので、広い周波数帯域においてインピーダンスを整合させることができる。
また導電部材7Aは実施例1と同様に当接面21を介して導波管3の基端側の側壁(ここでは短絡板33)と当接するので、プローブ部12において発生した熱は広い当接面21を介して導波管3の外部へと効率よく排出される。また、導電部材7Aはさらに底面16を介して導波管3の底面26と当接しているので、プローブ部12において発生した熱を広い底面16から導波管3の外部へと効率よく排出させることもできる。そのため、実施例2に係る電力分配合成器1Aにおける排熱効率を向上させることができる。
このように、互いに逆向きの方向であるx1方向およびx2方向の各々に向かって高さが低くなっていく形状を有し、x2方向の末端面を導波管3の基端側の側壁に当接させる構成であれば、導電部材7はステップ状、スロープ状などを例とする適宜の形状にすることができる。なお実施例2に係るスロープ形状の導電部材7Aを用いる場合、ステップ形状と比べてスロープ形状は高さがより緩やかに変化する形状であるので、インピーダンスをより好適に整合できる。
(3)上述した各実施例において、導電部材7は導波管3の閉鎖末端側の側面(短絡板33)と底面26との2箇所に当接する構成を例示したがこれに限られない。すなわち導電部材7はさらに導波管3の幅方向側の側面(y方向と交差する側面)に当接するように配置されていてもよい。y方向は、主軸に交差する軸方向に相当する。幅方向側の側面は、主軸に交差する軸方向における側面に相当する。
(4)上述した各実施例において、電力分配合成器1は開口端部である開口部31を出力側とする、電力を合成させる操作を例示したがこれに限られない。すなわち開口部31を入力側として電力を分配させる操作を行ってもよい。この場合、開口部31に入力されたマイクロ波などの電力は導波管3の内部において分配され、複数のコネクタ部5へと出力される。
(5)上述した実施例1において、導電部材7のx1方向およびx2方向の各々における段差の数は適宜変更しておい。すなわち実施例1に係る導電部材7は第1ステップ部18および第2ステップ部19を備えることにより、中央部14からx1方向に向かって3段のステップ(高さH1、H2、H3のステップ)が形成されるが、ステップの数は2であってもよいし4以上であってもよい。また実施例1に係る導電部材7は第3ステップ部20を備えることにより、中央部14からx1方向に向かって2段のステップ(高さH1、H4のステップ)が形成されるが、ステップの数は3以上であってもよい。
(6)上述した実施例2において、中央部14からx1方向に突出するように配置される第1スロープ部23は三角柱状に限ることはなく、第2スロープ部24と同様に四角錐台状であってもよいし、x1方向に向かって高さが低くなる(先細りとなる)形状であれば他の形状であってもよい。