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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066103
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】ポリビニルエーテルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 4/26 20060101AFI20240508BHJP
   C08F 16/18 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
C08F4/26
C08F16/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175406
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】312004880
【氏名又は名称】KHネオケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】上東 駿
(72)【発明者】
【氏名】金田 純
(72)【発明者】
【氏名】中山 真吾
(72)【発明者】
【氏名】金岡 鐘局
(72)【発明者】
【氏名】伊田 翔平
【テーマコード(参考)】
4J015
4J100
【Fターム(参考)】
4J015DA23
4J100AE04P
4J100AE06P
4J100CA01
4J100FA08
4J100JA01
4J100JA03
4J100JA05
4J100JA07
4J100JA32
4J100JA43
4J100JA51
(57)【要約】
【課題】環境負荷が低く、着色が抑制されたポリビニルエーテルを得ることのできる製造方法を提供する。
【解決手段】炭素数3~10のアルキルビニルエーテル化合物を、水及びルイス酸触媒の存在下で重合するポリビニルエーテルの製造方法であって、前記ルイス酸触媒が、塩化鉄及び塩化鉄の水和物からなる群より選択される1種以上を含み、前記ルイス酸触媒と前記アルキルビニルエーテル化合物とのモル比(ルイス酸触媒/アルキルビニルエーテル化合物)が8.0×10-6~1.3×10-3である、ポリビニルエーテルの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数3~10のアルキルビニルエーテル化合物を、水及びルイス酸触媒の存在下で重合するポリビニルエーテルの製造方法であって、
前記ルイス酸触媒が、塩化鉄及び塩化鉄の水和物からなる群より選択される1種以上を含み、
前記ルイス酸触媒と前記アルキルビニルエーテル化合物とのモル比(ルイス酸触媒/アルキルビニルエーテル化合物)が8.0×10-6~1.3×10-3である、ポリビニルエーテルの製造方法。
【請求項2】
前記重合の反応系中の、前記水の濃度が20ppm~2000ppmである、請求項1に記載のポリビニルエーテルの製造方法。
【請求項3】
着色が抑制されたポリビニルエーテルが得られる、請求項1又は2に記載のポリビニルエーテルの製造方法。
【請求項4】
前記炭素数3~10のアルキルビニルエーテル化合物を、前記水と、前記ルイス酸触媒と、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒、及び、ハロゲン化炭化水素系溶媒からなる群より選択される1種以上の溶媒と、の存在下で重合する、請求項1又は2に記載のポリビニルエーテルの製造方法。
【請求項5】
前記重合の反応温度が、90℃以下である、請求項1又は2に記載のポリビニルエーテルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルエーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルエーテルは、可とう性や非晶性に優れており、粘着剤、接着剤、インク組成物、コーティング組成物、潤滑油、電気部品材料、光学材料及び医療用材料等に用いられている。
さらに、近年の材料開発においては、光学透明粘着剤(Optically Clear Adhecive:OCA)の要求が拡大しており、光学的な透明性に優れる粘着剤が求められている。
【0003】
ポリビニルエーテルは、一般にビニルエーテルモノマーと触媒であるプロトン酸や金属ハロゲン化物等のルイス酸とを用いたカチオン重合により得られる。
特許文献1には、水性の反応溶媒中におけるモノマーのカチオン重合のための開始系、及び水性の反応溶媒中において前記開始系を用いるモノマーのカチオン重合のプロセスが開示されている。
特許文献2には、モノマーのカチオン重合反応の溶媒として4-メチルテトラヒドロピランを用いることにより、極性を有する溶媒としての働きとカチオン重合触媒の安定化を同時に実現することが可能となったカチオン重合方法が開示されている。
非特許文献 1には、AlCl3-HCl及びFeCl3の存在下におけるビニルn-ブチルエーテルの重合の結果、及び得られたポリマーの構造と特性の比較分析について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2011/035545号
【特許文献2】特開2015-017218号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Vysokomolekulyarnye Soedineniya. Seriya A, 1969,11(9),1979-84.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ホウ素、フッ素、及びそれらを含む化合物は一般排水基準で制限されており、環境への負荷を軽減する観点から、塩化鉄又は/及び塩化鉄の水和物を用いたポリビニルエーテルの製造方法が求められている。この点、特許文献1及び非特許文献1には、FeCl3を用いたカチオン重合反応が開示されているが、着色の抑制に関して記載されていない。また、特許文献2には、FeCl3を用いたカチオン重合の結果は開示されておらず、さらに着色の抑制に関して記載されていない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、塩化鉄及び塩化鉄の水和物からなる群より選択される1種以上を触媒として用いたポリビニルエーテルの製造方法であって、環境負荷が低く、着色が抑制されたポリビニルエーテルを得ることのできる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、所定の重合反応条件によって上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
炭素数3~10のアルキルビニルエーテル化合物を、水及びルイス酸触媒の存在下で重合するポリビニルエーテルの製造方法であって、
前記ルイス酸触媒が、塩化鉄及び塩化鉄の水和物からなる群より選択される1種以上を含み、
前記ルイス酸触媒と前記アルキルビニルエーテル化合物とのモル比(ルイス酸触媒/アルキルビニルエーテル化合物)が8.0×10-6~1.3×10-3である、ポリビニルエーテルの製造方法。
[2]
前記重合の反応系中の、前記水の濃度が20ppm~2000ppmである、[1]に記載のポリビニルエーテルの製造方法。
[3]
着色が抑制されたポリビニルエーテルが得られる、[1]又は[2]に記載のポリビニルエーテルの製造方法。
[4]
前記炭素数3~10のアルキルビニルエーテル化合物を、前記水と、前記ルイス酸触媒と、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒、及び、ハロゲン化炭化水素系溶媒からなる群より選択される1種以上の溶媒と、の存在下で重合する、[1]~[3]のいずれかに記載のポリビニルエーテルの製造方法。
[5]
前記重合の反応温度が、90℃以下である、[1]~[4]のいずれかに記載のポリビニルエーテルの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、塩化鉄及び塩化鉄の水和物からなる群より選択される1種以上を触媒として用いたポリビニルエーテルの製造方法であって、環境負荷が低く、着色が抑制されたポリビニルエーテルを得ることのできる製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0011】
本実施形態のポリビニルエーテルの製造方法は、炭素数3~10のアルキルビニルエーテル化合物を、水及びルイス酸触媒の存在下で重合するポリビニルエーテルの製造方法であって、ルイス酸触媒が、塩化鉄及び塩化鉄の水和物からなる群より選択される1種以上を含み、ルイス酸触媒とアルキルビニルエーテル化合物とのモル比(ルイス酸触媒/アルキルビニルエーテル化合物)が8.0×10-6~1.3×10-3である。
【0012】
(重合)
本実施形態の製造方法において、重合は、特に限定されないが、炭素数3~10のアルキルビニルエーテル化合物を1種用いる単独重合と、炭素数3~10のアルキルビニルエーテル化合物を2種類以上用いる共重合とを含んでいてもよい。
本実施形態の製造方法において、ポリビニルエーテルの重量平均分子量は、特に限定されないが、2,000~2,000,000であることが好ましく、10,000~1,000,000であることがより好ましく、20,000~500,000であることが特に好ましい。
【0013】
(アルキルビニルエーテル)
本実施形態におけるアルキルビニルエーテル化合物は、一般式CR12=CR3-O-R4(R1~R3は水素、又はアルキル基を示し、R4はアルキル基を示す。)で示され、一般式中、炭素数が3~10である。本実施形態において、炭素数3~10のアルキルビニルエーテル化合物としては、特に限定されないが、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル(EVE)、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル(IBVE)、sec-ブチルビニルエーテル、tert-ブチルビニルエーテル、n-ペンチルビニルエーテル、n-ヘキシルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、1-メトキシプロペン、1-エトキシプロペン、1-n-プロポキシプロペン、1-イソプロポキシプロペン、1-n-ブトキシプロペン、1-イソブトキシプロペン、1-sec-ブトキシプロペン、1-tert-ブトキシプロペン、2-メトキシプロペン、2-エトキシプロペン、2-n-プロポキシプロペン、2-イソプロポキシプロペン、2-n-ブトキシプロペン、2-イソブトキシプロペン、2-sec-ブトキシプロペン、2-tert-ブトキシプロペン、1-メトキシ-1-ブテン、1-エトキシ-1-ブテン、1-n-プロポキシ-1-ブテン、1-イソプロポキシ-1-ブテン、1-n-ブトキシ-1-ブテン、1-イソブトキシ-1-ブテン、1-sec-ブトキシ-1-ブテン、1-tert-ブトキシ-1-ブテン、2-メトキシ-1-ブテン、2-エトキシ-1-ブテン、2-n-プロポキシ-1-ブテン、2-イソプロポキシ-1-ブテン、2-n-ブトキシ-1-ブテン、2-イソブトキシ-1-ブテン、2-sec-ブトキシ-1-ブテン、2-tert-ブトキシ-1-ブテン、2-メトキシ-2-ブテン、2-エトキシ-2-ブテン、2-n-プロポキシ-2-ブテン、2-イソプロポキシ-2-ブテン、2-n-ブトキシ-2-ブテン、2-イソブトキシ-2-ブテン、2-sec-ブトキシ-2-ブテン、2-tert-ブトキシ-2-ブテン等が挙げられる。上記の中でも、一般式中、R1~R3が水素であり、R4がアルキル基であるアルキルビニルエーテル化合物が好ましく、一般式中、炭素数が3~6であるアルキルビニルエーテル化合物がより好ましく、エチルビニルエーテル、及びイソブチルビニルエーテルが特に好ましい。アルキルビニルエーテルとしては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
(ルイス酸触媒)
本実施形態の製造方法において、環境負荷の低減及び着色抑制の観点から、ルイス酸触媒として、塩化鉄及び塩化鉄の水和物からなる群より選択される1種以上を用いる。塩化鉄としては、例えば、FeCl2、FeCl3が挙げられる。塩化鉄の水和物としては、例えば、FeCl2・4H2O、FeCl3・6H2Oが挙げられる。上記の中でも、FeCl3、及びFeCl3・6H2Oがより好ましい。ルイス酸触媒としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、ルイス酸触媒としては、重合開始種の形成を促進する観点から、後述の溶媒と混合した後に、例えば50℃で2時間加熱処理をしたルイス酸触媒を使用してもよい。
【0015】
本実施形態の製造方法において、ルイス酸触媒とアルキルビニルエーテル化合物とのモル比(ルイス酸触媒/アルキルビニルエーテル化合物)は8.0×10-6~1.3×10-3である。重合反応の活性及び着色抑制の観点から、ルイス酸触媒とアルキルビニルエーテル化合物とのモル比は、1.0×10-5~1.2×10-3であることが好ましく、4.0×10-5~1.1×10-3であることがより好ましく、6.4×10-5~1.0×10-3であることが特に好ましい。ルイス酸触媒とアルキルビニルエーテル化合物とのモル比が8.0×10-6~1.3×10-3である場合、一層重合反応が高活性であり、一層着色が抑制されたポリビニルエーテルを得ることができる。その理由については、特に限定する趣旨ではないが、本発明者らは次のように推測している。すなわち、ルイス酸触媒とアルキルビニルエーテル化合物とのモル比が8.0×10-6未満である場合、ルイス酸触媒の量が不十分であり、重合反応が定量的に進行しない傾向にある。また、ルイス酸触媒とアルキルビニルエーテル化合物とのモル比が1.3×10-3超の場合、重合反応が過剰に進み、脱アルコール反応等の副反応が進行することで、着色したポリビニルエーテルが得られる傾向にある。
ルイス酸触媒とアルキルビニルエーテル化合物とのモル比(ルイス酸触媒/アルキルビニルエーテル化合物)は、重合反応開始時の仕込み比より算出することができる。
【0016】
(水の濃度)
本実施形態の製造方法において、重合の反応系中の水の濃度は、特に限定されないが、20ppm~2000ppmであることが好ましく、30ppm~1000ppmであることがより好ましく、50ppm~500ppmであることが特に好ましい。重合の反応系中の水の濃度が20ppm~2000ppmである場合、一層重合反応が高活性であり、一層着色が抑制されたポリビニルエーテルが得られる傾向にある。その理由については、特に限定する趣旨ではないが、本発明者らは次のように推測している。すなわち、重合の反応系中の水の濃度が20ppm未満の場合、ルイス酸触媒の活性点への水和が不十分になり、着色の原因の一つである副生成分の生成を抑制できない傾向にある。また、重合の反応系中の水の濃度が2000ppm超である場合、水が成長炭素カチオンやルイス酸触媒と副反応を起こし、重合反応が定量的に進行しない傾向にある。
重合の反応系中の水の濃度は、重合反応の開始時に反応系中に加える試薬に含まれる水分量の総和から求めることができる。重合反応の開始時に反応系中に加える試薬としては、溶媒、アルキルビニルエーテル、ルイス酸触媒、添加剤等が挙げられる。また、重合の反応系中の水の濃度が20ppm~2000ppmであれば、さらに水を添加してもよい。重合の反応系中の水の濃度は、より具体的には、後述する実施例に記載の方法に基づいて求めることができる。
【0017】
本実施形態において、重合反応が高活性であるとは、特に限定されないが、通常よりも重合効率が高いことを意味する。さらに、重合反応が高活性である場合、重合反応が定量的に進行する傾向にある。
【0018】
本実施形態の製造方法により、特に限定されないが、着色が抑制されたポリビニルエーテルを得ることができる。
本実施形態において、着色が抑制されたとは、特に限定されないが、ポリビニルエーテルが無色であるかもしくは無色に近く、さらに光学的な透明性に優れることを意味する。本実施形態において、ポリビニルエーテルの色差(ΔE*ab)は3.0以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましく、0.8以下であることが特に好ましい。色差(ΔE*ab)が3.0以下であれば、ポリビニルエーテルが無色であるかもしくはより無色に近く、光学的な透明性に優れる傾向にある。ここで、色差(ΔE*ab)とは、国際照明委員会(CIE)の規格であるCIE1976((L*a*b*)色空間を基準とするものであり、以下の式(1)に基いている(JISZ8781-4:2013)。色差(ΔE*ab)は、色差計、分光色彩計等を用いて測定することができる。
ΔE*ab=((ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)21/2・・・(1)
なお、L*は明度を示す指数であり、L*=0は黒、L*=100は白を意味する。a*及びb*は色度(色相、彩度)を示す指数である。a*が負の値である場合は緑寄り、a*が正の値である場合はマゼンタ寄りであり、b*が負の値である場合は青寄り、b*が正の値である場合は黄色寄りであることを意味する。また、ΔL*は2色間におけるL*の差であり、Δa*は2色間におけるa*の差であり、Δb*は2色間におけるb*の差である。
【0019】
(溶媒)
本実施形態の製造方法において、特に限定されないが、重合反応の活性及び着色抑制の観点から、炭素数3~10のアルキルビニルエーテル化合物を、水と、ルイス酸触媒と、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒、及び、ハロゲン化炭化水素系溶媒からなる群より選択される1種以上の溶媒と、の存在下で重合することが好ましい。
エーテル系溶媒としては、特に限定されないが、例えば、n-ブチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、4-メチルテトラヒドロピラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
炭化水素系溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
ハロゲン化炭化水素系溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、トリクロルエチレン、テトラクロルエチレン等が挙げられる。
上記の中でも、重合反応の活性及び着色抑制の観点から、炭化水素系溶媒、及びハロゲン化炭化水素系溶媒を用いることが好ましく、炭化水素系溶媒を用いることがより好ましく、トルエンを用いることが特に好ましい。溶媒としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
(添加剤)
本実施形態の製造方法において、特に限定されないが、重合反応の制御及び、開始反応促進の観点から、炭素数3~10のアルキルビニルエーテル化合物を、水と、ルイス酸触媒と、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒、及び、ハロゲン化炭化水素系溶媒からなる群より選択される1種以上の溶媒と、添加剤と、の存在下で重合してもよい。
添加剤としては、特に限定されないが、例えば、酢酸エチル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフランのようなルイス塩基及び、メタノール、トリフルオロ酢酸のようなブレンステッド酸が挙げられる。添加剤としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
(反応温度)
本実施形態の製造方法において、重合の反応温度は、特に限定されないが、90℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましく、70℃以下であることが特に好ましい。重合の反応温度が90℃以下である場合、一層着色が抑制されたポリビニルエーテルが得られる傾向にある。その理由については、特に限定する趣旨ではないが、本発明者らは次のように推測している。すなわち、重合の反応温度が90℃超の場合、重合反応が過剰に進み、脱アルコール反応等の副反応が進行することで、着色したポリビニルエーテルが得られる傾向にある。
また、反応温度の下限については、重合反応が進行するのであれば特に限定されず、例えば-40℃である。
本実施形態において、重合の反応温度は、アルキルビニルエーテル等のモノマーの滴下により重合の反応が開始した時の反応温度と、重合の反応熱により到達する最高の反応温度を含む。重合の反応温度は、反応系を冷却したり加熱したりすることで調整することができる。
【実施例0022】
以下、本実施形態を実施例によりさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、本実施形態に用いられる測定方法は以下のとおりである。
【0023】
(水の濃度測定)
実施例及び比較例の重合の反応系中の水の濃度は、以下の方法に従って測定した。
溶媒の水分量を、カールフィッシャー水分計(平沼産業株式会社製AQ-2200AS)を用いて測定し、アルキルビニルエーテル化合物の水分量を、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した。また、ルイス酸触媒に塩化鉄の水和物を用いた場合、塩化鉄の水和物の水分量を計算により算出した。溶媒、アルキルビニルエーテル化合物、及び塩化鉄の水和物の水分量の総和より、重合の反応系中の水の濃度を算出した。なお、ガスクロマトグラフィーでの分析条件は以下のとおりである。
(ガスクロマトグラフィー分析の条件)
装置:ジーエルサイエンス社製 GC-3200
分析カラム:ステンレス製パックドカラムを直列に2本接続した。(長さ:2m+3m、内径:各3mm)
充填物:Porapaq Q(基材:エチルビニルベンゼン-ジビニルベンゼン共重合体)
昇温条件:160℃で5分間保持→200℃まで10℃/分で昇温→200℃で41分間保持
試料導入温度:160℃
キャリアガス及び入口圧力:水素、100kPa
検出器及び検出温度:熱伝導度検出器(TCD)、160℃
検出器電流値:100mA
試料注入条件:6μL
【0024】
(重量平均分子量測定)
実施例及び比較例で得られたポリビニルエーテルについて、以下の方法に従って重量平均分子量(Mw)を測定した。
重量平均分子量(Mw)を、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定した(ポリスチレン換算)。具体的には高速液体クロマトグラフ装置として、島津製作所製Prominenceシステム(LC-20ADポンプ、CTO-20Aカラムオーブン、RID-20A示差屈折率検出器で構成)を使用し、カラムとして、Shodex KF-G 4Aガードカラム(粒径:8μm、内径:4.6mm、長さ:10mm)1本と、Shodex KF-805Lカラム(基材:スチレンジビニルベンゼン、粒子径:10μm、内径:8.0mm、長さ:30cm)3本とを直列に接続したカラムを使用し、移動相にクロロホルム(流速1.0mL/min)を用いて、カラム温度40℃の条件にて測定した。また、対象となるポリビニルエーテルの1wt%クロロホルム溶液を測定サンプルとした。
【0025】
(色差測定)
実施例及び比較例で得られたポリビニルエーテルについて、JISZ8781に従って着色を評価した。具体的には、以下のとおりである。
20mLのスクリューバイアル瓶に、対象となるポリビニルエーテル1.5gと標準物質であるトルエン13.5gを加え、タッチミキサーを用いてポリビニルエーテルを溶解させ、10wt%トルエン溶液を調製した。日本電色社製の分光式色彩計SE-2000を用いて、10wt%トルエン溶液及びトルエンの明度L*、色度a*及びb*を各3回測定し、3回の測定結果の平均値の差よりΔL*、Δa*、Δb*を算出した。色差(ΔE*ab)は、ΔE*ab=[(Δ)L*)2+(Δa*)2+(Δb*)21/2の計算式を用いて算出した。
【0026】
(実施例1)
窒素雰囲気下のグローブボックス内で、十分に乾燥した100mLの反応フラスコに、FeCl3・6H2O(塩化鉄六水和物)(8.6mg)を加え、その後、トルエン(34mL)を加え、水浴を用いて24℃まで冷却した。マグネチックスターラーにより撹拌しながらイソブチルビニルエーテル(IBVE)(6mL、0.046mol)を加え、重合させた。重合の反応温度は61℃まで上昇した。また、このときのFeCl3・6H2OとIBVEとのモル比(FeCl3・6H2O/IBVE)は6.9×10-4であり、重合の反応系中の水の濃度は177ppmであった。IBVEを加えてから90秒後に、メタノール15mLを加え、重合反応を停止させた。重合反応の停止後、得られたポリビニルエーテル溶液を30mLの蒸留水で3回洗浄し、溶媒を留去することで、ポリビニルエーテル4.59gを得た。得られたポリビニルエーテルの重量平均分子量(Mw)は79,700、色差(ΔE*ab)は0.23であった。結果を表1に示す。
【0027】
(実施例2)
実施例1において、FeCl3・6H2Oの代わりにFeCl3(塩化鉄)(5.1mg)を用い、水浴を用いて22℃まで冷却したこと以外は実施例1と同様に操作した。重合の反応温度は59℃まで上昇した。また、このときのFeCl3とIBVEとのモル比(FeCl3/IBVE)は、6.8×10-4であり、重合の反応系中の水の濃度は77ppmであった。得られたポリビニルエーテルの質量は4.31gであり、重量平均分子量(Mw)は102,000、色差(ΔE*ab)は0.18であった。結果を表1に示す。
【0028】
(実施例3)
実施例1において、FeCl3・6H2Oの代わりにFeCl3(7.5mg)を用いた以外は実施例1と同様に操作した。重合の反応温度は63℃まで上昇した。また、このときのFeCl3とIBVEとのモル比(FeCl3/IBVE)は、1.0×10-3であり、重合の反応系中の水の濃度は93ppmであった。得られたポリビニルエーテルの質量は4.46gであり、重量平均分子量(Mw)は58,300、色差(ΔE*ab)は2.35であった。結果を表1に示す。
【0029】
(実施例4)
実施例1において、FeCl3・6H2Oの代わりにFeCl3(5.2mg)、トルエン(68mL)、IBVE(12mL、0.092mol)を用いた以外は実施例1と同様に操作した。重合の反応温度は69℃まで上昇した。また、このときのFeCl3とIBVEとのモル比(FeCl3/IBVE)は、3.5×10-4であり、重合の反応系中の水の濃度は91ppmであった。得られたポリビニルエーテルの質量は4.49gであり、重量平均分子量(Mw)は109,300、色差(ΔE*ab)は0.26であった。結果を表1に示す。
【0030】
(実施例5)
実施例1において、FeCl3・6H2O(8.4mg)、IBVEの代わりにエチルビニルエーテル(EVE)(4.4mL、0.046mol)を用いた以外は実施例1と同様に操作した。重合の反応温度は57℃まで上昇した。また、このときのFeCl3とEVEとのモル比(FeCl3/EVE)は、6.8×10-4、重合の反応系中の水の濃度は478ppmであった。得られたポリビニルエーテルの質量は3.22gであり、重量平均分子量(Mw)は21,800、色差(ΔE*ab)は0.05であった。結果を表1に示す。
【0031】
(実施例6)
実施例1において、FeCl3・6H2O(8.4mg)を用い、蒸留水(10.0μL)を仕込み時に加えた以外は実施例1と同様に操作した。重合の反応温度は46℃まで上昇した。また、このときのFeCl3・6H2OとIBVEとのモル比(FeCl3・6H2O/IBVE)は、6.8×10-4であり、重合の反応系中の水の濃度は477ppmであった。得られたポリビニルエーテルの質量は4.34gであり、重量平均分子量(Mw)は90,500で、色差(ΔE*ab)は1.20であった。結果を表1に示す。
【0032】
(実施例7)
窒素雰囲気下のグローブボックス内で、50mLのスクリューバイアル瓶にFeCl3(4.8mg)を加え、トルエン(34mL)で希釈し触媒溶液A1を調製した。50mLのメスフラスコに触媒溶液A1(5mL)を加え、トルエンを加え触媒溶液A2(50mL)を調製した。十分に乾燥した100mLの反応フラスコに、触媒溶液A2(34mL)を加え、水浴を用いて22℃まで冷却した。マグネチックスターラーにより撹拌しながらIBVE(6mL、0.046mol)を加え、重合させた。重合の反応温度は59℃まで上昇した。また、このときのFeCl3とIBVEとのモル比(FeCl3/IBVE)は6.4×10-5であり、重合の反応系中の水の濃度は102ppmであった。IBVEを加えてから90秒後に、メタノール15mLを加え、重合反応を停止させた。重合反応の停止後、得られたポリビニルエーテル溶液を30mLの蒸留水で3回洗浄し、溶媒を留去することで、ポリビニルエーテル3.81gを得た。得られたポリビニルエーテルの重量平均分子量(Mw)は428,700、色差(ΔE*ab)は0.14であった。結果を表1に示す。
【0033】
(比較例1)
実施例1において、FeCl3・6H2Oの代わりにFeCl3(10.8mg)を用いた以外は実施例1と同様に操作した。重合の反応温度は64℃まで上昇した。また、このときのFeCl3とIBVEとのモル比(FeCl3/IBVE)は、1.4×10-3、重合の反応系中の水の濃度は88ppmであった。得られたポリビニルエーテルの質量は4.30gであり、重量平均分子量(Mw)は39,100、色差(ΔE*ab)は9.76であった。結果を表1に示す。
【0034】
(比較例2)
窒素雰囲気下のグローブボックス内で、50mLのスクリューバイアル瓶にFeCl3(5.0mg)を加え、トルエン(34mL)で希釈し触媒溶液A3を調製した。50mLのメスフラスコに触媒溶液A3(5mL)を加え、トルエンを加え触媒溶液A4(50mL)を調製した。さらに、50mLのメスフラスコに、触媒溶液A4(5mL)を加え、トルエンを加え触媒溶液A5(50mL)を調製した。十分に乾燥した100mLの反応フラスコに、触媒溶液A5(34mL)を加え、水浴を用いて22℃まで冷却した。マグネチックスターラーにより撹拌しながらIBVE(6mL、0.046mol)を加えたが、重合反応は進行しなかった。また、このときのFeCl3とIBVEとのモル比(FeCl3/IBVE)は、6.7×10-6、重合の反応系中の水の濃度は66ppmであった。結果を表1に示す。
【0035】
(比較例3)
実施例1において、FeCl3・6H2Oの代わりにAlCl3(塩化アルミニウム)4.1mgを用い、蒸留水3.3μLを仕込み時に加え、水浴を用いて22℃まで冷却した以外は実施例1と同様に操作したが、重合反応は進行しなかった。また、このときのAlCl3とIBVEとのモル比(AlCl3/IBVE)は、6.7×10-4、重合の反応系中の水の濃度は183ppmであった。結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の製造方法により得られたポリビニルエーテルは、各種粘接着剤、インク組成物、コーティング組成物、潤滑油、電気部品材料、光学材料及び医療用材料等に用いられるポリビニルエーテルとしての産業上の利用可能性を有する。