(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066106
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】新規ボロン酸化合物
(51)【国際特許分類】
C07F 5/02 20060101AFI20240508BHJP
C07F 5/04 20060101ALI20240508BHJP
A61K 31/69 20060101ALI20240508BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240508BHJP
A61K 51/04 20060101ALI20240508BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240508BHJP
【FI】
C07F5/02 C CSP
C07F5/02 F
C07F5/04 C
A61K31/69
A61P35/00
A61K51/04 100
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175413
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】松元 亮
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 拓也
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィン バーテルメス
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4H039
4H048
【Fターム(参考)】
4C084AA12
4C084NA14
4C084ZB26
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4H039CA91
4H039CD20
4H039CD90
4H048AA01
4H048AA02
4H048AB99
4H048AC90
4H048BA25
4H048BA48
4H048VA20
4H048VA30
4H048VA32
4H048VA75
4H048VA77
4H048VB10
(57)【要約】
【課題】ホウ素中性子捕捉療法用化合物の提供。
【解決手段】次式(I):
【化31】
〔式中、Aはそれぞれ独立してCH又は窒素原子を表し、ここで少なくとも1つのAは窒素原子であり、R
1は-(CH
2)
n- (nは1~6の整数を表す)で示される基を表す。)〕で示される化合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式(I):
【化21】
〔式中、Aはそれぞれ独立してCH又は窒素原子を表し、ここで少なくとも1つのAは窒素原子であり、R
1は-(CH
2)
n- (nは1~6の整数を表す)で示される基を表す。)〕
で示される化合物又はその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
次式(II):
【化22】
で示される、請求項1に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
塩酸塩である、請求項1に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩を含む、ホウ素中性子捕捉療法用医薬組成物。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩を含む、ホウ素中性子捕捉療法用キット。
【請求項6】
次式(VIII):
【化23】
〔式中、Aはそれぞれ独立してCH又は窒素原子を表し、ここで少なくとも1つのAは窒素原子であり、R
1は-(CH
2)
n- (nは1~6の整数を表す)で示される基を表し、Meはメチル基を表し、Bocはtert-ブトキシカルボニル基を表す。〕で示される化合物。
【請求項7】
次式(IV):
【化24】
〔R
1は-(CH
2)
n- (nは1~6の整数を表す)で示される基を表し、Meはメチル基を表し、Bocはtert-ブトキシカルボニル基を表す。〕で示される化合物と、次式(V):
【化25】
(式中、Aはそれぞれ独立してCH又は窒素原子を表し、ここで少なくとも1つのAは窒素原子である。)で示される化合物とをクロスカップリング反応させて次式(VI):
【化26】
で示される化合物を得る工程、及び、
前記式(VI)で示される化合物と、次式(VII):
【化27】
で示される化合物とをクロスカップリング反応させる工程を含む、次式(VIII):
【化28】
で示される化合物の製造方法。
【請求項8】
次式(VIII):
【化29】
〔式中、Aはそれぞれ独立してCH又は窒素原子を表し、ここで少なくとも1つのAは窒素原子であり、R
1は-(CH
2)
n- (nは1~6の整数を表す)で示される基を表し、Meはメチル基を表し、Bocはtert-ブトキシカルボニル基を表す。〕で示される化合物を加水分解する工程を含む、次式(I):
【化30】
(式中、A及びR
1は前記と同様である。)で示される化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ボロン酸化合物及び抗腫瘍医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
がん治療法の一種として、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)が知られている。BNCTは、ホウ素と体外から照射した中性子線の核反応を利用し、がん細胞を破壊する放射線治療法である。
BNCTのために、ホウ素(10B)含有化合物又はその塩を有効成分として含む腫瘍治療剤が知られている(特許文献1)。
また、BNCTを行うための化合物として、ステボロニン(ボロファラン)が知られている(非特許文献1)。ステボロニンは、フェニルアラニンの部分構造により腫瘍集積性を改善し、抗がん剤として実用化されている。
【0003】
ステボロニンを用いた治療では、患者にステボロニンを投与し、がん細胞にホウ素が集まったのちに、体外から患部に向かって中性子線を照射する。ホウ素に中性子線が衝突すると核反応を起こし、放射線(α線とLi核)が発生する。この放射線によってがん細胞が破壊される。
【0004】
しかしながら、ステボロニンを用いた治療では、水溶性改善のためにステボロニンにフルクトースが添加剤として使用されている。このため、高用量のフルクトースを使用すると腎毒性のリスクが生じる。またステボロニンは、がん細胞表面のL型アミノ酸トランスポーター1(LAT1)を指向するため(非特許文献2)、従来のゲムシタビンよりも標的指向性は改善しているが、腫瘍集積性にさらなる改善が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Y. Mishima et. al., Lancet 2 (1989) 388-389
【非特許文献2】Huan-Chieh Chien et al., J Med Chem. 2018 Aug 23; 61(16): 7358-7373.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記背景のもと、水溶性及び腫瘍集積性に優れた化合物の開発が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ステボロニンの部分構造の改変により上記課題を解決することに成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
次式(I):
【化1】
〔式中、Aはそれぞれ独立してCH又は窒素原子を表し、ここで少なくとも1つのAは窒素原子であり、R
1は-(CH
2)
n- (nは1~6の整数を表す)で示される基を表す。)〕
で示される化合物又はその薬学的に許容される塩。
[2]
次式(II):
【化2】
で示される、[1]に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩。
[3]
塩酸塩である、[1]に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩。
[4]
[1]~[3]のいずれか1項に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩を含む、ホウ素中性子捕捉療法用医薬組成物。
[5]
[1]~[3]のいずれか1項に記載の化合物又はその薬学的に許容される塩を含む、ホウ素中性子捕捉療法用キット。
[6]
次式(VIII):
【化3】
〔式中、Aはそれぞれ独立してCH又は窒素原子を表し、ここで少なくとも1つのAは窒素原子であり、R
1は-(CH
2)
n- (nは1~6の整数を表す)で示される基を表し、Meはメチル基を表し、Bocはtert-ブトキシカルボニル基を表す。〕で示される化合物。
[7]
次式(IV):
【化4】
〔R
1は-(CH
2)
n- (nは1~6の整数を表す)で示される基を表し、Meはメチル基を表し、Bocはtert-ブトキシカルボニル基を表す。〕で示される化合物と、次式(V):
【化5】
(式中、Aはそれぞれ独立してCH又は窒素原子を表し、ここで少なくとも1つのAは窒素原子である。)で示される化合物とをクロスカップリング反応させて次式(VI):
【化6】
で示される化合物を得る工程、及び、
前記式(VI)で示される化合物と、次式(VII):
【化7】
で示される化合物とをクロスカップリング反応させる工程を含む、次式(VIII):
【化8】
で示される化合物の製造方法。
[8]
次式(VIII):
【化9】
〔式中、Aはそれぞれ独立してCH又は窒素原子を表し、ここで少なくとも1つのAは窒素原子であり、R
1は-(CH
2)
n- (nは1~6の整数を表す)で示される基を表し、Meはメチル基を表し、Bocはtert-ブトキシカルボニル基を表す。〕で示される化合物を加水分解する工程を含む、次式(I):
【化10】
(式中、A及びR
1は前記と同様である。)で示される化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の化合物は、親水性の高いピリジルボロン酸が導入されており、水溶性を高めることが可能となった。また、ピリジルボロン酸を介した細胞表面のシアル酸の標的化により、腫瘍特異性を向上することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】BAPA(5-boronopyridin-3-yl-L-alanine)の
1H NMR(400MHz、MeOD-d
4)スペクトルを示す図である。
【
図2】BAPAの
13C NMR(100MHz、MeOD-d
4)スペクトルを示す図である。
【
図3】BAPAの
11B NMR(160MHz、MeOD-d
4)スペクトルを示す図である。
【
図4】KPC細胞におけるBAPAの細胞取り込みを示す図である。(C)BPA(4-Boronophenylalanine)、5-BPAおよびBAPAの細胞取り込み。KPC細胞を化合物と共にpH 6.5/7.4で3時間インキュベートした。結果は平均± SD(n= 3)で表した。(D)BAPAの細胞取り込み。KPC細胞を、pH 6.5/7.4でシアリダーゼなし/有りでBAPAと共に3時間インキュベートした。結果は平均± SD(n= 3)で表した。(E)BAPAの細胞取り込み。KPC細胞を、pH 6.5/7.4でシステムL阻害剤(BCH)なし/有りでBAPAと共に3時間インキュベートした。結果は平均± SD(n= 3)で表した。(F)BAPAの細胞取り込み。KPC細胞を、pH 6.5/7.4で競合物質(フェニルアラニン)なし/有りでBAPAと共に3時間インキュベートした。結果は平均± SD(n= 3)で表した。
【
図5】各化合物の生体内分布を示す図である。(A)BPA、5-BPAおよびBAPAの血液循環。結果は平均± SD(n= 3)で表した。(B)BAPAの正常器官への分布。結果は平均± SD(n= 3)で表した。(C)BPAの正常臓器への分布。結果は平均± SD(n= 3)で表した。(D)balb/cマウスにおける皮下KPC腫瘍内の腫瘍蓄積。結果は平均± SD(n= 3)で表した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)に使用するための化合物に関し、従来使用されてきた化合物よりも水溶性及び腫瘍集積性が改善された化合物である。
本発明において使用される化合物又はその薬学的に許容される塩は、次式(I):
【化11】
に示される。
式中、Aはそれぞれ独立してCH又は窒素原子を表し、ここで少なくとも1つのAは窒素原子である。Aは、ベンゼンに含まれる4つのC-H構造のうち、1つが窒素原子に置き換わった構造(ピリジン環構造)、2つが窒素原子に置き換わった構造(ピリミジン環構造またはピリダジン環構造)、3つが窒素原子に置き換わった構造(トリアジン環構造)等をとることができ、ピリジン環構造を有することが好ましい。
R
1は-(CH
2)
n- (nは1~6の整数を表す)で示される基を表し、nが1であることが好ましい。
【0012】
化合物(I)の塩としては、無機酸又は有機酸との塩(酸付加塩)が挙げられる。
無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸、硝酸などが挙げられ、有機酸としては、例えば、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、クエン酸、酢酸、乳酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、安息香酸、吉草酸、マロン酸、ニコチン酸、プロピオン酸などが挙げられる。
本発明の好ましい酸付加塩は、塩酸塩である。
【0013】
なお、式(I)に示される又はその薬学的に許容される塩を、本明細書において「本発明の化合物」ともいう。
本発明の好ましい態様において、本発明の化合物は、例えば次式(II):
【化12】
で示され、当該化合物の塩酸塩(下記式(III))であることがさらに好ましい。
【化13】
【0014】
本発明において、式(I)で示される化合物は、以下の合成スキームにより製造することができる。
【化14】
【0015】
先ず、次式(IV):
【化15】
〔R
1は-(CH
2)
n- (nは1~6の整数を表す)で示される基を表し、Meはメチル基を表し、Bocはtert-ブトキシカルボニル基を表す。〕で示される化合物(メチル (R)-2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)-(n+2)-ヨードアルカノエート(nは1~6の整数を表す))を出発物質とし、この化合物と、次式(V):
【化16】
(式中、Aはそれぞれ独立してCH又は窒素原子を表し、ここで少なくとも1つのAは窒素原子である。)で示される化合物とをクロスカップリング反応させて次式(VI):
【化17】
で示される化合物(中間体1)を得る(工程a))。
式(V)で示される有機ハロゲン化物は、窒素原子が1個(ジブロモピリジン)、2個(ジブロモジアジン)、3個(ジブロモトリアジン)、又は4個(ジブロモテトラジン)の形態をとることができる。また、式(IV)において、アルキル鎖の数 (R
1=(CH
2)
n) を変えることにより、異なるアミノ酸構造、すなわち、アラニン (n=1)、ホモアラニン (n=2)、ノルバリン (n=3)、ノルロイシン(n=4)が得られ、本発明においてはn=1であることが好ましい。
クロスカップリング触媒として、当分野で公知のパラジウムやニッケルの錯体を用いることができ、例えば0.1~5mol%程度の触媒量で反応を進行させればよい。
【0016】
次に、前記中間体1と、次式(VII):
【化18】
で示される化合物とをクロスカップリング反応させて、次式(VIII):
【化19】
で示される化合物(中間体2)を得る(工程b))。
【0017】
そして、前記中間体2を加水分解することにより、式(I)で示される化合物を得ることができる(工程c))。
【0018】
また本発明の化合物には、放射性標識を施すことができる。放射性標識としては、16F、17F、18F、12C、13C、14C、15C、16C、18C、10B、11Bなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
本発明の化合物は、動物(例えば、ラット、マウス、ウサギ、ブタ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、サル、ヒト等の哺乳動物)に対し投与することができ、高い腫瘍集積性及び水溶性を有する。
従って、本発明の化合物は、腫瘍に対するホウ素中性子捕捉療法用医薬組成物として使用される。
【0020】
対象となる腫瘍は、特に限定されるものではなく、例えば、脳腫瘍(下垂体腺腫、神経膠腫)、頭頸部癌、頚癌、顎癌、口腔癌、唾液腺癌、舌下腺癌、耳下腺癌、鼻腔癌、副鼻腔癌、喉頭癌、食道癌、肺癌、乳癌、膵臓癌、胃癌、胆道癌(胆管癌、胆嚢癌)小腸又は十二指腸癌、大腸癌、膀胱癌、腎癌、肝癌、前立腺癌、子宮癌(子宮頸癌、子宮体癌)、卵巣癌、甲状腺癌、咽頭癌、肉腫(例えば、骨肉腫、軟骨肉腫、カポジ肉腫、筋肉腫、血管肉腫、線維肉腫など)、悪性リンパ腫(ホジキン型リンパ腫、非ホジキン型リンパ腫)、白血病(例えば、慢性骨髄性白血病(CML)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ球性白血病(CLL)及び急性リンパ性白血病(ALL)、リンパ腫、多発性骨髄腫(MM)、骨髄異型成症候群などを含む)、皮膚癌、メラノーマなどを挙げることができる。
【0021】
上記医薬組成物については、薬剤製造上一般に用いられる賦形剤、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤及び等張化剤等を適宜選択して使用し、常法により調製することができる。
【0022】
本発明の医薬組成物の投与形態としては注射が挙げられ、通常の静脈内、動脈内等の全身投与のほか、筋肉、関節内、皮下、皮内等に局所投与することができる。この場合、通常は単位投与量アンプル又は多投与量容器の形態で提供され、使用する際に適当な担体、例えば滅菌水で再溶解させる粉体であってもよい。また、これらの剤形に対し、製剤上一般に使用される添加剤を含有させることもできる。その投与量は、治療目的、投与対象の年齢、投与経路、投与回数により異なり、広範囲に変えることができ、本発明の医薬組成物に含まれる化合物の量は、当業者であれば適宜設定することができる。
例えば、本発明の医薬組成物の有効量と適切な希釈剤及び薬理学的に使用し得る担体との組合せとして投与される有効量は、一回につき体重1kgあたり1μg~1,000mgであり、1日間から8週間間隔で投与される。
【0023】
さらに本発明の一態様において、本発明の化合物を含む、ホウ素中性子捕捉療法用キットが提供される。
当該キットは、例えば、抗腫瘍療法等に好ましく用いることができる。
【0024】
本発明のキットにおいて、化合物の保存状態は限定はされず、その安定性(保存性)及び使用容易性等を考慮して溶液状又は粉末状等の状態を選択できる。本発明のキットは、本発明の化合物以外に、他の構成要素を含んでいてもよい。他の構成要素としては、例えば、細胞調製用各種バッファー、溶解用バッファー及び使用説明書(使用マニュアル)等を挙げることができる。
【実施例0025】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
[実施例の概要]
Boc-b-iodo-Ala-OMeを原料として、5-boronopyridin-3-yl-L-alanine(BAPA)を88%の収率 で合成した。具体的には、パラジウム触媒を用いたカップリング反応を介してBoc-b-iodo-Ala-OMeに2,5-dibromopyridineをコンジュゲートし、パラジウム存在下で(pinacolato)diboronを導入した。その後、過ヨウ素酸ナトリウムと塩酸を用いてピナコールエステルの加水分解や、アミンとカルボン酸の脱保護を行った。合成したBAPAをKPC細胞に添加し、6時間後の細胞取り込み量をICP-MS法により定量した。また、KPC担がんモデルマウスを用いてBAPAの体内動態の分析を行った。具体的には、BAPAの血中濃度および腫瘍内濃度をIPC-MS法により定量することで、血中滞留性および腫瘍集積性の指標とした。
[実施例1]
【0026】
(1)方法
材料
(S)-メチル-3-(5-ブロモピリジン-2-イル)-2-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)プロパノエート(1)および(S)-メチル-2-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-3-(5-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)ピリジン-2-イル)プロパノエート(2)を、文献に記載の方法に従って調製した1-2。
アセトン(>99.5%)、アセトニトリル(MeCN、>99.8%)、メタノール(MeOH、>99.8%)、過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO4, >99.5%)、酢酸アンモニウム(NH4 OAc、>97%)、塩酸(5M、HCl)、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF3・OEt2, 46~49%)およびメタノール-d4(MeOD-d4,>99%)は、富士フイルム和光純薬工業(株)(東京、日本国)から購入した。
【0027】
測定
1H NMRおよび13C NMRスペクトルは、Bruker AVANCE III 400で測定し、残存重水素化シグナルについて参照した。11B NMRスペクトルはJEOL JNM-ECA500で測定し、BF3・OEt2に対して外部参照した。エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI MS)は、Bruker Daltonics micro-TOF-2focusで測定した。100mg/mLまでの水溶性は、化合物を脱イオン水に室温で溶解することによって調べた。溶液中、1日後でも沈殿が形成されないことを確認した。
【0028】
(S)-2-アミノ-3-(5-ボロノピリジン-2-イル)プロパン酸塩酸塩(BAPA)の合成
合成スキームを以下に示す。
【化20】
a) i)活性化亜鉛、DMF、35℃、2時間; ii) 2,5-ジブロモピリジン、Pd(PPh
3)
2 Cl
2、DMF、68℃、2時間、90%;
b) ビス(ピナコラト)ジボロン、Pd(dppf)Cl
2・CH
2Cl
2、KOAc、1,4-ジオキサン、85℃、16時間、100%;
c) i) NaIO
4, NH
4OAc、アセトン/水、室温、40時間; ii) HCl(2M)、100℃、4時間、98%
【0029】
BAPAは、ピナコールエステル3を加水分解し、塩酸で処理することにより合成した。
アセトン(70mL)中の化合物2(2.88g、7.1mmol)の水溶液に、NaIO4(4.55g、21.3mmol)、NH4 OAc(1.20g、15.6mmol)および水(70mL)を加えた。混合物を室温で40時間撹拌し、溶媒を蒸発させた。残りの固体をHCl(2M、100mL)中で4時間還流し、反応混合物を蒸発乾固し、MeOH(10mL)に再溶解し、MeCN(100mL)中にゆっくりと滴下した。形成された沈殿物を濾過し、MeCNで洗浄し、真空乾燥して、オフホワイトの粉末(1.71g、98%)としてBAPAを得た。
【0030】
1H NMR (400MHz, MeOD‐d4)δ 8.88(dd, J=1.7,0.7Hz,1H),8.75(dd, J=8.0,1.6Hz,1H),8.06(d, J =8.0Hz,1H),4.64(t, J=7.4Hz,1H),3.75‐3.63(m,2H)。
13C NMR (100 MHz, MeOD-d4)δ 169.55, 152.85, 152.41, 146.61, 128.93, 52.76, 34.75.
11B NMR (160 MHz, MeOD-d4)δ 26.10.
ESI MS (MeCN, pos. mode)C8H12BN2O4のCalcd: 211.0885[M-Cl]+, found 211.1032.
【0031】
細胞取り込み
細胞取り込みを評価するために、KPC細胞をディッシュ上に播種し(ディッシュ当たり1.0×107細胞)、24時間インキュベートした。
阻害アッセイのために、細胞をシアリダーゼで3時間処理した。培地を除去した後、細胞を、フルクトース-BPA(フルクトース:8.0mM、BPA: 3.0mM)、5-BPA(3.0mM)またはBAPA(3.0mM)を含む培地(pH 6.5/7.4 = 1/4(v/v)のD-PBS/RPMI-1640)中で、BCH(20mM)を含むまたは含まない条件、またはフェニルアラニン(3.0mM)を含むまたは含まない条件で培養した。
【0032】
次いで、細胞をD-PBSで洗浄し、1mLのトリプシン/EDTA溶液中でのインキュベーションによって分離した。細胞懸濁液をRPMI-1640と混合し、遠心分離により細胞を回収した。細胞数を計数した後、それらを1mLの70%硝酸中に溶解し、90度で熱処理した。試料を水で希釈し、容量を10mLに調整した後、シリンジフィルター(0.2μm)を用いて濾過した。濾過された試料中のホウ素の量を、ICP-MSを用いて定量した。
【0033】
生体内分布
KPC細胞をbalb/cマウス(マウスあたり1.0×107細胞)に皮下接種することにより、皮下KPC腫瘍モデルを調製した。腫瘍の大きさが約200mm3に達した後、フルクトース‐BPA(フルクトースとBPAのモル比=3)、5‐BPAまたはBAPAをマウス1匹当たり38μmolの投与量でマウスに静脈内注射した。
注射の1、3、6または24時間後にマウスから採血し、続いて腫瘍および器官を採取した。採取した試料を70%硝酸1mLに浸漬し、90℃で灰化した。試料を水で希釈し10mLに調製した。シリンジフィルター(0.2μm)で試料を濾過した後、濾過した試料中のホウ素量をICP-MSを用いて定量した。
【0034】
(2)結果
BAPAの
1H NMR(400MHz、MeOD-d
4)スペクトル、
13C NMR(100MHz、MeOD-d
4)スペクトル、
11B NMR(160MHz、MeOD-d
4)スペクトルをそれぞれ
図1、
図2、
図3に示す。
また、KPC細胞におけるBAPAの細胞取り込みを
図4に示す。
各化合物の生体内分布を
図5に示す。
ステボロニン(BPA)がフルクトース共存下でのみ水溶性を示す一方で、BAPAは単剤で高い水溶性を示した。また、腫瘍内pH(pH 6.5)においてKPC細胞に対する取り込み量が増大し、細胞表面のシアル酸およびLAT1トランスポーター依存的な細胞取り込みであることが確認された。さらに、静脈投与後のBAPAはステボロニンと同様の血中滞留性を示すとともに、KPC 腫瘍に対する高い集積性を示した。
これらのことから、本発明のBAPAは、フェニルアラニンのトランスポーターを介して細胞に取り込まれ、かつ、シアル酸を介して取り込まれることが示され、BAPAはがん細胞をいわゆるデュアルでターゲティングしていると言える。
【0035】
<参考文献>
1. S. Tabanella, I. Valancogne, R. F. W. Jackson, Org. Biomol. Chem. 2003, 1, 4254-4261.
2. H. Germain, C. S. Harris, F. Renaud, N. Warin, Synth. Commun. 2009, 39, 523-530.
3. H. Nakamura, M. Fujiwara, Y. Yamamoto, Bull. Chem. Soc. Jpn. 2000, 73, 231-235.