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特開2024-66118フィルタの設定方法、フィルタ設定装置、およびフィルタ設定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066118
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】フィルタの設定方法、フィルタ設定装置、およびフィルタ設定プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/04 20060101AFI20240508BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
H04R3/04
H04R3/00 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175446
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白木原 太
【テーマコード(参考)】
5D220
【Fターム(参考)】
5D220AA03
5D220AB01
(57)【要約】
【課題】マイクの位置に関わらず、部屋の定在波を的確に制御するフィルタの設定方法を提供する。
【解決手段】フィルタの設定方法は、ピーカの置かれた部屋のインパルス応答を測定し、測定された前記インパルス応答の後部残響成分を抽出し、抽出された前記後部残響成分の周波数振幅特性と、所定の目標特性との差分を検出し、該差分に応じた増幅ないし減衰を有する周波数応答を示すフィルタ係数を生成して、そのフィルタ係数を、前記スピーカに供給される音信号を処理するフィルタに設定する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカの置かれた部屋のインパルス応答を測定し、
測定された前記インパルス応答の後部残響成分を抽出し、
抽出された前記後部残響成分の周波数振幅特性と、所定の目標特性との差分を検出し、
該差分に応じた増幅ないし減衰を有する周波数応答を示すフィルタ係数を生成して、そのフィルタ係数を、前記スピーカに供給される音信号を処理するフィルタに設定する、
フィルタの設定方法。
【請求項2】
前記インパルス応答を測定するステップにおいて、ある音信号に応じて前記スピーカから音を放音し、その放音された音をマイクで収音して収音信号を生成し、前記ある音信号と前記収音信号とに基づいて、前記インパルス応答が算出される、
請求項1に記載のフィルタの設定方法。
【請求項3】
前記周波数振幅特性は、ログ周波数軸で見たときの分解能が一定になるようにスムージング処理されている、
請求項1または請求項2に記載のフィルタの設定方法。
【請求項4】
前記後部残響成分は、前記インパルス応答のうち所定時点以後の成分を切り出すことにより、抽出される。
請求項1または請求項2に記載のフィルタの設定方法。
【請求項5】
前記インパルス応答の後部残響成分は、前記インパルス応答に対して、前記所定時点の値がゼロで、それ以後、時間が進むとともに値が徐々に大きくなる第1区間を、その先頭部に有する窓関数を乗じることにより、抽出される、
請求項4に記載のフィルタの設定方法。
【請求項6】
前記フィルタ係数を生成して設定するステップでは、前記周波数振幅特性が前記目標特性より大きい帯域について、前記差分に応じた減衰を有する周波数応答を示すフィルタ係数を生成する、
請求項1または請求項2に記載のフィルタの設定方法。
【請求項7】
前記フィルタ係数を生成して設定するステップでは、人間の可聴帯域のうちの、前記周波数振幅特性が前記目標特性より大きい帯域について、前記差分に応じた減衰を有する周波数応答を示すフィルタ係数を生成する、
請求項1または請求項2に記載のフィルタの設定方法。
【請求項8】
前記フィルタ係数を生成して設定するステップでは、前記部屋の寸法に応じた低次定在波の候補帯域のうちの、前記周波数振幅特性が前記目標特性より大きい帯域について、前記差分に応じた減衰を有する周波数応答を示すフィルタ係数を生成する、
請求項1または請求項2に記載のフィルタの設定方法。
【請求項9】
スピーカの置かれた部屋のインパルス応答を測定し、
測定された前記インパルス応答の後部残響成分を抽出し、
抽出された前記後部残響成分の周波数振幅特性と、所定の目標特性との差分を検出し、
該差分に応じた増幅ないし減衰を有する周波数応答を示すフィルタ係数を生成して、そのフィルタ係数を、前記スピーカに供給される音信号を処理するフィルタに設定する、
プロセッサを備えたフィルタ設定装置。
【請求項10】
スピーカの置かれた部屋のインパルス応答を測定し、
測定された前記インパルス応答の後部残響成分を抽出し、
抽出された前記後部残響成分の周波数振幅特性と、所定の目標特性との差分を検出し、
該差分に応じた増幅ないし減衰を有する周波数応答を示すフィルタ係数を生成して、そのフィルタ係数を、前記スピーカに供給される音信号を処理するフィルタに設定する、
処理をコンピュータに実行させるフィルタ設定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の一実施形態は、フィルタの設定方法、フィルタ設定装置、およびフィルタ設定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、スピーカの配置された拡声空間(例えばコンサートホール)の周波数応答に応じて、ディップフィルタの係数を設定して、その拡声空間における共鳴を防止する周波数特性決定方法が開示されている。
【0003】
特許文献2には、音源から空間に音が放出された場合、音源から視聴者に、直接音と、初期反射音と、後部残響成分とが届くことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3901648号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2021/377691号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の構成では周波数応答の全体を用いてディップフィルタの係数を設定しているため、部屋の定在波以外の成分の調整も可能であったが、調整に用いるマイクをリスニングポジションに置く必要があった。
【0006】
本開示のひとつの態様は、マイクの位置に関わらず、部屋の定在波を的確に制御するフィルタの設定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係るフィルタの設定方法は、ピーカの置かれた部屋のインパルス応答を測定し、測定された前記インパルス応答の後部残響成分を抽出し、抽出された前記後部残響成分の周波数振幅特性と、所定の目標特性との差分を検出し、該差分に応じた増幅ないし減衰を有する周波数応答を示すフィルタ係数を生成して、そのフィルタ係数を、前記スピーカに供給される音信号を処理するフィルタに設定する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、マイクの位置に関わらず、部屋の定在波を的確に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】スピーカ装置1の構成を示すブロック図である。
図2】スピーカ装置1を設置した部屋100の模式図である。
図3】フィルタ設定方法の動作を示すフローチャートである。
図4】インパルス応答の時間波形を示す図である。
図5】抽出された後部残響成分の周波数振幅特性の一例を示す図である。
図6】スムージング処理後の後部残響成分の周波数振幅特性の一例を示す図である。
図7】フィルタ(イコライザ)の周波数振幅特性の一例を示す図である。
図8】変形例1に係るフィルタ(イコライザ)の周波数振幅特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係るスピーカ装置1の構成を示すブロック図である。図2は、スピーカ装置1を設置した部屋100の模式図である。
【0011】
スピーカ装置1は、プロセッサ11、フラッシュメモリ12、RAM13、スピーカ14、マイク15、ネットワークI/F16、表示器17、およびユーザI/F18を備えている。
【0012】
スピーカ装置1は、本発明のフィルタ設定装置の一例である。本実施形態では、スピーカ装置1は、図2に示す様に、部屋100のうち利用者Uの居る位置とは異なる所定の位置(例えばコンテンツに係る映像を表示する表示装置の近く)に設置される。
【0013】
スピーカ装置1は、スマートフォン、パーソナルコンピュータ、セットトップボックス、あるいはオーディオレシーバ等の配信装置に接続される。スピーカ装置1は、これらの配信装置からコンテンツに係る音信号を受信する。また、スピーカ装置1は、インターネットを介してサーバ等からコンテンツデータを受信してもよい。この場合スピーカ装置1は、受信したコンテンツデータをデコードして音信号を取り出す。
【0014】
プロセッサ11は、CPU,DSP、あるいはSoC(System-on-a-Chip)等からなり、記憶媒体であるフラッシュメモリ12に記憶されているプログラムをRAM13に読み出して、所定の機能を実現する。例えば、フラッシュメモリ12は、音信号の周波数特性を調整するイコライザ等のフィルタを実現するためのプログラム、およびそのフィルタのフィルタ係数を設定するためのフィルタ設定プログラムを記憶している。プロセッサ11は、これらプログラムにより、フィルタ、およびそのフィルタのフィルタ係数を設定するためのフィルタ設定装置を実現する。イコライザは、例えばパラメトリックイコライザやグラフィックイコライザなどであり、IIRフィルタにより構成されても、FIRフィルタにより構成されてもよい。
【0015】
ネットワークI/F16は、例えばWi-Fi(登録商標)あるいはBluetooth(登録商標)等の規格に準じた無線通信部である。ネットワークI/F16は、無線通信により上記配信装置と通信し、音信号を受信する。
【0016】
プロセッサ11は、ネットワークI/F16を介して受信したデジタルの音信号にフィルタ処理を施して、D/A変換器とアンプを備えたスピーカ14に出力する。スピーカ14は、プロセッサ11から出力された音信号に応じた音を放音する。
【0017】
表示器17は、例えば複数のLEDからなり、例えばスタンバイ状態/電源オン状態を表示する。ユーザI/F18は、例えば電源ボタンあるいは音量ボタンからなる。
【0018】
マイク15は、スピーカ14から出力された音を収音する。プロセッサ11は、マイク15で収音した音に基づいて上記フィルタに設定するフィルタ係数を生成する。
【0019】
図3は、フィルタ設定方法の動作を示すフローチャートである。まず、プロセッサ11は、インパルス応答を測定する(S11)。
【0020】
より具体的には、プロセッサ11は、ある音信号(例えばインパルス信号、ホワイトノイズ信号、あるいはチャープ信号等のテスト信号や、音楽のコンテンツ信号)に応じて、スピーカ14から部屋100にテスト音ないしコンテンツ音を放音し、その放音された音をマイク15で収音して収音信号を生成する。そして、プロセッサ11は、ある音信号(例えばテスト信号やコンテンツ信号)と収音信号とに基づいて、インパルス応答を算出する。例えば、プロセッサ11は、相互相関法、クロススペクトル法、MLS法、TSP法などの公知の手法の何れかを用いて、収音信号から部屋100のインパルス応答の波形を算出する。
【0021】
その後、プロセッサ11は、測定されたインパルス応答の波形から、その後部残響成分を抽出する(S12)。
【0022】
図4は、インパルス応答の時間領域の波形を示す図である。図4のグラフの横軸は時間であり、縦軸は振幅である。図4に示す様に、インパルス応答は、時間軸上に並ぶ、直接音成分、初期反射音成分、および、後部残響成分に区別される。
【0023】
直接音成分は、スピーカ14からマイク15に直接到達する音であり、振幅のレベルが高く、時間軸上最も早い時間に表れる。後部残響成分とは、スピーカ14から放音された後、部屋100内で反射が何回も繰り返されてマイク15に到達する成分であり、部屋100におけるスピーカ14やマイク15の位置に余り依存しない。測定されたインパルス応答の末尾に位置する後部残響成分のレベルは、一般的な残響の減衰曲線(例えば、シュレーダー積分法により求めた減衰曲線)で表すことができる。本実施形態では、その末尾時点から時間を遡る方向に、インパルス応答のレベルが当該減衰曲線から外れる逸脱時点(ないしその直前)までが、後部残響成分の期間として抽出される。つまり、後部残響成分は、測定したインパルス応答のうちの、前記逸脱時点以後の成分を切り出した成分である。
【0024】
初期反射音成分は、スピーカ14から放音された音が、部屋100内の机、壁、天井、または床等に1乃至数回反射してマイク15に到達する成分であり、インパルス応答のうち直接音成分および後部残響成分を除く成分である。初期反射音成分における個々の反射音がマイク15に到達するタイミングおよびレベルは、スピーカ14やマイク15の位置に大きく依存する。
【0025】
一方、後部残響成分は、その周波数振幅特性も含めて、スピーカ14やマイク15の位置に大きく依存しないが、部屋100の形状やサイズには大きく依存する。後部残響成分は、部屋100の向かい合う壁等の間で反射を繰り返して生じる定在波の成分を含む。プロセッサ11は、測定したインパルス応答のうち所定時点以後の成分を切り出すことで、当該定在波の成分を多く含む後部残響成分の周波数振幅特性を抽出する。
【0026】
次に、プロセッサ11は、抽出された後部残響成分の周波数振幅特性と、所定の目標特性との差分を検出する(S13)。プロセッサ11は、S12で抽出した後部残響成分を高速フーリエ変換等で周波数領域の信号に変換することで、後部残響成分の周波数振幅特性を求める。
【0027】
図5は、抽出された後部残響成分の周波数振幅特性の一例を示す図である。図5のグラフの横軸はログ周波数(Hz)であり、縦軸は振幅である。図5の例では、目標特性は、周波数に関わらずある振幅値を示す、平坦な周波数特性を有する。ただし、目標特性は、どの様なカーブの特性であってもよい。目標特性は、例えば、所定の帯域について増幅又は減衰する特性でもよいし、利用者が各周波数帯域の増幅や減衰を自由に調整した特性でもよい。
【0028】
なお、プロセッサ11は、抽出した後部残響成分にスムージング処理を行ってもよい。図6は、スムージング処理後の後部残響成分の周波数振幅特性の一例を示す図である。図6に示す周波数振幅特性は、ログ周波数軸で見たときの分解能が一定になるようにスムージング処理されている。プロセッサ11は、例えば、ログ周波数軸の所定の帯域幅で移動平均を求めることにより、スムージング処理を行う。スムージング処理により、周波数振幅特性は、細かなピークやディップが無くなる。これにより、限られた数のパラメトリックイコライザ(IIRフィルタ)での調整や、タップ長の短いFIRフィルタでの調整が可能になる。
【0029】
また、プロセッサ11は、インパルス応答の後部残響成分を、該インパルス応答に対して、所定時点の値がゼロで、それ以後、時間が進むとともに値が徐々に大きくなる第1区間を、その先頭部に有する窓関数を乗じることにより、抽出してもよい。
【0030】
図4に示した様に、インパルス応答の振幅のレベルは時間経過とともに連続的に低下する。しかし、仮に該インパルス応答の所定時点以降の波形を、後部残響成分としてそのまま抽出すると、抽出された波形は、その所定時点で不連続となる。すなわち、後部残響成分の波形として、その所定時点で振幅が0の状態から急に立ち上がるインパルス応答が得られる。その不連続を有するインパルス応答を、高速フーリエ変換等で周波数領域の信号(周波数振幅特性)に変換すると、その周波数振幅特性には、該不連続に起因する誤差(本来観測されるべきでない成分)が含まれる。本実施形態では、プロセッサ11は、上記の様に測定されたインパルス応答に対して、所定時点以降、時間が進むとともに徐々に大きくなる窓関数を乗じてから周波数振幅特性に変換することにより、得られる周波数特性における、切り出された後部残響成分の頭部での不連続に起因する誤差を抑えることができる。
【0031】
なお、プロセッサ11は、先頭の第1区間に加えて、インパルス応答の後部残響成分の末尾の時点の値がゼロで、時間を遡る方向に徐々に値が大きくなる末尾の第2区間を有する窓関数を乗じてもよい。
【0032】
そして、プロセッサ11は、目標特性と後部残響成分の周波数振幅特性との差分に応じた増幅ないし減衰を有する周波数応答を示すフィルタ係数を生成して(S14)、そのフィルタ係数を、スピーカ14に供給される音信号を処理するフィルタに設定する(S15)。
【0033】
図7は、フィルタ(イコライザ)の周波数振幅特性の一例を示す図である。図7のグラフの横軸はログ周波数(Hz)であり、縦軸はゲイン(dB)である。
【0034】
プロセッサ11は、イコライザの周波数応答を、目標特性と後部残響成分の周波数振幅特性との差分が0dBになる様なゲイン特性に調整する。図7の例では、イコライザは、0dBより低いゲインで、目標特性よりも振幅の大きいピーク成分を抑制し(減衰し)、0dBより高いゲインで、目標特性よりも振幅の小さいディップ成分を持ち上げる(増幅する)周波数応答を示す。例えばフィルタがパラメトリックイコライザを構成する場合、プロセッサ11は、図7の破線に示す複数のディップ成分またはピーク成分にそれぞれのパラメトリックイコライザのバンドの中心周波数を設定する。
【0035】
この様にして、本実施形態のフィルタ設定方法により設定されたフィルタで処理された音信号をスピーカに供給することにより、そのスピーカが配置された部屋の定在波の影響を避けながら、そのスピーカからその部屋に放音できる。これにより、利用者は、フラッターエコーの少ない高音質な音を聴取する、新たな顧客体験を得ることができる。
【0036】
また、本実施形態のフィルタ設定方法は、マイクの位置の影響を受けにくい後部残響成分を抽出して、その後部残響成分に基づいてフィルタ係数を生成することにより、スピーカやマイクの位置に関わらず、部屋の定在波を的確に制御できる。
【0037】
(変形例1)
変形例1のフィルタ設定方法は、フィルタ係数を生成して設定するステップにおいて、周波数振幅特性が目標特性より大きい周波数帯域について、上記差分に応じた減衰を有する周波数応答を示すフィルタ係数を生成する。
【0038】
図8は、変形例1に係るフィルタ(イコライザ)の周波数振幅特性の一例を示す図である。図8に示す様に、変形例1に係るプロセッサ11は、周波数振幅特性が目標特性より大きい周波数帯域のみ、信号を減衰するフィルタ係数を設定することで、局所的なディップの補正による音質の劣化を避けられる。また、パラメトリックイコライザでは、限られたバンド数のフィルタで、定在波を効率的に減衰できる。
【0039】
(変形例2)
変形例2に係るプロセッサ11は、フィルタ係数を生成して設定するステップにおいて、人間の可聴帯域(例えば20kHz)のうちの、周波数振幅特性が目標特性より大きい周波数帯域について、上記差分に応じた減衰を有する周波数応答を示すフィルタ係数を生成する。
【0040】
変形例2に係るプロセッサ11は、フィルタの減衰を利用者の聴感できる周波数帯域に制限することで、定在波をより効率的に減衰できる。
【0041】
(変形例3)
変形例3に係るプロセッサ11は、フィルタ係数を生成して設定するステップにおいて、部屋の寸法に応じた低次定在波の候補帯域のうちの、周波数振幅特性が目標特性より大きい周波数帯域について、上記差分に応じた減衰を有する周波数応答を示すフィルタ係数を生成する。
【0042】
部屋の寸法は、例えばユーザI/F18を介して利用者から受け付ける。プロセッサ11は、部屋の寸法から定在波が生じる可能性のある最低(基本)周波数を求める。例えば、プロセッサ11は、部屋の向かい合う壁のペア毎に、壁と壁との距離を半波長とみなし、音速を当該波長で除算した値を、定在波の最低(基本)周波数として求める。プロセッサ11は、フィルタの減衰を設定する周波数帯域を、当該最低(基本)周波数の1倍から数倍(例えば2~5倍)までの複数の低次定在波を含む候補帯域内に制限することで、定在波をより効率的に減衰できる。
【0043】
(変形例4)
変形例4に係るプロセッサ11は、フィルタの各周波数帯域のゲインを、そのゲインの可変範囲より狭い所定の範囲以内(例えば±6dB以内)に制限する。これにより、変形例4に係るプロセッサ11は、調整過多による音質への影響を抑えられる。
【0044】
本実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲は、特許請求の範囲と均等の範囲を含む。
【0045】
本発明のフィルタ設定方法の実行主体は、スピーカ装置に限定されない。フィルタ設定方法は、電子楽器、オーディオ機器、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、ゲーム機など、室内でのオーディオ信号の再生に係るあらゆる電子装置で実行でき、或いは任意の2以上の電子装置の協働で実行できる。マイク、アンプ、およびスピーカは、それぞれその電子機器が備えていてもよいし、その電子機器とは別に用意されてもよい。
【0046】
例えば、スマートフォン等の外部機器のマイクでスピーカ装置(実行主体)が放音した音を収音して収音信号を生成し、その収音信号をスピーカ装置に送信して、スピーカ装置が、その収音信号に基づいてフィルタ設定処理を実行してもよい。
【0047】
また、スピーカ装置(外部機器)に音信号を供給するスマートフォン(実行主体)が、自身のマイクでスピーカ装置が放音した音を収音して収音信号を生成し、その収音信号に基づいてフィルタ係数を生成し、そのフィルタ係数をスピーカ装置に内蔵されたフィルタに設定してもよい。
【0048】
フィルタで処理されスピーカで再生される音信号は、電子機器がネットワークI/F16を介して受信した音信号には限らない。当該音信号は、マイク等の機器からのアナログの音信号をA/D変換したデジタルの音信号でもよい。当該音信号は、電子楽器の備える音源で生成されたデジタルの音信号でもよい。当該音信号は、電子機器のフラッシュメモリ12から読み出され再生されたデジタルの音信号でもよい。
【0049】
フィルタ処理は、プロセッサ11とは別に設けられたコプロセッサやデジタル信号プロセッサなどの専用ハードウェアで行われてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 :スピーカ装置
11 :プロセッサ
12 :フラッシュメモリ
13 :RAM
14 :スピーカ
15 :マイク
16 :ネットワークI/F
17 :表示器
18 :ユーザI/F
100 :部屋
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8