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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066123
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】アーク溶接装置及びアーク溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/095 20060101AFI20240508BHJP
   B23K 9/173 20060101ALI20240508BHJP
   B23K 9/09 20060101ALI20240508BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
B23K9/095 515Z
B23K9/173 A
B23K9/09
B23K31/00 N
B23K31/00 Z
B23K9/095 501A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175460
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】馬塲 勇人
【テーマコード(参考)】
4E001
4E082
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB08
4E001CA01
4E001CA03
4E001DD02
4E001DE04
4E001EA01
4E082AA04
4E082AB01
4E082BA04
4E082EA01
4E082EB11
4E082EC03
4E082EC13
4E082EC17
4E082EF14
4E082EF15
4E082EF23
4E082JA02
(57)【要約】
【課題】ブローホールの発生リスクを簡易に推定することができるアーク溶接装置を提供する。
【解決手段】アルゴンを含有するシールドガスを用いる消耗電極式のアーク溶接装置であって、溶接電流及び溶接電圧の出力を制御する制御部と、溶接中の短絡を検出するセンサと、表示部とを備え、制御部は、センサにて検出された短絡の頻度に基づいて、ブローホールの発生リスクを推定し、推定結果を表示部に表示し、又は推定結果に基づいて溶接条件を変更する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルゴンを含有するシールドガスを用いる消耗電極式のアーク溶接装置であって、
溶接電流及び溶接電圧の出力を制御する制御部と、
溶接中の短絡を検出するセンサと
を備え、
前記制御部は、
前記センサにて検出された短絡の頻度に基づいて、ブローホールの発生リスクを推定する
アーク溶接装置。
【請求項2】
前記制御部は、
推定結果を表示部に表示し、又は推定結果に基づいて溶接条件を変更する
請求項1に記載のアーク溶接装置。
【請求項3】
溶接中、リアルタイムで推定結果を表示し、又は推定結果に基づいて溶接条件を変更する
請求項2に記載のアーク溶接装置。
【請求項4】
前記制御部は、
短絡の頻度が第1所定値未満である場合、ブローホールの発生リスクが低いと判定し、
短絡の頻度が第1所定値より大きな第2所定値以上である場合、ブローホールの発生リスクが低いと判定し、
短絡の頻度が第1所定値以上、第2所定値未満である場合、ブローホールの発生リスクが高いと判定する
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のアーク溶接装置。
【請求項5】
前記制御部は、
溶接ワイヤに平均電流300A以上の溶接電流を供給することによって、母材に形成された凹状の溶融部分によって囲まれる空間に前記溶接ワイヤの先端部を進入させて前記母材を溶接する溶接条件にて、溶接電流及び溶接電圧の出力を制御し、
ブローホールの発生リスクが高い場合、50A以上150A以下の電流変動幅、1Hz以上5Hz以下の周期で溶接電流を周期的に変動させる
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のアーク溶接装置。
【請求項6】
アルゴンを含有するシールドガスを用いる消耗電極式のアーク溶接方法であって、
溶接中の短絡を検出し、
検出された短絡の頻度に基づいて、ブローホールの発生リスクを推定する
アーク溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーク溶接装置及びアーク溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルゴン(Ar)を含むシールドガスを用いるステンレス鋼のGMA(Gas Metal Arc)では、溶接欠陥であるブローホールが形成されやすい。これは、溶接ワイヤと溶融金属が短絡した際に、シールドガス中のアルゴンが溶融金属に巻き込まれることに起因すると考えられている。なお、ここでいう短絡には、電圧低下量数V、短絡時間数十μs程度の瞬間的な短絡も含まれる。
【0003】
ブローホールを防止するためには、アーク電圧を大きくして十分なアーク長を確保し、短絡を抑制することが効果的である。この方法では、短絡を抑制することで、ブローホールの原因となるアルゴンの巻き込みそのものを抑制する。
【0004】
また、ブローホールを防止するためには、アーク電圧を十分に小さくして、高い頻度で短絡とアーク再点弧を繰り返すことにより、ブローホールを抑制することができる。この方法では、溶融金属へのアルゴンの巻き込みそのものを抑制することはできないが、短絡とアーク再点弧を高頻度で繰り返すことで溶融金属が振動するため、一度溶融金属に巻き込まれたアルゴンの外部放出が促進され、ブローホールが抑制されるものと考えられる。
【0005】
更に、300A以上の高電流条件でのGMA溶接において、溶接電流を周期的に変動させることにより、ブローホールを抑制することができる(例えば、特許文献1)。この方法では、溶接電流の変動によって溶融金属に振動を与え、溶融金属に巻き込まれたアルゴンの外部放出を促進し、ブローホールを抑制する。
【0006】
以上の通り、ブローホールが発生するような場合、上記した方法により、ブローホールを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-102228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ただし、上記したブローホールの抑制方法は特殊な制御であるため、ブローホールが発生していない状態においては極力、上記抑制方法を使用しないことが望ましい。
しかし、ブローホールの発生を確認するためには、実際に溶接を行い、溶接継手の検査を行う必要がある。また、継手形状が変化したり、溶接条件が変化したりすると、その都度ブローホールの発生状況が変化し得るため、都度検査を行う必要がある。
【0009】
本開示の目的は、ブローホールの発生リスクを簡易に推定することができるアーク溶接装置及びアーク溶接方法を提供することになる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る埋もれアーク溶接装置は、アルゴンを含有するシールドガスを用いる消耗電極式のアーク溶接装置であって、溶接電流及び溶接電圧の出力を制御する制御部と、溶接中の短絡を検出するセンサとを備え、前記制御部は、前記センサにて検出された短絡の頻度に基づいて、ブローホールの発生リスクを推定する。
【0011】
本開示に係る埋もれアーク溶接方法は、アルゴンを含有するシールドガスを用いる消耗電極式のアーク溶接方法であって、溶接中の短絡を検出し、検出された短絡の頻度に基づいて、ブローホールの発生リスクを推定する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、ブローホールの発生リスクを簡易に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る消耗電極式のアーク溶接装置の一構成を示す模式図である。
図2】実施形態1に係るアーク溶接方法の処理手順を示すフローチャートである。
図3】実施形態2に係るアーク溶接方法の処理手順を示すフローチャートである。
図4】埋もれアークの溶接条件を示す模式図である。
図5】ブローホールを抑制する電流制御方法を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の実施形態に係るアーク溶接装置及びアーク溶接方法を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0015】
以下、本発明をその実施形態を示す図面に基づいて詳述する。本実施形態に係るアーク溶接装置及びアーク溶接方法は、ブローホールの発生リスクを簡易に推定して表示し、又はブローホールの発生リスクに応じて溶接条件を変更することができるものである。
【0016】
(実施形態1)
図1は、本実施形態に係る消耗電極式のアーク溶接装置の一構成を示す模式図である。本実施形態に係るアーク溶接装置は、アルゴンを含有するシールドガスを用いる消耗電極式のガスシールドアーク溶接機であり、溶接電源1、トーチ2及びワイヤ送給装置3を備える。
【0017】
トーチ2は、銅合金等の導電性材料からなり、母材4へ溶接ワイヤ5を案内するとともに、アークの発生に必要な溶接電流Iwを供給する円筒形状のコンタクトチップを有する。コンタクトチップは、その内部を挿通する溶接ワイヤ5に接触し、溶接電流Iwを溶接ワイヤ5に供給する。また、トーチ2は、コンタクトチップを囲繞する中空円筒形状をなし、母材4へシールドガスを噴射するノズルを有する。シールドガスは、例えば炭酸ガス及びアルゴンガスの混合ガス、酸素及びアルゴンガスの混合ガス、アルゴン等の不活性ガス等である。
【0018】
溶接対象である母材4は、例えばステンレス鋼である。なお、必要に応じて、母材4にY形、レ形等の任意形状の開先を設けても良い。また母材4は、例えば軟鋼、機械構造用炭素鋼、機械構造用合金鋼等の鋼板であってもよい。
【0019】
溶接ワイヤ5は、例えばソリッドワイヤであり、その直径は0.9mm以上1.6mm以下であり、消耗電極として機能する。溶接ワイヤ5は、例えば、螺旋状に巻かれた状態でペールパックに収容されたパックワイヤ、あるいはワイヤリールに巻回されたリールワイヤである。
【0020】
ワイヤ送給装置3は、溶接ワイヤ5をトーチ2へ送給する送給ローラと、当該送給ローラを回転させるモータとを有する。ワイヤ送給装置3は、送給ローラを回転させることによって、ワイヤリールから溶接ワイヤ5を引き出し、引き出された溶接ワイヤ5をトーチ2へ供給する。なお、かかる溶接ワイヤ5の送給方式は一例であり、特に限定されるものでは無い。
【0021】
溶接電源1は、給電ケーブルを介して、トーチ2のコンタクトチップ及び母材4に接続され、溶接電流Iwを供給する電源部11と、溶接ワイヤ5の送給速度を制御する送給速度制御部12と、表示部13とを備える。なお、電源部11及び送給速度制御部12を別体で構成しても良い。電源部11は、PWM制御された直流電流を出力する電源回路11a、制御回路11b、電圧検出部11c、電流検出部11dを備える。
【0022】
電圧検出部11cは、溶接電圧Vwを検出し、検出した電圧値を示す電圧値信号Vdを制御回路11bへ出力するセンサである。
【0023】
電流検出部11dは、例えば、溶接電源1からトーチ2を介して溶接ワイヤ5へ供給され、アークを流れる溶接電流Iwを検出し、検出した電流値を示す電流値信号Idを制御回路11bへ出力するセンサである。
【0024】
電源回路11aは、商用交流を交直変換するAC-DCコンバータ、交直変換された直流をスイッチングにより所要の交流に変換するインバータ回路、変換された交流を整流する整流回路等を備える。
【0025】
制御回路11bは、プロセッサであり、CPU、マルチコアCPU等の演算処理回路、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などの内部記憶装置、I/O端子などを有する。制御回路11bは、設定された溶接条件、検出された溶接電流Iw及び溶接電圧Vwに基づいて、電源回路11aのインバータ回路をPWM制御する。母材4及び溶接ワイヤ5間には、所用の溶接電圧Vwが印加され、溶接電流Iwが通電する。
【0026】
トーチ2側に設けられた手元操作スイッチが操作された場合、トーチ2は溶接電源1へ出力指示信号を出力する。出力指示信号は、図示しない制御通信線を介して溶接電源1に入力され、制御回路11bは、当該出力指示信号をトリガにして、電源回路11aに溶接電圧Vw及び溶接電流Iwの出力を開始させる。
【0027】
表示部13は、推定されたブローホール発生リスクを表示する表示パネルである。表示パネルは液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等である。また、表示部13は、検出された溶接電流Iw、溶接電圧Vw等を表示する。
【0028】
図2は、実施形態1に係るアーク溶接方法の処理手順を示すフローチャートである。まず、溶接により接合されるべき一対の母材4をアーク溶接装置に配置し、溶接条件等、各種設定を行う(ステップS111)。各種設定が行われた後、溶接電源1は、溶接電流Iwの出力開始条件を満たすか否かを判定する(ステップS112)。具体的には、溶接電源1は、溶接の出力指示信号が入力されたか否かを判定する。出力指示信号が入力されておらず、溶接電流Iwの出力開始条件を満たさないと判定した場合(ステップS112:NO)、溶接電源1は、出力指示信号の入力待ち状態で待機する。
【0029】
溶接電流Iwの出力開始条件を満たすと判定した場合(ステップS112:YES)、溶接電源1の制御回路11bは、設定された溶接条件に基づいて、溶接ワイヤ5の送給、溶接電流Iw及び溶接電圧Vwの出力を制御することによって溶接制御を行う(ステップS113)。
【0030】
次いで、制御回路11bは、電圧検出部11c及び電流検出部11dによって検出された溶接電圧Vw及び溶接電流Iwに基づいて、溶接中の短絡頻度を検出する(ステップS114)。例えば、制御回路11bは、溶接電圧Vwが10[V]未満となる電圧降下があった場合、短絡が発生したと判定し、短絡回数として計数する。制御回路11bは、数十μ秒~1m秒の微小短絡も、短絡回数として計数する。制御回路11bは、単位時間、例えば1秒当たりの短絡回数を、短絡頻度として算出する。
そして、制御回路11bは、検出された短絡頻度に基づいて、ブローホールの発生リスクを推定し(ステップS115)、推定されたブローホールの発生リスクを表示部13に表示する(ステップS116)。制御回路11bは、ブローホールの発生リスクが高い場合に、ブローホールの発生リスクが高い旨を表示部13に表示し、ブローホールの発生リスクが低い場合、平常通り、溶接電流Iw、溶接電圧Vwを表示するように構成してもよい。
【0031】
ここでは、制御回路11bは、周期的に逐次短絡頻度を算出し、推定されたブローホールの発生リスクをリアルタイムで表示するものとする。具体的なブローホール発生リスクの推定方法は以下の通りである。
【0032】
短絡頻度がA回/C秒(第1所定値)未満の場合には、短絡頻度が十分小さくアルゴンを巻き込みにくいため、制御回路11bは、ブローホールの発生リスクは小さいと判定する。
【0033】
短絡頻度がB回/C秒(第2所定値)以上の場合には(B>A)、短絡頻度が大きく、溶融金属の振動によりアルゴンの外部放出が促進されるため、ブローホールの発生リスクは小さいと判定する。
【0034】
短絡頻度がA回/C秒以上、B回/1秒未満の場合には、溶融金属に巻き込まれたアルゴンが残存しやすく、ブローホールの発生リスクが大きいと判定する。
【0035】
ブローホール発生リスクを推定するための変数A、B、Cは任意に設定できる。溶接電源1は、溶接作業者の操作を受け付ける操作パネルを備えており、溶接電源1は、操作パネルを介して変数A、B及びCの設定を受け付ける。適正値は、例えばA=3、B=30、C=1である。制御回路11bが変数A、B、Cを予め記憶しておくように構成してもよい。
【0036】
ステップS116の処理を終えた制御回路11bは、溶接電流Iwの出力を停止するか否かを判定する(ステップS117)。具体的には、溶接電源1は、出力指示信号の入力が継続しているか否かを判定する。出力指示信号の入力が継続しており、溶接電流Iwの出力を停止しないと判定した場合(ステップS117:NO)、制御回路11bは、処理をステップS113へ戻し、溶接電流Iwの出力を続ける。溶接電流Iwの出力を停止すると判定した場合(ステップS117:YES)、制御回路11bは、処理をステップS112へ戻す。
【0037】
なお、図2に示す例では、リアルタイムでブローホールの発生リスクを推定し、表示する例を説明したが、溶接電源1は、溶接開始から終了までの短絡頻度の平均値を算出してもよい。
【0038】
(実施例)
平均溶接電流300A~600A、ワイヤ突出し長さ20mm、溶接速度30cm/分の条件で、母材4としてステンレス鋼板SUS304、溶接ワイヤ5としてステンレスソリッドワイヤ(ワイヤ径φ1.6mm)、シールドガスとして98%アルゴン-2%酸素の混合ガスを用いて溶接を行う。A=3、B=30、C=1として本実施形態に係るブローホールの発生リスク推定方法を適用することで、ブローホールが発生しやすい溶接条件と発生しにくい溶接条件を効率的に判別することができる。
【0039】
以上の通り、本実施形態1によれば、ブローホールの発生リスクを簡易に推定して溶接電源1の表示部13に表示することができる。
【0040】
具体的には、短絡頻度がA回/C秒(第1所定値)未満である場合、又はB回/C秒(第2所定値)以上である場合、ブローホールの発生リスクが低いと判定することができる。
また、短絡頻度がA回/C秒(第1所定値)以上、B回/C秒(第2所定値)未満である場合、ブローホールの発生リスクが高いと判定することができる。
【0041】
また、溶接電源1は、ブローホールの発生リスクをリアルタイムで推定し、推定結果を表示部13に表示することができる。
【0042】
(実施形態2)
実施形態2に係るアーク溶接装置及びアーク溶接方法は、埋もれアーク溶接において、ブローホール発生リスクに応じて電流振幅制御を自動実行する点が実施形態1と異なる。アーク溶接装置のその他の構成は、実施形態1に係るアーク溶接装置と同様であるため、同様の箇所には同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0043】
図3は、実施形態2に係るアーク溶接方法の処理手順を示すフローチャートである。実施形態1のステップS111~ステップS113と同様、各種設定を行い、溶接電流Iwの出力開始条件を満たす場合、溶接電源1の制御回路11bは、設定された溶接条件に基づいて、溶接制御を行う(ステップS211~ステップS213)。ただし、実施形態2に係る溶接電源1は、埋もれアーク溶接条件に従って、溶接制御を行う。
【0044】
図4は、埋もれアークの溶接条件を示す模式図である。図4に示すグラフの横軸は溶接電流Iw、縦軸は溶接電圧Vwを示している。埋もれアーク溶接を実現する溶接条件は、溶接電流Iwの平均電流が300A以上、好ましくは300A以上650A以下である。溶接電流Iwが300A未満になると、アーク圧力が弱くなり、溶融金属を押し下げることができず、埋もれアーク溶接を維持することができなくなる。
【0045】
溶接ワイヤ5に大電流を供給すると、図4に示すように、母材4に凹状の溶融部分4aが形成され、溶接ワイヤ5の先端部が溶融部分4aによって囲まれた空間に進入する。以下、凹状の溶融部分4aによって囲まれる空間を埋もれ空間と呼び、埋もれ空間に進入した溶接ワイヤ5と、母材4又は溶融部分4aとの間に発生するアークを、適宜、埋もれアークと呼ぶ。
【0046】
溶接電圧Vw(アーク電圧)は、溶接条件等によって変化する上限電圧が存在する。上限電圧は、埋もれアークを維持できる上限の電圧であり、その電圧を超えると、埋もれアーク溶接でなく、通常の直流溶接となる臨界電圧である。上限電圧は、溶接電流Iwの増加関数であり、溶接電流Iwが大きくなる程、高くなる。この上限電圧よりも約4V低い電圧が下限電圧である。下限電圧より低い電圧では、溶接ワイヤ5の先端位置の下降に伴い、溶接ワイヤ5と溶融池との短絡が頻発し、溶接安定性も低下する。
【0047】
なお、上限電圧及び下限電圧は、溶接ワイヤ5の種類、ワイヤ径、溶接電流Iw、ワイヤ突出し長さ、開先形状、溶接速度、溶接電源二次側の負荷状態等の様々な影響を受けて変化するが、溶接電流Iwと溶接電圧Vwの関係は概ね図4に示した通りである。
【0048】
ステップS213に次いで、制御回路11bは、電圧検出部11c及び電流検出部11dによって検出された溶接電圧Vw及び溶接電流Iwに基づいて、溶接中の短絡頻度を検出する(ステップS214)。そして、制御回路11bは、検出された短絡頻度に基づいて、ブローホールの発生リスクを推定し(ステップS215)、ブローホールの発生リスクが高いか否かを判定する(ステップS216)。
【0049】
ブローホールの発生リスクが高いと判定した場合(ステップS216:YES)、制御回路11bは、ブローホールの発生を抑制する制御を行う(ステップS217)。具体的には、制御回路11bは、溶接電流Iwを周期的に変動させる電流振幅制御を行う。
【0050】
図5は、ブローホールを抑制する電流制御方法を示すグラフである。図5下図に示すように、ブローホールの発生リスクが高い場合、電流振幅制御が行われる。図5上図は、電流振幅制御を概念的に示すグラフである。制御回路11bは、図5上図に示すように、溶接電流Iwの基準電流を350A以上、電流変動幅を50A以上150A以下、周波数1Hz以上5Hz以下の条件で、溶接電流Iwを周期的に変動させる。かかる電流振幅制御により、ブローホールの発生を抑制することができる。
【0051】
ブローホールの発生リスクが低いと判定した場合(ステップS216:NO)、制御回路11bは、ブローホールの発生を抑制する制御を行わない。以下の処理は実施形態1と同様である。
【0052】
以上の通り、本実施形態2によれば、ブローホールの発生を推定し、ブローホールの発生リスクに応じて、ブローホールの発生を抑制する電流振幅制御を実行することができる。従って、極力溶接条件を変更することなく、ブローホールの発生を抑えることができる。
【0053】
本実施形態2では、埋もれアーク溶接において、ブローホール発生リスクが高い場合、溶接電流Iwを変動させる例を説明したが、他のアーク溶接においてもブローホール発生リスクが高い場合、ブローホールの発生が抑制されるように溶接条件を変更するように構成してもよい。
例えば、非埋もれアークのパルス溶接においては、ブローホール発生リスクが高い場合、制御回路11bは、アーク電圧を大きくして十分なアーク長を確保し、短絡を抑制するように構成するとよい。
また、非埋もれアークの直流溶接においては、ブローホール発生リスクが高い場合、制御回路11bは、アーク電圧を十分に小さくして、高い頻度で短絡とアーク再点弧を繰り返すことにより、ブローホールを抑制するように構成するとよい。
【0054】
本開示の課題を解決するための手段を付記する。
(付記1)
アルゴンを含有するシールドガスを用いる消耗電極式のアーク溶接装置であって、
溶接電流及び溶接電圧の出力を制御する制御部と、
溶接中の短絡を検出するセンサと
を備え、
前記制御部は、
前記センサにて検出された短絡の頻度に基づいて、ブローホールの発生リスクを推定する
アーク溶接装置。
(付記2)
前記制御部は、
推定結果を表示部に表示し、又は推定結果に基づいて溶接条件を変更する
付記1に記載のアーク溶接装置。
(付記3)
溶接中、リアルタイムで推定結果を表示部に表示し、又は推定結果に基づいて溶接条件を変更する
付記1又は付記2に記載のアーク溶接装置。
(付記4)
前記制御部は、
短絡の頻度が第1所定値未満である場合、ブローホールの発生リスクが低いと判定し、
短絡の頻度が第1所定値より大きな第2所定値以上である場合、ブローホールの発生リスクが低いと判定し、
短絡の頻度が第1所定値以上、第2所定値未満である場合、ブローホールの発生リスクが高いと判定する
付記1から付記3のいずれか1項に記載のアーク溶接装置。
(付記5)
前記制御部は、
溶接ワイヤに平均電流300A以上の溶接電流を供給することによって、母材に形成された凹状の溶融部分によって囲まれる空間に前記溶接ワイヤの先端部を進入させて前記母材を溶接する溶接条件にて、溶接電流及び溶接電圧の出力を制御し、
ブローホールの発生リスクが高い場合、50A以上150A以下の電流変動幅、1Hz以上5Hz以下の周期で溶接電流を周期的に変動させる
付記1から付記4のいずれか1項に記載のアーク溶接装置。
【符号の説明】
【0055】
1:溶接電源、2:トーチ、3:ワイヤ送給装置、4:母材、5:溶接ワイヤ、11:電源部、11a:電源回路、11b:制御回路、11c:電圧検出部、11d:電流検出部、12:送給速度制御部、13:表示部
図1
図2
図3
図4
図5