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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066125
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】ダンパー装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/023 20060101AFI20240508BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20240508BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20240508BHJP
   F16F 9/10 20060101ALI20240508BHJP
   F16F 7/08 20060101ALI20240508BHJP
   F16F 7/00 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
F16F15/023 A
E04H9/02 331Z
E04H9/02 351
F16F15/02 E
F16F9/10
F16F7/08
F16F7/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175462
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】牛坂 伸也
(72)【発明者】
【氏名】森川 和彦
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 充
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直人
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J066
3J069
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB10
2E139BA12
2E139BA19
2E139BA46
2E139BC08
2E139BD35
2E139BD46
2E139CA02
2E139CC02
3J048AA06
3J048AC01
3J048AC04
3J048BE03
3J048BE12
3J048DA04
3J048EA38
3J066AA26
3J066BB01
3J066CA06
3J069AA50
3J069EE01
3J069EE54
(57)【要約】
【課題】極大地震に対して構造物に設けられた免震層を健全に保つことができるダンパー装置を提供する。
【解決手段】上部構造体側と下部構造体側とを接続する伸縮自在なオイルダンパーと、オイルダンパーと並列に設置され、上部構造体側と下部構造体側とを接続する少なくとも1つのジャッキ装置と、を備え、ジャッキ装置は、オイルダンパーに並列に配置された本体部と、本体部の軸方向に沿って本体部を貫通して移動自在に設けられたピストンロッドと、ピストンロッドに対して軸方向に沿って移動自在に設けられたタイロッドと、を備え、上部構造体の下部構造体側に対する移動時にオイルダンパーが第1方向へ伸長する際において、タイロッドは、軸方向に沿った第1範囲において抵抗力を生じずに移動し、ピストンロッドは、第1範囲を超えた第2範囲において抵抗力を生じて移動する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造体側と下部構造体側とを接続する伸縮自在なオイルダンパーと、
前記オイルダンパーと並列に設置され、前記上部構造体側と前記下部構造体側とを接続する少なくとも1つのジャッキ装置と、を備え、
前記ジャッキ装置は、
前記オイルダンパーに並列に配置された本体部と、
前記本体部の軸方向に沿って前記本体部を貫通して移動自在に設けられたピストンロッドと、
前記ピストンロッドに対して前記軸方向に沿って移動自在に設けられたタイロッドと、を備え、
前記上部構造体の前記下部構造体側に対する移動時に前記オイルダンパーが第1方向へ伸長する際において、
前記タイロッドは、前記軸方向に沿った第1範囲において抵抗力を生じずに移動し、
前記ピストンロッドは、前記第1範囲を超えた第2範囲において抵抗力を生じて移動することを特徴とする、
ダンパー装置。
【請求項2】
前記ジャッキ装置は、
前記上部構造体側或いは前記下部構造体側のいずれか一方側に設けられ、前記タイロッドの一端側を前記軸方向に沿って移動自在に保持する第1保持部と、
前記上部構造体側或いは前記下部構造体側のいずれか他方側に設けられ、前記本体部を保持する第2保持部と、を備え、
前記上部構造体の前記下部構造体側に対する移動時に前記オイルダンパーが前記第1方向へ伸長する際において、
前記ピストンロッドは、前記第1範囲において前記タイロッドに対して相対的に前記第1方向に移動し、
前記本体部は、前記第1範囲を超えた第2範囲において前記ピストンロッドに対して相対的に前記第1方向に移動し、
前記タイロッドは、前記第2範囲を超えた第3範囲において前記第1保持部に対し相対的に前記第1方向に伸長する、
請求項1に記載のダンパー装置。
【請求項3】
前記上部構造体の前記下部構造体側に対する移動時に前記オイルダンパーが第2方向へ短縮する際において、
前記ピストンロッドは、前記第1範囲において前記タイロッドに対して相対的に前記第2方向に移動し、
前記本体部は、前記第1範囲を超えた前記第2範囲において前記ピストンロッドに対して相対的に前記第2方向に移動する、
請求項2に記載のダンパー装置。
【請求項4】
前記ジャッキ装置において、
前記本体部は、第1抵抗力を生じながら前記ピストンロッドを移動させ、
前記第1保持部は、前記タイロッドの一端側を保持し、前記第1抵抗力に比して大きい第2抵抗力を生じながら前記タイロッドを伸長させる、
請求項2又は3に記載のダンパー装置。
【請求項5】
前記ジャッキ装置において、
前記本体部は、油圧に基づいて前記第1抵抗力を生じさせる、
請求項4に記載のダンパー装置。
【請求項6】
前記ジャッキ装置において、
前記本体部は、摩擦力に基づいて前記第1抵抗力を生じさせる、
請求項4に記載のダンパー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンパー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地震時等において揺れを免震する免震建物が知られている。免震建物は、例えば、建物を支持すると共に揺れを免震する免震支承と、建物に生じる揺れを減衰するダンパー装置とを備えている。免震建物において、免震支承に設けられた支承材や、ダンパー装置に設けられたダンパー部材は、免震建物の変位が増大する際に、装置として限界となる限界変形を生じる場合がある。
【0003】
建物は、一般的に耐震設計において設定された地震動レベル1と地震動レベル2のうち、地震動レベル2に対する性能保証変形以下の変形を生じるように設計される。また、建物は、案件に応じて地震動レベル2の1.5倍程度の地震に対する限界変形以下の変形を生じるように余裕を持たせて設計される。その他、建物は、建物と基礎との間に設けられる免震クリアランス以下の変位を生じるように設計される。
【0004】
近年、2016年に発生した熊本地震のように、地震動レベル2の1.5倍を超える極大地震が観測されている。そのため、建物には、設計段階において想定された外力を超える外力が作用して、免震装置の限界変形を超える変形を生じる可能性がある。そのため、建物の設計には、想定を超えるような地震動に対し、免震層を健全に保つことができるよう限界変形や免震クリアランス以下に変形を抑えるフェールセーフ装置を導入することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-3090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
建物に生じる振動を抑制するためのダンパー装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、従来の技術においては、極大地震に対するフェールセーフ機能についてはまだ提案されていなかった。
【0007】
本発明は、極大地震に対して構造物に設けられた免震層を健全に保つことができるダンパー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達するために、本発明は、上部構造体側と下部構造体側とを接続する伸縮自在なオイルダンパーと、前記オイルダンパーと並列に設置され、前記上部構造体側と前記下部構造体側とを接続する少なくとも1つのジャッキ装置と、を備え、前記ジャッキ装置は、前記オイルダンパーに並列に配置された本体部と、前記本体部の軸方向に沿って前記本体部を貫通して移動自在に設けられたピストンロッドと、を備え、前記上部構造体の前記下部構造体側に対する移動時に前記オイルダンパーが第1方向へ伸長する際において、前記タイロッドは、前記軸方向に沿った第1範囲において抵抗力を生じずに移動し、前記ピストンロッドは、前記第1範囲を超えた第2範囲において抵抗力を生じて移動することを特徴とする、ダンパー装置である。
【0009】
本発明によれば、オイルダンパーに並置されたジャッキ装置がオイルダンパーと共にストロークすることにより、免震における抵抗力を増大することができる。本発明によれば、ジャッキ装置が両方向にストロークするため、伸長及び短縮方向に対する装置を個別に設置する必要がなく、装置構成を簡略化することができる。
【0010】
また、本発明の前記ジャッキ装置は、前記上部構造体側或いは前記下部構造体側のいずれか一方側に設けられ、前記タイロッドの一端側を前記軸方向に沿って移動自在に保持する第1保持部と、前記上部構造体側或いは前記下部構造体側のいずれか他方側に設けられ、前記本体部を保持する第2保持部と、を備え、前記上部構造体の前記下部構造体側に対する移動時に前記オイルダンパーが第1方向へ伸長する際において、前記ピストンロッドは、第1範囲において前記タイロッドに対して相対的に前記第1方向に移動し、前記本体部は、前記第1範囲を超えた第2範囲において前記ピストンロッドに対して相対的に前記第1方向に移動し、前記タイロッドは、前記第2範囲を超えた第3範囲において前記第1保持部に対し相対的に前記第1方向に移動するように構成されていてもよい。
【0011】
本発明によれば、第1方向においてジャッキ装置における減衰と、タイロッドの伸長に基づく減衰を発生させることができる。
【0012】
また、本発明は、前記上部構造体の前記下部構造体側に対する移動時に前記オイルダンパーが第2方向へ短縮する際において、前記ピストンロッドは、第1範囲において前記タイロッドに対して相対的に前記第2方向に移動し、前記本体部は、前記第1範囲を超えた第2範囲において前記ピストンロッドに対して相対的に前記第2方向に移動するように構成されていてもよい。
【0013】
本発明によれば、第2方向においてもジャッキ装置における減衰を発生させることができる。
【0014】
また、本発明は、前記ジャッキ装置において、前記本体部は、第1抵抗力を生じながら前記ピストンロッドを移動させ、前記第1保持部は、前記タイロッドの一端側を保持し、前記第1抵抗力に比して大きい第2抵抗力を生じながら前記タイロッドを伸長させるように構成されていてもよい。
【0015】
本発明によれば、ジャッキ装置における第1抵抗力と、第1保持部における第2抵抗力とに基づいて免震効果を増大させることができる。
【0016】
また、本発明は、前記ジャッキ装置において、前記本体部は、油圧に基づいて前記第1抵抗力を生じさせてもよい。
【0017】
本発明によれば、ジャッキ装置に油圧ジャッキを用いることにより、ジャッキ装置が有するオイルバッファの抵抗力を制震のために利用することができる。
【0018】
また、本発明は、前記ジャッキ装置において、前記本体部は、摩擦力に基づいて前記第1抵抗力を生じさせてもよい。
【0019】
本発明によれば、ジャッキ装置を摩擦材により構成することにより、装置構成を簡略化することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、極大地震に対して構造物に設けられた免震層を健全に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係るダンパー装置が適用された建物の構成を示す断面図である。
図2】ダンパー装置の構成を示す平面図である。
図3】ダンパー装置の構成を示す側面図である。
図4】ジャッキ装置の構成を示す断面図である。
図5】ダンパー装置の動作を示す図である。
図6】ジャッキ装置に生じる抵抗力を示す図である。
図7】ダンパー装置の所定の地震動に対する性能を示す図である。
図8】ダンパー装置の他の地震動に対する性能を示す図である。
図9】比較例に係るダンパー装置の構成を示す図である。
図10】比較例に係るジャッキ装置の抵抗力を示す図である。
図11】比較例に係るダンパー装置の所定の地震動に対する性能を示す図である。
図12】比較例に係るダンパー装置の他の地震動に対する性能を示す図である。
図13】変形例に係るジャッキ装置の構成を示す図である。
図14】変形例に係るジャッキ装置の構成を示す断面図である。
図15】変形例に係るダンパー装置の構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係るダンパー装置の実施形態について説明する。
【0023】
図1に示されるように、ダンパー装置1は、揺れを免震する免震支承Mの上層側に構築された建物B(上部構造体)と基礎Eに設けられた床面E1(下部構造体)側を接続している。ダンパー装置1は、建物Bに生じる揺れを減衰するように構成されている。免震支承M(免震層)は、例えば、建物Bを支持する複数の脚部M1と、脚部M1の中間層に設けられた免震材M2とを備えている。免震材M2は、例えば、板状のゴム板を積層して形成されている。ダンパー装置1は、例えば、床面E1側から入力される地震動や建物B側から入力される風に基づく振動を減衰させる。ダンパー装置1は、例えば、基礎Eと建物Bとの間に所定距離に設定された免震クリアランスCに比して小さい距離において機能するように構成されている。
【0024】
図2及び図3に示されるように、ダンパー装置1は、建物B側と床面E1側を接続するオイルダンパー2と、オイルダンパー2と並列に設置された少なくとも1つのジャッキ装置10とを備えている。本実施形態においては、ダンパー装置1は、オイルダンパー2と、オイルダンパー2の両側に並置された2個のジャッキ装置10を備えている。オイルダンパー2の一端(図の-X方向の端部)側は、例えば、建物B側或いは、床面E1側のうちいずれか一方側に連結されている。本実施形態においては、オイルダンパー2の一端側は、床面E1側に接続されている。オイルダンパー2の一端側は、床面E1に設けられた台座G1に連結されている。台座G1は、床面E1から上方に突出して設けられている。
【0025】
台座G1には、オイルダンパー2の一端側を回転可能に支持するクレビスG2が設けられている。クレビスG2は、上下方向(図のZ軸方向)に沿って対向して設けられた一対の板状体G3を備えている。一対の板状体G3は、台座G1に固定されている。一対の板状体G3は、オイルダンパー2の一端側を上下方向に挟持して支持している。オイルダンパー2の一端側は、軸ピンP1を介してクレビスG2に連結されている。軸ピンP1は、上下方向に沿ってクレビスG2に挿入されている。軸ピンP1は、オイルダンパー2の一端側を水平面(図のXY平面)において回転可能に支持している。
【0026】
オイルダンパー2の他端(図の+X方向の端部)側は、例えば、建物B側或いは、床面E1側のうちいずれか他方側に連結されている。本実施形態においては、オイルダンパー2の他端側は、建物B側に接続されている。オイルダンパー2の他端側は、建物Bの下面B1に設けられた支持構造H1に連結されている。支持構造H1は、建物Bの下面B1から下方に突出して設けられている。
【0027】
支持構造H1には、オイルダンパー2の他端側を回転可能に支持するクレビスH2が設けられている。クレビスH2は、上下方向(図のZ軸方向)に沿って対向して設けられた一対の板状体H3を備えている。一対の板状体H3は、支持構造H1に固定されている。一対の板状体H3は、オイルダンパー2の他端側を上下方向に挟持して支持している。オイルダンパー2の他端側は、軸ピンP2を介してクレビスH2に連結されている。軸ピンP2は、上下方向に沿ってクレビスH2に挿入されている。軸ピンP2は、オイルダンパー2の他端側を水平面(図のXY平面)において回転可能に支持している。
【0028】
オイルダンパー2は、筒状に形成された本体部3と、本体部3の軸線方向に沿って伸縮自在なピストンロッド6とを備えている。本体部3の内部空間には、シリンダ(不図示)が形成されている。シリンダオイルが充填されている。本体部3の一端側には、蓋部3Aが設けられている。蓋部3Aの中心には、貫通孔が設けられており、ピストンロッド6が突出している。
【0029】
ピストンロッド6は、本体部3に対して伸縮自在に支持されている。ピストンロッド6の一端側には、例えば、接続部材6Aが設けられており、クレビスG2を介して台座G1に連結されている。接続部材6Aは、例えば、ボールジョイントである。ピストンロッド6の他端側には、ピストン(不図示)が形成されている。ピストンは、本体部3の内部空間を軸方向に沿って移動する。ピストンは、本体部3の内部空間を第1空間(不図示)と第2空間(不図示)とに仕切っている。ピストンには、第1空間と第2空間とを連通する小さな貫通孔であるオリフィス(不図示)が形成されている。
【0030】
本体部3の内部空間に充填されたオイルは、ピストンの移動時においてオリフィスを通じて第1空間と第2空間との間を流通する際に抵抗を生じ、オイルダンパー2の抵抗力を発生させる。本体部3の他端側は、蓋部3Bにより閉塞されている。蓋部3Bには、例えば、接続部材3Cが設けられており、クレビスH2を介して支持構造H1に連結されている。接続部材3Cは、例えば、ボールジョイントである。上記構成により、オイルダンパー2は、建物Bと床面E1とを接続し、建物Bと床面E1との間に生じる振動を減衰する。オイルダンパー2の両側には、建物Bと床面E1との位置を調整すると共に、オイルダンパー2の抵抗力を増強する一対のジャッキ装置10が並置されている。
【0031】
ジャッキ装置10は、建物Bと床面E1とを接続している。ジャッキ装置10は、少なくとも1つ設けられている。ジャッキ装置10は、2つ以上設けられていてもよい。ジャッキ装置10は、伸縮自在に構成されている。ジャッキ装置10は、オイルダンパー2に並列に配置された本体部11を備えている。本体部11は、円筒形に形成されている。本体部11は、支持構造H1に支持されている。本体部11は、建物B側或いは床面E1側のいずれかに設けられた第2保持部11Kにより支持されている。本実施形態においては、本体部11は、支持構造H1に設けられた第2保持部11Kを介して建物B側に支持されている。本体部11の軸方向における中心部は、第2保持部11Kにより水平面において回転可能に支持されている。
【0032】
第2保持部11Kは、本体部11を支持構造H1に回転可能に支持するトラニオンに形成されている。第2保持部11Kは、例えば、本体部11の外径に比して若干大きい外径の貫通孔が形成されている。貫通孔には、本体部11が挿入されると共に、固定されている。第2保持部11Kは、軸ピンP4により平面視して回転可能に支持構造H1に支持されている。本体部11の両端は、一対の蓋部11Aにより閉塞されている。本体部3の内部には、オイルが封入されている。一対の蓋部11Aには、貫通孔11Hが形成されている。貫通孔11Hには、ピストンロッド12が挿入されている。これにより、本体部11には、軸方向に沿ってピストンロッド12が貫通して設けられている。
【0033】
ピストンロッド12は、軸方向において本体部11の全長に比して長い全長に形成されている。ピストンロッド12は、軸方向に沿って本体部11の一端側と他端側とからそれぞれ突出している。ピストンロッド12は、本体部11の内部においてピストン12P(図4参照)を備えている。ピストンロッド12は、本体部11の内部に封入されたオイルの粘性により移動時に第1抵抗力が生じる。本体部11の内部構成と本体部11の内部におけるピストンロッド12の構成については後述する。ピストンロッド12は、本体部11を貫通して移動自在に設けられている。ピストンロッド12は、円柱状に形成されている。
【0034】
ピストンロッド12は、一端側が本体部11に対して伸長する際に、他端側が本体部11に対して短縮する。ピストンロッド12の一端側及び他端側には、ピストンロッド12の本体部11に対する軸方向への移動を規制するストッパー12Sが設けられている。ストッパー12Sは、径方向においてピストンロッド12の外径に比して大きい径に形成されている。ピストンロッド12は、他端側が本体部11に対して伸長する際に、一端側が本体部11に対して短縮する。ピストンロッド12には、軸方向に沿って貫通孔12Hが設けられている。貫通孔12Hは、ピストンロッド12の軸線と同心に形成されている。
【0035】
貫通孔12Hには、棒状に形成されたタイロッド14が挿入されている。タイロッド14は、ピストンロッド12に対して軸方向に沿って移動自在に設けられている。タイロッド14は、ピストンロッド12に対する移動時に抵抗力を生じずに移動可能である。タイロッド14は、軸方向においてピストンロッド12の全長に比して長い全長に形成されている。
【0036】
タイロッド14の一端側は、軸ピンP5を介して台座G1に回転可能に連結されている。タイロッド14の一端側は、第1保持部15に挿入されている。第1保持部15は、台座G1を介して床面E1側に回転可能に連結されている。第1保持部15の一端側には、接続部材15Aが設けられている。第1保持部15は、例えば、円筒状に形成されている。第1保持部15の他端側は、開口している。タイロッド14の一端側は、第1保持部15の他端側から挿入される。
【0037】
タイロッド14は、引張する方向に力が作用した際に伸長するように塑性変形する。このとき、タイロッド14を伸長させるように作用する荷重を降伏荷重Ft(第2抵抗力)とする。タイロッド14は、引張側に降伏荷重Ft以上の荷重が作用すると、伸長するように塑性変形し、第2抵抗力を生じる。
【0038】
台座G1には、第1保持部15及びタイロッド14の一端側を回転可能に支持するクレビスG6が設けられている。クレビスG6は、上下方向(図のZ軸方向)に沿って対向して設けられた一対の板状体G7を備えている。一対の板状体G7は、台座G1に固定されている。一対の板状体G7は、第1保持部15及びタイロッド14の一端側を回転可能に支持している。第1保持部15及びタイロッド14の一端側は、軸ピンP5を介してクレビスG6に連結されている。軸ピンP5は、上下方向に沿ってクレビスG6に挿入されている。軸ピンP5は、第1保持部15の一端側に設けられた接続部材15Aを水平面(図のXY平面)において回転可能に支持している。タイロッド14の他端側には、タイロッド14の移動を規制するストッパー14Aが設けられている。
【0039】
図4に示されるように、ジャッキ装置10は、本体部11の内部においてピストンロッド12にピストン12Pが設けられている。ピストン12Pは、例えば、径方向において円形断面に形成されている。ピストン12Pは、本体部11の内部空間の径に比して若干小さい径に形成されている。ピストン12Pは、ピストンロッド12の軸方向における中間位置に設けられている。ピストン12Pは、ピストンロッド12を第1ピストンロッド12Aと第2ピストンロッド12Bとに仕切っている。第1ピストンロッド12Aの一端側は、台座G1側である。第2ピストンロッド12Bは、支持構造H1側である。
【0040】
ピストン12Pは、本体部11の内部空間を第1ピストンロッド12A側の第1空間11Cと第2ピストンロッド12B側の第2空間11Dとに仕切っている。第1空間11Cと第2空間11Dとには、オイル(作動油)が封入されている。ピストン12Pは、第1空間11Cと第2空間11Dとに封入されるオイルの比率に基づいて、本体部11の内部において軸方向における位置に停止し、通常状態において静的なジャッキ押力Fjを生じさせる。
【0041】
ジャッキ装置10は、第1空間11Cへオイルを注入し、或いはオイルを流出させる第1バルブ11Eが設けられている。ジャッキ装置10は、第2空間11Dへオイルを注入し、或いはオイルを流出させる第2バルブ11Fが設けられている。ジャッキ装置10において、第1ピストンロッド12Aを伸長させたい場合には、第2バルブ11Fからオイルを注入すると共に、第1バルブ11Eからオイルを流出させ、ピストン12Pを第2方向(-X方向)に移動させる。
【0042】
ジャッキ装置10において、第2ピストンロッド12Bを伸長させたい場合には、第1バルブ11Eからオイルを注入すると共に、第2バルブ11Fからオイルを流出させ、ピストン12Pを第2方向(+X方向)に移動させる。上記構成により、ジャッキ装置10は、台座G1と支持構造H1との間の距離を調整し、建物Bと基礎Eとの間の免震クリアランスCの距離を調整することができる。本体部11には、第1空間11Cと第2空間11Dとをバイパスする第1バイパス流路11Mと第2バイパス流路11Nとが設けられている。第1バイパス流路11Mには、オイルを第1空間11Cから第2空間11Dへ一方向に流通させる第1リリーフ弁11Qが設けられている。第2バイパス流路11Nには、オイルを第2空間11Dから第1空間11Cへ一方向に流通させる第2リリーフ弁11Rが設けられている。
【0043】
第1リリーフ弁11Qは、ピストンロッド12に第2方向(-X方向)に対して、ジャッキ装置10の静的なジャッキ押力Fjに比して大きい荷重が加わった場合、弁を解放し第1バイパス流路11Mを介してオイルを第1空間11Cから第2空間11Dへ一方向に流通させる。このとき、ジャッキ装置10には、オイルの流通における粘性減衰抵抗に基づいて第1抵抗力が発生する。このとき、第1リリーフ弁11Qを解放させるように作用する荷重をリリーフ荷重Frとする。
【0044】
第2リリーフ弁11Rは、ピストンロッド12に第1方向(+X方向)に対して、ジャッキ装置10の静的なジャッキ押力Fjに比して大きい荷重が加わった場合、弁を解放し第2バイパス流路11Nを介してオイルを第2空間11Dから第1空間11Cへ一方向に流通させる。このとき、ジャッキ装置10には、オイルの流通における粘性抵抗に基づいて第1抵抗力が発生する。このとき、第2リリーフ弁11Rを解放させるように作用する荷重をリリーフ荷重Frとする。
【0045】
第1リリーフ弁11Q及び第2リリーフ弁11Rのリリーフ荷重Fr(第1抵抗力)は、静的なジャッキ押力Fjに比して大きく、第1保持部15がタイロッド14を伸長させる降伏荷重Ft(第2抵抗力)に比して以下の式(1)の関係となるように小さく設定される。
Fj<Fr<Ft (1)
【0046】
上記構成により、上部構造体の下部構造体側に対する移動時において、オイルダンパー2が第1方向へ伸長する際において、タイロッド14は、軸方向に沿った第1範囲において抵抗力を生じずに移動し、ピストンロッド12は、第1範囲を超えた第2範囲において抵抗力を生じて移動する。ジャッキ装置10は、建物Bの移動時においてタイロッド14の突出量の第1範囲内において抵抗力を生じない。ジャッキ装置10は、建物Bの移動時においてタイロッド14の突出量の第1範囲を超え、ピストンロッド12の突出量の第2範囲内において第1抵抗力を生じながら移動する。ジャッキ装置10は、建物Bの移動時においてピストンロッド12の突出量の第2範囲を超えた場合、第1保持部15がタイロッド14を伸長させる第3範囲内において第2抵抗力を生じながら移動する。
【0047】
図5及び図6を参照しつつ、建物Bが床面E1に対して600mm程度の振幅が生じる際のジャッキ装置10の動作について説明する。図5には、ダンパー装置1の動作が示されている。図6には、建物Bに1往復する移動が生じた際において、ジャッキ装置10に生じる抵抗が示されている。
【0048】
図5(1)に示されるように、通常時のダンパー装置1において、第2ピストンロッド12Bの突出量(第2範囲)は、200mm程度である。また、第2ピストンロッド12Bから突出したタイロッド14の初期の突出量(第1範囲)は、300mm程度である。これに対して、第1ピストンロッド12Aの突出は、600mm程度であり、第1ピストンロッド12Aから突出するタイロッド14の突出量は、300mm程度である。上記数値は一例であり、適宜変更されてもよい。
【0049】
図5(2)に示されるように、地震発生時に支持構造H1(建物B)が相対的に台座G1(床面E1)に対して第1方向(+X方向)に300mm移動した場合、ダンパー装置1のジャッキ装置10において、第2ピストンロッド12Bは、第2ピストンロッド12Bから突出するタイロッド14の突出量が0となるようにタイロッド14に対して第1範囲を第1方向に移動する。これに対して、第1ピストンロッド12A側から突出するタイロッド14の突出量は、600mmとなる。このとき、ジャッキ装置10において、抵抗力は生じない(図6(1)から(2)参照)。但し、ダンパー装置1全体においては、オイルダンパー2の減衰抵抗が生じている。
【0050】
図5(3)に示されるように、支持構造H1が相対的に台座G1に対して第1方向(+X方向)に更に200mm移動した場合(全体で500mm移動)、ジャッキ装置10の本体部11は、第2ピストンロッド12Bの突出量が0となるように第1方向に移動する。本体部11は、第1範囲を超えた第2範囲においてピストンロッド12に対して相対的に第1方向に移動する。このとき、ジャッキ装置10には、第2ピストンロッド12Bの短縮に基づいて第1抵抗力を生じながら移動する(図6(2)から(3)参照)。これに対して、第1ピストンロッド12Aの突出量は、800mmとなる。
【0051】
図5(4)に示されるように、支持構造H1が相対的に台座G1に対して第1方向(+X方向)に更に100mm移動した場合(全体で600mm移動)、ジャッキ装置10において、一端が台座G1に連結保持されたタイロッド14は、台座G1から第1方向に100mm伸長する。即ち、タイロッド14は、第2範囲を超えた第3範囲において台座G1に対し相対的に第1方向に伸長する。このとき、タイロッド14は、ピストンロッド12の移動に基づいて生じる第1抵抗力に比して大きい第2抵抗力を生じながら伸長する(図6(3)から(4)参照)。
【0052】
図5(5)に示されるように、支持構造H1が相対的に台座G1に対して第2方向(-X方向)に600mm移動し、元の位置に戻る場合、第2ピストンロッド12B側に突出する方向のタイロッド14の移動のみ生じる。このとき、タイロッド14の移動において抵抗は生じずに第2ピストンロッド12B側に突出するタイロッド14の突出量は、600mmとなる(図6(4)から(5)参照)。このとき、第1ピストンロッド12A側に突出するタイロッド14の突出量は、100mmとなる。
【0053】
図5(6)に示されるように、支持構造H1が相対的に台座G1に対して元の位置から第2方向(-X方向)に100mm移動する場合、第1ピストンロッド12A側のタイロッド14の突出量は、0mmとなり、第1ピストンロッド12Aが第1保持部15に当接する。このとき、タイロッド14の移動において抵抗は生じずに第2ピストンロッド12B側に突出するタイロッド14の突出量は、700mmとなる(図6(5)から(6)参照)。
【0054】
図5(7)に示されるように、支持構造H1が相対的に台座G1に対して第2方向(-X方向)に更に500mm移動した場合(全体で-600mm移動)、ジャッキ装置10は、第1ピストンロッド12Aの突出量が800mmから300mmまでの距離を移動する。このとき、ジャッキ装置10には、第1ピストンロッド12Aの短縮に基づいて第1抵抗力を生じながら移動する(図6(6)から(7)参照)。これに対して、第2ピストンロッド12Bの突出量は、500mmとなる。
【0055】
図5(8)に示されるように、支持構造H1が相対的に台座G1に対して元の位置に戻る場合、ジャッキ装置10は、第1ピストンロッド12A側におけるタイロッド14の突出量が600mmとなるように第1方向に移動する。これに対して、第2ピストンロッド12B側から突出するタイロッド14の突出量は、100mmとなる。このとき、ジャッキ装置10において、抵抗力は生じない(図6(7)から(8)参照)。
【0056】
ジャッキ装置10において、引張または圧縮におけるピストンロッド12のストローク量とタイロッド14の移動量との和の関係は、例えば、初期状態において第1ピストンロッド12A側(例900mm=300+600)に比して、第2ピストンロッド12B側(例500mm=200+300)の関係に設定される。上記設定に基づいて、ジャッキ装置10は、台座G1に連結されたタイロッド14が伸長する第2抵抗力が発生する前に、ピストンロッド12に第2抵抗力に比して小さい第1抵抗力を発生させることができる。
【0057】
上記構成により、ダンパー装置1は、建物B(上部構造体)の床面E1(下部構造体)に対する移動時にオイルダンパー2が第1方向へ伸長する際において、ジャッキ装置10においてピストンロッド12は、第1範囲においてタイロッド14に対して相対的に第1方向に移動する。その後、ジャッキ装置10の本体部11は、第1範囲を超えた第2範囲においてピストンロッド12に対して相対的に移動する。このとき、本体部11は、第1抵抗力を生じながらピストンロッド12を移動させる。
【0058】
ジャッキ装置10において、本体部11は、油圧に基づいてピストンロッド12の移動を減衰させる。その後、ジャッキ装置10のタイロッド14は、第2範囲を超えた第3範囲において台座G1に対して相対的に第1方向に伸長する。このとき、タイロッド14は、第1抵抗力に比して大きい第2抵抗力を生じながら伸長する。
【0059】
図7には、ダンパー装置1のシミュレーション解析の結果が示されているシミュレーション解析においては、建物Bにおけるパラメータとダンパー装置1のパラメータは以下の様に設定された。
固定時の固有周期:約1.5秒
200%歪み時の免震周期:約5.0秒
免震層:高減衰系積層ゴム
1方向あたりオイルダンパー数:10台
ジャッキ装置数:オイルダンパー2台あたり4セット
ダンパー装置数:計40セット(右向き:20セット、左向き:20セット)
但し、ダンパー装置1の初期状態における条件は、上記と同様に第1ピストンロッド12A側(例900mm=300+600)に比して、第2ピストンロッド12B側(例500mm=200+300)の関係に設定された。入力される地震波は、神戸地震の告示波の地震動レベル2の1.8倍に設定された。
【0060】
図示するように、ダンパー装置1の設置前と設置後の建物Bの変位が比較された。ダンパー装置1の設置前は、免震層の最大変形が584mmであったのに対し、ダンパー装置1の設置後の最大変形は480mmであり、建物Bの変形が抑制されたことが分かる。ダンパー装置1によれば、建物Bの最大変形を104mm(約-18%)程度、低減することができる。
【0061】
図8には、ダンパー装置1の他のシミュレーション解析の結果が示されている。入力される地震波は、元禄関東地震の地震動レベル3の1.2倍に設定された。図示するように、ダンパー装置1の設置前と設置後の建物Bの変位が比較された。ダンパー装置1の設置前は、免震層の最大変形が700mmであったのに対し、ダンパー装置1の設置後の最大変形は483mmであり、建物Bの変形が抑制されたことが分かる。ダンパー装置1によれば、建物Bの最大変形を217mm(約-31%)程度、低減することができる。
【0062】
ダンパー装置1によれば、ジャッキ装置10を引張及び圧縮可能な両ロッドタイプに構成することにより、引張側と圧縮側に個別に装置を設ける必要が無く、1台によりオイルバッファ反力を得ることができる。ダンパー装置1によれば、免震層が過大変形して、ピストンロッド12が短縮した場合、反対側にピストンロッド12が突出するため、原点に対して小さな振幅からピストンロッド12を作用させることができる。ダンパー装置1によれば、長周期長時間地震動のように繰り返し大きな振幅で生じる揺り戻しに対しても、より多くエネルギー吸収を吸収し、応答変位を18~31%程度に低減することができる。
【0063】
図9には、比較例に係るダンパー装置1Xが示されている。以下の説明では、上記実施形態と同一の構成については同一の符号及び名称を用い、重複する説明については適宜省略する。ダンパー装置1Xは、免震層を備える建物Bと床面E1とを接続するオイルダンパー2と、一対のジャッキ装置10Xとを備えている。ジャッキ装置10Xは、過大変形時のみ引張材として作用するフェールセーフ機能と、生じた残留変形をジャッキで復元する機能を有するように構成されている。
【0064】
ダンパー装置1Xは、免震層の動きに対して、建物Bと床面E1とが離間する引張方向において抵抗力を発生させる装置であり、圧縮方向には作用しないように構成されている。そのため、ダンパー装置1Xを用いる場合は必ず引張側及び圧縮側の一対の装置を設けて免震層に設置する必要がある。ダンパー装置1Xによれば、タイロッド14に加わる引張力に基づいて塑性化する伸長に基づいて、初期設定されたギャップ量に比してギャップ量が増大する場合を除くと、ギャップ量は常に初期設定した値から不変である。
【0065】
図10には、ダンパー装置1Xの動作において生じる抵抗力が示されている。ダンパー装置1Xによれば、建物Bの第1方向への移動の際に、タイロッド14に設けられたギャップが消失する第1範囲までは抵抗を生じない。ダンパー装置1Xによれば、第1範囲を超えた第2範囲においてジャッキ装置10Xのピストンロッド12Xの短縮に基づいて第1抵抗力を生じる。ジャッキ装置10Xによれば、ピストンロッド12Xのストローク長が消失する第2範囲を超えた第3範囲においてタイロッド14の伸長に基づいて第2抵抗力を生じる。
【0066】
建物Bは、第3範囲において最大変位に達した後、地震動の揺り戻しに基づいて第2方向の最大変位位置まで到達する。このとき、ダンパー装置1には、抵抗力が生じない。ダンパー装置1Xによれば、初期設定されたタイロッド14のギャップ量の第1範囲内の移動ではジャッキ装置10Xが有するオイルバッファの抵抗力を制震のために活用できていなかった。
【0067】
ダンパー装置1Xのように、ギャップ量が一定でギャップが消失すると剛性と耐力が急増する装置は、硬化型復元力を有するフェールセーフ装置である。ダンパー装置1Xのような硬化型復元力を有するフェールセーフ装置は、パルス性の地震動に対しては変形抑制効果を有する(図11参照)。一方で、ダンパー装置1Xのような硬化型復元力を有するフェールセーフ装置は、長周期の大振幅が繰り返し作用するような長周期長時間地震動に対しては、硬化型復元力に基づいて運動エネルギーが蓄えられ、建物Bに揺り戻しが生じた際に、免震層に生じる変形が大きくなる可能性もあった(図12参照)。
【0068】
これに対して、ダンパー装置1によれば、ジャッキ装置10が両方向に作用するように構成されているため、引張方向だけでなく圧縮方向にもオイルバッファとしての機能を作用させることができる。ダンパー装置1によれば、ギャップを有する鋼材ダンパーとしては比較例と同様に引張のみ作用するのに対し、オイルバッファまたはジャッキの機能は、引張方向と圧縮方向の両方向に作用させることができ、比較例に比して装置の設置台数を1/2にできる。
【0069】
ダンパー装置1によれば、ジャッキ装置10が両方向に作用するように構成されているため、タイロッド14に設定されたギャップ(第1範囲)が消失するように引張方向または圧縮方向の荷重が作用し建物Bが移動した場合、ピストンロッド12の移動が開始する。ダンパー装置1によれば、初めに設定した第1範囲を超える過大変形が引張側(圧縮側)に生じピストンロッド12が短縮すると、対向する圧縮側(引張側)のピストンロッド12の突出量が増大し、この突出量の分だけ早期に圧縮側(引張側)でオイルバッファとして効かせることが可能になる。ダンパー装置1によれば、揺り戻しの移動方向に対して、ピストンロッド12の突出量が増大するため、比較例に比してエネルギー吸収量を増加でき、揺り戻しによる応答変形を大幅に減少させることができる。
【0070】
ダンパー装置1によれば、ピストンロッド12を両方向に突出させることにより、より多くのエネルギー吸収が可能となり、装置の設置前に比して20~30%程度の免震層変形の低減効果を得ることができる。ダンパー装置1によれば、ピストンロッド12を両方向に突出させることにより、ピストンロッド12が短縮する変形が生じた際に、対向する方向のピストンロッド12の突出量が伸長することで、長周期長時間地震動のように繰り返し大きな振幅で生じる揺り戻しに対しても、20~30%程度の免震層変形の低減効果が得ることができる。
【0071】
[変形例]
以下変形例に係るダンパー装置について説明する。以下の説明では、上記実施形態と同一の構成については同一の名称及び符号を用い、重複する説明については適宜省略する。
【0072】
図13に示されるように、ジャッキ装置10Yは、ジャッキ機能を省略し、オイルバッファを摩擦ダンパーに構成してもよい。ジャッキ装置10Yは、例えば、ピストンロッド12Yを上下方向から挟持する本体部11Yを備えている。本体部11Yとピストンロッド12Yとの間には摩擦材11Tが設けられている。
【0073】
ピストンロッド12Yは、例えば、ステンレス鋼などの材料を用いて筒状に形成されている。ピストンロッド12Yには、タイロッド14が挿入されている。本体部11Yは、上下に分割され、ピストンロッド12Yを挟持するように湾曲して形成されている。本体部11Yは、軸ピンP9が設けられている。摩擦材11Tは、摩擦係数0.1以上の材料により形成されている。本体部11Yは、ボルトX及びナットY等を用いて締結され、内周面とピストンロッド12Yの外周面との間に摩擦抵抗力を発生させている。上記構成により、本体部11Yは、摩擦に基づいてピストンロッド12Yの移動を減衰させることができる。
【0074】
変形例に係るジャッキ装置10Yが適用されたダンパー装置によれば、免震層の過大変形抑制の効果はダンパー装置1と同等にしつつ、ジャッキ機能を省略できる分、装置構成を簡略化すると共に、製造コストを低減することができる。
【0075】
図15には、変形例に係るダンパー装置1Aが示されている。ダンパー装置1Aは、建物B側と床面E1側を接続するオイルダンパー2と、オイルダンパー2と並列に設置された2つのジャッキ装置10Aとを備えている。ジャッキ装置10Aは、摩擦ダンパーに形成されている。ジャッキ装置10Yは、例えば、ピストンロッド12Zとタイロッド14Zとを備えている。ピストンロッド12Zは、例えば、ステンレス鋼などの材料を用いて筒状に形成されている。ピストンロッド12Zの一端側は、台座G1に回転可能に接続されている。ピストンロッド12Zは、ダンパー装置1におけるピストンロッド12と第1保持部15とを一体にした構成を備える。ピストンロッド12Zの他端側は、本体部11Bにより上下方向から挟持されている。
【0076】
本体部11Bは、図14に示す本体部11Yと同様に、上下に分割され、ピストンロッド12Zを挟持するように湾曲して形成されている。本体部11Bとピストンロッド12Zとの間には図14に示す摩擦材11Tと同様に、摩擦材(不図示)が設けられている。タイロッド14Zは、軸方向を長手方向とする帯状に形成されている。タイロッド14Zの一端側は、本体部11Bの他端側に挟持されて固定されている。タイロッド14Zの他端側には、長軸が軸方向に沿った楕円形の貫通孔14Hが形成されている。貫通孔14Hには、軸ピンP6が挿入されている。貫通孔14Hは、軸ピンP6が相対的に第1範囲において移動するように形成されている。軸ピンP6は、支持構造H1に固定されている。
【0077】
これにより、上部構造体の下部構造体側に対する移動時にオイルダンパー2が第1方向へ伸長する際において、タイロッド14Zは、軸方向に沿った第1範囲において抵抗力を生じずに移動し、ピストンロッド12Zは、第1範囲を超えた第2範囲において抵抗力を生じて移動する。変形例に係るジャッキ装置10Aが適用されたダンパー装置1Aによれば、免震層の過大変形抑制の効果はダンパー装置1と同等にしつつ、装置構成を簡略化すると共に、製造コストを低減することができる。
【0078】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、ダンパー装置1は、建物Bと床面E1とを接続するだけでなく、高層建築物の中間層に設けられ、上部構造体と下部構造体とを接続するものであってもよい。ダンパー装置1において、オイルダンパー2は省略してもよい。ダンパー装置1において、オイルダンパー2を省略する場合、オイルダンパー2は、同じ免震層内の別の位置に設置してもよい。
【符号の説明】
【0079】
1、1A,1X ダンパー装置、2 オイルダンパー、3 本体部、6 ピストンロッド、10、10Y ジャッキ装置、11、11B 本体部、11C 第1空間、11D 第2空間、11E 第1バルブ、11F 第2バルブ、11K 第2保持部、11M 第1バイパス流路、11N 第2バイパス流路、11Q 第1リリーフ弁、11R 第2リリーフ弁、11T 摩擦材、11Y 本体部、12、12Z ピストンロッド、12A 第1ピストンロッド、12B 第2ピストンロッド、12P ピストン、12S ストッパー、14、14Z タイロッド、14A ストッパー、15 第1保持部、B 建物、B1 下面、C 免震クリアランス、E 基礎、E1 床面、G1 台座、H1 支持構造、H3 板状体、M 免震支承、M1 脚部、M2 免震材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15