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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066152
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】鉄道車両
(51)【国際特許分類】
   F16C 37/00 20060101AFI20240508BHJP
   F16C 19/38 20060101ALI20240508BHJP
   F16C 33/76 20060101ALI20240508BHJP
   F16C 33/80 20060101ALI20240508BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
F16C37/00 B
F16C19/38
F16C33/76 Z
F16C33/80
F16J15/447
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175508
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】福井 康之
(72)【発明者】
【氏名】此川 徹
【テーマコード(参考)】
3J042
3J117
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J042AA04
3J042AA09
3J042AA12
3J042BA05
3J042CA10
3J042CA21
3J117EA03
3J117FA03
3J117GA03
3J117GA10
3J216AA03
3J216AA14
3J216AB13
3J216BA30
3J216CA05
3J216CA06
3J216CB03
3J216CB13
3J216CC45
3J216CC68
3J216EA08
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA73
3J701EA63
3J701FA13
3J701GA01
(57)【要約】
【課題】車軸引き抜き治具挿入用の凹溝部を油切りの外周面に確保しつつ、後蓋側の油温を簡単かつ確実に低減できる油浴潤滑方式の軸箱組立体の冷却構造を備えた鉄道車両を提供する。
【解決手段】車軸1のジャーナルに嵌合した軸受2が軸箱3に収容支持され、軸箱の軸端側が前蓋4によって閉塞され、軸箱の輪座側がオイルシール9を内嵌した後蓋6と車軸のちりよけ座1bに固定した油切り5とによって閉塞され、軸箱に形成した油溜め31と、当該油溜めと軸受の転動体1cとの間を循環する潤滑油Fの流路が、軸箱と前蓋と後蓋と油切りとで形成される閉塞空間内に形成された。油切りの外周面53には、輪座側に形成された車軸引き抜き治具挿入用の凹溝部51より軸端側で外周側へ円環状に起立する環状起立部52が形成され、その先端部521には、外周側へ所定の高さで突出するとともに枕木方向へ延設された複数の凸リブ521bが周方向で略等間隔に形成された。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸のジャーナルに嵌合した軸受が軸箱に収容支持され、前記軸箱の軸端側が前蓋によって閉塞され、前記軸箱の輪座側がオイルシールを内嵌した後蓋と前記車軸のちりよけ座に固定した油切りとによって閉塞され、前記軸箱に形成した油溜めと、当該油溜めと前記軸受の転動体との間を循環する潤滑油の流路が、前記軸箱と前記前蓋と前記後蓋と前記油切りとで形成される閉塞空間内に形成された軸箱組立体の冷却構造を備えた鉄道車両であって、
前記油切りの外周面には、輪座側に形成された車軸引き抜き治具挿入用の凹溝部より軸端側で外周側へ円環状に起立する環状起立部が形成され、当該環状起立部の先端部には、外周側へ所定の高さで突出するとともに枕木方向へ延設された複数の凸リブが周方向で略等間隔に形成されていることを特徴とする鉄道車両。
【請求項2】
請求項1に記載された鉄道車両において、
前記凸リブは、軸端側が輪座側より外周側に位置するように傾斜状に形成されていることを特徴とする鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両に関し、詳しくは、輪座に車輪を嵌合した車軸の軸端部を回転可能に支持する軸受の転動体を潤滑油で油浴させる軸箱組立体の冷却構造を備えた鉄道車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速鉄道車両の軸箱組立体では、車軸を支持する軸受に、例えば、走行安定性の観点から左右方向の隙間を小さくできる複列円錐ころ軸受が採用されており、当該複列円錐ころ軸受の転動体を潤滑する方式として潤滑油で油浴させる油浴潤滑方式が知られている。この油浴潤滑方式では、潤滑油の油温が所定の限界値を越えて上昇すると、スラッジという不溶解物質が潤滑油中に生成され、オイルシールに噛み込まれ、油漏れの原因となり得るので、その冷却構造が、鋭意検討されている。特に、車輪に近い後蓋側の油温が上昇しやすいので、後蓋側の油温を低減できる軸箱組立体の冷却構造を備えた鉄道車両が、求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、後蓋側の油温を低減できる鉄道車両用軸箱組立体の冷却構造100が、開示されている。すなわち、図7に示すように、鉄道車両の車軸101は、その両端部に軸端側から順にジャーナル102、ちりよけ座103、輪座104が形成され、ジャーナル102に嵌合した複列円錐ころ軸受105を介して軸箱106に支持されている。また、複列円錐ころ軸受105には、ジャーナル102に外嵌された内輪105aと、軸箱106に内嵌された外輪105bと、内輪105aと外輪105bとの間に装着された転動体105cとを備えている。内輪105aは、ジャーナル102の軸端側に固定した軸受押さえ107と車軸101のちりよけ座103に固定した油切り108とで位置決めされている。外輪105bは、軸箱106の軸端側に形成された鍔部106aと軸箱106のちりよけ座側端部106bに固定した後蓋109の軸受押さえ部109aとで位置決めされている。また、後蓋109の輪座側端部109bと油切り108との間には、ラビリンスシール110が形成され、後蓋109の軸受押さえ部109aの内周面のラビリンスシール寄りに嵌合させたオイルシール111のリップ部111aを油切り108の外周面に摺接させている。また、軸箱106の下部内面には、軸受用の潤滑油Fの油溜め112が凹設され、軸箱106の軸端部106cが前蓋113によって閉塞されている。
【0004】
また、複列円錐ころ軸受105の回転時に転動体105cを油浴させるために、油溜め112から転動体105cを油浴して油溜め112に循環する潤滑油Fの流路が、以下のように形成されている。すなわち、複列円錐ころ軸受105と前蓋113との間に画成される前蓋側環状流路部114と、複列円錐ころ軸受105とオイルシール111との間に画成される後蓋側環状流路部115と、油溜め112と前蓋側環状流路部114とを連通する凹溝状の前蓋側流路部106dと、油溜め112と後蓋側環状流路部115とを連通する凹溝状の後蓋側流路部106eと、軸受押さえ部109aの下部を切り欠いて後蓋側流路部106eと後蓋側環状流路部115とを連通する切り欠き流路部109cとで構成している。
【0005】
そして、油溜め112には、転動体105cのピッチ円直径付近に油面FSが位置するように潤滑油Fが溜められており、複列円錐ころ軸受105の回転に伴って、外輪105bの下部中央部分に形成された供給孔105fから潤滑油Fが上方へ運ばれ、複列円錐ころ軸受105の中央部分から外側へ潤滑油Fが流れて転動体105cを潤滑し、前蓋側環状流路部114と後蓋側環状流路部115とから油溜め112に帰還する。
【0006】
特許文献1に開示された発明は、上記鉄道車両用軸箱組立体の冷却構造100において、軸箱106のちりよけ座側端部106bを輪座104方向へ延長するとともに、後蓋109の軸受押さえ部109aと輪座側端部109bとを車軸1の軸線方向に延長して、ラビリンスシール110を輪座104に近接させ、後蓋109のオイルシール111の嵌合位置109dと油切り108のオイルシール111のリップ部111aの摺接位置108aとをちりよけ座103の輪座側外周に位置させ、後蓋側環状流路部115の容積を従来よりも大幅に拡張させたことを特徴としている。後蓋側環状流路部115の容積を従来よりも大幅に拡張することにより、後蓋側環状流路部115を流れる潤滑油の温度上昇を抑え、スラッジの生成を低減して、オイルシール111のシール性を確保できることから、走行速度の向上に一定程度寄与することができた。
【0007】
さらに、本出願人は、走行試験の結果、軸箱及び前蓋の内、車軸中心より下側で走行風が強く当たっているという知見を得て、この走行風を有効に利用すべく、図8に示すように、前蓋201又は軸箱202の下面に複数の冷却フィン203aを備えるヒートシンク203を形成すること等を特徴とする鉄道車両用軸箱組立体の冷却構造200を発明し、特許出願した(特許文献2を参照)。その際、後蓋204の外周の下面側に下部放熱フィン205を形成した上で、回転する油切り206の外周の下部放熱フィン205と対向する部位に空気に流れを発生させるためのファン207を取り付ける構造も、特許文献2において検討した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-83945号公報
【特許文献2】特開2016-26947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、鉄道車両の走行速度が約300km/hを越える超高速領域においては、上述したような潤滑油を循環させる環状流路部の容積を拡張することや前蓋又は軸箱の下面に複数の冷却フィンを備えるヒートシンクを形成すること等の対策だけでは、車輪と後蓋との隙間が狭くて走行風の有効利用が困難な後蓋側における油温の上昇を十分に抑えることができなかった。
【0010】
また、特許文献2において検討した「後蓋204の外周の下面側に下部放熱フィン205を形成した上で、回転する油切り206の外周の下部放熱フィン205と対向する部位に空気に流れを発生させるためのファン207を取り付ける構造」では、下部放熱フィン205を形成した後蓋204の外周の下面側を冷却させる効果はあるが、後蓋204の外周全体を冷却させる効果が期待できないという問題があった。
【0011】
また、上記ファン207が取り付けられている油切り206の外周は、車軸208を油切り206及び複列円錐ころ軸受209から引き抜くときに使用する車軸引き抜き治具の爪を挿入する凹溝部206aである。そのため、車軸208を油切り206及び複列円錐ころ軸受209から引き抜く作業(車軸や軸受の点検作業等)の際には、上記ファン207をその都度取り外す必要があり、その取り外しに手間がかかるとともに、ねじ等の取付部材が走行時の振動で緩みやすいという問題があった。
【0012】
本発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、車軸引き抜き治具挿入用の凹溝部を油切りの外周面に確保しつつ、後蓋側の油温を簡単かつ確実に低減できる油浴潤滑方式の軸箱組立体の冷却構造を備えた鉄道車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係る鉄道車両は、以下の構成を備えている。
(1)車軸のジャーナルに嵌合した軸受が軸箱に収容支持され、前記軸箱の軸端側が前蓋によって閉塞され、前記軸箱の輪座側がオイルシールを内嵌した後蓋と前記車軸のちりよけ座に固定した油切りとによって閉塞され、前記軸箱に形成した油溜めと、当該油溜めと前記軸受の転動体との間を循環する潤滑油の流路が、前記軸箱と前記前蓋と前記後蓋と前記油切りとで形成される閉塞空間内に形成された軸箱組立体の冷却構造を備えた鉄道車両であって、
前記油切りの外周面には、輪座側に形成された車軸引き抜き治具挿入用の凹溝部より軸端側で外周側へ円環状に起立する環状起立部が形成され、当該環状起立部の先端部には、外周側へ所定の高さで突出するとともに枕木方向へ延設された複数の凸リブが周方向で略等間隔に形成されていることを特徴とする。
【0014】
本発明においては、油切りの外周面には、車軸引き抜き治具挿入用の凹溝部より軸端側で外周側へ円環状に起立する環状起立部が形成され、当該環状起立部の先端部には、外周側へ所定の高さで突出するとともに枕木方向へ延設された複数の凸リブが周方向で略等間隔に形成されているので、油切りの環状起立部の先端部の全周から放熱させ、後蓋側の油温に対する冷却効果を高めることができる。すなわち、環状起立部の先端部には、外周側へ所定の高さで突出するとともに枕木方向へ延設された複数の凸リブが周方向で略等間隔に形成されているので、走行時において車軸とともに回転する凸リブによって、油切りの環状起立部の先端部周辺の気流を撹拌させることができる。また、複数の凸リブが周方向で略等間隔に形成されていることによって、環状起立部の先端部における放熱面積を周方向で一様に増大させることができる。また、環状起立部の先端部は、当然、後蓋の輪座側端部の外周面より外周側に位置するので、走行風の影響を受けやすく、外気への放熱効果を高めることができる。その結果、油切りの環状起立部の先端部の全周から放熱させ、後蓋側の油温に対する冷却効果を高めることができる。
【0015】
また、環状起立部は、油切りの外周面の内、輪座側に形成された車軸引き抜き治具挿入用の凹溝部より軸端側で外周側へ円環状に起立するので、車軸を油切り及び軸受から引き抜く作業(車軸や軸受の点検作業等)の際にも、車軸引き抜き治具と環状起立部とが干渉しない。そのため、特許文献2に記載したファンのように、油切りの外周面から環状起立部を取り外す必要がない。また、環状起立部は油切りと一体に形成されているので、ねじ等の取付部材が走行時の振動で緩みやすいという問題も生じない。
【0016】
よって、本発明によれば、車軸引き抜き治具挿入用の凹溝部を油切りの外周面に確保しつつ、後蓋側の油温を簡単かつ確実に低減できる油浴潤滑方式の軸箱組立体の冷却構造を備えた鉄道車両を提供することができる。
【0017】
(2)(1)に記載された鉄道車両において、
前記凸リブは、軸端側が輪座側より外周側に位置するように傾斜状に形成されていることを特徴とする。
【0018】
本発明においては、凸リブは、軸端側が輪座側より外周側に位置するように傾斜状に形成されているので、走行時に、雨水や埃が、遠心力によって凸リブに沿って外周側へ移動しやすくなり、後蓋と油切りとの隙間から軸箱内へ侵入するのを防止することができる。また、凸リブが傾斜状に形成されているので、環状起立部の先端部における放熱面積を更に増大させることができる。そのため、高速走行時における雨水や埃の侵入を有効に防止できると共に、放熱効果をより一層高めることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、車軸引き抜き治具挿入用の凹溝部を油切りの外周面に確保しつつ、後蓋側の油温を簡単かつ確実に低減できる油浴潤滑方式の軸箱組立体の冷却構造を備えた鉄道車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係る鉄道車両における軸箱組立体の冷却構造の主断面図である。
図2図1に示すA部における第1実施例の詳細断面図である。
図3図2に示す第1実施例に対する図1に示すB矢視図である。
図4図1に示す鉄道車両における軸箱組立体の分解組立図である。
図5図1に示すA部における第2実施例の詳細断面図である。
図6図5に示す第2実施例に対する図1に示すB矢視図である。
図7】特許文献1に記載された鉄道車両用軸箱組立体の冷却構造の主断面図である。
図8】特許文献2に記載された鉄道車両用軸箱組立体の冷却構造の主断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態に係る鉄道車両における軸箱組立体の冷却構造について、図面を参照しながら詳細に説明する。はじめに、本実施形態に係る鉄道車両の軸箱組立体の冷却構造における第1実施例の構成を説明し、その後、第1実施例とは一部の構成のみが異なる第2実施例の構成について説明する。
【0022】
<鉄道車両用軸箱組立体の冷却構造>
(第1実施例の構成)
まず、本実施形態に係る鉄道車両における軸箱組立体の冷却構造の第1実施例の構成について、図1図4を用いて説明する。図1に、本発明の実施形態に係る鉄道車両における軸箱組立体の冷却構造の主断面図を示す。図2に、図1に示すA部における第1実施例の詳細断面図を示す。図3に、図2に示す第1実施例に対する図1に示すB矢視図を示す。図4に、図1に示す鉄道車両における軸箱組立体の分解組立図を示す。なお、図1には、鉄道車両における上下、左右の方向を示すが、左右方向は、枕木方向を示す。
【0023】
図1図4に示すように、本第1実施例に係る鉄道車両20における軸箱組立体の冷却構造10には、車軸1の両端部を回転可能に支持する軸受2と、軸受2を収容支持する軸箱3と、軸箱3の軸端側を閉塞する前蓋4と、車軸1のちりよけ座1bに固定した油切り5と、軸箱3の輪座側を閉塞する後蓋6とを備え、以下の構造を有している。
【0024】
すなわち、本鉄道車両20には、車軸1のジャーナル1aに嵌合した軸受2が軸箱3に収容支持され、軸箱3の軸端側が前蓋4によって閉塞され、軸箱3の輪座側がオイルシール9を内嵌した後蓋6と車軸のちりよけ座1bに固定した油切り5とによって閉塞され、軸箱3に形成した油溜め31と、油溜め31と軸受2の転動体2cとの間を循環する潤滑油Fの流路が、軸箱3と前蓋4と油切り5と後蓋6とで形成される閉塞空間内に形成された軸箱組立体の冷却構造10を備えている。また、油切り5の外周面53には、輪座側に形成された車軸引き抜き治具挿入用の凹溝部51より軸端側で外周側へ円環状に起立する環状起立部52が形成され、当該環状起立部52の先端部521には、外周側へ所定の高さで突出するとともに枕木方向へ延設された複数の凸リブ521bが周方向で略等間隔に形成されている。
【0025】
さらに具体的には、本鉄道車両20では、車軸1の両端部に形成されたジャーナル1aに複列円錐ころ軸受(軸受)2が嵌合され、当該複列円錐ころ軸受(軸受)2を介して軸箱3が車軸1に支持されている。また、複列円錐ころ軸受2の内輪2aが、ジャーナル1aの軸端側に固定した軸受押さえ11と車軸1のちりよけ座1bに固定した油切り5とで位置決めされ、複列円錐ころ軸受2の外輪2bが、軸箱3の軸端側に形成された鍔部3aと軸箱3のちりよけ座側端部3bに固定した後蓋6の軸受押さえ部6aとで位置決めされている。また、後蓋6の輪座側端部6bには、油切り5との間にラビリンスシール8a(8)が形成され、後蓋6の軸受押さえ部6aの内周面のラビリンスシール寄りに嵌合させたゴム製のオイルシール9のリップ部9aを油切り5の外周面53に摺接させている。また、軸箱3の下部内面には、軸受用の潤滑油Fの油溜め31が凹設され、軸箱3の軸端部32が前蓋4によって閉塞されている。また、油溜め31に循環する潤滑油Fの流路が、複列円錐ころ軸受2と前蓋4との間に画成される前蓋側環状流路部41と、複列円錐ころ軸受2とオイルシール9との間に画成される後蓋側環状流路部61と、油溜め31と前蓋側環状流路部41とを連通する前蓋側流路部42と、油溜め31と後蓋側環状流路部61とを連通する後蓋側流路部62と、を有する。
【0026】
また、車軸1の両端部には、軸端側から順にジャーナル1aとちりよけ座1bと輪座1cとが形成されている。また、車軸1の軸中心部には、軸心に沿って中空孔1eが形成されている。中空孔1eの軸端側には、閉じ栓44を螺合させる雌ねじ溝11bが形成されている。ジャーナル1aの軸端側には、軸受押さえ11を螺合させる雄ねじ溝11cが形成され、軸受押さえ11を固定する止め板111と係合するスプライン11aが形成されている。輪座1cには、車輪1dが外嵌されている。
【0027】
また、複列円錐ころ軸受2は、左右対称に分割された内輪2aと、内輪2aの外周側に配置された外輪2bと、内輪2aと外輪2bとに挟持されて周方向に転動する複数列(2列)の円錐ころ(転動体)2cとを備えている。各列の円錐ころ(転動体)2cは、互いの小径側を近接させる方向に配置されている。外輪2bの左右中央部には、油溜め31と連通し、油溜め31の潤滑油Fを内輪2a及び円錐ころ(転動体)2cに供給する油供給孔(流路)21bが形成されている。
【0028】
また、軸箱3は、略左右中央部に複列円錐ころ軸受2を内嵌するアルミ合金製の車軸支持体であって、軸端部32の内周面が前蓋4と嵌合可能に形成され、ちりよけ座側端部3bが後蓋6と締結可能に形成されている。軸箱3の下部内面に凹設された油溜め31の下部には、蓋付きの油抜き孔33が形成されている。
【0029】
また、前蓋4は、軸箱3の軸端側を閉塞するアルミ合金製の蓋体であって、軸箱3の軸端部32の内周面に嵌合される嵌合部4aと、台車枠DSにダンパDPを介して連結する連結フランジ部4bと、ジャーナル1aの軸端側との摺接部45とを備えている。また、摺接部45には、車軸1の中空孔1eを封止する閉じ栓44を保護するカバー部材43が装着されている。摺接部45の内周面には、ジャーナル1aとの間にラビリンスシール8cが形成されている。
【0030】
また、後蓋6は、軸箱3の輪座側を閉塞するアルミ合金製の蓋体であって、複列円錐ころ軸受2の外輪2bと当接する軸受押さえ部6aと、軸箱3のちりよけ座側端部3bと締結する外周フランジ部6dと、油切り5と摺接する輪座側端部6bとを備えている。軸受押さえ部6aの内周面には、オイルシール9が内嵌され、オイルシール9の軸端側に後蓋側環状流路部61が形成されている。
【0031】
また、油切り5は、車軸1のちりよけ座1bに固定される鉄製の筒状体である。油切り5は、車軸1と一体となって回転する。油切り5の外周面53には、輪座側に車軸引き抜き治具J挿入用の凹溝部51が形成されている。油切り5の外周面53には、凹溝部51より軸端側で外周側へ円環状に起立する環状起立部52が形成されている。また、環状起立部52の先端部521の内周面521aと後蓋6の輪座側端部6bの外周面6bgとの間には、微小隙間が形成されている。なお、油切り5及び複列円錐ころ軸受2を車軸1から取り外すときには、車軸引き抜き治具Jの馬蹄形に形成された爪部を凹溝部51に挿入して行う。
【0032】
また、環状起立部52の先端部521には、外周側へ所定の高さで突出するとともに枕木方向へ延設された複数の凸リブ521bが周方向で略等間隔に形成されている。凸リブ521bは、平歯車のような形状に形成されている。各凸リブ521bは、径方向断面が台形状に形成されていて、車軸引き抜き治具Jとの干渉避けるとともに、後蓋6の外周フランジ部6dを軸箱3のちりよけ座側端部3bに締結するボルト6P及び回り止め部材6Qと干渉しない程度の高さに形成されている。
【0033】
なお、油切り5の環状起立部52には、先端部521より内周側に中間棚部522が形成されるとともに、後蓋6には、輪座側端部6bより内周側に第2輪座側端部6cが形成されている。そして、中間棚部522の外周面と輪座側端部6bの内周面との微小隙間に対し、輪座側端部6bの内周面にラビリンスシール8a(8)が形成されている。また、第2輪座側端部6cの内周面と油切り5におけるオイルシール9のリップ部9aが摺接する外周面53との微小隙間に対し、第2輪座側端部6cの内周面に第2のラビリンスシール8bが形成されている。
【0034】
(第1実施例の組立て方法)
以上の構成を有する鉄道車両20における軸箱組立体の冷却構造10は、図4に示す順序に従って車軸1に組み立て可能に構成されている。はじめに、車軸1のちりよけ座1bに油切り5を外嵌して固定する。油切り5は、車軸1の輪座1cの軸端側端面に当接した位置に固定する。次に、オイルシール9を挿入した後蓋6を、油切り5の外周面53に外嵌させる。このとき、油切り5の外周面53に円環状に起立する環状起立部52の先端部521の内周面521aと後蓋6の輪座側端部6bの外周面6bgとの間には、雨水や埃等が侵入しない程度の微小隙間が形成されている。
【0035】
次に、複列円錐ころ軸受2の輪座側の内輪2aを、車軸1のジャーナル1aに外嵌させる。内輪2aには、予め円錐ころ2cが装着されている。次に、外輪2bを後蓋6の軸受押さえ部6aと当接する位置まで挿入させ、内輪2aとの間で円錐ころ2cを挟持させる。次に、複列円錐ころ軸受2の軸端側の内輪2aを、外輪2b内に挿入し、既に挿入した内輪2aと当接させた状態で、ジャーナル1aに外嵌させる。内輪2aには、予め円錐ころ2cが装着されている。
【0036】
次に、ジャーナル1aの軸端側に形成した雄ねじ溝11cに、軸受押さえ11を螺合させ、ジャーナル1aに外嵌させた内輪2aを位置決めさせる。また、ジャーナル1aに形成されたスプライン11aに止め板111を係合させて軸受押さえ11をねじ固定する。次に、軸箱3の内周面に複列円錐ころ軸受2の外輪2bを内嵌させ、軸箱3のちりよけ座側端部3bと後蓋6の外周フランジ部6dとをボルト6Pにて締結する。ちりよけ座側端部3bには、シール部材を装着しておく。このとき、軸箱3の鍔部3aを複列円錐ころ軸受2の外輪2bと当接させて外輪2bを位置決めする。ボルト6Pは、回り止め部材6Qによって固定する。
【0037】
最後に、前蓋4の嵌合部4aを、軸箱3の軸端部32の内周面に嵌合させる。前蓋4の嵌合部4aには、シール部材を装着しておく。車軸1の中空孔1eを閉じ栓44によって封止した後に、閉じ栓44を保護するカバー部材43を摺接部45に装着する。
【0038】
(第2実施例の構成)
次に、本実施形態に係る鉄道車両における軸箱組立体の冷却構造の第2実施例の構成について、図5図6を用いて説明する。図5に、図1に示すA部における第2実施例の詳細断面図を示す。図6に、図5に示す第2実施例に対する図1に示すB矢視図を示す。
【0039】
図5図6に示すように、本第2実施例に係る鉄道車両20における軸箱組立体の冷却構造10Bは、油切り5Bの環状起立部52Bと後蓋6Bの輪座側端部6bBが、前述した第1実施例と相違するのみであって、他の構成は共通する。したがって、第1実施例と共通する他の構成には、第1実施例に使用する符号を付し、原則としてその説明を割愛する。
【0040】
また、環状起立部52Bの先端部521Bには、外周側へ所定の高さで突出するとともに枕木方向へ延設された複数の凸リブ521bBが形成され、各凸リブ521bBは、軸端側が輪座側より外周側に位置するように傾斜状に形成されている。凸リブ521bBは、傘歯歯車のような形状に形成されている。各凸リブ521bBは、径方向断面が台形状に形成されていて、車軸引き抜き治具Jとの干渉避けるとともに、後蓋6Bの外周フランジ部6dを軸箱3のちりよけ座側端部3bに締結するボルト6P及び回り止め部材6Qと干渉しない程度の高さに形成されている。なお、第2実施例の組立て方法は、第1実施例の場合と同様であるので、詳細な説明は割愛する。
【0041】
<作用効果>
以上、詳細に説明した本実施形態に係る鉄道車両20における軸箱組立体の冷却構造10、10Bによれば、油切り5、5Bの外周面53には、車軸引き抜き治具挿入用の凹溝部51より軸端側で外周側へ円環状に起立する環状起立部52、52Bが形成され、当該環状起立部52、52Bの先端部521、521Bには、外周側へ所定の高さで突出するとともに枕木方向へ延設された複数の凸リブ521b、521bBが周方向で略等間隔に形成されているので、油切り5、5Bの環状起立部52、52Bの先端部521、521Bの全周から放熱させ、後蓋側の油温に対する冷却効果を高めることができる。すなわち、環状起立部52、52Bの先端部521、521Bには、外周側へ所定の高さで突出するとともに枕木方向へ延設された複数の凸リブ521b、521bBが周方向で略等間隔に形成されているので、走行時において車軸1とともに回転する凸リブ521b、521bBによって、油切り5、5Bの環状起立部52、52Bの先端部周辺の気流を撹拌させることができる。また、複数の凸リブ521b、521bBが周方向で略等間隔に形成されていることによって、環状起立部52、52Bの先端部521、521Bにおける放熱面積を周方向で一様に増大させることができる。また、環状起立部52、52Bの先端部521、521Bは、当然、後蓋6、6Bの輪座側端部6b、6bBの外周面6bg、6bgBより外周側に位置するので、走行風の影響を受けやすく、外気への放熱効果を高めることができる。その結果、油切り5、5Bの環状起立部52、52Bの先端部521、521Bの全周から放熱させ、後蓋側の油温に対する冷却効果を高めることができる。
【0042】
また、環状起立部52、52Bは、油切り5、5Bの外周面53の内、輪座側に形成された車軸引き抜き治具挿入用の凹溝部51より軸端側で外周側へ円環状に起立するので、車軸1を油切り5、5B及び軸受2から引き抜く作業(車軸や軸受の点検作業等)の際にも、車軸引き抜き治具Jと環状起立部52、52Bとが干渉しない。そのため、特許文献2に記載したファンのように、油切り5、5Bの外周面53から環状起立部52、52Bを取り外す必要がない。また、環状起立部52、52Bは油切り5、5Bと一体に形成されているので、ねじ等の取付部材が走行時の振動で緩みやすいという問題も生じない。
【0043】
よって、本実施形態によれば、車軸引き抜き治具挿入用の凹溝部51を油切り5、5Bの外周面53に確保しつつ、後蓋側の油温を簡単かつ確実に低減できる油浴潤滑方式の軸箱組立体の冷却構造10、10Bを備えた鉄道車両20を提供することができる。
【0044】
また、本実施形態によれば、凸リブ521bBは、軸端側が輪座側より外周側に位置するように傾斜状に形成されているので、走行時に、雨水や埃が、遠心力によって凸リブ521bBに沿って外周側へ移動しやすくなり、後蓋6Bと油切り5Bとの隙間から軸箱内へ侵入するのを防止することができる。また、凸リブ521bBが傾斜状に形成されているので、環状起立部52Bの先端部521Bにおける放熱面積を更に増大させることができる。そのため、高速走行時における雨水や埃の侵入を有効に防止できると共に、放熱効果をより一層高めることができる。
【0045】
<変形例>
以上、本実施形態の鉄道車両20における軸箱組立体の冷却構造10、10Bを詳細に説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0046】
例えば、本実施形態では、車軸1の両端部に形成されたジャーナル1aに嵌合した軸受として、複列(2列)円錐ころ軸受2を用いているが、必ずしも複列(2列)円錐ころ軸受2に限らず、他のタイプの軸受を用いることができる。
【0047】
また、本実施形態では、環状起立部52の先端部521に形成した凸リブ521b、521bBは、第1実施例で示すように平歯歯車のような形状又は第2実施例で示すように傘歯歯車のような形状に形成されているが、必ずしも上記形状に限らず、例えば、歯を螺旋状に形成するハス歯歯車のような形状でも良い。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、鉄道車両として、詳しくは、輪座に車輪を嵌合した車軸の軸端部を回転可能に支持する軸受の転動体を潤滑油で油浴させる軸箱組立体の冷却構造を備えた鉄道車両として利用できる。
【符号の説明】
【0049】
1 車軸
1a ジャーナル
1b ちりよけ座
1c 輪座
2 複列円錐ころ軸受(軸受)
2c 円錐ころ(転動体)
3 軸箱
4 前蓋
5、5B 油切り
6、6B 後蓋
6b、6bB 輪座側端部
9 オイルシール
10、10B 冷却構造
20 鉄道車両
21b 油供給孔(流路)
31 油溜め
41 前蓋側環状流路部(流路)
42 前蓋側流路部(流路)
51 凹溝部
52、52B 環状起立部
53 外周面
61 後蓋側環状流路部(流路)
62 後蓋側流路部(流路)
521、521B 先端部
521b 凸リブ
521bB 凸リブ
F 潤滑油
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8