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  • 特開-繊維径測定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024066161
(43)【公開日】2024-05-15
(54)【発明の名称】繊維径測定方法
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/62 20170101AFI20240508BHJP
   G01B 15/00 20060101ALI20240508BHJP
   G01B 11/08 20060101ALI20240508BHJP
   G01N 1/36 20060101ALI20240508BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20240508BHJP
   G01N 33/36 20060101ALI20240508BHJP
   G01N 1/30 20060101ALI20240508BHJP
   G01N 1/32 20060101ALI20240508BHJP
   D06H 3/08 20060101ALI20240508BHJP
【FI】
G06T7/62
G01B15/00 K
G01B11/08 H
G01N1/36
G01N1/28 G
G01N33/36 B
G01N1/30
G01N1/32 B
D06H3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175526
(22)【出願日】2022-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】313012349
【氏名又は名称】旭ファイバーグラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180415
【弁理士】
【氏名又は名称】荒井 滋人
(72)【発明者】
【氏名】岡村 和馬
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 直樹
【テーマコード(参考)】
2F065
2F067
2G052
3B154
5L096
【Fターム(参考)】
2F065AA26
2F065BB12
2F065DD03
2F065FF04
2F065JJ03
2F065JJ26
2F065QQ04
2F065QQ31
2F067AA22
2F067BB13
2F067EE04
2F067HH06
2F067JJ05
2F067RR35
2G052AA14
2G052AA22
2G052AA40
2G052AD12
2G052AD32
2G052AD52
2G052EC14
2G052EC16
2G052FA08
2G052GA18
2G052GA34
2G052JA03
2G052JA08
2G052JA11
3B154AA05
3B154AA13
3B154AB05
3B154BA53
3B154BB39
3B154BB54
3B154BB58
3B154CA23
5L096BA18
5L096CA02
5L096EA43
5L096FA04
5L096FA18
5L096FA59
5L096GA51
(57)【要約】
【課題】径を測定すべき繊維が含まれる繊維体を構成する各繊維がどのような方向で流れて配されていたとしても、ある程度正確にそこに含まれる繊維径を測定することができる繊維径測定方法を提供する。
【解決手段】繊維径測定方法は、多数の繊維にて形成されている繊維体に対して繊維間の間隙を埋めるための包埋樹脂にて包埋して包埋繊維体を形成する包埋工程と、包埋繊維体を切断あるいは切削してその断面を露出させる断面露出工程と、断面を撮影して断面画像を取得する撮影工程と、断面画像を2値化処理して2値化画像を取得する画像処理工程と、2値化画像に表示されていて繊維を示している楕円に対し、これらに外接している外接四角形との面積比が78.5%であるものを抽出する抽出工程と、抽出された楕円の短径を測定する測定工程とを備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の繊維にて形成されている繊維体に対して前記繊維間の間隙を埋めるための包埋樹脂にて包埋して包埋繊維体を形成する包埋工程と、
前記包埋繊維体を切断あるいは切削してその断面を露出させる断面露出工程と、
前記断面を撮影して断面画像を取得する撮影工程と、
前記断面画像を2値化処理して2値化画像を取得する画像処理工程と、
前記2値化画像に表示されていて前記繊維を示している楕円に対し、これらに外接している外接四角形との面積比が78.5%であるものを抽出する抽出工程と、
抽出された前記楕円の短径を測定する測定工程とを備えたことを特徴とする繊維径測定方法。
【請求項2】
前記断面露出工程にて、前記断面は前記繊維体を形成している前記繊維の配向方向に対して交わる方向で露出された断面であることを特徴とする請求項1に記載の繊維径測定方法。
【請求項3】
前記断面露出工程にて、前記露出された断面を研磨することを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維径測定方法。
【請求項4】
前記抽出工程にて、前記繊維を示している真円を抽出し、前記測定工程にて、前記真円の径を測定することを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維径測定方法。
【請求項5】
前記繊維は無機繊維であることを特徴とする請求項1に記載の繊維径測定方法。
【請求項6】
前記繊維は有機繊維であり、前記包埋工程の前に前記有機繊維の表面に一様に四酸化オスミウムをコーティングすることを特徴とする請求項1に記載の繊維径測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラスウールやロックウール等の無機繊維の繊維径を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維の径分布測定方法および装置が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1は、人手を介することなく高速かつ正確に径分布を測定する繊維径分布計測方法と自動測定装置を提供し、特にガラス繊維の径分布を精度よく求めることができる自動計測方法と装置を提供するものである。特許文献1を含む従来の繊維径の測定では、グラスウール等の繊維を寝かした状態で、ある一方向から撮影し、その縮尺を加味して測定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-174227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の測定方法では、繊維を撮影する際に、繊維ができるだけ重ならないように配置させる必要があり、この作業はかなり困難であった。すなわち、撮影されるべき繊維が全て同一平面上(XY方向)に配置されるようにしなければ、正確な繊維径の測定はできないものであった。グラスウール等の繊維はある程度の配向性を有しているが、それでも同一平面上に対して交わる方向(Z方向)に流れる繊維もあり、このような繊維が混じっている現状では正確な繊維径を測定することは困難である。
【0005】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであり、径を測定すべき繊維が含まれる繊維体を構成する各繊維がどのような方向で流れて配されていたとしても、ある程度正確にそこに含まれる繊維径を測定することができる繊維径測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明では、多数の繊維にて形成されている繊維体に対して前記繊維間の間隙を埋めるための包埋樹脂にて包埋して包埋繊維体を形成する包埋工程と、前記包埋繊維体を切断あるいは切削してその断面を露出させる断面露出工程と、前記断面を撮影して断面画像を取得する撮影工程と、前記断面画像を2値化処理して2値化画像を取得する画像処理工程と、前記2値化画像に表示されていて前記無機繊維を示している楕円に対し、これらに外接している外接四角形との面積比が78.5%であるものを抽出する抽出工程と、抽出された前記楕円の短径を測定する測定工程とを備えたことを特徴とする繊維径測定方法を提供する。
【0007】
好ましくは、前記断面露出工程にて、前記断面は前記繊維体を形成している前記繊維の配向方向に対して交わる方向で露出された断面である。
【0008】
好ましくは、前記断面露出工程にて、前記露出された断面を研磨する。
【0009】
好ましくは、前記抽出工程にて、前記繊維を示している真円を抽出し、前記測定工程にて、前記真円の径を測定する。
【0010】
好ましくは、前記繊維は無機繊維である。
【0011】
好ましくは、前記繊維は有機繊維であり、前記包埋工程の前に前記有機繊維の表面に一様に四酸化オスミウムをコーティングする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、包埋工程にて無機繊維間の間隙が包埋樹脂にて包埋されるため、その後の撮影工程にて撮影された断面画像ではその断面における無機繊維しか撮影されることはないので、その断面に対して奥側に存在している無機繊維が撮影されることはなく、視認しやすい断面画像を取得することができる。また、抽出工程で得られる楕円は確実にその繊維径を計測することができるものであるため、繊維体に含まれている無機繊維の径をある程度正確に計測することが可能となる。
【0013】
また、断面露出工程で切断あるいは切削される方向は、無機繊維の配向方向に対して交わる方向であるため、断面画像には多数の無機繊維の断面が表れることになり、抽出工程にてより多くの楕円を抽出することができる。これにより、繊維径の測定に用いる多くのサンプルを得ることができる。
【0014】
また、断面露出工程にて断面を研磨することにより、抽出工程にて正確な面積比を計ることができ、繊維径測定に際する正確性が向上する。
【0015】
また、真円を抽出してもその径を測定することで、繊維径の測定を行うことができる。
【0016】
また、繊維が無機繊維であれば、撮影工程でどのような機器を用いて撮影したとしても包埋樹脂と無機繊維との境目が明瞭に認識できる。
【0017】
また、繊維が有機繊維であれば、包埋工程の前にその有機繊維の表面に一様に四酸化オスミウムをコーティングすることで、撮影工程にて走査電子顕微鏡を用いたとしても、包埋樹脂と有機繊維との境目を明瞭に認識できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る繊維径測定方法のフローチャートである。
図2】画像取得工程の説明図である。
図3】断面画像の一例である。
図4】2値化画像の一例である。
図5】抽出工程の説明図である。
図6】測定工程にて得られた結果の一例を示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図1に沿って本発明に係る繊維径測定方法について説明する。まずは多数の繊維(無機繊維又は有機繊維)にて形成されている繊維体を用意する。この繊維体を形成する繊維としては、無機繊維であればグラスウールやロックウールを、有機繊維であればポリエステル繊維やセルロースファイバー等を使用できる。繊維体を用意した後、まずは包埋工程を行う(ステップS1)。この包埋工程は、繊維体を形成している繊維間の間隙を埋めるための包埋樹脂で繊維を包埋して包埋繊維体を形成する工程である。具体的には、一般的に用いられている樹脂包埋法を用いて行われる。例えば、繊維体を包埋樹脂液に浸漬させ、繊維同士の間に包埋樹脂を浸透させる。その後、これを硬化させることで包埋繊維体を形成する。包埋樹脂としては、エポキシ樹脂を用いることができるが、その他アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、また熱硬化樹脂・光硬化樹脂を用いることもできる。
【0020】
次に、断面露出工程を行う(ステップS2)。この断面露出工程は、包埋繊維体を切断あるいは切削してその断面を露出させる工程である。具体的には、包埋繊維体を手で切断してもよいし、何らかの切断加工装置で包埋繊維体の全体を切断したり、切削装置にて包埋繊維体の一部を削って断面を露出させてもよい。このとき、露出された断面を研磨してもよい。研磨することにより、後述する抽出工程にて正確な面積比を計ることができ、繊維径測定に際する正確性が向上する。この研磨には、様々な研磨装置を適用することができるし、SEM(走査電子顕微鏡)の付帯装置である集束イオンビーム(FIB)装置を利用することもできる(他にはイオンミリング法、機械研磨方式でも可能)。
【0021】
次に、撮影工程を行う(ステップS3)。この撮影工程は、断面露出工程にて露出された断面を撮影して断面画像を取得する工程である。この撮影には、走査電子顕微鏡(SEM)やマイクロスコープ等を利用することができる。SEMを利用する場合は、図2に示すように、包埋繊維体1に対して点線で示す部分で断面を露出させ、SEM2にて撮影を行う。これにより、断面画像を得ることができる。径を測定するための繊維データを多く取得するため、ステップS2とステップS3を繰り返して複数の断面の断面画像を取得することが好ましい(図2の点線で示す断面を複数露出させる。図2では例として3つの断面を取得する場合を示す。)。図3に示すように、このようにして得られた断面画像は包埋樹脂部分が繊維部分よりも暗い色で表示される(図3では繊維として無機繊維を使用)。
【0022】
なお、SEMを用いる場合であって、有機繊維からなる繊維体を撮影する場合は、有機繊維と包埋樹脂との境目を明瞭にするために、上述した包埋工程の前に、有機繊維の周囲に四酸化オスミウムをコーティングする。これにより、有機繊維からなる繊維体であってもその有機繊維の繊維断面を明瞭に視認することができる。四酸化オスミウムのコーティングは、株式会社真空デバイス製HPC-1SW等のオスミウムコーターを使用して有機繊維の表面に一様に四酸化オスミウムをコーティングして行う。SEMを用いる場合でこのようなコーティング作業の有無を考慮すると、繊維体を形成する繊維は無機繊維であることが好ましい。
【0023】
この断面画像により、その断面における繊維の断面形状を把握することができる。このとき、上述した包埋工程にて繊維間の間隙が包埋樹脂にて包埋されているので、その後の撮影工程にて撮影された断面画像ではその断面における繊維しか撮影されることはないので、その断面に対して奥側に存在している繊維が撮影されることはなく、視認しやすい断面画像を取得することができる。なお、マイクロスコープ等を用いて撮影する場合では、繊維が無機繊維であっても有機繊維であっても、包埋樹脂部分と繊維部分は区別できるように表示される(例えば不透明な包埋樹脂を使用したとき)。すなわち、マイクロスコープ等であれば、繊維が有機繊維であっても上述したコーティングを施すことは不要である。
【0024】
断面画像にて多くの繊維の断面を表示させるため、断面露出工程にて露出する断面を繊維体中での繊維の配向方向に対して交わる方向の断面とすることが好ましい。特にグラスウールに用いられている無機繊維は配向性を有して折り重なっているため好適である。これにより、断面画像には多数の繊維の断面が表れることになり、後述する抽出工程にてより多くの楕円を抽出することができる。これにより、繊維径の測定に用いる多くのサンプルを得ることができる。特に、配向方向に対して直交方向で断面を露出させることが好ましい。直交方向であれば、繊維の断面そのものを得る確率が高くなるからである。
【0025】
次に、画像処理工程を行う(ステップS4)。この画像処理工程は、断面画像を2値化処理して2値化画像を取得する工程である。撮影工程にて得られた断面画像では繊維と包埋樹脂との明暗が曖昧な場合もあるため、この明暗をはっきりさせるためである。具体的には、2値化処理を行うことにより、図4に示すように、繊維部分が白色に、包埋樹脂部分が黒色に表示されてその境界がはっきりと表示されることになる。このようにして得られる2値化画像は、断面露出工程で露出された断面の数だけ、換言すれば撮影工程にて撮影された断面画像の数だけ取得される。
【0026】
次に、抽出工程を行う(ステップS5)。この抽出工程は、2値化画像に表示されていて繊維を示している楕円に対し、これらに外接している外接四角形との面積比が78.5%であるものを抽出する工程である。具体的には、図4に示す2値化画像から、繊維が楕円として表示されているものをまずはピックアップする。そして、これらの楕円の面積が外接四角形の面積に対して78.5%となっているものを抽出する。図5に示すように、例えば繊維が楕円で表示されている場合、楕円の短径(外接四角形の短辺)をa、楕円の長径(外接四角形の長辺)をbとすると、楕円の面積は1/4abπであり、外接四角形の面積はabである。このとき、楕円と外接四角形の面積比は1/4πとなるため、定数の0.785(78.5%)という結果になる。抽出工程では、このような理想の楕円を抽出するほかに、真円となって表示されている繊維も抽出される。この真円となって表示されている繊維も次なる測定工程で正確な繊維径を測定できるサンプルとして利用できるからである。真円を抽出する際には、上述した断面を配向方向に対して直交方向としておけば、多くの真円を得ることができる可能性が高まるため好ましい。
【0027】
なお、サンプルの数を多くするため、抽出する楕円については、面積比が78.5%に対して少し幅を持たせてもよい。具体的には、70.0%くらいまでであれば繊維径の正確性に影響を与えないことが分かっている。面積比が小さいということは、楕円が少し欠けているということであり、それは包埋樹脂が少し繊維を覆っているということであるため、そのように映ってしまうことは生じうるからである。逆に、78.5%を超えている場合は、理想の楕円に対して膨らんでいるということになり、これに関しては繊維が複数本映り込んでしまっている可能性があることが考えられるため、これを1本の繊維径として測定することは好ましくない。したがって、70.0%以上78.5%以下の面積比の楕円を抽出することは、現段階ではある程度正確な繊維径を測定できるサンプルとして使用することができる。ただし、理想の楕円は後述するようにそのまま繊維径として測定することができるので、少なくとも78.5%の面積比のものは抽出することが必要である。抽出するサンプルの数が多ければ、面積比が78.5のもののみを抽出した方が繊維径測定の正確性は向上する。
【0028】
次に、測定工程を行う(ステップS6)。この測定工程は、抽出された真円の径及び楕円の短径を測定する工程である。真円の径はそのまま繊維の繊維径として測定可能である。グラスウールを形成するガラス繊維(無機繊維)、あるいは有機繊維は真円柱形状であるからである。また同様の理由により、楕円の短径もそのまま繊維の径となるため、短径を測定すれば繊維径を測定することができることになる。すなわち、抽出工程で得られる真円又は楕円は確実にその繊維径を計測することができるものであるため、繊維体に含まれている繊維径をある程度正確に計測することが可能となる。
【0029】
発明者らは、本発明に係る繊維径測定方法を用いて実際に繊維径を測定した。繊維は無機繊維のグラスウールを使用した。具体的には、断面露出工程及び撮影工程を6回繰り返し(断面画像を6枚取得し)、抽出工程にて真円及び楕円(面積比が70.0%以上78.5%以下のもの)を400個抽出した。そして測定工程では真円の径と楕円の短辺を測定した。そして図6に示すようなヒストグラムを作成した。ヒストグラムでは、横軸を繊維径(μm)、縦軸を度数(頻度)としている。この測定結果では、平均繊維径は3.63μmとなった。使用したグラスウールの平均繊維径は4.0μm(流れ抵抗から算出する方法(ファイバロメータ)を使用して繊維径4.0μmとして表示されて販売されているグラスウールを使用)であったため、ある程度正確に繊維径を測定することができた。
【符号の説明】
【0030】
1:包埋繊維体、2:SEM
図1
図2
図3
図4
図5
図6